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特開2025-14882無線通信システム、無線通信装置、無線通信方法および無線通信用プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025014882
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】無線通信システム、無線通信装置、無線通信方法および無線通信用プログラム
(51)【国際特許分類】
   H04L 27/01 20060101AFI20250123BHJP
【FI】
H04L27/01
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023117816
(22)【出願日】2023-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栗山 圭太
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 仁
(72)【発明者】
【氏名】宮城 利文
(72)【発明者】
【氏名】前原 文明
(57)【要約】
【課題】この開示は、ナイキスト基準によるシンボルインターバルの限界を超える高速伝送の実現に好適な無線通信システムに関し、雑音の白色化を仮定した等化と雑音の有色化を考慮した等化とを適宜切り替えてFTN伝送に適用することで、高い通信品質と消費電力の抑制とを効率的に両立することを目的とする。
【解決手段】前記送信局は、所要伝送容量に基づいて圧縮率τを決定し(ステップ100)、圧縮率τのFTN伝送により無線信号を送信する。雑音の白色性を仮定した白色等化処理と、雑音の有色性を考慮した有色等化処理との、圧縮率τの下での優劣を判定する(ステップ102)。判定結果に従う手法を選択して(ステップ104、106)、その結果を受信局に通知する。受信局は、通知を受けた手法で、受信信号に等化処理を施す。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信局と受信局とを含む無線通信システムであって、
前記送信局は、
送信データの所要伝送容量に基づいて、ナイキスト基準に従う基準シンボルインターバルTに掛け合わせる圧縮率τを決定する処理と、
前記基準シンボルインターバルTに前記圧縮率τを掛け合わせたFTNシンボルインターバルτTで、前記受信局に向けてFTN伝送により無線信号を送信する処理と、
前記無線信号に重畳する雑音の白色性を仮定した白色等化処理と、前記雑音の有色性を考慮した有色等化処理との、前記圧縮率τの下での省電力性に関する優劣を判定する優劣判定処理と、
前記白色等化処理と前記有色等化処理のうち省電力性に優れた手法を選択して前記受信局に通知する処理と、を実行するように構成され、
前記受信局は、
前記無線信号を受信する処理と、
前記白色等化処理および前記有色等化処理のうち、前記通知が示す手法により受信した前記無線信号に等化処理を施す処理と、を実行するように構成されている
無線通信システム。
【請求項2】
前記優劣判定処理は、
前記白色等化処理と前記有色等化処理のそれぞれについて、等化処理の実施に伴う消費電力を算出する処理と、
前記白色等化処理と前記有色等化処理のそれぞれについて、前記圧縮率τのもとで所望の通信品質を得るための所要CNRを算出する処理と、
前記白色等化処理についての前記消費電力及び前記所要CNRと、前記有色等化処理についての前記消費電力及び前記所要CNRとに基づいて、前記優劣を判定する判定処理と、
を含む請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項3】
前記判定処理は、
前記有色等化処理の実施に伴う前記消費電力と前記白色等化処理の実施に伴う前記消費電力との差ΔBBを算出する処理と、
前記白色等化処理についての前記所要CNRと前記有色等化処理についての前記所要CNRとの差ΔCNRを算出する処理と、
前記ΔBBと前記ΔCNRとの比較に基づいて、前記優劣を判定する処理と、
を含む請求項2に記載の無線通信システム。
【請求項4】
前記判定処理は、
前記有色等化処理の実施に伴う前記消費電力と前記白色等化処理の実施に伴う前記消費電力との差ΔBBを算出する処理と、
前記白色等化処理についての前記所要CNRを充足するための送信電力と、前記有色等化処理についての前記所要CNRを充足するための送信電力との差ΔPtを算出する処理と、
前記ΔBBと前記ΔPtとの比較に基づいて、前記優劣を判定する処理と、
を含む請求項2に記載の無線通信システム。
【請求項5】
前記送信局は、
前記白色等化処理と前記有色等化処理のそれぞれについて、前記圧縮率τのもとで所望の通信品質を得るための所要CNRを算出する処理と、
