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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025152082
(43)【公開日】2025-10-09
(54)【発明の名称】有価金属の回収方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 3/04 20060101AFI20251002BHJP
   C22B 3/24 20060101ALI20251002BHJP
   C22B 3/22 20060101ALN20251002BHJP
【FI】
C22B3/04
C22B3/24
C22B3/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024053815
(22)【出願日】2024-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112335
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英介
(74)【代理人】
【識別番号】100101144
【弁理士】
【氏名又は名称】神田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100101694
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 明茂
(74)【代理人】
【識別番号】100124774
【弁理士】
【氏名又は名称】馬場 信幸
(72)【発明者】
【氏名】七條 保治
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA01
4K001AA03
4K001AA04
4K001AA05
4K001AA07
4K001AA08
4K001AA12
4K001AA13
4K001AA15
4K001AA16
4K001AA17
4K001AA18
4K001AA19
4K001AA21
4K001AA22
4K001AA25
4K001AA26
4K001AA27
4K001AA28
4K001AA29
4K001AA31
4K001AA34
4K001AA36
4K001AA37
4K001AA39
4K001AA40
4K001AA41
4K001AA42
4K001BA24
4K001DB07
4K001DB16
4K001DB35
(57)【要約】
【課題】バイオマスから有価金属を経済的に有利に回収する方法を提供すること。
【解決手段】海藻類に含有される有価金属の回収方法であって、
海藻類と水を混合して水熱処理を行なった後、処理生成物から固形物および重質油分含有液状物を分離して排水を取得する水熱処理工程、及び、
前記排水を金属捕集材に接触させて、排水に含有される有価金属を金属捕集材に捕集する捕集工程を含み、
捕集工程に使用する金属捕集材が、鉄粒子と固体炭素質とを含有し、前記鉄粒子と前記固体炭素質とが結着して一体化されている焼結体であることを特徴とする有価金属の回収方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
海藻類に含有される有価金属の回収方法であって、
海藻類と水を混合して水熱処理を行なった後、処理生成物から固形物および重質油分含有液状物を分離して排水を取得する水熱処理工程、及び、
前記排水を金属捕集材に接触させて、排水に含有される有価金属を金属捕集材に捕集する捕集工程を含み、
捕集工程に使用する金属捕集材が、鉄粒子と固体炭素質とを含有し、前記鉄粒子と前記固体炭素質とが結着して一体化されている焼結体であることを特徴とする有価金属の回収方法。
【請求項2】
捕集工程において、使用する金属捕集材に含まれる鉄粒子の含有量が金属捕集材100重量部あたり5~90重量部である請求項1に記載の有価金属の回収方法。
【請求項3】
水熱処理工程において、水熱処理を行なう際の海藻類と水の混合物中の海藻類濃度が0.05g/cm以上である請求項1に記載の有価金属の回収方法。
【請求項4】
捕集工程において、金属捕集材の使用量が原料である海藻類に対して重量比で0.2以上90以下である請求項1に記載の有価金属の回収方法。
【請求項5】
水熱処理工程において、前記水熱処理を120℃~370℃の範囲で行うことを特徴とする請求項1に記載の有価金属の回収方法。
