(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025148218
(43)【公開日】2025-10-07
(54)【発明の名称】計測装置及び方法
(51)【国際特許分類】
G01S 7/481 20060101AFI20250930BHJP
G01C 3/06 20060101ALI20250930BHJP
G01C 15/00 20060101ALI20250930BHJP
G01B 11/24 20060101ALI20250930BHJP
G01S 17/42 20060101ALI20250930BHJP
【FI】
G01S7/481 A
G01C3/06 120Q
G01C15/00 104A
G01B11/24 B
G01S17/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024176160
(22)【出願日】2024-10-07
(31)【優先権主張番号】P 2024048459
(32)【優先日】2024-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140992
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲政
(74)【代理人】
【識別番号】100170069
【弁理士】
【氏名又は名称】大原 一樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128635
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100153822
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 重之
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲三
(72)【発明者】
【氏名】西浦 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】石塚 悠也
【テーマコード(参考)】
2F065
2F112
5J084
【Fターム(参考)】
2F065AA53
2F065BB05
2F065CC40
2F065DD03
2F065FF11
2F065GG04
2F065HH04
2F065LL04
2F065MM16
2F065UU06
2F065UU07
2F112AD01
2F112BA06
2F112CA08
2F112CA12
2F112DA04
2F112DA15
5J084AA05
5J084AA13
5J084AB16
5J084AC02
5J084AD01
5J084BA03
5J084BA31
5J084BA50
5J084BA51
5J084BB14
5J084BB26
5J084BB28
5J084CA04
5J084CA08
5J084EA04
(57)【要約】
【課題】対象物を遠隔で高精度かつ高速に計測できる計測装置及び方法を提供する。
【解決手段】対象物上に光を走査させて、対象物までの距離又は形状を計測する計測装置であって、光の焦点調節を行う焦点調節部と、プロセッサと、を備える。プロセッサは、副走査方向への走査において、焦点調節部を制御して、対象物上に光の焦点を合わせる。記載の計測装置。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物上に光を走査させて、前記対象物までの距離又は形状を計測する計測装置であって、
前記光の焦点調節を行う焦点調節部と、
プロセッサと、
を備え、
前記プロセッサは、副走査方向への走査において、前記焦点調節部を制御して、前記対象物上に前記光の焦点を合わせる、
計測装置。
【請求項2】
前記プロセッサは、主走査方向の走査線上に設定された特定位置で前記対象物上に前記光の焦点を合わせる、
請求項1に記載の計測装置。
【請求項3】
前記特定位置が、前記主走査方向への走査の中間地点に設定される、
請求項2に記載の計測装置。
【請求項4】
前記プロセッサは、前記主走査方向への走査において、焦点を固定して前記光の走査させる、
請求項3に記載の計測装置。
【請求項5】
計測位置を変位させる移動体を更に備え、
前記副走査方向と交差する方向に沿って前記移動体が移動する、
請求項1から4のいずれか1項に記載の計測装置。
【請求項6】
前記光の走査は、前記副走査方向の走査速度よりも主走査方向への走査速度の方が速い、
請求項1から4のいずれか1項に記載の計測装置。
【請求項7】
計測中の前記移動体の移動速度よりも前記副走査方向への走査速度の方が速い、
請求項5に記載の計測装置。
【請求項8】
前記プロセッサは、
前記対象物の設計データを取得し、
前記設計データに基づいて、前記焦点調節部を制御する、
請求項1から4のいずれか1項に記載の計測装置。
【請求項9】
前記プロセッサは、
前記設計データに基づいて、前記光の焦点を合わせる対象基準面を設定し、
前記対象基準面に前記光の焦点が合うように、前記焦点調節部を制御する、
請求項8に記載の計測装置。
【請求項10】
前記プロセッサは、先に行われた主走査での計測結果に基づいて、前記焦点調節部を制御する、
請求項1から4のいずれか1項に記載の計測装置。
【請求項11】
前記プロセッサは、
前記計測結果に基づいて、前記光の焦点を合わせる対象基準面を設定し、
前記対象基準面に前記光の焦点が合うように、前記焦点調節部を制御する、
請求項10に記載の計測装置。
【請求項12】
測距部を更に備え、
前記プロセッサは、前記測距部の測距結果に基づいて、前記焦点調節部を制御する、
請求項1から4のいずれか1項に記載の計測装置。
【請求項13】
前記プロセッサは、
前記測距結果に基づいて、前記光の焦点を合わせる対象基準面を設定し、
前記対象基準面に前記光の焦点が合うように、前記焦点調節部を制御する、
請求項12に記載の計測装置。
【請求項14】
前記光の出射部が前記副走査方向と交差する軸周りに回転して、前記副走査方向の走査を行う、
請求項1から4のいずれか1項に記載の計測装置。
【請求項15】
光源からの前記光をポリゴンミラー、ガルバノミラー又はMEMSミラーで主走査方向に走査させ、
前記副走査方向と交差する軸周りに前記ポリゴンミラー、前記ガルバノミラー又は前記MEMSミラーを回転させて、前記副走査方向の走査を行う、
請求項1から4のいずれか1項に記載の計測装置。
【請求項16】
周波数を周期的に変調させた前記光を走査させる、
請求項1から4のいずれか1項に記載の計測装置。
【請求項17】
前記対象物は、トンネル構造物であり、
前記副走査方向が、前記トンネル構造物の周方向である、
請求項1から4のいずれか1項に記載の計測装置。
【請求項18】
前記プロセッサは、
計測位置の情報を取得し、
計測位置ごとの計測結果の情報に基づいて、前記対象物の3次元形状データを生成する、
請求項5に記載の計測装置。
【請求項19】
あらかじめ設定された経路に沿って移動して計測する場合において、
前記移動体の移動量及び前記経路からのズレ量を計測して、前記計測位置の情報を取得する、
請求項18に記載の計測装置。
【請求項20】
SLAMによる自己位置推定を利用して、前記計測位置の情報を取得する、
請求項18に記載の計測装置。
【請求項21】
対象物上に光を走査させて、前記対象物までの距離又は形状を計測する計測方法であって、
