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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025014879
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】金属膜片形成布およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 59/20 20060101AFI20250123BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20250123BHJP
   A01N 25/10 20060101ALI20250123BHJP
   D06M 11/83 20060101ALI20250123BHJP
【FI】
A01N59/20 Z
A01P3/00
A01N25/10
D06M11/83
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023117809
(22)【出願日】2023-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】000195029
【氏名又は名称】星和電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】501241645
【氏名又は名称】学校法人 工学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(72)【発明者】
【氏名】高宮 祥太
(72)【発明者】
【氏名】堂浦 剛
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 光史
(72)【発明者】
【氏名】永井 裕己
【テーマコード(参考)】
4H011
4L031
【Fターム(参考)】
4H011AA02
4H011BB18
4H011DA07
4L031AB31
4L031BA04
4L031DA12
(57)【要約】
【課題】衣類、建築資材、その他各種布類に対して金属製膜した場合であっても、意匠性や風合いを阻害することなく、良好な抗菌効果を得ることができ、しかも簡単かつ安価に製造することができる金属膜片形成布およびその製造方法を提供する。
【解決手段】金属錯体および金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種とアンモニアおよびアミンから選ばれる少なくとも1種との反応生成物を有する金属前駆体液と、有機還元剤と、が含有されてなる金属膜片形成用組成物に、布を浸漬した後、乾燥させることで、少なくとも布2を構成する各フィラメントの表面に、金属膜片3を分散状態で形成してなり、25mm角の範囲で縦3列横3列の均等間隔の9点で測定した色差の平均が1.3以上6.5以下となされた金属膜片形成布1である。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属錯体および金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種とアンモニアおよびアミンから選ばれる少なくとも1種との反応生成物を有する金属前駆体液と、有機還元剤と、が含有されてなる金属膜片形成用組成物に、布を浸漬した後、乾燥させることで、布を構成する各フィラメントの表面に、金属膜片を分散状態で形成してなり、
25mm角の範囲で縦3列横3列の均等間隔の9点で測定した色差の平均が1.3以上6.5以下となされたことを特徴とする金属膜片形成布。
【請求項2】
25mm角の範囲で縦3列横3列の均等間隔の9点で測定した色差の平均が1.3以上3.0以下となされた請求項1に記載の金属膜片形成布。
【請求項3】
平面の2点間での電気抵抗が100MΩ以上となされたことを特徴とする請求項1に記載の金属膜片形成布。
【請求項4】
30mm×30mmの大きさに切断し、殺菌処理した後、滅菌済みのシャーレに入れ、NBRC3972大腸菌をリン酸緩衝液で9×10~3×10cfu/mlの濃度に調製した試験菌液を0.1ml滴下し、35±1℃で48時間培養後、9.9mlのSCDLP培地を用いて十分に洗い出しを行った後、段階希釈により1:10000希釈水まで希釈し、各希釈菌液を寒天平板培養法により35±1℃で24時間培養した結果、抗菌活性値が2.0以上となる請求項1に記載の金属膜片形成布。
【請求項5】
金属がCuとなされた請求項1ないし4の何れか一に記載の金属膜片形成布。
【請求項6】
布は、天然繊維または合成繊維からなる請求項1に記載の金属膜片形成布。
【請求項7】
金属錯体および金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種とアンモニアおよびアミンから選ばれる少なくとも1種との反応生成物を有する金属前駆体液と、有機還元剤と、が含有されてなる金属膜片形成用組成物に、布を浸漬する工程と、
当該浸漬後の布を乾燥させる工程と、
によって、少なくとも布を構成する各フィラメントの表面に、金属膜片を分散状態で形成する金属膜片形成布の製造方法であって、
浸漬時間、浸漬温度を調整することで、25mm角の範囲で縦3列横3列の均等間隔の9点で測定した色差の平均を1.3以上6.5以下とすることを特徴とする金属膜片形成布の製造方法。
【請求項8】
浸漬時間、浸漬温度を調整することで、25mm角の範囲で縦3列横3列の均等間隔の9点で測定した色差の平均を1.3以上3.0以下とする請求項7に記載の金属膜片形成布の製造方法。
【請求項9】