【請求項6】
水熱処理工程において、水熱処理が二段階水熱処理である請求項1に記載の有価金属の回収方法。
【請求項7】
有価金属が、レアメタル、レアアース及び貴金属からなる群から選ばれる1種以上の金属元素である請求項1に記載の有価金属の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海藻類に含有される有価金属の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
我が国は有価金属元素をはじめとする工業資源のほとんどを海外からの輸入に頼っている。一方、我が国を取り囲む広大な排他的経済水域(EEZ)には、海水中に多くの価値ある希少金属が溶存しており、その総量は膨大であるが、濃度が極めて低いために経済的に実施することが困難である。経済的に有利な有価金属の回収方法の開発が重要である。
【0003】
特許文献1には、排水等に含まれる有害物質を除去するために、水溶性コーティング剤でコーティングされた金属粒子、炭粒子及びバインダーを含有する水処理用炭-金属複合体が提案されている。この特許文献1に記載される排水処理材料を、有価金属の回収に転用することも考えられるが、特許文献1の材料は、重金属を水酸化アルミニウムと共沈させることにより排水中から除去するものであるため、生成した水酸化アルミニウムフロックを回収せねばならず、大きな困難を伴う。また、回収物を金属資源として利用するためには、脱水や分離、濃縮等のさまざまな後処理が必要であるため、コスト面でも不利な方法である。
【0004】
一方、海水中に溶存する価値ある希少金属(以下、有価金属という)は生物に濃縮されることが知られている。そのため、生物からの有価金属の経済的に有利な回収方法の開発が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-25160号公報 (特許請求の範囲、実施例等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、自然界に希薄に存在する有価金属を濃縮して含有するバイオマスとして海藻類に着目し、海藻類から有価金属を経済的に有利に回収する方法について検討した。
すなわち、本発明が解決しようとする課題は、バイオマスから有価金属を経済的に有利に回収する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、海藻類に含有される有価金属の回収方法であって、
海藻類と水を混合して水熱処理を行なった後、処理生成物から固形物および重質油分含有液状物を分離して排水を取得する水熱処理工程、及び、
前記排水を金属捕集材に接触させて、排水に含有される有価金属を金属捕集材に捕集する捕集工程を含み、
捕集工程に使用する金属捕集材が、鉄粒子と固体炭素質とを含有し、前記鉄粒子と前記固体炭素質とが結着して一体化されている焼結体であることを特徴とする有価金属回収方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、自然界に希薄に存在する有価金属を経済的に有利に回収する方法が提供される。しかも、水熱処理工程において炭素材料や燃料油等を同時に生産することができるので、この点でも経済的に有利である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明においては、原料として海藻類が使用される。海藻類として、特に、大型の海藻類が好ましく利用できる。具体的には、緑藻類、褐藻類及び紅藻類が好ましく使用される。最も好ましくは、昆布に代表される大型褐藻類が使用される。その理由は、大型海藻類は、微細藻類と比較して藻体密度を上げても成長率を維持でき、生産性に優れているためである。
【0010】
海藻類は、天然に生育したものでも、培養環境下で生育したものでもよい。乾燥させた海藻類も使用できる。太陽光による光合成を行って生育した海藻類を利用することは、間接的に自然エネルギーを利用した資源生産に繋がる。海藻類は、破砕され、好ましくは水などの溶媒を加えられてスラリー状態で水熱処理工程に供される。
【0011】
<水熱処理工程>
本発明の水熱処理工程は、海藻類と水を混合して水熱反応を行なった後、反応生成物から水相を分離して排水を回収する工程である。
水熱処理工程においては、海藻類と水の混合物を加熱する。水熱処理工程の温度は、好ましくは120~370℃、より好ましくは200~370℃である。水熱処理工程における海藻類と水の混合物の処理時間は、好ましくは3~60分、より好ましくは5~30分である。
