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特開2025-15229示温材および、温度センシングシステム
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  • 特開-示温材および、温度センシングシステム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025015229
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】示温材および、温度センシングシステム
(51)【国際特許分類】
   G01K 11/12 20210101AFI20250123BHJP
   G01K 11/165 20210101ALI20250123BHJP
   C09K 19/38 20060101ALI20250123BHJP
   C09K 19/56 20060101ALI20250123BHJP
   G01N 25/02 20060101ALN20250123BHJP
【FI】
G01K11/12 Z
G01K11/165
C09K19/38
C09K19/56
G01N25/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023118502
(22)【出願日】2023-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】三ツ井 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】工藤 康太郎
(72)【発明者】
【氏名】小玉 啓祐
【テーマコード(参考)】
2G040
4H027
【Fターム(参考)】
2G040AB20
2G040CA01
2G040CA12
2G040CA23
2G040DA10
2G040DA12
2G040HA05
4H027BA02
4H027BA04
4H027BA12
4H027BD02
4H027BD23
4H027BD24
4H027BE02
4H027BE04
4H027BE07
(57)【要約】
【課題】 配線が付随せず測定箇所に設置しやすく、高温域について高精度に面温度を測定する部材およびシステムを提供する。
【解決手段】 部材は、100℃以上で選択反射波長域を有し、同反射波長域のピーク波長が1nm/℃以上変化する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
100℃以上で選択反射波長域を有し、前記反射波長域のピーク波長が1nm/℃以上変化する部材。
【請求項2】
液晶材料を含む、請求項1に記載の部材。
【請求項3】
前記液晶材料の等方性液体への相転移温度が200℃以上である、請求項2に記載の部材。
【請求項4】
前記液晶材料が重合性基を有する、請求項2に記載の部材。
【請求項5】
前記液晶材料が、コレステリック液晶性を有する、請求項2に記載の部材。
【請求項6】
さらに、1種以上のキラル剤を含む、請求項5に記載の部材。
【請求項7】
前記キラル剤のねじり力HTP(Helical Twisting Power)の温度変化率が、0.15%/℃以上である、請求項6に記載の部材。
【請求項8】
前記選択反射波長のピーク波長が、200nm以上1500nm以下の範囲である、請求項1に記載の部材。
【請求項9】
前記選択反射波長の反射スペクトルの半値幅が100nm以下である、請求項1に記載の部材。
【請求項10】
前記液晶材料が、スメクチックA相を呈する温度領域を有する液晶材料である、請求項2に記載の部材。
【請求項11】
さらにキラル剤を含む、請求項10に記載の部材。
【請求項12】
同部材が、熱で重合する、請求項1に記載の部材。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の部材と基材とを含む温度測定用材料。
【請求項14】
請求項1~12のいずれか1項に記載の部材を含み、反射スペクトルを測定することにより、温度を同定する温度センサ。
【請求項15】
所定の時刻の温度に対応して反射スペクトルが変化し、前記所定の時刻以降は温度変化に伴い、前記反射スペクトルは変化しない、請求項1~12のいずれか1項に記載の部材。
【請求項16】
