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特開2025-14620生体情報検出装置及び生体情報検出方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025014620
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】生体情報検出装置及び生体情報検出方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/11 20060101AFI20250123BHJP
   A61B 5/113 20060101ALI20250123BHJP
   A61B 5/0245 20060101ALI20250123BHJP
   G01S 13/52 20060101ALI20250123BHJP
   G01S 13/88 20060101ALI20250123BHJP
【FI】
A61B5/11 110
A61B5/113
A61B5/0245 100A
G01S13/52
G01S13/88
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023117325
(22)【出願日】2023-07-19
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)令和4年8月23日、「2022年電子情報通信学会通信ソサイエティ大会」通信論文集1 B-1-134に発表 (2)令和4年9月6日、「2022年電子情報通信学会通信ソサイエティ大会」にて発表 (3)令和4年11月8日、「改良型CMAアダプティブアレーによるバイタルサイン追従法」 一般社団法人電子情報通信学会発行 信学技報 A2022-162pp85-90に発表 (4)2023年2月2日(令和5年2月2日)、Vital Sign Tracking Using Modified Constant Modulus Algorithm Adaptive Array,IEEE Sensors Letters VOL.7 NO.2 3500504に発表
(71)【出願人】
【識別番号】504165591
【氏名又は名称】国立大学法人岩手大学
(74)【代理人】
【識別番号】100097205
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 正樹
(72)【発明者】
【氏名】本間 尚樹
(72)【発明者】
【氏名】小川 悠太
(72)【発明者】
【氏名】村田 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】小林 宏一郎
(72)【発明者】
【氏名】岩井 守生
【テーマコード(参考)】
4C017
4C038
5J070
【Fターム(参考)】
4C017AA10
4C017AB04
4C017AC40
4C017DD14
4C017FF30
4C038VA04
4C038VB32
4C038VB33
4C038VC20
5J070AB15
5J070AC01
5J070AD03
5J070AD05
5J070AD06
5J070AD09
5J070AE09
5J070AF01
(57)【要約】
【課題】電波を用いてより精度良く生体情報を検出することのできる生体情報検出装置を提供するものである。
【解決手段】複数の送信アンテナ素子21及び複数の受信アンテナ素子22を備えたアレーアンテナと、各送信アンテナ素子21から生体情報の検出対象となる生体に向けて所定周波数の電波信号を送信している状況のもと各受信アンテナ素子22からの受信電波信号に応じた受信複素信号に基づいて複素信号形式で表されるアレー合成出力を取得する、合成出力取得部(S12)と、前記アレー合成出力の複素平面上での信号点が表す位相と振幅とが、当該複素平面上において所定振幅値及び所定位相変動に基づいた所定状態に収まるように、当該アレー合成出力を調整する出力調整部(S13~S14)と、調整済みの前記アレー合成出力から目的の生体情報を抽出する生体情報抽出部(S15~S17)と、を有する構成となる。
【選択図】図13
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の周期的な体動に基づいた生体情報を検出する生体情報検出装置であって、
送信アンテナ素子及び複数の受信アンテナのセット、複数の送信アンテナ素子及び受信アンテナ素子のセット、及び複数の送信アンテナ素子及び複数の受信アンテナ素子のセットのいずれかのセットを備えたアレーアンテナと、
前記アレーアンテナにおける各送信アンテナ素子から生体情報の検出対象となる生体に向けて所定周波数の電波信号を送信している状況のもと当該アレーアンテナにおける各受信アンテナ素子からの受信電波信号に応じた受信複素信号に基づいて、複素信号形式で表されるアレー合成出力を取得する、合成出力取得部と、
前記合成出力取得部にて取得される前記アレー合成出力の複素平面上での信号点が表す位相と振幅とが、当該複素平面上において所定振幅値及び所定位相変動幅に基づいた所定状態に収まるように、当該アレー合成出力を調整する出力調整部と、
前記出力調整部により得られる調整済みのアレー合成出力から目的の生体情報を抽出する生体情報抽出部と、を有する生体情報検出装置。
【請求項2】
前記合成出力取得部は、
前記アレーアンテナにおける各送信アンテナ素子と各受信アンテナ素子との複数の組み合わせのそれぞれに対してそれら送信アンテナ素子と受信アンテナ素子との間の複素伝達関数を推定する伝達関数推定部と、
前記伝達関数推定部により得られる複数の複素伝達関数のそれぞれを複素信号として扱い、複数の前記複素信号からアレー合成出力を生成する合成出力生成部と、を含む請求項1記載の生体情報検出装置。
【請求項3】
前記出力調整部は、前記アレー合成出力の複素平面上での信号点が、当該複素平面の原点を中心とした前記所定振幅値及び所定位相変動幅での円弧状軌跡に収まるように調整する、請求項1記載の生体情報検出装置。
【請求項4】
前記出力調整部は、
複素信号形式の前記アレー合成出力を定義に用いられる複素ウェイトベクトルと複素直流成分とを求める前処理部と、
前記アレー合成出力が表す信号点が複素平面上の原点を中心とする円弧状軌跡に収まるように、前記複素ウェイトベクトルと前記複素直流成分とを順次調整する改良型CMA調整部と、を有する請求項1記載の生体情報検出装置。
【請求項5】
前記改良型CMA調整部は、
前記アレー合成出力の信号点の前記複素平面上での円弧状軌跡の中心角度が所定範囲内に収まるように、前記複素ウェイトベクトル及び複素直流成分を調整する、請求項4記載の生体情報検出装置。
【請求項6】
生体の周期的な体動に基づいた生体情報を検出する生体情報検出方法であって、
送信アンテナ素子及び複数の受信アンテナのセット、複数の送信アンテナ素子及び受信アンテナ素子のセット、及び複数の送信アンテナ素子及び複数の受信アンテナ素子のセットのいずれかのセットを備えたアレーアンテナを用い、
