(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025014310
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】ヒートパイプ
(51)【国際特許分類】
F28D 15/04 20060101AFI20250123BHJP
F28D 15/02 20060101ALI20250123BHJP
H05K 7/20 20060101ALI20250123BHJP
【FI】
F28D15/04 G
F28D15/04 H
F28D15/02 L
H05K7/20 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023116779
(22)【出願日】2023-07-18
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(72)【発明者】
【氏名】上久保 将大
【テーマコード(参考)】
5E322
【Fターム(参考)】
5E322DB08
5E322DB09
5E322EA11
(57)【要約】
【課題】作動流体の還流の効率を高めることができ、それにより優れた熱輸送特性を備えたヒートパイプを提供する。
【解決手段】ヒートパイプ1は、作動流体Fが封入された内部空間Sを有するコンテナ2に、液相の作動流体F
Lを蒸発させて気相の作動流体F
gに相変化させる蒸発部3と、蒸発部3から離隔した位置に配設され、気相の作動流体F
gを凝縮させて液相の作動流体F
Lに相変化させる凝縮部4と、蒸発部3と凝縮部4の間に位置する中間部5とを備え、蒸発部3における横断面で見て、第1の銅粉末の焼結体からなり、コンテナ2の内周面2a上の特定領域に形成されている第1焼結体層6と、第1の銅粉末よりも大きな平均粒径をもつ第2の銅粉末の焼結体からなり、コンテナ2の内周面2aとの間に第1焼結体層6が介装された状態で、コンテナ2の内周面2aの全体にわたって環状に形成されている第2焼結体層7と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動流体が封入された内部空間を有するコンテナに、
液相の作動流体を蒸発させて気相の作動流体に相変化させる蒸発部と、
前記蒸発部から離隔した位置に配設され、気相の作動流体を凝縮させて液相の作動流体に相変化させる凝縮部と、
前記蒸発部と前記凝縮部の間に位置する中間部と
を備えるヒートパイプにおいて、
前記蒸発部における前記ヒートパイプの横断面で見て、
第1の銅粉末の焼結体からなり、前記コンテナの内周面上の特定領域に形成されている第1焼結体層と、
前記第1の銅粉末よりも大きな平均粒径をもつ第2の銅粉末の焼結体からなり、前記コンテナの内周面との間に前記第1焼結体層が介装された状態で、前記コンテナの内周面全体にわたって環状に形成されている第2焼結体層と、
を有する、ヒートパイプ。
【請求項2】
前記ヒートパイプの長手方向を含む縦断面で見て、
前記第1焼結体層の配設長さは、前記蒸発部の長手方向寸法よりも長く、かつ、
前記第2焼結体層の配設長さは、前記第1焼結体層の配設長さよりも長い、請求項1に記載のヒートパイプ。
【請求項3】
前記第2焼結体層は、前記中間部のいずれかの位置で終端する、請求項2に記載のヒートパイプ。
【請求項4】
前記凝縮部で相変化させた液相の作動流体は、中間部に位置する前記第2焼結体層の内部空隙を通じた毛細管力によって前記蒸発部に向かって流れ、前記第2焼結体層の外周面と、前記第1焼結体層の内周面との接触界面を通じて、前記第2焼結体層から前記第1焼結体層に向かって流れるように構成される、請求項3に記載のヒートパイプ。
【請求項5】
前記特定領域は、前記コンテナの、発熱体と対向する部分を構成する内周面の領域を含む、請求項1に記載のヒートパイプ。
【請求項6】
前記コンテナの内周面に、前記コンテナの長手方向に沿って延在する複数の溝が形成されている、請求項1に記載のヒートパイプ。
【請求項7】
前記第1焼結体層は、前記特定領域に位置する前記溝内にも充填形成されている、請求項6に記載のヒートパイプ。
【請求項8】
前記第2焼結体層は、前記蒸発部で相変化させた気相の作動流体の蒸気流と、前記凝縮部で相変化させた液相の作動流体の液流とを実質的に隔離し、かつ前記液流が、前記複数の溝を通る経路と、前記第2焼結体層の内部空隙を通じた経路とに分かれて構成される、請求項6に記載のヒートパイプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱輸送特性を有するヒートパイプに関する。
【背景技術】
【0002】
近年のノートパソコンをはじめとした、デジタルカメラ、携帯電話などの電気・電子機器に搭載されている半導体素子などの電子部品は、高機能化に伴う高密度搭載などにより、発熱量が増大する傾向があることから、効率よく冷却できるような構成を採用することが重要である。電子部品を冷却するための手段としては、例えばヒートパイプを用いて冷却する方法が挙げられる。
【0003】
ここでヒートパイプは、一般的に、作動流体が封入された内部空間を有する管状容器(コンテナ)を備える。管状容器は、一端側部分に、液相の作動流体を蒸発させて気相の作動流体に相変化させる蒸発部を有し、他端側部分に、気相の作動流体を凝縮させて液相の作動流体に相変化させる凝縮部を有する。蒸発部で液相から気相に相変化させた作動流体は、蒸発部から凝縮部に流れる。凝縮部で気相から液相に相変化させた作動流体は、凝縮部から蒸発部に流れる。このようにして、管状容器内の蒸発部と凝縮部の間で作動流体の還流による循環流れが形成されることによって、管状容器内の蒸発部と凝縮部の間で熱輸送を行っている。
【0004】