所定の時刻の温度に対応して反射スペクトルが変化し、前記所定の時刻以降は温度変化に伴い、前記反射スペクトルは変化しない、請求項1~12のいずれか1項に記載の部材を含み、前記所定の時刻の温度に対応した反射スペクトルを、前記所定の時刻より後の時刻において測定し、前記所定の時刻の温度を同定する温度センサ。
【請求項17】
請求項14および16の温度センサの前記反射スペクトルを、画像として測定することで面温度を同定するセンシングシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度と相関して色味が変化する材料および、それを用いた温度センシングに関する。
【背景技術】
【0002】
工業製品の製造工程、食品の調理加熱工程などにおいて、高い品質を担保するため、加熱用部材および、加熱された対象物の温度を精密に測定することが必要とされる。特に、高い品質の担保が必要となる、半導体の製造工程などでは、100~200℃、場合によっては200~300℃以上の高温領域で、1℃以下の精度で測定することが必要となる。
【0003】
一般に、温度を測定する場合、熱電対やサーミスタなどの温度に伴って電気的に変化する素子を用いて測定することが多い。この時、電力の導入が必要となり、外部制御装置との間に配線が必要になり、測定したい箇所、装置の中に導入しにくい。また、上記素子によって面温度分布を測定しようとする場合、面内にそれらの素子を複数個並べて配置する、もしくは予め配置したセンサにより測定するが、上記素子は1個当たりの大きさがおおきいため、分解能を高める事が難しい。また、複数個を平面内に敷設する場合、必要な配線が増加し、配線の引回し、取り扱いが更に煩雑になる。
【0004】
一方、外部からの動力が必要のない形式として、温度に対応して色味変化する材料を用いる例もある。温度に伴い分子構造が変化するロイコ色素や、ワックスなど溶解などで相変化し色味が変わる材料が挙げられるが、加温に対し徐々に変化する特性などにより、測定できる温度の分解能が低い。
【0005】
温度に対応して色味が変化する材料の別の例として、コレステリック液晶が挙げられる。温度に対応して、コレステリック液晶のピッチが変化することにより、色味が変化し、温度に対する追従性が良いため、温度に一意に対応した色味、反射スペクトルを有する。ただし、従来、コレステリック液晶は、ディスプレイなどの用途において用いられ温度変化させないことが主眼であり、また、室温もしくは、室温+20~60℃程度の利用環境を前提としていた事から(特許文献1)、特に高温域で分解能高く温度センシングすることに用いる発想や、実際に検討した例はなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017―125741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の例では、温度に伴って色味が変化する材料を用いて、精度高く温度、特に面温度をセンシングする検討が不足しており、それを達成するための具体的な態様についてはこれまで開示されてこなかった。
【0008】
本発明の目的は、外部動力を用いず配線なしに温度を測定することあり、特に高温域について高精度に面温度を測定する部材およびシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題を解決するために、本発明は、以下の構成を有する。
[1]100℃以上で選択反射波長域を有し、反射波長域のピーク波長が1nm/℃以上変化する部材。
[2]液晶材料を含む、[1]に記載の部材。
[3]液晶材料の等方性液体への相転移温度が200℃以上である、[2]に記載の部材。
[4]液晶部材が重合性基を有する、[2]または[3]に記載の部材。
[5]液晶材料が、コレステリック液晶性を有する、[2]~[4]のいずれかに記載の部材。
[6]1種以上のキラル剤を含む、[5]に記載の部材。
[7]キラル剤のねじり力HTP(Helical Twisting Power)の温度変化率が、0.15%/℃以上である、[6]に記載の部材。
[8]選択反射波長のピーク波長が、200nm以上1500nm以下の範囲である、[1]~[7]のいずれかに記載の部材。
[9]選択反射波長の反射スペクトルの半値幅が100nm以下である、[1]~[8]のいずれかに記載の部材。
[10]液晶材料が、スメクチックA相を呈する温度領域を有する液晶材料である、[2]~[9]のいずれかに記載の部材。
[11]さらにキラル剤を含む、[10]に記載の部材。
[12]熱で重合する、[1]~[11]のいずれかに記載の部材。
