(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025015224
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】研磨された半導体材料の製造方法および半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20250123BHJP
【FI】
H01L21/304 621D
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023118492
(22)【出願日】2023-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100219483
【弁理士】
【氏名又は名称】宇野 智也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 恵友
(72)【発明者】
【氏名】滝谷 翔
(72)【発明者】
【氏名】馬場 昭好
(72)【発明者】
【氏名】西澤 秀明
【テーマコード(参考)】
5F057
【Fターム(参考)】
5F057AA14
5F057AA28
5F057BA11
5F057BB06
5F057BB09
5F057CA11
5F057DA03
5F057DA33
5F057EA01
5F057EA07
5F057EA22
5F057EA31
(57)【要約】
【課題】難加工材であるSiC、ダイヤモンドまたはGaNを高い研磨レートで研磨することができ、生産性に優れた、研磨されたSiC材料、ダイヤモンド材料またはGaN材料の製造方法を提供する。
【解決手段】イオンビーム50を照射することによって、SiC、ダイヤモンドまたはGaNである半導体材料10の表面10Sまたは内部に形成された脆化層20を、スラリー存在下で研磨して、脆化層20を除去する研磨工程を有する、薄膜基板100(研磨された半導体材料)の製造方法。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンビームを照射することによって、SiC、ダイヤモンドまたはGaNである半導体材料の表面または内部に形成された脆化層を、スラリー存在下で研磨して、前記脆化層を除去する研磨工程を有する、研磨された半導体材料の製造方法。
【請求項2】
前記研磨工程で用いられるスラリーが、研磨砥粒を含み、酸化剤の含有量が1質量%以下である、請求項1に記載の半導体材料の製造方法。
【請求項3】
前記研磨砥粒が、シリカである、請求項1または2に記載の半導体材料の製造方法。
【請求項4】
前記研磨工程において、前記脆化層の除去が終了した時点で、前記研磨をセルフストップさせる、請求項1または2に記載の半導体材料の製造方法。
【請求項5】
前記イオンビームの照射によって、前記半導体材料の表面に前記脆化層を形成する表面脆化工程と、
前記半導体材料の表面に形成された前記脆化層を、前記スラリー存在下で研磨して、前記脆化層を除去する前記研磨工程と、を有する、請求項1または2に記載の半導体材料の製造方法。
【請求項6】
前記表面脆化工程において、前記半導体材料の表面の一部に前記脆化層を形成する、請求項5に記載の半導体材料の製造方法。
【請求項7】
前記イオンビームの照射によって、前記半導体材料の表面から所定の深さ離れた内部に前記脆化層を形成する内部脆化工程と、
前記半導体材料の前記表面に支持基板を接合し、前記半導体材料と前記支持基板との接合体を得る接合工程と、
前記接合体を前記脆化層に沿って分割する分割工程と、
分離された前記支持基板側の基板の剥離面となる前記脆化層を、前記スラリー存在下で研磨して、前記脆化層を除去する前記研磨工程と、を有する、請求項1または2に記載の半導体材料の製造方法。
【請求項8】
前記研磨工程の前記支持基板側の基板を、前記支持基板と薄膜基板とに分離する分離工程を有する、請求項7に記載の半導体材料の製造方法。
【請求項9】
前記分離工程において、少なくともレーザーカットを利用して、前記支持基板と薄膜基板とに分離する、請求項8に記載の半導体材料の製造方法。
【請求項10】
前記脆化層が、前記イオンビームの加速電圧を変化させること、または、前記イオンビームの照射する部分を制御することによって、部分的に異なる膜厚で形成されている、請求項1または2に記載の半導体材料の製造方法。
【請求項11】
