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特開2025-149637心理特性推定システムおよび作業管理システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025149637
(43)【公開日】2025-10-08
(54)【発明の名称】心理特性推定システムおよび作業管理システム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/16 20060101AFI20251001BHJP
   G06Q 10/0639 20230101ALI20251001BHJP
【FI】
A61B5/16 100
G06Q10/0639
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024050397
(22)【出願日】2024-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(71)【出願人】
【識別番号】000246273
【氏名又は名称】コベルコ建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100179648
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 咲江
(74)【代理人】
【識別番号】100222885
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 康
(74)【代理人】
【識別番号】100140338
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100227695
【弁理士】
【氏名又は名称】有川 智章
(74)【代理人】
【識別番号】100170896
【弁理士】
【氏名又は名称】寺薗 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100219313
【弁理士】
【氏名又は名称】米口 麻子
(74)【代理人】
【識別番号】100161610
【弁理士】
【氏名又は名称】藤野 香子
(72)【発明者】
【氏名】木下 拓矢
(72)【発明者】
【氏名】洪水 雅俊
(72)【発明者】
【氏名】坂本 郁弥
【テーマコード(参考)】
4C038
5L010
【Fターム(参考)】
4C038PP03
4C038PQ00
4C038PS09
4C038VA17
5L010AA06
(57)【要約】
【課題】作業する作業員の心理特性を推定する。
【解決手段】心理特性推定システム10は、入力刺激uと当該入力刺激uに対応する心理モデルGの出力結果である心的反応yを1組のデータとする複数のデータ組を取得し(ステップS30)、所望の出力特性ymを参照モデルGmに設定した上で(ステップS40)、フィードバック制御器Ceの特性と、参照モデルGmの特性とから2自由度系システム部における心理特性Gの入力刺激uに対する心的反応yの伝達特性を特定し(ステップS50)、特定した心理特性Gの伝達特性を、有限インパルス応答型の形式に変換して既知情報で表すことで、心理特性Gを推定する(ステップS50)よう構成される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業を行う作業者に与えられる心的刺激を入力値とし、前記作業者が前記心的刺激から感じ取る心的反応を出力値とする入出力関係である前記作業者の心理特性を推定するシステムであって、2自由度系システム部と、コントローラとを備え、
前記2自由度系システム部は、
前記心的反応の目標値から所望の出力特性を算出して出力する伝達関数である参照モデルと、
前記心的反応と前記出力特性との偏差が減少するように前記出力特性を調整するフィードバック制御器と、
前記出力特性を調整するフィードフォワ―ド制御器と、
前記フィードバック制御器の出力と、前記フィードフォワ―ド制御器の出力との合算を前記心的刺激として、前記心的反応を出力する前記心理特性とを含み、
前記コントローラは、
前記心的刺激および前記心的反応を1組のデータとする複数のデータ組を取得し、前記所望の出力特性を前記参照モデルに設定した上で、
前記フィードバック制御器の特性と、前記参照モデルの特性とから、前記2自由度系システム部における前記心理特性の前記入力刺激に対する前記心的反応の伝達特性を特定し、
前記特定した前記心理特性の伝達特性を、有限インパルス応答型の形式に変換して既知情報で表すことで、前記心理特性を推定し、心的状態およびその変化を判定するよう構成される、
心理特性推定システム。
【請求項2】
