IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ JX日鉱日石金属株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-ロジウムの回収方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025014469
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】ロジウムの回収方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 11/00 20060101AFI20250123BHJP
   C22B 3/20 20060101ALI20250123BHJP
   C22B 3/46 20060101ALI20250123BHJP
   C22B 3/22 20060101ALI20250123BHJP
【FI】
C22B11/00 101
C22B3/20
C22B3/46
C22B3/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023117048
(22)【出願日】2023-07-18
(71)【出願人】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 学
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA41
4K001BA17
4K001BA19
4K001DB04
4K001DB16
4K001DB17
4K001DB18
4K001HA02
4K001HA04
4K001HA12
4K001JA03
4K001JA08
4K001JA09
4K001JA10
(57)【要約】
【課題】白金、パラジウム及びロジウムを含む酸性水溶液からロジウムを良好に分離して回収する方法を提供する。
【解決手段】白金、パラジウム及びロジウムを含む酸性水溶液にジメチルスルホキシドを添加した後、酸性水溶液に還元剤を添加して白金及びパラジウムを沈殿させ、固液分離して白金及びパラジウムを回収する工程と、白金及びパラジウムを回収する工程で得られた白金及びパラジウム回収後液から、ロジウムを回収する工程と、を含む、ロジウムの回収方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金、パラジウム及びロジウムを含む酸性水溶液にジメチルスルホキシドを添加した後、前記酸性水溶液に還元剤を添加して白金及びパラジウムを沈殿させ、固液分離して白金及びパラジウムを回収する工程と、
前記白金及びパラジウムを回収する工程で得られた白金及びパラジウム回収後液から、ロジウムを回収する工程と、
を含む、ロジウムの回収方法。
【請求項2】
前記ジメチルスルホキシドを前記酸性水溶液1Lに対して1~20mL添加する、請求項1に記載のロジウムの回収方法。
【請求項3】
前記還元剤が、二酸化硫黄または亜硫酸類である、請求項1に記載のロジウムの回収方法。
【請求項4】
前記白金及びパラジウムを回収する工程において、前記酸性水溶液は亜セレン酸を含み、前記酸性水溶液に前記還元剤としてアセトンを添加して65℃以上に加熱して白金及びパラジウムを沈殿させる、請求項1に記載のロジウムの回収方法。
【請求項5】
前記ロジウムを回収する工程において、前記白金及びパラジウム回収後液に含まれるジメチルスルホキシドを酸化した後に、還元剤を添加してロジウムを沈殿させ、固液分離してロジウムを回収する、請求項1~4のいずれか一項に記載のロジウムの回収方法。
【請求項6】
前記白金及びパラジウム回収後液に含まれるジメチルスルホキシドを酸化した後に、還元剤として鉄または表面が銅で被覆されている鉄を添加してロジウムを沈殿させ、固液分離してロジウムを回収する、請求項5に記載のロジウムの回収方法。
【請求項7】
前記鉄または表面が銅で被覆されている鉄の添加量が5g/L以上である、請求項6に記載のロジウムの回収方法。
【請求項8】
前記ジメチルスルホキシドを酸化する酸化剤が過酸化水素である、請求項5に記載のロジウムの回収方法。
【請求項9】
