(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025015266
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】紙製造におけるマクロスティッキー量の推定方法
(51)【国際特許分類】
D21F 9/00 20060101AFI20250123BHJP
D21F 1/32 20060101ALI20250123BHJP
D21H 21/02 20060101ALI20250123BHJP
G01N 21/3559 20140101ALI20250123BHJP
【FI】
D21F9/00
D21F1/32
D21H21/02
G01N21/3559
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023118574
(22)【出願日】2023-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100147865
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 美和子
(74)【代理人】
【識別番号】100130683
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 政広
(72)【発明者】
【氏名】三枝 隆
【テーマコード(参考)】
2G059
4L055
【Fターム(参考)】
2G059AA05
2G059BB10
2G059DD12
2G059EE01
2G059EE12
2G059HH01
2G059HH06
2G059MM01
4L055AG71
4L055AH21
4L055AH22
4L055DA08
4L055DA16
4L055DA23
4L055DA33
4L055DA40
4L055EA34
4L055FA06
(57)【要約】
【課題】 本発明は、紙製造工程におけるより適切なピッチ対策の技術を提供すること。
【解決手段】 本発明は、紙製造における管理対象に含まれるアクリレート系重合物量に基づく、紙製造におけるマクロスティッキー量の推定方法を提供する。本発明は、紙製造における管理対象に含まれるアクリレート系重合物量の増減に基づき、紙製造におけるマクロスティッキー対策の水準を調整する、紙製造方法を提供する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙製造における管理対象に含まれるアクリレート系重合物量に基づく、紙製造におけるマクロスティッキー量の推定方法。
【請求項2】
前記管理対象は、原料スラリー、脱水ケーキ、工程水、設備の付着物、最終紙製品、抄紙工程の工程水、抄紙機の付着物、最終紙製品の欠点、及びこれら溶媒抽出物から選択される1種又は2種以上である、請求項1に記載の紙製造におけるマクロスティッキー量の推定方法。
【請求項3】
前記アクリレート系重合物量は、IR分析にて測定される、請求項1又は2に記載の紙製造におけるマクロスティッキー量の推定方法。
【請求項4】
前記アクリレート系重合物量は、IRスペクトル波数1160cm-1及びその付近に見られる最も大きい吸収ピーク量の相対強度により測定される、請求項1又は2に記載の紙製造におけるマクロスティッキー量の推定方法。
【請求項5】
前記アクリレート系重合物量は、〔(a)IRスペクトル波数1160cm-1及びその付近に見られる最も大きい吸収ピーク以外に見られる単数或いは複数の吸収ピークのうちのいずれか1つの吸収ピーク量、又は、(b)当該最も大きい吸収ピーク以外の測定波数域に見られる単数或いは複数の吸収ピークのうちから複数選択される吸収ピーク量の合計値〕に対する〔IRスペクトル波数1160cm-1及びその付近に見られる最も大きい吸収ピーク量〕により測定される、請求項1又は2に記載の紙製造におけるマクロスティッキー量の推定方法。
【請求項6】
前記アクリレート系重合物量は、〔IRスペクトル波数600~4000cm-1の特定波数の吸収ピーク量の合計値〕に占める〔IRスペクトル波数1160cm-1及びその付近に見られる最も大きい吸収ピーク量〕による割合により測定される、請求項1又は2に記載の紙製造におけるマクロスティッキー量の推定方法。
【請求項7】
紙製造における管理対象に含まれるアクリレート系重合物量の増減に基づき、紙製造におけるマクロスティッキー対策の水準になるように制御する、紙製造方法。
【請求項8】
前記マクロスティッキー対策は、工程水中の異物を除去する機構、工程水中の異物を微細化する機構、工程を洗浄する機構、工程に薬剤を添加する機構から選択される1種又は2種以上を実施することである、請求項7に記載の紙製造方法。
【請求項9】
紙製造における管理対象中のアクリレート系重合物量が、
増加の場合には、マクロスティッキー対策の水準を上げて、マクロスティッキー対策を促進させる、又は、
減少の場合には、マクロスティッキー対策の水準を下げて、マクロスティッキー対策を抑制させる、請求項7又は8に記載の紙製造方法。
【請求項10】
紙製造における管理対象に含まれるアクリレート系重合物量の増減を経時的に測定し、マクロスティッキー対策の水準をフィードバック制御する、請求項7又は8に記載の紙製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙製造におけるマクロスティッキー量の推定方法、紙製造方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
紙製造におけるパルプ含有水にピッチが含まれ、ピッチ障害を引き起こしている。一般的に、ピッチとは、パルプ由来の樹脂成分、再生古紙中の合成粘着物質、製紙工程で使用される添加薬剤に由来する有機物を主体とする疎水性の粘着物質をいう。抄紙原料に用いるパルプ含有水にピッチが含まれ集積されることで、集塊化したピッチ塊による紙製品の欠点(spots)や断紙の多発、また、抄紙機、製紙用具又は製紙工程における設備などに付着し、付着ピッチによる製品品質低下、生産効率低下、脱水性悪化などのピッチトラブルの原因となっている。
【0003】
ピッチトラブルに対しては、設備の樹脂コーティング、スクリーンやクリーナーによるピッチ夾雑物除去;ニーダーやリファイナーによるピッチ塊微細化などの機械的な対策や用具洗浄剤などの外添薬剤、及び、定着剤、分散剤、不粘着化剤、分解酵素などの内添薬剤などの薬剤による対策;定期的なマシン洗浄、余剰白水やリジェクトスラリーの系外排出量などの操業条件調整や制御による対策などのピッチトラブル対策が実施されている。
【0004】
例えば、特許文献1~5では、紙製造における、蛍光染料を用いたピッチ量の把握及び連続測定方法が、提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2007/082376
【特許文献2】WO2008/104576
【特許文献3】特表2012-521009号公報
【特許文献4】特開2017-009564号公報
【特許文献5】特表2016-535244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者は、特許文献1~5のような蛍光染料を用いたピッチ量の把握及び連続測定方法では、その方法を用いる際にろ過工程を要する場合が多いので、プラスチック樹脂などの粘着性がない疎水性物質及び界面活性剤などの水溶性の疎水性物質も測定してしまうこと、紙製造においてピッチの質(成分)の違いがわからないことが、ピッチ対策をするうえで問題と考えている。
【0007】
そこで、本発明は、紙製造工程におけるより適切なピッチ対策の技術を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意検討した結果、古紙由来の主要ピッチ成分の一つであるアクリレート系重合物は原料工程や抄紙機の一次循環系の工程水中の微細分散ピッチからは検出されず、マクロスティッキーのみから検出されることを見出した。このことから、本発明者は、アクリレート系重合物主体のピッチ障害に対してはマクロスティッキーに特化した対策が効果的であると考え、紙製造における管理対象(欠点や付着物など)中のアクリレート系重合物の増減に応じてマクロスティッキー対策の実施レベル(実施水準)を制御することにより、効果的にピッチ対策を行うことを考えた。
【0009】
さらに、本発明者は、鋭意検討した結果、対象中のアクリレート系重合物の増減は、対象のIRスペクトル分析結果からより良好に判断できることを見出した。より具体的には、対象中のアクリレート系重合物の増減は、板紙古紙原料由来のピッチ成分のなかではアクリレート系重合物特有である波数1160cm-1及びその付近の吸収の強弱で判断できること、さらに〔IRスペクトルにおける全吸収の面積或いは高さ〕に対する〔波数1160cm-1及びその付近ピークの面積或いは高さ〕の割合を用いることでより精度よくより簡便に検出又は測定できることを見出した。
【0010】
そして、本発明者は、マクロスティッキー対策には、スクリーンやクリーナーによる除去(リジェクト率を増やす);用具洗浄シャワーの増設、シャワー水の加圧や加熱などの洗浄強化;ウェットパート或いはドライパートなどの用具に用いる洗浄剤或いは付着防止剤などの外添薬剤強化;マクロスティッキー用不粘着剤などの内添薬剤処理強化;などから選択される1種又は2種以上を用いることが好ましいと考えた。
【0011】
このように鋭意検討した結果、本発明者は、ピッチのなかでもアクリレート系重合物とマクロスティッキーとの関係に着目し、これらの関係を明らかできたので、紙製造での管理対象中のアクリレート系重合物に基づき、管理対象中のマクロスティッキー量を推定できること、及びこの関係を使用することで、紙製造におけるマクロスティッキー対策がより良好にできることを新たに見出した。また、これにより、紙製造における製品や装置等の管理(例えば、品質管理、洗浄管理等)が行いやすい。すなわち、本発明は、以下のとおりである。
