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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025014943
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】X線撮像装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 6/03 20060101AFI20250123BHJP
   A61B 6/10 20060101ALI20250123BHJP
【FI】
A61B6/03 373
A61B6/03 330C
A61B6/10 301
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023117922
(22)【出願日】2023-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】石津 崇章
【テーマコード(参考)】
4C093
【Fターム(参考)】
4C093AA22
4C093CA33
4C093CA35
4C093EA07
4C093FA19
(57)【要約】
【課題】光子計数型検出器の分極化を安定させるとともに、被検者の無効被ばくを抑制可能なX線撮像装置を提供する。
【解決手段】X線を照射するX線源と、X線光子をエネルギー毎にカウントする光子計数型検出器と、前記光子計数型検出器からの検出器出力に基づいて被検者の医用画像を生成する画像生成部を備えるX線撮像装置であって、前記光子計数型検出器の分極化が安定していないときに、前記X線源からX線が照射される範囲であるX線照射野に前記被検者がいないことを確認してから、前記光子計数型検出器に前記X線源からX線を照射させる制御部をさらに備えることを特徴とする。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線を照射するX線源と、
X線光子をエネルギー毎にカウントする光子計数型検出器と、
前記光子計数型検出器からの検出器出力に基づいて被検者の医用画像を生成する画像生成部を備えるX線撮像装置であって、
前記光子計数型検出器の分極化が安定していないときに、前記X線源からX線が照射される範囲であるX線照射野に前記被検者がいないことを確認してから、前記光子計数型検出器に前記X線源からX線を照射させる制御部をさらに備えることを特徴とするX線撮像装置。
【請求項2】
請求項1に記載のX線撮像装置であって、
前記制御部は、前記被検者が載置されるベッドの位置に基づいて、前記被検者が前記X線照射野にいないことを確認することを特徴とするX線撮像装置。
【請求項3】
請求項1に記載のX線撮像装置であって、
前記X線照射野を撮影するカメラをさらに備え、
前記制御部は、前記カメラが撮影した画像に基づいて、前記被検者が前記X線照射野にいないことを確認することを特徴とするX線撮像装置。
【請求項4】
請求項1に記載のX線撮像装置であって、
前記制御部は、前記医用画像を撮像するときのX線量よりも低いX線量を照射して生成される画像に基づいて、前記被検者が前記X線照射野にいないことを確認することを特徴とするX線撮像装置。
【請求項5】
請求項1に記載のX線撮像装置であって、
前記制御部は、前回の撮像からの経過時間が予め設定される所定時間より短いとき、前記光子計数型検出器の分極化が安定していると判定することを特徴とするX線撮像装置。
【請求項6】
請求項5に記載のX線撮像装置であって、
前記所定時間は照射線量に応じて設定されることを特徴とするX線撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光子計数型検出器を備えるX線撮像装置に係り、特に光子計数型検出器の分極化の影響を抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトンカウンティング(Photon Counting)方式を採用する検出器である光子計数型検出器を備えるX線撮像装置として、PCCT(Computed Tomography)装置の開発が進められている。光子計数型検出器はX線光子のエネルギーを計測できるので、PCCT装置は従来のCT装置よりも多くの情報を含んだ医用画像、例えば複数のエネルギー成分に分けられた医用画像を提示することができる。
【0003】