請求項1または2に記載の半導体材料の製造方法で形成された半導体材料で構成され、一方の面に凹凸が形成された基板と、前記基板の凹凸が形成された面上に半導体層および導電層を積層した素子部とを備えた半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨された半導体材料の製造方法および半導体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パワー半導体の基板形成技術では、シリコンから誘電損失の低い材料への置き換えが進んでいる。しかしながら、SiCやダイヤモンド、GaNは難加工材であり、基板供給の問題が深刻化している。
【0003】
シリコン半導体で構築してきたCMP(化学機械研磨、Chemical Mechanical Polishing)技術をSiCやダイヤモンド、GaNに移行した場合、「加工速度が極端に低い」という課題に直面する。仮に、従来のCMPの手法で、比較的粒子径の大きなダイヤモンド砥粒を含むスラリーで研磨すれば、高い研磨レートは期待できるが、その反面、基板表面に多くの欠陥や転移などを誘発してしまい、この欠陥や転移が、トランジスター性能に影響してしまうおそれがある。SiC基板や、ダイヤモンド基板、GaN基板を普及させるためには、高効率な材料除去と研磨後の平面が平滑かつ無欠陥な研磨手法が求められている。
【0004】
SiCや、ダイヤモンド、GaNのCMPには、一般的に、研磨砥粒と酸化剤を含むスラリーが用いられている。例えば、特許文献1は、SiCウェーハを研磨する方法に関するものであって、研磨ステップにおいて、固定砥粒研磨パッドと過マンガン酸カリウム(KMnO4)と酸化性無機塩を混合させた酸性研磨液を用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、シリコン(Si)の研磨レートに比べると、SiCや、ダイヤモンド、GaNの研磨レートはまだまだ遅く、研磨レートの更なる向上が求められていた。かかる状況下、本発明は、SiC、ダイヤモンドまたはGaNを高い研磨レートで研磨することができ、生産性に優れた、研磨されたSiC材料、ダイヤモンド材料またはGaN材料の製造方法を提供することを目的とする。また、これらの材料を利用した半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
【0008】
<1> イオンビームを照射することによって、SiC、ダイヤモンドまたはGaNである半導体材料の表面または内部に形成された脆化層を、スラリー存在下で研磨して、前記脆化層を除去する研磨工程を有する、研磨された半導体材料の製造方法。
<2> 前記研磨工程で用いられるスラリーが、研磨砥粒を含み、かつ、酸化剤の含有量が1質量%以下である、前記<1>に記載の半導体材料の製造方法。
<3> 前記研磨砥粒が、シリカである、前記<1>または<2>に記載の半導体材料の製造方法。
<4> 前記研磨工程において、前記脆化層の除去が終了した時点で、前記研磨をセルフストップさせる、前記<1>から<3>のいずれかに記載の半導体材料の製造方法。
<5> 前記イオンビームの照射によって、前記半導体材料の表面に前記脆化層を形成する表面脆化工程と、前記半導体材料の表面に形成された前記脆化層を、前記スラリー存在下で研磨して、前記脆化層を除去する前記研磨工程と、を有する、前記<1>から<4>のいずれかに記載の半導体材料の製造方法。
<6> 前記表面脆化工程において、前記半導体材料の表面の一部に前記脆化層を形成する、前記<5>に記載の半導体材料の製造方法。
<7> 前記イオンビームの照射によって、前記半導体材料の表面から所定の深さ離れた内部に前記脆化層を形成する内部脆化工程と、前記半導体材料の前記表面に支持基板を接合し、前記半導体材料と前記支持基板との接合体を得る接合工程と、前記接合体を前記脆化層に沿って分割する分割工程と、分離された前記支持基板側の基板の剥離面となる前記脆化層を、前記スラリー存在下で研磨して、前記脆化層を除去する前記研磨工程と、を有する、前記<1>から<4>のいずれかに記載の半導体材料の製造方法。
<8> 前記研磨工程の前記支持基板側の基板を、前記支持基板と薄膜基板とに分離する分離工程を有する、前記<7>に記載の半導体材料の製造方法。
<9> 前記分離工程において、少なくともレーザーカットを利用して、前記支持基板と薄膜基板とに分離する、前記<8>に記載の半導体材料の製造方法。