前記アレーアンテナにおける各送信アンテナ素子から生体情報の検出対象となる生体に向けて所定周波数の電波信号を送信している状況のもと当該アレーアンテナにおける各受信アンテナ素子からの受信電波信号に応じた受信複素信号に基づいて、複素信号形式で表されるアレー合成出力を取得する、合成出力取得ステップと、
前記合成出力取得ステップにて取得される前記アレー合成出力の複素平面上での信号点が表す位相と振幅とが、当該複素平面上において所定振幅値及び所定位相変動に基づいた所定状態に収まるように、当該アレー合成出力を調整する出力調整ステップと、
前記出力調整ステップにより得られる調整済みのアレー合成出力から目的の生体情報を抽出する生体情報抽出ステップと、を有する生体情報検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体(ヒトや動物)の心拍動や呼吸動等の周期的な体動に基づいた生体情報を検出する生体情報検出装置及び生体情報検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの健康状態を見守ることを目的として、ウェアラブルデバイスやカメラを用いたバイタルサイン検出方法が検討されている(非特許文献1、2参照)。これらの非特許文献記載の方法は、装着忘れや長時間の装着による身体的及び精神的負担が大きい。非特許文献2記載の方法は、プライバシーの問題や死角や暗所に弱いという問題がある。そこで、それらの問題を解決するために,電波を用いたバイタルサイン検出が検討されている(非特許文献3、4、5参照)。これは、生体に電波を照射し、その反射波に含まれるドップラシフトからバイタルサインを抽出する手法である。バイタルサイン由来の反射波の振幅と位相は、呼吸や心拍等の生体表面の揺らぎによって変化し、ドップラシフトにはその時変動と周波数変動が含まれている。しかし、屋内等の複雑な電波伝搬環境では、生体以外の反射波や雑音により、正確にバイタルサインを検出することが困難になる。そこで、バイタルサイン検出精度を向上させるために逆正接復調法が提案されている(非特許文献5、6参照)。この逆正接復調は,体表面変位に起因した円弧状の信号点の位相角を観測することでバイタルサインを検出する方法であり、高調波を低減できる利点がある。
【0003】
また、MIMO (Multiple-InputMultiple-Output) を用いて伝搬路自由度数を増加させ、バイタルサイン検出感度を飛躍的に向上させる研究がされている(非特許文献7、8、9参照)。アレーアンテナ放射指向性を制御するビームフォーミングにより、バイタルサインを強調しクラッタを低減することが可能である。しかし、安静呼吸時であっても無意識な体動により観測対象の方向や距離が変化するため、バイタルサインを継続的に強調するようなビーム追従は困難である。また、体表面変位に起因した円弧状の応答波形を観測できない場合、円弧の中心座標の推定が必要である逆正接復調が機能せず、DCオフセットの除去が困難となり、正確にバイタルサインを検出できなくなる。このような問題は、特許文献1に記載の生体信号処理装置においても生じ得る。そこで、この問題を解消するために,円弧の中心座標の推定が不要である疑似逆正接復調(非特許文献10参照)やCMA-like (Constant Modulus Algorithm) アダプティブアレーアルゴリズム(非特許文献11参照)が提案されている。CMA-like法はバイタルサイン軌跡が直線状になることに基づきクラッタを抑制するように逐次的にウェイトを決定する手法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第7217011号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Y.-L. Zheng, X.-R. Ding, C. C. Y. Poon, B. P. L. Lo, H. Zhang, X.-L. Zhou, G.-Z. Yang, N. Zhao, and Y.-T. Zhang, “Unobtrusive sensing and wearable devices for health informatics,” IEEE Transactions on Biomedical Engineering, vol. 61, no. 5, pp. 1538?1554, May 2014.
【非特許文献2】N. Bernacchia, L. Scalise, L. Casacanditella, I. Ercoli, P. Marchionni, and E. P. Tomasini, “Non contact measurement of heart and respiration rates based on KINECT?,” IEEE International Symposium on Medical Measurements and Applications (MeMeA), pp. 1?5, Jun. 2014.
【非特許文献3】A. Droitcour, V. Lubecke, J. Lin, and O. Boric-Lubecke, “A microwave radio for Doppler radar sensing of vital signs,” IEEE MTT-S International Microwave Sympsoium Digest,vol. 1, pp. 175?178, May 2001.
【非特許文献4】B. Lohman, O. Boric-Lubecke, V. Lubecke, P. Ong, andM. Sondhi, “A digital signal processor for Doppler radar sensing of vital signs,” IEEE ngineering in Medicine and Biology Magazine, vol. 21, no. 5, pp. 161?164, Dec. 2002.
【非特許文献5】B.-K. Park, O. Boric-Lubecke, and V. M. Lubecke, “Arctangent demodulation with DC offset compensation in quadrature Doppler radar receiver systems,” IEEE Transactions on Microwave Theory and Techniques, vol. 55, no. 5, pp. 1073?1079, May 2007.
【非特許文献6】C. Li and J. Lin, “Random body movement cancellation in Doppler radar vital sign detection,” IEEE Transactions on Microwave Theory and Techniques, vol. 56, no. 12, pp. 3143?3152, Dec. 2008.