従来のヒートパイプとしては、例えば特許文献1には、密閉状態の中空部を有するパイプ本体と、該パイプ本体の内周面に接するように配置された多孔質金属体層と、前記パイプ本体内に封入された作動流体とを備えてなり、このうち多孔質金属体層が、その周方向に区画された第1の多孔質部と、この第1の多孔質部より気孔率が小である第2の多孔質部と、を有するヒートパイプが記載されている。このヒートパイプでは、主に第1の多孔質部によって液相の作動流体を移動するとともに、主として第2の多孔質部によってパイプ本体と作動流体との間の熱交換を図るとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されるヒートパイプでは、第2の多孔質部で作動流体を液相から気相に相変化しているが、さらなる電子機器の発熱量増大に対応していくためには、より多くの作動流体を効率よく還流させる必要がある。ここで、第2の多孔質部の厚さを大きくすれば、作動流体の還流の効率を高めることは可能であるが、気相の作動流体が流通する中空部が狭くなるため、かえってヒートパイプの熱輸送特性が低下する。
【0007】
本発明の目的は、作動流体の還流の効率を高めることができ、それにより優れた熱輸送特性を備えたヒートパイプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の要旨構成は、以下のとおりである。
(1)作動流体が封入された内部空間を有するコンテナに、液相の作動流体を蒸発させて気相の作動流体に相変化させる蒸発部と、前記蒸発部から離隔した位置に配設され、気相の作動流体を凝縮させて液相の作動流体に相変化させる凝縮部と、前記蒸発部と前記凝縮部の間に位置する中間部とを備えるヒートパイプにおいて、前記蒸発部における前記ヒートパイプの横断面で見て、第1の銅粉末の焼結体からなり、前記コンテナの内周面上の特定領域に形成されている第1焼結体層と、前記第1の銅粉末よりも大きな平均粒径をもつ第2の銅粉末の焼結体からなり、前記コンテナの内周面との間に前記第1焼結体層が介装された状態で、前記コンテナの内周面全体にわたって環状に形成されている第2焼結体層と、を有する、ヒートパイプ。
(2)前記ヒートパイプの長手方向を含む縦断面で見て、前記第1焼結体層の配設長さは、前記蒸発部の長手方向寸法よりも長く、かつ、前記第2焼結体層の配設長さは、前記第1焼結体層の配設長さよりも長い、上記(1)に記載のヒートパイプ。
(3)前記第2焼結体層は、前記中間部のいずれかの位置で終端する、上記(2)に記載のヒートパイプ。
(4)前記凝縮部で相変化させた液相の作動流体は、中間部に位置する前記第2焼結体層の内部空隙を通じた毛細管力によって前記蒸発部に向かって流れ、前記第2焼結体層の外周面と、前記第1焼結体層の内周面との接触界面を通じて、前記第2焼結体層から前記第1焼結体層に向かって流れるように構成される、上記(3)に記載のヒートパイプ。
(5)前記特定領域は、前記コンテナの、発熱体と対向する部分を構成する内周面の領域を含む、上記(1)から(4)のいずれか1項に記載のヒートパイプ。
(6)前記コンテナの内周面に、前記コンテナの長手方向に沿って延在する複数の溝が形成されている、上記(1)から(5)のいずれか1項に記載のヒートパイプ。
(7)前記第1焼結体層は、前記特定領域に位置する前記溝内にも充填形成されている、上記(6)に記載のヒートパイプ。
(8)前記第2焼結体層は、前記蒸発部で相変化させた気相の作動流体の蒸気流と、前記凝縮部で相変化させた液相の作動流体の液流とを実質的に隔離し、かつ前記液流が、前記複数の溝を通る経路と、前記第2焼結体層の内部空隙を通じた経路とに分かれて構成される、上記(6)または(7)に記載のヒートパイプ。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、作動流体の還流の効率を高めることができ、それにより優れた熱輸送特性を備えたヒートパイプを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、第1の実施形態のヒートパイプの内部構造を示した図であって、
図1(a)が縦断面図、
図1(b)が
図1(a)のI
A-I
A線上で切断したときの断面図、
図1(c)が
図1(a)のI
B-I
B線上で切断したときの断面図である。
【
図2】
図2は、
図1のヒートパイプについて、動作中に内部で生じる作動流体の流れを説明する断面図である。
【
図3】
図3は、第2の実施形態のヒートパイプの内部構造を示した図であって、
図3(a)が縦断面図、
図3(b)が
図3(a)のII
A-II
A線上で切断したときの断面図、
図3(c)が
図3(a)のII
B-II
B線上で切断したときの断面図である。
【
図4】
図4は、本発明例および比較例のヒートパイプの内部構造を示した横断面図であって、
図4(a)が本発明例のヒートパイプの横断面図、
図4(b)が比較例のヒートパイプの横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明のいくつかの実施形態のヒートパイプについて、以下で説明する。
【0012】
<第1の実施形態>
図1は、第1の実施形態のヒートパイプの内部構造を示した図であって、
図1(a)が縦断面図、
図1(b)が
図1(a)のI
A-I
A線上で切断したときの断面図、
図1(c)が
図1(a)のI
B-I
B線上で切断したときの断面図である。他方で、
図2は、
図1のヒートパイプについて、動作中に内部で生じる作動流体の流れを説明する断面図である。
【0013】
ヒートパイプ1は、作動流体Fが封入された内部空間Sを有するコンテナ2に、液相の作動流体FLを蒸発させて気相の作動流体Fgに相変化させる蒸発部3と、蒸発部3から離隔した位置に配設され、気相の作動流体Fgを凝縮させて液相の作動流体FLに相変化させる凝縮部4と、蒸発部3と凝縮部4の間に位置する中間部5とを備える。このヒートパイプ1は、蒸発部3における横断面で見て、第1の銅粉末の焼結体からなり、コンテナ2の内周面2a上の特定領域に形成されている第1焼結体層6と、第1の銅粉末よりも大きな平均粒径をもつ第2の銅粉末の焼結体からなり、コンテナ2の内周面2aとの間に第1焼結体層6が介装された状態で、コンテナ2の内周面2aの全体にわたって環状に形成されている第2焼結体層7と、を有する。