送信中の前記無線信号について、平均CNRを取得する処理と、
前記平均CNRが、前記白色等化処理と前記有色等化処理のうち選択されたものについての前記所要CNRを下回らない範囲で、送信電力の低減を繰り返す処理と、
を更に実行するように構成されている請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項6】
受信局に向けて無線信号を送信する機能を有する無線通信装置であって、
送信データの所要伝送容量に基づいて、ナイキスト基準に従う基準シンボルインターバルTに掛け合わせる圧縮率τを決定する処理と、
前記基準シンボルインターバルTに前記圧縮率τを掛け合わせたFTNシンボルインターバルτTで、前記受信局に向けてFTN伝送により無線信号を送信する処理と、
前記無線信号に重畳する雑音の白色性を仮定した白色等化処理と、前記雑音の有色性を考慮した有色等化処理との、前記圧縮率τの下での省電力性に関する優劣を判定する処理と、
前記白色等化処理と前記有色等化処理のうち省電力性に優れた手法を選択して前記受信局に通知する処理と、を実行するように構成された無線通信装置。
【請求項7】
送信局と受信局との間で無線通信を行なうための無線通信方法であって、
前記送信局が、送信データの所要伝送容量に基づいて、ナイキスト基準に従う基準シンボルインターバルTに掛け合わせる圧縮率τを決定することと、
前記送信局が、前記基準シンボルインターバルTに前記圧縮率τを掛け合わせたFTNシンボルインターバルτTで、前記受信局に向けてFTN伝送により無線信号を送信することと、
前記送信局が、前記無線信号に重畳する雑音の白色性を仮定した白色等化処理と、前記雑音の有色性を考慮した有色等化処理との、前記圧縮率τの下での省電力性に関する優劣を判定することと、
前記送信局が、前記白色等化処理と前記有色等化処理のうち省電力性に優れた手法を選択して前記受信局に通知することと、
前記受信局が、前記無線信号を受信することと、
前記受信局が、前記白色等化処理および前記有色等化処理のうち、前記通知が示す手法により受信した前記無線信号に等化処理を施すことと、
を含む無線通信方法。
【請求項8】
無線通信装置に、受信局に向けて無線信号を送信させるための無線通信用プログラムであって、
前記無線通信装置に、
送信データの所要伝送容量に基づいて、ナイキスト基準に従う基準シンボルインターバルTに掛け合わせる圧縮率τを決定する処理と、
前記基準シンボルインターバルTに前記圧縮率τを掛け合わせたFTNシンボルインターバルτTで、前記受信局に向けてFTN伝送により無線信号を送信する処理と、
前記無線信号に重畳する雑音の白色性を仮定した白色等化処理と、前記雑音の有色性を考慮した有色等化処理との、前記圧縮率τの下での省電力性に関する優劣を判定する処理と、
前記白色等化処理と前記有色等化処理のうち省電力性に優れた手法を選択して前記受信局に通知する処理と、
を実行させるコンピュータ読み取り可能なプログラムを含む無線通信用プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この開示は、無線通信システム、無線通信装置、無線通信方法および無線通信用プログラムに係り、特に、ナイキスト基準によるシンボルインターバルの限界を超える高速伝送の実現に好適な無線通信システム、無線通信装置、無線通信方法および無線通信用プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
下記の非特許文献1には、ナイキスト基準によるシンボルインターバルの限界を超える高速伝送を可能とするFTN(Faster-Than-Nyquist)に関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】T, Ishihara, S. Sugiura, and L. Hanzo, “The evolution of faster-than-Nyquist signaling,” IEEE Access, vol. 9, pp. 86535-86564, June 2021.
【0004】
図1は、ナイキスト伝送によりシンボルが伝送される様子を示している。ナイキスト伝送では、時間領域で互いに直交関係にあるシンボルによりデータが伝送される。図示の通り、この場合、伝送波の周期の1/2がシンボルインターバルTとなる。
【0005】
