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特開2025-141838情報処理装置、情報処理方法、及びプログラム
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  • 特開-情報処理装置、情報処理方法、及びプログラム 図1A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025141838
(43)【公開日】2025-09-29
(54)【発明の名称】情報処理装置、情報処理方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/20 20060101AFI20250919BHJP
【FI】
G03F7/20 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2025033443
(22)【出願日】2025-03-04
(31)【優先権主張番号】P 2024040830
(32)【優先日】2024-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ブルートゥース
(71)【出願人】
【識別番号】591021305
【氏名又は名称】太陽ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】河野 彩香
(72)【発明者】
【氏名】柳沢 萌子
(72)【発明者】
【氏名】杉山 颯
(72)【発明者】
【氏名】本島 康平
(72)【発明者】
【氏名】植田 千穂
【テーマコード(参考)】
2H197
【Fターム(参考)】
2H197CA03
2H197DA02
2H197DA03
2H197HA02
(57)【要約】
【課題】散乱体である感光性樹脂組成物を紫外線露光して得られる吸光量分布を算出可能なシステムを提供することを目的とする。
【解決手段】 散乱体である散乱層の光学パラメータを取得する取得部と、前記散乱層の膜厚及び前記光学パラメータに基づいて、所定の照射点に対して、所定の波長の光を照射したときの前記散乱層における吸光量分布を算出する算出部と、を有する、情報処理装置。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
散乱体である散乱層の光学パラメータを取得する取得部と、
前記散乱層の膜厚及び前記光学パラメータに基づいて、所定の照射点に対して、所定の波長の光を照射したときの前記散乱層における吸光量分布を算出する算出部と、を有する、
情報処理装置。
【請求項2】
前記散乱層は、積層体の少なくとも1つの層であり、
前記積層体は、異なる光学パラメータを持つ2以上の層を有し、
前記取得部は、前記積層体が有する前記散乱層以外の各層の光学パラメータをさらに取得し、
前記算出部は、前記各層の膜厚及び光学パラメータにさらに基づいて、所定の照射点に対して、所定の波長の光を照射したときの前記散乱層における吸光量分布を算出する、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記算出部は、複数の照射点の各々において算出した前記散乱層における吸光量分布を積算することでパターン露光時の吸光量分布を算出する、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記光学パラメータは、屈折率n、吸光係数μa、散乱係数μs、及び散乱異方性パラメータgの少なくともいずれかを含む、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項5】
パターン露光時の前記吸光量分布と吸光量閾値に基づいて、パターン形状を予測する描画部をさらに有する、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記吸光量閾値は、パターン露光時の前記吸光量分布と、実際に露光現像をした時のパターン形状とを対比して決定する、
請求項5に記載の情報処理装置。
【請求項7】
前記描画部は、現像工程の条件をさらに考慮して、前記パターン形状を予測する、
請求項5に記載の情報処理装置。
【請求項8】
前記散乱層は、レイリー散乱又はミー散乱を生じさせる、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項9】
情報処理装置が、