【0014】
このヒートパイプ1では、第1の銅粉末から形成される第1焼結体層6の内周面6aに、第1の銅粉末よりも平均粒径の大きな第2の銅粉末から形成される第2焼結体層7が積層されることにより、第2焼結体層7の内部にある空隙を通じて液相の作動流体FLが第1焼結体層6に供給されるとともに、第1焼結体層6の内周面6aおよび内部に形成された空隙に到達した液相の作動流体FLに熱が伝えられることで、第1焼結体層6において液相の作動流体FLが蒸発して気相の作動流体Fgに相変化し、それにより蒸発部3の第1焼結体層6が形成されている部分と、作動流体Fとの間で熱交換を図ることができる。そのため、蒸発部3の第1焼結体層6が形成されている部分に伝わる熱を、気相の作動流体Fgの形で、凝縮部4に輸送することができる。特に、このヒートパイプ1は、蒸発部3を長手方向Xに対して垂直な横断面で見たときに、第1焼結体層6がコンテナ2の内周面2aの一部である特定領域に形成されるとともに、第2焼結体層7がコンテナ2の内周面2aの全体にわたって環状に形成されている。これにより、第1焼結体層6の表面の全体が、液相の作動流体FLが流通する第2焼結体層7によって覆われた状態になり、第1焼結体層6と第2焼結体層7の接触面積が大きくなることで、第1焼結体層6の内周面6aのより広い範囲に液相の作動流体FLが供給されるため、作動流体Fの還流を促進することができる。それとともに、コンテナ2の内周面2aにおいて、第1焼結体層6が積層される面積に相対して、還流が行われる部分の面積、すなわち第2焼結体層7が積層される面積が大きくなるため、作動流体Fの還流の効率を高めることができる。
【0015】
このように、このヒートパイプ1では、効率よく液相の作動流体FLを還流させることができるため、作動流体の還流の効率を高めることができ、それにより優れた熱輸送特性を備えたヒートパイプを提供することができる。
【0016】
[コンテナの構成について]
図1および
図2に示すヒートパイプ1は、作動流体Fが封入された内部空間Sを有するコンテナ2を備える。
図1および
図2では、コンテナ2の一例として、管状容器を示す。
【0017】
ここで、コンテナ2の長手方向Xについての延在形状は、
図1(a)に示す直線状の他、L字状やU字状のように湾曲した部分を有する形状などが挙げられ、特に限定されない。また、コンテナ2の長手方向Xに対して直交方向に切断したときのコンテナ2の外面輪郭形状は、
図1(b)および
図1(c)に示す略円形状の他、扁平形状、四角形などの多角形状などが挙げられ、特に限定されない。コンテナ2の肉厚は、特に限定されないが、例えば0.05mm~1.0mmの範囲であってもよい。コンテナ2の外径寸法は、特に限定されないが、例えば、コンテナ2が
図1(b)および
図1(c)に示す略円形状の外面輪郭形状である場合には、5mm~20mmの範囲であることが好ましい。
【0018】
コンテナ2の材質は、特に限定されない。特に作動流体Fとして水系の液体を用いる場合には、作動流体Fとの濡れ性を良くする観点から、金属材料を使用することが好ましい。特に、優れた熱伝導率を有する点から、コンテナ2には、例えば、銅、銅合金などを使用することができる。また、軽量化の点から、コンテナ2には、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金などを使用することができる。また、高強度を有する点から、コンテナ2には、例えば、ステンレス鋼などを使用することができる。また、その他、使用状況に応じて、コンテナ2には、例えば、スズ、スズ合金、チタン、チタン合金、ニッケル、ニッケル合金などを用いてもよい。
【0019】
[蒸発部、凝縮部および中間部の構成について]
ヒートパイプ1は、コンテナ2に、液相の作動流体F
Lを蒸発させて気相の作動流体F
gに相変化させる蒸発部3と、蒸発部3から離隔した位置に配設され、気相の作動流体F
gを凝縮させて液相の作動流体F
Lに相変化させる凝縮部4と、蒸発部3と凝縮部4の間に位置する中間部5と、を備える。ここで、蒸発部3、凝縮部4および中間部5は、それぞれ、
図1(a)に示すように、コンテナ2の長手方向Xに沿った一部に設けることができる。
図1(a)に示すコンテナ2は、一端側部分に蒸発部3、他端側部分に凝縮部4を有し、蒸発部3と凝縮部4の間に中間部5を有し、密閉された管として構成されている。
【0020】
このうち、蒸発部3は、
図1(a)では、コンテナ2の一端側部分に形成されており、熱的に接続された発熱体9から受熱(吸熱)する機能を有する。具体的に、蒸発部3は、例えば
図2に記載されるように、液相の作動流体F
Lを蒸発させて気相の作動流体F
gに相変化させることで、蒸発潜熱として発熱体9から受けた熱を吸収する。
【0021】
蒸発部3では、発熱体9から発生する熱が、コンテナ2を介して第1焼結体層6に伝わり、さらに、第1焼結体層6から第2焼結体層7に熱が伝わる。他方で、
図2に示すように、凝縮部4から蒸発部3に供給された液相の作動流体F
Lは、蒸発部3において、第2焼結体層7から第1焼結体層6に供給される。そのため、蒸発部3における、液相の作動流体F
Lの気相の作動流体F
gへの相変化は、主に第1焼結体層6で行われることになるが、一部が第2焼結体層7で行われてもよい。このとき、第1焼結体層6での液相の作動流体F
Lの蒸発によって生成する気相の作動流体F
gは、第2焼結体層7の内部に形成された空隙を通って内部空間Sに移動する。
【0022】
また、凝縮部4は、蒸発部3から離隔した位置に配設されており、例えば
図1では、コンテナ2の他端側部分に配設される。この凝縮部4は、蒸発部3で相変化して輸送されてきた気相の作動流体F
gが有する蒸発潜熱を、図示しない熱交換手段によって放熱する機能を有する。凝縮部4では、気相の作動流体F
gを凝縮させて液相の作動流体F