副走査方向への走査において、前記対象物上に前記光の焦点を合わせて計測する、
計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計測装置及び方法に係り、特に、対象物上に光を走査させて、対象物までの距離又は形状を計測する計測装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
対象物上に光を走査(スキャン)させて、対象物までの距離、形状等を計測する技術が知られている。特に、対象物に対してレーザー光を走査しながら照射し、その反射光に基づいて、対象物までの距離、形状等を計測する技術として、ライダー(LiDAR:Light Detection And Ranging又はLaser Imaging Detection and Ranging)が知られている(たとえば、特許文献1等)。
【0003】
特許文献2には、光で物体の表面を走査して、物体の形状を測定する形状測定装置において、測定点ごとに焦点調節しながら走査することが記載されている。特許文献2に記載の形状測定装置では、直前の測定点での測定結果を利用して、次に測定する測定点での焦点調節が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-1787号公報
【特許文献2】特開2016-95261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、ライダーの技術は、大きく発展しており、たとえば、車載用では、約200mまでの距離を瞬時に計測できる性能を実現している。しかしながら、精度の点で課題を有していた。
【0006】
一方、特許文献2に記載の技術では、測定点ごとに焦点調節が行われるため、測定に時間がかかるという欠点がある。
【0007】
本開示の技術に係る1つの実施形態は、対象物を遠隔で高精度かつ高速に計測できる計測装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)対象物上に光を走査させて、対象物までの距離又は形状を計測する計測装置であって、光の焦点調節を行う焦点調節部と、プロセッサと、を備え、プロセッサは、副走査方向への走査において、焦点調節部を制御して、対象物上に光の焦点を合わせる、計測装置。
(2)プロセッサは、主走査方向への走査線上に設定された特定位置で対象物上に光の焦点を合わせる、(1)に記載の計測装置。
(3)特定位置が、主走査方向への走査の中間地点に設定される、(2)に記載の計測装置。
(4)プロセッサは、主走査方向への走査において、焦点を固定して光の走査させる、(1)から(3)のいずれか1つに記載の計測装置。
【0009】
(5)計測位置を変位させる移動体を更に備え、副走査方向と交差する方向に沿って移動体が移動する、(1)から(4)のいずれか1つに記載の計測装置。
【0010】
(6)光の走査は、副走査方向の走査速度よりも主走査方向への走査速度の方が速い、(1)から(5)のいずれか1つに記載の計測装置。
【0011】
(7)計測中の移動体の移動速度よりも副走査方向への走査速度の方が速い、(5)に記載の計測装置。
【0012】
(8)プロセッサは、対象物の設計データを取得し、設計データに基づいて、焦点調節部を制御する、(1)から(7)のいずれか1つに記載の計測装置。
【0013】
(9)プロセッサは、設計データに基づいて、光の焦点を合わせる対象基準面を設定し、対象基準面に光の焦点が合うように、焦点調節部を制御する、(8)に記載の計測装置。
【0014】
(10)プロセッサは、先に行われた主走査での計測結果に基づいて、焦点調節部を制御する、(1)から(7)のいずれか1つに記載の計測装置。
【0015】
(11)プロセッサは、計測結果に基づいて、光の焦点を合わせる対象基準面を設定し、対象基準面に光の焦点が合うように、焦点調節部を制御する、(10)に記載の計測装置。
【0016】
(12)測距部を更に備え、プロセッサは、測距部の測距結果に基づいて、焦点調節部を制御する、(1)から(7)のいずれか1つに記載の計測装置。
【0017】
(13)プロセッサは、測距結果に基づいて、光の焦点を合わせる対象基準面を設定し、対象基準面に光の焦点が合うように、焦点調節部を制御する、(12)に記載の計測装置。
【0018】
(14)光の出射部が副走査方向と交差する軸周りに回転して、副走査方向の走査を行う、(1)から(13)のいずれか1つに記載の計測装置。
【0019】
(15)光源からの光をポリゴンミラー、ガルバノミラー又はMEMSミラーで主走査方向に走査させ、副走査方向と交差する軸周りにポリゴンミラー、ガルバノミラー又はMEMSミラーを回転させて、副走査方向の走査を行う、(1)から(14)のいずれか1つに記載の計測装置。
【0020】
(16)周波数を周期的に変調させた光を走査させる、(1)から(15)のいずれか1つに記載の計測装置。
【0021】
(17)対象物は、トンネル構造物であり、副走査方向が、トンネル構造物の周方向である、 (1)から(16)のいずれか1つに記載の計測装置。
【0022】
(18)プロセッサは、計測位置の情報を取得し、計測位置ごとの計測結果の情報に基づいて、対象物の3次元形状データを生成する、(5)に記載の計測装置。
【0023】
(19)あらかじめ設定された経路に沿って移動して計測する場合において、移動体の移動量及び経路からのズレ量を計測して、計測位置の情報を取得する、(18)に記載の計測装置。
【0024】
(20)SLAMによる自己位置推定を利用して、計測位置の情報を取得する、(18)に記載の計測装置。
【0025】
(21)対象物上に光を走査させて、対象物までの距離又は形状を計測する計測方法であって、副走査方向への走査において、対象物上に光の焦点を合わせて計測する、計測方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、対象物を遠隔で高精度かつ高速に計測できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図3】FMCWライダーで構成される計測ユニットの構成の一例を示す図
【
図6】制御ユニットのハードウェア構成の一例を示す図
【
図7】計測の制御に関して制御ユニットが有する主な機能のブロック図
【
図13】副走査時における壁面までの距離の変化の他の一例を示す図
【
図15】対象基準面を用いた焦点合わせの手法の概念図
【
図16】副走査方向における焦点合わせの他の一例を示す図
【
図17】副走査方向における焦点合わせの他の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、添付図面に従って本発明の好ましい実施形態について詳説する。
【0029】
ここでは、コンクリート構造物の形状をライダーにより3次元計測する装置(3次元計測装置)に本発明を適用する場合を例に説明する。特に、浮きに基づく劣化診断を行うことを目的として、コンクリート構造物の形状を3次元計測する装置に本発明を適用する場合を例に説明する。
【0030】
ここで、コンクリートの浮きとは、コンクリートの表面付近が浮いた状態のことをいう。コンクリートの浮きは、コンクリートの内部でひび割れが連続するなどして、表面付近のコンクリートが、内部のコンクリートと一体性を失いつつある状態を意味する。
【0031】