[13][1]~[12]のいずれかに記載の部材と基材とを含む温度測定用材料。
[14][1]~[13]のいずれかに記載の部材を含み、反射スペクトルを測定することにより、温度を同定する温度センサ。
[15]所定の時刻の温度に対応して反射スペクトルが変化し、前記所定の時刻以降は温度変化に伴い、前記反射スペクトルは変化しない、[1]~[13]のいずれかに記載の部材。
[16]所定の時刻の温度に対応して反射スペクトルが変化し、前記所定の時刻以降は温度変化に伴い、前記反射スペクトルは変化しない、[1]~[13]および[15]のいずれかに記載の部材を含み、前記所定の時刻の温度に対応した反射スペクトルを、前記所定の時刻より後の時刻において測定し、前記所定の時刻の温度を同定する温度センサ。
[17] [14]または[16]の温度センサの前記反射スペクトルを、画像として測定することで面温度を同定するセンシングシステム。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、外部動力を用いず配線なしのため測定箇所に設置しやすく、高温域について高精度に面温度をセンシングできる新たな部材およびシステムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の概念図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の電極について、詳細に説明する。
【0013】
本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
本明細書において、「同一」は、技術分野で一般的に許容される誤差範囲を含むものとする。
【0014】
なお、以下に示す図は、いずれも、本発明を説明するための概念的な図である。従って、各部材の形状、厚さ、大きさ、および、位置関係等は、必ずしも、実際のものとは一致しない。
【0015】
本発明において、鋭意検討の結果、100℃以上で選択反射波長スペクトルを有し、反射波長スペクトルのピークが1℃の温度変化に対し1nm以上変化する部材を用いる事で、高温領域の温度、特に面温度を、部材に接続される配線(動力)なしに、精密に測定できることを見出した。
高温の温度域は、測定したい対象によって調整することができる。より高温の領域を測定した場合、150℃以上で1nm/℃以上変化することが好ましく、200℃以上で1nm/℃以上変化することが好ましい。温度変化に対し急峻に変化すること、具体的には1nm/℃以上変化することで、精度高く温度同定することができ、好ましくは2nm/℃以上、より好ましくは5nm/℃以上、更に好ましくは10nm/℃以上変化することで更に精度高く温度同定することができる。急峻に温度に対しスペクトル変化するほど、温度に対する反射スペクトル(色味)が大きく変化することになり、例えば、紫外域~可視域~赤外域と変化していくことになる。そのため、例えば、目視、可視カメラなどで観察、同定する場合、可視域で変化が観察できる様、複数の部材を用意することが好ましい。1つもしくは少ない部材で測定したい場合、広い波長域を測定できる測定系を用いる事が好ましい。上限値については特に限定されないが、反射スペクトルのピークの変化が大きいと、反射スペクトルの波長域が、紫外、可視、近赤外、遠赤外など、複数の領域をまたぎやすくなり、反射スペクトル(色味)の測定手段が非常に複雑になる場合がある、あるいは、可視域に測定手段を限定すると、測定できる温度域が極端に狭くなる場合があるため、反射波長スペクトルのピークは1℃の温度変化に対し300nm以下変化することが好ましく、100nm以下変化することがより好ましい。
【0016】
示温部材の色味から、温度を同定する方法として、予め、示温部材の、各温度での色味を記録しておき、実際の測定時の、各温度に対応して発現した色味を、該記録を比較して同定することができる。予め記録しておく各温度の色味は、反射スペクトルとして記録しておき温度に対するピーク波長、色度などの検量線としてデータ化し、実測定時のデータを解析することも精度を高めるために好ましい。反射スペクトル、色味の測定は、同じ手法を用いて、事前の記録と、実測定を行っても良いし、データが変換できるのであれば、事前の記録と、実測定の手段が異なっていても良い。