散乱体である散乱層の光学パラメータを取得するステップと、
前記散乱層の膜厚及び前記光学パラメータに基づいて、所定の照射点に対して、所定の波長の光を照射したときの前記散乱層における吸光量分布を算出するステップと、を実行する、
情報処理方法。
【請求項10】
情報処理装置に、
散乱体である散乱層の光学パラメータを取得するステップと、
前記散乱層の膜厚及び前記光学パラメータに基づいて、所定の照射点に対して、所定の波長の光を照射したときの前記散乱層における吸光量分布を算出するステップと、を実行させる、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理装置、情報処理方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
感光性樹脂組成物とは、プリント基板の表面を覆い回路パターンを保護する絶縁膜となる材料や、基板の回路形成に用いられる材料であり、部品の実装時にはんだが不必要な部分へ付着するのを防止する役割や、回路形成時に回路が不要な部分へ形成されるのを防止する役割等がある。
【0003】
このような感光性樹脂組成物は、例えば、感光性樹脂組成物を全面に形成した基板に、回路パターンが作られたネガフィルムまたはポジフィルムをとおして露光したり、又は直接描画装置を用いて露光したりした後に、現像液に可溶な部分を現像液で現像することにより微細なパターンを形成することが可能である。しかしながら、所望のパターンを得るためには、感光性樹脂組成物の組成設計および露光現像プロセス条件の調整に熟練者の知見が必要とされ、その予測は容易ではなかった。そのため、感光性樹脂組成物にパターン露光して得られるパターン形状を事前に予測するための技術が求められている。
【0004】
感光性樹脂組成物にパターン露光して得られるパターン形状を予測するためには、感光性樹脂組成物へ露光した光が感光性樹脂組成物中でどのように吸収されるか、すなわち吸光量分布を正確に予測することが重要となる。この点について、例えば、半導体ウェハ上に形成されるレジスト材料の分野においては、レジスト材料へ電子線照射した場合のエネルギー蓄積分布の算出をする技術として、特許文献1に記載の技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-242710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、散乱体である感光性樹脂組成物(例えばソルダーレジスト)においては、レジスト材料において利用される吸光量分布やエネルギー蓄積分布を算出する技術を適用できない場合があった。
【0007】
具体的には、半導体ウェハ上に形成されるレジスト材料は無機フィラー、有機フィラーや顔料等といった散乱成分等を有しないため、レジスト材料に紫外線を照射する場合には通常は光吸収のみが考慮され、光散乱を考慮した吸光量分布の算出については十分な検討がなされていなかった。
【0008】
また、特許文献1には、電子線リソグラフィにおける電子線の電子散乱を考慮したエネルギー蓄積分布の算出技術が開示されているが、電子線の波長は、一般的な感光性樹脂組成物のパターン形成に用いられる紫外線の波長とは大きく異なるため、電子線照射と紫外線照射では生じる物理現象が異なる。具体的には、電子線リソグラフィにおいては、波長が非常に短いため、レジスト材料中の原子核等によって電子の伝播方向やエネルギーが変化する電子散乱が主たる物理現象となる。しかし、電子線とは波長スケールが大きく異なる紫外線を照射する場合には、電子散乱の影響は無視できるほど小さくなる。一方、散乱体である感光性樹脂組成物においては、感光性樹脂組成物に含まれる成分による光吸収や、散乱成分等による光散乱(例えば、ミー散乱やレイリー散乱)が主たる物理現象となる。このような散乱成分等による光散乱を考慮した吸光量分布の算出については十分に検討がなされていなかった。
【0009】
そのため、散乱体である感光性樹脂組成物の材料特性や、散乱体である感光性樹脂組成物に対する紫外線露光条件に基づいて、散乱体である感光性樹脂組成物の吸光量分布を算出可能なシステムが望まれる。
【0010】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、散乱体である感光性樹脂組成物を紫外線露光して得られる吸光量分布を算出可能なシステムを提供することを目的とする。
【0011】