【0012】
本発明は、紙製造における管理対象に含まれるアクリレート系重合物量に基づく、紙製造におけるマクロスティッキー量の推定方法を提供することができる。
本発明は、紙製造における管理対象に含まれるアクリレート系重合物量の増減に基づき、紙製造におけるマクロスティッキー対策の水準になるように制御する、紙製造方法を提供することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、紙製造工程におけるより適切なピッチ対策の技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】アクリレート系粘着物のIR吸収スペクトルである。
【
図3】SBR系ラテックスのIR吸収スペクトルである。
【
図4】ロジンサイズ剤のIR吸収スペクトルである。
【
図5】原料スラリー溶媒抽出物のIR吸収スペクトルである。
【
図6】マクロスティッキーのIR吸収スペクトルである。
【
図7】アクリレート含有率(%)とIR吸収スペクトル波数1160cm
-1吸収ピーク面積率の関係を示す図である。
【
図8】原料マクロスティッキー量とピッチ欠点数の関係を示す図である。図中に、欠点溶媒抽出物IR1160cm
-1吸収ピーク面積率1%未満のプロット(黒丸)及びこれらの相関係数と、欠点溶媒抽出物IR1160cm
-1吸収ピーク面積率1%以上のプロット(白四角)及びこれらの相関係数と、を示す。
【
図9】本発明における紙製造の各工程を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が限定されて解釈されることはない。数値範囲(~等)における上限値(以下等)と下限値(以上等)は、所望により、任意に組み合わせることができる。
【0016】
1.本発明に係るマクロスティッキー制御技術
近年、古紙の再利用率の向上に伴い、夾雑物の多い低級古紙を再利用することが多くなってきている。古紙原料の代表的な夾雑物として、古紙に貼り付けられたラベルやシールの粘着物、箱などの整形に用いるテープや粘着剤や接着剤由来の粘着物などが挙げられ、斯様な粘着性の夾雑物は、紙製造の工程水に含まれたり紙製造の設備(装置、用具、製造エリアなど)に付着したりしており、特に抄紙機で発生するピッチトラブルの主原因となっている。
従来のピッチの主要成分は、パルプ由来の樹脂酸や内添薬剤であるサイズ剤由来のロジン、AKD(アルキルケテンダイマー)、ASA(アルケニル無水コハク酸)、塗工物由来のSBR(スチレンブタジエンゴム)を主要成分とするラテックスなどが主だった。しかし、近年のピッチの主要成分は、古紙の粘着性夾雑物由来になってきており、当該粘着性夾雑物由来として、例えばEVA(エチレン酢酸ビニル共重合体)、アクリレート系重合物などが多くなってきている。
【0017】
一般的に「ピッチトラブル」は、欠点(spots)や断紙増加の原因になること、抄紙機を汚してワイヤーやフェルトやカンバスなどの用具の性能を低下させることによる、紙の製品品質低下や抄紙機の操業効率低下をもたらすことなどをいう。抄紙機の汚れによるピッチトラブルは、ピッチ以外にもスライム、スケールなどを起因とすることがあるが、古紙の配合率が高い板紙では古紙由来の夾雑物の質と量との変動が大きいため、夾雑物由来のピッチトラブルは、抄紙機汚れ由来のトラブルのなかでは最も制御が困難であるといわれている。
【0018】
一般的に、ピッチトラブルに対して、設備の樹脂コーティング;スクリーンやクリーナーによるピッチ夾雑物除去、ニーダーやリファイナーによるピッチ塊細分化などの設備による対策;用具洗浄液などの外添薬剤、定着剤、分散剤、不粘着化剤、分解酵素などの内添薬剤などの薬剤による対策;定期的なマシン洗浄、余剰白水やリジェクションスラリーの系外排出量増加などの操業条件調整による対策;などから選択される1種又は2種以上などのいろいろな対策が実施されている。このように紙製造の現場では、ピッチ対策用の設備、薬剤、操業条件調整などを種々備え、ピッチ対策が実施されている。しかしながら、ピッチ対策を行ううえで、設備投資、動力コスト、薬剤コストなどのコスト上昇、流出原料増加、操業停止時間延長、紙製品の強度低下などのデメリットを伴うため、必要最低限のピッチ対策を実施することが望ましい。
さらに、古紙原料由来のピッチは、質(成分)、量ともに大きく変動するが、この変動原因を十分に把握できていない場合が多く、一律の対策が実施されている場合が多い。特にピッチの質(成分)を簡便かつ迅速に知ることが困難であるため、ピッチの質(成分)に応じたリアルタイムでのピッチ対策は実施されているとは言い難かった。
【0019】
そこで、本技術は、新たなピッチ対策、より好適にはマクロスティッキー対策の技術を提供することを主な目的とする。
また、本技術は、一律であったピッチ対策を、必要なときに適切な対策を実施できる、古紙由来の変動にも対処可能なピッチ対策を提供することを目的としてもよい。また、本技術は、紙製造工程におけるピッチ対策をより適正に実施するための、新たなピッチ量の分析技術を提供することを目的としてもよい。さらに、本技術は、紙製造において、より簡便にかつより迅速にアクリレート系重合物量の増減を把握することができる技術、及びアクリレート系重合物由来のピッチトラブルに対して種々の対応(好適には、リアルタイムによる対応、自動制御による対応)を可能とする技術を提供することを目的としてもよい。
【0020】
紙製造の工程で発生するピッチは、微細ピッチ及びマクロスティッキーに大別される。古紙を主原料とする板紙の製紙原料では、工程のシェアで微細化されにくい粘着テープやラベルの粘着剤の成分には、アクリレート系、SBR系、天然ゴム系、ウレタン系、シリコン系などがある。しかしながら、本発明者は、紙用途ではアクリレート系が多いこと、マクロスティッキー中の粘着物のほとんどがアクリレート系であることを見出した。つまり、本発明者は、古紙を原料として使用している紙製造及びこれに関与する工程及び設備のスラリー、脱水ケーキ、工程水中に含まれるマクロスティッキーのほとんどがアクリレート系粘着物であることを見出した。
【0021】
さらに、アクリレート系重合物は粘着性のみならず弾力性が高いため細かく分散されにくい性質があり、製紙工程水に分散した微細ピッチからは全く検出されない。さらにアクリレート系重合物は、紙の品質低下の原因となる欠点や生産性低下の原因となる用具付着物に含有される場合が多くみられる。さらに、マクロスティッキーは、工程水に分散している微細ピッチと比較すると、その成分が異なるだけではなく、大きさが大きい点、粘着性や弾性力が大きい点が異なっているため、マクロスティッキーの適正な対策は、他のピッチ成分の対策と異なる対策を実施する必要がある。
【0022】
以上のことから、本発明者は、アクリレート系重合物主体のピッチに対してはマクロスティッキー対策が効果的であると推定した。そして、本発明者は、対象中のアクリレート系重合物の存在に着目することによって、対象中のアクリレート系重合物の存在に基づいて、紙製造工程におけるマクロスティッキーに対して、より適切なマクロスティッキー対策の技術を提供することに至った。
【0023】
さらに、本発明者は、紙製造に存在する管理対象中のアクリレート系重合物の確認の手段又は方法として、IR分析でアクリレート系重合物を選択的に検出できかつ定量的に測定できることを見出した。本発明者は、これにより紙製造での管理対象中のアクリレート系重合物量から、紙製造で存在している又は発生している粘着性の異物であるマクロスティッキーの量を推定できることを見出した。
【0024】
また、本発明者は、対象中のアクリレート系重合物量に基づき、当該対象中のマクロスティッキー含有量がわかること、より好適にはアクリレート系重合物含有割合が高くなることによりマクロスティッキーによるリスクの高まりがわかることを見出した。そして、本発明者は、対象中のアクリレート系重合物量がより簡便により迅速にわかるので、マクロスティッキー対策、より好適には、紙製造及びこれに関与する工程及び設備を含む紙製造の現場におけるマクロスティッキー状態の管理制御をより適切に実施できることに至った。
【0025】
なお、本技術では、アクリレート系重合物を指標として用いることが好適である。本技術において、「アクリレート系重合物」は、アクリレート系重合体ともいい、同じ成分(モノマー、オリゴマー、ポリマー)から重合されるアクリレート単独重合体、異なる2種以上の共重合性を有する成分(モノマー、オリゴマー、ポリマー)を用いて重合することにより得られる共重合体を挙げることができ、当該共重合体の重合において、アクリレート以外の共重合性を有する成分も一緒に用いるものでもよい。
【0026】
本技術では、対象(例えば、紙製品の決定や抄紙機の付着物)に含まれるアクリレート系重合物の増減に応じて、アクリレート系重合物の主要供給源であるマクロスティッキーに有効な対策の実施レベルを調整することが好適である。これにより、効率的なピッチ由来の欠点や断紙、抄紙機の汚れなどの対策を実施することができる。
【0027】
本技術は、紙製造工程におけるより適切なピッチ対策の技術を提供することができる。
本技術は、ピッチ対策を必要とするピッチトラブルの原因として、夾雑物のうちのアクリレート系重合物に着目し、これにより対象に含まれるマクロスティッキー量を推定することができる。さらに、本技術は、アクリレート系重合物とマクロスティッキーとの関係性に着目することにより、一律であったピッチ対策が、古紙原料由来の変動があってもそれに対処可能なピッチ対策を必要なときに適切に実施することができる。
また、本技術は、アクリレート系重合物量の増減を簡便かつ迅速に把握することができる。アクリレート系重合物量の増減の簡便かつ迅速な把握により、アクリレート系重合物由来のピッチトラブルに対して、リアルタイムでの対応及び/又は自動制御による対応を可能にすることができる。
【0028】