本発明の部材における、反射スペクトル(色味)が変化する温度域は、温度を測定するために、各温度に対し、一意の反射スペクトルを有する範囲に規定されることが好ましい。規定される温度域の幅(反射スペクトル(色味)が、温度によって変化することが観察される、規定した下限温度と、上限温度の差)が広いと、1部材で幅広い温度を測定できるため好ましいが、温度域が広いとその分、反射スペクトルの(色味)の変化も大きくなるため、測定手段が限定されることもある。温度域の幅(反射率の反射スペクトルの(色味)が温度によって変化する、規定した下限温度と、上限温度の差)は、1℃以上が好ましく、5℃以上がより好ましく、10℃以上が更に好ましく、50℃以上がより更に好ましい。
上述のように、本発明の部材は、規定した温度域において、各温度に対し、一意の反射スペクトルを有することが好ましい。例えば、温度上昇に伴い、反射スペクトルの反射域が長波に一方向にシフトしていく温度域を用いる、あるいは、温度上昇に伴い、反射スペクトルの反射域が短波に一方向にシフトする温度域を用いることができる。反射スペクトルのトップピークの変化率は、規定温度域の幅に対する、反射スペクトルのトップピークの変化幅で算出することができる。規定温度域の幅は、色味変化する温度域の中から、任意に設定することができる。なお、トップピークとは、ベースライン(反射ピークが無い波長域での反射率)に対し、反射率が上昇する反射域(反射ピークがある波長域)において、反射率が最大である波長の値を差す。
【0017】
本発明の部材において、液晶材料(液晶性を示す化合物、材料)を含んでなる事が好ましく、コレステリック液晶性を示す事が好ましい。液晶性を示す化合物(以後、「液晶性化合物」ともいう。)は、種々の用途に適用されており、例えば、液晶性化合物は、位相差膜に代表される光学異方体の製造、又は、コレステリック液晶相を固定してなる反射膜の製造に適用されており、それらの材料例を参考にすることもできる。コレステリック液晶の、ピッチ間隔が温度に依存して一意に変化する特性により、温度を同定することができる。コレステリック液晶性は、ヒドロキシプロピルセルロースのように材料自体の特性として示しても良いし、ネマチック性を示す液晶材料にキラル剤を混合することにより発現させても良い。耐熱性、温度特性、反射スペクトルの帯域などを制御するためには、キラル剤を併用する系が好ましい。
【0018】
本発明において、好ましく用いられる材料例を以下に示す。高温で用いるために、ネマチック特性を示す転移点(相転移温度)から、iso点(等方性相への転移点、相転移温度ともいう)までの温度領域が、測定したい温度領域と重複もしくは含むことが必要である。ネマチック特性を示す転移点は、混合する材料によって変化しうるので、液晶材料だけでなく、混合する材料の種類、量も考慮して上記態様になるように制御する必要がある。
スメクチック相、結晶化相の相転移温度は、以下に示す方法で測定することができる。光学顕微鏡(Nikon社製ECLIPSE E600 POL)の二枚の偏光子を互いに直交するように配置し、二枚の偏光子の間にサンプル台をセットし、調製した重合性組成物をスライドガラスに少量乗せ、サンプル台上に置いたホットステージ上にスライドガラスをセットした後、サンプルの状態を顕微鏡で観察しながら、ネマチック相まで加熱した後、10℃/分で降温させながら、スメクチック相(Sm)の上限温度および結晶化温度を測定し、スメクチック相(Sm)の温度範囲を算出する。
Iso相(等方性相)の相転移温度は、同様に偏光顕微鏡を用いて同定できる。
液晶性を示す温度領域が広い化合物に特に制限はないが、例えば、分子中央(コア)に相互作用が強い構造(例えば、特願2019-068662記載の1,4-位に側鎖構造を有するナフタレン骨格等)を有するような材料を好ましく用いる事もできる。この構造の場合、分子間のスタッキング性が向上するため、液晶性を示す上限温度が高くなり、温度領域が広くなったと考えられる。
【0019】
液晶材料としては、特願2019-177850、特願2019-530600、特願2019-068662等に記載の液晶化合物が好ましい。
液晶材料の構成比としては、重量%で70%以上が好ましく、80%以上が更に好ましく、90%以上が特に好ましい。上限に特に制限はないが100%未満が好ましい。
液晶材料の特性として、本願規定を実現する範囲で、コレステリック液晶性をより高温域まで示すために、iso点は200℃以上が好ましく、250℃以上が更に好ましく、300℃以上が特に好ましい。また、同様の観点で、結晶化温度は100℃未満が好ましく、80℃以下が更に好ましい。相転移温度は、加温しながら偏光顕微鏡観察にて同定した。
