(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025015091
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】嗜好性向上剤
(51)【国際特許分類】
A23K 10/37 20160101AFI20250123BHJP
A23L 27/00 20160101ALI20250123BHJP
A23L 11/00 20250101ALI20250123BHJP
A23K 20/142 20160101ALI20250123BHJP
A23K 20/163 20160101ALI20250123BHJP
A23K 50/40 20160101ALI20250123BHJP
【FI】
A23K10/37
A23L27/00 Z
A23L11/00 Z
A23K20/142
A23K20/163
A23K50/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023118225
(22)【出願日】2023-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】000231637
【氏名又は名称】株式会社ニップン
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100156982
【弁理士】
【氏名又は名称】秋澤 慈
(72)【発明者】
【氏名】濱口 章央
(72)【発明者】
【氏名】小俣 愛美
【テーマコード(参考)】
2B005
2B150
4B020
4B047
【Fターム(参考)】
2B005AA06
2B005AA08
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2B150CA20
2B150DA43
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4B047LP20
(57)【要約】
【課題】従来の嗜好性向上剤よりも嗜好性向上効果が高い嗜好性向上剤の製造方法を提供する。
【解決手段】下記工程(1)含水おから、アミノ酸類および還元糖を含む、水分含有量45~90質量%の混合物を得る工程、及び(2)工程(1)で得られた混合物を加熱乾燥する工程を含む嗜好性向上剤の製造方法により上記課題を解決する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程
(1)含水おから、アミノ酸類および還元糖を含む、水分含有量45~90質量%の混合物を得る工程、及び
(2)工程(1)で得られた混合物を加熱乾燥する工程
を含む嗜好性向上剤の製造方法。
【請求項2】
工程(1)の含水おからが、生おからおよび/または乾燥おからに加水した水膨潤おからである、請求項1に記載の嗜好性向上剤の製造方法。
【請求項3】
工程(1)の含水おからが、挽割大豆から調整されたものである、請求項1に記載の嗜好性向上剤の製造方法。
【請求項4】
請求項1~3に記載の嗜好性向上剤の製造方法により得られる嗜好性向上剤を使用する、ペットフードの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペットフード等に使用される嗜好性向上剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ペットフードは、ドライタイプ(水分含有量10%程度以下)、セミモイストタイプ(水分含有量20~40%で未発泡のもの)、ソフトドライタイプ(水分含有量20~40%で加熱発泡させたもの)、ウエットタイプ(水分含有量70%程度、缶詰類)の4種類に大別される。
ウエットタイプペットフードでは、畜肉や魚肉等をそのまま又は適切な加工を施して配合することができるため、愛玩動物に対して嗜好性が高い。その反面、栄養バランスに片寄りが出易い。