前記特定した前記心理特性の伝達特性を有限インパルス応答型の形式に変換して既知情報で表す際に、前記心理特性を含む閉ループ系の伝達特性の動特性を調整可能である、請求項1に記載の心理特性推定システム。
【請求項3】
さらに、前記推定される心理特性から、前記心的状態の変化タイミングを推定し、心的状態のサポート要否を判定するよう構成される、請求項1に記載の心理特性推定システム。
【請求項4】
作業現場を管理するシステムであって、
請求項1~3に記載の心理特性推定システムから前記作業者の前記心理特性および前記心的反応を取得し、
前記心理特性および前記心的反応に応じて、前記作業者および前記作業現場の管理主体の少なくとも一方にサポートを提示するよう構成される、作業管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人の心理特性を推定するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
作業者の身体面や精神面における人的事情を検出して作業場の管理を支援する技術として従来、特開2020-149452号公報(特許文献1)に記載のシステムが知られている。特許文献1に記載のシステムは、特定作業者に設置した人的センサから身体内部状態情報を得て、特定作業者の身体内部状態(焦っている、緊張している、ぼんやりしている等)を判断し、アラート内容を決定する演算部と、作業者に対してアラートを発生する出力部を備える。
【0003】
また、運転者の焦りを検出する技術として従来、特開2020-185872号公報(特許文献2)に記載の装置が知られている。特許文献2に記載の焦り検出装置は、焦り情報検出部と、焦り状態検出部と、を備える。焦り情報検出部は、車両が発進するタイミング、車両が停車するタイミング、及び車両の機器が操作されたタイミングを起点として、次の機器が操作されるタイミングまでの時間間隔を検出する。焦り状態検出部は、焦り情報検出部により検出された時間間隔に基づいて、ドライバが焦っている状態を検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-149452号公報
【特許文献2】特開2020-185872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来のような技術にあっては、さらに改善すべき点があることを本発明者は見いだした。つまり特許文献1および特許文献2に記載の技術は作業者や運転者の心理等の状態を取得するが、人間の身体内部状態(特許文献1)や焦り状態(特許文献2)というのは外部から視認することができない内心領域であるから、的確に判断することが困難である。また人間の心理というものは複雑で未知な関数であるといえる。このため特許文献1および特許文献2に記載の技術といえども、作業者の心理等の状態を的確に取得するものとはいえない。
【0006】
また機械化された建設作業や農作業にあっては、機械の操縦員(オペレータ)等、人である作業員が、使用される建設機械や農機械といった作業機械の多数の操作子を同時に操作しなければならないところ、作業当日の気温や、湿度や、体温や、1日の作業時間や、作業ノルマといった心的刺激が、操縦員の疲労感、焦り感、不安感、怠惰感、眠気、苦手感、苦痛感といったネガティブな心的反応結果や、達成感、やりがい、楽しさ、没入度といったポジティブな心的反応結果をもたらし、ひいては建設作業や農作業の作業効率に大きく影響する。このため作業者の心理等の状態を的確に取得する必要性がある。
【0007】
本発明は、上述の実情に鑑み、外部から作業者に与えられる心的刺激と、心的刺激によって作業者が感じる心的反応結果との関係(人の心理特性)を、的確に推定することができるシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的のため本発明による心理特性推定システムは、作業を行う作業者に与えられる心的刺激を入力値とし、作業者が心的刺激から感じ取る心的反応を出力値とする入出力関係である作業者の心理特性を推定するシステムであって、2自由度系システム部と、コントローラとを備え、2自由度系システム部は心的反応の目標値から所望の出力特性を算出して出力する伝達関数である参照モデルと、心的反応と出力特性との偏差が減少するように出力特性を調整するフィードバック制御器と、出力特性を調整するフィードフォワ―ド制御器と、フィードバック制御器の出力とフィードフォワ―ド制御器の出力との合算を心的刺激として心的反応を出力する上述した心理特性とを含み、コントローラは、心的刺激および心的反応を1組のデータとする複数のデータ組を取得し、所望の出力特性を参照モデルに設定した上で、フィードバック制御器の特性と参照モデルの特性とから2自由度系システム部における心理特性の入力刺激に対する心的反応の伝達特性を特定し、特定した心理特性の伝達特性を、有限インパルス応答型の形式に変換して既知情報で表すことで心理特性を推定し、心的状態およびその変化を判定するよう構成される。
