(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025141937
(43)【公開日】2025-09-29
(54)【発明の名称】硬化性樹脂組成物、硬化物、積層体及びアンテナモジュール
(51)【国際特許分類】
H01Q 1/38 20060101AFI20250919BHJP
C08G 73/10 20060101ALI20250919BHJP
C08F 22/40 20060101ALI20250919BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20250919BHJP
【FI】
H01Q1/38
C08G73/10
C08F22/40
H05K1/03 610H
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2025040537
(22)【出願日】2025-03-13
(31)【優先権主張番号】P 2024039785
(32)【優先日】2024-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 来
(72)【発明者】
【氏名】上面 雅義
(72)【発明者】
【氏名】木村 亮介
【テーマコード(参考)】
4J043
4J100
5J046
【Fターム(参考)】
4J043PA15
4J043PB03
4J043PC016
4J043QB26
4J043QB31
4J043RA35
4J043SA06
4J043SA46
4J043SB01
4J043TA22
4J043TA71
4J043TB01
4J043UA041
4J043UA122
4J043XA15
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4J043XB03
4J043XB07
4J043ZB47
4J043ZB50
4J100AL65Q
4J100AM55P
4J100BC04P
4J100BC12Q
4J100BC67P
4J100FA03
4J100FA19
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4J100JA44
5J046AA03
5J046AA06
5J046AB08
5J046AB13
5J046PA07
(57)【要約】
【課題】比誘電率(Dk)及び誘電正接(Df)が共に低く且つ吸湿ドリフトが少ない、屋外環境で使用される高周波基板用の硬化性樹脂組成物、硬化物、積層体及びアンテナモジュールを提供すること。
【解決手段】マレイミド樹脂を含有する、屋外環境で使用される高周波基板用の硬化性樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マレイミド樹脂を含有する、屋外環境で使用される高周波基板用の硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記硬化性樹脂組成物の硬化物の下記の方法により測定される比誘電率(Dk)の平均値が3.0未満であり、
前記硬化性樹脂組成物の硬化物の下記の方法により測定される比誘電率(Dk)の吸湿ドリフトが0.05以下である、請求項1に記載の硬化性樹脂組成物。
比誘電率(Dk)の平均値及び吸湿ドリフトの測定方法:
硬化性樹脂組成物の硬化物を85℃、85%RHの恒温恒湿槽中に1000時間保持し、保持開始0時間後(保持開始前)、250±10時間後、500±10時間後、750±10時間後、1000時間後に、硬化性樹脂組成物の硬化物の周波数10GHzでの比誘電率(Dk)を測定する。得られた5つの測定値から平均値を求め、また、該測定値のうちの最大値及び最小値を用いて、下記の計算を行うことで比誘電率(Dk)の吸湿ドリフトを求める。
比誘電率(Dk)の吸湿ドリフト=(比誘電率(Dk)の最大値)-(比誘電率(Dk)の最小値)
【請求項3】
前記硬化性樹脂組成物の硬化物の下記の方法により測定される誘電正接(Df)の平均値が5.0×10-3未満であり、
前記硬化性樹脂組成物の硬化物の下記の方法により測定される誘電正接(Df)の吸湿ドリフトが0.0010以下である、請求項1に記載の硬化性樹脂組成物。
誘電正接(Df)の平均値及び吸湿ドリフトの測定方法:
硬化性樹脂組成物の硬化物を85℃、85%RHの恒温恒湿槽中に1000時間保持し、保持開始0時間後(保持開始前)、250±10時間後、500±10時間後、750±10時間後、1000時間後に、硬化性樹脂組成物の硬化物の周波数10GHzでの誘電正接(Df)を測定する。得られた5つの測定値から平均値を求め、また、該測定値のうちの最大値及び最小値を用いて、下記の計算を行うことで誘電正接(Df)の吸湿ドリフトを求める。
誘電正接(Df)の吸湿ドリフト=(誘電正接(Df)の最大値)-(誘電正接(Df)の最小値)
【請求項4】
前記硬化性樹脂組成物の硬化物を85℃、85%RHの恒温恒湿槽中に1000時間保持した後、当該硬化物の周波数10GHzでの比誘電率(Dk)が3.0未満であり、周波数10GHzでの誘電正接(Df)が5.0×10-3未満である、請求項1に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物の硬化物。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物の硬化物を含む樹脂層を備える、積層体。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物の硬化物を含む高周波基板と、前記高周波基板と電気的に接続されたアンテナと、を備える、アンテナモジュール。
【請求項8】
前記高周波基板は、1層以上の絶縁基材層を含み、
前記絶縁基材層のうち少なくとも1層が前記硬化物を含む、請求項7に記載のアンテナモジュール。
【請求項9】
前記高周波基板は、2層以上の絶縁基材層と、前記絶縁基材層の間に配置された1層以上の接着剤層とを含み、
前記絶縁基材層及び前記接着剤層のうち少なくとも1層が前記硬化物を含む、請求項7に記載のアンテナモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、硬化性樹脂組成物、硬化物、積層体及びアンテナモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動運転技術として、自動化レベル1~2/2+に分類される先進運転支援システム(Advanced Driver Assistance System,ADAS)が搭載されたモビリティが徐々に普及し始めている。自動化レベルの定義としては、SAE(自動車技術者協会:米国)による自動運転のレベル定義「SAE International Standard J3016)」が知られている。また、自動化レベル3~5に分類される自動運転(Autonomous Driving,AD)システムが組み込まれた商用車も実用化に向けた開発が進んでいる。これらのシステムの確立と高度化のためにはセンシング技術が欠かせず、カメラ、ミリ波レーダ、LiDAR(Light Detection And Ranging)、超音波センサー等の自動運転用センサーの重要度が増している。特にハンズオフ機能を実現する自動運転レベル2+搭載車の需要拡大に伴い、フロント及びリアの検知範囲を広げるために自動車の前後左右へ多数のミリ波レーダが設置される傾向がある。
【0003】
