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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025014478
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】アルミニウム材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25F 3/20 20060101AFI20250123BHJP
【FI】
C25F3/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023117061
(22)【出願日】2023-07-18
(71)【出願人】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩井 愛
(72)【発明者】
【氏名】菊地 竜也
(72)【発明者】
【氏名】中島 大希
(57)【要約】
【課題】環境負荷が低減され、取扱いが容易であり、安全性が向上するとともに、鏡面性が向上したアルミニウム材の製造方法を提供する。
【解決手段】アルミニウム材1の製造方法であって、塩化ナトリウムの濃度Mが、0.1mol/L以上0.4mol/L未満となるように塩化ナトリウムをプロピレングリコールに溶解させた電解研磨液11に、母材2を浸漬し、電解研磨液11の温度をT(単位:K)、塩化ナトリウムの濃度をM(単位:mol/L)、電解電圧をV(単位:V)、母材2を電解研磨する電解時間をt(単位:min)としたとき、下記の式(1)で表されるパラメータEが、6.5以上100以下となる条件で、母材2を陽極として電解電圧を印加して電解研磨することにより母材2の表面に研磨面3を形成する、アルミニウム材1の製造方法。
E=(T×V1.23×t)/(100000×M) ・・・(1)
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる母材の表面に、電解研磨により形成された研磨面を有するアルミニウム材の製造方法であって、
塩化ナトリウムの濃度Mが、0.1mol/L以上0.4mol/L未満となるように前記塩化ナトリウムをプロピレングリコールに溶解させた電解研磨液に、前記母材を浸漬し、
前記電解研磨液の温度をT(単位:K)、前記塩化ナトリウムの濃度をM(単位:mol/L)、電解電圧をV(単位:V)、前記母材を電解研磨する電解時間をt(単位:min)としたとき、下記の式(1)で表されるパラメータEが、6.5以上100以下となる条件で、前記母材を陽極として前記電解電圧を印加して電解研磨することにより前記母材の表面に前記研磨面を形成する、アルミニウム材の製造方法。
E=(T×V1.23×t)/(100000×M) ・・・(1)
【請求項2】
前記電解研磨液の温度Tが273K以上313K以下である、請求項1に記載のアルミニウム材の製造方法。
【請求項3】
前記電解電圧Vが、30V以上100V以下である、請求項1または2に記載のアルミニウム材の製造方法。
【請求項4】
前記電解時間tが、1min以上60min以下である、請求項1または2に記載のアルミニウム材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、研磨面を備えたアルミニウム材等の金属製品の製造方法として、例えば、電解研磨が知られている。アルミニウム材用の電解研磨液としては、例えば、リン酸を含む電解研磨液や、過塩素酸を含む電解研磨液が知られている。このような技術として、例えば特許文献1に記載のものが知られている。
【0003】
しかし、電解研磨液がリン酸を含む場合、リンが排水とともに自然環境に排出されると、河川や湖沼の富栄養化をもたらす汚染物質になる可能性がある。また、過塩素酸を含む電解研磨液は取扱いに注意を要する。
【0004】
これらの問題に対し、より環境負荷が低く、取扱いが容易な電解研磨液として、特許文献2には、エチレングリコールまたはプロピレングリコールを含む電解研磨液が記載されている。しかし、エチレングリコールは人体に対する安全性が低いので好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-006719号公報