図2は、FTN伝送によりシンボルが伝送される様子を示している。ここでは、圧縮率τ=0.82である場合を例示している。シンボルインターバルは、ナイキスト伝送でのシンボルインターバルTに圧縮率τを掛け合わせた時間となる。FTN伝送では、時間領域におけるシンボルの関係が非直交となるが、単位時間内に伝送できるシンボルの数をナイキスト伝送の場合に比して増やすことができる。このため、FTN伝送によれば、ナイキスト伝送の場合に比して高い伝送レートを得ることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、無線通信によって授受される信号には、伝送路の特性に応じた影響が及ぶことがある。この場合、受信局では、その影響を排除して信号を適切に復元するための等化処理が実施される。
【0007】
無線通信がナイキスト伝送により行われる場合は、受信信号に、いわゆる白色雑音、つまり、パワースペクトルの全域で同程度の強度を示す雑音が重畳する。この場合、比較的簡単な処理で高精度な等化を実現することができる。
【0008】
一方、無線通信がFTN伝送で実施される場合は、雑音のパワースペクトルの密度が平坦でなくなる現象、つまり、いわゆる雑音の有色化が生ずる。この場合、高度な等化を実現するためには、雑音が白色である場合に比して複雑な演算処理が必要となる。
【0009】
上記の事情から、FTN伝送で無線通信が行われる場合に、雑音の白色化を仮定して等化処理を実施すれば、演算負荷は抑え得る一方、等化の精度が劣化する事態が生ずる。演算負荷の軽減は、演算に要する消費電力の軽減につながる。他方、等化精度の劣化は、所望の通信品質を得るための所要CNR(Carrier-to-Noise Ratio)の上昇につながる。このため、FTN伝送において雑音の白色化を仮定した等化処理を実施すると、ベースバンド消費電力は軽減できる一方、大きな所要CNRを得るために大きな送信電力が必要になるという事態が生ずる。
【0010】
これに対して、FTN伝送による無線通信に、雑音の有色化を考慮した等化を組み合わせると、演算負荷は高まるが、等化の精度を高めることができる。従って、この場合は、ベースバンド消費電力が大きくなる一方、所要CNRが小さいため、送信電力は小さく抑え得るという事態が生ずる。
【0011】
以上説明した通り、FTN伝送で無線通信を行なう場合、雑音の白色化を仮定した等化処理を実施する場合と、雑音の有色化を考慮した等化処理を実施する場合の双方において、それぞれ消費電力に関連するトレードオフが生ずる。このため、どちらの等化処理を無線通信に組み込んだとしても、様々な状況の下で、常に最小の消費電力で最高の通信品質を得ることは困難であった。
【0012】
この開示は、上述の課題を解決するため、雑音の白色化を仮定した等化と雑音の有色化を考慮した等化とを適宜切り替えてFTN伝送に適用することで、高い通信品質と消費電力の抑制とを効率的に両立する無線通信システムを提供することを第1の目的とする。
【0013】
また、この開示は、雑音の白色化を仮定した等化と雑音の有色化を考慮した等化とを適宜切り替えてFTN伝送に適用することで、高い通信品質と消費電力の抑制とを効率的に両立する無線通信装置を提供することを第2の目的とする。
【0014】
また、この開示は、雑音の白色化を仮定した等化と雑音の有色化を考慮した等化とを適宜切り替えてFTN伝送に適用することで、高い通信品質と消費電力の抑制とを効率的に両立するための無線通信方法を提供することを第3の目的とする。
【0015】
また、この開示は、雑音の白色化を仮定した等化と雑音の有色化を考慮した等化とを適宜切り替えてFTN伝送に適用することで、高い通信品質と消費電力の抑制とを効率的に両立するための無線通信用プログラムを提供することを第4の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
第1の態様は、上記の目的を達成するため、送信局と受信局とを含む無線通信システムであって、
前記送信局は、
送信データの所要伝送容量に基づいて、ナイキスト基準に従う基準シンボルインターバルTに掛け合わせる圧縮率τを決定する処理と、
前記基準シンボルインターバルTに前記圧縮率τを掛け合わせたFTNシンボルインターバルτTで、前記受信局に向けてFTN伝送により無線信号を送信する処理と、
前記無線信号に重畳する雑音の白色性を仮定した白色等化処理と、前記雑音の有色性を考慮した有色等化処理との、前記圧縮率τの下での省電力性に関する優劣を判定する優劣判定処理と、
前記白色等化処理と前記有色等化処理のうち省電力性に優れた手法を選択して前記受信局に通知する処理と、を実行するように構成され、
前記受信局は、
前記無線信号を受信する処理と、
前記白色等化処理および前記有色等化処理のうち、前記通知が示す手法により受信した前記無線信号に等化処理を施す処理と、を実行するように構成されていることが望ましい。
【0017】
また、第2の態様は、受信局に向けて無線信号を送信する機能を有する無線通信装置であって、
送信データの所要伝送容量に基づいて、ナイキスト基準に従う基準シンボルインターバルTに掛け合わせる圧縮率τを決定する処理と、
