(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025148119
(43)【公開日】2025-10-07
(54)【発明の名称】顔料分散物の製造方法、インクジェットインクの製造方法、及び画像記録方法
(51)【国際特許分類】
C09D 17/00 20060101AFI20250930BHJP
C09C 3/10 20060101ALI20250930BHJP
C09D 11/326 20140101ALI20250930BHJP
C09D 11/54 20140101ALI20250930BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20250930BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20250930BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20250930BHJP
【FI】
C09D17/00
C09C3/10
C09D11/326
C09D11/54
B41J2/01 123
B41M5/00 112
B41M5/00 120
B41M5/00 132
B32B27/20 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024048724
(22)【出願日】2024-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井腰 剛生
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4F100
4J037
4J039
【Fターム(参考)】
2C056HA42
2H186AB02
2H186AB05
2H186AB06
2H186AB12
2H186AB27
2H186AB47
2H186AB54
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2H186BA08
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2H186FB17
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2H186FB29
2H186FB30
2H186FB48
2H186FB54
4F100AK07
4F100AK07B
4F100AT00B
4F100BA02
4F100BA07
4F100CC00
4F100CC00A
4F100EH46
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4F100EH61
4F100EH61A
4F100EJ42
4F100EJ86
4J037CC16
4J037DD24
4J037EE03
4J037EE12
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4J037FF01
4J037FF23
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4J039EA47
4J039FA01
4J039FA02
4J039FA04
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】顔料の分散安定性に優れる顔料分散物を製造できる顔料分散物の製造方法及びその応用を提供する。
【解決手段】炭素数10以上のアルキル基を含む(メタ)アクリル酸エステル単位と、酸基と、を含む高分子分散剤における酸基の一部を中和し、中和後の高分子分散剤により、顔料を分散させて未架橋分散物を得、この未架橋分散物に酸を添加し、次いで架橋することを含み、高分子分散剤における、中和後の酸価AV1、架橋後の酸価AV2、中和後の中和度ND1、及び酸添加後の中和度ND2が、不等式(1)及び(2)を満たす、顔料分散物の製造方法及びその応用。
0.60≦AV1(ND1-ND2)/(AV1-AV2)≦2.00 … 不等式(1)
0.30≦(1-ND1)/(ND1-ND2)≦5.00 … 不等式(2)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数10以上のアルキル基を含む(メタ)アクリル酸アルキルエステル及び炭素数10以上のアルキル基を含むα-オレフィンからなる群から選択される少なくとも1種に由来する構造単位Lと、酸基を含む構造単位Aと、を含み、前記構造単位Lの占める割合が20質量%以上である高分子分散剤Nを準備する準備工程と、
前記高分子分散剤Nに含まれる前記酸基の一部を中和させて中和度が100%未満である高分子分散剤Aを得る中和工程と、
前記高分子分散剤Aにより、顔料を、水性媒体中に分散させて未架橋分散物を得る分散工程と、
前記未架橋分散物に酸を添加して前記未架橋分散物中の前記高分子分散剤Aの中和度を低下させて高分子分散剤Bを得る酸添加工程と、
前記酸添加工程後の前記未架橋分散物における前記高分子分散剤Bを架橋して高分子分散剤Cを得る架橋工程と、
を含み、
前記高分子分散剤AのmgKOH/g単位での酸価であるAV1、前記高分子分散剤CのmgKOH/g単位での酸価であるAV2、前記高分子分散剤Aの%表記での中和度であるND1、及び、前記高分子分散剤Bの%表記での中和度であるND2が、下記不等式(1)及び下記不等式(2)を満たす、
顔料分散物の製造方法。
0.60≦0.01×AV1×(ND1-ND2)/(AV1-AV2)≦2.00 … 不等式(1)
0.30≦(100-ND1)/(ND1-ND2)≦5.00 … 不等式(2)
【請求項2】
前記AV1及び前記AV2が、下記不等式(3)を満たす、請求項1に記載の顔料分散物の製造方法。
120≦(1.2×AV2)≦AV1≦330 … 不等式(3)
【請求項3】
前記準備工程で準備する前記高分子分散剤Nにおいて、前記構造単位Lに対する前記構造単位Aの質量比率であるA/L比が、0.5~2.0である、請求項1に記載の顔料分散物の製造方法。
【請求項4】
前記構造単位Aが、(メタ)アクリル酸に由来する構造単位である、請求項1に記載の顔料分散物の製造方法。
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の顔料分散物の製造方法によって顔料分散物を製造する工程と、
前記顔料分散物を用いてインクジェットインクを製造する工程と
を含む、インクジェットインクの製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載のインクジェットインクの製造方法により、インクジェットインクを製造する工程と、
基材上に、前記インクジェットインクを、インクジェット方式にて付与するインク付与工程と、
を含む、画像記録方法。
【請求項7】
前記基材が、非浸透性基材であって、
前記インク付与工程よりも前に、前記非浸透性基材上に、水及び凝集剤を含有する前処理液を付与する工程を更に含み、
前記インク付与工程は、前記非浸透性基材上の前記前処理液が付与された領域上に、前記インクジェットインクを付与する、
請求項6に記載の画像記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、顔料分散物の製造方法、インクジェットインクの製造方法、及び画像記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェットインクの製造に用いる顔料分散物を製造するための製造方法に関し、様々な検討がなされている。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、下記工程1~3を有する、水系顔料分散体(即ち、顔料分散物)の製造方法及び水系インクの製造方法が開示されている。
工程1:イオン性基を有するモノマー(a)と疎水性モノマー(b)とを、イオン性基を有する重合開始剤(x)、及びイオン性基を有する重合連鎖移動剤(y)を用いて重合して、イオン性基を有するポリマーAを得る工程。
工程2:工程1で得られたポリマーAと顔料とを水系媒体中で混合して分散し、顔料水分散液を得る工程。
工程3:工程2で得られた顔料水分散液中のポリマーAを多官能化合物で架橋して、水系顔料分散体を得る工程。
特許文献1には、これらの製造方法により、インク吐出ノズルでの顔料やポリマーの固化による吐出ノズルの目詰りを抑制できる優れた再分散性と高流動性を確保できる、と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、インクジェットインクの経時後の吐出安定性(即ち、インクジェットヘッドからの吐出安定性)をより向上させる観点から、インクジェットインクの製造に用いる顔料分散物における顔料の分散安定性をより向上させることが求められる場合がある。
【0006】
本開示の一実施形態の課題は、顔料の分散安定性に優れる顔料分散物を製造できる顔料分散物の製造方法、経時後の吐出安定性に優れるインクジェットインク、及び、滲みが抑制された画像を記録できる画像記録方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は以下の態様を含む。
<1> 炭素数10以上のアルキル基を含む(メタ)アクリル酸アルキルエステル及び炭素数10以上のアルキル基を含むα-オレフィンからなる群から選択される少なくとも1種に由来する構造単位Lと、酸基を含む構造単位Aと、を含み、構造単位Lの占める割合が20質量%以上である高分子分散剤Nを準備する準備工程と、
高分子分散剤Nに含まれる酸基の一部を中和させて中和度が100%未満である高分子分散剤Aを得る中和工程と、
高分子分散剤Aにより、顔料を、水性媒体中に分散させて未架橋分散物を得る分散工程と、
未架橋分散物に酸を添加して未架橋分散物中の高分子分散剤Aの中和度を低下させて高分子分散剤Bを得る酸添加工程と、
酸添加工程後の未架橋分散物における高分子分散剤Bを架橋して高分子分散剤Cを得る架橋工程と、
を含み、
高分子分散剤AのmgKOH/g単位での酸価であるAV1、高分子分散剤CのmgKOH/g単位での酸価であるAV2、高分子分散剤Aの%表記での中和度であるND1、及び、高分子分散剤Bの%表記での中和度であるND2が、下記不等式(1)及び下記不等式(2)を満たす、
顔料分散物の製造方法。
0.60≦0.01×AV1×(ND1-ND2)/(AV1-AV2)≦2.00 … 不等式(1)
0.30≦(100-ND1)/(ND1-ND2)≦5.00 … 不等式(2)
【0008】
<2> AV1及びAV2が、下記不等式(3)を満たす、<1>に記載の顔料分散物の製造方法。
120≦(1.2×AV2)≦AV1≦330 … 不等式(3)
<3> 準備工程で準備する高分子分散剤Nにおいて、構造単位Lに対する構造単位Aの質量比率であるA/L比が、0.5~2.0である、<1>又は<2>に記載の顔料分散物の製造方法。
<4> 構造単位Aが、(メタ)アクリル酸に由来する構造単位である、<1>~<3>のいずれか1つに記載の顔料分散物の製造方法。
<5> <1>~<4>のいずれか1つに記載の顔料分散物の製造方法によって顔料分散物を製造する工程と、
顔料分散物を用いてインクジェットインクを製造する工程と
を含む、インクジェットインクの製造方法。
<6> <5>に記載のインクジェットインクの製造方法により、インクジェットインクを製造する工程と、
基材上に、インクジェットインクを、インクジェット方式にて付与するインク付与工程と、
を含む、画像記録方法。
<7> 基材が、非浸透性基材であって、
インク付与工程よりも前に、非浸透性基材上に、水及び凝集剤を含有する前処理液を付与する工程を更に含み、
インク付与工程は、非浸透性基材上の前処理液が付与された領域上に、インクジェットインクを付与する、
<6>に記載の画像記録方法。
【発明の効果】
【0009】
