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特開2025-1418非晶質前駆体粉末、非晶質前駆体粉末を成型した成型体、非晶質前駆体粉末の製造方法、焼結成型体の製造方法、および、粉末の製造方法
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  • 特開-非晶質前駆体粉末、非晶質前駆体粉末を成型した成型体、非晶質前駆体粉末の製造方法、焼結成型体の製造方法、および、粉末の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025001418
(43)【公開日】2025-01-08
(54)【発明の名称】非晶質前駆体粉末、非晶質前駆体粉末を成型した成型体、非晶質前駆体粉末の製造方法、焼結成型体の製造方法、および、粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 25/45 20060101AFI20241225BHJP
   C04B 35/447 20060101ALI20241225BHJP
【FI】
C01B25/45 T
C04B35/447
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023101003
(22)【出願日】2023-06-20
(71)【出願人】
【識別番号】506334182
【氏名又は名称】DOWAエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 知洋
(72)【発明者】
【氏名】道幸 明久
(72)【発明者】
【氏名】阿部 大介
(72)【発明者】
【氏名】藤田 英史
(72)【発明者】
【氏名】田上 幸治
(57)【要約】      (修正有)
【課題】非晶質の前駆体粉末を成型した後、焼結して得られる焼結成型体として、空隙率の低い焼結成型体を得ることができる、非晶質の前駆体粉末とその製造方法を提供する。
【解決手段】リチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンを含み、各原子のモル比率が、比例式Li:Al:Ge:P=(1+x+z):x:(2-x):(3+y)で表記され、前記比例式中のx、y、zが、0.0<x≦1.0、0.1≦y≦0.8、0.2≦y/z≦0.8である非晶質前駆体粉末を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンを含む、非晶質前駆体粉末であって、
リチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンの各原子のモル比率が、比例式Li:Al:Ge:P=(1+x+z):x:(2-x):(3+y)で表記され、
前記比例式中のx、y、zが、0.0<x≦1.0、0.1≦y≦0.8、0.2≦y/z≦0.8である非晶質前駆体粉末。
【請求項2】
前記yの値が、0.1≦y≦0.5である、請求項1に記載の非晶質前駆体粉末。
【請求項3】
前記非晶質前駆体粉末10gを、大気雰囲気下において600℃で120分間熱処理した粉末をXRD測定した場合、NASICON型結晶構造を主相として有することが確認される、請求項1または2に記載の非晶質前駆体粉末。
【請求項4】
前記zの値が、0.125≦z≦2.0である、請求項1または2に記載の非晶質前駆体粉末。
【請求項5】
請求項1または2に記載の非晶質前駆体粉末を成型した成型体。
【請求項6】
大気雰囲気下において600℃で120分間熱処理することにより、NASICON型結晶構造を主相として有している粉末になる非晶質前駆体粉末の製造方法であって、
リチウム、アルミニウム、ゲルマニウムおよびリンを含有するスラリーを得る工程と、
前記スラリーを300℃以上500℃以下で焼成して非晶質前駆体粉末を得る焼成工程と、を有し、
前記スラリー中において、リチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンの各原子のモル比率が、比例式Li:Al:Ge:P=(1+x+z):x:(2-x):(3+y)で表記され、
前記比例式中のx、y、zが、0.0<x≦1.0、0.1≦y≦0.8、0.2≦y/z≦0.8を満たすように前記スラリーを調製する、非晶質前駆体粉末の製造方法。
【請求項7】
前記スラリーを得る工程は、ゲルマニウムを含有する水溶液と、リチウム、アルミニウム、リンを含有する水溶液とを混合する工程を有する、請求項6に記載の非晶質前駆体粉末の製造方法。
【請求項8】
前記リチウム、アルミニウム、リンを含有する水溶液のpH値はpH1以上pH5.5以下である、請求項7に記載の非晶質前駆体粉末の製造方法。
【請求項9】
前記スラリーのpH値はpH1以上pH6.5以下である、請求項6または7に記載の非晶質前駆体粉末の製造方法。
【請求項10】
請求項6または7に記載の非晶質前駆体粉末の製造方法にて製造した粉末を、圧縮成型後に焼成する工程によってNASICON型結晶構造を主相として有する焼結成型体を製造する、焼結成型体の製造方法。
【請求項11】
請求項6または7に記載の非晶質前駆体粉末の製造方法にて製造した粉末を、焼成する工程によってNASICON型結晶構造を主相として有する粉末を製造する、粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、非晶質前駆体粉末、非晶質前駆体粉末を成型した成型体、非晶質前駆体粉末の製造方法、焼結成型体の製造方法、および、粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
全固体電池の固体電解質の材料として、イオン伝導度が高いNASICON型結晶構造を有する固体電解質粉末が用いられている。そして、NASICON型結晶構造を有する固体電解質である酸化物系リチウムイオン伝導体の1つとして、LAGP(=Li1+xAlGe2-x(POで表記され、0<x≦1.0である)が知られている。
一方、粉体状の電極活物質の粒子表面へ、固体電解質の被膜を効果的に形成することを目的として非晶質のLAGPが提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、結晶化させることにより、高いイオン伝導度を発揮するNASICON型結晶構造のリチウムイオン伝導酸化物粉末を得ることができる前駆体である、非晶質LAGP粉末を得る方法が提案されている。
【0004】