【0009】
かかる本発明によれば、作業者の心理特性を包含するシステムの設計にあたり、心理特性を物理的に把握可能な形式で算出することができる。またシステムの特性を表すパラメータから、作業者の心的反応結果を取得し、心的反応結果の変化を確認することができる。このように、作業者、作業を行う作業者や、作業機械の操縦員、の心理特性を的確に推定できる。これにより、作業者の心的反応結果の変化とそのタイミングを推定し、心的状態改善の要否を判断することができる。なお作業は、建設現場、農地、森林といった屋外の作業のみならず、屋内の作業場(倉庫の物品の搬入・搬出など)でもよい。
【0010】
本発明の一局面として心理特性推定システムは、特定した心理特性の伝達特性を有限インパルス応答型の形式に変換して既知情報で表す際に、心理特性を含む閉ループ系の伝達特性の動特性を調整可能に構成される。かかる局面によれば、心的反応結果だけでなく、心理特性を包含するシステムのシステム特性を考慮し、作業者の個人差に応じた制御にできる。したがってその作業者の個人的な心的不快さの軽減や、所望の心的状態への制御における制御性向上に資する。また作業者の熟練度に応じて心理特性を推定することができる。
【0011】
本発明の一局面として心理特性推定システムはさらに、推定される心理特性から、心的状態の変化タイミングを推定し、心的状態のサポート要否を判定するよう構成される。かかる局面によれば、作業を通じて発生した作業者の心的状態の変化を、システム特性の変化から判定し、作業者の心的状態を向上させるような心的刺激の要否と、その入力タイミングを決定することができる。
【0012】
ところで前述したとおり、本発明によれば作業者の心理特性を的確に推定することができるので、操縦員である作業者の心的反応の変化とそのタイミングを推定することができ、例えば操縦員である作業者に対して心的状態の改善が必要か否かを判断することができる。そこで本発明は、作業現場を管理するシステムであって、上述した心理特性推定システムから作業者の心理特性および心的反応を取得し、心理特性および心的反応に応じて、作業者および作業現場の管理主体の少なくとも一方にサポートを提示するよう構成される。かかる本発明によれば、作業者の現在の心的状態だけでなく、これから良好な状態が続くか、あるいは悪くなりそうか、を作業者および作業現場の管理主体が把握することができる。したがって作業の先々を見越した支援を実行することができ、作業の効率の向上に資する。なお作業現場は、建設業に従事する作業者がいる建設現場、農作業に従事する作業者がいる農地、林業に従事する作業者がいる森林といった屋外の工事現場のみならず、屋内の作業場(物品の搬入・搬出などを行う倉庫)でもよい。
【発明の効果】
【0013】
このように本発明によれば、作業者の心理特性を的確に推定し、さらに、作業者に与えられる心的刺激から当該作業者が感じる心的反応結果も的確に推定できる。これにより、作業者の心的反応結果の変化とそのタイミングを推定し、心的状態改善の要否を判断することができる。本発明は、作業者の心理の改善と、作業効率の向上に資する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態になる心理特性推定システム全体の構成を示す概略図である。
図2】同実施形態のコントローラが実行する処理を示すフローチャートである。
図3】同実施形態が推定する心理特性を示すグラフである。
図4】同実施形態が実行する心理特性の再設計処理を示すフローチャートである。
図5】参照モデルの出力と心理特性の出力との差分に対する参照モデルの動特性を例示するマップである。
図6】心理特性の理想形状Cmを例示するグラフである。
図7】心理特性の理想形状Cmと推定結果を比較するグラフである。
図8】心理特性推定システムを活用した作業管理システムを示す構成図である。
図9】心理特性推定システムを活用した作業管理システムを示す構成図である。
図10】心理特性の次数およびパラメータを例示するグラフである。
図11】特別注意状況の対応を具体的に例示する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づき詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態になる心理特性推定システム10の全体構成を示す概略図である。心理特性推定システム10は、2自由度系システム部11と、コントローラ21と、心的反応採取部31とを備え、作業者Bの心理特性Gおよび心的反応結果(以下、単に心的反応ともいう)を推定する。
