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特開2025-15217金属樹脂複合成形品、金属樹脂複合成形品の製造方法および金属部材の加工方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025015217
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】金属樹脂複合成形品、金属樹脂複合成形品の製造方法および金属部材の加工方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/14 20060101AFI20250123BHJP
【FI】
B29C45/14
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023118481
(22)【出願日】2023-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル・アイピー東京
(72)【発明者】
【氏名】廣田 兼斗
(72)【発明者】
【氏名】大井 和樹
【テーマコード(参考)】
4F206
【Fターム(参考)】
4F206AA34
4F206AD03
4F206AD28
4F206AD32
4F206JA07
4F206JB12
4F206JL02
(57)【要約】
【課題】金属部材とポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物部材とを接合させる場合に、当該部材間の接合部分の気密性がヒートショック試験の前後にてほぼ変わらない金属樹脂複合成形品を提供すること。
【解決手段】本発明の一実施形態は、金属部材とポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物部材とが接合された金属樹脂複合成形品である。この金属樹脂複合成形では、金属部材の一面のうちポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物部材と接合されている表面部分には、実質的に球状の金属クラスタが形成されており、金属クラスタの頂点の算術平均曲率が3000~6000(1/mm)である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材とポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物部材とが接合された金属樹脂複合成形品であって、
前記金属部材の一面のうち前記ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物部材と接合されている表面部分には、実質的に球状の金属クラスタがあり、
前記金属クラスタの頂点の算術平均曲率は、3000~6000(1/mm)であり、
-40℃の温度下での30分間放置と150℃の温度下での30分間放置とを1サイクルとするヒートショック試験を1000サイクル実施する前後で、前記金属部材と前記ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物部材との接合部分の気密性がほぼ同じである、金属樹脂複合成形品。
【請求項2】
前記金属クラスタの頂点の算術平均曲率は、4000~5000(1/mm)である、請求項1に記載の金属樹脂複合成形品。
【請求項3】
金属部材とポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物部材とが接合された金属樹脂複合成形品の製造方法であって、
前記金属部材の表面に対して高エネルギービームを照射して、前記金属部材の表面に、実質的に球状の金属クラスタであって、頂点の算術平均曲率が3000~6000(1/mm)である前記金属クラスタを形成し、
前記金属部材の表面に、実質的に球状の前記金属クラスタが形成された前記金属部材を金型内に挿入し、ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物を射出成形して、前記金属部材の表面に前記ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物部材を接合させる、
金属樹脂複合成形品の製造方法。
【請求項4】
前記金属クラスタの頂点の算術平均曲率は、4000~5000(1/mm)である、請求項3に記載の金属樹脂複合成形品の製造方法。
【請求項5】
金属部材とポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物部材とが接合された金属樹脂複合成形品のための金属部材の加工方法であって、
前記金属部材の表面に対して高エネルギービームを照射して、前記金属部材の表面に、実質的に球状の金属クラスタであって、頂点の算術平均曲率が3000~6000(1/mm)である前記金属クラスタを形成する、金属部材の加工方法。
【請求項6】
前記金属クラスタの頂点の算術平均曲率は、4000~5000(1/mm)である、請求項5に記載の金属部材の加工方法。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属部材とポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物を接合させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
金属などの電気伝導性材料と樹脂など電気絶縁性材料など、特性が異なる材料を組み合わせて用いることで、軽量化、高強度化、あるいは、高機能化された部品が様々な分野で使用されている。例えば、金属部材と熱可塑性樹脂を接合させた金属樹脂複合成形品は、インストルメントパネル周りのコンソールボックスなどの自動車の内装部材やエンジン周り部品、インテリア部品、デジタルカメラや携帯電話などの電子機器の筐体部、インターフェース接続部、電源端子部などに使用されている。
金属と樹脂などの異なる材料同士の接合方法として、接着やネジ止めなどの工法が一般的に知られているが、工程や部品点数が増えるため好ましくない。そこで、金属材料と樹脂材料を接合させる方法として様々な提案がなされてきた。
