IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日立ハイテクノロジーズの特許一覧

<>
  • 特開-分子除去方法および分子除去装置 図1
  • 特開-分子除去方法および分子除去装置 図2
  • 特開-分子除去方法および分子除去装置 図3
  • 特開-分子除去方法および分子除去装置 図4
  • 特開-分子除去方法および分子除去装置 図5
  • 特開-分子除去方法および分子除去装置 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025152425
(43)【公開日】2025-10-09
(54)【発明の名称】分子除去方法および分子除去装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 3/12 20060101AFI20251002BHJP
   B01F 33/452 20220101ALI20251002BHJP
【FI】
B01D3/12
B01F33/452
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024054318
(22)【出願日】2024-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】泉 貴仁
(72)【発明者】
【氏名】石井 良一
【テーマコード(参考)】
4D076
4G036
【Fターム(参考)】
4D076AA07
4D076AA16
4D076AA24
4D076BA50
4D076BB13
4D076CD01
4D076CD22
4D076DA22
4D076EA04Z
4D076EA14Z
4D076HA14
4D076JA03
4G036AC24
(57)【要約】
【課題】分子蒸留法のみでは除去が困難な分子成分の除去を可能とする分子除去方法および分子除去装置を提供する。
【解決手段】基油から分子成分を除去する分子除去方法であって、(a)チャンバ内に前記基油と前記基油内に配置された攪拌子とが入った容器を配置した状態で、前記チャンバ内を真空排気する工程、(b)前記真空排気により、前記チャンバ内の圧力が1mPa未満となった状態で、前記攪拌子を回転させて前記基油を攪拌する工程、を有する分子除去方法を用いる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油から分子成分を除去する分子除去方法であって、
(a)チャンバ内に前記基油と前記基油内に配置された攪拌子とが入った容器を配置した状態で、前記チャンバ内を排気する工程、
(b)前記排気により、前記チャンバ内の圧力が1mPa未満となった状態で、前記攪拌子を回転させて前記基油を攪拌する工程、
を有する、分子除去方法。
【請求項2】
請求項1に記載の分子除去方法において、
前記攪拌子は、磁石を内蔵し、
前記攪拌子は、前記容器の外部に配置された回転ユニットが磁場を回転させることによって回転し、
前記攪拌子は、前記回転ユニットと非接触で回転する、分子除去方法。
【請求項3】
請求項2に記載の分子除去方法において、
前記攪拌子および前記回転ユニットは、マグネチックスターラを構成している、分子除去方法。
【請求項4】
請求項1に記載の分子除去方法において、
前記(b)工程では、前記攪拌子の回転により前記基油の表面に渦を発生させる、分子除去方法。
【請求項5】
請求項4に記載の分子除去方法において、
前記(b)工程では、前記渦の下の前記攪拌子は、前記基油に覆われている、分子除去方法。
【請求項6】
基油を攪拌し、前記基油内の分子成分を除去する分子除去装置であって、
チャンバと、
前記チャンバ内の雰囲気を100μPa未満の圧力に排気可能な真空ポンプと、
前記チャンバ内に配置可能な容器と、
前記容器内に入れられ、磁石を含む攪拌子と、
磁場を回転させることによって前記攪拌子を回転可能に構成された回転ユニットと、
を備え、
前記攪拌子の回転により、前記容器内に入れられた前記基油を攪拌する、分子除去装置。
【請求項7】
請求項6に記載の分子除去装置において、
前記回転ユニットを制御するコンピュータシステムをさらに有し、
前記コンピュータシステムは、前記チャンバ内の圧力が1mPa未満の状態で、前記回転ユニットに磁場を回転させ、これにより前記攪拌子を回転させる、分子除去装置。
【請求項8】
請求項6に記載の分子除去装置において、
前記基油内で前記攪拌子を回転させることで、前記基油の表面に渦を発生させる、分子除去装置。
【請求項9】
請求項6に記載の分子除去装置において、
前記チャンバ内に配置されたヒータをさらに有し、