一方、特許文献2には、第1集電体層と、高い導電率を有するとともに、大気中で安定しているNASICON型結晶構造を有する固体電解質からなる固体電解質層と、第2集電体層とからなる積層単位を複数積層した全固体電池が記載されており、全固体電池の電池容量を確保する観点から、固体電解質層は薄いほど好ましいことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-98643号公報
【特許文献2】特開2020-187897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
全固体電池において、イオン伝導度を高め、さらに電池容量を確保するための方策として、特許文献2に記載される積層構造を有する全固体電池の固体電解質層へ、特許文献1に記載の非晶質LAGP粉末を焼成して結晶化させることにより、高いイオン伝導度を発現するNASICON型結晶構造を有する固体電解質を採用することが考えられた。
【0007】
本発明者らは、特許文献1に記載されているような非晶質LAGP粉末を用いて圧粉成型体を作製し、その後に焼成して、焼結された成型体(本発明において「焼結成型体」と記載する場合がある。)を調製した。しかし、調製された焼結成型体は空隙率が高いことが判明した。ここで、特許文献2に記載されるように、全固体電池において、空隙率が高い焼結成型体で構成された固体電解質層を薄くした場合、電池として短絡する場合がある。
【0008】
本発明は、上述した状況の下でなされたものであり、その解決しようとする課題は、非晶質の前駆体粉末(本発明において「非晶質前駆体粉末」と記載する場合がある。)を焼成して結晶化させることにより、高いイオン伝導度を発現するNASICON型結晶構造を主相として有する粉末を得られるとともに、当該非晶質前駆体粉末を成型して成型体とした後、焼結して得られる焼結成型体として、空隙率の低い焼結成型体を得ることができる、当該非晶質前駆体粉末とその製造方法、当該成型体、当該焼結成型体の製造方法、当該NASICON型結晶構造を主相として有する粉末の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の課題を解決するため、本発明者らは研究を行った結果、リチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンを含む非晶質前駆体粉末において、その組成比を、NASICON型結晶構造を有するLAGPの一般式Li1+xAlGe2-x12と表記され0<x≦1.0であるストイキオメトリ組成のリチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンの各原子のモル比率の比例式であるLi:Al:Ge:P=(1+x):x:(2-x):3よりも、リチウム原子とリン原子とを過剰に含ませた組成とし、当該非晶質前駆体を成型し、焼成して、固体電解質層となる焼結成型体としたときに、当該焼結成型体の空隙率低下(密度向上)を図ることができるという知見を得た。
【0010】
そして、当該知見に基づき、本発明に係る非晶質前駆体粉末において、リチウム原子のモル比率およびリン原子のモル比率を、上述のストイキオメトリ組成のモル比率より、所定範囲内において過剰なものとし、かつ、ストイキオメトリ組成から過剰にしたリチウム原子とリン原子とのモル比率(P/Li)を所定範囲内とすることに想到した。
【0011】
即ち、上述の課題を解決する第1の発明は、
リチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンを含む、非晶質前駆体粉末であって、
リチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンの各原子のモル比率が、比例式Li:Al:Ge:P=(1+x+z):x:(2-x):(3+y)で表記され、
前記比例式中のx、y、zが、0.0<x≦1.0、0.1≦y≦0.8、0.2≦y/z≦0.8である非晶質前駆体粉末である。
第2の発明は、
前記yの値が、0.1≦y≦0.5である、第1の発明に記載の非晶質前駆体粉末である。
第3の発明は、
前記非晶質前駆体粉末10gを、大気雰囲気下において600℃で120分間熱処理した粉末をXRD測定した場合、NASICON型結晶構造を主相として有することが確認される、第1または第2の発明に記載の非晶質前駆体粉末である。
第4の発明は、
前記zの値が、0.125≦z≦2.0である、第1または第2の発明に記載の非晶質前駆体粉末である。
第5の発明は、
第1または第2の発明に記載の非晶質前駆体粉末を成型した成型体である。
第6の発明は、
大気雰囲気下において600℃で120分間熱処理することにより、NASICON型結晶構造を主相として有している粉末になる非晶質前駆体粉末の製造方法であって、
リチウム、アルミニウム、ゲルマニウムおよびリンを含有するスラリーを得る工程と、
前記スラリーを300℃以上500℃以下で焼成して非晶質前駆体粉末を得る焼成工程と、を有し、
前記スラリー中において、リチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンの各原子のモル比率が、比例式Li:Al:Ge:P=(1+x+z):x:(2-x):(3+y)で表記され、
前記比例式中のx、y、zが、0.0<x≦1.0、0.1≦y≦0.8、0.2≦y/z≦0.8を満たすように前記スラリーを調製する、非晶質前駆体粉末の製造方法である。
第7の発明は、
前記スラリーを得る工程は、ゲルマニウムを含有する水溶液と、リチウム、アルミニウム、リンを含有する水溶液とを混合する工程を有する、第6の発明に記載の非晶質前駆体粉末の製造方法である。
第8の発明は、
前記リチウム、アルミニウム、リンを含有する水溶液のpH値はpH1以上pH5.5以下である、第7の発明に記載の非晶質前駆体粉末の製造方法である。
第9の発明は、
前記スラリーのpH値はpH1以上pH6.5以下である、第6または第7の発明に記載の非晶質前駆体粉末の製造方法である。
第10の発明は、
第6または第7の発明に記載の非晶質前駆体粉末の製造方法にて製造した粉末を、圧縮成型後に焼成する工程によってNASICON型結晶構造を主相として有する焼結成型体を製造する、焼結成型体の製造方法である。
第11の発明は、