本開示の一実施形態によれば、顔料の分散安定性に優れる顔料分散物を製造できる顔料分散物の製造方法、経時後の吐出安定性に優れるインクジェットインク、及び、滲みが抑制された画像を記録できる画像記録方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の画像記録方法に用いる画像記録装置の一例を概念的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を意味する。
本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本明細書において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する複数の物質の合計量を意味する。
本明細書において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本明細書において、「工程」という語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても、その工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びメタクリレートの両方を包含する概念である。また、「(メタ)アクリル」は、アクリル及びメタクリルの両方を包含する概念である。
【0012】
〔顔料分散物の製造方法〕
本開示の顔料分散物の製造方法は、
炭素数10以上のアルキル基を含む(メタ)アクリル酸アルキルエステル及び炭素数10以上のアルキル基を含むα-オレフィンからなる群から選択される少なくとも1種に由来する構造単位Lと、酸基を含む構造単位Aと、を含み、構造単位Lの占める割合が20質量%以上である高分子分散剤Nを準備する準備工程と、
高分子分散剤Nに含まれる酸基の一部を中和させて中和度が100%未満である高分子分散剤Aを得る中和工程と、
高分子分散剤Aにより、顔料を、水性媒体中に分散させて未架橋分散物を得る分散工程と、
未架橋分散物に酸を添加して未架橋分散物中の高分子分散剤Aの中和度を低下させて高分子分散剤Bを得る酸添加工程と、
酸添加工程後の未架橋分散物における高分子分散剤Bを架橋して高分子分散剤Cを得る架橋工程と、
を含み、
高分子分散剤AのmgKOH/g単位での酸価であるAV1、高分子分散剤CのmgKOH/g単位での酸価であるAV2、高分子分散剤Aの%表記での中和度であるND1、及び、高分子分散剤Bの%表記での中和度であるND2が、下記不等式(1)及び下記不等式(2)を満たす、
顔料分散物の製造方法である。
0.60≦0.01×AV1×(ND1-ND2)/(AV1-AV2)≦2.00 … 不等式(1)
0.30≦(100-ND1)/(ND1-ND2)≦5.00 … 不等式(2)
【0013】
本開示の顔料分散物の製造方法によれば、顔料の分散安定性に優れた顔料分散物を製造できる。
本開示において、顔料分散物における顔料の分散安定性は、この顔料分散物を用いて製造されたインクジェットインクの経時後の吐出安定性を指標として評価される。
【0014】
本開示の顔料分散物の製造方法による上記効果は、以下のようにして得られると考えられる。
【0015】
本開示の顔料分散物の製造方法では、まず、構造単位Lの占める割合が20質量%以上である高分子分散剤Nを準備する。構造単位Lは、炭素数が10以上である長鎖のアルキル基を含む構造単位である。この長鎖のアルキル基が顔料への吸着性に優れる。このため、高分子分散剤Nは、顔料の分散安定性の効果の前提となる、顔料への吸着性に優れる効果を有する。
この高分子分散剤Nは、その後、中和、酸添加、及び架橋を経る過程で、高分子分散剤A、高分子分散剤B、及び高分子分散剤Cに順次変化する。しかし、構造単位Lは、この変化の過程でも、高分子分散剤中(即ち、高分子分散剤A、高分子分散剤B、及び高分子分散剤C中)に維持される。
また、高分子分散剤Nは、酸基を含む構造単位Aを含む。構造単位Aにおける酸基は、顔料の分散安定性の効果の前提となる、水性媒体(即ち、水、又は、水と水溶性有機溶剤との混合溶媒)に対する親和性に寄与し得る。
本開示における酸基の概念には、中和されていない酸基(例えば、-COOH基(カルボキシ基))及び中和された酸基(例えば、-COO-基(カルボキシラト基))の両方が包含される。
【0016】
本開示の顔料分散物の製造方法は、高分子分散剤Nに含まれる酸基の一部を中和させて、中和度(ND1)が100%未満である高分子分散剤Aを得る中和工程を含む。
ここで、中和度は、中和されていない酸基及び中和された酸基の総数に対する中和された酸基の%(百分率)を意味する。
中和された酸基は、中和されていない酸基と比較して、水性媒体に対する親和性に優れる。
従って、中和工程により、高分子分散剤の水性媒体に対する親和性が上昇する。
高分子分散剤の水性媒体に対するある程度の親和性は、顔料の分散安定性の向上に寄与する。
しかし、高分子分散剤の水性媒体に対する親和性が高すぎた場合には、顔料に対する吸着状態を維持することができないので、顔料の分散安定性はむしろ低下する。この点を考慮し、中和工程では、中和度(ND1)が100%未満となる程度に、中和を行う。
【0017】
本開示の顔料分散物の製造方法は、高分子分散剤Aにより、顔料を、水性媒体中に分散させて未架橋分散物を得る分散工程を含む。
分散工程では、中和度が低すぎずかつ高すぎない程度に調整されている高分子分散剤Aを用い、顔料を、水性媒体中に分散させる。
分散工程で得られる未架橋分散物では、顔料の表面に高分子分散剤Aが吸着した状態で、顔料が水性媒体中に分散されていると考えられる。
前述のとおり、高分子分散剤Aは、顔料に対する優れた吸着性を有し、かつ、水性媒体に対する親和性にもある程度優れる。
従って、未架橋分散物では、顔料の分散安定性の効果の前提となる、ある程度の顔料分散性が実現されていると考えられる。
【0018】
本開示の顔料分散物の製造方法は、未架橋分散物に酸を添加して未架橋分散物中の高分子分散剤Aの中和度を低下させて高分子分散剤Bを得る酸添加工程を含む。
酸添加工程では、高分子分散剤Aにおける100%未満である中和度(ND1)を低下させて、中和度がND2である高分子分散剤Bを得る。酸添加工程により、高分子分散剤において、中和された酸基の数が減り、中和されていない酸基の数が増える。このようにして、酸添加工程では、顔料の表面に吸着している高分子分散剤Aの水性媒体に対する親和性を下げて高分子分散剤Bに変化させ、これにより、顔料の表面からの高分子分散剤Bの脱離を抑制する。
【0019】
本開示の顔料分散物の製造方法は、酸添加工程後の未架橋分散物における高分子分散剤Bを架橋して高分子分散剤Cを得る架橋工程を含む。
架橋工程では、酸添加工程後の未架橋分散物において、顔料の表面に吸着している高分子分散剤Bを架橋させて高分子分散剤Cを得る。これにより、顔料の表面からの高分子分散剤Cの脱離を更に抑制する。
【0020】
架橋工程では、中和されていない酸基及び中和された酸基の少なくとも一方が、架橋の形成のために消費されるので、高分子分散剤の酸価が低下する。
ここで、高分子分散剤の酸価(mgKOH/g)は、高分子分散剤における酸基の数(即ち、中和されていない酸基と中和された酸基と合計数)に対応する。
本開示の顔料分散物の製造方法では、高分子分散剤N、高分子分散剤A、及び高分子分散剤Bにおいて、酸価は変化しないが、高分子分散剤Bから高分子分散剤Cに変化する過程で、酸価が低下する。
本開示では、高分子分散剤Aの酸価をAV1(mgKOH/g)とし、高分子分散剤Cの酸価をAV2(mgKOH/g)としている。
前述のとおり、架橋によって酸基が消費されるために、AV2は、AV1よりも低い値となる。
【0021】
本開示の顔料分散物の製造方法は、高分子分散剤AのmgKOH/g単位での酸価であるAV1、高分子分散剤CのmgKOH/g単位での酸価であるAV2、高分子分散剤Aの%表記での中和度であるND1、及び、高分子分散剤Bの%表記での中和度であるND2が、下記不等式(1)及び下記不等式(2)を満たす。
【0022】
0.60≦0.01×AV1×(ND1-ND2)/(AV1-AV2)≦2.00 … 不等式(1)
0.30≦(100-ND1)/(ND1-ND2)≦5.00 … 不等式(2)
【0023】
不等式(1)において、以下、「0.01×AV1×(ND1-ND2)/(AV1-AV2)」を、値(1)とする。
不等式(1)は、0.60≦値(1)≦2.00のように書き直すことができる。
【0024】
値(1)における分子「0.01×AV1×(ND1-ND2)」は、酸添加工程によって減少する、中和された酸基の数(即ち、酸添加工程による、中和された酸基の減少度合い)に対応する。
値(1)における分母「(AV1-AV2)」は、架橋工程によって減少する酸基の数(即ち、架橋工程による酸基の減少度合い)に対応する。
【0025】
不等式(1)において、「0.60≦値(1)」は、分子の観点からみて、酸添加工程による、中和された酸基の減少度合いが、ある程度大きいことを意味する。
この「0.60≦値(1)」により、高分子分散剤Bの水性溶媒に対する親和性が高くなりすぎることが抑制され、その結果、顔料表面からの高分子分散剤Bの離脱が抑制される。これにより、顔料の分散安定性が向上する。
【0026】
また、不等式(1)において、「0.60≦値(1)」は、分母の観点からみて、架橋工程による酸基の減少度合いが、大きすぎないことを意味する。
この「0.60≦値(1)」により、高分子分散剤Cの水性溶媒に対する親和性が低くなりすぎることが抑制され、その結果、高分子分散剤Cが吸着している顔料の沈降が抑制される。これにより、顔料の分散安定性が向上する。
【0027】
不等式(1)において、「値(1)≦2.00」は、分子の観点からみて、酸添加工程による、中和された酸基の減少度合いが、大きすぎないことを意味する。
この「値(1)≦2.00」により、高分子分散剤Bの水性溶媒に対する親和性が低すぎることが抑制され、その結果、高分子分散剤Bが吸着している顔料の沈降が抑制される。これにより、顔料の分散安定性が向上する。
【0028】
不等式(1)において、「値(1)≦2.00」は、分母の観点からみて、架橋工程による酸基の減少度合いが、小さすぎないことを意味する。
この「値(1)≦2.00」により、高分子分散剤Cの水性溶媒に対する親和性が高くなりすぎることが抑制され、その結果、顔料表面からの高分子分散剤Cの離脱が抑制される。これにより、顔料の分散安定性が向上する。
【0029】
不等式(2)において、以下、「(100-ND1)/(ND1-ND2)」を、値(2)とする。
不等式(2)は、0.30≦値(2)≦5.00のように書き直すことができる。
【0030】
値(2)における分子「(100-ND1)」は、中和工程後に残存する、中和されていない酸基の数(即ち、中和工程後に残存する、中和されていない酸基の残存度合い)に対応する。
値(2)における分母「(ND1-ND2)」は、酸添加工程によって減少する、中和された酸基の数(即ち、酸添加工程による、中和された酸基の減少度合い)に対応する。
【0031】
不等式(2)において、「0.30≦値(2)」は、分子の観点からみて、中和工程後に残存する、中和されていない酸基の数がある程度大きいことを意味する。
「0.30≦値(2)」により、高分子分散剤Aの水性溶媒に対する親和性が高すぎることが抑制され、その結果、分散工程において、高分子分散剤Aが顔料の表面に吸着しやすくなる。これにより、顔料の分散安定性が向上する。
【0032】
不等式(2)において、「0.30≦値(2)」は、分母の観点からみて、酸添加工程による、中和された酸基の減少度合いが、大きすぎないことを意味する。
この「0.30≦値(2)」により、高分子分散剤Bの水性溶媒に対する親和性が低すぎることが抑制され、その結果、高分子分散剤Bが吸着している顔料の沈降が抑制される。これにより、顔料の分散安定性が向上する。
【0033】
不等式(2)において、「値(2)≦5.00」は、分子の観点からみて、中和工程後に残存する、中和されていない酸基の数が多すぎないことを意味する。
「値(2)≦5.00」により、高分子分散剤Aの水性溶媒に対する親和性が低すぎることが抑制され、その結果、分散工程において、高分子分散剤Aが吸着している顔料が、水性媒体中に分散しやすくなる。これにより、顔料の分散安定性が向上する。