ドライタイプ、セミモイストタイプ及びソフトドライタイプでは、均質なペットフードを大量に生産することが可能であり、栄養成分の調節も容易であるため、市場流通するペットフードの主流となっている。しかしながら、これらのペットフードは、ウエットタイプペットフードと比較して愛玩動物に対する嗜好性に劣るという問題がある。
そのため、嗜好性向上剤を原料に配合してペットフードを製造することや、製造したペットフードの表面に嗜好性向上剤を付着させる又は表面を嗜好性向上剤で被覆することが一般的である。特に、ドライタイプペットフードでは、乾燥粉末化させた嗜好性向上剤をその表面に付着/被覆させることが一般的である。
このような嗜好性向上剤としては、畜肉や魚肉、酵母等を酵素や酸等で加水分解して得たアミノ化合物(アミノ酸、ペプチド及びタンパク質)が含まれる原料に、必要に応じて還元糖を添加し、加熱処理することによりメイラード反応を起こし、香気成分等のメイラード反応生成物により嗜好性を向上させるメイラード型エキスが知られている。メイラード反応は水溶液中で反応が進行し易く、また、反応を制御し易いため、メイラード型エキスは通常、原料である還元糖やアミノ化合物が含まれる原料等の混合水溶液を調製し、90~150℃で一定時間加熱して製造される、つまり、水溶性溶媒を介したメイラード反応を実施することが一般的である。
この嗜好性向上剤を非ウエットタイプペットフード、特にドライタイプペットフードの表面付着や表面被覆に使用する場合、得られたメイラード型エキスを水溶液のままで使用するとペットフードの食感や保形が著しく損なわれるため、水溶液をスプレードライやバキュームドライ、エアードライ等により乾燥粉末化する必要がある。このようにして製造された嗜好性向上剤の嗜好性向上効果は優れているが、多段階の製造工程及び製造設備が必要であり、また水溶性溶媒を介したメイラード反応には時間がかかるため、製造に掛かる費用が高くなるという問題がある。また、ペットフードの表面に付着する嗜好性向上剤の量には限度があるため、一般的には、安価で高力価の嗜好性向上剤が求められている。
このような嗜好性向上剤として、特許文献1では、アミノ酸類と還元糖を含む粉末状原料を容器に密封し、品温80~180℃の範囲で、5~200分間乾熱処理する工程を含む、嗜好性向上剤の製造方法が開示されており、従来の水溶性溶媒を介したメイラード反応によって得られる嗜好性向上剤に対して、製造工程が簡略化された嗜好性向上剤の製造方法であるが、乾熱処理のため焦げやすく、それぞれの資材を粉末化しなければならない工程も生じるという問題がある。
また特許文献2では、ソフトドライタイプやセミモイストタイプのペットフードに使用する粉末エキスを含む被覆組成物であって、被覆組成物中おから粉末を30質量部以上90質量部以下含むことを特徴とする被覆組成物の開示がされており、おから粉末をソフトドライフードやセミモイストフードに被覆させることで、フードに被覆させるエキスの量を大幅に減らすことなく、ラインやフードのベタつきを軽減させているが、おから粉末をさらに加工することで嗜好性が向上するような記載はない。
さらに特許文献3では、アミノ酸に還元糖を加え、これを加熱処理することにより得られる素材であり、前記加熱処理により生じるメイラード反応生成物を含むことを特徴とする、嗜好性と保健的機能性に優れた食品素材またはペットフード素材が開示されている。メイラード反応生成物により嗜好性の向上と抗酸化作用に優れた食品素材またはペットフード素材、その製造方法、及びこれらを用いた食品、ペットフードまたはサプリメントを製造できるが、生おからを原料とする記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-187255
【特許文献2】特開2012―075414
【特許文献3】特開2017-006030
