(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025151531
(43)【公開日】2025-10-09
(54)【発明の名称】リンゴガイ類の検出方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6851 20180101AFI20251002BHJP
C12Q 1/6888 20180101ALI20251002BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20251002BHJP
【FI】
C12Q1/6851 Z ZNA
C12Q1/6888 Z
C12M1/34 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024053014
(22)【出願日】2024-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神村 学
(72)【発明者】
【氏名】松倉 啓一郎
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029BB20
4B029CC01
4B029FA15
4B029GA03
4B029GA08
4B029GB06
4B029GB10
4B063QA18
4B063QQ18
4B063QQ28
4B063QQ42
4B063QQ62
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR42
4B063QS03
4B063QS25
4B063QS34
4B063QS36
4B063QX02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】環境DNAから高い検出率でリンゴガイ類を検出する。
【解決手段】特定の塩基配列を有する第1のプライマー、別の特定の塩基配列を有する第2のプライマー、及びさらに別の塩基配列を有するプローブを用いて、試料中の環境DNAを増幅・検出する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a1)~(a4)のいずれかの塩基配列を有する第1のプライマー:
(a1)配列番号1で表される塩基配列;
(a2)配列番号1で表される塩基配列上の連続する10塩基長以上の塩基配列;
(a3)配列番号1で表される塩基配列において、1~9塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列;
(a4)(a1)~(a3)のいずれかの塩基配列と80%以上の配列同一性を有する塩基配列;
以下の(b1)~(b4)のいずれかの塩基配列を有する第2のプライマー:
(b1)配列番号2で表される塩基配列;
(b2)配列番号2で表される塩基配列上の連続する10塩基長以上の塩基配列;
(b3)配列番号2で表される塩基配列において、1~9塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列;
(b4)(b1)~(b3)のいずれかの塩基配列と80%以上の配列同一性を有する塩基配列;
及び、以下の(c1)~(c4)から選択される塩基配列を有するプローブ:
(c1)配列番号3で表される塩基配列;
(c2)配列番号3で表される塩基配列上の配列番号4で表される塩基配列を含む連続する10塩基長以上の塩基配列;
(c3)配列番号3で表される塩基配列において、1~9塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列であって、配列番号4で表される塩基配列部分には欠失、若しくは付加が存在しない塩基配列;
(c4)(c1)~(c3)のいずれかの塩基配列と80%以上の配列同一性を有する塩基配列であって配列番号4で表される塩基配列部分には変異を有しない塩基配列;
を用いて、試料中の核酸を増幅する工程、を含む、
リンゴガイ類の検出方法。
【請求項2】
前記試料が、淡水環境又は土壌環境から採取された試料である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記核酸が、環境DNAである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記プローブが、塩基配列の5’末端側及び3’末端側に蛍光物質及びクエンチャー物質をそれぞれ備える、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
以下の(a1)~(a4)のいずれかの塩基配列を有する第1のプライマー:
(a1)配列番号1で表される塩基配列;
(a2)配列番号1で表される塩基配列上の連続する10塩基長以上の塩基配列;
(a3)配列番号1で表される塩基配列において、1~9塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列;
(a4)(a1)~(a3)のいずれかの塩基配列と80%以上の配列同一性を有する塩基配列;
以下の(b1)~(b4)のいずれかの塩基配列を有する第2のプライマー:
(b1)配列番号2で表される塩基配列;
(b2)配列番号2で表される塩基配列上の連続する10塩基長以上の塩基配列;
(b3)配列番号2で表される塩基配列において、1~9塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列;
(b4)(b1)~(b3)のいずれかの塩基配列と80%以上の配列同一性を有する塩基配列;
及び、以下の(c1)~(c4)から選択される塩基配列を有するプローブ:
(c1)配列番号3で表される塩基配列;
(c2)配列番号3で表される塩基配列上の配列番号4で表される塩基配列を含む連続する10塩基長以上の塩基配列;
(c3)配列番号3で表される塩基配列において、1~9塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列であって、配列番号4で表される塩基配列部分には欠失、若しくは付加が存在しない塩基配列;
(c4)(c1)~(c3)のいずれかの塩基配列と80%以上の配列同一性を有する塩基配列であって配列番号4で表される塩基配列部分には変異を有しない塩基配列;
を含む、リンゴガイ類を検出するための試薬又はキット。
【請求項6】
リアルタイムPCR用である、請求項5に記載の試薬又はキット。
【請求項7】
以下の(a1)~(a4)のいずれかの塩基配列を有する第1のプライマー:
(a1)配列番号1で表される塩基配列;
(a2)配列番号1で表される塩基配列上の連続する10塩基長以上の塩基配列;
(a3)配列番号1で表される塩基配列において、1~9塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列;
(a4)(a1)~(a3)のいずれかの塩基配列と80%以上の配列同一性を有する塩基配列;
及び、以下の(b1)~(b4)のいずれかの塩基配列を有する第2のプライマー:
(b1)配列番号2で表される塩基配列;
(b2)配列番号2で表される塩基配列上の連続する10塩基長以上の塩基配列;
(b3)配列番号2で表される塩基配列において、1~9塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列;
(b4)(b1)~(b3)のいずれかの塩基配列と80%以上の配列同一性を有する塩基配列;
