IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱レイヨン株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-アクリル酸エチルの製造方法 図1
  • 特開-アクリル酸エチルの製造方法 図2
  • 特開-アクリル酸エチルの製造方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025141350
(43)【公開日】2025-09-29
(54)【発明の名称】アクリル酸エチルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 67/08 20060101AFI20250919BHJP
   C07C 69/54 20060101ALI20250919BHJP
   C07C 67/54 20060101ALI20250919BHJP
【FI】
C07C67/08
C07C69/54 Z
C07C67/54
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024041244
(22)【出願日】2024-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】小川 寧之
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AB46
4H006AC48
4H006AD12
4H006AD40
4H006BA72
4H006KA06
4H006KC14
(57)【要約】      (修正有)
【課題】アクリル酸とエタノールを原料とし、固体触媒である陽イオン交換樹脂が充填された固定床反応器を用いたアクリル酸エチルの製造において、重合閉塞の発生する危険性を下げつつ、工程を単純化し、更にエステル化反応や付加反応物の分解と回収効率を高める方法を提供することを目的とする。
【解決手段】陽イオン交換樹脂が充填された固定床反応器に、アクリル酸及びエタノールを供給し、エステル化反応により連続的に反応液を得るエステル化反応工程、該反応液を共沸溶媒が存在する共沸脱水蒸留塔に供給し、粗アクリル酸エチルと、低沸物とに分離する脱水蒸留工程、該粗アクリル酸エチルを精製蒸留塔によりアクリル酸エチルとする精製工程を含むアクリル酸エチルを製造する方法であって、該共沸溶媒が、常圧における沸点が55℃~75℃の炭化水素であるアクリル酸エチルの製造方法。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽イオン交換樹脂が充填された固定床反応器に、アクリル酸及びエタノールを供給し、
エステル化反応により連続的に反応液を得るエステル化反応工程、該反応液を共沸溶媒が
存在する共沸脱水蒸留塔に供給し、粗アクリル酸エチルと、低沸物とに分離する脱水蒸留
工程、該粗アクリル酸エチルを精製蒸留塔によりアクリル酸エチルとする精製工程を含む
アクリル酸エチルを製造する方法であって、
該共沸溶媒が、常圧における沸点が55℃~75℃の炭化水素であるアクリル酸エチル
の製造方法。
【請求項2】
陽イオン交換樹脂が充填された固定床反応器に、アクリル酸及びエタノールを供給し、
エステル化反応により連続的に反応液を得るエステル化反応工程、該反応液を共沸溶媒が
存在する共沸脱水蒸留塔に供給し、粗アクリル酸エチル1と、低沸物1とに分離し、該粗
アクリル酸エチル1を共沸溶媒が存在する低沸物分離塔に供給し、粗アクリル酸エチル2
と、低沸物2とに分離する脱水蒸留工程、該粗アクリル酸エチル2を精製蒸留塔によりア
クリル酸エチルとする精製工程を含むアクリル酸エチルを製造する方法であって、
該共沸溶媒が、常圧における沸点が55℃~75℃の炭化水素であり、且つ粗アクリル
酸エチル1中の水、エタノール及び共沸溶媒の含有量の濃度が20質量%以下であるアク
リル酸エチルの製造方法。
【請求項3】