また、次世代ITS(Intelligent Transport Systems:高度道路交通システム)通信として、5G(5th Generation Mobile Communication System)等の基地局、中継局、自動車及び携帯端末などを介して実現される、V2V(Vehicle-to-Vehicle,自動車と自動車)通信、V2I(Vehicle-to-Infrastructure,自動車とインフラストラクチャー)通信、V2P(Vehicle-to-Pedestrian,自動車と歩行者)通信等の狭域通信、V2N(Vehicle-to-Network,自動車とネットワーク)通信等の広域通信などのV2X通信の導入が検討されている。これらのシステムの活用には高周波帯域の無線通信が重要であり、アンテナ技術の高度化が望まれている。これらのミリ波レーダ及びアンテナ等に対して、高周波信号の減衰を抑制するために、高周波基板材料(プリント基板材料)には、比誘電率(Dk)及び誘電正接(Df)が共に低いことが求められる。従来の基板材料としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)(特許文献1、2)、ポリイミド(PI)、液晶ポリマー(LCP)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7-086748号公報
【特許文献2】特開2022-021619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
自動車、基地局及び中継局等の屋外環境で使用される基板材料には、比誘電率(Dk)及び誘電正接(Df)が共に低いことに加えて、屋外環境での使用に耐え得る性能を有することが求められる。
【0006】
本発明者らは、高周波基板用の材料として知られている各種材料を検討したところ、PI又はLCP等は、吸湿によって比誘電率(Dk)、誘電正接(Df)が変化(吸湿ドリフト)することから、屋外環境で使用される場合、伝送損失が増大する等によって高周波信号の品質が低下する傾向にあるという課題が存在することを見出した。
【0007】
本開示は上記事情に鑑みてなされたものであり、比誘電率(Dk)及び誘電正接(Df)が共に低く且つ吸湿ドリフトが少ない、屋外環境で使用される高周波基板用の硬化性樹脂組成物、硬化物、積層体及びアンテナモジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本開示は、以下の硬化性樹脂組成物、硬化物、積層体及びアンテナモジュールを提供する。
【0009】
[1]マレイミド樹脂を含有する、屋外環境で使用される高周波基板用の硬化性樹脂組成物。
[2]上記硬化性樹脂組成物の硬化物の下記の方法により測定される比誘電率(Dk)の平均値が3.0未満であり、
上記硬化性樹脂組成物の硬化物の下記の方法により測定される比誘電率(Dk)の吸湿ドリフトが0.05以下である、上記[1]に記載の硬化性樹脂組成物。
比誘電率(Dk)の平均値及び吸湿ドリフトの測定方法:
硬化性樹脂組成物の硬化物を85℃、85%RHの恒温恒湿槽中に1000時間保持し、保持開始0時間後(保持開始前)、250±10時間後、500±10時間後、750±10時間後、1000時間後に、硬化性樹脂組成物の硬化物の周波数10GHzでの比誘電率(Dk)を測定する。得られた5つの測定値から平均値を求め、また、該測定値のうちの最大値及び最小値を用いて、下記の計算を行うことで比誘電率(Dk)の吸湿ドリフトを求める。
比誘電率(Dk)の吸湿ドリフト=(比誘電率(Dk)の最大値)-(比誘電率(Dk)の最小値)
[3]上記硬化性樹脂組成物の硬化物の下記の方法により測定される誘電正接(Df)の平均値が5.0×10-3未満であり、
上記硬化性樹脂組成物の硬化物の下記の方法により測定される誘電正接(Df)の吸湿ドリフトが0.0010以下である、上記[1]又は[2]に記載の硬化性樹脂組成物。
誘電正接(Df)の平均値及び吸湿ドリフトの測定方法:
硬化性樹脂組成物の硬化物を85℃、85%RHの恒温恒湿槽中に1000時間保持し、保持開始0時間後(保持開始前)、250±10時間後、500±10時間後、750±10時間後、1000時間後に、硬化性樹脂組成物の硬化物の周波数10GHzでの誘電正接(Df)を測定する。得られた5つの測定値から平均値を求め、また、該測定値のうちの最大値及び最小値を用いて、下記の計算を行うことで誘電正接(Df)の吸湿ドリフトを求める。
誘電正接(Df)の吸湿ドリフト=(誘電正接(Df)の最大値)-(誘電正接(Df)の最小値)
[4]上記硬化性樹脂組成物の硬化物を85℃、85%RHの恒温恒湿槽中に1000時間保持した後、当該硬化物の周波数10GHzでの比誘電率(Dk)が3.0未満であり、周波数10GHzでの誘電正接(Df)が5.0×10-3未満である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物。
[5]上記[1]~[4]のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物の硬化物。
[6]上記[1]~[4]のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物の硬化物を含む樹脂層を備える、積層体。
[7]上記[1]~[4]のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物の硬化物を含む高周波基板と、上記高周波基板と電気的に接続されたアンテナと、を備える、アンテナモジュール。
[8]上記高周波基板は、1層以上の絶縁基材層を含み、上記絶縁基材層のうち少なくとも1層が上記硬化物を含む、上記[7]に記載のアンテナモジュール。
[9]上記高周波基板は、2層以上の絶縁基材層と、上記絶縁基材層の間に配置された1層以上の接着剤層とを含み、上記絶縁基材層及び上記接着剤層のうち少なくとも1層が上記硬化物を含む、上記[7]に記載のアンテナモジュール。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、比誘電率(Dk)及び誘電正接(Df)が共に低く且つ吸湿ドリフトが少ない、屋外環境で使用される高周波基板用の硬化性樹脂組成物、硬化物、積層体及びアンテナモジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は本開示に係るアンテナモジュールの一実施形態を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示のいくつかの実施形態について詳細に説明する。ただし、本開示は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0013】
本明細書において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。本明細書において組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。「A又はB」とは、A及びBのどちらか一方を含んでいればよく、両方とも含んでいてもよい。「固形分」とは、樹脂組成物において、揮発する物質(水、溶剤等)を除いた不揮発分を指す。すなわち、「固形分」とは、後述する樹脂組成物の乾燥において揮発せずに残る溶剤以外の成分を指し、室温(25℃)で液状、水飴状又はワックス状の成分も含む。本明細書において、例えば、「(メタ)アクリル酸」とは、「アクリル酸」及びそれに対応する「メタクリル酸」を意味し、他の類似語についても同様である。
【0014】
[硬化性樹脂組成物]
本実施形態に係る屋外環境で使用される高周波基板用の硬化性樹脂組成物は、マレイミド樹脂(以下、「(A)成分」ともいう。)を含有する。屋外環境で使用される高周波基板とは、屋外環境で使用され得るものを指し、例えば、先進運転支援システム等の自動運転の分野、V2X通信等の通信システムの分野などで使用される高周波基板が挙げられる。高周波基板の使用形態としては、高周波通信の送受信に関与する基板であってよく、例えば、アンテナ基板が挙げられるが、これに限定されない。また、屋外環境とは、例えば、車載時、基地局及び中継局等での使用時などの基板が外気に曝されて吸湿し易い環境を指す。本実施形態に係る硬化性樹脂組成物は、該硬化性樹脂組成物の硬化物の比誘電率(Dk)及び誘電正接(Df)が共に低く且つ吸湿ドリフトが少ないので、屋外環境で使用される高周波基板の製造に適している。