Lに相変化させ、それにより作動流体Fの凝縮潜熱として輸送された熱を、ヒートパイプ1の外部に放出する。
【0023】
[第1焼結体層の構成について]
第1焼結体層6は、第1の銅粉末の焼結体からなり、蒸発部3におけるヒートパイプ1の長手方向Xに対して垂直な横断面で見て、コンテナ2の内周面2a上の特定領域に形成される、焼結体層である。第1焼結体層6は、後述する第2焼結体層7よりも平均粒径の小さな第1の銅粉末の焼結体からなるため、液相の作動流体F
Lが流通できる空隙は小さく、液相の作動流体F
Lの流通速度は遅い。また、第1焼結体層6は、コンテナ2の蒸発部3の内周面3aに隣接するため、相対的に温度が高くなりやすい部分でもある。したがって、第1焼結体層6の内部における作動流体Fの流れは、
図2に示すような、内周面6a側から供給されて第1焼結体層6の内部に浸入する液相の作動流体F
Lの流れと、第1焼結体層6の内部に浸入した液相の作動流体F
Lの蒸発によって生成し、第1焼結体層6の内部から内周面6aを経て内部空間Sに向かう気相の作動流体F
gの流れが、主なものになる。このような第1焼結体層6によることで、コンテナ2に熱的に接続された発熱体(図示せず)から受熱(吸熱)した熱が第1焼結体層6に伝わるとともに、その熱の大部分をコンテナ2の内周面2aの特定領域上に留めた状態で、液相の作動流体F
Lを蒸発させるため、効率よく作動流体Fを気相に相変化させることができる。ここで、コンテナ2の内周面2aの特定領域は、コンテナ2のうち、発熱体9と対向する部分を構成する内周面2aの領域を含んだ領域とすることができる。
【0024】
第1焼結体層6は、
図1(a)に示すように、少なくとも蒸発部3に設けられる。このような第1焼結体層6を蒸発部3に設けることで、蒸発部3での液相の作動流体F
Lの蒸発が促進されるため、蒸発部3と熱的に接続された発熱体9から受けた熱を、蒸発潜熱としてより多くの作動流体Fに吸収させることができる。
【0025】
ここで、第1焼結体層6の配設長さL1は、ヒートパイプ1の長手方向Xを含む縦断面で見て、蒸発部3の長手方向寸法L0よりも長いことが好ましい。これにより、第1焼結体層6は、蒸発部3の内周面3aと、中間部5の内周面5aの両方に隣接して設けられる。このように第1焼結体層6の配設長さL1を構成することで、発熱体9から中間部5の側に向かう熱を第1焼結体層6に伝導して、作動流体Fに吸収させることができる。特に、発熱体9から中間部5の側に向かう熱を効率よく作動流体Fに吸収させる観点では、第1焼結体層6は、縦断面で見て、コンテナ2の内周面2aのうち、発熱体9と対向する部分を構成する内周面2aの領域と、その領域の両側に隣接するコンテナ2の内周面2aの領域に少なくとも配設されることが、より好ましい。他方で、第1焼結体層6の配設長さL1の上限は、後述する製造方法による第1焼結体層6の作製を容易にする観点から、150mm以下であることが好ましい。
【0026】
また、第1焼結体層6は、ヒートパイプ1の長手方向Xに対して垂直な横断面で見て、コンテナ2の内周面2aのうち第1焼結体層6が配設される部分の長さが、発熱体9と対向する部分を構成する内周面2aの領域よりも長いことが好ましい。特に、第1焼結体層6は、横断面で見て、コンテナ2の内周面2aのうち、発熱体9と対向する部分を構成する内周面2aの領域と、その領域の両側に隣接するコンテナ2の内周面2a上の領域に少なくとも配設されることが、より好ましい。このように第1焼結体層6を構成することで、発熱体9からコンテナ2に伝わる熱を効率よく第1焼結体層6に伝導して、作動流体Fに吸収させることができる。
【0027】
なお、本明細書における内周面は、内部空間Sの側の壁面に沿った面のことである。また、本明細書における外周面は、内部空間Sから離隔する側の壁面に沿った面のことである。また、蒸発部3の長手方向寸法L0は、ヒートパイプ1に熱的に接続される発熱体9の、ヒートパイプ1の長手方向Xに沿った大きさとすることができる。
【0028】
第1焼結体層6は、第1の銅粉末の焼結体によって形成され、バルク材料とは異なる多孔質材料からなることが好ましい。第1焼結体層6を多孔質材料によって構成することで、第1焼結体層6の表面積が大きくなるため、液相の作動流体FLを効率よく蒸発させることができる。加えて、第1焼結体層6を銅粉末の焼結体によって構成することで、作動流体Fとの濡れ性を良くし、かつ熱伝導性を高めることができる。
【0029】
ここで、第1の銅粉末の平均粒径(平均一次粒子径)は、特に限定されないが、例えば0.01μm以上200μm以下の範囲であってもよい。本明細書における平均粒径は、レーザー回析散乱式の粒度分布測定法によって測定された粒度分布における、体積基準の積算値50%での粒径である。また、第1焼結体層6の厚さは、特に限定されないが、例えば0.1mm以上1mm以下の範囲であってもよい。
【0030】
[第2焼結体層の構成について]
第2焼結体層7は、第1の銅粉末よりも大きな平均粒径をもつ第2の銅粉末の焼結体からなり、蒸発部3におけるヒートパイプ1の長手方向Xに対して垂直な横断面で見て、コンテナ2の内周面2aとの間に第1焼結体層6が介装された状態で、コンテナ2の内周面2aの全体にわたって環状に形成される、焼結体層である。ここで、第2焼結体層7は、第1焼結体層6の内周面6a上に積層されるとともに、第1焼結体層6が積層されていないコンテナ2の内周面2a上にも積層され、これらが連続して延在して位置する。第2焼結体層7は、上述する第1焼結体層6よりも平均粒径の大きな第2の銅粉末の焼結体からなるため、内部に大きな空隙が形成されており、この空隙が液相の作動流体F
Lの流動可能な流路を形成するため、内部に液相の作動流体F
Lを流通させることができる。また、第2焼結体層7は、第1焼結体層6と比べて、温度が高くなりにくい部分でもある。したがって、ヒートパイプ1の長手方向Xに対して垂直な横断面で見たときの、第2焼結体層7の内部における作動流体Fの流れは、
