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特開2025-14440分光感度推定装置およびそのプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025014440
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】分光感度推定装置およびそのプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01J 3/02 20060101AFI20250123BHJP
   G01M 11/00 20060101ALI20250123BHJP
【FI】
G01J3/02 Z
G01M11/00 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023116990
(22)【出願日】2023-07-18
(71)【出願人】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(71)【出願人】
【識別番号】399060908
【氏名又は名称】一般財団法人NHK財団
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】正岡 顕一郎
【テーマコード(参考)】
2G020
2G086
【Fターム(参考)】
2G020CB36
2G020CB54
2G020CC49
2G020CD04
2G020CD22
2G020CD36
2G020CD37
2G086EE04
2G086EE12
(57)【要約】
【課題】分光感度を推定する分光感度推定装置を提供する。
【解決手段】分光感度推定装置1は、サンプリングした波長を中心波長とする光を分光放射計5で予め定めた波長間隔で計測した計測値を行方向の成分とし、中心波長のサンプリング数だけ行を配列した行列に対して特異値を算出する特異値算出部31と、特異値の大きい方から予め定めた数を除いた特異値ごとに、それぞれの特異値を許容誤差とする複数の疑似逆行列を生成する疑似逆行列生成部32と、被測定器Tが出力した応答値を列ベクトルとし、複数の疑似逆行列に対して乗算することで、複数の分光感度候補を算出する分光感度候補算出部33と、分光感度候補の中で要素間の差の総和が最小となる分光感度候補を被測定器Tの分光感度として選定する分光感度選定部34と、を備える。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力光に対する応答値を出力する被測定器の分光感度を推定する分光感度推定装置であって、
測定対象の波長レンジにおいてサンプリングした波長を中心波長とする光を分光放射計で予め定めた波長間隔で測定した測定値を行方向の成分とし、中心波長のサンプリング数だけ行を配列した行列に対して複数の特異値を算出する特異値算出部と、
前記複数の特異値の大きい方から予め定めた数を除いた特異値ごとに、それぞれの特異値を許容誤差とする前記行列に対する複数の疑似逆行列を生成する疑似逆行列生成部と、
前記分光放射計で測定した同じ中心波長の光ごとに、前記被測定器が出力した応答値を列ベクトルとし、前記複数の疑似逆行列に対して乗算することで、複数の分光感度候補を算出する分光感度候補算出部と、
前記複数の分光感度候補の中で、隣接する要素間の差の総和が最小となる分光感度候補を前記被測定器の分光感度として選定する分光感度選定部と、
を備えることを特徴とする分光感度推定装置。
【請求項2】
入力光に対する応答値を出力する被測定器の分光感度を推定する分光感度推定装置であって、
測定対象の波長レンジにおいてサンプリングした波長を中心波長とする光を分光放射計で予め定めた波長間隔で測定した測定値を行方向の成分とし、中心波長のサンプリング数だけ行を配列した行列に対して複数の特異値を算出する特異値算出部と、
前記複数の特異値の大きい方から予め定めた数を除いた特異値ごとに、それぞれの特異値を許容誤差とする前記行列に対する複数の疑似逆行列を生成する疑似逆行列生成部と、
前記分光放射計で測定した同じ中心波長の光ごとに、前記被測定器が出力した応答値を列ベクトルとし、前記複数の疑似逆行列に対して乗算することで、複数の分光感度候補を算出する分光感度候補算出部と、
前記複数の分光感度候補の中で、隣接する要素間の差の総和の逆数を尤度として算出し、前記尤度が最大となる分光感度候補を前記被測定器の分光感度として選定する分光感度選定部と、
を備えることを特徴とする分光感度推定装置。
【請求項3】
