(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025140006
(43)【公開日】2025-09-29
(54)【発明の名称】洗浄組成物及び洗浄組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C11D 7/32 20060101AFI20250919BHJP
C11D 7/50 20060101ALI20250919BHJP
C11D 7/22 20060101ALI20250919BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20250919BHJP
C23G 5/028 20060101ALI20250919BHJP
C23G 5/036 20060101ALI20250919BHJP
C23G 5/032 20060101ALI20250919BHJP
【FI】
C11D7/32
C11D7/50
C11D7/22
H01L21/304 647A
C23G5/028
C23G5/036
C23G5/032
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024039138
(22)【出願日】2024-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【弁理士】
【氏名又は名称】河原 肇
(74)【代理人】
【識別番号】100210697
【弁理士】
【氏名又は名称】日浅 里美
(72)【発明者】
【氏名】中崎 晋
【テーマコード(参考)】
4H003
4K053
5F157
【Fターム(参考)】
4H003CA18
4H003DA15
4H003DB01
4H003DB03
4H003EB06
4H003EB19
4H003EB37
4H003ED29
4H003ED31
4H003FA04
4H003FA16
4K053PA06
4K053QA07
4K053RA36
4K053RA40
4K053RA41
4K053RA49
4K053SA06
5F157AA42
5F157BF22
5F157BF32
5F157BF39
5F157BF72
5F157DB57
(57)【要約】
【課題】ウェハ上の金属バンプに対する腐食性が低減された洗浄組成物を提供する。
【解決手段】第四級フッ化アルキルアンモニウムのアルコール付加物、及び非プロトン性溶媒を含有する洗浄組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第四級フッ化アルキルアンモニウムのアルコール付加物、及び非プロトン性溶媒を含有する洗浄組成物。
【請求項2】
前記第四級フッ化アルキルアンモニウムのアルコール付加物が、メタノール、エタノール、n-プロパノール、iso-プロパノール、n-ブタノール、iso-ブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、n-ペンタノール、iso-ペンタノール、ネオペンチルアルコール、tert-アミルアルコール、n-ヘキサノール、及び1-アダマンタノールからなる群より選択される少なくとも1種のアルコールの付加物である、請求項1に記載の洗浄組成物。
【請求項3】
前記第四級フッ化アルキルアンモニウムのアルコール付加物が、tert-ブタノールの付加物である、請求項1に記載の洗浄組成物。
【請求項4】
前記洗浄組成物中の、前記第四級フッ化アルキルアンモニウムの含有量に対する、水分の含有量の質量比(水分/第四級フッ化アルキルアンモニウム)が、0.20以下である、請求項1に記載の洗浄組成物。
【請求項5】
前記第四級フッ化アルキルアンモニウムが、下記式
R6R7R8R9N+F-
(式中、R6~R9は、それぞれ独立してメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、及びn-ブチル基からなる群より選択されるアルキル基を表す。)
で表されるフッ化テトラアルキルアンモニウムである、請求項1~4のいずれか一項に記載の洗浄組成物。
【請求項6】
前記洗浄組成物100質量%に対する前記第四級フッ化アルキルアンモニウムの含有量が、0.01~15質量%である、請求項1~4のいずれか一項に記載の洗浄組成物。
【請求項7】
前記非プロトン性溶媒の少なくとも1種が(A)N,N-二置換アミド化合物である、請求項1~4のいずれか一項に記載の洗浄組成物。
【請求項8】
前記非プロトン性溶媒の少なくとも1種が(B)エーテル化合物である、請求項1~4のいずれか一項に記載の洗浄組成物。
【請求項9】
前記洗浄組成物100質量%に対する前記非プロトン性溶媒の合計含有量が、65~99質量%である、請求項1~4のいずれか一項に記載の洗浄組成物。
【請求項10】
接着性ポリマーを洗浄する洗浄組成物である、請求項1~4のいずれか一項に記載の洗浄組成物。
【請求項11】
前記接着性ポリマーがポリオルガノシロキサン化合物である、請求項10に記載の洗浄組成物。
【請求項12】
請求項1~4のいずれか一項に記載の洗浄組成物を用いて基材上の接着性ポリマーを洗浄する方法。
【請求項13】
請求項1~4のいずれか一項に記載の洗浄組成物を用いてデバイスウェハ上の接着性ポリマーを洗浄することを含む、デバイスウェハの製造方法。
【請求項14】
請求項1~4のいずれか一項に記載の洗浄組成物を用いて支持ウェハ上の接着性ポリマーを洗浄することを含む、支持ウェハの再生方法。
【請求項15】
第四級フッ化アルキルアンモニウムのアルコール付加物、及び非プロトン性溶媒を混合する混合工程を含む、洗浄組成物の製造方法。
【請求項16】
前記第四級フッ化アルキルアンモニウムが、下記式
R6R7R8R9N+F-
(式中、R6~R9は、それぞれ独立してメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、及びn-ブチル基からなる群より選択されるアルキル基を表す。)
で表されるフッ化テトラアルキルアンモニウムである、請求項15に記載の洗浄組成物の製造方法。
【請求項17】
第四級フッ化アルキルアンモニウムの水和物に含まれる水和水の少なくとも一部を、アルコールで置換して前記第四級フッ化アルキルアンモニウムのアルコール付加物を得る置換工程を含む、請求項15に記載の洗浄組成物の製造方法。
【請求項18】
前記アルコールが、メタノール、エタノール、n-プロパノール、iso-プロパノール、n-ブタノール、iso-ブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、n-ペンタノール、iso-ペンタノール、ネオペンチルアルコール、tert-アミルアルコール、n-ヘキサノール、及び1-アダマンタノールからなる群より選択される少なくとも1種のアルコールである、請求項17に記載の洗浄組成物の製造方法。
【請求項19】
前記アルコールがtert-ブタノールである、請求項17に記載の洗浄組成物の製造方法。
【請求項20】