前記低沸物を油相と水相に分離し、油相は前記共沸脱水蒸留塔に循環する請求項1に記
載のアクリル酸エチルの製造方法。
【請求項4】
前記低沸物1を油相と水相に分離し、油相は前記共沸脱水蒸留塔に循環する請求項2に
記載のアクリル酸エチルの製造方法。
【請求項5】
前記水相よりエタノールを回収し、回収したエタノールを固定床反応器に供給する、請
求項3又は4に記載のアクリル酸エチルの製造方法。
【請求項6】
前記脱水蒸留工程及び/又は精製工程において重合禁止剤を使用する請求項1乃至5の
いずれか1項に記載のアクリル酸エチルの製造方法。
【請求項7】
前記重合禁止剤がフェノチアジン、銅錯体及びマンガン錯体からなる群から選ばれた少
なくとも1つである請求項6に記載のアクリル酸エチルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル酸エチルの製造方法に関する。詳しくは、アクリル酸とエタノール
を原料とするエステル化反応により、アクリル酸エチルを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル酸エステルは、水性塗料、粘接着剤、合成樹脂、繊維、エマルジョン等の製造
に用いられる易重合性モノマーであり、これら製品の主原料として用いられる汎用エステ
ルと、製品の機能向上を目的として添加される特殊エステルに分類される。汎用エステル
は通常、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチ
ルヘキシルの4種を表す。また、アクリル酸メチルとアクリル酸エチルを合わせてライト
エステル、アクリル酸ブチルとアクリル酸2-エチルヘキシルを合わせてヘビーエステル
と称することもある。アクリル酸エステルの製造は、アクリル酸とアルコールを原料とす
るエステル化反応、アクリル酸エステルとアルコールを原料とするエステル交換反応、ア
クリル酸の替わりにアクロレインや無水アクリル酸或いはアクリル酸ハロゲン化物を用い
、これら化合物とアルコールの付加または置換反応、など様々な合成経路で行われる。汎
用エステルの場合、原料価格の低いアクリル酸とアルコールを原料とするエステル化反応
が通常、製造法として選択される。
【0003】
酸とアルコールを原料とするエステル化反応では、反応生成したエステルと副生した水
との加水分解反応、つまり逆反応が存在する為、エステル化反応の転化率は反応器へ供給
される液組成に依存した平衡状態までしか到達せず、反応液中には一定量以上の原料が残
存することになる。これに対し、エステル化反応を行うと同時に、反応系から副生水を分
離することで、反応転化率を上げることができる。アクリル酸とn-ブタノールを原料と
するアクリル酸ブチルを製造する場合、液相中でエステル化反応を行いつつ副生水を留去
する反応蒸留が用いられる。アクリル酸と2-エチルヘキサノールを原料とするアクリル
酸2-エチルヘキシルを製造する場合も同様である。
アクリル酸エチルを製造する場合、上記と同様に反応蒸留を行うと、原料エタノールの
沸点は副生水の沸点より低く、またエタノールは無制限に水と混合するため、副生水を系
外に排出する過程で、エタノールも系外に排出されてしまう。これに対し特許文献1では
、アクリル酸とエタノールを原料とする回分式の反応蒸留において、共沸溶媒として炭素
数6又は7の炭化水素と酢酸エチルの混合溶媒を用い、留出液を水相と油相に分離し、油
相を還流液として蒸留塔に循環することで、高い反応転化率を得る方法が示されている。
【0004】
連続プロセスにおけるアクリル酸エチルの製造では、強酸性イオン交換樹脂を触媒に用
いた固定床反応が一般的である。非特許文献1には、アクリル酸及びアルコールを、イオ
ン交換樹脂の充填された固定床反応器に供給しエステル化反応を行う反応工程、該反応液
を蒸留によりアクリル酸エステル、水、及び未反応アルールを含む留出成分と未反応アク
リル酸を含む缶出液に分離し、缶出液を反応器に循環するエステル回収工程、該留出成分