第6または第7の発明に記載の非晶質前駆体粉末の製造方法にて製造した粉末を、焼成する工程によってNASICON型結晶構造を主相として有する粉末を製造する、粉末の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るストイキオメトリ組成より過剰なリチウム原子、リン原子を含有する非晶質前駆体粉末を、焼成して結晶化させることにより、高いイオン伝導度を発現するNASICON型結晶構造を主相として有する粉末を得られると共に、ストイキオメトリ組成を有する非晶質前駆体粉末を成型し800℃にて焼成して得た焼結成型体の空隙率に対し、本発明に係る非晶質前駆体粉末を成型し800℃にて焼成して得た焼結成型体の空隙率は大きく低下していることが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る非晶質前駆体粉末および焼結成型体の製造フロー図である。
図2】実施例1に係る非晶質前駆体粉末のXRDスペクトルである。
図3】(上段)実施例1に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末のXRDスペクトル、(下段)比較例1に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末のXRDスペクトルである。
図4】(上段)実施例1に係る乾燥工程後の白色の前駆体粉末のXRDスペクトル、(下段)比較例1に係る乾燥工程後の白色の前駆体粉末のXRDスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明を実施するための形態について、1.本発明に係る非晶質前駆体粉末、2.本発明に係る非晶質前駆体粉末および非晶質前駆体粉末を用いた焼結成型体の製造方法、3.本発明に係る非晶質前駆体粉末および焼結成型体の評価、の順で説明する。
【0015】
1.本発明に係る非晶質前駆体粉末
本発明に係るリチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンを含む非晶質前駆体粉末は、焼成して結晶化させることにより、高いイオン伝導度を発現するNASICON型結晶構造を主相として有する粉末および焼結成型体を得ることが出来る、NASICON型結晶構造を有する粉末および焼結成型体の前駆体である。
【0016】
本発明に係る非晶質前駆体粉末について、当該リチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンを含む非晶質前駆体粉末の粉末X線回折(本発明において、XRDと記載する場合がある。)を測定すると、XRDスペクトルにおいて2θ:10°~60°の領域でハローが観察される。なお、「ハロー」とは、明瞭なピークを示さず、X線の強度の緩やかな起伏であって、X線チャートにおいてブロードな盛り上がりとして観察されるものである。そして、当該ハローの半値幅は2θ:2°以上である。
【0017】
本発明に係る本発明の非晶質前駆体粉末について、例えば、後述する「実施例1」における「2.本発明に係る非晶質前駆体粉末の製造方法、(5)(前駆体粉末)焼成工程、(II)非晶質前駆体粉末の結晶化」を実施すると、得られる粉末はNASICON型結晶構造を主相として有する。当該NASICON型結晶構造を主相として有する粉末は、XRD測定によって得られるXRDスペクトルにおいて、NASICON型結晶構造を有している酸化物のX線回折ピークを主相として有している。ここで主相とは、XRD測定によって得られるXRDスペクトルにおいて最も高強度の回折ピークが帰属する結晶相をいう。
【0018】
回折ピークが帰属するか否かは、当該NASICON型結晶構造を主相として有している粉末のXRDスペクトルと、データベースに登録されているNASICON型結晶構造を有している酸化物の回折ピークとを照合することにより判定出来る。例えば、NASICON型結晶構造を有している酸化物であるLiGe12の回折ピークは、ICDD(International Centre for Diffraction Data)のPDF(Powder Diffraction File)No.01-080-1922と照合することにより判定することが出来る。
【0019】
より詳細には、当該NASICON型結晶構造を主相として有している粉末のXRDスペクトルを、NASICON型結晶構造を有している酸化物のICDDのPDF No.01-080-1922と照合した場合、ピークサーチ方法で検出されたピークが21.4±0.5、25.1±0.5°、30.4±0.5°、33.3±0.5°、34.0°±0.5°の範囲にある場合であれば、PDF No.01-080-1922に帰属する結晶相であると判定できる。
【0020】
本発明に係るリチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンを含む非晶質前駆体粉末は、その組成比が、NASICON型結晶構造を有するLAGPの一般式Li1+xAlGe2-x12と表記され0<x≦1.0であるストイキオメトリ組成のリチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンの各原子のモル比率の比例式であるLi:Al:Ge:P=(1+x):x:(2-x):3よりも、リチウム原子とリン原子とを過剰に含むことで、ストイキオメトリ組成(所謂、LAGP)からずれた組成比を有するものである。
【0021】
本発明に係るリチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンを含む非晶質前駆体粉末は、当該非晶質前駆体粉末中におけるゲルマニウムのモル比率とアルミニウムのモル比率との合計の値を2と固定したとき、リチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンの各原子のモル比率が、比例式Li:Al:Ge:P=(1+x+z):x:(2-x):(3+y)で表記される(比例式中のx、y、zは、0.0<x≦1.0、0.1≦y≦0.8、0.2≦y/z≦0.8である)。
【0022】
当該リチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンを含む非晶質前駆体粉末は、非晶質前駆体粉末を成型し、焼成して、固体電解質層となる成型体としたときに、当該成型体の密度向上(空隙率低下)を図ることができるものである。
【0023】
上記本発明の非晶質前駆体粉末の比例式において、xは、非晶質前駆体粉末中のアルミニウムの含有量の指標となる。xは、0.0<x≦1.0とすることが好ましく、0.1≦x≦0.9とすることがより好ましく、最も好ましくは0.2≦x≦0.7である。LAGPを構成するGe4+イオン半径とAl3+のイオン半径とはどちらも0.39Åと同じであり、0<x≦1.0の範囲においてGeサイトはAlを任意に固溶させることが出来る。Alを固溶させる目的は電荷補償であって、Liのキャリア密度を増加させる目的で一般的に0.2≦x≦0.7の範囲で用いられる。