浮きの検出は、次の手順で行われる。まず、対象物を3次元計測した結果から高さ画像を生成する。高さ画像は、3次元計測の結果と基準面との差分で高さを算出して生成する。基準面には、過去の計測結果、対象物の設計データ(設計図面等)、3次元計測の結果から推定した曲面などが採用される。生成した高さ画像を解析して、浮き領域を抽出する。具体的には、高さ画像を二値化し、二値化した画像から輪郭を抽出して、浮き領域を抽出する。抽出した浮き領域について、その面積、高さ(平均値、最大値等)、体積等を算出する。
【0032】
浮きを検出するには、サブミリオーダー(約0.5mm~0.5m)の精度で対象物を計測することが要求される。ライダーにより対象物の形状を遠隔で高精度に計測するには、計測の対象面でレーザー光を集光し、局所的にパワーを上げて、散乱光を増やす必要がある。
【0033】
その一方でコンクリート構造物のように広大な範囲を計測する場合、対象を高速に計測できることが要求される。
【0034】
本実施の形態では、計測の対象面までの距離(離隔距離)が大きく変動する場合であっても、高精度かつ高速に計測できる3次元計測装置を提供する。
【0035】
[第1の実施の形態]
[3次元計測装置の構成]
図1は、3次元計測装置の構成の一例を示す図である。
【0036】
図1は、台車10の上に3次元計測装置100を設置し、台車10上からトンネル構造物1の壁面(表面)2を計測する場合の例を示している。台車10は、人が手で押して、レール11の上を移動する。本実施の形態において、トンネル構造物1は、コンクリート構造物の一例である。また、トンネル構造物1は、計測の対象物の一例であり、その壁面2は、計測の対象面の一例である。また、3次元計測装置100は、計測装置の一例である。
【0037】
図2は、3次元計測装置の構成の一例を示す図である。
【0038】
図2に示すように、3次元計測装置100は、計測ユニット110、光源ユニット120、電源ユニット130、及び、制御ユニット140等を含む。
【0039】
[計測ユニット]
計測ユニット110は、対象物上に光を走査(スキャン)させて、対象物までの距離を計測する。本実施の形態では、計測ユニット110が、FMCW(Frequency Modulated Continuous Waves:周波数連続変調)方式のライダー(FMCWライダー)で構成される。FMCWライダーは、レーザー光の周波数を変調させながら連続して対象物に照射し、対象物で反射して戻ってきた受信波の周波数から、対象物との距離を算出する。
【0040】
図3は、FMCWライダーで構成される計測ユニットの構成の一例を示す図である。
【0041】
図3に示すように、計測ユニット110は、ビームスプリッタ111、参照ミラー112、焦点調節部113、走査部114、及び、光検出部115等を備える。
【0042】
ビームスプリッタ111は、光源ユニット120から供給されるレーザー光を参照光と測定光とに分割する。参照光は、参照ミラー112に向けて出射され、測定光は、焦点調節部113に向けて出射される。参照光は、参照ミラー112で反射され、再びビームスプリッタ111に入射する。測定光は、焦点調節部113を介して走査部114に入射する。
【0043】
焦点調節部113は、測定光の焦点位置を調節する。一例として、本実施の形態では、フォーカスレンズを光軸に沿って前後移動させて、測定光の焦点位置を調節する。焦点調節部113は、フォーカスレンズ及びフォーカスレンズを駆動するアクチュエータを含む。なお、焦点調節の手法は、これに限定されるものではない。この他、たとえば、フォーカスレンズを液体レンズで構成し、レンズの曲率を変えることで、焦点位置を調整する構成とすることもできる。
【0044】
走査部114は、焦点調節部113を通過した測定光を偏光して、対象物上に測定光を走査させる。
【0045】
【0046】
図4に示すように、本実施の形態では、ポリゴンミラー(多面鏡)PMを使用して、対象物上に測定光を走査させる。ポリゴンミラーPMは、θ軸周りに回転することで、入射する光をθ軸周りの方向(θ方向)に反射して偏向させる。本実施の形態では、ポリゴンミラーPMを更にφ軸周りに回転させて、入射する光をφ軸周りの方向(φ方向)に偏向させる。φ軸は、ポリゴンミラーPMの中心を通り、かつ、θ軸と直交する軸である。なお、ここでの「直交」の用語の意味には、完全に直交の意味の他に、設計上及び製造上において許容される誤差を含む「ほぼ直交」の意味が含まれる。
【0047】
図5は、ポリゴンミラーへの測定光の入射法を示す図である。
図5には、2つの入射法を示している。
図5(A)は、第1の入射法を示し、
図5(B)は、第2の入射法を示している。
図5(A)に示す第1の入射法は、2つのミラーM1、M2を介して、ポリゴンミラーPMに測定光を入射する方式である。
図5(B)に示す第2の入射法は、直接、ポリゴンミラーPMに測定光を入射する方式である。いずれの入射法を採用してもよい。ポリゴンミラーPMのφ軸周りの回転に連動して、測定光の入射位置もφ軸周りに回転する。
【0048】
本構成によれば、ポリゴンミラーPMをθ軸周りに回転させることにより、測定光がθ方向に走査される。また、ポリゴンミラーPMをφ軸周りに回転させることにより、θ方向に走査される位置がφ方向に変位する。ゆえに、ポリゴンミラーPMをθ軸周りに回転させつつ、φ軸周りに回転させることにより、対象物上に測定光を走査させることができる。θ方向の走査を主走査、θ方向を主走査方向とする。また、φ方向の走査を副走査、φ方向を副走査方向とする。本実施の形態において、ポリゴンミラーPMは、光の出射部の一例である。また、φ軸は、副走査方向と交差する軸の一例である。
【0049】
ポリゴンミラーPMは、θ軸モーター114Aに駆動されて、θ軸周りに回転する。また、ポリゴンミラーPMは、φ軸モーター114Bに駆動されて、φ軸周りに回転する。ポリゴンミラーPMがθ軸周りに回転する速度Vθは、ポリゴンミラーPMがφ軸周りに回転する速度Vφよりも速い(Vθ>Vφ)。すなわち、本実施の形態において、測定光の走査は、副走査方向の走査速度(Vφ)よりも主走査方向への走査速度(Vθ)の方が速い。
【0050】
図3に戻り、対象物に向けて照射され、対象物で反射した測定光は、走査部114及び焦点調節部113を介して、ビームスプリッタ111に入射する。ビームスプリッタ111に入射した測定光の反射光は、参照光の反射光と合成され、干渉光として光検出部115に出力される。
【0051】
光検出部115は、ビームスプリッタ111から出力される干渉光を電気信号に変換する。この電気信号には、測定光の周波数と参照光の周波数との差に相当する周波数の信号成分が含まれる。この信号成分はビート信号と呼ばれる。また、ビート信号の周波数は、ビート周波数と呼ばれる。ビート周波数と対象物までの距離との間には相関がある。ゆえに、ビート周波数に基づいて対象物の距離を算出できる。
【0052】
[光源ユニット]
光源ユニット120は、計測ユニット110に対し、測定用のレーザー光を供給する。上記のように、本実施の形態では、計測ユニット110が、FMCWライダーで構成される。ゆにえ、光源ユニット120は、周波数を周期的に変調させたレーザー光を供給する。一例として、本実施の形態では、FSFレーザー(Frequency-Shifted Feedback Laser:周波数シフト帰還型レーザー)を測定用のレーザー光として供給する。
【0053】
[電源ユニット]
電源ユニット130は、バッテリーを含み、3次元計測装置100を構成する各部に電力を供給する。