また、本技術によれば、ピッチ成分に占めるアクリレート系重合物の寄与度を数値化できる。本技術によれば、連続測定して得られた管理対象中のピッチ成分に占めるアクリレート系重合物の寄与度のデータを用いると、マクロスティッキー対策のレベルを自動調整できる。本技術によれば、アクリレート系重合物由来のピッチ障害が発生している場合、マクロスティッキー対策を集中的に処理することにより効率的なピッチ障害対策が可能となる。
【0029】
2.本発明に係る紙製造におけるマクロスティッキー量の推定方法
本実施形態は、紙製造における管理対象に含まれるアクリレート系重合物量に基づく、紙製造におけるマクロスティッキー量の推定方法を提供することができる。また、本実施形態は、マクロスティッキー汚れ状態の推定方法、マクロスティッキー量の測定方法、又はマクロスティッキー量の判定方法としてもよい。また、本実施形態は、マクロスティッキー対策又はピッチ対策の指標とすることもできる。また、本実施形態は、ピッチ成分に占めるアクリレート系重合物の寄与度を数値化することができる。
【0030】
<紙製造における管理対象>
本実施形態に用いる「紙製造における管理対象」は、紙製造及びこれに関与する工程及び設備(装置、部品用具など)などの紙製造の現場に存在するアクリレート系重合物を含む可能性のある物(以下、「現場の物」ともいう)であれば特に限定されず、例えば、原料スラリー、脱水ケーキ、各種工程水、当該工程で用いる又は発生する或いは形成されるパルプ含有物(例えばパルプ含有水、パルプ含有シートなど)、付着物(例えば各種工程や各種装置、当該用具、工程のエリア等の設備に付着したものなど)、紙製品、及び、これらの溶媒抽出物などが挙げられ、これらから1種又は2種以上を選択することができる。なお、管理対象は、製品の品質管理の指標にできる対象物(品質管理対象)であることが好ましいが、設備等の洗浄管理の指標にできる対象物(洗浄管理対象)であってもよく、また、マクロスティッキーの程度を監視するための監視対象であってもよく、状況に応じてマクロスティッキーを含みそうな対象物を管理対象として適宜設定してもよく、管理対象は特に限定されない。
また、本実施形態に用いる対象は、同一又は異なる現場由来のものであってもよく、単数又は複数であってもよい。
【0031】
より好適な前記対象は、調成工程、抄紙工程、及び水回収工程から選択される1種若しくは2種以上の原料スラリー、脱水ケーキ、工程水、設備(例えば、装置、用具、エリアなど)の付着物、最終紙製品、及び、これら溶媒抽出物等から選択される1種又は2種以上である。また、製紙工程における管理対象として、例えば、各種工程水、各種工程に用いる装置、及びその用具が挙げられ、製紙工程のうち、原質工程(調成工程)及び/又は抄紙工程が好ましい。
【0032】
さらに好適な前記対象は、原料スラリー、脱水ケーキ、抄紙工程の工程水、抄紙機の付着物、最終紙製品の欠点、及びこれらの溶媒抽出物から選択される1種又は2種以上である。
【0033】
通常、パルプ含有物には、マクロスティッキーなどのピッチが混入しているため、紙製造工程に存在するパルプ含有物を、前記対象とすることが好適である。また、製紙工程における各種工程で用いる装置及びこの用具には、マクロスティッキーを含むパルプ含有物が接触するため、当該装置及びこの用具を、前記対象とすることが好適である。また、マクロスティッキーによる欠点の発生、抄紙機や工程設備に付着した付着物中のマクロスティッキーによる欠点、断紙、製品品質低下、脱水性悪化などが発生することから、抄紙工程で発生する又は形成されるパルプ含有水、及び/又は、パルプ含有シート、及び/又は、最終紙製品を、前記対象とすることが好適である。なお、製紙工程においてパルプ原料として使用されるパルプ含有水は、一般的にパルプ濃度0.1~5%程度といわれている。
【0034】
前記対象の単数又は複数を用いて溶媒抽出物を作製できる。前記対象から溶媒抽出物を作製する際に用いる溶媒は、特に限定されないが、より好適には有機溶媒、さらに好適には疎水性有機溶媒が、対象中に含まれる(メタ)アクリレートを溶解し抽出しやすい観点から、好ましい。一般的に用いられる脂質成分の抽出方法を用いることが好適であり、例えばエーテル抽出法、クロロホルムを含む有機溶媒抽出方法(例えば、クロロホルム抽出法、クロロホルム-ベンゼン抽出法、クロロホルム-メタノール抽出法など)などが挙げられ、また、適宜、液-液抽出(水-疎水性溶媒など)を用いてもよい。
【0035】
有機溶媒としては、例えば、ノルマルヘキサンなどの炭化水素系;ベンゼンなどの芳香族系;エタノールなどのアルコール系;アセトンなどのケトン系;エチルエーテルなどのエーテル系;クロロホルムなどのハロゲン化アルキル系;及びこれらの混合物から選択される1種又は2種以上を用いることができる。
抽出温度は、特に限定されないが、好ましくは10~60℃、より好ましくは20~40℃である。
【0036】
<アクリレートの確認可能な装置又は方法>
本実施形態に用いるアクリレートの確認可能な装置又は方法として、アクリレート系重合物量の増減が分かる及びこれと関係性のあることが確認可能な装置又は方法であればよく、例えば、目視、画像、臭気、粘着性、弾力性、電気伝導、振動伝導、伝熱、付着量、色、熱分解、化学分析、計器分析、及び、付着箇所などから選択される1種又は2種以上を用いることができる。当該確認可能な装置又は方法は、公知であってもよく将来的にできる手段又は方法であってもよい。
このうち、より好適には、より迅速及びより簡便の観点から、アクリレート系重合物量の増減を分析できる装置又は方法であり、また、接触式又は非接触式のいずれでもよい。このとき、各種装置に備えられている自動計算ソフトにてアクリレート系重合物量の数値化等を行ってもよい。
【0037】
また、アクリレート系重合物量の増減を分析できる装置又は方法として、再現性及び簡便性の観点から、計測機器を用いることが好適であり、さらに光分析の装置又は方法が好適であり、当該光分析として、特に限定されず、例えば、ラマン分析、紫外線分析、可視線分析、赤外線分析などから選択される1種又は2種以上が挙げられ、また、透過式又は反射式であってもよい。
【0038】
前記光分析のうち、赤外線分析、より好適には赤外分光(「IR」ともいう)分析が、アクリレート系重合物及びその量をより良好に検出又は定量的な測定が行いやすいので、好適である。本実施形態に用いる確認の手段又は方法のなかで、紙製造における欠点或いは付着物又はそれらの溶媒抽出物などを対象として、当該対象のIRスペクトルを用いて評価する方法は、汎用性が高いので好適である。
【0039】
赤外分光分析として、光学系機構の違いにより、分散型、フーリエ変換型が挙げられるが、これらの何れでもよく、フーリエ変換型が好適である。また、赤外分光分析として、反射式であってもよく、より好適には非接触式で反射式であることが、抄紙機などの付着物などの対象を製紙現場で迅速に簡便に測定できる観点から、好適である。
赤外分光分析の測定方法としては、特に限定されないが、例えば、ヌジョール法、液膜法、錠剤法などの透過測定方法;及び、反射吸収法、外部反射法、減衰全反射法などの反射測定方法などが挙げられ、これらから1種又は2種以上を選択することができる。
【0040】
本実施形態に指標として用いるアクリレート系重合物は、IR吸収スペクトルの波数1160cm-1及びその付近に吸収ピークがあり、波数1160cm-1及びその付近の吸収ピークは、紙に使われる原料、特に古紙原料に含まれる他のピッチ成分には見られない吸収ピークである。このため、当該特徴的な吸収ピーク領域は、紙製造におけるアクリレート系重合物及びその量の指標として適しているため、前記アクリレート系重合物量に基づく判断又は推定を行う場合には、IR吸収スペクトルの波数1160cm-1及びその付近の吸収ピーク量(例えば、高さ又は面積等)を用いることがより好適である。また、前記アクリレート系重合物量は、IR吸収スペクトルの波数1160cm-1及びその付近の吸収ピーク量(例えば、高さ又は面積等)により測定できることがより好適である。
【0041】
本発明者は、アクリレート系重合物は、IR吸収スペクトルの波数1160cm-1及びその付近に特徴的な吸収ピークがあり、波数1160cm-1及びその付近の特徴的な吸収ピークは、紙に使われる原料、特に古紙原料に含まれるピッチ成分には見られないピークであることを見出した。このため、波数1160cm-1及びその付近の特徴的な吸収ピーク及びその量の検出又は測定及びその結果は、アクリレート系重合物及びその量の検出又は測定の指標として適していることを本発明者は見出した。さらに、本発明者は、対象中のアクリレート系重合物量と対象中のマクロスティッキーの量とに関係性(より好適には相関関係)があることも見出したので、対象中のアクリレート系重合物量は、マクロスティッキー量の指標として適していることを見出した。
【0042】
さらに、本発明者は、「IR吸収スペクトラム特定波数の吸収ピーク量の合計値」に対する「波数1160cm-1及びその付近の特徴的な吸収ピーク量」の割合は、他の成分、特に他のピッチ成分に対するアクリレート系重合物の割合と関係性が見られるため、アクリレート増減の指標として使用することも可能であることを見出した。これにより、本実施形態では、「IR吸収スペクトラム特定波数の吸収ピーク量の合計値」に対する「波数1160cm-1及びその付近の特徴的な吸収ピーク量」の割合を、「アクリレート増減の指標」としてより良好に使用できる。当該1160cm-1の「付近」としては、好適には±30cm-1、より好適には±20cm-1、さらに好適には±10cm-1、より好適には±5cm-1である。
なお、「IR吸収スペクトラム特定波数の吸収ピーク量の合計値」に対する「波数1160cm-1及びその付近の特徴的な吸収ピーク量」の割合を、言い換えると〔波数1160cm-1及びその付近の特徴的な吸収ピーク量/IR吸収スペクトラム特定波数の吸収ピーク量の合計値〕としてもよく、また、当該割合を「IR吸収スペクトラム特定波数の吸収ピーク面積率又は高さ率」としてもよい。また、当該合計値は、前記特徴的な吸収ピーク量を含んだ複数の合計値、又は、前記特徴的な吸収ピーク量を除いた複数の合計値であってもよい。また、「合計値」は、「合計量」としてもよい。