【非特許文献7】M. Nosrati, S. Shahsavari, S. Lee, H.Wang, and N. Tavassolian, “A concurrent dual-beam phased-array Doppler radar using MIMO beamforming techniques for short-range vitalsigns monitoring,” IEEE Transactions on Antennas and Propagation, vol. 67, no. 4, pp. 2390?2404, Apr. 2019.
【非特許文献8】C. Feng, X. Jiang, M.-G. Jeong, H. Hong, C.-H. Fu, X. Yang, E. Wang, X. Zhu, and X. Liu, “Multitarget vital signs measurement with chest motion imaging based on MIMO radar,” IEEE Transactions on Microwave Theoryand Techniques, vol. 69, no. 11, pp. 4735?4747, Nov. 2021.
【非特許文献9】小川悠太, 佐々木滉太, 本間尚樹, 村田健太郎, 岩井守生, 小林宏一郎, 佐藤敦, “レイリー商規範ビームフォーミング法による心拍数推定評価,” 電子情報通信学会ソサイエティ大会, pp. B?1?104, Sep. 2021.
【非特許文献10】佐藤潤, 本間尚樹, 岩井守生, 小林宏一郎, 佐藤敦, “疑似逆正接復調の振幅相当成分を用いた複数人心拍の同時検出法の評価,” 信学技報, AP2019-135, pp. 157?162, Nov. 2019.
【非特許文献11】本間尚樹, 村田健太郎, 岩井守生, 小林宏一郎, 佐藤敦, “低マイクロ波帯に適したバイタルサイン検出用アダプティブアレーアルゴリズム,” 信学技報, SRW2021-11, pp. 43?48, Jun. 2021.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したCMA-like (Constant Modulus Algorithm) アダプティブアレーアルゴリズムはバイタルサイン軌跡が直線状になることに基づきクラッタを抑制するように逐次的にウェイトを決定する手法である。しかし、バイタルサインの特徴を考慮していないため、必ずしも所望の応答が得られないという問題があった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、電波を用いてより精度良くヒトまたは動物の生体情報(バイタルサイン)を検出することのできる生体情報検出装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る生体情報検出装置は、生体の周期的な体動に基づいた生体情報を検出する生体情報検出装置であって、送信アンテナ素子及び複数の受信アンテナのセット、複数の送信アンテナ素子及び受信アンテナ素子のセット、及び複数の送信アンテナ素子及び複数の受信アンテナ素子のセットのいずれかのセットを備えたアレーアンテナと、前記アレーアンテナにおける各送信アンテナ素子から生体情報の検出対象となる生体に向けて所定周波数の電波信号を送信している状況のもと当該アレーアンテナにおける各受信アンテナ素子からの受信電波信号に応じた受信複素信号に基づいて、複素信号形式で表されるアレー合成出力を取得する、合成出力取得部と、前記合成出力取得部にて取得される前記アレー合成出力の複素平面上での信号点が表す位相と振幅とが、当該複素平面上において所定振幅値及び所定位相変動幅に基づいた所定状態に収まるように、当該アレー合成出力を調整する出力調整部と、前記出力調整部により得られる調整済みのアレー合成出力から目的の生体情報を抽出する生体情報抽出部と、を有する構成となる。
【0009】
このような構成により、アレーアンテナにおける各送信アンテナ素子から生体情報の検出対象となる生体に向けて所定周波数の電波信号を送信している状況のもと当該アレーアンテナにおける各受信アンテナ素子からの受信信号に基づいて複素信号形式(搬送波と同相成分(I)のデータと、直交成分(Q)のデータ)で表されるアレー合成出力が取得される。そして、そのアレー合成出力(IQデータ)の複素平面上での信号点が表す位相と振幅とが、当該複素平面上において所定振幅値及び所定位相変動幅に基づいた所定状態に収まるように、当該アレー合成出力が調整される。その調整により得られる所定状態に収まった前記アレー合成出力から目的の生体情報(例えば、心拍動や呼吸動に係る情報)が抽出される。
【0010】
本発明に係る生体情報検出装置において、前記合成出力取得部は、前記アレーアンテナにおける各送信アンテナ素子と各受信アンテナ素子との複数の組み合わせのそれぞれに対してそれら送信アンテナ素子と受信アンテナ素子との間の複素伝達関数を推定する伝達関数推定部と、前記伝達関数推定部により得られる複数の複素伝達関数のそれぞれを複素信号として扱い、複数の前記複素信号からアレー合成出力を生成する合成出力生成部と、を含む構成とすることができる。
【0011】
このような構成により、アレーアンテナにおける各送信アンテナ素子から生体情報の検出対象となる生体に向けて所定周波数の電波信号を送信している状況のもと当該アレーアンテナにおける各受信アンテナ素子からの受信信号に基づいて、各送信アンテナ素子と各受信アンテナ素子との組み合わせのそれぞれに対してそれら送信アンテナ素子と受信アンテナ素子との間の複素伝達関数が推定される。そして、その推定により得られる複数の複素伝達関数のそれぞれが複素信号として扱われ、それら複数の複素信号からアレー合成出力が生成される。
【0012】