【0054】
[制御ユニット]
制御ユニット140は、3次元計測装置100の全体の動作を統括制御する。また、制御ユニット140は、計測ユニット110で計測されたデータを処理する。
【0055】
図6は、制御ユニットのハードウェア構成の一例を示す図である。
【0056】
制御ユニット140は、一般的なコンピュータとしての構成を有する。すなわち、プロセッサ141、主記憶部142、補助記憶部143、操作部144、表示部145、及び、インターフェース部(interface:I/F)146等を備える。
【0057】
プロセッサ141は、プログラムを実行して各種の処理部として機能する。一例として、本実施の形態では、プロセッサ141が、CPU(Central Processing Unit)で構成される。プロセッサ141が実行する各種プログラム及びデータ等は、主記憶部142、及び/又は、補助記憶部143に記憶される。プログラムは、ソフトウェアと同義である。
【0058】
主記憶部142は、RAM(Random Access Memory)、及び、ROM(Read Only Memory)を含む。RAMは、プロセッサ141のワークエリアとして使用される。ROMは、基本入出力プログラム等が記憶される。
【0059】
補助記憶部143は、たとえば、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)等で構成される。
【0060】
操作部144は、たとえば、キーボード、マウス等で構成される。
【0061】
表示部145は、たとえば、液晶ディスプレイ(Liquid Crystal Display:LCD)、有機ELディスプレイ(Organic Electro Luminescence Diode display:OLED display)等で構成される。
【0062】
インターフェース部146は、計測ユニット110、光源ユニット120、及び、電源ユニット130等を接続するための各種接続インターフェースを含む。
【0063】
[制御ユニットの機能]
図7は、計測の制御に関して制御ユニットが有する主な機能のブロック図である。
【0064】
図7に示すように、計測の制御に関して、制御ユニット140は、走査制御部140A、焦点制御部140B、信号処理部140C、及び、記録制御部140D等の機能を有する。各部の機能は、プロセッサ141が、所定のプログラムを実行することにより実現される。
【0065】
[走査制御部]
走査制御部140Aは、計測ユニット110による測定光の走査を制御する。走査制御部140Aは、計測ユニット110の走査部114を制御して、測定光の走査を制御する。上記のように、本実施の形態では、ポリゴンミラーPMをθ軸周り及びφ軸周りに回転させて、対象物上に測定光を走査させる。走査制御部140Aは、θ軸モーター114A及びφ軸モーター114Bの駆動を制御して、測定光の走査を制御する。
【0066】
[焦点制御部]
焦点制御部140Bは、測定光の焦点合わせを制御する。本実施の形態では、副走査方向の走査において、測定光の焦点合わせを行う。
【0067】
図8から
図10は、焦点合わせの制御の概念図である。
図8は、本実施の形態の3次元計測装置100による測定光の走査の状態を示している。
図9は、主走査方向における走査での測定光の集光状態を示している。
図10は、副走査方向における走査での測定光の集光状態を示している。
図10は、
図9の10-10断面に相当する。
【0068】
上記のように、本実施の形態の3次元計測装置100では、副走査方向の走査において、測定光の焦点合わせを行う。一例として、本実施の形態では、測定光がφ軸と直交して出射されるタイミングで測定光の焦点合わせを行う。すなわち、φ軸と直交して出射される測定光が、対象面上で合焦するように、焦点合わせの制御が行われる。この結果、
図10に示すように、φ軸と直交して出射される測定光は、対象面上で合焦する。すなわち、対象面上に集光する。このように、本実施の形態の3次元計測装置100では、測定光がφ軸と直交して出射されるタイミングで測定光の焦点合わせを行う。すなわち、主走査方向において、特定の位置(本実施の形態では、測定光がΦ軸と直交して出射される位置)でのみ焦点合わせを行う。これにより、副走査方向の走査において、測定光の焦点合わせが行われる。一方、主走査方向の走査では、焦点調節を行わないので、測定光は、主走査方向の両端に近づくほど集光の度合いが低下する。すなわち、主走査方向の走査では、焦点が固定されて走査されるので、両端に近づくほど集光の度合いが低下する。
【0069】
対象面上で測定光を集光し、局所的にパワーを上げて、散乱光を増やすことで、遠隔でも高精度な計測が可能になる。上記のように、主走査方向では、両端に近づくほど集光の度合いが低下する。よって、主走査方向では、所定の精度が確保される範囲で計測範囲が設定される。すなわち、閾値以下に集光できる範囲で計測範囲が設定される。
【0070】
焦点制御部140Bは、焦点調節部113を制御して、副走査方向における測定光の焦点合わせを制御する。具体的には、測定光がφ軸と直交して出射されるタイミングで焦点合わせの制御を実施する。この際、先の主走査で得られた距離の計測結果を利用して、焦点合わせを行う。一例として、直前の主走査で得られた距離の計測結果を利用して、焦点合わせを行う。すなわち、本実施の形態では、直前の主走査で得られた距離の計測結果を利用して、次の主走査での焦点合わせを行う。副走査方向への走査位置の変位量は微小である。ゆえに、次の主走査での焦点合わせの測距情報として利用できる。これにより、副走査方向において、継続して測定光の焦点を対象面に合わせることができる。
【0071】
本実施の形態において、測定光がφ軸と直交して出射される位置は、主走査方向への走査線上に設定される特定位置の一例である。本実施の形態では、特定位置が主走査方向への走査の中間地点に設定される。すなわち、主走査方向における計測範囲(走査範囲)の中央に特定位置が設定される。より具体的には、測定光がφ軸と直交して出射される位置(特定位置)を中心にして、主走査方向の計測範囲が設定される。これにより、主走査方向の計測範囲を拡大できる。なお、ここでの「中央」ないし「中心」の用語の意味には、完全に中央、中心の意味の他に、設計上及び製造上において許容される誤差を含む「ほぼ中央」、「ほぼ中心」の意味が含まれる。
【0072】
焦点制御部140Bは、信号処理部140Cから直前の主走査で得られた距離の計測結果の情報を取得し、副走査方向の焦点合わせを制御する。すなわち、直前の主走査の計測結果を参照して、次の主走査での焦点位置を調整する。直前の主走査の計測結果は、たとえば、測定光がφ軸と直交して出射される位置での計測結果を利用する。
【0073】
[信号処理部]
信号処理部140Cは、光検出部115から出力される走査位置ごとのビート信号を処理し、走査位置ごとに距離を算出する。
【0074】
[記録制御部]
記録制御部140Dは、信号処理部140Cで算出された走査位置ごとの距離情報を計測データ記憶部140Eに記録する。計測データ記憶部140Eは、たとえば、補助記憶部143で構成される。
【0075】
[3次元計測装置による計測動作]
以上のように構成される本実施の形態の3次元計測装置100による対象物の3次元計測は、次のように行われる。
【0076】
図11は、計測の概念図である。
図11は、円弧状の断面を有するトンネル構造物1の壁面2を3次元計測する場合の例を示している。