【0003】
例えば、特許文献1では、金属材料の表面のある走査方向にレーザ加工を施し、当該走査方向とクロスする別の走査方向にレーザ加工を施し、この表面に異種材料を接合することが記載されている。特許文献2では、金属板の表面に凹凸を形成する際に凹凸のアンダーカット率を所定範囲内にすることで、この表面に樹脂成形品を接合させるときの接合強度を向上させることが記載されている。特許文献3では、レーザ光などにより金属にクレーター状の窪みを形成し、金属表面が溶融飛散した廂状の隆起部に粒状のスパッタを形成させた金属と樹脂の複合成形体が記載されている。特許文献4では、表面粗化金属部材とポリアリーレンスルフィド樹脂組成物部材とが接合してなる複合構造体であって、表面粗化した金属部材表面の任意の5点を、共焦点顕微鏡を用いてISO(国際標準化機構) 25178に準拠して測定した時に界面の展開面積比(Sdr)が数平均値で5以上の範囲であること、PPS樹脂の溶融粘度が15~500〔Pa・s〕の範囲である複合構造体が記載されている。さらに特許文献5には、気密性を確保し、耐久性に優れた樹脂材料と金属材料とからなるインサートモールドを行うことを目的とした、金属インサート部品及び金属インサート部品を用いる樹脂成形品の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4020957号公報
【特許文献2】特開2020-116806号公報
【特許文献3】特開2013-71312号公報
【特許文献4】特許第6819798号公報
【特許文献5】特許第6615478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の金属材料と樹脂材料とを接合させる方法では、金属材料と樹脂材料との接合部分の気密性を十分に確保することができず(すなわち、金属材料と樹脂材料との接合部位に隙間ができるなどの不都合が生じうる)、この点を改善することが求められている。また、金属樹脂複合成形品が自動車のエンジン周辺部品などの温度変化が大きい環境下で使用される場合、樹脂と金属では温度変化による膨張や収縮率(いわゆる線膨張係数)が極端に異なることから、問題が生じ得た。例えば、金属樹脂複合成形品の樹脂部材が肉薄であったり、肉厚の変化の大きい部分があるものである場合、及び金属部材がシャープコーナーを有してる場合は、使用中の温度変化で金属樹脂複合成形品が破壊するといったトラブルがあった。このため、金属樹脂複合成形品は、その用途や形状等がかなり制限されたものとなっているのが現状である。従って、長期間にわたる温度変化に耐え得る金属樹脂複合成形品が強く求められている。
そこで、本発明は、金属部材とポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物部材とを接合させた金属樹脂複合成形品において、ヒートショック試験の後においても接合部分が気密性を失わない、金属樹脂複合成形品の製造方法および製造された金属樹脂複合成形品の提供、ならびに金属部材の加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の観点は、金属部材とポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物部材とが接合された金属樹脂複合成形品である。この金属樹脂複合成形品は、ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物を使用し、金属部材の一面のうちポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物部材と接合されている表面部分には、実質的に球状の金属クラスタが形成されており、金属クラスタの頂点の算術平均曲率は、3000~6000(1/mm)である。
【0007】
本発明の第2の観点は、金属部材とポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物部材とが接合された金属樹脂複合成形品のための金属部材の加工方法である。この加工方法では、金属部材の表面に対して高エネルギービームを照射することで、金属表面に実質的に球状の金属クラスタであって、頂点の算術平均曲率が3000~6000(1/mm)である金属クラスタを形成する。
【0008】
本発明の第3の観点は、金属部材とポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物部材とが接合された金属樹脂複合成形品の製造方法である。この製造方法では、金属部材の表面に対して高エネルギービームを照射することで、金属部材の表面に実質的に球状の金属クラスタであって、頂点の算術平均曲率が3000~6000(1/mm)である金属クラスタを形成し、金属部材の表面に実質的に球状の金属クラスタが形成された金属部材を金型内に挿入し、ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物を射出成形することにより、金属部材の表面にポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物部材を接合させる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の態様によれば、金属部材とポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物から構成された部材とを接合させた金属樹脂複合成形品の接合部分がヒートショック試験後においても気密性を失わない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一実施形態の金属部材の加工方法を模式的に示す図である。
図2】金属部材のレーザ照射部に形成される例示的な金属クラスタを示す図である。
図3】一実施形態の金属樹脂複合成形品において、ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物部材の表面のSpcの大小に応じた、金属部材とポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物部材との界面の状態を模式的に説明する図である。
