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特開2025-15088金属導波管と基板内導波管との間で高効率に電磁波を変換する電磁波変換器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025015088
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】金属導波管と基板内導波管との間で高効率に電磁波を変換する電磁波変換器
(51)【国際特許分類】
   H01P 5/08 20060101AFI20250123BHJP
【FI】
H01P5/08 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023118211
(22)【出願日】2023-07-20
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人情報通信研究機構「革新的情報通信技術研究開発委託研究/(Beyond5Gに向けたテラヘルツ帯を活用した端末拡張型無線通信システム実現のための研究開発)(Beyond5Gに向けたテラヘルツ帯を活用するユーザセントリックアーキテクチャ実現に関する研究開発)」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】榊原 久二男
(72)【発明者】
【氏名】杉本 義喜
(72)【発明者】
【氏名】岸 峻平
(57)【要約】
【課題】周波数帯に関する自由度の高い電磁波変換器を提供すること。
【解決手段】本開示技術に係る電磁波変換器は、複数の導電層と複数の誘電体層とが積層されており内部に基板内導波管7を有する積層基板3と、一端が積層基板3の一面に接触している金属導波管4とを有し、金属導波管4と基板内導波管7との間で電磁波を変換する電磁波変換器であって、基板内導波管7は、積層基板3における2つの導体層の間に、金属導波管4と交差する変換位置60と入出力ポート71とを含んで形成されており、金属導波管4から見て基板内導波管7より遠い位置に、複数の導電層の1つである閉鎖層54が存在し、複数の導電層のうち閉鎖層54よりも金属導波管4側のものにはいずれも、変換位置60に開口510、520、530が設けられており、入出力ポート71から見て変換位置60よりも先方の位置に先方バックショート構造が形成されているものである。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の導電層と複数の誘電体層とが積層されており内部に基板内導波管を有する積層基板と、一端が前記積層基板の一面に接触している金属導波管とを有し、前記金属導波管と前記基板内導波管との間で電磁波を変換する電磁波変換器であって、
前記基板内導波管は、前記積層基板における2つの導体層の間に、前記金属導波管と交差する変換位置と入出力ポートとを含んで形成されており、
前記金属導波管から見て前記積層基板の厚さ方向に前記基板内導波管より遠い位置に、前記複数の導電層の1つであって前記変換位置が閉鎖されている閉鎖層が存在し、
前記複数の導電層のうち前記閉鎖層よりも前記金属導波管側のものにはいずれも、前記変換位置に開口が設けられており、
前記入出力ポートから見て前記変換位置よりも先方の位置に、前記複数の導電層のうち最も前記金属導波管側のものである前面層から前記閉鎖層に至るすべての前記導電層を短絡する先方バックショート構造が形成されている電磁波変換器。
【請求項2】
請求項1に記載の電磁波変換器であって、
前記変換位置を挟んで前記先方バックショート構造と反対側の位置に、前記前面層から前記閉鎖層に至る範囲のうち前記基板内導波管に相当する厚さ範囲以外の厚さ部分にて前記導電層同士を短絡する後方バックショート構造が形成されている電磁波変換器。
【請求項3】
請求項2に記載の電磁波変換器であって、
前記基板内導波管と前記閉鎖層との間に少なくとも1層の前記導電層である下側層が存在し、
前記下側層は、前記変換位置の開口に対して、他の前記導電層よりも延長している延長部を有する電磁波変換器。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の電磁波変換器であって、
前記後方バックショート構造は、前記基板内導波管の幅方向に分散して配置された複数の層間接続ビアで構成されており、
前記基板内導波管の長手方向における前記複数の層間接続ビアの位置が少なくとも2水準ある電磁波変換器。
【請求項5】
請求項1から請求項3までのいずれか1つに記載の電磁波変換器であって、
前記先方バックショート構造は、前記入出力ポートから見て、前記金属導波管における前記入出力ポートから遠い側の壁面よりさらに先方の位置に配置されている電磁波変換器。
【請求項6】
請求項2または請求項3に記載の電磁波変換器であって、
前記後方バックショート構造は、前記入出力ポートから見て、前記金属導波管における前記入出力ポートに近い側の壁面よりさらに近い位置に配置されている電磁波変換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示技術は、金属導波管と基板内導波管との間で高効率に電磁波を変換する電磁波変換器に関する。
【背景技術】
【0002】