前記基準シンボルインターバルTに前記圧縮率τを掛け合わせたFTNシンボルインターバルτTで、前記受信局に向けてFTN伝送により無線信号を送信する処理と、
前記無線信号に重畳する雑音の白色性を仮定した白色等化処理と、前記雑音の有色性を考慮した有色等化処理との、前記圧縮率τの下での省電力性に関する優劣を判定する処理と、
前記白色等化処理と前記有色等化処理のうち省電力性に優れた手法を選択して前記受信局に通知する処理と、を実行するように構成されていることが望ましい。
【0018】
また、第3の態様は、送信局と受信局との間で無線通信を行なうための無線通信方法であって、
前記送信局が、送信データの所要伝送容量に基づいて、ナイキスト基準に従う基準シンボルインターバルTに掛け合わせる圧縮率τを決定することと、
前記送信局が、前記基準シンボルインターバルTに前記圧縮率τを掛け合わせたFTNシンボルインターバルτTで、前記受信局に向けてFTN伝送により無線信号を送信することと、
前記送信局が、前記無線信号に重畳する雑音の白色性を仮定した白色等化処理と、前記雑音の有色性を考慮した有色等化処理との、前記圧縮率τの下での省電力性に関する優劣を判定することと、
前記送信局が、前記白色等化処理と前記有色等化処理のうち省電力性に優れた手法を選択して前記受信局に通知することと、
前記受信局が、前記無線信号を受信することと、
前記受信局が、前記白色等化処理および前記有色等化処理のうち、前記通知が示す手法により受信した前記無線信号に等化処理を施すことと、
を含むことが望ましい。
【0019】
また、第4の態様は、無線通信装置に、受信局に向けて無線信号を送信させるための無線通信用プログラムであって、
前記無線通信装置に、
送信データの所要伝送容量に基づいて、ナイキスト基準に従う基準シンボルインターバルTに掛け合わせる圧縮率τを決定する処理と、
前記基準シンボルインターバルTに前記圧縮率τを掛け合わせたFTNシンボルインターバルτTで、前記受信局に向けてFTN伝送により無線信号を送信する処理と、
前記無線信号に重畳する雑音の白色性を仮定した白色等化処理と、前記雑音の有色性を考慮した有色等化処理との、前記圧縮率τの下での省電力性に関する優劣を判定する処理と、
前記白色等化処理と前記有色等化処理のうち省電力性に優れた手法を選択して前記受信局に通知する処理と、
を実行させるコンピュータ読み取り可能なプログラムを含むことが望ましい。
【発明の効果】
【0020】
第1乃至第4の態様によれば、雑音の白色化を仮定した等化と雑音の有色化を考慮した等化とを適宜切り替えてFTN伝送に適用することで、高い通信品質と消費電力の抑制とを効率的に両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】ナイキスト伝送によりシンボルが伝送される様子を示す図である。
図2】FTN伝送によりシンボルが伝送される様子を示す図である。
図3】本開示の実施の形態1における送信局の基本的な機能を説明するためのブロック図である。
図4】本開示の実施の形態1における受信局の基本的な機能を説明するためのブロック図である。
図5】本開示の実施の形態1において実行される特徴的な処理の流れを説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
実施の形態1.
[実施の形態1の構成]
図3は、本開示の実施の形態1の無線通信システムに含まれる送信局10の基本機能を説明するためのブロック図である。図3に示す構成は、具体的には、専用のハードウェアと、一般的なコンピュータシステムとで構成される。コンピュータシステムには、入出力インターフェース、演算処理ユニット(CPU)、並びにROM、RAMおよびハードディスク等を含むメモリ装置が含まれる。メモリ装置には、CPUによって実行されるプログラムが格納されている。送信局10の機能は、CPUが、そのプログラムを実行することで実現される。
【0023】
送信局10は、MIMO(Multiple-Input and Multiple-Output)による空間多重伝送に対応しており、複数のアンテナ18を備えている。図3は、アンテナ18の数がNtである構成を例示している。
【0024】
送信局10は、アンテナ18毎に、変調器12を備えている。変調器12は、送信信号に所望の方式で変調を施すブロックである。変調器12は、必要に応じて、変調方式と、シンボルインターバルを変化させることができる。より具体的には、変調器12は、必要に応じて、変調符号化率やFTN伝送に用いる圧縮率τを含む変調に関わるパラメータを適宜切り替えて設定することができる。
【0025】