図4】気密性試験に使用される試験片の形状を示す図である。
図5】気密性試験の試験装置の概略的な構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一の実施形態に係る金属樹脂複合成形品について説明する。
一実施形態の金属樹脂複合成形品は、金属部材と樹脂組成物部材、特にポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物部材とが接合されたものである。この金属樹脂複合成形品では、金属部材の一面のうちポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物部材と接合されている接合面には、実質的に球状の金属クラスタが形成されている。「実質的に球状」とは、金属クラスタを構成する個々の形状が真球に限らず、回転楕円体や、球若しくは回転楕円体の一部が欠けている形状を有している場合も包含するものとする。
この実質的に球状の金属クラスタは、金属部材の表面に例えばレーザを照射することで形成することができる。本願の発明者は鋭意研究の結果、金属部材の表面に所定の照射条件でレーザを照射することで金属表面に球状の金属クラスタを形成することができ、それによって金属樹脂複合成形品の金属部材と樹脂組成物部材との接合面のヒートショック試験後の気密性を従来よりも高めることを見出した。
なお、金属部材、樹脂組成物部材および金属樹脂複合成形品の形状は特に限定されない。
【0012】
金属樹脂複合成形品に含まれる金属部材を構成する金属は、限定するものではないが、例えば、アルミニウム、銅、銀、金、鉄、チタン、ニッケル、マグネシウム、亜鉛及びその合金である炭素鋼、ステンレス鋼などである。
また、金属部材の表面には、陽極酸化処理等の表面処理や塗装がされていてもよい。軽量、強度の点から、金属としてアルミニウム、マグネシウム、銅、チタンを用いることが好ましく、端子などのように導電性が必要とされる用途においては、アルミニウム、銅を用いることがより好ましく、銅が特に好まれる。また、薄肉での剛性が要求される用途においては、マグネシウム、チタン、特にチタンを用いることが特に好ましい。
【0013】
[ポリアリーレンサルファイド系樹脂]
ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物に使用されるポリアリーレンサルファイド樹脂(以下、「PAS樹脂」と称することがある。)は、機械的特性、電気的性質、耐熱性その他物理的・化学的特性に優れ、且つ加工性が良好であるという特徴を有する。ポリアリーレンサルファイド樹脂は、主として、繰返し単位として-(Ar-S)-(Arはアリーレン基、Ar-Sはアリーレンサルファイド基を表す。)で構成された高分子化合物であり、本実施形態では一般的に知られている分子構造のポリアリーレンサルファイド樹脂を使用することができる。
【0014】
上記アリーレン基としては、例えば、p-フェニレン基、m-フェニレン基、o-フェニレン基、置換フェニレン基、p,p’-ジフェニレンスルフォン基、p,p’-ビフェニレン基、p,p’-ジフェニレンエーテル基、p,p’-ジフェニレンカルボニル基、ナフタレン基などが挙げられる。PAS樹脂は、上記繰返し単位のみからなるホモポリマーでもよいし、下記の異種繰返し単位を含有したコポリマーが加工性などの点から好ましい場合もある。
【0015】
ホモポリマーとしては、アリーレン基としてp-フェニレン基を用いた、p-フェニレンサルファイド基を繰返し単位とするポリフェニレンサルファイド樹脂が好ましく用いられる。また、コポリマーとしては、前記のアリーレン基を含むアリーレンサルファイド基の中から、相異なる2種以上の組み合わせから構成されたコポリマーが使用できる。中でも、p-フェニレンサルファイド基とm-フェニレンサルファイド基との組み合わせから構成されたコポリマーが特に好ましく用いられる。このコポリマーのうち、p-フェニレンサルファイド基を70モル%以上、好ましくは80モル%以上含有するものが、耐熱性、成形性、機械的特性などの物性上の点から適当である。また、これらのポリアリーレンサルファイド樹脂の中で、2官能性ハロゲン芳香族化合物を主体とするモノマーから縮重合によって得られる実質的に直鎖状構造の高分子量ポリマー(例えば、ポリp-フェニレンサルファイド)が、特に好ましく使用できる。なお、本実施形態に用いるポリアリーレンサルファイド樹脂は、異なる2種以上の分子量のポリアリーレンサルファイド樹脂を混合して用いてもよい。
【0016】
なお、直鎖状構造のポリアリーレンサルファイド樹脂以外にも、縮重合させるときに、3個以上のハロゲン置換基を有するポリハロ芳香族化合物などのモノマーを少量用いて、部分的に分岐構造又は架橋構造を形成させたポリマーを用いることもできる。また、低分子量の直鎖状構造ポリマーを酸素などの存在下、高温で加熱して酸化架橋又は熱架橋により溶融粘度を上昇させ、成形加工性を改良したポリマーも用いられる。
なお、本実施形態において、ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物とは、上記のポリアリーレンサルファイド系樹脂を1種以上と、その他必要に応じて加えられる添加剤とを含む組成物のことである。
【0017】
[オレフィン系共重合体]
本実施形態において、オレフィン系共重合体は、金属部材とポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物部材との接合性を向上させるために、ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物に添加してもよい。オレフィン系共重合体は、共重合成分としてα-オレフィンとα,β-不飽和酸のグリシジルエステルと(メタ)アクリル酸エステルとを含む。先ず、必須の共重合成分について説明する。
【0018】
本発明においてα-オレフィンは特に限定されず、従来公知のものを使用できる。例えば、使用可能なα-オレフィンとして、エチレン、プロピレン、ブチレンなどが挙げられる。これらのα-オレフィンの中でも特にエチレンが好ましい。これらα-オレフィンは2種以上を併用することもできる。
