(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025139633
(43)【公開日】2025-09-29
(54)【発明の名称】積層ウェーハの加工方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20250919BHJP
B24B 7/04 20060101ALI20250919BHJP
B24B 49/02 20060101ALI20250919BHJP
B24B 49/12 20060101ALI20250919BHJP
【FI】
H01L21/304 601Z
B24B7/04 Z
B24B49/02 Z
B24B49/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024038573
(22)【出願日】2024-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100172281
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100075384
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 昂
(74)【代理人】
【識別番号】100206553
【弁理士】
【氏名又は名称】笠原 崇廣
(74)【代理人】
【識別番号】100189773
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 英哲
(74)【代理人】
【識別番号】100184055
【弁理士】
【氏名又は名称】岡野 貴之
(74)【代理人】
【識別番号】100185959
【弁理士】
【氏名又は名称】今藤 敏和
(72)【発明者】
【氏名】小松 淳
【テーマコード(参考)】
3C034
3C043
5F057
【Fターム(参考)】
3C034AA13
3C034AA19
3C034BB92
3C034BB93
3C034CA03
3C034CA04
3C034CA22
3C034CA30
3C034CB01
3C034DD10
3C034DD20
3C043BA03
3C043BA09
3C043BA12
3C043BA15
3C043CC03
3C043CC11
3C043DD06
5F057AA05
5F057BA19
5F057CA09
5F057DA17
5F057GB02
5F057GB13
(57)【要約】
【課題】積層ウェーハの第1ウェーハにエッジトリミングを施す際に、積層ウェーハの外周部の全体に亘って第1ウェーハを完全に除去するが第2ウェーハの外周部が露出しない様に接合層を残存させる。
【解決手段】積層ウェーハの加工方法であって、第1ウェーハの外周部に第2ウェーハには至らず且つ第1ウェーハが残存する深さを有する第1段差部を形成する第1切削工程と、第2切削ブレードの下端を接合層が存在する位置に位置付けた状態で保持テーブルを回転軸の周りに回転させることによって、積層ウェーハの外周部を除去する第2切削工程と、を備え、第2切削工程では、第2切削ブレードの下端の速度ベクトルの向きが第2切削ブレードの下端に対応する位置での積層ウェーハの速度ベクトルの向きと逆となる様に、第2切削ブレード及び保持テーブルを回転させる積層ウェーハの加工方法を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ウェーハと第2ウェーハとが接合層を間に挟んで積層された積層ウェーハの加工方法であって、
所定の回転軸の周りに回転可能な保持テーブルで該第1ウェーハが露出する様に該積層ウェーハを保持する保持工程と、
該保持工程の後、第1スピンドルの先端部に装着された第1切削ブレードを該第1スピンドルの周りに回転させると共に該第1切削ブレードを該第1ウェーハの外周部に切り込ませた状態で該保持テーブルを該回転軸の周りに回転させることによって、該第1ウェーハの外周部に該第2ウェーハには至らず且つ該第1ウェーハが残存する深さを有する第1段差部を形成する第1切削工程と、
該第1切削工程の後、第2スピンドルの先端部に装着された第2切削ブレードを該第2スピンドルの周りに回転させると共に該第2切削ブレードの下端を該積層ウェーハの厚さ方向において該第1段差部の底面よりも該第2ウェーハに近く且つ該接合層が存在する位置に位置付けた状態で該保持テーブルを該回転軸の周りに回転させることによって、該積層ウェーハの該外周部を除去する第2切削工程と、
を備え、
該第2切削工程では、該第2切削ブレードの該下端の速度ベクトルの向きが該下端に対応する位置での該積層ウェーハの速度ベクトルの向きと逆となる様に、該第2切削ブレード及び該保持テーブルを回転させることを特徴とする積層ウェーハの加工方法。
【請求項2】
該第1切削工程の後、且つ、該第2切削工程の前に、該第1段差部の底面と、該第2ウェーハと、の間に残存する該第1ウェーハの残存厚を測定する残存厚測定工程を更に備え、
該第2切削工程では、該残存厚測定工程で得られた該残存厚に基づいて、該第2切削ブレードの該下端の位置を設定することを特徴とする請求項1に記載の積層ウェーハの加工方法。
【請求項3】
該残存厚測定工程では、該積層ウェーハに接触することなく厚さを測定可能な非接触膜厚計で該第1段差部の該残存厚を測定することを特徴とする請求項2に記載の積層ウェーハの加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1ウェーハと第2ウェーハとが接合層を間に挟んで積層された積層ウェーハの加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、加工対象となる被加工物として、両面の外周部に面取り部(ベベル部とも称される)をそれぞれ有する第1ウェーハと第2ウェーハとが接合層を介して重なる様に接合された積層ウェーハを取り扱う場合が増加している。
