IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭硝子株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025014197
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】車両用フロントガラスとその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 27/12 20060101AFI20250123BHJP
   B60J 1/00 20060101ALI20250123BHJP
   B60S 1/02 20060101ALI20250123BHJP
   C03C 19/00 20060101ALI20250123BHJP
   C03C 17/06 20060101ALI20250123BHJP
   C03C 17/22 20060101ALI20250123BHJP
【FI】
C03C27/12 R
C03C27/12 M
B60J1/00 B
B60S1/02 300
C03C19/00 Z
C03C17/06 A
C03C17/22 Z
B60J1/00 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023116528
(22)【出願日】2023-07-18
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】手嶋 直樹
【テーマコード(参考)】
3D225
4G059
4G061
【Fターム(参考)】
3D225AA03
3D225AA19
3D225AC10
3D225AD02
4G059AA01
4G059AB09
4G059AC03
4G059AC13
4G059AC20
4G059DA01
4G059DB10
4G059EA18
4G059EB09
4G061AA02
4G061AA23
4G061BA02
4G061CB03
4G061CB19
4G061CB20
4G061CD03
4G061CD18
4G061DA23
4G061DA30
(57)【要約】
【課題】端子付け後の破壊強度を高めることが可能な車両用フロントガラスとその製造方法の提供。
【解決手段】複数のガラス板(11、13)が中間膜(12)を介して貼り合わされた合わせガラス(10)を含み、合わせガラス(10)は、ガラス板(11)と、ガラス板(11)の一方の表面の上に形成され、銀とガラスフリットとを含む材料からなり、端子(102)が接合される端子接合部(20T)を有する導電体(20)と、端子接合部(20T)上に無鉛半田(101)を介して接合された端子(102)とを有する端子付きガラス板(11X)を含み、導電体(20)は端子接合部(20T)を含み、端子接合部(20T)の少なくとも表面が圧縮応力部(20CS)である、車両用フロントガラス(1)。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のガラス板が中間膜を介して貼り合わされた合わせガラスを含み、
前記合わせガラスは、前記ガラス板と、当該ガラス板の一方の表面の上に形成され、銀とガラスフリットとを含む材料からなり、端子が接合される端子接合部を有する導電体と、当該導電体の前記端子接合部上に無鉛半田を介して接合された端子とを有する端子付きガラス板を含む、車両用フロントガラスであって、
前記導電体は、電気的機能部を含むか、電気的機能部に電気的に接続されており、
前記導電体は、前記電気的機能部に給電するための給電部を含み、当該給電部が前記端子接合部を含み、
前記端子接合部の少なくとも表面が、圧縮応力部である、車両用フロントガラス。
【請求項2】
前記圧縮応力部は、微小部X線応力測定装置を用いて、sinψ法により測定される応力値が-20MPa以下である、請求項1に記載の車両用フロントガラス。
【請求項3】
前記圧縮応力部は、微小部X線応力測定装置を用いて、sinψ法により測定される応力値が-50~-20MPaである、請求項2に記載の車両用フロントガラス。
【請求項4】
前記導電体は、前記端子接合部を含む領域の表面に研磨部を有する、請求項1または2に記載の車両用フロントガラス。
【請求項5】
前記導電体は、前記端子接合部を含まない領域の表面に非研磨部を有する、請求項4に記載の車両用フロントガラス。
【請求項6】
前記端子付きガラス板は、前記ガラス板と前記導電体の前記端子接合部との間に遮光層を有し、
前記遮光層は、黒色顔料とガラスフリットとを含む、請求項1または2に記載の車両用フロントガラス。
【請求項7】
前記端子付きガラス板は、前記中間膜を介して対向する前記ガラス板に覆われない露出部を有し、前記導電体は、前記端子付きガラス板の前記中間膜側に形成され、前記導電体の前記端子接合部は、前記端子付きガラス板の前記露出部に形成された、請求項1または2に記載の車両用フロントガラス。
【請求項8】
前記合わせガラスにおいて、前記導電体は、前記端子付きガラス板の前記中間膜側と反対側に形成された、請求項1または2に記載の車両用フロントガラス。
【請求項9】
前記端子付きガラス板は、平面視にて、光学装置が取り付けられる光学装置取付領域と、当該光学装置取付領域内に位置し、外部から前記光学装置への入射光および/または前記光学装置からの出射光が通る透光部と、平面視にて、前記透光部の少なくとも一部を囲む遮光層とを有し、
前記導電体は、前記透光部の内部に形成された電熱線と、前記透光部の外部に形成された前記給電部と、前記透光部の外部に形成され、前記電熱線と前記給電部とを接続する接続配線とを含む、請求項8に記載の車両用フロントガラス。
【請求項10】
前記端子に、丸線状または箔状の導線からなる給電用部材が固定された、請求項1または2に記載の車両用フロントガラス。
【請求項11】
前記端子付きガラス板の材料である前記ガラス板の上に、前記導電体の材料である銀とガラスフリットとを含む銀含有ペーストを塗工する工程(S2)と、
前記導電体の材料を塗工した前記ガラス板を焼成して、前記端子接合部を含む前記導電体を形成する工程(S3)と、
前記導電体の前記端子接合部を含む領域の少なくとも表面を塑性変形させる工程(S5)と、
少なくとも表面を塑性変形させた前記端子接合部上に無鉛半田を介して前記端子を接合する工程(S6)とを有する、請求項1または2に記載の車両用フロントガラスの製造方法。
【請求項12】
工程(S5)は、前記導電体の前記端子接合部を含む領域の表面を研磨する工程である、請求項11に記載の車両用フロントガラスの製造方法。
【請求項13】
前記合わせガラスにおいて、前記端子付きガラス板は、前記中間膜を介して対向する前記ガラス板に覆われない露出部を有し、前記導電体は、前記端子付きガラス板の前記中間膜側に形成され、前記導電体の前記端子接合部は、前記端子付きガラス板の前記露出部に形成されており、
工程(S3)と工程(S5)との間に、前記複数のガラス板を、前記中間膜を介して貼り合わせる工程(S4)を有する、請求項11に記載の車両用フロントガラスの製造方法。
【請求項14】
前記合わせガラスにおいて、前記導電体は、前記端子付きガラス板の前記中間膜側と反対側に形成されており、
工程(S3)と工程(S5)との間に、前記複数のガラス板を、前記中間膜を介して貼り合わせる工程(S4)を有する、請求項11に記載の車両用フロントガラスの製造方法。
【請求項15】
前記端子付きガラス板は、前記ガラス板と前記導電体の前記端子接合部との間に遮光層を有し、
工程(S2)の前に、前記端子付きガラス板の材料である前記ガラス板の上に、前記遮光層の材料である黒色顔料とガラスフリットとを含むセラミックペーストを塗工する工程(S1)を有し、
工程(S3)において、前記遮光層の材料を焼成して、前記遮光層を形成する、請求項11に記載の車両用フロントガラスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両用フロントガラスとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両用の窓ガラスには、複数のガラス板が貼り合わされた合わせガラス、または強化ガラスが好ましく用いられる。一般的に、車両用フロントガラスの材料のガラス板は、周縁領域に遮光層が形成され、熱成形により曲面を有する形状に加工される。
また、車両用の窓ガラスにおいて、電気的機能部を含むか、電気的機能部に接続される導電体と、ハーネスおよびケーブル等の給電用部材とを含む車両用フロントガラスが知られている。電気的機能部としては、電熱線、電熱層、アンテナ、調光層、発光素子、およびこれらの組合せ等が挙げられる。
【0003】
例えば、フロントガラスでは、ワイパーに付着した霜、雪、および氷等を融かし、ワイパーの凍結を防止するために、フロントガラスの下端部および側端部等に電熱線または電熱層が形成される場合がある。
また、フロントガラスの内面には、自動運転および衝突事故の防止等のために、車両前方の情報を取得する、ADAS(Advanced Driver Assistance systems)カメラ、LiDAR(Light Detection And Ranging)、レーダーおよび光センサ等の光学機器と、これを収容するブラケット等と呼ばれる筐体とを含む光学装置が設置される場合がある。かかる構成では、光学装置によるセンシング精度を高めるために、光学機器の前方のガラス部分に、曇りおよび霜の防止のために電熱線または電熱層が形成される場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-18932号公報
【特許文献2】国際公開第2006/132319号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
導電体は例えば、銀粉とガラスフリットとを含む銀含有ペーストの塗工および焼成により形成できる。銀含有ペーストの焼成は、ガラス板の熱成形と同時に実施できる。
本明細書において、導電体を有するガラス板を「導電体付きガラス板」と言う。
【0006】
従来、導電体と給電用部材との接合は、半田を用いて行われている。導電体は好ましくは、電気的機能部に給電するための給電部を含むことができる。
従来は例えば、ワイヤーハーネス等の給電用部材の先端部に端子を固定し、この端子を導電体(好ましくは、導電体に含まれる給電部)に半田を用いて接合している。半田としては、有鉛半田と無鉛半田がある。近年、鉛の環境への影響が懸念され、有鉛半田の法的規制が広がりつつあるため、無鉛半田を用いた高品質な生産技術が求められている。
導電体と半田とを良好に接合するには、導電体と半田との接合界面に、導電体に含まれる1種以上の金属元素と半田に含まれる複数の金属元素との合金を含む合金層を形成する必要がある。そのためには、半田をその融点以上に加熱する必要がある。
【0007】
導電体付きガラス板に対して、上記半田接合を行うと、局所的に高温加熱と高温から常温への降温とが起こる。降温の際には、ガラス板の熱膨張係数と半田の熱膨張係数との差に起因して、ガラス板と半田に熱収縮量の差が生じ、ガラス板と半田との間に歪みが生じ、導電体付きガラス板に応力(具体的には、引張応力)が発生する。降温後にこの応力が残留する場合がある。この残留応力が原因となり、窓ガラスの製造後に、導電体付きガラス板にクラックが生じる恐れがある。
【0008】
一般的に、無鉛半田の融点は有鉛半田の融点より高く、例えば220℃程度であり、より高い温度(例えば300℃程度)で半田接合を行う必要である。そのため、無鉛半田を用いる場合、導電体付きガラス板には、温度および時間の点で、より大きな熱的負荷がかかり、より大きな応力が発生する。また、無鉛半田は弾性率の低い鉛を含まないため、有鉛半田に比べ、弾性率が高く、変形しにくいため、温度変化に伴って発生した応力が緩和しにくい。これら理由から、接合後の応力の残留およびそれによる製造後のクラック発生の問題は、特に、無鉛半田を使用する場合に起こり得る。
【0009】
端子付け後のガラス板の破壊強度が低い場合、ガラス板に外力が加わった際に、クラックが発生する恐れがある。特に、遮光層上に形成された給電部に対して、無鉛半田を用いて端子を接合する場合、端子付け後のガラス板の破壊強度が低下する傾向がある。導電体が車外にいる人から視認されにくいように設計しつつ、無鉛半田を用いた半田接合において、端子付け後のガラス板の破壊強度を高められることが好ましい。
本明細書において、「端子付け前または端子付け後の破壊強度」は、端子付け前または端子付け後のガラスに荷重を加え、破壊した時点の荷重であり、後記[実施例]の項に記載の方法にて測定することができる。
【0010】
特許文献1には、
電力を供給する配線が接合可能なガラス板モジュールであって、
ガラス板と、
前記ガラス板上に配置される加熱線と、
前記ガラス板上に配置され、前記配線が接続され、前記加熱線に電力を供給する給電部と、を備え、
前記給電部は、前記ガラス板より熱膨張率が大きい金属微粒子(好ましくは銀または銅の微粒子)を主成分とする導電性プリントにより形成され、