【0043】
本技術における「ピーク量」として、ピーク高さ及び/又はピーク面積などを挙げることができ、この算出に際し、得られたデータ値の絶対値でもよいが、実質的には、測定等の装置内蔵の自動計算ソフトにて得られる、ベースからの差の値(例えば、得られたデータ値の絶対値-ベース値)が、一般的であり、望ましい。
本技術において「ピーク」の数は、単数又は複数の何れを選択してもよい。また、ピーク形状、ピーク高さ、ピーク量、ピーク面積、ピーク数、ピーク選択、ピーク強度、ピーク相対強度などのピーク関連データの取得については、一般的なIR測定機に備えられている自動計測ソフトを用いて得ることができる。IR測定装置に備えている自動計算ソフトを用いて、マクロスティッキー量の推定ができることも本技術の利点である。なお、IR分析では、相対強度のような相対的な強弱で表すのが一般的である。
【0044】
本技術において「特定波数の吸収ピーク」のうちから選択される「ピークの数」は、単数又は複数の何れでもよい。本技術における「特定波数の吸収ピーク量」の「特定」とは、特に限定されないが、検出できる吸収ピーク全ての場合もあり、大きい順に任意個数選定した吸収ピークの場合もあり、対象物質を想定した単数又は複数の必ずしも吸収ピーク量が大きいとは限らない吸収ピークである場合などが挙げられるが、これらに特に限定されず、必ず決まった波数である場合もそうでない場合もある。このような「特定」は、IR測定装置に備えられている自動計測ソフトにて選択されてもよい。
前記特定波数(cm-1)の種類としては、例えば、670、700、720、800、880、1000~1050、1240、1260、1380、1400~1450、1470、1700~1740、2800~3000などから選択される1種又は2種以上が挙げられるが、これに限定されない。
【0045】
前記アクリレート系重合物量は、IRスペクトル波数1160cm-1及びその付近に見られる最も大きい吸収ピーク量の相対強度により検出又は測定できることが好適である。これにより、IRスペクトル波数1160cm-1及びその付近の吸収ピークの相対強度によりアクリレート量の増減を確認することができる。
【0046】
より好適な態様としては、前記アクリレート系重合物量は、〔(a)IRスペクトル波数1160cm
-1及びその付近に見られる最も大きい吸収ピーク以外に見られる単数或いは複数の吸収ピークのうちのいずれか1つの吸収ピーク量、又は、(b)当該最も大きい吸収ピーク以外の測定波数域に見られる単数或いは複数の吸収ピークのうちから複数選択される吸収ピーク量の合計値〕に対する〔IRスペクトル波数1160cm
-1及びその付近に見られる最も大きい吸収ピーク量〕により検出又は測定できることが好適である。なお、〔IRスペクトル波数1160cm
-1及びその付近に見られる最も大きい吸収ピーク量〕が、通常は分数の分子になるが、逆数のように分母と分子を入れ替えてもよい。また、前記(b)の合計値は、IRスペクトル波数1160cm
-1及びその付近に見られる最も大きい吸収ピークを含むものであってもよいし、除くものであってもよい。また、「IR吸収スペクトラム特定波数の吸収ピーク量の合計値」に対する、のような「対する」は「占める」であってもよく、「占める」の場合には「IR吸収スペクトラム特定波数の吸収ピーク量の合計値」を100%とした百分率(%)であってもよい。また、「測定波数域」は、IRスペクトルの通常の測定波数域(例えば600~4000cm
-1)であってもよいが、
図1などIR吸収スペクトルに示すような波数(cm
-1)の数値について上限値及び下限値を適宜選択し、任意の測定波数域を設定してもよい。
【0047】
好適な態様の具体例としては、例えば、(パターン1)特定波数を1つ選んでその波数の吸収ピークの強度と、1160cm-1及びその付近の吸収ピークの強度と、の相対強度を算出すること;(パターン2)特定波数を複数選んでそれぞれの波数の吸収ピークの強度の合計値と、1160cm-1及びその付近の吸収ピークの強度と、の相対強度を算出すること;(パターン3)特定波数を複数選んでそれぞれの波数の吸収ピークの強度と、1160cm-1付近の吸収ピークの強度と、の相対強度を算出し、特定波数の選択数の合計値からその平均値を出すこと;などが挙げられ、これらから1種以上又は2種以上又は3種を選択することができるが、本技術の好適な態様はこれらに限定されない。
なお、「1160cm-1及びその付近の吸収ピークの強度」は、分数の分子、分母のいずれでもよいが分数の分子が好ましく、〔IRスペクトル波数1160cm-1及びその付近に見られる最も大きい吸収ピーク量〕がより望ましい。
【0048】
より好適な前記「1160cm-1及びその付近の特徴的な吸収ピーク量」は、IRスペクトル波数1150~1170cm-1のなかで、高さが高い又は面積が広いような、単数又は複数の吸収ピーク量であることが好適であり、最も大きい吸収ピーク量であることがより好適である。
より好適な「IR吸収スペクトラム特定波数の吸収ピーク量の合計値」は、「IRスペクトル波数600~4000cm-1(好適には600~3000cm-1)」の範囲を少なくとも含むことが好ましく、より具体的には「IRスペクトル波数600~4000cm-1(好適には600~3000cm-1)という特定範囲における特定波数の吸収ピーク量」であることが好適である。IR吸収スペクトルの縦軸の吸光度は物質の濃度や厚みに比例することから、当該ピークの高さ又はピーク面積から定量分析を行うことが好適である。
【0049】
より好適な「アクリレート系重合物量」は、〔IRスペクトル波数600~4000cm-1(好適には600~3000cm-1)の特定波数の吸収ピーク量の合計値〕に占める〔IRスペクトル波数1150~1170cm-1のなかで最も大きい特徴的な吸収ピーク量〕による割合により検出又は測定できることが好適である。また、より好適な「アクリレート系重合物量」は、〔IRスペクトル波数600~4000cm-1の特定波数の吸収ピーク量の合計値〕に占める〔IRスペクトル波数1160cm-1及びその付近に見られる最も大きい吸収ピーク量〕による割合により検出又は測定できることが好適である。本実施形態における「吸収ピーク合計量」「高く特徴的な吸収ピーク量」などとは、所定の範囲内での単数又は複数の吸収ピークの高さ、又は、それぞれの吸収ピークを頂点として算出された面積或いは領域をいう。なお、「高く特徴的な吸収ピーク量」の場合、面積計算時の底辺は1150cm-1以上1170cm-1以下の範囲に特に限定されない。
【0050】
また、本実施形態において、IRスペクトル波数1150~1170cm
-1のなかで最も大きい吸収ピーク量を選択することで、アクリレート系重合物の特徴的なピークを選択し取得することができる。また、「最も大きい特徴的な吸収ピーク量」は、操作者又は制御部などが、1160cm
-1及びその付近のなかで最も大きい吸収ピーク量を選択することが、より簡便に「特徴的な吸収ピーク」を判別できる観点から好適であるが、より精度良く「特徴的な吸収ピーク」を判別する場合には、例えば、
図1のような標品のアクリレート系重合物(好適にはポリアクリレート)の波数1150~1170cm
-1のうちの特徴的なピークとの対比にて判断してもよく、標品のアクリレート系重合物を内部標準添加して増加したピークにて判断してもよい。
【0051】
このとき、IRスペクトルに関する比率、合計値、高さ或いは面積、割合は、一般的にIRスペクトル装置に内蔵されている自動計算ソフト(例えば、面積占有率計算ソフトなど)を用いて取得することができる。また、IRスペクトルの条件は、フーリエ変換、透過測定方法が好ましい。
また、ピーク定量方法は、一般的なピーク定量方法を用いることができ、例えば、スペクトルを吸光度表示にし、ピークの両端の外側にベースポイントを置き、ベースラインとスペクトルの間の高さや面積で定量することができる。このとき、隣接ピークからの影響が小さくなるように取る方法が望ましい。例えば、クロマトデータ処理装置等で用いられている一般的な方法、具体的には、面積百分率法(各ピークの比率=〔ピーク面積/ピークの総面積)×100(%))、補正面積百分率法などを参照することもできる。
例えば、アクリレート系重合物の標品による検量線を作成し、この検量線データを、予め記憶部などに記憶させておき必要に応じて制御部が取得し、制御部にて検量線データから対象中のアクリレート系重合物の定量な計算(例えば、高さや含有率の計算)に用いることができる。当該対象中のアクリレート系重合物の定量な計算結果は、対象中のアクリレート系重合物量やアクリレート系重合物の含有率の計算に利用することもできる。これにより、対象中のアクリレート系重合物量やアクリレート系重合物の含有率又はこれらの増減をより精度良く把握することができる。
【0052】
本実施形態において、
図7及び8に示すような、アクリレート含有率(%)とIR吸収スペクトルとの関係、回帰分析(好適には単回帰式、最小二乗法など)にて、IR吸収スペクトラム特定波数の吸収ピーク面積率と、アクリレート含有率(%)とに相関関係が認められることができ、さらに、マクロスティッキーの主成分はアクリレート系重合物であることから、対象から取得された「IR吸収スペクトラム特定波数の吸収ピーク面積率」に基づき、対象中の「アクリレート系重合物量(含有率(%))」を求めることができ、さらにその対象中の「アクリレート系重合物量」に基づき、対象中の「マクロスティッキー量」を算出、推定、予測又は定量することができる。さらに、この「マクロスティッキー量」から、例えば、
図8に示すように、「原料スラリー中のマクロスティッキー量」と「ピッチ欠点」との関係性を示すこともできる。マクロスティッキー量(mm
2/kg)はJIS P8231:2005にて、求めることができる。