【0019】
α,β-不飽和酸のグリシジルエステルとは、下記の一般式(1)で表される成分である。
【化1】



(式(1)中のRは水素又は低級アルキル基を示す。)
【0020】
上記一般式(1)で表される化合物としては、アクリル酸グリシジルエステル、メタクリル酸グリシジルエステル、エタクリル酸グリシジルエステルなどが挙げられる。本発明においては、メタクリル酸グリシジルエステルの使用が好ましい。
【0021】
α,β-不飽和酸のグリシジルエステルを共重合成分として含むことで、金属との接合性が向上する効果が得られる。ところが、上記グリシジルエステルに由来する共重合成分の含有量が多くなるとモールドデポジットの問題が顕著になる。従来から、モールドデポジットの原因は、オレフィン系共重合体などの熱可塑性エラストマーが高温で熱劣化することであると考えられている。しかしながら、共重合成分としてα-オレフィンと、α,β-不飽和酸のグリシジルエステルとを含むオレフィン系共重合体の場合、α,β-不飽和酸のグリシジルエステルの使用量を抑えれば、オレフィン系共重合体を使用してもモールドデポジットの問題を抑えることができる。
【0022】
実施形態に使用可能なアクリル酸エステルは特に限定されず、従来公知のものを使用することができる。使用可能なアクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸-n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸-n-ブチル、アクリル酸-n-ヘキシル、アクリル酸-n-オクチルなど)、メタクリル酸及びメタクリル酸エステル(例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸-n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸-n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸-n-アミル、メタクリル酸-n-オクチルなどが挙げられる。これらのアクリル酸エステルの中でも特にアクリル酸メチルの使用が好ましい。
【0023】
実施形態に用いるオレフィン系共重合体は、本発明の効果を害さない範囲で、他の共重合成分を含有することができる。
【0024】
実施形態に用いるオレフィン系共重合体は、従来公知の方法で重合することにより製造することができる。
【0025】
本発明の組成物中に含まれるオレフィン系共重合体の含有量は特に限定されない。実施形態においては、ポリアリーレンサルファイド系樹脂100質量部に対して、オレフィン系共重合体は0~20質量部含まれていることが好ましく、1質量%以上15質量%以下含まれていることがより好ましい。
【0026】
[無機充填剤]
本発明の樹脂組成物には、機械的強度、耐熱性、寸法安定性(耐変形、そり)、電気的性質などの性能の改良の目的で無機充填剤を配合することができる。無機充填剤としては、目的に応じて、繊維状、粉粒状、板状の充填剤が用いられる。繊維状充填剤としては、ガラス繊維、アスベスト繊維、カーボン繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、硼素繊維、チタン酸カリウム繊維、さらにステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真鍮など金属の繊維状物などの無機質繊維状物質が挙げられる。特に代表的な繊維状充填剤は、ガラス繊維、又はカーボン繊維である。一方、粉粒状充填剤としては、カーボンブラック、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉、硅酸カルシウム、硅酸アルミニウム、カオリン、タルク、クレー、硅藻土、ウォラストナイトのような硅酸塩、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナのような金属の酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムのような金属の炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムのような金属の硫酸塩、その他炭化硅素、窒化硅素、窒化硼素、各種金属粉末が挙げられる。また、板状充填剤としては、マイカ、ガラスフレーク、各種の金属箔が挙げられる。実施形態においては、ガラス繊維、炭酸カルシウム、ガラスビーズの使用又はこれらの併用が好ましい。なお、これらの無機充填剤は、一種又は二種以上併用することができる。
【0027】
実施形態における無機充填剤の含有量は、ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して、0~80質量部が好ましく、0~75質量部がさらに好ましい。無機充填剤の含有量が75質量部より多い場合、ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物の溶融粘度が上昇するため、金属部材表面上の金属クラスタ部にポリアリーレンサルファイド系樹脂が充填されず、金属部材とポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物部材との間の気密性が得られない場合がある。
【0028】
[その他の成分]
実施形態で用いるポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物は、本発明の効果を害さない範囲で他の樹脂を含んでもよい。また、成形品に所望の特性を付与するために、核剤、カーボンブラック、無機焼成顔料などの顔料、酸化防止剤、安定剤、可塑剤、滑剤、離型剤を添加して、所望の特性を付与した組成物も本発明で用いるポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物に含まれる。
【0029】
[ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物]