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の嗜好性向上剤よりも嗜好性向上効果が高い嗜好性向上剤の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は含水おからにアミノ酸類および還元糖を混合して加熱乾燥することによりメイラード反応を起こすことにより、従来の嗜好性向上剤よりも嗜好性向上効果の高い嗜好性向上剤が得られることを見出した。
さらに、加熱乾燥処理を経ていない生おからや特に挽割大豆を原料とした生おからを使用した方が、乾燥おからに加水した水膨潤おからを使用するよりも、得られるメイラード型エキスの嗜好性向上効果がより高いことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち本発明は以下の通りである。
[1]下記工程
(1)含水おから、アミノ酸類および還元糖を含む、水分含有量45~90質量%の混合物を得る工程、及び
(2)工程(1)で得られた混合物を加熱乾燥する工程、
を含む嗜好性向上剤の製造方法。
[2]工程(1)の含水おからが、生おからおよび/または乾燥おからに加水した水膨潤おからである、[1]に記載の嗜好性向上剤の製造方法。
[3]工程(1)の含水おからが、挽割大豆から調整されたものである、[1]に記載の嗜好性向上剤の製造方法。
[4][1]~[3]に記載の嗜好性向上剤の製造方法により得られる嗜好性向上剤を使用する、ペットフードの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、従来の嗜好性向上剤よりも嗜好性向上効果が高い嗜好性向上剤を得ることができる。また、本発明によれば、食品残渣として廃棄されているおからを原料とし、おから乾燥時の熱を利用してメイラード反応を生じさせることで、従来の嗜好性向上剤よりも安価に嗜好性向上剤を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、下記工程、(1)含水おから、アミノ酸類および還元糖を含む、水分含有量45~90質量%の混合物を得る工程、及び(2)工程(1)で得られた混合物を加熱乾燥する工程を含む嗜好性向上剤の製造方法に関する。
【0009】
(嗜好性向上剤の製造方法)
「工程(1):含水おから、アミノ酸類および還元糖を含む、水分含有量45~90質量%の混合物を得る工程」
含水おからは生おからであって良く、生おからを得る工程は、豆腐製造の常法において生おからを得る方法と同様の方法であればどのような方法であってもよい。例えば、原料大豆を水に12~24時間浸漬した後、ひき水を加えながら摩砕機で摩砕して生呉を得、生呉を煮沸した後、絞ることで水分含有量を調節した生おからを得ることができる。
また、含水おからは乾燥おからに加水して水膨潤おからとして得ることもできる。乾燥おからは、市販の乾燥おからや豆乳おからパウダー(キッコーマン)、生おからを任意の方法で乾燥させたものを使用することができる。乾燥おからを使用する場合、あらかじめ加水して水膨潤おから(含水おから)としてから他の成分(アミノ酸類および還元糖)と混合しても良く、乾燥おからと他の成分を混合する際、または混合した後にさらに加水することにより水膨潤おから(含水おから)としても良い。生おからは保存性が低いため、一般には加熱乾燥処理を行った乾燥おからが流通している。嗜好性向上の観点から、含水おからは生おからであることが好ましい。
さらに含水おからは、挽割大豆から調整されたものであってもよい。本発明において「挽割大豆」は、任意の方法で丸大豆を2分割以上に粉砕したものであればよく、例えば特開2012-187058に記載されるように得ることができる。豆腐製造の常法においては、生おからを得る工程において原料大豆として丸大豆を使用することが一般的であるが、挽割大豆を使用することで浸漬時間を短縮することができる。また、挽割大豆を使用することで、丸大豆を使用する場合と比較して得られる生おからにおいてメイラード反応に必要な成分である蛋白質や脂質の含有量が多くなる。