前記置換工程において、前記第四級フッ化アルキルアンモニウムの水和物と、前記アルコールとの配合比(質量比)(アルコール/第四級フッ化アルキルアンモニウムの水和物)が、3~20である、請求項17~19のいずれか一項に記載の洗浄組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、洗浄組成物及びこれを用いて接着性ポリマーを洗浄する方法に関する。本開示はさらに、洗浄組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の高密度化のための三次元実装技術においては、半導体ウェハの1枚当たりの厚さが薄くされ、シリコン貫通電極(TSV)により結線された複数の半導体ウェハが積層されている。具体的には、半導体デバイスを形成したデバイスウェハのデバイスを形成させていない面(裏面ともいう。)を研磨によって薄型化した後、裏面にTSVを含む電極形成が行われる。
【0003】
デバイスウェハの裏面の研磨工程においては、デバイスウェハに機械的強度を付与するために、キャリアウェハとも呼ばれる支持ウェハがデバイスウェハの半導体デバイス形成面に接着剤を用いて仮接着される。デバイスウェハの仮接着用途には、耐熱性の良好なポリオルガノシロキサン化合物を接着性ポリマーとして含む接着剤が使用される。研磨工程後、必要に応じてデバイスウェハの裏面に、Al、Cu、Ni、Au等を含む金属配線若しくは電極パッド、酸化膜、窒化膜等の無機膜、又はポリイミド等を含む樹脂層が形成される。その後、デバイスウェハの裏面を、リングフレームにより固定された、アクリル粘着層を有するテープに貼り合わせることにより、デバイスウェハがテープに固定される。その後、デバイスウェハは支持ウェハから分離され、デバイスウェハ上の接着剤は剥離され、デバイスウェハ上の接着剤の残留物は洗浄剤を用いて洗浄除去される。
【0004】
半導体ウェハと他の半導体ウェハ、パッケージ基板等との電気的接続は、バンプボール等の金属バンプを介して形成することができる。半導体ウェハが金属バンプを有する場合、洗浄組成物には、金属バンプに対する腐食性が低いことが要求される。特許文献1及び2には、バンプボール等の金属に対する腐食性が抑制された洗浄組成物が提案されている。
【0005】
特許文献1(特開2021-161196号公報)には、チアゾール系化合物からなる金属腐食抑制剤を含む洗浄剤組成物が記載されている。
【0006】
特許文献2(韓国特許公開第2018-0066550号)には、バンプボールへの損傷を減少させるためにフッ素系界面活性剤を添加した洗浄組成物が記載されている。
【0007】
特許文献3(特開2023-76511号公報)には、洗浄組成物中の水分量を低減させる方法として、市販品のモレキュラーシーブス、シリカゲル、及びアルミナからなる群から選ばれる乾燥剤と、第四級フッ化アルキルアンモニウムの水和物を含む洗浄組成物とを接触させる方法が記載されている。
【0008】
特許文献4(特開平6-316551号公報)には、テトラブチルアンモニウムフルオライドの水和物に多量のアルコールを加えた後、アルコールを減圧留去することにより水和水をアルコールに置換し、テトラブチルアンモニウムフルオライドのアルコール付加物を得る方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2021-161196号公報
【特許文献2】韓国特許公開第2018-0066550号
【特許文献3】特開2023-76511号公報
【特許文献4】特開平6-316551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
デバイスウェハ上に残留したポリオルガノシロキサン化合物を分解洗浄するための洗浄組成物には、テトラブチルアンモニウムフルオライド三水和物(TBAF・3H2O)などの第四級フッ化アルキルアンモニウムの水和物が使用される。特にポリオルガノシロキサン化合物のエッチング速度を高めたい場合には、反応活性種であるフッ化物イオンの濃度を高めることが有効である。しかし、高濃度の第四級フッ化アルキルアンモニウムを含む洗浄組成物を用いた場合、ウェハ上の金属バンプが腐食する問題が生じていた。
【0011】
特許文献1及び2には、腐食抑制剤の添加により、腐食性が低減された洗浄組成物が開示されている。しかし、腐食抑制剤の添加はあくまでも腐食を前提とした対応であり、本来は腐食の原因となる物質を除去しておくことが好ましい。
【0012】
金属バンプの腐食原因として様々な要因が考えられるが、金属を腐食させる物質の一つとしては、第四級フッ化アルキルアンモニウムの水和物によって系内に持ち込まれる水が挙げられる。上記の腐食抑制剤の添加は系内の水分量の低減には寄与しないことから、別の手段を用いて洗浄組成物に含まれる水分を減らすことが望まれる。フッ化物イオンは洗浄組成物に必要な活性種であることから、第四級フッ化アルキルアンモニウムの使用量を減らすことで水分量の低減を図るのではなく、第四級フッ化アルキルアンモニウムの量に対する水分量を減らすことが好ましい。
【0013】
しかし、特許文献3に記載されるモレキュラーシーブス、シリカゲル、及びアルミナからなる群から選ばれる乾燥剤は、水分のみならず、接着性ポリマーの分解活性種であるフッ化物イオンも吸着除去してしまうため、水分のみを選択的に除去する方が好ましい。
【0014】
本開示は、ウェハ上の金属バンプに対する腐食性が低減された洗浄組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
洗浄組成物中の水分量を低減させる別の方法として、第四級フッ化アルキルアンモニウムの水和物に含まれる水和水を予め除去しておく方法が考えられる。テトラブチルアンモニウムフルオライドの水和物に含まれる水和水を除去する方法として、特許文献4には、テトラブチルアンモニウムフルオライド三水和物に対して過剰のメタノール、エタノール、n-プロパノール、iso-プロパノール、n-ブタノール、iso-ブタノール、sec-ブタノール、及びtert-ブタノールから選択される1種のアルコールを加えた後に、アルコールを減圧留去することが記載されている。特許文献4には、この操作により得られたテトラブチルアンモニウムフルオライドのアルコール付加物とその水分濃度及び形態が記載されており、特に、三級アルコールであるtert-ブタノールを用いて得られたアルコール付加物は、ベンジルブロマイドのフッ素化反応の反応速度が高いこと、及び非常に安定な結晶状態であることも記載されている。そのため、tert-ブタノールを用いて得られたアルコール付加物は、その他の反応への応用も期待できる。
【0016】
本発明者らは、第四級フッ化アルキルアンモニウムのアルコール付加物、及び非プロトン性溶媒を含有する洗浄組成物を、金属バンプを有する半導体ウェハの洗浄に用いた場合、第四級フッ化アルキルアンモニウムを同量含む第四級フッ化アルキルアンモニウムの水和物を用いた場合に比べて、ウェハ上の金属バンプの腐食を低減できることを見出した。
【0017】