中のアルコールを水で抽出する抽出工程、抽出された水溶液中のアルコールを蒸留で分離
回収するアルコール回収工程、抽出後の抽残液に含まれる水、アルコール、酢酸エステル
等の低沸点成分を蒸留で留去する低沸物分離工程、及び軽沸点成分の分離された液を蒸留
精製して製品アクリル酸エステルを得る精製工程、からなるライトエステルの製造方法が
示されている。
【0005】
また特許文献2には、蒸留塔内に垂直隔壁を有した分割壁カラム(DWC、Divid
ing Wall Column)を用いることで、低沸点不純物及び高沸点不純物を含
む粗アクリル酸エチルの精製を1つの蒸留塔で行う方法が示されている。
特許文献3には、強酸性イオン交換樹脂を固定床触媒として用い、アクリル酸と炭素数
1~3のアルコールを減圧下で反応させることで、反応転化率を高くする方法が示されて
いる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭59-67244号公報
【特許文献2】特表2019-504078号公報
【特許文献3】特開平10-279523号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Ullmann‘s Encyclopedia of Industrial Chemistry 5th.ed. vol.1A pp167-169
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
アクリル酸とエタノールを原料とするアクリル酸エチルの製造において、特許文献1記
載の方法では、反応液中の触媒濃度が固定床反応器に比べて低く、反応に要する時間が長
くなる。また、留出水中に多くのエタノールが含まれ、反応器の缶出液にはアクリル酸エ
チル以外にも原料酸やアルコール、酢酸エチルが含まれる為、これらの分離回収工程も必
要となり、蒸留精製に要する熱負荷や所要設備の建設に要する費用などの点で、経済的に
不利である。
非特許文献1記載の方法は、アクリル酸エチルの商業生産を行う設備として一般的であ
るが、エステル化反応による生成物を分離精製するだけの工程でありながら、多数の設備
を要する点で、更なる改善が望まれる。
特許文献2記載の方法は、非特許文献1の低沸物分離工程及び精製工程を1つに纏める
という点で優れている。しかし、実質的な適用先は上記工程に限られ、その効果も限定的
である。
原料のアクリル酸や生成物のアクリル酸エチルは、自発的に重合を開始する易重合性化
合物であり、これが製造工程の簡素化を妨げる最大の理由である。アクリル酸の沸点はエ
タノールやアクリル酸エチルよりも充分に高いため、沸点だけを鑑みれば、アクリル酸の
蒸留による分離濃縮は容易と判断される。しかし実際には重合回避を目的とした低温化の
ため、アクリル酸エチルを多量に含んだ状態で回収される。
【0009】
アクリル酸やアクリル酸エステルに対して高い効果を有する重合禁止剤として、銅錯体
やマンガン錯体、フェノチアジン等が挙げられる。しかしこれら化合物は全て陽イオン交
換樹脂に対する被毒物質であるため、これら重合禁止剤が陽イオン交換樹脂を触媒とする
反応器に循環する箇所には通常使用しない。使用する場合には、陽イオン交換樹脂の交換
を頻繁に実施するか、予め劣化を考慮して大過剰量の陽イオン交換樹脂を反応器に充填す
る必要がある。
更に、アクリル酸やアクリル酸エチルの炭素二重結合に対するアクリル酸、エタノール
、水等の付加反応がエステル化反応に並行して生じるため、該付加反応物の生成抑制及び
分解と回収が必要である。分解は酸触媒の存在下、高温で行われる為、付加反応物を予め
分離濃縮することが好ましい。しかし、アクリル酸エチルにエタノールの付加したエトキ
シプロピオン酸エチルの沸点は、アクリル酸の沸点と20℃程度しか違わないため、濃縮
率を高めるためには、蒸留工程の追加が必要となる。
【0010】
本発明はこれら現状を鑑み、アクリル酸とエタノールを原料とし、固体触媒である陽イ