図2に示すような、凝縮部4から供給された液相の作動流体F
Lの、コンテナの内周面2aに沿って第1焼結体層6に向かう流れと、主に第1焼結体層6で生成した気相の作動流体F
gの、内部空間Sに向かう流れが主なものになる。
【0031】
第2焼結体層の配設長さL
2は、
図1(a)に示すように、ヒートパイプ1の長手方向Xを含む縦断面で見て、第1焼結体層6の配設長さL
1よりも長いことが好ましい。このとき、第2焼結体層7は、蒸発部3にある第1焼結体層6の内周面6aから、中間部5の内周面5aの部分にまで連続して延在する。これにより、中間部5の内周面5aで第2焼結体層7に吸い上げられた液相の作動流体F
Lが、第2焼結体層7の内部に形成された空隙を通じて、第1焼結体層6の内周面6aにスムーズに供給されるため、中間部5と蒸発部3の境界の前後での液相の作動流体F
Lの滞留を起こり難くすることができる。また、液相の作動流体F
Lが、第2焼結体層7の内部に形成された空隙を通じて、コンテナの長手方向Xに沿って中間部5の内周面5aから蒸発部3の先端に向かって流れるため、第2焼結体層7の内部を通る液相の作動流体F
Lと、内部空間Sを通る気相の作動流体F
gとの接触を低減するとともに、蒸発部3にある第1焼結体層6の内周面6aのより広い範囲に、液相の作動流体F
Lを供給することができる。
【0032】
ここで、ヒートパイプ1の長手方向Xを含む縦断面で見たときの、第2焼結体層7の内部における作動流体Fの流れは、中間部5の内周面5aで吸い上げられた液相の作動流体FLの、コンテナの長手方向Xに沿った蒸発部3の先端に向かう流れと、主に第1焼結体層6で生成した気相の作動流体Fgの、内部空間Sに向かう流れが主なものになる。
【0033】
特に、第2焼結体層7は、中間部5のいずれかの位置で終端することが好ましい。このとき、第2焼結体層7は、第1焼結体層6の内周面6aと、中間部5の内周面5aの両方に接するように延在する。また、第2焼結体層7は、第1焼結体層6の内周面6a上に位置する外周面7bと、コンテナ2の中間部5の内周面5a上に位置する外周面7b’の両方を有する。他方で、第2焼結体層7は、凝縮部4の温度を下げて作動流体Fの凝縮を促す観点から、凝縮部4に接触しないことが好ましい。
【0034】
ここで、凝縮部4で相変化させた液相の作動流体FLは、中間部5に位置する第2焼結体層7の内部空隙を通じた毛細管力によって蒸発部3に向かって流れ、第2焼結体層7の外周面7bと、第1焼結体層6の内周面6aとの接触界面を通じて、第2焼結体層7から第1焼結体層6に向かって流れるように構成されることが好ましい。このように第2焼結体層7を構成することで、液相の作動流体FLは、中間部5の内周面5aから、コンテナ2の長手方向Xに延在する第2焼結体層7に沿って、第1焼結体層6と接触している部分まで輸送され、第1焼結体層6のより広い範囲から蒸発される。その結果、液相の作動流体FLを効率よく蒸発させることで、ヒートパイプ1の熱抵抗を小さくすることができる。
【0035】
第2焼結体層7は、コンテナ2の内周面2aに、液相の作動流体FLの液流が、少なくとも第2焼結体層7の内部空隙に流れるように構成される。このとき、第2焼結体層7は、中間部5の位置にて、蒸発部3で相変化させた気相の作動流体Fgの蒸気流と、凝縮部4で相変化させた液相の作動流体FLの液流とを実質的に隔離するように構成されることが好ましい。これにより、第2焼結体層7の内部を通る液相の作動流体FLと、内部空間Sを通る気相の作動流体Fgとの接触による、蒸発部3や中間部5における気相の作動流体Fgの意図しない凝縮を起こり難くすることができる。
【0036】
第2焼結体層7は、多孔質材料である、第1の銅粉末よりも大きな平均粒径をもつ第2の銅粉末の焼結体によって構成される。これにより、第2焼結体層7には液相の作動流体FLが通過できる細孔が形成されるため、液相の作動流体FLを、中間部5の内周面5aから第1焼結体層6の内周面6aまで輸送することができる。加えて、第2焼結体層7を銅粉末の焼結体によって構成することで、作動流体Fとの濡れ性を良くし、かつ熱伝導性を高めることができる。したがって、第2焼結体層7は、高い熱伝導性を有するとともに、液相の作動流体FLが蒸発する第1焼結体層6への耐ドライアウト性を発揮することができる。
【0037】
ここで、第2焼結体層7を構成する第2の銅粉末の平均粒径(平均一次粒子径)は、特に限定されないが、例えば100μm以上500μm以下の範囲であってもよい。また、第1の銅粉末の平均粒径に対する、第2の銅粉末の平均粒径の割合は、特に限定されないが、例えば2以上5以下の範囲であってもよい。他方で、第2焼結体層7の厚さは、特に限定されないが、例えば0.3mm以上5mm以下の範囲であってもよい。
【0038】
第2焼結体層7は、蒸発部3をヒートパイプ1の長手方向Xに対して垂直な断面で見たときの、第1焼結体層6および第2焼結体層7の合計面積に対する面積割合が、50%以上90%以下の範囲であることが好ましい。このように第2焼結体層7の面積割合を高めることで、第2焼結体層7の内部を通過する液相の作動流体FLが増加するため、作動流体Fの還流の効率をより一層高めることができる。
【0039】
[ヒートパイプの動作原理について]
次に、
図1および
図2に示す第1の実施形態のヒートパイプ1を用いて、ヒートパイプ1の動作原理について説明する。ここで、ヒートパイプ1は、動作前に液相の作動流体F
Lが内部空間Sに封入された状態になっている。
【0040】
まず、液相の作動流体FLが、コンテナ2のうち第2焼結体層7と接する内周面2aの部分に供給される。コンテナ2の第2焼結体層7と接する部分への液相の作動流体FLの供給手段は、特に限定されない。例えば、第2焼結体層7が液相の作動流体FLに接触するときに生じる毛細管力を用いることで、第2焼結体層7の全体に液相の作動流体FLを供給することができるため、ドライアウトの発生を起こりにくくすることができる。
【0041】
