(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025151010
(43)【公開日】2025-10-09
(54)【発明の名称】加速器システム、粒子線治療システム、加速器の制御方法及び粒子線治療システムの制御方法
(51)【国際特許分類】
H05H 13/04 20060101AFI20251002BHJP
A61N 5/10 20060101ALI20251002BHJP
【FI】
H05H13/04 P
H05H13/04 D
A61N5/10 H
A61N5/10 D
A61N5/10 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024052217
(22)【出願日】2024-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000279
【氏名又は名称】弁理士法人ウィルフォート国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西内 秀晶
(72)【発明者】
【氏名】羽江 隆光
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 定博
【テーマコード(参考)】
2G085
4C082
【Fターム(参考)】
2G085AA13
2G085BA08
2G085CA03
2G085CA13
2G085CA17
2G085CA26
4C082AA01
4C082AG02
4C082AG21
4C082AP01
(57)【要約】
【課題】荷電粒子ビームの出射効率の低下を抑制することが可能な加速器システムを提供する。
【解決手段】加速器1は、入力された高周波電圧を用いて共振周波数に応じた加速用高周波電圧を励起する加速空胴11と、加速空胴11の共振周波数を変調する回転コンデンサ13とを備え、入射された荷電粒子ビームを加速用高周波電圧によって加速し出射する。加速電圧モニタ12は、加速用高周波電圧を検出する。高周波制御装置3は、検出された加速用高周波電圧の周波数に基づいて、制御用高周波電圧を共振周波数の変化に追従されるように変調しつつ、加速器1に対する荷電粒子ビームの入射及び出射を制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力された制御用高周波電圧を用いて共振周波数に応じた加速用高周波電圧を励起する加速空胴と、前記共振周波数を時間的に変化させる変調器とを備え、入射された荷電粒子ビームを前記加速用高周波電圧によって加速して出射する加速器と、
前記共振周波数を表す周波数対応値に基づいて、前記制御用高周波電圧の振幅を制御する高周波制御装置と、を有する加速器システム。
【請求項2】
前記加速用高周波電圧を検出する電圧検出部をさらに有し、
前記高周波制御装置は、前記加速用高周波電圧の振幅の目標値である振幅目標値を前記周波数対応値に基づいて設定し、前記電圧検出部にて検出された加速用高周波電圧の振幅が前記振幅目標値となるように、前記制御用高周波電圧の振幅を制御する、請求項1に記載の加速器システム。
【請求項3】
前記高周波制御装置は、前記加速用高周波電圧の振幅が当該振幅の目標値である振幅目標値となるときの前記制御用高周波電圧の振幅である振幅設定値を周波数対応値に基づいて設定し、前記制御用高周波電圧の振幅を前記振幅設定値となるように制御する、請求項1に記載の加速器システム。
【請求項4】
前記加速用高周波電圧を検出する電圧検出部をさらに有し、
前記高周波制御装置は、前記振幅目標値を前記周波数対応値に基づいて設定し、前記電圧検出部にて検出された加速用高周波電圧の振幅が前記振幅目標値となるように、前記制御用高周波電圧の振幅を制御することで、当該振幅と前記振幅目標値との偏差を補正する振幅補正量を前記周波数対応値ごとに算出し、当該振幅補正量に基づいて前記振幅設定値を前記周波数対応値ごとに算出する、請求項3に記載の加速器システム。
【請求項5】
前記高周波制御装置は、前記共振周波数の周期である運転周期ごとに前記振幅補正量を前記周波数対応値ごとに算出し、前記運転周期ごとの前記振幅補正量の平均値に基づいて、前記振幅設定値を算出する、請求項4に記載の加速器システム。
【請求項6】
前記加速用高周波電圧を検出する電圧検出部をさらに有し、
前記高周波制御装置は、前記電圧検出部にて検出された加速用高周波電圧の周波数に基づいて、前記制御用高周波電圧の周波数を前記共振周波数の変化に追従されるように変調し、
前記周波数対応値は、前記制御用高周波電圧の周波数である、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の加速器システム。
【請求項7】
前記変調器は、前記加速空胴に接続され、互いに対向する電極対の一方を回転させて前記電極対が重なり合う重畳面積を変化させることにより静電容量を変化させて、前記共振周波数を時間的に変化させる回転コンデンサであり、
前記周波数対応値は、前記回転コンデンサの回転角度である、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の加速器システム。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の加速器システムと、
前記加速器システムから出射された荷電粒子ビームを患者に照射する照射装置と、を備えた粒子線治療システム。
【請求項9】
前記荷電粒子ビームの照射線量を計測する線量モニタと、
前記患者内の複数の照射位置に対して順番に前記荷電粒子ビームを照射するように制御する上位制御装置と、をさらに備え、
前記上位制御装置は、前記照射位置のいずれかに照射した照射量が目標値に到達すると、前記荷電粒子ビームを照射する前記照射位置を変更する、請求項8に記載の粒子線治療システム。
【請求項10】
前記高周波制御装置は、エネルギー変更指令が入力されると、前記加速器から出射する荷電粒子ビームのエネルギーを変更し、
前記上位制御装置は、所定のエネルギーを有する前記荷電粒子ビームの照射が完了すると前記エネルギー変更指令を前記高周波制御装置に出力する、請求項9に記載の粒子線治療システム。
【請求項11】
入力された制御用高周波電圧を用いて共振周波数に応じた加速用高周波電圧を励起する加速空胴と、前記共振周波数を時間的に変化させる変調器とを備え、入射された荷電粒子ビームを前記加速用高周波電圧によって加速して出射する加速器の制御方法であって、
前記共振周波数を表す周波数対応値に基づいて、前記制御用高周波電圧の振幅を制御する、加速器の制御方法。
【請求項12】
入力された制御用高周波電圧を用いて共振周波数に応じた加速用高周波電圧を励起する加速空胴と前記共振周波数を時間的に変化させる変調器とを備え、入射された荷電粒子ビームを前記加速用高周波電圧によって加速して出射する加速器と、前記加速器から出射された荷電粒子ビームを患者に照射する照射装置と、を備えた粒子線治療システムの制御方法であって、
前記共振周波数を表す周波数対応値に基づいて、前記制御用高周波電圧の振幅を制御し、
前記荷電粒子ビームの照射線量を計測し、
前記患者内の複数の照射位置に対して順番に前記荷電粒子ビームを照射するように制御し、
前記荷電粒子ビームを照射する制御では、前記照射位置のいずれかに照射した照射量が目標値に到達すると、前記荷電粒子ビームを照射する前記照射位置を変更する、粒子線治療システムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、加速器システム、粒子線治療システム、加速器の制御方法及び粒子線治療システムの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子ビームを加速して出射する加速器として、強度が時間的に一定の主磁場の中で、周波数を時間的に変調させた加速用高周波電圧を荷電粒子ビームに印加することで、その荷電粒子ビームを加速する円形加速器が注目されている。この種の円形加速器は、超電導コイルを用いて主磁場を生成することができるため、小型化及び低コスト化に有利であり、特に粒子線治療システムなどに適用されている。
【0003】
加速用高周波電圧は、加速用高周波電圧を励起する加速空胴と接続された変調器を用いて加速空胴の共振周波数を変調する。変調器として、例えば、回転コンデンサが挙げられる。回転コンデンサは、コンデンサを構成する電極が等速回転することで、加速空胴の共振周波数を変化させる。この共振周波数の変化に追従した高周波電圧を加速空胴に供給することで、荷電粒子ビームを安定に加速できる。
【0004】
荷電粒子ビームを安定的に加速するには、加速空胴に供給する高周波電圧の振幅を適切な値に制御することが重要となる。これに対して特許文献1には、高周波電圧の振幅を指定する振幅指令信号を、加速用高周波電圧の振幅に基づいて補正するフィードバック制御を行うことで、荷電粒子ビームの安定性を向上させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