また、このようなシステムがあれば、散乱体である感光性樹脂組成物の露光プロセスを実行するための装置や、露光現像プロセスにより形成しようとするパターン形状にあう露光プロセス条件の提案をすることが可能となる。また、そのようなシステムによるシミュレーション結果を感光性樹脂組成物の材料設計に活かすことも考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様に係る情報処理装置は、散乱体である散乱層の光学パラメータを取得する取得部と、前記散乱層の膜厚及び前記光学パラメータに基づいて、所定の照射点に対して、所定の波長の光を照射したときの前記散乱層における吸光量分布を算出する算出部と、を有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、散乱体である感光性樹脂組成物を紫外線露光して得られる吸光量分布を算出可能なシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1A】本実施形態の情報処理システムの構成を示す概略図である。
図1B】本実施形態の情報処理装置のハードウェア構成及び機能構成の概略図である。
図2A】本実施形態の積層体を示す概略断面図である。
図2B】1つの光源から放出された光子の位置と、光子が失ったエネルギー量とその座標の算出を示す概略図である。
図2C】複数の照射点の各々について算出した吸光度分布の積算のイメージを示す概略図である。
図3】本実施形態の情報処理方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0016】
1.情報処理装置
図1Aに、本発明の一実施形態である情報処理システム1の構成を示す概略図を示す。図1Aに示すように、情報処理システム1の一例では、情報処理装置となるサーバ100(以下、「情報処理装置100」ともいう。)とユーザ装置200とがインターネット等のネットワークNを介して通信可能に接続される。
【0017】
情報処理装置100は、プログラムによって実現される情報処理装置であり、通信インターフェース120及びネットワークNを介して、ユーザ装置200から受信した処理要求に応じて、ユーザ装置200に処理結果を送信してもよい。例えば、情報処理装置100は、ユーザ装置200から散乱体である散乱層の光学パラメータを取得する。そして、散乱層の膜厚及び光学パラメータに基づいて、所定の照射点に対して、所定の波長の光を照射したときの散乱層における吸光量分布を算出し、ユーザ装置200に送信してもよい。
【0018】
ユーザ装置200は、情報処理を実行するユーザが利用する情報処理装置であり、例えば、コンピュータ、スマートフォン、タブレット端末、パーソナルコンピュータ等であってもよい。
【0019】
なお、図1Aには、情報処理装置100とユーザ装置200とを含むクライアント/サーバシステムを示しており、以下、サーバが情報処理装置100として機能する態様について説明をするが、本実施形態のシステムはこれに限定されず、当該システム構成に代えて、ユーザ装置200が後述する情報処理装置の処理機能を備えるものであってもよい。
【0020】
また、情報処理装置100は、吸光量を算出するための吸光量算出装置ということもでき、パターン形状を予測する場合にはパターン形状予測装置ということもできる。
【0021】
以下、図1Bを参照しつつ、情報処理装置100のハードウェア構成及び機能構成について説明し、その後、情報処理装置100の機能構成と対応付けて、各制御について詳説する。
【0022】
図1Bに示すように、情報処理装置100は、例えば、プロセッサ110、通信インターフェース120、入出力インターフェース130、メモリ140、ストレージ150、及びこれらの構成要素を相互接続するための1つ又は複数の通信バス160を含む。
【0023】
プロセッサ110は、ストレージ150に記憶されるプログラムに含まれるコード、又は、命令によって実現する処理、機能、又は、方法を実行する。プロセッサ110は、限定でなく例として、1又は複数の中央処理装置(CPU)、MPU、GPU等を含み、集積回路等に形成された論理回路(ハードウェア)や専用回路によって各実施形態に開示されるそれぞれの、処理、機能、又は、方法を実現してもよい。
【0024】
図1Bに示すように、本実施形態のプロセッサ110は、取得部111、算出部112、描画部113、及び提案部114として機能するよう構成されてもよい。
【0025】