【0012】
水熱処理を行なう際の海藻類と水の混合物中の海藻類の濃度は、0.05g/cm以上であることが好ましい。混合物中の海藻類濃度が0.05g/cmを下回ると、排水中の有価金属の濃度が低くなりすぎ、有価金属の回収が困難になる。また、水熱処理を行なう際に水を温度上昇させるためのエネルギーが大きくなる。
水熱処理により、海藻類を構成する有機成分は分解反応及び再結合反応を受け、少量のガスの他、固形物および液状物を生成する。
【0013】
生成する固形物は、炭化物が主成分であり、カーボンブラック等の炭素材料に利用できる。
生成する液状物は油相と水相からなり、両者は液液分離される。油相は、重質油分を主成分として含有する。そのため、得られた油相は、必要により精製して、タール、ピッチ、燃焼炉の燃料油等を生産することができる。
生成するガスは、大部分がCOであり、水酸化カルシウムで捕捉することにより炭酸カルシウムとして回収することができる。
【0014】
本発明の水熱処理工程においては、水熱処理の処理生成物から固形物を分離し、液状物から油相を分離して水相を取得する。本発明においては、この水相を「排水」と称する。
排水は、水を主成分として含有するが、これには海藻類の含有する有価金属が移行して溶解している。換言すれば、海藻類に含有されていた有価金属が排水に溶解して抽出される。
【0015】
本発明の水熱処理工程は、二段階の水熱処理とすることもできる。
二段階水熱処理は、海藻類を用いて120℃~250℃の低温水熱処理を行った後、固液分離して第一液状物及びO/C比が0.3~0.8の第一固体残渣を取得する第一工程、及び、
第一工程で得られた第一液状物を用いて250℃~370℃の高温水熱処理を行った後、固液分離して重質油分含有液状物を含む第二液状物および第二固体残渣を取得する第二工程、を有する海藻類の工業資源化方法である。
二段階水熱処理によれば、海藻類を用いて重質油分含有液状物を効率よく製造することができ、経済的に好ましい。
【0016】
二段階水熱処理における第一工程は、海藻類を用いて120℃~250℃の低温水熱処理を行う工程、及び、生成物を固液分離する工程を含む。
低温水熱処理工程は、海藻類を処理槽にて、120℃~250℃、好ましくは140℃~230℃、より好ましくは160℃~210℃の温度に加熱することにより行われる。
【0017】
低温水熱処理工程の処理温度が120℃未満の場合、加水分解反応が進行しないという理由から好ましくない。また、250℃を超える場合、固体残渣中の有機物の分解が進み過ぎるという理由から好ましくない。
【0018】
海藻類に対する水の投入量は、乾燥状態の海藻類の重量の1倍~20倍が好ましく、2倍~15倍がより好ましい。処理槽内の雰囲気は、不活性ガスが好ましい。圧力は、処理温度の飽和蒸気圧以上で操作することが好ましい。
【0019】
処理方法は、前記処理条件が確保できれば、バッチ式でも流通式でも良く、使用される処理槽は、加熱装置及び混合機を備えた圧力容器が好ましい。
【0020】
処理時間は、バッチ式及び流通式のいずれの場合でも、3分~120分が好ましく、10分~60分がより好ましい。
【0021】
低温水熱処理による生成物は、主に、液状物と固形物の混合物である。生成物は固液分離されて、液状物と固形物が取得される。本発明では、低温水熱処理により生成する前者の液状物を第一液状物、後者の固形物を第一固体残渣と称する。その他に、微量の分解ガスが生成される場合がある。
【0022】
第一固体残渣は、デカンテーション、濾過、遠心分離などの通常の固液分離の手法により液状物から分離して取得することができる。第一固体残渣は、O/C比が0.3~0.8、好ましくは0.35~0.6の固形物である。ここで、O/C比とは、固体残渣に含有される酸素原子の個数と炭素原子の個数との量比である。
【0023】
O/C比が0.3未満の場合、有機物の分解が進み過ぎて炭化物の収量が減るという理由から好ましくない。また、0.8を超える場合、有機物の分解が進まず、液状物の収量が減るという理由から好ましくない。
【0024】
第一固体残渣は、炭化物の前駆体であり、後述する第三工程に供されて炭化物を生成する原料となる。第一固体残渣は、一部が炭化した半炭化状態である。原料の海藻を水熱処理することで、脱水反応及び脱炭酸反応が進行するため、第一固体残渣は原料の海藻よりO/C比が低い。
【0025】