前記給電部の厚みが、前記加熱線の厚みよりも薄い、ガラス板モジュールが開示されている(請求項1、21)。
ガラス板モジュールは、前記給電部上に配置される半田(好ましくは無鉛半田)と、前記半田を介して前記給電部に固定される端子と、をさらに備えることができる(請求項23、25)。
【0011】
特許文献1には、給電部の厚みを加熱線よりも小さくすることで、ガラス板に生じる引張応力を減少でき、ガラス板および給電部のクラックを抑制できることが記載されている(段落0108)。
特許文献1にはまた、導電性プリントの印刷方法を工夫し、導電性プリントの印刷工程で、給電部の厚みを加熱線よりも小さくする方法が記載されている(段落0117、0118)。
【0012】
特許文献2には、
ガラス板の表面に形成された銀を主成分とする導電性被膜と、該導電性被膜上に半田を介して接合された端子とを備え、
前記導電性被膜の断面における少なくとも前記端子を接合した箇所について、単位面積当たり空洞の占める割合が10%以下であるガラス物品が開示されている(請求項1)。
特許文献2にはまた、無鉛半田について記載がないが、上記態様によれば、導電性被膜上に半田を介して端子を接合したときの接合強度を向上させることができることが記載されている(段落0015)。
【0013】
特許文献2にはまた、銀を主成分とする銀ペーストに、当該銀ペーストの全質量に対して1~5質量%の有機媒体を添加したペーストをガラス板の一方の主表面に印刷し、焼成により導電性被膜を形成し、該導電性被膜上に端子を接合するガラス物品の製造方法が開示されている(請求項3)。
特許文献2にはまた、ガラス板上に銀粒子及びガラスフリットを含有するペーストを印刷する第1のステップと、前記ペーストに加熱を伴う乾燥処理を施す第2のステップと、前記乾燥処理を施したガラス板を加熱して導電性被膜を焼成する第3のステップとを有する導電性被膜の製造方法が開示されている(請求項4)。
【0014】
しかしながら、特許文献1、2には、端子接合部の少なくとも表面が圧縮応力部である態様、および、圧縮応力部の好ましい応力値について、記載および示唆はない。
【0015】
本開示は上記事情に鑑みてなされたものであり、導電体と端子とを無鉛半田を用いて接合した部分を含み、端子付け後の破壊強度を高めることが可能な車両用フロントガラスとその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本開示は、以下の[1]~[15]の車両用フロントガラスとその製造方法を提供する。
[1] 複数のガラス板が中間膜を介して貼り合わされた合わせガラスを含み、
前記合わせガラスは、前記ガラス板と、当該ガラス板の一方の表面の上に形成され、銀とガラスフリットとを含む材料からなり、端子が接合される端子接合部を有する導電体と、当該導電体の前記端子接合部上に無鉛半田を介して接合された端子とを有する端子付きガラス板を含む、車両用フロントガラスであって、
前記導電体は、電気的機能部を含むか、電気的機能部に電気的に接続されており、
前記導電体は、前記電気的機能部に給電するための給電部を含み、当該給電部が前記端子接合部を含み、
前記端子接合部の少なくとも表面が、圧縮応力部である、車両用フロントガラス。
【0017】
[2] 前記圧縮応力部は、微小部X線応力測定装置を用いて、sinψ法により測定される応力値が-20MPa以下である、[1]の車両用フロントガラス。
[3] 前記圧縮応力部は、微小部X線応力測定装置を用いて、sinψ法により測定される応力値が-50~-20MPaである、[2]の車両用フロントガラス。
【0018】
[4] 前記導電体は、前記端子接合部を含む領域の表面に研磨部を有する、[1]~[3]のいずれかの車両用フロントガラス。
[5] 前記導電体は、前記端子接合部を含まない領域の表面に非研磨部を有する、[4]の車両用フロントガラス。
[6] 前記端子付きガラス板は、前記ガラス板と前記導電体の前記端子接合部との間に遮光層を有し、
前記遮光層は、黒色顔料とガラスフリットとを含む、[1]~[5]のいずれかの車両用フロントガラス。
【0019】
[7] 前記端子付きガラス板は、前記中間膜を介して対向する前記ガラス板に覆われない露出部を有し、前記導電体は、前記端子付きガラス板の前記中間膜側に形成され、前記導電体の前記端子接合部は、前記端子付きガラス板の前記露出部に形成された、[1]~[6]のいずれかの車両用フロントガラス。
【0020】
[8] 前記合わせガラスにおいて、前記導電体は、前記端子付きガラス板の前記中間膜側と反対側に形成された、[1]~[6]のいずれかの車両用フロントガラス。
[9] 前記端子付きガラス板は、平面視にて、光学装置が取り付けられる光学装置取付領域と、当該光学装置取付領域内に位置し、外部から前記光学装置への入射光および/または前記光学装置からの出射光が通る透光部と、平面視にて、前記透光部の少なくとも一部を囲む遮光層とを有し、
前記導電体は、前記透光部の内部に形成された電熱線と、前記透光部の外部に形成された前記給電部と、前記透光部の外部に形成され、前記電熱線と前記給電部とを接続する接続配線とを含む、[8]の車両用フロントガラス。
【0021】
[10] 前記端子に、丸線状または箔状の導線からなる給電用部材が固定された、[1]~[9]のいずれかの車両用フロントガラス。
【0022】
[11] 前記端子付きガラス板の材料である前記ガラス板の上に、前記導電体の材料である銀とガラスフリットとを含む銀含有ペーストを塗工する工程(S2)と、
前記導電体の材料を塗工した前記ガラス板を焼成して、前記端子接合部を含む前記導電体を形成する工程(S3)と、
前記導電体の前記端子接合部を含む領域の少なくとも表面を塑性変形させる工程(S5)と、
少なくとも表面を塑性変形させた前記端子接合部上に無鉛半田を介して前記端子を接合する工程(S6)とを有する、[1]または[2]の車両用フロントガラスの製造方法。
【0023】
[12] 工程(S5)は、前記導電体の前記端子接合部を含む領域の表面を研磨する工程である、[11]の車両用フロントガラスの製造方法。
【0024】
[13] 前記合わせガラスにおいて、前記端子付きガラス板は、前記中間膜を介して対向する前記ガラス板に覆われない露出部を有し、前記導電体は、前記端子付きガラス板の前記中間膜側に形成され、前記導電体の前記端子接合部は、前記端子付きガラス板の前記露出部に形成されており、
工程(S3)と工程(S5)との間に、前記複数のガラス板を、前記中間膜を介して貼り合わせる工程(S4)を有する、[11]または[12]の車両用フロントガラスの製造方法。
【0025】
[14] 前記合わせガラスにおいて、前記導電体は、前記端子付きガラス板の前記中間膜側と反対側に形成されており、
工程(S3)と工程(S5)との間に、前記複数のガラス板を、前記中間膜を介して貼り合わせる工程(S4)を有する、[11]または[12]の車両用フロントガラスの製造方法。
【0026】
[15] 前記端子付きガラス板は、前記ガラス板と前記導電体の前記端子接合部との間に遮光層を有し、
工程(S2)の前に、前記端子付きガラス板の材料である前記ガラス板の上に、前記遮光層の材料である黒色顔料とガラスフリットとを含むセラミックペーストを塗工する工程(S1)を有し、
工程(S3)において、前記遮光層の材料を焼成して、前記遮光層を形成する、[11]~[14]のいずれかの車両用フロントガラスの製造方法。
【発明の効果】
【0027】
本開示の車両用フロントガラスでは、端子接合部の少なくとも表面が、圧縮応力部である。
本開示によれば、導電体と端子とを無鉛半田を用いて接合した部分を含み、端子付け後の破壊強度を高めることが可能な車両用フロントガラスとその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明に係る第1実施形態の車両用フロントガラスの全体平面図である。
図2図1の部分拡大平面図である。
図3図2のIII-III線断面図である。
図4図3の部分拡大断面図である。
図5A】第1実施形態の車両用フロントガラスの製造方法の工程図である。
図5B】第1実施形態の車両用フロントガラスの製造方法の工程図である。
図5C】第1実施形態の車両用フロントガラスの製造方法の工程図である。
図5D】第1実施形態の車両用フロントガラスの製造方法の工程図である。
図6】第1実施形態の設計変更例を示す断面図である。
図7A】本発明に係る第2実施形態の車両用フロントガラスの全体平面図である。
図7B図7Aの部分拡大平面図である。
図8図7BのVIII-VIII線断面図である。
図9A】第2実施形態の車両用フロントガラスの製造方法の工程図である。
図9B】第2実施形態の車両用フロントガラスの製造方法の工程図である。
図9C】第2実施形態の車両用フロントガラスの製造方法の工程図である。
図10A】研磨なしの導電体の空孔率の測定例を示す画像である。
図10B】研磨ありの導電体の空孔率の測定例を示す画像である。
図10C】研磨ありの導電体の空孔率の測定例を示す画像である。
図11A】例41~45の評価結果を示すグラフである。
図11B】例41~45の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
一般的に、薄膜構造体は、厚みに応じて、「フィルム」および「シート」等と称される。本明細書では、これらを明確には区別しない。したがって、本明細書で言う「フィルム」に「シート」が含まれる場合がある。
本明細書において、形状に付く「略」は、その形状の角を丸くした面取り形状、その形状の一部が欠けた形状、その形状に任意の小さな形状が追加した形状等、部分的に変化した形状を意味する。
本明細書において、特に明記しない限り、「ガラス板の表面」とは、ガラス板の端面(側面とも言う。)を除く、面積の大きい主面を指す。
本明細書において、特に明記しない限り、「上下」、「左右」、「縦横」、「内外」は、車両用フロントガラスが車両に嵌め込まれた状態(実際の使用状態)での「上下」、「左右」、「縦横」、「内外」である。
本明細書において、「無鉛半田」は、鉛を実質的に含まない半田であり、無鉛半田中の鉛含有量は、500ppm以下である。
本明細書において、特に明記しない限り、無鉛半田が「鉛以外のある金属元素を実質的に含まない」とは、その金属元素の含有量が1000ppm以下であることを意味する。
本明細書において、特に明記しない限り、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0030】
[車両用フロントガラスとその製造方法]
本開示は、複数のガラス板が中間膜を介して貼り合わされた合わせガラスを含む車両用フロントガラスとその製造方法に関する。
本明細書において、特に明記しない限り、「ガラス板」は、未強化ガラスを指す。
【0031】
合わせガラスの材料であるガラス板の種類としては特に制限されず、ソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノシリケートガラス、リチウムシリケートガラス、石英ガラス、サファイアガラスおよび無アルカリガラス等が挙げられる。
【0032】
合わせガラスの厚みは特に制限されず、車両用フロントガラスの用途では、好ましくは2~6mmである。
合わせガラスが2枚のガラス板からなる場合、車内側のガラス板の厚みと車外側のガラス板の厚みとは、同一でも非同一でもよい。車内側のガラス板の厚みは、好ましくは0.3~2.3mmである。車内側のガラス板の厚みは、0.3mm以上であるとハンドリング性が良く、2.3mm以下であると質量が大きくなり過ぎない。車外側のガラス板の厚みは、好ましくは1.0~3.0mmである。車外側のガラス板の厚みは、1.0mm以上であると、耐飛び石性能等の強度が充分であり、3.0mm以下であると、合わせガラスの質量が大きくなり過ぎず、車両の燃費の点で好ましい。車外側のガラス板の厚みと車内側のガラス板の厚みがいずれも1.8mm以下であれば、合わせガラスの軽量化と遮音性とを両立でき、好ましい。
【0033】
車両用フロントガラスは、車両に取り付けられたときに、車外側が凸となるような湾曲形状であってよい。車両用フロントガラスが合わせガラスである場合、車内側のガラス板および車外側のガラス板は、ともに車外側が凸となるような湾曲形状であってよい。車両用フロントガラスは、左右方向または上下方向のいずれか一方向のみに湾曲した単曲曲げ形状であってもよいし、左右方向と上下方向に湾曲した複曲曲げ形状であってもよい。車両用フロントガラスの曲率半径は2000~11000mmであってよい。車両用フロントガラスは、左右方向と上下方向の曲率半径が同一でも非同一でもよい。車両用フロントガラスの曲げ成形には、重力成形、プレス成形、およびローラー成形等が用いられる。
【0034】
合わせガラスは、表面の少なくとも一部の領域に、撥水、低反射性、低放射性、紫外線遮蔽、赤外線遮蔽、および着色等の機能を有する機能膜を有していてもよい。