yは、NASICON型結晶構造を有するLAGPのストイキオメトリ組成のリチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンの各原子のモル比率に対するリン原子の過剰量の指標となる。yは、0.1≦y≦0.8とすることが好ましく、0.1≦y≦0.5とすることがより好ましい。
zは、NASICON型結晶構造を有するLAGPのストイキオメトリ組成のリチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンの各原子のモル比率に対するリチウム原子の過剰量の指標となる。zは0.125≦z≦2.0とすることが好ましく、0.15≦z≦1.5とすることがより好ましく、さらに好ましくは0.2≦z≦1.3である。
さらにy/zは、リチウムの過剰量と、リンの過剰量との比(P/Li)である。y/zは、0.2≦y/z≦0.8とすることが好ましく、0.2≦y/z≦0.5とすることがより好ましい。
【0024】
非晶質前駆体粉末は、リチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リン、酸素、必要に応じて、その他の元素を含む。これらの含有量は、非晶質前駆体粉末を焼成して結晶化させることにより、高いイオン伝導度を発現するNASICON型結晶構造を主相として有する粉末および焼結成型体を得ることが出来るものであれば特に限定されない。尤も、より高いイオン伝導度を発現させるNASICON型結晶構造を主相として有する粉末および焼結成型体を得られるという観点からは、非晶質前駆体粉末中の各元素の含有量は以下の範囲となることが好ましい。
【0025】
リチウムは、非晶質前駆体粉末を結晶化させたときに、NASICON型結晶構造の形成に寄与する元素である。リチウムの含有量は、下限値については、好ましくは1.0質量%以上、より好ましくは1.5質量%以上、さらに好ましくは1.8質量%以上である。また、上限値については、好ましくは10.0質量%以下、より好ましくは、8.0質量%以下、さらに好ましくは5.0質量%以下、最も好ましくは4.0質量%以下である。
【0026】
アルミニウムは、非晶質前駆体粉末を結晶化させたときに、NASICON型結晶構造の形成に寄与する元素である。アルミニウムの含有量は、下限値については、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上、さらに好ましくは2.0質量%以上である。また、上限値については、好ましくは6.0質量%以下、より好ましくは5.0質量%以下、さらに好ましくは4.0質量%以下である。
【0027】
ゲルマニウムは、非晶質前駆体粉末において非晶質の形成に寄与するとともに、非晶質前駆体粉末を結晶化させたときに、NASICON型結晶構造の形成に寄与する元素である。ゲルマニウムの含有量は、下限値については、好ましくは15質量%以上、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは21質量%以上である。また、上限値については、好ましくは35質量%以下、より好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは28質量%以下である。
【0028】
リンは、非晶質前駆体粉末において非晶質の形成に寄与するとともに、非晶質前駆体粉末を結晶化させたときに、NASICON型結晶構造の形成に寄与する元素である。リンの含有量は、下限値については、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上である。また、上限値については、好ましくは30質量%以下、より好ましくは28質量%以下、さらに好ましくは25質量%以下である。
【0029】
なお、非晶質前駆体粉末は、本発明の効果を損ねない範囲で上述したリチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リン、酸素以外の元素を含んでもよい。リチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リン、酸素以外の元素は、非晶質前駆体粉末中において合計で5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましい。
【0030】
酸素は、リチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リン、その他の元素の残部となる。
即ち、酸素の含有量は、非晶質前駆体粉末より上述した各構成元素の合計の含有量を差し引いたもの(100質量%-各構成元素の質量%の合計値)であり、40質量%以上55質量%以下であることが好ましい。
【0031】
「実施例」欄にて後述するように、ストイキオメトリ組成を有する非晶質前駆体粉末を成型し800℃にて焼成して得た焼結成型体の空隙率が33%であったのに対し、本発明に係るストイキオメトリ組成より過剰なリチウム原子、リン原子を含有する非晶質前駆体粉末を成型し800℃にて焼成して得た焼結成型体の空隙率は21~24%であって、空隙率が大きく低下している。即ち、本発明に係るストイキオメトリ組成より過剰なリチウム原子、リン原子を含有する非晶質前駆体粉末は、全固体電池の固体電解質層として求められる焼結成型体の空隙率が30%以下となる焼結成型体を得ることができる非晶質前駆体粉末である。
【0032】
この焼結成型体の空隙率が下がった理由は、本発明に係る非晶質前駆体粉末にはリチウム、リンが過剰に含まれることで、焼結の際に、過剰に含まれるリチウムとリンが焼結助剤として働き、リチウムとリンが融解して焼結するため焼結成型体の空隙を埋めることで、800℃焼結後の焼結成型体の空隙率が大きく低下したと推察される。
【0033】
一般に、焼結助剤を使用する際は、焼成する対象と焼結助剤を均一に混合してから焼成を実施するところ、本発明では、ストイキオメトリ組成より過剰なリチウム原子、リン原子を含有する非晶質前駆体粉末を用いる構成に拠り、焼成前に焼結助剤を加えて均一に混合する工程を省くことができる。
【0034】
なお、本発明において、焼結成型体を得る際の800℃焼成の根拠としては、固体電解質を用いて作製したグリーンシートを用いて積層電池を作製する際の焼成温度として900℃以下が好ましいことが挙げられる(例えば、特許文献2参照)。
【0035】
2.本発明に係る非晶質前駆体粉末および非晶質前駆体粉末を用いた焼結成型体の製造方法