【0010】
本発明において「アミノ酸類」はアミノ酸(α又はβ、γ型を問わない)及びその誘導体であり、アミノ酸としては、ヒスチジン、アルギニン、イソロイシン、ロイシン、リジン、ヒドロキシリジン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、バリン、アスパラギン、アスパラギン酸、セリン、グルタミン、グルタミン酸、プロリン、ヒドロキシプロリン、グリシン、アラニン、スレオニン、メチオニン、シスチン、システイン、チロキシン、オルニチン、シトルリン、ヒドロキシプロリン、ヒドロキシリジン等が挙げられる。アミノ酸類は1種類を単独で又は複数の種類、例えば2~8種類を組み合わせて使用しても良い。
アミノ酸類の量は、混合物の乾燥固形分全量に対して特に制限はなく、メイラード反応の起こる範囲で設定することができ、好ましくは0.5~20質量%、さらに好ましくは0.5~15質量%、より好ましくは1~10質量%の範囲で使用できる。アミノ酸類の量が多くなるにつれてメイラード反応生成物の生成量が多くなり、嗜好性も向上する傾向にあるが、同時に原料コストが上昇する傾向にある。
【0011】
本発明において「還元糖」は、分子内に遊離性のアルデヒド基やケトン基をもち、還元性を示す糖類(アルドース及びケトース)のことをいう。還元糖は単糖類、二糖類、オリゴ糖及び多糖のいずれでも良く、好ましくは単糖類又は二糖類である。還元糖は、トリオースからヘキソースまで炭素数により分類されているが、メイラード反応の連鎖反応が進行して芳香性及び香味性化合物が生成されやすいペントース及びヘキソースが好ましい。入手容易性の観点から、アルドース類ではグルコース(ブドウ糖)及びキシロース、ケトース類ではフルクトース(果糖)が最も好ましい。還元糖は1種類を単独で又は複数の種類、例えば1~5種類を組み合わせて使用しても良い。
還元糖の量は、混合物の乾燥固形分全量に対して特に制限はなく、メイラード反応の起こる範囲で設定することができ、好ましくは0.5~20質量%、さらに好ましくは0.5~15質量%、より好ましくは1~10質量%の範囲で使用できる。還元糖の量が多くなるにつれてメイラード反応生成物の生成量が多くなり、嗜好性も向上する傾向にあるが、同時に原料コストが上昇する傾向にある。
【0012】
混合する手段や条件は、原料を均一に混合できるのであれば特に限定されない。好ましくは、ニーダーやミキサーなどの撹拌機を用いて、原料が均一になるまで混合する。
【0013】
混合物の水分含有量は、45~90質量%であり、好ましくは65質量%~90質量%であり、より好ましくは80質量%~90質量%である。水分含有量が90質量%を超えると後述の工程(3)における乾燥効率が低下する傾向にあり、水分が45質量%未満である場合はメイラード反応による嗜好性向上効果が低くなる傾向にある。
【0014】
「工程(2):工程(1)で得られた混合物を加熱乾燥する工程」
本発明において「加熱乾燥」とは、原料を伝導熱、放射熱、輻射熱、熱風、電磁波(マイクロ波)などに曝して加熱する熱処理法が挙げられる。加熱乾燥の手段としては公知のものを使用することができ、例えば熱風乾燥機、加熱機構付ニーダーなどを使用することができる。例として、食材乾燥機(株式会社テンセイジャパン)の使用があげられる。
得られる乾燥物の水分は粉末化する工程で粉末にできる範囲であれば制限はないが、水分が高いと保存性が低下する傾向にあるため、好ましくは15%以下であり、より好ましくは10%以下である。
加熱乾燥工程における乾燥温度や乾燥時間には特に制限はなく、焦げが発生することのない常識的な範囲で設定することができ、また、乾燥に係る産業効率を高める観点から、乾燥温度が低いと乾燥に時間がかかることから、庫内温度(装置内温度)が200~400℃であり、好ましくは250~300℃である。そのような範囲内であれば、乾燥時間を効率化することができる。例えば、200~400℃で30~120分程度加熱乾燥してもよく、好ましくは60~90分加熱乾燥してもよく、さらに好ましくは250~300℃で60~90分加熱乾燥してもよい。