【0034】
不等式(2)において、「値(2)≦5.00」は、分母の観点からみて、酸添加工程による、中和された酸基の減少度合いが、小さすぎないことを意味する。
この「値(2)≦5.00」により、高分子分散剤Bの水性溶媒に対する親和性が高すぎることが抑制され、その結果、高分子分散剤Bが吸着している顔料からの高分子分散剤Bの剥がれが抑制される。これにより、顔料の分散安定性が向上する。
【0035】
本開示の顔料分散物の製造方法によれば、以上のようにして、顔料の分散安定性に優れる効果が発揮されると考えられる。
【0036】
以下、本開示の顔料分散物の製造方法について、より詳細に説明する。
【0037】
<準備工程>
本開示の顔料分散物の製造方法は、炭素数10以上のアルキル基を含む(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位Lと、酸基を含む構造単位Aと、を含み、構造単位Lの占める割合が20質量%以上である高分子分散剤Nを準備する準備工程を含む。
準備工程は、高分子分散剤Nを合成する工程であってもよいし、既に合成された高分子分散剤Nを、本開示の顔料分散物の製造方法の実施のために準備するだけの工程であってもよい。
【0038】
(高分子分散剤N)
高分子分散剤Nは、炭素数10以上のアルキル基を含む(メタ)アクリル酸アルキルエステル及び炭素数10以上のアルキル基を含むα-オレフィンからなる群から選択される少なくとも1種に由来する構造単位Lと、酸基を含む構造単位Aと、を含み、構造単位Lの占める割合(即ち、高分子分散剤の全体に占める構造単位Lの占める割合)が20質量%以上である高分子分散剤である。
【0039】
-構造単位L-
構造単位Lは、炭素数10以上のアルキル基を含む(メタ)アクリル酸アルキルエステル及び炭素数10以上のアルキル基を含むα-オレフィンからなる群から選択される少なくとも1種に由来する構造単位である。
高分子分散剤Nは、構造単位Lを、1種のみ含んでいてもよいし、2種以上を含んでいてもよい。
高分子分散剤Nは、構造単位Lとして、炭素数10以上のアルキル基を含む(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位の少なくとも1種と、炭素数10以上のアルキル基を含むα-オレフィンに由来する構造単位の少なくとも1種と、を含んでいてもよい。
【0040】
構造単位Lにおいて、炭素数10以上のアルキル基(例えば、後述の式(L1)中のR2)は、顔料の表面への吸着性に寄与する。これにより、本開示における分散安定性の効果が発揮される。
分散安定性の効果により優れる観点から、このアルキル基の炭素数は、好ましくは14以上、より好ましくは16以上である。
アルキル基の炭素数の上限には特に制限はないが、このアルキル基の炭素数は、好ましくは30以下、より好ましくは26以下、更に好ましくは22以下である。
【0041】
構造単位Lのうち、炭素数10以上のアルキル基を含む(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位は、下記式(L1)で表される構造単位である。
【0042】
【0043】
式(L1)中、R1は、水素原子又はメチル基を表し、R2は、炭素数10以上のアルキル基を表す。
【0044】
R2で表されるアルキル基の炭素数の好ましい範囲は前述のとおりである。
【0045】
高分子分散剤の全体に占める構造単位Lの割合は、20質量%以上である。
これにより、本開示における分散安定性の効果が発揮される。
分散安定性の効果により優れる観点から、高分子分散剤の全体に占める構造単位Lの割合は、好ましくは25質量%以上、更に好ましくは30質量%以上である。
高分子分散剤の全体に占める構造単位Lの割合の上限は、特に制限はない。構造単位Lの割合は、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは60質量%以下、更に好ましくは50質量%以下である。
【0046】
-構造単位A-
高分子分散剤Nは、酸基を含む構造単位Aを含む。
酸基は、前述の通り、中和された酸基であってもよいし、中和されていない酸基であってもよい。
高分子分散剤Nは、構造単位Aを1種のみ含んでいてもよいし、2種以上を含んでいてもよい。
【0047】
中和されていない酸基として、好ましくは、カルボキシ基(-COOH基)である。
中和された酸基として、好ましくは、-COOM基(ここで、Mは、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、又は有機カチオンを表す)である。
アルカリ金属として、好ましくは、カリウムイオン又はナトリウムイオンであり、より好ましくはナトリウムである。
有機カチオンとしては、炭素数1~10のアルキルアンモニウムカチオン、炭素数1~10のヒドロキシ置換アルキルアンモニウムカチオン、炭素数2~10のカルボキシ置換アルキルアンモニウムカチオン、及び炭素数2~4のアルキレンイミン単位を2~10個有する有機カチオン、等が挙げられる。
【0048】
構造単位Aは、(メタ)アクリル酸に由来する構造単位であることが好ましい。
【0049】
高分子分散剤Nの全体に占める構造単位Aの割合は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは25質量%以上、更に好ましくは30質量%以上である。
高分子分散剤Nの全体に占める構造単位Aの割合の上限は、特に制限はない。構造単位Aの割合は、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは60質量%以下、更に好ましくは50質量%以下である。
【0050】
高分子分散剤Nにおいて、構造単位Lに対する構造単位Aの質量比率であるA/L比は、好ましくは0.3~3.0、より好ましくは0.5~2.0、更に好ましくは0.5~1.5である。
【0051】
-その他の構造単位-
高分子分散剤Nは、上記以外のその他の構造単位を少なくとも1種含んでいてもよい。
【0052】
その他の構造単位として、例えば、下記式(2)で表される構造単位(以下、式(2)単位ともいう)が挙げられる。
【0053】
【0054】
式(2)中、
R21は、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表し、
R22は、炭素数2~5のアルキレン基を表し、
R23は、芳香族基を表し、
X21及びX22は、それぞれ独立に、-O-又は-NH-を表し、
mは、2以上の整数を表す。
【0055】
式(2)中、R21は、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表す。
R21として、好ましくは水素原子又は炭素数1~3のアルキル基、より好ましくは水素原子、メチル基、又はエチル基、更に好ましくは水素原子又はメチル基である。
【0056】
式(2)中、R22は、炭素数2~5のアルキレン基を表す。
R22として、好ましくは炭素数2~4のアルキレン基、より好ましくは炭素数2又は3のアルキレン基、更に好ましくは炭素数2のアルキレン基である。
【0057】
式(2)中、R23は、芳香族基を表す。
R23で表される芳香族基は、芳香環を少なくとも1つ含む。
R23で表される芳香族基における芳香環は、単環であっても多環(縮環)であってもよい。
R23で表される芳香族基は、単環が連結してなる基(例えば、ビフェニル基)を含んでいてもよい。
R23で表される芳香族基は、ヘテロ原子(例えば、酸素原子)を含んでいてもよい。
【0058】
R23で表される芳香族基における芳香環は、置換基を有していてもよい。
芳香環に対する置換基としては、例えば、炭素数1~30(より好ましくは1~20)の直鎖又は分岐の炭化水素基(例えば、直鎖又は分岐のアルキル基、直鎖又は分岐のアルケニル基、直鎖又は分岐のアルキニル基、等)、ハロゲン原子、等が挙げられる。
【0059】
R23で表される芳香族基の炭素数は、好ましくは4~30、より好ましくは6~30、更に好ましくは6~25、更に好ましくは6~20である。
【0060】
R23で表される芳香族基として、好ましくは、フェニル基、ナフチル基、フリル基、ビフェニル基、炭素数7~30(好ましくは炭素数7~25、更に好ましくは炭素数7~20)のアルキルフェニル基である。
【0061】
式(2)中、X21及びX22は、それぞれ独立に、-O-又は-NH-を表す。
X21及びX22は、好ましくは-O-である。
【0062】
式(2)中、mは、2以上の整数を表す。
mは、好ましくは2~30の整数、より好ましくは2~20の整数、更に好ましくは2~10の整数である。
【0063】
高分子分散剤Nが式(2)単位を含む場合、高分子分散剤Nの全体に占める式(2)単位の割合は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは2質量%~50質量%、より好ましくは3質量%~40質量%、更に好ましくは10質量%~40質量%である。
【0064】
その他の構造単位として、例えば、メチル(メタ)アクリレートに由来する構造単位も挙げられる。
高分子分散剤Nがメチル(メタ)アクリレートに由来する構造単位を含む場合、高分子分散剤Nの全体に占めるメチル(メタ)アクリレートに由来する構造単位の割合は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは1質量%~10質量%、より好ましくは1質量%~5質量%である。
【0065】
-高分子分散剤Nの重量平均分子量(Mw)-
高分子分散剤Nの重量平均分子量(Mw)は、特に制限されないが、顔料の分散性の観点から、好ましくは3000~100000、より好ましくは5000~80000、更に好ましくは10000~60000、更に好ましくは15000~50000である。
【0066】
本開示において、重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定される。GPCは、HLC-8220GPC(東ソー(株)製)を用い、カラムとして、TSKgeL SuperHZM-H、TSKgeL SuperHZ4000、TSKgel SuperHZ2000(いずれも東ソー(株)製の商品名)を用いて3本直列につなぎ、溶離液としてTHF(テトラヒドロフラン)を用いる。また、条件としては、試料濃度を0.45質量%、流速を0.35ml/min、サンプル注入量を10μl、測定温度を40℃とし、示差屈折率検出器を用いて行なう。また、検量線は、東ソー(株)製「標準試料TSK standard,polystyrene」:「F-40」、「F-20」、「F-4」、「F-1」、「A-5000」、「A-2500」、「A-1000」、「n-プロピルベンゼン」の8サンプルから作成する。
【0067】
<中和工程>
本開示の顔料分散物の製造方法は、高分子分散剤Nに含まれる酸基の一部を中和させて中和度(即ち、ND1)が100%未満である高分子分散剤Aを得る中和工程を含む。
中和度ND1は、好ましくは40%~95%、好ましくは50%~90%である。
【0068】
中和は、中和されていない酸基を含む高分子分散剤Nに対し、塩基(以下、「中和塩基」ともいう)を反応させることによって行うことができる。
中和塩基としては、例えば;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;アンモニア;ジメチルエタノールアミン、ジイソプロピルエチルアミン等の有機アミン;等があげられる。
【0069】
<分散工程>
本開示の顔料分散物の製造方法は、高分子分散剤Aにより、顔料を、水性媒体中に分散させて未架橋分散物を得る工程である。
【0070】
本開示において、水性媒体とは、水、又は、水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒を意味する。
【0071】
本開示において、「水溶性」とは、25℃の水100g対して1g以上溶解する性質を意味する。
【0072】
水溶性有機溶剤の具体例は、後述のインクジェットインクに含有され得る水溶性有機溶媒と同様である。
【0073】