本発明に係る非晶質前駆体粉末は、各構成元素を含有する原料の水溶液を混合してスラリーを得、当該スラリーを所定温度で焼成することで得られる。
【0036】
以下、本発明に係る非晶質前駆体粉末および焼結成型体の製造方法について、製造フロー図である図1を参照しながら、(1)ゲルマニウム水溶液の調製工程、(2)リチウム、アルミニウム、リン水溶液の調製工程、(3)混合(原料スラリーの調製)工程、(4)乾燥工程、(5)(前駆体粉末)焼成工程、の順に説明する。次に、本発明に係る焼結成型体の製造方法の一例について、(6)粒度調整工程、(7)成型(成型体の製造)工程、(8)(成型体)焼成工程、の順に説明する。
【0037】
(1)ゲルマニウム水溶液の調製工程
純水へゲルマニウム化合物粉体を混合し、ゲルマニウムを含有する水溶液を調製する工程である。
このとき、ゲルマニウム化合物としてGeOを用い、さらにアンモニア水を加えてゲルマニウムを含有する水溶液を調製することが好ましい。GeOをアンモニア水で溶解させることで、後述する乾燥工程後においてゲルマニウムが、(NHHGe16の錯体状態になっていると考えられる。そして、後述する非晶質前駆体粉末の焼成前粉末である乾燥粉末においてゲルマニウムが錯体状態を維持していることにより、当該焼成前粉末の焼成においてGeOが生成することを抑制すると考えられるからである。
【0038】
(2)リチウム、アルミニウム、リン水溶液の調製工程
純水へリチウム化合物粉体、アルミニウム化合物粉体、リン化合物溶液を混合し、リチウム、アルミニウム、リンを含有する水溶液を調製する工程である。
このとき、リチウム化合物粉体としては、LiNO、LiSO、LiCO、LiCl、があげられる。また、アルミニウム化合物粉体としては、Al(NO、Al(SO、Al(CO、AlCl、があげられる。リン化合物水溶液としては、(NH)HPO水溶液、(NHHPO水溶液、HPO水溶液、(NHPO水溶液があげられる。
【0039】
リチウム、アルミニウム、リンを含有する水溶液の調製の際、後述するリチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンを含有したスラリー中に含まれるリチウム、アルミニウム、リンの各原子のモル比率が、比例式Li:Al:P=(1+x+z):x:(3+y)において、比例式中のx、y、zが、0.0<x≦1.0、0.1≦y≦0.8、0.2≦y/z≦0.8となるように調整する。
尚、このときxは0.1≦x≦0.9とすることが好ましく、より好ましくは0.2≦x≦0.7である。yは0.1≦y≦0.5とすることが好ましい。zは0.125≦z≦2.0とすることが好ましく、0.15≦z≦1.5とすることがより好ましく、さらに好ましくは0.2≦z≦1.3である。y/zは0.2≦y/z≦0.5とすることが好ましい。
【0040】
リチウム、アルミニウム、リンの化合物が酸性なので、リチウム、アルミニウム、リンを含有する水溶液の液性も酸性のほうが好ましい。これは水溶液がアルカリ側であると、結晶性のLiPOが生成することが考えられることによる。添加したリチウムとリンとが結晶性のLiPOとなり、本発明に係る非晶質前駆体粉末とは異なる副相を含むことを抑制するため、リチウム、アルミニウム、リンを含有する水溶液のpH値の好ましい範囲はpH1~5.5である。
【0041】
(3)混合(原料スラリーの調製)工程
前記「(1)ゲルマニウム水溶液の調製工程、(2)リチウム、アルミニウム、リン水溶液の調製工程」にて調製した2種類の水溶液を混合して、非晶質前駆体粉末の構成元素を含むスラリーを得る工程である。
例えば、アンモニアで溶解させたアルカリ性のゲルマニウムを含有する水溶液へ、酸性のリチウム、アルミニウム、リンを含有する水溶液を添加すると直後に濁り、共沈によってリチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンを含有したスラリーを得ることができる。この混合工程では液温は特に検討する必要はなく、加温しても、しなくても良い。当該スラリー中には、水酸化物として析出した構成元素と、イオンとして存在している構成元素とが存在していると考えられる。
【0042】
構成元素のイオン濃度積が溶解度積よりも高くなる過飽和状態を実現し、共沈法を用いてスラリーを生成させるのは、構成元素の均一性向上を果たすことが非晶質前駆体粉末を得るのに肝要なためである。
混合の際はリチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンの各原子のモル比率が、比例式Li:Al:Ge:P=(1+x+z):x:(2-x):(3+y)となるように調整する。このとき、xは0.0<x≦1.0、yとzは0.1≦y≦0.8かつ0.2≦y/z≦0.8になるように調整する。さらに、このときxは、0.1≦x≦0.9とすることが好ましく、最も好ましくは0.2≦x≦0.7である。yは、0.1≦y≦0.8にすることが好ましく、より好ましくは0.1≦y≦0.5である。zは、0.125≦z≦2.0とすることが好ましく、0.15≦z≦1.5とすることがより好ましく、さらに好ましくは0.2≦z≦1.3である。y/zは、0.2≦y/z≦0.5にすることが好ましい。
【0043】
なお、上述した結晶性のLiPOの生成を回避する観点から、当該スラリーにおいても酸性を保つことが好ましい。例えばスラリーのpH値の好ましい範囲はpH1~6.5である。さらに好ましくはpH2~5である。
【0044】
(4)乾燥工程
前記「(3)混合(原料スラリーの調製)工程」にて得られたスラリーの水分を乾燥させて、非晶質前駆体粉末の焼成前粉末である乾燥粉末を得る工程である。
乾燥工程は必須の作業ではないが、スラリーを直接焼成するよりも品質が安定する。
乾燥方法は特に限られないが、スプレードライヤー等を用いた噴霧乾燥が好ましい。噴霧乾燥によれば、短時間でスラリー中においてイオンで存在している構成元素を急速に析出させるので、構成元素間の溶解度の差から生じる、析出の不均一さを低減することができる。これにより、組成の均一な乾燥粉末を得ることができ、GeOの生成が抑制された非晶質前駆体粉末の焼成前粉末である乾燥粉末を、より確実に製造することができる。乾燥温度は、得られる非晶質前駆体粉末の焼成前粉末に水分が残らない温度に適宜設定すればよい。
【0045】
なお、得られた乾燥粉末をXRD測定したときに、XRDスペクトルにおいて2θ:10°~60°の領域でリチウム化合物、アルミニウム化合物、ゲルマニウム化合物、リン化合物のピークが示されないことが好ましい。
【0046】
(5)(前駆体粉末)焼成工程
前記「(4)乾燥工程」にて得られた非晶質前駆体粉末の焼成前粉末を焼成し、非晶質前駆体粉末を得る工程である。