通信インターフェース120は、ネットワークNを介して他の装置と各種データの送受信を行う。当該通信は、有線、無線のいずれで実行されてもよく、互いの通信が実行できるのであれば、どのような通信プロトコルを用いてもよい。例えば、通信インターフェース120は、ネットワークアダプタ等のハードウェア、各種の通信用ソフトウェア、又はこれらの組み合わせとして実装される。
【0026】
ネットワークNは、限定でなく例として、アドホック・ネットワーク、イントラネット、エクストラネット、仮想プライベート・ネットワーク(VPN)、ローカル・エリア・ネットワーク(LAN)、ワイヤレスLAN(WLAN)、広域ネットワーク(WAN)、ワイヤレスWAN(WWAN)、大都市圏ネットワーク(MAN)、インターネットの一部、公衆交換電話網(PSTN)の一部、携帯電話網、ISDNs(Integrated Service Digital Networks)、無線LANs、LTE(Long Term Evolution)、CDMA(Code Division Multiple Access)、ブルートゥース、衛星通信等であってよく、これらが組み合わせられてもよい。ネットワークは、1つまたは複数のネットワークを含むことができる。
【0027】
入出力インターフェース130は、情報処理装置100に対する各種操作を入力する入力装置、及び、情報処理装置100で処理された処理結果を出力する出力装置を含む。例えば、入出力インターフェース130は、キーボード、マウス、及びタッチパネル等の情報入力装置、及びディスプレイ等の情報出力装置を含む。なお、情報処理装置100は、外付けの入出力インターフェース130を接続することで、所定の入力を受け付けてもよいし、所定の出力を実行してもよい。
【0028】
メモリ140は、ストレージ150からロードしたプログラムを一時的に記憶し、プロセッサ110に対して作業領域を提供する。メモリ140には、プロセッサ110がプログラムを実行している間に生成される各種データも一時的に格納される。メモリ140は、例えば、DRAM、SRAM、DDR RAM又は他のランダムアクセス固体記憶装置などの高速ランダムアクセスメモリであってよく、これらが組み合わせられてもよい。
【0029】
ストレージ150は、プログラム、各機能部、及び各種データを記憶する。ストレージ150は、例えば、1つ又は複数の磁気ディスク記憶装置、光ディスク記憶装置、フラッシュメモリデバイス、又は他の不揮発性固体記憶装置などの不揮発性メモリ等であってよく、これらが組み合わせられてもよい。ストレージ150の他の例としては、プロセッサ110から遠隔に設置される1つ又は複数の記憶装置を挙げることができる。
【0030】
通信バス160は、ハードウェア構成間で、データや制御情報などをやり取りするための専用の通信路として公知のものであれば特に制限されない。
【0031】
次いで、本実施形態の情報処理装置の有する各機能部について詳説するが、本実施形態の詳細に入る前に、前提知識として、吸光量算出の対象となる散乱層について説明する。
【0032】
本実施形態の情報処理装置を適用する散乱層の一例として、ソルダーレジスト層について説明する。図2Aに、ソルダーレジスト層への露光時の形態として、基材(例えば、銅基板)11に対してソルダーレジスト層12と支持層(例えば、PET層)13が積層された積層体10の概略断面図を示す。積層体10は、異なる光学特性値を持つ2以上の層、すなわち基材11、ソルダーレジスト層12と支持層13を有し、かつ、散乱体である散乱層としてソルダーレジスト層12を有する。ソルダーレジスト層12は、無機フィラーや有機フィラー、顔料などの散乱成分14、及び/又は、樹脂成分の相分離構造や表面の凹凸等の散乱領域を有する散乱体であるため、ソルダーレジスト層12の内部では、光の吸収と散乱が生じる。すなわち、ソルダーレジスト層12は散乱吸収体でもある。
【0033】
図2Aに示すように、支持層13側から基材11に向かって光が照射されると、その光は吸収又は散乱されながらソルダーレジスト層12の内部を伝播する。そして、一定量以上の光を吸収したソルダーレジスト層12は硬化し、続く現像工程において、露光部の硬化したソルダーレジスト層12がパターンとして残る。なお、未露光部のソルダーレジスト層12がパターンとして残ってもよい。
【0034】
本実施形態において、取得部111は、散乱体である散乱層(例えば、ソルダーレジスト層12)の光学パラメータを取得する。この際に、取得部111は散乱層を単一の均質な材料であると仮定して、各光学パラメータを取得する。ここで、光学パラメータとしては、屈折率n、吸光係数μa、散乱係数μs、散乱異方性パラメータgの少なくともいずれかが挙げられる。