からなる、リンゴガイ類を検出するためのプライマーセット。
【請求項8】
以下の(c1)~(c4)から選択される塩基配列を有する、リンゴガイ類を検出するためのプローブ:
(c1)配列番号3で表される塩基配列;
(c2)配列番号3で表される塩基配列上の配列番号4で表される塩基配列を含む連続する10塩基長以上の塩基配列;
(c3)配列番号3で表される塩基配列において、1~9塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列であって、配列番号4で表される塩基配列部分には欠失、若しくは付加が存在しない塩基配列;
(c4)(c1)~(c3)のいずれかの塩基配列と80%以上の配列同一性を有する塩基配列であって配列番号4で表される塩基配列部分には変異を有しない塩基配列。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境DNAを用いてリンゴガイ類を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スクミリンゴガイは、南米原産の淡水性巻貝の一種で、わが国には食用を目的とした養殖用として持ち込まれた後、環境中で野生化した侵略的外来種である。水田に生息して田植え後の若いイネを食害するため、害虫として防除の対象となっている。わが国には、スクミリンゴガイと非常によく似た形態を有する近縁種のラプラタリンゴガイも侵入しており、各地でスクミリンゴガイと交雑している。スクミリンゴガイとラプラタリンゴガイは、その外観や生態等からは容易には区別できない。
【0003】
環境中のスクミリンゴガイ等のリンゴガイ類の存在の有無は、通常は、ピンク色の卵塊が周辺に存在するか否かで判定される。しかし、生息密度が低い場合には、卵塊の観測は、必ずしも確実な判定方法ではなかった。
【0004】
環境DNAとは、海、川、湖沼等の水環境、土壌、大気等の環境中に存在する生物由来のDNAの総称である。環境DNAの分析により、その環境中に存在する生物、特に水生生物の種類等を推定する技術が知られている。非特許文献1には、環境DNAから、スクミリンゴガイ及びラプラタリンゴガイのチトクローム酸化酵素1(COI)遺伝子を検出する方法が報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】P. Banerjee, et al., Hydrobiologia (2022), 849: 4241-4257
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1に記載の方法では、環境DNAからのスクミリンゴガイ、ラプラタリンゴガイの検出率は50~70%であった。非特許文献1に記載の方法は、スクミリンゴガイとラプラタリンゴガイを区別することを目的としている。しかし、リンゴガイ類の防除を考える上で、これらを在来種と区別しながら検出することには意義はあるものの、これらのリンゴガイ間を区別することについては、両種が交雑することもあり、その意義が大きいとはいえない。そのため、スクミリンゴガイ、ラプラタリンゴガイおよびこれらの2種の交雑個体を区別なく高感度に検出することが求められている。
【0007】
本発明は、環境DNAから高い検出率でリンゴガイ類を検出可能な方法、及び該方法に使用するための試薬又はキットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書は、以下の発明を提供する。
[1]以下の(a1)~(a4)のいずれかの塩基配列を有する第1のプライマー:
(a1)配列番号1で表される塩基配列;
(a2)配列番号1で表される塩基配列上の連続する10塩基長以上の塩基配列;
(a3)配列番号1で表される塩基配列において、1~9塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列;
(a4)(a1)~(a3)のいずれかの塩基配列と80%以上の配列同一性を有する塩基配列;
以下の(b1)~(b4)のいずれかの塩基配列を有する第2のプライマー:
(b1)配列番号2で表される塩基配列;
(b2)配列番号2で表される塩基配列上の連続する10塩基長以上の塩基配列;
(b3)配列番号2で表される塩基配列において、1~9塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列;
(b4)(b1)~(b3)のいずれかの塩基配列と80%以上の配列同一性を有する塩基配列;
及び、以下の(c1)~(c4)から選択される塩基配列を有するプローブ:
(c1)配列番号3で表される塩基配列;
(c2)配列番号3で表される塩基配列上の配列番号4で表される塩基配列を含む連続する10塩基長以上の塩基配列;
(c3)配列番号3で表される塩基配列において、1~9塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列であって、配列番号4で表される塩基配列部分には欠失、若しくは付加が存在しない塩基配列;
(c4)(c1)~(c3)のいずれかの塩基配列と80%以上の配列同一性を有する塩基配列であって配列番号4で表される塩基配列部分には変異を有しない塩基配列;
を用いて、試料中の核酸を増幅する工程、を含む、
リンゴガイ類の検出方法。
[2]前記試料が、淡水環境又は土壌環境から採取された試料である、[1]に記載の方法。
[3]前記核酸が、環境DNAである、[1]又は[2]のいずれかに記載の方法。
[4]前記プローブが、塩基配列の5’末端側及び3’末端側に蛍光物質及びクエンチャー物質をそれぞれ備える、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]以下の(a1)~(a4)のいずれかの塩基配列を有する第1のプライマー:
(a1)配列番号1で表される塩基配列;
(a2)配列番号1で表される塩基配列上の連続する10塩基長以上の塩基配列;
(a3)配列番号1で表される塩基配列において、1~9塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列;
(a4)(a1)~(a3)のいずれかの塩基配列と80%以上の配列同一性を有する塩基配列;
及び、以下の(b1)~(b4)のいずれかの塩基配列を有する第2のプライマー:
(b1)配列番号2で表される塩基配列;
(b2)配列番号2で表される塩基配列上の連続する10塩基長以上の塩基配列;
(b3)配列番号2で表される塩基配列において、1~9塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列;
(b4)(b1)~(b3)のいずれかの塩基配列と80%以上の配列同一性を有する塩基配列;
及び、以下の(c1)~(c4)から選択される塩基配列を有するプローブ:
(c1)配列番号3で表される塩基配列;
(c2)配列番号3で表される塩基配列上の配列番号4で表される塩基配列を含む連続する10塩基長以上の塩基配列;
(c3)配列番号3で表される塩基配列において、1~9塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列であって、配列番号4で表される塩基配列部分には欠失、若しくは付加が存在しない塩基配列;
(c4)(c1)~(c3)のいずれかの塩基配列と80%以上の配列同一性を有する塩基配列であって配列番号4で表される塩基配列部分には変異を有しない塩基配列;