発光装置が発光する光を分光する分光器に対して、前記波長レンジにおいて中心波長をサンプリングして切り替える指示を行う波長切替部と、
前記波長切替部でサンプリングされた中心波長の光ごとに、前記分光放射計で予め定めた波長間隔で測定した測定値を取得する分光分布取得部と、
前記波長切替部でサンプリングされた中心波長の光ごとに、前記被測定器が出力する応答値を取得する応答値取得部と、
をさらに備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の分光感度推定装置。
【請求項4】
前記分光放射計が測定した測定値は、放射輝度であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の分光感度推定装置。
【請求項5】
前記被測定器が出力した応答値は、輝度、光度または三刺激値であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の分光感度推定装置。
【請求項6】
コンピュータを、請求項1または請求項2に記載の分光感度推定装置として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定器の分光感度を推定する分光感度推定装置およびそのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
カラーカメラの色再現、光度計(フォトメータ)や色彩計(カラリメータ)の測定などの正確さを評価するためには、各装置の分光感度特性を把握することが重要となる。そのため、分光感度を測定する装置が開発されている(例えば、非特許文献1参照)。
一般的な分光感度の測定は、分解能を高く測定するため、分光器(モノクロメータ)で十分に小さい半値幅で所望の波長間隔でサンプリングされた光(測定光)に対する撮像システムの応答を測定することにより行われている。
例えば、従来の分光感度の測定は、図11に示すような十分に小さい半値幅Wとして5nmや10nm、所望の波長間隔Dとして1nmや5nmで中心波長をずらした光を用いて測定を行う。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】“分光応答度(分光感度)測定”,[online],分光計器株式会社,[令和5年6月26日検索]、インターネット<URL:http://www.bunkoukeiki.co.jp/responsivity.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来手法のように、測定光の半値幅と波長間隔とを小さくすると、被測定器(例えば、カメラ)において必要となる露光時間が長くなるため、測定時間が長くなってしまうという問題がある。
また、露光時間が長くなると、被測定器におけるセンサノイズが蓄積し、分光感度測定の精度が低下してしまう。そのため、従来手法は、図11に示すように、どの波長においても測定光の強度を強める必要があり、等エネルギーに校正した出力の非常に高い光源を使用しなければならないという問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、測定光の半値幅や波長間隔を従来よりも大きくし、光強度を抑えても、精度よく分光感度を推定することが可能な分光感度推定装置およびそのプログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明に係る分光感度推定装置は、入力光に対する応答値を出力する被測定器の分光感度を推定する分光感度推定装置であって、特異値算出部と、疑似逆行列生成部と、分光感度候補算出部と、分光感度選定部と、を備える構成とした。
【0007】
かかる構成において、分光感度推定装置は、特異値算出部によって、測定対象の波長レンジにおいてサンプリングした波長を中心波長とする光を分光放射計で予め定めた波長間隔で測定した測定値を行方向の成分とし、中心波長のサンプリング数だけ行を配列した行列に対して複数の特異値を算出する。
【0008】
そして、分光感度推定装置は、疑似逆行列生成部によって、複数の特異値の大きい方から予め定めた数を除いた特異値ごとに、それぞれの特異値を許容誤差とする前記行列に対する複数の疑似逆行列を生成する。このように、複数の許容誤差を設定して疑似逆行列を生成することで、分光放射計で測定された分光分布の特徴を表すとともに、測定ノイズを想定した複数の疑似逆行列を生成することができる。
【0009】
そして、分光感度推定装置は、分光感度候補算出部によって、分光放射計で測定した同じ中心波長の光ごとに、被測定器が出力した応答値を列ベクトルとし、複数の疑似逆行列に対して乗算することで、複数の分光感度候補を算出する。