【0077】
トンネル構造物1の軸方向を主走査方向、周方向を副走査方向に設定して、トンネル構造物1の壁面2を測定光で走査し、3次元計測する。トンネル構造物1の軸方向は、レール11の敷設方向と同じであり、また、台車10の移動方向と同じである。なお、ここでの「同じ」は、完全に一致することを意味するものではなく、同一視できることを意味する。すなわち、ほぼ一致する範囲を含む概念である。
【0078】
図11に示すように、計測は地面3との境界までの範囲で行われる。一方の境界を始点P0、他方の境界を終点P1として、周方向に副走査し、所定の計測幅で壁面2を3次元計測する。
【0079】
本実施の形態では、ポリゴンミラーPMのθ軸周りの回転で主走査が行われ、φ軸周りの回転で副走査が行われる。よって、φ軸が、トンネル構造物1の軸Tzと、ほぼ平行になるように設定し、壁面2を走査する。
【0080】
走査に際して、測定光の焦点調節が行われる。本実施の形態では、副走査方向の走査において、壁面2に焦点が合うように、焦点調節される。
【0081】
トンネル構造物の場合、円弧状の断面形状を有していても、トンネル構造物1の軸Tzの位置とφ軸の位置とが一致していないと、副走査の際に壁面2までの距離(離隔距離)rが大きく変動する。
【0082】
図12は、副走査時の離隔距離の変化を説明する図である。
【0083】
図12(A)は、測定光の出射位置と照射位置との関係を示す図である。図中の符号EPは測定光MLの出射位置を示し、SPは測定光MLの照射位置を示している。出射位置EPから照射位置SPまでの距離rは、図中の演算式により算出される。角度Φは、ポリゴンミラーPMのφ軸周りの回転角度に相当する。なお、水平に測定光MLが出射される場合を0°とする。
【0084】
図12(B)は、トンネル構造物1の半径Rを4350mm、測定光MLの出射位置EPをx1=1750mm、y1=1050mmとした場合の角度Φと距離rの関係を示すグラフである。
図12(B)に示すように、角度Φの変化と共に距離rが変化する。すなわち、副走査において、対象面(壁面)までの距離が変化する。
【0085】
図13は、副走査時における壁面までの距離の変化の他の一例を示す図である。
【0086】
図13は、トンネル構造物1の断面が、矩形状の場合の例を示している。
図13(A)は、測定光の出射位置と照射位置との関係を示す図である。また、
図13(B)は、トンネル構造物1のx軸方向(水平方向)の幅Xを1700mm、y軸方向(鉛直方向)の幅Yを4230mm、測定光MLの出射位置EPをC=1700mm、y1=685mmとした場合の角度Φと距離rの関係を示すグラフである。この場合も角度Φの変化と共に距離rが変化する。すなわち、副走査方向において、対象面(壁面)までの距離が変化する。なお、矩形断面の場合、トンネル構造物の軸の位置とφ軸との位置が一致していても、副走査方向において、対象面までの距離が変化する。
【0087】
本実施の形態の3次元計測装置100では、副走査方向において、対象面(壁面)までの距離が変化する場合に、その距離の変化に追従して、測定光の焦点が合わせられる。
【0088】
焦点調節は、先の主走査で得られた距離の計測結果を利用して行われる。すなわち、先の主走査で得られた距離の計測結果を利用して、次の主走査での焦点合わせが行われる。これにより、副走査方向において、継続して測定光の焦点を対象面に合わせることができる。
【0089】
このように、本実施の形態の3次元計測装置100によれば、副走査方向の走査で焦点合わせが行われる。これにより、副走査によって対象面までの距離が変化しても、対象物を高精度に計測できる。すなわち、対象面上に測定光を集光できるので、遠隔でも高精度に計測することが可能になる。また、主走査方向の走査では、焦点合わせを行わないので、高速に計測できる。すなわち、主走査方向は、焦点を固定して走査するので、高速に走査でき、計測の高速化を図れる。
【0090】
【0091】
図14は、円弧状の断面を有するトンネル構造物1の壁面2を3次元計測した場合の計測結果の一例を示している。
【0092】
トンネル構造物1の壁面2を周方向に沿って1回走査することで、主走査方向の計測範囲に対応した幅(計測幅)で壁面2の3次元計測データが得られる。得られるデータは、走査位置ごとの距離のデータである。壁面2の3次元計測データから壁面2の3次元形状のデータ(3次元形状データ)が得られる。また、トンネル構造物1の場合、内部空間の3次元形状のデータ(3次元形状データ)が得られる。
【0093】
[変形例]
[副走査方向における焦点合わせの変形例]
[先に行われた主走査の計測結果を利用する方法]
上記実施の形態では、先に行われた主走査の計測結果を利用して、次の主走査の焦点合わせを行う構成としている。特に、上記実施の形態では、直前の主走査での計測結果を利用して、次の主走査での焦点合わせを行う構成とし、測定光がφ軸と直交して出射される位置での計測結果を利用する構成としている。計測結果の利用方法は、これに限定されるものではない。
【0094】
先に行われた主走査の計測結果を利用して、焦点合わせを行う対象の基準面(対象基準面)を設定し、その対象基準面に対して焦点を合わせる構成とすることもできる。
【0095】
図15は、対象基準面を用いた焦点合わせの手法の概念図である。
【0096】
対象基準面RPは、たとえば、φ軸と平行な面として設定される。よって、主走査方向の走査で焦点合わせを行う位置(特定位置)において、測定光は対象基準面RPと直交する。なお、ここでの「平行」の用語の意味には、完全に平行の意味の他に、設計上及び製造上において許容される誤差を含む「ほぼ平行」の意味が含まれる。「直交」についても同様である。
【0097】
対象基準面RPは、たとえば、計測範囲の平均値又は中央値等を求めて設定する。一例として、直前の主走査での計測範囲における平均値を求めて、対象基準面RPを設定する。あるいは、直前の主走査での計測範囲における中央値を求めて、対象基準面RPを設定する。設定した対象基準面RPに対し、測定光がφ軸と直交して出射される位置(=対象基準面RPに対し直交して出射される位置)で測定光の焦点が合うように、焦点合わせの制御を行う。
【0098】
副走査方向において、計測が密にできている場合は、直前の主走査の計測結果をそのまま対象基準面RPに利用できる。この場合、上記実施の形態で説明したように、測定光がφ軸と直交して出射される位置での計測結果を利用する構成としてもよいし、計測範囲の平均値又は中央値等を求めて利用してもよい。計測が密にできている場合とは、たとえば、直前の主走査との間で特定位置における焦点が被写界深度の範囲内になる場合である。
【0099】
また、計測の対象面2が、特定の凹凸を有する場合、凹凸部を除外して対象基準面RPを設定することが好ましい。特定の凹凸には、たとえば、コンクリート構造物の場合、コンクリート剥離痕等、コンクリート表面の損傷部分が例示される。この他、壁面に設置される電気設備等も除外することが好ましい凹凸に該当する。
【0100】
[別の測距部による測距結果を利用する方法]
上記実施の形態では、先に行われた主走査の計測結果を利用して、次の主走査の焦点合わせを行う構成としているが、副走査方向における焦点合わせの方法は、これに限定されるものではない。
【0101】
図16は、副走査方向における焦点合わせの他の一例を示す図である。
図16は、別に設けた測距部の測距結果を利用して、副走査方向の焦点合わせを行う場合の一例を示している。