電圧が印加されることにより撮像可能な状態になる光子計数型検出器は、電圧の印加時間の長さに応じて分極化が進行し、検出器出力の波高値が徐々に低下する。検出器出力の波高値の変化は、計測されるX線光子のエネルギーに誤差を生じさせ、エネルギー成分に分けられた医用画像の画質に悪影響を与える。
【0004】
特許文献1には、光子計数型検出器の分極化の影響を抑制するために、高電圧が印加された光子計数型検出器の分極化が安定したか否かを判定し、分極化が安定したときにデータ収集を開始するX線撮像装置が開示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-194354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら特許文献1では、X線の照射による分極化の進行に対する配慮がなされていない。光子計数型検出器の分極化は、高電圧の印加だけでなく、X線の照射によっても進行する。X線の照射による分極化を安定させてから被検者を撮像するには、光子計数型検出器へのX線の照射を撮像直前に実行する必要がある。また光子計数型検出器に照射されるX線による被検者の無効被ばくを抑制する必要がある。
【0007】
そこで、本発明は、光子計数型検出器の分極化を安定させるとともに、被検者の無効被ばくを抑制可能なX線撮像装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明は、X線を照射するX線源と、X線光子をエネルギー毎にカウントする光子計数型検出器と、前記光子計数型検出器からの検出器出力に基づいて被検者の医用画像を生成する画像生成部を備えるX線撮像装置であって、前記光子計数型検出器の分極化が安定していないときに、前記X線源からX線が照射される範囲であるX線照射野に前記被検者がいないことを確認してから、前記光子計数型検出器に前記X線源からX線を照射させる制御部をさらに備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、光子計数型検出器の分極化を安定させるとともに、被検者の無効被ばくを抑制可能なX線撮像装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1のX線CT装置の全体構成を示す図である。
図2】実施例1の検出器パネルの構成を示す図である。
図3】分極化の影響について説明する図である。
図4】実施例1の処理の流れの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。本発明のX線撮像装置は、X線源と光子計数型検出器とを備える装置に適用される。以降の説明では、X線撮像装置がX線CT装置である例について述べる。
【実施例0012】
図1に本実施例のX線CT装置の全体構成図を示す。X線CT装置は、ガントリ1、演算装置2、表示装置3、ベッド4を備え、ベッド4に載置される被検者5で吸収されるX線光子をカウントし、カウント数に基づいて被検者5の断層画像を生成する装置である。以下、各部について説明する。
【0013】
ガントリ1は、X線管6と検出器パネル7を搭載して回転する回転部と、回転部を支持する静止部を有する。X線管6は100kV程度の高電圧で加速した電子をターゲットに当てることによりX線を発生させるX線源である。検出器パネル7は、被検者5を挟んでX線管6と対向配置され、被検者5を透過したX線光子をカウントし、X線光子数の空間的な分布を計測する光子計数型検出器である。被検者5を透過したX線光子数を、被検者5がいないときのX線光子数から減算することにより、被検者5で吸収されるX線光子数が求められ、投影データとして取得される。なお検出器パネル7は光子計数型検出器でありX線光子のエネルギーを計測できるので、エネルギー成分毎の投影データが取得される。検出器パネル7の詳細構造は図2を用いて後述される。
【0014】
X線管6と検出器パネル7が被検者5の周囲を回転する間に、X線管6による被検者5へのX線照射と、検出器パネル7によるX線光子のカウントが繰り返されることにより、様々な方向からの被検者5の投影データが取得される。投影データは、1秒の間に3000枚程度取得され、演算装置2へ送信される。ベッド4は、投影データが取得される被検者5の位置を調整するために、ガントリ1の開口部に向けて水平移動する。
【0015】