変調器12の出力は、ガードインターバル挿入器14に提供される。ガードインターバル挿入器14では、符号間干渉を想定したガードインターバルが設定される。ガードインターバル挿入器14の出力は、送信フィルタ16に提供される。送信フィルタ16では、伝送するべき信号に、各種フィルタ処理によるプリコーディングが施される。その結果生成された送信信号s1(t)~sNt(t)が、♯1~♯Ntのアンテナ18からそれぞれ送信される。
【0026】
図4は、本開示の実施の形態1に含まれる受信局20の基本機能を説明するためのブロック図である。図4に示す構成は、送信局10の場合と同様に、専用のハードウェアとコンピュータシステムとで構成される。受信局20の機能は、受信局20のCPUが、受信局20のメモリ装置に格納されたプログラムを実行することで実現される。
【0027】
受信局20は、送信局10と同様にMIMOによる空間多重伝送に対応している。図4は、受信局20が、♯1~♯Nrまで、Nr台のアンテナ22を備える構成を例示している。受信局20は、アンテナ22毎に受信フィルタ24を備えている。受信フィルタ24は、サンプリング時刻t毎に取得した信号にフィルタ処理を施して得た信号y1[n]~yNr[n]をガードインターバル除去器26に提供する。
【0028】
サンプリング時刻tは、図4に示す通り、ナイキスト基準に従うシンボルインターバルTに、整数nと、通信に用いられる圧縮率τとを掛け合わせた値で表される。また、図4に示すy1[n]~yNr[n]は、♯i(i=1~Nr)番目の受信フィルタ24が、整数nに対応するサンプリング時刻tの信号に基づいて生成した信号を表している。
【0029】
ガードインターバル除去器26は、受信した信号y1[n]~yNr[n]からガードインターバルを除去して直列/並列変換器28に提供する。直列/並列変換器28は、予め設定されたFFT(Fast Fourier Transform)ポイント数NFに対応する数の並列信号をFFT処理器30に提供する。FFT処理器30は、受信した並列信号に高速フーリエ変換を施して、それらを周波数領域の並列信号に変換する。
【0030】
FFT処理器30の後段には、NF台のFDE(Frequency Domain Equalization)処理器32が設けられている。これらのFDE処理器32は、それぞれウェイト行列Wj(j=0~NF-1)の一つを用いた等化処理を実施する。
【0031】
例えば、ウェイト行列W0を用いるFDE処理器32には、その前段に設けられているNF台のFFT処理器30のそれぞれから、1番目の信号が提供される。そして、このFDE処理器32は、受信したNF個の信号にウェイト行列W0に基づく等化処理を施してNF個の処理済み信号を生成する。同様に、ウェイト行列Wjを用いるFDE処理器32は、(j+1)番目に対応するNF個の信号に等化処理を施して、NF個の処理済み信号を生成する。
【0032】
本実施形態において、FDE処理器32は、必要に応じて、ウェイト行列Wを切り替えて用いることができる。具体的には、雑音の白色性を仮定したウェイト行列Wと、雑音の有色性を考慮したウェイト行列Wとを、選択的に切り替えて用いることができる。以下、前者を用いる等化処理を「白色等化処理」と称し、後者を用いる等化処理を「有色等化処理」と称す。
【0033】
FDE処理器32の後段には、NF台のIFFT(Inverse Fast Fourier Transform)処理器34が設けられている。図4に示す通り、IFFT処理器34のそれぞれには、前段に位置するNF台のFDE処理器32のそれぞれから、一つずつ信号が提供される。IFFT処理器34は、受け取ったNF個の並列信号に逆高速フーリエ変換を施して、周波数領域の並列信号を時間領域におけるNF個の信号に変換する。
【0034】
IFFT処理器34は、生成した並列信号を並列/直列変換器36に提供する。並列/直列変換器36は、受け取った並列信号を直列信号に変換して復調器38に提供する。復調器38は、受け取った信号に復調処理を施し、復調後の信号を後段の通信機器に提供する。
【0035】
[白色等化処理のウェイト行列W]
本実施形態において、送信局10のアンテナ18から送出される送信信号ベクトルaと、受信局20のアンテナ22に到達する受信信号ベクトルyとの関係は、下記(数1)により表すことができる。
【0036】
【数1】
【0037】
受信信号ベクトルyには、図4を参照して説明した通り、FFT処理器30による高速フーリエ変換が施された後、FDE処理器32において、ウェイト行列Wを用いた等化処理が施される。その結果生成される再現信号ベクトルa^は、下記(数2)により表すことができる。
【0038】
【数2】
【0039】
上記(数1)に含まれるHΓは、ブロック循環行列であり、下記(数3)に示す通りブロック対角化行列diagを用いて表すことができる。
【0040】
【数3】
【0041】
