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特開2025-151978情報処理装置、情報処理方法、およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025151978
(43)【公開日】2025-10-09
(54)【発明の名称】情報処理装置、情報処理方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01F 22/00 20060101AFI20251002BHJP
【FI】
G01F22/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024053642
(22)【出願日】2024-03-28
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ・ウェブサイトのアドレス https://agrmet.jp/〔要旨集掲載〕農業環境工学関連学会2023年合同大/ 掲載日 2023年9月4日 ・研究集会名 農業環境工学関連学会 2023年合同大会 開催場所 筑波大学春日キャンパス,つくば国際会議場 4階 開催日 2023年9月4日
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】松田 周
(57)【要約】
【課題】簡単な計算により、ため池の水位と貯水量との関係を比較的高い精度で推定することができる。
【解決手段】ため池の堤頂長に対応する幅、水位に応じて定まる奥行、および、奥行に応じて変化する深さを有し、四平面一曲面で構成される立体状の仮想ため池であって、奥行方向の一端における深さが最大であり、他端における深さが0となる池底を有する仮想ため池において、ため池の水位を一端における深さとして仮想ため池の体積を求めることで、水位に対応するため池の貯水量を算出する演算実行部を備え、演算実行部は、仮想ため池の体積を求める際に、一端からの奥行方向の距離に対応する池底の高さを、指数部に池底の形状を表すパラメータを含む指数関数であって、ネイピア数を底とした指数関数により表し、ため池が満水であるときの総貯水量に基づいて、池底の形状を表すパラメータの値を同定する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ため池の水位に対応する貯水量を推定する情報処理装置であって、
前記ため池の堤頂長に対応する幅、水位に応じて定まる奥行、および、奥行に応じて変化する深さを有し、四平面一曲面で構成される立体状の仮想ため池であって、奥行方向の一端における深さが最大であり、他端における深さが0となる池底を有する仮想ため池において、
z軸方向を前記仮想ため池の水位および池底の高さ、y軸方向を前記仮想ため池の幅、x軸方向を前記仮想ため池の奥行とした場合、
前記仮想ため池のx-y断面およびy-z断面はどの断面においても長方形または正方形であり、前記仮想ため池のx-z断面の形状はどの断面においても同じ面積、同じ形状であり、前記仮想ため池のx-z断面はx軸方向に延びる2辺のうち、1辺が曲線であり、前記曲線によって仮想ため池の池底が形成され、
前記ため池の水位を前記一端における深さとして前記仮想ため池の体積を求めることで、前記水位に対応する前記ため池の貯水量を算出する演算実行部を備え、
前記演算実行部は、前記仮想ため池の体積を求める際に、
前記一端からの奥行方向の距離に対応する前記池底の高さを、指数部に前記池底の形状を表すパラメータを含む指数関数であって、ネイピア数を底とした指数関数により表し、
前記ため池が満水であるときの総貯水量に基づいて、前記池底の形状を表すパラメータの値を同定する
情報処理装置。
【請求項2】
ネットワークを介して接続される外部の装置から、前記ため池に係る情報を取得し、
前記ため池に係る情報には、ため池をせき止める堤体の高さを示す堤高、前記堤体の堤頂の長さを示す堤頂長、前記ため池の満水位から前記堤体の堤頂までの高さ、満水面積、および、満水であるときの貯水量を示す総貯水量が含まれ、
前記演算実行部は、
前記仮想ため池の池幅を前記堤頂長とし、前記満水面積を前記池幅で除することで、満水位に対応する前記仮想ため池の奥行を算出し、
前記堤高、前記ため池の満水位から前記堤体の堤頂までの高さ、および、前記満水位に対応する前記仮想ため池の奥行を用いて前記指数関数を生成する
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記演算実行部は、
前記指数関数を積分することで、満水位に対応する前記仮想ため池の体積を求める式である満水位体積算出式を生成し、前記満水位体積算出式に含まれる前記池底の形状を表すパラメータの値を変更し、前記総貯水量を近似する前記仮想ため池の体積に係る前記池底の形状を表すパラメータの値を同定する
請求項2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記演算実行部は、さらに
前記パラメータの値に基づいて、前記ため池の水位と貯水量との関係を示すH-V曲線、または、前記ため池の水位と池水面積との関係を示すH-A曲線を算出する
請求項3に記載の情報処理装置。
【請求項5】
地図により求めた前記ため池の池水面積と、写真により求めた前記ため池の池水面積とをさらに取得し、
前記演算実行部は、
地図により求めた前記ため池の池水面積と、写真により求めた前記ため池の池水面積とのうち、大きい方の池水面積である修正満水面積を前記池幅で除することで、満水位に対応する前記仮想ため池の奥行を算出する
請求項3に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記演算実行部は、
前記修正満水面積を、前記外部の装置から取得した満水面積で除した値に、前記総貯水量を乗じた値である第1の修正総貯水量を算出し、
前記修正総貯水量を近似する前記仮想ため池の体積に係る前記池底の形状を表すパラメータの値を同定する
請求項5に記載の情報処理装置。
【請求項7】
前記堤体の天端幅、上流法面勾配および下流法面勾配を示す情報をさらに取得し、前記堤高、前記天端幅、前記上流法面勾配および前記下流法面勾配を用いて、前記堤体の断面を特定し、
前記ため池および前記堤体を含む地形断面図において、標高の精度が比較的低い第1の領域に接する2つの領域であって、前記第1の領域より標高の精度が高い第2の領域および第3の領域を特定し、前記第2の領域および前記第3の領域における前記第1の領域との接点の標高を結ぶ線分の勾配を地山勾配とし、前記堤体の断面に前記地山勾配を適用することで得られる堤高である修正堤高を算出する
請求項6に記載の情報処理装置。
【請求項8】
前記演算実行部は、
前記修正堤高を、前記外部の装置から取得した堤高で除した値に、前記第1の修正総貯水量を乗じた値である第2の修正総貯水量を算出し、