即ち本開示は、次の[1]~[20]に関する。
[1]
第四級フッ化アルキルアンモニウムのアルコール付加物、及び非プロトン性溶媒を含有する洗浄組成物。
[2]
前記第四級フッ化アルキルアンモニウムのアルコール付加物が、メタノール、エタノール、n-プロパノール、iso-プロパノール、n-ブタノール、iso-ブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、n-ペンタノール、iso-ペンタノール、ネオペンチルアルコール、tert-アミルアルコール、n-ヘキサノール、及び1-アダマンタノールからなる群より選択される少なくとも1種のアルコールの付加物である、[1]に記載の洗浄組成物。
[3]
前記第四級フッ化アルキルアンモニウムのアルコール付加物が、tert-ブタノールの付加物である、[1]又は[2]に記載の洗浄組成物。
[4]
前記洗浄組成物中の、前記第四級フッ化アルキルアンモニウムの含有量に対する、水分の含有量の質量比(水分/第四級フッ化アルキルアンモニウム)が、0.20以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の洗浄組成物。
[5]
前記第四級フッ化アルキルアンモニウムが、下記式
R6R7R8R9N+F-
(式中、R6~R9は、それぞれ独立してメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、及びn-ブチル基からなる群より選択されるアルキル基を表す。)
で表されるフッ化テトラアルキルアンモニウムである、[1]~[4]のいずれかに記載の洗浄組成物。
[6]
前記洗浄組成物100質量%に対する前記第四級フッ化アルキルアンモニウムの含有量が、0.01~15質量%である、[1]~[5]のいずれかに記載の洗浄組成物。
[7]
前記非プロトン性溶媒の少なくとも1種が(A)N,N-二置換アミド化合物である、[1]~[6]のいずれかに記載の洗浄組成物。
[8]
前記非プロトン性溶媒の少なくとも1種が(B)エーテル化合物である、[1]~[7]のいずれかに記載の洗浄組成物。
[9]
前記洗浄組成物100質量%に対する前記非プロトン性溶媒の合計含有量が、65~99質量%である、[1]~[8]のいずれかに記載の洗浄組成物。
[10]
接着性ポリマーを洗浄する洗浄組成物である、[1]~[9]のいずれかに記載の洗浄組成物。
[11]
前記接着性ポリマーがポリオルガノシロキサン化合物である、[10]に記載の洗浄組成物。
[12]
[1]~[11]のいずれかに記載の洗浄組成物を用いて基材上の接着性ポリマーを洗浄する方法。
[13]
[1]~[11]のいずれかに記載の洗浄組成物を用いてデバイスウェハ上の接着性ポリマーを洗浄することを含む、デバイスウェハの製造方法。
[14]
[1]~[11]のいずれかに記載の洗浄組成物を用いて支持ウェハ上の接着性ポリマーを洗浄することを含む、支持ウェハの再生方法。
[15]
第四級フッ化アルキルアンモニウムのアルコール付加物、及び非プロトン性溶媒を混合する混合工程を含む、洗浄組成物の製造方法。
[16]
前記第四級フッ化アルキルアンモニウムが、下記式
R6R7R8R9N+F-
(式中、R6~R9は、それぞれ独立してメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、及びn-ブチル基からなる群より選択されるアルキル基を表す。)
で表されるフッ化テトラアルキルアンモニウムである、[15]に記載の洗浄組成物の製造方法。
[17]
第四級フッ化アルキルアンモニウムの水和物に含まれる水和水の少なくとも一部を、アルコールで置換して前記第四級フッ化アルキルアンモニウムのアルコール付加物を得る置換工程を含む、[15]又は[16]に記載の洗浄組成物の製造方法。
[18]
前記アルコールが、メタノール、エタノール、n-プロパノール、iso-プロパノール、n-ブタノール、iso-ブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、n-ペンタノール、iso-ペンタノール、ネオペンチルアルコール、tert-アミルアルコール、n-ヘキサノール、及び1-アダマンタノールからなる群より選択される少なくとも1種のアルコールである、[17]に記載の洗浄組成物の製造方法。
[19]
前記アルコールがtert-ブタノールである、[17]又は[18]に記載の洗浄組成物の製造方法。
[20]
前記置換工程において、前記第四級フッ化アルキルアンモニウムの水和物と、前記アルコールとの配合比(質量比)(アルコール/第四級フッ化アルキルアンモニウムの水和物)が、3~20である、[17]~[19]のいずれかに記載の洗浄組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本開示によれば、ウェハ上の金属バンプに対する腐食性が低減された洗浄組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施形態のみに限定されるものではない。
【0020】
本明細書において、数値範囲について「~」を使用する場合、両端の数値は、それぞれ上限値及び下限値であり、数値範囲に含まれる。上限値又は下限値が複数記載されている場合は、上限値と下限値の全ての組み合わせから数値範囲を作ることができる。同様に、複数の数値範囲が記載されている場合は、それらの数値範囲から上限値と下限値を個別に選択して組み合わせることで、別個の数値範囲を作ることができる。
【0021】
[洗浄組成物]
一実施態様の洗浄組成物は、第四級フッ化アルキルアンモニウムのアルコール付加物、及び非プロトン性溶媒を含有する。第四級フッ化アルキルアンモニウムのアルコール付加物は、第四級フッ化アルキルアンモニウムの水和物に比べて系内に持ち込む水分量が少ない。したがって、第四級フッ化アルキルアンモニウムのアルコール付加物を用いることにより、金属に対する腐食性を低減することができる。
【0022】
<第四級フッ化アルキルアンモニウムのアルコール付加物>
第四級フッ化アルキルアンモニウムのアルコール付加物は、Si-O結合の切断に関与するフッ化物イオンを放出する。第四級アルキルアンモニウム部分により、塩である第四級フッ化アルキルアンモニウムは非プロトン性溶媒中に溶解することができる。第四級フッ化アルキルアンモニウムのアルコール付加物のアルコール付加数は、例えば、2~5である。第四級フッ化アルキルアンモニウムは、1種又は2種以上の組み合わせであってよい。アルコールは、1種又は2種以上の組み合わせであってよい。
【0023】