具体的には、大気雰囲気下で室温から300℃以上500℃以下、好ましくは400℃まで、昇温速度0.1℃/min以上20℃/min以下にて昇温し、さらに大気雰囲気下において、当該温度で120分間保持して焼成することで、本発明に係る非晶質前駆体粉末を得ることができる。
【0047】
(6)粒度調整工程
本発明に係る焼結成型体の製造において、本発明に係る非晶質前駆体粉末をそのまま用いてもよいが、所望により、粒度、比表面積を適宜調整してもよい。粒度、比表面積調整の方法は、公知の方法が使用可能ではあるが、ビーズミル等を用いた湿式粉砕が好ましい。
【0048】
ビーズミルを用いた湿式粉砕法での粒度、比表面積の調整は、メディア(ビーズ)の材質、メディア(ビーズ)の径、メディア(ビーズ)とスラリーの比、スラリー濃度、粉砕時間、回転数など既知の方法により適宜調整できる。
湿式粉砕を実施した場合は、湿式粉砕処理後に固液分離し、回収した湿式粉砕後の非晶質前駆体粉末を乾燥する。
本発明に係る非晶質前駆体粉末の粒度は、体積基準の累積50%粒子径(D50)の値が0.1μm以上10μm以下であることが好ましい。
【0049】
湿式粉砕時の溶媒としては、非晶質前駆体粉末中のリチウムがプロトンとイオン交換してしまい、固体電解質である成型体のイオン伝導が低減することを防ぐ観点から、有機溶媒が好ましく、具体的にはIPA(イソプロピルアルコール)が好ましい。IPAは粉砕後の乾燥にて揮発するので、非晶質前駆体粉末に残存しないからである。粉砕にビーズミルを使用する場合は、ビーズの材質としては、アルミナ、ジルコニアが不純物混入の観点から好ましい。湿式粉砕後の非晶質前駆体粉末は、使用した溶媒の沸点以上の温度、且つ、後述する「(8)(成型体)焼成工程」の際における焼成温度以下の温度範囲で乾燥させて、使用した溶媒を除去することが好ましい。また、得られた非晶質前駆体粉末の水分量が過度に低い場合は、水分を含む雰囲気中に所定時間曝露して、粉末の水分量を調整する工程を入れてもよい。
【0050】
(7)成型(成型体の製造)工程
製造された本発明に係る非晶質前駆体粉末を成型型に充填後、加圧を行い圧縮成型することによって成型体を製造することができる。
圧縮成型時の圧力は1MPa以上300MPa以下で、1秒以上10時間以下の圧縮成型を行うことが好ましい。成型型、プレス装置は通常のものが使用可能である。
【0051】
(8)(成型体)焼成工程
前記成型体を焼成し、焼結成型体を得る工程である。具体的には、大気雰囲気下で室温から600℃以上900℃以下まで、昇温速度0.1℃/min以上20℃/min以下にて昇温し、さらに大気雰囲気下において、当該温度で120分間保持して焼成することで本発明に係る焼結成型体を得ることができる。
【0052】
3.本発明に係る非晶質前駆体粉末および焼結成型体の評価
前記「2.本発明に係る非晶質前駆体粉末の製造方法、(5)(前駆体粉末)焼成工程」にて得られた本発明に係る非晶質前駆体粉末に対し、組成分析、XRD測定を行った。次に、「(8)(成型体)焼成工程」にて得られた本発明に係る焼結成型体に対して空隙率測定を行った。
なお、非晶質前駆体粉末の組成分析、XRD測定、焼結成型体の空隙率測定についての具体的内容は実施例にて後述する。
【実施例0053】
(実施例1)
非晶質前駆体粉末の製造工程を示すフローに拠って、実施例1に係る非晶質前駆体粉末を製造した。そして製造された実施例1に係る非晶質前駆体粉末の分析および特性評価を実施した。(1)ゲルマニウム水溶液の調製工程、(2)リチウム、アルミニウム、リン水溶液の調製工程、(3)混合(原料スラリーの調製)工程、(4)乾燥工程、(5)(前駆体粉末)焼成工程、そして[非晶質前駆体粉末の分析および特性評価]、の順で説明する。
次に、製造された実施例1に係る非晶質前駆体粉末を用いて、実施例1に係る焼結成型体を製造し特性評価を実施した。(7)成型(成型体の製造)工程、(8)(成型体)焼成工程、そして、[焼結成型体の特性評価]、の順で説明する。
【0054】
(1)ゲルマニウム水溶液の調製工程
純水614gへ二酸化ゲルマニウム(富士フィルム和光純薬株式会社製99.999%)30.7gを添加して撹拌しながら40℃に加温した。
加温した液にアルカリとして濃度28質量%のアンモニア水(ナカライテスク社製28%)15.0gを添加した。
アンモニア水添加後、40℃に加温しながら攪拌を行い10分熟成させた。
659.7gの透明なゲルマニウムを含有する水溶液を調製した。当該配合を表1に記載する。
【0055】
(2)リチウム、アルミニウム、リン水溶液の調製工程
純水150gへ、硝酸リチウム(富士フィルム和光純薬株式会社製99.9%)24.7gと硝酸アルミニウム9水和物(富士フィルム和光純薬株式会社製99.9%)36.7gと、リン酸二水素アンモニウム(富士フィルム和光純薬株式会社製99+%)70.1gとを加え、リチウム、アルミニウム、リンを含有する水溶液を調製した。調製したリチウム、アルミニウム、リン含有水溶液におけるpH値は1.4であり、酸性であった。当該配合およびpH値を表1に記載する。
【0056】
(3)混合(原料スラリーの調製)工程
前記ゲルマニウムを含有する水溶液を攪拌しながら、40℃に加温し、そこへ前記酸性であるリチウム、アルミニウム、リンを含有する水溶液の全量(281.5g)を添加して混合した。添加直後より水溶液は白濁し、白色の原料スラリーを得た。得られた白色の原料スラリーを40℃に加温した状態で10分攪拌し熟成させた。得られた原料スラリーのpH値は4.3であった。当該pH値を表1に記載する。
【0057】
そして、当該原料スラリーにおける、仕込み組成から各元素のmol量を算出した。これらの値を表2に記載する。
次に、アルミニウムのモル比率と、ゲルマニウムのモル比率との合計の値を2と固定して、前記各元素の換算したモル比率の値を、比例式Li:Al:Ge:P=(1+x+z):x:(2-x):(3+y)へ代入し、x、y、z、y/z、の値を導出した。これらの値を表2に記載する。
【0058】
(4)乾燥工程
前記原料スラリーを、噴霧乾燥機(東京理化器械株式会社製 SD-1000)を用いて噴霧乾燥して、前記原料スラリー中の水分を蒸発させて一気に固相析出させ、白色の前駆体粉末を得た。なお、噴霧乾燥の条件としては、入口温度180℃、出口温度90℃、前記原料スラリーの添加速度10g/minとした。
【0059】
(5)(前駆体粉末)焼成工程
前記噴霧乾燥により得られた実施例1に係る白色の前駆体粉末に対して、後述する「(I)非晶質前駆体粉末の調製」を実施して、実施例1に係る非晶質前駆体粉末を得た。