<10> 前記脆化層が、前記イオンビームの加速電圧を変化させること、または、前記イオンビームの照射する部分を制御することによって、部分的に異なる膜厚で形成されている、前記<1>から<9>のいずれかに記載の半導体材料の製造方法。
<11> 前記<1>から<10>のいずれかに記載の半導体材料の製造方法で形成された半導体材料で構成され、一方の面に凹凸が形成された基板と、前記基板の凹凸が形成された面上に半導体層および導電層を積層した素子部とを備えた半導体装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、SiC、ダイヤモンドまたはGaNを高い研磨レートで研磨することができ、生産性に優れた、研磨されたSiC材料、ダイヤモンド材料またはGaN材料の製造方法が提供される。また、これらの材料を利用した半導体装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】半導体材料にイオンビームを照射するために使用できる装置の一例である。
【
図3】本発明の製造方法の一例を示すフロー図である。
【
図4】
図3で示す製造方法を説明するための模式図である。
【
図5】
図3で示す製造方法を説明するための模式図である。
【
図6】本発明の製造方法の別の一例を示すフロー図である。
【
図7】
図6で示す製造方法を説明するための模式図である。
【
図8】
図6で示す製造方法を説明するための模式図である。
【
図9】
図6で示す製造方法を説明するための模式図である。
【
図10】
図6で示す製造方法を説明するための模式図である。
【
図11】本発明の製造方法で得られた半導体基板に配線構造を形成する方法を説明するための模式図である。
【
図12】イオン注入前後の試験基板の断面SEMである。
【
図15】レーザー顕微鏡を用いた高さ測定の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を変更しない限り、以下の内容に限定されない。なお、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値又は物性値を含む表現として用いるものとする。
【0012】
本発明は、イオンビームを照射することによって、SiC、ダイヤモンドまたはGaNである半導体材料の表面または内部に形成された脆化層を、スラリー存在下で研磨して、脆化層除去する研磨工程を有する、研磨された半導体材料の製造方法(以下、「本発明の製造方法」と記載する場合がある。)に関するものである。
【0013】
従来、研磨砥粒と酸化剤を含むスラリーを用い、SiC、ダイヤモンドまたはGaN(以下、「SiC等」と称する。)をCMPすることで、比較的高い研磨レートが得られることが知られていた。一方、本発明者らは、SiC等の材料にイオンビームを照射することで脆化層を形成できること、この脆化層が、SiC等のCMPに対して従来使用が困難であった酸化剤を含まない一般的なスラリーによって高速に除去できるほどに脆化していることを発見した。本発明は、これらの知見に基づくものである。
【0014】
本発明の製造方法のようにSiC等の半導体材料にイオンビームを照射し脆化層を形成させることで、研磨レートを格段に向上させることができる。更に、従来使用することが困難であった一般的なスラリーを用いても高速で研磨を行うことができ、かつ、研磨をセルフストップさせることが可能である。また、イオンビームにより脆化層を形成することで、脆化層を短時間で形成でき、加速エネルギーを調節することで、脆化層の形成位置や厚みを容易に調整することができ、三次元構造も容易に製造できる。
【0015】
(半導体材料)
本発明の製造方法で用いられる半導体材料は、SiC(炭化ケイ素)、ダイヤモンドまたはGaN(窒化ガリウム)である。半導体材料として代表的なものは、単結晶SiCインゴットや、これをスライス加工したSiC基板(ウエハ)、単結晶ダイヤモンドインゴットや、これをスライス加工したダイヤモンド基板(ウエハ)、単結晶GaNインゴット、これをスライス加工したGaN基板(ウエハ)などを用いることができる。また、半導体材料は、単一材料で構成された半導体材料に限定されず、他の半導体や絶縁体の基板などを張り合わせたり、表面に金属層や半導体層等を形成した多層構造体としたりすることもできる。半導体材料の表面を脆化させ研磨する際には、SiC等またはこれらにイオンが注入された材料で形成された部分を表面に含めばよく、SiC等で形成された単一の表面を有する材料に限定されず、SiC等で形成された部分に加えて、金属配線など組成が異なる部分を含む表面を有する材料を用いてもよい。