第四級フッ化アルキルアンモニウムのアルコール付加物を構成するアルコールとしては、特に制限なく様々な化合物を使用することができる。好ましいアルコールとしては、例えば、炭素原子数1~6の直鎖又は分岐アルコール、及び炭素原子数5~12の環状アルコールが挙げられる。アルコールは、1価アルコールであることが好ましい。第四級フッ化アルキルアンモニウムのアルコール付加物を構成するアルコールは、R10OH(R10は炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数5~8のシクロアルキル基、又は炭素原子数5~12の多環式炭化水素基を表す。)で表されるアルコールであることがより好ましい。R10は、好ましくはメチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、iso-ペンチル基、ネオペンチル基、2-メチル-2-ブチル基、n-ヘキシル基、又は1-アダマンチル基であり、より好ましくはiso-プロピル基、又はtert-ブチル基であり、さらに好ましくはtert-ブチル基である。
【0024】
一実施態様では、第四級フッ化アルキルアンモニウムのアルコール付加物は、メタノール、エタノール、n-プロパノール、iso-プロパノール、n-ブタノール、iso-ブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、n-ペンタノール、iso-ペンタノール、ネオペンチルアルコール、tert-アミルアルコール、n-ヘキサノール、及び1-アダマンタノールからなる群より選択される少なくとも1種のアルコールの付加物である。第四級フッ化アルキルアンモニウムのアルコール付加物は、好ましくは、iso-プロパノール、及びtert-ブタノールからなる群より選択される少なくとも1種のアルコールの付加物であり、より好ましくは、tert-ブタノールの付加物である。
【0025】
第四級フッ化アルキルアンモニウムとしては、特に制限なく様々な化合物を使用することができる。一実施態様では、第四級フッ化アルキルアンモニウムは、下記式
R6R7R8R9N+F-
(式中、R6~R9は、それぞれ独立してメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、及びn-ブチル基からなる群より選択されるアルキル基を表す。)
で表されるフッ化テトラアルキルアンモニウムである。入手容易性の観点から、R6~R9はすべて同一のアルキル基であることが好ましい。そのような第四級フッ化アルキルアンモニウムとして、テトラメチルアンモニウムフルオライド、テトラエチルアンモニウムフルオライド、テトラプロピルアンモニウムフルオライド、テトラブチルアンモニウムフルオライドなどが挙げられる。分解洗浄性能、入手容易性、価格などの観点から、第四級フッ化アルキルアンモニウムは、テトラブチルアンモニウムフルオライド(TBAF)であることが好ましい。
【0026】
第四級フッ化アルキルアンモニウムのアルコール付加物は、例えば、第四級フッ化アルキルアンモニウムの水和物に含まれる水和水の少なくとも一部、好ましくは全部を、アルコールで置換することによって製造することができる。
【0027】
一実施態様では、第四級フッ化アルキルアンモニウムのアルコール付加物は、下記式で表される化合物である。
R6R7R8R9N+F-・(R10OH)y,(H2O)z
(式中、R6~R9はそれぞれ独立してメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、及びn-ブチル基からなる群より選択されるアルキル基を表し、R10は炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数5~8のシクロアルキル基、又は炭素原子数5~12の多環式炭化水素基を表し、yは2~4の数を表し、zは0~2の数を表す。)
R6~R9の好ましい態様は、第四級フッ化アルキルアンモニウムについて記載したものと同様である。R10の好ましい態様は、アルコールについて記載したものと同様である。yは好ましくは3~4である。zは好ましくは0~1であり、好ましくは0である。一実施態様では、第四級フッ化アルキルアンモニウムのアルコール付加物は、水和水を含まない。
【0028】
一実施態様では、洗浄組成物中の第四級フッ化アルキルアンモニウムの含有量は0.01~15質量%である。ここで「第四級フッ化アルキルアンモニウムの含有量」は、第四級フッ化アルキルアンモニウムに付加したアルコール及び水和水の質量を除いた、第四級フッ化アルキルアンモニウムのみの質量として換算した値である。洗浄組成物中の第四級フッ化アルキルアンモニウムの含有量は、0.01質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましく、1質量%以上であることがさらに好ましい。洗浄組成物中の第四級フッ化アルキルアンモニウムの含有量は、15質量%以下であることが好ましく、13質量%以下であることがより好ましく、12質量%以下であることがさらに好ましく、10質量%以下であることがよりさらに好ましく、8質量%以下であることが特に好ましい。第四級フッ化アルキルアンモニウムの含有量を0.01質量%以上とすることで、接着性ポリマーを効果的に分解及び洗浄することができる。15質量%以下とすることで、デバイスウェハのデバイス形成面に含まれる金属部分の腐食をより抑制することができる。
【0029】
一実施態様では、洗浄組成物中の第四級フッ化アルキルアンモニウムのアルコール付加物の含有量は、0.02質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましく、2質量%以上であることがさらに好ましい。洗浄組成物中の第四級フッ化アルキルアンモニウムのアルコール付加物の含有量は、40質量%以下であることが好ましく、35質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましく、25質量%以下であることがよりさらに好ましく、20質量%以下であることが特に好ましい。第四級フッ化アルキルアンモニウムのアルコール付加物の含有量を0.02質量%以上とすることで、接着性ポリマーを効果的に分解及び洗浄することができる。40質量%以下とすることで、デバイスウェハのデバイス形成面に含まれる金属部分の腐食をより抑制することができる。
【0030】
金属部分の腐食の防止若しくは抑制、又は第四級フッ化アルキルアンモニウムの使用に伴うコストの低減が特に要求される場合、洗浄組成物中の第四級フッ化アルキルアンモニウムの含有量を、4質量%以下、又は3質量%以下としてもよい。より高いエッチング速度が要求される場合、洗浄組成物中の第四級フッ化アルキルアンモニウムの含有量を、5質量%以上、6質量%以上、又は7質量%以上としてもよい。
【0031】
一実施態様では、洗浄組成物中の、第四級フッ化アルキルアンモニウムの含有量に対する、水分の含有量の質量比(水分/第四級フッ化アルキルアンモニウム)は、0.20以下である。上記質量比(水分/第四級フッ化アルキルアンモニウム)は、0.15以下であることが好ましく、0.10以下であることがより好ましい。上記質量比(水分/第四級フッ化アルキルアンモニウム)の下限は、特に制限されないが、例えば、0.01、又は0.02であってよい。上記質量比(水分/第四級フッ化アルキルアンモニウム)を0.20以下とすることで、エッチング速度を高め、かつ金属バンプに対する腐食性をより低減することができる。
【0032】