本発明に係る生体情報検出装置において、前記出力調整部は、前記アレー合成出力の複素平面上での信号点が、当該複素平面の原点を中心とした前記所定振幅値及び所定位相変動幅での円弧状軌跡に収まるように調整する、構成とすることができる。
【0013】
生体体表面で反射した複素信号(アレー合成出力)は、呼吸や心拍等のバイタルサインによる体表面の変動によって複素平面上で円弧を描くという性質がある。このような性質を利用して、上記構成により、得られるアレー合成出力の複素平面上での信号点が当該複素平面の原点を中心とした前記所定振幅値及び所定位相変動幅での円弧状軌跡に収まるように当該アレー合成出力が調整される。
【0014】
本発明に係る生体情報検出装置において、前記出力調整部は、複素信号形式の前記アレー合成出力の定義に用いられる複素ウェイトベクトルと複素直流成分とを求める前処理部と、前記アレー合成出力が表す信号点が複素平面上の原点を中心とする円弧状軌跡に収まるように、前記複素ウェイトベクトルと前記複素直流成分とを順次調整する改良型CMA調整部と、を有する構成とすることができる。
【0015】
このような構成により、複素信号形式のアレー合成出力の定義に用いられる複素ウェイトベクトルと複素直流成分とが求められる。そして、上述した生体体表面で反射した複素信号は、呼吸や心拍等のバイタルサインによる体表面の変動によって複素平面上で円弧を描くという性質を利用して、前記アレー合成出力が表す信号点が複素平面上の原点を中心とする円弧軌跡に収まるように、前記複素ウェイトベクトルと前記複素直流成分とが順次調整される。この調整により得られる前記複素ウェイトベクトルと前記複素直流成分とを用いて定義されるアレー合成出力が、調整済みのアレー合成出力として得ることができる。
【0016】
本発明に係る生体情報検出装置において、前記改良型CMA調整部は、前記アレー合成出力の信号点の前記複素平面上での円弧状軌跡の中心角度が所定範囲内となるように、前記複素ウェイトベクトル及び複素直流成分を調整する、構成とすることができる。
【0017】
このような構成により、前記アレー合成出力が表す信号点が複素平面上で収まるべき円弧状軌跡の中心角度が所定範囲内となるように、前記複素ウェイトベクトル及び前記複素直流成分が順次調整される。
【0018】
また、本発明に係る生体情報検出方法は、生体の周期的な体動に基づいた生体情報を検出する生体情報検出方法であって、送信アンテナ素子及び複数の受信アンテナのセット、複数の送信アンテナ素子及び受信アンテナ素子のセット、及び複数の送信アンテナ素子及び複数の受信アンテナ素子のセットのいずれかのセットを備えたアレーアンテナを用い、前記アレーアンテナにおける各送信アンテナ素子から生体情報の検出対象となる生体に向けて所定周波数の電波信号を送信している状況のもと当該アレーアンテナにおける各受信アンテナ素子からの受信電波信号に応じた受信複素信号に基づいて、複素信号形式で表されるアレー合成出力を取得する、合成出力取得ステップと、前記合成出力取得ステップにて取得される前記アレー合成出力の複素平面上での信号点が表す位相と振幅とが、当該複素平面上において所定振幅値及び所定位相変動幅に基づいた所定状態に収まるように、当該アレー合成出力を調整する出力調整ステップと、前記出力調整ステップにより得られる調整済みのアレー合成出力から目的の生体情報を抽出する生体情報抽出ステップと、を有する構成となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る生体情報検出装置及び生体情報検出方法によれば、電波を用いてより精度良くヒトまたは動物の生体情報(バイタルサイン)を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、バイタルサイン検出システムの概念図である。
図2図2は、DCオフセットが含まれた複素信号の応答を示す図である。
図3図3は、提案法による信号応答の収束を示す図である。
図4図4は、実験風景を示す図である。
図5図5は、実験系を示すブロック図である。
図6図6は心拍数推定精度評価法の概念図である。
図7A図7Aは、最大比合成法によるIQ応答波形を示す図である。
図7B図7Bは、CMA-like法によるIQ応答波形を示す図である。
図7C図7Cは、提案法によるIQ応答波形を示す図である。
図8A図8Aは、最大比合成法により推定した体表面変位を示す図である。
図8B図8Bは、CMA-like法により推定した体表面変位を示す図である。
図8C図8Cは、提案法により推定した体表面変位を示す図である。
図9A図9Aは、最大比合成法により推定した心拍応答を示す図である。
図9B図9Bは、CMA-like法により推定した心拍応答を示す図である。
図9C図9Cは、改良型CMA法(提案法)により推定した心拍応答を示す図である。
図10A図10Aは、最大比合成法による心拍数の時間応答を示す図である。
図10B図10Bは、CMA-like法による心拍数の時間応答を示す図である。
図10C図10Cは、改良型CMA法(提案法)による心拍数の時間応答を示す図である。
図11図11は、各手法(最大比合成法、CMA-like法、提案法)による心拍地推定誤差CDFを示す図である。
図12図12は、本発明の実施の一形態に係る生体情報検出装置の構成を示すブロック図である。
図13図13は、図12に示す生体情報検出装置における処理ユニットでの処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
まず、本願発明者が発表した論文の内容(一部修正部分を含む)について以下に記す。
【0022】
1. まえがき