液晶材料は複数種を含んでいても良い。末端基として、アクリロイル基などの重合性基、エポキシ基、オキセタン基などを含んでいることも好ましい。
液晶材料の位相差Δnは、0.01<Δn<0.15が好ましく、より好ましくは0.011<Δn<0.12、0.012<Δn<0.10が更に好ましい。
【0020】
キラル材としては、特に制限はないが、特願2001-005741、特願2001-246704、特願2019-513701に記載のキラル剤を好ましく用いることができる。
一般的に、コレステリック液晶相は、ネマチック液晶にキラル化合物を添加することにより形成される。上記特許文献では、強い螺旋捻じり力(HTP:Helical twisting power)を有する重合性キラル化合物として、ビナフチル骨格を有する重合性キラル化合物を開示している。
キラル材の特性として、少量でコレステリック性を示す方が液晶性が高くなるため、重量%で30%以下が好ましく、20%以下が更に好ましく、10%以下が特に好ましい。下限に特に制限はないが1%以上が好ましい。また、同様の観点で、HTPの変化率は、0.15%/℃以上が好ましく、0.25%/℃以上が好ましく、0.50%/℃以上が更に好ましい。
キラル材は複数種を含んでいても良い。
【0021】
本願規定の温度変化をもたらす方法に、特に制限はないが、例えば、ネマチック液晶相にキラル剤を混合してコレステリック液晶性を発現させる場合、温度によって構造が変化しやすいキラル剤を用いる事が好ましい。例えば、下記一般式(I)で表される化合物を用いることができる。
【0022】
【化1】
【0023】
前記式中、Rは、水素原子、炭素数1~15のアルコキシ基、総炭素数3~15のアクリロイルオキシアルキルオキシ基、総炭素数4~15のメタクリロイルオキシアルキルオキシ基を表す。
前記炭素数1~15のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、ドデシルオキシ基等が挙げられ、中でも、炭素数1~10のアルコキシ基が好ましく、炭素数1~8のアルコキシ基が特に好ましい。
【0024】
前記総炭素数3~15のアクリロイルオキシアルキルオキシ基としては、例えば、アクリロイルオキシ基、アクリロイルオキシエチルオキシ基、アクリロイルオキシプロピルオキシ基、アクリロイルオキシヘキシルオキシ基、アクリロイルオキシブチルオキシ基、アクリロイルオキシデシルオキシ基等が挙げられ、中でも、炭素数3~13のアクリロイルオキシアルキルオキシ基が好ましく、炭素数3~11のアクリロイルオキシアルキルオキシ基が特に好ましい。総炭素数4~15のメタクリロイルオキシアルキルオキシ基としては、例えば、メタクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシエチルオキシ基、メタクリロイルオキシヘキシルオキシ基等が挙げられ、中でも、炭素数4~14のメタクリロイルオキシアルキルオキシ基が好ましく、炭素数4~12のメタクリロイルオキシアルキルオキシ基が特に好ましい。また、例えば、特開2003―55315、特開2018-1914157などに記載の材料を好ましく用いる事ができる。
【0025】
また、例えば、スメチックA相を示す液晶材料に、キラル剤を導入することにより、ネマチックースメクチックA相転移点の低温側近傍で、急峻に反射スペクトルを変化させることができる。この原理については明確ではないが、コレステリック相に、結晶性材料が夾雑することで急峻にピッチが変化する挙動と推測させる。この時、スメクチックA相転移点は、キラル材料の混合量により変化するため、所望の温度域、所望の反射スペクトルピークで本願規定の変化を実現させるためには、キラル材料導入するほど、コレステリック相のピッチが狭く短波長側にシフトし、スメクチックA相転移点(急峻に変化する最大温度)が低くなることを考慮し、液晶材料単体でのスメクチックA相転移点、キラル剤の種類、量を制御する必要がある。
この場合、スメクチックA転移点は、本願規定の内容を満たすため、キラル材料などの影響で温度域が低下することも考慮し、100℃以上であることが好ましい。より高温域を測定するためには、150℃以上であることが好ましく、200℃以上であることがより好ましく、250℃であることが更に好ましい。
【0026】