合わせガラスは、内部の少なくとも一部の領域に、低反射性、低放射性、紫外線遮蔽、赤外線遮蔽、および着色等の機能を有する機能膜を有していてもよい。合わせガラスの中間膜の少なくとも一部の領域が、紫外線遮蔽、赤外線遮蔽、および着色等の機能を有していてもよい。
合わせガラスの中間膜は、単層膜でも積層膜でもよい。
【0035】
合わせガラスは、表面の所定の領域に遮光層を有していてもよい。遮光層は公知方法にて形成でき、例えば、合わせガラスの材料であるガラス板の表面の所定の領域に、黒色顔料とガラスフリットとを含むセラミックペーストを塗工し、焼成することで、形成できる。遮光層の厚みは特に制限されず、例えば5~20μmである。遮光層は、合わせガラスの任意の面の周縁領域に形成できる。遮光層は例えば、車内側のガラス板および/または車外側のガラス板の車内側の面の周縁領域に形成できる。
【0036】
本開示において、合わせガラスは、ガラス板と、このガラス板の一方の表面の上に形成され、銀とガラスフリットとを含む材料からなり、端子が接合される端子接合部を有する導電体と、導電体の端子接合部上に無鉛半田を介して接合された端子とを有する端子付きガラス板を含む。
本明細書において、導電体の「端子接合部」は、導電体における無鉛半田の直下部分を指す。
【0037】
導電体は、ガラス板の表面上にガラス板に接して直接形成されてもよいし、ガラス板の表面上に形成された任意の構成要素の上に形成されてもよい。
導電体は、端子付きガラス板の中間膜側に形成されていてもよいし、端子付きガラス板の中間膜側と反対側に形成されていてもよい。
端子付きガラス板は、ガラス板と導電体の端子接合部との間に遮光層を有することができる。この場合、導電体は、ガラス板上に形成された遮光層上に形成できる。
【0038】
端子接合部を有する導電体は、ガラス板の上に銀粉とガラスフリットとを含む銀含有ペーストを塗工し、焼成する方法で形成される。導電体の厚みは特に制限されず、例えば5~20μm、好ましくは5~10μmである。
【0039】
銀含有ペーストは、銀粉末およびガラスフリットを含み、さらに必要に応じてビヒクルおよび添加剤を含むことができる。
【0040】
銀粉末は、銀および/または銀合金を含む粒子からなる。銀含有ペースト中の銀粉末の含有量は、好ましくは65~85質量%、より好ましくは75~85質量%、特に好ましくは80~85質量%である。銀粉末の含有量が該範囲内であれば、導電体の比抵抗を好適な範囲内に調整しやすい。
銀粉末の平均粒子径は、好ましくは0.1~10μm、より好ましくは0.1~7μmである。銀粉末の平均粒子径が該範囲内であれば、導電体の比抵抗を好適な範囲内に調整しやすい。
本明細書において、特に明記しない限り、「銀粉末の平均粒子径」は、レーザー散乱式の粒度分布計で測定される平均粒子径(D50)を指す。
【0041】
ガラスフリットとしては、Bi-B-SiO系ガラスフリット、およびB-SiO系ガラスフリット等が挙げられる。銀含有ペースト中のガラスフリットの含有量は、好ましくは2~10質量、より好ましくは3~8質量%である。ガラスフリットの含有量が2質量%以上であれば導電体が焼結しやすく、10質量%以下であれば導電体の比抵抗を好適な範囲内に調整しやすい。
【0042】
ビヒクルとしては、エチルセルロース樹脂、アクリル樹脂、およびアルキド樹脂等のバインダー樹脂を、α-テルピネオール、ブチルカルビトールアセテート、およびエチルカルビトールアセテート等の溶剤に溶解した樹脂溶液等が挙げられる。銀含有ペースト中のビヒクルの含有量は、好ましくは10~45質量%、より好ましくは15~25質量%である。
【0043】
添加剤としては、Ni、Al、Sn、Pt、およびPd等の抵抗調整剤;V、Mn、Fe、Co、Mo、およびそれらの化合物等の着色剤等が挙げられる。銀含有ペースト中の添加剤の含有量(複数種の場合は、合計量)は、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1質量%以下である。
【0044】
導電体は、電気的機能部を含むか、電気的機能部に電気的に接続されることができる。
電気的機能部としては、1本以上の電熱線、電熱層、アンテナ、調光層、発光素子、およびこれらの組合せ等が挙げられる。発光素子としては、LED(Light Emitting Diode)およびOLED(Organic Light Emitting Diode))等が挙げられる。
1本以上の電熱線または電熱層によって、曇り、霜、雪および氷等の除去および付着防止が可能である。1本以上の電熱線または電熱層は例えば、ワイパーの凍結防止;カメラおよびレーダー等の光学機器を含む光学装置によるセンシング精度向上等の目的で、使用できる。
電気的機能部は、公知の方法にて製造できる。
【0045】
導電体は、電気的機能部に給電するための給電部を含むことができ、給電部が端子接合部を含むことができる。給電部は、一対の給電用電極(一対のバスバーとも言う。)を含むことができ、各給電用電極が端子接合部を含むことができる。
例えば、一方の給電用電極は正極であり、給電用部材を介して、車両内に設けられた電源または信号源に接続され、他方の給電用電極は負極であり、給電用部材を介して、車体(アース)に接続される。なお、正極用の給電用電極は単数でも複数でもよく、負極用の給電用電極は単数でも複数でもよい。
導電体が電気的機能部に接続されている場合、導電体と電気的機能部とは、同じガラス面の上に形成されていてもよいし、異なるガラス面の上に形成されていてもよい。
【0046】
端子には、丸線状または箔状の導線からなる給電用部材が固定されることができる。本明細書で言う「導線」には、1本以上の導線が絶縁材で被覆された被覆導線が含まれるものとする。給電用部材としては、被覆導線が好ましい。
給電用部材の具体的な形態としては、ハーネスおよびケーブル等が挙げられる。丸線状の導線として、ワイヤーハーネス等が挙げられる。箔状の導線として、フラットハーネスおよびフレキシブルプリント基板等が挙げられる。
給電用部材は導体露出部を有し、この導体露出部に端子が固定される。導体露出部の材料は特に制限されず、Cu、Al、Ag、Au、Ti、Sn、Zn、これらの合金、およびこれらの組合せ等が挙げられる。導体露出部は、主金属の表面を他の金属でめっきしたものでもよい。導体露出部は、表面に薄い酸化膜を有していてもよい。
【0047】
無鉛半田は、鉛をほとんど、または全く、含まない半田であり、公知のものを用いることができる。無鉛半田としては、SnおよびAgを含むSnAg系;Sn、AgおよびCuを含むSnAgCu(SAC)系;Sn、ZnおよびBiを含むSnZnBi系;SnおよびCuを含むSnCu系;Sn、ZnおよびAlを含むSnZnAl系;Inを含むIn系等が挙げられる。
【0048】
耐環境性等の観点から、無鉛半田としては、例えば、SnおよびAgを含み、Sb、CuおよびInを実質的に含まないSnAg系無鉛半田;Sn、AgおよびCuを含み、SbおよびInを実質的に含まないSnAgCu(SAC)系無鉛半田が好ましい。
SnAg系およびSnAgCu系等の無鉛半田の融点は有鉛半田の融点より高く、例えば220℃程度である。SnAg系およびSnAgCu系等の無鉛半田を用いる場合、半田接合温度は例えば300℃程度である。本開示は、特に、融点の高いSnAg系およびSnAgCu系等の無鉛半田を用いる場合に、有効である。
【0049】
以下、SnAg系およびSnAgCu系の無鉛半田の好ましい態様について、説明する。
SnAg系およびSnAgCu系の無鉛半田におけるSnの含有量は特に制限されず、好ましくは95質量%以上、より好ましくは95~98.5質量%、特に好ましくは96~98質量%である。Snの含有量が95質量%以上(Agの含有量が5質量%以下)であれば、無鉛半田の融点を比較的低くできるので、半田接合温度を比較的低くでき、ガラス板の温度上昇を比較的小さくできる。その結果、ガラス板に生じる残留応力およびそれによるガラス板の割れを抑制できる。
【0050】
一般的に、Agを含まないSn系の無鉛半田を用いると、無鉛半田中のSnと導電体中のAgとの相溶性が高いため、導電体の端子接合部中のAgがSnを含む無鉛半田中に浸透する、いわゆる「銀くわれ」が起こりやすい。この場合、端子接合部が変質および薄膜化等により変色して、外観不良が生じる恐れがある。
SnとAgとを含む無鉛半田を用いると、無鉛半田中のSnはすでにAgとの化合物を形成しているため、導電体の端子接合部中のAgの無鉛半田中への浸透を抑制でき、端子接合部の変色およびそれによる外観不良を抑制できる。
無鉛半田中のAgの含有量は、好ましくは1.5~5質量%、より好ましくは2~4質量%である。Agの含有量が1.5質量%以上であれば、導電体の端子接合部中のAgの無鉛半田中への浸透を効果的に抑制でき、かつ、良好な接合強度が得られる。Agの含有量が5質量%以下であれば、無鉛半田の材料コストを低く抑え、無鉛半田の融点を比較的低く抑えられる。
【0051】
無鉛半田は、SnおよびAg以外の金属元素としてCuを含んでいてもよい。無鉛半田中のCuの含有量は特に制限されず、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下である。
SnAg系の無鉛半田の組成例としては、Sn:98質量%、Ag:2質量%等が挙げられる。SnAgCu系の無鉛半田の組成例としては、Sn:96.5質量%、Ag:3.0質量%、Cu:0.5質量%等が挙げられる。
【0052】
端子付け時のガラス板に対する熱応力低減の観点から、低融点半田である、Inを含むIn系無鉛半田も好ましい。
In系無鉛半田としては、
SnおよびInを含み、Sb、AgおよびCuを実質的に含まないSnIn系無鉛半田;
Sn、AgおよびInを含み、Sb、Cu、Bi、NiおよびZnを実質的に含まないSnAgIn系無鉛半田;
Sn、Ag、InおよびCuを含み、Sb、Bi、NiおよびZnを実質的に含まないSnAgInCu系無鉛半田;
Sn、Ag、InおよびBiを含み、Sb、Cu、NiおよびZnを実質的に含まないSnAgInBi系無鉛半田;
Sn、Ag、In、Ni、CuおよびZnを含み、SbおよびBiを実質的に含まないSnAgInNiCuZn系無鉛半田等が挙げられる。
【0053】
本開示は、導電体と端子とを無鉛半田を用いて接合した部分を含み、端子付け後の破壊強度を高めることが可能な車両用フロントガラスとその製造方法を提供する。
【0054】
[発明が解決しようとする課題]の項で説明したように、一般的に、導電体付きガラス板に対して、半田接合を行うと、局所的に高温加熱と高温から常温への降温とが起こり、降温後に応力が残留する場合がある。この残留応力が原因となり、窓ガラスの製造後に、導電体付きガラス板にクラックが生じる恐れがある。
一般的に、無鉛半田の融点は有鉛半田の融点より高いため、無鉛半田を用いる場合、導電体付きガラス板には、より大きな応力が発生する。また、無鉛半田は弾性率の低い鉛を含まないため、有鉛半田に比べ、弾性率が高く、変形しにくいため、発生した応力が緩和しにくい。これら理由から、接合後の応力の残留およびそれによる製造後のクラック発生の問題は、特に、無鉛半田を使用する場合に起こり得る。
端子付け後のガラス板の破壊強度が低い場合、ガラス板に外力が加わった際に、ガラス割れが発生する恐れがある。特に、遮光層上に形成された給電部に対して、無鉛半田を用いて端子を接合する場合、端子付け後のガラス板の破壊強度が低下する傾向がある。
【0055】
本発明者の研究によれば、以下のことが分かった。
ガラス板の線膨張係数(CTE)は例えば、90×10-7/℃程度である。
必要に応じて、ガラス板と端子接合部との間に形成される遮光層の線膨張係数(CTE)は例えば、70~80×10-7/℃程度である。一般的に、遮光層の線膨張係数(CTE)は、ガラス板の線膨張係数(CTE)より小さいため、ガラス板上にセラミックペースト層および銀含有ペースト層を形成し、高温焼成し、常温に降温した後に得られる導電体付きガラス板において、遮光層に残留する応力は圧縮応力である。
端子接合部を含む導電体の線膨張係数(CTE)は例えば、180×10-7/℃程度である。一般的に、端子接合部を含む導電体の線膨張係数(CTE)は、ガラス板の線膨張係数(CTE)より大きいため、ガラス板上にセラミックペースト層および銀含有ペースト層を形成し、高温焼成し、常温に降温した後に得られる導電体付きガラス板において、端子接合部を含む導電体に残留する応力は引張応力である。
【0056】
端子接合部の少なくとも表面を塑性変形させることで、端子接合部の少なくとも表面を圧縮応力がかかった圧縮応力部とすることができる。表面または表層は塑性変形して引き延ばされるが、深部は弾性変形によって元の形状に戻ることにより、導電体の少なくとも表面に圧縮応力が付与されると考えられる。
端子接合部の少なくとも表面を塑性変形させる方法として、表面研磨等が挙げられる。
【0057】
本発明者の研究によれば、端子接合部に引張応力がかかっている場合、端子付け後のガラス板の破壊強度が低下する傾向があり、端子接合部に圧縮応力がかかっている場合、端子付け後のガラス板の破壊強度を向上できることが分かった。