金属導波管と積層基板の基板内導波管との間で電磁波を変換する従来の電磁波変換器として、特許文献1に記載されているものを挙げることができる。同文献の変換器は、金属導波管に対して複数層の誘電体基板を接続して構成されている。誘電体基板における金属導波管側の外層導体層には、金属導波管に対向する開口が形成されている。内層導体層には、マイクロストリップ線路が形成されている。金属導波管と反対側の外層導体層は、全面導体層とされている。この反対側の外層導体層が短絡面となりバックショートが構成されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-193162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の電磁波変換器では、変換対象周波数についての自由度が低いという問題があった。上記従来の電磁波変換器では、バックショート長が基本的に、積層基板の厚さにより決まってしまうからである。このため、高い変換効率が得られる周波数帯が限られる。
【0005】
本開示技術の課題とするところは、周波数帯に関する自由度の高い電磁波変換器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示技術の一態様における電磁波変換器は、複数の導電層と複数の誘電体層とが積層されており内部に基板内導波管を有する積層基板と、一端が積層基板の一面に接触している金属導波管とを有し、金属導波管と基板内導波管との間で電磁波を変換する電磁波変換器であって、基板内導波管は、積層基板における2つの導体層の間に、金属導波管と交差する変換位置と入出力ポートとを含んで形成されており、金属導波管から見て積層基板の厚さ方向に基板内導波管より遠い位置に、複数の導電層の1つであって変換位置が閉鎖されている閉鎖層が存在し、複数の導電層のうち閉鎖層よりも金属導波管側のものにはいずれも、変換位置に開口が設けられており、入出力ポートから見て変換位置よりも先方の位置に、複数の導電層のうち最も金属導波管側のものである前面層から閉鎖層に至るすべての導電層を短絡する先方バックショート構造が形成されているものである。
【0007】
上記態様における電磁波変換器では、金属導波管と、積層基板の内部の基板内導波管との間で電磁波の変換を行うことができる。すなわち、入出力ポートから基板内導波管に電磁波を入力すると、金属導波管に電磁波が生成し出力される。あるいは、金属導波管に電磁波を入力すると、基板内導波管に電磁波が生成し入出力ポートから出力される。金属導波管から見て基板内導波管より遠い位置の導電層の1つが閉鎖層となっており、それより金属導波管側の各導体層にはいずれも開口が設けられている。この開口により誘電体が繋がっている領域で電磁波の変換が行われる。ここで、入出力ポートから見て変換位置よりも先方の位置に、各導電層を短絡する先方バックショート構造が形成されているので、電磁波の共振により高効率に変換が行われる。設計上、変換位置から先方バックショート構造までの距離により共振周波数を調整することができる。
【0008】
上記態様における電磁波変換器では、変換位置を挟んで先方バックショート構造と反対側の位置に、前面層から閉鎖層に至る範囲のうち基板内導波管に相当する厚さ範囲以外の厚さ部分にて導電層同士を短絡する後方バックショート構造が形成されていることが望ましい。このようになっていると、電磁波の共振周波数が、先方バックショート構造によるものと後方バックショート構造によるものとの2水準存在する。このため、2水準の共振周波数にわたる広い帯域で高効率な電磁波変換を行うことができる。
【0009】
後方バックショート構造を有する態様の電磁波変換器では、基板内導波管と閉鎖層との間に少なくとも1層の導電層である下側層が存在し、下側層は、変換位置の開口に対して、他の導電層よりも延長している延長部を有することが望ましい。このようになっていると、後方バックショート構造への電磁波の進入が促進され、変換効率がより高い。
【0010】
後方バックショート構造を有するいずれかの態様の電磁波変換器ではさらに、後方バックショート構造は、基板内導波管の幅方向に分散して配置された複数の層間接続ビアで構成されており、基板内導波管の長手方向における複数の層間接続ビアの位置が少なくとも2水準あることとすることができる。これにより、設計上、後方バックショート構造による電磁波の共振をコントロールすることができる。
【0011】
上記のいずれかの態様における電磁波変換器では、先方バックショート構造は、入出力ポートから見て、金属導波管における入出力ポートから遠い側の壁面よりさらに先方の位置に配置されていることが望ましい。この場合、設計上、先方バックショート構造の位置により、共振周波数を調整できる。
【0012】
後方バックショート構造を有するいずれかの態様の電磁波変換器では同様に、後方バックショート構造は、入出力ポートから見て、金属導波管における入出力ポートに近い側の壁面よりさらに近い位置に配置されていることが望ましい。これにより設計上、後方バックショート構造の位置により、共振周波数を調整できる。
【発明の効果】
【0013】
本開示技術構成によれば、周波数帯に関する自由度の高い電磁波変換器が提供されている。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施の形態に係る電磁波変換器の斜視図である。
図2図1の電磁波変換器の分解斜視図である。
図3】第1の導電層のパターンを示す平面図である。
図4】第2の導電層のパターンを示す平面図である。
図5】第3の導電層のパターンを示す平面図である。