実施形態のポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物の調製は、従来公知の方法で行うことができる。例えば、各成分を混合した後、押出機により練り込み押出してペレットを調製する方法、一旦組成の異なるペレットを調製し、そのペレットを所定量混合して成形に供し、成形後に目的組成の成形品を得る方法、成形機に各成分の1又は2以上を直接仕込む方法など、何れも使用できる。
【0030】
金属部材とポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物部材との接合方法は、詳しくは後述するが、特に限定するものではない。例えば、超音波溶着、振動溶着、レーザ溶着などに代表される溶着工法や、射出成形によりこれらを接合させることができる。例えば、金属材料をインサート部材とするインサート成形により接合することが好ましい。実施形態で使用する金属部材とその加工方法については後述する。一の実施形態において、金属部材の一面のうちポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物部材と接合されている表面部分には、上記の通り、実質的に球状の金属クラスタがあることが好ましい。金属クラスタの頂点の算術平均曲率は、3000~6000(1/mm)であることが好ましい。金属クラスタの頂点の算術平均曲率について、詳細には後述する。
また、一の実施形態の金属樹脂複合成形品は、-40℃の温度下での30分間放置と150℃の温度下での30分間放置とを1サイクルとするヒートショック試験を1000サイクル実施する前後で、金属部材とポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物部材との接合部分の気密性がほぼ同じであることを特徴とする。ヒートショック試験とは、冷熱衝撃試験とも呼ばれ、物質に繰り返し急激な温度変化を加えることにより、物質を膨張、収縮させ、物質の内部に熱応力や熱歪みを発生させることにより、物質にクラック等の不具合が発生するかどうかを観察する試験である。日本産業規格(JIS)では、JIS C 60068-2-14(Na)(環境試験方法-電気・電子)に、試験方法の規格が規定されている。一の実施形態の金属樹脂複合成形品は、-40℃の温度下での30分間放置と150℃の温度下での30分間放置とを1サイクルとするヒートショック試験を繰り返し(たとえば1000サイクル)行い、金属部材とポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物部材との接合部分の気密性に不具合が生じるか否かを観察すると、ヒートショック試験を行う前後で気密性がほぼ同じである。ここで金属部材とポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物部材との接合部分の気密性とは、端的には、金属部材とポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物部材との接合部分における隙間の有無のことを指し、ヒートショック試験の前にはなかった隙間がヒートショック試験の後に発生していることが観察された場合、気密性が低下したと評価される。ヒートショック試験の前後で金属部材とポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物部材との接合部分の気密性がほぼ同じとは、気密性が全く変わらないこと、および気密性の上昇又は低下の程度が僅かであることを意味する。ここで金属部材とポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物部材との接合部分の気密性の測定は、気密測定機等の専用の測定機械を用い、特定の検出圧力にて所定の気体を流して接合部分から漏れる気体を検出することにより行う。金属部材とポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物部材との接合部分の気密性の測定は、例えば、ヘリウムリーク試験真空法等により測定することができる。
【0031】
本発明の二の実施形態は、金属部材とポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物部材とが接合された金属樹脂複合成形品のための金属部材の加工方法である。図1に、二の実施形態の金属部材の加工方法を模式的に示す。
図1に示すように、レーザを金属部材に照射すると、金属部材の表面の金属がレーザによる高エネルギービームにより溶融し、照射部の外側に押し出された後、表面張力により球状に固化する。金属部材表面を微小なピッチでレーザ走査することで生成した球状物が重なり、金属クラスタが形成される。あるいは金属部材が昇華、飛散した液状の金属粒子が凝固(再凝着)し、堆積することで、球状の金属クラスタが形成される。図2に、金属部材にレーザを照射したときのレーザ照射部に形成される例示的な金属クラスタの画像を示す。
ここで、レーザ出力(単位時間当たりのエネルギー)が低い場合には、金属表面の金属が溶融しなかったり、昇華や液状の金属粒子の飛散が生じなかったりする。そのため、球状の金属クラスタを形成するためのレーザ出力については、金属部材に使用される金属材料に応じて適宜決定される。また、レーザ照射部の外側に押し出された溶融金属を微小な球状にするには、レーザ走査ピッチを30μm以下とすることが好ましく、20μm以下、あるいは10μm以下とすることがさらに好ましい。
なお、レーザ出力と照射速度により、単位面積において単位時間当たりに金属表面に与えられるエネルギーが決定される。それ故、レーザ出力に加え、照射速度も球状の金属クラスタを形成する際のファクタとなる。適切なレーザ出力と照射速度によって、金属表面において局所的な極短時間での温度上昇が生じ、それによって球状の金属クラスタが形成される。二の実施形態の金属部材の加工方法を用いて、一の実施形態の金属樹脂複合成形品に使用する金属部材の一面のうちポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物部材と接合される表面部分に、実質的に球状の金属クラスタを形成することができる。