導電体の表層は、例えば、導電体の最表面から3~5μm程度の深さの範囲であることができる。
各材料の線膨張係数(CTE)の関係から、半田接合時に、導電体は接合した半田に引っ張られる。導電体に圧縮応力があれば、導電体が接合した半田に引っ張られることが抑制され、半田接合後に得られる端子付きガラス板に引張応力が残留することが抑制され、端子付きガラス板の破壊強度が向上すると考えられる。
導電体の厚みが5~20μm程度であれば、表面研磨等の方法により、導電体の端子接合部の全体を圧縮応力部とすることができる。
なお、[背景技術]の項で挙げた特許文献1、2には、端子接合部の少なくとも表面が圧縮応力部である態様、および、圧縮応力部の好ましい応力値について、記載および示唆がない。
【0058】
本開示の車両用フロントガラスは、
複数のガラス板が中間膜を介して貼り合わされた合わせガラスを含み、
合わせガラスは、ガラス板と、このガラス板の一方の表面の上に形成され、銀とガラスフリットとを含む材料からなり、端子が接合される端子接合部を有する導電体と、この導電体の端子接合部上に無鉛半田を介して接合された端子とを有する端子付きガラス板を含む。
本開示の車両用フロントガラスにおいて、
上記導電体は、電気的機能部を含むか、電気的機能部に電気的に接続されており、
上記導電体は、電気的機能部に給電するための給電部を含み、この給電部が端子接合部を含む。
本開示の車両用フロントガラスにおいて、端子接合部の少なくとも表面が、圧縮応力がかかった圧縮応力部である。
本開示によれば、導電体と端子とを無鉛半田を用いて接合した部分を含み、端子付け後の破壊強度を高めることが可能な車両用フロントガラスを提供できる。
【0059】
導電体の応力値は、微小部X線応力測定装置を用い、sinψ法により測定できる。試料面法線と格子面法線とのなす角ψを変えながら、回折角度2θを測定する。応力値σと、試料面法線と格子面法線とのなす角ψと、回折角度2θとの関係は、下式で表される。
【0060】
【数1】
式中、Eはヤング率、νはポアソン比、θは試料が無歪み状態のときの回折角度、Kは応力定数である。Agの回折面(222)の場合、材料固有のパラメータは、以下の通りである。E=81100MPa、ν=0.367、2θ=152.1°、K=-128.6MPa/°。
【0061】
(x,y)=(sinψ、2θ)のデータをプロットし、得られた近似直線の傾きを、Δ(2θ)/Δ(sinψ)のデータとして求める。このΔ(2θ)/Δ(sinψ)のデータに、材料によって定まる応力定数Kを乗ずることで、応力値σを求めることができる。なお、応力値の符号は、マイナスは圧縮応力を表し、プラスは引張応力を表す。
【0062】
本明細書において、特に明記しない限り、「導電体の応力値」は微小部X線応力測定装置を用いて、sinψ法により測定される応力値であり、後記[実施例]の項に記載の方法にて求めるものとする。
圧縮応力部の応力値は、マイナス値であればよく、好ましくは-20MPa以下である。上限値は、より好ましくは-25MPa、特に好ましくは-30MPaである。下限値は特に制限されず、例えば-50MPaまたは-45MPaである。
【0063】
上記したように、端子接合部の少なくとも表面を塑性変形させる方法の1つとして、表面研磨が挙げられる。
本開示の車両用フロントガラスにおいて、導電体は、端子接合部を含む領域に、表面が研磨された研磨部を有することができ、研磨部は、少なくとも表面が圧縮応力部であることができる。導電体は、端子接合部を含まない領域に、表面が研磨されていない非研磨部を有することができる。
研磨部は、表面が研磨されていない非研磨部より小さい空孔率を有することができる。研磨部の空孔率は小さい方が好ましく、好ましくは10%以下、より好ましくは8%以下、特に好ましくは7%以下、特に好ましくは3%以下である。研磨部の空孔率の下限値は、例えば、0.5%である。
非研磨部の空孔率は、研磨部の空孔率より大きく、10%超でも10%以下でもよく、例えば15~16%である。
空孔率は、後記[実施例]の項に記載の方法にて測定できる。
【0064】
本発明者の研究によれば、銀とガラスフリットとを含む導電体は、未研磨状態では、導電体中にボイド(空孔)が多く存在することが分かった。導電体中のボイド(空孔)は、応力集中源となり、端子付け後の破壊強度の低下を招くと考えられる。
【0065】
また、本発明者の研究によれば、銀とガラスフリットとを含む導電体は、未研磨状態では、ガラスフリットの成分が導電体の表面に多く存在することが分かった。特に、遮光層上に導電体を形成する場合、ガラスフリットの成分が導電体の表面により多く存在することが分かった。これらは、導電体形成用材料および必要に応じて用いられる遮光層形成用材料の焼成時に、これらの材料に含まれるガラスフリットの成分の一部が表面側に移行するためと推察される。
一般的に、ガラスフリットの成分に対する無鉛半田の濡れ性が低い。導電体の表面にガラスフリットの成分が多く存在すると、導電体に対する無鉛半田の接合強度が低下し、良好な形状の半田フィレットが形成しづらくなるため、端子付け後の破壊強度が低下すると考えられる。
【0066】
本発明者の研究によれば、導電体の表面を研磨することで、応力集中源となり得る、導電体中のボイド(空孔)を低減できることが分かった。導電体の表面を研磨することで、表面に存在するボイドの深さが低減され、さらに銀が引き延ばされることによって導電体の表面および表層に存在するボイドが埋められると、推察される。
また、導電体の表面を研磨することで、導電体の表面に存在するガラスフリットの成分の量を低減できることが分かった。導電体の表面を研磨することで、表面に多く存在するガラスフリットの成分が除去されると、推察される。導電体の表面に存在するガラスフリットの成分の量を低減できるので、導電体に対する無鉛半田の濡れ性を向上でき、導電体に対する無鉛半田の接合強度を向上でき、良好な形状の半田フィレットを形成できる。
導電体の端子接合部を含む領域の表面を研磨する方法では、導電体の端子接合部の少なくとも表面に圧縮応力を付与でき、端子接合部の空孔率および端子接合部の表面のガラスフリットの成分の量を低減でき、端子付け後の破壊強度を効果的に高めることができる。
【0067】
導電体および遮光層用のガラスフリットとしては、公知のものを用いることができる。金属元素として、Na、Al、Si、P、Zn、Ba、およびBi等を含むものを用いることができる。一般的に、導電体および遮光層用のガラスフリットには、Biが比較的多く含まれるので、導電体の表面のガラスフリットの成分の割合は、Bi/Ag質量比を指標にできる。Bi/Ag質量比が高い程、ガラスフリットの成分の割合がより大きいことを示す。
Bi/Ag質量比は、エネルギー分散型X線(EDX)分析等により測定できる。
【0068】
なお、導電体が遮光層上に形成される場合、上記したように、製造工程で、遮光層形成用材料に含まれるガラスフリットの成分の一部が導電体内に移行することがある。そのため、表面研磨等により端子接合部の少なくとも表面を塑性変形させる工程前の導電体に含まれるガラスフリットの成分に、遮光層形成用材料に含まれていたガラスフリットの成分の一部が含まれる場合がある。
【0069】
表面研磨レベルの1つの指標として、研磨前に対する研磨後の算術平均表面粗さ(Ra)の割合が挙げられる。導電体が非研磨部を含む場合、このパラメータは、非研磨部に対する研磨部の算術平均表面粗さ(Ra)の割合と同義である。
研磨前に対する研磨後の算術平均表面粗さ(Ra)の割合(=非研磨部に対する研磨部の算術平均表面粗さ(Ra)の割合)は特に制限されず、端子付け後の破壊強度を効果的に高められることから、好ましくは5~80%、より好ましくは5~50%、特に好ましくは5~20%である。
表面粗さ(Ra)は、後記[実施例]の項に記載の方法にて測定できる。
【0070】
表面研磨レベルの別の指標として、研磨前に対する研磨後の膜厚減少率が挙げられる。導電体が非研磨部を含む場合、このパラメータは、非研磨部に対する研磨部の膜厚減少率と同義である。
非研磨部に対する研磨部の膜厚減少率(=非研磨部に対する研磨部の膜厚減少率)は特に制限されず、端子付け後の破壊強度を効果的に高められることから、好ましくは4~40%、より好ましくは4~20%、特に好ましくは4~10%である。
膜厚減少率は、後記[実施例]の項に記載の方法にて測定できる。
【0071】
上記の本開示の車両用フロントガラスの製造方法は、特に制限されない。
本開示の車両用フロントガラスの製造方法は、例えば、
端子付きガラス板の材料であるガラス板の上に、導電体の材料である銀とガラスフリットとを含む銀含有ペーストを塗工する工程(S2)と、
上記導電体の材料を塗工したガラス板を焼成して、端子接合部を含む導電体を形成する工程(S3)と、
上記導電体の端子接合部を含む領域の少なくとも表面を塑性変形させる工程(S5)と、
少なくとも表面を塑性変形させた端子接合部上に無鉛半田を介して端子を接合する工程(S6)とを有することができる。
【0072】
上記の本開示の車両用フロントガラスの製造方法では、工程(S5)において、導電体の端子接合部の少なくとも表面に圧縮応力を付与でき、端子付け後の破壊強度を高めることができる。工程(S5)後の導電体の端子接合部の応力値は、マイナス値であればよく、好ましくは-20MPa以下である。上限値は、より好ましくは-25MPa、特に好ましくは-30MPaである。下限値は特に制限されず、例えば-50MPaまたは-45MPaである。
【0073】
工程(S5)は、上記導電体の端子接合部を含む領域の表面を研磨する工程であることができる。導電体の端子接合部を含む領域の表面を研磨する方法では、導電体の端子接合部の少なくとも表面に圧縮応力を付与でき、端子接合部の空孔率および端子接合部の表面のガラスフリットの成分の量を低減でき、端子付け後の破壊強度を効果的に高めることができる。
【0074】
導電体の表面研磨は公知方法にて行うことができ、手動式の方法でも電動式の方法でもよい。手動式の方法としては、金属繊維および研磨用消しゴム等の研磨部材を用いて導電体の表面を擦る方法が挙げられる。電動式の方法としては、電動切削工具(ハンドグラインダーとも言う。)を用いて導電体の表面を研磨する方法が挙げられる。
【0075】
金属繊維としては、スチールウール等が挙げられる。金属繊維は、平均繊維径によって、いくつかの番手がある。金属繊維を用いる方法では、金属繊維の番手と使用量、擦るときの力、擦る回数、および擦る時間等を調整することで、導電体の研磨部において、少なくとも表面の塑性変形レベル、研磨後の応力値、および表面粗さ等を調整できる。
【0076】
研磨用消しゴムは、アルミナおよびシリカ等の研磨剤(砥粒とも言う。)とゴムとを含み、砂消しゴムおよびサビ取り消しゴム等の名で市販されている。含まれる研磨剤(砥粒)の平均粒径によって、いくつかの番手がある。研磨用消しゴムの番手、擦るときの力、擦る回数、および擦る時間等を調整することで、導電体の研磨部において、少なくとも表面の塑性変形レベル、研磨後の応力値、および表面粗さ等を調整できる。
【0077】
市販の電動切削工具(ハンドグラインダー)としては、日本精密機械工作社製「リューター(登録商標)」等が挙げられる。電動切削工具は、研磨用の先端工具を取り付けて、使用できる。先端工具としては、作業性の観点からアングル用工具が好ましい。研磨用ディスクの取付け面を有し、電動切削工具に取り付けられるゴム製のパッドと、それに取り付けられる研磨用ディスクとの組合せからなるアングル用工具、および、研磨剤(砥粒)としてのセラミックと結合材と弾性体とを含むセラミック製のアングル用工具(セラミックアングル砥石とも言う。)等が挙げられる。研磨用ディスクとしては、研磨剤(砥粒)を含むディスクと研磨剤を含まないディスクがあり、研磨剤を含まないディスクを使用する場合は、研磨剤を併用する必要である。研磨用ディスクとしては、サンドペーパーディスク、研磨剤を含まないフェルトディスク、研磨剤を含むフェルトディスク、研磨剤を含むナイロン製不織布ディスク(クッションディスクとも言う。)等が挙げられる。研磨剤を含むディスクおよびセラミック製のアングル用工具には、研磨剤(砥粒)の平均粒径によって、いくつかの番手がある。
用いる先端工具の種類と番手、回転速度、および研磨時間等を調整することで、導電体の研磨部において、少なくとも表面の塑性変形レベル、研磨後の応力値、および表面粗さ等を調整できる。
【0078】
一般的に、同じ材料であれば、番手が小さい方が、含まれる研磨剤(砥粒)の平均サイズが大きく、研磨力が大きくなる傾向がある。いずれの研磨方法においても、ガラス板および必要に応じて設けられる遮光層を傷付けないように、研磨力が大きくなりすぎないように、研磨条件を調整する。
【0079】
端子付きガラス板が、ガラス板と導電体の端子接合部との間に遮光層を有する態様では、工程(S2)の前に、端子付きガラス板の材料であるガラス板の上に、遮光層の材料である黒色顔料とガラスフリットとを含むセラミックペーストを塗工する工程(S1)を有することができる。この場合、工程(S3)において、遮光層の材料を焼成して、遮光層を形成することができる。