前記ヒータを加熱させることで、前記チャンバの内壁に付着した分子成分を放出させる、分子除去装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、基油から低分子成分を除去して潤滑剤を精製する際に用いる分子除去方法および分子除去装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子顕微鏡等、真空チャンバを備えた装置に搭載されている試料ステージ等の摺動部の潤滑剤として、フッ素系潤滑油が使用されている。フッ素系潤滑油は気化する温度範囲が広く、フッ素などの分子(ガス)が周辺環境へ放出され易い。この放出される分子(ガス)を減少させる方法として、特許文献1(特開2017-25324号公報)に、分子蒸留法によってポリマー組成物から低沸点成分および高沸点成分を除去する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-25324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されているような分子蒸留法によって分子成分を除去する手法は、真空環境下で蒸発面と凝縮面との間隔を近接させた状態で蒸留を行うものであるが、基油に含まれる低分子成分の量が多いと十分に分子成分を除去できない場合がある。フッ素系の化合物等の低分子成分が十分に除去されていないと、例えば電子顕微鏡の真空チャンバ内で当該低分子成分がガス化し、観察対象である半導体ウェハ、または真空チャンバの内壁に付着し、二次的なガスの発生源となり得る。
【0005】
本開示に記載の技術は、分子蒸留法のみでは除去が困難な分子成分の除去を可能とする分子除去方法および分子除去装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願において開示される実施の形態のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0007】
一実施の形態である分子除去方法は、基油から分子成分を除去する分子除去方法であって、(a)チャンバ内に前記基油と前記基油内に配置された攪拌子とが入った容器を配置した状態で、前記チャンバ内を排気する工程、(b)前記排気により、前記チャンバ内の圧力が1mPa未満となった状態で、前記攪拌子を回転させて前記基油を攪拌する工程、を有するものである。
【0008】
一実施の形態である分子除去装置は、基油を攪拌し、前記基油内の分子成分を除去する分子除去装置であって、チャンバと、前記チャンバ内の雰囲気を100μPa未満の圧力に排気可能な真空ポンプと、前記チャンバ内に配置可能な容器と、前記容器内に入れられ、磁石を含む攪拌子と、磁場を回転させることによって前記攪拌子を回転可能に構成された回転ユニットと、を備え、前記攪拌子の回転により、前記容器内に入れられた前記基油を攪拌するものである。
【発明の効果】
【0009】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下のとおりである。
【0010】
本開示によれば、分子蒸留法のみでは除去が困難な分子成分の除去を可能とする分子除去方法および分子除去装置を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施の形態に係る分子除去装置の一部を示す概略図である。
図2】実施の形態に係る分子除去装置の一部を示す概略図である。
図3】実施の形態に係る分子除去装置を示す概略図である。
図4】実施の形態に係る分子除去方法を示すフローである。
図5】実施の形態に係る分子除去装置を示す概略図である。
図6】実施の形態に係る攪拌子の形状の例を複数示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、以下の実施の形態では、特に必要なときを除き、同一または同様な部分の説明を原則として繰り返さない。また、実施の形態を説明する図面においては、構成を分かり易くするために、平面図または斜視図などであってもハッチングを付す場合がある。さらに、実施の形態を説明する図面においては、構成を分かり易くするために、断面図においてハッチングを省略する場合がある。
【0013】
(実施の形態)
観察対象に光(可視光線)を観察対象に反射させて拡大観察を行う光学顕微鏡とは異なり、電子ビーム(荷電粒子ビーム)を照射して観察対象の拡大像を得る電子顕微鏡がある。電子顕微鏡は内部を真空引き可能な鏡筒内に試料を配置して観察(撮像)を行うものである。試料を配置するステージは摺動可能であり、これにより試料の位置または角度を調整することができる。
【0014】