【0016】
2自由度系システム部11は、演算処理のフロー順に、参照モデルGm、フィードバック制御器Ce、フィードフォワード制御器Cr*、推定対象(心理特性G)を有する。参照モデルGmは既知であり、心的反応の目標値rを入力されると所望の心的反応ymを出力する。所望の心的反応ymはフィードバック制御器Ceおよびフィードフォワード制御器Cr*にそれぞれ入力される。
【0017】
フィードバック制御器Ceは比例積分微分(PID)制御器であり、フィードフォワード制御器Cr*は有限インパルス応答型制御器(FIR型制御器)であり、これら制御器の出力合計uが心理特性Gに入力される(制御器の出力合計uが作業者Bに作用し、その結果として作業者Bの心理特性Gに影響を及ぼす)。フィードバック制御器Ceは、作業者Bの心理特性Gの出力である取得した心的反応yと、参照モデルGmの出力である所望の心的反応ymとの差分が小さくなるよう、出力を増減させる。
【0018】
コントローラ21は、2自由度系システム部11の参照モデルGmに心的反応の目標値rを入力し、2自由度系システム部11内の各種パラメータ、各種変数、および各種システム特性を設定および調整する。
【0019】
2自由度系システム部11およびコントローラ21の設置箇所は特に限定されず、例えば作業現場に設置されるコンピュータや、作業機械の運転台や操作盤等に備えつけのコンピュータや、あるいは作業現場から離れている管理主体のコンピュータに格納される。かかるコンピュータは作業者Bに携帯される端末に格納されていてもよい。
【0020】
心的反応採取部31は、入力刺激(心的刺激ともいう)を演算する。既知情報である心的刺激は例えば、タスク量(所定の仕事をこなすのにかかる見込み時間)、難易度(その仕事をこなすのが難しいほど大きくなる難易度の指標値)、環境温度(適温と作業現場の気温との差異、ここで適温は季節によって異なってもよく、気温は湿度や風を考慮した体感温度であってもよい、支援人数(作業者Bと共同でタスク量をこなす人数)である。
【0021】
センサ32は、作業者Bをモニタする装置であって、1つでもよく、複数種類でもよい。センサ32は例えば、交感神経( L F ) と副交感神経( H F ) とのバランス、すなわち自律神経のバランス( L F / H F ) を計測してもよい。自律神経のバランス( L F / H F ) の値は、焦りなどのストレスの度合いが高くなるにつれて増加する傾向にある。
【0022】
またセンサ32は、血圧であってもよく、心拍数であってもよく、発汗量であってもよく、他の生体情報であってもよい。血圧、心拍数および発汗量は、焦りなどのストレスの度合いが高くなるにつれて増加する傾向にある。
【0023】
またセンサ32は、作業者B(作業機械のオペレータ)の視線(目線、首の向き)を取得するものでもよい。作業に集中できている場合には視線のブレが少ない。
【0024】
またセンサ32は、建設機械の重機(作業機械)の操作子であるレバーの傾動量を検出するものでもよい。作業に集中できている場合には無駄な操作が少ない。
【0025】
また心的反応採取部31は問診票あるいはアンケートであってもよく、アンケートは例えばスマートフォン等での回答となる。作業者Bが重機のオペレータである場合には重機の運転席に設けたタッチ式の表示装置(インタフェース)で回答してもよい。
【0026】
アンケート項目は、没入度、興奮度、落ち着き度、いら立ち度、達成感であり、没入度~達成感それぞれについて体感の度合いを回答させるものとなる。
【0027】
アンケートの回答は、例えば、作業者Bの実際の回答に代わって、作業者Bの過去の作業内容と当該作業内容に対する回答の傾向から、現在の作業内容に対する回答結果が予測されたものが採用されてもよい。
【0028】
センサ32は、作業者Bに装着されたり、作業者Bが使用する作業機械(例えば、作業機械の座席)に設置されたりする。心的反応採取部31も同様に装着される他、作業者Bから離隔する任意の箇所に設置されてもよい。心的反応採取部31はコントローラ21と無線あるいは有線通信する。
【0029】
心理特性Gの出力値である心的反応ないし心的反応結果として例えば、下記(a)~(e)である。
(a)没入度 視線のブレが少ない、又は無駄な操作がない場合に没入度が高い
又は没入できたというアンケートの結果
(b)興奮度 交感神経が優位、又は、血圧、心拍数および発汗量いずれか高くなりすぎると興奮度が高い
(c)落ち着き 副交感神経が優位、又は、血圧、心拍数および発汗量いずれかが高くなり過ぎない状態が落ち着いていると落ち着き度が高い