【0102】
図16に示すように、本例の3次元計測装置は、計測ユニット110とは別の測距ユニット150が備えられている。測距ユニット150は、副走査方向において、対象面までの距離を計測する。なお、ここでの距離の計測は、焦点合わせの補助を目的としたものである。よって、その目的に適う精度で計測できればよい。したがって、計測ユニット110による計測よりも精度を落とすことができ、粗い計測であってもよい。測距ユニット150は、測距部の一例である。対象物がトンネル構造物の場合、周方向に副走査方向が設定される。したがって、対象物がトンネル構造物の場合、測距ユニット150は、周方向に沿って対象面(壁面)までの距離を計測する。計測の手法は、特に限定されない。一例として、ToF(Time Of Flight)方式のライダー(ToFライダー)を採用できる。この他、たとえば、ミリ波等の電波を利用して計測する方式、超音波を利用して計測する方式、赤外線を利用して計測する方式を採用することもできる。
【0103】
なお、測距ユニット150は、必ずしも計測ユニット110の計測幅(主走査方向の計測範囲)の全域の距離を計測する必要はない。副走査方向において焦点合わせを行う位置での距離が計測できればよい。たとえば、φ軸と直交して出射される位置で測定光の焦点合わせが行われる場合、少なくとも測定光がφ軸と直交して出射される位置の距離が計測できればよい。したがって、少なくとも1つの断面での距離が計測できればよい。
【0104】
測距ユニット150が、計測ユニット110の計測幅の全域の距離を計測する場合、その計測結果を利用して対象基準面を設定し、対象基準面に対して焦点を合わせる構成とすることもできる。上記のように、対象基準面は、たとえば、φ軸と平行な面として構成され、計測範囲の平均値又は中央値等を求めて設定する。計測の対象面が、特定の凹凸を有する場合、凹凸部を除外して対象基準面を設定することが好ましい。
【0105】
また、測距部は、必ずしも計測ユニット110と一体的に設ける必要はない。すなわち、必ずしも計測ユニット110と同じ台車に搭載しておく必要はない。事前に対象の距離又は形状が計測できる構成であればよい。したがって、たとえば、3次元計測装置から分離した測距手段で計測したデータを使用する構成としてもよい。
【0106】
また、本例による手法と、先に行われた主走査の計測結果を利用する手法とを組み合わせて使用することもできる。すなわち、先に行われた主走査の計測結果、及び、別の測距部による測距結果の双方を利用して、副走査方向の焦点合わせを行う構成とすることができる。たとえば、先に行われた主走査の計測結果、及び、別の測距部による測距結果の双方を利用して対象基準面を設定し、対象基準面に対して焦点を合わせる構成とすることができる。また、たとえば、別の測距部による測距結果に対し、先に行われた主走査の計測結果を利用してオフセットを付けて、対象基準面を設定する構成とすることもできる。
【0107】
[対象物の設計データを利用する方法]
図17は、副走査方向における焦点合わせの他の一例を示す図である。
図17は、対象物の設計データを利用して、副走査方向の焦点合わせを行う場合の一例を示している。
【0108】
図17に示すように、本例の3次元計測装置は、制御ユニット140が、情報取得部140F及び距離算出部140G等の機能を有する。
【0109】
情報取得部140Fは、計測に必要な各種情報を取得する。計測に必要な情報には、対象物に関する情報(対象物情報)、計測位置に関する情報(計測位置情報)等が含まれる。
【0110】
対象物情報は、対象物の形状及びサイズ等の情報を含む。対象物の形状及びサイズ等の情報は、たとえば、対象物の設計データで構成される。設計データは、たとえば、図面データ、CAD(Computer Aided Design)データ等で構成される。
【0111】
計測位置は、対象物に対する3次元計測装置100の相対的な位置の情報である。対象物がトンネル構造物の場合、トンネル内での3次元計測装置100の位置が計測位置に相当する。
【0112】
距離算出部140Gは、計測位置の情報、及び、対象物の形状及びサイズの情報に基づいて、副走査方向における対象面(壁面)までの距離を算出する。
【0113】
焦点制御部140Bは、距離算出部140Gで算出した距離の情報に基づいて、副走査方向における測定光の焦点合わせを制御する。
【0114】
本例の場合も対象基準面を設定し、対象基準面に対して焦点を合わせる構成とすることができる。
【0115】
[副走査方向における焦点合わせについてのその他の変形例]
上記実施の形態では、測定光が、φ軸と直交する方向に出射されるタイミングで測定光の焦点合わせを行う構成としているが、焦点合わせを行う位置は、これに限定されるものではない。たとえば、主走査方向の一方側の端部の位置(主走査の始点又は終点)で焦点合わせを行う構成としてもよい。
【0116】
また、計測の対象面又は対象基準面に対し焦点を合わせる位置と、実際に焦点を変える位置とは、必ずしも一致させる必要はない。たとえば、上記実施の形態では、特定の位置(測定光がφ軸と直交する方向に出射される位置)で対象面又は対象基準面に焦点が合うように焦点位置を設定し、かつ、その特定の位置で焦点の位置を変える構成としているが、他の位置で焦点の位置を変える構成としてもよい。たとえば、主走査方向の走査の始点位置で焦点の位置を変える構成としてもよい。この場合、少なくとも特定の位置(焦点が合うように設定した位置)では、対象面又は対象基準面に焦点が合う。
【0117】
また、副走査方向において、焦点を連続的に変える構成としてもよい。たとえば、主走査中に測定光の焦点位置を変えて、特定の位置で計測の対象面又は対象基準面に焦点が合うように、焦点の位置を制御してもよい。
【0118】
また、上記実施の形態では、直前の主走査で得た計測結果を利用して、次の主走査の焦点合わせを行う構成としているが、利用する計測結果は、必ずしも直前の主走査によるものである必要はない。
【0119】
また、上記実施の形態では、主走査を1回行うたびに副走査方向の焦点合わせを行う構成としているが、主走査をn回行うたびに副走査方向の焦点合わせを行う構成としてもよい。たとえば、ポリゴンミラーを利用して主走査する構成の場合、ポリゴンミラーがn回転するたびに副走査方向の焦点合わせを行う構成としてもよい。
【0120】
[計測方式の変形例]
上記実施の形態では、計測ユニット110をFMCWライダーで構成する場合を例に説明したが、計測ユニット110をToFライダーで構成することもできる。しかしながら、遠隔を高精度に計測するには、FMCWライダーを採用することが好ましい。
【0121】
[走査方式の変形例]
上記実施の形態では、測定光を主走査方向に偏向させる手段として、ポリゴンミラーを採用しているが、測定光を主走査方向に偏向させる手段は、これに限定されるものではない。この他、例えば、ガルバノミラー、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)ミラー等の偏向手段を用いて、測定光を主走査方向に偏向させる構成としてもよい。
【0122】
また、上記実施の形態では、ポリゴンミラーをφ軸周りに回転させて、測定光を副走査方向に偏向させる構成としているが、測定光を副走査方向に偏向させる手段は、これに限定されるものではない。たとえば、ポリゴンミラー等の偏向器に入射させる光の位置又は入射方向を副走査方向に沿って変えることにより、副走査方向に偏向させる構成としてもよい。