【0015】
マレイミド樹脂は、例えば、テトラカルボン酸二無水物(a1)(以下、「(a1)成分」ともいう。)、アミン(a2)(以下、「(a2)成分」ともいう。)、及び無水マレイン酸(a3)(以下、「(a3)成分」ともいう。)を反応させて得ることができる。ここで、上記(a2)成分は、ダイマージアミンを含んでもよい。(A)成分は1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0016】
(a1)成分のテトラカルボン酸二無水物としてはポリイミドの原料として公知のものを使用できる。(a1)成分としては、例えば、無水ピロメリット酸、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-5-(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)ナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、4,4’-オキシジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-(4,4’-イソプロピリデンジフェノキシ)ジフタル酸無水物、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-テトラメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ビス(1,3-ジオキソ-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-カルボン酸)1,4-フェニレン、9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二無水物、4,4’-(エチン-1,2-ジイル)ジフタル酸無水物、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフリル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸無水物、ジシクロヘキシル-3,4,3’,4’-テトラカルボン酸二無水物、3,4’-オキシジフタル酸無水物、3,4’-ビフタル酸無水物、ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロペンタノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸二無水物、5,5’-ビス-2-ノルボルネン-5,5’,6,6’-テトラカルボン酸-5,5’,6,6’-二無水物、及び9,9-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]フルオレン二無水物が挙げられる。これらの中でも、耐熱性及び入手しやすさの観点から、無水ピロメリット酸、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が好ましい。(a1)成分は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0017】
(a2)成分は、ダイマージアミンを含有してよい。ダイマージアミンは、例えば、特開平9-12712号公報に記載されているように、オレイン酸等の不飽和脂肪酸の二量体であるダイマー酸から誘導される化合物である。(a2)成分としてダイマージアミンを用いることで、硬化物の誘電特性を低くすることができる。本実施形態では、公知のダイマージアミンを特に制限なく使用できる。ダイマージアミンは、例えば下記一般式(1)で表される化合物及び下記一般式(2)で表される化合物のうちの少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0018】
【0019】
式(1)及び(2)中、m、n、p及びqはそれぞれ、m+n=6~17、p+q=8~19となるように選ばれる1以上の整数を表し、破線で示した結合は、炭素-炭素単結合又は炭素-炭素二重結合を意味する。但し、破線で示した結合が炭素-炭素二重結合である場合、式(1)及び(2)は、炭素-炭素二重結合を構成する各炭素原子に結合する水素原子の数を、式(1)及び(2)に示した数から1つ減じた構造となる。
【0020】
ダイマージアミンとしては、有機溶剤への溶解性、耐熱性、耐熱接着性、低粘度等の観点より、上記一般式(2)で表されるものであってよく、特に下記式(3)で表される化合物であってよい。
【0021】
【0022】
ダイマージアミンの市販品としては、例えば、PRIAMINE1075、PRIAMINE1074(いずれもクローダジャパン株式会社製)等が挙げられる。
【0023】
(a2)成分は、ダイマージアミン以外の他のアミン(以下、「第2のアミン」ともいう。)を含んでいてもよい。第2のアミンは、上述したダイマージアミンに該当しないアミンである。第2のアミンは、ジアミン又はトリアミンであってもよく、ジアミンであってもよい。第2のアミンとして脂環式ジアミンを使用することで、誘電率をより低くすることができる。第2のアミンとして芳香族ジアミンを使用することで、硬化物の弾性率及びTgを高く、CTEを低くすることができる。
【0024】
第2のアミンがジアミンである場合、当該ジアミンとしては、例えば、1,3-ジアミノプロパン、ノルボルナンジアミン、4,4’-メチレンジアニリン、1,3-ビス[2-(4-アミノフェニル)-2-プロピル]ベンゼン、4,4’-ジアミノ-2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、9,9-ビス[3-フルオロ-4-アミノフェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]フルオレン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ビス(アミノメチル)ノルボルナン、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジアニリン、3(4),8(9)-ビス(アミノメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、1,3-シクロヘキサンジアミン、1,4-シクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミン、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、4,4’-メチレンビス(2-メチルシクロヘキシルアミン)、1,1-ビス(4-アミノフェニル)シクロヘキサン、2,7-ジアミノフルオレン、4,4’-エチレンジアニリン、4,4’-メチレンビス(2,6-ジエチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(2-エチル-6-メチルアニリン)、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2’-ジメチルビフェニル-4,4’-ジアミン、(4,4’-ジアミノ)ジフェニルエーテル、(3,3’-ジアミノ)ジフェニルエーテル、パラフェニレンジアミン、オルトフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミン、2,2’-ジメチルビフェニル-4,4’-ジアミン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン等が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