(d)いら立ち アンケートの結果又はタスクの達成度合いが低く、かつ興奮度が高いといら立ちの度合いが高い場合にいら立ち度が高い
(e)達成感 アンケートの結果又はタスクの達成度合いが良い場合に、達成感が高い
【0030】
2自由度系システム部11は、フィードフォワード制御器Cr*とフィードバック制御器Ceの出力の組み合わせにおいて、例えば下記(h)~(l)のような処理をする。
(h)タスク量 作業管理者等の管理主体および作業者Bに、タスク量を一時的に減らすよう(業務進捗のペースを落とすなど)に提案した情報を通知する処理をする
(i)難易度 作業管理者等の管理主体および作業者Bに、タスクの難易度を一時的に減らすように提案した情報を通知する処理をする
(j)環境温度 エアコンを制御して作業者Bが作業を行う作業現場や作業者Bが搭乗する作業機械の運転室を適温にする処理をする、作業者Bが作業を行う作業現場に送風する扇風機を回す制御を実行する(送風する)など
(k)動特性 操作しやすいように作業者Bが操作する作業機械の動特性を上げる又は下げる処理をする
(l)支援人数 作業管理者等の管理主体に、作業者Bに対する支援人数を増やすように提案した情報を通知する処理をする
【0031】
次に作業者Bの心的刺激から作業者Bの心理特性Gを推定する手順につき説明する。
【0032】
図2は、本発明のコントローラ21が実行する制御を示すフローチャートである。まずステップS10で、参照モデルGm(図1)に、作業者Bの心的反応の目標値rを入力する。目標値rは時刻tをパラメータとしてもよい(r=r(t))。
【0033】
次のステップS20で、PID制御器であるフィードバック制御器CeのゲインKp,Ki,Kdを設定する。かかる設定にあたり、おおよそで設定したシステム特性、例えば一次遅れ系で近似、に基づき、CHR法や、ハンドチューニング等でゲインKp,Ki,Kdを調整する。
【0034】
次のステップS30で、ステップS20のフィードバック制御器Ceとを用いて稼働データ組(u(k),y(k))を取得する。kは離散時間のステップ数である。ここで、フィードフォワード制御器Cr*の出力がゼロになるようにフィードフォワード制御器Cr*に適当な値(ゲイン)を設定することでフィードバック制御器Ceのみの1自由度系の稼働としてもよいし、あるいはフィードフォワード制御器Cr*に適当な値(ゲイン)を設定し2自由度系の稼働としてもよい。これにより複数の稼働データ組(u(k),y(k))が取得される。複数の稼働データ組(u(k),y(k))は、心的刺激と当該心的刺激に対応する心理モデルの出力結果である心的反応を1組のデータとする例えば時系列的に取得される。
【0035】
次のステップS40で、所望の心理特性を参照モデルGm(z-1)として設定する。参照モデルGm(z-1)は、例えば数1および数2に基づき、動特性(立ち上がり時間τおよび減衰特性δ)を任意に設定可能である。
【数1】
【数2】
【0036】
次のステップS50で、1自由度系の場合のシステム出力
【数3】
を、2自由度系の場合のシステム出力
【数4】
に代入し、
【数5】
を得る。ここで、2自由度系の場合のシステム出力y(k)が理想的な出力ym(k)になると仮定すると、y(k)=ym(k)とみなせるため数5は、
【0037】
【数6】
になる。これを式展開することで、
【数7】
となり、Cr*を左辺に移行し、
【数8】
で表すことができる。
【0038】
ここでCr*-1(z-1)をFIR型で、
【数9】
と表現することができる。Nはデータ数を示す。
【0039】
さらに、
【数10】
とすると、Cr*-1=G=YU-1で表せ、既知の情報でCr*-1すなわち制御対象の心理特性Gを推定することができ、逆行列の計算のみで算出が可能となり、非線形最適化が不要となる効果を奏する。本実施形態では、ERIT(Estimated Response Iterative Tuning)に依る。
【0040】
次のステップS60で、所望の出力(心的反応)を実現するフィードフォワード制御器Cr*を算出する。ここで上述したステップS50で得たCr*-1の逆系を用いることも考えられるが、インプロパーな逆系を用いると心理特性推定システム10が不安定化する可能性がある。そこで本実施形態では、逆系を用いることなく新規にCr*を算出するのである。算出手順は上述したステップS50と同様の式展開を実行し、
【数11】
とすると、Cr*=Y-1Uで表せ、既知の情報でフィードフォワード制御器Cr*を算出することができる。このように本実施形態によれば、逆系が生じない形式、つまりプロパーな形式で、フィードフォワード制御器Cr*を算出することができるので、心理特性推定システム10が安定化する。次のステップS70では、上述したステップS50およびステップS60の算出結果を適用し、本フローチャートを終了する。