顔料としては特に制限は無く、有機顔料及び無機顔料のいずれであってもよい。
顔料としては、例えば、伊藤征司郎編「顔料の事典」(2000年刊)、W.Herbst,K.Hunger「Industrial Organic Pigments」、特開2002-12607号公報、特開2002-188025号公報、特開2003-26978号公報、特開2003-342503号公報、特開2015-193729号、等の公知文献に記載の顔料が挙げられる。
【0074】
顔料としては、
例えば、アゾレーキ顔料、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、ジケトピロロピロール顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料等の多環式顔料;
ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料等の有機顔料;
酸化チタン、酸化鉄系、カーボンブラック系等の無機顔料;
等が挙げられる。
顔料として、好ましくは、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、又はカーボンブラック顔料である。
顔料については、特許第5404669号公報等の公知文献の記載を適宜参照してもよい。
【0075】
色相の観点からみて例示すると、顔料としては、例えば、シアン顔料、マゼンタ顔料、イエロー顔料、ブラック顔料、白色顔料、等が挙げられる。
【0076】
顔料分散物の全量に対する顔料の含有量は、好ましくは1質量%~40質量%、より好ましくは3質量%~30質量%、更に好ましくは5質量%~25質量%、更に好ましくは10質量%~20質量%である。
【0077】
分散工程は、ビーズミル等の分散装置を用いた公知の方法によって実施できる。
【0078】
未架橋分散物の全量中に占める、水性媒体、顔料、及び、高分子分散剤Nの合計量は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上である。
【0079】
中和工程及び分散工程は、中和工程、分散工程の順に、実施してもよいし、同時に実施してもよい。
同時に実施する場合には、顔料、高分子分散剤N、水性媒体、及び、中和用の中和塩基を仕込み、分散を実施する。これにより、高分子分散剤Aを形成しながら顔料を分散させる。
【0080】
<酸添加工程>
本開示の顔料分散物の製造方法は、未架橋分散物に酸を添加して未架橋分散物中の高分子分散剤Aの中和度を低下させて高分子分散剤Bを得る酸添加工程を含む。
酸添加工程は、中和工程によって中和された酸基を、中和されていない酸基に戻す操作である。
酸添加工程は、水性媒体との親和性に優れる中和された酸基の量を、多すぎず少なすぎず適切な量に調節する工程のうちの一つである。
【0081】
酸添加工程では、未架橋分散物中において、顔料の表面に吸着している高分子分散剤Aの中和度が低下することにより、中和度がND2である高分子分散剤Bが得られると考えられる。
【0082】
酸添加工程に用いる酸としては、塩酸、酢酸、クエン酸、マロン酸、ホウ酸、マレイン酸、等が挙げられる。
【0083】
酸添加工程の具体的な操作としては、未架橋分散物を攪拌しながら、ここに酸を加え、更に攪拌する、といった一般的な操作が挙げられる。
【0084】
<架橋工程>
本開示の顔料分散物の製造方法は、酸添加工程後の未架橋分散物における高分子分散剤Bを架橋して高分子分散剤Cを得る架橋工程を含む。
架橋工程により、架橋された高分子である高分子分散剤Cによって顔料が分散されている、架橋分散物(即ち、顔料分散物)が得られる。
【0085】
本開示における架橋工程により、顔料の表面に吸着している高分子分散剤Bを架橋して脱離しにくくすること、及び、架橋によって高分子分散剤Bの酸基の量を多すぎず少なすぎず適切な量に調節することが行われる。
【0086】
-架橋剤-
架橋は、架橋剤を用いて実施できる。
この場合の高分子分散剤Cは、好ましくは、酸基を含む高分子分散剤Bと、架橋剤と、の反応生成物である。この場合の架橋構造は、酸基と架橋剤(例えばエポキシ化合物におけるエポキシ基)との反応(例えば、酸-エポキシ反応)によって形成される構造である。
架橋剤としては、酸基を含む高分子分散剤Bとの反応部位(好ましくはエポキシ基)を2つ以上有する化合物が好ましい。
【0087】
架橋剤の好ましい態様である2官能以上のエポキシ化合物の具体例としては、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、1,6-へキサンジオールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ジプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル等が挙げられる。
中でも、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、又はトリメチロールプロパントリグリシジルエーテルが好ましい。
【0088】
架橋剤としては、市販品を用いることもできる。
市販品としては、例えば、Denacol EX-321、EX-821、EX-830、EX-850、EX-851(ナガセケムテックス(株)製)等を用いることができる。
【0089】
<その他の工程>
本開示の顔料分散物の製造方法は、上述した工程以外のその他の工程を含んでいてもよい。
その他の工程としては、架橋工程で得られた架橋分散物から、遠心処理、ろ過等により、粗大粒子を除去する工程、等が挙げられる。
【0090】
<不等式(1)>
0.60≦0.01×AV1×(ND1-ND2)/(AV1-AV2)〔=値(1)〕≦2.00 … 不等式(1)
【0091】
不等式(1)の意味については前述のとおりである。
値(1)は、0.60以上であり、好ましくは0.62以上、より好ましくは0.65以上である。
値(1)は、2.00以下であり、好ましくは1.50以下、より好ましくは1.20以下である。
【0092】
高分子分散剤Aの酸価であるAV1(単位:mgKOH/g)は、好ましくは100~350、より好ましくは150~330、更に好ましくは150~300である。
高分子分散剤Cの酸価であるAV2(単位:mgKOH/g)は、好ましくは100~300、より好ましくは100~250である。AV2は、原理的に、AV1よりも小さい値である。
【0093】
AV1及びAV2は、下記不等式(3)を満たすことが好ましい。
120≦(1.2×AV2)≦AV1≦330 … 不等式(3)
不等式(3)における「120≦(1.2×AV2)」は、AV2の1.2倍の値が120以上であることを意味する。
不等式(3)における「(1.2×AV2)≦AV1」は、AV1が、AV2の1.2倍の値以上であることを意味する。
不等式(3)における「AV1≦330」は、AV1が330以下であることを意味する。
【0094】
本開示において、高分子分散剤の酸価(AV1及びAV2)は、以下の方法で算出する。
AV1については、高分子分散剤Aの溶液をテトラヒドロフラン水溶液(THF/純水=4:1の水溶液)で100体積倍に希釈した希釈液を作製し、得られた希釈液をKOHで完全中和した後、HClで滴定することによって算出する。
AV2については、高分子分散剤Cによって顔料が分散されている顔料分散液(即ち、架橋後の顔料分散液)を、テトラヒドロフラン水溶液(THF/純水=4:1の水溶液)で20体積倍に希釈した希釈液を作製し、得られた希釈液をKOHで完全中和した後、HClで滴定することによって算出する。
AV1及びAV2の各々の測定において、分散剤がTHFに溶解しない場合は、THF以外の溶媒を使用することができる。THF以外の溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド、2-メチルピロリドン、又はこれらの水溶液を使用することができるが、これらに限らない。
【0095】
高分子分散剤Aの中和度であるND1(%)は、好ましくは40~95、より好ましくは50~90である。
高分子分散剤Bの中和度であるND2(%)は、好ましくは20~80、より好ましくは30~70である。ND2は、原理的に、ND1よりも小さい値である。
【0096】
本開示において、高分子分散剤の中和度(ND1及びND2)は以下の方法で算出する。
ND1については、以下のようにして算出する。
分散工程で得られる未架橋分散物(即ち、高分子分散剤Aによって顔料が分散されている未架橋分散物)をテトラヒドロフラン水溶液(THF/純水=4:1の水溶液)で20体積倍に希釈した希釈液を作製し、得られた希釈液をHClで滴定することにより、中和された酸基の酸価を算出する。得られた酸価を、前述のAV1で割り、得られた値を百分率(%)にて表記することにより、ND1が得られる。
ND2については、以下のようにして算出する。
高分子分散剤Cによって顔料が分散されている顔料分散液(即ち、架橋後の顔料分散液)をテトラヒドロフラン水溶液(THF/純水=4:1の水溶液)で20体積倍に希釈した希釈液を作製し、得られた希釈液をHClで滴定することにより、中和された酸基の酸価を算出する。得られた酸価を、前述のAV2で割り、得られた値を百分率(%)にて表記することにより、ND2が得られる。
【0097】
<不等式(2)>
0.30≦(100-ND1)/(ND1-ND2)〔=値(2)〕≦5.00 … 不等式(2)
【0098】
不等式(2)の意味については前述のとおりである。
値(2)は、0.30以上であり、好ましくは0.40以上、より好ましくは0.50以上である。
値(2)は、5.00以下であり、好ましくは3.50以下、より好ましくは2.50以下である。
【0099】
〔インクジェットインクの製造方法〕
本開示のインクジェットインク(以下、単に「インク」ともいう)の製造方法は、
上述した本開示の顔料分散物の製造方法によって顔料分散物を製造する工程と、
上記顔料分散物を用いてインクを製造する工程と、
を含む。
本開示のインクの製造方法は、必要に応じ、その他の工程を含んでもよい。
【0100】
本開示のインクの製造方法では、顔料の分散安定性に優れる顔料分散物を用いてインクを製造するので、経時後の吐出安定性に優れるインクを製造できる。
【0101】
<顔料分散物を製造する工程>
顔料分散物を製造する工程については、前述した本開示の顔料分散物の製造方法を参照できる。
【0102】
<インクを製造する工程>
インクを製造する工程は、上記顔料分散物を用いてインクを製造する工程である。
インクを製造する工程は、好ましくは、少なくとも、上記顔料分散物と、水と、水溶性有機溶剤と、(必要に応じその他の成分と、)を混合してインクジェットインクを製造する。
各成分を混合する方法については特に制限はなく、攪拌を行いながら各成分を混合する方法等、一般的な方法を適用できる。混合後、必要に応じ、ろ過を行ってもよい。
【0103】
(顔料)
製造されるインクにおいて、顔料の含有量は、画像濃度及び吐出性の観点から、インクの全量に対して、1質量%~25質量%であることが好ましく、2質量%~25質量%であることがより好ましく、3質量%~20質量%であることがさらに好ましい。
【0104】
(高分子分散剤C)
製造されるインクにおいて、顔料の含有量と、高分子分散剤C(即ち、架橋構造が形成された高分子分散剤)の含有量と、の比率は、質量基準で、1:0.04~1:3が好ましく、1:0.05~1:1がより好ましく、1:0.05~1:0.5がさらに好ましい。
【0105】
製造されるインクにおいて、高分子分散剤Cの含有量は、インクの全量に対して、0.1質量%~10質量%であることが好ましく、0.3質量%~5質量%であることがより好ましく、0.5質量%~2.5質量%であることがさらに好ましい。
【0106】
(水)
製造されるインクにおいて、水の含有量は、インクの全量に対し、好ましくは10質量%以上であり、より好ましくは20質量%以上であり、さらに好ましくは30質量%以上であり、特に好ましくは50質量%以上である。
インクの全量に対する水の含有量の上限は、他の成分の含有量に応じて適宜定まるが、例えば99質量%であり、好ましくは95質量%であり、より好ましくは90質量%である。