【0032】
金属部材とポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物部材との接合面の気密性を十分に確保する観点から、金属部材のポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物部材との接合面の全面に球状の金属クラスタが形成されていることが好ましい。そのためには、レーザの走査ピッチをレーザの照射径よりも小さくするとよい。
【0033】
なお、本開示において「高エネルギービーム」とは、金属部材の表面に球状の金属クラスタが形成できる程度に高い単位時間当たりのエネルギーのビームという意味である。
高エネルギービームは、レーザが典型的ではあるが、その限りではなく、電子銃により発生させるビームであってもよい。
二の実施形態において、金属部材の表面に対して高エネルギービームを照射して、金属部材の表面に、実質的に球状の金属クラスタであって、頂点の算術平均曲率が3000~6000(1/mm)である前記金属クラスタを形成することが好ましい。金属クラスタの頂点の算術平均曲率について、詳細には後述する。
【0034】
三の実施形態は、金属部材とポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物部材とが接合された金属樹脂複合成形品の製造方法である。三の実施形態の金属樹脂複合成形品の製造方法は、金属部材の表面に対してレーザなどの高エネルギービームを照射することで、金属部材の表面に実質的に球状の金属クラスタを形成し、金属表面に実質的に球状の金属クラスタが形成された金属部材とポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物部材とを溶融接合させる方法である。
金属部材とポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物部材との接合面に球状の金属クラスタを形成することで、金属部材とポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物部材とをインサート成形する際には、球状の金属クラスタの部分に溶融ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物が入り込み、成形段階において金属とポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物との密着性が高くなる。そのため、作製された金属樹脂複合成形品では、金属部材とポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物部材との接合面において従来よりも高い気密性が実現される。
【0035】
金属部材の表面において球状の金属クラスタを形成する範囲は、金属部材とポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物部材との接合面の全面であることが好ましいが、その限りではない。例えば、接合面の大部分、例えば接合面のうち70~80%以上の範囲に球状の金属クラスタを形成すれば、金属部材とポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物部材との接合面において十分に高い気密性が確保される。
例えば、金属部材とポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物部材との接合面の全面をレーザの照射対象としたときに、レーザの走査ピッチがレーザの照射径より大きい場合には、接合面にレーザが照射されない領域が生ずる。その場合でも、接合面のうちレーザが照射されない領域が比較的少ない場合には、金属部材とポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物部材との接合面において十分に高い気密性が確保される。
【0036】
本発明者らはさらに、金属部材の表面に形成される球状の金属クラスタの形状に着目し、金属部材の表面の様々な表面粗さのパラメータと、金属部材とポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物部材との接合面における気密性との関係について研究を進めた。その結果、球状の金属クラスタの頂点のSpc(山頂点の算術平均曲率)を所定の範囲とすることで、金属部材とポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物部材との接合面の気密性をヒートショック試験後も良好なまま保持できることを見出した。Spc(山頂点の算術平均曲率)は、ISO 25178に規定される表面性状のパラメータであり、評価対象の表面に形成される山頂点の主曲率の平均値を表す。Spcが小さいと、他の物体(実施形態ではポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物部材)と接触する点(山頂点)が丸みを帯びていることを表し、Spcが大きいと、他の物体と接触する点が尖っていることを表す。
【0037】
球状の金属クラスタの頂点のSpcを所定の範囲とすることで金属部材の樹脂との接合面における気密性がヒートショック試験の前後にてほぼ同じである理由は、図3を参照すると以下のように推察される。
