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  • 特開-鉛の回収方法 図1
  • 特開-鉛の回収方法 図2
  • 特開-鉛の回収方法 図3
  • 特開-鉛の回収方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025151098
(43)【公開日】2025-10-09
(54)【発明の名称】鉛の回収方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 13/02 20060101AFI20251002BHJP
   C22B 1/00 20060101ALI20251002BHJP
【FI】
C22B13/02
C22B1/00 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024052342
(22)【出願日】2024-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】横田 拓也
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA20
4K001BA11
4K001CA01
4K001CA03
(57)【要約】
【課題】 メタル成分の直行率を高くすることができる、鉛の回収方法を提供する。
【解決手段】 鉛の回収方法は、鉛原料を溶融する溶融工程と、前記溶融工程で得られたスパイスを、凝固後に破砕する破砕工程と、前記破砕工程で得られた破砕物を軽量物と重量物とに分離する分離工程と、前記重量物を前記溶融工程に繰り返す工程と、を含む。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛原料を溶融する溶融工程と、
前記溶融工程で得られたスパイスを、凝固後に破砕する破砕工程と、
前記破砕工程で得られた破砕物を軽量物と重量物とに分離する分離工程と、
前記重量物を前記溶融工程に繰り返す工程と、を含む、鉛の回収方法。
【請求項2】
前記スパイスは、Pb、Sn、Sb、Biの少なくともいずれか1つを含み、
前記スパイスに含まれるPb、Sn、Sb、Biの少なくともいずれか1つの濃度が、前記スパイスよりも前記重量物において高い、請求項1に記載の鉛の回収方法。
【請求項3】
前記スパイスは、Fe、Asの少なくともいずれか1つを含み、
前記スパイスに含まれるFe、Asの少なくともいずれか1つの濃度が、前記スパイスよりも前記軽量物において高い、請求項1に記載の鉛の回収方法。
【請求項4】
前記分離工程において、比重選別機を用いる、請求項1に記載の鉛の回収方法。
【請求項5】
前記破砕工程において、凝固した前記スパイスを30mm以下の粒径になるように破砕する、請求項1に記載の鉛の回収方法。
【請求項6】
前記鉛原料は、銅製錬の過程で得られる鉛を含む、請求項1に記載の鉛の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉛の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅製錬などで得られた鉛原料は、電気炉で溶融還元して粗鉛を生成し、当該粗鉛から鉛を精製し、これを原料として鉛アノードを作製し、電解精製することで、鉛を回収する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-234356号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電気炉では、溶融還元の過程で、メタル相とスラグ相との間にスパイスが生成する。スパイスは、メタル相とともに電気炉から抜き出される。スパイスは高い粘性を有しているため、スパイスにメタル成分が巻き込まれることがある。そこで、スパイスを銅製錬工程に繰り返すことが考えられる。しかしながら、この場合、メタル成分の直行率が低くなるおそれがある。また、銅製錬の操業に影響を及ぼすおそれがある。
【0005】
本発明は上記の課題に鑑み、メタル成分の直行率を高くすることができる、鉛の回収方法を提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る鉛の回収方法は、鉛原料を溶融する溶融工程と、前記溶融工程で得られたスパイスを、凝固後に破砕する破砕工程と、前記破砕工程で得られた破砕物を軽量物と重量物とに分離する分離工程と、前記重量物を前記溶融工程に繰り返す工程と、を含む。
【0007】
前記スパイスは、Pb、Sn、Sb、Biの少なくともいずれか1つを含み、前記スパイスに含まれるPb、Sn、Sb、Biの少なくともいずれか1つの濃度が、前記スパイスよりも前記重量物において高くてもよい。前記スパイスは、Fe、Asの少なくともいずれか1つを含み、前記スパイスに含まれるFe、Asの少なくともいずれか1つの濃度が、前記スパイスよりも前記軽量物において高くてもよい。前記分離工程において、比重選別機を用いてもよい。前記破砕工程において、凝固した前記スパイスを30mm以下の粒径になるように破砕してもよい。前記鉛原料は、銅製錬の過程で得られる鉛を含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0008】
メタル成分の直行率を高くすることができる、鉛の回収方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】鉛の回収方法を例示する図である。