当該ステージをスムーズに摺動させるために、ステージとその支持部との間に潤滑剤を塗る必要がある。この潤滑剤を構成する基油内に分子(高分子成分および低分子成分)が含まれている場合、ステージとその支持部との間での摩耗による発塵が問題となる。したがって、潤滑剤を精製する段階で、基油内から高分子成分および低分子成分を除去することが重要となる。高分子成分の除去は、特許文献1に記載されているような分子蒸留法で行うことが考えられる。分子蒸留法では、例えば10-2Paまたは10-3Paの真空状態で基油を加熱し、低沸点成分である分子(高分子成分)の除去を行う。本実施の形態は、分子蒸留法では除去できない低分子成分の除去を可能とする分子除去方法および分子除去装置に関する。本願でいう高分子とは、1つの分子内における原子のつながりが1000個以上であるものを指し、低分子とは、1つの分子内における原子のつながりが1000個未満であるものを指す。
【0015】
図1は、電子顕微鏡のステージ等の摺動部に使用されるフッ素系の潤滑剤(以下、基油と呼ぶ)から低分子成分を除去するために用いられる本実施の形態の分子除去装置の一部を示す概略図である。
【0016】
図1に示すように、本実施の形態の分子除去装置は、回転ユニット104と、回転ユニット104上に配置された容器102と、容器102内に配置された攪拌子(回転子)106と、容器102および攪拌子106を収容可能な真空チャンバ101とを備えている。容器102内には基油103が収容されており、攪拌子106は基油103内の底部に沈んでいる。
【0017】
回転ユニット104および攪拌子106は、互いに非接触で攪拌子106を回転させることが可能なマグネチックスターラである。マグネチックスターラは、磁場の回転を利用して攪拌子を回転させ、液体を攪拌する装置である。回転ユニット104は、その内部においてモーターで回転ユニット104内の磁石を回転させ、これにより回転ユニット104の外部の磁場を回転させる。このモーターの回転速度は可変である。攪拌子106は棒磁石をガラスで封止したもので、例えば角が丸められた円柱状(棒状、繭状)の形状を有している。回転ユニット104内でモーターが回転させる磁石の回転運動に連動して、棒磁石を備えた攪拌子106も回転する。攪拌子106は、回転ユニット104の上面である載置面、および、容器102の内部の底面に対して垂直な方向を軸として軸回転する。攪拌子106は、その延在方向における中心部を通り、当該延在方向に対して垂直な軸を中心に回転する。
【0018】
回転ユニット104は真空チャンバ101および容器102の外側から磁場を回転させ、これにより攪拌子106を回転させることが可能である。このため、ここでは回転ユニット104は真空チャンバ101の外に配置されている。回転ユニット104が真空チャンバ101内に配置されることも考えられるが、回転ユニット104から不要なガス成分が生じる虞もあるため、回転ユニット104は真空チャンバ101の外部に配置されていることが望ましい。
【0019】
次に、これらの機構を使用して、基油103に含まれる低分子成分(以下、ガスと呼ぶ場合がある)を除去する方法を具体的に説明する。
【0020】
基油103内にガス(低分子成分)107が存在するとき、基油103の表面からガス107が空間中(基油103の外部)に放出される蒸発111が起こる。また、図示はしていないが、空間中のガス107が基油103に入る現状である凝縮が起こり得る。このため、基油103からガス107を蒸発させて除去するには、基油103の周辺雰囲気をガス107の少ない環境にする必要がある。
【0021】
真空チャンバ101は、真空ポンプによりその内部を100μPa未満(10-5Pa台)の高真空にし、常に真空排気を行うことが可能な真空装置である。この真空チャンバ101を用いることで、真空チャンバ101内にガス107の少ない環境を実現できる。真空チャンバ101内に基油103を配置することで、基油103の表面から蒸発したガス107を、真空排気により真空チャンバ101外に排出して除去させることができ、かつ、ガス107の凝縮を防げる。
【0022】
ここで、基油103内に含まれているガス107を蒸発させるには、基油103の全体を高真空の環境に露出させることが重要である。
【0023】
その方法として、図2に示すように、攪拌子106と基油103を同じ容器102に入れた状態で、磁石が内蔵された攪拌子106を回転ユニット104により非接触で回転させることで、基油103が攪拌される。これにより、基油103の表面(油面、上面)に渦105が発生する。すり鉢状の渦105が発生することで、基油103の全体を高真空の環境に露出させることが可能である。
【0024】
また、回転ユニット104により攪拌子106を回転させる際の回転数は、基油103に渦105が発生し、かつ、攪拌子106が基油103の外部に露出しない回転数とすることが望ましい。これにより、基油103が高真空の環境に露出する表面積が広くなるため、ガス107の蒸発効率が高くなる。言い換えれば、渦105が発生した状態であっても、渦105の下で攪拌子106が基油103に覆われるような回転数とすることが望ましい。また、基油103が攪拌されることで、容器102の表面近傍の基油103も高真空の環境に露出するため、ガス107の蒸発効率が高くなる。