上記(数3)の関係を上記(数2)のy、つまり上記(数1)のHΓに当て嵌めると、上記(数2)に示す再現信号ベクトルa^は、下記(数4)のように表すことができる。
【0042】
【数4】
【0043】
受信信号ベクトルyから再現信号ベクトルa^を生成するための等化規範として、例えばMMSE(Minimum Mean Square Error)による線形プリコーディングを想定すると、FDE処理器32が用いるウェイト行列Wは、下記(数5)のように表すことができる。
【0044】
【数5】
【0045】
送信局10が、ナイキスト伝送により送信信号ベクトルaを送信する場合は、受信信号ベクトルyに重畳する雑音ηは白色雑音と見做すことができる。この場合、上記(数5)中の雑音関連項を、下記(数6)のように表すことができる。
【0046】
【数6】
【0047】
上記(数6)の関係を用いると、上記(数5)が示すウェイト行列Wは、下記の通りブロック対角化行列diagの形式で表すことができる。
【0048】
【数7】
【0049】
また、上記(数7)に示すブロック対角化行列において、サブチャネルkのウェイト行列Wk(k=0~NF)は下記(数8)のように表すことができる。下記(数8)では、雑音ηを白色雑音と見做していることを表すべく、サブチャネルkのウェイト行列Wkにwhiteの添え字を付している。
【0050】
【数8】
【0051】
ウェイト行列Wが、上記の通りブロック対角化されていると、等化処理に伴う演算負荷は比較的軽度となる。このため、受信信号ベクトルyから、白色等化処理により再現信号ベクトルa^を生成する場合は、受信局20における消費電力を小さく抑えることができる。
【0052】
[雑音の有色化を考慮したウェイト行列W]
送信局10が、FTN伝送によりシンボルインターバルを圧縮して送信すると、受信フィルタ24による処理、並びにFTN伝送に特有な高速サンプリングの影響で、雑音の有色化が生ずる。時刻tにおける白色雑音をnq(t)とすると、有色化された雑音ηq(t)は、受信フィルタ24の関数g*と圧縮率τとを用いて下記(数9)のように表すことができる。
【0053】
【数9】
【0054】
上記(数9)に示す雑音ηを上記(数5)に当て嵌めた結果得られるウェイト行列Wは、ブロック対角化行列にはならない。このため、有色等化処理に伴う受信局20の演算負荷は極めて大きなものとなる。例えば、送信側のアンテナ数Ntと受信側のアンテナ数Nrが共に4であり、FFTポイント数NFが2048である場合、受信局20では、有色等化処理のために、8192×8192行列の逆行列を計算することが必要となる。
【0055】
雑音ηが有色化する環境下でも、上記(数5)に示すウェイト行列Wの演算式中、下記(数10)に示す要素をブロック対角化行列で近似すれば、FDE処理器32が等化のために用いるウェイト行列Wは、上記(数7)に示すようなブロック対角化行列diagとなる。この場合、サブチャネルk毎の演算により有色等化処理を進めることが可能となり、上記近似を実行しない場合に比して、有色等化処理に伴う受信局20の消費電力を抑えることができる。
【0056】
【数10】
【0057】
但し、上記の近似を行う場合、サブチャネルkのウェイト行列Wは上記(数8)に示すものではなく、下記(数11)に示すものとなる。尚、下記(数11)では、雑音ηの有色化を考慮していることを表すべく、サブチャネルkのウェイト行列Wkにcoloredの添え字を付している。
【0058】
【数11】
【0059】
上記(数11)中、下記(数12)に示す項は、周波数領域における雑音の相関行列である。
【0060】
【数12】
【0061】
また、上記数12に示すφkの(q, q’)要素は、下記(数13)で表されるものとなる。
【0062】
【数13】
【0063】
上記(数13)が示すように、φkの(q, q’)要素を定めるためには、複雑な演算式を解く必要がある。このため、上記の近似によってウェイト行列Wをブロック対角化しても、有色等化処理に伴う演算負荷は、白色等化処理に伴う演算負荷に比して、やはり大きなものとなる。このため、有色等化処理が実施される場合、白色等化処理が実施される場合に比して、受信局20の消費電力は大きなものとなる。
【0064】
[ナイキスト伝送によるデータ送信]
本実施形態において、送信局10は、データ送信に必要な所要の伝送容量に応じて、データの圧縮率τを適宜設定する機能を備えている。この機能は、図3に示す変調器12に搭載することができる。或いは、図3に示す構成要素とは別に送信局10内に制御器を設けて、圧縮率τ等のパラメータ設定は、その制御器に実施させることとしてもよい。
【0065】