【0041】
例えば、ダンプトラックへの土砂の掘削積込作業を考える。ここで、目標とする心的状態は50(最大100)とし、時定数が30分程度となるように参照モデルGmの応答性τを設定し、フィードバック制御器Ceのゲインも例えば予め決めた初期値を設定する。作業を実行し、単位時間あたりに積込完了させなければならないダンプトラックの台数設定(入力u)と、作業者(オペレータ)の没入度(出力y)を取得する。これらデータを用いて、図2に示す手順に心理特性Gを推定し、またフィードフォワード制御器Cr*を設計することで、所望沿っての心的状態(没入度)となる制御系を実現できるはずであるが、人の心理は複雑で移ろいやすい(安定しない)ため、調整代に限界が生じる場合がある。例えば、目標値に到達しない(目標50に対して30で推移)、所望の動特性で制御ができない(狙いの時定数30分に対して時定数が1時間以上かかっている)、などが考えられる。そのような場合、目標値を再調整するか、参照モデルGmの出力と心理特性推定システム10が推定した心理特性Gの出力から動特性(時定数)の差異を算出し、その結果に応じて参照モデルGmの時定数を再調整する。
【0042】
本実施形態の応用例について説明する。
【0043】
推定した心理特性Gの活用として、所望の出力を決める参照モデルGmの特性の更新を可能にする。
【0044】
図2にフローチャートで示す処理では、所望の出力を実現するフィードフォワード制御器Cr*が設計されるところ、推定した心理特性Gの特性や作業現場の想定外の変化によっては推定した心理特性Gの動特性が緩慢すぎる(あるいは急峻すぎる)との理由により、参照モデルGmの動特性を急峻に変更する(あるいは緩慢に変更する)方が、制御性能の改善や作業者Bのネガティブさや不快感の低減することができる場合がある。
【0045】
そこで、FIR型制御器(フィードフォワード制御器Cr*)で推定したシステムの低次項(1次や2次の項)から時定数を算出し、参照モデルGmの応答と比較して、心的反応は緩慢である(あるいは急峻である)と判断される場合、心的状態のサポートが必要であると判断し、心的状態のサポートのための制御を実行する。
【0046】
図3は同実施形態の参照モデルGmの出力および同実施形態が推定する心理特性Gの出力を示すグラフであり、一次遅れ系を例示する。図3中、横軸が時間tを、縦軸が出力(心的反応y)を表す。図3を参照して、目標値rの63.2%の出力を所望する場合、参照モデルGmの出力に要する時間はT1であり、推定される心理特性Gの出力に要する時間はT2であることが理解される(T1<T2)。
【0047】
本実施形態では、推定される心理特性Gの出力が所定よりも緩慢である(あるいは所定よりも急峻である)とされる場合、心理特性Gの動特性の再設計を行う。
【0048】
具体的には例えば、参照モデルGm(τ,δ)の動特性τ,δを再設定し、制御器Crを再設計することで、より作業者Bおよび作業現場の実態に合った条件で制御することが可能になる。動特性τ,δの設定は手動で行われてもよいし、参照モデルGmの時定数と推定される心理特性Gの時定数との差分に基づき自動で設定されてもよい。
【0049】
図4は、同実施形態が実行する心理特性Gの再設計処理を示すフローチャートである。まずステップS80で参照モデルGmの出力と推定される心理特性Gの時定数を比較する。具体的には例えば図3に示すように目標値rの63.2%の出力を比較し、参照モデルGmの出力T1と推定される心理特性Gの時定数T2を比較する(T2-T1)。
【0050】
図4を参照して、次のステップS90で、出力の差異は閾値以内であるかどうか判断する。具体的には例えば、上述した差異(T2-T1)が閾値以内であるかどうか判断する。閾値以内であれば(Y)再設計処理を終了する(END)。閾値を超える場合(N)ステップS100へ進み、ステップS100で参照モデルGmの再設計を実行し、必要であればフィードバック制御器Ceの調整を実行する。
【0051】
図5は、参照モデルの出力と心理特性Gの出力との差分に対する参照モデルの動特性を例示するマップである。図5を参照して、上述した時定数の差異(T2-T1)の絶対値が閾値Th以内であれば、参照モデルGmの動特性τを変更しない。あるいは、差異(T2-T1)(正値)が上述した時定数の差異(T2-T1)が閾値Thよりも大きい場合は図5のマップに基づき動特性τを大きくし、差異(T2-T1)(負値)が閾値-Thよりも小さい場合は図5のマップに基づき動特性τを小さくする再設計を実行する。図5のマップは動特性τの複数の初期値を例示し、マップ中の実線同士間の数値は、実線からの距離に応じて補完される。
【0052】