図2】Pb電気炉を例示する図である。
図3】エアテーブルを例示する図である。
図4】分配率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態において対象とする鉛原料は、少なくとも鉛(Pb)を含み、スズ(Sn)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、鉄(Fe)、ヒ素(As)、銅(Cu)、硫黄(S)、ケイ素(Si)などを含んでいてもよい。鉛原料は、銅製錬工程における電解精製で生じた銅殿物(アノードスライム)を処理して得られる還元銀を酸化炉で酸化処理する際に生じる密陀や、電子部品などのリサイクル原料の溶融炉もしくは産業廃棄物を溶融処理する乾式炉で発生する乾式煙灰を硫酸浸出して得られた鉛滓(硫酸鉛)、硫酸鉛を炭酸ナトリウムにより処理して得られた炭酸鉛、などが挙げられる。鉛原料は、例えば、Pbを20mass%以上40mass%以下、Snを5mass%以上15mass%以下、Sbを1mass%以上10mass%以下、Biを5mass%以上15mass%以下、Feを5mass%以上15mass%以下、Asを1mass%以上10mass%以下含有する。鉛原料は、その他、貴金属などを含んでいてもよい。
【0011】
図1は、本実施形態に係る鉛の回収方法を例示する図である。図1で例示するように、まず、鉛原料に対して、電気炉(Pb電気炉)で溶融還元を行う。還元剤として、例えば、コークスなどを用いる。溶剤として、例えば、ソーダ灰(炭酸ナトリウム)などを用いる。
【0012】
図2は、Pb電気炉100を例示する図である。図2で例示するように、Pb電気炉100には、鉛原料を投入するための投入口1が設けられている。鉛原料は、投入口1から炉2に投入される。鉛原料は、複数の電極3からの電力によって加熱されて溶融する。溶融還元によって、鉛原料は、メタル相4と、スラグ相5とに分離する。メタル相4の比重よりもスラグ相5の比重の方が小さいため、メタル相4上にスラグ相5が浮く。メタル相4は、Pb、Sn、Sb、Bi、貴金属などを含んでいる。スラグ相5は、Fe、Cu、As、S、Siなどを含んでいる。メタル相4とスラグ相5とに分離する過程で、FeやAsの一部が合金となり、メタル相4とスラグ相5との間に中間層としてスパイス6が生じる。
【0013】
炉2の側壁には、メタル抜出口7と、スラグ抜出口8とが設けられている。メタル抜出口7の方がスラグ抜出口8よりも低い位置に設けられている。それにより、メタル抜出口7からメタル相4を抜き出すことができ、スラグ抜出口8からスラグ相5を抜き出すことができる。なお、スパイス6は、メタル抜出口7からメタル相4とともに抜き出される。
【0014】
メタル抜出口7から抜き出されたメタル相4およびスパイス6は、冷却して凝固させた後に斫りを行い、メタル相4とスパイス6とに分離する。
【0015】
しかしながら、メタル相4から分離されたスパイス6は、メタル相4の一部のメタル成分を含んでいる。例えば、スパイス6は、メタル成分として、Pb、Sn、Sb、Biの少なくともいずれか1つを含んでいる。また、スパイス6は、スパイス成分として、Fe、Asの少なくともいずれか1つを含んでいる。そこで、メタル相4から分離されたスパイス6を銅製錬炉に繰り返し物として繰り返すことが考えられる。しかしながら、この場合、スパイス6に含まれるメタル成分の直行率が低くなる。直行率とは、Pb電気炉に投入されたうち、繰り返されることなく一度の処理で次の工程へ進む率のことである。また、これらのメタル成分は、銅製錬工程において製錬阻害物質であって銅製錬の操業に影響を及ぼすおそがある。特に、近年では銅製錬炉に投入される原料に占めるリサイクル原料の比率が高くなってきたため、銅製錬炉への繰り返し物の量を減らすことが望まれている。
【0016】
そこで、メタル相4から分離されたスパイス6をPb電気炉100に繰り返すことが考えられる。しかしながら、スパイス6に含まれるFe、Asなどのスパイス成分は、Pb電気炉100に繰り返さないことが好ましい。スパイス成分がPb電気炉100に繰り返されると、発生するスパイス量が増えてしまうためである。そこで、スパイス6を、Pb、Sn、Sb、Biなどのメタル成分と、Fe、Asなどのスパイス成分とに分離することが考えられる。しかしながら、Pb電気炉100において溶融しているスパイス6は、高い粘性を有しているため、スパイス6で懸垂するメタル粒子の沈降速度が遅くなり、メタル成分を巻き込んでいることがある。したがって、スパイス6を、Pb、Sn、Sb、Bi、貴金属などのメタル成分と、Fe、Asなどのスパイス成分とに分離することは困難である。
【0017】
そこで、本発明者らによる鋭意研究により、スパイス6を凝固させた後に破砕した場合に、Pb、Sn、Sb、Biなどのメタル成分が比較的大きい比重を有し、Fe、Asなどのスパイス成分が比較的小さい比重を有していることを突き止めた。そこで、本実施形態においては、スパイス6を破砕した後に、比重選別を行う。破砕の際には、例えば、30mm以下の粒径となるように破砕することが好ましい。なお、破砕に用いる破砕機は特に、限定されないが、例えば、ハンマークラッシャーなどを用いることができる。例えば、ハンマークラッシャーにスクリーンを取り付けることで目的粒度まで破砕することができる。また、ここでの粒径とは、各粒における最大径のことを意味する。
【0018】