【0035】
なお、散乱層を備える積層体について本実施形態の情報処理装置を適用する場合には、積層体の各層の光学パラメータを取得してもよいし、少なくとも積層体中の光が透過する層について光学パラメータを取得してもよい。例えば、積層体10においては、ソルダーレジスト層12と支持層13の光学パラメータを取得してもよい。
【0036】
散乱層等の光学パラメータが既知の場合には、その値を取得部111が取得してもよい。散乱層等の光学パラメータが未知の場合には、取得部111は散乱層等に含まれる各成分の光学パラメータに基づいて散乱層等の光学パラメータを計算してもよい。
【0037】
しかし、例えば、散乱層が複合材料である場合(例えばソルダーレジスト層12)には、複合材料は多くの成分を含有するため、散乱体の大きさや形状、屈折率等を考慮して、材料組成から散乱層の光学パラメータを算出することは難しい場合がある。本実施形態において、取得部111は、散乱層等の透過率及び反射率に基づいて逆モンテカルロ法により散乱層の光学パラメータを推定してもよい。
【0038】
さらに、例えば、散乱層が薄膜である場合には、散乱層を自立膜として単独で透過率及び反射率を測定することは難しい場合がある。本実施形態において、取得部111は、支持層上に積層された散乱層を備える複合層の透過率及び反射率に基づいて逆モンテカルロ法により散乱層の光学パラメータを推定してもよい。
【0039】
より具体的には、取得部111は、まず支持層のみについて、透過率及び反射率の実測値に基づいて、逆モンテカルロ法により支持層の光学パラメータを推定して、取得してもよい。例えば、取得部111は、透過率及び反射率の実測値とほぼ等しい反射率及び透過率の計算値が得られるまで、各層の屈折率n、吸光係数μa、散乱係数μs、散乱異方性パラメータg等の光学パラメータの少なくとも一つの値を変化させながら計算値の計算を繰り返し、反射率及び透過率の実測値と計算値がほぼ等しくなる所定の光学パラメータを推定し、取得してもよい。より具体的には、取得部111は、反射率及び透過率の実測値と計算値を比較し、反射率の差および透過率の差がそれぞれ所定の値以下となるような各層の屈折率n、吸光係数μa、散乱係数μs、散乱異方性パラメータg等の光学パラメータを探索してもよい。
【0040】
このような手順を繰り返すことにより、支持層の屈折率n、吸光係数μa、散乱係数μs、散乱異方性パラメータg等の光学パラメータを推定することができる。その後、取得部111は、複合層についての透過率及び反射率の実測値および支持層の光学パラメータに基づいて逆モンテカルロ法により散乱層の光学パラメータを推定して、取得してもよい。また、光学パラメータを推定する精度を向上するため、異なる膜厚で形成された散乱層を備える複数の複合層についての透過率及び反射率の実測値および支持層の光学パラメータに基づいて逆モンテカルロ法により散乱層の光学パラメータを推定してもよい。
【0041】
また、本実施形態の散乱層は、感光性樹脂組成物からなり、散乱成分及び/又は散乱領域を有する散乱体である。散乱成分や散乱領域とは散乱層中で紫外線を散乱させる成分や領域であり、散乱成分は無機フィラー、有機フィラーや顔料等であってよく、散乱領域は散乱層に含まれる樹脂成分の相分離構造や散乱層表面の凹凸等であってよい。散乱層は、感光性樹脂組成物層であり、例えばソルダーレジスト層であってよい。散乱層は、散乱成分や散乱領域による散乱として、光の波長よりも小さい粒子による弾性散乱であるレイリー散乱、又は、光の波長よりも大きい粒子による散乱であるミー散乱を生じさせてもよい。本実施形態において、単に散乱というときはレイリー散乱やミー散乱を意味し、トムソン散乱やコンプトン散乱などの電子による散乱や、ブリュアン散乱やラマン散乱などのフォノンなどによる散乱とは区別する。
【0042】
算出部112は、各層の膜厚及び光学パラメータに基づいて、所定の照射点に対して、所定の波長の光を照射したときの散乱層における吸光量分布を算出する。この算出には、図2Bに示すように、1つの光源から放出された光子の位置、照射光の角度、散乱層の厚さ、散乱層の光学パラメータ(屈折率n、吸光係数μa、散乱係数μs、散乱異方性パラメータg)に基づいて、モンテカルロ法により、光子が失ったエネルギー量とその座標を算出してもよい。
【0043】