図6】第4の導電層のパターンを示す平面図である。
図7】実施の形態に係る電磁波変換器の断面図である。
図8図7の一部を拡大して示す拡大断面図(その1)である。
図9】実施の形態に係る電磁波変換器の拡大断面図(その2)である。
図10】実施の形態に係る電磁波変換器の周波数特性を示すグラフである。
図11】先方バックショート長と周波数特性との関係を示すグラフである。
図12】誘電体層の厚さと周波数特性との関係を示すグラフ(その1)である。
図13】後方バックショート長と周波数特性との関係を示すグラフである。
図14】誘電体層の厚さと周波数特性との関係を示すグラフ(その2)である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本実施の形態は、図1に示す金属導波管-積層基板内導波管電磁波変換器1として本開示技術を具体化したものである。以下の説明では金属導波管-積層基板内導波管電磁波変換器1を単に、「電磁波変換器1」という。図1の電磁波変換器1は、管状部材2と、積層基板3とを組み合わせたものである。管状部材2は、内部が空洞である金属製の部材である。管状部材2の内部の空洞の領域が、金属導波管4である。積層基板3は、複数の導電層5およびそれらの間の複数の誘電体層6を積層したものである。
【0016】
図2に、電磁波変換器1における管状部材2および積層基板3を分解して示す。図2では、積層基板3をさらに各導電層5および各誘電体層6に分解して示している。図2に示されるように、本形態の例では、積層基板3における導電層5の層数を4層としている。以下の説明では、4層の導電層5を区別して言及する場合には、管状部材2に近い方のものから順に導電層51、52、53、54、とする。図2中では、管状部材2から最も遠い導電層54を除いた3層の導電層5のすぐ下に誘電体層6を描いている。
【0017】
管状部材2は、全体として中空の略直方体の部材である。金属導波管4は、管状部材2を貫通して形成されている貫通孔である。金属導波管4は、管状部材2の内部の伝送線路である。管状部材2は、金属導波管4が、積層基板3の板面に対して垂直な方向となるように配置されている。積層基板3の板面と平行な面内における管状部材2の断面形状は長方形である。この面内における金属導波管4の断面形状も長方形である。管状部材2の4つの外面と金属導波管4の4つの壁面とはそれぞれ平行である。
【0018】
積層基板3の各導電層5のそれぞれのパターンを図3図6に示す。これらの図のそれぞれにおいて、導体の存在する範囲には、後述する層間ビアの箇所を除いてハッチングを付して示している。さらに、金属導波管4と重なる部位を破線の長方形で示している。ただし実際に管状部材2に直に接するのは図3の第1の導電層51のみである。これらの図では、図中の上下方向が金属導波管4の短辺方向であり、図中の左右方向が金属導波管4の長辺方向である。
【0019】
図3に示す第1の導電層51には、ウィンドウ510が形成されている。ウィンドウ510の形状は長方形である。金属導波管4の短辺方向がウィンドウ510の短辺方向でもあり、金属導波管4の長辺方向がウィンドウ510の長辺方向でもある。ウィンドウ510の短辺方向サイズは金属導波管4の短辺方向サイズに等しい。ウィンドウ510の長辺方向サイズは金属導波管4の長辺方向サイズより小さい。ウィンドウ510は、短辺方向には金属導波管4と重なって位置している。ウィンドウ510は、長辺方向には金属導波管4の範囲内に包含されて位置している。導電層51は、複数の導電層5のうち最も管状部材2側に位置する前面層である。
【0020】
図4に示す第2の導電層52には、ウィンドウ520が形成されている。ウィンドウ520の形状も長方形である。ウィンドウ520の短辺方向および長辺方向については、導電層51のウィンドウ510の場合と同様である。ウィンドウ520の短辺方向サイズは金属導波管4の短辺方向サイズより大きい。ウィンドウ520の長辺方向サイズは図3のウィンドウ510の長辺方向サイズに等しい。ウィンドウ520は、短辺方向には金属導波管4の範囲に対して上下両方にはみ出して位置している。ウィンドウ520は、長辺方向にはウィンドウ510と同じ位置に配置されている。
【0021】
図5に示す第3の導電層53には、ウィンドウ530が形成されている。ウィンドウ530の形状も長方形である。ウィンドウ530の短辺方向および長辺方向については、ウィンドウ510およびウィンドウ520の場合と同様である。ウィンドウ530の短辺方向サイズは金属導波管4の短辺方向サイズより小さい。ウィンドウ530の長辺方向サイズはウィンドウ510およびウィンドウ520の長辺方向サイズに等しい。ウィンドウ530は、短辺方向には金属導波管4の範囲に対して上方にのみ、ややはみ出して位置している。ウィンドウ530は、長辺方向にはウィンドウ510およびウィンドウ520と同じ位置に配置されている。
【0022】
図6に示す第4の導電層54には、上の3層の導電層5の場合のようなウィンドウは形成されていない。導電層54では、金属導波管4の範囲の部分も含めて全面に導体が存在している。導電層54は閉鎖層である。ウィンドウ510、520、530は、閉鎖層である導電層54より管状部材2側の導電層51、52、53に設けられている開口である。
【0023】
図3図6にはさらに、導電層5同士を接続する層間ビアの位置も示されている。ここに示される層間ビアには、先方ビア61、後方ビア62、63、第1側方ビア64、第2側方ビア65がある。ウィンドウ510、520、530のいずれも、これらの層間ビアの位置には掛かっていない。