【0016】
半導体材料は、加工面や取り扱い易さなどを考慮し、基本的に板状体とすることが好ましい。該板状体の外形は、方形、円形、楕円形、多角形等を採用することができ、加工目的に応じて、外形を変化させることができる。
【0017】
(イオンビームの照射)
本発明の製造方法では、イオンビームを照射することによって、半導体材料の表面または内部に脆化層を形成する。高電圧により加速したイオンからなるイオンビームを半導体材料に照射(注入)すると、イオンの衝突により結晶構造が脆い脆化層が形成される。照射されるイオンに特に限定はなく、アルゴン(Ar)や水素(H)、酸素(O)、ホウ素(B)、リン(P)、ヒ素(As)などの原子をイオン化し、加速して、半導体材料に照射する。脆化層が形成される領域(場所や厚さ)は、イオンビームの加速エネルギーと入射角度によって制御することができ、加速エネルギーは、加速電圧や、イオンの種類、欠陥濃度、ドーズ量などにより制御することができる。例えば、イオンビームの加速エネルギーは、低くすると、半導体材料の表面が脆化される傾向であり、高くすると、半導体材料の表面は脆化せず、内部が脆化する傾向である。
【0018】
半導体材料にイオンビームを照射するために使用する装置に特に限定はなく、一般的なイオン注入装置やイオンドーピング装置を用いることができる。例えば、
図1に示すような、目的のイオンを発生させるイオン源51と、イオンビームを引き出す引出電極52と、必要なイオンを選別し取り出す質量分離器53および分析スリット54と、イオンを加速させるまたは減速させる加速管55と、被処理物1に照射するイオンビーム50の形状を調節する偏向器56、Qレンズ57および走査器58とを備えたイオン注入装置5を用いて実施することができる。
【0019】
なお、このように、イオンビームを半導体材料に照射する構成を採用することで、板状の半導体材料の主面ほぼ全面に同時にイオンビームを照射可能となるので、脆化層の形成を迅速に行うことができる。
【0020】
また、様々な仕様により半導体材料に照射するイオンビームの加速電圧、電流値(ビーム電流)、照射時間、ドーズ量などについては、一定としても、一定でなく照射中に適宜変化させてよい。例えば、加速電圧に関しては、波状にアナログ的に変化させたり、デジタル的にパルス状に変化させたりしてもよい。また同一の半導体材料において、照射するイオンを途中で例えば水素からリン、ホウ素に変えたりすること等も可能である。
【0021】
(研磨)
本発明の製造方法における研磨工程では、スラリーの存在下で、半導体材料に形成された脆化層を研磨して除去する。研磨工程は、スラリー存在下で半導体材料の脆化層を研磨することができれば、その方法や装置は特に限定されない。研磨工程は、スラリーを供給した研磨パッドや砥石に半導体材料を押し付けて研磨するものとしてもよく、半導体材料にスラリーを供給して、これに研磨パッドや砥石を押し付けて研磨するものとしてもよい。
【0022】
研磨工程は、例えば、
図2に示すように、被処理物1が取り付けられるヘッド60と、ヘッド60を回転させる回転駆動装置61と、スラリー供給装置63と、研磨パッド64を貼り付ける定盤65と、定盤65を回転させる回転駆動装置66とを備えたCMP装置6により実施することができる。CMP装置6では、スラリー62を研磨パッド64に供給しながら、被処理物1と研磨パッド64の少なくとも一方を回転させた状態で被処理物1を研磨パッド64に押しつけることで、被処理物1が研磨される。本発明の製造方法において、研磨工程における被処理物は、脆化層が形成された半導体材料やこれを支持基板に接合した接合体である。
【0023】
研磨パッド64は、特に制限なく、不織布製の研磨パッドや、ポリウレタン製の研磨パッド、発砲ポリウレタン製の研磨パッドなど公知のものを使用することができる。また、研磨パッド64は、砥粒を含むものであってもよいし、砥粒を含まないものであってもよいし、表面に凹凸パターンを有するものであってもよい。
【0024】
(スラリー)