モンテカルロ法を用いると、特定の膜厚及び光学パラメータに対応する散乱層について、所定の照射点に対して、所定の波長の光を照射したときの特定の吸光量分布を得ることができる。モンテカルロ法は、乱数を使用した統計的なシミュレーションを可能とする手法であり、モンテカルロ法を用いることによって1つ1つの光子の挙動をシミュレーションすることができる。具体的には、光を多くの光子(群)に分け、それが散乱して方向を変え、また、吸収を受ける光のエネルギー粒子として扱うことで、光子の伝播経路やその過程での光強度の減衰をシミュレーションすることができる。算出部112は、散乱層の膜厚及び光学パラメータ(屈折率n、吸光係数μa、散乱係数μs、散乱異方性パラメータg)に基づき、この条件でモンテカルロ法を用いて計算を行うことにより、各層の膜厚及び光学パラメータに対応する所定の反射率及び所定の透過率、1つの照射点から入射した光子の吸光量分布を得てもよい。ここで算出される各座標において光子が失った光強度の分布は、吸光量分布とみなすことができる。
【0044】
次に、モンテカルロ法による吸光量分布の算出方法について詳述する。
散乱係数がμs、吸光係数がμa、散乱異方性パラメータがgである材料の表面に1つの光子が入射した場合を考えると、その光子の平均自由行程Lは以下の式(1)で表される。
【数1】
ここでは0~1の乱数である。
【0045】
距離Lだけ進んだ光子はそこで散乱と吸収を同時に受けると仮定すると、光子の光強度は式(2)で示されるWの重みで減衰し、光子の進行方向に対して式(3)で示される天頂角θの方向に散乱される。なお、方位角方向には等方的に散乱される。
【数2】
【0046】
ここで、f(θ)は散乱の位相関数p(θ)の累積分布関数を表し、は0~1の乱数である。位相関数としては、例えば、式(4)で示されるHenyey-Greensteinの位相関数等が挙げられる。
【数3】
【0047】
式(4)において、g≠0の場合にはcosθは式(5)で示される。
【数4】
【0048】
これらの式を用いることで、散乱係数μs、吸光係数μa、散乱異方性パラメータgから、ある光子の伝播経路やその過程にける光強度の減衰をシミュレーションすることができる。光子の光強度が十分に小さくなった場合(例えば入射時の光強度の1万分の1以下になった場合)にはその光子は消滅したと、光子が材料の入射面から射出された場合にはその光子は反射したとみなすことができる。
【0049】
光子が材料の界面に到達した場合には、その光子は界面の性質によって透過した又は反射したとみなしてよい。例えば、界面が支持層13とソルダーレジスト層12の界面である場合には、光子はフレネルの式を用いて計算される確率に基づいて透過する又は反射するとみなしてよい。
【0050】
入射した光子が消滅するか、又は、透過若しくは反射により材料の外部に射出された場合に、その光子に関するモンテカルロ法による計算が終了し、光子のエネルギーが減衰した座標とその座標におけるエネルギーの減衰量を記録する。
【0051】
このようにして算出部112が算出する吸光量は、1つの照射点から入射した1つの光子の吸光シミュレーションである。1つの照射点について複数の光子について同様の吸光シミュレーションを行うことで、1つの照射点から入射した光の吸光量分布を算出することができる。そして、図2Cに記載のように、算出部112は、複数の照射点の各々において算出した吸光量分布を積算することでパターン露光時の吸光量分布を算出してもよい。これにより、パターン露光時の散乱層の吸光量分布を算出することができる。特に、感光性樹脂組成物のパターン形状の予測においては、パターン露光部の端部近傍における吸光量分布が重要であるため、所定の幅や大きさを持つ画定された領域のみから照射点を選択してモンテカルロ法による計算を行い、これらを積算することで画定された領域以外の領域も含む全領域の吸光量分布を算出してもよい。
【0052】
算出部112は、複数の照射点の各々において算出した吸光量分布を積算するにあたり、光強度分布に基づいて重みづけを行なってもよい。光強度分布に基づいた重みづけを行うことにより、露光機の焦点ずれ等の波動光学による影響を考慮することも可能となる。
【0053】
光強度分布は、従来公知の方法を用いて算出することができ、例えば、理想レンズ近似やフーリエ変換を用いて、マスクパターンや露光装置のNA、収差などを考慮して求めることができる。
【0054】