近年、新型コロナウイルス感染症の拡大が進み、感染者の年齢別死亡率では、高齢者ほど死亡率が高いことが知られている[1]。また、基礎疾患別死亡率では、基礎疾患として心疾患を抱える患者は持病のない患者に比べて約10 倍も死亡率が高いことが分かる[2]。さらに、1人暮らしの高齢者数も増加し、2040年には約900 万人になると予測されている[3]。そのため、高齢者の健康状態を日常的にモニタリングできるバイタルサイン測定が必要であると考えられる。現在、バイタルサイン検出技術としてウェアラブルデバイスやカメラ[4] [5] を用いた方法が検討されているが、前者は装着忘れや長時間の装着による身体的及び精神的負担が大きく、後者はプライバシーの問題や死角や暗所に弱いという問題がある。そこで、それらの問題を解決するために、電波を用いたバイタルサイン検出が検討されている[6]~[8]。これは、生体に電波を照射し、その反射波に含まれるドップラシフトからバイタルサインを抽出する手法である。バイタルサイン由来の反射波の振幅と位相は、呼吸や心拍等の生体表面の揺らぎによって変化し、ドップラシフトにはその時変動と周波数変動が含まれている。しかし、屋内等の複雑な電波伝搬環境では、生体以外の反射波や雑音により、正確にバイタルサインを検出することが困難になる。そこで、バイタルサイン検出精度を向上させるために逆正接復調法が提案されている[8] [9]。逆正接復調は、体表面変位に起因した円弧状の信号点の位相角を観測することでバイタルサインを検出する方法であり、高調波を低減できる利点がある。また、MIMO (Multiple-Input Multiple-Output)を用いて伝搬路自由度数を増加させ、バイタルサイン検出感度を飛躍的に向上させる研究がされている[10]~[12]。アレーアンテナ放射指向性を制御するビームフォーミングにより、バイタルサインを強調しクラッタを低減することが可能である。しかし、安静呼吸時であっても無意識な体動により観測対象の方向や距離が変化するため、バイタルサインを継続的に強調するようなビーム追従は困難である。また、体表面変位に起因した円弧状の応答波形を観測できない場合、円弧の中心座標の推定が必要である逆正接復調が機能せず、DC オフセットの除去が困難となり、正確にバイタルサインを検出できなくなる。そこで、この問題を解消するために、円弧の中心座標の推定が不要である疑似逆正接復調[13] やCMA-like (Constant Modulus Algorithm) アダプティブアレーアルゴリズム[14] が提案されている。CMA-like 法はバイタルサイン軌跡が直線状になることに基づきクラッタを抑制するように逐次的にウェイトを決定する手法である。しかし、バイタルサインの特徴を考慮していないため、必ずしも所望の応答が得られないという問題がある。
【0023】
そこで、MIMO (Multiple-Input Multiple-Output)レーダにおいて、ブラインド処理によりバイタルサインに追従するために、CMA を基に改良を加えたビームフォーミング法を提案する。具体的には、DC オフセットの除去と、呼吸による位相変動幅が所望値となるように、バイタルサインの特徴を考慮したウェイト更新を行う。また、従来法の最大比合成に基づくビームフォーミング法[12] 及びCMA-like 法[14] との心拍推定精度を比較し、本手法の有効性について説明する。
【0024】
2.提案法によるバイタルサイン検出法
図1 に、本稿で取り扱うバイタルサイン検出システムの概念図を示す。ここでは、アンテナの前で安静呼吸時の人体からの反射波を利用することを想定している。MT 素子の送信アンテナとMR 素子の受信アンテナで構成されるMIMO レーダにおける伝搬チャネル行列X(t) は、
【数1】
と表される。ここで、t は測定時間、hMRMT (t)はMT 番目の送信アンテナ?MR 番目の受信アンテナ間の伝搬チャネル応答を表す。
【0025】
次に、伝搬チャネル行列X(t) を仮想アレーにより列ベクトル化し、チャネル要素を信号として扱う。そのとき、信号x(t) は、
【数2】
と表される。ここで、[・]T は転置を表す。本稿では、(2) 式の伝搬チャネルを複素信号として扱う。このアレー信号x(t) に対するアレー合成出力y(t) は、
【数3】
と表される。ここで、w はアレーウェイトである。実環境では、人体からの反射波のほかに人体以外の雑音や送受アンテナ間の直接波が存在している。このとき、アレー合成後の出力信号は、
【数4】
と表される。ここで、t は測定時間、γ は送受アンテナ間の直接波や測定装置等の固定成分、hvital(t) は呼吸や心拍等の体表面変位による反射波、n(t) は雑音である。
【0026】
また、hvital(t) は、
【数5】
と表される。ここで、Av はドップラ成分の強度を表す振幅、k は使用周波数に対応する波数、D0 は人体の観測対象点とアレーアンテナの基準点との平均距離、d(t) は体表面変位である。CMA 法は合成信号の振幅変化が最小になるように(3) 式のアレーウェイトw を決定する方法である。生体活動に伴う体表面変位d(t) によって生ずる反射信号は、位相だけが変化するため本来CMA により追従が可能であるように見える。しかし、送受アンテナ間の直接波γ や,人体以外の反射波、そしてバイタルサインを生じない人体部位からの反射波といった非所望成分に対してバイタルサイン信号hvital(t) が微弱であるため、従来のCMAではバイタルサインを強調するよう動作しない。
【0027】
そこで、提案する改良型CMA 法は環境・位置変化に追従するため、アレー合成ウェイトとオフセットを逐次更新し、振幅一定化と位相変動幅の分散一定化となるように原点を基準とした円弧を描くよう最適化する。はじめに、観測した伝搬チャネル応答からバイタルサイン成分を強調する方法について説明し、次に、強調させたバイタルサイン成分から逆正接復調を利用して心拍成分を抽出する方法について述べる。
【0028】
2. 1 バイタルサイン強調法