コンテナ2の第2焼結体層7と接する内周面2aの部分に供給された液相の作動流体FLは、少なくとも一部が第2焼結体層7に吸収され、第2焼結体層7の内部空隙に流れるように構成される。特に、後述するようにコンテナ2の内周面2aに複数の溝8が形成されている場合には、液相の作動流体FLの液流が、複数の溝8を通る経路と、第2焼結体層7の内部空隙を通じた経路とに分かれるように構成されてもよい。
【0042】
第2焼結体層7に吸収された液相の作動流体FLは、第2焼結体層7の有する毛細管力によって長手方向Xに沿って流れ、第2焼結体層7と第1焼結体層6とが接触する広い範囲で、第1焼結体層6に吸収される。他方で、第2焼結体層7に吸収されずに溝8を流通した作動流体FLは、溝8と第1焼結体層6または第2焼結体層7とが近接する部分で、第1焼結体層6または第2焼結体層7に吸収される。
【0043】
ここで、ヒートパイプ1の蒸発部3が、熱的に接続された発熱体9から受熱すると、液相の作動流体FLが供給された第1焼結体層6の表面で、液相の作動流体FLを蒸発して気相の作動流体Fgに相変化することによって、蒸発潜熱として発熱体9から受けた熱を吸収する。特に、このヒートパイプ1では、コンテナ2のうち発熱体9と対向する部分とその近傍で、液相の作動流体FLを気相の作動流体Fgに効率よく相変化させることができるため、ヒートパイプ1の熱抵抗を格段に小さくすることができる。
【0044】
蒸発部3で熱を吸収した気相の作動流体Fgは、コンテナ2の内部空間Sである蒸気流路を通って、コンテナ2の長手方向Xに沿って蒸発部(受熱部)3から凝縮部(放熱部)4へ流れることで、発熱体9から受けた熱が、蒸発部3から中間部5を経て凝縮部4へと輸送される。このとき、蒸発部3から中間部5を経て凝縮部4へと輸送される気相の作動流体Fgは、第2焼結体層7の内部を通る液相の作動流体FLと接触しにくくなるため、気相の作動流体Fgのカウンターフローなどによる、作動流体Fの循環流れが乱れるのを防止することができる。そのため、ヒートパイプ1では、優れた熱輸送特性を実現することができる。
【0045】
その後、凝縮部4へ輸送された気相の作動流体Fgは、凝縮部4にて、熱交換手段(図示せず)によって、液相へ相変化させられる。このとき、輸送されてきた発熱体9の熱は、凝縮潜熱としてヒートパイプ1の外部に放出される。そして、凝縮部4で熱を放出して液相に相変化した液相の作動流体FLが、コンテナ2の内周面2aに長手方向Xに沿って、コンテナ2のうち第2焼結体層7と接する内周面2aの部分に供給されることで、蒸発部3と凝縮部4の間の作動流体の循環流れを形成することができる。
【0046】
<第2の実施形態>
図3は、第2の実施形態のヒートパイプの内部構造を示した図であって、
図3(a)が縦断面図、
図3(b)が
図3(a)のII
A-II
A線上で切断したときの断面図、
図3(c)が
図3(a)のII
B-II
B線上で切断したときの断面図である。なお、
図3に示す各構成部材は、
図1に示すヒートパイプ1の構成部材と同じ場合には、同じ符号を付している。
【0047】
第1の実施形態で示したヒートパイプ1では、コンテナ2の内周面2aが滑らかな面によって構成される態様について示したが、これに限定されない。例えば、
図3に示すヒートパイプ1Aのように、コンテナ2Aの内周面2aに、コンテナ2Aの長手方向Lに沿って延在する複数の溝8が形成されていてもよい。このような溝8を設けることで、ヒートパイプ1の内部で液相の作動流体F
Lを輸送する際に、液相の作動流体F
Lが溝8および第2焼結体層7に沿ってコンテナ2Aの内周面2aを移動するように、毛細管力を発揮することができる。そのため、凝縮部4から蒸発部3への液相の作動流体F
Lの輸送を促進することができ、かつ逆作動性を有することができる。ここで、逆作動性とは、蒸発部3の位置が凝縮部4の位置よりも高い場合でも、ヒートパイプとしての機能を発揮する性能をいう。
【0048】
これらの溝8は、少なくとも、凝縮部4から第2焼結体層7が位置する部分までの内周面2aに、長手方向Xに向かって延在することが好ましく、凝縮部4から蒸発部3まで連続した溝8が延在することがより好ましい。これにより、凝縮部4から第2焼結体層7が位置する部分までの液相の作動流体FLの輸送が促進されるため、第2焼結体層7を介した、蒸発部3にある第1焼結体層6への、液相の作動流体FLの輸送を促進することができる。特に、凝縮部4から蒸発部3まで連続した溝8を備えることで、液相の作動流体FLを、第2焼結体層7の内部を通る経路と、溝8を通る経路の両方を通じて、蒸発部3に位置する第1焼結体層6に供給することができる。
【0049】
溝8を有するコンテナ2Aは、コンテナ2Aの長手方向Xに向かって延在する溝(グルーブ)8がコンテナ2Aの内周面2aに形成されたグルーブ管であってもよい。特に、コンテナ2Aをグルーブ管によって構成することで、コンテナ2Aの全長にわたって、液相の作動流体FLを輸送するための毛細管力が発揮されるため、ヒートパイプ1Aがトップヒートの姿勢で設置された場合、すなわち、液相の作動流体FLの下流にあたる蒸発部3が、凝縮部4や中間部5よりも上側に設置された場合であっても、凝縮部4から蒸発部3への液相の作動流体FLの輸送を行い易くすることができる。
【0050】
これらの溝8の開口幅は、特に限定されるものではないが、毛細管力による液相の作動流体FLの輸送を促進する観点では、例えば0.1mm~1mmとしてもよい。
【0051】
ヒートパイプ1Aの第1焼結体層6Aは、コンテナの内周面2a上の特定領域に位置する溝8内にも充填形成されていることが好ましい。すなわち、第1焼結体層6Aは、コンテナの蒸発部3において溝8が形成されていない場合を仮想した仮想内周面3bよりも、コンテナ2Aの側を含むように形成されることが好ましい。より好ましくは、第1焼結体層6Aは、溝8のうち長手方向Xの一部または全部に充填される。特に、第1焼結体層6Aは、
図3(b)に示すように、溝8の溝底に接するように形成されることが好ましい。これにより、溝8に沿って輸送される液相の作動流体F