を含む、リンゴガイ類を検出するための試薬又はキット。
[6]リアルタイムPCR用である、[5]に記載の試薬又はキット。
[7]以下の(a1)~(a4)のいずれかの塩基配列を有する第1のプライマー:
(a1)配列番号1で表される塩基配列;
(a2)配列番号1で表される塩基配列上の連続する10塩基長以上の塩基配列;
(a3)配列番号1で表される塩基配列において、1~9塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列;
(a4)(a1)~(a3)のいずれかの塩基配列と80%以上の配列同一性を有する塩基配列;
及び、以下の(b1)~(b4)のいずれかの塩基配列を有する第2のプライマー:
(b1)配列番号2で表される塩基配列;
(b2)配列番号2で表される塩基配列上の連続する10塩基長以上の塩基配列;
(b3)配列番号2で表される塩基配列において、1~9塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列;
(b4)(b1)~(b3)のいずれかの塩基配列と80%以上の配列同一性を有する塩基配列;
からなる、リンゴガイ類を検出するためのプライマーセット。
[8]以下の(c1)~(c4)から選択される塩基配列を有する、リンゴガイ類を検出するためのプローブ:
(c1)配列番号3で表される塩基配列;
(c2)配列番号3で表される塩基配列上の配列番号4で表される塩基配列を含む連続する10塩基長以上の塩基配列;
(c3)配列番号3で表される塩基配列において、1~9塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列であって、配列番号4で表される塩基配列部分には欠失、若しくは付加が存在しない塩基配列;
(c4)(c1)~(c3)のいずれかの塩基配列と80%以上の配列同一性を有する塩基配列であって配列番号4で表される塩基配列部分には変異を有しない塩基配列。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、環境DNAから、高い検出率でリンゴガイ類を検出することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】スクミリンゴガイのチトクローム酸化酵素1(COI)遺伝子の塩基配列上のプライマー、プローブの一例の設計位置を示す模式図である。ラプラタリンゴガイについては、354~420位に対応する塩基配列のうち、不一致の塩基のみを表示する。他の淡水性巻貝については、382~407位に対応する塩基配列のうち、不一致の塩基のみを表示する。
【
図2】環境DNAの採取、検出の手順の一例を示すフロー図である。
【
図3】各種淡水性巻貝の組織及び飼育水由来のDNA溶液の定量PCRの結果を示すグラフである。縦軸に蛍光強度、横軸にPCRサイクル数を示す。
図3Aは組織由来のDNA溶液、
図3Bは飼育水由来のDNA溶液の定量PCRの結果を示す。
【
図4】環境A及び環境Bから採取した環境DNAの定量PCRの結果を示すグラフである。縦軸に蛍光強度、横軸にPCRサイクル数を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1 定義・構成
本明細書において、「リンゴガイ類」とは、リンゴガイ科(Ampullariidae)に属する淡水性の巻貝を意味し、特に、日本に侵略的外来種として広く繁殖する、スクミリンゴガイ(Pomacea canaliculata)、ラプラタリンゴガイ(Pomacea maculata)及びこれらの交雑種を指すものとする。ここでいう「侵略的外来種」とは、外来種のうち、地域の自然環境に大きな影響を与え、生物多様性を脅かすおそれのあるものを意味する。
【0012】
本明細書において、「淡水環境」は、川、湖沼、水田、用水路等、生態系が構築されている淡水域全般を包含する。本明細書において、「土壌環境」とは、生態系が構築されている土壌を指す。一般に、土壌とは、岩石、泥炭、火山灰に、長期間にわたって生物、地形、気候等が作用してできた、地球の表面を覆う層を意味する。
【0013】
本明細書において、「核酸」は、デオキシリボ核酸(DNA)及びリボ核酸(RNA)を包含する。本明細書において、「環境DNA」とは、水、土壌、大気等の環境中に放出されたDNAを指す。環境DNAは、サンプリングした水や土壌から抽出され、その環境中に存在する生物を網羅的に把握したり、特定の生物の存在を検出したりするために使用される。
【0014】
本明細書において、塩基配列における「T」は、必要に応じて「U」に変更することができる。本明細書において、塩基配列における「D」は「A/G/T」、「H」は「A/T/C」、「K」は「G/T」、「M」は「A/C」、「R」は「A/G」、「Y」は「C/T」を示す。本明細書において、プライマーの塩基配列に「D」、「H」、「K」、「M」、「R」及び/又は「Y」が存在する場合、当該塩基がいずれか1つの塩基であるか(例えば、「Y」はC又はT、「K」はG又はT)、あるいは、当該プライマーが縮重プライマーであることを示す。
【0015】
本明細書において、核酸増幅としては、核酸、特にDNAの増幅が可能な手法のいずれを使用してもよい。核酸増幅手法としては、PCR(Polymerase Chain Reaction)法、LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)法、SDA法(Strand Displacement Amplification)法、NASBA(Nucleic Acid Sequence Based Amplification)法、RPA(Recombinase Polymerase Amplification)法、NEAR(Nicking Enzyme Amplification Reaction)法、HDA(Helicase-Dependent Amplification)法等、多数の手法が知られる。核酸の増幅と増幅後の核酸の検出とは、同時(リアルタイム)に行っても順次行ってもよい。以下、特段の記載のない限り、核酸増幅手法としてリアルタイムPCR法を使用する態様について記載するが、本発明の核酸増幅手法をリアルタイムPCRに限定することを意図するものではない。
【0016】
本明細書において、「プライマー」とは、核酸増幅の起点となる、人工的に調製された、10~30塩基長程度のオリゴヌクレオチドを指す。本明細書において、「プローブ」とは、増幅した核酸と特異的に結合する配列を有する、人工的に調製された10~50塩基長程度のオリゴヌクレオチドを指す。
【0017】
本明細書において、塩基配列の「配列同一性」とは、2つの塩基配列にギャップを導入して、又はギャップを導入しないで整列させた場合の、最適なアラインメントにおいて、オーバーラップする全塩基配列に対する同一塩基の割合(パーセンテージ)を意味し、式(1)によって算出される値を指す。
配列同一性(%)=一致数(ギャップ同士は無視する)/短いほうの配列長(ギャップを含まない長さ)×100・・・式(1)
配列同一性は、この分野で汎用されているアルゴリズムであるBLAST(Basic Local Alignment Search Tool)(https://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi)等を用いて容易に調べることができる。
【0018】