前記第2の修正総貯水量を近似する前記仮想ため池の体積に係る前記池底の形状を表すパラメータの値を同定する
請求項7に記載の情報処理装置。
【請求項9】
ため池の水位に対応する貯水量を推定する情報処理装置の情報処理方法であって、
前記ため池の堤頂長に対応する幅、水位に応じて定まる奥行、および、奥行に応じて変化する深さを有し、四平面一曲面で構成される立体状の仮想ため池であって、奥行方向の一端における深さが最大であり、他端における深さが0となる池底を有する仮想ため池において、
z軸方向を前記仮想ため池の水位および池底の高さ、y軸方向を前記仮想ため池の幅、x軸方向を前記仮想ため池の奥行とした場合、
前記仮想ため池のx-y断面およびy-z断面はどの断面においても長方形または正方形であり、前記仮想ため池のx-z断面の形状はどの断面においても同じ面積、同じ形状であり、前記仮想ため池のx-z断面はx軸方向に延びる2辺のうち、1辺が曲線であり、前記曲線によって仮想ため池の池底が形成され、
前記ため池の水位を前記一端における深さとして前記仮想ため池の体積を求めることで、前記水位に対応する前記ため池の貯水量を算出するステップを含み、
前記仮想ため池の体積を求める際に、
前記一端からの奥行方向の距離に対応する前記池底の高さを、指数部に前記池底の形状を表すパラメータを含む指数関数であって、ネイピア数を底とした指数関数により表し、
前記ため池が満水であるときの総貯水量に基づいて、前記池底の形状を表すパラメータの値が同定される
情報処理方法。
【請求項10】
コンピュータを、
ため池の水位に対応する貯水量を推定する情報処理装置であって、
前記ため池の堤頂長に対応する幅、水位に応じて定まる奥行、および、奥行に応じて変化する深さを有し、四平面一曲面で構成される立体状の仮想ため池であって、奥行方向の一端における深さが最大であり、他端における深さが0となる池底を有する仮想ため池において、
z軸方向を前記仮想ため池の水位および池底の高さ、y軸方向を前記仮想ため池の幅、x軸方向を前記仮想ため池の奥行とした場合、
前記仮想ため池のx-y断面およびy-z断面はどの断面においても長方形または正方形であり、前記仮想ため池のx-z断面の形状はどの断面においても同じ面積、同じ形状であり、前記仮想ため池のx-z断面はx軸方向に延びる2辺のうち、1辺が曲線であり、前記曲線によって仮想ため池の池底が形成され、
前記ため池の水位を前記一端における深さとして前記仮想ため池の体積を求めることで、前記水位に対応する前記ため池の貯水量を算出する演算実行部を備え、
前記演算実行部は、前記仮想ため池の体積を求める際に、
前記一端からの奥行方向の距離に対応する前記池底の高さを、指数部に前記池底の形状を表すパラメータを含む指数関数であって、ネイピア数を底とした指数関数により表し、
前記ため池が満水であるときの総貯水量に基づいて、前記池底の形状を表すパラメータの値を同定する情報処理装置として機能させる
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理装置、情報処理方法、およびプログラムに関し、簡単な計算により、ため池の水位と貯水量との関係を比較的高い精度で推定することができる情報処理装置、情報処理方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
用排水路やため池を熱源として園芸施設の加温に利用する試みが行われている。また、園芸施設の脱炭素化は急務であり、地域エネルギーの有効活用が模索されている中、ため池から熱エネルギーを取る方式は、注目されている。
【0003】
ため池の水を利用する場合、温度とその水量の情報が必要であり、水量を把握するためには、ため池の水位と容量の関係を示す「水位-容量曲線(H-V曲線とも称する)」が重要になる。一方で多くのため池を解析対象とする場合、各池に対して池底を測量する方法は現実的でない。
【0004】
ため池のH-V曲線を求めるためには、(1)ため池に浮かべたボートから音波を水中に発信し、帰ってきた音波を解析することで池底の地形を把握する深浅測量を行う方式、(2)ため池の水を抜いた時に池底面を測量する方式、(3)ため池の水を抜く時に、異なる水位時の水際を測量する、または、異なる水位時の空中写真を撮って水際をトレースする方式、(4)インターネット等から得られる情報でH-V曲線を推定する方式がある。
【0005】
ここで、方式(4)においては、さらに総貯水量を使う方式(非特許文献1)と使わない方式(非特許文献2)がある。
【0006】
さらに、近年の豪雨の頻発化により、豪雨前にダムの水を事前放流する事例があるが、ため池においても事前放流の効果が議論されている。想定される流域雨量および今後必要となる灌漑水量を鑑みてため池空き容量を決定し、それに相当する水位を導出することができれば、効果的な事前放流の一助となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】田中丸ら 2015「ため池の水位―貯留量関係のモデル化」H27 農業農村工学会大会講演会講演要旨集、530-531
【非特許文献2】吉迫及び小川 2009「ため池における利水容量の転用による洪水調節容量の創出―東広島市六道池における検討-」システム農学、第 25 巻、63-70
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、方式(1)~方式(3)は、現場で測量するか、または空中写真を撮る必要があり、多数のため池を対象とする場合現実的でない。また、非特許文献1、および、非特許文献2の方式では、十分な精度でH-V曲線を推定できないことがある。
【0009】
本発明の一態様は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、その目的の一例は、簡単な計算により、ため池の水位と貯水量との関係を比較的高い精度で推定することができるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る情報処理装置は、ため池の水位に対応する貯水量を推定する情報処理装置であって、前記ため池の堤頂長に対応する幅、水位に応じて定まる奥行、および、奥行に応じて変化する深さを有し、四平面一曲面で構成される立体状の仮想ため池であって、奥行方向の一端における深さが最大であり、他端における深さが0となる池底を有する仮想ため池において、z軸方向を前記仮想ため池の水位および池底の高さ、y軸方向を前記仮想ため池の幅、x軸方向を前記仮想ため池の奥行とした場合、前記仮想ため池のx-y断面およびy-z断面はどの断面においても長方形または正方形であり、前記仮想ため池のx-z断面の形状はどの断面においても同じ面積、同じ形状であり、前記仮想ため池のx-z断面はx軸方向に延びる2辺のうち、1辺が曲線であり、前記曲線によって仮想ため池の池底が形成され、前記ため池の水位を前記一端における深さとして前記仮想ため池の体積を求めることで、前記水位に対応する前記ため池の貯水量を算出する演算実行部を備え、前記演算実行部は、前記仮想ため池の体積を求める際に、前記一端からの奥行方向の距離に対応する前記池底の高さを、指数部に前記池底の形状を表すパラメータを含む指数関数であって、ネイピア数を底とした指数関数により表し、前記ため池が満水であるときの総貯水量に基づいて、前記池底の形状を表すパラメータの値を同定する。