オン交換樹脂が充填された固定床反応器を用いたアクリル酸エチルの製造において、重合
による閉塞が発生する危険性を下げつつ、工程を単純化し、更にエステル化反応や付加反
応物の分解と回収効率を高める方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は本課題を解決するため検討を重ねた結果、陽イオン交換樹脂を用いた固定床
反応器をエステル化反応に用いるアクリル酸エチルの製造において、生成した反応液を特
定の沸点を有する炭化水素を共沸溶媒として脱水蒸留を行うことで、アクリル酸エチルの
製造工程における抽出工程を不要とし、重合禁止剤の使用に関する制約を解消し、更に付
加反応物の分解と回収効率を高めるに至った。
すなわち、本発明は、以下を要旨とする。
【0012】
[1]陽イオン交換樹脂が充填された固定床反応器に、アクリル酸及びエタノールを供給
し、エステル化反応により連続的に反応液を得るエステル化反応工程、該反応液を共沸溶
媒が存在する共沸脱水蒸留塔に供給し、粗アクリル酸エチルと、低沸物とに分離する脱水
蒸留工程、該粗アクリル酸エチルを精製蒸留塔によりアクリル酸エチルとする精製工程を
含むアクリル酸エチルを製造する方法であって、該共沸溶媒が、常圧における沸点が55
℃~75℃の炭化水素であるアクリル酸エチルの製造方法。
[2]陽イオン交換樹脂が充填された固定床反応器に、アクリル酸及びエタノールを供給
し、エステル化反応により連続的に反応液を得るエステル化反応工程、該反応液を共沸溶
媒が存在する共沸脱水蒸留塔に供給し、粗アクリル酸エチル1と、低沸物1とに分離し、
該粗アクリル酸エチル1を共沸溶媒が存在する低沸物分離塔に供給し、粗アクリル酸エチ
ル2と、低沸物2とに分離する脱水蒸留工程、該粗アクリル酸エチル2を精製蒸留塔によ
りアクリル酸エチルとする精製工程を含むアクリル酸エチルを製造する方法であって、該
共沸溶媒が、常圧における沸点が55℃~75℃の炭化水素であり、且つ粗アクリル酸エ
チル1中の水、エタノール及び共沸溶媒の含有量の濃度が20質量%以下であるアクリル
酸エチルの製造方法。
[3]前記低沸物を油相と水相に分離し、油相は前記共沸脱水蒸留塔に循環する[1]に
記載のアクリル酸エチルの製造方法。
[4]前記低沸物1を油相と水相に分離し、油相は前記共沸脱水蒸留塔に循環する[2]
に記載のアクリル酸エチルの製造方法。
[5]前記水相よりエタノールを回収し、回収したエタノールを固定床反応器に供給する
、[4]に記載のアクリル酸エチルの製造方法。
[6]前記脱水蒸留工程及び/又は精製工程において重合禁止剤を使用する[1]乃至[
5]のいずれかに記載のアクリル酸エチルの製造方法。
[7]前記重合禁止剤がフェノチアジン、銅錯体及びマンガン錯体からなる群から選ばれ
た少なくとも1つである[6]に記載のアクリル酸エチルの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、アクリル酸エチルの連続製造工程が単純化され、且つ重合による閉塞
が発生する危険性を下げることができ、付加反応物の分解と回収をより効率的にすること
が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】従来のアクリル酸エチル製造工程の一例を示す模式図である。
図2】本発明のアクリル酸エチル製造工程の一例を示す模式図である。
図3】本発明のアクリル酸エチル製造工程の異なる一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の方法ついて、図面を参考にして詳細に説明するが、本発明は何ら以下の
説明に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々変更して実施することがで
きる。
【0016】
[従来プロセス]
図1は、従来のアクリル酸エチル製造工程の一例を示す模式図である。図中、太線は最
短の製造経路を表し、点線はプロセス流体の主成分が水であることを表す。原料アクリル