なお、『対象中の「アクリレート系重合物量」』における「対象」は、「測定」の対象を意味することが好ましく、『対象中の「マクロスティッキー量」の「対象」』とは同じであってもよいし、異なってもよい。当該対象は、品質管理対象や洗浄管理対象などの管理対象であってもよい。
【0053】
本実施形態では、「対象中のアクリレート系重合物量」を説明変数とすることで、目的変数である「対象中のマクロスティッキー量」を推定できる。より好適な実施形態の態様としては、「IR吸収スペクトラム特定波数の吸収ピーク面積率」を説明変数とすることで、目的変数である「対象中のマクロスティッキー量」を推定できる。この2つ変量の間の関係性をY=aX+bという一次方程式の形で表すこと(a:傾き、b:y切片、場合によってはxの範囲の設定(例えばc≦x≦dなど)ができ、当該数式は、一義的に限定されるものではなく、設備の規模、古紙原料の種類、現場、対象とする現場の物、季節などに応じてデータを取得することで適宜より適した数式を求めることができる。また、IR吸収スペクトラム特定波数の吸収ピーク面積率」を、これ以外のアクリレート系重合物量と相関関係のある説明変数に置き換えて、対象中のマクロスティッキー量を推定してもよい。「これ以外のアクリレート系重合物量と相関関係のある説明変数」は、公知の解析方法又は分析方法を用いて取得することができる。さらに、
図8に示すように、「対象中のマクロスティッキー量」と相関関係にあるピッチトラブルの因子(例えば、ピッチ欠点数(個/日)など)とを設定することで、IR吸収スペクトル分析によるアクリレート系重合物量から、その設定因子(ピッチトラブル、ピッチ対策等)の量やその増減の予想又は推定もできる。この設定因子は、ピッチトラブル、ピッチ対策等から選択される1種又は2種以上のものを選択することが好ましい。これにより、ピッチトラブルやピッチ対策の予想及び設定、ピッチ対策内容の好適化等をより良好に行うことができる。
【0054】
3.本実施形態に係るマクロスティッキー量推定に基づく紙製造方法
本実施形態におけるマクロスティッキー量推定に基づく紙製造方法の説明において、上記「1.」「2.」などと重複する、対象、アクリレート系重合物量、マクロスティッキー量の推定、ピッチなどの各構成や各処理方法などの説明については適宜省略するが、当該「1.」「2.」などの説明が、本実施形態にも当てはまり、適宜採用することができる。また、本実施形態におけるピッチ量(好適にはマクロスティッキー量)の推定に基づく紙製造方法の例の説明において、後述の説明も、本実施形態に当てはめることができ、適宜採用することもできる。
【0055】
また、本実施形態において、例えば「調整する(こと)」等の「する(こと)」を、「工程」又は「ステップ」としてもよいし、「ステップ」を「する(こと)」又は「工程」としてもよし、「工程」を「する(こと)」又は「ステップ」としてもよい。また、本実施形態において、「工程」、「手段」、「機構」は、システム、装置又は部、方法としてもよくこの逆であってもよく、「装置」は、システム、手段、機構又は部にしてもよくこの逆であってもよい。また、「部」は、機構、装置、手段又はシステム等に備えるための部又は装置としてもよくこの逆であってもよい。また、本実施形態において、工程の順序は、順不同であってもよく、工程の前後の組み換えがあってもよい。
【0056】
本実施形態は、紙製造における管理対象に含まれるアクリレート系重合物量の増減に基づき、紙製造におけるマクロスティッキー由来のピッチ対策の水準を制御する、紙製造方法を提供することができる。また、本実施形態は、紙製造におけるマクロスティッキー由来のピッチ対策の水準制御方法であってもよい。当該マクロスティッキー由来のピッチ対策の水準の「制御」は、「調整」であってもよく、当該マクロスティッキー由来のピッチ対策は、マクロスティッキー対策であってもよい。
【0057】
前記対象中のアクリレート系重合物量に基づき、紙製造におけるマクロスティッキー由来のピッチ量の推定を行うことが好適であり、当該マクロスティッキー由来のピッチ量の推定により、紙製造におけるマクロスティッキー由来のピッチ対策の水準をより適切に制御することができる。本実施形態において、マクロスティッキー由来のピッチ量にて、マクロスティッキー対策を行うことができる。
【0058】
本実施形態に用いる対象は、同一又は異なる現場由来のものであってもよく、単数又は複数であってもよい。異なる現場が複数存在する場合には、アクリレート系重合物量に基づき、又はアクリレート系重合物量及びマクロスティッキー由来のピッチ対策データの水準に基づき、対象を処理する優先順位を設定することができる。例えば、複数の異なる現場由来の対象を確認することによって、対象中のアクリレート系重合物量の高さの順位から現場のマクロスティッキー由来のピッチ対策の優先順位を判定してもよいし、又は、各現場のピッチ対策データにあるアクリレート系重合物量水準から高リスクと判定された順に現場の優先順位を判定し、その優先順位に基づき対象に対するマクロスティッキー由来のピッチ対策を実施してもよい。
【0059】
本実施形態は、紙製造における管理対象に含まれるアクリレート系重合物量に基づく紙製造におけるマクロスティッキー由来のピッチ量の推定を行う工程、
推定された前記マクロスティッキー由来のピッチ量の増減に基づき、紙製造におけるマクロスティッキー由来のピッチ対策の水準を制御する工程、を含む、紙製造方法、又は、紙製造におけるマクロスティッキー由来のピッチ対策の水準制御方法を提供することができる。
【0060】
さらに、本実施形態は、紙製造におけるマクロスティッキー対策方法若しくはマクロスティッキー対策の水準の制御或いは調整方法、又は、紙製造におけるマクロスティッキー或いはアクリレート系重合物の低減方法、除去方法、減少方法若しくは抑制方法、又は、紙製造におけるマクロスティッキー或いはアクリレート系重合物の洗浄方法であってもよい。
【0061】
本実施形態における「紙製造におけるマクロスティッキー対策の水準になるように制御する」の「水準」とは、一般的なマクロスティッキー由来のピッチ対策の水準であってもよく、統計学的に取得したマクロスティッキー由来のピッチ対策の水準であってもよい。当該「水準」は、標準、レベルなどであってもよく、マクロスティッキー由来のピッチ対策の水準の「水準」とは、「水準値」であってもよく、この場合には例えば「所定以上の数値」又は「所望の数値範囲内」などが挙げられる。また、当該水準又は水準値は、操作者などが適宜設定してもよいし、予め設定された水準又は水準値から、制御部などが判断し選択したものであってもよい。
【0062】
また、現場ごとによってマクロスティッキー由来の障害が問題となる水準は異なるため、現場ごとにマクロスティッキー対策又はこの水準を適宜設定することが好適である。
また、本実施形態における、マクロスティッキー対策を行う「現場」は、対象(好適には管理対象)が存在した現場及び/又は当該対象と関係性を有する現場であることがより好適であり、当該現場として、紙製造の何れでも特に限定されないが、例えば、紙製造及びこれに関与する工程及び設備(例えば、装置、用具、機構、エリアなど)から選択される1種又は2種以上が挙げられる。
【0063】
また、本実施形態において、確認する対象ごとに対応する単数又は複数のピッチ対策及びその水準(例えば、
図7及び
図8のような、関係図や関係表、多変量解析結果やそれから求めた数式、及び水準の設定条件や判定方法等)を、予め記憶部などに記憶させたり、使用者又は操作者が入力部から適宜入力し設定してもよい。また、対象を確認することによって得られた対象データ及び対象中のアクリレート系重合物量データを取得した制御部は、記憶部などにアクセスし、対象データ(現場名、対象の種類や分類、カテゴリー、タグなど)に基づき、各種マクロスティッキー由来のピッチ対策が含まれているグループ(群、分類、カテゴリー化など)のなかから、適したマクロスティッキー由来のピッチ対策データを選択及び取得することができる。マクロスティッキー由来のピッチ対策データには、対象データからグループが検索できるように、現場名、種類、分類、カテゴリー、タグ、対象との関連性などからの1種又は2種以上が含まれていてもよい。このマクロスティッキー由来のピッチ対策データには、対象に対応した適切なマクロスティッキー由来のピッチ対策を実施するための、水準データ及び水準の実施内容データなどの各種データが単数又は複数含まれることが好適である。
【0064】
なお、本実施形態において、各種データは、名前や分類などのタグ及び/又は紐付けを伴ってファイリングされていることが好適であり、また、当該ファイルは、それぞれ独立して保存管理されていてもよいし、フォルダに、適宜階層化されて、格納されて保存管理されていてもよく、また、記憶部、サーバやクラウドなどにて保管管理されていてもよい。
【0065】
本実施形態におけるより好適な態様として、対象中のアクリレート系重合物量のデータを取得すること;当該対象データ及び/又は対象中のアクリレート系重合物量のデータに基づき、マクロスティッキー由来のピッチ対策データを選択し取得すること;対象中のアクリレート系重合物量のデータを当該マクロスティッキー由来のピッチ対策に当てはめることにより当該対策データのなかから適切な対策(水準及び水準の実施内容など)を判断、選択、又は判定すること;判断などされた適切な対策を、対象が存在した現場及び/又は対象に関係性がある現場にて実施すること;これによりマクロスティッキー対策の水準を制御することを含むことである。水準の制御又は調整は、適宜、フィードバック制御を実施してもよい。
【0066】