加速空胴の共振周波数を変調するための回転コンデンサの回転数には、回転コンデンサを回転させるモータや回転コンデンサの組立公差による偏心などに起因するゆらぎが生じるため、加速空胴の共振周波数にもゆらぎが生じる。加速空胴に供給する高周波電圧の振幅の最適値は、加速空胴の共振周波数に応じて変化するため、加速空胴の共振周波数にゆらぎが生じると、高周波電圧の振幅の最適値もずれてしまい、荷電粒子ビームの出射効率の低下を招く恐れがある。
【0007】
特許文献1に記載の技術では、加速空胴に供給する高周波電圧の振幅を加速用高周波電圧の振幅に基づいてフィードバック制御することは開示されているが、共振周波数のゆらぎについては考慮されていない。
【0008】
本開示の目的は、荷電粒子ビームの出射効率の低下を抑制することが可能な加速器システム、粒子線治療システム、加速器の制御方法及び粒子線治療システムの制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一態様に従う加速器システムは、入力された制御用高周波電圧を用いて共振周波数に応じた加速用高周波電圧を励起する加速空胴と、前記共振周波数を時間的に変化させる変調器とを備え、入射された荷電粒子ビームを前記加速用高周波電圧によって加速して出射する加速器と、前記共振周波数を表す周波数対応値に基づいて、前記制御用高周波電圧の振幅を制御する高周波制御装置と、を有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、荷電粒子ビームの出射効率の低下を抑制することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示の一実施形態の高周波加速システムの構成を模式的に示す図である。
【
図2】高周波制御装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図5】ロータ電極及びステータ電極の一例を示す図である。
【
図6】ロータ電極、ステータ電極及び角度検出器の関係の一例を示す図である。
【
図7】位置ずれを考慮したロータ原点信号の生成方法を説明するための図である。
【
図8】ロータ原点信号を出力するカウンタ回路の構成例を示す図である。
【
図9】高周波制御装置の制御タイミングチャートを示す図である。
【
図10】高周波電圧制御部の高周波信号処理に係る構成の一例を示す図である。
【
図11】高周波電圧制御部の高周波信号処理に係る構成の他の例を示す図である。
【
図12】高周波電圧制御部の高周波信号処理に係る構成の他の例を示す図である。
【
図13】振幅フィードバック制御に係るタイミングチャートの一例を示す図である。
【
図14】振幅LUTの学習方法の一例を説明するための図である。
【
図15】粒子線治療システムの構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施形態について図面を参照して説明する。
【0013】
図1は、本開示の一実施形態の高周波加速システムの構成を模式的に示す図である。
図1に示す高周波加速システム100は、加速器1と、回転コンデンサ制御装置2と、高周波制御装置3と、増幅器4と、方向性結合器5と、上位制御装置6とを有する加速器システムである。
【0014】
加速器1は、入射された荷電粒子ビームを周回させながら加速して出射する円形加速器である。加速器1は、加速空胴11と、加速電圧モニタ12と、回転コンデンサ13と、角度検出器14とを備える。
【0015】
加速空胴11は、荷電粒子ビームを加速するための加速電圧(加速用高周波電圧)を励起するための装置である。具体的には、加速空胴11は、内部に加速電極(図示せず)を備え、外部から入力される制御用高周波電圧である高レベル高周波電圧により加速電極間に加速電圧を励起する。加速電圧モニタ12は、加速電極間に励起された加速電圧を検出し、その検出電圧を加速電圧モニタ信号として加速空胴の外部に出力する電圧検出部である。
【0016】
回転コンデンサ13は、加速空胴11と接続され、加速空胴11の共振周波数を時間的に変化させる変調器である。回転コンデンサ13は、具体的には、1以上の互いに対向する電極対(
図1では、図示せず)を有し、その電極対の一方を回転させて電極対が重なり合う重畳面積を変化させることにより静電容量を変化させ、加速空胴11の共振周波数を変調する。電極対のうち固定された電極はステータ電極と呼ばれ、ステータ電極に対向した回転可能な電極はロータ電極と呼ばれる。また、回転コンデンサ13は、ロータ電極を回転させるモータ15を備える。
【0017】
角度検出器14は、回転コンデンサ13の回転角度を検出し、その回転角度を示す角度検出信号を出力する角度検出部である。角度検出器14は、本実施形態では、回転角度の変化に応じたパルス信号を角度検出信号として出力するロータリーエンコーダである。
【0018】
回転コンデンサ制御装置2は、回転コンデンサ13のモータ15を制御する。例えば、回転コンデンサ制御装置2は、モータ15の回転開始、停止及び回転速度などを制御する。
【0019】
高周波制御装置3は、加速空胴11に供給する高レベル高周波電圧に応じた低レベル高周波電圧を出力して、加速空胴11に供給する高レベル高周波電圧の周波数及び振幅などを制御する。高周波制御装置3は、具体的には、低レベル高周波電圧を出力するデジタル発振器(
図1では、図示せず)を備え、加速電圧モニタ12からの加速電圧モニタ信号にて示される加速電圧の周波数に基づいて、デジタル発振器の周波数を、加速空胴11の共振周波数の変化に一致するように追従させつつ、その振幅を加速電極に所望の加速電圧が発生するように制御する。
【0020】
増幅器4は、高周波制御装置3から出力される低レベル高周波電圧を増幅することで高レベル高周波電圧に変換して、方向性結合器5を経由して加速器1の加速空胴11に供給する。なお、加速空胴11は、本実施形態では、Q値が1000~3000程度の空胴共振器である。この場合、増幅器4で増幅された高レベル高周波電圧の周波数と加速空胴11の共振周波数とが一致すれば、加速空胴11から高周波電圧の反射は生じず、加速電極に高周波電圧が発生する。しかしながら、高レベル高周波電圧の周波数と加速空胴11の共振周波数がある程度以上ずれている場合、加速空胴11に供給した高レベル高周波電圧が反射されるため、加速電極に高周波電圧が発生しない。方向性結合器5は、加速空胴11に供給した高レベル高周波電圧の進行波成分と、加速空胴11から反射された高周波電圧の反射波成分とを検出し、それらを示す進行波モニタ信号及び反射波モニタ信号を出力する成分検出部として機能する。
【0021】
高周波制御装置3は、具体的には、加速電圧モニタ12からの加速電圧モニタ信号と、方向性結合器5からの進行波モニタ信号及び反射波モニタ信号とに基づいて、加速空胴11に供給する高レベル高周波電圧の周波数を制御する。また、高周波制御装置3は、角度検出器14からの角度検出信号に基づいて、後述する回転コンデンサ13のロータ電極のロータ原点信号を算出して、上位制御装置6に出力する。
【0022】
上位制御装置6は、高周波制御装置3に対して種々の信号を出力して高周波加速システム100全体を制御する。例えば、上位制御装置6は、高周波制御装置3に対して、種々の設定情報を出力する。設定情報は、加速電圧の振幅の目標値である振幅目標値、高周波信号処理装置の出力端から加速電圧モニタ12までの伝送線路上の機器の周波数に対する振幅値の特性を補正するために設定する振幅設定値、荷電粒子ビームを入射する際の加速電圧の周波数である入射周波数を示す入射周波数データ、荷電粒子ビームを出射する際の加速電圧の周波数である出射周波数を示す出射周波数データ、及び、後述するフィードバック制御のゲインなどの各種制御パラメータを含む。また、上位制御装置6は、加速器1の制御開始を示すマスタトリガ信号、及び、加速器1から出力する荷電粒子ビームのエネルギーを変更するためのエネルギー変更信号を出力する。
【0023】
図2は、高周波制御装置3のハードウェア構成の一例を示す図である。
図2に示す高周波制御装置3は、外部インタフェース部31と、運転制御部32と、メモリ33と、制御レジスタ34と、高周波電圧制御部35と、高周波インタフェース部36と、外部機器制御タイミング信号出力部37とを有する。また、外部インタフェース部31と運転制御部32及びメモリ33とは、外部インタフェースバス38を介して相互に通信可能に接続され、運転制御部32及びメモリ33と制御レジスタ34とは、内部インタフェースバス39を介して相互に通信可能に接続される。
【0024】
外部インタフェース部31は、外部に対して種々の信号の入出力を行う。例えば、外部インタフェース部31には、角度検出器14からの角度検出信号(具体的には、A相、B相及びZ相の角度検出信号)、上位制御装置6からのマスタトリガ信号及びエネルギー変更信号が入力される。また、外部インタフェース部31は、上位制御装置6に対してロータ原点信号を出力する。また、外部インタフェース部31は、設定情報(入射周波数データ、出射周波数データ及び制御パラメータ)の入出力を行う通信インタフェースを有する。角度検出信号のうちA相及びB相の信号は、回転コンデンサ13の1回転中に等間隔に複数回出力され、それぞれの位相が90°ずれた信号である。Z相の角度検出信号は、回転コンデンサ13の1回転当たり1回出力される信号である。