【0011】
本発明の一態様に係る情報処理方法は、ため池の水位に対応する貯水量を推定する情報処理装置の情報処理方法であって、前記ため池の堤頂長に対応する幅、水位に応じて定まる奥行、および、奥行に応じて変化する深さを有し、四平面一曲面で構成される立体状の仮想ため池であって、奥行方向の一端における深さが最大であり、他端における深さが0となる池底を有する仮想ため池において、z軸方向を前記仮想ため池の水位および池底の高さ、y軸方向を前記仮想ため池の幅、x軸方向を前記仮想ため池の奥行とした場合、前記仮想ため池のx-y断面およびy-z断面はどの断面においても長方形または正方形であり、前記仮想ため池のx-z断面の形状はどの断面においても同じ面積、同じ形状であり、前記仮想ため池のx-z断面はx軸方向に延びる2辺のうち、1辺が曲線であり、前記曲線によって仮想ため池の池底が形成され、前記ため池の水位を前記一端における深さとして前記仮想ため池の体積を求めることで、前記水位に対応する前記ため池の貯水量を算出するステップを含み、前記仮想ため池の体積を求める際に、前記一端からの奥行方向の距離に対応する前記池底の高さを、指数部に前記池底の形状を表すパラメータを含む指数関数であって、ネイピア数を底とした指数関数により表し、前記ため池が満水であるときの総貯水量に基づいて、前記池底の形状を表すパラメータの値が同定される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、簡単な計算により、ため池の水位と貯水量との関係を比較的高い精度で推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係るため池情報推定装置の機能的構成例を示すブロック図である。
図2】仮想ため池の斜視図である。
図3図2に示した仮想ため池をy軸方向から見た断面図である。
図4】仮想ため池の池底の形状を説明する図である。
図5】H-V曲線推定処理の流れの一例を説明するフローチャートである。
図6】堤体とその近辺の地形断面図の一例を示す図である。
図7】堤頂の長手方向中央を中心とした堤体の断面図の一例を示す図である。
図8】J池およびK池に係る水位と池水面積との関係を示すグラフである。
図9】L池およびM池に係る水位と池水面積との関係を示すグラフである。
図10】N池およびO池に係る水位と池水面積との関係を示すグラフである。
図11】P池およびQ池に係る水位と池水面積との関係を示すグラフである。
図12】R池に係る水位と池水面積との関係を示すグラフである。
図13】プログラムの命令を実行するコンピュータの構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
〔実施形態1〕
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。
【0015】
(ため池情報推定装置の機能的構成)
図1は、本実施形態に係るため池情報推定装置の機能的構成例を示すブロック図である。同図に示されるため池情報推定装置21は、入力部31、演算実行部32、出力部33、および、通信部34を備えている。
【0016】
入力部31は、例えば、ユーザの操作等を介して入力された情報を演算実行部に供給する。演算実行部32は、入力部31から入力された情報、および/または、通信部34を介して取得された情報に基づいてため池のため池の水位と容量の関係を示す「水位-容量曲線」を推定するための演算を実行する。なお、水位-容量曲線は、H-V曲線とも称される。
【0017】
出力部33は、演算実行部32により実行された演算による推定結果を、例えば、ディスプレイなどに出力する。通信部34は、例えば、インターネットなどのネットワーク50にアクセスし、ネットワーク50に接続された他の装置との通信を行う。
【0018】
ネットワーク50には、ため池防災支援システムに係るソフトウェアを実装したサーバ71が接続されており、ため池情報推定装置21は、通信部34を介して、ため池防災支援システムによって提供される情報を取得することができる。ため池防災支援システムは、全国のため池のそれぞれに係る情報を提供するためのシステムである。ため池防災支援システムによって提供される情報には、例えば、各ため池の堤高、堤頂長、常時満水位から堤頂までの高さ、満水面積、総貯水量、堤体の天端幅並びに上流法面勾配および下流法面勾配などが含まれる。
【0019】
ここで、堤高は、ため池をせき止める堤体の高さであって、基礎地盤面から堤体の頂上部分(堤頂)までの高さを示し、堤頂長は、当該堤体の堤頂の長さを示す。常時満水位は、(災害時ではなく)平常時において満水となったときのため池の水位を示し、満水面積は、そのときのため池の水面の面積、総貯水量は、そのときのため池の貯水量を示す。
【0020】
なお、以下においては、必要に応じて、ため池防災支援システムを、「ため池システム」と称することにする。また、以下においては、必要に応じて、常時満水位を、単に満水位と称することにする。
【0021】
(演算実行部によるH-V曲線の推定)
次に、演算実行部32によるH-V曲線の推定について説明する。演算実行部32は、ため池の堤頂長に対応する幅、水位に応じて定まる奥行、および、奥行に応じて変化する深さを有し、四平面一曲面で構成される立体状の仮想ため池であって、奥行方向の一端における深さが最大であり、他端における深さが0となる池底を有する仮想ため池において、ため池の水位を一端における深さとして仮想ため池の体積を求めることで、水位に対応するため池の貯水量を算出する。
【0022】
図2は、仮想ため池の斜視図である。同図は、x、y、z軸の3次元で示されており、z軸方向は仮想ため池の水位(または高さ)に対応し、y軸方向は仮想ため池の幅に対応し、x軸方向は仮想ため池の奥行に対応する。なお、原点通るy-z面において仮想ため池(ため池の水)が、図示せぬ堤体と接するものとする。
【0023】
x-y平面である仮想ため池の水面は長方形(正方形であってもよい)であり、仮想ため池が堤体と接するy-z平面もやはり長方形(正方形であってもよい)である。また、仮想ため池のx-y断面はどの断面においても長方形(または正方形)であり、y-z断面もやはりどの断面においても長方形(または正方形)である。一方、仮想ため池のx-z断面はx軸方向に延びる2辺のうち、図中下側の1辺が曲線であり、当該曲線(仮想ため池池底曲線)によって仮想ため池の池底が形成される。すなわち、仮想ため池のx-z断面の形状はどの断面においても同じ面積、同じ形状となる。