研磨に用いられるスラリーは、研磨砥粒を含むものである。研磨砥粒としては、シリカ;セリア;アルミナ;ナノダイヤモンド;ダイヤモンドやシリカにフラーレン化合物を混合したものなどが挙げられ、これらは単独で用いても、併用してもよい。研磨砥粒の粒子径は、単一であっても、複数の粒子径のものを組み合わせてもよい。また、研磨工程の途中でスラリーの種類を変更して研磨を行ってもよい。一方、硬度が高い研磨砥粒を用いると半導体材料に欠陥や転移が発生しやすいため、研磨砥粒は、シリカ、セリア、アルミナなどの半導体材料(SiC、ダイヤモンドまたはGaN)よりも硬度の低い軟質の研磨砥粒が好ましい。中でも、沈降や凝集しにくく、安定に分散させることができるためシリカが好ましい。シリカ砥粒としては、コロイダルシリカ、ヒュームドシリカ、沈降シリカなどが挙げられ、コロイダルシリカが好ましい。
【0025】
コロイダルシリカとしては、平均粒子径が5~200nm程度のものを用いることができ、平均粒子径10~150nmが好ましく、50~100nmがより好ましい。なお、平均粒子径は、BET法により算出される一次粒子径である。
【0026】
研磨で用いるスラリーは、研磨砥粒の含有量が5~40質量%程度のものを用いることができ、8~25質量%や、10~15質量%などとしてもよい。
【0027】
また、スラリーは、研磨砥粒を分散させる溶媒を含む。スラリーの溶媒は、水または有機溶媒であり、水が好ましい。溶媒が水である水系スラリーのpHは、4~11が好ましく、6~10がより好ましく、7~9がさらに好ましい。
【0028】
スラリーは、従来用いられているスラリーのように、研磨砥粒およびこれを分散させる溶媒の他に、酸やアルカリ、酸化剤、錯化剤、分散剤などを含んでもよいが、スラリー中の酸化剤は少ないことが好ましく、酸化剤の含有量は1質量%以下であることが好ましい。酸化剤の含有量は、0.5質量%以下や、0.1質量%以下、0.05質量%以下、0.01質量%以下のものを用いてもよい。また、スラリーとして、研磨砥粒を含み、酸化剤を含まないものを用いることもできる。
【0029】
より好ましくは、SiCまたはGaN材料よりも硬度が低い軟質の研磨砥粒を含み、酸化剤の含有量が1質量%以下のスラリーであり、さらに好ましくは、研磨砥粒としてシリカを含み、酸化剤の含有量が1質量%以下のスラリーである。上記の通り、研磨レートを向上させるために、研磨砥粒と一定量以上の酸化剤を含むスラリーを使用することが一般的である。一方、イオンビームの照射により形成した脆化層は、酸化剤が少ないまたは酸化剤を含まないスラリーを用いても除去することができる。軟質の研磨砥粒を含み、酸化剤が少ないまたは酸化剤を含まないスラリー存在下では、脆化層が除去され、脆化していない半導体材料の層がむき出しになると、研磨レートが著しく低下し、実質的に研磨の進行が停止する。すなわち、軟質の研磨砥粒を含み、酸化剤が少ないまたは酸化剤を含まないスラリーを用いることで、脆化層の除去が終了した時点で、研磨をセルフストップさせることができる。セルフストップさせることで、研磨時間や面圧などの設定を細かく制御することが不要となる。
【0030】
なお、スラリーとして、半導体材料は研磨しないか或いは研磨が非常に困難でかつ、脆化層は効果的に研磨可能なものを選択することが好ましく、上記スラリーはその一例である。あまり効率的ではないが、半導体材料もある程度研磨するが、非常に研磨速度が遅く、脆化層は研磨速度が非常に速い、スラリーを採用することもできる。この場合、研磨はセルフストップしないため、ある程度脆化層が研磨された時期を見計らい研磨を終了する必要が生じる。
【0031】
以下、
図3~
図10に基づいて、本発明の製造方法をより具体的に説明する。なお、以下に説明する種々の実施形態において、同様の要素には同じ符号を付し、重複する説明を省略する。
【0032】
[実施の形態1]
図3は、本発明の製造方法の一例を示すフロー図である。また、
図4、
図5は、
図3で示す製造方法を説明するための模式図である。
図3に示す製造方法は、表面脆化工程(S1-1)と、研磨工程(S1-2)と、を有する。
【0033】
図3~
図5に示す本実施の形態では、半導体材料としては、単一材料からなる四角形状の板状体を用いたが、上記の通り、本発明の製造方法で用いられる半導体材料はこれに限定されるものではない。
【0034】
(表面脆化工程(S1-1))
表面脆化工程(S1-1)は、イオンビーム50の照射によって、半導体材料10の表面10Sに脆化層20を形成する工程である(