本実施形態によれば、図4および図5に示すように、推定した心理特性Gの伝達特性を有限インパルス応答型の形式に変換して既知情報で表す際に、当該伝達特性の動特性τを調整可能であるから、立ち上がり時間を鋭敏にしたり緩慢にしたり再設計することができる。したがって、作業者Bの熟練度に応じる等、初心者にも配慮することができる。
【0053】
次に作業者Bの心的反応を判定する手順につき説明する。
【0054】
ここでは推定される心理特性Gから、所定の作業中において作業者Bに心理変化が生じる可能性が高いかどうか判定する場合につき説明する。
【0055】
図6および図7は、心理特性Gの次数およびパラメータを例示するグラフであり、横軸の次数は数9右辺のz-1、z-2・・・z-(N-1)に対応し、縦軸は数9右辺のc、c・・・c-(N-1)に対応する。
【0056】
図6を参照して例えば、心理特性Gは、作業を開始した、つまり状況が変化した時点で立ち上がり、その後作業継続とともに慣れによって落ち着いていく、つまり次数によってパラメータが減衰していくような理想形状Cmとして仮定できる。
【0057】
次に、図7に推定された心理特性Gの例と理想状態を合わせて示す。Cnは推定された心理特性Gのパラメータ、Cmnが理想グラフ形状のパラメータである。その作業において心理変化が生じる可能性が高いかは、例えば、CnとCmnの差分としてfnを求め、fnの総和Sを閾値と比較することで判定してもよい。例えばネガティブな心理変化を判定する場合に、総和Sが閾値より大きくなることを判断基準としてもよい。さらにCn≦Cmnである次数における影響よりも、Cn>Cmnである次数における影響の方が大きいと仮定すれば、Cn>Cmnの時のみfnをCnとCmnの差分として計算し、逆の場合はfnを0とするような、場合分けを加味した総和Sを計算してもよい。
【0058】
このように本実施形態のシステム10は、推定される心理特性Gから作業者Bの心的状態の変化タイミングを推定し、心的状態のサポート要否を判定するよう構成される。これにより作業を通じて発生した作業者Bの心的状態の変化を、システム特性の変化から判定し、作業者Bの心的状態を向上させるような心的刺激の要否と、その入力タイミングを決定することができる。
【0059】
次に心理特性推定システム10を活用して作業者や作業現場を支援したり管理したりするシステム概略について説明する。
【0060】
図8は、心理特性推定システム10を活用した作業管理支援の第1実施形態を示す構成図である。管理主体Hは、作業管理システム100に、作業現場で作業する作業者A、B、C・・・・毎の作業を入力する。具体的には例えば、作業者Aの項では土砂積込作業のタスク量、難易度等、作業者Bの項では整地作業のタスク量、難易度等、作業者Cの項ではタスク量、難易度等、である。タスク量等の入力情報は、例えば、各作業者が操作している作業機械に取付しているモニタカメラの表示に依るものであったり、作業機械に取付しているマイクやスピーカから取得される音声情報であったり、各作業者が所持している情報端末に入力される情報であってもよい。管理主体Hは例えば、パソコンなどの端末や、携帯端末であり、情報を表示し、あるいは情報を入力されるインタフェース部を含む。
【0061】
心理特性推定システム10は、作業者A、B、C・・・・毎に関して、作業管理システム100から心的刺激にかかる情報を収集し、心理特性Gを推定し、各作業者に与えられているタスク量等の作業に関する心的刺激に応じて、心的反応yを取得する。
【0062】
さらに作業管理システム100は、作業者A、B、C・・・・毎、上記の心理特性Gおよび心的反応yを取得し、管理主体Hに表示ないし報告する。
【0063】
図9は、心理特性推定システム10を活用した作業管理支援の第2実施形態を示す構成図である。この実施形態につき、前述した実施形態と共通する構成については同一の符号を付して説明を省略し、異なる構成について以下に説明する。第2実施形態では、前述した実施形態に重畳して、作業者Aが所持する端末A´に作業者Aの作業進捗状況をリアルタイムで報告したり、作業者Bが作業中に使用する作業機械B´の補助機能を有効(ON)にし、作業者Bの作業を支援したりする。
【0064】
これにより、作業者Aにポジティブ情報(作業成果や成長度合い)を伝えることができ、作業者Aのネガティブ感情を減少させ、やりがいを増加させることができる。また作業機械B´の補助機能によって作業者Bの作業ミスを生じ難くすることができる。
【0065】
ここで心理特性推定システム10は、作業中に各作業者A,Bの目標値r、心的刺激u、心理特性G、および心的反応yを更新するとよい。目標値rは管理主体Hによって更新されるとよい。端末A´および作業機械B´は、情報を表示し、あるいは情報を入力されるインタフェース部を含む。
【0066】