【0015】
「工程(4):工程(3)で得られた乾燥物を粉末化する工程」
本発明の方法において、工程(3)で得られた乾燥物を任意にさらに粉砕してもよい(工程(4))。本発明において「粉砕」とは機械的プロセスによる粉砕が利用でき、ジョークラッシャー、ロールミル、カッターミル、ハンマーミル、回転ミル、ピンミル、アトマイザー、磨砕式ミル、グラインダー、石臼などがあげられる。好ましくは、ピンミルの使用であり、例としてマキノ式DD-2型粉砕機(槙野産業株式会社)があげられる。
【0016】
(ペットフードの製造方法)
本発明は上記嗜好性向上剤の製造方法により得られる嗜好性向上剤を使用する、ペットフードの製造方法に関する。本発明のペットフードの製造方法は、本発明の嗜好性向上剤を使用する以外は常法に従う。例えば嗜好性向上剤を原料に配合してペットフードを製造することや、製造したペットフードの表面に嗜好性向上剤を付着又は表面を被覆させることができる。特に、ドライタイプペットフードでは、乾燥粉末化させた嗜好性向上剤をその表面に付着/被覆させることができる。嗜好性向上剤の使用量は適宜変更できるが、例えば、嗜好性向上剤を原料に配合してペットフードを製造する場合は、原料100質量部に対して0.1~5.0質量部、製造したペットフードの表面に嗜好性向上剤を付着又は表面を被覆させる場合にはペットフード100質量部に対して0.1~100質量部である。
【実施例0017】
以下本発明を具体的に説明する為に実施例を示すが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0018】
製造例1:犬用ドライタイプペットフードの製造
とうもろこし50質量部、小麦粉16質量部、大豆粕12質量部、チキンミール8質量部、ミートミール7質量部、小麦フスマ5質量部、ミネラル類(炭酸マンガン、炭酸亜鉛、硫酸鉄、硫酸銅、ヨウ素酸カルシウム、硫酸コバルト)1質量部、ビタミン類(A、B1、B2、B6、B12、C、D3、E、K3、ニコチン酸、パントテン酸、葉酸、ビオチン)1質量部を十分に混合した後、水20質量部を加えて一軸エクストルーダー(ウェンガー社製X-20型)に供給し、温度140℃で混練してダイスから押し出し、切断した後、水分が8~10%になるように120℃で20分間、熱風乾燥機(エスペック社製PH-202)で乾燥させて、膨化した犬用ドライフード粒(直径10mm、長さ10mm)を製造した。
【0019】
製造例2:生おからの製造
豆腐製造の常法に従い、原料大豆を水に20時間浸漬した後、ひき水を加えながら摩砕機(増幸産業社製MKZA10-15JIVα)で摩砕し、生呉を得た。生呉を煮沸した後、絞ることで水分80%の生おからA1を得た。
【0020】
製造例3:水溶液加熱(従来技術)による犬猫用嗜好性向上剤の製造
生おからA1を100質量部、キシロース0.1質量部、メチオニン0.1質量部を水500質量部に混合し、オートクレーブで100℃、60分間加熱した反応混合液を自然に冷却してから凍結乾燥し、得られた乾燥物を粉砕機(ヴァーダー・サイエンティフィック社製RetsCh ZM200型)で粉砕し嗜好性向上剤B1(比較例1)を得た。
【0021】
製造例4:生おから(本願発明)による犬猫用嗜好性向上剤の製造
生おからA1を100質量部、キシロース0.1質量部、メチオニン0.1質量部を混合した。前期混合物をおから乾燥機(株式会社テンセイジャパン)に投入し、250℃の熱風で水分が10%以下になるように乾燥させた。得られた乾燥物を粉砕機で粉砕し、嗜好性向上剤C1(実施例1)を得た。