浸漬時間、浸漬温度を調整することで、平面の2点間での電気抵抗が100MΩ以上となるように、少なくとも布を構成する各フィラメントの表面に金属膜片を分散状態で形成する請求項7に記載の金属膜片形成布の製造方法。
【請求項10】
25mm×25mmの大きさに切断し、殺菌処理した後、滅菌済みのシャーレに入れ、NBRC3972大腸菌をリン酸緩衝液で9×10~3×10cfu/mlの濃度に調製した試験菌液を0.1ml滴下し、35±1℃で48時間培養後、9.9mlのSCDLP培地を用いて十分に洗い出しを行った後、段階希釈により1:10000希釈水まで希釈し、各希釈菌液を寒天平板培養法により35±1℃で24時間培養した結果、抗菌活性値が2.0以上となるように、浸漬時間、浸漬温度を調整する請求項7に記載の金属膜片形成布の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、織布または不織布に、金属を分散状態で付与してなる金属膜片形成布とその製造方法とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、繊維フィルタにCuなどの金属を製膜することで、消臭や殺菌などの効果を奏するようになされた消臭性繊維シートや殺菌性フィルタが知られている(例えば、特許文献1~3参照)。
【0003】
従来より、このようなシートやフィルタに金属製膜を行う方法として専用の溶液に浸漬して乾燥させることで製膜することが行われており、電気伝導性および熱伝導性が良好となるように製膜することが行われていた(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭52-44458号公報
【特許文献2】特開昭58-8530号公報
【特許文献3】特開2006-14965号公報
【特許文献4】特開2021-70873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来の製膜方法の場合、金属製膜した殺菌性シートを衣類、建築資材、その他各種布類として使用するような場合、金属色が付きすぎてしまうので、意匠性が低下してしまうといった不都合を生じることとなる。
【0006】
また、上記従来の製膜方法のように、電気伝導性および熱伝導性が良好となるように製膜すると、製膜した基材表面の金属膜中では、広範囲の金属膜中を電子が自由に行き来することができる。すなわち、上記従来の製膜方法で製膜した金属膜は、金属および金属酸化物の表面から電子が放出され空気中の酸素と反応して超酸化物が発生し、その超酸化物が空気中の水分と反応して活性酸素が発生し、その活性酸素が抗菌性を発揮することとなるが、金属製膜した殺菌性シート全体が一つの導体となっているので、外的要因で金属膜の特定部位に電位差を生じるようなことがあると、自由電子の動きが制限されて電子の放出に偏りが生じやすくなり、当該金属膜全体が均等に抗菌作用を発揮し難くなってしまう。特に、この金属製膜した殺菌性シートを、衣類、建築資材、その他各種布類として使用するような場合、少量の金属膜片しか付着させないので、その影響が顕著となり、優れた抗菌性能が得られなくなってしまう。
【0007】
本発明は、係る実情に鑑みてなされたものであって、衣類、建築資材、その他各種布類に対して金属製膜した場合であっても、意匠性や風合いを阻害することなく、良好な抗菌効果を得ることができ、しかも簡単かつ安価に製造することができる金属膜片形成布およびその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明の金属膜片形成布は、金属錯体および金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種とアンモニアおよびアミンから選ばれる少なくとも1種との反応生成物を有する金属前駆体液と、有機還元剤と、が含有されてなる金属膜片形成用組成物に、布を浸漬した後、乾燥させることで、少なくとも布を構成する各フィラメントの表面に、金属膜片を分散状態で形成してなり、25mm角の範囲で縦3列横3列の均等間隔の9点で測定した色差の平均が1.3以上6.5以下となされたものである。また、この色差の平均が1.3以上3.0以下となされたものであってもよい。
【0009】
上記金属膜片形成布は、平面および表裏の2点間での電気抵抗が100MΩ以上となされたものであってもよい。
【0010】
上記金属膜片形成布は、20mm×20mmの大きさに切断し、殺菌処理した後、滅菌済みのシャーレに入れ、NBRC3972大腸菌をリン酸緩衝液で9×10~3×10cfu/mlの濃度に調製した試験菌液を0.1ml滴下し、35±1℃で48時間培養後、9.9mlのSCDLP培地を用いて十分に洗い出しを行った後、段階希釈により1:10000希釈水まで希釈し、各希釈菌液を寒天平板培養法により35±1℃で24時間培養した結果、抗菌活性値が2.0以上となるものであってもよい。
【0011】
上記金属膜片形成布は、金属がCuとなされたものであってもよい。
【0012】
上記金属膜片形成布において、布は、天然繊維または合成繊維からなるものであってもよい。
【0013】
上記課題を解決するための本発明の金属膜片形成布の製造方法は、金属錯体および金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種とアンモニアおよびアミンから選ばれる少なくとも1種との反応生成物を有する金属前駆体液と、有機還元剤と、が含有されてなる金属膜片形成用組成物に、布を浸漬する工程と、当該浸漬後の布を乾燥させる工程と、によって、少なくとも布を構成する各フィラメントの表面に、金属膜片を分散状態で形成する金属膜片形成布の製造方法であって、浸漬時間、浸漬温度を調整することで、25mm角の範囲で縦3列横3列の均等間隔の9点で測定した色差の平均を1.3以上6.5以下とするものである。また、この色差の平均を1.3以上3.0以下とするものであってもよい。