【0025】
運転制御部32は、例えば、CPU(Central Processing Unit)などにて構成され、高周波加速システム100の運転を制御する運転制御を管理する。メモリ33は、外部インタフェース部31に入力された設定情報を保存する。
【0026】
制御レジスタ34は、高周波電圧制御部35で使用する制御パラメータを記憶する。制御パラメータは、ロック周波数、入射周波数、出射周波数、出力周波数、ロック判定値、トラッキング判定値、周波数Pゲイン(Gain)、周波数Iゲイン、周波数Dゲイン、待ち受け振幅値、振幅目標値、振幅Pゲイン及び振幅Iゲインを含む。
【0027】
ロック周波数は、高周波制御装置3のデジタル発振器(
図10、
図11参照)から出力される低レベル高周波電圧の周波数の初期値である。出力周波数は、デジタル発振器から出力される低レベル高周波電圧の周波数である。ロック判定値は、加速空胴11の共振周波数と高レベル高周波電圧の周波数とが一致する周波数ロックが発生したか否かを判定するための閾値である。トラッキング判定値は、デジタル発振器から出力される低レベル高周波電圧の周波数を加速空胴11の共振周波数に追従させる周波数トラッキング制御が正常に行われているか否かを判定するための閾値である。周波数Pゲイン、周波数Iゲイン及び周波数Dゲインは、周波数トラッキング制御を実現するためのPID(Proportional-Integral-Differential)フィードバック制御の各ゲインである。
【0028】
待ち受け振幅値は、デジタル発振器から出力される低レベル高周波電圧の振幅の初期値である。振幅目標値は、デジタル発振器から出力される低レベル高周波電圧の振幅制御に用いる値であり、加速電圧の目標値を示す。振幅Pゲイン及び振幅Iゲインは、加速電圧の振幅を振幅目標値に維持するための振幅フィードバック制御を実現するPI(Proportional-Integral)フィードバック制御の各ゲインである。なお、制御パラメータは、これらの値に限らず、例えば、振幅設定値、後述する振幅補正量、オフセット満了値及び運転周期満了値などの他のパラメータを含んでもよい。
【0029】
高周波電圧制御部35は、例えば、FPGA(Field Programmable Gate Array)などによる高速デジタル信号処理回路にて構成され、制御レジスタ34に格納された制御パラメータを用いて、制御用高周波電圧の出力制御を行う。例えば、高周波電圧制御部35は、後述する共振周波数を表す周波数対応値に基づいて、制御用高周波電圧の振幅を制御する
【0030】
高周波インタフェース部36は、高周波電圧に係る信号等の入出力を行う。具体的には、高周波インタフェース部36は、加速電圧モニタ信号、進行波モニタ信号及び反射波モニタ信号を受け付け、低レベル高周波電圧を出力する。
【0031】
外部機器制御タイミング信号出力部37は、外部機器を制御するための外部機器制御タイミング信号を出力する。外部機器制御タイミング信号は、低レベル高周波信号の周波数が入射周波数に到達したことを示す入射周波数到達信号と、低レベル高周波信号の周波数が出射周波数に到達したことを示す出射周波数到達信号とを含む。
【0032】
本実施形態では、高周波制御装置3は運転制御及び高周波電圧の出力制御のそれぞれを行うハードウェアを分離した構成を有するため、高周波電圧の出力制御に遅延が生じることを抑制することが可能となる。なお、出力周波数については、高周波電圧制御部35が周波数トラッキング制御を行っているときのデジタル発振器に設定している出力周波数を運転制御部32及び高周波電圧制御部35からアクセスできるように、制御レジスタ34に設定されている。
【0033】
図3は、メモリ33のメモリマップの一例を示す図である。
図3に示すようにメモリ33は、パターンメモリエリア331及びダンプメモリエリア332を有する。
【0034】
パターンメモリエリア331は、参照周波数データ333、振幅目標値データ334及び振幅LUT(Look Up Table)335を格納する。
【0035】
振幅目標値データ334は、振幅目標値を加速空胴11の共振周波数を示す周波数対応値ごとに示す。周波数対応値は、例えば、回転コンデンサ13の回転角度でもよいし、低レベル高周波電圧の周波数である出力周波数でもよい。制御レジスタ34に設定される振幅目標値は、回転コンデンサ13の回転に応じて出力される角度検出信号(より具体的には、角度検出信号に基づくロータクロック信号)に応じて更新されるか、又は、低レベル高周波電圧の周波数である出力周波数に応じて更新される。
【0036】
ロータクロック信号は、回転コンデンサ13の1回転周期当たり複数回出力される信号であり、制御レジスタ34に設定される振幅目標値が角度検出信号に基づいて更新される場合、振幅目標値データ334には、回転コンデンサ13の1回転周期当たりのロータクロック信号の信号数と同数の振幅目標値が設定される。一方、振幅目標値が出力周波数に応じて更新される場合、出力周波数の参照値である参照周波数が設定された参照周波数データ333が予め用意される。振幅目標値データ334には、参照周波数のそれぞれと1対1で対応する複数の振幅目標値が設定される。そして、出力周波数が参照周波数と一致する度に、参照周波数に対応する振幅目標値が制御レジスタ34に格納される。なお、出力周波数が互いに隣接する参照周波数の間の値を有する場合、それらの参照周波数及びそれらの参照周波数に対応する振幅目標値のそれぞれを線形補正することで、出力周波数に対応する振幅目標値が決定されてもよい。
【0037】
振幅LUT335は、高周波電圧制御装置の高周波電圧の出力端子から加速電圧モニタ12までの伝送路上の機器の、高周波電圧の振幅の周波数に対する特性である周波数特性を補正するための振幅設定値を出力周波数ごとに示すデータである。よる具体的には、本実施形態では、振幅LUT335は、振幅設定値を出力周波数の参考値である参照周波数ごとに示す。このため、参照周波数データ333内の参照周波数の数と振幅LUT335内の振幅設定値の数は同一である。
【0038】
ダンプメモリエリア332は、振幅補正量データ336を格納する。振幅補正量データ336は、高周波制御装置3から出力する低レベル高周波電圧の振幅を制御する振幅フィードバック制御にて使用されるデータであり、振幅LUT335を生成するために使用される。具体的には、幅フィードバック制御では、制御レジスタ34に格納された振幅目標値と加速電圧モニタ信号の値とが比較され、それらの偏差である振幅偏差が振幅の周波数特性として求められる。そして、振幅偏差に基づいて、周波数特性を補正する振幅補正量が算出されて振幅補正量データ336に格納される。この処理が参照周波数ごとに行われ、振幅補正量データ336に、振幅補正量が参照周波数ごとに格納される。
【0039】
振幅補正量データ336内の各参照周波数の振幅補正量が振幅LUT335内の各参照周波数の振幅設定値となる。このとき、振幅補正量データ336がそのまま振幅LUT335として使用されてもよいが、振幅偏差は、加速器1の運転周期に応じてばらつく恐れがあるため、振幅補正量データ336は、運転周期ごとに生成されてもよい。本実施形態では、10周期分の振幅補正量データ336がダンプメモリエリア332に格納される。この場合、各運転周期のダンプメモリエリア332のアドレスは、参照周波数データ333及び振幅LUT335と紐づけられ、参照周波数ごとに当該参照周波数に対応する10周期分の振幅補正量に基づいて振幅LUT335が更新される。
【0040】
図4は、回転コンデンサ13の構成をより具体的に示す図である。
図4に示すように回転コンデンサ13は、互いに対向するように設けられたロータ電極131とステータ電極132とを有する。ロータ電極131及びステータ電極132の組は、1つでもよいし、複数でもよい。本実施形態では、ロータ電極131及びステータ電極132の組は複数ある。この場合、ロータ電極131及びステータ電極132の各組において同じ高周波電圧が加速空胴11に対して供給されるように管理される。なお、ステータ電極132は、
図4の例では、加速空胴11における加速電極と接続される内導体141を外包する外導体142に固定されているが、内導体141に固定されてもよい。
【0041】
ロータ電極131は、モータ15と接続され、モータ15により回転する。また、モータ15と接続される角度検出器14は、モータ15の回転に応じてモータの回転角度を示す角度検出信号を高周波制御装置3に出力する。なお、モータ15は、回転コンデンサ制御装置2からの回転制御指令に応じて回転する。
【0042】
図5は、1組のロータ電極131及びステータ電極132をロータ電極131の回転軸に沿って見た図である。
図5に示すようにロータ電極131が回転することにより、ロータ電極131とステータ電極132とが重なる重畳部133の面積Sが変化する。これにより、数1に示す回転コンデンサ13の静電容量Cが時間と共に変化する。
【数1】
ここで、ε
0は真空中の誘電率、dはロータ電極131とステータ電極132との間の距離である。なお、本実施形態では、回転コンデンサ13は真空排気された空間に配置され、ロータ電極131とステータ電極132との間は真空状態であるとしている。