なお、ここでいう水の含有量は、顔料分散物中に含有されている量と、インクの製造段階で追加される量と、の合計量である。
【0107】
(水溶性有機溶剤)
本開示において、「水溶性有機溶剤」における「水溶性」とは、25℃の水100gに対して1g以上溶解する性質を意味する。
【0108】
インクの製造に使用し得る水溶性有機溶剤の種類は限定されず、例えば;
炭素数1~4のモノアルコール;
1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-ブテン-1,4-ジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、1,2-オクタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,2-ペンタンジオール、4-メチル-1,2-ペンタンジオール等のジオール;
グリセリン、1,2,6-ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン等のトリオール;
エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルキレングリコール;
エチレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル;
ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール;
ジエチレングリコールモノアルキルエーテル、トリエチレングリコールモノアルキルエーテル、トリプロピレングリコールモノアルキルエーテル、ポリオキシプロピレングリセリルエーテル等のポリアルキレングリコールエーテル;
2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン;
等が挙げられる。
【0109】
インクの製造に使用し得る水溶性有機溶剤は、吐出安定性の観点から、アルキレングリコール及びアルキレングリコールモノアルキルエーテルからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0110】
製造されるインクにおいて、水溶性有機溶剤の含有量は、インクの全量に対して、10質量%~40質量%であることが好ましく、15質量%~30質量%であることがより好ましい。
なお、ここでいう水溶性有機溶剤の含有量は、顔料分散物中に含有されている量と、インクの製造段階で追加される量と、の合計量である。
【0111】
-樹脂-
インクを製造する工程は、上述した成分に加え、樹脂を少なくとも1種添加してもよい。
樹脂は、インクの造膜性(即ち、インク膜の形成性)に寄与し得る。
【0112】
樹脂の重量平均分子量(Mw)は、1,000~300,000であることが好ましく、2,000~200,000であることがより好ましく、5,000~100,000であることが更に好ましい。
【0113】
本開示において、重量平均分子量(Mw)は、特別な記載がない限り、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定された値を意味する。
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による測定は、測定装置として、HLC(登録商標)-8020GPC(東ソー(株))を用い、カラムとして、TSKgel(登録商標)Super Multipore HZ-H(4.6mmID×15cm、東ソー(株))を3本用い、溶離液として、THF(テトラヒドロフラン)を用いる。また、測定条件としては、試料濃度を0.45質量%、流速を0.35ml/min、サンプル注入量を10μl、及び測定温度を40℃とし、RI検出器を用いて行う。
検量線は、東ソー(株)の「標準試料TSK standard,polystyrene」:「F-40」、「F-20」、「F-4」、「F-1」、「A-5000」、「A-2500」、「A-1000」、及び「n-プロピルベンゼン」の8サンプルから作製する。
【0114】
樹脂としては、樹脂粒子が好ましい。
樹脂粒子を構成する樹脂は、水不溶性樹脂であることが好ましい。水不溶性樹脂における「水不溶性」とは、25℃の蒸留水100gに対する溶解量が2g未満である性質を意味する。
【0115】
樹脂粒子の体積平均粒径は、1nm~300nmであることが好ましく、3nm~200nmであることがより好ましく、5nm~150nmであることが更に好ましい。
【0116】
本開示において、体積平均粒径は、レーザー回折・散乱式粒度分布計により測定された値を意味する。
測定装置としては、例えば、粒度分布測定装置「マイクロトラックMT-3300II」(日機装(株)製)が挙げられる。
【0117】
樹脂粒子としては、アクリル樹脂粒子、エステル樹脂粒子、アクリル樹脂粒子及びエステル樹脂粒子の混合物、アクリル樹脂とエステル樹脂とを含む複合粒子、スチレンアクリル樹脂粒子、並びにポリウレタン樹脂粒子からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0118】
本開示において、アクリル樹脂とは、アクリル酸、アクリル酸の誘導体(例えば、アクリル酸エステル等)、メタクリル酸、及びメタクリル酸の誘導体(例えば、メタクリル酸エステル等)からなる群から選択される少なくとも1種を含む原料モノマーの重合体(単独重合体又は共重合体)を意味する。
【0119】
樹脂粒子のガラス転移温度(Tg)は、画像の耐擦性をより向上させる観点より、50℃~250℃であることが好ましく、50℃~150℃であることがより好ましい。
ここで、樹脂粒子のガラス転移温度(Tg)は、実測によって得られる測定Tgを適用する。測定Tgの測定方法については、特開2015-25076号公報の段落0111を参照できる。
【0120】
樹脂粒子については、例えば、国際公開第2021/192720号の段落0038~0114、特開2015-25076号公報の段落0109~0120、等を参照してもよい。
【0121】
インクが樹脂粒子を含有する場合、インクにおける樹脂粒子の含有量は、インクの全量に対して、好ましくは1質量%~20質量%、より好ましくは2質量%~15質量%、更に好ましくは2質量%~10質量%である。
【0122】
-添加剤-
インクを製造する工程は、上述した成分に加え、添加剤を少なくとも1種添加してもよい。
添加剤としては、例えば、界面活性剤、水溶性樹脂、共増感剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、褪色防止剤、導電性塩、塩基性化合物等が挙げられる。
【0123】
-物性-
製造されるインクのpH(25℃)は、吐出安定性を向上させる観点から、7~10であることが好ましく、7.5~9.5であることがより好ましい。
インクのpHは、pHメーターを用いて25℃で測定され、例えば、東亜DDK社製のpHメーター(製品名「WM-50EG」)を用いて測定される。
【0124】
製造されるインクの粘度(25℃)は、0.5mPa・s~30mPa・sであることが好ましく、2mPa・s~20mPa・sであることがより好ましく、2mPa・s~15mPa・sであることが好ましく、3mPa・s~10mPa・sであることがさらに好ましい。
インクの粘度は、粘度計を用いて25℃で測定され、例えば、東機産業社製のTV-22型粘度計を用いて測定される。
【0125】
製造されるインクの表面張力は、60mN/m以下であることが好ましく、20mN/m~50mN/mであることがより好ましく、25mN/m~40mN/mであることがさらに好ましい。
インクの表面張力は、表面張力計を用いて25℃で測定され、例えば、協和界面科学社製の自動表面張力計(製品名「CBVP-Z」)を用いて、プレート法によって測定される。
【0126】
〔画像記録方法〕
本開示の画像記録方法は、
本開示のインクの製造方法により、インクを製造する工程と、
基材上に、上記インクを、インクジェット方式にて付与するインク付与工程と、
を含む。
【0127】
本開示のインクの製造方法によって製造されたインクは、経時における吐出安定性に優れるので、本開示の画像記録方法では、滲みが抑制された画像を記録できる。
【0128】
<インクを製造する工程>
インクを製造する工程については、前述した本開示のインクの製造方法を参照できる。
【0129】
<インク付与工程>
インク付与工程は、基材上に、上記インクを、インクジェット方式にて付与する工程である。
【0130】
(基材)
基材としては、紙等の浸透性基材、樹脂基材等の非浸透性基材(詳細は後述する)、等を特に制限なく使用できる。
【0131】
本開示において、非浸透性基材における非浸透性とは、ASTM D570-98(2018)に準拠して測定された24時間での吸水率が2.5%以下である性質をいう。ここで、吸水率の単位である「%」は、質量基準である。上記吸水率は、1.0%以下であることが好ましく、0.5%以下であることがより好ましい。
【0132】
非浸透性基材の材質としては、例えば、ガラス、金属(例えば、アルミニウム、亜鉛、銅等)及び樹脂(例えば、ポリ塩化ビニル、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、硝酸セルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリビニルアセタール、ナイロン、アクリル樹脂等)が挙げられる。
【0133】
非浸透性基材の材質は、樹脂であることが好ましい。すなわち、非浸透性基材は、樹脂基材であることが好ましい。
【0134】
中でも、汎用性の点から、非浸透性基材の材質は、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、アクリル樹脂、又はポリ塩化ビニルであることが好ましい。
【0135】
非浸透性基材の形状は、シート状(フィルム状)又は板状であることが好ましい。このような形状を有する非浸透性基材としては、ガラス板、金属板、樹脂シート(樹脂フィルム)、プラスチックがラミネートされた紙、金属がラミネート又は蒸着された紙、及び、金属がラミネート又は蒸着されたプラスチックシート(プラスチックフィルム)が挙げられる。
【0136】
樹脂製の非浸透性基材としては、樹脂シート(樹脂フィルム)が挙げられ、具体的には、食品等を包装する軟包装材、及び、量販店のフロア案内用のパネルが挙げられる。
【0137】
非浸透性基材としては、シート状(フィルム状)又は板状の非浸透性基材以外にも、非浸透性を有する繊維によって形成された、テキスタイル(織物)及び不織布も挙げられる。
【0138】
非浸透性基材には、親水化処理が施されてもよい。親水化処理としては、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理、熱処理、摩耗処理、光照射処理(例えばUV処理)及び火炎処理が挙げられるが、これらに限定されるものではない。コロナ処理は、例えば、コロナマスター(製品名「PS-10S」、信光電気計社製)を用いて行うことができる。コロナ処理の条件は、非浸透性基材の種類等に応じて適宜選択すればよい。
【0139】
非浸透性基材は、透明性を有する非浸透性基材であってもよい。
ここで、透明性を有するとは、波長400nm~700nmの可視光の透過率が、80%以上(好ましくは90%以上)であることを意味する。
非浸透性基材が、透明性を有する非浸透性基材である場合には、非浸透性基材の画像非記録面側から非浸透性基材を通して画像を視認しやすい。
例えば、非浸透性基材が、透明性を有する非浸透性基材である場合には、非浸透性基材上に、後述の前処理液、非白色インク、及び白色インクをこの順に付与して画像を記録する場合に、非浸透性基材の画像非記録面側から非浸透性基材を通し、白色画像(例えばベタ画像)を背景とする非白色画像(例えば、文字、図形等のパターン画像)を視認しやすい。
【0140】
(インクジェット方式)