【0024】
このように、仮想ため池は4つの平面と1つの曲面によって構成される立体である。
【0025】
図3は、図2に示した仮想ため池をy軸方向から見た断面図である。同図に示されるように、仮想ため池は、原点において堤体と接しており、仮想ため池池底曲線によって仮想ため池の底面が形成されている。
【0026】
仮想ため池の底面は、x軸方向(奥行方向)の位置に応じてz軸方向の位置(高さ)が変化する。この例では、奥行方向の原点側の端部において底面の位置が最も低い位置となり、仮想ため池の深さは最大となる。そして、奥行方向の他方の端部において底面の位置が最も高い位置となり、仮想ため池の深さは0になる。
【0027】
図2に示されるように、仮想ため池は、底面を直角三角形とした三角柱を、当該直角三角形において直角をはさむ2辺を鉛直方向および水平方向に配置し、かつ、当該直角三角形の斜辺を曲線とした形状の立体である。
【0028】
このような仮想ため池においては、水位が低くなると、水面の位置がz軸方向でより低い位置に移動し、仮想ため池の奥行が短くなる。
【0029】
演算実行部32は、仮想ため池の池幅を堤頂長とし、満水面積を池幅で除することで、満水位に対応する仮想ため池の奥行を算出し、堤高、ため池の常時満水位から堤体の堤頂までの高さ、および、満水位に対応する仮想ため池の奥行を用いて指数部に池底の形状を表すパラメータを含む指数関数を生成する。
【0030】
ここで、演算実行部32は、ため池システムから取得した堤頂長を仮想ため池の池幅Wとし、ため池システムから取得した満水面積を池幅Wで除することにより、満水位における仮想ため池の奥行Lを算出する。なお、ここでは、堤頂長をそのまま仮想ため池の池幅Wとする例を説明したが、例えば、予め定められた演算などに基づいて仮想ため池の池幅Wが定まるようにしてもよい。
【0031】
また、演算実行部32は、ため池システムから取得した堤高Hから、同じくため池システムから取得した満水位から堤頂までの高さHを減じることによって、満水位を求める。なお、満水位(Hd-H)は、図2に示される仮想ため池高でもある。
【0032】
そして、演算実行部32は、仮想ため池の池底の形状を特定する。ここで、仮想ため池の池底高さは式(1)により表すことができる。式(1)は、仮想ため池池底曲線とも称される。
【数1】
・・・(1)
式(1)におけるzは池底の高さ(z軸方向の位置)を示し、xは奥行方向での原点からの距離を示し、λは仮想ため池の池底の形状を表すパラメータである。このように、一端(この例では原点)からの奥行方向の距離に対応する池底の高さを、指数部に池底の形状を表すパラメータを含む指数関数であって、ネイピア数を底とした指数関数により、仮想ため池の池底を表すことができる。
【0033】
図4は、仮想ため池の池底の形状を説明する図である。同図は、図2に示した仮想ため池をy軸方向から見た断面図であり、図中に4通りの仮想ため池池底曲線C1~C4が描かれている。
【0034】
図4の曲線C1は、堤体から近い位置において、池底が急激に高くなる形状に対応する仮想ため池池底曲線である。図4の曲線C2は、曲線C1の場合と比較して池底が緩やかに高くなる形状に対応する仮想ため池池底曲線である。なお、図4の曲線C1および曲線C2は、原点から図中右上方向に向かって伸びる仮想ため池の池底が水面側に反っている場合の池底の形状に対応する。
【0035】
一方、図4の曲線C3および曲線C4は、原点から図中右上方向に向かって伸びる仮想ため池の池底が水面と反対側に反っている場合の池底の形状に対応する。図4の曲線C4は、堤体から遠い位置において、池底が急激に高くなる形状に対応する仮想ため池池底曲線である。図4の曲線C3は、曲線C4の場合と比較して池底が緩やかに高くなる形状に対応する仮想ため池池底曲線である。
【0036】
これらの曲線C1~C4のそれぞれに対応してパラメータλの値が1つずつ定まることになる。曲線C1または曲線C2の場合、パラメータλの値は負になり(λ<0)、曲線C3または曲線C4の場合、パラメータλの値は正になる(λ>0)。また、曲線C2の場合より、曲線C1の場合の方がパラメータλの絶対値は大きくなり、曲線C3の場合より、曲線C4の場合の方がパラメータλの絶対値は大きくなる。
【0037】
なお、ここでは、4通りの曲線を示して説明したが、実際には無限の曲線があり得る。
【0038】
演算実行部32は、満水位(H-H)と、ため池システムから取得した総貯水量とを用いてパラメータλの値を同定する。
【0039】
すなわち、演算実行部32は、式(1)の指数関数を積分することで、満水位に対応する仮想ため池の体積を求める式である満水位体積算出式(後述の式(2))を生成し、満水位体積算出式に含まれる池底の形状を表すパラメータの値を変更し、総貯水量を近似する仮想ため池の体積に係る池底の形状を表すパラメータの値を同定する。
【0040】
このとき、演算実行部32は、式(2)のパラメータλの値を変更しながら、Vmaxの値を算出し、ため池システムから取得した総貯水量を近似するVmaxの値が得られたときのパラメータλの値を、当該ため池に対応する仮想ため池の池底の形状を表すパラメータとして同定する。
【数2】
・・・(2)
パラメータλが同定されることにより、仮想ため池の池底の形状が特定され、仮想ため池池底曲線の形状も定まることになる。
【0041】
このようにして、パラメータλの値が求められた後、式(3)および式(4)の演算により、水位Hのときのため池の貯水量を推定することが可能となる。
【数3】
・・・(3)
【数4】
・・・(4)
式(3)のxは、水位Hのときの仮想ため池の奥行(長さ)を示す。式(4)のVは、水位Hのときの仮想ため池の体積を示し、当該体積によってため池の貯水量が示されることになる。式(4)により、水位Hと貯水量Vとの関係が特定されることになるので、式(4)は、当該ため池のH-V曲線として用いることができる。
【0042】
なお、式(5)により、水位Hのときの当該ため池の池水面積を求めることもできる。
【数5】
・・・(5)
式(5)のAは、水位Hのときのため池の池水面積を示す。式(5)により、水位Hと池水面積Aとの関係が特定されることになるので、式(5)は、H-A曲線とも称される。
【0043】
このようにして、ため池情報推定装置21の演算実行部32は、ため池のH-V曲線、および/または、H-A曲線を推定する。ため池情報推定装置21は、ため池システムに情報が記憶されているため池のそれぞれについて、当該ため池のH-V曲線、および/または、H-A曲線を推定することができる。
【0044】
(H-V曲線推定処理)