【特許文献2】特開2006-348336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、プロピレングリコールはエチレングリコールに比べて安全性が高い。このため、プロピレングリコールを含む電解研磨液を用いることにより、環境負荷を低減させるとともに、安全性が向上することが期待された。この点について、特許文献2には、プロピレングリコールを含む電解研磨液については、純ニッケルを電解研磨した実験結果が記載されていた。
【0007】
しかしながら、純ニッケルについての実験条件をアルミニウム材に単純に適用しても、例えばアルミニウム材の表面に白点が発生する等、鏡面性が低下することがあった。
【0008】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、環境負荷が低減され、取扱いが容易であり、安全性が向上するとともに、鏡面性が向上したアルミニウム材の製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる母材の表面に、電解研磨により形成された研磨面を有するアルミニウム材の製造方法であって、
塩化ナトリウムの濃度Mが、0.1mol/L以上0.4mol/L未満となるように前記塩化ナトリウムをプロピレングリコールに溶解させた電解研磨液に、前記母材を浸漬し、
前記電解研磨液の温度をT(単位:K)、前記塩化ナトリウムの濃度をM(単位:mol/L)、電解電圧をV(単位:V)、前記母材を電解研磨する電解時間をt(単位:min)としたとき、下記の式(1)で表されるパラメータEが、6.5以上100以下となる条件で、前記母材を陽極として前記電解電圧を印加して電解研磨することにより前記母材の表面に前記研磨面を形成する、アルミニウム材の製造方法にある。
E=(T×V1.23×t)/(100000×M) ・・・(1)
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、電解研磨液中の塩化ナトリウムの濃度M及び前記式(1)におけるEの値が前記特定の範囲内となる条件を採用することにより、環境負荷が低く、取扱いが容易であり、安全性の高いプロピレングリコールを用いて電解研磨を行うことができる。さらに、前記特定の条件で電解研磨を行うことにより、鏡面性の高い研磨面を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施例におけるアルミニウム材の断面図である。
図2図2は、実施例における電解研磨装置の説明図である。
図3図3は、研磨面に形成された白点を示すSEM(走査型電子顕微鏡)写真である。
図4図4は、図3における白点を拡大したSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(アルミニウム材の製造方法)
前記アルミニウム材の製造方法においては、
塩化ナトリウムの濃度Mが、0.1mol/L以上0.4mol/L未満となるように前記塩化ナトリウムをプロピレングリコールに溶解させた電解研磨液に、前記母材を浸漬し、
前記電解研磨液の温度をT(単位:K)、前記塩化ナトリウムの濃度をM(単位:mol/L)、電解電圧をV(単位:V)、前記母材を電解研磨する電解時間をt(単位:min)としたとき、下記の式(1)で表されるパラメータEが、6.5以上100以下となる条件で、前記母材を陽極として前記電解電圧を印加して電解研磨することにより前記母材の表面に前記研磨面を形成する。
E=(T×V1.23×t)/(100000×M) ・・・(1)
【0013】
前記製造方法においては、電解研磨液中の塩化ナトリウムの濃度M及び前記式(1)におけるEの値が前記特定の範囲内となる条件を採用することにより、環境負荷が低く、取扱いが容易であり、安全性の高いプロピレングリコールを用いて電解研磨を行うことができる。さらに、前記特定の条件で電解研磨を行うことにより、鏡面性の高い研磨面を形成することができる。
【0014】
[母材]
陽極を構成する母材の形状は特に限定されず、板状、ブロック状、筒状等、任意の形状を適宜に選択できる。母材の表面は、平面でもよいし、曲面であってもよい。また、母材の表面に、凹部又は凸部が形成されていてもよいし、孔が形成されていてもよい。母材は、機械加工、切削加工等の加工が施された後に電解研磨される。
【0015】
前記アルミニウム材における母材の材質は、アルミニウム材の用途に応じて、アルミニウム及びアルミニウム合金からなる群の中から適宜選択することができる。