【0080】
合わせガラスにおいて、端子付きガラス板は、中間膜を介して対向するガラス板に覆われない露出部を有し、導電体は、端子付きガラス板の中間膜側に形成され、導電体の端子接合部は、端子付きガラス板の露出部に形成されることができる。
この態様では、工程(S3)と工程(S5)との間に、複数のガラス板を、中間膜を介して貼り合わせる工程(S4)を有することができる。
【0081】
合わせガラスにおいて、導電体は、端子付きガラス板の中間膜側と反対側に形成されることができる。
この態様においても、工程(S3)と工程(S5)との間に、複数のガラス板を、中間膜を介して貼り合わせる工程(S4)を有することができる。
【0082】
[第1実施形態]
図面を参照して、本開示に係る第1実施形態の車両用フロントガラスの構造について、説明する。
図1は、本実施形態の車両用フロントガラスの全体平面図である。図2は、図1の部分拡大平面図である。図1および図2は、端子接合前の図である。図1および図2はいずれも、透視図であり、図示手前側が車内側、図示奥側が車外側である。図3は、図2のIII-III線断面図である。図3において、図示上側が車外側、図示下側が車内側である。これらの図はいずれも模式図であり、視認しやすくするため、図面ごとに、各構成要素の縮尺は実際のものとは適宜異ならせてある。
【0083】
車両用フロントガラス1の平面形状は適宜設計でき、例えば、図1に示すような平面視略台形状の板が全体的に湾曲した形状等が挙げられる。
図3に示すように、本実施形態の車両用フロントガラス1は、外ガラス板11(車外側のガラス板)と、内ガラス板13(車内側のガラス板)とが、中間膜12を介して貼り合わされた合わせガラス10を含む。
本実施形態において、合わせガラス10は、外ガラス板11と、外ガラス板11の車内面(中間膜12側の表面)S2の上に形成され、銀とガラスフリットとを含む材料からなり、端子102が接合される端子接合部20Tを有する導電体20と、導電体20の端子接合部20T上に無鉛半田101を介して接合された端子102とを有する端子付きガラス板11Xを含む。合わせガラスは、3枚以上のガラス板を貼り合わせたものでもよい。
【0084】
図1に示すように、本実施形態の車両用フロントガラス1は、周縁領域に1つ以上の遮光層BLを有する。遮光層BLの数、遮光層BLが形成されるガラス面および遮光層BLの形成領域は、適宜設計できる。
図3に示すように、本実施形態において、外ガラス板11の車内面S2の周縁領域に、遮光層BL2が形成され、この遮光層BL2上に、電気的機能部を含む導電体20が形成されている。なお、本開示では、端子付きガラス板11Xの破壊強度の向上効果が得られるため、端子付きガラス板11Xは、外ガラス板11と端子接合部20Tとの間に遮光層BL2を有することができる。
本実施形態ではまた、図3に示すように、内ガラス板13の少なくとも一方の表面の周縁領域に、遮光層BL4が形成されてもよい。図示例では、内ガラス板13の車内面S4の周縁領域に、遮光層BL4が形成されている。
【0085】
本実施形態において、導電体20は、ワイパーに付着した霜、雪および氷等を融かし、ワイパーの凍結を防止する機能を有する。図1中、符号WPを付した破線で示す領域は、ワイパーの可動領域である。
図1および図2に示すように、導電体20は、1本以上の電熱線20Lまたは電熱層からなる電気的機能部を含む。ここでは、導電体20が複数の電熱線20Lを含む場合を例として、図示してある。導電体20はさらに、一対の給電用電極(一対のバスバー)20Bを含む給電部を含むことができる。一対の給電用電極(一対のバスバー)20Bは、一方が正極であり、他方が負極である。導電体20は例えば、車両用フロントガラス1の下端部および/または少なくとも一方の側端部に形成できる。導電体20の構成、パターンおよび形成領域は、適宜設計できる。
【0086】
図2および図3に示すように、内ガラス板13は下端部に切欠部13Nを有し、これによって、端子付きガラス板11Xは、中間膜12を介して対向する内ガラス板13に覆われない露出部11Eを有する。本実施形態において、導電体20は、端子付きガラス板11Xの中間膜12側に形成されている。一対の給電用電極(一対のバスバー)20Bはいずれも、少なくとも一部が、端子付きガラス板11Xの露出部11Eに形成され、内ガラス板13に覆われずに露出している。
【0087】
図2に示すように、一対の給電用電極(一対のバスバー)20Bはいずれも、給電用電極20Bの露出部20Eが端子接合部20Tを含み、端子接合部20T上に無鉛半田101を介して端子102が接合されている。端子102には、丸線状または箔状の導線からなる給電用部材103が固定されている。露出部20Eは、図5Bも参照されたい。
導電体20の端子接合部20Tは、無鉛半田101の直下部分である。図中、端子接合部20Tの形成領域は、2つの破線T1、T2で挟まれる領域である。なお、導電体20の端子接合部20Tは、はじめから明確に位置が定まっている訳ではない。給電用電極20Bにおいて、無鉛半田101を介して端子102を接合した後の無鉛半田101の直下部分が、端子接合部20Tである。
【0088】
図4は、図3に示される端子102/無鉛半田101/端子接合部20Tを含む給電用電極20B/遮光層BL2/外ガラス板11の積層構造の断面を、図3の左方から見た部分拡大断面図である。ここでは、視認しやすくするため、積層構造の上下を反転させてある。
給電用部材103としては、丸線状または箔状の導線が好ましく、丸線状または箔状の被覆導線がより好ましい。ワイヤーハーネスおよびフラットハーネス等が好ましい。
給電用部材103は先端部が導体露出部であり、この導体露出部に端子102が固定されている。
端子102としては、公知の圧着端子が好ましい。圧着端子としては、給電用部材103の先端部(導体露出部)と接する給電用部材接合部102A(図3を参照されたい。)と、無鉛半田101と接する半田接合部102B(図3および図4を参照されたい。)とを有するものが好ましい。
【0089】
給電用部材103としてワイヤーハーネスを用いる場合、圧着端子としては、図3および図4に示すような、ワイヤーハーネスの先端部(導体露出部)をかしめ固定する給電用部材接合部102Aと、両端部に半田接合部102Bを有する橋状部とからなる圧着端子が好ましい。圧着端子としては、橋状部を有さず、1つの半田接合部102Bを有するものでもよい。
【0090】
端子102としては、金属製の端子が好ましい。端子の構成金属としては特に制限されず、Cu、Fe、Cr、NiおよびZn等の金属;Cu、Fe、Cr、NiおよびZn等の1種以上の金属元素を含む合金;これらの組合せが挙げられる。合金としては、ステンレス(SUS)および真鍮等が挙げられる。端子102は、表面に錫メッキ等の表面加工が施されていてもよい。端子102は、少なくとも一部が絶縁材で被覆されていてもよい。端子102の厚みは特に制限されず、好ましくは0.4~0.8mmである。単一材料からなる端子102は例えば、金属板を打ち抜き加工(抜型を用いたプレス加工)して所望サイズの金属板を得、これを屈曲加工(ベンディング加工)することにより、製造できる。
例えば、給電用部材103の先端部(導体露出部)に端子102(好ましくは圧着端子)がかしめ固定され、その端子102が給電用電極20B内の端子接合部20Tに、無鉛半田101を介して接合される。なお、給電用部材103の先端部(導体露出部)と端子102とは、半田で接続されていてもよいし、溶着により接続されてもよい。
【0091】
本実施形態において、各給電用電極20Bの露出部20Eの少なくとも端子接合部20Tを含む領域は、少なくとも表面が圧縮応力がかかった圧縮応力部20CSである。
本実施形態において、各給電用電極20Bの露出部20Eの少なくとも端子接合部20Tを含む領域は、全体が圧縮応力部20CSであることができる。
圧縮応力部20CSは、微小部X線応力測定装置を用いて、sinψ法により測定される応力値が、マイナス値であればよく、好ましくは-20MPa以下である。上限値は、より好ましくは-25MPa、特に好ましくは-30MPaである。下限値は特に制限されず、例えば-50MPaまたは-45MPaである。
【0092】
本実施形態において、各給電用電極20Bの露出部20Eは、少なくとも端子接合部20Tを含む領域が、表面が研磨された研磨部20Pであることができる。図2に示す例では、各給電用電極20Bにおいて、露出部20Eの全体が表面が研磨された研磨部20Pであり(すなわち、露出部20Eと研磨部20Pとは一致している)、その他の部分(非露出部)が表面が研磨されていない非研磨部20NPである。研磨部20Pの領域は、露出部20Eの領域より狭くてもよい。
【0093】
導電体20の研磨部20Pは、空孔率が好ましくは10%以下、より好ましくは8%以下、特に好ましくは7%以下、特に好ましくは3%以下である。導電体20の研磨部20Pの空孔率の下限値は、例えば、0.5%である。
導電体20の非研磨部20NPの空孔率は、研磨部20Pの空孔率より大きく、10%超でも10%以下でもよく、例えば15~16%である。
【0094】
端子付け後の破壊強度を効果的に高められることから、導電体20の非研磨部20NPに対する研磨部20Pの算術平均表面粗さ(Ra)の割合は、好ましくは5~80%、より好ましくは5~50%、特に好ましくは5~20%である。
端子付け後の破壊強度を効果的に高められることから、導電体20の非研磨部20NPに対する研磨部20Pの膜厚減少率は、好ましくは4~40%、より好ましくは4~20%、特に好ましくは4~10%である。
【0095】
(製造方法)
図面を参照して、本実施形態の車両用フロントガラスの製造方法の一例について、説明する。図5A図5Dは、図3に対応した模式断面図である。
【0096】
(工程(S1))
はじめに、必要に応じて、外ガラス板11(車外側のガラス板)の車内面S2上の所定の領域に、必要に応じて、遮光層BL2の材料である黒色顔料とガラスフリットとを含むセラミックペーストを塗工し、乾燥させて、セラミックペースト層を形成する。
また、必要に応じて、内ガラス板13の車内面S4上の所定の領域に、遮光層BL4の材料である黒色顔料とガラスフリットとを含むセラミックペーストを塗工し、乾燥させて、セラミックペースト層を形成する。
セラミックペーストの乾燥条件はペースト組成に応じて適宜設計でき、例えば、120~150℃、約5分間が好ましい。
なお、内ガラス板13は、あらかじめ、切欠部13Nを有する形状に加工されている。
【0097】
(工程(S2))
次に、外ガラス板11の車内面S2の直上、または、外ガラス板11上に必要に応じて形成されたセラミックペースト層上に、導電体20の材料である銀とガラスフリットとを含む銀含有ペーストを塗工し、乾燥させて、導電ペースト層を形成する。銀含有ペーストの乾燥条件はペースト組成に応じて適宜設計でき、例えば、120~150℃、約5分間が好ましい。
【0098】
(工程(S3))
次に、上記工程後の外ガラス板11および内ガラス板13を、同時にまたは個別に、軟化点以上の温度(例えば600~700℃)に加熱し、各ガラス板を曲げ成形する。この工程では、必要に応じて形成されたセラミックペースト層および銀含有ペースト層が焼成され、必要に応じて1つ以上の遮光層BLおよび導電体20が形成される。焼成後、各ガラス板は徐冷される。
以上の工程後に、図5Aに示すように、外ガラス板11の一方の表面上に、必要に応じて遮光層BL2を有し、外ガラス板11の直上または遮光層BL2上に形成された導電体20を有する導電体付きガラス板11Yと、遮光層BL4を有してもよい内ガラス板13とが得られる。
【0099】
(工程(S4))
次に、図5Aに示すように、導電体付きガラス板11Yと内ガラス板13とを、中間膜12の材料の樹脂フィルム12Fを介して貼り合わせる。この工程後に、図5Bに示すように、合わせガラス10が得られる。
【0100】
樹脂フィルム12Fの構成樹脂は特に制限されず、例えば、ポリビニルブチラール(PVB)、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリウレタン(PU)、およびアイオノマー樹脂からなる群より選ばれる1種以上の樹脂が好ましい。樹脂フィルム12Fは必要に応じて、樹脂以外の1種以上の添加剤を含んでいてもよい。添加剤として、顔料等の着色剤等が挙げられる。樹脂フィルム12Fは、無色透明でも有色透明でもよい。樹脂フィルム12Fは、単層構造でも2層以上の積層構造でもよい。
【0101】
貼合せは、熱圧着により行うことができる。熱圧着法としては、図5Aに示す複数の部材を重ねて得られた仮積層体をゴム製等の袋の中に入れ、真空中で加熱する方法;自動加圧加熱処理装置およびオートクレーブ等を用いて仮積層体を加圧加熱する方法;これらの組合せが挙げられる。