このように算出される分光感度候補は、実測した分光分布の特徴を反映したものとなるため、測定光である分光分布の波長間隔や半値幅を従来よりも大きくすることができるとともに、光源の強度を抑えることが可能になる。
【0010】
そして、分光感度推定装置は、分光感度選定部によって、複数の分光感度候補の中で、隣接する要素間の差の総和が最小となる分光感度候補を被測定器の分光感度として選定する。あるいは、分光感度推定装置は、分光感度選定部によって、複数の分光感度候補の中で、隣接する要素間の差の総和の逆数を尤度として算出し、尤度が最大となる分光感度候補を被測定器の分光感度として選定してもよい。これによって、分光感度推定装置は、ノイズの影響の少ない分光感度を推定ことができる。
なお、分光感度推定装置は、コンピュータを、分光感度推定装置として機能させるためのプログラムで動作させることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、測定光の分光分布の波長間隔や半値幅を従来よりも大きくすることができるため、従来よりも、より短い時間で精度よく分光感度を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係る分光感度推定装置を用いた分光感度測定システムの構成を示す全体構成図である。
図2】発光装置が発光するLED光の分光分布の例を示すグラフ図である。
図3】分光器が出力する光の分光分布の例を示すグラフ図である。
図4】分光放射計が測定した放射輝度の分光分布の例を示すグラフ図である。
図5】本発明の実施形態に係る分光感度推定装置の構成を示すブロック構成図である。
図6】本発明の実施形態に係る分光感度推定装置の推定部における計算例を説明するためのグラフ図である。
図7】本発明の実施形態に係る分光感度推定装置の推定結果を説明するためのグラフ図である。
図8】本発明の実施形態に係る分光感度推定装置で使用する測定光の分光分布を中心波長ごとに多重化して示すグラフ図である。
図9】本発明の実施形態に係る分光感度推定装置のデータ収集動作を説明するためのフローチャートである。
図10】本発明の実施形態に係る分光感度推定装置の分光感度の推定動作を説明するためのフローチャートである。
図11】従来の分光感度測定で使用する測定光の分光分布を中心波長ごとに多重化して示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
[分光感度測定システムの構成]
図1を参照して、本発明の実施形態に係る分光感度推定装置1を用いた分光感度測定システム100の構成について説明する。
分光感度測定システム100は、被測定器Tの分光感度を測定するものである。分光感度とは、入力する光束の波長に対する感度の特性である。
【0014】
被測定器Tは、分光感度を測定する対象となる機器である。被測定器Tは、光を受光する受光素子を備え、入力光に対する応答値を出力するものであればなんでもよい。例えば、被測定器Tは、カメラ(撮像装置)、光度計、色彩計などである。なお、被測定器Tは、応答値が入力光に対してリニアであることとする。
分光感度測定システム100は、分光感度推定装置1と、発光装置2と、分光器3と、積分球4と、分光放射計5と、を備える。
【0015】
分光感度推定装置1は、入力光に対する応答値を出力する被測定器Tの分光感度を推定するものである。この分光感度推定装置1は、入力光となる測定光に対する被測定器Tの応答値と、同じ測定光に対する分光放射計5の測定値とから、被測定器Tの分光感度を推定する。
分光感度推定装置1の構成および動作については後記する。
【0016】
発光装置2は、白色光を発光するものである。この白色光には、図2に示す分光分布D1のグラフのように、様々な波長の光が含まれている。なお、分光分布D1は、横軸が波長(nm)、縦軸が光強度(相対強度)を示している。
例えば、発光装置2は、LEDを光源として、白色光を発光する。
発光装置2は、光ファイバFを介して、発光した光を分光器3に出力する。
【0017】
分光器3は、様々な波長を含んだ光から指定された波長の光を分光するものである。
ここでは、分光器3は、発光装置2から光ファイバFを介して入力される白色光を、分光感度推定装置1から指示される波長を中心波長とする光に分光する。
分光器3で分光された光は、図3に示す分光分布D2のように、分光感度推定装置1から指示される波長を中心波長λとする光である。なお、分光分布D2は、横軸が波長(nm)、縦軸が光強度(相対強度)を示している。