【0003】
積層ウェーハの第1ウェーハを研削により薄化する前には、切削ブレードを用いて第1ウェーハの外周部にエッジトリミングを施すことで、周方向の全体に亘って第1ウェーハの両面の面取り部を除去することが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
第1ウェーハの外周部にエッジトリミングを施す際、切削ブレードで第2ウェーハを切削することなく第1ウェーハのみを切削するために、切削ブレードの下端を第1ウェーハと接合層との境界に対応する高さに位置付けて第1ウェーハの外周部を切削すると、第1ウェーハにおいてエッジトリミングが施された環状領域のうち接合層に接する領域が完全には切削除去されずに一部残存することがある。
【0005】
そして、第1ウェーハにおけるこの残存領域と、接合層と、の間において、接合不良によるボイドが生じている場合には、後続する工程においてエッジトリミング後の積層ウェーハに対して熱処理を施すときに、積層ウェーハに不具合が生じる。それゆえ、エッジトリミングが施された環状領域では、第1ウェーハを完全に切削除去することが望ましい。
【0006】
そこで、第1ウェーハのうちエッジトリミングが施された環状領域での第1ウェーハの残存領域を無くすことを目的として、切削ブレードの下端を第2ウェーハの位置まで下げることにより、第1ウェーハ及び接合層に加えて、第2ウェーハの外周部のうち接合層近傍の領域を切削することも考えられる。
【0007】
しかし、この様な切削を行うことで第2ウェーハの外周部を露出させると、後続するエッチング工程(具体的には、第1ウェーハを研削加工する際に第1ウェーハの被研削面に生じた研削ダメージを除去するためのエッチング工程)において、第2ウェーハの外周部もエッチングされることになる。
【0008】
第2ウェーハの接合層近傍に位置する一面にデバイスが形成されている場合には、第2ウェーハの外周部がエッチングされると、第2ウェーハの一面の外周部近傍に位置するデバイスが破損するという不具合が生じる。
【0009】
それゆえ、エッジトリミングでは、第2ウェーハを切削することなく、第2ウェーハの一面の外周部が露出しない様に第2ウェーハの一面の外周部の全体に亘って接合層を残存させることが好ましい。
【0010】
しかし、エッジトリミングでは、切削ブレードを用いた切削加工の性質上、積層ウェーハの周方向においてある程度の切り込み深さのばらつきが生じ得る。それゆえ、積層ウェーハの外周部の全体に亘って第1ウェーハを完全に除去するが第2ウェーハの外周部が露出しない様に接合層を残存させるという加工制御が容易ではないという事情がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は係る問題点に鑑みてなされたものであり、積層ウェーハの第1ウェーハにエッジトリミングを施す際に、積層ウェーハの外周部の全体に亘って第1ウェーハを完全に除去するが第2ウェーハの外周部が露出しない様に接合層を残存させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一態様によれば、第1ウェーハと第2ウェーハとが接合層を間に挟んで積層された積層ウェーハの加工方法であって、所定の回転軸の周りに回転可能な保持テーブルで該第1ウェーハが露出する様に該積層ウェーハを保持する保持工程と、該保持工程の後、第1スピンドルの先端部に装着された第1切削ブレードを該第1スピンドルの周りに回転させると共に該第1切削ブレードを該第1ウェーハの外周部に切り込ませた状態で該保持テーブルを該回転軸の周りに回転させることによって、該第1ウェーハの外周部に該第2ウェーハには至らず且つ該第1ウェーハが残存する深さを有する第1段差部を形成する第1切削工程と、該第1切削工程の後、第2スピンドルの先端部に装着された第2切削ブレードを該第2スピンドルの周りに回転させると共に該第2切削ブレードの下端を該積層ウェーハの厚さ方向において該第1段差部の底面よりも該第2ウェーハに近く且つ該接合層が存在する位置に位置付けた状態で該保持テーブルを該回転軸の周りに回転させることによって、該積層ウェーハの該外周部を除去する第2切削工程と、を備え、該第2切削工程では、該第2切削ブレードの該下端の速度ベクトルの向きが該下端に対応する位置での該積層ウェーハの速度ベクトルの向きと逆となる様に、該第2切削ブレード及び該保持テーブルを回転させる積層ウェーハの加工方法が提供される。
【0014】
好ましくは、積層ウェーハの加工方法は、該第1切削工程の後、且つ、該第2切削工程の前に、該第1段差部の底面と、該第2ウェーハと、の間に残存する該第1ウェーハの残存厚を測定する残存厚測定工程を更に備え、該第2切削工程では、該残存厚測定工程で得られた該残存厚に基づいて、該第2切削ブレードの下端の位置を設定する。
【0015】
また、好ましくは、該残存厚測定工程では、該積層ウェーハに接触することなく厚さを測定可能な非接触膜厚計で該第1段差部の該残存厚を測定する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一態様に係る積層ウェーハの加工方法では、第1切削工程において、第2ウェーハには至らず且つ接合層が残存する深さを有する第1段差部を形成した後、第2切削工程において、第2切削ブレードの下端の速度ベクトルの向きが第2切削ブレードの下端に対応する位置での積層ウェーハの速度ベクトルの向きと逆となる様に、第2切削ブレード及び保持テーブルを回転させること(即ち、所謂アップカット)により、第1段差部の底面よりも第2ウェーハに近い位置にある接合層を切削する。