温度、圧力および時間の熱圧着条件は特に制限されず、樹脂フィルム12Fの種類と温度に応じて設計される。熱圧着条件は、樹脂フィルム12Fが軟化し、充分に加圧され、導電体付きガラス板11Yと遮光層BL4を有してもよい内ガラス板13とが樹脂を介して充分に接着される条件であればよい。熱圧着は、方法または条件を変えて、複数段階で実施してもよい。
なお、樹脂フィルム12Fの構成樹脂は軟化し、導電体付きガラス板11Yと遮光層BL4を有してもよい内ガラス板13との間の空間を埋めるように、広がる。
【0102】
(工程(S5))
次に、導電体20の端子接合部20Tを含む領域の少なくとも表面を塑性変形させる。工程(S5)は、例えば、導電体20の端子接合部20Tを含む領域の表面を研磨する工程であることができる。
本実施形態では、各給電用電極20Bの露出部20Eにおいて、端子接合部20Tを含む領域の表面を研磨することができる。露出部20Eの全体を表面研磨してもよいし、露出部20Eの一部を表面研磨してもよい。
一般的に、工程(S5)実施前の導電体20に残留している応力は引張応力であり、工程(S5)実施前の導電体20の応力値はプラス値である。表面研磨等の方法により、端子接合部20Tの少なくとも表面を塑性変形させることで、端子接合部20Tの少なくとも表面を圧縮応力がかかった圧縮応力部20CSとすることができる。圧縮応力部20CSの応力値はマイナス値であり、好ましくは-20MPa以下である。
この工程後に、図5Cに示すように、端子接合部20Tの少なくとも表面が圧縮応力部20CSである導電体20を有する合わせガラス10を得ることができる。導電体20は、研磨部20Pと非研磨部20NPとからなり、研磨部20Pの少なくとも表面が圧縮応力部20CSであることができる。
なお、導電体20において、研磨部20Pの膜厚は、研磨によって非研磨部20NPの膜厚より薄くなる。
【0103】
(工程(S6))
次に、図5Dに示すように、各給電用電極20Bの露出部20Eに含まれる端子接合部20T上に、無鉛半田101を介して端子102を接合する。端子102にはあらかじめ、公知方法にて、好ましくは丸線状または箔状の導線からなる給電用部材103が固定(好ましくは、かしめ固定)されている。半田接合については、図4も参照されたい。
【0104】
半田接合は、公知方法にて行うことができ、半田ごてまたは抵抗加熱を用いる方法が好ましい。
半田ごてを用いる場合、例えば、以下のように接合を実施できる。
端子の各半田接合部に、適量(例えば0.05~0.10g)の無鉛半田を付着させる。この端子を、導電体の表面を研磨した端子接合部の上に配置する。この状態で、端子の半田接合部に、無鉛半田の融点以上の温度に設定した半田ごてのこて先を押し当て、無鉛半田を加熱溶融させる。その後、端子から半田ごてを離し、自然冷却により無鉛半田を凝固させる。
半田接合の前に、未溶融の無鉛半田の表面および/または端子の半田接合部の表面に、フラックスを塗布しておくことが好ましい。フラックスの作用により金属酸化膜が溶け、良好な接合状態を得ることができる。
半田接合の前に、半田ごてのこて先に適量の無鉛半田を載せ、加熱溶融しておくことが好ましい。この半田は予備半田と呼ばれ、半田接合時の熱伝導を高めることができる。
【0105】
一般的に、導電体と半田とを良好に接合するには、導電体と半田との接合界面に、導電体に含まれる1種以上の金属元素と半田に含まれる複数の金属元素との合金を含む合金層を形成する必要がある。そのため、半田をその融点以上に加熱して、半田接合を行う。
SnAg系およびSnAgCu系等の無鉛半田の融点は、例えば220℃程度であり、この場合、半田接合温度は例えば300℃程度が好ましい。
端子102は、必要に応じて、公知方法にてシリコン樹脂等の樹脂で封止される。
以上のようにして、本実施形態の車両用フロントガラス1が製造される。
【0106】
本実施形態の車両用フロントガラス1の製造方法は、表面研磨等により導電体20の端子接合部20Tを含む領域の少なくとも表面を塑性変形させる工程(S5)と、少なくとも表面を塑性変形させた端子接合部20T上に無鉛半田101を介して端子102を接合する工程(S6)とを有する。この方法では、工程(S5)において、導電体20の端子接合部20Tの少なくとも表面に圧縮応力を付与でき、端子付け後の破壊強度を高めることができる。
導電体20の端子接合部20Tを含む領域の表面を研磨する方法では、導電体20の端子接合部20Tの少なくとも表面に圧縮応力を付与でき、端子接合部20Tの空孔率および端子接合部20Tの表面のガラスフリットの成分の量を低減でき、端子付け後の破壊強度を効果的に高めることができる。
【0107】
[第1実施形態の設計変更例]
第1実施形態では、導電体20が、1本以上の電熱線20Lまたは電熱層からなる電気的機能部と、一対の給電用電極(一対のバスバー)20Bを含む給電部とを含む態様について、説明した。導電体20は、電気的機能部を含まず、給電部のみを含み、この給電部が導電体20に含まれない電気的機能部に接続される構成としてもよい。
【0108】
例えば、図6に示すように、中間膜12の材料の樹脂フィルム12F上に、電気的機能部を含む導電体40を形成できる。例えば、導電体40は、1本以上の電熱線または電熱層からなる電気的機能部を含み、さらに必要に応じて、一対の給電用電極(一対のバスバー)を含む給電部を含むことができる。図6において、第1実施形態と同じ構成要素には同じ参照符号を付して、説明は省略する。
例えば、樹脂フィルム12F上に、1本以上の電熱線としての1本以上の金属ワイヤー(例えば、タングステンワイヤー等)、および必要に応じて一対の給電用電極(バスバー)としての一対の金属箔(例えば、銅箔等)を配置できる。代替的に、樹脂フィルム12F上に、表面に1本以上の電熱線および一対の給電用電極が形成された樹脂フィルム(例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム)を配置してもよい。
【0109】
樹脂フィルム12F上に形成された電気的機能部は、導電体付きガラス板11Yと内ガラス板13とを中間膜12を介して貼り合わせた後、導電体付きガラス板11Yに含まれる給電部のみからなる導電体20に接続される。樹脂フィルム12F上に形成された電気的機能部は、樹脂フィルム12F上に形成された給電部を介して、導電体付きガラス板11Yに含まれる給電部のみからなる導電体20に接続されてもよい。
なお、樹脂フィルム12F上に形成される、電気的機能部および必要に応じて給電部を含む導電体40、並びに、導電体付きガラス板11Yに含まれる給電部のみからなる導電体20の構成、材料、形成方法、パターンおよび形成領域は、適宜設計できる。
【0110】
この設計変更例においても、図6に示すように、導電体付きガラス板11Yと内ガラス板13とを中間膜12を介して貼り合わせて合わせガラスを製造した後、第1実施形態と同様、各給電用電極20Bの端子接合部20Tを含む領域の少なくとも表面を塑性変形させる工程(S5)と、少なくとも表面を塑性変形させた各給電用電極20Bの端子接合部20T上に、無鉛半田101を介して端子102を接合する工程(S6)とを実施できる。
【0111】
[第2実施形態]
図面を参照して、本発明に係る第2実施形態の車両用フロントガラスの構造について、説明する。図7Aは、本実施形態の車両用フロントガラスの全体平面図である。図7Bは、図7Aの部分拡大平面図である。図7Aおよび図7Bは、端子接合前の図である。図8は、図7BのVIII-VIII線断面図である。これらの図において、平面図および部分拡大平面図はいずれも、透視図である。これらの図はいずれも模式図であり、視認しやすくするため、図面ごとに、各構成要素の縮尺は実際のものとは適宜異ならせてある。第1実施形態と同じ構成要素には同じ参照符号を付して、説明は省略する。
【0112】
図8に示すように、本実施形態の車両用フロントガラス2は、外ガラス板11(車外側のガラス板)と、内ガラス板13(車内側のガラス板)とが、中間膜12を介して貼り合わされた合わせガラス50を含む。
本実施形態において、合わせガラス50は、内ガラス板13と、内ガラス板13の車内面S4(中間膜12側と反対側の表面)の上に形成され、銀とガラスフリットとを含む材料からなり、端子102が接合される端子接合部80Tを有する導電体80と、導電体80の端子接合部80T上に無鉛半田101を介して接合された端子102とを有する端子付きガラス板13Xを含む。合わせガラスは、3枚以上のガラス板を貼り合わせたものでもよい。
【0113】
図7Aに示すように、車両用フロントガラス2は、光学装置が取り付けられる光学装置取付領域OPと、光学装置取付領域OP内に位置し、外部から光学装置への入射光および/または光学装置からの出射光が通る透光部TPとを有する。
図示するように、透光部TPは、車両用フロントガラス2の一端辺50E(図示例では上端辺)に比較的近い領域に形成できる。
【0114】
光学装置は例えば、自動運転および衝突事故の防止等のために、車両前方の情報を取得する、ADAS(Advanced Driver Assistance systems)カメラ、LiDAR(Light Detection And Ranging)、レーダー、および光センサ等の光学機器と、これを収容するブラケット等と呼ばれる筐体とを含むことができる。
光学装置取付領域OPおよび透光部TPの形状は光学装置の形状に合わせて適宜設計でき、略台形状および略矩形状等が挙げられる。光学装置取付領域OPおよび透光部TPの形状は、相似形でも非相似形でもよい。図示例では、光学装置取付領域OPおよび透光部TPの形状は、略台形状である。
【0115】
第1実施形態と同様、図7Aに示すように、本実施形態の車両用フロントガラス2は、周縁領域を含む領域に1つ以上の遮光層BLを有することができる。遮光層BLは、黒色顔料とガラスフリットとを含むことができる。遮光層BLの数、遮光層BLが形成されるガラス面および遮光層BLの形成領域は、適宜設計できる。
【0116】
本実施形態では、図8に示すように、内ガラス板13の車内面S4(中間膜12側と反対側の表面)の所定の領域に遮光層BL4が形成され、この遮光層BL4上に、導電体80の大部分が形成されている。
図7Aに示すように、遮光層BL4の形成領域は、光学装置取付領域OPから透光部TPを除いた領域と、光学装置取付領域OPの周囲の領域と、車両用フロントガラス2の周縁領域とを含むことができる。
図示例では、遮光層BL4の形成領域は、光学装置取付領域OPから透光部TPを除いた領域と光学装置取付領域OPの周囲の領域とを含み、合わせガラス50の一端辺50E(図示例では上端辺)および辺B41~B43を輪郭とする略台形状の領域から透光部TPを除いた領域R41と、車両用フロントガラス2の周縁領域R42とを含む。
図示例では、遮光層BL4は透光部TPの四辺すべてを囲んでいるが、遮光層BL4は透光部TPの少なくとも一部を囲んでいればよく、例えば、略台形状または略矩形状の透光部TPの三辺のみを囲むものであってもよい。
透光部TPが透過する光の波長域は特に制限されず、例えば、可視光域、赤外光域、および可視光域~赤外光域等である。
【0117】
図8に示すように、必要に応じて、外ガラス板11の車内面S2上に、遮光層BL2を形成できる。遮光層BL2の形成領域は、例えば、遮光層BL4と同様、光学装置取付領域OPから透光部TPを除いた領域と、光学装置取付領域OPの周囲の領域と、車両用フロントガラス2の周縁領域とを含むことができる。
なお、遮光層BL2の形成領域の平面形状と遮光層BL4の形成領域の平面形状とは、それぞれ独立に設計でき、これら領域の平面形状は同一でも非同一でもよい。
【0118】
図7Bに示すように、本実施形態において、導電体80は、1本の電熱線80Lまたは電熱層からなる電気的機能部を含む。導電体80はさらに、一対の給電用電極(一対のバスバー)80Bからなる給電部を含む。なお、導電体80は、複数本の電熱線80Lを含んでいてもよい。導電体80の構成およびパターンは、適宜設計できる。
導電体80は、光学装置取付領域OP内に配置することが好ましい。
導電体80は、車両用フロントガラス2のほぼ全面に形成してもよい。
【0119】
光学装置に含まれるカメラおよびレーダー等の光学機器の前方に位置する透光部TPを含む領域に、曇りおよび霜の防止のための電熱線80Lまたは電熱層を設けることで、光学装置のセンシング精度を向上できる。
電熱線80Lのラインパターンおよび配列パターンは特に制限されない。例えば、図7Bに示すように、平面視にて、電熱線80Lが透光部TPを複数回以上横断するように折り返されていると、透光部TPに付着した霜および水滴を効率良く除去でき、好ましい。
一方の給電用電極から他方の給電用電極に至るまでの途中で、電熱線80Lの線幅が変化してもよい。電熱線80Lの発熱量を調整するために、透光部TP以外の領域にも電熱線80Lを配置させてもよい。
【0120】
図8に示すように、本実施形態において、導電体80は、内ガラス板13の車内面S4上に形成されている。
第1実施形態と同様、一対の給電用電極(一対のバスバー)80Bはいずれも、端子接合部80Tを含み、導電体80の端子接合部80T上に無鉛半田101を介して端子102が接合されている。端子102には、丸線状または箔状の導線からなる給電用部材103が固定されている。