また、本実施形態では、水準は、マクロスティッキー量及び/又はアクリレート系重合物量の許容範囲と設定してもよく、工程及び設備などの現場ごとに水準を設定することができ、これらは予め記憶部にて記憶していてもよい。これにより紙製造の現場ごとでマクロスティッキー水準の制御を適切に実施することができる。当該水準データは、工程及び設備などの現場ごとの水準データから1種又は2種以上を選択することができる。より具体的には、現場で確認した対象のアクリレート系重合物量データを、当該現場又はこれに関連のマクロスティッキー由来のピッチ対策データに当てはめることにより、当該マクロスティッキー由来のピッチ対策のなかから適切なマクロスティッキー由来のピッチ対策を判断し、現場にて当該マクロスティッキー由来のピッチ対策を実施することにより、マクロスティッキー対策の水準を制御することができる。例えば、対象中のアクリレート系重合物量が、対象が存在した現場又は対象に関係性のある現場(工程及び設備など)の水準よりも高い(悪い)場合には、例えば、洗浄剤などの薬剤の使用(例えば、量、濃度など)を強く(高く)すること;この現場の水準よりも低い(良い)場合には、薬剤の使用を弱く(低く)すること;この現場の水準の範囲内の場合には、薬剤の使用を維持すること;ができる。これは、フィードバック制御にて水準の範囲内にすることも可能である。この水準は、水準値であってもよい。
【0067】
また、本実施形態では、水準を、3段階や5段階などの多段階的若しくは2種類や3種類などの多種的を含む又は異なる対策の実施を含む内容に適宜設定することもできる。例えば、水準A(工程水a、装置a、装置b、装置c:対策レベル強);水準B(装置a、工程水b、装置c:対策レベル中);水準C(工程水b、対策レベル弱)をマクロスティッキー由来のピッチ対策として設定し、確認された対象データ(例えば、現場名)に基づき、これらマクロスティッキー由来のピッチ対策の水準A~Cから1種又は2種以上が選択できるように構成されており、選択されたマクロスティッキー由来のピッチ対策の水準を、確認された対象中のアクリレート系重合物量データに基づき、対策レベルを実施して対象のマクロスティッキー量を制御するように構成されていることもできる。
【0068】
本実施形態における「マクロスティッキー対策の水準を調整する」の「水準を調整する」とは、例えば、原料ブローによるマクロスティッキー含有量が高い原料の入れ替え;原質工程や抄紙工程のスクリーンやクリーナーなどの異物除去装置のリジェクト量やリジェクトの回収量の調整;ニーダーやリファイナーなどマクロスティッキー微細化が可能な設備の稼働強度の調整;用具洗浄シャワー水の水圧、水量調整、用具から付着物をかき取るドクター交換頻度調整、定期洗浄頻度の調整;マクロスティッキー表面の粘着性を低下させる不粘着化剤などの内添薬剤の添加量調整;マクロスティッキーを溶解、洗浄、付着防止する作用がある外添薬剤の添加量調整などが挙げられ、これらから1種又は2種以上を選択することができる。
【0069】
ここで、マクロスティッキー対策は、マクロスティッキーは他のピッチとは大きさ及び物性などが異なるために、他のピッチ成分対策と同じ対策を実施すると不適切となることが多い。例えば、機械的に分離又は除去するマクロスティッキー対策は、スクリーンやクリーナーなどによる大型の異物を選択的に捕集する機器、装置に適している。ニーダーやリファイナーなどによるマクロスティッキーの微細化対策は、粘着性、弾力性があるため、効果が限定されるが、一定の効果はある。薬剤によるマクロスティッキー対策では、微細ピッチに有効な定着剤、分散剤は粒子が大きいマクロスティッキーには効果が見込めず、粒子の表面の粘着性を低下させる不粘着化剤は一定のマクロスティッキー対策の効果が見込める。また、酵素はマクロスティッキーの粒子内部にまで反応することはできないが、酵素反応により粘着性が低下できる場合には、不粘着化剤と同様に一定のマクロスティッキー対策の効果が見込める。設備の樹脂コーティング、外添洗浄剤は、微細ピッチと同様にマクロスティッキー対策の効果が見込める。本実施形態であれば、より適切にマクロスティッキー対策の水準を制御することもできる。
【0070】
また、本実施形態であれば、効率的なマクロスティッキー対策を実施するために、欠点数、断紙数などの障害の度合い、フェルトのサクション圧など汚れの度合い、フェルトのサクション圧など汚れの度合とアクリレート系重合物量の増減の情報を組み合わせてマクロスティッキー対策の水準(レベル)を制御することも可能できる。
本実施形態であれば、従来のマクロスティッキー対策より、適切なマクロスティッキー対策の水準を制御することができる。
【0071】
本実施形態における紙製造及びこれに関与する工程及び設備(例えば、工程、装置、機構、設備など)におけるマクロスティッキー由来のピッチ対策或いはマクロスティッキー由来のピッチ管理制御として、特に限定されないが、例えば、スクリーンやクリーナーによる異物除去;ニーダーやリファイナーによる異物の微細化;設備、シャワーなどによるワイヤーやフェルトなどの抄紙機又はその用具の洗浄;アクリレート系重合物用洗浄剤、例えばワイヤー、フェルト、プレスロール、ドライヤードラム、カンバスなど設備に用いる、アクリレート系重合物に対して有効な洗浄剤及び汚れ防止剤の使用;マクロスティッキーに有効な内添ピッチコントロール剤の使用などが挙げられ、これらから1種又は2種以上を選択することができる。本実施形態における対象中のアクリレート系重合物量の確認(検出、測定など)技術を組み込むことで、通常行われている紙製造及びこれに関与する工程及び設備におけるマクロスティッキー対策又は管理制御を、より簡便により適切に実施できる。
【0072】
本技術におけるマクロスティッキー対策の水準の調整又は制御として、より好適な対策として、例えば、スクリーンやクリーナーによる異物除去の場合、リジェクト量の増減の制御;ニーダーやリファイナーによる異物の微細化の場合、微細化の負荷(例えば電力量)の増減の制御;シャワーなどによるワイヤーやフェルトなどの抄紙機又はその用具の洗浄の場合、シャワー水量、シャワー圧力の増減の制御;薬剤使用の場合、各種工程(装置、部品用具など)に用いるアクリレート系重合物に有効な洗浄剤及び汚れ防止剤の増減の制御;マクロスティッキーに有効な内添ピッチコントロール剤の増減の制御などが挙げられる。
【0073】
前記マクロスティッキー由来のピッチ対策は、工程水中の異物を除去する機構、工程水中の異物を微細化する機構、工程を洗浄する機構、工程の薬剤を添加する機構から選択される1種又は2種以上を実施することが好適である。なお、より良好なマクロスティッキー由来のピッチ対策において、流出原料の増加、繊維やマクロスティッキー以外のピッチの微細化、用具の劣化、薬剤、電力、蒸気などのコスト上昇などのデメリットとのバランス及びそれらに対する対策を考えて各機構を選択することが、望ましい。
【0074】
紙製造における管理対象中のアクリレート系重合物量が、増加の場合には、ピッチ対策の水準を上げて、ピッチ対策をより促進させる、又は、減少の場合には、ピッチ対策の水準を下げて、ピッチ対策をより抑制させること、若しくは維持することが好適であり、より好適にはマクロスティッキー対策である。
【0075】
紙製造における管理対象に含まれるアクリレート系重合物量の増減を経時的に連続的に測定し、ピッチ対策の水準になるようにフィードバック制御することが好適である。
【0076】
本実施形態の一例の例1を示すが、これに限定されない。当該例1では、「アクリレート含有割合が所定の量以上であるか」のときに「Yes」又は「No」と判定し次のステップに移行しているが、この判定以外の判定形態で次のステップに移行してもよい。
ステップ101として、制御部は、対象中のアクリレート系重合物量が、選択されたマクロスティッキー由来のピッチ対策の水準(所定値)よりも以上である場合(Yes)、マクロスティッキー由来のピッチ対策を強くする、又は当該水準(所定値)よりも以下である場合(No)、マクロスティッキー由来のピッチ対策を維持或いは弱くする。ここで、「強(多)」「弱(少)」とは、相対的な関係をいい、例えば、ある対策(例えば薬剤使用量)が、ある対策(例えば薬剤使用量)よりも、強く(多い)又は弱く(少なく)ことなどが挙げられる。ある対策の「ある」とは、経時的な前後(例えば、後の対策が、その前の対策よりも、強く(多い)又は弱く(少ない)など)であってもよい。また、フィードバックによる制御を行うことで、マクロスティッキー由来のピッチ対策の水準(所定の範囲内)になるように水準化してもよい。
【0077】
また、本実施形態におけるリアルタイムによる対応、自動制御による対応、集中的処理による対応、について、それぞれ例を挙げて、以下に詳述するが、本実施形態はこれらに限定されない。好適な態様として、監視している換算アクリレート含有量又は換算マクロスティッキー量が、(1)紙製造を実施しながらマクロスティッキー対策可能なレベルの範囲内の場合には、リアルタイムによる対応又は自動制御による対応を行うことが好ましく、一方で、(2)紙製造を実施しながらマクロスティッキー対策可能なレベルを超えている場合には、紙製造を中止し、集中的処理による対応を行うことが好ましい。これらの実施は、制御部で制御してもよい。
【0078】
リアルタイムによる対応として、特に限定されないが、例えば、プレスロール表面のアクリレート量を連続計測し、換算アクリレート含有率が10%以上になったらフェルト洗浄剤の添加量を2倍に増やすことなどが挙げられる。
【0079】
自動制御による対応として、特に限定されないが、例えば、プレスロール表面のアクリレート量を連続計測し、換算アクリレート含有率と比例するようフェルト洗浄剤の添加量を増減することなどが挙げられる。
【0080】
集中的処理による対応として、特に限定されないが、例えば、連続計測している原質工程スクリーン・クリーナー最終リジェクトスラリーの換算マクロスティッキー量が500000mm2/kg以上になった場合、製造を中止して工程中のスラリーを全量ブローして廃棄し、抄紙機および原質工程の用具を洗浄することなどが挙げられる。
【0081】
3-1.紙製造
本実施形態の方法を使用する製紙工程は、特に限定されず、本実施形態の方法は、公知の製紙工程又は将来生じ得る製紙工程に適用することができる。前記製紙工程には、調成工程、抄紙工程、及び水回収工程が含まれていることが好適である。一例として、
図1を示すが、本実施形態の工程はこれに限定されない。また、本実施形態において、制御部が各部に対して各種実施の指示を行うことができ、これにより適切なマクロスティッキー由来のピッチ対策及びより適切な紙製造を実施することができる。