前記過酸化水素の添加量が、添加した前記ジメチルスルホキシドの体積に対して、30質量%過酸化水素水に換算して0.5倍以上4倍以下の体積分である、請求項8に記載のロジウムの回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はロジウムの回収方法に関し、特に、白金、パラジウム及びロジウムを含む酸性水溶液からロジウムを回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
白金及びパラジウムは貴金属であり、触媒や宝飾品に利用されている高価な金属であり、銅乾式製錬の電解殿物(スライム)を原料として製錬されている。
【0003】
このスライムには金、銀、白金、パラジウムのほかにもロジウムやルテニウム、イリジウムといった希少金属、さらには、銅精鉱に含まれているセレン及びテルルが同時に濃縮される。銅製錬副産物としてこれらの元素は個別に分離・回収される。
【0004】
このスライムの処理には湿式製錬法が適用される場合が多い。例えば特許文献1においてはスライムを塩酸-過酸化水素により銀を回収し、溶解した金は溶媒抽出により回収した後に、その他の有価物を二酸化硫黄で順次還元回収する方法が開示されている。
【0005】
特許文献1に開示されているように、二酸化硫黄により生じた沈殿を回収する方法はコストや製造規模の面で利点が多い。加えて各元素が順次沈殿することから分離精製にも効果がある。
【0006】
二酸化硫黄で沈殿させた白金及びパラジウムは再度酸化溶解し、溶媒抽出に供して精製される。この溶媒抽出時に他の不純物元素と分離、濃縮される。溶媒抽出後はストリップして白金及びパラジウムはアンモニウム塩として回収される。
【0007】
一方、ロジウムやルテニウム、イリジウムといった希少金属は、セレン及びテルルを二酸化硫黄で回収後、もしくは当該回収と同時に沈殿させる(特許文献2)。また特許文献3によればセレン及びテルルはアルカリ処理で溶解分離することができ、その未溶解残滓に含まれる希少金属は、さらに精製工程に投入して適当な方法で個別分離することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001-316735号公報
【特許文献2】特開2005-240170号公報
【特許文献3】特開2004-332041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
白金やパラジウムは銅製錬の副生物として回収されるため、二酸化硫黄もしくは亜硫酸塩による還元回収時に他元素が不純物として混入する。なかでもロジウムは白金、パラジウムと同じ白金族であり似通った化学的挙動を示し分離効率が高くない。
【0010】
ロジウムは特に高価な白金族元素として知られる。触媒や宝飾品としてその利用価値が高い。そのため、上述の方法で白金とパラジウムを還元して沈殿させる工程ではロジウムの混入を極力抑え、ロジウムの歩留まりを高める必要がある。
【0011】
そのためロジウムは、銅電解殿物中間体から白金及びパラジウムを沈殿させる工程への混入量を抑制することが重要である。これは、同時に白金及びパラジウムの純度の向上にもつながる。
【0012】
本発明はこのような従来の事情を鑑み、白金、パラジウム及びロジウムを含む酸性水溶液からロジウムを良好に分離して回収する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、酸性水溶液中のロジウムをジメチルスルホキシド(DMSO)でマスキングして還元し、ロジウムの混入を抑制して白金及びパラジウムを優先的に沈殿させて回収することで、白金、パラジウム及びロジウムを含む酸性水溶液からロジウムを良好に分離して回収することができることを見出した。本発明はかかる知見により完成されたものである。
【0014】
すなわち本発明は以下の発明を包含する。
(1)白金、パラジウム及びロジウムを含む酸性水溶液にジメチルスルホキシドを添加した後、前記酸性水溶液に還元剤を添加して白金及びパラジウムを沈殿させ、固液分離して白金及びパラジウムを回収する工程と、
前記白金及びパラジウムを回収する工程で得られた白金及びパラジウム回収後液から、ロジウムを回収する工程と、
を含む、ロジウムの回収方法。
(2)前記ジメチルスルホキシドを前記酸性水溶液1Lに対して1~20mL添加する、前記(1)に記載のロジウムの回収方法。
(3)前記還元剤が、二酸化硫黄または亜硫酸類である、前記(1)または(2)に記載のロジウムの回収方法。
(4)前記白金及びパラジウムを回収する工程において、前記酸性水溶液は亜セレン酸を含み、前記酸性水溶液に前記還元剤としてアセトンを添加して65℃以上に加熱して白金及びパラジウムを沈殿させる、前記(1)~(3)のいずれかに記載のロジウムの回収方法。