次に、ため池情報推定装置21によるH-V曲線推定処理について説明する。図5は、H-V曲線推定処理の流れの一例を説明するフローチャートである。
【0045】
ステップS21において、ため池情報推定装置21は、H-V曲線を推定すべきため池を特定する。このとき、例えば、入力部31を介してH-V曲線を推定すべきため池の識別番号などが入力されることにより、ため池が特定される。
【0046】
ステップS22において、ため池情報推定装置21は、ため池に係る情報を取得する。このとき、例えば、ため池情報推定装置21は、通信部34を介して、ため池システムによって提供される情報を取得する。すなわち、通信部34が、インターネットなどのネットワーク50にアクセスし、ネットワーク50に接続された他の装置との通信を行うことにより、ため池システムによって提供される情報が取得される。
【0047】
ステップS23において、ため池情報推定装置21は図2に示される、仮想ため池幅、仮想ため池高、および、常時満水位における仮想ため池奥行を算出する。
【0048】
このとき、演算実行部32は、例えば、ため池システムから取得した堤頂長を仮想ため池幅Wとする。あるいは、予め定められた演算などに基づいて仮想ため池幅Wが定まるようにしてもよい。また、このとき、演算実行部32は、ため池システムから取得した堤高Hから、同じくため池システムから取得した常時満水位から堤頂までの高さHを減じることによって、常時満水位(または仮想ため池高)を求める。さらに、このとき、演算実行部32は、ため池システムから取得した満水面積を池幅Wで除することにより、満水位における仮想ため池の奥行Lを算出する。
【0049】
ステップS24において、ため池情報推定装置21は、パラメータλの値を同定する。
【0050】
このとき、演算実行部32は、例えば、ステップS23で算出された満水位(H-H)と満水位における仮想ため池奥行Lとを用いて式(1)を生成する。そして、演算実行部32は、式(1)とステップS23で算出された池幅Wを用いて式(2)を生成し、ため池システムから取得した総貯水量によりパラメータλの値を同定する。この場合、上述したように、演算実行部32は、式(2)のパラメータλの値を変更しながら、Vmaxの値を算出し、ため池システムから取得した総貯水量を近似するVmaxの値が得られたときのパラメータλの値を、当該ため池に対応する仮想ため池の池底の形状を表すパラメータとして同定する。
【0051】
ステップS25において、ため池情報推定装置21は、H-V曲線を推定する。このとき、上述したように、演算実行部32は、ステップS24の処理で同定されたパラメータλを用いて式(3)の演算を実行する。そして、演算実行部32は、式(3)の演算の結果算出された、水位Hのときの仮想ため池の奥行xを用いて式(4)の演算を実行することにより、H-V曲線を推定する。
【0052】
このようにして、所望のため池に係るH-V曲線が推定される。なお、H-V曲線とともに、または、H-V曲線に代えてH-A曲線が推定されるようにしてもよい。
【0053】
(実施形態1の効果)
上述したように、本実施形態に係るため池情報推定装置21は、所望のため池に係るH-V曲線を推定することができる。本実施形態では、現場での測量、空中写真の撮影などは必要なく、多数のため池を対象としてため池に係るH-V曲線を推定することが可能となる。すなわち、簡単な計算により、ため池の水位と貯水量との関係を比較的高い精度で推定することができ、その結果、所望のため池の水量(貯水量)を簡単に把握することができる。
【0054】
〔実施形態2〕
次に、本発明の別の実施形態について、詳細に説明する。上述した実施形態では、ため池システムから取得されたため池に係る情報(例えば、満水面積、堤高など)のみを用いてH-V曲線が推定される例について説明した。しかし、ため池システムから取得されたため池に係る情報を、他の情報を用いて修正し、修正された情報を用いてH-V曲線が推定されるようにしてもよい。
【0055】
以下に、ため池システムから取得されたため池に係る情報の修正方式の例を説明する。
【0056】
(修正方式1)
修正方式1では、ため池システムから取得された満水面積の値が修正される。なお、修正された満水面積を、適宜、修正満水面積と称することにする。
【0057】
例えば、H-V曲線の推定の対象となるため池について、全国農業用ため池マップの「標準地図」に掲載されている該当ため池の水際をトレースすることで池水面積(第1の池水面積と称することにする)を算出する。また、H-V曲線の推定の対象となるため池について、全国農業用ため池マップの「写真」に掲載されている該当ため池の水際をトレースし、ため池の池水面積(第2の池水面積と称することにする)を算出する。第1の池水面積および第2の池水面積の算出に係る処理は、ため池情報推定装置21によって実行されるようにしてもよいし、他の装置によって実行されるようにしてもよい。
【0058】
そして、第1の池水面積と第2の池水面積のうち、値の大きい方を特定し、特定された値が満水面積の値となるように修正が行われる。修正に係る処理は、ため池情報推定装置21によって実行されるようにしてもよいし、他の装置によって実行されるようにしてもよい。
【0059】
このように、地図により求めたため池の池水面積と、写真により求めたため池の池水面積とをさらに取得し、地図により求めたため池の池水面積と、写真により求めたため池の池水面積とのうち、大きい方の池水面積である修正満水面積を池幅で除することで、満水位に対応する仮想ため池の奥行が算出されるようにしてもよい。
【0060】
修正方式1によって、ため池システムから取得された満水面積の値が修正されることで、より正確なH-V曲線の推定が可能となる。
【0061】
(修正方式2)
修正方式2では、ため池システムから取得された満水面積の値が修正されるとともに、ため池システムから取得された総貯水量の値が修正される。なお、修正された総貯水量を、適宜、修正総貯水量と称することにする。
【0062】
例えば、H-V曲線の推定の対象となるため池について、上述の修正方式1によって得られた修正満水面積AFiを、ため池システムから取得された満水面積Aで除した商に対してため池システムから取得された総貯水量Vmaxを乗じる。すなわち、式(6)により表される演算により得られた値Vmax_iが総貯水量の値となるように修正が行われる。
【数6】
・・・(6)
修正に係る処理は、ため池情報推定装置21によって実行されるようにしてもよいし、他の装置によって実行されるようにしてもよい。
【0063】
このように、修正満水面積を、外部の装置から取得した満水面積で除した値に、外部の装置から取得した総貯水量を乗じた値である修正総貯水量を算出し、修正総貯水量を近似する仮想ため池の体積に係る池底の形状を表すパラメータの値を同定するようにしてもよい。
【0064】