第2のアミンがトリアミンである場合、当該トリアミンとしては、例えば、トリス(アミノメチル)アミン、トリス(2-アミノエチル)アミン、トリス(2-アミノプロピル)アミン、2-(アミノメチル)-2-メチル-1,3-プロパンジアミン、トリマートリアミン、3,4,4’-トリアミノジフェニルエーテル、1,2,4-トリアミノベンゼン、1,3,5-トリアミノベンゼン、1,2,3-トリアミノベンゼン、1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリアミン、2,4,6-トリアミノピリミジン、1,3,5-トリス(4-アミノフェニル)ベンゼン、1,3,5-トリス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン等が挙げられる。これらの中でも、光硬化性の観点から、脂肪族アミン及び脂環式アミンが好ましく、ノルボルナンジアミン、イソホロンジアミン、及びトリス(2-アミノエチル)アミンがより好ましい。これらは1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0026】
第2のアミンは上述したジアミン及びトリアミンの一方を含んでいてもよく、両方を含んでいてもよい。また、第2のアミンは、ジアミン及びトリアミン以外のアミンを含んでいてもよい。
【0027】
(a2)成分中、アミン全量に対する第2のアミンのモル比(第2のアミンのモル数/(ダイマージアミンのモル数+第2のアミンのモル数))は、0.70以下であってもよく、0.50以下であってもよく、0.30以下であってもよい。この比が0.70以下であると、硬化物の誘電特性をより低くすることができる。
【0028】
第2のアミンがジアミンを含む場合、(a2)成分中、ジアミン全量に対する第2のアミン中のジアミンのモル比(第2のアミン中のジアミンのモル数/(ダイマージアミンのモル数+第2のアミン中のジアミンのモル数))は、0.70以下であってもよく、0.50以下であってもよく、0.30以下であってもよい。この比が0.70以下であると、硬化物の誘電特性をより低くすることができる。
【0029】
(A)成分は、各種公知の方法により製造できる。例えば、先ず、(a1)成分及び(a2)成分を60~120℃程度、好ましくは70~90℃の温度において、通常0.1~2時間程度、好ましくは0.1~1.0時間重付加反応させる。次いで、得られた重付加物を更に80~250℃程度、好ましくは100~200℃の温度において、0.5~30時間程度、好ましくは0.5~10時間イミド化反応、即ち脱水閉環反応させる。続いて、脱水閉環反応させた物と(a3)成分とを60~250℃程度、好ましくは80~200℃の温度において、0.5~30時間程度、好ましくは0.5~10時間マレイミド化反応、即ち脱水閉環反応させることにより、目的とする(A)成分が得られる。
【0030】
イミド化反応又はマレイミド化反応において、各種公知の反応触媒、脱水剤、及び有機溶剤を使用できる。
【0031】
反応触媒としては、例えば、トリエチルアミン等の脂肪族第3級アミン類、ジメチルアニリン等の芳香族第3級アミン類、ピリジン、ピコリン、イソキノリン等の複素環式第3級アミン類、及びメタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸一水和物等の有機酸が挙げられる。脱水剤としては、例えば、無水酢酸等の脂肪族酸無水物、及び無水安息香酸等の芳香族酸無水物が挙げられる。
【0032】
上記反応に用いる有機溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、プソイドクメン等の芳香族炭化水素;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、プロパンジオール、フェノール等のアルコール系溶剤;アセトン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、ペンタノン、ヘキサノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、イソホロン、アセトフェノン等のケトン系溶剤;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のセロソルブ類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、ギ酸ブチル、γ-ブチロラクトン等のエステル系溶剤;エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、エチレングリコールモノ-iso-ブチルエーテル、エチレングリコールモノ-tert-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-iso-ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル等のグリコールエーテル系溶剤;及びN,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド等の含窒素化合物が挙げられる。有機溶剤は1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。溶解性の観点からトルエン、キシレン、メシチレン又はプソイドクメンと、メタノール又はエタノールと、を組合せて用いることが好ましい。
【0033】
(A)成分は各種公知の方法により精製でき、純度を上げることができる。例えば、先ず、有機溶剤に溶かした(A)成分と純水とを分液ロートに入れる。次いで、分液ロートを振り、静置させる。続いて、水層と有機層とが分離した後、有機層のみを回収することで、(A)成分を精製できる。
【0034】
上記方法により製造される(A)成分の想定される構造の一例を下記一般式(4)に示す。
【化4】
【0035】
一般式(4)中、Xは各々独立に4価の有機基を示し、Yは各々独立に2価の有機基を示し、aは1以上の整数を示す。但し、複数存在するYのうちの少なくとも一つは上述したダイマージアミンに由来する2価の有機基を示す。また、X及びYは、脂肪族基、脂環構造又は芳香族環を有する有機基であってよく、それらはヘテロ原子を含んでいてもよい。
【0036】
(A)成分の分子量は、(a1)成分と(a2)成分のモル数で制御することができ、(a1)成分のモル数が(a2)成分のモル数より小さいほど、分子量を小さくすることができる。本開示の効果を達成し易くする目的において、通常、(a2)成分1モルに対する(a1)成分のモル数、すなわち〔(a1)成分のモル数〕/〔(a2)成分のモル数〕が、0.30~0.95程度、好ましくは0.50~0.85の範囲がよい。
【0037】
(A)成分の分子量としては、溶剤への溶解性及び耐熱性の観点から、重量平均分子量(Mw)で3000~40000が好ましく、4000~30000がより好ましく、5000~28000、又は7000~27000が更に好ましい。重量平均分子量が40000以下であると有機溶剤への溶解性が良好となり、3000以上であると、耐熱性を向上させる効果が十分に得られる傾向がある。Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定し、標準ポリスチレンの検量線を用いて換算することができる。
【0038】
マレイミド樹脂としては、低誘電特定及び接着性の観点から、上記一般式(4)で表されるマレイミド樹脂が好ましく、特に(a2)成分としてダイマージアミンを反応させて得られるマレイミド樹脂が好ましい。
【0039】