インクジェット方式におけるインクの吐出方式には特に制限はなく、公知の方式、例えば、静電誘引力を利用してインクを吐出させる電荷制御方式、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、電気信号を音響ビームに変えインクに照射して放射圧を利用してインクを吐出させる音響インクジェット方式、及びインクを加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット(バブルジェット(登録商標))方式のいずれであってもよい。
【0141】
インクジェット方式としては、特に、特開昭54-59936号公報に記載の方法で、熱エネルギーの作用を受けたインクが急激な体積変化を生じ、この状態変化による作用力によって、インクをノズルから吐出させるインクジェット方式を有効に利用することができる。インクジェット方式として、特開2003-306623号公報の段落番号0093~0105に記載の方法も適用できる。
【0142】
基材上へのインクジェット方式によるインクの付与は、インクジェットヘッドのノズルからインクを吐出することにより行う。
【0143】
インクジェットヘッドの方式としては、短尺のシリアルヘッドを、被記録媒体の幅方向
に走査させながら記録を行なうシャトル方式と、被記録媒体の1辺の全域に対応して記録素子が配列されているラインヘッドを用いたライン方式と、がある。
【0144】
ライン方式では、記録素子の配列方向と交差する方向に被記録媒体を走査させることで被記録媒体の全面に画像記録を行なうことができる。ライン方式では、シャトル方式における、短尺ヘッドを走査するキャリッジ等の搬送系が不要となる。また、ライン方式では、シャトル方式と比較して、キャリッジの移動と被記録媒体との複雑な走査制御が不要になり、被記録媒体だけが移動する。このため、ライン方式によれば、シャトル方式と比較して、画像記録の高速化が実現される。
但し、本開示の画像記録方法におけるインクジェットヘッドの方式は、ライン方式には限定されず、シャトル方式であってもよく、いずれの方式を適用した場合においても、前述した本開示の画像記録方法による効果が奏される。
【0145】
インクの付与は、300dpi以上(より好ましくは600dpi以上、さらに好ましくは800dpi以上)の解像度を有するインクジェットヘッドを用いて行うことが好ましい。ここで、dpiは、dot per inchの略であり、1inch(1インチ)は2.54cmである。
【0146】
インクジェットヘッドのノズルから吐出されるインクの液滴量は、高精細な画像を得る観点から、1pL(ピコリットル)~10pLが好ましく、1.5pL~6pLがより好ましい。
【0147】
インク付与工程は、基材上に付与されたインクを加熱乾燥させることを含んでいてもよいし、インクを加熱乾燥させることを含まなくてもよい。
【0148】
インクを加熱乾燥させることを含む場合、加熱乾燥の方法としては特に制限はないが、例えば、赤外線(IR)乾燥、温風乾燥(例えば、ドライヤー等)、加熱装置(例えば、ヒーター、ホットプレート、加熱炉等)による加熱乾燥等が挙げられる。
加熱乾燥の方法としては、これらのうちの2つ以上を組み合わせた方法であってもよい。
加熱乾燥は、基材の画像記録面側及び非画像記録面側の少なくとも一方からインクを加熱することによって行うことができる。
【0149】
インクを加熱乾燥させることを含む場合、インクの加熱乾燥における加熱温度は、35℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましく、50℃以上が更に好ましく、60℃以上がさらに好ましい。
加熱温度の上限値は特に制限はないが、100℃が好ましく、90℃がより好ましい。
【0150】
インクを加熱乾燥させることを含む場合、インクの加熱乾燥における加熱時間は特に制限されないが、1秒~180秒が好ましく、1秒~120秒がより好ましく、1秒~60秒がさらに好ましい。
【0151】
インク付与工程は、基材上に、2種以上のインク(例えば、2色以上のインク)を付与してもよい。
基材上に2種以上のインクを付与する場合、2種以上のインクのうちの少なくとも1種が、本開示のインクの製造方法によって製造されたインクであればよい。
基材上に2種以上のインクを付与する場合、2種以上のインクを重ねて付与してもよい。
基材上に、2種以上のインクを重ねて付与することにより、多次色画像が記録される。 本開示のインクの製造方法によって製造されたインクは、経時における吐出安定性に優れるので、記録された多次色画像では、滲み(以下、多次色滲みともいう)が抑制される。
以下、基材上に2種以上のインクを付与する場合の基材上に付与する1種目(即ち1番目)のインクを第1インク称することがあり、基材上に付与するn種目(即ちn番目)のインクを第nインクと称することがある(ここで、nは、2以上の整数である)。
【0152】
<前処理液を付与する工程>
本開示の画像記録方法の実施形態として、インク付与工程よりも前に、非浸透性基材上に、水及び凝集剤を含有する前処理液を付与する工程を更に含む実施形態が挙げられる。
この場合、インク付与工程では、非浸透性基材上の前処理液が付与された領域上にインクを付与する。
【0153】
(前処理液)
-水-
前処理液は、水を含有する。
水の含有量は、前処理液の全量に対し、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは60質量%以上である。
水の含有量の上限は、他の成分の量にもよるが、前処理液の全量に対し、好ましくは90質量%以下であり、より好ましくは80質量%以下である。
【0154】
-凝集剤-
前処理液は、凝集剤を少なくとも1種含有する。
前処理液中の凝集剤は、非浸透性基材上において、インク中の成分を凝集させる。これにより、画像の画質が向上し得る。
凝集剤は、有機酸及び多価金属化合物からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0155】
凝集剤としては、国際公開第2020/195360号の段落0122~0130に記載の凝集剤が好ましく挙げられる。
以下、凝集剤として用いられ得る、有機酸、多価金属化合物、金属錯体、及びカチオンポリマーのそれぞれの好ましい態様について説明する。
【0156】
--有機酸--
有機酸としては、酸性基を有する有機化合物が挙げられる。
【0157】
酸性基としては、リン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、硫酸基、スルホン酸基、スルフィン酸基、及びカルボキシ基が挙げられる。
【0158】
中でも、インクの凝集速度の観点から、酸性基は、リン酸基又はカルボキシ基であることが好ましく、カルボキシ基であることがより好ましい。
【0159】
酸性基は、前処理液中において、少なくとも一部が解離していることが好ましい。
【0160】
カルボキシ基を有する有機化合物としては、(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸、酢酸、蟻酸、安息香酸、グリコール酸、マロン酸、リンゴ酸(好ましくは、DL-リンゴ酸)、マレイン酸、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、アジピン酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、フタル酸、4-メチルフタル酸、乳酸、ピロリドンカルボン酸、ピロンカルボン酸、ピロールカルボン酸、フランカルボン酸、ピリジンカルボン酸、クマリン酸、チオフェンカルボン酸及びニコチン酸が挙げられる。
【0161】
中でも、インクの凝集速度の観点から、カルボキシ基を有する有機化合物は、2価以上のカルボン酸(以下、多価カルボン酸ともいう。)であることが好ましく、ジカルボン酸であることがより好ましい。
【0162】
具体的には、多価カルボン酸は、マロン酸、リンゴ酸、マレイン酸、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、アジピン酸、フマル酸、酒石酸、4-メチルフタル酸、又はクエン酸であることが好ましく、マロン酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、アジピン酸又はクエン酸であることがより好ましい。
【0163】
有機酸は、pKaが低い(例えば、1.0~5.0)ことが好ましい。これにより、カルボキシ基等の弱酸性の官能基で分散安定化しているインク中の顔料、樹脂粒子等の粒子の表面電荷を、よりpKaの低い有機酸と接触させることにより減じ、分散安定性を低下させることができる。
【0164】
有機酸は、pKaが低く、水に対する溶解度が高く、価数が2価以上であることが好ましい。また、有機酸は、インク中の粒子を分散安定化させている官能基(例えば、カルボキシ基等)のpKaよりも低いpH領域に高い緩衝能を有することがより好ましい。
【0165】
--多価金属化合物--
多価金属化合物としては、多価金属塩が挙げられる。
多価金属塩としては、有機酸多価金属塩及び無機酸多価金属塩が挙げられる。
有機酸多価金属塩としては、上述した有機酸(例えば、ギ酸、酢酸、乳酸、安息香酸等)の多価金属塩が好ましい。
無機酸多価金属塩としては、硝酸多価金属塩、塩酸多価金属塩、又はチオシアン酸多価金属塩)が好ましい。
【0166】
多価金属塩としては、例えば、周期表の第2族のアルカリ土類金属(例えば、マグネシウム、カルシウム)の塩、周期表の第3族の遷移金属(例えば、ランタン)の塩、周期表の第13族の金属(例えば、アルミニウム)の塩、及びランタニド類(例えば、ネオジム)の塩が挙げられる。
多価金属塩としては、カルシウム塩、マグネシウム塩、又はアルミニウム塩が好ましく、カルシウム塩又はマグネシウム塩がより好ましい。
【0167】
多価金属化合物としては、有機酸多価金属塩が好ましく、有機酸カルシウム塩又は有機酸マグネシウム塩がより好ましい。
【0168】
多価金属化合物は、前処理液中において、少なくとも一部が多価金属イオンと対イオンとに解離していることが好ましい。
【0169】
前処理液中における凝集剤の含有量は、前処理液の全量に対し、好ましくは0.1質量%~40質量%、より好ましくは0.1質量%~30質量%、更に好ましくは1質量%~20質量%、更に好ましくは1質量%~10質量%である。
【0170】
-樹脂-
前処理液は、樹脂を少なくとも1種含有する。
前処理液中の樹脂は、前処理液の造膜性(即ち、前処理液膜の形成性)に寄与する。
前処理液中の樹脂としては、インク中の樹脂と同様のもの(例えば、樹脂粒子)を用いることができる。
【0171】
前処理液中における樹脂の含有量には特に制限はない。
前処理液の全量に対する樹脂の含有量は、0.5質量%~30質量%であることが好ましく、1質量%~20質量%であることがより好ましく、1質量%~15質量%であることが特に好ましい。
【0172】
-水溶性有機溶剤-
前処理液は、水溶性有機溶剤を少なくとも1種含有してもよい。
前処理液中の水溶性有機溶剤としては、インクに含有され得る水溶性有機溶剤と同様のものを用いることができる。
【0173】
-添加剤-
前処理液は、必要に応じて、界面活性剤、水溶性樹脂、共増感剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、褪色防止剤、導電性塩、塩基性化合物等の添加剤を含有してもよい。
【0174】
-物性-
前処理液のpH(25℃)は、2.0~7.0であることが好ましく、2.0~4.0であることがより好ましい。前処理液のpHは、インクのpHと同様の方法によって測定する。
【0175】
前処理液の粘度は、前処理液の塗布性の観点から、0.5mPa・s~10mPa・sであることが好ましく、1mPa・s~5mPa・sであることがより好ましい。粘度は、粘度計を用い、25℃で測定される値である。前処理液の粘度は、インクの粘度と同様の方法によって測定する。
【0176】
前処理液の表面張力は、60mN/m以下であることが好ましく、20mN/m~50mN/mであることがより好ましく、30mN/m~45mN/mであることがさらに好ましい。表面張力は、25℃の温度下で測定される値である。前処理液の表面張力は、インクの表面張力と同様の方法によって測定する。