【0123】
また、副走査方向への偏向は、連続的に行う構成としてもよいし、断続的に行う構成としてもよい。断続的に行う場合は、たとえば、1回の主走査ごとに副走査方向に走査位置を変位させる。上記実施の形態の構成の場合、主走査ごとにポリゴンミラーPMをφ軸周りに所定角度回転させて、副走査方向に測定光を偏向させる。
【0124】
[第2の実施の形態]
ここで、トンネル構造物を軸方向に沿って連続的に3次元計測する場合の構成について説明する。すなわち、トンネル構造物を全長に亘って3次元計測できる構成について説明する。
【0125】
図18は、3次元計測装置の概略構成を示す図である。
【0126】
トンネル構造物を全長に亘って3次元計測するためには、トンネル構造物の軸方向に沿って位置を変えながら計測する必要がある。位置を変えながら計測する場合、計測位置を特定する必要がある。
【0127】
図18に示すように、本実施の形態の3次元計測装置100は、3次元計測装置100による計測位置を特定するために、位置計測ユニット160を備えている。
【0128】
なお、位置計測ユニット160を備える点以外は、上記第1の実施の形態の3次元計測装置100の構成と実質的に同じである。したがって、ここでは、位置計測ユニット160、及び、3次元計測装置100を用いたトンネル構造物の計測手法についてのみ説明する。
【0129】
[位置計測ユニット]
位置計測ユニット160は、3次元計測装置100の位置(計測位置)を計測する。上記のように、計測位置は、対象物に対する3次元計測装置100の相対的な位置である。対象物がトンネル構造物1の場合、トンネル内での3次元計測装置100の位置が計測される。
【0130】
本実施の形態では、3次元計測装置100が台車10上に設置され、台車10を移動させることで、計測位置を変位させる。台車10は、移動体の一例である。
【0131】
本実施の形態では、台車10がレール11上を移動する。すなわち、本実施の形態では、3次元計測装置100が、トンネル内を規定の経路に沿って移動(変位)する。トンネル構造物1に対しレール11の敷設位置が既知であるとすると、基準位置からの移動距離で計測位置を特定できる。基準位置には、たとえば、トンネル構造物1の端部(開口部)を採用できる。
【0132】
本実施の形態では、位置計測ユニット160が、台車10の移動距離を計測する移動距離計測部160Aを有する。移動距離計測部160Aは、たとえば、台車10の車輪の回転数を計測して、台車10の移動距離を計測する。具体的には、車輪の回転数を計測し、既知の車輪の周長又は外径に基づいて、台車10の移動距離を計測する。
【0133】
本実施の形態では、より高精度な位置検出を行うため、レール11上での台車10の横ズレ量を計測する。すなわち、進行方向と直交する方向のズレ量を計測する。位置計測ユニット160は、台車10の横ズレ量を計測する横ズレ計測部160Bを有する。横ズレ計測部160Bは、たとえば、レール11に対する台車10の横方向(車輪の軸方向)のズレ量を計測する。計測の手法は、特に限定されない。
【0134】
位置計測ユニット160は、移動距離計測部160Aで計測される移動距離の情報、及び、横ズレ計測部160Bで計測される横ズレ量の情報の組を計測位置の情報として制御ユニット140に出力する。
【0135】
制御ユニット140は、計測ユニット110で計測される各走査位置での距離の情報を、位置計測ユニット160で計測される計測位置の情報に関連付けて、計測データ記憶部140Eに記録する。
【0136】
[トンネル構造物の3次元計測]
ここでは、トンネル構造物1の設計データが存在し、形状及びサイズ等が既知の場合を例に説明する。この場合、トンネル構造物1の設計データを利用して、副走査方向の焦点合わせが可能である。
【0137】
また、本例では、計測と移動を繰り返しながら、トンネル構造物1の全長に亘って3次元計測する場合について説明する。すなわち、計測中は移動を停止し、1周分の計測が完了したのち、次の計測位置に移動することを繰り返して、全長分の計測を行う場合について説明する。
【0138】
図19は、計測手順の一例を示すフローチャートである。
【0139】
まず、対象物情報を取得する(ステップS1)。ここでは、トンネル構造物の設計データを含んだ情報を取得する。上記のように、設計データから副走査方向における焦点合わせに必要な情報が取得できる。また、設計データから計測位置の特定、走査位置の特定が可能になる。
【0140】
次に、計測位置の情報を取得する(ステップS2)。計測位置は、所定の基準位置からの移動距離、及び、横ズレ量から特定される。
【0141】
次に、走査位置を算出する(ステップS3)。すなわち、トンネル構造物1に対し壁面2を走査する位置を算出する。
【0142】
次に、焦点合わせ位置を算出する(ステップS4)。すなわち、副走査方向での焦点合わせ位置を算出する。なお、トンネル構造物1を対象とした計測の場合、副走査方向は、トンネル構造物1の周方向に設定される。ゆえに、主走査方向は、トンネル構造物1の軸方向となる。トンネル構造物1の軸方向は、台車10の移動方向(進行方向)と実質的に同義である。
【0143】
焦点合わせ位置の算出後、3次元計測を実施する(ステップS5)。すなわち、測定光で壁面2を走査し、壁面2を3次元計測する。この際、副走査方向の走査で測定光の焦点合わせが行われる。これにより、壁面2までの離隔距離が変化しても、高精度に距離を計測することが可能になる。
【0144】
計測は、地面との境界までの範囲で行われる(
図11参照)。一方側の境界から他方側の境界に向けて周方向に副走査し、壁面2を3次元計測する。
【0145】
計測された各走査位置の距離情報は、計測位置の情報に関連付けられて、計測データ記憶部140Eに記録される(ステップS6)。
【0146】
1周分の計測完了後、計測位置が、計測の終端位置か否かを判定する(ステップS7)。すなわち、全長分の計測を完了したか否かを判定する。
【0147】
終端位置に達している場合は、計測を終了する。一方、終端位置に達していない場合は、移動して(ステップS8)、次の計測位置での計測を実施する。移動は、計測幅に対応した移動量で行われる。この際、計測漏れを防ぐため、隣接する計測位置間で計測範囲が重複するように移動する。
【0148】
このように、移動と計測を繰り返すことで、トンネル構造物1を全長に亘って3次元計測できる。
【0149】
計測位置ごとの計測データ(各走査位置の距離の計測データ)を統合することで、全長分の計測データが得られる。全長分の計測データは、トンネル構造物1の壁面2の3次元形状を示すデータを構成する。また、当該データは、トンネル構造物1の内部空間の3次元形状を示すデータを構成する。
【0150】
計測結果は、コンクリートの劣化診断としての浮き診断の他、トンネルの内空変位測定、コンクリートの剥離、剥落、剥落痕などの計測等に利用される。すなわち、表面変位と相関が得られるものの計測、診断等に利用される。換言すると、本実施の形態の3次元計測装置100は、これらの計測、診断等に好適に用いられる。
【0151】
[変形例]
[計測手法の変形例]
上記実施の形態では、計測中、台車10の移動を停止させる構成としているが、移動しながら計測する構成としてもよい。すなわち、移動しながら走査する構成としてもよい。この場合、計測中の台車10の移動速度よりも副走査方向への走査速度の方が速くなるように設定することが好ましい。すなわち、副走査方向への走査に比して、台車10の移動速度が遅くなるように設定することが好ましい。これにより、計測漏れを抑制できる。