【0014】
上記金属膜片形成布の製造方法は、浸漬時間、浸漬温度を調整することで、平面の2点間での電気抵抗が100MΩ以上となるように、少なくとも布を構成する各フィラメントの表面に金属膜片を分散状態で形成するものである。
【0015】
上記金属膜片形成布の製造方法は、20mm×20mmの大きさに切断し、殺菌処理した後、滅菌済みのシャーレに入れ、NBRC3972大腸菌をリン酸緩衝液で9×10~3×10cfu/mlの濃度に調製した試験菌液を0.1ml滴下し、35±1℃で48時間培養後、9.9mlのSCDLP培地を用いて十分に洗い出しを行った後、段階希釈により1:10000希釈水まで希釈し、各希釈菌液を寒天平板培養法により35±1℃で24時間培養した結果、抗菌活性値が2.0以上となるように、浸漬時間、浸漬温度を調整するものであってもよい。
【0016】
[金属前駆体液]
上記金属前駆体液は、金属錯体および金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種と、アンモニアおよびアミンから選ばれる少なくとも1種と溶媒との混合液中で、金属錯体および金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種と、アンモニアおよびアミンから選ばれる少なくとも1種とを反応させて得られる。
【0017】
[金属錯体および金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種]
上記の金属錯体および金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種としては、1種または複数種類の金属錯体のみであってもよいし、1種または複数種類の金属塩のみであってもよいし、1種または複数種類の金属錯体と、1種または複数種類の金属塩との双方を含む混合物であってもよい。
【0018】
上記金属錯体としては、金属錯体を生成し得るNH配位子、RNH配位子(Rはアルキレン基を表す)、OH配位子、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等のジアミン由来の配位子を部分構造として有する化合物から選ばれる金属錯体形成用の化合物の1種以上と、金属イオンとの反応生成物であることが好ましい。金属錯体は、上記反応により予め生成された金属錯体を用いることができる。金属錯体における金属としては、形成される金属膜の目的に応じた金属を用いればよい。金属としては、例えば、銀(Ag)、銅(Cu)、リチウム(Li)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、コバルト(Co)等が挙げられる。金属錯体としては、具体的には、例えば、金属として銅(Cu)を含む、エチレンジアミン四酢酸銅、テトラアンミン銅等が好ましく挙げられる。
【0019】
上記金属塩としては、水を含む溶媒中で解離して金属イオンとなり、金属錯体を形成し得る機能を有する金属化合物である。上記金属塩は、25℃の水に可溶な金属塩を指す。25℃の水に可溶とは、25℃の水に対する溶解度が0.1質量%以上であることを指し、溶解度は1質量%以上であることが好ましい。金属塩が水に可溶であることで、金属塩は水を含む溶媒中で解離して金属イオンとなり、当該金属イオンが溶媒中に含まれるアミン類と反応して金属錯体が得られる。さらに、溶媒中に所望により後述の錯体形成用の化合物が含まれる場合には、当該金属イオンと錯体形成用の化合物とが反応して金属錯体が形成される場合がある。
【0020】
[アンモニアおよびアミンから選ばれる少なくとも1種]
上記のアンモニアおよびアミンから選ばれる少なくとも1種としては、1種または複数種類のアンモニアのみであってもよいし、1種または複数種類のアミンのみであってもよいし、1種または複数種類のアンモニアと、1種または複数種類のアミンとの双方を含む混合物であってもよい。これらは、塩化合物として含まれるものであってもよい。アミンとしては、第一級アミン、第二級アミン、および第三級アミンを包含する。具体的なアミンとしては、アルキルアミン等を挙げることができる。アミンに換えて、またはアミンに加えて、アンモニアを含むことができる。アンモニアとしては、アミンと同様に塩基性を有する各種のものを用いることができる。
【0021】
[溶媒]
上記溶媒としては、上記した金属錯体および金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種と、上記したアンモニアおよびアミンから選ばれる少なくとも1種とを溶解可能なものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、水、水とアルコールとの混合物などの水性溶媒を用いることができる。水は、不純物、特に金属イオン以外のイオンの含有量が少ないことが好ましく、そのような観点からは、精製水、イオン交換水、純水などを用いることが好ましい。アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-プロパノール、イソブタノール、n-ブタノール等の炭素数1~10の1価のアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン等の多価アルコールが挙げられる。
【0022】