本明細書において、「試薬」とは、容器に収納された溶液、部材等の要素のうち、1つの要素からなる(ただし、包装材を別途備えてもよい)を指す。一方、「キット」とは、容器に収納された溶液、部材等の要素を2つ以上含むものを指す。本明細書において、試薬及びキットは、目的のために必要な要素を備えていれば、その要素の数は特に限定されないことから、特に区別することを要しない。本明細書において、試薬及びキットは、まとめて「試薬等」とも称する。
【0019】
2 リンゴガイ類の検出方法
本発明の第1の実施形態はリンゴガイ類の検出方法である。本実施形態の方法は、以下の(a1)~(a4)のいずれかの塩基配列を有する第1のプライマー:
(a1)配列番号1(表1)で表される塩基配列;
(a2)配列番号1で表される塩基配列上の連続する10塩基長以上の塩基配列;
(a3)配列番号1で表される塩基配列において、1~9塩基、好ましくは、8塩基、7塩基、6塩基、5塩基、4塩基、3塩基、2塩基又は1塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列;
(a4)(a1)~(a3)のいずれかの塩基配列と80%以上、好ましくは、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上又は99%以上の配列同一性を有する塩基配列;
以下の(b1)~(b4)のいずれかの塩基配列を有する第2のプライマー:
(b1)配列番号2(表1)で表される塩基配列;
(b2)配列番号2で表される塩基配列上の連続する10塩基長以上の塩基配列;
(b3)配列番号2で表される塩基配列において、1~9塩基、好ましくは、8塩基、7塩基、6塩基、5塩基、4塩基、3塩基、2塩基又は1塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列;
(b4)(b1)~(b3)のいずれかの塩基配列と80%以上、好ましくは、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上又は99%以上の配列同一性を有する塩基配列;
及び、以下の(c1)~(c4)から選択される塩基配列を有するプローブ:
(c1)配列番号3(表1)で表される塩基配列;
(c2)配列番号3で表される塩基配列上の配列番号4(表1)で表される塩基配列を含む連続する10塩基長以上の塩基配列;
(c3)配列番号3で表される塩基配列において、1~9塩基、好ましくは、8塩基、7塩基、6塩基、5塩基、4塩基、3塩基、2塩基又は1塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列であって、配列番号4で表される塩基配列部分には欠失、若しくは付加が存在しない塩基配列;
(c4)(c1)~(c3)のいずれかの塩基配列と80%以上、好ましくは、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上又は99%以上の配列同一性を有する塩基配列であって配列番号4で表される塩基配列部分には変異を有しない塩基配列;
を用いて、試料中の核酸を増幅する工程、を含むことを特徴とする。
本実施形態の方法は、上記の特徴を有することにより、在来種との交差反応を生じることなく、リンゴガイ類を高感度で検出できるという利点を有する。
【0020】
2-1 プライマー、プローブ
前記第1のプライマーは、配列番号1で表される塩基配列、配列番号1で表される塩基配列の部分配列、配列番号1で表される塩基配列に1~9塩基の変異を有する塩基配列、及びこれらの塩基配列と80%以上の配列同一性を有する塩基配列から選択される。もっとも好ましくは、第1のプライマーは、配列番号1で表される塩基配列を有する。
【0021】
前記第2のプライマーは、配列番号2で表される塩基配列、配列番号2で表される塩基配列の部分配列、配列番号2で表される塩基配列に1~9塩基の変異を有する塩基配列、及びこれらの塩基配列と80%以上の配列同一性を有する塩基配列から選択される。もっとも好ましくは、第2のプライマーは、配列番号2で表される塩基配列を有する。
【0022】
前記プローブは、配列番号3で表される塩基配列、配列番号3で表される塩基配列の部分配列、配列番号3で表される塩基配列に1~9塩基の変異を有する塩基配列、及びこれらの塩基配列と80%以上の配列同一性を有する塩基配列から選択されるが、いずれの場合も配列番号4で表される塩基配列を含むことを要する。もっとも好ましくは、プローブは、配列番号3で表される塩基配列を有する。
【0023】
表1にスクミリンゴガイのチトクローム酸化酵素1(COI)の塩基配列(配列番号5)を示す。
図1に、スクミリンゴガイのCOI遺伝子の部分配列と、ラプラタリンゴガイ、他の淡水性巻貝(ヒメタニシ、マルタニシ、オオタニシ、サカマキガイ、チリメンカワニナ、モノアラガイ、ヒラマキミズマイマイ)の対応する配列のアライントを示す。ラプラタリンゴガイの塩基配列については、配列番号5と相違する塩基のみ表示する。スクミリンゴガイ、ラプラタリンゴガイ以外は、配列番号5の塩基配列の382~407位の配列と相違する塩基のみを表示する。配列番号5の塩基配列は、スクミリンゴガイミトコンドリア全ゲノム塩基配列(NCBI Reference Sequence: NC_024586.1)のうち、COIのオープンリーディングフレームに相当する1~1536位の塩基配列である。
【0024】
前記第1のプライマー、特に配列番号1の塩基配列を有するプライマーは、配列番号5で表されるCOI遺伝子の塩基配列の353~377位の相補鎖に特異的に結合する。前記第2のプライマー。特に配列番号2の塩基配列を有するプライマーは、配列番号5で表されるCOI遺伝子の塩基配列の401~419位に特異的に結合する。図中、第1のプライマーは5’末端側に結合し、第2のプライマーは3’末端側に結合することから、以降、第1のプライマーはフォワードプライマー、第2のプライマーはリバースプライマーとも称する。上記のフォワードプライマー及びリバースプライマーは、配列番号5で表される塩基配列の353~419位の部分配列を増幅することが可能である。
【0025】
前記プローブ、特に配列番号3の塩基配列を有するプローブは、配列番号5で表されるCOI遺伝子の塩基配列の382~399位の相補鎖に特異的に結合する。前記プローブは、少なくとも部分配列として、配列番号4で表される塩基配列を有する。配列番号4で表される塩基配列は、配列番号5で表されるCOI遺伝子の塩基配列の388~397位の相補鎖に特異的に結合する。特にこの部位において、リンゴガイ類と他の淡水性巻貝との塩基配列の差異が見られることから、前記プローブを使用することにより、リンゴガイ類を特異的に検出することが可能である。
【0026】
前記第1のプライマー、第2のプライマー及びプローブは、核酸増幅及び検出に使用される。核酸増幅手法は、既知の手法をいずれも使用できるが、リアルタイムPCR法を用いることが好ましい。特に、プローブの5’末端側に蛍光物質(レポーター色素)、3’末端側にクエンチャー物質を結合させたTaqMan(登録商標)プローブを使用することが好ましい。蛍光物質とクエンチャー物質の組み合わせは、通常、TaqManプローブに使用される組み合わせであれば特に限定されない。また、クエンチャー物質は、蛍光クエンチャー、非蛍光クエンチャー(NFQ)のいずれも使用できる。蛍光物質とクエンチャー物質の組み合わせとしては、例えば、FAM-TAMRA(蛍光波長520nm)、HEX-TAMRA(蛍光波長556nm)、TET-TAMRA(蛍光波長536nm)、FAM-BHQ(登録商標)-1(蛍光波長520nm)、HEX-BHQ-1(蛍光波長556nm)、TET-BHQ-1(蛍光波長536nm)、TAMRA-BHQ-2(蛍光波長583nm)、ROX-BHQ-2(蛍光波長610nm)、Cy5-BHQ-3(蛍光波長669nm)等とすることができる。あるいは、任意の蛍光物質とNFQの組み合わせとすることができる。TaqManプローブには、さらに、3’末端側にMGB(Minor Groove Binder)が結合していてもよい。TaqManプローブを用いるリアルタイムPCR法は、例えば、LightCycler96(ロシュ・ダイアグノスティックス社)等の機器を用いて実施することができる。