第一液状物は、水可溶物を含む水相と有機溶剤可溶物を含む有機相からなるが、両者の混合物のまま或いは、水相のみが油水分離操作により採取して第二工程に送られる。第一液状物を油水分離操作により有機溶剤可溶物を含む有機相を水可溶物を含む水相から分離して取得し、これを後述する重質油分含有液状物に合わせることもできる。
【0026】
第二工程は、第一工程で得られた少なくとも水可溶物を含む水相を含有する第一液状物を用いて250℃~370℃の高温水熱処理を行う工程、及び、生成物を固液分離する工程を含む。
【0027】
高温水熱処理工程は、第一液状物を処理槽にて、250℃~370℃、好ましくは270℃~360℃、より好ましくは300℃~350℃の温度に加熱することにより行われる。
高温水熱処理工程の処理温度が250℃未満の場合、脱水反応が進みにくいため重質油の収量が減るという理由から好ましくない。また、370℃を超える場合、有機物の分解が進み過ぎ液状物の収量が減るという理由から好ましくない。
【0028】
処理槽内の雰囲気は、不活性ガスが好ましい。圧力は、処理温度にもよるが、2.5MPa~22MPaの範囲の加圧状態である。
処理方法は、前記処理条件が確保できれば、バッチ式でも流通式でも良く、使用される処理槽は、加熱装置及び混合機を備えた圧力容器が好ましい。処理時間は、バッチ式及び流通式のいずれの場合でも、3分~60分が好ましく、5分~30分がより好ましい。
【0029】
高温水熱処理による生成物は、主に、液状物と固形物の混合物である。生成物は固液分離されて、液状物と固形物が取得される。本発明では、高温水熱処理により生成する前者の液状物を第二液状物、後者の固形物を第二固体残渣と称する。そのほかに分解ガスが生成するが、大部分はCOであり、水酸化カルシウムで捕捉することにより炭酸カルシウムとして回収することができる。
【0030】
第二固体残渣は、デカンテーション、濾過、遠心分離などの通常の固液分離の処方により分離して取得することができる。第二固体残渣は、第一固体残渣と合わせて後述する第三工程に供されて炭化物を生成する原料となる。
【0031】
第二液状物は、水可溶物を含む水相と有機溶剤可溶物を含む有機相からなる。第二液状物は、油水分離操作により分離されて、軽質油、重質油、ピッチ、タール又はこれらの二種以上の混合物からなる重質油分を含有する液状物が取得される。
【0032】
第二工程において得られた重質油分含有液状物は、好ましくは精製されて、各有用成分に分離され、化学品又は燃料その他に利用される。
【0033】
以上より、第一工程及び第二工程を経ることで、原料海藻類から第一固体残渣、第二液状物及び第二固体残渣を得ることができる。
【0034】
上述の通り、第一液状物及び第二液状物は、共に水可溶物を含む水相と有機溶剤可溶物を含む有機相からなる。第一液状物は有機溶剤可溶物と比較して水可溶物の割合が大きい。一方で、第二液状物は水溶剤可溶物と比較して有機可溶物の割合が大きい。
【0035】
原料海藻類の主成分は多糖類である。この原料海藻類を第一工程に付することで、多糖類が加水分解され、水可溶物(主に水溶性の低分子又はオリゴマー)が生成する。この水可溶物は一部が重質化し、有機溶剤可溶物となる。有機溶剤可溶物の一例としては、多価不飽和脂肪酸が挙げられる。第一工程を経て得られた第一液状物を第二工程に付することで、第一液状物中の水可溶物の少なくとも一部は重質化し、有機溶剤可溶物となる。また、第一液状物中の有機溶剤可溶物の少なくとも一部は、さらに重質化し残炭率が上昇する。
【0036】
なお、第一液状物の全てを第二工程に付与してもよいし、その一部を付与してもよい。つまり、第一工程及び第二工程の条件(各工程の温度、圧力、時間、第二工程に付する第一液状物の成分等)により、海藻類から所望の液状炭化水素を効率よく製造することができる。
【0037】
ここで、液状炭化水素を生産性良く製造するためには第一工程と第二工程を組合わせることが必須である。第一工程を経ない場合、上述のとおり、海藻の分解が進み過ぎ、固体残渣中の有機物が少なく、結果として炭化物の収率が少なくなる。また、第二工程を経ない場合、海藻の分解が進まず、その後の重質化も起こりにくいため重質油分に乏しく、結果として有機溶剤可溶物を効率よく製造することはできない。
【0038】
第二工程において油水分離して得られた水可溶物を含む水相は、有価金属を含有し、本発明の排水として捕集工程に供される。
【0039】