【0016】
より具体的には、前記アルミニウム材の母材を構成するアルミニウムとしては例えば、合金番号A1050、A1060、A1070、A1080、A1085、A1200等で表される化学成分を有する1000系アルミニウムや、純度99.99%(4N)、99.999%(5N)、99.9999%(6N)等の高純度アルミニウムを用いることができる。
【0017】
また、アルミニウム合金としては、2000系アルミニウム合金、3000系アルミニウム合金、4000系アルミニウム合金、5000系アルミニウム合金、6000系アルミニウム合金、7000系アルミニウム合金、または8000系アルミニウム合金を使用することができる。アルミニウム材の強度を高くしようとする場合には、母材を、5000系アルミニウム合金、6000系アルミニウム合金、または7000系アルミニウム合金から構成することができる。
【0018】
より具体的には、前記アルミニウム材の母材を構成する5000系アルミニウム合金としては、例えば、合金番号A5021、A5043、A5050、A5052、A5124、A5254、A5454、A5456、A5082、A5083、A5182等で表される化学成分を有するアルミニウム合金を用いることができる。
【0019】
また、前記アルミニウム材の母材を構成する6000系アルミニウム合金としては、例えば、合金番号A6101、A6060、A6061、A6062、A6063、A6082等で表される化学成分を有するアルミニウム合金を用いることができる。
【0020】
また、前記アルミニウム材の母材を構成する7000系アルミニウム合金としては、例えば、合金番号A7204、A7010、A7050、A7075、A7020、A7475、A7178等で表される化学成分を有するアルミニウム合金を用いることができる。
【0021】
前記母材には、必要に応じて、電解研磨の前に、洗浄や脱脂等の前処理を施してもよい。
【0022】
電解研磨液は、塩化ナトリウムをプロピレングリコールに溶解させることにより調製される。電解研磨液中の塩化ナトリウムの濃度Mは、0.1mol/L以上0.4mol/L未満の範囲内である。塩化ナトリウムの濃度Mの濃度が高すぎると、例えば母材に形成された研磨面に白点が発生する場合がある。このため、マクロ的に見て、研磨面の鏡面性が低下するので好ましくない。塩化ナトリウムの濃度Mは、0.1mol/L以上0.3mol/L以下であることが好ましく、0.15mol/L以上0.25mol/L以下であることがより好ましい。この場合には、光沢のある研磨面をより容易に形成することができる。
【0023】
調製された電解研磨液に、母材を陽極として浸漬するとともに、対極(陰極)を浸漬する。母材と対極とは、直流電源に接続される。
【0024】
対極を構成する材料は特に限定されず、例えば、チタン、白金、ステンレス、銅等から適宜に選択することができる。また、対極の形状については特に限定されず、板状、円筒状等、任意の形状を適宜に選択することができる。
【0025】
電解研磨液に浸漬された母材を、電解研磨液の温度をT(単位:K)、塩化ナトリウムの濃度をM(単位:mol/L)、電解電圧をV(単位:V)、母材を電解研磨する電解時間をt(単位:min)としたとき、下記の式(1)で表されるパラメータEが、6.5以上100以下となる条件で、電解研磨する。
E=(T×V1.23×t)/(100000×M) ・・・(1)
【0026】
電解研磨を実行する際の電解研磨液の温度Tは、母材から電解研磨液への溶出量に影響を及ぼす。電解研磨液の温度Tが低くなると、母材から電解研磨液への溶出量が少なくなり、電解研磨液の温度Tが高くなると、母材から電解研磨液への溶出量が多くなる傾向がある。また、電解電圧Vは、母材の表面が電解研磨液に溶出する際の駆動力に寄与する。電解電圧Vが低いと電解研磨の効率が低下し、電解電圧Vが高いと、母材から電解研磨液への溶出が促進される傾向がある。電解時間tは、母材の表面にAl系化合物が濃化した濃化層の安定に影響を及ぼす。電解時間tが短いと、安定な濃化層が形成されにくいために研磨面の鏡面性が低下し、電解時間tが長いと、研磨面の鏡面性が低下する傾向がある。上記の式(1)で表されるEが6.5以上100以下、好ましくは11.7以上84.5以下、より好ましくは23.3以上84.5以下となる条件で母材を電解研磨することにより、電解研磨の効率を向上させるとともに、研磨面を容易に鏡面化することができる。