【0027】
プローブは必ずしも蛍光物質等の標識を有していてなくてもよい。この場合、PCR法として、第1のプライマー及び/又は第2のプライマーを蛍光物質、ジゴキシゲニン(DIG)、ビオチン等で標識し、標的DNAを増幅した後、メンブレン、マイクロプレート等に固定したプローブに増幅後のDNAを結合させ、検出してもよい。この場合、増幅時にプローブを使用しない他の核酸増幅手法を用いても、増幅後のDNAから標的DNAを検出することが可能である。
【0028】
【0029】
2-2 環境DNAの採取及び検出
本実施形態において、試料は、リンゴガイ類のDNAの存在が疑われる試料であれば、特に限定されず、例えば、リンゴガイ類か否かの同定を要する淡水性巻貝から直接採取し生体試料(例えば、筋肉組織)であってもよいが、淡水環境又は土壌環境から採取された試料とすることが好ましい。淡水環境におけるリンゴガイ類の被害を防ぐという目的から、淡水環境から採取された試料とすることがより好ましい。つまり、試料から増幅・検出されるDNAは、環境DNA、特に淡水環境由来の環境DNAであることが好ましい。以下、淡水環境から採取された試料からの環境DNAの検出方法について、例示的に説明するが、本実施形態における試料を限定することを意図するものではない。
【0030】
環境DNAの採取、検出の手順は、例えば、環境DNA学会、環境DNA技術標準化委員会編「環境DNA調査・実験マニュアルVer.2.2」(2020年4月3日発行)等を参照することができる。上記マニュアルに記載の手順は、必要に応じて適宜変更してもよい。
図2に、環境DNAの採取、検出の手順の一例を示す。図中の手順は、環境DNAの採取、検出は、淡水環境から試料を採水する工程、試料をフィルター濾過する工程、フィルターを保存液中に保存する工程、フィルターからDNAを回収する工程、DNAを精製する工程、リンゴガイ類のDNAを増幅、検出する工程を含む。以下、各工程を例示的に説明するが、各工程の条件等を限定することを意図するものではない。
【0031】
2-2-1 採水工程
川、湖沼、水田、用水路等から環境試料を採水する。まず、採水ポイントを決定し、採水を行う。採水するための容器(紙コップ等)は、未使用のものを利用するか、再利用する場合は採水の前に容器内部に次亜塩素酸ナトリウム水溶液(0.1%程度)等を噴霧してふき取る等の操作を行い、容器内部に付着する核酸を除去することとする。
【0032】
2-2-2 フィルター濾過工程
採水した試料から、DNA分解が生じる前に、フィルター濾過によりできる限り早期に環境DNAを濃縮する。フィルターは、例えば、ステリベクスフィルターカートリッジ(孔径0.45μm、メルク・ミリポア社、SVHV010RS)、グラスファイバーフィルター等を使用することができる。ステリベクスフィルターカートリッジを用いる場合、50mLシリンジで試料を吸引した後、シリンジにフィルターカートリッジを取り付け、通水する。吸引と通水を繰り返すことで、1本のフィルターカートリッジで通常200mL~1L程度の試料を濾過することができる。
【0033】
2-2-3 保存工程
濾過後のフィルターカートリッジは、内部DNAの分解を防ぐため、保存液で満たすことが好ましい。シリンジでフィルターカートリッジに空気を通し、内部に残存する水を除去した後、フィルターカートリッジの排出孔をパラフィルム、ルアーフィッティング(例えば、株式会社アイシス、VRSP6)等で封止した後、シリンジで保存液を注入する。保存液としては、RNAlater(商標)安定化溶液(Thermo Fisher Scientific社)、エタノール、塩化ベンザルコニウム水溶液等を使用することができる。保存液注入後、フィルターカートリッジの注入孔をパラフィルム、ルアーフィッティング(例えば、株式会社アイシス製、VRMP6)等で封止する。フィルターカートリッジは、その後、直ちにクーラーボックス内に入れる等、冷暗所に保存することが好ましい。その後、できるだけ早期に冷凍保存(例えば、-20℃以下)することが好ましい。
【0034】
なお、上記のフィルター濾過工程、保存工程を採水地で実施することが困難な場合は、採水した水を未使用、もしくは次亜塩素酸ナトリウム水溶液等で除染した密封容器内に入れて、必要に応じて塩化ベンザルコニウム等の保存剤を添加して、直ちにクーラーボックス等に入れて運搬した後、できるだけ早期にフィルター濾過を行うことが好ましい。
【0035】
2-2-4 DNA回収工程
次いで、フィルターに付着したDNAを回収する。フィルターカートリッジを保存液を満たした状態で冷凍保存した場合は、まず、これを室温で融解し、吸引、遠心分離等により、フィルターカートリッジ内の保存液を除去する。吸引による場合は、例えば、アスピレーターに接続したQIAvac(キアゲン社)にフィルターカートリッジをセットして、吸引することにより保存液を除去することができる。遠心分離による場合は、例えば、50mLコニカルチューブ内に5mLチューブを入れ、5mLチューブに両端を開放したフィルターカートリッジを注入孔を下にして入れた後、50mLコニカルチューブの蓋を閉め、遠心分離をすることにより、保存液を除去することができる。
【0036】
保存液を除去した後のフィルターカートリッジの排出孔を封止し、溶出溶液で満たす。溶出溶液は、特に限定されないが、例えば、カオトロピックタンパク質変性剤(例えば、グアニジン塩酸塩)、タンパク質分解酵素(例えば、プロテナーゼK)を含む溶液を使用できる。溶出溶液は、例えば、DNeasy Blood and Tissue kit(キアゲン社、69504)のBufferAL、プロテナーゼKをPBS(-)で希釈することで調製することができる。
【0037】
溶出溶液を満たしたフィルターカートリッジは、両端を封止し、50~60℃程度(例えば、56℃)の条件下で加温する。加温には、例えば、乾熱滅菌機を用いることができる。加温時間は、20~30分程度とすることができる。加温時は、フィルターカートリッジ内部に溶出溶液を満遍なく行きわたらせるため、ローテーターを用いて10rpm程度の速度で回転させてもよい。あるいは、使用する溶出溶液量を増量させてもよい(例えば、Wong et al., Nature Scientific Reports,(2020) 10:21531を参照のこと)。
【0038】
加温後のフィルターカートリッジから、溶出溶液を回収する。例えば、50mLコニカルチューブ内に入れた5mLチューブに、両端を開放したフィルターカートリッジを注入孔を下にして入れた後、50mLコニカルチューブの蓋を閉め、遠心分離をすることにより、5mLチューブ内に溶出溶液を回収することができる。
【0039】
2-2-5 DNA精製工程