第1実施形態と同様、導電体80の端子接合部80Tは、無鉛半田101の直下部分である。図中、端子接合部80Tの領域は、2つの破線T1、T2で挟まれる領域である。なお、導電体80の端子接合部80Tは、はじめから明確に位置が定まっている訳ではない。給電用電極80Bにおいて、無鉛半田101を介して端子102を接合した後の無鉛半田101の直下部分が、端子接合部80Tである。
本実施形態では、透光部TP内には、遮光層BLは形成されない。
【0121】
本実施形態において、各給電用電極80Bの少なくとも端子接合部80Tを含む領域は、少なくとも表面が圧縮応力がかかった圧縮応力部80CSである。
本実施形態において、各給電用電極80Bの少なくとも端子接合部80Tを含む領域は、全体が圧縮応力部80CSであることができる。
圧縮応力部80CSは、微小部X線応力測定装置を用いて、sinψ法により測定される応力値が、マイナス値であればよく、好ましくは-20MPa以下である。上限値は、より好ましくは-25MPa、特に好ましくは-30MPaである。下限値は特に制限されず、例えば-50MPaまたは-45MPaである。
【0122】
本実施形態では、各給電用電極80Bは、少なくとも端子接合部80Tを含む領域が、表面が研磨された研磨部80Pであることができる。図7Bおよび図8に示す例では、各給電用電極80Bの全体が表面が研磨された研磨部80Pであり(すなわち、給電用電極80Bと研磨部80Pとは一致している)、その他の部分である電熱線80Lが表面が研磨されていない非研磨部80NPである。研磨部80Pの領域は、給電用電極80Bの領域より狭くてもよい。
【0123】
導電体80の研磨部80Pは、空孔率が好ましくは10%以下、より好ましくは8%以下、特に好ましくは7%以下、特に好ましくは3%以下である。導電体80の研磨部80Pの空孔率の下限値は、例えば、0.5%である。
導電体80の非研磨部80NPの空孔率は、研磨部80Pの空孔率より大きく、10%超でも10%以下でもよく、例えば15~16%である。
【0124】
端子付け後の破壊強度を効果的に高められることから、導電体80の非研磨部80NPに対する研磨部80Pの算術平均表面粗さ(Ra)の割合は、好ましくは5~80%、より好ましくは5~50%、特に好ましくは5~20%である。
端子付け後の破壊強度を効果的に高められることから、導電体80の非研磨部80NPに対する研磨部80Pの膜厚減少率は、好ましくは4~40%、より好ましくは4~20%、特に好ましくは4~10%である。
【0125】
(製造方法)
図面を参照して、本実施形態の車両用フロントガラスの製造方法の各工程について、説明する。図9A図9Cは、図8に対応した模式断面図である。
(工程(S1))
はじめに、第1実施形態と同様、内ガラス板13(車内側のガラス板)の車内面S4上の所定の領域に、必要に応じて、遮光層BL4の材料である黒色顔料とガラスフリットとを含むセラミックペーストを塗工し、乾燥させて、セラミックペースト層を形成する。
また、外ガラス板11の車内面S2上の所定の領域に、必要に応じて、遮光層BL2の材料である黒色顔料とガラスフリットとを含むセラミックペーストを塗工し、乾燥させて、セラミックペースト層を形成する。
セラミックペースト層の乾燥条件は、第1実施形態と同様である。
【0126】
(工程(S2))
第1実施形態と同様、内ガラス板13の車内面S4の直上、または、内ガラス板13の車内面S4上に必要に応じて形成されたセラミックペースト層上に、銀粉とガラスフリットとを含む銀含有ペーストを塗工し、乾燥させて、銀含有ペースト層を形成する。導電ペースト層の乾燥条件は、第1実施形態と同様である。
【0127】
(工程(S3))
次に、第1実施形態と同様、上記工程後の外ガラス板11および内ガラス板13を軟化点以上の温度に加熱し、各ガラス板を曲げ成形する。この工程では、必要に応じて形成されたセラミックペースト層および銀含有ペースト層が焼成され、必要に応じて1つ以上の遮光層BLおよび導電体80が形成される。焼成後、各ガラス板は徐冷される。焼成温度は、第1実施形態と同様である。
以上の工程後に、遮光層BL2を有してもよい外ガラス板11と、内ガラス板13の一方の表面S4上に、必要に応じて遮光層BL4を有し、内ガラス板13の直上または遮光層BL4上に形成された導電体80を有する導電体付きガラス板13Yとが得られる。
【0128】
次に、第1実施形態と同様、公知方法にて、遮光層BL2を有してもよい外ガラス板11と、導電体付きガラス板13Yとを、中間膜12を介して貼り合わせる。これら工程後に、図9Aに示す合わせガラス50が得られる。
【0129】
(工程(S5))
次に、導電体80の端子接合部80Tを含む領域の少なくとも表面を塑性変形させる。工程(S5)は、例えば、導電体80の端子接合部80Tを含む領域の表面を研磨する工程であることができる。各給電用電極80Bの全体を表面研磨してもよいし、各給電用電極80Bの一部を表面研磨してもよい。
一般的に、工程(S5)実施前の導電体80に残留している応力は引張応力であり、工程(S5)実施前の導電体80の応力値はプラス値である。表面研磨等の方法により、端子接合部80Tの少なくとも表面を塑性変形させることで、端子接合部80Tの少なくとも表面を圧縮応力がかかった圧縮応力部80CSとすることができる。圧縮応力部80CSの応力値はマイナス値であり、好ましくは-20MPa以下である。
この工程後に、図9Bに示すように、端子接合部80Tの少なくとも表面が圧縮応力部80CSである導電体80を有する合わせガラス50を得ることができる。導電体80は、研磨部80Pと非研磨部80NPとからなり、研磨部80Pの少なくとも表面が圧縮応力部80CSであることができる。
なお、導電体80において、研磨部80Pの膜厚は、研磨によって非研磨部80NPの膜厚より薄くなる。
【0130】
(工程(S6))
次に、第1実施形態と同様、図9Cに示すように、各給電用電極80Bに含まれる研磨部80Pの端子接合部80T上に、無鉛半田101を介して端子102を接合する。端子102にはあらかじめ、公知方法にて、好ましくは丸線状または箔状の導線からなる給電用部材103が固定(好ましくは、かしめ固定)されている。半田接合については、図4も参照されたい。
以上のようにして、本実施形態の車両用フロントガラス2が製造される。
【0131】
本実施形態の車両用フロントガラス2の製造方法は、第1実施形態と同様、導電体80の端子接合部80Tを含む領域の少なくとも表面を塑性変形させる工程(S5)と、少なくとも表面を塑性変形させた端子接合部80T上に無鉛半田101を介して端子102を接合する工程(S6)とを有する。この方法では、工程(S5)において、導電体80の端子接合部80Tの少なくとも表面に圧縮応力を付与でき、端子付け後の破壊強度を高めることができる。
導電体80の端子接合部80Tを含む領域の表面を研磨する方法では、導電体80の端子接合部80Tの少なくとも表面に圧縮応力を付与でき、端子接合部80Tの空孔率および端子接合部80Tの表面のガラスフリットの成分の量を低減でき、端子付け後の破壊強度を効果的に高めることができる。
【0132】
以上説明したように、本開示によれば、導電体と端子とを無鉛半田を用いて接合した部分を含み、端子付け後の破壊強度を高めることが可能な車両用フロントガラスとその製造方法を提供できる。
【実施例0133】
以下に、実施例に基づいて本発明について説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。例12~17、22~27、32~35、42~45が実施例、例11、21、31、41が比較例である。
【0134】
[評価項目と評価方法]
評価項目と評価方法は、以下の通りである。
(空孔率)
各例で用いたのと同じガラス板上に、各例と同じ条件で、銀含有ペーストの塗工と焼成、および研磨を実施して、導電体付きの評価用ガラス板(評価用ガラス板1、遮光層なし)を得た。この評価用ガラス板から、導電体の端子接合部を観察しやすいサイズのサンプルを切り出した。
上記サンプルの端子接合部をエポキシ樹脂(アキュラ社製「53型」)に浸漬させ、常温で硬化させて、端子接合部を樹脂包埋した。
樹脂包埋したサンプルの端子接合部を、高速ダイアモンドホイールソー(プレシ社製「MecatomeT180」)を用いて厚み方向に切断した。端子接合部の切断面を、自動研磨装置(プレシ社製「Mecatech234」)を用いて研磨した。さらに必要に応じて、日立ハイテク社製「ArBlade5000」を用いて、イオンミリング処理した。
電界放出形走査型電子顕微鏡(FE-SEM、日立ハイテク社製「Regulus8220」)を用い、電圧3kVの条件で、上記端子接合部の切断面の無作為に選んだ3箇所の2500倍の画像を取得した。断面SEM像の導電体には、銀含有領域に対応するライトグレーの領域、ガラスフリット含有領域に対応するダークグレイの領域、および空孔に対応する黒色の領域が確認された。市販の画像解析ソフト(三谷商事(株)社製「WinRooF2018」)を用いて画像処理を行い、導電体の空孔率として、上記3つの領域の合計断面積に対する空孔に対応する黒色の領域の断面積の割合を求めた。計3つの断面SEM像の空孔率の平均値を求め、空孔率(%)のデータとした。
【0135】
(膜厚減少量)
表面粗さ計(東京精密社製「サ-フコム NEX 001」)を用いて、触針式の測定を行い、研磨前に対する研磨後の導電体の膜厚減少量を測定した。各条件について、計4回測定を実施し、それらの平均値を膜厚減少量のデータとした。
【0136】
(表面粗さ(Ra))
表面粗さ計(東京精密社製「サ-フコム NEX 001」)を用いて、研磨前および研磨後の導電体の算術平均粗さ(Ra)を測定した。各条件について、計3回測定を実施し、それらの平均値を算術平均粗さ(Ra)のデータとした。そして、研磨前に対する研磨後の導電体の算術平均表面粗さ(Ra)の割合(%)を求めた。
【0137】
(端子接合部の応力値)
導電体の端子接合部の応力値は、リガク社製「微小部X線応力測定装置 AutoMATE II」を用いて測定した。測定方法および測定条件は、以下の通りとした。なお、回折ピーク位置は、半値幅中点法により特定した。
・測定方法:sinψ法、並傾法、およびψ一定法(入射角固定法とも言う。)
・X線源:CuKα線(2.0mmφのコリメーターを使用した平行ビーム光学系)
・X線管の電圧および電流:40kVおよび40mA
・回折面:Ag(222)面
・無歪み状態のAg(222)面の2θ:152.1°
・2θの測定範囲:142°~162°
・試料面法線と回折面法線のなす角ψ:0.0°、13.6°、19.5°、24.1°、28.1°、31.8°、35.3°、38.6°、41.8°、および45.0°(なお、測定精度向上のために、ψは±2°で搖動をかけた。)
・計数時間:30秒
・平滑化点数:11
・LP補正:実行、フィルター法
・フィルター:V
・線吸収係数:6482.7cm-1
各サンプルについて、計2回の測定を実施し、それらの平均値を端子接合部の応力値のデータとした。
【0138】
(端子付け前または端子付け後の破壊強度)
常温(20~25℃)の環境下で、オ-トグラフ(島津製作所社製「AGS-X」、最大荷重:荷重5kN)を用いて、ASTM-C1499-1に準拠して、リング曲げ試験を実施した。
端子付け前または端子付け後の評価用ガラス板1または2を、導電体形成側の面を下側にして、直径98mmの支持リング上に載置した。この評価用ガラス板上に直径46mmの負荷リングを載置した。支持リングの中心軸とガラス板の中心軸と負荷リングの中心軸を合わせた。
上記評価用ガラス板の端子の周囲に、負荷リングにより、荷重をかけた。ガラス板の変位量が1mm/minとなるように荷重を連続的に増加させ、ガラス板が割れた時点の荷重を破壊強度とした。
各条件について、計5サンプルの測定を実施し、それらの平均値を端子付け前または端子付け後の破壊強度のデータとした。
【0139】
[例11~17、例21~27]
(導電体付きの評価用ガラス板(評価用ガラス板1)の製造)
ガラス板の一方の表面上に、セラミックペースト層を形成せずに、直接、導電ペースト層を形成した以外は、後記[遮光層および導電体付きの評価用ガラス板(評価用ガラス板2)の製造]と同様にして、導電体付きの評価用ガラス板(評価用ガラス板1、遮光層なし)を製造した。
【0140】
(遮光層および導電体付きの評価用ガラス板(評価用ガラス板2)の製造)
100mm×100mmの正方形状の2mm厚の未強化のガラス板(AGC社製「VFL」)を用意した。このガラス板の一方の表面上に、黒色顔料とガラスフリットとを含む遮光層形成用のセラミックペーストを塗工し、乾燥させて、セラミックペースト層を形成した。乾燥条件は、120℃、約10分間とした。セラミックペーストとして、セラミックペーストAを用いた。
【0141】
次いで、上記セラミックペースト層上に、銀粉とガラスフリットとを含む導電体形成用の銀含有ペーストを塗工し、乾燥させて、導電ペースト層を形成した。乾燥条件は、120℃、約10分間とした。