演算装置2は、一般的なコンピュータ装置と同様のハードウェア構成であり、CPU(Central Processing Unit)やメモリ等を備え、表示装置3や入力装置8、記憶装置9に接続される。演算装置2は、送信される複数の投影データを用いた画像再構成により断層画像を生成するとともに、各部の制御を行う。例えば、X線管6に印加される電圧や、X線管6と検出器パネル7の回転速度等の制御が演算装置2によって行われる。
【0016】
表示装置3は液晶ディスプレイやタッチパネル等であり、生成された断層画像等を表示する。入力装置8はキーボードやマウス等であり、X線管6に印加される電圧の設定等に用いられる。なお表示装置3がタッチパネルである場合、タッチパネルが入力装置8として機能する。記憶装置9はHDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)等であり、CPUで実行されるプログラムや投影データ、断層画像等の各種データを記憶する。
【0017】
図2を用いて検出器パネル7の一例について説明する。検出器パネル7は、X線検出器10とコリメータ11とを有し、ガントリ1の回転部に設けられる。
【0018】
X線検出器10は、被検者5を透過したX線光子を検出する半導体検出器である。X線検出器10にはCdTeやCdZnTeが用いられ、X線が入射する側に高電圧電極15が、反対側に複数の読み出し電極13が設けられる。接地電圧である読み出し電極13に対して高電圧電極15には負の高電圧が印加され、高電圧電極15と読み出し電極13との間に電界が形成される。X線検出器10にX線光子が入射すると、X線光子のエネルギーに応じた数の電子と正孔が発生する。X線光子の入射によって発生した電子は、電極間の電界によって最も近い読み出し電極13へ移動し、電気信号として読み出される。すなわち読み出し電極13がX線検出器10の検出ピクセル12に対応する。
【0019】
コリメータ11は、被検者5等で発生する散乱線のX線検出器10への入射を抑制するために、複数の孔を有する金属製の格子であってX線検出器10の前段に設けられる。コリメータ11には、タングステンやモリブデン等の比重及び原子番号の大きい金属が用いられ、コリメータ11の孔は検出ピクセル12に対応するように位置が合わせられる。
【0020】
図3を用いて、X線検出器10の分極化の影響について説明する。図3(a)はX線検出器10にX線光子が入射したときに生成される出力波形の一例であり、横軸は時間、縦軸は検出器出力である。また図3(b)は出力波形の波高値の経時変化である減衰曲線の一例であり、横軸はX線の照射時間、縦軸は検出器出力の波高値である。
【0021】
光子計数型検出器では、不感時間τの間にX線光子が入射する毎にパルス出力301が生じ、パルス出力301の波高値は光子エネルギーに比例する。図3(a)には、入射したX線光子の光子エネルギーが比較的低いときのパルス出力301Lと、比較的高いときのパルス出力301Hが例示される。すなわち検出器出力を閾値Th1、Th2、Th3等で区分けすることによって、光子エネルギー毎にX線光子が弁別される。
【0022】
しかしながら、X線検出器10にX線が照射され続けると内部に電子や正孔がトラップされ、X線の照射時間の経過とともに分極化が進む。分極化は電子や正孔の移動を遅らせるので、電極間で発生した電子の一部は不感時間τ内に読み出し電極13へ達することができず、図3(b)に示すように照射時間が長くなるにつれて波高値が低下する。すなわち、同じ光子エネルギーのX線光子が入射したとしても、異なる波高値になるので、計測されるX線光子のエネルギーに誤差が生じる。なお、波高値の変化量はX線が照射された直後、例えば図3(b)の期間Aが最も大きく、期間B、期間Cと時間が進むにつれて小さくなる。つまり、X線検出器10の分極化は、X線の照射時間の経過とともに安定する。
【0023】
そこで実施例1では、被検者の撮像直前にX線を照射することによりX線検出器10の分極化が安定させる。なお分極化が進み過ぎるとX線検出器10の特性が劣化し、ノイズの増加や計数率の低下等が発生するので、所定の閾値以上の波高値となる期間、例えば図3(b)の期間Cではなく期間BでX線の照射を停止することが望ましい。
【0024】
図4を用いて、実施例1の処理の流れについて説明する。
【0025】
(S401)
演算装置2は、X線検出器10の分極化が安定しているか否かを判定する。分極化が安定していなければS402へ処理が進められ、分極化が安定していればS405へ処理が進められる。
【0026】