回収した溶出溶液中のDNAを精製する。DNA精製の手法は、特に限定されず、既知の精製手法を採用することができる。例えば、DNeasy Blood and Tissue kitを用いることができる。あるいは、フェノール/クロロホルム法、エタノール沈殿法等の既知の手法を用いることができる。
【0040】
2-2-6 DNA増幅・検出工程
精製したDNAを含む溶液(以下、DNA溶液)中のDNAを増幅し、リンゴガイ類由来のDNAを検出する。DNA増幅は、既知の核酸増幅手法のいずれも使用できるが、特に、核酸増幅とプローブによる検出を同時に実施できるリアルタイムPCR法、特にTaqMan(登録商標)PCR法を好適に使用できる。
【0041】
リアルタイムPCR法は、通常、DNA増幅用反応液と、鋳型DNAを含むDNA溶液とを混合した後、これらを反応させる。リアルタイムPCR法によるDNA増幅用反応液には、通常は、少なくとも以下の成分が含まれる:
-DNAポリメラーゼ;
-第1のプライマー;
-第2のプライマー;
-プローブ;
-デオキシリボヌクレオチド三リン酸(dNTPs);
-二価金属イオン、好ましくはマグネシウムイオン(Mg2+)
-pH緩衝剤。
また、DNA増幅用反応液のpHは、通常は、7.5~10.5、特に8.0~9.0程度である。
【0042】
前記DNAポリメラーゼとしては、特に限定されないが、例えばTaq DNAポリメラーゼ、Tth DNAポリメラーゼ、KOD DNAポリメラーゼ、Bst DNAポリメラーゼ、Bsu DNAポリメラーゼ等を使用できる。前記pH緩衝剤としては、Tris,リン酸バッファー、HEPES等のグッド緩衝液等のリアルタイムPCR用に通常使用される、既知のpH緩衝剤をいずれも使用できる。前記二価金属イオンは、Mg2+の場合、例えば、2mM程度の濃度とすることができる。プローブは、蛍光標識プローブ、特にTaqMan(登録商標)プローブを使用することができる。
【0043】
蛍光物質の結合のないプローブを用いて、リアルタイムPCR法ではなく、PCR法(増幅)と検出を別々に実施してもよい。この場合、前記第1のプライマー及び/又は第プライマーとして、蛍光物質、DIG、ビオチン等で標識したものを使用することで、プローブを固定したマイクロプレート(マイクロプレートハイブリダイゼーション法)、メンブレン(サザンハイブリダイゼーション法)等により増幅DNAを検出することができる。
【0044】
DNA溶液と上記のDNA増幅用試薬とを混合して、所定の温度条件下で反応させることでDNAを増幅することができる。DNA増幅は、例えば、LightCycler(登録商標)96(ロシュ・ダイアグノスティックス社)等のリアルタイムPCR用又はPCR用のサーマルサイクラーを使用して実施することができる。
【0045】
DNA回収工程から、サーマルサイクラーにセットする直前までの作業は、大気中のDNAの混入によるエラー、特にキャリーオーバーコンタミネーションによるエラーのリスクを低減するために、DNA増幅後の作業を実施する実験室等とは別の実験室等で実施することが好ましい。あるいは、ウラシルDNAグルコシラーゼ等を使用して、キャリーオーバーコンタミネーションのリスクを低減することが好ましい。
【0046】
リアルタイムPCR法等により得られたシグナルより、DNA溶液中にリンゴガイ類のDNAが存在するか否かを判定することができる。DNA溶液中にリンゴガイ類のDNAの存在が検出された場合、当該DNA溶液の元の試料が採取された環境に、リンゴガイ類が生息していると判定することができる。
【0047】
3 リンゴガイ類を検出するための試薬又はキット
本発明の第2の実施形態は、リンゴガイ類を検出するための試薬又はキットである。本実施形態の試薬又はキット(以下、「試薬等」とも称する)は、以下の(a1)~(a4)のいずれかの塩基配列を有する第1のプライマー:
(a1)配列番号1で表される塩基配列;
(a2)配列番号1で表される塩基配列上の連続する10塩基長以上の塩基配列;
(a3)配列番号1で表される塩基配列において、1~9塩基、好ましくは、8塩基、7塩基、6塩基、5塩基、4塩基、3塩基、2塩基又は1塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列;
(a4)(a1)~(a3)のいずれかの塩基配列と80%以上、好ましくは、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上又は99%以上の配列同一性を有する塩基配列;
以下の(b1)~(b4)のいずれかの塩基配列を有する第2のプライマー:
(b1)配列番号2で表される塩基配列;
(b2)配列番号2で表される塩基配列上の連続する10塩基長以上の塩基配列;
(b3)配列番号2で表される塩基配列において、1~9塩基、好ましくは、8塩基、7塩基、6塩基、5塩基、4塩基、3塩基、2塩基又は1塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列;
(b4)(b1)~(b3)のいずれかの塩基配列と80%以上、好ましくは、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上又は99%以上の配列同一性を有する塩基配列;
及び、以下の(c1)~(c4)から選択される塩基配列を有するプローブ:
(c1)配列番号3で表される塩基配列;
(c2)配列番号3で表される塩基配列上の配列番号4で表される塩基配列を含む連続する10塩基長以上の塩基配列;
(c3)配列番号3で表される塩基配列において、1~9塩基、好ましくは、8塩基、7塩基、6塩基、5塩基、4塩基、3塩基、2塩基又は1塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列であって、配列番号4で表される塩基配列部分には欠失、若しくは付加が存在しない塩基配列;
(c4)(c1)~(c3)のいずれかの塩基配列と80%以上、好ましくは、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上又は99%以上の配列同一性を有する塩基配列であって配列番号4で表される塩基配列部分には変異を有しない塩基配列;
を含む、ことを特徴とする。
【0048】
本実施形態の試薬等は、上記の特徴を有することにより、在来種との交差反応を生じることなく、リンゴガイ類を高感度で検出するために使用することができる。
【0049】
本実施形態の試薬等は、リアルタイムPCR用の試薬等であることが好ましい。リアルタイムPCR用の試薬等である場合、前記プローブは、例えば、TaqManプローブとすることができる。
【0050】
本実施形態の試薬等は、具体的には、「2 リンゴガイ類の検出方法」の節に記載の方法に使用される試薬等である。検出対象の試料、検出時の条件等は、特に記載のない限り、「2 リンゴガイ類の検出方法」の節に記載した通りである。
【0051】
4 リンゴガイ類を検出するためのプライマーセット
本発明の第3の実施形態は、リンゴガイ類を検出するためのプライマーセットである。本実施形態のプライマーセットは、以下の(a1)~(a4)のいずれかの塩基配列を有する第1のプライマー:
(a1)配列番号1で表される塩基配列;
(a2)配列番号1で表される塩基配列上の連続する10塩基長以上の塩基配列;
(a3)配列番号1で表される塩基配列において、1~9塩基、好ましくは、8塩基、7塩基、6塩基、5塩基、4塩基、3塩基、2塩基又は1塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列;