色味で温度を同定する際、反射スペクトルのベースライン(反射ピークが無い波長域での反射率)に対する選択反射波長域の反射率は大きい方が差異を同定しやすく好ましい。反射スペクトルのベースラインと、選択反射波長域の反射率の差分は、10%以上が好ましく、20%以上がより好ましく、30%以上が更に好ましい。同様に、選択反射波長の帯域(反射スペクトルの半値幅)は狭い方が差異を同定しやすく好ましい。反射スペクトルの半値幅は、200nm以下が好ましく、150nm以下がより好ましく、100nm以下がさらに好ましい。反射スペクトルは、積分球を有する通常の全光反射率測定装置により測定することができる。
選択反射波長域は、特に制限はないが、紫外、可視、赤外域だと、観察装置の入手、選択がしやすく好ましい。選択反射波長域として、反射スペクトルのトップピークは、200nm以上1500nm以下であることが好ましく、300nm以上1100nm以下であることが好ましく、400nm以上700nm以下であることが更に好ましい。
反射スペクトルおよび、反射スペクトルの温度依存性は、温度可変ステージが搭載された分光光度計を用いて測定することができる。
【0027】
本願規定の部材において、上記液晶材料、キラル材の他、耐久性改良材、熱伝導材料、可塑剤、着色材など、他の材料を含んでいてもよい。また、単一層でなく、複数の液晶層、あるいは、耐擦層、バリア層、着色層、反射防止層などの他の機能層などの複数層からなる構成にしても良い。
【0028】
図1に、本発明の部材を用いた温度測定用材料の一例を概念的に示す。図1に示す温度測定用材料10は、基材12と、示温部材14を有する。示温部材は、本願規定の部材からなる。
【0029】
基材12に特に制限はなく、測定したい場所、装置、温度域によって任意に選択することができ、ガラス、シリコン、PETなどのフィルムなどを好ましく用いる事ができる。複数材料の積層材料でも良い。半導体工程の測定などの場合、発塵しない、ガラス、シリコンが好ましい。形状、厚みに特に制限はないが、温度管理したい装置で使用する基材の形態、厚みと同じまたは似せる事が好ましい。ローラーなど曲率がある部分の測定がしたい場合、フィルム状のフレキシブル性のある基材を用いる事が好ましい。厚みは厚すぎると熱伝導性が悪い、熱容量が大きくなるなどにより、測定部の温度に対する追随性が悪くなるなど問題が生じる場合があり、1000μm以下が好ましく、500μm以下が好ましい。フレキシブル性が必要な場合は、更に200μm以下が好ましく、100μm以下が好ましい。厚みの下限についても特に制限はないが、ハンドリング性の観点から、10μm以上が好ましく、40μm以上が好ましい。
また、基材12と示温部材14は直接接していても良いし、色味の変化を視認しやすくするため、基材12と示温部材14の間に、着色層(例えば、観察波長域の光を吸収する層)を有していても良い。着色層は、基材12が観察波長に対して透過性有る場合は基材12の、示温部材14の反対側に有っても良い。
また、液晶層を用いる場合、基材12の、示温部材14側に、液晶配向層を有していても良い。液晶配向層については、特に制限はないが、特願2019-513701、特願2019-068662などに記載の例などを好ましく用いることができる。
【0030】
図1における、示温部材14の、反射スペクトルのピーク波長域、半値幅、反射率は、前述のように、温度測定したい装置、状況によって適宜選択することができる。
【0031】
示温部材14の厚みに、特に制限はないが、厚い方が、反射スペクトルのベースラインと、選択反射波長域の反射率の差分が大きくなるため、3μm以上が好ましく、5μm以上が更に好ましく、10μm以上が更に好ましい。
【0032】
温度測定用部材の、温度に対応した反射スペクトルを観察し、温度測定するための手段に制限はなく、目視での色味見本との比較、スペクトルアナライザーでのスキャニングなどを用いても良く、画像により、色調を分離解析し、温度を同定することもできる。画像を取得するための撮像装置に特に制限はないが、CMOS/CCDななどの撮像素子とレンズを組み合わせたカメラモジュールを好ましく用いる事ができる。同モジュールにおいて、撮像素子は、同部材の呈色波長に合わせた、測定感度領域を有することが好ましい。
【0033】
本願規定の温度測定用部材について、温度に対応した反射スペクトルを観察し、温度測定する手法として、ある時刻の温度に対応した反射スペクトルをその時点で固定し、その時刻以降の温度変化で反射スペクトルを測定する方法でも良い。この場合、測定する手段は、加熱部分近傍に設置する必要はなく、本願部材を装置外に取り出した後、別の場所で測定しても良い。