【0017】
アップカットでは、ダウンカットに比べて切削ブレードが切削対象に食い付き難いので切削負荷が大きくなり、切削ブレードは接合層から離れる方向(例えば、上方)に逃げやすくなる。また、接合層を構成する材料は、一般的に、第1ウェーハ及び第2ウェーハに比べて切削負荷が高いことも、切削ブレードが接合層から離れる方向に逃げやすくなる原因となる。
【0018】
それゆえ、第2切削工程において、第2切削ブレードの下端を第1段差部の底面よりも第2ウェーハに近く且つ接合層が存在する位置に位置付けた状態で積層ウェーハをアップカットにより切削すれば、接合層での高い切削負荷に起因して、積層ウェーハの周方向全体に亘って接合層を完全に除去することなく(即ち、接合層を残存させると共に)第1ウェーハを完全に除去できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】積層ウェーハの加工方法を示すフロー図である。
【
図3】
図3(A)は第1切削工程を示す平面図であり、
図3(B)は第1切削工程を示す一部断面側面図である。
【
図4】第1段差部を拡大して示す積層ウェーハの外周部の断面図である。
【
図5】
図5(A)は残存厚測定工程を示す平面図であり、
図5(B)は残存厚測定工程を示す一部断面側面図である。
【
図6】
図6(A)は第2切削工程を示す平面図であり、
図6(B)は第2切削工程を示す一部断面側面図である。
【
図8】第2段差部を拡大して示す積層ウェーハの外周部の断面図である。
【
図9】
図9(A)はダウンカットにより第2切削工程を行う第1比較例を示す模式図であり、
図9(B)はダウンカットにより第2切削工程を行う第2比較例を示す模式図である。
【
図10】アップカットにより第2切削工程を行う様子を示す模式図である。
【
図11】ダウンカットとアップカットとの差異を確認した実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
添付図面を参照して、本発明の一態様に係る実施形態について説明する。
図1は、積層ウェーハ11(
図2参照)の加工方法を示すフロー図である。本実施形態では、保持工程S10、第1切削工程S20、残存厚測定工程S30、及び、第2切削工程S40の順に各工程を行う。まず、当該加工方法の加工対象となる積層ウェーハ11について説明する。
【0021】
積層ウェーハ11は、それぞれ円盤状の第1ウェーハ13及び第2ウェーハ15を有する。第1ウェーハ13及び第2ウェーハ15の各々は、SEMI(Semiconductor Equipment and Materials International)規格等の所定の規格で定められた同一の径(例えば、300±0.2mm)を有するシリコン単結晶基板を含む。
【0022】
第1ウェーハ13は、厚さ方向においてそれぞれ反対側に位置し各々円形の表面13a及び裏面13bを有する。同様に、第2ウェーハ15も、厚さ方向においてそれぞれ反対側に位置し各々円形の表面15a及び裏面15bを有する。
【0023】
第1ウェーハ13の表面13a及び裏面13bの各外周部には面取り部が形成されている。
図2では、面取り部が誇張されている。なお、第1ウェーハ13の裏面13bに対しては、第2切削工程S40の後に、研削加工を施すことが予定されている。
【0024】
本実施形態では、第2ウェーハ15の表面15a及び裏面15bの各外周部にも、同様に面取り部が形成されている。但し、第2ウェーハ15は、表面15a及び裏面15bの各外周部に面取り部を有しなくてもよい。
【0025】
第1ウェーハ13及び第2ウェーハ15において厚さに対する径の比は十分に大きく、面取り部が形成されている領域は外周部の極狭い領域である。例えば、面取り部は、それぞれ300mmの径を有する第1ウェーハ13及び第2ウェーハ15において、外周縁13c,15cから半径方向で幅1.0mm未満の範囲に形成されている。
【0026】
第1ウェーハ13の表面13aのうち第1ウェーハ13の径方向において面取り部よりも中心側には、それぞれIC(Integrated Circuit)等の複数のデバイス(不図示)が形成されている。
【0027】
同様に、第2ウェーハ15の表面15aのうち第2ウェーハ15の径方向において面取り部よりも中心側には、IC等の複数のデバイス(不図示)が形成されている。但し、第2ウェーハ15にはデバイスが設けられていなくてもよい。
【0028】
この場合、第2ウェーハ15は、第1ウェーハ13の薄化工程において第1ウェーハ13を支持する支持基板として機能する。支持基板としては、第1ウェーハ13と略同径の基板であればよく、半導体、樹脂、金属、セラミックス、ガラス等で形成されてよい。
【0029】
第2ウェーハ15にデバイスが設けられていない場合、エッジトリミング後に行われるエッチング工程で第2ウェーハ15の表面15aの外周部近傍に位置するデバイスが破損するという不具合は生じない。それゆえ、第2ウェーハ15が露出する様に、第1ウェーハ13及び接合層17の外周部を除去しても差し支えない様に思われるかもしれない。
【0030】
しかし、第2ウェーハ15が露出する様に積層ウェーハ11に対してエッジトリミングを施す場合、ほぼ必然的に第2ウェーハ15の表面15aが切削されることになるので、第1ウェーハ13を第2ウェーハ15から剥離して第2ウェーハ15を再利用することはできず、第2ウェーハ15を破棄せざるを得ないこととなる。
【0031】