途中得られた乾燥物の乾燥固形分の量は、原料及び混合物の重量から水分含有量を除した値として求めることができる。混合物の水分含有量は、原料中の水分量から求めてもよく、混合物から測定により求めてもよい。粉末状原料や混合物における水分量の測定方法は公知であり、例えば、ビーカーやシャーレのような広口容器に試料を採取し、開口したまま乾熱乾燥機に投入し、135℃で3時間乾熱乾燥し、乾燥前後の重量から下記の計算式によって水分含有率を求めることができる(加熱乾燥法)。
水分含有量(%)=(乾燥前重量-乾燥後重量)/乾燥前重量×100
【0022】
製造例5:嗜好性向上剤を付着させた犬用ドライタイプペットフード
製造例1で得たドライフード粒94質量部を回転式ドラムミキサーに入れた。ドライフード粒を撹拌しながら75℃に加温した牛脂5質量部を滴下し、ドライフード粒の表面を牛脂で被覆した。次いで、ドライフード粒を撹拌しながら嗜好性向上剤B1または嗜好性向上剤C1のそれぞれ1質量部を供給し、均一となるように混合して嗜好性向上剤を付着させた犬用ドライタイプペットフードを得た。
【0023】
嗜好性試験1
製造例5で得られた嗜好性向上剤C1を付着させたペットフードC1、嗜好性向上剤B1を付着させたペットフードB1をそれぞれ別の餌皿に150gずつ盛り付けた。5頭の犬を個別の犬舎に入れ、2種類のペットフードを同時に与えて、午後2時~午後4時までの間、自由に摂餌させることで二者択一の嗜好性試験を行った。嗜好性は、下記式で求め、結果を表1に記した。
式・・・ペットフードC1の摂餌量/(ペットフードB1の摂餌量+ペットフードC1の摂餌量)×100
表1嗜好性試験結果
実施例1の嗜好性向上剤は比較例1の嗜好性向上剤に対して優れた嗜好性を示した。これは本願発明の方が従来技術よりも効率的にメイラード反応による嗜好性成分を生成できたためと考えられる。
【0024】
製造例6:乾燥おからによる犬猫用嗜好性向上剤の製造
生おからA1をおから乾燥機に投入し、250℃の熱風で乾燥して水分8%の乾燥おからA2を得た。乾燥おからA2に水分80%になるように加水したものを100質量部、キシロース0.1質量部、メチオニン0.1質量部を混合した。前記混合物をおから乾燥機に投入し、250℃の熱風で水分10%以下になるように乾燥させた。得られた乾燥物を粉砕機で粉砕し、嗜好性向上剤C2(実施例2)を得た。
【0025】
製造例7:嗜好性向上剤を付着させた犬用ドライタイプペットフード
製造例1で得たドライフード粒94質量部を回転式ドラムミキサーに入れた。ドライフード粒を撹拌しながら75℃に加温した牛脂5質量部を滴下し、ドライフード粒の表面を牛脂で被覆した。次いで、ドライフード粒を撹拌しながら嗜好性向上剤C2または嗜好性向上剤C1のそれぞれ1質量部を供給し、均一となるように混合して嗜好性向上剤を付着させた犬用ドライタイプペットフードを得た。
【0026】
嗜好性試験2
製造例7で得られた嗜好性向上剤C1を付着させたペットフードC1、嗜好性向上剤C2を付着させたペットフードC2をそれぞれ別の餌皿に150gずつ盛り付けた。嗜好性試験1と同様に試験を行った。嗜好性は、下記式で求め、結果を表2に記した。
式・・・ペットフードC1の摂餌量/(ペットフードC2の摂餌量+ペットフードC1の摂餌量)×100
表2嗜好性試験結果
実施例1の嗜好性向上剤は、実施例2の嗜好性向上剤に対して優れた嗜好性を示した。一度加熱乾燥したおからよりも生おからの方が、メイラード反応による嗜好性成分がより多く生成されたためと考えられる。
【0027】
製造例8:挽割大豆を用いた生おからの製造
2分割以上に挽き割った原料大豆を水に1時間浸漬した後、製造例1と同様の方法で摩砕、煮沸を行い、絞ることで水分80%の生おからA3を得た。
【0028】
製造例9:挽割大豆を用いた生おから(本願発明)による犬猫用嗜好性向上剤の製造
生おからA3を100質量部、キシロース0.1質量部、メチオニン0.1質量部を混合した。前期混合物をおから乾燥機に投入し、250℃の熱風で乾燥させた。得られた乾燥物を粉砕機で粉砕し、嗜好性向上剤C3(実施例3)を得た。