図4の(a)から(b))。表面脆化工程(S1-1)では、脆化層20が半導体材料10の表面10Sに形成されるようにイオンビーム50の加速エネルギーを低めにして、イオンビーム50を半導体材料10に照射する。例えば、表面脆化工程(S1-1)では、加速電圧を10kV~150kVや、20kV~80kV、ドーズ量を、1.0×10
15ion/cm
2~1.0×10
18ion/cm
2や10×10
16ion/cm
2~5.0×10
17ion/cm
2とする条件等にてイオンビーム50を照射する。脆化層20の厚さは、10nm~5μmであるが、イオンビーム50の加速エネルギー等で適宜調整することができる。
【0035】
(研磨工程(S1-2))
研磨工程(S1-2)は、半導体材料10の表面10Sに形成された脆化層20を、スラリーの存在下で研磨して、脆化層20を除去する工程である(
図4の(b)から(c))。
図2に示すCMP装置6を用いる場合、まず、半導体材料10の脆化層20側の表面が研磨面となるように、ヘッド60に半導体材料10を取り付ける。次いで、スラリー供給装置63からスラリー62を研磨パッド64に滴下する。スラリー62としては、コロイダルシリカが水に分散した水系スラリーなどを用いる。また、回転駆動装置66を駆動して、回転数10rpm~200rpmや、50rpm~100rpmで研磨パッド64を周方向に回転させる。そして、回転駆動装置61を駆動して、回転数10rpm~200rpmや、50rpm~100rpmで研磨パッド64と反対周りに半導体材料10を回転させながら研磨パッド64に押し付け、研磨する。半導体材料10と研磨パッド64との面圧は、1psi~15psiや、5psi~10psiである。これにより、脆化層20が除去された時点でセルフストップし、薄膜基板100(表面が研磨された半導体材料)が得られる。
【0036】
なお、
図4では、表面脆化工程(S1-1)において、半導体材料10の表面10Sに一様に脆化層20を形成しているが、遮蔽板の利用やイオンビームの照射位置を調節して、半導体材料10の表面10Sの一部に脆化層20を形成してもよい。例えば、
図5に示すように、半導体材料10の表面10Sの一部に遮蔽板3を配置した状態でイオンビーム50を照射し、遮蔽板3が配置されていない部分に脆化層20を形成する。このように脆化層20を形成すれば、研磨工程(S1-2)において、脆化層20のみが除去されるため、得られる薄膜基板100aの表面に3次元構造を形成することができる。
【0037】
また、イオンビームの加速エネルギーを部分的に変化させて、膜厚が一様でなく、部分的に異なる脆化層を半導体材料の表面全体に形成してもよい。この場合も、脆化層を除去することで、表面に凸部や凹部を形成し、表面に3次元構造を有する半導体基板が得られる。
【0038】
[実施の形態2]
図6は、本発明の製造方法の別の一例を示すフロー図である。また、
図7~
図10は、
図6で示す製造方法を説明するための模式図である。なお、
図7~
図10に示す実施形態において
図4、
図5に示す実施形態の構成部分と同じ構造、機能を有する部分は
図4、
図5中の符号と同じ符号を付して説明を省略する。
【0039】
図6に示す製造方法は、内部脆化工程(S2-1)と、接合工程(S2-2)と、分割工程(S2-3)と、研磨工程(S2-4)と、分離工程(S2-5)と、を有する。
図6~
図10において、内部脆化工程(S2-1)の半導体材料12はインゴットである。半導体材料12としてインゴットを用いることで、
図6に示す製造方法によってインゴットからウエハを製造することができる。
【0040】
ここで、インゴットから多数のウエハを製造するために、薄型化が求められている。従来、インゴットからウエハを製造する方法として、ダイヤモンドワイヤーソウによるスライシングやレーザーカットなどが知られているが、薄型化には限界があった。一方、
図6に示す製造方法では、内部脆化工程(S2-1)においてイオンビームの加速エネルギーを制御することで、ウエハの厚さを調整可能であり、薄型のウエハを製造することができる。薄型化することで、インゴットからより多くのウエハを製造できるため、
図6に示す製造方法は、生産性に優れ、均一なウエハ厚さや良質な表面を形成することが容易である。
【0041】
(内部脆化工程(S2-1))
内部脆化工程(S2-1)は、イオンビーム50の照射によって、半導体材料12の表面12Sから所定の深さ離れた内部に脆化層20を形成する工程である(