(5)前記ロジウムを回収する工程において、前記白金及びパラジウム回収後液に含まれるジメチルスルホキシドを酸化した後に、還元剤を添加してロジウムを沈殿させ、固液分離してロジウムを回収する、前記(1)~(4)のいずれかに記載のロジウムの回収方法。
(6)前記白金及びパラジウム回収後液に含まれるジメチルスルホキシドを酸化した後に、還元剤として鉄または表面が銅で被覆されている鉄を添加してロジウムを沈殿させ、固液分離してロジウムを回収する、前記(5)に記載のロジウムの回収方法。
(7)前記鉄または表面が銅で被覆されている鉄の添加量が5g/L以上である、前記(6)に記載のロジウムの回収方法。
(8)前記ジメチルスルホキシドを酸化する酸化剤が過酸化水素である、前記(5)に記載のロジウムの回収方法。
(9)前記過酸化水素の添加量が、添加した前記ジメチルスルホキシドの体積に対して、30質量%過酸化水素水に換算して0.5倍以上4倍以下の体積分である、前記(8)に記載のロジウムの回収方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、白金、パラジウム及びロジウムを含む酸性水溶液からロジウムを良好に分離して回収する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係るロジウムの回収方法の一例を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に本発明を実施するための形態を詳細に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0018】
(ロジウムの回収方法)
本発明の実施形態に係るロジウムの回収方法は、白金、パラジウム及びロジウムを含む酸性水溶液にジメチルスルホキシド(DMSO)を添加した後、酸性水溶液に還元剤を添加して白金及びパラジウムを沈殿させ、固液分離して白金及びパラジウムを回収する工程と、白金及びパラジウムを回収する工程で得られた白金及びパラジウム回収後液から、ロジウムを回収する工程とを含む。図1は、本発明の実施形態に係るロジウムの回収方法の一例を表すフローチャートである。図1のフローチャートは一例を示すものであり、本発明の実施形態に係るロジウムの回収方法はこれに限定されるものではない。
【0019】
非鉄金属製錬、とりわけ銅製錬の電解精製工程で生じる電解スライムはカルコゲン元素と貴金属を多く含む。一例を示すと金を10~30kg/t、ロジウムを20~50g/t、パラジウムを1~3kg/t、白金を200~500g/t、セレンを5~15質量%程度含有する。
【0020】
塩酸と過酸化水素を添加してこの電解スライムを溶解すると銅電解殿物の溶解液になるが、銀は溶解直後に塩化物イオンと不溶性の塩化銀沈殿を形成する。酸化剤と塩素を含む溶液、例えば王水や塩素水であれば、貴金属類を溶解させ、銀を塩化銀として分離することができる。このとき、塩化物浴で処理するため、浸出貴液(PLS)には貴金属元素、希少金属元素、セレン、テルルが分配する。本発明の実施形態では当該浸出貴液が酸性水溶液となる。
【0021】
続いて必要であれば金を溶媒抽出して回収する。その後、各有価物は酸化還元電位(ORP)差を利用して沈殿回収する。酸性水溶液中の白金とパラジウム錯体は比較的高い酸化還元電位を持っており、還元剤を投入すると最初に沈殿する。この還元剤として二酸化硫黄を使用して回収する方法が一般的である。二酸化硫黄は製錬排ガスとして得ることができ、還元剤として好適である。
【0022】
ところが、白金とパラジウムが沈殿する時にロジウムが混入する。ロジウム錯体の酸化還元電位は低位であるが二酸化硫黄による還元は選択性に乏しいことが原因である。二酸化硫黄より酸化還元電位の低い還元剤を利用しても同じ問題が生じる。
【0023】
そのため、本発明の実施形態では、ロジウムの沈殿を抑制することを目的として、酸性水溶液にジメチルスルホキシド(DMSO)を添加して撹拌する。DMSOは分子骨格中の硫黄原子の不対電子がロジウム(III)と相互作用し、その配位結合力は亜硫酸と比べて強い。亜硫酸イオンはロジウム錯体に配位後に電子が移動してロジウム錯体を還元する。ロジウム錯体にDMSOが1分子以上配位すると第一配位圏の立体障害が大きくなり還元剤である亜硫酸イオンの接近を困難にする。
【0024】