ここでは、バイタルサイン検出におけるCW-MIMO レーダを用いた信号処理について述べる。人体の体表面変位によって生ずる反射信号は、呼吸や心拍等のバイタルサインによる体表面の変動によって複素平面上で円弧を描くという性質がある。しかし、図2に示すようにDCオフセットγの存在により、信号軌跡の中心座標と原点がずれる。そのため、正確にバイタルサインを検出させるためには、DC オフセットを除去する必要がある。また、バイタルサインの特徴を考慮させるためには、ドップラ成分の強度を表す振幅Av に相当する振幅値及び信号軌跡の瞬時位相θ及び平均位相?θ を用いて体表面変位d(t) に対応する位相変動幅で信号を制御する必要がある。そこで、提案する改良型CMA では、図3に示すようにCMA 本来の機能である振幅平滑化に加えて、呼吸による体表面変位に対応する位相変動幅も考慮することでバイタルサインに追従するアレーウェイトを計算し、同時にDC オフセットを除去する。ここで,決定するアレーウェイトとDC オフセット値を関数、
【数6】
【数7】
【数8】
【数9】
により評価する。ここで、y(t) はアレー合成出力、σy はAv に相当する振幅、w はウェイト、γ はDC オフセット、θ(t) は瞬時位相、?θ は平均位相、Nは振幅とオフセット値を最適化するための観測サンプル数、Nは位相変動幅を最適化するための観測サンプル数、σθ 2 は所望位相変動幅の分散を示す。また、評価関数Q は振幅とオフセット値を最適化する項と、位相変動幅を最適化する項からなり、α は両項の優先度を調整するための重みづけ係数である。 次に、Q が最小となるようにw 及びγ を決定する。しかし、Q を最小化するw 及びγ を直接的に解くことはできないので、再急降下法を利用する。ここで、再急降下法による更新式は、
【数10】
【数11】
【数12】
【数13】
となる。ここで、μ1 及びμ2 は収束速度を決定する係数、n は繰り返し回数を表す自然数である。また、(10)式及び(11)式はそれぞれウェイト及びDC オフセットの更新、(12)式及び(13)式は振幅一定化と位相変動幅の分散一定化を示す。ここで、これらを用いて、Q を最小化するようなウェイトwn及びDCオフセットγn を逐次的に算出することで、バイタルサインを強調させたアレー合成出力y(t) が得られる。
【0029】
2. 2 心拍成分抽出法
ここでは、前節で得られたアレー合成出力から位相角を観測する手法である逆正接復調を利用して心拍成分を抽出する方法について述べる。生体体表面で反射した複素信号は、呼吸や心拍等のバイタルサインによる体表面の変動によって複素平面上で円弧を描くという性質がある。逆正接復調は、円弧上の信号点の位相角を観測することでバイタルサインを検出する方法であり、高調波を低減できるという利点がある。ここで、逆正接復調によりアレー合成出力y(t) から得られる位相回転量は、
【数14】
で求められる。最後に、バンドパスフィルタを用いて位相回転量β(t) から不要な呼吸成分やクラッタ・雑音等を取り除き、心拍成分を抽出する。
【0030】
3. 実験
3.1 実験の条件と環境
表1に実験条件、図4に実験風景を示す。測定場所は室内、被験者数は16名で、被験者が安静呼吸の状態で測定した(岩手大学倫理審査:202019)。アンテナはパッチアレーアンテナを使用し、アンテナ構成は、受信アンテナ16 素子、送信アンテナ16 素子の16 × 16MIMO とした。アレー素子間隔は0.5 波長、アンテナ-被験者間距離は0.5 mとし、送受信アンテナの中心の高さを被験者の胸部の高さと一致するように設置した。本稿では、ハイパスフィルタ0.7 Hz,ローパスフィルタ20Hz,改良型CMA 法の重みづけ係数α を8.0 ×10?2 とした。
【表1】
【0031】
図5に実験系を示す。本実験では、SP64T (Single-Pole 64Throw)スイッチを用いて、送信アンテナ素子を高速に切り替えながら、受信側では同時測定を行っている。送信には5.018 GHz の連続波を使用し、スイッチング速度は3.2kHz とした。また、送受信を正確に同期させるため、送信側では送信信号を分配器によりSG (Signal Generator) からダウンコンバータへ入力し、受信側では受信アンテナからの信号がLNA (Low Noise Amplifier)へ入力される。ダウンコンバートされたベースバンド信号は、実部と虚部に分かれてDAQ (Data-Acquisition unit) にサンプリング周波数32kHz で収集される。受信側ではスイッチングされる送信アンテナ素子ごとに観測データを分割し時間平均処理を行いダウンサンプルすることで、信号対雑音比を改善しながらMIMO チャネルを200Hz の頻度で取得する。これは、生体活動の現れる低周波成分を観測するためには十分高速である。
【0032】
図6に心拍数推定精度評価法の概念図を示す。MIMOレーダで取得した心拍応答波形と、リファレンスであるECG (Electrocardiogram)で測定した波形のそれぞれに対して、ピーク間隔からbpm (beats per minute) を算出する。また、MIMOレーダとECG から得られる心拍数の応答時間は異なる。そこで、それぞれの時変動心拍数に対してスプライン補間を適用し、MIMOレーダから推定される時変動心拍数と、対応する時刻のECG から得られる時変動心拍数を比較し誤差を算出する。
【0033】
3. 2 実験結果
図7A図7C図7)に各手法によるIQ 応答波形を示す。図7A図7 (a)) は最大比合成適用後、DC オフセットを除去するために最小二乗法により原点補正された後の応答波形である。しかし、応答波形は振幅方向にシフトしながら円弧状に変動しているため、最小二乗法による原点補正が機能していない。図7B図7 (b))のCMA-like 法による応答波形では、アレー出力は複素平面上で虚部方向に変動するように収束していることが確認できる。また、図7C図7 (c))の提案法による応答波形では,アレー出力は設定した振幅値と制御位相角(σy = 1.0、σθ = 30 deg.) 付近に収束している。このことから、DC オフセットの除去と,呼吸による位相変動幅を所望値で制御されていることが確認できる。