従って、第2ウェーハ15にデバイスが設けられていない場合であっても、積層ウェーハ11の第1ウェーハ13にエッジトリミングを施す際に、積層ウェーハ11の外周部の全体に亘って第1ウェーハ13を完全に除去するが第2ウェーハ15の外周部が露出しない様に接合層17を残存させることには、支持基板を再利用できるという利点がある。
【0032】
第1ウェーハ13の表面13aと、第2ウェーハ15の表面15aとは、表面13a及び表面15aの各中心が略一致する様に位置合わせされている。また、表面13a及び表面15aは、接合層17を介して接合されている。つまり、積層ウェーハ11では、第1ウェーハ13と第2ウェーハ15とが接合層17を間に挟んで積層されている。
【0033】
接合層17は、例えば、酸化シリコン等の酸化膜、窒化シリコン等の窒化膜、酸窒化シリコン等の酸窒化膜、エポキシ樹脂等の接着剤で構成された樹脂膜である。本実施形態の接合層17は、第1ウェーハ13の表面13aに設けられ、パッシベーション膜等として機能する酸化膜である。
【0034】
但し、接合層17は、第2ウェーハ15の表面15aに設けられてもよいし、表面13a及び表面15aの各々に設けられてもよい。また、接合層17は、第1ウェーハ13及び第2ウェーハ15を接合するために、第1ウェーハ13及び第2ウェーハ15とは別途に設けられた膜であってもよい。
【0035】
例えば、接合層17は、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)等により第1ウェーハ13及び第2ウェーハ15とは別途に設けられた膜である。この別途の接合層17は、酸化膜、窒化膜、酸窒化膜等であり、第1ウェーハ13の表面13a及び/又は第2ウェーハ15の表面15aに形成される。
【0036】
接合層17が酸化膜等の無機膜である場合、この無機膜はシリコン単結晶基板に比べて硬い。それゆえ、切削時には高い切削負荷に起因して、切削ブレード(例えば、
図6(A)及び
図6(B)に示す第2切削ブレード24)は、接合層17から離れる様に(例えば上方へ)逃げやすくなる。
【0037】
また、接合層17がエポキシ樹脂等の樹脂膜である場合、接合層17は無機膜に比べて硬くはないが、接合層17の切削時には第2切削ブレード24が目詰まりを起こし易くなることで、切削負荷が高くなる。この高い切削負荷に起因して、第2切削ブレード24は、無機膜の場合と同様に、接合層17から離れる様に逃げやすくなる。
【0038】
なお、本実施形態の接合層17は、表面13aの径方向において表面13aの各中心から面取り部の所定位置までの円形領域に設けられており、第1ウェーハ13の外周縁13cには達していない。それゆえ、接合層17は、第2ウェーハ15の径方向において外周縁15cには達していない円形領域において、第2ウェーハ15と接している。
【0039】
次に、積層ウェーハ11の加工方法で使用される切削装置2について説明する。
図2に示す様に、切削装置2は、円盤状のチャックテーブル(保持テーブル)4を有する。チャックテーブル4は、円盤状の枠体4aを有する。
【0040】
枠体4aの上面の中央部には、円盤状の凹部4bが設けられている。この凹部4bよりも外側に位置する環状凸部の上面には、環状の吸引溝4cが設けられている。吸引溝4cには真空ポンプ、エジェクタ等の真空発生装置(不図示)から負圧が伝達される。
【0041】
環状凸部の上面は、積層ウェーハ11を吸引保持する保持面4dとして機能する。環状の保持面4dは、切削装置2のX軸及びY軸方向で構成されるXY平面と略平行に配置されている。
【0042】
チャックテーブル4の底部には、回転軸4eが連結されている。回転軸4eは、不図示のモータにより、切削装置2におけるX軸及びY軸方向と直交するZ軸方向に沿って配置されている。回転軸4eが回転することにより、チャックテーブル4は回転軸4e(即ち、回転中心4e1)の周りに回転可能である。
【0043】
回転軸4eの回転の向きは、平面視において時計周りにも反時計周りにも設定可能である。また、回転軸4eの回転速度(即ち、単位時間当たりの回転角度)は、任意の値に設定可能である。
【0044】
図3(A)及び
図3(B)に示す様に、チャックテーブル4の上方には、第1切削ユニット6が配置されている。本実施形態の第1切削ユニット6は、チャックテーブル4と協働することにより、積層ウェーハ11に対して所謂ダウンカットを施す。
【0045】
第1切削ユニット6は、長手部がY軸方向に沿って配置されたスピンドルハウジング8を有する。スピンドルハウジング8には、円柱状の第1スピンドル10の一部が、エアベアリング(即ち、静圧空気軸受)により回転可能に収容されている。第1スピンドル10の先端部は、スピンドルハウジング8の外に突出している。
【0046】
第1スピンドル10の基端部近傍にはモータ(不図示)が設けられている。
図3(B)では、Y軸方向においてチャックテーブル4を間に挟んで第1スピンドル10を見た場合に、第1スピンドル10が反時計周りに回転する様子を示すが、第1スピンドル10は、時計周りに回転することもできる。
【0047】
第1スピンドル10の長手方向は、Y軸方向と略平行に配置されている。第1スピンドル10の先端部には、ブレード装着機構12を利用して、円環状の切り刃を有する第1切削ブレード14が装着されている。
【0048】
ブレード装着機構12は、円盤状の受けフランジ部12aを有する。受けフランジ部12aの径方向の中心部は、不図示のボルト等により第1スピンドル10の先端部に固定されている。受けフランジ部12aは、その径方向の中心部に円筒状のボス部(不図示)を有する。
【0049】