【0152】
また、副走査する際、ポリゴンミラーPMをφ軸周りに連続的に回転させながら副走査する構成としてもよいし、副走査方向の計測範囲(周方向の計測範囲)内で往復動させて副走査する構成としてもよい。すなわち、ポリゴンミラーPMを所定の回転角度範囲でφ軸周りに回動させて、副走査する構成としてもよい。
【0153】
[計測位置の特定方法の変形例]
上記実施の形態では、レール11上を移動する台車10の移動距離、及び、横ズレ量を計測して、計測位置を特定する構成としているが、計測位置を特定する方法は、これに限定されるものではない。たとえば、SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)による自己位置推定の技術を利用して、計測位置を特定する構成を採用できる。SLAMの技術自体は、公知であるので、その詳細についての説明は省略する。ライダーを用いたSLAM、カメラを用いたSLAM等を採用できる。
【0154】
この他、ビーコン、IMES(Indoor MEssaging System)、Wi-Fi(登録商標)を利用した測位システム、UWB(Ultra-Wideband)を利用した測位システム等で測位する構成としてもよい。また、台車10又は3次元計測装置100に加速度センサー、磁気センサー、角速度センサー等の各種センサーを設置し、各センサーから得られた値を元に計測位置を推定する構成を採用することもできる。
【0155】
また、台車10の移動距離及び横ズレ量を計測して計測位置を特定する構成において、横ズレ量は、3次元計測装置100の計測結果を利用して取得する構成としてもよい。
【0156】
[測定位置の変更方法の変形例]
上記実施の形態では、人が手で押してレール11上を移動する台車10に3次元計測装置100を設置し、台車10の移動によって、測定位置を変える構成としているが、3次元計測装置100の測定位置を変える方法は、これに限定されるものではない。自動走行する台車に3次元計測装置100を設置して、測定位置を変える構成としてもよい。また、台車に限らず、自動車、電車等に3次元計測装置100を設置して計測する構成としてもよい。更に、自走式のロボット、無人航空機(ドローン)等に搭載して、計測する構成とすることもできる。なお、移動体として台車を採用する場合、台車は必ずしもレール上を走行するものに限らず、地面の上を直接走行する構成のものを採用することもできる。また、人が手で押して走行する台車については、いわゆる電動アシスト機構を備えてもよい。
【0157】
[その他の実施の形態]
[ハードウェア構成]
本実施形態において、各処理は、任意のコンピュータで実行される。また、任意のコンピュータは、プロセッサ、プログラム、又は、それらの組み合わせによって、これらの処理を実行してもよい。任意のコンピュータは、汎用コンピュータ、特定の用途向けコンピュータ、及び、ワークステーション等のシステム、又は、プログラムを実行可能なその他のハードウェアの要素であってもよい。
【0158】
プロセッサは、1又は複数のハードウェアによって構成してもよく、ハードウェアの種類は限定されない。たとえば、プロセッサは、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、FPGA(Field programmable Gate Array)等のプログラマブルロジックデバイス、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の特定の処理を実行させるための専用回路、GPU(Graphic Processing Unit)、又は、NPU(Neural Processing Unit)等のハードウェアによって構成され得る。また、プロセッサは、本実施形態における各種の処理を実行する各部(Unit)又は各手段(Means)を有している。また、ハードウェアの種類は、異なる種類のハードウェアを組み合わせたものであってもよい。複数のハードウェアが、あるプロセッサの1又は複数の処理を実行するように構成される場合、当該複数のハードウェアは、互いに物理的に離れた装置内に存在していてもよく、同じ装置内に存在していてもよい。また、いずれの実施形態においても、プロセッサによる各処理の順序は、上記した順序に限定されるものではなく、適宜変更してもよい。なお、ハードウェアは、半導体素子などの回路素子を組み合わせた電気回路(circuitry)等により構成される。
【0159】
更に、本実施形態は、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、マイクロコード、又は、それらの組み合わせによって実現してもよい。ソフトウェア、ファームウェア、及び、マイクロコードは、プログラムによって構成される。また、プログラムは、たとえば、プログラムモジュール群であってもよく、その各機能は、それぞれの機能を実行するように構成されたプロセッサによって実現してもよい。プログラムは、1又は複数の非一時的コンピュータ可読媒体(たとえば、記憶媒体及び他のストレージ等)に保存されたプログラムコード及び複数のコードセグメント等であってもよい。プログラムは、互いに物理的に離れた装置に存在する複数の非一時的コンピュータ可読媒体に分割して保存されていてもよい。プログラムコード又はコードセグメントは、手順、関数、サブプログラム、ルーチン、サブルーチン、モジュール、ソフトウェアパッケージ、クラス、又は、命令、データ構造、又は、プログラムステートメントの任意の組み合わせを表し得る。プログラムコード又はコードセグメントは、情報、データ、引数、パラメータ、又は、メモリの内容を送受信することで他のコードセグメント又はハードウェア回路と接続されていてもよい。
【0160】
[計測対象]
上記実施の形態では、3次元計測装置100を用いて、トンネル構造物を計測する場合を例に説明したが、計測の対象物は、これに限定されるものではない。橋梁、ビルディング等のコンクリート構造物の3次元計測等に用いることができる。
【0161】
また、上記のように、計測結果は、コンクリートの劣化診断としての浮き診断の他、トンネルの内空変位測定、コンクリートの剥離、剥落、剥落痕などの計測等に好適に利用できる。
【0162】
[その他]
上記各実施の形態及びその変形例は、適宜組み合わせて使用できる。
【符号の説明】
【0163】
1 トンネル構造物
2 壁面
3 地面
10 台車
11 レール
100 3次元計測装置
110 計測ユニット
111 ビームスプリッタ
112 参照ミラー
113 焦点調節部
114 走査部
114A θ軸モーター
114B φ軸モーター
115 光検出部
120 光源ユニット
130 電源ユニット
140 制御ユニット
140A 走査制御部
140B 焦点制御部
140C 信号処理部
140D 記録制御部
140E 計測データ記憶部
140F 情報取得部
140G 距離算出部
141 プロセッサ
142 主記憶部
143 補助記憶部
144 操作部
145 表示部
146 インターフェース部
150 測距ユニット
160 位置計測ユニット
160A 移動距離計測部
160B 横ズレ計測部
M1 ミラー
M2 ミラー
ML 測定光
PM ポリゴンミラー
EP 測定光の出射位置
SP 測定光の照射位置
Tz トンネル構造物の軸
RP 対象基準面