図7の(a)から(b))。内部脆化工程(S2-1)では、半導体材料12の表面12Sから所定の深さ離れた位置に脆化層20が形成されるようにイオンビーム50の加速エネルギーを高めて、イオンビーム50を半導体材料12の表面12Sに照射する。脆化層20の厚さは、10nm~5μmであるが、イオンビームの加速エネルギー等で適宜調整することができる。例えば、内部脆化工程(S2-1)では、加速電圧を200kV以上(例えば、200kV~300kV)、ドーズ量を1.0×10
15ion/cm
2~1.0×10
18ion/cm
2や10×10
16ion/cm
2~5.0×10
17とする条件等にてイオンビーム50を照射する。また、加速エネルギーを高くすることで、半導体材料12の表層24(半導体材料12の表面12Sから脆化層20までの間の層)は、高結晶化した高結晶層となる。表層24の厚さは、0.1~0.5μmや0.2~0.4μm程度であり、この厚さが、分離工程(S2-5)で得られる薄膜基板102(
図9(c)参照)の厚さとなる。脆化層20を形成する位置を制御し、表層24の厚さを調節することで、所望の厚さの薄膜基板102を得ることができる。
【0042】
(接合工程(S2-2))
接合工程(S2-2)は、半導体材料12の表面12Sに支持基板30を接合し、半導体材料12と支持基板30との接合体40を得る工程である(
図7の(b)から(c))。支持基板30は、以降の研磨工程(S2-4)などの工程において、薄膜基板102となる表層24を損傷しないように保持できるものであれば材質や厚みなどは特に限定されない。例えば、支持基板30として、厚さ500μm~1000μm程度のSi基板やガラス基板、金属基板、プリント基板などを用いることができる。半導体材料12と支持基板30は、接着剤や、常温接合、高温接合などにより接合することができる。
【0043】
(分割工程(S2-3))
分割工程(S2-3)は、接合体40を脆化層20に沿って分割する工程である(
図8)。超音波振動や機械的振動などによって脆化層20に外力を付与することで、接合体40を脆化層20に沿って分離することができる。また、超音波振動や機械的振動にレーザーカットを組み合わせて接合体40を分割してもよい。透明基板にレーザーカットを照射した場合、レーザーの吸収率が低く、切断ために長時間を要するが、イオンビーム50の照射により形成される脆化層20は黒色に変色しており、レーザーの吸収率が向上するため、レーザーカットを組み合わせることで、より効率的に短時間で接合体40を分割することができる。これにより、接合体40は、支持基板30と半導体材料12の表層24と脆化層20の一部とからなる支持基板30側の基板40aと、半導体材料12の表層24と脆化層20の一部が除かれた半導体材料12側の基板40bとに分割される。
【0044】
(研磨工程(S2-4))
研磨工程(S2-4)は、分離された支持基板30側の基板40aの剥離面となる脆化層20を、スラリーの存在下で研磨して、脆化層20を除去する工程である(
図9の(a)から(b))。研磨工程(S2-4)は、半導体材料10に代えて基板40aを被処理物とする以外は、研磨工程(S1-2)と同様の方法で行うことができる。
【0045】
また、半導体材料12側の基板40bは、研磨工程(S1-2)と同様の方法で、表面の脆化層20を研磨した後、内部脆化工程(S2-1)の半導体材料として再び用いることができる。これにより、1つのインゴットから多数の基板を製造することができる。
【0046】
(分離工程(S2-5))
分離工程(S2-5)では、研磨工程(S2-4)後の支持基板30側の基板40aを、支持基板30と薄膜基板102とに分離する工程である(
図9の(b)から(c))。薄膜基板102は、内部脆化工程(S2-1)で形成される半導体材料12の表層24に対応する。レーザーカットなどを利用して、支持基板30と薄膜基板102との分離することができる。
【0047】
なお、
図7では、内部脆化工程(S2-1)において、半導体材料12の内部に一様に脆化層20を形成しているが、イオンビームの照射位置や加速エネルギーを制御して、脆化層の膜厚が一様でなく、部分的に異なるようにしてもよい。例えば、内部脆化工程(S2-1)において、表面12S側に突出した凸部を有する脆化層20を形成する(
図10(a))ことで、分割工程(S2-3)で分割された支持基板30側の基板40aの脆化層20は、凸部を有する部分の膜厚が厚くなる(