【0025】
基油103を攪拌する方法として、回転軸を有したプロペラ型またはオール(櫂)型の攪拌機でも基油全体を高真空に露出させる効果を得ることができる。ただし、この場合、容器102の上方から容器102内に垂れ下がる回転軸が存在するため、基油103が高真空の環境に露出できる表面積が小さくなる。つまり、プロペラ型またはオール型の攪拌機に比べ、図1に示す攪拌子106と回転ユニット104を使った非接触での攪拌を行う場合、基油103が高真空に露出できる表面積が広げることができ、さらに、清掃が容易である。また、回転ユニット104と非接触で回転する攪拌子106は、回転軸を有するプロペラ型またはオール型などの攪拌機に比べて基油103と接触する面積が小さいため、攪拌子106に付着したガス107が基油103内に混入することを抑えられる。
【0026】
このように、本実施の形態では、真空チャンバ101内の高真空環境で、容器102に入れた基油103を攪拌子106により攪拌することで、基油103内のガス107を効果的に除去できる。
【0027】
次に、図3を用いて本実施の形態の分子除去装置の具体的態様を説明し、図4のフローを用いて基油103からガス107を除去する分子除去方法について説明する。図3に示す分子除去装置の構成要素のうち、図1および図2の概略図と同一の構成要素については同じ符号を付している。
【0028】
図3に示すように、本実施の形態の分子除去装置は、回転ユニット104と、回転ユニット104上に配置された容器102と、容器102内に配置された攪拌子106と、容器102および攪拌子106を収容可能な真空チャンバ101とを備えている。容器102内には基油103が収容されており、攪拌子106は基油103内の底部に沈んでいる。
【0029】
真空チャンバ101には、真空排気を行うドライポンプ108が接続され、ドライポンプ108にはターボ分子ポンプ109が接続されている。つまり、真空チャンバ101にはドライポンプ108を介してターボ分子ポンプ109が接続されている。ドライポンプ108およびターボ分子ポンプ109は真空ポンプである。真空チャンバ101内の真空度を確認するため、真空チャンバ101とドライポンプ108との間には真空計112が接続されている。回転ユニット104、ドライポンプ108およびターボ分子ポンプ109のそれぞれには、コンピュータシステム110が接続されている。コンピュータシステム110は、攪拌子106を回転させる回転ユニット104の制御を行い、ドライポンプ108およびターボ分子ポンプ109のそれぞれの動作の制御を行う。
【0030】
次に、分子除去装置の機能および分子除去方法について、図3および図4を使用して具体的に説明する。
【0031】
図4のSTEP201では、真空チャンバ101内に、基油(潤滑剤)103および攪拌子106を入れた容器102を配置する。
【0032】
次のSTEP202以降はコンピュータシステム110を使用して自動で処理を行う。STEP202では、コンピュータシステム110の処理を開始することでドライポンプ108とターボ分子ポンプ109を運転させ、これにより真空引きを開始する。
【0033】
次に、STEP203では真空計112の真空度をコンピュータシステム110で確認して、高真空となる1mPa未満(10-4Pa台)まで真空排気を行う。ここでは、1mPa未満まで真空排気を行うことで、真空チャンバ101内のガス107を減らして基油103への凝縮およびこれに伴う化学変化が起きない環境とする。
【0034】
次に、STEP204ではコンピュータシステム110からの回転指令により回転ユニット104を回転させる。これにより攪拌子106内の磁石を回転ユニット104と非接触で回転させ、基油103の攪拌を開始する。攪拌子106の回転が発生させる対流により、基油103に渦105を発生させる。これにより、真空環境に露出する基油103の表面積を増やして、ガス107の蒸発111の効果を高めている。
【0035】
次に、STEP205では、基油103に含まれるガス107を除去するために必要な処理時間をコンピュータシステム110内でカウントして、当該処理時間の経過後、次のSTEPへ移行する。
【0036】
次に、STEP206では、攪拌を停止する。つまり、処理を終了するためコンピュータシステム110からの停止指令により、回転ユニット104および攪拌子106の回転を停止させる。
【0037】
次に、STEP207では、真空引きを停止する。つまり、コンピュータシステム110からドライポンプ108およびターボ分子ポンプ109へ停止指令が発報され、真空チャンバ101内が大気圧に置換されたことを真空計112で確認し、処理を終了する。
【0038】
分子除去装置は、以上のようにして基油103からガス107を除去する機能を持つ装置である。
【0039】