【0027】
また、電解研磨液の温度Tは、作業性の観点から、273K以上313K未満であることが好ましい。すなわち、電解研磨液の温度Tが、0℃以上40℃以下であることにより、電解研磨の効率をより向上させることができる。同様の観点から、電解研磨液の温度Tは、283K以上310K以下、すなわち10℃以上37℃以下がより好ましく、298K以上308K以下、すなわち25℃以上35℃以下がさらに好ましい。
【0028】
電解電圧Vについて、上記の式(1)で表されるパラメータEが6.5以上100以下となる条件で母材を電解研磨することにより、電解研磨の効率を向上させるとともに、研磨面の鏡面性を向上させることができる。
【0029】
さらに、電解電圧Vが、30V以上100V以下であることが好ましい。電解電圧Vを、好ましくは30V以上、より好ましくは35V以上、さらに好ましくは40V以上、特に好ましくは55V以上、最も好ましくは60V以上とすることにより、電解研磨の効率をより向上させることができる。また、電解電圧Vを好ましくは100V以下、より好ましくは80V以下、さらに好ましくは75V以下、特に好ましくは70V以下とすることにより、アルミニウム材の鏡面性をより容易に向上させることができる。
【0030】
電解電圧Vの好ましい範囲を構成するに当たっては、前述した電解電圧Vの上限と下限とを任意に組み合わせることができる。例えば、電解電圧Vの好ましい範囲は、35V以上75V以下であってもよく、40V以上80V以下であってもよく、55V以上75V以下であってもよく、60V以上70V以下であってもよい。
【0031】
電解時間tについて、上記の式(1)で表されるパラメータEが6.5以上100以下となる条件で母材を電解研磨することにより、研磨面の鏡面性をより容易に向上させることができる。
【0032】
さらに、電解時間tが、1min以上60min以下であることが好ましい。電解時間tを好ましくは1min以上、より好ましくは5min以上、さらに好ましくは10min以上とすることにより、電解研磨液中の濃化層を安定させることができるので、アルミニウム材の光沢性をより容易に向上させることができる。また、電解時間tを好ましくは60min以下、より好ましくは40min以下、さらに好ましくは30min以下とすることにより、アルミニウム材の表面が過剰に溶解することをより容易に回避できるので、アルミニウム材の光沢性をより容易に向上させることができる。
【0033】
電解時間tの好ましい範囲を構成するに当たっては、前述した電解時間tの上限と下限とを任意に組み合わせることができる。例えば、電解時間tの好ましい範囲は、5min以上40min以下であってもよく、10min以上30min以下であってもよい。
【0034】
塩化ナトリウムの濃度Mについて、上記の式(1)で表されるパラメータEが6.5以上100以下となる条件で母材を電解研磨することにより、研磨面の鏡面性を向上させることができる。
【0035】
研磨面の鏡面性及び光沢性をより向上させる観点からは、電解研磨条件は、電解研磨液中の塩化ナトリウムの濃度Mが0.15mol/L以上0.25mol/L以下、電解研磨液の温度Tが298K以上308K以下、電解電圧Vが35V以上75V以下、電解時間が10min以上30min以下、パラメータEが11.7以上84.5以下という組み合わせであることが、より好ましい。同様の観点から、電解研磨条件は、電解研磨液中の塩化ナトリウムの濃度Mが0.15mol/L以上0.25mol/L以下、電解研磨液の温度Tが298K以上308K以下、電解電圧Vが55V以上75V以下、電解時間が10min以上30min以下、パラメータEが23.3以上84.5以下という組み合わせであることが、さらに好ましい。
【0036】
[研磨面]
母材の表面には、電解研磨により研磨された研磨面が設けられている。母材における研磨面の配置は特に限定されず、例えば、母材の全体に研磨面が形成されていてもよいし、母材の一部に研磨面が形成されていてもよい。研磨面は、波長360~740nmの平均の正反射率が65%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、80%以上であることが特に好ましい。
【実施例0037】