このボス部には、第1切削ブレード14の円形開口が挿入されている。本実施形態の第1切削ブレード14は、所謂、ハブレス型(即ち、ワッシャー型)の切削ブレードであり、砥粒、ボンド材等を含む切り刃のみで構成されている。
【0050】
第1切削ブレード14は、所謂、粗切削に用いられるので、砥粒の平均粒径は比較的大きい。例えば、第1切削ブレード14の砥粒は、#240以上#1500未満の所定の粒度(例えば、#400)を有する。一般に、粒度を示す数字が小さいほど、砥粒の平均粒径は大きい。
【0051】
本実施形態における粒度の表記は、JIS(Japanese Industrial Standards)規格に記載のJIS R 6001-2:2017(研削といし用研削材の粒度-第2部:微粉)に従う。
【0052】
粒度は、例えば、沈降管試験方法、電気抵抗試験方法等を用いて定められる。なお、粒度は、砥石を製造及び販売する業界で通常使用されている表記に従ってもよく、これに準じてもよい。
【0053】
受けフランジ部12aのボス部には、受けフランジ部12aと円環状の押えフランジ部12bとで、第1切削ブレード14を挟む様に、押えフランジ部12bの円形開口が挿入されている。ボス部の先端部には、雄ねじが形成されている。
【0054】
ボス部の雄ねじには、円環状の内周面に雌ねじが形成されている円環状の押えナット12cの雌ねじが締結されている。この様にして、第1切削ブレード14は、受けフランジ部12a及び押えフランジ部12bで挟持された状態で、第1スピンドル10に固定されている。
【0055】
切削装置2には、非接触膜厚計8aが設けられている(
図5(A)及び
図5(B)参照)。非接触膜厚計8aは、広帯域の波長の光の干渉を利用した分光膜厚計、赤外線を利用した膜厚計、超音波を利用した膜厚計等である。非接触膜厚計8aは、積層ウェーハ11に接触することなく、薄膜の厚さを測定可能である。
【0056】
例えば、非接触膜厚計8aが分光膜厚計である場合に、非接触膜厚計8aは、SLD(Super Luminescent Diode)光源(不図示)、センサヘッド8a1、分光器(不図示)、プログラウムをプロセッサで実行することで実現される波形解析部(不図示)等を含む。センサヘッド8a1は、スピンドルハウジング8の側方に固定されている。
【0057】
切削装置2は、2つのスピンドルが平行に配置されたパラレルデュアル構造のダイシングソーであり、
図6(A)及び
図6(B)に示す様に、チャックテーブル4の上方には、第2切削ユニット16が配置されている。第2切削ユニット16は、長手部がY軸方向に沿って配置されたスピンドルハウジング18を有する。
【0058】
スピンドルハウジング18には、円柱状の第2スピンドル20の一部が、エアベアリングにより回転可能に収容されている。第2スピンドル20の長手方向は、Y軸方向と略平行に配置されている。第2スピンドル20の基端部近傍にはモータ(不図示)が設けられている。
【0059】
図6(A)では、Y軸方向においてチャックテーブル4を間に挟んで第2スピンドル20を見た場合に、第2スピンドル20が時計周りに回転する様子を示すが、第2スピンドル20は、反時計周りに回転することもできる。
【0060】
第2スピンドル20の先端部は、スピンドルハウジング18の外に突出している。第2スピンドル20の先端部には、ブレード装着機構22を利用して、円環状の切り刃を有する第2切削ブレード24が装着されている。
【0061】
ブレード装着機構22は、ブレード装着機構12と同様に、それぞれ円盤状の受けフランジ部22a、押えフランジ部22b及び押えナット22cを有する。本実施形態の第2切削ブレード24も、ハブレス型の切削ブレードである。
【0062】
第2切削ブレード24は、所謂、仕上げ切削に用いられるので、砥粒の平均粒径は比較的小さい。例えば、第2切削ブレード24の砥粒は、#1500以上#3000以下の所定の粒度(例えば、#1500)を有する。
【0063】
受けフランジ部22aのボス部に第2切削ブレード24を挿入し、更に、押えフランジ部22bの円形開口を挿入した上で、ボス部の先端部に押えナット22cを締結することにより、第2切削ブレード24は、受けフランジ部22a及び押えフランジ部22bで挟持された状態で、第2スピンドル20に固定される。
【0064】
次に、
図2から
図8を参照して、積層ウェーハ11の加工方法について説明する。
図2は、保持工程S10を示す一部断面側面図である。保持工程S10では、まず、第1ウェーハ13の裏面13bが上方に露出する様に、積層ウェーハ11をチャックテーブル4上に載置する。このとき、積層ウェーハ11の径方向の中心と、回転中心4e
1とを、略一致させる。
【0065】
次いで、吸引溝4cに負圧を作用させる。これにより、積層ウェーハ11は、保持面4dで吸引保持される。保持工程S10の後、第1切削工程S20において、第1切削ブレード14で第1ウェーハ13の外周部を切削することにより、接合層17には至らない第1段差部13d(
図4参照)を形成する。
【0066】
図3(A)は、第1切削工程S20を示す平面図であり、
図3(B)は、第1切削工程S20を示す一部断面側面図である。
図3(A)及び
図3(B)では、第1スピンドル10の回転中心10aの延長線を一点鎖線で示す。また、
図3(A)では回転軸4eの回転中心4e
1を×で示し、
図3(B)では、回転中心4e
1を一点鎖線で示す。
【0067】
第1切削工程S20では、第1スピンドル10の周りに第1切削ブレード14を回転させると共に第1切削ブレード14を第1ウェーハ13の外周部に切り込ませた状態でチャックテーブル4を回転軸4eの周りに回転させることによって、第1ウェーハ13の外周部に第1段差部13dを形成する。
【0068】