修正方式2によって、ため池システムから取得された満水面積の値と、ため池システムから取得された総貯水量の値とが修正されることで、さらに正確なH-V曲線の推定が可能となる。
【0065】
(修正方式3)
修正方式3では、ため池システムから取得された満水面積の値が修正されるとともに、ため池システムから取得された堤高の値が修正され、さらにため池システムから取得された総貯水量の値が修正される。なお、修正された堤高を、適宜、修正堤高と称することにする。
【0066】
ため池システムから取得された満水面積の値の修正については、修正方式1において説明した通りである。これにより、修正された満水面積である修正満水面積が得られる。
【0067】
ため池システムから取得された堤高の値の修正については、次のような修正が行われる。例えば、H-V曲線の推定の対象となるため池について、全国農業用ため池マップのツール「断面図」を利用して堤体とその近辺の地形断面図が取得される。
【0068】
図6は、堤体とその近辺の地形断面図の一例を示す図である。図6では、横軸が距離であり、縦軸が標高である地形断面図であり、堤頂の長手方向中央を中心とし堤体とその近辺の地形断面図が示されている。
【0069】
また、図6では、断面図が3つ領域(領域111、領域112、および、領域113)に分かれている。領域111~領域113には、それぞれ当該領域の標高の標高点格子間隔および基となる測量法を示す記号DEM5A、DEM10B、および、DEM5Aが付されている。記号DEM5Aは、当該領域の標高の精度が比較的高いことを表しており、記号DEM10Bは、当該領域の標高の精度が比較的低いことを表している。図6において、標高の精度が比較的低いことを表す記号DEM10Bが付された領域112に接する2つの領域(領域111および領域113)には、標高の精度が比較的高いことを表す記号DEM5Aが付されている。この2つの領域のうち、領域111の標高は、領域113の標高より高い。
【0070】
地形断面図において、通常、ため池に対応する領域の標高の精度は比較的低くなり、図6の例では、領域112がため池に対応する領域であることが分かる。なお、図6において、領域112の標高は、領域111および領域113より高く表示されているが、これは、領域112の標高の精度が低いためと考えられる。領域112の標高は、実際には、領域111の標高より低いと考えられる。
【0071】
また、傾斜地にある堤体はため池の最も深い位置に設置されるので、図6の場合、堤体は、領域112と領域113との間に存在することになる。すなわち、領域112に接する2つの領域のうち、標高の低い方の領域である領域113と領域112との境界付近に堤体が存在する。
【0072】
なお、図6において、矢印121で示される位置(距離40m付近)が、堤体の下流側が地山と接する地点となり、地山の勾配が0の場合、図2の仮想ため池の原点に対応する標高となる。また、図6において、矢印122で示される位置(距離20m付近)がため池の深さが0になる地点である。
【0073】
また、上述したように、ため池システムから取得される情報には、堤体の天端幅並びに上流法面勾配および下流法面勾配が含まれる。天端幅は、堤頂長と直交する方向の堤頂の長さであり、例えば、図2および図3において、堤頂のy軸方向の長さが堤頂長であるとするとき、堤頂のx軸方向の長さが天端幅となる。上流法面勾配は、堤体のため池側の側面の勾配を表し、下流法面勾配は、堤体のため池と反対側の側面の勾配を表す。
【0074】
図7は、堤頂の長手方向中央を中心とした堤体141の断面図の一例を示す図である。堤高、天端幅、上流法面勾配、および下流法面勾配を用いることで、図7に示されるような台形状の堤体の断面図を得ることができる。同図において、堤体141の図中左側がため池であり、側面141aはため池の水と接する。一方、堤体141の図中右側にはため池がないので側面141bはため池の水とは接していない。
【0075】
なお、堤体141のため池側(図中左側)は上流とも称され、ため池と反対側(図中右側)は下流側とも称される。このため、側面141aは堤体141の上流法面と称され、側面141bは堤体141の下流法面と称される。
【0076】
堤高の値を修正する場合、図6の矢印122で示される地点と、矢印121で示される地点とを結ぶ線分の勾配が算出される。そして、算出された勾配の線分が図7の断面図に重畳される。図7には側面141bの下端を通り、図6の矢印122で示される地点と、矢印121で示される地点とを結ぶ線分と同じ勾配の線分151が示されている。この線分151と側面141aとの交点の標高を、池底の標高とし、修正された堤高である修正堤高Hdiが算出される。
【0077】
すなわち、地形断面図において、標高の精度が比較的低いことを表す記号DEM10Bが付された領域112と、領域112に接し、標高の精度が比較的高いことを表す記号DEM5Aが付された領域111および領域113とが特定される。そして、領域111および領域113のそれぞれにおいて、領域112との接点(矢印122で示される地点、および、矢印121で示される地点)が特定され、それらの接点を結ぶ線分151が特定される。
【0078】
修正に係る処理は、ため池情報推定装置21によって実行されるようにしてもよいし、他の装置によって実行されるようにしてもよい。
【0079】
このように、堤体の天端幅、上流法面勾配および下流法面勾配を示す情報をさらに取得し、堤高、天端幅、上流法面勾配および下流法面勾配を用いて、堤体の断面を特定し、ため池および堤体を含む地形断面図において、標高の精度が比較的低い第1の領域に接する2つの領域であって、前記第1の領域より標高の精度が高い第2の領域および第3の領域を特定し、第2の領域および第3の領域における第1の領域との接点の標高を結ぶ線分の勾配を地山勾配とし、堤体の断面に地山勾配を適用することで得られる堤高である修正堤高を算出するようにしてもよい。
【0080】
ため池システムから取得された総貯水量の値の修正については、修正満水面積と修正堤高とを用い、ため池システムから取得された総貯水量の値が修正される。すなわち、修正満水面積AFiを、ため池システムから取得された満水面積Aで除した商に、修正堤高Hdiをため池システムから取得された堤高Hで除した商を乗じて得られた積に対して、ため池システムから取得された総貯水量Vmaxを乗じる。
【0081】
つまり、修正方式2によって得られた第1の修正総貯水量に対して、修正堤高Hdiをため池システムから取得された堤高Hで除した商を乗じることで第2の修正総貯水量が算出される。すなわち、式(7)の演算により得られた値Vmax_iが総貯水量の値となるように修正が行われる。
【数7】
・・・(7)
修正に係る処理は、ため池情報推定装置21によって実行されるようにしてもよいし、他の装置によって実行されるようにしてもよい。このようにして修正された総貯水量を用いて池底の形状を表すパラメータの値を同定するようにしてもよい。
【0082】