(a4)(a1)~(a3)のいずれかの塩基配列と80%以上、好ましくは、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上又は99%以上の配列同一性を有する塩基配列;
及び、以下の(b1)~(b4)のいずれかの塩基配列を有する第2のプライマー:
(b1)配列番号2で表される塩基配列;
(b2)配列番号2で表される塩基配列上の連続する10塩基長以上の塩基配列;
(b3)配列番号2で表される塩基配列において、1~9塩基、好ましくは、8塩基、7塩基、6塩基、5塩基、4塩基、3塩基、2塩基又は1塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列;
(b4)(b1)~(b3)のいずれかの塩基配列と80%以上、好ましくは、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上又は99%以上の配列同一性を有する塩基配列;
からなる、ことを特徴とする。
【0052】
本実施形態のプライマーセットは、具体的には、「2 リンゴガイ類の検出方法」の節に記載の方法に使用するためのプライマーセットである。また、「3 リンゴガイ類を検出するための試薬又はキット」の節に記載の試薬又はキットを製造するために使用されるプライマーセットである。本実施形態のプライマーセットは、後述する「5 リンゴガイ類を検出するためのプローブ」の節に記載のプローブと組み合わせて使用することができる。
【0053】
5 リンゴガイ類を検出するためのプローブ
本発明の第4の実施形態は、リンゴガイ類を検出するためのプローブである。本実施形態のプローブは、以下の(c1)~(c4)から選択される塩基配列を有することを特徴とする。
(c1)配列番号3で表される塩基配列;
(c2)配列番号3で表される塩基配列上の配列番号4で表される塩基配列を含む連続する10塩基長以上の塩基配列;
(c3)配列番号3で表される塩基配列において、1~9塩基、好ましくは、8塩基、7塩基、6塩基、5塩基、4塩基、3塩基、2塩基又は1塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列であって、配列番号4で表される塩基配列部分には欠失、若しくは付加が存在しない塩基配列;
(c4)(c1)~(c3)のいずれかの塩基配列と80%以上、好ましくは、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上又は99%以上の配列同一性を有する塩基配列であって配列番号4で表される塩基配列部分には変異を有しない塩基配列。
【0054】
本実施形態のプローブは、具体的には、「2 リンゴガイ類の検出方法」の節に記載の方法に使用するためのプローブである。また、「3 リンゴガイ類を検出するための試薬又はキット」の節に記載の試薬又はキットを製造するために使用されるプローブである。本実施形態のプライマーセットは、「4 リンゴガイ類を検出するためのプライマーセット」の節に記載のプライマーセットと組み合わせて使用することができる。
【0055】
本実施形態のプローブは、特に限定されないが、TaqMan(登録商標)プローブとすることが好ましい。TaqManプローブに使用する蛍光物質、クエンチャー物質は、通常、TaqManプローブに使用されるものをいずれも使用できる。また、TaqManプローブには、3’末端側にMGB(Minor Groove Binder)が結合していてもよい。
【実施例0056】
[実施例1]各種淡水性巻貝の飼育水及び組織来の試料からのDNA検出
(1)飼育水からのDNA採取
スクミリンゴガイ、ラプラタリンゴガイ、ヒメタニシ、チリメンカワニナ及びサカマキガイをそれぞれ2週間飼育した。飼育時の生育密度は、スクミリンゴガイ、ラプラタリンゴガイは、2~3頭/5L、他の巻貝は20頭/0.5Lとした。飼育後の水を紙コップに採取し、50mLシリンジを用いて飼育水を吸引して、ステリベクスフィルターカートリッジ(孔径0.45μm、メルク・ミリポア社、SVHV010RS)をシリンジの吸引口に装着して加圧濾過を行った。吸引と濾過を繰り返して、200mL~1Lの飼育水の濾過を行った。 濾過後のフィルターカートリッジに空気を満たしたシリンジを再装着し、加圧してカートリッジ内の水分を押し出した。この操作をカートリッジ内の水分がなくなるまで数回繰り返した。マイクロピペットを用いてカートリッジ内に核酸保存液(RNAlater液(Applied Biosystems社、AM7021))を注入し、内部を満たした。フィルターカートリッジの排出孔と注入孔にルアーフィッティング(アイシス社VRSP6およびVRMP6)を装着して密封した。密封後のフィルターカートリッジは、冷凍条件下(-20℃以下、又は-30℃以下)で保管した。
【0057】
(2)飼育水由来のDNAの回収
冷凍保存したDNAを含むフィルターカートリッジを室温に戻し、RNALater液を融解した。蓋を開けた50mLコニカルチューブの中に蓋を開けた5mLチューブを開口部を上にしてセットし、ルアーフィッティングを外したフィルターカートリッジを、注入孔を下側に向けて、注入孔が5mLチューブの開口部内に入るように設置した。50mLコニカルチューブを4000rpmで2分間遠心分離し、RNAlater液を5mLチューブに回収した。
【0058】
プロテナーゼK(600mAU/ml、QIAGEN社19133)、Buffer AL(QIAGEN 19075)及びPBS(-)を、10:91:99の体積比で混合し、溶出溶液を調製した。フィルターカートリッジの排出孔にルアーフィッティングを装着した後、マイクロピペットを用いて、注入孔から溶出溶液を各2mL注入した。注入孔にルアーフィッティングを装着して密閉した後、56℃の乾熱滅菌器内で30分間加温した。
【0059】
蓋を開けた50mLコニカルチューブの中に蓋を開けた5mLチューブを開口部を上にしてセットし、加温後のフィルターカートリッジのルアーフィッティングを外し、注入孔を下側に向けて、注入孔が5mLチューブの開口部内に入るように設置した。50mLコニカルチューブを4000rpmで10分間遠心分離し、カートリッジ内の液体を5mLチューブに回収した。5mLチューブ内の液体を、同じ50mLコニカルチューブに移し、10000rpmで10分間遠心分離した後、上清を回収し、DNA回収液とした。
【0060】
(3)組織由来のDNA(ゲノムDNA)の回収
スクミリンゴガイ、ラプラタリンゴガイ、ヒメタニシ、チリメンカワニナ及びサカマキガイの組織から、DNeasy Blood and Tissue kit(キアゲン社、69504)を用いて、DNAを抽出した。各淡水性巻貝の組織各200mgを採取し、Buffer ATL 180μLとプロテナーゼK 20μLを混合した溶液に入れ、ホモジナイザーで破砕した。破砕後、56℃で30分間加温したものを回収し、さらにBuffer AL 200μLを加えたものをDNA回収液とした。
【0061】
(4)DNAの精製
(2)及び(3)で得た各DNA回収液それぞれ約2mL及び約0.4mLを5mLチューブに入れ、それぞれ1mL及び0.2mLのエタノールを加えてピペットで混和した。以後、DNeasy Blood and Tissue kit(キアゲン社、69504)を用いてDNAを抽出した。混和した溶液650μLを、DNeasy Blood and Tissue kitのスピンカラムに入れ、8000rpmで1分間遠心分離した。混和溶液が残る場合は、排出された液を除き、再度同じスピンカラムに残りの溶液のうち650μLを入れ、同様に遠心分離を行った。この操作を、チューブ内の溶液がなくなるまで繰り返した。