本開示において、洗浄組成物中の水分の含有量は、カールフィッシャー法(CF法)で測定した値である。測定雰囲気の温度及び相対湿度は、それぞれ22℃及び1%RH未満とする。
【0033】
本開示において、洗浄組成物中の第四級フッ化アルキルアンモニウムの含有量は、以下の方法により得られた値である。まず、試料0.4mLを秤量し、20mLのメタノールに溶解する。その後、水を加えて約80mLとし、自動滴定装置を用いて、0.02Mテトラフェニルホウ酸ナトリウム溶液で、電位差滴定を行う。指示電極としてフルオロホウ酸イオン電極、参照電極として銀塩化銀電極を用いる。測定結果から、第四級フッ化アルキルアンモニウムの含有量を算出する。
【0034】
<非プロトン性溶媒>
非プロトン性溶媒は、第四級フッ化アルキルアンモニウムのアルコール付加物を溶解又は分散させることができれば特に制限されない。非プロトン性溶媒は、第四級フッ化アルキルアンモニウムのフッ化物イオンに対して水素結合を介した溶媒和を形成しないことから、フッ化物イオンの反応性を高めることができる。非プロトン性溶媒としては、例えばN-メチルピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)等のN,N-二置換アミド化合物;ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル化合物;ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルホラン等の有機硫黄酸化物などが挙げられる。
【0035】
洗浄組成物100質量%に対する非プロトン性溶媒と第四級フッ化アルキルアンモニウムに付加していてもよいアルコールとの合計の含有量は、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。洗浄組成物100質量%に対する非プロトン性溶媒と前記アルコールとの合計の含有量は、99.99質量%以下であることが好ましく、99.95質量%以下であることがより好ましく、99.90質量%以下であることがさらに好ましい。
【0036】
洗浄組成物100質量%に対する非プロトン性溶媒の合計含有量は、65質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、75質量%以上であることがさらに好ましい。洗浄組成物100質量%に対する非プロトン性溶媒の合計含有量は、99質量%以下であることが好ましく、98質量%以下であることがより好ましく、97質量%以下であることがさらに好ましい。
【0037】
非プロトン性溶媒及び第四級フッ化アルキルアンモニウムに付加していてもよいアルコールの合計100質量%に対する非プロトン性溶媒の合計含有量は、70~99.99質量%であることが好ましく、75~99.95質量%であることがより好ましく、80~99.90質量%であることがさらに好ましい。
【0038】
非プロトン性溶媒は、(A)N,N-二置換アミド化合物、及び(B)エーテル化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0039】
一実施態様では、非プロトン性溶媒は、ケトン及びエステルから選択される非プロトン性溶媒を実質的に含まない、又は含まない。例えば、洗浄組成物中のケトン及びエステルから選択される非プロトン性溶媒の含有量を、1質量%以下、0.5質量%以下、又は0.1質量%以下とすることができる。
((A)N,N-二置換アミド化合物)
【0040】
非プロトン性溶媒は、N,N-二置換アミド化合物を含有することが好ましい。N,N-二置換アミド化合物は、比較的極性が高い非プロトン性溶媒であり、組成物中に第四級フッ化アルキルアンモニウムのアルコール付加物を均一に溶解又は分散することができる。本開示において「N,N-二置換アミド化合物」は、窒素原子に水素原子が直接結合していない尿素化合物(カルバミド化合物)も包含する。N,N-二置換アミド化合物として、特に制限なく様々な化合物を使用することができ、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N,N-ジメチルプロピオンアミド、N,N-ジエチルプロピオンアミド、テトラメチル尿素等の非環式N,N-二置換アミド、及び2-ピロリドン誘導体、2-ピペリドン誘導体、ε-カプロラクタム誘導体、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、1-メチル-3-エチル-2-イミダゾリジノン、1,3-ジエチル-2-イミダゾリジノン、1,3-ジメチル-3,4,5,6-テトラヒドロ-2(1H)-ピリミジノン(N,N’-ジメチルプロピレン尿素)等の環式N,N-二置換アミドが挙げられる。これらの中でも、環式N,N-二置換アミドを用いることが好ましい。N,N-二置換アミド化合物は、1種又は2種以上の組み合わせであってよい。
【0041】
一実施態様では、N,N-二置換アミド化合物は、式(1):
【化1】
(式(1)において、R
1は炭素原子数1~4のアルキル基を表す。)
で表される2-ピロリドン誘導体化合物である。炭素原子数1~4のアルキル基として、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基などが挙げられる。式(1)で表される2-ピロリドン誘導体化合物として、例えば、N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン、N-プロピルピロリドン、N-ブチルピロリドンなどが挙げられる。
【0042】
極性が比較的高く、第四級フッ化アルキルアンモニウムの溶解能力に優れており、入手が容易であることから、N,N-二置換アミド化合物は、式(1)においてR1がメチル基又はエチル基である2-ピロリドン誘導体化合物であることが好ましく、式(1)においてR1がエチル基である2-ピロリドン誘導体化合物、すなわちN-エチルピロリドンであることがより好ましい。
【0043】
N,N-二置換アミド化合物の含有量は、非プロトン性溶媒を100質量%としたときに、20~100質量%であることが好ましく、30~90質量%であることがより好ましく、35~85質量%であることがさらに好ましく、40~80質量%であることが特に好ましい。
【0044】
((B)エーテル化合物)
非プロトン性溶媒は、エーテル化合物を含有することが好ましく、エーテル化合物とN,N-二置換アミド化合物を含有することがより好ましい。エーテル化合物をN,N-二置換アミド化合物と組み合わせることで、接着剤表面に対して高い親和性を示す混合溶媒系を形成することができる。そのような混合溶媒系を用いた組成物は、第四級フッ化アルキルアンモニウムの反応活性が有効に利用された高いエッチング速度を達成することができる。エーテル化合物として、非プロトン性溶媒であれば、特に制限なく様々な化合物を使用することができる。エーテル化合物は、1種又は2種以上の組み合わせであってよい。エーテル化合物は、エステル構造又はアミド構造を含まないものが好ましい。