本実施形態の(A)成分は、市販の化合物を用いることもでき、具体的には例えば、株式会社レゾナック製のSFR-2300MR-T(ダイマージアミンを含むアミン、テトラカルボン酸二無水物及びマレイン酸無水物より合成)、DESIGNER MOLECULES Inc.製のBMI-3000Commercial Grade(ダイマージアミン、無水ピロメリット酸(ピロメリット酸二無水物)及びマレイン酸無水物より合成)、BMI-1500、BMI-1700、BMI-5000等を好適に用いることができる。
【0040】
低誘電特性の観点から、(A)成分の含有量は、硬化性樹脂組成物中の固形分の総量を100質量部としたときに、50質量部超が好ましく、55~99質量部、60~96質量部、70~92質量部、又は80~90質量部であってもよい。
【0041】
本実施形態の硬化性樹脂組成物は、マレイミド樹脂以外のその他の成分を含有してもよい。その他の成分としては、重合開始剤、硬化促進剤、無機充填材、離型剤、難燃剤、イオントラップ剤、酸化防止剤、接着付与剤、低応力剤、着色剤及びカップリング剤が挙げられる。
【0042】
重合開始剤としては、例えば、熱ラジカル重合開始剤、有機過酸化物系、アゾ系の化合物等が挙げられる。重合開始剤は1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0043】
硬化促進剤としては、例えば、ホスフィン化合物、ホスホニウム塩を有する化合物、イミダゾール系化合物等が挙げられる。硬化促進剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0044】
無機充填材は、熱硬化性樹脂組成物の熱膨張率低下及び耐湿信頼性向上のために添加される。該無機充填材としては、例えば、溶融シリカ、結晶性シリカ、クリストバライト等のシリカ類、アルミナ、窒化珪素、窒化アルミニウム、ボロンナイトライド、酸化チタン、ガラス繊維、酸化マグネシウムなどが挙げられる。これらの無機充填材の平均粒径及び形状は、用途に応じて選択することができる。なかでも球状アルミナ、球状溶融シリカ、ガラス繊維等が好ましい。
【0045】
離型剤は、金型からの離型性を向上させるために添加される。離型剤としては、例えば、カルナバワックス、ライスワックス、キャンデリラワックス、ポリエチレン、酸化ポリエチレン、ポリプロピレン、モンタン酸、モンタン酸と飽和アルコール、2-(2-ヒドロキシエチルアミノ)エタノール、エチレングリコール、グリセリン等とのエステル化合物であるモンタンワックス、ステアリン酸、ステアリン酸エステル、ステアリン酸アミドなどが挙げられる。
【0046】
難燃剤は、難燃性を付与するために添加される。難燃剤は公知のものを使用することができ、特に制限されない。難燃剤としては、例えば、ホスファゼン化合物、シリコーン化合物、モリブデン酸亜鉛担持タルク、モリブデン酸亜鉛担持酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化モリブデン等が挙げられる。
【0047】
イオントラップ剤は、液状樹脂組成物中に含まれるイオン不純物を捕捉し、熱劣化及び吸湿劣化を防ぐために添加される。イオントラップ剤は公知のものを全て使用することができ、特に制限されない。イオントラップ剤としては、例えば、ハイドロタルサイト類、水酸化ビスマス化合物、希土類酸化物等が挙げられる。
【0048】
硬化性樹脂組成物の調製手段、条件等は、特に限定されない。例えば、所定配合量の各種成分をミキサー等によって十分に均一に撹拌及び混合した後、ミキシングロール、押出機、ニーダー、ロール、エクストルーダー等を用いて混練する方法が挙げられる。混練方法は、特に限定されない。
【0049】
本実施形態に係る硬化性樹脂組成物の25℃における粘度は、塗工性の観点から、400~4000mPa・s、400~3000mPa・s、又は、500~2000mPa・sであってもよい。硬化性樹脂組成物の25℃における粘度は、E型粘度計によって、測定することができる。
【0050】
本実施形態の硬化性樹脂組成物の硬化物の下記の方法により測定される比誘電率(Dk)の平均値が3.0未満であり、該樹脂組成物の硬化物の下記の方法により測定される比誘電率(Dk)の吸湿ドリフトは0.05以下であってもよい。硬化性組成物の硬化物の下記の方法により測定される比誘電率(Dk)の平均値及び吸湿ドリフトが上記範囲内であれば、該樹脂組成物を高周波基板材料としてより好適に使用することができる。
【0051】
比誘電率(Dk)の平均値及び吸湿ドリフトの測定方法:
硬化性樹脂組成物の硬化物を85℃、85%RHの恒温恒湿槽中に1000時間保持し、保持開始0時間後(保持開始前)、250±10時間後、500±10時間後、750±10時間後、1000時間後に、硬化性樹脂組成物の硬化物の周波数10GHzでの比誘電率(Dk)を測定する。得られた5つの測定値から平均値を求め、また、該測定値のうちの最大値及び最小値を用いて、下記の計算を行うことで比誘電率(Dk)の吸湿ドリフトを求める。
比誘電率(Dk)の吸湿ドリフト=(比誘電率(Dk)の最大値)-(比誘電率(Dk)の最小値)
【0052】
本実施形態の硬化性樹脂組成物の硬化物の上記の方法で測定される比誘電率(Dk)の平均値は、高周波帯における伝送損失の低減の観点から、2.8以下、2.6以下又は2.5以下であってもよい。また、本実施形態の硬化性樹脂組成物の硬化物の上記の方法で測定される比誘電率(Dk)の吸湿ドリフトは、高周波での電気信号の品質向上の観点から、0.04以下、0.03以下又は0.02以下であってもよい。
【0053】
本実施形態の硬化性樹脂組成物の硬化物の下記の方法により測定される誘電正接(Df)の平均値が5.0×10-3未満であり、該樹脂組成物の硬化物の下記の方法により測定される誘電正接(Df)の吸湿ドリフトが0.0010以下であってもよい。硬化性組成物の硬化物の下記の方法により測定される誘電正接(Df)の平均値及び吸湿ドリフトが上記範囲内であれば、該樹脂組成物を高周波基板材料としてより好適に使用することができる。
誘電正接(Df)の平均値及び吸湿ドリフトの測定方法:
硬化性樹脂組成物の硬化物を85℃、85%RHの恒温恒湿槽中に1000時間保持し、保持開始0時間後(保持開始前)、250±10時間後、500±10時間後、750±10時間後、1000時間後に、硬化性樹脂組成物の硬化物の周波数10GHzでの誘電正接(Df)を測定する。得られた5つの測定値から平均値を求め、また、該測定値のうちの最大値及び最小値を用いて、下記の計算を行うことで誘電正接(Df)の吸湿ドリフトを求める。
誘電正接(Df)の吸湿ドリフト=(誘電正接(Df)の最大値)-(誘電正接(Df)の最小値)
【0054】
本実施形態の硬化性樹脂組成物の硬化物の上記の方法で測定される誘電正接(Df)の平均値は、高周波帯における伝送損失の低減の観点から、4.5×10-3以下、4.0×10-3以下、3.5×10-3以下、3.0×10-3未満、2.8×10-3以下、2.6×10-3以下又は2.5×10-3以下であってもよい。また、本実施形態の硬化性樹脂組成物の硬化物の上記の方法で測定される誘電正接(Df)の吸湿ドリフトは、高周波での電気信号の品質向上の観点から、0.0007以下、0.0005以下、0.0003以下、又は0.0002以下であってもよい。
【0055】
高周波帯における伝送損失の低減の観点から、本実施形態の硬化性樹脂組成物の硬化物の上記の方法により測定される比誘電率(Dk)の平均値が3.0未満であり、該樹脂組成物の硬化物の上記の方法により測定される比誘電率(Dk)の吸湿ドリフトは0.05以下であり、該樹脂組成物の硬化物の上記の方法により測定される誘電正接(Df)の平均値が5.0×10-3未満又は3.0×10-3未満であり、該樹脂組成物の硬化物の上記の方法により測定される誘電正接(Df)の吸湿ドリフトが0.0010以下であってもよい。