【0024】
先方ビア61は、図中で金属導波管4の上辺の上側に位置する層間ビアである。先方ビア61は、導電層51~導電層54の4層の導電層5のすべてを接続するものである。このため、図3図6のすべてに先方ビア61の位置が示されている。金属導波管4の範囲の図中水平方向の中心線C1と先方ビア61の中心との距離D1はすべて同じである。
【0025】
後方ビア62、63は、図中で金属導波管4の下辺の下側に位置する層間ビアである。後方ビア62は、導電層51~導電層54の4層の導電層5のすべてを接続するものである。後方ビア63は、導電層52~導電層54の3層の導電層5を接続するが導電層51には接続されないものである。このため、後方ビア62の位置は図3図6のすべてに示されているが、後方ビア63の位置は図3には示されておらず図4図6に示されている。中心線C1からの後方ビア63の中心との距離D3は、中心線C1からの後方ビア62の中心との距離D2よりやや大きい。
【0026】
第1側方ビア64は、図中で金属導波管4の右辺および左辺の辺りに位置する層間ビアである。第1側方ビア64は、導電層51~導電層54の4層の導電層5のすべてを接続するものである。このため、図3図6のすべてに第1側方ビア64の位置が示されている。第1側方ビア64は、図3図5ではウィンドウ510、520、530の右辺および左辺の外側に位置している。
【0027】
第2側方ビア65は、図中で金属導波管4より下方にて、金属導波管4の範囲の図中上下方向の中心線C2の両側に列状に配置されている層間ビアである。第2側方ビア65は、導電層51と導電層52との2層の導電層5のみを接続するものである。このため第2側方ビア65の位置は、図3図4にのみ示されており、図5図6には示されていない。図3図4において、右側の第2側方ビア65と左側の第2側方ビア65との間隔D4は、最も金属導波管4に近いもの同士を除いて、ウィンドウ510、520の長辺方向サイズよりやや小さい程度である。最も金属導波管4に近い第2側方ビア65同士の間隔はそれよりやや大きい。
【0028】
電磁波変換器1の断面構造を説明する。図7に示すのは、電磁波変換器1を図3中の中心線C1の位置で切断した断面図である。図7における左右方向が図3中の中心線C2の方向に相当する。図7における左方が図3中の下方であり、図7における右方が図3中の上方である。図7中では、金属導波管4が、縦方向の空洞として現れている。その上端が第1ポート41である。図7中の金属導波管4の中心線C3は、中心線C1、中心線C2のいずれとも直交する方向の中止線である。
【0029】
図7中の積層基板3では、金属導波管4の直下に、導電層51のウィンドウ510が位置している。これにより、金属導波管4と、積層基板3の内部の誘電体の部分との間で電磁波が相互に伝搬できるようになっている。ウィンドウ510の直下には導電層52のウィンドウ520、導電層53のウィンドウ530も位置している。これにより、金属導波管4の直下の位置で、積層基板3の3層の誘電体層6の誘電体のすべてが、導電体によって遮断されることなく繋がっている。
【0030】
金属導波管4の直下位置に対して図7中で右方の位置では、先方ビア61により導電層51~導電層54のすべての導電層5が短絡されている。このため、先方ビア61よりさらに右方には、金属導波管4からの電磁波または金属導波管4への電磁波が伝搬されることはない。
【0031】
金属導波管4の直下位置に対して図7中で左方の位置では、後方ビア63により導電層52~導電層54の下3層の導電層5が短絡されている。しかし導電層51と導電層52との間は後方ビア63により短絡されてはいない。さらに、図4図6で説明したように、後方ビア62も導電層52~導電層54を短絡している。後方ビア62が導電層52~導電層54を短絡している位置は、図7中の左右方向(図4等における上下方向)に関しては後方ビア63よりやや金属導波管4寄りの位置であり、図7における紙面と垂直な方向(図4等における左右方向)に関しては中心線C2の両側であって間隔D4よりやや狭い間隔となる位置である。このため、導電層52~導電層54の範囲内では、後方ビア62、63よりさらに左方には、金属導波管4からの電磁波または金属導波管4への電磁波が伝搬されることはない。
【0032】
しかしながら導電層51と導電層52との間の上層の誘電体層6においては、金属導波管4の直下位置と図7中で左方の位置との間で電磁波の伝搬が可能である。導電層51と導電層52との間では、後方ビア63による短絡がなく、電磁波が透過できるからである。後方ビア63が下層に存在する位置より図7中で左方(図3図4中では下方)における上層の誘電体層6は、積層基板3の内部の伝送線路である基板内導波管7として機能する。基板内導波管7として機能するのは、導電層51、導電層52、中心線C2の両側の第2側方ビア65の列、により区画される範囲内の誘電体である。基板内導波管7の図7中の左端が第2ポート71である。以下、基板内導波管7というときは、後方ビア62、63が下層に存在する位置より図7中で右方で、先方ビア61より左方の部分をも含むものとする。
【0033】