次に、実施例1に係る非晶質前駆体粉末の特性評価を目的として、当該非晶質前駆体粉末を結晶化するため、後述する「(II)非晶質前駆体粉末の結晶化」を実施して、結晶化粉末を得た。
【0060】
(I)非晶質前駆体粉末の調製
アルミナ製の容器に、前記噴霧乾燥で得られた前駆体粉末を10g入れ、大気雰囲気下で昇温速度5℃/minにて室温から400℃まで昇温し、400℃で120分間焼成することで、実施例1に係る非晶質前駆体粉末が得られた。
【0061】
(II)非晶質前駆体粉末の結晶化
アルミナ製の容器に、実施例1に係る非晶質前駆体粉末を10g入れ、大気雰囲気下で昇温速度5℃/minにて室温から600℃まで昇温し、600℃で120分間熱処理して、非晶質前駆体粉末の結晶化を行った。
【0062】
[非晶質前駆体粉末の分析および特性評価]
上述した「(5)(前駆体粉末)焼成工程、(I)非晶質前駆体粉末の調製」にて得られた実施例1に係る非晶質前駆体粉末に対して、組成分析、XRD測定を行った。さらに「(5)(前駆体粉末)焼成工程、(II)非晶質前駆体粉末の結晶化」を行い、実施例1に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末を調製してXRD測定を行った。
以下、それぞれの方法および結果について説明する。
【0063】
(組成分析)
実施例1に係る非晶質前駆体粉末へ、溶融剤として炭酸ナトリウムを添加して、アルカリ溶融塩を作製した。当該アルカリ溶融塩を硝酸に溶解し、得られた溶解液に対し、ICP-OES装置(Agilent社製 ICP-720)を用いて元素分析を行った。リチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リン、の各構成元素の定量分析値(質量%)は、リチウムが3.0質量%、アルミニウムが3.1質量%、ゲルマニウムが24.2質量%、リンが22.2質量%、であった。この値を表3に記載する。
【0064】
次に、当該各構成元素の定量分析値(質量%)を各々の元素の原子量で除した、各構成元素の定量分析値(質量%)/各構成元素の原子量の値(質量%/原子量)の値は、リチウムが0.43mol、アルミニウムが0.11mol、ゲルマニウムが0.33mol、リンが0.72molであった。この値を表3に記載する。
【0065】
上述した組成分析の結果から、本発明に係る非晶質前駆体粉末において、ゲルマニウムのモル比率とアルミニウムのモル比率との合計の値を2と固定したときの、リチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンの各原子のモル比率の値を表3に記載する。そして当該リチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンの各原子のモル比率の値を、上述の比例式Li:Al:Ge:P=(1+x+z):x:(2-x):(3+y)へ代入した結果、x=0.5、y=0.2、z=0.4が導出され、y/z=0.5が導出された。これらの値を表4に記載する。
【0066】
さらに、実施例1に係る非晶質前駆体粉末の体積基準の累積50%粒子径(D50)を、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(SYMPATEC社製、へロス粒度分布測定装置(HELOS&RODOS(気流式の分散モジュール)))を使用して、分散圧5barで測定したところ、6.0μmであった。この値を表4に記載する。
【0067】
(XRD測定)
実施例1に係る非晶質前駆体粉末に対して、後述の測定条件にてXRD測定を実施した。得られたXRDスペクトルを図2に示す。
図2より、実施例1に係る非晶質前駆体粉末(リチウムイオン伝導体)は、非晶質構造を有していることが確認できた。これは、XRD測定により、2θ:10°~60°の領域でハローが観察されたことによる。
【0068】
なお、図2に示すXRDスペクトルにおいて、実施例1に係る非晶質前駆体粉末を調製する際に用いられた原料化合物のピークが観察されず、NASICON型等の結晶構造を示すピークも観察されなかった。
【0069】
上述した「(5)(前駆体粉末)焼成工程、(II)非晶質前駆体粉末の結晶化」にて得られた、実施例1に係る非晶質前駆体粉末を結晶化した粉末に対して、後述の測定条件にてXRD測定を実施した。得られたXRDスペクトルを図3の上段に示す。
なお図中に示される丸印(■)はNASICON型結晶構造に帰属する回折ピークであり、図中に示される矢印(▲)は、後述する副相に係る回折ピークである。
【0070】
図3の上段に示す、実施例1に係る非晶質前駆体粉末を結晶化した粉末のXRDスペクトルを、NASICON型結晶構造を有している酸化物であるLiGeP12のICDDのPDF No.01-080-1922と照合した。
すると、ピークサーチ方法で検出された回折ピークが、21.4±0.5、25.1±0.5°、30.4±0.5°、33.3±0.5°、34.0°±0.5°、の範囲にあり、PDF No.01-080-1922に帰属すると判定できた。また、XRDスペクトルにおいて最も高強度の回折ピークが、NASICON型結晶構造に帰属すると判定できた。従って、実施例1に係る非晶質前駆体粉末を結晶化した粉末は、上述する組成分析の結果から、リチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンを含み、XRD測定結果からNASICON型結晶構造を主相として有していることがわかった。
【0071】
なお、後述する実施例2、3および比較例1~4に係る非晶質前駆体粉末を結晶化した粉末のXRDスペクトルも、同様にPDF No.01-080-1922と照合した結果、No.01-080-1922に帰属することがわかった。また、XRDスペクトルにおいて最も高強度の回折ピークが、NASICON型結晶構造に帰属することがわかった。
【0072】
次に、実施例1に係る非晶質前駆体粉末を結晶化した粉末のXRD測定結果において、25.9°付近に、GeOの回折ピークが検出され、副相が確認されため、主相に係るもっとも強いピークと、副相に係るもっとも強いピークとのピーク強度比を検討したところ、副相/主相のピーク強度比の値は0.2であった。この結果を表4に記載する。
【0073】
また、上述した「(4)乾燥工程」にて得られた、実施例1に係る白色の前駆体粉末に対しても、下記測定条件にてXRD測定を実施した。得られたXRDスペクトルを図4の上段に示す。XRD測定結果において、NHNOのピークが示されたが、リチウム化合物、アルミニウム化合物、ゲルマニウム化合物、リン化合物のピークは示されなかった。
【0074】
<XRD測定条件>