【0056】
高周波帯における伝送損失の低減の観点から、本実施形態の硬化性樹脂組成物の硬化物を85℃、85%RHの恒温恒湿槽中に1000時間保持した後、当該硬化物の周波数10GHzでの比誘電率(Dk)が3.0未満であり、周波数10GHzでの誘電正接(Df)が5.0×10-3未満であってもよく、当該硬化物の周波数10GHzでの比誘電率(Dk)が3.0未満であり、周波数10GHzでの誘電正接(Df)が3.0×10-3未満であってもよく、当該硬化物の周波数10GHzでの比誘電率(Dk)が2.8以下であり、周波数10GHzでの誘電正接(Df)が2.8×10-3未満であってもよく、当該硬化物の周波数10GHzでの比誘電率(Dk)が2.6以下であり、周波数10GHzでの誘電正接(Df)が2.6×10-3未満であってもよく、当該硬化物の周波数10GHzでの比誘電率(Dk)が2.5以下であり、周波数10GHzでの誘電正接(Df)が2.5×10-3未満であってもよい。
【0057】
本実施形態に係る硬化性樹脂組成物は、例えば、以下のような方法で製造することができる。例えば、マレイミド樹脂、並びに、重合開始剤及び/又は硬化促進剤を、同時に又は別々に、必要に応じて加熱処理を行いながら混合、撹拌、溶解及び/又は分散させることにより、硬化性樹脂組成物を得ることができる。該硬化性樹脂組成物に、無機充填材、離型剤、架橋剤、有機溶剤、難燃剤及びイオントラップ剤のうちの少なくとも1種を添加して混合してもよい。
【0058】
組成物の製造方法、並びに、混合、撹拌及び分散等を行う装置については、特に限定されない。具体的には、例えば、撹拌及び加熱装置を備えたライカイ機、2本ロールミル、3本ロールミル、ボールミル、プラネタリーミキサー、又はマスコロイダー等を用いることができ、これらの装置を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0059】
[硬化性樹脂組成物の硬化物及び該硬化物を含む樹脂層]
本実施形態に係る硬化性樹脂組成物は、比誘電率(Dk)及び誘電正接(Df)が共に低く、吸湿ドリフトが少ない該硬化性樹脂組成物の硬化物を含む樹脂層(硬化フィルム)を形成することができる。該硬化性樹脂組成物の硬化物は、熱硬化によって硬化された硬化物であってもよく、光硬化によって硬化された硬化物であってよく、熱硬化と光硬化を併用してもよい。樹脂層は従来知られている方法により形成することができる。樹脂層は、例えば、アプリケータを用いて硬化性樹脂組成物を基材上に塗布し、乾燥機で乾燥処理を行った後、硬化処理を行うことで形成することができる。硬化処理としては、例えば、紫外線(UV)照射による光硬化処理及び窒素乾燥機を用いての熱硬化処理が挙げられる。硬化処理は、光硬化処理又は熱硬化処理を単独で行ってもよく、光硬化処理及び熱硬化処理を組み合わせて行ってもよい。
【0060】
本実施形態に係る硬化性樹脂組成物を用いて、該硬化性樹脂組成物の硬化物から形成された樹脂層を備える高周波基板、該高周波基板と電気的に接続されたアンテナと、を備える、アンテナモジュール、アンテナモジュールを複数個組み合わせたアンテナ装置を作製することができる。上記樹脂層はビア孔を有してもよい。
【0061】
樹脂層の厚さは、インピーダンス制御の観点から、12μm以上200μm以下であってよく、25μm以上100μm以下であってよい。
【0062】
[積層体]
本実施形態に係る積層体は、上記の硬化性樹脂組成物の硬化物を含む樹脂層を備える。該積層体は、上記の硬化性樹脂組成物以外の硬化性樹脂組成物の硬化物を含む樹脂層を更に備えてもよい。
【0063】
上記の硬化性樹脂組成物以外の硬化性樹脂組成物は、一般的に回路基板の形成に使用される硬化性樹脂組成物であれば特に限定されず、例えば、ポリイミド樹脂及びエポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1つの樹脂を含む樹脂組成物であってよい。
【0064】
樹脂以外の材料としては、セラミックス、石英、ガラスなどが挙げられる。
【0065】
[高周波基板]
本実施形態に係る硬化性樹脂組成物を使用して、高周波基板を形成してもよい。本実施形態に係る硬化性樹脂組成物を使用して形成された高周波基板は、本実施形態に係る硬化性樹脂組成物の硬化物を含む。該高周波基板は、例えば、1層以上の絶縁基材層を含み、本実施形態の硬化性樹脂組成物の硬化物以外の絶縁材料からなる層を含んでもよい。本実施形態の硬化性樹脂組成物の硬化物以外の絶縁材料としては、液晶ポリマー(LCP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂、フッ素樹脂、シクロオレフィン樹脂、マレイミド樹脂、ポリイミド(PI)樹脂、変性ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、石英、セラミック、サファイア、磁性体等が挙げられる。絶縁基材層が本実施形態の硬化性樹脂組成物の硬化物を含むと、吸湿ドリフトをより少なくできる。
【0066】
絶縁基材層の数は特に限定されず、例えば、1層以上10層以下、1層以上8層以下、又は1層以上6層以下であってよく、10層以上であってもよい。
【0067】
絶縁基材層の厚さは、インピーダンス制御の観点から、12μm以上200μm以下であってよく、25μm以上100μm以下であってよい。
【0068】
高周波基板は、絶縁基材層と導体パターンから構成される導体層及び/又は絶縁基材層と導体パターンから構成されるビルドアップ層を含んでもよい。
【0069】
高周波基板は、2層以上の絶縁基材層と、絶縁基材層の間に配置された1層以上の接着剤層とを含み、絶縁基材層及び接着剤層のうち少なくとも1層が上述した高周波基板用の硬化性樹脂組成物の硬化物を含んでもよい。
【0070】
接着剤層は、接着剤の用途で使用される一般的な樹脂組成物の硬化物を含んでもよく、上述した高周波基板用の硬化性樹脂組成物の硬化物を含んでもよい。
【0071】
[アンテナモジュール]
本実施形態に係るアンテナモジュールは、例えば、ミリ波レーダ等のレーダ用アンテナモジュール、センサー用アンテナモジュールなどの用途で使用できる。アンテナモジュールは、例えば、自動車、鉄道車両、船舶及び航空機等の屋外で使用される、有人又は無人で運転される乗物に搭載されるアンテナモジュールであってよく、無線子局(RU)、基地局及び中継局等の固定のインフラ設備及びネットワーク機器に搭載されるアンテナモジュールであってもよい。適用される通信システムとしては、AD(Autonomous Driving、自動運転)システム、ADAS(Advanced Driver Assistance System、先進運転支援システム)、エッジコンピューティングシステム、クラウドコンピューティングシステム、IoT(Internet of Things、モノのインターネット)システム;LTE(Long Term Evolution)、4G通信システム(第4世代移動通信システム)、5G通信システム(第5世代移動通信システム)、次世代通知システム、V2X(Vehicle to X又はVehicle to Everything)通信システム、V2N(Vehicle to X又はVehicle to Network)通信システム、無線通信システム、衛星通信システム等が挙げられる。
【0072】