第一工程及び/又は第二工程で得られた固体残渣は、さらに炭化反応を進行させる第三工程に付することで、炭化物を併産することができる。本発明の好ましい一態様は、第一工程で得られた第一固体残渣及び/又は第二工程で得られた第二固体残渣を用いて高熱処理を行い、炭化物を取得する第三工程を有する。
【0040】
第三工程の高熱処理は、用途に応じて実施することができる。通常は400℃~1000℃の範囲の温度にて無酸素状態で加熱することにより行われる。
第三工程の高熱処理の温度が400℃未満の場合、有機物の分解が進まないため残存酸素が多く炭化物の品質として好ましくない。また、1000℃を超える場合、不必要に高温で処理することになりエネルギーの無駄となる。高熱処理の際、処理槽内の雰囲気は、不活性ガスが好ましい。圧力は、常圧~1MPaの範囲が好ましい。
【0041】
高熱処理の時間は、20分~120分が好ましく、30分~90分がより好ましい。処理方法は、前記処理条件が確保できれば、バッチ式でも流通式でも良く、使用される処理槽は、焼却炉又は電気炉が好ましい。
【0042】
第三工程により得られた炭化物のO/C比は、0~0.2が好ましく、0~0.1がより好ましい。炭化物の物性は、高熱処理工程の温度、時間の管理などによって制御できる。得られた炭化物は、活性炭等の炭化物の原料として好適に使用できる。
【0043】
<捕集工程>
捕集工程は、水熱処理工程で得られた排水を金属捕集材に接触させて、排水に含有される有価金属を金属捕集材に捕集する工程である。
捕集工程に使用する金属捕集材は、鉄粒子と固体炭素質とを含有し、前記鉄粒子と前記固体炭素質とが結着して一体化された焼結体が好適に使用される。
【0044】
捕集工程に使用する金属捕集材が、鉄粒子と固体炭素質とを含有し、前記鉄粒子と前記固体炭素質とが結着して一体化されている焼結体であることを特徴とする有価金属回収方法。
捕集工程に使用する金属捕集材は、具体的には、鉄粒子と固体炭素質とを含有し、100重量部あたりの鉄粒子含有量は、5~90重量部、好ましくは25~90重量部、より好ましくは50~90重量部の範囲内であり、前記鉄粒子と前記固体炭素質とが結着して一体化された焼結体である。
前記金属捕集材は、水溶液中で局部電池作用により鉄イオンが生成し、これが水溶液中の有価金属のイオンを焼結体の表面に金属体として析出させる作用を発揮する。
【0045】
前記金属捕集材は、以下の工程A~工程Cを順に含む製造方法により製造することができる。
工程A:
金属粒子1と固体炭素質2からなる前駆体、及び必要に応じて助剤(炭素骨材3、結着助剤、水や有機溶剤等)を混合する工程。
工程B:
工程Aで得た混合物を造粒し、含有される金属粒子1と固体炭素質2の前駆体を付着させて粒状の複合体とする工程。
工程C:
工程Bで得た複合体を不活性雰囲気または還元雰囲気において600℃以上の温度で焼成して焼結体とする工程。
得られた焼結体は、金属捕集材として排水中から有価金属を回収する捕集工程に供される。
【0046】
捕集工程において、前記金属捕集材の使用量の下限は、原料である海藻類に対して重量比で0.2以上、好ましくは0.3以上、より好ましくは0.4以上である。原料である海藻類に対する金属捕集材の使用量が0.2未満の場合は、有価金属の回収率が低下する。一方、金属捕集材の使用量の上限は、原料である海藻類に対して重量比で90以下、好ましくは70以下、より好ましくは50以下、さらに好ましくは30以下、さらに好ましくは15以下である。海藻類に対する金属捕集材の使用量が多すぎると、コストがかさむ。
【0047】
前記金属捕集材100重量部に含まれる鉄粒子1は、5~90重量部の範囲内であり、好ましくは25~90重量部の範囲内、より好ましくは50~90重量部の範囲内である。鉄粒子1の割合が5重量部未満であると水と接触する鉄粒子1の面積が少なく、発生する鉄イオンが少ないため、有価金属の回収効率が低下する。一方、鉄粒子1の割合が90重量部を超えると炭素質物が少なすぎ、電池形成部位が少なくなって、発生する鉄イオンが少なくなることから好ましくない。
【0048】
本発明で使用する金属捕集材に使用される鉄粒子1は、炭素よりも電位が低い鉄を炭素と複合化した材料を用いて回収し、資源化するものである。鉄粒子1の粒子形状は、特に限定されるものではなく、例えば球状でも不定形状であっても、あるいは繊維状であってもかまわない。鉄粒子1の粒子径は、10μm~5mmの範囲内が好ましく、100μm~3mmの範囲内であることがより好ましい。
【0049】