Lが、第1焼結体層6Aに接触することで、第1焼結体層6Aに吸い上げられ易くなるため、液相の作動流体F
Lの蒸発をより一層促進させることができる。
【0052】
ここで、第1焼結体層6Aの内周面は、
図3(a)に示すように、中間部5に位置する、第2焼結体層7Aの部分とコンテナ2Aの内周面2aの部分とが接する境界面位置Nよりも、コンテナ2Aの内部空間Sの中心軸線位置Mの側にあるように構成されることが好ましい。これにより、第2焼結体層7Aを流通する液相の作動流体F
Lの流れのうち少なくとも一部が、第1焼結体層6Aに突き当たるため、第2焼結体層7Aから第1焼結体層6Aへの液相の作動流体F
Lの流通を促進することができる。
【0053】
また、第1焼結体層6Aは、コンテナ2Aの内周面2aと第1焼結体層6Aの外周面6bとの間に溝8の空間が存在するように構成することもできる。これにより、凝縮部4で相変化させた液相の作動流体FLを、溝8を通じて第1焼結体層6Aの外周面が存在する蒸発部3の位置までより迅速に移動させることができ、この結果、凝縮部4から蒸発部3への液相の作動流体FLの循環流れをより一層促進することができる。
【0054】
ヒートパイプ1Aの第2焼結体層7Aは、蒸発部3で相変化させた気相の作動流体Fgの蒸気流と、凝縮部4で相変化させた液相の作動流体FLの液流とを実質的に隔離するとともに、液相の作動流体FLの液流が、複数の溝8を通る経路と、第2焼結体層7Aの内部空隙を通じた経路とに分かれて構成されることが好ましい。これにより、第2焼結体層7Aと溝8が配置される部分において、より多くの液相の作動流体FLを流通することができるため、この部分における液相の作動流体FLの滞留をより一層起こりにくくすることができる。また、複数の溝8を通る経路と、第2焼結体層7の内部空隙を通じた経路とが並列に形成されている部分では、液相の作動流体FLがより強く吸い上げられるため、中間部5や蒸発部3における液相の作動流体FLの流通速度を速め、それによりヒートパイプ1の熱輸送特性をより一層高めることができる。
【0055】
第2焼結体層7Aを構成する第2の銅粉末の平均粒径(平均一次粒子径)は、特に限定されず、上述のヒートパイプ1と同様に100μm以上500μm以下の範囲であってもよい。他方で、第2焼結体層7Aを構成する第2の銅粉末の平均粒径(平均一次粒子径)は、溝8に形成される液相の作動流体FLの流路を妨げない観点から、溝8の溝幅よりも大きいことが好ましい。
【0056】
第2焼結体層7Aは、溝8に形成される液相の作動流体FLの流路を妨げない観点から、溝8を充填しないことが好ましい。ここで、溝8を充填しないように第2焼結体層7Aを構成する手段としては、第2の銅粉末として、上述の第1の銅粉末よりも平均粒径の大きな銅粉末を用いる手段や、第2の銅粉末をコンテナ2に装填する際に銅粉末に掛ける力を弱めて焼結する手段が挙げられる。
【0057】
<その他の実施形態>
上述の実施形態では、蒸発部3の一方の側に向けてコンテナ2が延在し、凝縮部4および中間部5を1ヶ所ずつ有する場合を示したが、かかる構成だけには限定されない。例えば、蒸発部3から複数の方向に向けてコンテナ2が延在し、凝縮部4および中間部5を複数箇所に設けてもよい。ヒートパイプ1では、蒸発部3から複数の方向に向けてコンテナ2を延在させて液相の作動流体FLの流通量を増加させても、蒸発潜熱として発熱体9から受けた熱を、効率よく複数の凝縮部に移動させることができる。
【0058】
<ヒートパイプの製造方法>
以下、ヒートパイプの製造方法の具体的な例について説明する。
【0059】
ヒートパイプ1に用いられる、管状容器などのコンテナ2の形状は、ヒートパイプ1の形状に合わせて、管材、板材、箔材などから適宜選択することができる。コンテナ2の表面に付着した汚れなどは、ヒートパイプの熱伝達能の低下に繋がる恐れがあるため、洗浄することが好ましい。洗浄は一般的な方法で行うことができ、例えば溶剤脱脂、電解脱脂、エッチング、酸化処理などによって行うことができる。
【0060】
このコンテナ2の内部中心位置に、第1焼結体層6の型となる形状の芯棒(例えば、ステンレス製の芯棒)を挿入配置してから、コンテナ2の内周面2aと芯棒の外面との間に形成された空隙部に第1焼結体層6の原料である第1の銅粉末を装填し、装填された第1の銅粉末を焼結することで、第1焼結体層6を形成する。第1焼結体層6を形成したコンテナ2から、芯棒を引き抜いて取り外す。ここで、コンテナ2の内周面2a上の特定領域のみに第1焼結体層6を設ける観点から、形成された第1焼結体層6に切削加工などを行ってもよい。
【0061】
次いで、コンテナ2の内部中心位置に、第2焼結体層7の型となる形状の芯棒(例えば、ステンレス製の芯棒)を挿入配置し、コンテナ2の内面と芯棒の外面との間に形成された空隙部に、第2焼結体層7の原料である第2の銅粉末を装填し、装填された第2の銅粉末を焼結することで、第2焼結体層7を形成する。第2焼結体層7を形成したコンテナ2から、芯棒を引き抜いて取り外す。
【0062】
ここで、第1焼結体層6および第2焼結体層7の原料である第1および第2の銅粉末の焼結は、通常行われている条件であればよく、特に限定されない。焼結の条件の一例として、水素ガスや、水素ガスと不活性ガス(N2、Ar、Heなど)を含む混合ガスなどの還元ガスの雰囲気下で、加熱処理を施すことで行うことが挙げられる。
【0063】
第1焼結体層6および第2焼結体層7をコンテナ2に形成した後、一方の端部である封入口を残してコンテナ2の他方の端部だけを封止し、封入口から作動流体Fを注入する。作動流体Fを注入した後、コンテナ2の内部を、加熱脱気、真空脱気などの脱気処理をして減圧状態にする。その後、封入口を封止することでヒートパイプ1を製造する。
【0064】
封止の方法は、特に限定されず、例えば、TIG溶接、抵抗溶接、圧接、はんだ付けを挙げることができる。なお、最初に行う封止(他方の端部だけの封止)は、その後に行う脱気の際に内部の気体が抜ける部分以外を封止するために行う工程であり、また、2回目の封止(封入口の封止)は、脱気の際に内部の気体が抜ける部分を封止するために行う工程である。