溶解性およびハンドリング性の観点からは、水性溶媒として、水、または、水と炭素数1~5の1価のアルコールとの混合物が好ましく、水、または、水と、メタノール、エタノールおよびプロパノールから選ばれるアルコールと、の混合物がより好ましく、水がさらに好ましい。溶媒として、水とアルコールとの混合物を用いる場合の混合比率は目的に応じて適宜選択される。水とアルコールとの混合物を溶媒として用いる場合には、水とアルコールとの混合物全量に対するアルコールの含有量は1質量%~60質量%であることが好ましい。
【0023】
[金属前駆体液の調製]
上記金属前駆体液は、溶媒中に、上記した金属錯体および金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種と、上記したアンモニアおよびアミンから選ばれる少なくとも1種とを含有させ、十分に撹拌して混合することで調製することができる。
【0024】
混合は、常温で行ってもよく、溶解を促進する目的で、溶媒を40℃~60℃に加温して行ってもよい。撹拌方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、混合した溶液を容器に入れ、マグネチックスターラー等の回転子を用いて撹拌する方法、パドル等の回転式撹拌翼を備える撹拌装置にて撹拌する方法、密閉し得る容器に溶液を入れて、容器を振とうさせて撹拌する方法、超音波を照射する方法等、公知の撹拌方法を適用することができる。
【0025】
簡易な方法としては、撹拌翼を備えた撹拌装置を用いる方法が挙げられる。回転翼の回転速度は、300rpm(回転/分:以下同様)~800rpmとすることができ、400rpm~600rpmが好ましい。撹拌は、上記した金属錯体および金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種と、上記したアンモニアおよびアミンから選ばれる少なくとも1種との反応が十分に進行するまで行うことが好ましく、上記した、常温で回転翼を備えた撹拌装置で撹拌する場合には、30分間~90分間程度撹拌することが好ましく、50分間~80分間程度撹拌することがより好ましい。例えば、銅錯体を含む金属前駆体液を調製する場合、十分に撹拌された金属前駆体液は、銅イオンに起因して青色を呈する。
【0026】
上記した金属前駆体液の調製は、公知の分子プレカーサー法を適用して、得るものであってもよい。また、金属前駆体液の調製は、既述のように公知のプレカーサー法を適用することができるが、より純度の高い金属前駆体を得ることができるという観点から、以下の電解工程を含むことが好ましい。すなわち、この電解工程は、金属イオンを透過させず、水素イオンを透過させ得るフィルタを備えた流路を介して連結された一対の電解液槽を備える反応装置において、当該一対の電解液槽のそれぞれにアミンを含む電解液を貯留させ、かつ、金属製の一対の電極を、この電解液に少なくとも一部が接触する位置に配置し、この一対の電極間を、直流電源を介して接続する工程、および、一対の前記電極間に直流電源により電圧を印加して、陽極(アノード)となる電極が浸漬された電解液槽内において、電極である金属由来の金属イオンと電解液とを反応させて金属前駆体液を得る工程である。
【0027】
[有機還元剤]
上記有機還元剤としては、カルボキシ基を有する化合物から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。有機還元剤として、分子内にカルボキシ基を有し、還元剤としての機能を有する有機カルボン酸化合物から適宜選択して用いることが好ましい。
【0028】
有機還元剤としては、例えば、アスコルビン酸、クエン酸、シュウ酸、ギ酸、および3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸等から選ばれる少なくとも1種が挙げられ、金属膜片の形成性がより良好であるという観点からは、アスコルビン酸、クエン酸、および3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、アスコルビン酸およびクエン酸から選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。有機還元剤としてアスコルビン酸を含むことが、金属膜片形成用組成物の好ましい態様の一つとして挙げられる。
【0029】
有機還元剤は水溶液として用いられることが好ましい。水溶液の調製に用いられる水は、金属イオンを含まないか、或いは、金属イオン濃度ができるだけ低いことが、得られる金属膜の均一性の観点から好ましく、したがって、水溶液の調製に用いられる水は、精製水、イオン交換水、純水などを用いることが好ましい。有機還元剤を水に溶解する際には、溶解性を向上させる目的で、溶媒である水を30℃~60℃に加温してもよく、35℃~45℃に加温することが好ましい。溶解は、撹拌しながら行ってもよく、撹拌方法は、既述の金属錯体の溶液の調整方法の項で挙げた撹拌方法を同様に適宜、適用することができる。
有機還元剤の水溶液における特定還元剤の含有量は、10質量%~40質量%の範囲が好ましく、10質量%~30質量%の範囲であることがより好ましい。水溶液全量に対する有機還元剤の含有量が10質量%以上であることで、水溶液に反応に十分な有機還元剤が含まれることになり、含有量が40質量%以下であることで、水溶液の安定性がより良好となる。
【0030】
[金属膜片形成用組成物の調製]