銅製錬由来液を処理対象の酸性水溶液とする場合は、亜硫酸イオンのロジウム(III)錯体への接近が阻害されると、亜硫酸は液中に大過剰に存在する亜セレン酸と反応する。たとえ亜セレン酸を含まない別由来の液であっても、酸性条件下では二酸化硫黄ガスとなって液中から揮散する量が増える。還元剤が二酸化硫黄もしくは亜硫酸イオンの時のDMSOのマスキング機構は上述の通りであるが、他の還元剤を添加してもDMSOが配位したロジウム錯体は立体障壁によりその還元効率を減じる。
【0025】
ロジウムは白金やパラジウムと似通った挙動をとることが知られる。そのためDMSOの添加により白金やパラジウムも還元を受け難くなるという懸念がある。しかしながら、白金やパラジウムは酸性水溶液中で酸化数II価であるのに対し、ロジウムはIII価である。その分HASB則でいう硬い酸であり、このことが白金やパラジウムと比べてロジウムが還元を受けにくい理由であると推察される。
【0026】
DMSOでマスキングされて安定化されたロジウムは各種還元剤に対して比較的安定である。各種還元剤とは白金とパラジウムを還元する物質である。具体的にはチオ硫酸イオン、水溶性のアルデヒド、亜硫酸イオン、二酸化硫黄等であり、上述のように負電荷もしくは部分的に負電荷を帯びるような還元剤である。
【0027】
DMSOは、酸性水溶液1Lに対して1~20mL添加することが好ましい。DMSOが酸性水溶液1Lに対して1mL以上であると、ロジウムのマスキング効果が向上する。DMSOが酸性水溶液1Lに対して20mL以下であると、排水中のCOD(化学的酸素要求量)の上昇やDMSO分解物の臭気の発生を抑制することができる。また、DMSOでマスキングしたロジウムは最終的にセメンテーションで回収されるが、その際にDMSOの添加量が増えるにつれてロジウムがセメンテーションを受け難くなる。このような観点からも、DMSOの添加量は酸性水溶液1Lに対して20mL以下添加することが好ましい。DMSOは、酸性水溶液1Lに対して5~10mL添加することがより好ましい。
【0028】
本発明の実施形態では、前述のように酸性水溶液にDMSOを添加して撹拌した後、酸性水溶液に還元剤を添加して白金及びパラジウムを沈殿させる。当該還元剤としては、反応後の不純物混入防止の点から、二酸化硫黄または亜硫酸類を用いることが好ましい。亜硫酸類としては、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸等が挙げられる。反応温度は特に限定されないが、50~75℃が好ましい。
【0029】
酸性水溶液に還元剤を添加して白金及びパラジウムを沈殿させた後は、フィルタープレス等により固液分離して固相の白金及びパラジウムを回収する。
【0030】
図1のフローチャートに示すように、処理対象の酸性水溶液が白金、パラジウム、ロジウムの他にセレン(亜セレン酸)を含んでいる場合は、前述のように酸性水溶液にDMSOを添加して撹拌した後、酸性水溶液にケトン類を添加すると、この亜セレン酸によりケトン類が酸化されてアルデヒドが生じる。その結果、白金とパラジウムを選択的に還元沈殿させることができる。この反応系でも沈殿物にロジウムが混入するが、還元の前にDMSOを添加しておくことで、マスキング効果により沈殿物に混入するロジウムの量を最小限に抑えることができる。
【0031】
また、二酸化硫黄で還元する時と比べてケトン類を添加する時はセレンの混入を抑制することができるという利点もある。白金、パラジウムはアルデヒドにより亜セレン酸と比べて優先的に還元を受けるためである。添加するケトン類としては、アセトン、2-ブタノン、1―ヒドロキシアセトン等が挙げられ、アセトンが安全性と価格の面で好適である。
【0032】
このように酸性水溶液に亜セレン酸が含まれている場合、酸性水溶液にDMSOを添加した後、酸性水溶液を液温65℃以上に加熱してアセトンを添加して白金及びパラジウムを沈殿させ、沈殿した白金及びパラジウムをフィルタープレス等により固液分離して回収する。酸性水溶液の液温が65℃未満では、セレンが赤色セレンもしくは粘着性の無定形セレンとして沈殿することが知られる。これらの形態のセレンでは、蒸留前に脱水もしくは、周辺設備に固着してこれを剥離することが必要になる。また、液温が65℃以上であると還元速度も上昇する。
【0033】
白金及びパラジウムを沈殿させて固液分離して得られた液相に、ロジウムの他に亜セレン酸が含まれている場合は、二酸化硫黄を添加することで亜セレン酸をセレンとして沈殿させる。DMSOのマスキング効果はこのセレン沈殿の工程でも有効であり、セレンへのロジウムの混入を抑制することができる。