修正方式3によって、ため池システムから取得された満水面積の値と、ため池システムから取得された堤高の値と、ため池システムから取得された総貯水量の値とが修正されることで、さらに正確なH-V曲線の推定が可能となる。
【0083】
(実施形態2の効果)
上述したように、ため池システムから取得された情報を適宜修正することで、所望のため池について、より正確なH-V曲線を推定することができる。すなわち、簡単な計算により、ため池の水位と貯水量との関係を比較的高い精度で推定することができ、その結果、所望のため池の水量(貯水量)を精度よく簡単に把握することができる。
【0084】
(他の方式との比較)
次に、本発明に係るため池情報推定装置21による推定結果と、他の方式による推定結果とを比較する。
【0085】
図8図12は、本発明に係るため池情報推定装置21によるH-A曲線の推定結果と、従来の方式によるH-A曲線の推定結果との比較を示す図である。従来の方式として非特許文献1に開示された技術および非特許文献2に開示された技術を用いたH-A曲線の推定結果を示す。なお、本発明に係るため池情報推定装置21によるH-A曲線の推定では、実施形態2における修正方式3に従って、ため池システムから取得された満水面積の値と、ため池システムから取得された堤高の値と、ため池システムから取得された総貯水量の値とが修正される。
【0086】
図8は、それぞれ横軸が池水面積であり、縦軸が水位であり、J池およびK池に係る水位と池水面積との関係を示すグラフが示されている。また、図9には、同様にL池およびM池に係る水位と池水面積との関係を示すグラフが示されている。さらに、図10には、N池およびO池に係る水位と池水面積との関係を示すグラフが示されている。また、図11には、P池およびQ池に係る水位と池水面積との関係を示すグラフが示されている。さらに、図12には、R池に係る水位と池水面積との関係を示すグラフが示されている。なお、J池~R池のそれぞれは、別個のため池であり、ここでは、9つのため池に係る水位と池水面積との関係を示すグラフが示されている。
【0087】
図8図12のグラフにおいて、本発明に係るため池情報推定装置21による推定結果は「本手法」として示され、非特許文献1に開示された技術を用いた推定結果は「田中丸の方法」として示され、非特許文献2に開示された技術を用いた推定結果は「吉迫の方法」として示されている。なお、図8図12において、実際に各ため池の水位と池水面積とを測定した結果は、図中における黒い円(「調査」)でプロットされて示されている。
【0088】
図8図12に示されるように、「本手法」として示された推定結果は、「田中丸の方法」または「吉迫の方法」として示された推定結果と比較して、より正確に「調査」を近似していることが分かる。すなわち、本発明に係るため池情報推定装置21によるH-A曲線の推定結果は、従来の方式によるH-A曲線の推定結果より精度が高いことが分かる。
【0089】
(ソフトウェアによる実現例)
ため池情報推定装置21の機能は、当該装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、当該装置の各ブロックとしてコンピュータを機能させるためのプログラムにより実現することができる。
【0090】
図13は、ため池情報推定装置21として用いられるコンピュータ500の物理的構成を例示したブロック図である。図13に示すように、コンピュータ500は、バス510と、プロセッサ501と、主メモリ502と、補助メモリ503と、通信インタフェース504と、入出力インタフェース505とを備えたコンピュータによって構成可能である。プロセッサ501、主メモリ502、補助メモリ503、通信インタフェース504、及び入出力インタフェース505は、バス510を介して互いに接続されている。入出力インタフェース505には、入力装置506および出力装置507が接続されている。
【0091】
プロセッサ501としては、例えば、CPU(Central Processing Unit)、マイクロプロセッサ、デジタルシグナルプロセッサ、マイクロコントローラ、またはこれらの組み合わせ等が用いられる。
【0092】
主メモリ502としては、例えば、半導体RAM(random access memory)等が用いられる。
【0093】
補助メモリ503としては、例えば、フラッシュメモリ、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、またはこれらの組み合わせ等が用いられる。補助メモリ503には、H-V曲線推定処理をプロセッサ501に実行させるためのプログラムが格納されている。プロセッサ501は、補助メモリ503に格納されたプログラムを主メモリ502上に展開し、展開したプログラムに含まれる各命令を実行する。
【0094】
上記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ500が読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、コンピュータ500が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、上記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介してコンピュータ500に供給されてもよい。
【0095】
通信インタフェース504は、ネットワーク50に接続するインタフェースである。
【0096】
入出力インタフェース505としては、例えば、USBインタフェース、赤外線やBluetooth(登録商標)等の近距離通信インタフェース、またはこれらの組み合わせが用いられる。
【0097】
入力装置506としては、例えば、キーボード、マウス、タッチパッド、マイク、又はこれらの組み合わせ等が用いられる。出力装置507としては、例えば、ディスプレイ、プリンタ、スピーカ、又はこれらの組み合わせが用いられる。
【0098】
〔まとめ〕
本発明の態様1に係る情報処理装置は、ため池の水位に対応する貯水量を推定する情報処理装置であって、前記ため池の堤頂長に対応する幅、水位に応じて定まる奥行、および、奥行に応じて変化する深さを有し、四平面一曲面で構成される立体状の仮想ため池であって、奥行方向の一端における深さが最大であり、他端における深さが0となる池底を有する仮想ため池において、z軸方向を前記仮想ため池の水位および池底の高さ、y軸方向を前記仮想ため池の幅、x軸方向を前記仮想ため池の奥行とした場合、前記仮想ため池のx-y断面およびy-z断面はどの断面においても長方形または正方形であり、前記仮想ため池のx-z断面の形状はどの断面においても同じ面積、同じ形状であり、前記仮想ため池のx-z断面はx軸方向に延びる2辺のうち、1辺が曲線であり、前記曲線によって仮想ため池の池底が形成され、前記ため池の水位を前記一端における深さとして前記仮想ため池の体積を求めることで、前記水位に対応する前記ため池の貯水量を算出する演算実行部を備え、前記演算実行部は、前記仮想ため池の体積を求める際に、前記一端からの奥行方向の距離に対応する前記池底の高さを、指数部に前記池底の形状を表すパラメータを含む指数関数であって、ネイピア数を底とした指数関数により表し、前記ため池が満水であるときの総貯水量に基づいて、前記池底の形状を表すパラメータの値を同定する。