所要の伝送容量がナイキスト伝送により充足できる場合は、圧縮率τが「1.0」に設定される。この場合、受信信号ベクトルyには白色雑音が重畳するため、受信局20では、白色等化処理が実施される。白色等化処理に伴う演算負荷は軽いため、受信局20の消費電力は小さく抑えられる。
【0066】
また、ナイキスト伝送では、受信信号ベクトルyに重畳している雑音が現実に白色雑音であるため、白色等化処理を実施することで高精度な等化を得ることができる。等化処理により再現信号ベクトルa^が精度よく生成されれば、所望の通信品質を得るための所要CNRも小さく抑えることができる。そして、所要CNRが小さければ、送信電力も抑えることができる。このため、ナイキスト伝送が用いられる場合は、送信局10および受信局20の双方で消費電力を十分に小さな値に抑えることができる。
【0067】
[FTN伝送によるデータ送信]
本実施形態における送信局10は、ナイキスト伝送で所要の伝送容量が得られない場合には、データ伝送の方式をFTN伝送に切り替える。つまり、送信局10は、この場合、圧縮率τを1.0未満に設定し、シンボルインターバルτTを短縮することで伝送容量の拡大を図る。
【0068】
FTN伝送では、上記の通り、雑音の有色化が生ずる。この場合に、白色等化処理を実施すると、等化処理に伴う消費電力が抑え得る一方で、等化精度の悪化に伴って所要CNRが高まって、所望の通信品質を得るための送信電力が高まるという事象が生ずる。他方、FTN伝送と組み合わせて有色等化処理を実施すると、等化処理に伴う消費電力は増大するものの、等化の精度が高まるため所要CNRが小さくなり、その結果送信電力が抑え得るという事象が生ずる。
【0069】
ところで、FTN伝送の実施に伴う雑音の有色化は、常に同じレベルで生ずるものではなく、圧縮率τが小さくデータの圧縮度合いが大きいほど顕著となる。このため、白色等化処理の実施に伴うデメリット、つまり、所要CNRの上昇に伴う消費電力の増加は、圧縮率τが「1.0」近傍の値である場合はさほど問題視する必要がなく、圧縮率τが「1.0」に比して小さくなるほど大きな問題となる。
【0070】
白色等化処理に伴うメリット、つまり、演算負荷が軽いことによる消費電力の抑制効果は、圧縮率τによらず常に同様に得られる。従って、FTN伝送に組み合わされる白色等化処理は、常に一定のメリットを維持しつつ、圧縮率τが小さくなるにつれて大きなデメリットを発生させるという特性を有することになる。
【0071】
有色等化処理については、これと反対の特性が認められる。即ち、有色等化処理に伴うメリットは、等化精度が高いことによる送信電力の抑制効果である。圧縮率τが「1.0」に近い領域では、白色等化処理でも高い等化精度が得られるため、このメリットはさほど有意なものとならない。他方、圧縮率τが小さくなると、白色等化処理による等化精度が悪化するため、このメリットは有意なものとなる。
【0072】
有色化処理に伴うデメリット、つまり、高い演算負荷に起因する消費電力の増大は、圧縮率τによらず常に同様に表れる。従って、FTN伝送に組み合わされる有色等化処理は、常に一定のデメリットを有しつつ、圧縮率τが小さくなるにつれて大きなメリットを発生させるという特性を有することになる。
【0073】
上記の通り、白色等化処理は、圧縮率τが「1.0」に近い領域でメリット有意となり易い。また、有色等化処理は、圧縮率τが「1.0」に比して小さいほどメリット有意となり易い。このため、FTN伝送に組み合わされる等化処理の手法については、圧縮率τに応じて、白色等化処理と有色等化処理の総合的な優劣が逆転することがある。そこで、本実施形態では、データ伝送の手法としてFTN伝送が用いられる場合には、白色等化処理と有色等化処理の総合的な優劣を判定して、より優位な手法を選択することとした。
【0074】
[実施の形態1の動作]
図5は、上記の機能を実現するために、送信局10が実行する処理の流れを説明するためのフローチャートである。この処理は、図3に示す変調器12に実行させても良いし、上記の通り、図示しない制御器に実行させてもよい。
【0075】
図5に示すルーチンでは、先ず、送信局10が、送信データについての所要伝送容量に基づいて、変調符号化率および圧縮率τを決定する(ステップ100)。
【0076】
次に、採用した圧縮率τの下では、雑音の白色性を仮定することが、雑音の有色性を考慮するより有利であるか否かが判別される(ステップ102)。つまり、等化処理の手法として、白色等化処理を採用する方が、有色等化処理を採用するより有利であるかが判別される。
【0077】
本実施形態の無線通信システムを構築するにあたっては、採用が予定されている圧縮率τ毎に、シミュレーションにより下記の値が予測されている。
・白色等化処理を採用した場合のベースバンド消費電力BB_white
・白色等化処理を採用した場合の所要CNR_white
・有色等化処理を採用した場合のベースバンド消費電力BB_colored