前記アルミニウム材の製造方法の実施例を、図1図2を参照して説明する。本例のアルミニウム材1は、図1に示すように、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる母材2と、母材2の表面の少なくとも一部に形成された研磨面3と、を有する。研磨面3は、電解研磨により母材2の表面の少なくとも一部が研磨されることにより形成される。母材2のすべての表面に研磨面3が形成されてもよいし、母材2の表面の一部に研磨面3が形成されてもよい。
【0038】
アルミニウム材1の製造方法は、例えば以下の通りである。まず、図2に示すように、電解槽10内に注入された電解研磨液11に、陽極としての母材2と対極12とを浸漬する。その後、母材2と対極12とを直流電源13に接続し、母材2と対極12とに直流電圧を印加し、母材2に電解研磨を施す。以上により、母材2の表面に研磨面3を形成することができる。
【0039】
表1に、アルミニウム材の具体例(試験材S1~S17)を示す。まず、試験材S1~S13の製造方法について説明する。母材として、純度99.999%の高純度アルミニウムからなり、厚みが0.5mmであるアルミニウム板を準備する。なお、表1においては、純度99.999%の高純度アルミニウム合金を「5N」と記載した。
【0040】
塩化ナトリウムの濃度Mが0.2mol/Mである、塩化ナトリウムのプロピレングリコール溶液を、電解研磨液として調製する。この電解研磨液に、母材を陽極として浸漬する。また、電解研磨液に対極として、純度99.95%の白金板を浸漬する。電解研磨液の温度Tを表1に示す温度とし、電解電圧Vを表1に示す電圧とし、電解時間tを表1に示す時間とし、パラメータEを表1に示す値として、母材に電解研磨処理を行う。以上により、表1に示す試験材S1~S13を得ることができる。
【0041】
また、表1に示す試験材S14~S17は、母材を構成するアルミニウム板の材質を、表1に示す合金記号で表される化学成分を有するアルミニウムまたはアルミニウム合金に変更した以外は、試験材S1~S13と同様の構成を有している。試験材S14~S17の製造方法は、母材を構成するアルミニウム板の材質を表1に示す合金記号で表される化学成分を有するアルミニウムまたはアルミニウム合金に変更した点、及び電解研磨処理時の対極として純度99.999%(5N)のアルミニウム板を使用した点以外は、試験材S4の製造方法と同様である。なお、表1に示すR1~R7は、試験材S1~S17との比較のための試験材である。試験材R1~R7の製造方法は、電解研磨の条件を、表1に示すように変更した以外は、試験材S1~S13の製造方法と同様である。
【0042】
次に、表1に示す試験材S1~S17及び試験材R1~R7の諸特性の評価方法を説明する。
【0043】
[正反射率]
アルミニウム材の正反射率は、正反射光を含む反射率の測定結果から正反射光を含まない結果を引くことにより、算出できる。表1の「正反射率」欄に、試験材S1~試験材S17及び試験材R1~試験材R7の研磨前後における正反射率を示す。なお、正反射率の測定には、JIS Z 8722 条件cに準拠した分光測色計(例えば、コニカミノルタ株式会社製分光測色計「CM-5」)を使用することができる。また、正反射率の測定における測定径はφ3mmとし、光源にはパルスキセノンランプを用いればよい。
【0044】
また、電解研磨処理を行う前の状態の母材について、正反射率を測定する。表1に、各試験材の正反射率と併せて、電解研磨処理を行う前の母材の正反射率を示す。
【0045】
[外観検査]
各試験材の研磨面について、目視にて、外観を検査し、白点の有無を評価する。表1に各試験材における外観検査の結果を示す。試験材の表面を目視にて観察すると、白点4が観察される場合がある。この白点4が観察された領域をSEM観察する。図3に、白点4のSEM写真の一例を示す。図3において、破線で囲まれた領域が、白点4に相当する。
【0046】
さらに、図4に、白点4に相当する領域を拡大したSEM写真を示す。白点4の差渡し径は10μm~60μmである。図4において認められるように、白点4の内部には直径3μm以下の微細なピット41が多数生成している。上記のように、白点4は微細なピット41の集合体である。目視可能な白点4は、微細なピット41の集合体に起因する光の散乱により発生していると推定される。
【0047】
【表1】
【0048】