また、本実施形態に係るアンテナモジュールは、例えば、アンテナ装置、無線子局(RU)、基地局、中継局、半導体装置、半導体モジュール、太陽電池、太陽電池モジュール、照明装置、表示装置、ワイヤレス給電装置、無線電力伝送装置、レクテナ、ペイロード等に使用できる。アンテナ装置は、ミリ波レーダ等のレーダ用のアンテナ装置であってよく、センサー用のアンテナ装置であってよい。半導体装置及び半導体モジュールは、例えば、LiDAR(Light Detection And Ranging)、CCD(Charge Coupled Device)イメージセンサー、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサー等のセンサー用の半導体装置及び半導体モジュールであってよい。半導体装置及び半導体モジュールに含まれる半導体素子としては、半導体レーザー、固体撮像素子(CCD、CMOS等)、発光ダイオード、ダイオード、トランジスタ、サイリスタ、集積回路(Integrated Circuit,IC)、メモリ等が挙げられる。
【0073】
本実施形態に係るアンテナモジュールは、上述した高周波基板用の硬化性樹脂組成物の硬化物を含む高周波基板と、高周波基板と電気的に接続されたアンテナと、を備える。本実施形態に係るアンテナモジュールでは、高周波基板が上述した高周波基板用の硬化性樹脂組成物の硬化物を含むので、基板材料の吸湿ドリフトが少なく、屋外環境で使用されるアンテナモジュール及びアンテナ装置に適している。
【0074】
本実施形態に係るアンテナモジュールが備える高周波基板は、例えば、1層以上の絶縁基材層を含み、本実施形態の硬化性樹脂組成物の硬化物以外の絶縁材料からなる層を含んでもよい。本実施形態の硬化性樹脂組成物の硬化物以外の絶縁材料としては、液晶ポリマー(LCP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂、フッ素樹脂、シクロオレフィン樹脂、マレイミド樹脂、ポリイミド(PI)樹脂、変性ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、石英、セラミック、サファイア、磁性体等が挙げられる。絶縁基材層が本実施形態の硬化性樹脂組成物の硬化物を含むと、吸湿ドリフトをより少なくできる。
【0075】
アンテナモジュールが備える高周波基板において、絶縁基材層の数は特に限定されず、例えば、1層以上10層以下、1層以上8層以下、又は1層以上6層以下であってよく、10層以上であってもよい。高周波基板が複数の絶縁基材層を含む場合、伝送損失を低減する観点から、高周波基板のアンテナに接する層が低誘電特性を有する絶縁材料を含むことが好ましく、上述した高周波基板用の硬化性樹脂組成物の硬化物を含むことがより好ましい。
【0076】
低誘電特性を有する絶縁材料としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、液晶ポリマー(LCP)、ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂、フッ素樹脂、シクロオレフィン樹脂、マレイミド樹脂、ポリイミド(PI)樹脂、変性ポリイミド樹脂等が挙げられる。
【0077】
アンテナモジュールが備える高周波基板において、絶縁基材層の厚さは、インピーダンス制御の観点から、12μm以上200μm以下であってよく、25μm以上100μm以下であってよい。
【0078】
アンテナモジュールが備える高周波基板は、絶縁基材層と導体パターンから構成される導体層及び/又は絶縁基材層と導体パターンから構成されるビルドアップ層を含んでもよい。
【0079】
本実施形態に係るアンテナモジュールは、単一のアンテナを備えてもよく、複数のアンテナを備えてもよい。本実施形態に係るアンテナモジュールは、単一の種類のアンテナを備えてもよく、複数の種類のアンテナを備えてもよい。
【0080】
アンテナは、導体パターン等を介して、高周波基板と電気的に接続される。導体パターンは、例えば、マイクロストリップ線路、スロット線路、コプレーナ線路等の伝送線路、スルーホール、ビアなどを含んでいてもよい。導体パターンの材質としては、銅、アルミニウム、金、銀、これらの合金等が挙げられる。
【0081】
アンテナは、アンテナ素子、アレイアンテナ、ホーンアンテナ、又はその他形状のアンテナであってよい。アンテナ素子としては、マイクロストリップアンテナ(パッチアンテナ)、スロットアンテナ等が挙げられる。アンテナの設置方法は、特に制限はなく、例えば、高周波基板上に複数のアンテナ素子を二次元のアレイ状に配列してもよい。
【0082】
アンテナモジュールは、高周波基板が1層以上の絶縁基材層を含み、該絶縁基材層のうち少なくとも1層が上述した高周波基板用の硬化性樹脂組成物の硬化物を含んでもよい。この場合、吸湿ドリフトを更に少なくする観点から、上述した高周波基板用の硬化性樹脂組成物の硬化物を含む層は、アンテナにより近い位置に配置されることが好ましい。具体的には、上述した高周波基板用の硬化性樹脂組成物の硬化物を含む層にアンテナが搭載されることが好ましい。
【0083】
アンテナが高周波基板の絶縁基材層に接して搭載される場合、伝送損失を低減する観点から、アンテナに接する絶縁基材層は、低誘電特性を有する絶縁材料からなる層であることが好ましく、上述した高周波基板用の硬化性樹脂組成物の硬化物を含む層であることがより好ましい。
【0084】
アンテナモジュールが備える高周波基板は、2層以上の絶縁基材層と、絶縁基材層の間に配置された1層以上の接着剤層とを含み、絶縁基材層及び接着剤層のうち少なくとも1層が上述した高周波基板用の硬化性樹脂組成物の硬化物を含んでもよい。この場合、吸湿ドリフトを更に少なくする観点から、上述した高周波基板用の硬化性樹脂組成物の硬化物を含む層は、アンテナにより近い位置に配置されることが好ましい。
【0085】
接着剤層は、接着剤の用途で使用される一般的な樹脂組成物の硬化物を含んでもよく、上述した高周波基板用の硬化性樹脂組成物の硬化物を含んでもよい。
【0086】
本実施形態に係るアンテナモジュールは、高周波信号の処理を行う集積回路(IC)を更に備えていてもよい。集積回路は高周波基板に搭載されていてもよい。集積回路は、バンプ等を介して、高周波基板の表面及び内部に設けられた導体パターンと電気的に接続される。集積回路としては、例えば無線周波数集積回路(RFIC)等の集積回路が挙げられる。アンテナ基板は内部に集積回路、積層セラミックコンデンサ、及びインダクタ等の部品を内蔵していてもよい。
【0087】
バンプは、高周波基板と集積回路とを電気的に接続する。バンプを形成する材料としては、例えば、半田等の導体が挙げられる。
【0088】
アンテナモジュールは、上述した以外の構成を更に備えてもよく、例えば、放熱基板を更に備えてもよい。
【0089】
図1は、本開示に係るアンテナモジュールの一実施形態を模式的に示す断面図である。アンテナモジュール100は、高周波基板用の硬化性樹脂組成物の硬化物含む高周波基板10と、複数のアンテナ(アンテナ素子)3a~3dと、を備える。また、高周波基板10は、絶縁基材層1a~1dと、絶縁基材層1a~1dの間に配置された接着剤層2a~2cとを含む。また、集積回路6は、バンプ5を介して、高周波基板10に設けられた導体パターン4と電気的に接続されている。なお、
図1には、接着剤層と4つのアンテナと4層の絶縁基材層とが示されているが、本実施形態に係るアンテナモジュールでは、接着剤層を備えてなくてもよく、また、アンテナの個数及びビルドアップ層を含む絶縁基材層の層数はこれらの数に限定されない。
【0090】
高周波基板10は金属層を更に含んでよい。金属層は高周波基板10の少なくとも一方の表面、及び内部の積層体の層間に配置される。金属層を形成する材料としては、Cu箔、Cuメッキ、Cuペースト等が挙げられる。
【実施例0091】
本開示について以下の実施例を挙げて更に具体的に説明する。ただし、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0092】
<マレイミド樹脂の合成及び硬化性樹脂組成物の調製>