具体的には、まず、高速(例えば、30000rpm)で回転する第1切削ブレード14の下端14aを第1ウェーハ13の表面13aから所定距離(例えば、10μm)だけ上方に位置付けると共に、チャックテーブル4をX軸方向に平行移動させることで、第1切削ブレード14を第1ウェーハ13の外周部に切り込ませる(即ち、スライドインカットを行う)。
【0069】
第1スピンドル10の回転中心10aの延長線が回転軸4eの回転中心4e
1と交差する位置までチャックテーブル4をX軸方向に沿って移動させた後(
図3(A)参照)、チャックテーブル4の回転を開始する。回転軸4eの単位時間当たりの回転角度は、例えば、5°/sとする。
【0070】
少なくともチャックテーブル4を1回転させることにより、第1ウェーハ13の周方向の全体に亘って第1ウェーハ13の外周部を切削し、第1ウェーハ13の外周部において第1ウェーハ13の厚さの50%以上99%以下を除去する。この様にして、環状の第1段差部13dを形成する。
【0071】
第1切削工程S20では、第1切削ブレード14の回転方向(即ち、第1スピンドル10の回転方向)が、積層ウェーハ11に対してダウンカットとなる様に、第1切削ブレード14及びチャックテーブル4の回転方向を調整する。
【0072】
積層ウェーハ11をダウンカットで切削するためには、第1切削ブレード14の下端14aの速度ベクトルの向きがXY平面で下端14aに対応する位置での積層ウェーハ11の速度ベクトルの向きと同じとなる様に、第1切削ブレード14及びチャックテーブル4を回転させる。
【0073】
このとき、第1切削ブレード14は、第1切削ブレード14に接する第1ウェーハ13の裏面13bから第1切削ブレード14の下端14aに向かって回転すると共に、積層ウェーハ11の外周部は、第1切削ブレード14に近づく様に回転する。
【0074】
本実施形態では、Y軸方向においてチャックテーブル4を間に挟んで第1切削ブレード14を見た場合に第1切削ブレード14を反時計周りに回転させると共に、平面視においてチャックテーブル4を時計回りに回転させる。
【0075】
第1切削工程S20においてダウンカットを採用することにより、アップカットを採用する場合に比べて、裏面13bにおけるチッピングや裏面13bに設けられている被膜の膜剥がれを防止できると共に、実際に形成された第1段差部13dの深さを設定された第1段差部13dの深さに高い精度で合わせることができる。
【0076】
但し、第1切削工程S20において、ダウンカットは必須ではない。第1切削工程S20においては、ダウンカットの方がアップカットに比べてより多くの利点があるが、アップカットを採用してもよい。
【0077】
なお、第1切削工程S20においてアップカットを行う場合、
図3(A)及び
図3(B)において、第1切削ブレード14の回転方向を逆にする、又は、チャックテーブル4の回転方向を逆にする、ことで実現できる。
【0078】
図4は、第1段差部13dを拡大して示す積層ウェーハ11の外周部の断面図である。なお、第1段差部13dを形成することにより、外周縁13cは、第1段差部13d形成前に比べて、第2ウェーハ15に近い位置に移動する。
【0079】
図4に示す様に第1段差部13dは、裏面13bを始点として見た場合に、第2ウェーハ15には至らず、且つ、第1ウェーハ13が残存する深さを有する。第1段差部13d以下に残存する第1ウェーハ13の残存厚13eは、例えば、略10μmとなる。
【0080】
第1切削工程S20では、比較的大きい粒径の砥粒を有する第1切削ブレード14で第1段差部13dを形成することにより、比較的小さい粒径の砥粒を有する第2切削ブレード24で第1段差部13dを形成する場合に比べて、作業時間を短縮できると共に、切削ブレードの消耗を低減できる。
【0081】
第1切削工程S20の後、且つ、第2切削工程S40の前に、第1段差部13dの底面13d
1と、第2ウェーハ15と、の間に残存する第1ウェーハ13の残存厚13eを非接触膜厚計8aで測定する(残存厚測定工程S30)。
図5(A)は、残存厚測定工程S30を示す平面図であり、
図5(B)は、残存厚測定工程S30を示す一部断面側面図である。
【0082】
残存厚測定工程S30では、まず、第1切削ユニット6のY軸方向の位置と、チャックテーブル4のX軸方向の位置と、を調整することにより、非接触膜厚計8aのセンサヘッド8a1を第1段差部13dの直上に配置する。これと共に、第1切削ユニット6のZ軸方向の位置を調整することにより、センサヘッド8a1のZ軸方向の位置を調整する。
【0083】
次いで、センサヘッド8a1から光、超音波等を照射すると共に、チャックテーブル4を単位時間当たり所定の回転角度で回転させる。センサヘッド8a1を介して得られたデータに基づき、非接触膜厚計8aは、第1段差部13d以下に残存する第1ウェーハ13の残存厚13eを測定する。
【0084】
残存厚測定工程S30の後、第2切削工程S40を行う。
図6(A)は、第2切削工程S40を示す平面図であり、
図6(B)は、第2切削工程S40を示す一部断面側面図である。
図7は、第2切削工程S40を示す拡大断面図である。
【0085】
第2切削工程S40では、まず、第2スピンドル20の周りに第2切削ブレード24を回転させると共に第2切削ブレード24の下端24aを積層ウェーハ11の厚さ方向11cにおいて第1段差部13dの底面13d
1よりも第2ウェーハ15に近く且つ接合層17が存在する所定位置17a(
図7参照)に位置付ける。
【0086】
第2切削工程S40では、第1段差部13dの底面13d1を基準として、底面13d1から更にどれくらい下方に第2切削ブレード24の下端24aを配置するかを設定する。つまり、残存厚測定工程S30で得られた残存厚13eに基づいて、第2切削ブレード24の下端24aの位置を設定することにより、下端24aの位置を所定位置17aに高い精度で設定できる。