この分光器3で分光された光は、分光放射計5および被測定器Tにおける測定光となる。なお、測定光の半値幅Wは、従来手法で用いる5nmや10nmよりも大きくてもよい。例えば、分光器3は、半値幅Wが30nm程度の測定光を出力するものを用いることができる。
分光器3は、分光した測定光を積分球4に出力する。
【0018】
積分球4は、内面が球形で、入力した光(測定光)を内部で均一に散乱させるものである。
積分球4は、開口(入射開口)H0から測定光を取り込み、2つの開口(出射開口)H1,H2から、散乱した測定光を出射する。なお、開口H1,H2は、開口H0からの測定光が直接照射しない位置に設けられている。
この2つの開口H1,H2により、積分球4は、分光放射計5と被測定器Tとに対して、同じ測定光を照射することができる。
【0019】
分光放射計5は、光を分光し、解析することで、波長ごと(例えば、1nm間隔)の放射輝度(分光放射輝度)を測定するものである。
分光放射計5は、積分球4の開口H1の位置に対向して設けられ、開口H1から出射される光(測定光)から、分光放射輝度を測定する。
分光放射計5で測定された放射輝度は、図4に示す分光分布D3のように、分光器3で分光された中心波長λの光の分布となる。なお、分光分布D3は、横軸が波長(nm)、縦軸が分光放射輝度(W・sr-1・m-2・nm-1)を示している。
分光放射計5は、測定結果である放射輝度の分光分布を分光感度推定装置1に出力する。
【0020】
被測定器Tは、積分球4の開口H2の位置に対向して設けられ、開口H2から出射される光(測定光)を受光し、応答値を出力する。
被測定器Tがカメラの場合、応答値は画素値である。なお、被測定器Tが光度計(照度計)であれば、応答値は光度(照度)、色彩計であれば、応答値は三刺激値である。
【0021】
この構成により、分光感度測定システム100は、分光放射計5と被測定器Tとに対して同じ測定光が照射される。そして、分光感度推定装置1は、分光放射計5の測定光に対する分光分布と、被測定器Tの同じ測定光に対する応答値とから、被測定器Tの分光感度を推定することが可能になる。
以下、分光感度推定装置1の構成および動作について説明する。
【0022】
[分光感度推定装置の構成]
図5を参照(適宜図1参照)して、本発明の実施形態に係る分光感度推定装置1の構成について説明する。分光感度推定装置1は、収集部10と、記憶部20と、推定部30と、を備える。
【0023】
収集部10は、分光放射計5および被測定器Tからデータを収集するものである。収集部10は、波長切替部11と、分光分布取得部12と、応答値取得部13と、を備える。
【0024】
波長切替部11は、分光器3に対して、測定対象の波長レンジにおいて予め定めた波長間隔でサンプリングした波長を中心波長に切り替える指示を行うものである。
例えば、波長レンジを380nm~780nmとし、中心波長を10nm間隔でサンプリングすることとした場合、波長切替部11は、分光器3に対して、380nm,390nm,400nm,…,770nm,780nmと、順次、中心波長λを切り替える指示を行う。この中心波長のサンプリング間隔は、必ずしも等間隔である必要はない。
【0025】
なお、波長切替部11は、分光器3に対して中心波長λへの切り替えを指示した後、分光分布取得部12および応答値取得部13に対して中心波長λにおけるデータの取得を指示し、分光分布取得部12および応答値取得部13からデータの取得を完了した旨の通知を取得した段階で、中心波長λを次の波長に切り替える。
【0026】
分光分布取得部12は、分光放射計5で測定された測定値である分光分布を取得するものである。
分光分布取得部12は、波長切替部11からデータの取得を指示された段階で、分光放射計5から測定値(分光分布)を取得する。
分光分布取得部12は、分光分布を、取得した際の中心波長λと対応付けて、分光分布データとして記憶部20に記憶する。
分光分布データは、分光放射計5で予め定めた波長間隔(例えば、1nm間隔)で測定した測定値を行方向の成分とし、中心波長のサンプリング数だけ行を配列した行列(分光分布行列)である。
分光分布取得部12は、指示された中心波長λの分光分布を取得後、データの取得を完了した旨を波長切替部11に通知する。
【0027】
応答値取得部13は、被測定器Tが出力する応答値を取得するものである。
応答値取得部13は、波長切替部11からデータの取得を指示された段階で、被測定器Tから応答値を取得する。
応答値取得部13は、応答値を、取得した際の中心波長λと対応付けて、応答値データとして記憶部20に記憶する。