【0082】
本実施形態における紙製造について、
図9を参照して、説明するが、本発明の実施形態は、これに限定されない。
本実施形態における紙製造(製紙工程)は、調成工程2、抄紙工程10、及びこれら各工程から発生する水を回収する水回収工程を含むことが好適である(例えば
図9参照)。
【0083】
本実施形態で用いる対象として、当該製紙工程における工程水、パルプ含有物(パルプ含有水、パルプ含有シート、最終紙製品)、工程の装置や用具などへの付着物などから選択される1種又は2種以上が挙げられる。工程又は装置に存在した対象の場合には、その工程又は装置に対するマクロスティッキー由来のピッチ対策データを選択し、その対策データに基づき、マクロスティッキー由来のピッチ対策を実施することが好適である。複数の対象から、最もアクリレート系重合物量が高い対象を選択し、その対象に対するマクロスティッキー由来のピッチ対策を実施してもよい。
【0084】
本実施形態では、対象中のアクリレート系重合物量を確認(検出又は測定など)する工程;当該アクリレート系重合物量に基づき、マクロスティッキー量を、推定、算出、予測、又は定量する工程;当該対象及びアクリレート系重合物量に基づき、当該対象に応じたマクロスティッキー対策を選択する工程;対象中のマクロスティッキー量を、対象に応じたマクロスティッキー由来のピッチ対策の水準に当てはめ、当該水準になるようにマクロスティッキー由来のピッチ対策を制御する工程を含む。
これにより、より適切にマクロスティッキー由来のピッチ対策を実施することができる。マクロスティッキー由来のピッチ対策として、以下に、一例として、マクロスティッキー由来のピッチ洗浄対策を説明するが、上述したようなマクロスティッキー由来のピッチ対策、例えば、異物の微細化によるマクロスティッキー由来のピッチ対策として、異物の微細化時の負荷(電力量)の制御を行うことなどもあり、本実施形態では、各種マクロスティッキー由来のピッチ対策を適宜実施できるので、これらに限定されない。
【0085】
調成工程2は、溶解工程、離解工程、除塵工程(クリーナー工程、スクリーン工程)、濃縮工程、叩解工程から選択される1種又は2種以上を含み、この工程の順で配置されていることが好適である。当該調成工程2にて、古紙などの原料1が溶解工程21から叩解工程にて製紙原料にすることができる。
【0086】
抄紙工程は、インレット12、紙層形成工程(ワイヤーパート)13、湿紙脱水工程(プレスパート)15、湿式乾燥工程(ドライパート)16を少なくとも含むことが好適であり、この工程の順で配置されていることがより好適である。インレットは、均一分散させたパルプ原料(例えば、パルプ濃度0.5~1%程度)をワイヤー上に均一的に吹付けなどにて供給するように構成されている。さらに抄紙工程は、パルプ原料の不純物等を除去するように構成されている除塵工程(スクリーン工程)11を、インレット12の前に含んでもよい。さらに、ドライヤーパート後に、カレンダーパート、リール、及びカッター、ワインダーなどを含んでもよい。当該抄紙工程を経て、最終的に紙5にすることができる。抄紙工程10(各工程12~16)は、抄紙する際にろ水などの発生した水(例えば、ピッチ及びパルプ含有水など)を白水又は回収水19として回収する一次循環水19及び/又は二次循環水20の水回収工程に接続されている。
【0087】
水回収工程では、抄紙工程10で使用した水を、例えば白水サイロ18などのような貯留槽又は貯留装置などに回収する。回収され再生利用可能な水は、調成工程2及び/又は抄紙工程10(例えば除塵工程11など)に循環され、不要となった水は排水として系外に排出されてもよい。
【0088】
例えば、マクロスティッキー由来のピッチ洗浄対策では、マクロスティッキー用洗浄剤を、ピッチ汚れが生じる若しくは付着する又はこれらのおそれがあるような場所や箇所などに使用することができる。
洗浄剤を、製紙工程のいずれの工程、場所、装置及びその用具などに適用することができる。例えば、洗浄剤を、ワイヤー、フェルト、カンバス、ロール又はサクションロールなどの紙製造用具に、添加することが好ましく、また、洗浄剤を、紙製造工程における、各種用具、各種チェスト、各種装置、各配管などから選択される1種又は2種以上に添加すること、及び/又は、紙製造工程における洗浄のため及び/又は汚れ防止のためのシャワーに添加することが好ましい。
【0089】
マクロスティッキー由来のピッチ洗浄対策として、紙製造工程における、洗浄剤の添加場所については特に限定されないが、洗浄剤を、紙製造工程において、マクロスティッキー由来のピッチ汚れが付着している箇所に添加すること若しくは噴射すること、又はその近傍に設置しているタンク若しくは配管に添加すること又は直接噴射することなどを挙げることができ、当該タンクとしては、洗浄用若しくはシール用のシャワー水のタンクなどを挙げることができる。また、シャワー、散布、噴射、浸漬又は洗浄などの装置若しくは機構を用いて、マクロスティッキー由来のピッチ汚れの箇所に対して、洗浄剤を接触させてもよい。
【0090】
さらに、マクロスティッキー由来のピッチ洗浄対策として、洗浄剤を、汚れがひどくなる抄紙工程(好適には抄紙機、抄紙用具)において適用することが好適である。
洗浄剤を、抄紙工程のうちの紙層形成工程13、湿紙脱水工程15、並びに水回収工程のうち白水サイロ(白水の貯留槽)18から選択される1種又は2種以上で用いることが好適である。
【0091】
マクロスティッキー由来のピッチ洗浄対策を、紙層形成工程13及び/又は湿紙脱水工程15において用いる場合には、例えば、21a,21b,21cのように、洗浄剤を配合したシャワー水、洗浄水、噴射水などの薬剤含有水を、ワイヤー、フェルト、プレスロールなどの用具に直接又は間接的に、シャワー、散布又は噴射などの装置若しくは機構にて接触させることが好適である。なお、薬剤を含ませない洗浄水又はシャワー水を用いてもよいが、薬剤を使用することが好ましい。
【0092】
マクロスティッキー由来のピッチ洗浄対策として、洗浄剤をシャワー水に添加して、当該薬剤含有のシャワー水を抄紙工程に用いることで、抄紙用フェルトなどの抄紙工程における抄紙用具を洗浄することができ、これによりマクロスティッキー由来のピッチ汚れを除去することができる。また、洗浄剤含有のシャワー水を抄紙工程に用いることで、抄紙用フェルトなどの抄紙工程に付着するマクロスティッキー由来のピッチ汚れの付着を防止することができる。
【0093】
本実施形態に係るマクロスティッキー由来のピッチ洗浄対策の一例として、抄紙用具の洗浄方法を挙げるが、これに限定されない。
ワイヤーパートのクーチロールを離れた湿潤シート(例えば、固形分濃度12~20質量%)が、プレスパートにおいて抄紙用フェルトに乗せられ、2本のプレスロールに挟まれて圧搾される。抄紙用フェルトとして、特に限定されないが、例えば、ポリアミド、ポリエステル、羊毛などのニードルフェルトなどが多く用いられる。プレスパートを離れる湿紙の水分率は、通常は60質量%程度であり、プレスパート後の水分率が低減された湿紙は、ドライヤーパートにおいて乾燥される。湿紙を離した抄紙用フェルトは、プレスロールの下方を循環しながら走行し、その間に洗浄されて、再び湿潤シートを乗せる。
【0094】
ピッチ洗浄対策において、抄紙用具に対する、洗浄剤を含有するシャワー水の適用方法に特に制限はなく、例えば、全幅シャワー、高圧ニードル移動シャワー、低圧ニードルシャワーなどから選択される1種又は2種以上を用いることができる。
抄紙用フェルトの洗浄方法の一態様を以下に説明するが、本実施形態はこれに限定されず、また、当該方法は、抄紙用フェルトにおけるマクロスティッキー由来のピッチ汚れの洗浄方法若しくはマクロスティッキー由来のピッチ汚れの付着防止方法としてもよい。また、シャワー水を用いる以下の一部の工程又は全ての工程において、適宜、シャワー水に、本実施形態の薬剤が含まれていることが好適である。抄紙用フェルトは、まず高圧ニードル移動シャワーにより洗浄される。高圧ニードル移動シャワーは、噴射ノズルが抄紙用フェルトの幅方向に移動しながら、抄紙用フェルトの内側から水圧2,000~3,000kPaでシャワー水を噴射し、抄紙用フェルトの外側に付着した汚れを解きほぐすことができる。抄紙用フェルトの内側から外側に通り抜けたシャワー水は、吸引ボックスにより吸引することができる。高圧ニードル移動シャワーは、抄紙用フェルトとの間にインターロック機構を設け、抄紙用フェルトが停止したときにはシャワー水の噴射を停止し、抄紙用フェルトの損傷を防ぐことが好ましい。
【0095】
次いで、ファンノズルを取り付けた全幅シャワーから、抄紙用フェルトの全幅にわたって内側から水圧200~500kPaでシャワー水を供給し、十分な量のシャワー水を抄紙用フェルトに含ませ、異物や目詰まり成分を押し出し、吸引ボックスにより吸引して除去することができる。さらに、抄紙用ゲルとの外側から、低圧ニードル移動シャワーを抄紙用フェルトの幅方向に移動しながら、水圧800kPa程度でシャワー水を噴射し、抄紙用フェルトの表面に付着した異物を掻き落とすことができる。最後に、抄紙用フェルトの内側に設けた全幅シャワーと、外側に設けた全幅シャワーからシャワー水を供給し、単数又は複数の吸引ボックスによりシャワー水を吸引して、抄紙用フェルトの洗浄を終了することができる。
【0096】
これにより、抄紙用フェルトに対して洗浄剤を含むシャワー水を噴射することで、抄紙用フェルトに付着したマクロスティッキー由来のピッチ汚れをより良好に洗浄することができ、及び/又は、抄紙用フェルト洗浄剤が接触することで抄紙用フェルトに付着するマクロスティッキー由来のピッチ汚れの付着をより良好に防止することができる。
【0097】
3-2.その他の実施形態