測定装置 :XRD-6100(島津製作所製)
管球 :Cu
管電圧 :40kv
管電流 :30mA
発散スリット:1.0°
散乱スリット:1.0°
受光スリット:0.3mm
ステップ幅 :0.02°/step
計測時間 :0.25sec
ピークサーチは島津製作所製XRD-6100ソフトウェアを使用した。
ピークサーチ条件は以下の条件にて実施した。
スムージング処理:自動
バックグラウンド処理:自動
Ka1-a2比:50
ピークサーチ:自動
【0075】
(7)成型(成型体の製造)工程
実施例1に係る非晶質前駆体粉末0.25gを秤量し、φ11mmの成型型に充填し、油圧プレス機を使用して105MPaの荷重を10秒間保持して、圧縮成型された成型体を得た。
【0076】
(8)(成型体)焼成工程
得られた成型体を、箱型炉内に設置し、大気雰囲気下、昇温速度5℃/minで、室温から800℃まで昇温し、800℃で2時間焼成して、実施例1に係る焼結成型体を得た。
【0077】
[焼結成型体の特性評価]
得られた実施例1に係る焼結成型体を110℃で乾燥させ、乾燥後の焼結成型体の質量を測定して乾燥質量W1とした。
得られた焼結成型体を真空容器の底に置き、ゲージ圧-96kPaの真空下で、真空ポンプを用いて真空容器を15分間吸引し、焼結成型体の細孔中の空気を十分に排除した。
次いで、真空容器中へIPA(イソプロピルアルコール)を注入し、当該焼結成型体を完全に浸らせた。そして、真空容器に設けられたコックを徐々に開いて、真空容器内をゲージ圧0Paに復圧し、30分間放置した。
【0078】
IPA中に浸した焼結成型体を針金で懸架し、懸架した状態でIPA中の焼結成型体の質量を測定し、針金により懸架される分を補正した質量をIPA中質量W2とした。
【0079】
次いで、焼結成型体をIPA中から取り出し、その表面をIPAで湿らせたガーゼで手早く拭ってIPAを除去した後、焼結成型体の質量を測定して飽和質量W3とした。
なお、当該ガーゼは十分にIPAを含ませた後、焼結成型体表面のIPAだけを取る程度に絞って用いた。
【0080】
以上、得られた質量W1~W3を用いて、実施例1に係る焼結成型体の空隙率Poを、(式1)から算出したところ24%であった。この値を表4に記載する。

Po(%)=(W3-W1)/(W3-W2)×100・・・・(式1)

なお、上述した空隙率測定方法は、JIS R1634.1998(ファインセラミックスの焼結体密度・開気孔率の測定方法)を参考とした。
【0081】
(実施例2、3)
実施例1における「(2)リチウム、アルミニウム、リンを含有する水溶液」において、表1に記載のように硝酸リチウム(富士フィルム和光純薬株式会社製99.9%)の添加量およびリン酸二水素アンモニウム(富士フィルム和光純薬株式会社製)の添加量を変更した以外は、実施例1と同様の操作を行って、実施例2、3に係る非晶質前駆体粉末を製造した。
そして実施例1と同様に、実施例2、3に係る非晶質前駆体粉末の分析および特性評価を実施した。
さらに、実施例1と同様の操作を行って、実施例2、3に係る焼結成型体を製造し空隙率を測定した。
実施例2、3に係る調製されたリチウム、アルミニウム、リン含有水溶液におけるpH値、得られた原料スラリーのpH値、非晶質前駆体粉末の製造過程における組成、分析結果および特性評価結果、焼結成型体の空隙率を実施例1と同様に表1~4に示す。
【0082】
(比較例1~4)
実施例1における「(2)リチウム、アルミニウム、リンを含有する水溶液」において、表1に記載のように硝酸リチウム(富士フィルム和光純薬株式会社製99.9%)の添加量およびリン酸二水素アンモニウム(富士フィルム和光純薬株式会社製)の添加量を変更した以外は、実施例1と同様の操作を行って、比較例1~4に係る非晶質前駆体粉末を製造した。
そして実施例1と同様に、比較例1~4に係る非晶質前駆体粉末の分析および特性評価を実施した。
さらに、実施例1と同様の操作を行って、比較例1~4に係る焼結成型体を製造し空隙率を測定した。
比較例1~4に係る調製されたリチウム、アルミニウム、リン含有水溶液におけるpH値、得られた原料スラリーのpH値、非晶質前駆体粉末の製造過程における組成、分析結果および特性評価結果、焼結成型体の空隙率を実施例1と同様に表1~4に示す。
なお、比較例1に係る非晶質前駆体粉末は、ストイキオメトリ組成を有する非晶質前駆体粉末である。
【0083】
上述した「(5)(前駆体粉末)焼成工程、(II)非晶質前駆体粉末の結晶化」にて得られた、比較例1に係る非晶質前駆体粉末を結晶化した粉末に対して、実施例1にて説明した測定条件にてXRD測定を実施した。得られたXRDスペクトルを図3の下段に示す。
【0084】
図3の下段に示す、比較例1に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末のXRDスペクトルを、NASICON型結晶構造を有している酸化物であるLiGeP12のICDDのPDF No.01-080-1922と照合した。
すると、ピークサーチ方法で検出されたピークが、21.4±0.5、25.1±0.5°、30.4±0.5°、33.3±0.5°、34.0°±0.5°、の範囲にあり、PDF No.01-080-1922に帰属すると判定できた。従って、比較例1に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末は、上述す組成分析の結果から、リチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンを含み、XRD測定結果からNASICON型結晶構造を主相として有していることがわかった。
【0085】
また、上述した「(4)乾燥工程」にて得られた、比較例1に係る白色の前駆体粉末に対して、実施例1にて説明した測定条件にてXRD測定を実施した。得られたXRDスペクトルを図4の下段に示す。XRD測定結果において、NHNOのピークが示されたが、リチウム化合物、アルミニウム化合物、ゲルマニウム化合物、リン化合物のピークは示されなかった。
【0086】
(まとめ)
表1~4の結果より、比較例1に係るストイキオメトリ組成を有する非晶質前駆体粉末を成型し800℃にて焼成して得た焼結成型体の空隙率が33%であったのに対し、実施例1から3に係るストイキオメトリ組成より過剰なリチウム、リンを含有する非晶質前駆体粉末を成型し800℃にて焼成して得た焼結成型体の空隙率は21~24%あって、空隙率が大きく低下していることが判明した。
【0087】
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
図1
図2
図3
図4