【0034】
図8A図8C図8)に各手法により推定した体表面変位を示す。本稿では、リファレンスであるレーザ距離計で取得した距離の変位と、レーダにより得られる位相情報を距離に変換し比較した。図8A図8 (a))では,図7A図7 (a)) のように逆正接復調が機能せずにIQ 応答波形全体の中央付近に原点が補正され、正確に位相応答波形を抽出することができていない。図8B図8C図8 (b)、(c))は、それぞれ虚部変動抽出波形と逆正接復調による位相抽出波形である。両手法による位相応答波形とレーザ波形とのトレンドが似ており、マイクロ波により体表面変位を精度よく推定できていることが確認できる。また、図8A図8C図8 (a)-(c)) を比較すると、提案法は体表面変位のトレンドを最も高精度に推定できていることが確認できる。
【0035】
図9A図9C図9 )に各手法により推定した心拍応答を示す。図9A図9 (a)) では、心拍応答波形のピークの突出はECG 波形に追従していないことが確認できる。これは、図8A図8 (a)) のように体表面変位に起因した位相応答を抽出することができず、クラッタ成分(不要信号成分)に埋もれた心拍成分を正確に抽出することができていないことが原因と考えられる。図9B図9C図9 (b)、(c))では,心拍応答波形はECG 波形に追従するようなピークの突出が確認できる。両手法を比較すると、提案法による心拍応答波形のピーク位置は、ECG のピークに追従することが分かる。
【0036】
図10A図10C図10) に各手法による心拍数の時間応答を示す。各手法による平均心拍誤差は、最大比合成では30.1bpm、CMA-like 法では6.46bpm、提案法である改良型CMA 法では1.48bpm であった。このことから、提案法が最も高精度に時変動で心拍数を推定できていることが確認できる。
【0037】
図11に各手法による全被験者の心拍数推定誤差CDF を示す。各手法による心拍誤差50% 値は、最大比合成では11.1bpm、CMA-like 法では10.5 bpm,提案法の改良型CMA 法では3.47 bpm であった。また、心拍誤差90% 値は、最大比合成では28.9 bpm,CMA-like 法では31.3 bpm、提案法の改良型CMA 法では25.2 bpm であった。このことから、提案法が最も高精度に心拍数を推定できていることが確認できる。
【0038】
文献
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【0039】
以下、上述した論文の内容に基づいた本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
【0040】
本発明の実施の一形態に係る生体情報検出装置は、図12に示すように構成される。
【0041】
この生体情報検出装置は、図5に示す実験系と同様に、発信器11(SG)、分配器12(Divider)、減衰器13(Attenuator)、送信機23、受信機24(Low noise Amplifier(LNA)を含む)、ダウンコンバータ14(DC)、端子ボード15(Terminal Board)、及び処理ユニット17(PC、NI DAQ (Data Acquisition Unit))を有し、被験者(人)の周期的な体動、例えば、心拍動に基づいた生体情報(心拍信号、心拍数等)を検出する。送信機23には送信用パッチアレイアンテナ21が接続されている。送信用パッチアレーアンテナ21は、例えば、16個の送信アンテナ素子を含む。また、受信機24には受信用パッチアレーアンテナ22が接続されている。受信用パッチアレイアンテナ22は、例えば、16個の受信アンテナ素子を含む。これら送信用アレーアンテナ21及び受信用パッチアレイアンテナ22によって16×16のMIMOアレイアンテナ(MIMOレーダ)が構成される。
【0042】
送信機23は、分配器12及び減衰器13を介して供される発信器11からの発振信号に基づいて、送信用パッチアレーアンテナ21の送信アンテナ素子を順次切り換えながら(例えば、スイッチング速度は3.2kHz)複数の送信アンテナ素子のそれぞれから所定周波数の電波信号(例えば、5.018GHzの連続波)を被験者に向けて送信させる。送信側と受信側の同期をとるために、分配器12にて分配される発信器11からの信号が、ダウンコンバータ14に同期用の信号として供される。
【0043】
受信用パッチアレーアンテナ22の複数の受信アンテナ素子のそれぞれは受信電波に応じた受信信号を出力する。受信機24は、低ノイズアンプ(LNA)を含み、複数の受信アンテナ素子(受信用パッチアレーアンテナ22)からの受信信号を取り込み、それら受信信号を処理する。複数の受信アンテナ素子からの受信信号に対応した受信機24からの複数の信号が、送信側の信号に同期しながらダウンコンバータ14によってダウンコンバートされる。ダウンコンバータ14からの複数のアンテナ素子に対応した複数のベースバンド信号は、送信機23での電波送信のスイッチング動作に対応するようにリレーボックス16によって切り換えられる端子ボード15を介してシリアルに処理ユニット17に供給される。この受信側ではスイッチングされる送信アンテナ素子ごとに観測データを分割し時間平均処理を行いダウンサンプルすることで、信号対雑音比を改善しながらMIMO チャネルを例えば200Hz の頻度で取得する。これは、生体活動の現れる低周波成分を観測するためには十分高速である。
【0044】