【0045】
一実施態様では、エーテル化合物の少なくとも1種は、式(2):
R2O(CnH2nO)xR3 (2)
(式(2)において、R2及びR3はそれぞれ独立してメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、及びt-ブチル基からなる群より選択されるアルキル基を表し、nは2又は3であり、xは1~4の整数である。)
で表されるグリコールのジアルキルエーテルである。
【0046】
式(2)で表されるグリコールのジアルキルエーテルとして、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジエチルエーテル、トリプロピレングリコールジn-ブチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラプロピレングリコールジメチルエーテルなどが挙げられる。式(2)で表されるグリコールのジアルキルエーテルは、分解洗浄性能、入手容易性、価格などの観点から、ジエチレングリコールジメチルエーテル又はジプロピレングリコールジメチルエーテルであることが好ましく、幅広い組成で高いエッチング速度が得られることからジプロピレングリコールジメチルエーテルであることがより好ましい。
【0047】
式(2)で表されるグリコールのジアルキルエーテルの含有量は、非プロトン性溶媒を100質量%としたときに、10~80質量%とすることが好ましく、15~70質量%とすることがより好ましく、20~60質量%とすることがさらに好ましい。別の実施態様では、式(2)で表されるグリコールのジアルキルエーテルの含有量は、非プロトン溶媒を100質量%としたときに、0~60質量%とすることが好ましく、3~50質量%とすることがより好ましく、5~40質量%とすることがさらに好ましい。
【0048】
一実施態様では、エーテル化合物の少なくとも1種は、式(3):
R4OR5 (3)
(式中、R4及びR5はそれぞれ独立して炭素原子数4~8のアルキル基を表す。)
で表されるジアルキルエーテルである。
【0049】
エーテル化合物は、式(2)で表されるグリコールのジアルキルエーテルと、式(3)で表されるジアルキルエーテルとを含んでもよい。このように極性の異なる2種類以上のエーテル化合物を組み合わせて用いることにより、様々な接着剤表面に対する親和性を効果的に高めて、適用範囲の広い組成物を得ることができる。
【0050】
式(3)で表されるジアルキルエーテルとして、ジブチルエーテル、ジペンチルエーテル、ジヘキシルエーテル、ジヘプチルエーテル、ジオクチルエーテル、ブチルヘキシルエーテル、ブチルオクチルエーテルなどが挙げられる。式(3)で表されるジアルキルエーテルは、分解洗浄性能、入手容易性、価格などの観点から、ジブチルエーテルであることが好ましい。
【0051】
式(3)で表されるジアルキルエーテルの含有量は、非プロトン性溶媒を100質量%としたときに、0~50質量%とすることが好ましく、1~35質量%とすることがより好ましく、2~30質量%とすることがさらに好ましい。式(3)で表されるジアルキルエーテルの含有量を0質量%以上、50質量%以下とすることにより、より高いエッチング速度を得ることができる。別の実施態様では、式(3)で表されるジアルキルエーテルの含有量は、非プロトン性溶媒を100質量%としたときに、30~70質量%とすることが好ましく、35~65質量%とすることがより好ましく、40~60質量%とすることがさらに好ましい。
【0052】
一実施態様では、エーテル化合物の引火点は21℃以上である。引火点が21℃以上、すなわち危険物第4類第1石油類に非該当であるエーテル化合物を用いることで、テトラヒドロフラン(THF、引火点-17℃、危険物第4類第1石油類)などを用いた場合と比較して、組成物の製造及び使用における設備、作業環境等の要件を軽減することができる。例えば、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、及びジブチルエーテルの引火点はそれぞれ51℃、60℃、及び25℃である。引火点は、タグ密閉法(JIS K 2265-1:2007)により測定される。
【0053】
(N,N-二置換アミド化合物とエーテル化合物の組成比)
一実施態様では、非プロトン性溶媒を100質量%としたときに、N,N-二置換アミド化合物の含有量は10~90質量%であり、エーテル化合物の含有量は90~10質量%である。非プロトン性溶媒を100質量%としたときに、N,N-二置換アミド化合物の含有量を15~85質量%、エーテル化合物の含有量を85~15質量%とすることが好ましく、N,N-二置換アミド化合物の含有量を25~65質量%、エーテル化合物の含有量を75~35質量%とすることがより好ましい。N,N-二置換アミド化合物及びエーテル化合物の含有量を上記範囲とすることで、第四級フッ化アルキルアンモニウムのアルコール付加物を組成物中に均一に溶解又は分散することができ、様々な接着剤表面に対して高いエッチング速度を得ることができる。
【0054】
一実施態様では、非プロトン性溶媒を100質量%としたときに、N,N-二置換アミド化合物の含有量が20~90質量%、かつ式(2)で表されるグリコールのジアルキルエーテルの含有量が0~65質量%、かつ式(3)で表されるジアルキルエーテルの含有量が0~50質量%である。好ましくは、N,N-二置換アミド化合物の含有量が25~80質量%、かつ式(2)で表されるグリコールのジアルキルエーテルの含有量が10~60質量%、かつ式(3)で表されるジアルキルエーテルの含有量が0~45質量%である。
【0055】
<添加剤及びその他の成分>
洗浄組成物は、本発明の効果を顕著に損なわない範囲で、任意成分として、酸化防止剤、界面活性剤、防腐剤、発泡防止剤などの添加剤及びアルコール以外のプロトン性溶媒を含んでもよい。
【0056】
一実施態様では、洗浄組成物は、アルコール以外のプロトン性溶媒を実質的に含まない、又は含まない。例えば、組成物中のアルコール以外のプロトン性溶媒の含有量を、5質量%以下、3質量%以下、又は1質量%以下とすることができる。洗浄組成物は、好ましくは、第四級フッ化アルキルアンモニウムのアルコール付加物に由来するアルコール以外のプロトン性溶媒を実質的に含まない、又は含まない。例えば、組成物中のアルコール付加物に由来するアルコール以外のプロトン性溶媒の含有量を、5質量%以下、3質量%以下、又は1質量%以下とすることができる。
【0057】
一実施態様では、洗浄組成物は、水分を実質的に含まない、又は含まない。例えば、組成物中の水分の含有量を、3質量%以下、2質量%以下、又は1質量%以下とすることができる。
【0058】
[洗浄組成物の製造方法]
洗浄組成物の製造方法は特に限定されない。一実施態様では、洗浄組成物の製造方法は、第四級フッ化アルキルアンモニウムのアルコール付加物、及び非プロトン性溶媒を混合する混合工程を含む。洗浄組成物は、例えば第四級フッ化アルキルアンモニウムのアルコール付加物、非プロトン性溶媒、及びその他の任意成分を混合することにより調製することができる。