【0043】
回転コンデンサ13の静電容量Cが時間と共に変化することにより、数2で示される加速空胴11の共振周波数f
resも時間と共に変化する、つまり、時間的に変調される。
【数2】
ここで、πは円周率、Lは加速空胴11のインダクタンスである。
【0044】
図6は、回転コンデンサ13の回転面内における、ロータ電極131、ステータ電極132及び角度検出器14の関係を示す図である。
【0045】
低レベル高周波電圧の周波数を加速空胴11の共振周波数に追従させる周波数トラッキング制御を行うためには、加速空胴11の共振周波数を検出することが必要となる。しかしながら、加速空胴11の共振周波数を直接観測することはできないため、本実施形態では、高周波制御装置3の運転制御部32が角度検出器14からの角度検出信号に基づいて、回転コンデンサ13の回転角度を求めることで、ステータ電極132に対する相対的なロータ電極131の位置(より具体的には、ロータ電極131の端部の位置)を検知し、その位置に基づいて加速空胴11の共振周波数を推定する。
【0046】
この場合、ロータ電極131の端部の位置であるロータ端部位置が加速空胴11の共振周波数が所定値となるロータ原点位置と一致したことを示すロータ原点信号が必要となる。仮にロータ原点位置と角度検出器14から回転コンデンサ13の1回転ごとに出力されるZ相の角度検出信号の出力時のロータ電極131の端部の位置である角度検出時位置とが一致すれば、Z相の角度検出信号をロータ原点信号として利用することができる。しかしながら、ロータ原点位置と角度検出時位置とを機械的に完全に一致させることは難しく、これらの位置には位置ずれθが生じる。なお、共振周波数の所定値は、本実施形態では、共振周波数の最大値である。また、位置ずれθは、回転角度で表される。
【0047】
加速器1の制御は、上記の位置ずれθを考慮して行う必要がある。特に、加速空胴11に供給された高周波電圧が全反射される時間を短くするためには、ロータ端部位置がロータ原点位置に近い場所から高周波電圧の出力制御を開始することが重要となるため、位置ずれθを考慮することが重要となる。
【0048】
図7は、位置ずれθを考慮したロータ原点信号の生成方法を説明するための図であり、各種信号のタイミングチャートを示している。
【0049】
(1)共振周波数
図7に示すように回転コンデンサ13の共振周波数は、S字状に周期的に変化する。
【0050】
(2)運転周期
回転コンデンサ13のロータ電極131及びステータ電極132は、本実施形態では、複数組存在する。このため、回転コンデンサ13は、静電容量が回転コンデンサ13の1回転あたり複数周期分変化する。これにより、加速器1は回転コンデンサ13の1回転当たり複数回の運転が可能となる。つまり、角度検出器14からのZ相の角度検出信号の出力周期内に、加速器1の運転周期が複数含まれる。このため、各運転周期に応じたロータ原点信号が必要となる。
【0051】
(3)加速制御区間
加速器1から出射する荷電粒子ビームのビームエネルギーは、上位制御装置6からの出射周波数データにて示される出射周波数、つまり、荷電粒子ビームの加速を停止する際の加速電圧の周波数にて規定される。このため、加速器1内で荷電粒子ビームを加速する期間である加速制御区間は、ロータ電極131及びステータ電極132の位置関係にて規定される運転周期よりも短く設定される。具体的には、加速制御区間は、加速器1から出射する荷電粒子ビームのビームエネルギーに応じて変化するが、最長の場合でも、運転周期よりは短く設定される。また、本実施形態では、加速制御区間には、運転周期内における共振周波数が概ね線形的に変化する区間が用いられる。
【0052】
(4)ロータ回転信号X
ロータ電極131の回転角度を示すロータ回転信号Xは、運転制御部32にて角度検出器14から出力されるA相及びB相の角度検出信号に基づいて生成される。A相及びB相の角度検出信号は、それぞれモータ15の1回転中に等間隔に複数回出力され、それぞれの出力位相が90°ずれた信号である。運転制御部32は、具体的には、A相及びB相の角度検出信号の排他的論理和(X=A XOR B)の演算結果をさらに逓倍することでロータ回転信号Xを生成する。これにより、ロータ回転信号Xは角度検出信号よりも細かい角度検出を可能にする。なお、角度検出信号が十分細かい精度で出力可能であれば、角度検出信号そのものをロータ回転信号Xとして使用してもよい。
【0053】
(5)ロータ原点信号
ロータ原点位置は、本実施形態では、上述したようにロータ端部位置が加速空胴11の共振周波数が最大値(ピーク)となる位置であるため、位置ずれθは、Z相の角度検出信号が入力された時点から加速空胴11の共振周波数が最大値となるまでロータ回転信号Xをカウントしたカウント値で表現することができる。本実施形態では、このことを利用して、運転制御部32は、ロータ原点信号を生成する手段として、オフセットカウンタ及び運転周期カウンタの2つのカウンタ回路を備える。
【0054】
オフセットカウンタは、Z相の角度検出信号の入力に応じてカウントを開始する手段と、カウント値が所定のオフセット満了値に到達した場合に、ロータ原点信号を出力するとともに、運転周期カウンタのカウントの開始指令を出力する手段とで構成される。運転周期カウンタは、オフセットカウンタから出力されるカウンタ開始指令に応じて角度検出信号に基づくロータ回転信号をロータクロック信号としてカウントを開始する手段と、カウント値が運転周期に対応した運転周期満了値に到達した場合に、ロータ原点信号を出力するとともに、カウント値をリセットする手段とで構成される。カウンタ回路のより詳細な説明は、
図8を用いて後述する。
【0055】
なお、加速器1から荷電粒子ビームを出射してビーム利用系で利用する場合、ビーム利用系にて指定される利用条件によっては、ビームの出射時間が加速器1の運転周期よりも長くなることがある。このため、本実施形態では、高周波加速システム100の運転開始を示すマスタトリガ信号がロータ原点信号の出力と同期するように出力され、加速器1からの荷電粒子ビームの出射を指示するビーム出射指令が出力されている間、ロータ原点信号の出力が無視されることで、加速器1からの荷電粒子ビームの出射を含めた運転制御が実現される。
【0056】
図8は、ロータ原点信号を出力するカウンタ回路の構成例を示す図である。
図8に示すカウンタ回路40は、波形整形回路41と、ロータ回転信号生成回路42と、オフセットカウンタ43と、運転周期カウンタ44とを有する。
【0057】
波形整形回路41には、加速器1の角度検出器14から角度検出信号(A相、B相及びZ相)が入力される。波形整形回路41は、入力された角度検出信号に対して波形を整形する波形整形処理を行い、その波形整形処理を行った角度検出信号を出力する。波形整形処理は、例えば、角度検出信号から伝送線路上のノイズを除去する処理、及び、信号レベルを変換する処理などを含む。
【0058】
ロータ回転信号生成回路42には、波形整形回路41からA相及びB相の角度検出信号が入力される。ロータ回転信号生成回路42は、A相及びB相の角度検出信号の排他的論理和の演算結果をさらに逓倍することでロータ回転信号Xを生成して出力する。ロータ回転信号Xは、オフセットカウンタ43及び運転周期カウンタ44のカウント信号入力端子(IN)に入力されるとともに、高周波制御装置3内の制御に利用される。
【0059】
オフセットカウンタ43は、ロータ原点位置と角度検出時位置との位置ずれθ分のロータ回転信号Xをカウントするカウンタである。オフセットカウンタ43では、ロータ回転信号Xがカウント信号入力端子(IN)に入力され、Z相の角度検出信号がカウント開始入力端子(START)に入力され、高周波制御装置3の制御レジスタ34からオフセット満了値が比較信号入力端子(COMP)に入力される。
【0060】
オフセットカウンタ43は、Z相の角度検出信号が入力されると、ロータ回転信号Xのカウントを開始する。また、オフセットカウンタ43は、カウントしたカウント値とオフセット満了値とを逐次比較して、カウント値がオフセット満了値に到達すると、ロータ回転信号Xのカウントを停止し、オフセットカウンタ満了信号を出力端子(OUT)から出力する。オフセットカウンタ満了信号は、オフセットカウンタ43のリセット端子(RESET)に入力される。オフセットカウンタ43は、オフセットカウンタ満了信号が入力されると、カウント値を初期化して、次のZ相の角度検出信号の入力まで待機する。
【0061】
運転周期カウンタ44は、加速器1の運転周期分のロータ回転信号Xをカウントするカウンタである。運転周期カウンタ44では、ロータ回転信号Xがカウント信号入力端子(IN)に入力され、オフセットカウンタ43からオフセットカウンタ満了信号がカウント開始入力端子(START)に入力され、高周波制御装置3の制御レジスタ34から運転周期満了値が比較信号入力端子(COMP)に入力される。
【0062】