図10(b))。研磨工程(S2-4)では、脆化層20のみが除去されるため、薄膜基板102aの表面には3次元構造が形成される(
図10(c))。
【0048】
[半導体装置]
本発明の製造方法で製造された表面が研磨された半導体材料を用いて、半導体装置を製造することができる。例えば、本発明の製造方法で製造されたSiC等のウエハを用いて、従来の半導体装置の製造方法を用いて、半導体装置を得ることができる。
【0049】
上記の通り、
図5(c)や
図10(c)に示される本実施の形態においては、非常に加工しにくい半導体材料の表面に、研磨以外の表面加工手段(エッチング等)を施さずに凹凸を代表とする3次元構造を形成可能となるので、半導体材料(板状基板)の上に、各種半導体層や導電層、絶縁層等を積層することで、工数を増やさずに、パワー半導体等の半導体素子を作製可能となる。また、上記の通り、凹凸加工を研磨加工に代表される一つの加工手段にて作製することで、例えば凹凸の寸法精度や表面形状を所望のものとすることが容易になり、パワー半導体装置などの特性ばらつきを抑えることができ、更には、不良品の低減を行うことができる。また、ダマシン法を利用した配線構造も形成可能である。具体的には、
図5や
図10に示す方法等を利用して、半導体材料14の表面14Sの配線を形成しようとする部分の脆化層20を他の部分よりも厚く形成し(
図11(a))、研磨によって配線パターンに対応した溝32を有する構造104aを形成する(
図11(b))。次いで、形成された溝32に配線金属34を堆積(
図11(c))した後、研磨によって溝32内の配線金属34を除いて配線金属34を除去(
図11(d))することで、配線構造が形成される。また、表面全体に脆化層が形成された部分を研磨によって除去した後、高温で加熱し、脆化層を高結晶化させることで、部分的にイオンがドーピングされた層を形成させることもできる。半導体装置を製造する際にはこれらの工程を適宜組み合わせることができる。これにより、例えば、SiC等の半導体材料で構成され、一方の面に凹凸が形成された基板と、前記基板の凹凸が形成された面上に半導体層および導電層を積層した素子部とを備えた半導体装置などを得ることができる。
【実施例0050】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0051】
[実施例]
1.イオンインプランテーション(イオン注入)
(材料・条件)
・基板:SiCウエハ、20mm角基盤
・装置:IMX-3500
・イオン種:Ar+
・加速電圧:50kV
・ドーズ量:10×1017ion/cm2
【0052】
イオン注入後の基板は、イオン注入した面が黒色化した。
図12は、イオン注入前後の試験基板の断面SEMである。
図12に示すように、脆化層が表層から5μm程度形成されていることがわかる。
【0053】
2.研磨
(材料・条件)
・スラリー:PL-7(扶桑化学工業株式会社、高純度コロイダルシリカ)を水で2倍希釈して用いた。
・研磨パッド:SUBA(登録商標)600(ニッタ・デュポン株式会社)
・研磨時間:20分
・パッド回転数:60rpm
・ヘッド回転数60rpm
・荷重(面圧):8.45psi
・スラリー滴下量:12cc/min
【0054】
図13は、研磨実験を行った装置の写真である。
図13(a)に示すように、ヘッドに試験基板を貼り付けた後、
図13(b)に示すように装置にセッティングして、研磨を行った。なお、研磨部分を観察しやすいように一部に残膜が残るように研磨した。
【0055】
図14は、研磨部分の研磨前後の試験基板の断面SEMである。
図14に示すように、表面の脆化層が削られていることが確認された。また、
図15は、レーザー顕微鏡を用いた高さ測定の結果である。この結果、研磨レート15μm/h以上と高速に研磨できていることがわかった。上記の通り、研磨部分を強調するため、敢えて一部のエリアで残膜を残した状態としており、ここでは一部の領域で脆化層が除去され平滑面が露出している様子が確認できた。
【0056】
[比較例]
イオン注入をせずに、実施例1と同様の研磨条件で研磨を行った。その結果、研磨レート0.2μm/h程度であった。
本発明によれば、IGBTに替わる次世代パワー半導体技術への応用、パワー半導体製造の効率化ができ、本発明は、電車などのモビリティー、5Gなどの高速通信技術、電車やリニアモーターカーなどの鉄道分野などパワー半導体が利用されている様々な分野で有用である。