【0034】
次に、白金及びパラジウム回収後液に含まれるDMSOを酸化した後に、還元剤を添加してロジウムを沈殿させ、固液分離してロジウムを回収する。ロジウムはDMSOでマスキングされているため、このDMSOの酸化分解を行った後に、ロジウムを還元することが必要である。
【0035】
DMSOの酸化分解に使用する酸化剤は、DMSOの分子骨格中の硫黄を酸化できる酸化剤、すなわち硫黄(IV)を硫黄(VI)に酸化する酸化力を有していれば特に限定されない。例えば、過酸化水素、次亜塩素酸類、硝酸、二クロム酸塩、オゾン、過マンガン酸塩、卑金属等が挙げられる。取り扱いやすさと不純物の混入抑止の観点から、当該酸化剤として過酸化水素が好適である。
【0036】
DMSOの酸化分解の際の反応温度は60℃以上であり、さらに好ましくは60℃~80℃である。反応温度が80℃を超えると塩化物イオン等の他の物質に過酸化水素が消費されるおそれがある。液温が60℃未満であるとDMSOの酸化分解が進まないおそれがある。
【0037】
また、酸化剤として過酸化水素水を用いたときは、適切な過酸化水素水の添加量は、添加したDMSOの体積に対して、30質量%過酸化水素水に換算して0.5倍以上4倍以下の体積分である。
【0038】
DMSOを酸化分解した後、液温を40℃以上に調整して還元剤を添加してロジウムを沈殿させる。還元剤は二酸化硫黄、亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、鉄、鉄の加工品、卑金属、銅、ヒドラジンなど一般にロジウムイオンを還元できる物質ならいずれでもよい。なかでも価格、ロジウムの回収効率の面で鉄もしくは鉄の加工品でセメンテーションしてロジウムを沈殿させるとよい。鉄は取り扱いが容易な鉄粉が望ましい。鉄粉の粒度は特に指定されない。また、ここで鉄の加工品は、鉄の一部表面を貴な金属で被覆して水素の発生を抑制した鉄を意味し、各種鉄合金や鉄品位の高い屑鉄の使用も可能である。
【0039】
水素の瞬間的な発生によって、溶液にヒ素等の有毒成分が混入している時に、発生期水素の還元力が悪影響を及ぼすことも懸念される。水素の発生を抑制するため、表面が銅で被覆されている鉄粉(銅被覆鉄粉)を使用してもよい。銅による被覆方法は特に指定されないが、鉄粉を硫酸銅溶液に浸漬させる程度の処理でよい。
【0040】
鉄または銅被覆鉄粉の添加量は処理対象液に対して5g/L以上が好ましく、5~20g/Lであるのがより好ましい。鉄または銅被覆鉄粉の添加量が多すぎるとプロトンと鉄粉が反応して水素の瞬間的な発生が問題になり、少なすぎるとセメンテーションが不十分になるおそれがある。
【0041】
前述のように還元剤を添加してロジウムを沈殿させ、還元を停止した後、沈殿したロジウムを回収する。このとき、還元処理後に沈殿したロジウム含有物は、フィルタープレス等により固液分離して回収する。回収された後のロジウムは、まだ不純物を含むため、ロジウム原料として特許文献2に記載された精製工程に投入することができる。ロジウム原料として評価する場合、特許文献2に記載されたセレン蒸留滓より不純物が少ないメリットがある。
【実施例0042】
以下、本発明及びその利点をより良く理解するための実施例を例示するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0043】
(処理対象液A(白金、パラジウム及びロジウムを含む酸性水溶液)の調製)
銅製錬から回収された電解スライムを硫酸により浸出し銅を除き、濃塩酸と60質量%過酸化水素水を添加して溶解し、固液分離して浸出貴液(PLS)を得た。
続いて、溶媒抽出によりPLSから金を除いた金抽出後液(処理対象液A)の組成を分析したところ、パラジウム濃度420mg/L、白金濃度88mg/L、セレン濃度39g/L、ロジウム濃度7mg/Lであった。
【0044】
(実施例1)
200mLの処理対象液AにDMSOを2mL添加して30分撹拌した後、アセトンを0.5mL添加した。液温を70~75℃に保持して30分の還元を続けると、白金及びパラジウムを含む沈殿が生じた。次に、固液分離することで白金及びパラジウムを含む沈殿(固相)を回収した。固液分離で得られた液相については、希塩酸で25倍希釈して、ICP-OES(セイコー社製SPS-3100)によりイットリウムを内部標準として各種成分濃度を測定した。液の蒸発による影響を防ぐため、液相中の銅濃度で各種成分の濃度補正を行った。当該試験結果を表1に示す。
【0045】
(比較例1)