【0177】
(前処理液の付与方法)
前処理液の付与方法は特に限定されず、塗布法、浸漬法、インクジェット記録方式等の公知の方法が挙げられる。
【0178】
塗布法としては、バーコーター、エクストルージョンダイコーター、エアードクターコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、ナイフコーター、スクイズコーター、リバースロールコーター等を用いた公知の方法が挙げられる。
【0179】
前処理液の付与は、塗布法にて行うことが好ましい。
【0180】
本開示の画像記録方法は、前処理液付与工程の後に、基材上に付与された前処理液を乾燥させる工程を含んでもよい。
前処理液を付与する工程は、非浸透性基材上に付与された前処理液を乾燥させることを含んでもよい。
前処理液の乾燥の方法としては特に制限はないが、例えば、後述する、インクの乾燥の方法として例示した方法と同様の方法を適用できる。
前処理液の乾燥条件(例えば、加熱温度及び加熱時間)の好ましい範囲は、後述する、インクの乾燥条件の好ましい範囲と同様である。
【0181】
<画像記録装置の一例>
図1は、本開示の画像記録方法に用いる画像記録装置の一例を概念的に示す図である。
図1に示されるように、インクジェット記録装置の一実施形態は、ロールツーロール方式で樹脂基材を搬送する搬送機構を備えるインクジェット記録装置の一例であり、ロール状に巻き取られている長尺フィルム形状の非浸透性基材A1を、巻き出し装置R1によって巻き出し、巻き出された非浸透性基材A1を、張力が印加された状態でブロック矢印の方向に搬送させ、前処理液付与装置P1、前処理液乾燥ゾーンDP1、第1インクジェットヘッドIJ1、第1乾燥ゾーンD1、第2インクジェットヘッドIJ2、及び乾燥ゾーンD2をこの順に通過させ、最後に、張力Pが印加された状態で、巻き芯を含む巻取り装置R2によって巻き取る装置である。
【0182】
非浸透性基材A1は、張力が印加された状態で搬送され、張力Pが印加された状態で巻き取られる。搬送中の張力は、巻き取り時の張力Pと同じ張力であっても異なる張力であってもよい。また、搬送方向の位置により、張力が異なっていてもよいし、一様の張力であってもよい。
一実施形態に係る画像記録装置は、非浸透性基材に張力を調整するための張力調整手段を備えていてもよい。
張力調整手段としては、
巻き出し装置R1及び/又は巻き取り装置R2に設けられるパウダーブレーキ、
搬送経路の途中に設けられるダンサーロール、
画像記録装置の各条件の調整によって各張力を制御する制御装置(例えばテンションコン
トローラー)、
等が挙げられる。
また、一実施形態に係る画像記録装置は、非浸透性基材の張力を測定するための張力測定手段(例えばテンションメーター)を備えていてもよい。
【0183】
なお、
図1は、概念図であるため、非浸透性基材A1の搬送経路を簡略化し、非浸透性基材A1が一方向に搬送されるかのように図示しているが、実際には、非浸透性基材A1の搬送経路は蛇行する場合があることは言うまでもない。
非浸透性基材A1の搬送方式としては、胴、ロール等の各種ウェブ搬送方式を適宜選択することができる。
【0184】
非浸透性基材A1を巻き出すための巻き出し装置R1に対し、非浸透性基材A1の搬送方向下流側には、非浸透性基材A1の搬送方向上流側から順に、前処理液付与装置P1、前処理液乾燥ゾーンDP1、第1インクジェットヘッドIJ1、第1乾燥ゾーンD1、第2インクジェットヘッドIJ2、及び乾燥ゾーンD2が、この順に配置されている。
前処理液付与装置P1、第1インクジェットヘッドIJ1、及び第2インクジェットヘッドIJ2により、それぞれ、前処理液の付与、第1インクの付与、及び第2インクの付与が行われる。
この際、前処理液乾燥ゾーンDP1での前処理液の加熱乾燥、第1乾燥ゾーンD1での第1インクの加熱乾燥、及び第2乾燥ゾーンD2での第2インクの加熱乾燥のうちの少なくとも1つを行うことができる。
第1乾燥ゾーンD1では、第1インクの加熱乾燥に加え、実質的に前処理液の加熱乾燥が行われてもよい。
第2乾燥ゾーンD2では、第2インクの加熱乾燥に加え、実質的に、前処理液の加熱乾燥及び/又は第1インクの加熱乾燥が行われてもよい。
また、これらの各乾燥ゾーンの温度を室温とした状態で樹脂基板が各乾燥ゾーンを通過するようにすれば、加熱乾燥を省略することもできる。
【0185】
前処理液付与装置P1に対して上流側には、非浸透性基材A1のオモテ面及び裏面の少なくとも一方に表面処理(好ましくはコロナ処理)を施すための表面処理部(不図示)が設けられていてもよい。
また、第2乾燥ゾーンD2の下流側には、記録された多次色画像を冷却する冷却ゾーンが設けられていてもよい。
【0186】
第1インクジェットヘッドIJ1及び第2インクジェットヘッドIJ2は、シャトルヘッドでも構わないが、画像記録の高速化の観点から、長尺フィルム形状の非浸透性基材A1の幅方向にわたって多数の吐出口(ノズル)が配列されたラインヘッドが好ましい。
第1インクジェットヘッドIJ1及び第2インクジェットヘッドIJ2は、それぞれ、1つのみであってもよいし複数であってもよい。
第1インクジェットヘッドIJ1及び第2インクジェットヘッドIJ2の組み合わせの例として、例えば、第1インクジェットヘッドIJ1が、シアン、マゼンタ、イエロー、及びブラックの4色に対応した4つのインクジェットヘッド(注;これら4つのインクジェットヘッドは、樹脂基材の搬送方向に配列されている)であり、かつ、第2インクジェットヘッドIJ2が白色(即ち、白色)に対応した1つのインクジェットヘッドである組み合わせが挙げられる。
また、第1インクジェットヘッドIJ1及び第2インクジェットヘッドIJ2の組み合わせの別の例として、第1インクジェットヘッドIJ1が、白色に対応した1つのインクジェットヘッドであり、第2インクジェットヘッドIJ2が、シアン、マゼンタ、イエロー、及びブラックの4色に対応した4つのインクジェットヘッド(注;これら4つのインクジェットヘッドは、基材の搬送方向に配列されている)である組み合わせも挙げられる。
【0187】
一実施形態に係る画像記録装置を用いたインクジェット記録では、
まず、ロール状に巻き取られている長尺フィルム形状の非浸透性基材A1を、巻き出し装置R1によって巻き出し、
巻き出された非浸透性基材A1を、張力が印加された状態でブロック矢印の方向に搬送し、
搬送される非浸透性基材A1上に、前処理液付与装置P1によって前処理液の付与を行い、
次いで必要に応じて前処理液乾燥ゾーンDP1にて前処理液を乾燥させ、
次いで第1インクジェットヘッドIJ1によって第1インク(即ち、非白色インク及び白色インクのいずれか一方)の付与を行い、
次いで必要に応じて第1乾燥ゾーンD1にて第1インクを乾燥させ、
次いで第2インクジェットヘッドIJ2によって第2インク(即ち、非白色インク及び白色インクの他方)の付与を行い、
次いで必要に応じて第2乾燥ゾーンD2にて第2インクを乾燥させる。
これにより、第1インク由来の第1画像(即ち、非白色画像及び白色画像のいずれか一方)と、第2インク由来の第2画像(即ち、非白色画像及び白色画像の他方)と、を含む多次色画像が得られる。
次いで必要に応じ、得られた多次色画像の冷却が行われ、最後に、巻き芯を含む巻き取り装置R2により、張力Pが印加された状態の多次色画像付きの非浸透性基材A1が巻き取られる。
【0188】
一実施形態に係る画像記録装置は、必要に応じ、第2インクジェットヘッドIJ2の下流側であって第2乾燥ゾーンD2よりも上流側に、その他のインクジェットヘッド(例えば、第3インク用の第3インクジェットヘッド、第4インク用の第4インクジェットヘッド、及び、白色インク用のインクジェットヘッド等)を含んでいてもよい。
【実施例0189】
以下、本開示を実施例によりさらに具体的に説明するが、本開示はその主旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0190】
〔実施例1~7、比較例1~5〕
<準備工程(高分子分散剤Nの合成)>
実施例1~6及び比較例1~3の高分子分散剤Nは、以下のようにして合成した。
ガス導入管、温度計、コンデンサー、及び攪拌機を備えた反応容器に、反応溶媒としてのトリプロピレングリコールモノメチルエーテル(製品名「MFTG」、日本乳化剤株式会社製)153.5質量部を仕込み、次いで反応容器内を窒素ガスで置換した。
次に、反応容器内を85℃に加熱し、ここに、反応溶媒としてのMFTG(76.8質量部)、表1に示す種類及び質量比の原料モノマー(合計で100質量部)、及び、重合開始剤としてのV-601(富士フイルム和光純薬株式会社製)(3.0質量部)の混合物を、3時間かけて滴下して重合反応を行い、滴下終了後、更に85℃で3時間反応させることにより重合を完結させ、高分子分散剤Nを含む溶液を得た。
得られた高分子分散剤Nの重量平均分子量を表1に示す。
【0191】
実施例7の高分子分散剤Nは、以下のようにして合成した。
[第一反応]
ガス導入管、温度計、コンデンサー、滴下ロート、および撹拌機を備えた反応容器に、モノマー混合物として、無水マレイン酸を61質量部、α-オレフィンとしての1-ヘキサデセンを87質量部、アリル化ポリエーテル1としての下記「ユニルーブPKA-5013」を63質量部、さらにメチルエチルケトン(MEK)を100質量部、連鎖移動剤としてチオグリコール酸オクチルを0.5質量部仕込み、窒素置換した後、撹拌しながら105℃に加熱した。そこへ、ラジカル重合開始剤としてのアソビスイソ酪酸ジメチル(富士フイルム和光純薬社製、商品名:V-601)2.0質量部と、MEK5質量部と、の混合物を、1時間かけて滴下した。その後、温度85℃で攪拌しながら、V-601(5質量部)とMEK(12質量部)との混合物を6時間かけて滴下し、温度85℃に保ったまま1時間反応させ、酸無水物基として無水マレイン酸を有する重合体を得た。
[第二反応]
続いて、イソプロピルアルコールを37質量部、触媒としてジアザビシクロウンデセンを0.1質量部添加し、温度を85℃に保ったまま6時間撹拌して反応させ、無水マレイン酸を開環し、ハーフエステル化した。得られた生成物の溶剤を減圧留去し、MFTGで分散剤固形分濃度が35質量%となるように調整し、高分子分散剤Nを含む溶液を得た。
得られた高分子分散剤Nの重量平均分子量を表1に示す。
【0192】
表1に示す原料モノマーの詳細は以下のとおりである。
・MAA … メタクリル酸
・C18MA … ステアリルメタクリレート
・IBOMA … イソボルニルメタクリレート
・PDEGA … フェノキシジエチレングリコールアクリレート
・MMA … メチルメタクリレート
・アリル化ポリエーテル1 … 日油社製「ユニルーブ(登録商標)KPA-5013」(ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール-アリルエーテル ランダム重合体)
・α-オレフィン … 1-ヘキサデセン(東京化成工業株式会社製)
【0193】
<中和工程>
上記で得られた高分子分散剤Nを含む溶液を、室温まで冷却した後、ここに、中和塩基の水溶液としてのNaOH水溶液を添加して、高分子分散剤N中のカルボキシ基の80mol%を中和した。これにより、中和度ND1が80%である高分子分散剤A(即ち、高分子分散剤Nを中和して得られた高分子分散剤)を含む溶液を得た。
得られた溶液における固形分濃度を30質量%に調整し、高分子分散剤AのMFTG溶液(30質量%固形分濃度)を得た。
なお、NaOH水溶液は、表1の各実施例の中和度ND1に応じて添加した。
【0194】
高分子分散剤Aの酸価AV1(mgKOH/g)は表1に示すとおりである。
なお、酸価は、中和されていない酸基(-COOH基)と中和された酸基(-COO-基)との合計量に関係するので、中和工程によって酸価は変わらない。従って、高分子分散剤Aの酸価AV1(mgKOH/g)は、高分子分散剤Nの酸価(mgKOH/g)と同じである。
【0195】
<分散工程>