図3は、金属部材の表面に形成される球状の金属クラスタの頂点のSpcが大きい値の場合(「Spc大」)、中程度の値の場合(「Spc中」)、及び、小さい値の場合(「Spc小」)について、金属部材とポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物部材との接合面を模式的に示したものである。金属部材表面におけるSpcが大の場合、球状の金属クラスタの頂点が尖鋭形状となっている。この表面に接触したポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物が冷却したときに、ヒケ(収縮)が生じるが、金属クラスタの頂点が尖鋭形状であると、この頂点の接合面においてポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物と金属との間で隙間が生じやすく、高い気密性を発揮する上では不利である。他方、金属部材表面におけるSpcが小の場合、球状の金属クラスタは全体として緩やかに変化する表面性状をなす。金属部材とポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物部材との接合部の表面積が小さく、金属樹脂複合成形品の成形段階において金属部材とポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物部材との密着性が高くなりにくい。そこで、金属部材表面におけるSpcが中程度である場合に、金属部材の表面の球状の金属クラスタの部分に対する溶融ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物の入り込みが十分になり、金属部材表面における微細なクラスタが樹脂とのアンカーを多く形成することできる。そのため、ヒートショック試験時に起こる樹脂の膨張や収縮に起因する接合部のゆるみ(リークパス)が形成されにくくなるため、金属樹脂複合成形品の金属部材とポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物部材との密着性をヒートショック試験後も極めて高く保つことができると推察される。
【0038】
具体的には、金属部材の表面の球状の金属クラスタの頂点のSpcは、3000~6000(1/mm)の範囲であることが好ましく、4500~4700(1/mm)の範囲であることがさらに好ましい。
このSpcが所望の範囲内になるように調整するには、金属部材とポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物部材との接合面になる面に対してレーザ照射により与えるエネルギーを制御する。レーザとしてパルスレーザを使用する場合に、平均出力をP、周波数をfとした場合、1パルス当たりのエネルギーEはP/fで表される。そこで平均出力P(いわゆるレーザ出力)及び/又は周波数fを調整することで、金属部材とポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物部材との接合面になる面に与えるエネルギーを制御することができる。例えば、パルスレーザの周波数を上げると、金属部材の表面に付与される1パルス当たりのエネルギー量が小さくなるため、Spcが低下する傾向になる。逆に、パルスレーザの周波数を下げると、金属部材の表面に付与される1パルスあたりのエネルギー量が大きくなりSpcが増加する傾向になるが、エネルギー量が十分に大きくなるとSpcは飽和する。
【0039】
金属クラスタを構成する粒子の粒径は1~500μmが好ましく、5~300μmがさらに好ましく、10~200μmが特に好ましい。粒径が1μm未満の場合、樹脂がクラスタを構成する粒子間の隙間にポリアリーレンサルファイド樹脂が充填されず密着性が得られない場合がある。また500μmを超える場合、成形後にポリアリーレンサルファイド樹脂の収縮により金属部材との隙間が生じ、気密性が得られない場合がある。
【0040】
金属部材とポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物部材との接合方法は、限定するものではないが、超音波溶着、振動溶着、レーザ溶着などに代表される溶着工法や、射出成形により接合させることができる。例えば、金属材料をインサート部材とするインサート成形により接合することができる。すなわち、上記のような球状の金属クラスタが表面に形成された金属部材を金型内に挿入し、金型内にポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物を射出し、これを一緒に成形して、金属部材の表面にポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物部材を接合させることができる。
【実施例0041】
[金属樹脂複合成形品の製造]
以下、金属樹脂複合成形品の製造について具体的に説明する。
実施例では、試験片として、図4に示す形状の金属樹脂複合成形品10(以下、「試験片10」という。)を作製した。
図4に示すように、試験片10は、中央に内孔を有する円環状の金属部材11と、金属部材11の内孔に配置される樹脂成形品12とからなるものであった。金属部材11は、外径がφ50mm、内孔の径がφ20mm、厚さが1mmとした。樹脂成形品12は、外径がφ30mmであり、厚さが3mmとした。
【0042】
金属部材11、樹脂成形品12を構成する材料に使用した成分は、以下の通りである:
・金属部材:アルミニウムA5052
・ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物:
ポリアリーレンサルファイド樹脂1:株式会社クレハ製 フォートロンKPS(溶融粘度:20Pa・s(せん断速度:1200sec-1、310℃))
ポリアリーレンサルファイド樹脂2:株式会社クレハ製フォートロンKPS(溶融粘度:28Pa・s(せん断速度:1200sec-1、310℃))
ポリブチレンテレフタレート樹脂:ポリプラスチックス株式会社製「300FP」
ポリエチレンテレフタレート樹脂:高安株式会社製「PET II」
オレフィン系共重合体1:住友化学株式会社製「ボンドファースト7L」
オレフィン系共重合体2:住友化学株式会社製「ボンドファースト7M」
ガラス繊維1:オーウェンスコーニング製造(株)製「CS GL-HF」
ガラス繊維2:日本電気硝子株式会社製「ECS03T747」
ガラス繊維3:日本電気硝子株式会社製「ECS03T747H」
ガラス繊維4:日本電気硝子株式会社製「ECS03T187」
炭酸カルシウム:旭鉱末株式会社製「MC-35W」
カーボンブラック:三菱ケミカル株式会社製「MA600B」
ペンタエリスリトールステアリン酸エステル:エメリー オレオケミカルズ ジャパン製LOXYOL VPG861
酸化防止剤:BASFジャパン株式会社製 「イルガノックス1010」
リン系安定剤:太平化学産業株式会社製 第一リン酸カルシウム