X線検出器10の分極化が安定しているか否かは、例えば前回の撮像からの経過時間に基づいて判定される。すなわち、前回の撮像からの経過時間が所定時間より短ければ、分極化が安定しているとの判定がなされる。前回の撮像からの経過時間に基づくことにより、分極化が安定しているか否かを簡易な処理によって判定できる。所定時間は、事前計測の結果に基づいて予め設定され、例えば10分が設定される。なお照射線量が大きいほど分極化が進行するので、照射線量に応じて所定時間は設定される。照射線量に応じて所定時間が設定されることにより、分極化が安定しているか否かをより正確に判定できる。
【0027】
(S402)
演算装置2は、X線照射野に被検者5がいるか否かを判定する。なおX線照射野とは、X線管6からX線が照射される範囲である。X線照射野に被検者5がいなければS404へ処理が進められ、X線照射野に被検者5がいればS403を介してS402へ処理が戻される。
【0028】
X線照射野に被検者5がいるか否かは、例えばベッド4の位置に基づいて判定される。すなわち、X線照射野にベッド4があれば、X線照射野に被検者5がいるとの判定がなされる。ベッド4の位置に基づくことにより、新たなハードウェアを追加することなく、被検者5の有無を判定できる。
【0029】
またX線照射野を撮影するカメラの画像に基づいて、X線照射野に被検者5がいるか否かが判定されても良い。すなわちカメラの画像に被検者5が含まれていれば、X線照射野に被検者5がいるとの判定がなされる。カメラの画像に基づくことにより、ベッド4からはみ出した被検者5がX線照射野にいる場合であっても、被検者5の有無を判定できる。
【0030】
さらに低線量撮像によって得られる画像に基づいて、X線照射野に被検者5がいるか否かが判定されても良い。なお低線量撮像とは、被検者5の医用画像を撮像するときにX線管6から照射されるX線量よりも低いX線量を用いた撮像である。すなわち低線量撮像で得られる画像に被検者5が含まれていれば、X線照射野に被検者5がいるとの判定がなされる。低線量撮像の画像に基づくことにより、ベッド4からはみ出した被検者5がX線照射野にいる場合であっても、新たなハードウェアを追加することなく、被検者5の有無を判定できる。
【0031】
(S403)
演算装置2は、被検者5がX線照射野にいることを警告するメッセージを表示装置3に表示させる。表示装置3に表示されたメッセージに応じて、操作者がベッド4を操作してX線照射野から被検者5を退避させるまで、S402とS403が繰り返される。なおS402とS403との繰り返し回数が所定の閾値に達したら、処理の流れを終了しても良い。またS403において、演算装置2がベッド4を制御してX線照射野から被検者5を退避させても良い。
【0032】
(S404)
演算装置2は、X線管6を制御してX線検出器10へX線を照射する。X線の照射時間は予め定められた長さであって、照射線量に応じて設定されても良い。
【0033】
(S405)
演算装置2は、ガントリ1とベッド4を制御して被検者5を撮像する。すなわち、ベッド4をガントリ1の中に移動させ、X線管6と検出器パネル7を被検者5の周囲で回転させながらX線照射とX線光子のカウントとを繰り返すことにより、様々な方向からの投影データが取得される。そして複数の投影データを用いた画像再構成により断層画像が医用画像として生成される。
【0034】
図4を用いて説明した処理の流れにより、光子計数型検出器の分極化を安定させるとともに、被検者5の無効被ばくを抑制できる。すなわち、X線照射野に被検者5がいないことを確認してから、光子計数型検出器の分極化を安定させるようにX線が照射されるので、被検者5の無効被ばくを抑制できる。またX線の照射によって光子計数型検出器の分極化を安定させてから被検者5が撮像されるので、医用画像の画質に悪影響を与えずに済む。
【0035】
なお本発明のX線撮像装置は上記実施例に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施例に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせても良い。さらに、上記実施例に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除しても良い。
【符号の説明】
【0036】
1:ガントリ、2:演算装置、3:表示装置、4:ベッド、5:被検者、6:X線管、7:検出器パネル、8:入力装置、9:記憶装置、10:X線検出器、11:コリメータ、12:検出ピクセル、13:読み出し電極、15:高電圧電極、301:パルス出力。
図1
図2
図3
図4