【0087】
第2切削工程S40では、特に、第2切削ブレード24の下端24aでの速度ベクトルの向き24bがXY平面で下端24aに対応する位置での積層ウェーハ11の速度ベクトルの向き11bと逆となる様に、第2切削ブレード24及びチャックテーブル4を回転させる(
図7参照)。なお、
図7において、白抜きの矢印は、積層ウェーハ11の外周部における回転方向を示す。
【0088】
第2切削工程S40において、第2切削ブレード24は、第2切削ブレード24の下端24aから第2切削ブレード24に接する第1段差部13dの底面13d1の接触点13d2に向かって回転する(即ち、アップカットとなる)と共に、積層ウェーハ11の外周部は、第2切削ブレード24に近づく様に回転する。
【0089】
回転速度は、例えば、30000rpmとする。次に、高速で回転する第2切削ブレード24の下端24aを所定位置17aに位置付けた状態で、回転中心20aの延長線が回転中心4e
1と交差する位置に来るまでチャックテーブル4をX軸方向に沿って平行移動させる(即ち、スライドインカットを行う)(
図6(A)参照)。
【0090】
そして、チャックテーブル4を回転軸4eの周りに例えば、5°/sで回転させることによって、積層ウェーハ11の外周部を除去する。少なくともチャックテーブル4を1回転させることにより、積層ウェーハ11の周方向の全体に亘って積層ウェーハ11の外周部を切削する。
【0091】
この様にして、第1段差部13d直下の第1ウェーハ13が完全に除去されるが、第1ウェーハ13の表面13a近傍に位置する接合層17は周方向に亘って完全には除去されていない第2段差部23dが形成される(
図8参照)。つまり、第2段差部23dでは、積層ウェーハ11の周方向に亘って接合層17が残存している。
【0092】
図8は、第2切削工程S40で形成された第2段差部23dを拡大して示す積層ウェーハ11の外周部の断面図である。
図8に示す様に、第2段差部23dの底面23d
1では、厚さ方向11cにおいて接合層17が完全には除去されておらず、積層ウェーハ11の周方向全体に亘って接合層17が残存している。
【0093】
第2切削工程S40で採用するアップカットでは、ダウンカットに比べて第2切削ブレード24が切削対象に食い付き難いので切削負荷が大きくなり、第2切削ブレード24は接合層17から離れる方向(例えば、上方)に逃げやすくなる。
【0094】
また、接合層17として使用される材料は、一般的に、第1ウェーハ13及び第2ウェーハ15に比べて、切削負荷が高いことも、第2切削ブレード24が接合層17から離れる方向に逃げやすくなる原因となる。
【0095】
それゆえ、第2切削工程S40において、第2切削ブレード24の下端24aを第1段差部13dの底面13d1よりも第2ウェーハ15に近く且つ接合層17が存在する所定位置17aに位置付けた状態で積層ウェーハ11をアップカットにより切削すれば、接合層17での高い切削負荷に起因して、積層ウェーハ11の周方向全体に亘って接合層17を完全に除去することなく(即ち、接合層17を残存させると共に)第1ウェーハ13を完全に除去できる。
【0096】
この様に、本実施形態では、アップカットにおける接合層17の切削し難さを積極的に利用することにより、積層ウェーハ11の周方向全体に亘る、接合層17の残存と、第1ウェーハ13の完全除去と、を両立している。
【0097】
次に、
図9(A)、
図9(B)及び
図10を参照し、第2切削工程S40においてダウンカットを行う場合(比較例)と、アップカットを行う場合(上述の実施形態)と、を対比して説明する。なお、
図9(A)、
図9(B)及び
図10において、白抜きの矢印は、積層ウェーハ11の外周部における回転方向を示し、説明の便宜上、第1段差部13dの底面13d
1を示す。
【0098】
第2切削ブレード24で積層ウェーハ11に対してエッジトリミングを施す場合、第2切削ブレード24の下端24aは、常に一定の深さを維持できる訳ではなく、設定された深さ位置からZ軸方向に沿ってある範囲(例えば±0.5μmの範囲)で上下移動する。
【0099】
それゆえ、例えば、接合層17の厚さが1.0μmであり、
図9(A)に示す様に、設定された深さ位置24a
1が、第1段差部13dの底面13d
1を基準として接合層17の厚さの半分の深さ位置17bよりも上(即ち、第1ウェーハ13に近い位置)に位置する接合層17内にある場合には、第1ウェーハ13の切り残し領域が発生する。
【0100】
図9(A)は、ダウンカットにより第2切削工程S40を行う第1比較例を示す模式図である。
図9(A)では、第2切削工程S40における下端24aの軌跡24a
2を実線で示し、第1ウェーハ13の切り残し領域にハッチングを付す。
【0101】
これに対して、
図9(B)に示す様に、設定された深さ位置24a
1が、第1段差部13dの底面13d
1を基準として接合層17の厚さの半分の深さ位置17bよりも下(即ち、第2ウェーハ15に近い位置)に位置する接合層17内にある場合には、接合層17が除去されることにより第2ウェーハ15が露出する領域が発生する。
【0102】
図9(B)は、ダウンカットにより第2切削工程S40を行う第2比較例を示す模式図である。なお、
図9(B)では、第2切削工程S40における下端24aの軌跡24a
2を実線で示し、第2ウェーハ15の露出領域にハッチングを付す。
【0103】
これに対して、
図10は、本実施形態と同様に、アップカットにより第2切削工程S40を行う様子を示す模式図である。上述の様にアップカットでは、ダウンカットに比べて切削負荷が高くなる。