固体炭素質2は、固体であって、鉄と接触して水中で局部電池を形成可能な導電性炭素であればその由来は問わない。鉄粒子1とともに焼結される固体炭素質2の前駆体は、非酸化性雰囲気下における600℃以上の焼成で炭素化する物質であれば制限はない。固体炭素質2の前駆体としては、例えば、でんぷん糊や水あめ、リグニンなどの天然有機物やエポキシ樹脂、フェノール樹脂などの有機合成樹脂なども使用することができるが、残炭率が50%以上と炭素収率が高く、かつ導電性の高い炭素となる石油系または石炭系より得られる重質油から製造されるピッチが前駆体として好ましい。特に軟化点が70℃以上のピッチは、粉末として使用することができるため、鉄粒子1と混合して加熱することで造粒がしやすく、焼結後に固体炭素質2となる量も多いので前駆体として好ましい材料である。
【0050】
本発明の金属捕集材は、表面積や見かけ比重の調整、局部電池効果の向上などを目的に、さらに任意で炭素骨材3を添加することも可能である。炭素骨材3としては、例えば、黒鉛やニードルコークス、ピッチコークスの粉砕物を用いることが好ましい。
【0051】
炭素骨材3を使用した金属捕集材は、例えば鉄粒子1と炭素骨材3である黒鉛、ニードルコークス、ピッチコークスなどの粉砕物を固体炭素質2の前駆体であるピッチと混合して造粒した後、焼結させたものや、炭素骨材3である黒鉛、ニードルコークス、ピッチコークスなどの表面に、鉄粒子1が固体炭素質2とともに焼結したものなどがあげられる。
【0052】
炭素骨材3として、黒鉛、ニードルコークス、ピッチコークスなどの粉砕物を使用する場合、その粒子径は10μm~10mmの範囲内が好ましく、50μm~5mmの範囲内であることがより好ましい。また、固体炭素質2の前駆体との配合比については、粉砕物100重量部に対して固体炭素質2の前駆体を3~50重量部の範囲内が好ましく、5~25重量部の範囲内がより好ましい。
【0053】
さらに、本発明の金属捕集材は、その性能を妨げない範囲内で、見かけ比重の調整や副次効果を与えるために各種添加物を配合することもできる。添加物としては、例えば、シリカやアルミナ、煉瓦などのセラミックス類のほか、マグネタイトなどの磁性を示す物質の塊状物が例示されるが、磁性体の配合は有価金属を捕集した金属捕集材の磁気による回収を可能とすることから好ましいものである。
【0054】
また、金属捕集材の見かけ比重は、例えば1.1g/cm以上が好ましく、1.2g/cm以上がより好ましい。見かけ比重が1.1g/cm以上であれば、捕集工程において、水との分離が容易であるため、好ましい。
【0055】
本発明の捕集工程において、金属捕集材は、水熱処理工程の排水中に溶解している有価金属イオンを、局部電池効果による鉄イオンの大量かつ持続的な放出を引き金とし、金属捕集材の表面に金属体として析出させることができる。そのため、排水からの有価金属の回収が容易であり、回収後の脱水や濃縮作業も簡便となり、全体的な回収コストを抑制する。よって、海藻類に含有されている有価金属を経済的に有利に回収することができる。
【0056】
回収することができる有価金属には、ベリリウム、硼素、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、コバルト、ニッケル、ゲルマニウム、砒素、セレン、ルビジウム、ストロンチウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、インジウム、アンチモン、テルル、セシウム、バリウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、タリウム、ビスマスに例示されるレアメタル;スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウムに例示されるレアアース;及び、ルテニウム、ロジム、パラジウム、銀、オスミウム、イリジウム、白金、金に例示される貴金属が含まれる。
【実施例0057】
以下、実施例に基づいて本発明の内容を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例の範囲に限定されるものではない。なお、以下の実施例において、特にことわりのない限り各種測定、評価は下記によるものである。
【0058】
[参考例1]
<金属捕集材の作製>