表1には、樹脂成形品の材料であるポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物の構成成分比を記載した。表1記載のポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物の溶融粘度は、ISO 11433に準拠して、以下のようにして測定した。
(株)東洋精機製作所製、キャピログラフを用い、キャピラリーとして1mmφ×20mmLのフラットダイを使用し、バレル温度310℃、せん断速度1000sec-1の条件下での溶融粘度を測定した。
【0043】
【表1】
【0044】
樹脂成形品12と接合する前に、レーザ加工機(アマダウエルドテック製ML-7350DL)により、金属部材11の表面のφ20mmからφ26mmの範囲(樹脂成形品12との接合面)に対して同心円状にレーザ処理を行った。
後記する表2に、実施例1、2及び比較例1、2のレーザ照射条件を示す。表には記載されていないが、すべての実施例、比較例について、レーザの照射ピッチを10μmとし、照射径を58μmとした。ピッチは、レーザを走査する同心円同士の間隔である。ピッチが照射径よりも小さいため、金属部材11と樹脂成形品12との接合面の全面にレーザが照射されたことになる。
【0045】
すべての実施例、比較例について、金属部材11の表面をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察したところ、全面に球状の金属クラスタが形成されていることが確認された。さらに、キーエンス社製レーザ顕微鏡VK-X3000を用いて金属部材11の表面に形成された球状の金属クラスタの頂点のSpcを測定した(表2を参照)。
【0046】
金属部材11に対してレーザ処理を行った後、以下の条件で金属部材11をインサート部材とし、表1記載の各材料を樹脂組成物とするインサート成形を行い、金属部材11と樹脂成形品12とを接合することで、図4に示す金属樹脂複合成形品の試験片10を成形した。インサート成形の条件は以下の通り:
・射出成形機:ソディック社製TR100EH
・シリンダー温度:320℃(実施例1~3)
260℃(比較例1、2)
・金型温度:150℃(実施例1~3)
150℃(比較例1、2)
・射出速度:15mm/s
・保圧力:50MPa
【0047】
[気密性試験]
次いで、実施例及び比較例として成形された試験片10について、金属部材11と樹脂成形品12との接合面の気密性試験を行った。気密性試験(ヘリウムリーク試験、真空法)の試験装置の構成を図5に示す。
図5に示すように、外部から密閉されたチャンバー3内に、治具2と試験片10を配置した。治具2は有底直方体状をなしており、上部に試験片10を配置することで治具2内がチャンバー3内の残りの部位から密閉される。弁6を開状態にして治具2内を真空ポンプ5によって真空状態にし、次いで、弁6を閉状態にしてヘリウムボンベ4によりチャンバー3をヘリウムガスで満たした。チャンバー3内において試験片10の接合部分から漏れたヘリウムガスは、ヘリウム検出器7によって検出された。制御装置8は、ヘリウムガスの検出結果を表示するものであった。
なお、ヘリウム検出器7として株式会社コスモ計器製のヘリウムリークテスターG-FINE及びインフィコン株式会社製L300iを使用した。
【0048】
チャンバー3内のヘリウムの圧力を400kPaとし、治具2内の真空圧を100kPaとした。試験片10の金属部材11と樹脂成形品12の接合部分の気密性が低い場合には、チャンバー3内のヘリウムガスが治具2内に流入し、ヘリウム検出器7によって検出される。この試験では、ヘリウム検出器7で検出されるヘリウムの圧力(検出圧力)が1.0×10-7(表中では「1.0E-7」と表記)Pa・m/s以上の場合は気密性不良と判断し、1.0×10-7(1.0E-7)Pa・m/s未満の場合は気密性良好と判断した。
【0049】
[ヒートショック試験]
日立アプライアンス株式会社製の熱衝撃試験機ES-106LH、ES-77LHSを用いて、ヒートショック試験を実施した。実施例1~3については、-40℃温度下での30分間放置と150 ℃温度下での30分間放置を1サイクルとし、250サイクル毎に樹脂成形品を槽内から取り出して上記気密性試験を行い、耐冷熱衝撃性(耐ヒートショック性)の評価とした。比較例1及び2については、-40℃温度下での30分間放置と125℃温度下での30分間放置を1サイクルとし、250サイクル毎に樹脂成形品を槽内から取り出して上記気密性試験を行い、耐冷熱衝撃性の評価とした。それぞれヒートショック試験を1000サイクルまで実施した。
試験片に対する気密性試験の検出圧力について、表2に実施例1~3、比較例1~2の結果を示す。
【0050】
【表2】
【0051】
表2によると、ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物部材と金属部材との複合成形品における金属部材の金属クラスタの頂点のSpcが4500~4700(1/mm)である場合に、ヒートショック試験後も金属部材とポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物部材との接合部分の気密性が高いことが確認された。比較例1、2より、金属部材のSpcが前記範囲内であっても、ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物部材と金属部材との複合成形品においては、樹脂成形品に亀裂が生じて破壊し、ヒートショック試験後の接合部分の気密性を得ることができなかった。
【0052】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されない。また、上記の実施形態は、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更が可能である。
【符号の説明】
【0053】
2…治具
3…チャンバー
4…ヘリウムボンベ
5…真空ポンプ
6…弁
7…ヘリウム検出器
8…制御装置
10…金属樹脂複合成形品
11…金属部材
12…樹脂成形品

図1
図2
図3
図4
図5