酸(AA)及び原料エタノール(EtOH)は、昇温後、陽イオン交換樹脂が充填された
固定床反応器(R11)に供給する。該固定床反応器から排出された反応液は脱水蒸留塔
(C11)の中段に供給し、塔頂留出ガスは凝縮して二液分離し、二液相の上相の一部は
還流液として脱水蒸留塔(C11)に循環し、残りは抽出塔(C12)の下部に供給する
。二液相の下相はエタノール回収塔(C15)に供給する。脱水蒸留塔(C11)の缶出
液の一部は蒸発器(V11)で濃縮した後、加熱分解装置(R12)に供給し、残りの缶
出液は固定床反応器(R11)に循環する。抽出塔(C12)の上部から、水又は水溶液
を供給し、塔底よりエタノール水溶液を抜き出し、エタノール回収塔(C15)に供給す
る。エタノール回収塔(C15)の塔頂よりエタノールを回収し、固定床反応器(R11
)に循環する。抽出塔(C12)の塔頂より粗アクリル酸エチルを抜き出し、低沸物分離
塔(C13)により低沸物を分離し、次いで精製蒸留塔(C14)により、精製アクリル
酸エチル(EA)を得る。
従来プロセスでは、脱水蒸留塔(C11)だけでは、反応液から水及びエタノールの分
離が困難であったため、抽出塔(C12)により、さらにエタノール水溶液を分離する必
要があった。
【0017】
[本発明1]
図2は、本発明のアクリル酸エチル製造工程の一例を示す模式図である。原料アクリル
酸(AA)及び原料エタノール(EtOH)は、昇温後、陽イオン交換樹脂が充填された
固定床反応器(R21)に供給する。該固定床反応器から排出された反応液は共沸溶媒が
存在する共沸脱水蒸留塔(C21)の中段に供給する。共沸脱水蒸留塔(C21)へ供給
する反応液中に存在する水及びエタノールに対して充分量の共沸溶媒を還流液として循環
することにより、塔頂より共沸溶媒、エタノール及び水等の低沸物を留出させ、共沸脱水
蒸留塔(C21)の塔底よりアクリル酸エチル、アクリル酸及び沸点の高い付加反応物を
含む粗アクリル酸エチルを抜き出すことができる。ただし、運転変動によりエタノール等
が共沸脱水蒸留塔(C21)の塔底に混入する可能性があるため、共沸脱水蒸留塔(C2
1)の塔底より排出されるアクリル酸エチル総量に対し、0.1~10質量%のアクリル
酸エチルを共沸脱水蒸留塔(C21)の塔頂からも留去する条件とすることが好ましい。
【0018】
陽イオン交換樹脂としては、樹脂の構造や架橋密度などの樹脂物性によって特に限定さ
れず、種々の陽イオン交換樹脂が使用できるが、なかでもマクロポーラス型の強酸性陽イ
オン交換樹脂が好ましい。マクロポーラス型の強酸性陽イオン交換樹脂としては、Amb
erlistTM―13wet、AmberlistTM-16wet(以上、DuPo
nt社製)、DiaionTM―208LH、DiaionTM-216H、Diaio
TM-216LH、DiaionTM-228LH(以上、三菱ケミカル社製)等が例
示される。これら陽イオン交換樹脂は、1種単独で使用しても2種以上併用してもよい。
【0019】
共沸溶媒は、常圧における沸点が55℃~75℃の炭化水素である。沸点の下限は好ま
しくは、60℃、より好ましくは65℃である。沸点の上限は好ましくは、70℃である
。沸点が前記範囲内であることにより、前記反応液より水及びエタノール等の低沸物を分
離し、回収する効率を高めることが可能となる。尚、共沸溶媒は単独の炭化水素であるこ
とが好ましいが、複数の炭化水素の混合物であっても構わない。共沸溶媒が複数の炭化水
素の混合物である場合、その沸点は、該混合物の蒸気圧が1気圧となる温度、又は気液平
衡計算で求められる温度である。
【0020】
共沸脱水蒸留塔(C21)の塔頂留出ガスの凝縮液は、共沸溶媒である炭化水素を主成
分とする上相と、エタノール及び水を主成分とする下相に分離する。上相は全量を還流液
として脱水蒸留塔(C21)に循環し、下相はエタノール回収塔(C25)に供給し、塔
頂より回収されたエタノールは固定床反応器(R21)に循環し、缶出液は廃水として処