反射スペクトルを固定する方法として、液晶材料を重合固定することができる。光開始剤を含有した、アクリロイル基を有する液晶材料を用いた部材において、測定したい温度タイミングで光照射して固定することもできるし、熱開始剤を含有した、アクリロイル基を有する液晶材料を用いた部材において、測定したい温度タイミングで熱開始剤からラジカル発生するように設計して固定することもできる。測定したい温度タイミングでラジカル発生させるために、同領域で熱分解するアクリロイル基を用いても良い。熱重合させるためにエポキシ基など他の反応を用いても良いし、酸発生剤などの機構を用いても良い。
測定したい時間タイミングで反応開始する手段として、重合禁止剤を含有させ所定時間まで反応しないようにする、開始剤を液晶層と別層に設置し、加温により拡散、液晶層に到達するまで反応開始しないようにする、などの方法がある。
【0034】
上記のように、温度に対応した反射スペクトルを観察し、温度測定する手法として、ある時刻の温度に対応した反射スペクトルをその時点で固定し、その時刻以降の温度変化で反射スペクトルを測定する方法を用いる場合、固定する機構を補完、補強する層を設けても良い。例えば、ラジカル反応の場合、反応阻害する物質(例えば酸素)を遮蔽する層を、示温部材の、基材と逆側(上層)に設けても良いし、下層からの阻害が考慮される場合は、基材側に該遮蔽層を設けても良い。
【0035】
本発明の示温部材、温度測定用部材、温度測定システムは、高温の加熱部を精度高く測定したい場合、配線などの取り回しが難しい閉鎖系、ライン系で好ましく効果をあげることができる。例えば、半導体用途のホットプレート温度分布の測定、フィルム製造工程の加熱ローラー表面の温度分布の測定に好ましく用いることができる。
【0036】
本発明の示温部材、温度測定用部材は、平板形状でも良く、装置、工程の形態に合わせて、曲面、3次元構造になっていても良い。
【0037】
本発明の示温部材の形成方法に特に制限はないが、スピンコート方式、ダイコート方式、ディップコート方式、インクジェット方式などで好適に形成できる。それぞれ、適切な溶媒に溶解させ、成膜後、乾燥させることでも好ましく形成できる。
【実施例0038】
以下に実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。
以下に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す態様により限定的に解釈されるべきものではない。
【0039】
(実施例1)
洗浄したガラス基板上にポリイミド配向膜SE-130(日産化学社製)を塗布して塗膜を形成した。得られた塗膜を焼成した後、ラビング処理することにより、配向膜付き基板を作製した。
更に、下記組成の組成物1を秤量、混合した。60℃にて加温しながらスターラーにて1時間程度混合・攪拌して、2000μLの組成液1を調液した。
配向膜のラビング処理面に、100μLの組成液1を回転数500rpm、20秒間の条件でスピンコートして塗膜を形成し、130℃で1分間乾燥し、約3μmの膜厚の反射膜1を得た。
【0040】
(組成物1)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
・下記重合性液晶化合物L-1 0.3678質量部
・下記キラル剤K-1 0.0276質量部
・下記配向剤T-1 0.0037質量部
・MEK 0.800質量部
・シクロペンタノン 0.800質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0041】
重合性液晶化合物L-1
【0042】
【化2】
【0043】
キラル剤K-1
【0044】
【化3】
【0045】
配向剤T-1
【0046】
【化4】
【0047】
(実施例2~4、比較例1)
実施例1の組成物1に対し、組成物2~4、比較例組成物1を用いる事以外は同様にして、実施例2~4の反射膜2~4、比較例1の比較反射膜1を得た。
尚、各液晶化合物の合成方法は、例えば特願2019-068662に記載例にあるような合成方法にて合成した。キラル剤は特願2019-513701に記載のように公知の合成方法にて合成した。
【0048】
(組成物2)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
・上記重合性液晶化合物L-1 0.3721質量部
・上記キラル剤K-1 0.0242質量部