比重選別には、比重選別機を用いる。例えば、比重選別機として、2軸エアテーブルを用いることができる。図3に、エアテーブル10を例示する。エアテーブル10は、例えば、傾斜角度θ1(>0°)および分離角度θ2(>0°)を有する2軸エアテーブルである。エアテーブル10は、板状のテーブル11を備える。テーブル11は、台形であり、上流側端縁11aの幅寸法よりも下流側端縁11bの幅寸法の方が大きくなっている。テーブル11には、スリット状のエア吹き出し部12が設けられている。エア吹き出し部12からは矢示12aのようにエアが吹き出し、テーブル11上に供給された分離対象物に浮力を与える。また、テーブル11には、振動が付与されるようになっている。
【0019】
テーブル11は、傾斜角度θ1(>0°)と分離角度θ2(>0°)とを有するように設置されている。傾斜角度θ1は、上流側端縁11aの第1端部11a1と下流側端縁11bの第1端部11b1とを結ぶ辺の水平面に対する角度である。また、分離角度θ2は、下流側端縁11bの水平面に対する角度である。本実施形態では、傾斜角度θ1>0°、分離角度θ2>0°として分離工程を行うため、下流側端縁11bの第1端部11b1が最も低い位置に配置されることとなる。
【0020】
このようなエアテーブル10の上流側端縁11aの近傍に矢示13のように分離対象物を供給し、エアテーブル10を稼働させると、軽量物が矢示14で示すように移動し、重量物が矢示15で示すように移動する。これによって、比重分離が行われる。本実施形態では、スパイス60の破砕物が分離対象物として矢示13のようにエアテーブル10に供給され、エアテーブル10を稼働させることで、Pb、Sn、Sb、Bi、貴金属などのメタル成分と、Fe、Asなどのスパイス成分とに分離される。Fe、Asなどのスパイス成分は軽量物であるため、矢示14のように移動する。一方、Pb、Sn、Sb、Biなどのメタル成分は比較的重いため、重量物として矢示15のように移動する。したがって、スパイス6に含まれるPb、Sn、Sb、Biの少なくともいずれか1つの濃度が、スパイス6よりも重量物において高くなる。また、スパイス6に含まれるFe、Asの少なくともいずれか1つの濃度が、スパイス6よりも軽量物において高くなる。このようにして、Pb、Sn、Sb、Biなどのメタル成分と、Fe、Asなどのスパイス成分とが分離されるようになる。
【0021】
再度図1を参照して、分離された重量物は、Pb電気炉100に繰り返す。分離された軽量物は、Pb電気炉100以外の工程へと供する。例えば、銅製錬の自溶炉へ繰り返す。
【0022】
メタル相4は、含有している各金属元素を個別に回収するための工程へと供する。例えば、Pb、Sn、Sb、Biを個別に回収するための工程へと供する。例えば、Pbについては、精製して鉛アノードを作製し、電解精製することで、鉛を回収することができる。
【0023】
本実施形態によれば、スパイス6を破砕して比重選別することで、スパイス6がメタル成分を巻き込んでいても、Pb、Sn、Sb、Biなどのメタル成分を比較的多く含む重量物と、Fe、Asなどのスパイス成分を比較的多く含む軽量物とに分離することができる。それにより、Pb、Sn、Sb、Biなどのメタル成分を銅製錬炉に繰り返すのではなく、Pb電気炉100に繰り返すことができるようになる。その結果、Pb、Sn、Sb、Biなどのメタル成分の直行率を高くすることができる。
【実施例0024】
(実施例)
Pb電気炉で発生したスパイスを回収した。回収したスパイスの比重選別前の組成を表1に示す。表1に示すように、スパイスには、Fe、Asの他に、Sn、Sb、Pb、およびBiも含まれていた。このスパイスを破砕して粒径を30mm以下とした。
【0025】
その後、破砕物を2軸エアテーブルで比重選別し、重量物と軽量物とに分離した。2軸エアテーブルの傾斜角度θ1を6.5°とし、分離角度θ2を2.75°とした。
【0026】
重量物に含まれる成分量と軽量物に含まれる成分量を測定した。その結果、表1の成分量および図4に示す分配率が得られた。表1および図4に示すように、Pb、Sn、Sb、Biは重量物に多く含まれ、Fe、Asは軽量物に多く含まれていた。この結果から、スパイスの破砕物を比重選別して重量物と軽量物とに分離することで、スパイスをPb、Sn、Sb、Biなどのメタル成分と、Fe、Asなどのスパイス成分とに分離することができることが確認された。
【表1】
【0027】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0028】
本発明の一実施形態によれば、Pb、Sn、Sb、Biなどのメタル成分の直行率を高くすることができる。このため、本発明の一実施形態は、廃棄物の再利用の促進や資源利用効率の向上を通じて、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標9「強靭(レジリエント)なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの推進を図る」や目標12「持続可能な生産消費形態を確保する」に貢献する可能性がある。
【符号の説明】
【0029】
1 投入口
2 炉
3 電極
4 メタル相
5 スラグ相
6 スパイス
7 スラグ抜出口
8 メタル抜出口
10 エアテーブル
11 テーブル
11a 上流側端縁
11b 下流側端縁
11b1 第1端部
12 エア吹き出し部
θ1 第1傾斜角
θ2 第2傾斜角
100 Pb電気炉
図1
図2
図3
図4