理する。共沸脱水蒸留塔(C21)の缶出液は精製塔(C24)の中段に供給し、塔頂よ
り精製アクリル酸エチルを得る。塔底よりアクリル酸、アクリル酸エチル、及び付加反応
物含有液を抜き出し、蒸発缶(V21)に供給する。留出分は固定床反応器(R21)に
循環し、缶出液は加熱分解装置(R22)に供給する。該加熱分解装置(R22)からの
分解留出物は蒸発缶(V21)あるいは他の上流工程に循環する。該加熱分解装置(R2
2)からの缶出液は、廃油として廃棄する。
【0021】
共沸脱水蒸留塔(C21)において、反応液から粗アクリル酸エチルと低沸物とに分離
する際には、共沸脱水蒸留塔内には重合禁止剤が存在していることが好ましい。該重合禁
止剤は、反応液と共に共沸脱水蒸留塔に供給されても、専用の供給ラインより共沸脱水蒸
留塔に供給されても構わない。ただし、反応液との混合が容易であるとの観点から、反応
液と共に共沸脱水蒸留塔に供給されることが好ましい。
又、蒸留精製塔において、粗アクリル酸エチルを精製する際にも、重合禁止剤が存在し
ていることが好ましい。該重合禁止剤の種類としては、フェノチアジン、銅錯体及びマン
ガン錯体からなる群から選ばれた少なくとも1つであることが、重合の抑制、及び重合に
よる閉塞が発生する危険性を下げる観点から好ましい。
但し、これら重合禁止剤が蒸留精製後のアクリル酸エチル中に過度に含まれると、該ア
クリル酸エチルを原料とする誘導品の製造に支障を生じる可能性があるため、該重合禁止
剤又はその含有液は、精製されたアクリル酸エチルが排出される蒸留精製塔の塔頂よりも
下部に供給されることが好ましい。
【0022】
[本発明2]
図3は、本発明のアクリル酸エチル製造工程の異なる一例を示す模式図である。図2
の相違点は、図2は固定床反応器から精製蒸留塔まで共沸脱水蒸留塔が一塔(C21)で
あるのに対し、図3では共沸脱水蒸留塔(C31)、及び、低沸物分離塔(C33)の二
塔構成であること、及び、図2は固定床反応器が一器(R21)であるのに対し、図3
は原料アクリル酸及び原料エタノール専用の固定床反応器(R31a)と回収アクリル酸
及び回収エタノール専用の固定床反応器(R31b)に分けられていることである。
【0023】
図3では機器数の増加というデメリットがあるが、下述のようなメリットを有する。反
応液は最後の精製蒸留塔に送液される前に共沸脱水蒸留塔(C31)、低沸物分離塔(C
33)を経ることとなるので、共沸脱水蒸留塔(C31)の運転条件は、減圧度合いの調
整又は塔底温度の調製等運転条件を緩和でき、塔底液である粗アクリル酸エチル1中に含
有される水、エタノール及び共沸溶媒の含有量の濃度は20質量%以下であり、15質量
%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。下限は特に限定されないが、2質量
%が好ましく、4質量%がより好ましい。
前記のように、共沸脱水蒸留塔(C31)の減圧度合いは調整が可能なので、付属する
真空装置が不要又は小型化が可能となり、又、該共沸脱水蒸留塔(C31)も小型化する
ことができる。共沸脱水蒸留塔の塔底から排出された粗アクリル酸エチル1は、次いで低
沸物分離塔(C33)により、粗アクリル酸エチル2と低沸物2とに分離する。共沸脱水
蒸留塔(C31)にて低沸物1の分離を既に実施しているので、低沸物分離塔(C33)
では効率よく低沸物2の分離をすることができる。
尚、本発明2で使用する、陽イオン交換樹脂、共沸溶媒、重合禁止剤については前記し
た発明1と同じものを用いることができる。
【符号の説明】
【0024】
C11 脱水蒸留塔
C12 抽出塔
C21、C31 共沸脱水蒸留塔
C13、C33 低沸物分離塔
C14、C24、C34 精製蒸留塔
C15、C25、C35 エタノール回収塔
V11、V21、V31 蒸発缶
R11、R21、R31a、R31b 固定床反応器
R12、R22、R32 加熱分解装置
AA 原料アクリル酸
EtOH 原料エタノール
EA 精製アクリル酸エチル
WW 廃水
図1
図2
図3