上記のように構成されている本形態の電磁波変換器1では、金属導波管4と基板内導波管7との間で相互に電磁波のやりとりが可能である。図7中で下向きに進行する電磁波を第1ポート41から金属導波管4に入力すると、図7中で左向きに進行する電磁波が基板内導波管7の中に発生して第2ポート71から出力される。図7中で右向きに進行する電磁波を第2ポート71から基板内導波管7に入力すると、図7中で上向きに進行する電磁波が金属導波管4の中に発生して第1ポート41から出力される。
【0034】
第1ポート41および第2ポート71は、電磁波変換器1において電磁波の入力および出力が行われる入出力ポートである。積層基板3の誘電体のうち金属導波管4の直下の部分は、金属導波管4の電磁波と基板内導波管7の電磁波との相互の変換が行われる変換位置60である。基板内導波管7、というときには第2ポート71および変換位置60を含んでいる。
【0035】
電磁波変換器1の変換位置60について、図8図9によりさらに説明する。図8は、図7の一部を拡大したものであり、基板内導波管7の幅方向の中央における断面を示している。図8には前述の後方ビア63が現れている。図9は、図8と平行な断面の同一縮尺の断面図であり、基板内導波管7の範囲内における幅方向の中央から少し外れた箇所、すなわち図6中の縦線C4の箇所における断面を示している。図9には前述の後方ビア62が現れている。
【0036】
図8図9に示される位置では前述のように、導電層51~導電層53の3層の導電層5にウィンドウが形成されている。しかしながら最下層の導電層54には、ウィンドウが形成されていない。つまり導電層54は、変換位置60の下方を閉鎖する閉鎖層である。閉鎖層である導電層54は、金属導波管4から見て、積層基板3の厚さ方向に基板内導波管7より遠い位置に配置されている。
【0037】
積層基板3において、図8図9中における変換位置60の右方には、前述の複数の先方ビア61が配置されている。これにより、第2ポート71から見て変換位置60よりも先方の位置に、導電層5のうち最も金属導波管4寄りの導電層51から、閉鎖層である導電層54に至るすべての導電層5を短絡する先方バックショート構造8が構成されている。金属導波管4の中心位置C1から先方ビア61の中心までの距離は、図8でも図9でも同じであり、図3に示した距離D1である。
【0038】
積層基板3において、図8図9中における変換位置60の左方には、前述の後方ビア62、63が配置されている。これにより、変換位置60を挟んで先方バックショート構造8と反対側の位置に、前面層である導電層51から閉鎖層である導電層54に至る範囲のうち基板内導波管7に相当する厚さ範囲以外の厚さ部分にて導電層5同士を短絡するスタブ構造が構成されている。本開示ではこれを「後方バックショート構造9」と称する。金属導波管4の中心位置C1から後方ビア62、63の中心までの距離は2水準あり、後方ビア63については図4に示した距離D3であり、後方ビア62については距離D2である。
【0039】
図8図9中では、先方バックショート構造8を構成する先方ビア61が、第2ポート71の方から見て、金属導波管4における第2ポート71から遠い側の壁面42よりさらに先方の位置に配置されている。また、後方バックショート構造9を構成する後方ビア62、63が、第2ポート71の方から見て、金属導波管4における第2ポート71からに近い側の壁面43よりさらに近い位置に配置されている。これらのことは、図4の説明で述べたウィンドウ520および金属導波管4の短辺方向サイズの関係から導き出されることである。このため、変換位置60の誘電体が、金属導波管4の直下の部分を越えて管状部材2の下側にも存在している。積層基板3の設計上、先方ビア61の位置の壁面42の位置からの超過量E1の設定により、距離D1を定めることができる。同様に、後方ビア62、63の位置の壁面43の位置からの超過量E2、E3の設定により、距離D2、D3を定めることができる。
【0040】
上記のように構成されている電磁波変換器1では前述のように、金属導波管4と基板内導波管7との間で相互に電磁波を変換することができる。この電磁波変換において、先方バックショート構造8から金属導波管4の中心(図8中のC3)までの距離D1(バックショート長)が、基板内導波管7における管内波長の2分の1に相当するとき、基板内導波管7と金属導波管4との間での磁界結合により共振が起こり、電磁波の伝搬効率がよい。本形態の電磁波変換器1では、前述のように距離D1を設計上自由に設定できるので、伝搬対象とする電磁波の周波数についての設計上の自由度が大きい。
【0041】
電磁波変換器1ではさらに、後方バックショート構造9も電磁波の伝搬効率に貢献する。後方側のバックショート長が管内波長の2分の1に相当するときでも共振が起こるからである。また、後方側のバックショート長も設計上自由に設定できるからである。
【0042】
電磁波変換器1ではまた、金属導波管4の軸方向に対してもバックショート構造が存在する。図7中で金属導波管4がある上方から見ると、金属導波管4と基板内導波管7とが交差する変換位置60よりさらに先方(下方)が、導電層54により閉鎖されているからである。このバックショート構造におけるバックショート長は、設計上、積層基板3の厚さによって設定できる。
【0043】
電磁波変換器1の周波数特性を図10により説明する。図10のグラフでは、横軸は伝搬対象とする電磁波の周波数を示し、縦軸は電磁波の透過レベルおよび反射レベルを示している。透過レベルおよび反射レベルは、入力強度を基準としての透過強度および反射強度を示している。透過強度については、グラフ中で上方ほど、入力強度に近い透過強度つまり出力強度が得られ、特性として優れていることを意味する。反射強度については、グラフ中で上方ほど、伝搬されずに入力側に反射されてしまう成分が多く、特性として劣っていることを意味する。