・有色等化処理を採用した場合の所要CNR_colored
【0078】
上記ステップ102では、具体的には、先ず、上記のシミュレーション結果に基づいて、採用した圧縮率τについて下記の値が算出される。
・所要CNR_whiteを実現するための送信電力Pt_white
・所要CNR_coloredを実現するための送信電極Pt_colored
・送信電力Pt_whiteと送信電極Pt_coloredとの差ΔPt
・ベースバンド消費電力BB_coloredとベースバンド消費電力BB_whiteとの差ΔBB
【0079】
上記ステップ102では、次に、ΔBB>ΔPtの成否が判別される。ΔBBは、有色等化処理を用いることで白色等化処理を用いる場合に比して余分に消費される電力である。また、ΔPtは、白色等化処理を用いることで有色等化処理を用いる場合に比して余分に消費される電力である。
【0080】
このため、ΔBB>ΔPtの成立が認められる場合は、白色等化処理の方が有色等化処理よりトータルの消費電力を抑えるうえで有利であると判断できる。この場合、ステップ102の判別が肯定され、等化処理の手法として白色性を仮定した手法、つまり白色等化処理が採用される(ステップ104)。
【0081】
他方、ステップ102において、ΔBB>ΔPtの成立が否定された場合は、消費電力を抑えるうえで、白色等化処理が有色等化処理に比して有利ではないと判断できる。この場合、等化処理の手法として、有色性を考慮した手法、つまり有色等化処理が採用される(ステップ106)。
【0082】
送信局10が白色等化処理と有色等化処理の何れを採用したかについては、送信データに格納された状態で受信局20に通知される。受信局20は、その通知に従って、FDE処理器32が用いるウェイト行列Wを、白色等化処理用のものと有色等化処理用のものとの何れかに決定する。この処理は、FDE処理器32により実行させてもよいし、受信局20の内部に、別途設けた制御器に実行させてもよい。
【0083】
図5に示すルーチンでは、上記ステップ104または106の処理に続いて、下記の関係の成否が判別される(ステップ108)。
「平均CNR」>「所要CNR」+マージンα
【0084】
上記の「平均CNR」は、現在設定されている送信電力Ptにより達成される送信データの「平均CNR」である。また、上記の「所要CNR」+マージンαは、現在の送信データが求める「所要CNR」に既定のマージンαを加えた値である。尚、平均CNRの値は、予め実施しておいたシミュレーションの結果に基づいて推定することができる。或いは、平均CNRの値は、受信局20において実測し、受信局20から送信局10にフィードバックすることとしてもよい。
【0085】
上記の関係が成立する場合は、現在の送信電力が、所望の通信品質に対して過剰であると判断できる。この場合、マージンαより小さいステップで送信電力の抑制が図られる(ステップ110)。
【0086】
以後、ステップ108の判別が否定されるまで、ステップ110の処理が繰り返し実行される。そして、ステップ108の判別が否定されたら、図5に示すルーチンが終了される。これにより、送信電力Ptを、所要CNRを得るうえで過不足のない値に収束させることができる。その結果、必要最小限の消費電力で、所望の通信品質を有する無線通信が実現される。
【0087】
以上説明した通り、本実施形態の無線通信システムによれば、無線通信の手法として、ナイキスト伝送とFTN伝送とを適宜切り替えて採用することができる。また、FTN伝送では、所要の伝送容量に応じて適切な圧縮率τを設定することができる。更に、FTN伝送が実施される場合は、採用する圧縮率τに応じて、白色等化処理と有色等化処理のうちトータルの消費電力を抑えるうえで有利な方を採用することができる。このため、本実施形態の無線通信システムによれば、様々な状況の下で、高い通信品質と消費電力の抑制とを効率的に両立することができる。
【0088】
[実施の形態1の変形例]
ところで、上述した実施の形態1では、白色等化処理と有色等化処理の優劣を判定するために、ΔBB>ΔPtの成否を判断することとしているが、本開示はこれに限定されるものではない。例えば、等化方式の別による所要CNRの差分と消費電力の差分とを直接比較することで両者の優劣が判別できる場合は、両者の優劣をその比較により判断してもよい。或いは、等化方式毎の所要CNRの比と、等化方式毎の消費電力の比との大小関係により、二つの等化処理の優劣を判定してもよい。更には、所要CNRを実現するための等化方式毎の送信電力と、等化方式毎の等化に要する消費電力との和を比較して、両者の優劣を判断してもよい。
【符号の説明】
【0089】
10 送信局
12 変調器
16 送信フィルタ
18、22 アンテナ
20 受信局
32 FDE処理器
図1
図2
図3
図4
図5