冷却管、分離槽、窒素導入管、熱電対、攪拌機を備え、溶媒を還流させながら加圧状態で反応を行うことが可能な設備を備えた2Lの耐圧性のSUS容器(轟産業株式会社製)に、無水ピロメリット酸(株式会社ダイセル製)111質量部、トルエン(和光純薬工業株式会社製)907質量部、及び、メタノール(大伸化学株式会社製)200質量部を投入した。次に、容器内に窒素ガスを導入してゲージ圧250kPaに加圧した後、80℃に昇温し、0.5時間保温した。続いて、ダイマージアミン(商品名「PRIAMINE1075」、クローダジャパン株式会社製)368質量部を滴下速度12.3g/minで滴下した。滴下後、80℃で0.5時間保温した後、メタンスルホン酸6.5質量部を加えた。その後、反応液中のアルコール系溶剤を除去しながら160℃に昇温した。昇温後160℃で2時間脱水閉環反応を行い、反応液中の水及びアルコール系溶剤を除去し、中間体のポリイミド樹脂を含有する溶液を得た。続いて、得られたポリイミド樹脂を含む溶液を130℃に冷却し、無水マレイン酸(扶桑化学工業株式会社製)50質量部を加えた。その後、160℃に昇温した。昇温後160℃で4時間脱水閉環反応を行い、反応液中の水を除去し、マレイミド樹脂を含む溶液を得た。
【0093】
得られたマレイミド樹脂を含む溶液を分液ロートに入れ、純水1200質量部を投入し、分液ロートを振とうし、静置させた。静置後、有機層と水層とを分離した後、有機層のみを回収した。回収した有機層を、冷却器、窒素導入管、熱伝対、撹拌機、及び真空ポンプを備えた1Lのガラス製容器に投入し、88~93℃に昇温し、水を除去した後、115℃に昇温し、115℃で0.5時間保温して溶剤を一部除去し、硬化性樹脂組成物(A-1)を得た。(A-1)中のマレイミド樹脂の重量平均分子量(Mw)は17200であり、(A-1)の固形分量は58.9質量%であった。なお、マレイミド樹脂の重量平均分子量(Mw)及び(A-1)の固形分量は以下の方法により求めた。
【0094】
[重量平均分子量]
マレイミド樹脂の重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定した。テトラヒドロフラン(THF)にマレイミド樹脂を濃度3質量%となるように溶解させたサンプルを、30℃に加温されたカラム(GL-R420(株式会社日立ハイテクフィールディング製)×1本、GL-R430(株式会社日立ハイテクフィールディング製)×1本、GL-R440(株式会社日立ハイテクフィールディング製)×1本)に50μL注入し、展開溶媒としてTHFを用い、流速1.6mL/minの条件で測定を行った。なお、検出器には、L-3350 RI検出器(株式会社日立製作所製)を用い、溶出時間から標準ポリスチレン(東ソー株式会社製)を用いて作製した分子量/溶出時間曲線により重量平均分子量(Mw)を換算した。
【0095】
[固形分量]
マレイミド樹脂Xgを重さZ1gのアルミシャーレにとり、150℃で0.5時間加熱後のアルミシャーレ(残存した樹脂組成物を含む)の重さがZ2gであったとき、固形分量(質量%)を下記の式で求めた。
固形分量(質量%)={(Z2-Z1)/X}×100
【0096】
以下の成分を用意し、得られた硬化性樹脂組成物(A-1)と表1に示す成分とを表1に示す配合量(固形分量、単位:質量部)で混合して、硬化性樹脂組成物(A-2)~(A-4)を調製した。
架橋剤:
・A-DCP(商品名、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、新中村化学工業株式会社製)
重合開始剤:
・パークミルD(商品名、ジクミルパーオキサイド、日油株式会社製)
・Omnirad-819(商品名、フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、IGM Resins B.V.製)
有機溶剤:
・シクロペンタノン(日本ゼオン株式会社製)
【0097】
【0098】
<マレイミド樹脂の硬化フィルムの作製>
硬化性樹脂組成物(A-1)をアプリケータを用いて、Cu箔(三井金属鉱業株式会社製、商品名「3EC-M2S-VLP」)の上に乾燥後に100μmの厚さになるように塗布し、乾燥機で130℃、20分間の乾燥処理を行った。続いて、UV照射機(コンベア付UV照射装置、株式会社GSユアサ製、メタルハライドランプ(MAL 500NAL)使用)を用いて3000mJ/cm2を照射した。照射後に窒素乾燥機(ヤマト科学株式会社製、型番:DN410I)を用いて200℃で60分間の硬化処理を窒素雰囲気下で行った。硬化後、室温まで冷却した後に、過硫酸アンモニウム水溶液で銅箔をエッチングにより除去し、105℃で30分間乾燥させて硬化フィルム(B-1)を作製した。
【0099】
硬化性樹脂組成物(A-1)に替えて硬化性樹脂組成物(A-2)~(A-4)を使用したこと以外は硬化フィルム(B-1)の作製と同様にして、硬化フィルム(B-2)~(B-4)を作製した。
【0100】
硬化フィルムとして、以下の材料を用意した。
B-5:ポリイミドフィルム(東レ・デュポン株式会社製、商品名「カプトン」、品番「200EN」)
B-6:LCPフィルム(株式会社クラレ製、商品名「ベクスター」、品番「CTQ-100」
【0101】
(実施例1~4及び比較例1~2)
用意した硬化フィルムについて、以下の手順で比誘電率(Dk)及び誘電正接(Df)を測定し、それぞれ平均値と吸湿ドリフトを求めた。結果を表2,3に示す。
【0102】
[比誘電率(Dk)及び誘電正接(Df)の測定と吸湿ドリフトの評価]
硬化フィルムを用いて、55mm×100mmの試験片を作製した。作製した試験片を105℃の乾燥機で30分間乾燥させた後、室温(25℃、52%RH)で24時間放置した。その後、85℃、85%RHの恒温恒湿槽に所定時間暴露させた。暴露開始から0時間(暴露開始前)、250±10時間後、500±10時間後、750±10時間後、及び1000時間後に、恒温恒湿槽からフィルムサンプルを取り出し、3分間室温で空冷した後、ネットワークアナライザ(商品名「P5003A」、KEYSIGHT Technologies社製)及びスプリットシリンダー共振器(KEYSIGHT Technologies社製)にて、周波数10GHzでの比誘電率(Dk)及び誘電正接(Df)を測定した。比誘電率(Dk)及び誘電正接(Df)について、それぞれ得られた5つの測定値から平均値を求め、また、該測定値のうちの最大値及び最小値を用いて、下記の計算を行うことで比誘電率(Dk)及び誘電正接(Df)の吸湿ドリフトを求めた。
比誘電率(Dk)の吸湿ドリフト=(比誘電率(Dk)の最大値)-(比誘電率(Dk)の最小値)
誘電正接(Df)の吸湿ドリフト=(誘電正接(Df)の最大値)-(誘電正接(Df)の最小値)
【0103】
[評価基準]
比誘電率(Dk)の評価:
A:比誘電率(Dk)の平均値が2.5未満かつ吸湿ドリフトが0.05以下
B:比誘電率(Dk)の平均値が2.5以上3.0未満かつ吸湿ドリフトが0.05以下
C:比誘電率(Dk)の平均値が3.0以上又は吸湿ドリフトが0.05を超える
誘電正接(Df)の評価:
A:誘電正接(Df)の平均値が3.0×10-3未満かつ吸湿ドリフトが0.0010以下
B:誘電正接(Df)の平均値が3.0×10-3以上5.0×10-3未満かつ吸湿ドリフトが0.0010以下
C:誘電正接(Df)の平均値が5.0×10-3以上又は吸湿ドリフトが0.0010を超える
【0104】
【0105】
【0106】
硬化フィルムとして、ポリイミドフィルム、LCPフィルムを使用した比較例1,2と比較して、本実施形態の屋外環境で使用される高周波基板用の硬化性樹脂組成物の硬化物を使用した実施例1~4では、比誘電率(Dk)及び誘電正接(Df)が共に低く、また、比誘電率(Dk)及び誘電正接(Df)の吸湿ドリフトが少なかった。
100…アンテナモジュール、10…高周波基板、1a,1b,1c,1d…絶縁基材層、2a,2b,2c…接着剤層、3a,3b,3c,3d…アンテナ(アンテナ素子)、4…導体パターン、5…バンプ、6…集積回路。