DMSOを添加していない処理対象液Aを準備した。処理対象液Aに対し、実施例1と同様の条件で、アセトンを添加して白金及びパラジウムを含む沈殿を生成した。固液分離後の液相について、実施例1と同様の条件で、各種成分濃度を測定した。当該試験結果を表1に示す。なお、表1において、「ND」は検出限界未満の濃度であることを示す。
【0046】
【表1】
【0047】
表1に示す通り、白金及びパラジウムを還元剤で還元する前にDMSOを添加しておいた実施例1では、DMSOのマスキング効果によりロジウムの沈殿が良好に抑制されたことがわかる。これに対し、白金及びパラジウムを還元する前にDMSOを添加していなかった比較例1では、白金及びパラジウムの還元の際に、ロジウムも沈殿してしまい、実施例1に比べて固液分離後の液相におけるロジウムの濃度が低下していた。
なお、比較例1は実施例1に対して固液分離後の液相におけるセレン濃度の低下もみられるが、これはアセトンと反応して単体セレンを生じた結果である。
【0048】
(実施例2~8)
処理対象液Aを200mL分取し、DMSOを0.6~2.0mL添加し、30分撹拌した。次に、それぞれ70~75℃に加熱してアセトンを0.3mL添加した後、液温を70℃に保持して60分の還元を続けると、白金及びパラジウムを含む沈殿が生じた。次に、固液分離することで白金及びパラジウムを含む沈殿(固相)を回収した。固液分離で得られた液相(処理液1)については、液中のロジウム濃度を、ICP-OES(セイコー社製SPS-3100)により実施例1と同様の条件で測定した。当該試験結果を表2に示す。
次に、当該処理液1を再度加熱して75~80℃に保持し、二酸化硫黄と空気との混合ガス(二酸化硫黄濃度5~20体積%)を0.1L/分で60分間吹き込むことで、セレンを沈殿させた。次に、固液分離によってセレンを含む沈殿(固相)を回収し、液相については、30質量%の過酸化水素水(酸化剤)を0~2mL添加して75~80℃に加熱した。その後、液(処理液2)中のロジウム濃度を、ICP-OES(セイコー社製SPS-3100)により実施例1と同様の条件で測定した。当該試験結果を表2に示す。
続いて、処理液2に、再度、二酸化硫黄と空気との混合ガス(二酸化硫黄濃度5~20体積%)を60分間吹き込んだ。次に、生じた沈殿を固液分離して得られた液相を60℃に加熱した後、鉄粉1gを添加して30分撹拌し、セメンテーションを行った。続いて、これを濾別して得たセメンテーション後の液(処理液3)中のロジウム濃度を、ICP-OES(セイコー社製SPS-3100)により実施例1と同様の条件で測定した。当該試験結果を表2に示す。なお、表2において、「ND」は検出限界未満の濃度であることを示す。
【0049】
【表2】
【0050】
実施例8から、DMSOは、200mLの処理対象液Aに対して、0.6mLの添加でも効果はあるといえる。ロジウムの含有量は他の元素と比べて著しく小さいが効果的にマスキングされていることがわかる。白金及びパラジウムも幾らかマスキングの影響を受けているが問題になるほどではない。
【0051】
また、200mLの処理対象液Aに対してDMSOを0.6mL添加した実施例8では過酸化水素が十分に機能し、ロジウムは液濃度が1mg/Lになるまで沈殿した。200mLの処理液に対し、1.0mL以上のDMSOを添加した実施例2、3、5~7では過酸化水素添加により鉄粉添加前でも幾らかロジウムは沈殿した。また、過酸化水素を4.0mL添加した実施例7では鉄粉を添加しても幾らかロジウムが残った。これは過剰の過酸化水素が鉄粉を消費したことに起因する。このため、過酸化水素の添加量は、添加したDMSOの体積に対して、30質量%過酸化水素水に換算して0.5倍以上4倍以下の体積分であるのが好ましい。
【0052】
後工程で鉄によるセメンテーションによるロジウムの回収が行われるのであれば、過酸化水素の添加は必須ではない。鉄または表面が銅で被覆されている鉄の必要添加量は共存他元素の濃度で変化する。事前に二酸化硫黄もしくは亜硫酸塩で酸化性物質を除いておき、処理液に対する鉄または表面が銅で被覆されている鉄の量が1g/L以上、好ましくは5g/L以上となるように添加するとよい。
【0053】
過酸化水素を添加しない場合、鉄粉を添加するとDMSOが還元されたときに生じるジメチルスルフィドの臭気が確認された。ジメチルスルフィドは特有の悪臭物質として知られるため発生が抑制されるべきである。このため、過酸化水素でDMSOを酸化分解した後に、鉄粉でロジウムを回収する方法が好ましい。
図1