運転周期カウンタ44は、オフセットカウンタ満了信号が入力されると、ロータ回転信号Xのカウントを開始する。また、運転周期カウンタ44は、カウントしたカウント値と運転周期満了値とを逐次比較して、カウント値が運転周期満了値に到達すると、ロータ原点信号を出力端子(OUT)から出力する。ロータ原点信号は、運転周期カウンタ44のリセット端子(RESET)に入力される。運転周期カウンタ44は、ロータ原点信号が入力されると、カウント値を初期化して、ロータ回転信号Xのカウントを続ける。
【0063】
また、運転周期カウンタ44から出力されたロータ原点信号は、上位制御装置6に出力される。上位制御装置6は、ロータ原点信号とビーム利用系からのビームリクエスト信号(図示せず)とに基づいて、加速器1を構成する電磁石電源などの機器の運転制御開始信号となるマスタトリガ信号を生成して出力する。高周波制御装置3は、上位制御装置6からのマスタトリガ信号に基づいて、加速空胴11に対する高周波電圧の出力制御を開始する。
【0064】
なお、オフセット満了値は、回転コンデンサ13の角度検出器14から出力される角度検出信号(A相、B相及びZ相)がオフセットカウンタ43及び運転周期カウンタ44に入力される状態で、回転角度に対応した共振周波数をネットワークアナライザで計測することで求められる。具体的には、回転コンデンサ13が回転している状態で角度検出器14からZ相の角度検出信号が後、加速空胴11の共振周波数が最大となる回転角度が探索され、その共振周波数が最大になる回転角度でのオフセットカウンタ43のカウント値がオフセット満了値とする。また、運転周期満了値は、回転コンデンサ13が1回転している間に出力されるロータ回転信号Xの総数を回転コンデンサ13のロータ電極131で割った値である。
【0065】
図9は、高周波制御装置3の制御タイミングチャートを示す図である。
【0066】
図9に示すように、加速空胴11の共振周波数は、回転コンデンサ13の回転に応じて、破線で示したようにS字状に変化する。
【0067】
高周波制御装置3は、この加速空胴11の共振周波数の変化を追従するように高周波電圧の周波数を制御することで所望のエネルギーまで荷電粒子ビームを加速する。
【0068】
具体的には、高周波制御装置3は、上位制御装置6から入力されるマスタトリガ信号に基づいて、加速器1の運転制御を開始する。
【0069】
運転制御では、先ず、高周波制御装置3は、高周波制御装置3の制御パラメータを更新し、周波数サーチタイミング信号(周波数サーチ)が入力されるまで待機する。周波数サーチタイミング信号が入力されると、加速器1の共振周波数をサーチする周波数サーチ制御を開始する。
【0070】
周波数サーチ制御では、高周波制御装置3は、先ず、低レベル高周波電圧の出力を開始する。低レベル高周波電圧の周波数は、予め設定したロック周波数(Flock)に保持され、振幅値は待ち受け振幅値に保持される。低レベル高周波電圧は、増幅器4で増幅されて高レベル高周波電圧として、方向性結合器5を経由して加速空胴11に供給される。ロック周波数は、本実施形態では、入射周波数(Finj)よりも高い。
【0071】
加速空胴11の共振周波数とこのときの高レベル高周波電圧の周波数であるロック周波数とがある程度以上ずれていると、加速空胴11には高周波電圧が発生しないため、加速電圧モニタ信号の出力レベルは0のままである。加速空胴11の共振周波数がロック周波数に近づくと、加速電圧モニタ信号の出力が徐々に高くなり、加速空胴11の共振周波数がロック周波数と一致すると、加速電圧モニタ信号の値が最大となる。このため、本実施形態では、高周波電圧制御部35は、加速電圧モニタ信号にて示される加速電圧の振幅がロック判定値である閾値電圧振幅値(Vlock)に到達したことを、周波数ロックが発生したこととして判定する。
【0072】
周波数ロックの判定方法は、上記の例に限らない。例えば、以下のように行われてもよい。具体的には、高周波電圧制御部35は、先ず、周波数サーチ制御時の方向性結合器5からの進行波モニタ信号及び反射波モニタ信号に基づいて、それらの値の比を表す電圧定在波比(Voltage Standing Waveform Ratio;VSWR)を求める。加速空胴11の共振周波数とロック周波数とが離れていると加速空胴11に供給した高周波電圧は全反射で増幅器4に戻るため、電圧定在波比は、∞となる。電圧定在波比は、加速空胴11の共振周波数がロック周波数に近づくにつれ、小さくなり、これらの周波数が一致するときに最小となる。高周波電圧制御部35は、電圧定在波比がロック判定値である閾値定在波比(VSWRlock)に到達したことを、周波数ロックが発生したこととして判定する。
【0073】
なお、加速空胴11の共振周波数と高周波電圧のロック周波数とのずれが大きい場合、加速空胴11に供給された高レベル高周波電圧は全て増幅器4に反射してしまう。この反射された高レベル高周波電圧による増幅器4の影響を抑制するために、加速空胴11の共振周波数とロック周波数のずれが小さくなったタイミングで周波数サーチ信号が入力される。
【0074】
周波数がロックされると、高周波電圧制御部35は、加速開始信号を出力し、加速空胴11の共振周波数に高周波電圧の周波数を追従する制御である周波数トラッキング制御を開始する。
【0075】
本実施形態では、上述したようにロック周波数は入射周波数よりも高い。このため、加速空胴11の共振周波数が入射周波数に到達するよりも早く周波数トラッキング制御を開始することができる。このため、周波数トラッキング制御を開始してから加速空胴11の共振周波数が加速制御区間に到達するまでにある程度の待ち時間を確保することができる。この待ち時間が周波数トラッキング制御を開始してから実際に低レベル高周波電圧の周波数が加速空胴11の共振周波数に追従して変化するまでの応答時間よりも十分長く設定されれば、加速制御区間の初期から低レベル高周波電圧の周波数を加速空胴11の共振周波数に追従させることができる。
【0076】
周波数トラッキング制御では、高周波電圧制御部35は、低レベル高周波電圧の周波数が入射周波数及び出射周波数のそれぞれと一致するか否かを逐次比較する。低レベル高周波電圧の周波数が入射周波数と一致すると、高周波電圧制御部35は、加速器1に荷電粒子ビームを入射する入射装置(図示せず)に対して荷電粒子ビームの入射を指示するビーム入射信号を出力する。入射装置として、例えば、イオン源の引き出し電極用高圧電源などがある。なお、本実施形態では、加速電圧モニタ信号が安定した領域でビーム入射信号が出力されるように入射周波数が設定されているが、ビーム入射信号の出力タイミングは、低レベル高周波電圧の周波数がロック周波数に到達した以降であればよい。また、同様に低レベル高周波電圧の周波数が出射周波数と一致すると、高周波電圧制御部35は、上位制御装置6に対して荷電粒子ビームの加速の終了を指示する加速終了信号を出力し、荷電粒子ビームを加速器1から出射するビーム出射制御に遷移する。
【0077】
図10は、高周波電圧制御部35の高周波信号処理に係る構成の一例を示す図である。
【0078】
図10に示す高周波電圧制御部35は、ADC(Analog-to-Digital Converter)101と、IQ変換回路102と、極座標変換回路103と、周波数フィードバック演算回路104と、デジタル発振器105と、振幅フィードバック演算回路106と、IQ変換回路107と、IQ変調回路108と、DAC(Digital-to-Analog Converter)109と、LPF(Low Pass Filter)110と、F/B動作切替回路111と、RF出力制御回路112と、トラッキング判定回路113と、入射周波数判定回路114と、出射周波数判定回路115とを有する。
【0079】
なお、
図10において、角が丸い四角囲みの文字(振幅目標値など)は、制御レジスタ34に格納されたデータを示す。制御レジスタ34のデータに対して矢印が向いているものが制御レジスタ34へのデータの書き込みを示し、制御レジスタ34のデータから矢印が出ているものは制御レジスタ34からのデータの読み出しを示す。また、丸囲みの文字(FS、L、S、及びE)はフラグレジスタを示す。フラグレジスタに対して矢印が向いているものがデータの書き込み、フラグレジスタから矢印が出ているものはデータの読み出しを示す。また、ダイヤの囲みの文字(N)は、デジタル発振器105からの出力信号を示す。制御レジスタ34及びフラグレジスタには、マスタトリガ信号の入力に応じて初期値が設定され、その値は運転シーケンスの進行により適宜更新される。
【0080】
ADC101は、加速電圧モニタ12からの加速電圧モニタ信号と、方向性結合器5からの進行波モニタ信号及び反射波モニタ信号とをそれぞれデジタル信号に変換する。IQ変換回路102は、ADC101にて変換された各デジタル信号をIQ信号に変換する。極座標変換回路103は、IQ変換回路102にて変換されたIQ信号を、振幅を示す振幅信号AMPと位相を示す位相信号Φとを含む極座標信号に変換する。なお、IQ変換回路102における検波処理に必要な基準信号には、デジタル発振器105の出力信号が用いられる。
【0081】