【0104】
それゆえ、設定された深さ位置24a1が、接合層17の厚さ範囲内にあり、且つ、実際の切削において第2切削ブレード24の下端24aが接合層17に達しているとき、実際に切削される深さは、例えば、設定された深さ位置24a1の35%程度となる。
【0105】
このとき、1.0μmの厚さの接合層17は、見かけ上、2.9μm(=1μm/0.35)に相当する。従って、設定された深さ位置24a1を接合層17の厚さの半分の深さ位置17bとすれば、半分の深さ位置17bから上に0.5μmずれても、下に0.5μmずれても、第2切削ブレード24の下端24aは、接合層17の厚さ範囲内に収まることとなる。
【0106】
なお、深さ位置24a1をZ軸方向で表面15a近傍における第2ウェーハ15が存在する位置に設定する場合であっても、第2切削工程S40においてアップカットを採用すれば、比較的高い切削負荷に起因して、第2ウェーハ15を切削することなく、積層ウェーハ11の周方向において第1ウェーハ13を完全除去し、且つ、接合層17を露出させることもできる。
【0107】
次に、
図11を参照し、ダウンカット及びアップカットの差異に関する実験結果を説明する。
図11は、ダウンカットとアップカットとの差異を確認した実験結果を示す図である。
図11の#1から#4は、接合層17に対応する酸化シリコン膜を有しないシリコン単結晶基板(即ち、膜無しウェーハ)に、上述の第2切削ブレード24を切り込ませたときの実験結果である。
【0108】
図11の#5から#7は、接合層17に対応する酸化シリコン膜を一面に有するシリコン単結晶基板(即ち、膜付きウェーハ)において、酸化シリコン膜のみに第2切削ブレード24を切り込ませた(即ち、第2切削ブレード24の下端24aを酸化シリコン膜内に位置付けた状態で酸化シリコン膜を切削した)ときの実験結果である。
図11の#8は、膜付きウェーハにおいて、酸化シリコン膜を超えて更にシリコン単結晶基板まで第2切削ブレード24を切り込ませたときの実験結果である。
【0109】
斜線を付きの棒グラフは、狙い深さ[μm](即ち、設定された深さ位置24a1)であり、白抜きの棒グラフは、実加工深さ[μm](即ち、深さ位置24a1を設定した場合に実際に切削された深さ)を示す。DOWNは、上述のダウンカットであり、UPは上述のアップカットである。
【0110】
なお、実加工深さは、膜無しウェーハ及び膜付きウェーハの周方向においての略等間隔に離れた8点における深さの平均値である。また、実加工割合[%]を{(実加工深さ/狙い深さ)×100}により算出した。
【0111】
膜無しウェーハにおいて、#1の実加工割合は約93%であった。これに対して、#2の実加工割合は約44%であり、#3の実加工割合は約60%であり、#4の実加工割合は約53%であった。#2、#3及び#4から明らかな様に、アップカットでは切削負荷が高くなり、狙い通りの深さ位置まで切削できない。
【0112】
一方、膜付きウェーハにおいて、#5の実加工割合は約73%であった。これに対して、#6の実加工割合は約36%であり、#7の実加工割合は約34%であり、#8の実加工割合は約56%であった。
【0113】
#5、#6及び#7の対比から明らかな様に、酸化シリコン膜をアップカットで切削する場合、切削負荷の上昇が顕著である。上述の実施形態では、このアップカットによる酸化シリコン膜の切削し難さを積極的に利用することにより、積層ウェーハ11の周方向全体に亘る、接合層17の残存と、第1ウェーハ13の完全除去と、を両立している。
【0114】
その他、上述の実施形態に係る構造、方法等は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施できる。例えば、1つのスピンドルを有する(即ち、第1スピンドル10及び第2スピンドル20が同一である)ダイシングソーを用いることができる。
【0115】
この場合、第1切削工程S20及び第2切削工程S40では、第1切削ブレード14及び第2切削ブレード24として同一の切削ブレードを当該1つのスピンドルに装着した上で使用する。
【0116】
第1切削ブレード14に対応する粗切削ブレードを一貫して用いれば第1切削工程S20において加工作業を比較的効率よく進めることができ、第2切削ブレード24に対応する仕上げ切削ブレードを一貫して用いれば第2切削工程S40における加工品質を比較的高く維持できる。
【符号の説明】
【0117】
2:切削装置
4:チャックテーブル(保持テーブル)、4a:枠体、4b:凹部、4c:吸引溝
4d:保持面、4e:回転軸、4e1:回転中心
6:第1切削ユニット、8:スピンドルハウジング
8a:非接触膜厚計、8a1:センサヘッド
10:第1スピンドル、10a:回転中心
11:積層ウェーハ、11b:向き、11c:厚さ方向
12:ブレード装着機構
12a:受けフランジ部、12b:押えフランジ部、12c:押えナット
13:第1ウェーハ、13a:表面、13b:裏面、13c:外周縁
13d:第1段差部、13d1:底面、13d2:接触点、13e:残存厚
14:第1切削ブレード、14a:下端
15:第2ウェーハ、15a:表面、15b:裏面、15c:外周縁
16:第2切削ユニット、18:スピンドルハウジング
17:接合層、17a:所定位置、17b:半分の深さ位置
20:第2スピンドル、20a:回転中心
22:ブレード装着機構
22a:受けフランジ部、22b:押えフランジ部、22c:押えナット
23d:第2段差部、23d1:底面
24:第2切削ブレード、24a:下端、24a1:深さ位置、24a2:軌跡
24b:向き
S10:保持工程、S20:第1切削工程
S30:残存厚測定工程、S40:第2切削工程