描画部113は、算出部112が算出したパターン露光時の散乱層の吸光量分布と、吸光量閾値に基づいて、散乱層のパターン形状を予測してもよい。吸光量閾値は、散乱層が硬化する際に要する吸光量の閾値であり、現像した際に露光した部分がパターンとして残る境界を定める値であってもよい。
【0055】
吸光量閾値は、パターン露光時の散乱層の吸光量分布と、実際に散乱層を露光現像した時のパターン形状とを対比して決定してもよい。具体的には、パターン露光時の吸光量分布と、実際に露光現像をした時のパターン形状とを対比して、吸光量分布のうち除去された部分とパターンとして残っている部分の境界を、吸光量閾値として設定してもよい。
【0056】
また、描画部は、算出部112が算出したパターン露光時の散乱層の吸光量分布と、散乱層の吸光量と現像速度の関係に基づいて、各座標における現像速度を予測し、予測した各座標における現像速度に基づいて散乱層のパターン形状を予測してもよい。
【0057】
描画部113は、現像工程の条件をさらに考慮して、散乱層のパターン形状を予測してもよい。現像工程の条件としては、現像液の組成、現像温度、現像時間などが挙げられる。
【0058】
次に、図3に、本実施形態の情報処理方法における算出処理について説明する。
【0059】
ステップS01において、取得部111は、入出力インターフェース130等によりユーザからの入力をうけつけ、散乱層に関して、屈折率n、吸光係数μa、散乱係数μs、散乱異方性パラメータgなどの光学パラメータを取得する。
【0060】
そして、ステップS02において、算出部112は、散乱層の膜厚及び光学パラメータに基づいて、所定の照射点に対して、所定の波長の光を照射したときの散乱層における吸光量分布を算出する。
【0061】
次いで、ステップS03において、算出部112は、マスクのデータ等を参照してパターン露光する露光部を定め、露光部内の1つの照射点から入射した光子の吸光シミュレーションを行う。算出部112は、複数の照射点の各々において算出した吸光量分布を積算することでパターン露光時の吸光量分布を算出してもよい。これにより、パターン露光による吸光量分布を取得することができる。
【0062】
最後に、ステップS04において、描画部113は、吸光量分布に基づいて、所定の閾値等からパターン形状を予測してもよい。
【0063】
このように、本実施形態においては、散乱層の光学パラメータに基づいて、所定の照射点に対して、所定の波長の光を照射したときの散乱層における吸光量分布を算出することで、散乱層におけるパターン形状を予測することができる。
【0064】
また、本実施形態の情報処理装置は、ユーザが目的とするパターン形状に基づいて、当該目的とするパターン形状を満たす感光性樹脂組成物の材料特性や、感光性樹脂組成物に対する露光条件又は現像条件を提案する提案部114を有してもよい。
【0065】
2.情報処理方法
本実施形態の情報処理方法は、情報処理装置が、散乱体である散乱層の光学パラメータを取得するステップと、前記散乱層の膜厚及び前記光学パラメータに基づいて、所定の照射点に対して、所定の波長の光を照射したときの前記散乱層における吸光量分布を算出するステップと、を実行する。
【0066】
なお、本実施形態の方法の具体的態様については、上記制御処理で述べているため、ここでは詳細な説明は省略する。なお、上記方法は、吸光量を算出するための吸光量算出方法ということもでき、さらにパターン形状を予測する場合にはパターン形状予測方法ということもできる。
【0067】
3.プログラム
本実施形態のプログラムでは、散乱体である散乱層の光学パラメータを取得するステップと、前記散乱層の膜厚及び前記光学パラメータに基づいて、所定の照射点に対して、所定の波長の光を照射したときの前記散乱層における吸光量分布を算出するステップと、を実行させる。
【0068】
プログラムは、読み取り可能な記録媒体に記録された物であってもよい。なお、本実施形態のプログラムが実行する処理の具体的態様については、上記制御処理で述べているため、ここでは詳細な説明は省略する。
【符号の説明】
【0069】
1…情報処理システム、10…積層体、11…基材、12…ソルダーレジスト層、13…支持層、14…散乱成分、100…情報処理装置、110…プロセッサ、111…取得部、112…算出部、113…描画部、114…提案部、120…通信インターフェース、130…入出力インターフェース、140…メモリ、150…ストレージ、160…通信バス、200…ユーザ装置
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図3