周波数フィードバック演算回路104は、高周波電圧制御部35から出力する低レベル高周波電圧の周波数を加速空胴11の共振周波数に追従する周波数トラッキング制御を行う。周波数トラッキング制御は、フィードバック制御にて実現されるため、周波数フィードバック制御と呼ばれることもある。周波数フィードバック演算回路104は、例えば、IQ変換回路102にて極座標信号に変換された各信号(より具体的には、加速電圧モニタ信号と進行波モニタ信号の位相差)に基づいて、加速空胴11の共振周波数を示す周波数信号を生成する。周波数フィードバック演算回路104は、その周波数信号の値を出力周波数として制御レジスタ34に書き込むとともに、その周波数信号をデジタル発振器105に出力して周波数トラッキング制御を行う。
【0082】
デジタル発振器105は、周波数フィードバック演算回路104からの周波数信号にて示される周波数(出力周波数)を有する低レベル高周波電圧を出力する。本実施形態では、デジタル発振器105は、NCO(Numerical Controlled Oscillator:数値制御発振器)である。
【0083】
振幅フィードバック演算回路106は、加速電圧の振幅の目標値である振幅目標値と加速電圧モニタの振幅値を比較し、振幅フィードバック制御にて低レベル高周波電圧の振幅を補正する。IQ変換回路107は、振幅フィードバック演算回路106からの信号をIQ信号に変換して、低レベル高周波電圧の振幅値を示す高周波電圧振幅データとして出力する。
【0084】
IQ変調回路108は、デジタル発振器105から出力される低レベル高周波電圧の振幅を、IQ変換回路107から出力された高周波電圧振幅データで変調する。
【0085】
DAC109は、IQ変調回路108で変調された低レベル高周波電圧をアナログ信号に変換する。LPF110は、DAC109から出力されたアナログ信号の低レベル高周波電圧を平滑化して増幅器4に出力する。
【0086】
F/B動作切替回路111は、周波数フィードバック演算回路104及び振幅フィードバック演算回路106の動作を切り替える。RF出力制御回路112は、低レベル高周波電圧の出力のオンオフを切り替える。
【0087】
トラッキング判定回路113は、進行波モニタ信号と加速電圧モニタ信号の位相差とトラッキング判定値を比較し、上記位相差がトラッキング判定値以下であること逐次判断することで周波数トラッキング制御の健全な動作を判定し、周波数トラッキング制御が正常に行われていない(進行波モニタ信号と加速電圧モニタ信号の位相差がトラッキング判定値を超えている)場合、低レベル高周波電圧の出力を停止する。
【0088】
入射周波数判定回路114は、低レベル高周波電圧の周波数である出力周波数と入射周波数とを比較し、出力周波数が入射周波数と一致した場合、入射周波数到達信号を出力して、加速器1に荷電粒ビームを入射する。
【0089】
出射周波数判定回路115は、低レベル高周波電圧の出力周波数と出射周波数とを比較し、出力周波数が出射周波数と一致した場合、出射周波数到達信号を出力して、加速器1から荷電粒子ビームを出射する。
【0090】
以下、高周波電圧制御部35による低レベル高周波電圧の周波数と振幅の制御についてより詳細に説明する。
【0091】
(1)マスタトリガ入力
高周波制御装置3は、マスタトリガ信号が入力されると、制御レジスタ34及びフラグレジスタに所定の初期値を設定する。その後、高周波制御装置3は、周波数サーチタイミング信号が入力されるまで待機する。
【0092】
なお、回転コンデンサ13は等速回転で制御されるため、マスタトリガ信号の入力から加速空胴11の共振周波数がロック周波数に到達するまでの到達時間には、概ね再現性がある。このため、周波数サーチタイミング信号の入力は、高周波制御装置3の外部(例えば、上位制御装置6)から入力される代わりに、高周波制御装置3の内部で、マスタトリガ信号の入力で開始するタイマ機能の満了処理で代替されてもよい。
【0093】
(2)周波数サーチ制御
高周波電圧制御部35は、周波数サーチタイミング信号が入力されると、周波数サーチタイミング信号を周波数サーチフラグレジスタ(FS)に書き込み、周波数サーチフラグレジスタからF/B動作切替回路111及びRF出力制御回路112に入力する。
【0094】
F/B動作切替回路111は、周波数サーチタイミング信号が入力されると、周波数フィードバック演算回路104内のスイッチFBSW2をロック周波数側に切り替えて、低レベル高周波電圧の周波数をロック周波数に設定する。また、F/B動作切替回路111は、振幅フィードバック演算回路106内のスイッチFBSW3を開いて、振幅フィードバック制御を無効とし、さらに、振幅フィードバック演算回路106内のFBSW4を待ち受け振幅値側に切り替えて、高周波電圧振幅データの値を待ち受け振幅値に設定する。
【0095】
一方、RF出力制御回路112は、周波数サーチタイミング信号が入力されると、IQ変調回路108とDAC109との間に設けられたスイッチRFSWを閉じて、周波数をロック周波数、振幅値を待ち受け振幅値とした低レベル高周波電圧を高周波制御装置3から出力する。
【0096】
高周波制御装置3から出力された低レベル高周波電圧は、増幅器4で高レベル高周波電圧に増幅され、方向性結合器5を経由して加速空胴11に供給される。加速空胴11に供給された高レベル高周波電圧が加速空胴11の共振周波数からある程度以上ずれていると、加速空胴11の加速電極間に高周波電圧である加速電圧は発生しない。回転コンデンサ13が回転し、加速空胴11の共振周波数が高レベル高周波電圧の周波数に徐々に近づくことで、加速電極間に加速電圧が発生する。この加速電圧は加速電圧モニタ12にて検出され、加速電圧モニタ12から検出された加速電圧を示す加速電圧モニタ信号が出力される。
【0097】
なお、
図10に示した高周波電圧制御部35では、加速電圧モニタ信号と方向性結合器5からの進行波モニタ信号及び反射波モニタ信号とは、デジタル信号処理回路で処理しやすいように、ADC101にてデジタル信号に変換された後に極座標変換回路103により、それぞれ位相データΦと振幅データampとに変換される。
【0098】
周波数フィードバック演算回路104は、加速電圧モニタ12からの加速電圧モニタ信号に基づいて、周波数がロックしたか否か、つまり加速空胴11の共振周波数と高レベル高周波電圧の周波数とが一致したか否かを判定する。本実施形態では、周波数ロックの判定は、周波数フィードバック演算回路104内の周波数ロック判定回路201にて行われる。周波数ロック判定回路201は、加速電圧モニタ信号の値と制御レジスタ34に格納されたロック判定値とを比較し、加速電圧モニタ信号の値がロック判定値以上となったことを、周波数がロックされたこととして判定する。周波数ロック判定回路201は、周波数をロックしたことを示す周波数ロック判定信号を周波数ロックフラグレジスタ(L)に書き込み、加速器1による荷電粒子ビームを加速して出射するため加速制御を開始する。
【0099】
(3)加速制御開始
周波数ロック判定信号を出力すると、高周波制御装置3は、低レベル高周波電圧の周波数を加速空胴11の共振周波数に追従させる周波数トラッキング制御を行うとともに、加速電極に発生する電圧振幅値を所望の振幅値とするAVC(Automatic Voltage Control)を開始する。
【0100】
周波数トラッキング制御は、本実施形態では、周波数フィードバック演算回路104において、方向性結合器5の進行波モニタ信号の位相と加速電圧モニタの位相の位相差に基づいたPIDフィードバック制御を行うPIDフィードバック制御部202にて実行される。また、AVCは、振幅フィードバック演算回路106において、加速電圧の目標値である振幅目標値に対する加速電圧モニタの検出信号の偏差に基づいたPIフィードバック制御を行うPIフィードバック制御部301にて実行される。以下、これら2つのフィードバック演算回路の動作についてより詳細に説明する。
【0101】
周波数ロックフラグレジスタ(L)に周波数ロック判定信号が書き込まれると、F/B動作切替回路111は、フィードバック制御を有効とするため、周波数フィードバック演算回路104内のスイッチFBSW1を閉じ、スイッチFBSW2をフィードバックループ側に切り替える。また、F/B動作切替回路111は、振幅フィードバック演算回路106内のスイッチFBSW3を閉じ、スイッチFBSW4をフィードバックループ側に切り替える。これらのスイッチFBSW1~FBSW4の切り替えにより、周波数フィードバック制御及び振幅フィードバック制御が有効となる。
【0102】
振幅フィードバック制御では、振幅フィードバック演算回路106は、メモリ33のパターンメモリエリア331の振幅目標値データ334を用いて、制御レジスタ34に格納する振幅目標値をロータ回転信号に応じて更新することで、低レベル高周波電圧の周波数の変化に同期した低レベル高周波電圧の振幅の制御を行う。具体的には、振幅フィードバック演算回路106は、ロータ回転信号が入力されるたびに、振幅目標値データ334のアドレスを順次更新し、その更新したアドレスの目標振幅値を制御レジスタ34に格納する。
【0103】
また、周波数ロックフラグレジスタ(L)に周波数ロック判定信号が書き込まれることで、周波数フィードバック演算回路104内の初期位相差サンプルホールド回路(S/H)203、トラッキング判定回路113、入射周波数判定回路114及び出射周波数判定回路115が動作を開始する。以下に、これら4つの回路の動作について説明する。