【0059】
洗浄組成物は、第四級フッ化アルキルアンモニウムのアルコール付加物、非プロトン性溶媒、及びその他の任意成分を、不活性ガス雰囲気下で混合することにより調製することが好ましい。例えば、不活性ガスを封入したグローブボックス内において、第四級フッ化アルキルアンモニウムのアルコール付加物、非プロトン性溶媒、及びその他の任意成分を、撹拌機等を用いて撹拌混合して、第四級フッ化アルキルアンモニウムのアルコール付加物を溶媒に溶解させる方法が挙げられる。不活性ガスは、好ましくはアルゴンガス又は窒素ガスであり、より好ましくは窒素ガスである。
【0060】
一実施態様では、洗浄組成物の製造方法は、第四級フッ化アルキルアンモニウムの水和物に含まれる水和水の少なくとも一部、好ましくは全部を、アルコールで置換して第四級フッ化アルキルアンモニウムのアルコール付加物を得る置換工程を含む。第四級フッ化アルキルアンモニウムの水和物に含まれる水和水をアルコールで置換する方法としては、例えば、必要に応じて加熱しつつ、第四級フッ化アルキルアンモニウムの水和物をアルコールに溶解させた後、アルコール及び水分を減圧下で除去する方法が挙げられる。この操作により、第四級フッ化アルキルアンモニウムに水和していた水がアルコールによって置換され、第四級フッ化アルキルアンモニウムのアルコール付加物が生成する。アルコールの付加数は、アルコールを除去する条件によって変わり得る。一般的に、よりアルコールが蒸発しやすい条件では、アルコールの付加数はより小さくなる。
【0061】
原料として用いる第四級フッ化アルキルアンモニウムの水和物を構成する第四級フッ化アルキルアンモニウムは、上記の第四級フッ化アルキルアンモニウムのアルコール付加物について記載された第四級フッ化アルキルアンモニウムと同様である。第四級フッ化アルキルアンモニウムの水和物としては、例えば三水和物、四水和物及び五水和物が挙げられる。
【0062】
原料として用いるアルコールは、上記の第四級フッ化アルキルアンモニウムのアルコール付加物について記載されたアルコールと同様である。
【0063】
置換工程において、第四級フッ化アルキルアンモニウムの水和物と、アルコールとの配合比(質量比)(アルコール/第四級フッ化アルキルアンモニウムの水和物)は、好ましくは3~20であり、より好ましくは5~20である。
【0064】
アルコール及び水分を減圧下で除去する際の温度は、アルコールの種類、圧力条件等に応じて適宜設定すればよい。
【0065】
[洗浄組成物の使用方法]
本開示の組成物は、様々な接着剤に含まれる接着性ポリマーの洗浄組成物として使用することができる。接着性ポリマーは、本開示の洗浄組成物を用いて洗浄することができるものであれば特に制限されない。接着剤は接着性ポリマーに加えて、任意成分として、硬化剤、硬化促進剤、架橋剤、界面活性剤、レベリング剤、充填材などを含んでもよい。
【0066】
一実施態様では、接着性ポリマーはSi-O結合を含む。接着性ポリマーは、第四級フッ化アルキルアンモニウムのフッ化物イオンによるSi-O結合の切断により低分子化し又は架橋構造を失い、溶媒に溶解可能となり、その結果、デバイスウェハなどの表面から接着性ポリマーを除去することができる。
【0067】
Si-O結合を含む接着性ポリマーは、ポリオルガノシロキサン化合物であることが好ましい。ポリオルガノシロキサン化合物は多数のシロキサン(Si-O-Si)結合を含むことから、洗浄組成物を用いて効果的に分解及び洗浄することができる。ポリオルガノシロキサン化合物として、例えばシリコーンエラストマー、シリコーンゲル、及びMQ樹脂などのシリコーンレジン、並びにそれらのエポキシ変性体、アクリル変性体、メタクリル変性体、アミノ変性体、メルカプト変性体などの変性体が挙げられる。ポリオルガノシロキサン化合物は、シリコーン変性ポリウレタン、シリコーン変性アクリル樹脂などのシリコーン変性ポリマーであってもよい。
【0068】
一実施態様では、接着性ポリマーは、付加硬化型のシリコーンエラストマー、シリコーンゲル、又はシリコーンレジンである。これらの付加硬化型シリコーンは、エチレン性不飽和基含有ポリオルガノシロキサン、例えばビニル末端ポリジメチルシロキサン又はビニル末端MQ樹脂と、架橋剤としてポリオルガノハイドロジェンシロキサン、例えばポリメチルハイドロジェンシロキサンとを含み、白金触媒などのヒドロシリル化触媒を用いて硬化される。
【0069】
別の実施態様では、接着性ポリマーは、アラルキル基、エポキシ基、又はフェニル基含有ポリジオルガノシロキサン、特にアラルキル基、エポキシ基、又はフェニル基含有ポリジメチルシロキサンを含む。このような接着性ポリマーを含む接着剤を、上記付加硬化型シリコーンを含む接着剤と組み合わせて仮接着に使用してもよい。
【0070】
[接着性ポリマーを洗浄する方法]
基材上の接着性ポリマーの洗浄は、洗浄組成物を用いて、従来知られた様々な方法で行うことができる。接着性ポリマーの洗浄方法として、例えば、スピンコータ等を用いて所定の速度で基材を回転させながら、接着性ポリマーと接触するように基材上に洗浄組成物を吐出する方法(スピンエッチともいう。)、基材上の接着性ポリマーに対して洗浄組成物を噴霧する方法(スプレーともいう。)、洗浄組成物を入れた容器に接着性ポリマーを有する基材を浸漬する方法(ディッピングともいう。)などが挙げられる。
【0071】
基材としては、例えば、シリコンウェハが挙げられる。
【0072】
洗浄は、空気雰囲気下で行ってもよく、不活性ガス雰囲気下で行ってもよいが、好ましくは不活性ガス雰囲気下で行う。不活性ガスとしては、アルゴンガス又は窒素ガスが好ましく、窒素ガスがより好ましい。
【0073】
洗浄の温度は、基材上の接着性ポリマーの種類及び付着量によって様々であってよく、一般に7℃~35℃、好ましくは15℃~30℃である。洗浄の時間は、基材上の接着性ポリマーの種類及び付着量によって様々であってよく、一般に5秒~10時間、好ましくは10秒~2時間である。洗浄時に、洗浄組成物の浴又は基材に超音波を適用してもよい。
【0074】
洗浄後に、基材をイソプロピルアルコール(IPA)等のアルコール、イオン交換水(DIW)などを用いてリンスしてもよく、基材を窒素ガス、空気等の吹付け、常圧下又は減圧下での加熱などにより乾燥してもよい。
【0075】
[デバイスウェハの製造方法]
一実施態様では、デバイスウェハの製造方法は、第四級フッ化アルキルアンモニウムのアルコール付加物、及び非プロトン性溶媒を含有する洗浄組成物を用いて、デバイスウェハ上の接着性ポリマーを洗浄することを含む。洗浄後、必要に応じてデバイスウェハをリンス又は乾燥してもよい。
【0076】
デバイスウェハの製造方法は、さらに以下の工程:シリコンウェハなどの基材上に半導体デバイスを形成してデバイスウェハを得ること、デバイスウェハの半導体デバイス形成面と支持ウェハとを対向させて、デバイスウェハと支持ウェハとを、接着性ポリマーを含む接着剤を介して仮接着すること、デバイスウェハのデバイス形成面の反対面、すなわち裏面を研磨することによりデバイスウェハを薄型化すること、及びデバイスウェハから支持ウェハを分離すること、を含んでもよい。半導体デバイスの形成、デバイスウェハと支持ウェハの仮接着、デバイスウェハの裏面の研磨、及びデバイスウェハの支持ウェハからの分離は、従来知られた方法で行うことができ、特に制限されない。