【0029】
製造例10:嗜好性向上剤を付着させた犬用ドライタイプペットフード
製造例1で得たドライフード粒94質量部を回転式ドラムミキサーに入れた。ドライフード粒を撹拌しながら75℃に加温した牛脂5質量部を滴下し、ドライフード粒の表面を牛脂で被覆した。次いで、ドライフード粒を撹拌しながら嗜好性向上剤C3または嗜好性向上剤C1のそれぞれ1質量部を供給し、均一となるように混合して嗜好性向上剤を付着させた犬用ドライタイプペットフードを得た。
【0030】
嗜好性試験3
製造例10で得られた嗜好性向上剤C3を付着させたペットフードC3、嗜好性向上剤C1を付着させたペットフードC1をそれぞれ別の餌皿に150gずつ盛り付けた。嗜好性試験1と同様に試験を行った。嗜好性は、下記式で求め、結果を表4に記した。
式・・・ペットフードC3の摂餌量/(ペットフードC1の摂餌量+ペットフードC3の摂餌量)×100
表3嗜好性試験結果
実施例3の嗜好性向上剤は、実施例1の嗜好性向上剤に対して優れた嗜好性を示した。これは、生おからA1よりも生おからA3の方が、メイラード反応による嗜好性成分がより多く生成されたためと考えられる。
【0031】
製造例11:市販の嗜好性向上剤を付着させた犬用ドライタイプペットフード
嗜好性向上剤を市販の酵母エキス(日本製紙ケミカル:SK酵母エキス)を使用したこと以外は製造例10と同様にして比較例2のペットフードB2を得た。
【0032】
嗜好性試験4、5、6、7
実施例1、2、3及び比較例1、2のペットフードC1,C2,C3及びB1、B2をそれぞれ別の餌皿に150gずつ盛り付け、嗜好性試験1と同様に試験を実施した。嗜好性は、下記式で求め、結果を表4に記した。
嗜好性試験4の式・・・ペットフードC1の摂餌量/(ペットフードC1の摂餌量+ペットフードB2の摂餌量)×100
嗜好性試験5の式・・・ペットフードC2の摂餌量/(ペットフードC2の摂餌量+ペットフードB2の摂餌量)×100
嗜好性試験6の式・・・ペットフードC3の摂餌量/(ペットフードC3の摂餌量+ペットフードB2の摂餌量)×100
嗜好性試験7の式・・・ペットフードB1の摂餌量/(ペットフードB1の摂餌量+ペットフードB2の摂餌量)×100
【0033】
表4嗜好性試験結果
比較例1の嗜好性向上剤は市販の嗜好性向上剤に対して同等の嗜好性であった。また、実施例1,2、3の嗜好性向上剤は市販の嗜好性向上剤に対して優れた嗜好性を示した。
【0034】
製造例12:水分条件の検討
乾燥おからA2(水分含有量約7質量%)に下記の表5の水分含有量になるように加水を行い、キシロース、メチオニンを表5の割合で混合した。それぞれの混合物を製造例4と同様の方法で乾燥、粉砕し、実施例4~7の嗜好性向上剤C4~C7を得た。キシロース、メチオニンは固形分における割合が嗜好性向上剤C1と同様になるように調整した。
表5配合
【0035】
製造例13:嗜好性向上剤を付着させた犬用ドライタイプペットフード
製造例1で得たドライフード粒94質量部を回転式ドラムミキサーに入れた。ドライフード粒を撹拌しながら75℃に加温した牛脂5質量部を滴下し、ドライフード粒の表面を牛脂で被覆した。次いで、ドライフード粒を撹拌しながら嗜好性向上剤C4~C7それぞれ1質量部を供給し、均一となるように混合して嗜好性向上剤を付着させた犬用ドライタイプペットフードを得た。
【0036】
嗜好性試験8、9、10、11
実施例4~7及び比較例2のペットフードC4,C5,C6,C7及びB2をそれぞれ別の餌皿に150gずつ盛り付け、嗜好性試験1と同様に試験を実施した。嗜好性は、下記式で求め、結果を表6に記した。
嗜好性試験8の式・・・ペットフードC4の摂餌量/(ペットフードC4の摂餌量+ペットフードB2の摂餌量)×100
嗜好性試験9の式・・・ペットフードC5の摂餌量/(ペットフードC5の摂餌量+ペットフードB2の摂餌量)×100