金属膜片形成用組成物は、金属前駆体液と有機還元剤とを混合して得られるが、この際、金属前駆体液と有機還元剤との混合比については、特に限定されるものではなく、目的とする金属に応じて適宜選択することができる。金属膜片形成用組成物に含まれる有機還元剤100質量部に対し、金属前駆体液に含まれる金属イオンが30質量部~400質量部とすることができ、なかでも、得られる金属膜片形成用組成物の金属膜片の形成性が良くなってしまうと、意匠性や風合いを阻害することなく、良好な抗菌結果を得るといった本来の目的から外れてしまうので、当該金属膜片の形成性を進め過ぎないという観点からは、有機還元剤100質量部に対し、金属前駆体液に含まれる金属イオンが30質量部~350質量部であることが好ましく、有機還元剤100質量部に対し、金属前駆体液に含まれる金属イオンが30質量部~250質量部とすることがより好ましい。
【0031】
金属膜片形成用組成物の調製における金属前駆体液の含有量は、金属前駆体液を調製する際の、金属錯体の種類と含有量、または、上記した金属前駆体液の調製時の電解工程における電解液の種類、電解液の濃度、直流電流の印加エネルギー、印加時間などを調整することで制御することができる。
【0032】
一般に、金属膜片形成用組成物全量に対する特定の金属化合物の含有量を測定することは困難である。しかし、金属膜片形成用組成物により形成される金属膜片の物性は、金属膜片形成用組成物における金属の含有量に依存する。安定した金属膜片を形成するという観点からは、金属膜片形成用組成物全量に対する金属の含有量は、0.5質量%~10質量%の範囲であることが好ましく、1質量%~8質量%の範囲であることがより好ましい。 金属の含有量が上記範囲であることで、金属膜片形成用組成物により形成される金属膜片の組織がより均一となり、安定した金属膜片を形成することができる。
【0033】
金属膜片形成用組成物中の金属の含有量は、例えば、「錯体化学の基礎 ウェルナー錯体と有機金属錯体」(KS化学専門書:講談社、1989年)に記載の方法で測定することができる。
【0034】
金属膜片形成用組成物における特定還元剤の含有量は、例えば、以下の方法により測定することができる。まず、金属膜片形成用組成物を乾燥させて粉末を作製する。得られた粉末を、熱重量示差熱分析装置(Thermogravimeter-Differential Thermal Analyzer:TG-DTA)を用いて分析することで、特定還元剤の含有量を測定することができる。
【0035】
金属膜片形成用組成物の常温(25℃)におけるpHは6~8が好ましく、pH7.5近傍の中性域がより好ましい。pHは、公知のpHメーターにて測定することができる。
【0036】
[布]
布としては、織布または不織布の何れであってもよい。織布の場合、壁や天井等の内装に貼るような各種建築内装材の織布であってもよいし、網戸に使用するような網目状になった網であってもよい。また、カーテン、絨毯、マット、椅子、衣類などの各種織布であってもよい。不織布の場合も、壁や天井などの内装に貼るような不織布であってもよいし、襖、障子、照明のシェードに使用するような不織布であってもよい。織布または不織布を構成する繊維のフィラメントとしては、ガラス繊維などの無機繊維であってもよいし、PET、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)等のポリエチレン、ポリカーボネート(PC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート(PMMA)などのアクリル樹脂、ナイロン6などのポリアミド、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、カーボン繊維などの有機繊維であってもよいし、シルク、コットン、セルロース、麻などの天然繊維であってもよい。また、これら各フィラメントの組み合わせで構成されたものであってもよい。また、布は、加工前の素材の状態のものであってもよいし、既に椅子にあうように加工されたりした加工後のものであってもよい。
【0037】
[金属膜片形成布の製造]
上記金属膜片形成布は、上記金属膜片形成用組成物に、布を浸漬し、乾燥することによって、少なくとも布を構成する各フィラメントの表面に、金属膜片を分散して形成した状態に製造される。この際、浸漬時間、浸漬温度、浸漬および乾燥回数は、完成された金属膜片形成布の25mm角の範囲で縦3列横3列の均等間隔の9点で測定した色差の平均を1.3以上6.5以下とするものであれば、特に限定されるものではなく、浸漬時間、浸漬温度、浸漬および乾燥回数についてそれぞれバッチ試験を行い、該当する条件を満たした浸漬時間、浸漬温度等を採用することができる。この際、色差の平均を1.3以上6.5以下とするものであれば、特に限定されるものではないが、好ましくは1.3以上3.0以下、さらに好ましくは1.3以上1.5以下が良い。色差が1.3未満の場合は十分な抗菌効果が得られない。色差が1.3以上1.5以下であれば、同色として全く問題なく使用することができ、1.3以上3.0以下の範囲であれば、離れて見た場合や、色によっては全く同色として判断することができる。色差が1.3より上昇すれば抗菌効果は上昇するが、色差が3.0を超えると、彩度や明度が低い場合は問題無いが、元の布の彩度や明度が高い場合は、金属膜片の付着によって布に着色されたことが明らかになってしまう。また、色差が3.0を超えても、所望の抗菌効果は色差が1.3以上で得られるため、効果が飽和して無駄になってしまう。したがって、より強い抗菌効果を求めるのであれば、色差6.5以下の範囲までであれば、金属膜片を付着させても良い。色差6.5以下であれば、色彩管理でB級許容差として同色で認められる範囲で納めることができ、かつ、平面の2点間での電気抵抗を100MΩ以上に保つことかできる。
【0038】