応答値取得部13は、指示された中心波長λの応答値を取得後、データの取得を完了した旨を波長切替部11に通知する。
【0028】
これによって、収集部10は、測定対象の波長レンジにおいて予め定めた波長間隔でサンプリングした波長に対応付けた分光放射計5の分光分布(分光分布データ)と、同じサンプリング位置の波長に対応付けた被測定器Tの応答値(応答値データ)とを収集し、記憶部20に記憶することができる。
【0029】
記憶部20は、収集部10で収集される分光分布データおよび応答値データを記憶するもので、一般的な半導体メモリ等の記憶媒体で構成することができる。
記憶部20に記憶された分光分布データおよび応答値データは、推定部30によって参照される。
【0030】
推定部30は、記憶部20に記憶された分光分布データおよび応答値データから、被測定器Tの分光感度を推定するものである。
この推定部30は、収集部10からデータ収集が完了した旨の通知を入力することで動作を開始してもよいし、外部から開始を指示されることで動作を開始してもよい。
被測定器Tの分光感度を列ベクトルc、分光分布データで特定される行列(分光分布行列)をA、被測定器Tの応答値を行ベクトルdとしたとき、以下の式(1)の関係が成り立つ。
【0031】
【数1】
【0032】
推定部30は、式(1)における列ベクトルcを求めることで分光感度を推定する。
ここでは、推定部30は、特異値算出部31と、疑似逆行列生成部32と、分光感度候補算出部33と、分光感度選定部34と、を備える。
【0033】
特異値算出部31は、記憶部20に記憶された分光分布データで特定される分光分布の行列から複数の特異値(スカラー)を算出するものである。
すなわち、特異値算出部31は、測定対象の波長レンジにおいてサンプリングした波長を中心波長とする光を分光放射計5で予め定めた波長間隔で測定した測定値を行方向の成分とし、中心波長のサンプリング数だけ行を配列した行列(分光分布行列)に対して特異値を算出する。
例えば、波長レンジを380nm~780nmとし、中心波長を10nm間隔でサンプリングした光をそれぞれ波長1nm間隔で測定した分光分布データの場合、行列のサイズは、41行×401列となる。
【0034】
特異値算出部31は、m行n列(m×n)の行列AをA=U*S*V(Tは転置)に特異値分解したときの行列Sの“0”より大きい数値列を算出する。なお、Uはm行m列の直交行列、Vはn行n列の直交行列である。Sはm行n列の以下の式(2)に示す行列である。
【0035】
【数2】
【0036】
ここで、s,…,s(s≧…≧s)が特異値である。
特異値算出部31は、分光分布データの行列と、算出した特異値s,…,sとを、疑似逆行列生成部32に出力する。
なお、特異値の算出手法は一般的であるため、ここでは説明を省略する。例えば、The MathWorks,Inc.の「MATLAB(登録商標)」のsvd(特異値分解)関数を用いて、特異値のベクトルs=(s … s)を、以下の式(3)により求めることができる。
【0037】
【数3】
【0038】
疑似逆行列生成部32は、分光分布データの行列に対する擬似逆行列を生成するものである。
疑似逆行列生成部32は、特異値算出部31で算出された複数の特異値の大きい方から予め定めた数を除いた特異値ごとに、それぞれの特異値を許容誤差とする分光分布データの行列に対する複数の疑似逆行列(ムーア・ペンローズの一般逆行列)を生成する。
【0039】
疑似逆行列生成部32は、除外する特異値の数をp(例えば、p=10程度)とし、値が大きい方からp番目までのm-p個の特異値(s,…,s10)を除き、残りの特異値(s11,…,s)をそれぞれ許容誤差とする疑似逆行列を生成する。
なお、除外する特異値については、行列Aの特徴を表す度合いが大きいため、許容誤差とは扱わない。
【0040】
疑似逆行列生成部32は、許容誤差よりも小さい特異値を“0”とし、分光分布データの行列Aの疑似逆行列B(n行m列)を生成する。これによって、m-p個の擬似逆行列B,B,…,Bm-pが生成されることになる。
なお、疑似逆行列Bを生成手法は一般的であるため、ここでは説明を省略する。例えば、「MATLAB(登録商標)」のpinv関数を用いて、許容誤差t=s11,…,sごとに、以下の式(4)により、複数の擬似逆行列B(B,B,…,Bm-p)を求めることができる。
【0041】
【数4】
【0042】
このように、疑似逆行列生成部32は、複数の許容誤差を設定して複数の疑似逆行列を生成することで、測定ノイズを想定した疑似逆行列を生成することができる。
疑似逆行列生成部32は、生成した複数の疑似逆行列を分光感度候補算出部33に出力する。
【0043】