【0077】
[支持ウェハの再生方法]
一実施態様では、支持ウェハの再生方法は、第四級フッ化アルキルアンモニウムのアルコール付加物、及び非プロトン性溶媒を含有する洗浄組成物を用いて、支持ウェハ上の接着性ポリマーを洗浄することを含む。洗浄後、必要に応じて支持ウェハをリンス又は乾燥してもよい。
【0078】
支持ウェハとしては、例えば、ガラスウェハ、及びシリコンウェハが挙げられる。
【実施例0079】
[実施例1]
<洗浄組成物の調製>
以下の手順でテトラブチルアンモニウムフルオライド・三水和物(TBAF・3H2O)のtert-ブタノールへの溶解と、tert-ブタノール及び水分の除去とを行うことによりTBAFのtert-ブタノール付加物を調製した。
【0080】
(TBAF・3H2Oのアルコールへの溶解)
簡易型グローブボックス内に、ホウケイ酸ガラス製の100mLのナス型フラスコを配置した。このグローブボックス内に窒素ガスを導入し、内部を窒素ガス雰囲気とした。デジタル温湿度計CHE-TP1(サンワサプライ株式会社)により、グローブボックス内の気温及び相対湿度を測定したところ、それぞれ24℃及び1%RH未満であった。上記のナス型フラスコ内に、6.962gのTBAF・3H2O(98%;TBAF 5.653g)を投入した後、予め約35℃の温浴で融解させたtert-ブタノール(関東化学株式会社、特級99%、水分濃度:249質量ppm)を24.540gと、マグネチックスターラーチップとを投入した。このナス型フラスコをガラス製の玉栓で封止して室温(24℃)で30分間、400rpmの回転数で撹拌することで白色の懸濁液を得た。更に、このナス型フラスコを75℃のオイルバスに浸した状態で、内容物を10分間撹拌混合することにより懸濁液に含まれていた白色結晶を全て溶解させた。
【0081】
(エバポレーターによるアルコール及び水分の除去)
次に、白色結晶を完全に溶解させた溶液を75℃のオイルバスで保温しながら、エバポレーターを用いて320hPaまで減圧することでtert-ブタノール及び水分を除去した。減圧から10分経過した時点で再結晶により白色結晶が析出した。更に、この温度と圧力で220分間tert-ブタノール及び水分の除去を継続した。このようにして得た内容物を窒素ガス雰囲気のグローブボックス内で秤量したところ11.262gであった。
【0082】
(減圧乾燥)
更に、残留したtert-ブタノールと水分を除去するため、ナス型フラスコに三方コックを取り付けて真空ポンプに繋ぎ、室温(24℃)、40hPaの条件で2時間30分間減圧乾燥を行った。この操作により11.143gの白色結晶を得た。
【0083】
(溶媒の添加と溶解)
得られた白色結晶が入ったナス型フラスコを窒素ガス置換した簡易型グローブボックス内に設置し、この中にN-エチル-2-ピロリドン(NEP)22.670g、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(DPGDME)8.426g、及びジブチルエーテル(DBE)9.610gをこの順で投入した。ナス型フラスコをガラス製の玉栓で封止して、室温、窒素ガス雰囲気の下でマグネチックスターラーで600rpmの回転数で90分間撹拌することにより白色結晶を全て溶解させた。得られた洗浄組成物の水分濃度をカールフィッシャー法(CF法)で測定したところ0.55質量%であった。洗浄組成物の総質量は51.849gであり、洗浄組成物中の、テトラブチルアンモニウムフルオライドの含有量に対する、水分の含有量の質量比は、(0.55/100×51.849)/(6.962×0.98×261/315)=0.0504と計算される。洗浄組成物100質量%に対する、非プロトン性溶媒の含有量は78.5質量%、テトラブチルアンモニウムフルオライドの含有量は10.9質量%、テトラブチルアンモニウムフルオライドのアルコール付加物の含有量は21.5質量%と計算される。
【0084】
なお、洗浄組成物の水分濃度は、カールフィッシャー水分計(MKC-710、京都電子工業株式会社)を簡易型グローブボックス内に入れ、計装用乾燥空気を流してグローブボックス内の湿度を十分に下げた状態で測定した。このときの気温及び相対湿度を上記デジタル温湿度計で測定したところ、それぞれ22℃及び1%RH未満であった。
【0085】
<Sn-Cuバンプウェハの浸漬試験>
窒素ガス雰囲気の簡易型グローブボックス内において50mLのガラス製サンプル瓶に前述の洗浄組成物を15mL採取した。次に銅の表面に錫めっきが施されたSn-Cuバンプ付きウェハを1.5cm×1.5cmに分割して試験片とし、この洗浄組成物中に10分間浸漬させた。10分間浸漬させた後ピンセットで試験片を取り出し、イソプロピルアルコール(IPA)に浸漬させ、洗瓶を用いてIPAを十分掛け流すことによりリンスを行った。リンス後の試験片に窒素ガスを吹き付けることで表面を十分に乾燥させた。このような浸漬試験を行った試験片の金属バンプ表面をSEMにより観察したところ、浸漬前と同様の表面形状であることが確認された。バンプ表面が洗浄組成物で腐食されたときに見られるような表面の痕跡は見られなかった。
【0086】
[比較例1]
<洗浄組成物の調製>
窒素ガスを封入したグローブボックス内において、容量125mLのポリエチレン製容器に、6.964gのテトラブチルアンモニウムフルオライド・三水和物(TBAF・3H2O)(98%;TBAF 5.655g)と、22.687gのN-エチル-2-ピロリドン(NEP)と、8.431gのジプロピレングリコールジメチルエーテル(DPGDME)と、9.613gのジブチルエーテル(DBE)を投入し、混合することでTBAF・3H2Oを溶解させた。得られた洗浄組成物の水分濃度を実施例1と同様にしてカールフィッシャー法(CF法)で測定したところ2.49質量%であった。洗浄組成物の総質量は47.695gであり、洗浄組成物中の、テトラブチルアンモニウムフルオライドの含有量に対する、水分の含有量は、(2.49/100×47.695)/(6.964×0.98×261/315)=0.2100と計算される。
【0087】
<Sn-Cuバンプウェハの浸漬試験>
実施例と同様の浸漬試験を行った。浸漬試験を行った試験片の金属バンプの表面をSEMにより観察したところ、バンプ表面に、腐食によるものと推定される痕跡が確認された。
【0088】
このように出発原料に用いたTBAF・3H2O及び添加した溶媒の添加量が同じであっても、実施例1のようにアルコール付加物の形成工程とアルコール及び水分の除去工程を経ることによりTBAF含有量に対する水分含有量の質量比が低い洗浄組成物を調製することができた。このような水分の比率が低い洗浄組成物は、TBAF・3H2Oを溶媒に溶解させた洗浄組成物に比べて金属バンプに対する腐食性が低いことが確認された。