上記金属膜片形成用組成物に、布を浸漬する際、色差をコントロールするためには、冷却して低温にした金属前駆体液と、同じく冷却して低温にした有機還元剤とを混合して低温の金属膜片形成用組成物とし、この低温の金属膜片形成用組成物に布を浸漬することが好ましい。浸漬する際の金属膜片形成用組成物の温度が高いと、反応が促進されてしまうためである。例えば、後述する実施例では、2℃に冷却した金属前駆体液と、2℃に冷却した有機還元剤とを20分間混合して得られた金属膜片形成用組成物は20℃であった。この場合、1時間前後の浸漬で色差1.3が得られ、2時間未満で上記した所望の色差の範囲に色差をコントロールすることができる。使用する金属前駆体液と有機還元剤とによってはこの時間は多少前後するが、おおよそ同じような時間で色差をコントロールすることができる。この際、冷却は、冷却して低温にした金属前駆体液と、同じく冷却して低温にした有機還元剤とが凍結しない温度であれば、特に限定されるものではなく、一般的な冷蔵温度0~5℃であってもよいし、それよりも低温であってもよい。
【0039】
浸漬時間の上限には特に制限は無いが、浸漬時間が2時間を超えると金属膜片の付着量が増えて来ることとなるので、金属膜片形成布による抗菌効果は向上する。しかし、金属膜片が付着し過ぎると、布の色差が大きくなり過ぎてしまい、金属膜片による着色が目立ってしまう。それと同時に、金属膜片形成布が、付着された金属膜片によって一つの導体となってしまい、当該金属膜片形成布の一部で電位を生じると、他の部位では抗菌作用を発揮できなくなってしまう。したがって、金属膜片形成用組成物に布を浸漬する浸漬時間や浸漬温度は、完成された金属膜片形成布の平面の2点間での電気抵抗が100MΩ以上となるようにすることが好ましい。これらを勘案すると、浸漬時間としては、1時間から2時間、それ以上については電気抵抗100MΩ以上となるようにすれば制限は無いが、生産性の観点からすると24時間以内、好ましくは8時間以内とすることが良い。
【0040】
その他、場合によっては、減圧環境下、加圧環境下で浸漬するものであってもよい。
【0041】
浸漬した後の乾燥は、一般的に行われている自然乾燥、加熱乾燥、送風乾燥などの常法により行うことができる。自然乾燥する場合には、室温にて所望の時間静置すればよい。加熱乾燥する場合には、公知の加熱手段を適宜選択して適用することができる。加熱方法としては、例えば、基材裏面からプレート状ヒーター、ヒートロール等の加熱手段を接触させる方法、電気炉等の加熱ゾーンを通過させる方法、赤外線、マイクロ波等のエネルギー線を照射する方法、温風を吹き付ける方法等が挙げられる。加熱乾燥の際の加熱温度には特に制限はない。乾燥効率および基材に対する影響の抑制等を考慮すれば、加熱温度は30℃以上100℃未満の範囲とすることができ、30℃~60℃の範囲とすることが好ましい。加熱乾燥する際の乾燥時間は、生産性の観点からは、数十秒から数十分間の範囲であることが挙げられるが、特に限定されるものではなく、乾燥時間によって性能が発揮されるような場合には数時間に及ぶものであってもよい。送風乾燥する場合は、環境雰囲気下の空気を送風乾燥するものであっても良いし、前記したように熱風を吹きつけることによって送風乾燥するものであってもよい。これら自然乾燥、加熱乾燥、送風乾燥などは複数を組み合わせて行うものであってもよい。
【0042】
金属膜片形成用組成物による金属膜片を構成する金属の付着量としては、特に限定されるものではないが、実際、金属膜片形成布は、内装材として構成した場合、長期間に渡って使用されることとなる。しかし一方で、金属の付着量が多くなると色差が大きくなり、金属を付着させたことが明らかになってしまい意匠性を損なってしまう。したがって、所望の抗菌効果を得ることができ、かつ、できるだけ少ない量の金属の付着量で金属膜を形成することが、金属膜片形成布としては最も効率的である。具体的には上記したように25mm角の範囲で縦3列横3列の均等間隔の9点で測定した色差の平均が1.3以上6.5以下、好ましくは1.3以上3.0以下、より好ましくは1.3以上1.5以下で、かつ、平面の2点間の電気抵抗が100MΩ以上となる条件が望ましいが、このような金属の付着量であれば、1時間~2時間程度の短い浸漬時間で容易に満たすことができるので、後述する実施例に係る金属膜片形成用組成物の場合、普通に1回の浸漬および乾燥を行うだけで達成することができる。
【0043】
金属膜片形成布に形成された金属膜片の分散状態としては、金属膜片形成布の平面の2点間での電気抵抗が100MΩ以上の非導電性となっていることで確認することができるが、理想的には布の表面から内部まで、少なくとも当該布を構成する各フィラメントに対して均等に金属膜片が分散状態となって形成されていることが好ましい。布を金属膜片形成用組成物に浸漬する場合、布の表面から内部まで、当該布を構成する各フィラメントの表面全体に均等に金属膜片形成用組成物を接触させることができるので、上記した均等な分散状態を容易に得ることができる。
【0044】
なお、抗菌効果は、形成された金属膜片を構成する金属分子の自由電子が自由に移動できることが重要だが、図2(a)に示すように、電気伝導性が確保されて金属膜bが布cの全体に形成された金属膜形成布aのように一つの導体となってしまうと、図2(b)に示すように、当該金属膜形成布aの一部が電位差を生じるような環境に置かれた場合、金属膜bを構成する金属分子dの周囲の自由電子eの動きが阻害されてしまい、抗菌効果を発揮できなくなることが懸念されるが、図1(a)に示す金属膜片形成布1のように、布2に金属膜片3が分散して形成された状態であれば、分散した各金属膜片3の形成領域では、電気伝導性が独立しているので、各金属膜片3を構成する金属分子31の周囲の自由電子32の動きが確保される。そのため、図1(b)に示すように、当該金属膜片形成布1の金属膜片3を形成した一部の領域が、電位差を受けて自由電子32の動きが阻害されるような環境に置かれたとしても、金属膜片3を形成した他の各領域では、金属膜片3を構成する金属分子31の周囲の自由電子32の動きが阻害されることはなく、抗菌効果を発揮することができることとなる。したがって、布2に金属膜片3を分散状態で形成することができていれば、優れた抗菌性が得られることとなる。金属膜片形成布1の一部の領域が電位差を受ける環境としては、例えば、この金属膜片形成布1を内装材として貼設している壁面に、金属製の押しピンやビスなどが設けられており、これら押しピンやビスの電位が、金属膜片形成布1と電位が異なる電気伝導体によって構成されていて、金属膜片形成布1の一部に接触している場合等が考えられる。