【0099】
本発明の態様2に係る情報処理装置は、上記の態様1において、ネットワークを介して接続される外部の装置から、前記ため池に係る情報を取得し、前記ため池に係る情報には、ため池をせき止める堤体の高さを示す堤高、前記堤体の堤頂の長さを示す堤頂長、前記ため池の満水位から前記堤体の堤頂までの高さ、満水面積、および、満水であるときの貯水量を示す総貯水量が含まれ、前記演算実行部は、前記仮想ため池の池幅を前記堤頂長とし、前記満水面積を前記池幅で除することで、満水位に対応する前記仮想ため池の奥行を算出し、前記堤高、前記ため池の満水位から前記堤体の堤頂までの高さ、および、前記満水位に対応する前記仮想ため池の奥行を用いて前記指数関数を生成する。
【0100】
本発明の態様3に係る情報処理装置は、上記の態様2において、前記演算実行部は、前記指数関数を積分することで、満水位に対応する前記仮想ため池の体積を求める式である満水位体積算出式を生成し、前記満水位体積算出式に含まれる前記池底の形状を表すパラメータの値を変更し、前記総貯水量を近似する前記仮想ため池の体積に係る前記池底の形状を表すパラメータの値を同定する。
【0101】
本発明の態様4に係る情報処理装置は、上記の態様3において、前記演算実行部は、さらに前記パラメータの値に基づいて、前記ため池の水位と貯水量との関係を示すH-V曲線、または、前記ため池の水位と池水面積との関係を示すH-A曲線を算出する。
【0102】
本発明の態様5に係る情報処理装置は、上記の態様3において、地図により求めた前記ため池の池水面積と、写真により求めた前記ため池の池水面積とをさらに取得し、前記演算実行部は、地図により求めた前記ため池の池水面積と、写真により求めた前記ため池の池水面積とのうち、大きい方の池水面積である修正満水面積を前記池幅で除することで、満水位に対応する前記仮想ため池の奥行を算出する。
【0103】
本発明の態様6に係る情報処理装置は、上記の態様5において、前記演算実行部は、前記修正満水面積を、前記外部の装置から取得した満水面積で除した値に、前記総貯水量を乗じた値である第1の修正総貯水量を算出し、前記修正総貯水量を近似する前記仮想ため池の体積に係る前記池底の形状を表すパラメータの値を同定する。
【0104】
本発明の態様7に係る情報処理装置は、上記の態様5または態様6において、前記堤体の天端幅、上流法面勾配および下流法面勾配を示す情報をさらに取得し、前記堤高、前記天端幅、前記上流法面勾配および前記下流法面勾配を用いて、前記堤体の断面を特定し、前記ため池および前記堤体を含む地形断面図において、標高の精度が比較的低い第1の領域に接する2つの領域であって、前記第1の領域より標高の精度が高い第2の領域および第3の領域を特定し、前記第2の領域および前記第3の領域における前記第1の領域との接点の標高を結ぶ線分の勾配を地山勾配とし、前記堤体の断面に前記地山勾配を適用することで得られる堤高である修正堤高を算出する。
【0105】
本発明の態様8に係る情報処理装置は、上記の態様7において、前記演算実行部は、前記修正堤高を、前記外部の装置から取得した堤高で除した値に、前記第1の修正総貯水量を乗じた値である第2の修正総貯水量を算出し、前記第2の修正総貯水量を近似する前記仮想ため池の体積に係る前記池底の形状を表すパラメータの値を同定する。
【0106】
本発明の態様9に係る情報処理方法は、ため池の水位に対応する貯水量を推定する情報処理装置の情報処理方法であって、前記ため池の堤頂長に対応する幅、水位に応じて定まる奥行、および、奥行に応じて変化する深さを有し、四平面一曲面で構成される立体状の仮想ため池であって、奥行方向の一端における深さが最大であり、他端における深さが0となる池底を有する仮想ため池において、z軸方向を前記仮想ため池の水位および池底の高さ、y軸方向を前記仮想ため池の幅、x軸方向を前記仮想ため池の奥行とした場合、前記仮想ため池のx-y断面およびy-z断面はどの断面においても長方形または正方形であり、前記仮想ため池のx-z断面の形状はどの断面においても同じ面積、同じ形状であり、前記仮想ため池のx-z断面はx軸方向に延びる2辺のうち、1辺が曲線であり、前記曲線によって仮想ため池の池底が形成され、前記ため池の水位を前記一端における深さとして前記仮想ため池の体積を求めることで、前記水位に対応する前記ため池の貯水量を算出するステップを含み、前記仮想ため池の体積を求める際に、前記一端からの奥行方向の距離に対応する前記池底の高さを、指数部に前記池底の形状を表すパラメータを含む指数関数であって、ネイピア数を底とした指数関数により表し、前記ため池が満水であるときの総貯水量に基づいて、前記池底の形状を表すパラメータの値が同定される。
【0107】
本発明の態様10に係るプログラムは、コンピュータを、ため池の水位に対応する貯水量を推定する情報処理装置であって、前記ため池の堤頂長に対応する幅、水位に応じて定まる奥行、および、奥行に応じて変化する深さを有し、四平面一曲面で構成される立体状の仮想ため池であって、奥行方向の一端における深さが最大であり、他端における深さが0となる池底を有する仮想ため池において、z軸方向を前記仮想ため池の水位および池底の高さ、y軸方向を前記仮想ため池の幅、x軸方向を前記仮想ため池の奥行とした場合、前記仮想ため池のx-y断面およびy-z断面はどの断面においても長方形または正方形であり、前記仮想ため池のx-z断面の形状はどの断面においても同じ面積、同じ形状であり、前記仮想ため池のx-z断面はx軸方向に延びる2辺のうち、1辺が曲線であり、前記曲線によって仮想ため池の池底が形成され、前記ため池の水位を前記一端における深さとして前記仮想ため池の体積を求めることで、前記水位に対応する前記ため池の貯水量を算出する演算実行部を備え、前記演算実行部は、前記仮想ため池の体積を求める際に、前記一端からの奥行方向の距離に対応する前記池底の高さを、指数部に前記池底の形状を表すパラメータを含む指数関数であって、ネイピア数を底とした指数関数により表し、前記ため池が満水であるときの総貯水量に基づいて、前記池底の形状を表すパラメータの値を同定する情報処理装置として機能させる。
【符号の説明】
【0108】
21 ため池情報推定装置
31 入力部
32 演算実行部
33 出力部
34 通信部
50 ネットワーク
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