【0044】
図10のグラフの例は、積層基板3の各部のサイズを次のように設定した場合のものである。
図3中の距離D1:350μm
図4中の距離D2:310μm
図4中の距離D3:360μm
誘電体層6の厚さ:いずれも30μm
【0045】
図10の例では、反射強度に2箇所のボトムB1、B2がある。ボトムB1の周波数(約245GHz)は、先方バックショート構造8による共振が起こる周波数である。ボトムB2の周波数(約300GHz)は、後方バックショート構造9による共振が起こる周波数である。これらの周波数では、共振による高い伝搬効率により、反射強度が大きく低下しているのである。
【0046】
図10で透過強度に着目すると、ボトムB1の周波数からボトムB2の周波数にわたる広い帯域で高い透過強度が得られていることが分かる。これは、反射強度が低下する周波数が2水準あることにより、それらの周波数の間で優れた透過特性が得られているものである。電磁波変換器1に先方バックショート構造8と後方バックショート構造9とを設けていることによる効果である。
【0047】
電磁波変換器1では設計上、図10中におけるボトムB1、B2を独立に設定することができる。まず、ボトムB1の設定例について説明する。図11のグラフは、先方バックショート構造8のバックショート長を変化させることによる周波数特性への影響を示すグラフである。図11では、図3中の距離D1を、340μm、350μm、360μmの3水準に振ったときのそれぞれの透過強度および反射強度を示している。距離D1以外の各部のサイズは前述の通りである。横軸および縦軸の意味は図10と同じである(図12図14においても同じ)。
【0048】
図11のグラフで反射強度に着目すると、いずれの水準でも、周波数約300GHzの辺りに図10中のボトムB2に相当するボトムB21をなしている。図11の例では距離D3は変化させていないので、ボトムB21の位置はいずれの水準でもほぼ同様である。
【0049】
これに対して、図10中のボトムB1に相当するボトムは、図11中では、距離D1によりボトムB111、B112、B113、と分かれている。距離D1が340μmと最も短い場合のボトムB111は、非常に急峻であるが、ボトムB21の位置に比較的近い。距離D1が360μmと最も長い場合のボトムB113は、ボトムB21の位置からは比較的遠いが、落ち込みが緩やかである。距離D1が中間の350μmの場合のボトムB112は、それらの中間の状態にある。これは、先方バックショート構造8のバックショート長を調整することにより、低周波側の共振周波数を制御できることを示している。
【0050】
このため図11中の透過特性では、ほぼ一定の高い透過強度が得られる透過帯域に関して、距離D1に応じて次の傾向が見られる。距離D1が最短の場合の透過特性の透過帯域P11は、領域内での平坦性は高いが帯域幅がやや狭い。距離D1が最長の場合の透過帯域P31は、帯域幅は広いが領域内での平坦性ではやや劣る。距離D1が中間の場合の透過帯域P21は、それらの中間の状態にある。これより、距離D1が中間の場合に帯域幅と平坦性とのバランスが最も優れているということができる。
【0051】
ボトムB1の状況を左右するのは距離D1だけではない。積層基板3における誘電体の厚さもボトムB1に影響する。ボトムB1に影響するのは特に、金属導波管4から遠い方の誘電体層である。具体的には主として、導電層53と導電層54との間の誘電体層6の厚さ(図8中のT3)が先方バックショート構造8の特性に影響する。
【0052】
図12のグラフは、厚さT3を変化させることによる周波数特性への影響を示すグラフである。図12では、図8中の厚さT3を、20μm、30μm、40μmの3水準に振ったときのそれぞれの透過強度および反射強度を示している。厚さT3以外の各部のサイズは前述の通りである。図12のグラフにおける反射強度でも、図10中のボトムB2に相当するボトムB22はいずれの水準でもほぼ同様である。
【0053】
これに対して、図10中のボトムB1に相当するボトムは、図12中では、厚さT3によりボトムB121、B122、B123、と分かれている。これらの3つのボトムの状況は、図11中のボトムB111、B112、B113の状況とほぼ同じである。厚さT3が薄いことが距離D1が短いことと同様に、急峻であるがボトムB22の位置に近い状況とさせている。逆に、厚さT3が厚いことが距離D1が長いことと同様に、ボトムB22の位置から遠いが落ち込みが緩やかな状況とさせている。これは、誘電体の厚さT3を調整することにより、低周波側の共振周波数を制御できることを示している。
【0054】
これに応じて、図12中の透過特性にも、図11中の透過特性と同様の傾向が見られる。厚さT3が最薄の場合の透過帯域P12は、領域内での平坦性は高いが帯域幅がやや狭い。厚さT3が最厚の場合の透過帯域P32は、帯域幅は広いが領域内での平坦性ではやや劣る。厚さT3が中間の場合の透過帯域P22は、それらの中間の状態にある。これより、厚さT3が中間の場合に帯域幅と平坦性とのバランスが最も優れているということができる。
【0055】
次に、ボトムB2の設定例について説明する。図13のグラフは、後方バックショート構造9のバックショート長を変化させることによる周波数特性への影響を示すグラフである。図13では、図4中の距離D3を、350μm、360μm、370μmの3水準に振ったときのそれぞれの透過強度および反射強度を示している。距離D3以外の各部のサイズは、距離D2を含めて前述の通りである。