【0045】
抗菌効果は、生菌数が増殖せず減少する方向に働くのであれば即効性が無くても経時的に減るので、抗菌効果としては、生菌数が減少する方向であれば有効であると考えられる。本発明では48時間での抗菌活性値2.0以上を設定している。
【0046】
このようにして構成される本発明の金属膜片形成布は、25mm角の範囲で縦3列横3列の均等間隔の9点で測定した色差の平均が1.3以上6.5以下、好ましくは色差が1.3以上3.0以下、より好ましくは1.3以上1.5以下で、かつ、平面の2点間の電気抵抗が100MΩ以上となるように金属膜片を形成しているだけなので、例えば、金属膜片形成用組成物に布を1回浸漬して乾燥させただけの簡単な製法で製造でき、しかも、1回浸漬して乾燥させるだけで、金属膜片を形成する際に使用する金属の量も少ないので、安価に製造することができる。
【0047】
また、金属膜片形成布は、所定範囲の色差にすることで、意匠性を損なうこともなく、少なくとも布を構成する各フィラメントの表面に金属膜片を分散状態で形成することで、各金属膜片の形成領域で金属分子の自由電子の動きが確保されるので、優れた抗菌性が得られる。
【0048】
また、金属膜片形成布は、所定範囲の色差にすることで、少なくとも布を構成する各フィラメントの表面に金属膜片を分散状態で形成しているので、布の素材が本来有している柔軟性や可撓性等の風合いを阻害することなく使用することができる。
【0049】
なお、上記の説明では、金属膜片形成用組成物に布を浸漬しているが、金属膜片形成用組成物を布に付着させる方法としては、特に浸漬する方法に限定されるものではなく、ロールコート、フローコート、スプレーコートなどによって塗布するものであってもよい。ただし、これらの塗布方法の場合、布の表面には塗布され易いが、内部には塗布され難くなるため、布の表面および内部の全てにおいて、当該布を構成する各フィラメントの表面に金属膜片を分散状態で形成することが困難になることが懸念される。しかし、仮にそのようなことになったとしても、金属膜片形成布の平面の2点間での電気抵抗が100MΩ以上で、かつ、所定の抗菌力試験において抗菌活性値2.0以上の金属膜片形成不織布が得られることが確認できれば、金属膜片は、必要な分散状態で形成されていると判断することができる。
【発明の効果】
【0050】
以上述べたように、本発明によると、金属錯体および金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種とアンモニアおよびアミンから選ばれる少なくとも1種との反応生成物を有する金属前駆体液と、有機還元剤と、が含有されてなる金属膜片形成用組成物に、布を浸漬した後、乾燥させ、25mm角の範囲で縦3列横3列の均等間隔の9点で測定した色差の平均を1.3以上6.5以下とすることで、布の意匠性や風合いを損なうことなく抗菌効果を発揮することができる。また、この色差の平均を3.0以下とすることで、さらに厳格な色評価の布であっても、布の意匠性を損なうことなく抗菌効果を発揮することができる。さらに、平面の2点間での電気抵抗が100MΩ以上とすることで、布を構成する各フィラメントに付着した各金属分子は、金属膜片単位で個々に電子のやり取りを行うことができることとなるので、この金属膜片を形成した金属膜片形成布全体は、当該金属膜片形成布の如何なる部位でも均等に優れた抗菌作用を発揮することができることとなる。しかも、この金属膜片形成布に形成した金属膜片は、電気伝導性を確保するような緻密な金属膜ではないので、コストもかからず、簡単に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
図1】(a)は金属膜片形成布の全体構成の概略を示す部分断面図、(b)は同金属膜片形成布における電子の動きを説明する部分拡大図である。
図2】(a)は従来の金属膜形成布の全体構成の概略を示す部分断面図、(b)は同金属膜形成布における電子の動きを説明する部分拡大図である。
図3】光電比色計による吸収係数とNBRC3972(Escherchia coli)大腸菌の菌濃度との関係を示すグラフである。
図4】金属膜片形成布における色差の測定部位を説明する概略図である。
図5】実施例および比較例に係る金属膜片形成不織布における金属膜片形成用組成物の浸漬時間と、得られた金属膜片形成不織布の色差との関係を示すグラフである。
図6】実施例および比較例に係る金属膜片形成不織布の色差と抗菌活性値との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0052】
[実施例1~13、比較例1~4]
(1.銅錯体水溶液の調製)
ギ酸銅四水和物13.38gに水160gと25%アンモニア水24.47gを加え、室温24.0℃で1時間撹拌しCu2+濃度が0.30mmol/gの銅錯体水溶液198gを調製した。得られた金属前駆体の溶液は、目視による観察で深青色を呈していた。
【0053】