分光感度候補算出部33は、被測定器Tにおける複数の分光感度候補を算出するものである。
分光感度候補算出部33は、分光放射計5で測定した同じ中心波長の光ごとに、被測定器Tが出力した応答値を列ベクトルとし、疑似逆行列生成部32で生成された複数の疑似逆行列に対して乗算することで、複数の分光感度候補を算出する。
なお、被測定器Tが出力する応答値は、記憶部20に応答値データとして記憶されている。
【0044】
分光感度候補算出部33は、前記式(1)に対して疑似逆行列Bを適用することで、疑似逆行列Bと応答値(行ベクトル)dとから、以下の式(5)により、分光感度(列ベクトル)cを算出する。
【0045】
【数5】
【0046】
これによって、分光感度候補算出部33は、複数の疑似逆行列B,B,…,Bm-pに対して、複数の分光感度候補c,c,…,cm-pを生成する。
分光感度候補算出部33は、算出した複数の分光感度候補を分光感度選定部34に出力する。
【0047】
分光感度選定部34は、複数の分光感度候補の中から、被測定器Tの分光感度を選定するものである。
分光感度選定部34は、分光感度候補算出部33で算出された複数の分光感度候補の中で、隣接する要素間の差の総和が最小となる分光感度候補を被測定器Tの分光感度として選定する。
ここでは、分光感度選定部34は、以下の式(6)に示すように、それぞれの分光感度候補c(i=1,2,…,m-p)において、隣接する要素間の差(diff)を計算し、それらの和(sum)の逆数により尤度Lを算出する。
【0048】
【数6】
【0049】
分光感度選定部34は、この尤度Lが最大となる分光感度候補cを、被測定器Tの分光感度として選定する。
分光感度選定部34は、選定した分光感度を推定結果として外部に出力する。例えば、分光感度選定部34は、分光感度をグラフ化して表示装置(不図示)に出力する。
あるいは、分光感度選定部34は、分光感度のデータをそのまま外部に出力してもよい。
【0050】
以上の構成により、分光感度推定装置1は、被測定器Tと同じ波長で分光放射計5により測定された分光分布を用いて、被測定器Tの分光感度を推定することができる。
なお、分光感度推定装置1は、図示を省略したコンピュータを前記した各部として機能させるためのプログラム(分光感度推定プログラム)で動作させることができる。
【0051】
(測定結果)
分光感度推定装置1で行った測定結果について、図6図7を参照して説明する。
図6は、横軸に特異値の許容誤差、縦軸に尤度を示している。図7は、横軸に波長、縦軸に分光感度を示している。
この図6は、分光感度推定装置1の特異値算出部31で算出された特異値s,s,…,s(m=41)を許容誤差とする疑似逆行列により生成された分光感度の尤度Lを示している。
【0052】
図6に示すように、分光感度推定装置1は、特異値s,s,…,sのうち、上位p個(ここでは、10個)を除外した特異値を許容誤差とする疑似逆行列で生成された分光感度候補の中から、尤度が最大Lmaxとなる許容誤差(特異値s26)に対応する分光感度を、被測定器Tの分光感度として推定する。
【0053】
図7のグラフにおいて、分光感度推定装置1で推定した被測定器Tの分光感度を点線で示す。また、図7のグラフにおいて、従来手法で測定した被測定器Tの分光感度を実線で示す。
このように、分光感度推定装置1で推定した分光感度は、従来のように厳密に測定した分光感度とほぼ同様の結果となる。
【0054】
なお、分光感度推定装置1は、前記したとおり、分光放射計5の実測値である分光分布を利用し、その分光分布との関係で被測定器Tの分光感度を推定する。そのため、分光感度推定装置1は、被測定器Tを単独で測定する従来手法に比べて、使用する分光分布や中心波長のサンプル数を減らすことができるとともに、使用する光源の出力を抑えることができる。
【0055】
例えば、図8に示すように、分光感度推定装置1は、分光器3が分光する測定光として、波長間隔Dが10nm程度、半値幅Wが30nm程度の分光を使用することができる。また、分光感度推定装置1は、各中心波長で等エネルギーに校正されている必要もない。
これによって、図11に示した従来の測定光である波長間隔Dが1nmや5nm、半値幅Wが5nmや10nmで、等エネルギーに校正された分光に比べて、分光感度推定装置1は、被測定器Tへの露光時間を短くし、ノイズの蓄積を抑えるとともに、より出力の低い光源を使用することができる。
そのため、分光感度推定装置1は、従来よりも、より短い時間で精度よく分光感度を推定することができる。
【0056】
[分光感度推定装置の動作]