【0062】
スピンカラムを新しい2mLコレクションチューブにセットした後、スピンカラムに800μLのBufferAW1を入れ、8000rpmで1分間遠心分離した。さらに、スピンカラムに800μLのBufferAW2を入れ、13000rpmで4分間遠心分離した。スピンカラムを新しい2mLコレクションチューブにカラムに載せ替え、再度13000rpmで3分間遠心分離した。新しい1.5mLチューブを用意し、遠心分離後のスピンカラムを載せ、56℃に温めておいた75μLのBufferAEをカラムのメンブレン上に注いだ。室温で1分間静置した後、8000rpmで1分間遠心して1.5mLチューブ内にDNA溶液を溶出させた。
【0063】
(5)定量PCR
各DNA溶液の定量PCRは、TaqMan Environmental Master Mix 2.0(サーモフィッシャーサイエンティフィック社、4398021)を用いて行った。定量PCR用の8連チューブに、表2に示す組成の増幅検出溶液を調製・分注した。
【0064】
【0065】
使用したフォワードプライマー、リバースプライマー、プローブは、以下の塩基配列を有するものを使用した。プライマーはいずれも縮重プライマーを使用した。
フォワードプライマー: 5'- GTGCYGGAACKGGATGRACAGTATA -3' (配列番号1)
リバースプライマー: 5'- ACAGAMCCACCYGCATGAG -3' (配列番号2)
プローブ: 5'- FAM-CCTTTAGCTGGTAATTTA -NFQ-MGB-3' (配列番号3)
【0066】
8連チューブの両端のウェルには、対照として、鋳型DNAを含まない増幅検出溶液、鋳型を蒸留水で希釈した溶液をそれぞれ分注した。
【0067】
増幅検出溶液を分注した8連チューブをLightCycler96(ロシュ・ダイアグノスティックス社)にセットして、PCR反応を。PCR条件は、95℃10分、(95℃5秒+60℃1分)×50サイクルで行った。
【0068】
図3に、組織及び飼育水由来のDNA溶液の定量PCRの結果を示す。縦軸に蛍光強度、横軸にPCRサイクル数を示す。
図3Aは組織由来のDNA溶液、
図3Bに飼育水由来のDNA溶液の定量PCRの結果を示す。スクミリンゴガイ、ラプラタリンゴガイの組織由来のDNA溶液からはDNAの増幅が確認されたが、ヒメタニシ、チリメンカワニナ及びサカマキガイの組織由来のDNA溶液からは、DNAの増幅は確認されなかった。飼育水においても同様に、スクミリンゴガイ、ラプラタリンゴガイの飼育水由来のDNA溶液からはDNAの増幅が確認されたが、ヒメタニシ、チリメンカワニナ及びサカマキガイの飼育水由来のDNA溶液からは、DNAの増幅は確認されなかった。これにより、定量PCRが、スクミリンゴガイ、ラプラタリンゴガイを特異的に検出できることが示された。
【0069】
[実施例2]環境DNAからの定量PCR
(1)環境DNAのサンプリング
スクミリンゴガイが多数生息していることが確認されている小美玉市の用水路(以下、環境A)と、スクミリンゴガイが生息していないことが確認されているつくば市の池(以下。環境B)由来の環境DNAから、定量PCRによるスクミリンゴガイの検出を行った。環境A及び環境Bの環境水を紙コップに採取した。環境Aでは2ヶ所、環境Bでは4か所でサンプリングを行った。その場で50mLシリンジを用いて環境水を吸引して、ステリベクスフィルターカートリッジ(孔径0.45μm、メルク・ミリポア社、SVHV010RS)をシリンジの吸引口に装着して加圧濾過を行った。吸引と濾過を繰り返して、200mL~1Lの環境水の濾過を行った。濾過後のフィルターカートリッジに空気を満たしたシリンジを再装着し、加圧してカートリッジ内の水分を押し出した。この操作をカートリッジ内の水分がなくなるまで数回繰り返した。マイクロピペットを用いてカートリッジ内に核酸保存液(RNAlater液(アプライドバイオシステムズ社、AM7021))を注入し、内部を満たした。フィルターカートリッジの排出孔と注入孔にルアーフィッティング(アイシス社VRSP6およびVRMP6)を装着して密封した。密封後のフィルターカートリッジは、チャック付きポリ袋に入れ、保冷剤を入れたクーラーボックス内で一時保管した。カートリッジは、できるだけ早期に冷凍条件下(-20℃以下、又は-30℃以下)に移して保存した。
【0070】
(2)環境DNAの回収
冷凍保存した環境DNAを含むフィルターカートリッジを室温に戻し、RNAlater液を融解した。蓋を開けた50mLコニカルチューブの中に蓋を開けた5mLチューブを開口部を上にしてセットし、ルアーフィッティングを外したフィルターカートリッジを、注入孔を下側に向けて、注入孔が5mLチューブの開口部内に入るように設置した。50mLコニカルチューブを4000rpmで2分間遠心分離し、RNAlater液を5mLチューブに回収した。
【0071】
プロテナーゼK(600mAU/ml、キアゲン社、19133)、BufferAL(キアゲン社、19075)、及びPBS(-)を、10:91:99の比で混合し、溶出溶液を調製した。フィルターカートリッジの排出孔にルアーフィッティングを装着した後、マイクロピペットを用いて、注入孔から溶出溶液を各2mL注入した。注入孔にルアーフィッティングを装着して密閉した後、56℃の乾熱器内で30分間加温した。
【0072】
蓋を開けた50mLコニカルチューブの中に蓋を開けた5mLチューブを開口部を上にしてセットし、加温後のフィルターカートリッジのルアーフィッティングを外し、注入孔を下側に向けて、注入孔が5mLチューブの開口部内に入るように設置した。50mLコニカルチューブの蓋を閉め、4000rpmで10分間遠心分離し、溶出溶液を5mLチューブに回収した。5mLチューブ内の溶出溶液を、同じ50mLコニカルチューブに移し、10000rpmで10分間遠心分離し、上清を回収した。
【0073】
(3)環境DNAの精製
上記上清からのDNAの精製は、実施例1(4)と同様の手順で実施した。
【0074】
(4)定量PCR
環境DNA溶液の定量PCRは、実施例1(5)と同様の手順で実施した。
【0075】
図4に、環境A及び環境Bの環境DNAの定量PCRの結果を示す。縦軸に蛍光強度、横軸にPCRサイクル数を示す。表3に、環境A及び環境Bの環境DNAの定量PCRのCt値を示す。環境Aでは、DNAの増幅が確認されたが、環境Bでは、DNAの増幅は確認されなかった。これにより、定量PCRにより環境中のスクミリンゴガイを特異的に検出できることが示された。
【0076】
【0077】
[実施例3]各地環境DNAからの定量PCR
スクミリンゴガイの生息が確認された国内各地の環境DNAから、定量PCRによるスクミリンゴガイの検出を行った。環境DNAは、静岡県磐田市(3ヶ所)、三重県四日市市(3ヶ所)、三重県松坂市(2ヶ所)、滋賀県野洲市(2ヶ所)、奈良県奈良市(2ヶ所)、長崎県佐世保市(2ヶ所)の水環境から採取した。環境DNAのサンプリング、回収、精製及び定量PCRの手順は、いずれも実施例2と同様の手順とした。
【0078】
表4に、各地から採取された環境DNAの定量PCRのCt値を示す。すべての試料でDNAの増幅が確認された。この結果より、地域差なく、日本全国で環境DNAからスクミリンゴガイの検出が可能であることが示された。
【0079】