(2.アスコルビン酸水溶液の調製)
アスコルビン酸31gに水124gを加え、室温24.0℃で30分間撹拌してアスコルビン酸濃度が1.14mmol/gのアスコルビン酸水溶液155gを調製した。無色透明のアスコルビン酸水溶液を得た。
【0054】
(3.金属膜片形成用組成物の調製)
(1.)で得た金属前駆体液と、(2.)で得たアスコルビン酸水溶液とをそれぞれ2℃まで冷却し、アスコルビン酸水溶液100質量部に対し、金属前駆体液が127.74質量部となる比率で混合し、室温にて20分間撹拌混合して金属膜片形成用組成物を得た。混合した直後は、混合液は深緑色を呈していたが、混合を継続したところ、20分後には、得られた金属形成用組成物は黄色に変化した。
【0055】
(4.金属膜片形成用組成物の基材への付与)
ガラス製のスクリュー管瓶13.5ml(Φ14.5mm×Φ24mm×50mm)に、不織布(前田工繊社製 商品名スプリトップSP-1200E)を25mm×25mmのサイズに切断し、管内に入れたものを複数用意した。
これらの瓶に、上記で得た金属膜片形成用組成物を13.5ml注入して不織布を浸漬した状態にした後、蓋をしてパラフィルムで密閉し、23.0℃で静置した。10分~180分の異なる静置時間後にそれぞれの不織布を瓶から取り出し、純水で洗浄した後、水分をブロワーで飛ばした後、70℃にて24時間乾燥させ、表面に銅が付着された金属膜片形成不織布を得た。
【0056】
[銅の評価]
(1.付着状況について)
色彩色差計(コニカミノルタ製 CM-5)を用い、各金属膜片形成不織布のL色空間の値を測定した。色彩色差計の測定径はφ8mm、測定点は、図4に示すように、25mm角の範囲で縦3列横3列の均等間隔の9点で測定した。
色差ΔEabは、基準の空間の値を(L,a,b)とし、測定した各試験片の色空間を(L,a,b)とすると、下記の式(1)で算出される。
【0057】
【数1】
銅を付着する前の不織布の9点の測定値の平均値を基準値とし、各金属膜片形成不織布との色差を、式(1)を用いて算出した。結果を表1および図5に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
(2.導電性の評価)
デジタルマルチメータ(Keysight Technologies 社製34401A)を用いて各金属膜片形成不織布の平面の2点間の抵抗値の測定を行った。その結果、測定限界の100MΩを超えてしまう高抵抗を示し、導電性は得られなかったことが確認できた。
【0060】
(3.抗菌性の評価)
上記実施例1で得られた金属膜片形成不織布は、以下の抗菌力試験を行った。
比較対象として銅を付着する前の不織布(比較例1)を用いて同じ抗菌力試験を行った。
抗菌力試験の試験菌としては、独立行政法人製品評価技術基盤機構から入手したNBRC3972(Escherchia coli)大腸菌を用いた。菌液の濃度は、9×10~3×10cfu/mlとなるように、リン酸緩衝液を用いて調製した。これまでの実績から、光電比色計(株式会社アペレ社製AP-120)を用いて測定した吸収係数(Abs)と、菌濃度(cfu/ml)との間には、図3に示すような結果が得られている。したがって、吸収係数が0.065および0.170となるように調製し(9×10~3×10cfu/ml)、これを1/100にすることで、9×10~3×10cfu/mlの菌液を調製した。
金属膜片形成不織布は、紫外線照射により両面の殺菌処理を行った。この殺菌処理した試験片を、滅菌済のシャーレに入れ、この試験片に、上記9×10~3×10cfu/mlの濃度に調製した試験菌液を0.05mlの量で2回の合計0.1mlを滴下した。
35±1℃で48時間培養した後、試験片を滅菌済のストマッカー袋に入れ、9.9mlのSCDLP培地(日本製薬株式会社製)を用いて、十分に洗い出しを行った。
生菌数の確認は、寒天平板培養法により行い、段階希釈により、1:10000希釈水まで確認した。各希釈菌液をペトリフィルム(キッコーマンバイオケミファ社製 EasyPlate 大腸菌・大腸菌群数測定用 EC 61975)に1mlずつ取り出し、インキュベータ内で35℃±1℃の温度で24時間培養した。
各希釈倍率の中から、測定に適したフィルム(発育したコロニー数が約30~300cfu程度)を選定し、コロニー数の測定を行い、抗菌活性値を求めた。
結果を表2および図6に示す。
【0061】
【表2】
【0062】
表1において、生菌数および抗菌活性値は、次式により算出した。
[生菌数]
N=C×D×V
N:生菌数、C:シャーレ内のコロニー数、D:希釈倍率、V:SCDLP培地量
[抗菌活性値]
抗菌活性値 R = (U-U) - (A-U)
: 無加工試験片の接種直後の生菌数の対数値の平均値
: 無加工試験片の48時間後の生菌数の対数値の平均値
: 抗菌加工試験片の48時間後の生菌数の対数値の平均値
【0063】
以上の結果から、実施例に係る銅を付着させた金属膜片形成不織布は、抗菌活性値が2.0以上の優れた抗菌力を得ることができた。
【0064】
なお、本発明は、その精神または主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施することができる。そのため、上述の実施例はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示すものであって、明細書本文には、なんら拘束されない。さらに、特許請求の範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【符号の説明】
【0065】
1 金属膜片形成布
2 布
3 金属膜片
31 金属分子
32 自由電子
図1
図2
図3
図4
図5
図6