例11~17では、銀含有ペーストとして、銀含有ペーストAを用いた。
例21~27では、銀含有ペーストとして、銀含有ペーストBを用いた。
銀含有ペーストA、Bはいずれも、ビヒクル含有量が10~45質量%であった。
【0142】
次いで、セラミックペースト層および導電ペースト層を焼成した。常温(20~25℃)から昇温速度約180℃/分で615℃まで昇温し、615℃で3分間焼成した後、常温(20~25℃)まで自然冷却した(仮焼成)。次いで、昇温速度約180℃/分で600℃まで昇温し、600℃で3分間焼成し、常温(20~25℃)まで自然冷却した(本焼成)。このようにして、遮光層および導電体を形成した。
遮光層の平面形状は、52mm×52mmの正方形状とし、その中心と対角線は、ガラス板の中心と対角線に合わせた。遮光層の厚みは、15μm程度であった。
導電体の平面形状は、50mm×50mmの正方形状とし、その中心と対角線は、ガラス板の中心と対角線に合わせた。
銀含有ペーストAを用いて形成した導電体の厚みは、8.2μmであった。
銀含有ペーストBを用いて形成した導電体の厚みは、6.2μmであった。
以上のようにして、遮光層および導電体付きの評価用ガラス板(評価用ガラス板2)を製造した。
【0143】
(導電体の研磨)
例12~17、例22~27の各例においては、評価用ガラス板1、2の導電体に対して、研磨用消しゴム、金属繊維、または電動切削工具(ハンドグラインダー)を用いて、表面研磨を実施した。研磨条件は、以下の通りである。研磨前と研磨後に、導電体の物性を評価した。
【0144】
<研磨用消しゴム>
研磨用消しゴムとして、SEED社製「インク、ボールペン用砂消し」(番手:♯220相当)を用いた。片手の指で、研磨用消しゴムを持ち、これを導電体の表面に押し付けた状態で、導電体の一端から他端まで水平に移動させた。この操作を、計8回実施した。
【0145】
<金属繊維>
金属繊維として、ボンスター社製のスチールウール(番手:♯000、繊維中心径:14μm、1g)を用いた。
片手の指で、スチールウールを持ち、これを導電体の表面に押し付けた状態で、導電体の一端から他端まで水平に移動させた。この操作を、合計で24往復実施した。
【0146】
<電動切削工具(ハンドグラインダー)>
電動切削工具(ハンドグラインダー)として、日本精密機械工作社製「リューター(登録商標)」を用いた。先端工具として、ゴム製のパッドと、それに取り付けられる研磨用ディスクとの組合せからなるアングル用工具を用いた。研磨用ディスクとして、クッションディスク♯1200、クッションディスク♯800、クッションディスク♯400、およびクッションディスク#240の4種類を用いた。
銀含有ペーストとして銀含有ペーストAを用いた例では、リューターの回転速度は2000rpm、研磨時間は10秒とした。
銀含有ペーストとして銀含有ペーストBを用いた例では、リューターの回転速度は2000rpm、研磨時間は5秒とした。
【0147】
<半田接合>
各例において、評価用ガラス板1、2の導電体上に、SnAg系の無鉛半田(Sn:98質量%、Ag:2.0質量%、融点:220℃程度)を用いて、ワイヤーハーネスの先端部(導体露出部)が挿入される筒状の給電用部材接合部と、図4に示したような、両端部に半田接合部を有する橋状部とからなる、真鍮製の圧着端子を接合した。
具体的な方法は、以下の通りである。
半田ごてのこて先に適量の無鉛半田を載せ、加熱溶融した。この半田は予備半田と呼ばれる。
端子の各半田接合部に、0.05gの無鉛半田チップを付着させた。この端子を、導電体の端子接合部の上に配置した。この状態で、端子の半田接合部に、300℃に設定した半田ごてのこて先を押し当て、無鉛半田チップを加熱溶融させた。その後、端子から半田ごてを離し、自然冷却により無鉛半田を凝固させた。
導電体上に無鉛半田を介して端子を接合した時点から、1時間経過した後に、端子付け後の評価用ガラス板1、2の破壊強度を測定した。
【0148】
[例11~17、例21~27の評価結果]
例11~17の主な実験条件と評価結果を、表1-1、表1-2に示す。
例21~27の主な実験条件と評価結果を、表2-1、表2-2に示す。
【0149】
【表1-1】
【0150】
【表1-2】
【0151】
【表2-1】
【0152】
【表2-2】
【0153】
例11および例21との比較から、銀含有ペーストの種類以外が同じ条件では、銀含有ペーストAを用いて得られた導電体は、銀含有ペーストBを用いて得られた導電体よりも、未研磨状態で比較したとき、表面粗さ(Ra)が小さく、空孔率が大きいことが分かった。
銀含有ペーストAを用いて得られた例11の導電体は、未研磨状態で、空孔率は16.0%であり、特許文献2の[実施例]の項における例2、例3の導電性のトラックの空孔率と、同程度であった。
【0154】
例11および例21の結果から、遮光層の有無以外が同じ条件では、未研磨状態で比較したとき、評価用ガラス板1(遮光層なし)に対して、評価用ガラス板2(遮光層あり)の方が、端子付け後の破壊強度が低いことが分かった。遮光層ありの条件では、ペーストの焼成時に、遮光層形成用材料に含まれるガラスフリットの成分の一部が導電体の表面に移行し、導電体の表面にガラスフリットの成分がより多く存在し、導電体と半田との接合強度が低下すると推察される。
【0155】
導電体の表面を研磨した例12~17では、導電体の表面を研磨しなかった例11に対して、導電体の空孔率、膜厚、および算術平均表面粗さ(Ra)が低減した。
導電体の表面を研磨した例22~27では、導電体の表面を研磨しなかった例21に対して、導電体の空孔率、膜厚、および算術平均表面粗さ(Ra)が低減した。
【0156】
導電体の表面を研磨した例12~17では、導電体の表面を研磨しなかった例11に対して、導電体の空孔率を低減でき、10%以下とすることができた。研磨により、導電体のボイドが埋められると、推察される。
空孔率の測定例を、図10A図10Cに示す。
図10Aの左側の2つの像は、例11で得られた導電体の3つの断面SEM像のうちの2つの断面SEM像を示し、図10Aの右側の2つの像は、図示左側の2つの断面SEM像の画像処理と空孔率の測定結果を示す。
図10Bの左側の2つの像は、例14で得られた導電体の3つの断面SEM像のうちの2つの断面SEM像を示し、図10Bの右側の2つの像は、図示左側の2つの断面SEM像の画像処理と空孔率の測定結果を示す。
図10Cの左側の2つの像は、例15で得られた導電体の3つの断面SEM像のうちの2つの断面SEM像を示し、図10Cの右側の2つの像は、図示左側の2つの断面SEM像の画像処理と空孔率の測定結果を示す。
【0157】
例21(研磨なし、遮光層あり)で得られた導電体では、表面および断面のいずれにおいても、大きなボイドが数多く見られたが、例22(研磨あり、遮光層あり)で得られた導電体では、表面および断面のいずれにおいても、ボイドが消失または顕著に低減したことが確認された。導電体の表面を研磨することで、銀が引き延ばされてボイドが埋められと、推察される。
【0158】
導電体の表面を研磨した例12~17は、以下の条件1、2を充足し、評価用ガラス板1(遮光層なし)および評価用ガラス板2(遮光層あり)のいずれにおいても、例11に対して、端子付け後の破壊強度を向上できた。
導電体の表面を研磨した例22~27および例22~27は、以下の条件1、2を充足し、評価用ガラス板1(遮光層なし)および評価用ガラス板2(遮光層あり)のいずれにおいても、例21に対して、端子付け後の破壊強度を向上できた。
【0159】
(条件1)研磨前に対する研磨後の導電体の端子接合部の算術平均表面粗さ(Ra)の割合が、5~80%である。
(条件2)研磨前に対する研磨後の導電体の端子接合部の膜厚減少率が、4~40%である。
【0160】
[例31~35]
例31においては、遮光層形成用のセラミックペーストの種類を変更する以外は例21と同様にして、遮光層および導電体付きの評価用ガラス板(評価用ガラス板2、導電体(研磨なし)/遮光層/ガラス板)を製造した。
例32においては、遮光層形成用のセラミックペーストの種類を変更する以外は例22と同様にして、遮光層および導電体付きの評価用ガラス板(評価用ガラス板2、導電体(研磨あり)/遮光層/ガラス板)を製造した。
例33~35の各例においては、研磨用消しゴムの番手を変更する以外は例32と同様にして、遮光層および導電体付きの評価用ガラス板(評価用ガラス板2、導電体(研磨あり)/遮光層/ガラス板)を製造した。
これらの例では、遮光層形成用のセラミックペーストとして、セラミックペーストBを用いた。
例32~35の各例で用いた研磨用消しゴムは、以下の通りである。
例32:SK-11社製「研磨消しゴム」(番手:♯220)、
例33:中京研磨社製「サビトール」(番手:♯320)、
例34:オカスギ社製「ステラブロック」(番手:♯500)、
例35:SK-11社製「研磨消しゴム」(番手:♯1000)。
【0161】
例31~35の各例において得られた導電体について、例21および例22と同様にして、半田接合を実施し、端子付け後の評価用ガラス板2の破壊強度を測定した。例31~35の主な実験条件と評価結果を、表3に示す。
導電体の表面を研磨した例32~35は、導電体の表面を研磨しなかった例31に対して、端子付け後の破壊強度を向上できた。
【0162】
【表3】
【0163】
[例41]
セラミックペーストCと銀含有ペーストBとを用い、焼成条件を変更した以外は例21と同様の方法で、遮光層および導電体付きの評価用ガラス板(評価用ガラス板2)を製造した。焼成条件は、以下の通りとした。常温(20~25℃)から昇温速度180℃/分で600℃まで昇温し、600℃で約4分間焼成した後、常温(20~25℃)まで自然冷却した。
例21と同様、導電体の表面研磨を実施しなかった。
得られた評価用ガラス板2の導電体に対して、例21と同様にして、半田接合を実施しようとしたが、セラミックペーストCを用いて形成された遮光層上の導電体の表面に対する無鉛半田の濡れ性が不良であったため、半田接合を実施できなかった。
【0164】
[例42~45]
例42~45の各例においては、例41と同様の方法で、遮光層および導電体付きの評価用ガラス板(評価用ガラス板2)を製造した。
得られた評価用ガラス板2の導電体に対して、研磨用消しゴムを用いて、表面研磨を実施した。片手の指で、研磨用消しゴムを持ち、これを導電体の表面に押し付けた状態で、導電体の一端から他端まで水平に移動させた。この操作を、計6往復実施した。
各例で用いた研磨用消しゴムは、以下の通りである。
例52:SK-11社製「研磨消しゴム」(番手:♯220)、
例53:中京研磨社製「サビトール」(番手:♯320)、
例54:SK-11社製「研磨消しゴム」(番手:♯1000)、
例55:SK-11社製「研磨消しゴム」(番手:♯2000)。
得られた評価用ガラス板2の導電体に対して、例22と同様にして、半田接合を実施した。これらの例では、表面研磨によって、セラミックペーストCを用いて形成された遮光層上の導電体の表面に対する無鉛半田の濡れ性が改善され、半田接合を良好に実施できた。端子付け後の評価用ガラス板2の破壊強度を測定した。
【0165】
[例41~45の評価結果]
例41~45の主な実験条件と評価結果を、表4、図11Aおよび図11Bに示す。
【0166】
【表4】
【0167】
導電体の表面研磨を行わなかった例41では、導電体の端子接合部の応力値は、+45MPaであった。未研磨の導電体の端子接合部には引張応力がかかっていることが確認された。得られた端子付け前の評価用ガラス板2の破壊強度を測定したところ、65MPaであった。
導電体の表面研磨を行った例41~45では、表面研磨後の導電体の端子接合部の応力値は-50~-20MPaであり、表面研磨後の導電体の端子接合部は少なくとも表面が圧縮応力がかかった圧縮応力部となったことが確認された。これらの例では、端子付け後の破壊強度が高く、良好であった。
【0168】
本発明は上記実施形態および実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、適宜設計変更できる。
【符号の説明】
【0169】
1、2:車両用フロントガラス、10、50:合わせガラス、11、13:ガラス板、11E:露出部、11X、13X:端子付きガラス板、11Y、13Y:導電体付きガラス板、12:中間膜、13N:切欠部、20、40、80:導電体、20B、80B:給電用電極、20E:露出部、20L、80L:電熱線、20P、80P:研磨部、20NP、80NP:非研磨部、20T、80T:端子接合部、20CS、80CS:圧縮応力部、101:無鉛半田、102:端子、102A:給電用部材接合部、102B:半田接合部、103:給電用部材、BL:遮光層、OP:光学装置取付領域、TP:透光部。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図6
図7A
図7B
図8
図9A
図9B
図9C
図10A
図10B
図10C
図11A
図11B