鉄粉(竹内工業株式会社製、鋳鉄粉、28メッシュアンダー品;炭素:2~4重量%、Si:4重量%以下、Mn:0.5~1.5重量%、P:0.03重量%以下、S:0.03重量%以下)及び固体炭素質(新日鉄住金化学株式会社製、ピッチコークス塊)を攪拌機で混合した後、混合物をパンペレタイザー(株式会社吉田製作所製、型式1237-S-3)に投入した。混合物が投入されたパンペレタイザーを30rpmで回転させながら、これに、予め230℃の電気炉で空気雰囲気下にて2時間の熱処理をした炭素骨材(ピッチコークス塊大きさ1~5cm)を投入して、3分間回転して炭素骨材表面に鉄粉粒子が付着した複合体を作製した。作製した複合体をコークス粉が詰められた還元雰囲気焼成炉を用いて100℃/時間で昇温し、900℃で2時間焼成した後、50℃以下になるまで炉内で自然放冷して焼結体を取り出し、金属捕集材とした。得られた金属捕集材中の鉄含有量は40%、炭素含有量は60%であった。
【0059】
[実施例1]
原料として乾燥コンブ(真昆布)を粉砕し、コンブ濃度が0.2g/cmになるようにコンブと水を混合して原料液を調製した。75mLのSUS製耐圧容器(オートクレーブ)に原料液40.8gを装入し、350℃で10分間、水熱処理反応を行った。次いで、水熱処理反応後の反応混合物を、THFおよび水で洗浄し、ろ過により固形分をろ別し、さらにろ液を分液漏斗を用いて液液分離により油相を分離し、排水を得て、水熱処理工程を行った。
前記排水を入れた容器に、仕込んだ原料コンブの重量に対して3倍の重量の参考例1の金属捕集材を投入して浸漬し、常温で1時間攪拌することにより、捕集工程を行った。
【0060】
測定は、排水試料を乾固させ、マイクロ波アシスト分解法により分析用溶液を作成した後、ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析器)を用いて有価金属の種類及びその濃度を求めた。
乾燥コンブ中の有価金属の濃度と捕集工程後の排水に含まれる有価金属の濃度を測定し、金属回収率を算出した。
【0061】
[実施例2]
原料として乾燥コンブ(真昆布)を粉砕し、コンブ濃度が0.09g/cmになるようにコンブと水を混合して原料液を調製した。実施例1と同様の条件で水熱処理工程を行った後、仕込んだ原料コンブの重量に対して6倍の重量の参考例1の金属捕集材を投入して捕集工程を行った。捕集工程後の排水中の有価金属の濃度を測定し、金属捕集材を加える前後の有価金属回収率を算出した。
【0062】
[実施例3]
原料として乾燥コンブ(真昆布)を粉砕し、コンブ濃度が0.2g/cmになるようにコンブと水を混合して原料液を調製した。実施例1と同様の条件で水熱処理工程を行った後、得られた排水に、仕込んだ原料コンブの重量に対して0.5倍の重量の参考例1の金属捕集材を投入して常温で1時間、浸漬、攪拌することにより、捕集工程を行った。捕集工程後の排水中の有価金属の濃度を測定し金属捕集材を加える前後の有価金属回収率を算出した。
【0063】
表1に、各実施例における水熱処理工程の条件、捕集工程で使用した金属捕集材の特性、捕集工程の結果について示す。回収率を評価する有価金属元素として、レアメタルであるコバルト及びバナジウム、レアアースであるランタンに着目した。
【0064】
【表1】
【0065】
[比較例1]
原料として乾燥コンブ(真昆布)を粉砕し、コンブ濃度が0.01g/cmになるようにコンブと水を混合して原料液を調製した。実施例1と同様の条件で水熱処理工程を行った後、得られた排水に、仕込んだ原料コンブの重量に対して100倍の重量の参考例1の金属捕集材を投入して常温で1時間、浸漬、攪拌することにより、捕集工程を行った。捕集工程後の排水中の有価金属の濃度を測定し金属捕集材を加える前後の有価金属回収率を算出した。
【0066】
[比較例2]
原料として乾燥コンブ(真昆布)を粉砕し、コンブ濃度が0.20g/cmになるようにコンブと水を混合して原料液を調製した。実施例1と同様の条件で水熱処理工程を行った後、得られた排水に、仕込んだ原料コンブの重量に対して0.1倍の重量の参考例1の金属捕集材を投入して常温で1時間、浸漬、攪拌することにより、捕集工程を行った。捕集工程後の排水中の有価金属の濃度を測定し金属捕集材を加える前後の有価金属回収率を算出した。
【0067】
表2に、各比較例における水熱処理工程の条件、捕集工程で使用した金属捕集材の特性、捕集工程の結果について示す。比較例における有価金属元素の回収率は、実施例での回収率と比べて低下した。
【0068】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、バイオマスを利用して、自然界に希薄に存在する有価金属を回収するための経済的な方法を提供する。