・上記配向剤T-1 0.0037質量部
・MEK 0.800質量部
・シクロペンタノン 0.800質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0049】
(組成物3)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
・下記重合性液晶化合物L-2 0.3620質量部
・上記キラル剤K-1 0.0344質量部
・上記配向剤T-1 0.0036質量部
・MEK 0.800質量部
・シクロペンタノン 0.800質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0050】
重合性液晶化合物L-2
【0051】
【化5】
【0052】
(組成物4)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
・下記重合性液晶化合物L-2 0.3620質量部
・下記キラル剤K-2 0.0344質量部
・上記配向剤T-1 0.0036質量部
・MEK 0.800質量部
・シクロペンタノン 0.800質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0053】
キラル剤K-2
【0054】
【化6】
【0055】
比較例
(比較組成物1)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
・下記重合性液晶化合物L-3 0.3774質量部
・下記キラル剤K-3 0.0189質量部
・上記配向剤T-1 0.0038質量部
・MEK 0.800質量部
・シクロペンタノン 0.800質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0056】
重合性液晶化合物L-3
【0057】
【化7】
【0058】
キラル剤 K-3
【0059】
【化8】
【0060】
(反射スペクトルの測定)
反射スペクトルは、温度ステージのついた分光光度計により、各温度のスペクトルを測定した。反射スペクトルの波形から、半値幅、ピーク波長(最大反射率を呈する波長)を求めた。色味が変化する温度域の中から、温度上昇に対し、スペクトルのトップピークが一方向に変化(長波化あるいは短波化)する温度域を規定し、その下限温度と上限温度の温度差に対する、対応するトップピーク波長の変化幅の比率の絶対値を、温度変化率として算出した。
【0061】
(色味からの温度測定精度の評価)
実施例1~4および、比較例1について、色味変化温度域の中央温度付近に温度設定したホットプレート上に設置し、カメラで色味を撮像した。予め、同撮像条件でサンプルの温度を熱電対で測定しながら変更し撮像した画像の色味データと、今回撮像した画像の色味データを比較し、中央部分の温度を算出した。その際、撮像した際の中央部分の温度を別途熱電対で測定した。熱電対での測定結果と、画像データから算出した色味データの比較から、温度測定精度の評価を以下の基準で行った。
6:画像データの解析から、熱電対値と非常に良く合う温度値が得られた。
5:画像データの解析から、熱電対値と良く合う温度値が得られた。
4:画像データの解析から、熱電対値とほぼ合う温度値が得られた。
3:画像データの解析から、熱電対値と近しい値が得られた。
2:画像データの解析から、熱電対値と少し差がある値が得られた。
1:画像データの解析から、熱電対値と差がある値が得られた。
【0062】
実施例1~4および、比較例1の評価結果を表1に示す。ピーク波長、半値幅は、温度変化に対し、一意の方向に変化していた。実施例1~4と比較例1の結果から、本発明の態様において、精度高く温度を定量できることが分かる。また、本実施例において、サンプル内で中央部と中央部以外の温度差が色味の違いとして検知できることが確認でき、面温度分布を本発明により精度高く検知できることが確認された。
【0063】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0064】
半導体装置の加熱箇所の面温度分布、フィルム製造における加熱ロールの面温度分布、食品加工における調理加熱板の面温度分布などの各種の加熱部位および、加熱された物体の面温度分布測定用に、好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0065】
10 温度測定用材料
12 基材
14 示温部材
図1