【0104】
(A)初期位相差サンプルホールド回路203
初期位相差サンプルホールド回路203は、周波数ロック時の方向性結合器5の進行波モニタ信号の位相と加速電圧モニタ12からの加速電圧モニタ信号の位相の位相差を初期位相差としてサンプル及びホールドする初期位相格納部である。周波数ロック時の位相差を初期位相差とすることで、周波数トラッキング制御時の位相差の変化が分かりやすくなり、トラッキング判定回路113でのトラッキング判定値の設定を運転周期に依らず一定値で管理することができる。また、初期位相差からの偏差をモニタすることで、加速器1の調整時の周波数フィードバック演算回路104の制御パラメータ調整が容易になる。
【0105】
(B)トラッキング判定回路113
トラッキング判定回路113は、荷電粒子ビームを安定的に加速するために、周波数トラッキング制御が正常に行われているか否かを判定する。トラッキング判定回路113は、加速電圧モニタ信号の位相と進行波モニタ信号の位相の位相差が予め定めたトラッキング判定値を超えた場合、周波数トラッキング制御が正常に行われていないと判断して、トラッキング異常信号を出力する。トラッキング異常信号は、トラッキング異常フラグレジスタ(E)に格納され、トラッキング異常フラグレジスタ(E)からRF出力制御回路112に入力される。RF出力制御回路112は、トラッキング異常信号が入力されると、スイッチRFSWを開き、低レベル高周波電圧の出力を停止する。
【0106】
(C)入射周波数判定回路114
入射周波数判定回路114は、制御レジスタ34に書き込まれた出力周波数、つまり加速空胴11の共振周波数と制御レジスタ34に書き込まれた入射周波数とを逐次比較し、出力周波数が入射周波数と一致した場合、入射周波数到達信号を出力端子DOから出力する。この入射周波数到達信号に基づいて入射装置から加速器1に荷電粒子ビームが入射される。
【0107】
(D)出射周波数判定回路115
出射周波数判定回路115は、制御レジスタ34に書き込まれた出力周波数、つまり加速空胴11の共振周波数と制御レジスタ34に書き込まれた入射周波数とを逐次比較し、出力周波数が出射周波数と一致した場合、出射周波数到達信号を出力端子DOから出力する。この出射周波数到達信号に基づいて、荷電粒子ビームを加速器1から出射させるためのビーム出射用高周波電圧が加速器1内の出射用電極(図示せず)に供給され、加速器1内を周回する荷電粒子ビームが加速器1の外部に出射される。
【0108】
また、出射周波数到達信号は、出射周波数判定レジスタ(S)に格納される。RF出力制御回路112は、出射周波数判定レジスタ(S)に出射周波数到達信号が格納されたタイミングでスイッチRFSWを開いて、低レベル高周波電圧の出力を停止する。また、出射周波数到達信号が格納されたタイミングで、周波数フィードバック演算回路104による周波数トラッキング制御、及び、振幅フィードバック演算回路106による振幅フィードバック制御が停止され、高周波制御装置3は、次のマスタトリガ信号の入力まで待機する。
【0109】
図11は、高周波電圧制御部35の高周波信号処理に係る構成の他の例を示す図である。
図11に示す高周波電圧制御部35は、
図10に示した高周波電圧制御部35と比較して、振幅フィードバック演算回路106が制御レジスタ34に格納する振幅目標値の決定に出力周波数を用いる点で異なる。
【0110】
図11の例では、振幅フィードバック演算回路106は、メモリ33のパターンメモリエリア331の参照周波数データ333及び振幅目標値データ334を用いて、制御レジスタ34に格納する振幅目標値を制御レジスタ34に格納された出力周波数に応じて更新することで、低レベル高周波電圧の周波数の変化に同期した低レベル高周波電圧の振幅の制御を行う。具体的には、振幅フィードバック演算回路106は、制御レジスタ34の出力周波数が更新されるたびに、その更新された出力周波数に最も近い参照周波数と対応する振幅目標値を制御レジスタ34に格納する。なお、このとき、上述したように出力周波数が互いに隣接する参照周波数の間の値を有する場合、それらの参照周波数及びそれらの参照周波数に対応する振幅目標値のそれぞれを線形補正することで、出力周波数に対応する振幅目標値が決定されてもよい。
【0111】
図12は、高周波電圧制御部35の高周波信号処理に係る構成の他の例を示す図である。
図12に示す高周波電圧制御部35は、
図11に示した高周波電圧制御部35と比較して、振幅フィードバック演算回路106が振幅LUTを用いて振幅フィードフォワード制御を行う点で異なる。
【0112】
具体的には、運転制御部32は、制御レジスタ34に書き込まれた出力周波数とメモリ33に格納された参照周波数を比較し、出力周波数に最も近い参照周波数を選択し、その選択した参照周波数に対応する振幅目標値及び振幅設定値を制御レジスタ34に設定する。振幅設定値は、スイッチFBSW4の後段で、PIフィードバック制御部301の出力信号に加算される。これにより、目標振幅値と実際の加速電圧モニタ信号との偏差を抑制することが可能となるため、振幅フィードバック制御のダイナミックレンジを広げることが可能となる。
【0113】
図13は、高周波制御装置3の振幅フィードバック制御に係るタイミングチャートの一例を示す図である。
図13の例では、説明を分かりやすくするために、振幅フィードバック制御で必要な振幅目標値は、周波数ロック時の加速電圧の電圧振幅値(V
target)を一定に保つように制御され、振幅設定値(V
LUT)は、初期状態では、周波数サーチの開始時以降に一定値となるように設定されているとする。
【0114】
周波数サーチ時に加速空胴11に供給する高レベル高周波電圧の振幅は、振幅LUTのうち制御レジスタ34に設定された振幅設定値(VLUT)に基づいて制御される。回転コンデンサ13の回転により、加速空胴11の共振周波数と高レベル高周波電圧の周波数とが近づくと、加速電圧モニタ信号(VGAP)が徐々に高くなり、加速電圧モニタ信号の値が閾値振幅値(Vlock)に到達したタイミングで、荷電粒子ビームの加速制御が開始される。
【0115】
振幅フィードバック制御が無効(OFF)の場合、高周波制御装置3から加速空胴11までの伝送線路上の機器の周波数特性により、加速電圧モニタ信号(VGAP)の振幅値は、高周波電圧の周波数の変化に応じて変化する。
【0116】
このため、振幅フィードバック制御を有効(ON)にすると、加速電圧モニタ信号(VGAP)と振幅目標値(Vtarget)とには、偏差である振幅偏差(VDEV)が生じる。振幅偏差(VDEV)は、例えば、加速電圧モニタ信号(VGAP)の値が低い部分で高くなり、加速電圧モニタ信号(VGAP)の値が高い部分で低くなる。
【0117】
高周波制御装置3は、振幅偏差(VDEV)に基づいて振幅補正量(VCOR)を学習することで、加速空胴11に発生する加速電圧の周波数特性を補正することが可能となる。具体的には、高周波制御装置3は、振幅設定値(VLUT)に振幅偏差(VDEV)を加算した値を振幅補正量(VCOR=VLUT+VDEV)として算出して、新たに振幅設定値(VLUT)として設定することで、加速空胴11に発生する加速電圧の周波数特性を補正することが可能となる。
【0118】
このため、振幅フィードバック制御時の振幅偏差(VDEV)に基づいて学習した振幅補正量(VCOR=VLUT+VDEV)を利用した振幅フィードフォワード制御を行うことで、振幅フィードバック制御を行わずに、振幅が一定な加速電圧を発生させることができる。
【0119】
ただし、振幅フィードフォワード制御が実行されつつ、振幅フィードバック制御が実行されてもよい。この場合、振幅フィードフォワード制御のみでは補正しきれない、細かな振幅変動を抑制することができる。
【0120】
図14は、振幅LUT335の学習方法の一例を説明するための図である。
【0121】
振幅LUT335の学習は、例えば、運転制御部32にて行われる。運転制御部32は、制御レジスタ34からデジタル発振器105の出力周波数を読み取り、かつ、メモリ33から参照周波数データ333を読み取り、出力周波数と参照周波数とを比較する(S1)。
【0122】
運転制御部32は、上記の比較の結果に基づいて、出力周波数に最も近い参照周波数に対応する振幅目標値及び振幅補正量のそれぞれを、パターンメモリエリア331の参照周波数データ333及び振幅目標値データ334から読み込んで、制御レジスタ34に書き込む(S2、S3)。
【0123】
振幅フィードバック演算回路106は、加速電圧モニタ信号の振幅値と制御レジスタ34に書き込まれた振幅目標値との偏差である振幅偏差を演算し(S4)、PIフィードバック制御部301を用いて、その振幅偏差に基づいて、振幅補正量を算出する(S5)。また、振幅フィードバック演算回路106は、PIフィードバック制御部301の出力信号に振幅設定値を加算し(S6)、その振幅設定値を加算した出力信号を、IQ変換回路102を介して、低レベル高周波電圧の振幅値を示す高周波電圧振幅データとしてIQ変調回路108に出力する(S7)。
【0124】