表1に示すように、試験材S1~S17は、式(1)で表されるパラメータEが6.5以上100以下となる条件で母材に対して電解研磨処理を行ことにより得られる。そのため、これらの試験材における正反射率は、65.6%(試験材S17)~87.5%(試験材S8)となっている。また、試験材S1~S17については、研磨面に白点4の発生が確認されなかった。これらの結果から、電解研磨液における塩化ナトリウムの濃度M及び前記式(1)におけるEの値が前記特定の範囲内となる条件を採用することにより、環境負荷が低く、取扱いが容易であり、安全性の高いプロピレングリコールを用いて電解研磨を行うことができる。さらに、前記特定の条件で電解研磨を行うことにより、鏡面性の良好な研磨面を形成することができる。
【0049】
表1に示すように、母材を構成するアルミニウム板の材質が純度99.999%の高純度アルミニウム合金である試験材S1~S13において、試験材S1~S8の正反射率は82%以上と、高い値を示す。従って、電解研磨条件について、電解研磨液中の塩化ナトリウムの濃度Mが0.15mol/L以上0.25mol/L以下、電解研磨液の温度Tが298K以上308K以下、電解電圧Vが35V以上75V以下、電解時間が10min以上30min以下、パラメータEが11.7以上84.5以下という組み合わせであることが、より好ましい。
【0050】
さらに、試験材S2、S4、S5、S7、及びS8の正反射率は、それぞれ、87.3%(S2)、87.2%(S4)、87.4%(S5)、87.4%(S7)、及び87.5%(S8)という高い値を示した。従って、電解研磨条件について、電解研磨液中の塩化ナトリウムの濃度Mが0.15mol/L以上0.25mol/L以下、電解研磨液の温度Tが298K以上308K以下、電解電圧Vが55V以上75V以下、電解時間が10min以上30min以下、パラメータEが23.3以上84.5以下という組み合わせであることが、さらに好ましい。
【0051】
一方、試験材R1~R5の電解研磨処理におけるパラメータEは6.5以上100以下となる条件から外れている。そのため、試験材R1~R5については、正反射率は、61.8%(試験材R5)以下となり、十分な鏡面性を有する研磨面を形成することができない。
【0052】
試験材R6~R7の電解研磨処理におけるパラメータEも、6.5以上100以下となる条件から外れている。そのため、研磨面に白点の発生が確認されており、十分な鏡面性を有する研磨面を得ることができなかった。
【0053】
以上、実施例に基づいて本発明に係るアルミニウム材の製造方法の態様を説明したが、本発明に係るアルミニウム材の製造方法の具体的な態様は、実施例の態様に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜構成を変更することができる。
【0054】
例えば、前記アルミニウム材の製造方法は、以下の[1]~[4]に示す態様を採りうる。
【0055】
[1]アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる母材の表面に、電解研磨により形成された研磨面を有するアルミニウム材の製造方法であって、
塩化ナトリウムの濃度Mが、0.1mol/L以上0.4mol/L未満となるように前記塩化ナトリウムをプロピレングリコールに溶解させた電解研磨液に、前記母材を浸漬し、
前記電解研磨液の温度をT(単位:K)、前記塩化ナトリウムの濃度をM(単位:mol/L)、電解電圧をV(単位:V)、前記母材を電解研磨する電解時間をt(単位:min)としたとき、下記の式(1)で表されるパラメータEが、6.5以上100以下となる条件で、前記母材を陽極として前記電解電圧を印加して電解研磨することにより前記母材の表面に前記研磨面を形成する、アルミニウム材の製造方法。
E=(T×V1.23×t)/(100000×M) ・・・(1)
【0056】
[2]前記電解研磨液の温度Tが273K以上313K以下である、[1]に記載のアルミニウム材の製造方法。
【0057】
[3]前記電解電圧Vが、30V以上100V以下である、[1]または[2]に記載のアルミニウム材の製造方法。
【0058】
[4]前記電解時間tが、1min以上60min以下である、[1]~[3]のいずれか1つに記載のアルミニウム材の製造方法。
【符号の説明】
【0059】
1 アルミニウム材
2 母材
3 研磨面
11 電解研磨液
図1
図2
図3
図4