【0056】
図13のグラフで反射強度に着目すると、いずれの水準でも、周波数約245GHzの辺りに図10中のボトムB1に相当するボトムB13をなしている。図13の例では距離D1は変化させていないので、ボトムB13の位置はいずれの水準でもほぼ同様である。
【0057】
これに対して、図10中のボトムB2に相当するボトムは、図13中では、距離D3によりボトムB231、B232、B233、と分かれている。距離D3が350μmと最も短い場合のボトムB231は、ボトムB13の位置からは比較的遠いが、落ち込みが緩やかである。距離D3が370μmと最も長い場合のボトムB233は、急峻ではあるが、ボトムB13の位置に比較的近い。距離D3が中間の360μmの場合のボトムB232の位置は、それらの中間の状態にある。これは、後方バックショート構造9のバックショート長を調整することにより、高周波側の共振周波数を制御できることを示している。
【0058】
このため、図13中の透過特性でも、透過帯域に関して距離D3に応じた傾向が見られる。帯域幅については、前述のボトムB231、B232、B233の位置に応じて、距離D3が最短の場合の透過帯域P31が最も広く、距離D3が最長の場合の透過帯域P33が最も狭い。距離D3が中間の場合の透過帯域P32はそれらの中間の帯域幅を有する。ただし、最も広い透過帯域P31は、グラフ上ではわかりにくいが、ボトムB231が緩やかであることから、平坦性ではやや劣る。このため、帯域幅と平坦性とのバランスでは、距離D3が中間の360μmの場合が最も優れているということができる。
【0059】
ボトムB2の状況を左右するのは距離D3だけではない。積層基板3における誘電体の厚さもボトムB2に影響する。ボトムB2に影響するのは特に、積層基板3のうち基板内導波管7に相当する部分を除いた範囲内で金属導波管4寄りの誘電体層である。具体的には主として、導電層52と導電層53との間の誘電体層6の厚さ(図8中のT2)が後方バックショート構造9の特性に影響する。
【0060】
図14のグラフは、厚さT2を変化させることによる周波数特性への影響を示すグラフである。図14では図8中の厚さT2を、25μm、30μm、35μmの3水準に振ったときのそれぞれの透過強度および反射強度を示している。この例では、厚さT2と厚さT3との合計が60μmで一定となるように、厚さT3も調整している。厚さT2、厚さT3以外の各部のサイズは、前述の通りである。図14のグラフにおける反射強度でも、図10中のボトムB1に相当するボトムB14はいずれの水準でもほぼ同様である。
【0061】
これに対して、図10中のボトムB2に相当するボトムは、図14中では、厚さT2によりボトムB241、B242、B243、と分かれている。厚さT2が25μmと最も薄い場合のボトムB241は、ボトムB14の位置からは比較的遠いが、落ち込みが緩やかである。厚さT2が35μmと最も厚い場合のボトムB24は、ボトムB14の位置比較的近く、なおかつ落ち込みも緩やかである。厚さT2が中間の30μmの場合のボトムB242は、ボトムB14からの距離ではそれらの中間であり、落ち込みは最も急峻である。これは、誘電体の厚さT2を調整することにより、低周波側の共振周波数を制御できることを示している。
【0062】
このため、図14中の透過特性でも、透過帯域に関して厚さT2に応じた傾向が見られる。帯域幅については、前述のボトムB241、B242、B243の位置に応じて、厚さT2が最薄の場合の透過帯域P41が最も広く、厚さT2が最厚の場合の透過帯域P43が最も狭い。厚さT2が中間の場合の透過帯域P32はそれらの中間の帯域幅を有する。ただし、最も広い透過帯域P41は、グラフ上ではわかりにくいが、ボトムB241が緩やかであることから、平坦性ではやや劣る。平坦性では、厚さT2が中間の場合の透過帯域P32が最も優れている。ボトムB242が急峻だからである。このため、帯域幅と平坦性との両者を考慮すると、厚さT2が中間の30μmの場合が最も優れているということができる。
【0063】
先に示した図10のグラフの例は、図11図14のグラフに基づき、距離D1、距離D2、厚さT2、厚さT3について最良の設定例としたものである。このため、広い帯域で高い透過強度が得られているのである。
【0064】
図8に示した構造におけるさらなる特徴点を説明する。ここでは、導電層53に着目する。導電層53は、基板内導波管7と、閉鎖層である導電層54との間に存在する下側層の1つである。前述のように、金属導波管4の下部の変換位置60では、導電層53にもウィンドウ530が形成されている。しかしながら図8中でウィンドウ530は、金属導波管4の中心C3に対して左右対称な位置ではなく右(先方バックショート構造8側)に寄って配置されている。
【0065】
この配置により、図8中で左側(後方バックショート構造9側)の導電層53の一部が延長部531となっている。延長部531は、導電層53のうち、ウィンドウ530に対して、他の導電層51、52よりも延長している部位である。延長部531は、先方バックショート構造8および後方バックショート構造9への電磁波の進入のしやすさに影響する。
【0066】