作業管理システム100は、作業中に上述した心的反応および判断結果を表示する際、あるいは作業開始前に、あるいは作業開始後に、下記(1)以降の変更をしてもよいか、管理主体Hに問い合わせてもよい。
(1)作業者間で作業割り当て・タスク量を変更すること
(2)作業機械を旧来のものから補助機能が盛り込まれた作業機械に変更すること
(3)作業者に、訓練や教育を受けさせること
(4)サポートを提示する、例えばサポート人員を配置する、作業者を増加させること
(5)作業時間・作業期間を延長すること
【0067】
次に心理特性推定システム10を活用した特別注意状況の対応につき説明する。
【0068】
図10は特別注意状況の判定根拠を示す心理特性Gの次数におけるパラメータのグラフ図である。図11は、特別注意状況の対応を具体的に例示する概略図である。図10を参照して、推定される心理特性Gの次数におけるパラメータが、特定範囲Iにおいてその前後を含む一定区間Jよりも極端に高い場合、作業中の或る特定状況による心理影響が大きいと判断できる。かかる特定状況を特別注意状況と呼ぶことにし、特別注意状況にも対応をとる。
【0069】
特定範囲Iにおいてその前後を含む平均範囲よりも極端に高い場合とは、図10の各点で、その点を中心とする前後一定区間Jに含まれるパラメータの平均値Kと、当該点のパラメータとを比較した差異Lをとる。差異Lが閾値M以上であれば(L≧M)、当該点のパラメータは極端に高いと判断する。
【0070】
前述した図7と同様に、本実施形態でもパラメータの値が高いほど、作業者は不安を強く感じるネガティブな心的状態にあると仮定する。特別注意状況であるかどうかの判定材料として、作業管理システム100は、作業者Bによる作業機械B´の機械操作履歴や機械周囲状況の画像や映像も取得する。
【0071】
こうして極端に高い点があると判断されるとき、作業管理システム100は、図11に示すようにデータベース300を参照して、該当するタイミングの機械操作履歴および機械周囲状況を取得し、ネガティブな心的反応を生む特別注意状況が何かを具体的に推定する。具体的には、例えば機械周囲状況の画像や映像に基づいて作業管理システム100が自動処理で推定する。また作業者Bによる作業機械B´の機械操作履歴に基づいて、作業管理システム100が作業者Bと相互コンタクトにより推定してもよい。こうして推定した特別注意状況は作業管理システム100に保存される。
【0072】
次に作業管理システム100は、作業者Bが操作する作業機械B´の操作システムに、当該作業者Bの特別注意状況に対応する変更指示を付与する。例えば作業機械B´の旋回が特別注意状況に推定され、作業機械B´の周囲監視システムを起動させる。あるいは、作業機械B´の補助機能が自律運転であれば、旋回動作判定のロジックの変更や、作業機械B´の周囲確認結果を操作システムに表示したり、作業主体Hに通知したりする。
【0073】
作業者Bによる作業機械B´の運転操作中に、その機械操作履歴や機械周囲状況の画像や映像から、所定のロジックに基づいて特別注意状況に進む可能性があると作業機械B´の制御システムが判断する場合、特別注意状況での対応を実施する。
【0074】
これにより作業機械B´の旋回時に不安反応を示す特徴がみられる作業者(オペレータ)には、ショベルによる掘削土砂持ち上げ中における旋回操作直前の操作時に、機械旋回範囲に人や障害物がいないかを作業機械B´のショベル制御システム200が判定し、その判定結果を通知する音201や表示を出すことで、作業者(オペレータ)の不安を低減できる。なお特別注意状況での対応とは、作業者Bにサポートを提示するものであればたり、サポートの内容は上述した音201や表示に限定されず、情報の提示や、ツールの提供や、人手ないし機械によるアシスト等、広く解釈される。
【0075】
以上、図面を参照して本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、図示した実施の形態のものに限定されない。図示した実施の形態に対して、本発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。例えば上述した1の実施形態から一部の構成を抜き出し、上述した他の実施形態から他の一部の構成を抜き出し、これら抜き出された構成を組み合わせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、作業者が作業する作業現場において有利に利用される。
【符号の説明】
【0077】
10 心理特性推定システム、 100 作業管理システム、
200 ショベル制御システム。
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