次に、図9図10を参照して、本発明の実施形態に係る分光感度推定装置1の動作について説明する。ここでは収集部10におけるデータ収集動作と、推定部30における分光感度の推定動作とを分けて説明する。
【0057】
(データ収集動作)
まず、図9を参照(構成については適宜図5参照)して、分光感度推定装置1の収集部10におけるデータ収集動作について説明する。
【0058】
ステップS1において、波長切替部11は、測定対象の波長レンジ(例えば、380nm~780nm)において、中心波長(例えば、初期値は380nm)を分光器3に設定する。ここで、分光器3は、発光装置2から発光された光を、設定された波長を中心波長とする光に分光する。
【0059】
ステップS2において、分光分布取得部12は、分光放射計5で測定された測定値(分光分布)を取得し、ステップS1で設定した中心波長と対応付けた分光分布データとして記憶部20に記憶する。
ステップS3において、応答値取得部13は、被測定器Tから応答値を取得し、ステップS1で設定した中心波長と対応付けた応答値データとして記憶部20に記憶する。
【0060】
ステップS4において、波長切替部11は、測定対象の波長レンジ分の測定が完了したか否かを判定する。
測定対象の波長レンジ分の測定が完了していない場合(ステップS4でNo)、ステップS5において、波長切替部11は、測定対象の波長レンジで中心波長を予め定めた波長間隔(例えば、10nm)ずらして分光器3に設定する。これによって、分光器3は、発光装置2から発光された光を、新たに設定された波長を中心波長とする光に分光する。
一方、測定対象の波長レンジ分の測定が完了した場合(ステップS4でYes)、収集部10は動作を終了する。
【0061】
これによって、測定対象の波長レンジにおいて予め定めた波長間隔でサンプリングした波長に対応付けた分光放射計5の分光分布(分光分布データ)と、同じサンプリング位置の波長に対応付けた被測定器Tの応答値(応答値データ)とが記憶部20に記憶される。
【0062】
(分光感度推定動作)
次に、図10を参照(構成については適宜図5参照)して、分光感度推定装置1の推定部30における分光感度推定動作について説明する。
【0063】
ステップS10において、特異値算出部31は、記憶部20に記憶された分光分布データで特定される分光分布の行列から特異値を算出する(前記式(3)参照)。
ステップS11において、疑似逆行列生成部32は、ステップS10で算出された特異値の大きい方から予め定めた数を除いた特異値ごとに、それぞれの特異値を許容誤差とする分光分布データの行列に対する複数の疑似逆行列を生成する(前記式(4)参照)。
【0064】
ステップS12において、分光感度候補算出部33は、記憶部20に記憶された応答値データを列ベクトルとし、ステップS11で生成された複数の疑似逆行列に対して乗算することで、複数の分光感度候補を算出する(前記式(5)参照)。
ステップS13において、分光感度選定部34は、ステップS12で算出された複数の分光感度候補において、隣接する要素間の差を計算し、それらの和の逆数により尤度を算出する(前記式(6)参照)。
【0065】
ステップS14において、分光感度選定部34は、ステップS12で算出された複数の分光感度候補の中で、ステップS13で算出された尤度が最大となる分光感度候補を、被測定器Tの分光感度として選定する。
以上の動作によって、分光感度推定装置1は、被測定器Tの分光感度を推定することができる。
【0066】
以上、本発明の実施形態に係る分光感度推定装置1の構成および動作について説明したが、本発明は、この実施形態に限定されるものではない。
例えば、ここでは、分光感度推定装置1を、収集部10と、記憶部20と、推定部30とで構成したが、これらはそれぞれ分離して構成してもよい。すなわち、収集部10をデータ収集装置、記憶部20を記憶装置、推定部30を分光感度推定装置としてもよい。
その場合、収集部10(データ収集装置)および推定部30(分光感度推定装置)は、それぞれ、図示を省略したコンピュータを前記した装置内の各部として機能させるためのプログラム(データ収集プログラム、分光感度推定プログラム)で動作させることができる。
【符号の説明】
【0067】
100 分光感度測定システム
1 分光感度推定装置
10 収集部
11 波長切替部
12 分光分布取得部
13 応答値取得部
20 記憶部
30 推定部
31 特異値算出部
32 疑似逆行列生成部
33 分光感度候補算出部
34 分光感度選定部
2 発光装置
3 分光器
4 積分球
5 分光放射計
T 被測定器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11