処理ユニット17は、ソフトウエアやハードウエア(CPU、メモリ等を含む)によって構成されるコンピュータシステムを含み、端子ボード15を介して順次供されるベースバンド信号を、実部と虚部に分けて所定のサンプリング周波数(例えば、32kHz)にて収集する。そして、処理ユニット17は、後述するような手順に従って収集されるベースバンド信号を処理して、被験者(生体)の周期的な体動、例えば、心拍動に基づいた生体情報(心拍信号、心拍数)を検出する。
【0045】
処理ユニット17は、図13に示す手順に従って処理を実行する。
【0046】
図13において、処理ユニット17は、各受信アンテナ素子(受信用パッチアレーアンテナ22)からの受信信号に基づいた信号を複素信号(実部、虚部)としてサンプリングする(S11)。処理ユニット17は、サンプリングされる複素信号に基づいて、送信用パッチアレーアンテナ21の各送信アンテナ素子と受信パッチアレーアンテナ22の各受信アンテナ素子との複数の組み合わせのそれぞれに対してそれら送信アンテナ素子と受信アンテナ素子との間の複素伝達関数を推定する(S12:伝達関数推定部:合成出力取得部)。前記複数の複素伝達関数X(t)は、式(1)の行列形式にて表される。処理ユニット17は、更に、行列形式で表される複素伝達関数X(t)を式(2)の行ベクトル形式のアレー信号x(t)に変換する(S12)。ここで、アレー合成出力y(t)は、複素信号としてのアレー信号x(t)と複素信号としてのアレーウェイトwとによって、式(3)により表すことができる(アレー合成出力生成部)。
【0047】
次いで、処理ユニット17は、アレー合成出力の最適化処理を実行する(S13、S14)。このアレー合成出力の最適化処理(出力調整部)は、次のようになされる。
【0048】
このアレー合成出力の最適化処理では、図3に示すように、複素信号形式で表されるアレー合成出力y(t)の複素平面上での信号点が表す位相と振幅とが、当該複素平面上において所定振幅値(σy)及び所定位相変動幅(σθ)に基づいた所定状態、具体的には、所定振幅値(σy)を半径とした所定位相変動幅(σθ:所定中心角度)の円弧軌跡に収まるように、最適化される。これは、生体体表面で反射した複素信号は、呼吸や心拍等のバイタルサインによる体表面の変動によって複素平面上で円弧を描くという性質に基づいている。
【0049】
上記最適化の処理では、処理ユニット17は、アレー合成出力y(t)の定義(式(3)、式(4)参照)に用いられる複素ウェイトベクトルwと複素直流成分γとを求める(前処理部)。そして、処理ユニット17は、前述した式(6)~式(13)で示される演算式に従い、評価関数Q(式(6)参照)が最小となるように、複素ウェイトベクトルwと複素直流成分γとを再急降下法を用いて逐次更新することでアレー合成出力y(t)(式(3)~(5)参照)を順次調整する(改良型CMA調整部)。
【0050】
上述したような最適化の処理にて調整済みのアレー合成出力y(t)(式(3)~(5)参照)が得られると、処理ユニット17は、式(14)に従って、位相回転量β(t)(体動に対応した位相変動幅)を算出する(S15)。処理ユニット17は、移動回転量β(t)に対して、検出すべき体動、例えば、心拍振動に対応したフィルタ処理を行うことにより、心拍振動に対応した信号を抽出する(S16)。そして、処理ユニット17は、その抽出した心拍振動に対応した信号から心拍動情報(例えば、心拍数等:生体情報)を生成する(S17:S15及びS16とともに生体情報抽出部を構成)。以後、処理ユニット17は、測定終了の指示(S18でYES)を受けるまで、上述した処理を繰り返し実行する。その過程で、処理ユニット17は、時々刻々と変化する生体情報(心拍動情報)を生成していく。
【0051】
上述したような生体情報検出装置によれば、被験者に接触することなく電波を用いて被験者の生体情報(心拍動情報等)より精度良く検出することができる。
【0052】
前述した処理ユニット17の処理の過程で、フィルタ処理の特性を変えることにより、心拍動情報に代えて被験者の呼吸動に基づいた生体情報(呼吸動情報)を抽出することができる。
【0053】
前述した生体情報検出装置では、複数の送信アンテナ素子を含む送信用パッチアレーアンテナ21と複数の受信アンテナ素子を含む受信用パッチアレーアンテナ22にて構成されるMIMOアンテナを用いたがこれに限定されない。複数の送信アンテナ素子と単数の受信アンテナ素子にて構成されるSIMOアンテナや単数の送信アンテナ素子と複数の受信アンテナ素子にて構成されるMISOアンテナを用いることもできる。
【0054】
なお、生体情報の検出の対象となる生体は、ヒト以外の動物であってもよい。
【0055】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、この実施の形態や各部の変形例は、一例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。上述したこれら新規な実施の形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明に係る生体情報検出装置は、電波を用いてより精度良くヒトまたは動物の生体情報(バイタルサイン)を検出することができるという効果を有し、生体(ヒトや動物)の心拍動や呼吸動等の周期的な体動に基づいた生体情報を検出する生体情報検出装置として有用である。
【符号の説明】
【0057】
11 発信器
12 分配器
13 減衰器
14 ダウンコンバータ
15 端子ボード
16 リレーボックス
17 処理ユニット
21 送信用パッチアレーアンテナ
22 受信用パッチアレーアンテナ
23 送信機
24 受信機
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図8C
図9A
図9B
図9C
図10A
図10B
図10C
図11
図12
図13