延長部531があることにより、次のような効果がある。まず、図8中の中心C3より左側において、導電層52と導電層53との間の部分の後方バックショート構造9の効果が強調される。当該部分に電磁波が進入しやすいからである。このため、延長部531があると、延長部531がない場合と比較して、後方バックショート構造9の効果がより強く発揮される。また、金属導波管4に電磁波を入力して第2ポート71から電磁波を出力させる場合において、先方バックショート構造8への電磁波の伝搬が促進される。このため、先方バックショート構造8の効果も、延長部531により強調される。
【0067】
むろん、延長部531が長い場合には短い場合と比較してこれらの効果がより顕著である。したがって、積層基板3の設計上、延長部531の長さにより、先方バックショート構造8の効果および後方バックショート構造9の効果を調節することができる。
【0068】
図8では、先方バックショート構造8側でも、導電層52および導電層53に、変換位置60へ向けての突出部分が見られる。これらは意図的なものではなく、先方ビア61を、導電層51~54を確実に短絡できる位置に配置する必要があることによる不可避的なものである。よって、積層基板3の製造上の寸法精度および位置精度の範囲内で、導電層52および導電層53の当該突出量は小さいほどよい。
【0069】
以上詳細に説明したように本実施の形態に係る電磁波変換器1では、金属導波管4と組み合わせられる積層基板3の内部に基板内導波管7を設けており、金属導波管4と基板内導波管7とで電磁波の変換がなされるものである。積層基板3では、変換位置60よりも先方の位置に先方バックショート構造8が設けられており、効率よく電磁波が変換されるとともに、先方ビア61の位置により共振周波数を設定できるようになっている。さらに積層基板3内に、先方バックショート構造8と反対側の位置に後方バックショート構造9を設けることで、幅広い帯域の電磁波に対して効率よい変換ができるようになっている。
【0070】
本実施の形態は単なる例示にすぎず、本開示技術を何ら限定するものではない。したがって本開示技術は当然に、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能である。例えば、積層基板3の構成には、前述のものの他に種々の変形が考えられる。
【0071】
前述の説明での積層基板3は、導電層5が4層で誘電体層6が3層のものであったが、層数はこれに限らない。最低、導電層5が4層で誘電体層6が3層のものであっても本開示技術は成立しうる。むろん、逆に層数が多くてもよい。層数が多い場合には、基板内導波管7が、複数層分の誘電体層6の厚みを有するものであってもよい。あるいは逆に、後方バックショート構造9が、図示したものよりもっと多くの層数にわたるものであってもよい。閉鎖層である導電層54より下にもさらに誘電体層6および導電層5が積層されていてもよい。
【0072】
前述の説明での積層基板3では、その全厚のうち最も金属導波管4寄りの位置に基板内導波管7を設けていたが、このことは必須ではない。積層基板3の全厚のうち金属導波管4から遠い位置、例えば図8中における導電層53と導電層54との間に基板内導波管7を設けることもできる。積層基板3の全厚のうち中間の位置、例えば図8中における導電層52と導電層53との間に基板内導波管7を設けることもできる。
【0073】
先方バックショート構造8および後方バックショート構造9を構成する層間ビアの配置についても変形が可能である。後方バックショート構造9を構成する層間ビアについては、図4等に示した後方ビア62、63のように、基板内導波管7の長手方向における位置に複数水準がある例を開示した。これは、図10中のボトムB2の急峻性をある程度緩和させているものである。ただしこのことは必須ではなく、後方ビア62、63を一直線上に配置することもできる。あるいは逆に、基板内導波管7の長手方向における後方ビア62、63の位置を3水準以上とすることもできる。
【0074】
先方バックショート構造8を構成する層間ビアについては、図4等に示した先方ビア61のように、一直線上に配置されている例を開示した。ただしこれも必須ではなく、複数の先方ビア61を、後方ビア62、63のようにジグザグ状に配置することもできる。
【0075】
[予備請求項1]
請求項4に記載の電磁波変換器であって、
前記先方バックショート構造は、前記入出力ポートから見て、前記金属導波管における前記入出力ポートから遠い側の壁面よりさらに先方の位置に配置されている電磁波変換器。
【0076】
[予備請求項2]
請求項4または予備請求項1に記載の電磁波変換器、もしくは請求項5に記載の電磁波変換器のうち請求項2の発明特定事項を有するものであって、
前記後方バックショート構造は、前記入出力ポートから見て、前記金属導波管における前記入出力ポートから近い側の壁面よりさらに近い位置に配置されている電磁波変換器。
【符号の説明】
【0077】
1 電磁波変換器 53 導電層
2 管状部材 54 導電層
3 積層基板 60 変換位置
4 金属導波管 61 先方ビア
5 導電層 62 後方ビア
6 誘電体層 63 後方ビア
7 基板内導波管 64 第1側方ビア
8 先方バックショート構造 65 第2側方ビア
9 後方バックショート構造 71 第2ポート
42 壁面 510 ウィンドウ
43 壁面 520 ウィンドウ
51 導電層 530 ウィンドウ
52 導電層 531 延長部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14