嗜好性試験10の式・・・ペットフードC6の摂餌量/(ペットフードC6の摂餌量+ペットフードB2の摂餌量)×100
嗜好性試験11の式・・・ペットフードC7の摂餌量/(ペットフードC7の摂餌量+ペットフードB2の摂餌量)×100
表6嗜好性試験結果
混合物の水分含有量が50質量%未満であった場合、市販の酵母エキスと同等の嗜好性を示した。嗜好性向上剤C7はメイラード反応による着色がまばらであった。おから中の成分と糖やアミノ酸がうまく混合されず、添加した糖とアミノ酸によるメイラード反応が部分的に発生していたと推測される。
【0037】
製造例14:猫用ドライタイプペットフードの製造
とうもろこし40質量部、小麦粉15質量部、大豆粕8質量部、コーングルテンミール5質量部、チキンミール8質量部、ミートミール7質量部、魚粉15質量部、ミネラル類(炭酸マンガン、炭酸亜鉛、硫酸鉄、硫酸銅、ヨウ素酸カルシウム、硫酸コバルト)1質量部、ビタミン類(A、B1、B2、B6、B12、C、D3、E、K3、ニコチン酸、パントテン酸、葉酸、ビオチン)1質量部を十分に混合した後、水20質量部を加えて一軸エクストルーダー(ウェンガー社製X-20型)に供給し、温度140℃で混練してダイスから押し出し、切断した後、水分が8~10質量%になるように120℃で20分間、熱風乾燥機(エスペック社製PH-202)で乾燥させて、膨化した猫用ドライフード粒(直径10mm、長さ10mm)を製造した。
【0038】
製造例15:嗜好性向上剤を付着させた猫用ドライタイプペットフードの製造
製造例14で得た猫用ドライフード粒94質量部を回転式ドラムミキサーに入れた。ドライフード粒を撹拌しながら75℃に加温した牛脂5質量部を滴下し、ドライフード粒の表面を牛脂で被覆した。次いで、ドライフード粒を撹拌しながら嗜好性向上剤C1~C3のそれぞれ1質量部を供給し、均一になるように混合して実施例8~10の猫用ペットフードC8~C10を得た。
【0039】
製造例16:市販の嗜好性向上剤を付着させた猫用ドライタイプペットフード
嗜好性向上剤C1~C3に代えて市販の酵母エキス(日本製紙ケミカル:SK酵母エキス)を使用したこと以外は製造例15と同様にして比較例3の猫用ペットフードB3を得た。
【0040】
嗜好性試験12、13、14
実施例8~10及び比較例3の猫用ペットフードC8~C10及びB3をそれぞれ別の餌皿に100gずつ盛り付けた。5匹の猫を個別の猫舎に入れ、実施例6及び比較例5のペットフードC8~C10及びB3を同時に与え、午後4時~翌朝の午前9時までの間自由摂餌させることで二者択一の嗜好性試験を行った。嗜好性は、下記式で求め、結果を表7に記した。
嗜好性試験12の式・・・ペットフードC8の摂餌量/(ペットフードC8の摂餌量+ペットフードB3の摂餌量)×100
嗜好性試験13の式・・・ペットフードC9の摂餌量/(ペットフードC9の摂餌量+ペットフードB3の摂餌量)×100
嗜好性試験14の式・・・ペットフードC10の摂餌量/(ペットフードC10の摂餌量+ペットフードB3の摂餌量)×100
【0041】
表7嗜好性試験結果
嗜好性向上剤C8~C10は市販の嗜好性向上剤に対して優れた嗜好性向上効果を示した。本願発明による嗜好性向上剤は猫においても嗜好性向上効果があることを確認することができた。
【0042】
定性試験:生おからの成分分析
生おからA1およびA3の成分分析を実施し、乾物換算に計算した結果を下記の表8に示した。蛋白質の分析はケルダール法、脂質の分析はジエチルエーテル抽出法で実施し、常圧乾燥法で測定した水分含有量から乾物あたりの値(水分含有量10質量%とした場合の値)を計算した。挽割大豆を原料にした生おからA3は、丸大豆を原料とした生おからA1よりも蛋白質や脂質の含有量が多く、犬や猫に高嗜好性を示すメイラード反応に必要な成分が生おから中に多く含まれると推察される。
表8生おからの成分分析