また、上記の振幅補正量は、ダンプメモリエリア332に振幅補正量データ336として保存される(S8)。この振幅補正量も参照周波数とメモリアドレスで紐づけがされており、参照周波数に対する振幅目標値、振幅設定値及び振幅補正量がそれぞれ1対1で対応している。
【0125】
また、振幅補正量データ336を保存するダンプメモリエリア332は、加速器1の運転周期ごとに振幅補正量にばらつきが生じた場合でも、参照周波数ごとに平均化処理ができるように、加速器1の運転周期ごとに用意される。
【0126】
その際、高周波制御装置3に備わったダンプメモリエリア管理回路116は、ダンプメモリエリア332を管理する。具体的には、ダンプメモリエリア管理回路116は、最初のマスタトリガ信号の入力により、ダンプメモリエリア332の初期アドレスを設定し、2回目以降のマスタトリガ信号が入力されるたびに、ダンプメモリエリア332を更新し、初期アドレスを設定する処理を行う。ダンプメモリエリア管理回路116は、この処理を予め設定されたダンプ回数実施することで、運転周期ごとの各参照周波数と紐づいた振幅補正量がダンプメモリエリア332に保存される(S9)。
【0127】
運転制御部32は、ダンプメモリエリア332に保存された振幅補正量をオフライン処理にて読み出し、参照周波数ごとに、当該参照周波数に対応する振幅補正量の平均値を、振幅LUT335における当該参照周波数の振幅設定値に加算することにより、振幅LUT335の学習を行う。
【0128】
図15は、
図1~
図14で説明した高周波加速システム100を備えた粒子線治療システムの構成例を示す図である。
図15において、粒子線治療システム500は、高周波加速システム100を含む加速器1、加速器1から供給される荷電粒子ビームを照射装置504まで輸送するビーム輸送装置502、荷電粒子ビームを患者の任意の角度から照射可能とする回転ガントリ装置503、ビーム輸送装置502及び回転ガントリ装置503により輸送された荷電粒子ビームを患者600の患部形状あわせて照射野を形成する照射装置504、患者600を照射野に位置決めし固定する治療台505、これらを統括して制御する上位制御装置6で構成される。
【0129】
照射装置504は、患者600の患部形状に応じて荷電粒子ビームの照射野を制御する。具体的には、照射装置504は、患部形状をスポットと呼ばれる複数の照射位置である線量分割領域に分け、それぞれのスポットに所望の線量を付与することで照射線量を管理し制御する。スポット位置の体表からの深さ方向(飛程)は、加速器1から供給する荷電粒子ビームのエネルギーで制御し、照射位置は、照射装置504内の走査電磁石(図示せず)にて制御する。照射線量及びビーム位置は、照射装置504の照射経路上に設置した線量モニタ506及びスポット位置モニタ507で計測し、上位制御装置6で荷電粒子ビームの照射線量及びスポット位置ビームを監視し制御する。上位制御装置6は、各スポット位置に対する荷電粒子ビームの照射線量の目標となる照射線量値(目標値)を予め保存している。
【0130】
粒子線治療システム500では、スポット位置の飛程に応じて加速器1から供給する荷電粒子ビームのエネルギーが設定される。高周波加速システム100は、上位制御装置6からの荷電粒子ビームの出射エネルギーの入力により、出射エネルギー判定値が設定される。治療が開始後、加速器1はイオン源から荷電粒子ビームを入射し、高周波加速システム100で荷電粒子ビームを所望のエネルギーまで加速する。荷電粒子ビームのエネルギーが出射エネルギーに到達したら、加速終了信号を上位制御装置6に出力する。加速された荷電粒子ビームは、加速器1から出射後、ビーム輸送装置502、回転ガントリ装置503を経て照射装置504に供給される。上位制御装置6は、照射装置504でスポット位置への荷電粒子ビームの照射が始まると、線量モニタ506及びスポット位置モニタ507で照射線量及び照射位置の監視制御を始める。上位制御装置6は、線量モニタ506で計測された照射線量のデータに基づいて、あるスポット位置への照射線量が目標値に到達した場合、荷電粒子ビームを照射するスポット位置を次のスポット位置に変更することで、各スポット位置に対して順番に荷電粒子ビームを照射する。本実施例では、上位制御装置6は、走査電磁石でビームの照射位置を変更し、再び荷電粒子ビームを照射するが、走査電磁石の制御に替えて、治療台505を移動して照射位置を変更してもよい。このような照射制御を繰り返し、飛程内のスポット位置をすべて照射完了したら、上位制御装置6は、高周波加速システム100にエネルギー変更指令を出力する。このエネルギー変更指令に基づき、高周波加速システム100は出射周波数データを更新した後、荷電粒子ビームの加速を始める。これら一連の制御を繰り返すことで、患者600の患部を所望の線量で照射することができる。
【0131】
以上説明したように本実施形態によれば、加速器1は、入力された高周波電圧を用いて共振周波数に応じた加速用高周波電圧を励起する加速空胴11と、共振周波数を時間的に変化させる変調器である回転コンデンサ13とを備え、入射された荷電粒子ビームを加速用高周波電圧によって出射エネルギーまで加速する。高周波制御装置3は、加速空胴11の共振周波数を表す周波数対応値に基づいて、高周波電圧の振幅を制御する。このため、共振周波数にゆらぎが生じても加速用高周波電圧を所望の値に制御することが可能となるため、荷電粒子ビームの出射効率の低下を抑制することが可能となる。
【0132】
また、本実施形態では、高周波制御装置3は、加速用高周波電圧の振幅の目標値である振幅目標値を周波数対応値に基づいて設定し、加速用高周波電圧の振幅が振幅目標値となるように、制御用高周波電圧の振幅を制御する。このため、共振周波数にゆらぎが生じても、フィードバック制御を用いて加速用高周波電圧を所望の値に制御することが可能となる。
【0133】
また、本実施形態では、高周波制御装置3は、加速用高周波電圧の振幅が振幅目標値となるときの制御用高周波電圧の振幅である振幅設定値を周波数対応値に基づいて設定し、制御用高周波電圧の振幅を振幅設定値となるように制御する。このため、共振周波数にゆらぎが生じても、フィードフォワード制御を用いて加速用高周波電圧を所望の値に制御することが可能となる。
【0134】
また、本実施形態では、フィードバック制御にて算出された振幅補正量に基づいて振幅設定値が算出されるため、振幅設定値を適切な値にすることが可能となる。
【0135】
また、本実施形態では、振幅補正量が運転周期ごとに算出され、その平均値に基づいて振幅設定値が算出される。このため、振幅偏差が運転周期に応じてばらつき場合でも、適切な振幅設定値を算出することが可能となる。
【0136】
また、本実施形態では、加速空胴11の共振周波数を表す周波数対応値は、加速空胴11に供給する高周波電圧の周波数、又は、回転コンデンサ13の回転角度である。この場合、直接観測することができない共振周波数を適切に考慮して加速用高周波電圧を所望の値に制御することが可能となるため、荷電粒子ビームの出射効率の低下を抑制することが可能となる。
【0137】
上述した本開示の実施形態は、本開示の説明のための例示であり、本開示の範囲をそれらの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。当業者は、本開示の範囲を逸脱することなしに、他の様々な態様で本開示を実施することができる。また、本実施形態で説明した各構成要素は、任意に取捨選択することができ、取捨選択した構成を具備する開示も本開示に含まれる。さらに特許請求の範囲に記載された構成は、特許請求の範囲で明示している組合せ以外にも組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0138】
1:加速器 2回転コンデンサ制御装置 3:高周波制御装置 4:増幅器 5:方向性結合器 6:上位制御装置 11:加速空胴 12:加速電圧モニタ 13:回転コンデンサ 14:角度検出器 15:モータ 19:上位制御系 31:外部インタフェース部 32:運転制御部 33:メモリ 34:制御レジスタ 35:高周波電圧制御部 36:高周波インタフェース部 37:外部機器制御タイミング信号出力部 38:外部インタフェースバス 39:内部インタフェースバス 40:カウンタ回路 41:波形整形回路 42:ロータ回転信号生成回路 43:オフセットカウンタ 44:運転周期カウンタ 100:高周波加速システム 102:IQ変換回路 103:極座標変換回路 104:周波数フィードバック演算回路 105:デジタル発振器 106:振幅フィードバック演算回路 107:IQ変換回路 108:IQ変調回路 110:LPF 111:B動作切替回路 112:RF出力制御回路 113:トラッキング判定回路 114:入射周波数判定回路 115:出射周波数判定回路 116:ダンプメモリエリア管理回路 131:ロータ電極 132:ステータ電極 133:重畳部 201:周波数ロック判定回路 202:PIDフィードバック制御部 203:初期位相差サンプルホールド回路 204:VSWR演算回路 301:PIフィードバック制御部 500:粒子線治療システム 502:ビーム輸送装置 503:回転ガントリ装置 504:照射装置 505:治療台 600:患者