【0065】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の概念および特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【実施例0066】
以下に、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0067】
(本発明例)
本発明例のヒートパイプ1Bは、
図1に示す内部構造を有する円筒状のヒートパイプ1の一例である。コンテナ2として、長手方向Xに沿った長さが400mmであり、直径(内径)が7mmの円筒形状の管状容器を用いた。このコンテナ2の内部中心位置に、第1焼結体層6Bの型となる形状のステンレス製の芯棒を挿入配置してから、グルーブ管の内面と芯棒の外面との間に形成された空隙部に、第1焼結体層6Bの原料である、平均粒径(平均一次粒子径)が100μmの銅粉末(第1の銅粉末)を装填した。そして、第1の銅粉末を装填したコンテナ2に対して、還元ガスの雰囲気下で加熱処理を施し、銅粉末を焼結させた後、芯棒をコンテナ2から引き抜いて取り外した。これにより、コンテナ2の内周面2a上の特定領域、より具体的に、発熱体9と対向する部分を構成する内周面2aの領域の全体を含んだ、蒸発部3となる部分の内周面2a全体の面積に対して67%の面積割合の領域に、厚さ0.5mmの、銅焼結体からなる第1焼結体層6Bを形成した。ここで、ヒートパイプ1Bの蒸発部3となる部分を長手方向Xに対して垂直な横断面で見たときの、コンテナ2の内周面2aの発熱体9と対向する部分を構成する領域の長さは、内周面2aの全体の長さの50%とし、第1焼結体層6Bを形成する領域は、発熱体9と対向する部分を構成する内周面2aの領域と、その両側に隣接する内周面2a上の領域に、両側の領域の大きさが等しくなるように配設した。また、コンテナ2の内周面2aのうち、発熱体9と対向する部分を構成する領域は、ヒートパイプ1Bの長手方向Xを含む縦断面で見て、コンテナ2の蒸発部3側の先端から15mmの位置から55mmの位置までの範囲に設け、蒸発部3側の先端から55mmの位置までの範囲を蒸発部3とした。そのため、蒸発部3の長手方向寸法L
0は55mmである。また、ヒートパイプ1Bの長手方向Xを含む縦断面で見て、蒸発部3側の先端から60mmの位置までの範囲に第1焼結体層6Bを設けた。そのため、第1焼結体層6Bの長手方向Xに沿った配設長さL
1は60mmである。
【0068】
次いで、このコンテナ2の内部中心位置に、第2焼結体層7の型となる形状のステンレス製の芯棒を挿入配置してから、グルーブ管の内面と芯棒の外面との間に形成された空隙部に第2焼結体層7の原料である、平均粒径(平均一次粒子径)が200μmの銅粉末(第2の銅粉末)を装填した。そして、第2の銅粉末を装填したコンテナ2に対して、還元ガスの雰囲気下で加熱処理を施し、銅粉末を焼結させた後、芯棒をコンテナ2から引き抜いて取り外した。これにより、コンテナ2の蒸発部3側の先端から中間部5にかけて、
図4(a)に示すように、コンテナ2の内周面2aとの間に第1焼結体層6Bが部分的に介装された状態で、長手方向Xに対して垂直な横断面で見たときのコンテナ2の内周面2aの全体に、長手方向Xに沿った長さが250mm、内周面の内径が5mm(第1焼結体層6Bが形成されている部分の厚さ0.5mm、第1焼結体層6Bが形成されていない部分の厚さ1.0mm)の、銅焼結体からなる第2焼結体層7を形成した。
【0069】
第1焼結体層6および第2焼結体層7を形成した後、一方の端部である封入口を残してコンテナ2の他方の端部だけを封止し、封入口から液相の作動流体F(L)である水を注入した。次いで、コンテナ2の内部を脱気して減圧状態とし、その後、封入口を封止することでヒートパイプ1を作製した。
【0070】
(比較例)
比較例のヒートパイプ10は、
図4(b)に示すように、コンテナ2の内周面2aの全体に、長手方向Xに沿った配設長さ60mm、厚さ0.5mmの、銅焼結体からなる第1焼結体層6Cを形成した。それ以外は、本発明例のヒートパイプと同じ構成になるようにして作製した。
【0071】
ここで、
図4は、本発明例および比較例のヒートパイプの内部構造を示した横断面図であって、
図4(a)が本発明例のヒートパイプ1の横断面図、
図4(b)が比較例のヒートパイプ10の横断面図である。
【0072】
(性能評価)
ヒートパイプの性能評価は以下の条件で行った。
1.ヒートパイプの一端側部分である蒸発部(受熱部)の外面に、発熱体としてヒーターブロック(発熱量50W~250W)を装着した。
2.ヒートパイプの他端側部分である凝縮部(放熱部)に熱交換手段を装着した。
3.蒸発部と凝縮部の間の中間部は、断熱材を装着して断熱部とした。
4.水平方向に設置した状態で、蒸発部での入熱量を50Wから徐々に増加させながら、発熱体の温度と凝縮部の温度の差が最小になるときの入熱量の大きさを測定し、この測定した入熱量を最大熱輸送量Qmax(W)とした。
5.発熱体の温度と凝縮部の温度の差を測定し、入熱量で割った値を熱抵抗(℃/W)とした。
【0073】
このうち、最大熱輸送量Qmaxの結果について、第1焼結体層6をコンテナ2の内周面2a上の全面に形成した比較例を基準(指数比100)としたときの相対値で表した。結果を表1の「最大熱輸送量の相対値」欄に示す。
【0074】
【0075】
その結果、本発明例のヒートパイプ1は、第1焼結体層6をコンテナ2の内周面2a上の全面に形成した比較例を基準(指数比100)としたときの、最大熱輸送量Qmaxの相対値が128であった。
【0076】
したがって、本発明例のヒートパイプ1は、比較例のヒートパイプ10と比べて、最大熱輸送量Qmaxの相対値が大きいものであったため、高い熱輸送特性を有することが分かった。