分子除去装置を用いて低分子の除去を繰返し行うと、真空チャンバ101の内壁にガス107が付着する。この付着したガス107を除去する構成を、図5を用いて説明する。
【0040】
図5に示すように、真空チャンバ101内にはヒータ113が配置されている。なお、容器102、基油103および攪拌子106は、真空チャンバ101の外部に取り出している。また、上記付着したガス107を除去する処理を、回転ユニット104上に真空チャンバ101を置いて行う必要はない。ヒータ113は、コンピュータシステム110に接続されており、コンピュータシステム110によって加熱を制御される。
【0041】
真空チャンバ101の表面をヒータ113で加熱することによって、真空チャンバ101の内壁に付着したガス107を放出(離脱)114させる。ここでは、ガス107をより確実に放出させるために、真空チャンバ101の表面を100℃以上に加熱することが望ましい。また、6時間以上加熱することが望ましい。真空チャンバ101内をドライポンプ108とターボ分子ポンプ109を用いて真空排気することによって、真空チャンバ101の内壁から放出されたガス107を真空チャンバ101外へ排出する。これにより、真空チャンバ101に付着したガス107を除去することができる。
【0042】
図6に、攪拌子106の例を複数示す。図6は、攪拌子106の形状の例を複数示す斜視図である。図6では、左側から順に、棒状(繭状)、十字型、および、片面十字円板型の攪拌子106を示している。
【0043】
攪拌子106の形状は、上述したように棒状(繭状)であってもよい。これは、中心部から2つの延在部が同じ軸上において互いに反対方向へ延びている形状ともいえる。攪拌子106の形状は、このように中心部から延びる延在部を4つ有する十字型であってもよい。当該延在部は2つまたは4つに限らず、その他の数であってもよい。また、攪拌子106の形状は、円板の上面に十字の凸部を備えた片面十字円板型であってもよい。当該十字の凸部は、さらに円板の下面に設けられていてもよい。攪拌子106の形状は、その他の形状を採用可能である。例えば、攪拌子106の形状は、角を有する棒状、棒の両端に膨らみを有する形状、楕円状、または、中心に膨らみを有する棒状などであってもよい。
【0044】
本実施の形態では、攪拌子106は磁石をガラスで覆った構造であることを説明した。攪拌子106の表面がガラスで構成されていれば、同様にガラスにより構成されている容器102を傷つける虞が低い。つまり、攪拌子106と容器102との間の摩擦により、基油103内にゴミが生じることを防げる。このような摩擦が問題とならない場合であって、基油103により腐食しない材料であれば、攪拌子106の表面の材料として選択可能である。例えば、攪拌子106として、磁石の周りをセラミックにより覆ったものを使用することも考えられる。
【0045】
<本実施の形態の効果>
本実施の形態では、容器内の基油を攪拌し、前記基油内の分子成分を除去する分子除去装置を用いる。この分子除去装置は、チャンバと、チャンバ内の雰囲気を100μPa未満の圧力に排気可能な真空ポンプと、チャンバ内に配置可能な容器と、容器内に入れられ、磁石を含む攪拌子と、磁場を回転させることによって攪拌子を回転可能に構成された回転ユニットとを備えたものである。この分子除去装置を用い、チャンバ内に基油と基油内に配置された攪拌子とが入った容器を配置した状態で、チャンバ内を排気する第1の工程と、当該排気により、チャンバ内の圧力が1mPa未満となった状態で、攪拌子を回転させて基油を攪拌する第2の工程とを行う。
【0046】
上記のように攪拌子を回転させることにより、基油の表面に渦を発生させ、これにより、基油が高真空の環境に露出する表面積を広げられる。よって、ガスの蒸発効率が高くなる。したがって、分子蒸留法のみでは除去が困難な分子成分の除去を可能とする分子除去方法および分子除去装置を提供する。
【0047】
また、低分子の除去を繰返し行うと、分子除去装置の真空チャンバの内壁にフッ素系化合物等の低分子成分が付着し、真空チャンバの真空度が悪化する。本実施の形態では、図5に示すようにヒータ113を使用することで、真空チャンバの内壁に付着した当該低分子成分(ガス107)を除去できる。
【0048】
以上、本発明者らによってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本開示は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0049】
101 真空チャンバ
102 容器
103 基油
104 回転ユニット
105 渦
106 攪拌子
107 ガス
108 ドライポンプ
109 ターボ分子ポンプ
110 コンピュータシステム
111 蒸発
112 真空計
113 ヒータ
114 放出
図1
図2
図3
図4
図5
図6