下記の組成の混合物を均一になるように予備分散した後、ビーズミル(アシザワファインテックス社製スターミル、ビーズ径:0.3mmφ、ジルコニアビーズ)を用いて、3時間分散処理を行った。これにより、高分子分散剤Aによってマゼンタ顔料が分散されている、未架橋分散物Aを得た。
【0196】
-組成-
・ピグメントレッド122(以下、「PR-122」ともいう)(キナクリドン顔料であるマゼンタ顔料)
… 120.質量部
・高分子分散剤AのMFTG溶液(30質量%固形分濃度)
… 120.0質量部
・MFTG
… 6.0質量部
・水
… 230.0質量部
【0197】
<酸添加工程>
未架橋分散物Aを、顔料濃度が15質量%となるようにイオン交換水で希釈し、未架橋分散物A希釈液を得た。
得られた未架橋分散物A希釈液(500質量部)を攪拌しながら、ここに、1mol/L塩酸水溶液(19.4質量部)と超純水(225.2質量部)との混合物を、5分間かけて添加することにより、未架橋分散物A希釈液中の高分子分散剤Aの中和度を80%から60%に低下させ、次いで、60分間マグネチックスターラーで攪拌した。これにより、中和度ND2が60%である高分子分散剤B(即ち、高分子分散剤Aの中和度を60%に低下させて得られた高分子分散剤)によってマゼンタ顔料が分散されている未架橋分散物Bを得た。
【0198】
<架橋工程>
次に、下記の組成の混合物を、70℃で6時間反応させて、25℃に冷却することで、未架橋分散物Bにおける高分子分散剤Bを架橋剤によって架橋し、高分子分散剤C(即ち、高分子分散剤Bを架橋させて得られた高分子分散剤)とマゼンタ顔料とを含む架橋分散物(即ち、顔料分散物)を得た。
-組成-
・未架橋分散物B
… 744.6質量部
・「Denacol EX-321」(ナガセケムテックス社製)(トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル;架橋剤)
… 5.4質量部
【0199】
高分子分散剤Cの酸価AV2(mgKOH/g)は表1に示すとおりである。
架橋工程では、高分子分散剤中の中和されていない酸基(-COOH基)及び中和された酸基(-COO-基)の少なくとも一方と、架橋剤の持つエポキシ基(詳細にはグリシジル基の構造中のエポキシ基)と、の反応により、高分子化合物に架橋構造が形成される。
このようにして、架橋工程では、中和されていない酸基及び中和された酸基の少なくとも一方が、架橋の形成のために消費されるので、高分子分散剤の酸価は、架橋工程によって低下する。
従って、高分子分散剤Cの酸価AV2(mgKOH/g)は、原理的に、高分子分散剤Aの酸価AV1(mgKOH/g)よりも低い値となる。
【0200】
<顔料分散物の遠心処理及びろ過>
上記で得られた架橋分散物(即ち、顔料分散物)を、遠心分離機で7000G、20分間遠心処理し、粗大粒子を除去した。
次に、遠心処理を施した架橋分散物を、ロキ社製LABO-PUREフィルター(0.5μm)でろ過し、粗大粒子を更に除去した。
次に、ろ過後の架橋分散物を、ポリエーテルスルホン(PESU)膜(微細孔のサイズ:0.1μm)を備えた限外ろ過装置(クロスフロー型ウルトラフィルター(UF)、ザルトリウス社製)に、1分間に600mLの流量で流して、限外ろ過を行った。このとき、液温が25℃となるように調整し、仕込んだ液の体積倍率の1倍を1回として10回限外ろ過を行った。
その後、マゼンタ顔料の濃度が15質量%となるようにイオン交換水を添加し、以下のインクの調製に用いる顔料分散物1(マゼンタ顔料濃度15質量%)を得た。
【0201】
<第1インクの調製>
下記組成の混合物を、60分間マグネチックスターラーで攪拌し、ロキ社製LABO-PUREフィルター(0.5μm)でろ過し、第1インクとして、マゼンタインクを得た。
【0202】
-第1インクの組成-
・顔料分散物1
… マゼンタ顔料の含有量として5.5質量%
・プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGmME)〔水溶性有機溶剤〕
…3質量%
・プロピレングリコール(PG)〔水溶性有機溶剤〕
…20質量%
・Neocryl A-1105(アクリル樹脂粒子分散液)(DSM社製)
… 樹脂粒子の含有量として3.4質量%
・オルフィンE1010(日信化学工業社製のアセチレングリコール系界面活性剤)
… 1.0質量%
・BYK3450(BYK社製のシリコン系界面活性剤)
… 1.0質量%
・PVPK15(ポリビニルピロリドンK15)
… 0.15質量%
・ST-XS(コロイダルシリカ分散液)(日産化学株式会社製)
… コロイダルシリカ粒子の含有量として0.05質量%
・水
… インク全体で100質量%となる残量
【0203】
<第2インクの調製>
顔料の種類をシアン顔料(ピグメントブルー15:3)に変更したこと以外は第1インクの調製と同様にして、第2インクを調製した。
【0204】
<前処理液の調製>
以下に示す成分を混合し、下記組成の前処理液を調製した。
【0205】
-前処理液の組成-
・酢酸カルシウム〔凝集剤〕
…0.2質量%
・ギ酸カルシウム〔凝集剤〕
…1.7質量%
・乳酸カルシウム〔凝集剤〕
…2.2質量%
・プロピレングリコール〔溶剤〕
…2.0質量%
・オルフィンE1010(日信化学社製)〔界面活性剤〕
…0.5質量%
・スーパーフレックス500M(第1工業製薬)〔ウレタン樹脂粒子の水分散物〕
…9.3質量%
・超純水
…前処理液全体で100質量%となる残量
【0206】
<画像記録装置の準備>
評価に用いる画像記録装置として、
図1に示す画像記録装置を準備した。
前処理液付与装置P1としては、グラビアコーターを用いた。
前処理液乾燥ゾーンDP1における乾燥方法は、温風乾燥とした。
第1インクジェットヘッドIJ1として、第1インクを吐出するためのインクジェットヘッドを配置し、第2インクジェットヘッドIJ2として、第2インクを吐出するためのインクジェットヘッドを配置した。
第1乾燥ゾーンD1は素通りさせた。
第2乾燥ゾーンD2における乾燥方法は、温風乾燥とした。
第2乾燥ゾーンD2と巻き取り装置R2との間には、空冷ゾーン(不図示)を設けた。
第1インクジェットヘッドIJ1及び第2インクジェットヘッドIJ2としては、いずれも、1200dpi(dot per inch、1inchは2.54cm)/20inch幅ピエゾフルラインヘッド(全ノズル数2048)を用いた。
第1インクジェットヘッドIJ1及び第2インクジェットヘッドIJ2の駆動周波数は、いずれも30kHzとした。
【0207】
<画像記録>
上記画像記録装置を用いて、画像記録を行った。
画像記録装置に、上記前処理液、第1インク、及び第2インクを搭載した。
非浸透性基材として、OPPフィルム(製品名「パイレンフィルム-OT」、東洋紡社製、厚さ25μm)を用いた。
まず、非浸透性基材を、巻き出し装置R1によって巻き出し、巻き出された非浸透性基材を、張力が印加された状態で搬送した。搬送されている非浸透性基材に、前処理液付与装置P1としてのグラビアコーターによって前処理液の付与を行った。
次いで前処理液乾燥ゾーンDP1にて前処理液を乾燥させた。
次いで、非浸透性基材の前処理液が付与された領域上に、第1インクジェットヘッドIJ1によって第1インクをベタ画像状に付与し、次いで第1乾燥ゾーンD1を素通りさせた。
次いで、非浸透性基材の前処理液及び第1インクが付与された領域上に、第2インクジェットヘッドIJ2によって第2インクをベタ画像状に付与した。
次いで第2乾燥ゾーンD2にて、第2インクを乾燥させた。
以上の操作により、長さ100mの非浸透性基材上に、第1インク由来のベタ画像上に第2インク由来のベタ画像が重なった構造を有する多次色画像(ベタ画像)を記録し、画像記録物を得た。
次に、得られた画像記録物を空冷した後、巻き芯を含む巻き取り装置R2によって巻き取り、画像記録物のロールを得た。
前処理液の付与量は、1.7g/m2とした。
前処理液の乾燥条件は、40℃、3秒とした。
第2インクの乾燥条件は、70℃、20秒とした。
【0208】
<評価>
上記で得られた第1インク及び第2インクについて、以下の評価を行った。
結果を表1に示す。
【0209】
(経時後のインクの吐出安定性)
第1インク及び第2インクとして、それぞれ、インク調製後、80℃で1日加熱したインクを用い、上記画像記録により、画像記録物のロールを得た。
得られた画像記録物のロールを巻きほぐし、100m地点での画像1ヘッド分を目視で観察し、画像記録物のベタ画像において、非浸透性基材の搬送方向に沿って発生したスジの数を確認した。
確認した結果に基づき、下記評価基準により、経時後のインクの吐出安定性を評価した。
以下の評価基準において、経時後のインクの吐出安定性に最も優れるランクはAである。
【0210】
--経時後のインクの吐出安定性の評価基準--
A:スジが、0本以上10本未満である。
B:スジが、10本以上20本未満である。
C:スジが、20本以上30本未満である。
D:スジが、30本以上である。
【0211】
-多次色滲みの評価-
第2インクを文字画像状に吐出したこと以外は上記画像記録と同様の条件にて、第1インクによるベタ画像上に第2インクによる文字画像が記録された構造の多次色画像を記録した。第2インクによる文字画像は、
図2に示す文字画像とした。この文字画像を、6pt、8pt、10pt、及び12ptのサイズにて記録した。
得られた多次色画像中の文字画像を目視で観察し、下記評価基準により、画像の滲みを評価した。
【0212】
--多次色滲みの評価基準--
A:6pt、8pt、10pt、及び12ptの全サイズにおいて、文字画像の潰れが無い。
B:8pt、10pt、及び12ptのサイズにおいて文字画像の潰れが無いが、6ptサイズにおいて潰れが見られた。
C:10pt及び12ptのサイズにおいて文字画像の潰れが無いが、6pt及び8ptのサイズにおいて潰れが見られた。
D:12ptのサイズにおいて文字画像の潰れが無いが、6pt、8pt、及び10ptのサイズにおいて潰れが見られた。または、6pt、8pt、10pt、及び12ptの全サイズにおいて、文字画像の潰れ見られた
【0213】
【0214】
表1に示すように、本開示の顔料分散物の製造方法、インクの製造方法、及び画像記録方法に該当する各実施例では、各比較例と比較して、インクの経時後の吐出安定性に優れ、かつ、多次色画像において滲み(即ち、多次色滲み)が抑制されていた。
ここで、各実施例は、中和度ND1が100%未満であり、かつ、酸価がAV1である高分子分散剤Aを用いて顔料を分散させ、次いで、酸の添加により未架橋分散物中の高分子分散剤Aの中和度を低下させ、中和度ND2である高分子分散剤Bを得、次いで、未架橋分散物における高分子分散剤Bを架橋させて酸価がAV2である高分子分散剤Cを得ることにより、顔料分散物を製造した例であり、以下の不等式(1)及び(2)を満足する。
0.60≦値(1)≦2.00 … 不等式(1)
0.30≦値(2)≦5.00 … 不等式(2)
高分子分散剤Aは、高分子分散剤Nに含まれる酸基の一部を中和させて得られた高分子分散剤である。
高分子分散剤Nは、炭素数10以上のアルキル基を含む(メタ)アクリル酸アルキルエステル及び炭素数10以上のアルキル基を含むα-オレフィンからなる群から選択される少なくとも1種に由来する構造単位Lと、酸基を含む構造単位Aと、を含み、構造単位Lの占める割合が20質量%以上である高分子分散剤である。
【0215】
これに対し、比較例1は、不等式(1)における「0.60≦値(1)」を満足しない例である。
比較例2及び3の各々は、値(2)が0の例、即ち、高分子分散剤Nに含まれる酸基の全部を中和させて中和度ND1を100%とした得た例である。
このうち、比較例3では、中和度を下げるための酸の添加を行わなかった例である(中和度ND1=中和度ND2=100%)。
比較例2では、不等式(2)における「0.30≦値(2)」を満足しない。
比較例3では、不等式(1)における「0.60≦値(1)」を満足しない。不等式(2)については、値(2)が「0/0」となるため、不等式(2)を満足するともしないともいえない。
比較例4は、不等式(1)における「値(1)≦2.00」を満足しない例である。
比較例5は、高分子分散剤Nに占める構成単位Lが20質量%未満である例である。