本実施形態に係るマクロスティッキー対策又はマクロスティッキー由来のピッチ状態の管理制御システムには、上述した少なくとも制御部を備えるマクロスティッキー由来のピッチ対策又はマクロスティッキー由来のピッチ状態管理の制御装置が備えられていることが好適である。本実施形態のマクロスティッキー由来のピッチ対策又はマクロスティッキー由来のピッチ状態の管理制御システムは、制御部又は当該制御部を備えるマクロスティッキー由来のピッチ対策又はマクロスティッキー由来のピッチ状態の管理制御の装置と、他の部又は他の装置とが、無線及び/又は有線にて、送受信可能な通信部を更に設けてもよい。
【0098】
なお、本実施形態に関する方法を、実行させるための装置、マクロスティッキー由来のピッチ対策又はマクロスティッキー由来のピッチ状態などを管理制御するための装置(例えば、コンピュータ、PLC、サーバ、クラウドサービスなど)におけるCPUなどを含む装置又は制御部によって実現させることも可能である。また、本実施形態に関する方法を、記録媒体(不揮発性メモリ(USBメモリ、SSD(ソリッド・ステート・ドライブ)など)、HDD、CD、DVD、ブルーレイディスクなど)などを備えるハードウェア資源にプログラムとして格納し、制御部によって実現させることも可能である。当該制御部によってマクロスティッキー由来のピッチ対策又はマクロスティッキー由来のピッチ状態を管理制御するように制御するマクロスティッキー由来のピッチ対策又はマクロスティッキー由来のピッチ状態の管理制御のシステムなど、当該制御部もしくは当該システムを備える装置を提供することも可能である。また、本実施形態に関する方法を実行させるための装置には、制御部の他、キーボードなどの入力部、ネットワークなどの通信部、ディスプレイなどの表示部などを備えてもよい。
【0099】
マクロスティッキー由来のピッチ対策又はマクロスティッキー由来のピッチ状態の管理制御などを管理するための装置又はシステムは、キーボードなどの入力部、ネットワークなどの通信部、ディスプレイなどの出力部、HDDなどの記憶部、上述した測定部などを備えることができる。当該装置又はシステムは、入力部、出力部、記憶部を備えることが好ましく、さらに、通信部及び/又は測定部を備えることが好ましい。
前記入力部は、本実施形態の方法を行う操作者によって、ユーザ操作を受け付けることができる。当該入力部は、例えばマウス及び/又はキーボードなどを含むことができる。また、表示装置のディスプレイ面がタッチ操作を受け付ける入力部として構成されてもよい。
前記出力部は、緑液処理状況及びこれに関連する情報(例えば、表、図、説明文など)などを出力することができる。当該出力部は、例えば、画像を表示する表示装置、音を出力するスピーカー、紙などの印刷媒体に印刷する印刷装置などを挙げることができるが、これらに限定されない。
前記記憶部は、操作者が入力したデータ、マクロスティッキー由来のピッチ対策又はマクロスティッキー由来のピッチ状態の管理制御を行うために設定されているデータを記憶することができる。当該記憶部は、例えば記録媒体を含んでよい。
また、本実施形態に係るマクロスティッキー由来のピッチ対策又はマクロスティッキー由来のピッチ状態の管理制御のシステムは、プログラム及びハードウェアを利用することによって実行することができる。本発明の一実施形態に係るコンピュータ1の一実施形態(図示せず)は、これに限定されないが、コンピュータ1の構成要素として、CPUを少なくとも備え、さらに、RAM、記憶部、出力部、入力部、通信部、ROM、及び測定部などから選択される1種又は2種を備えることができ、このうちRAM、記憶部、出力部及び入力部を備えることが好適であり、さらに、通信部、測定部、ROMなどを少なくとも1つ備えることが好適である。それぞれの構成要素は、例えばデータの伝送路としてのバスで接続されていることが好適である。
【0100】
本技術は、以下の構成を採用することもできる。
・〔1〕 紙製造における対象(好適には管理対象)に含まれるアクリレート系重合物量に基づく、紙製造におけるマクロスティッキー量の推定方法又は判定方法。
・〔2〕 前記管理対象は、原料スラリー、脱水ケーキ、工程水、設備の付着物、最終紙製品、抄紙工程の工程水、抄紙機の付着物、最終紙製品の欠点、及びこれら溶媒抽出物から選択される1種又は2種以上である、前記〔1〕に記載の方法。
・〔3〕 前記対象は、原料スラリー、脱水ケーキ、工程水、設備の付着物、最終紙製品、及び、これらの溶媒抽出物から選択される1種又は2種以上である、前記〔1〕に記載の方法。前記対象は、調成工程、抄紙工程及び水回収工程から選択される1種若しくは2種以上を由来とするものが、好ましい。
・〔4〕 前記対象は、抄紙工程の工程水、抄紙機の付着物、最終紙製品の欠点、及びこれら溶媒抽出物から選択される1種又は2種以上である、前記〔1〕又は〔3〕に記載の方法。
・〔5〕 前記アクリレート系重合物量は、IR分析にて測定される、前記〔1〕~〔4〕のいずれか1つ記載の方法。
・〔6〕 前記アクリレート系重合物量は、IRスペクトル波数1160cm-1及びその付近に見られる最も大きい吸収ピーク量の相対強度により測定される、記〔1〕~〔5〕のいずれか1つ記載の方法。
・〔7〕 前記アクリレート系重合物量は、〔(a)IRスペクトル波数1160cm-1及びその付近に見られる最も大きい吸収ピーク以外に見られる単数或いは複数の吸収ピークのうちのいずれか1つの吸収ピーク量、又は、(b)当該最も大きい吸収ピーク以外測定波長域に見られる単数或いは複数の吸収ピークのうちから複数選択される吸収ピーク量の合計値〕に対する〔IRスペクトル波数1160cm-1及びその付近に見られる最も大きい吸収ピーク量〕により測定される、前記〔1〕~〔6〕のいずれか1つ記載の方法。なお、当該(b)の合計値は、IRスペクトル波数1160cm-1及びその付近に見られる最も大きい吸収ピークを含む又は含まない、複数の吸収ピーク量の合計値であってもよい。
・〔8〕 前記アクリレート系重合物量は、〔IRスペクトル波数600~4000cm-1の特定波数の吸収ピーク量の合計値〕に占める〔IRスペクトル波数1160cm-1付近に見られる最も大きい吸収ピーク量〕による割合により測定される、前記〔1〕~〔7〕のいずれか1つ記載の方法。
【0101】
・〔9〕 紙製造における対象(好適には管理対象)に含まれるアクリレート系重合物量の増減に基づき、紙製造におけるマクロスティッキー対策の水準になるように制御する、紙製造方法、又はマクロスティッキー対策の水準を制御する方法。
・〔10〕 前記〔1〕~〔8〕のいずれか1つ記載の方法により取得されたマクロスティッキー量に基づき、紙製造におけるマクロスティッキー対策の水準になるように制御する、紙製造方法、又はマクロスティッキー対策の水準を制御する方法。
・〔11〕 前記マクロスティッキー対策は、工程水中の異物を除去する機構、工程水中の異物を微細化する機構、工程を洗浄する機構、工程に薬剤を添加する機構から選択される1種又は2種以上を実施することである、前記〔9〕又は〔10〕に記載の方法。
・〔12〕 紙製造における対象(好適には管理対象)中のアクリレート系重合物量が、増加の場合には、マクロスティッキー対策の水準を上げて、マクロスティッキー対策を促進させる、又は、 減少の場合には、マクロスティッキー対策の水準を下げて、マクロスティッキー対策を抑制させる、前記〔9〕~〔11〕のいずれか1つに記載の方法。
・〔13〕 紙製造における対象(好適には管理対象)に含まれるアクリレート系重合物量の増減を経時的に測定し、マクロスティッキー対策の水準になるようにフィードバック制御する、前記〔9〕~〔12〕のいずれか一つに記載の方法。
【実施例0102】
以下の実施例及び比較例を挙げて、本発明の実施形態について説明をする。なお、本発明の範囲は実施例に限定されるものではない。
【0103】
〔試験例1〕
板紙および古紙原料に含まれる一般的なピッチ成分である、アクリレート、EVA、ラテックス、ロジンサイズ剤について、各IR吸収スペクトルを測定した(
図1~4)。
これらアクリレート、EVA、ラテックス、ロジンサイズ剤のIR吸収スペクトルを比較すると、波数1160cm
-1付近の吸収ピークがあるのは、
図1に示すアクリレートだけだった。このことより、波数1160cm
-1付近の吸収ピークは、アクリレートの指標として適している。
【0104】
<赤外線分析装置>
FTIR-ATR装置:日本分光社製、FT/IR4100(フーリエ変換、面積占有率計算ソフト:装置内蔵ソフト)
透過測定方法:液膜法:ベンゼン/クロロホルム1:1混合溶媒溶解液をKBrプレート上で乾燥した被膜を測定。
なお、対象(例えば品質管理対象等)に対して赤外線を照射し、反射光強度を測定する赤外線分析による測定でもよい。
【0105】
〔試験例2-1~2-3〕
試験例2として、段ボール原紙製造マシンの原料スラリーの溶媒抽出物(試料2-1)、段ボール原紙製造マシンの原料スラリーのろ液の溶媒抽出物(試料2-2)、段ボール原紙製造マシンの原料スラリー中から採取したマクロスティッキー(試料2-3)を用いた。
【0106】
<段ボール原紙製造マシンの原料スラリーの性状>
本試験例に使用する原料スラリーは、内添薬剤添加前の完成原料を、試料として、採取したものである。
原料スラリーの性状は、SS濃度3.7%、pH7.1、電気伝導度238mS/mであった。
試料2-1、試料2-2、試料2-3で用いた段ボール原紙製造マシンの原料スラリーは、同じものを使用した。
【0107】
<原料スラリーの溶媒抽出物の作製方法>
段ボール原紙製造マシンの原料スラリーを105℃で3時間乾燥したもの1(g)に対して、ベンゼンとクロロホルム混合溶媒(1vol:1vol)50mL(抽出温度20~25℃)を混合し、60分間静置条件で抽出し、抽出後液を軽く分散させた後に上澄み部分を試料として用いた。
【0108】
<原料スラリーのろ液の溶媒抽出物の作製方法>
段ボール原紙製造マシンの原料スラリーを孔径20μmのワットマン社製NO41ろ紙でろ紙1cm2あたりサンプル0.5mLのサンプル量でろ過したろ液(100mL)を105℃で24時間乾燥させた蒸発乾固したものに対して、ベンゼンとクロロホルム混合溶媒(1vol:1vol)5mLを混合し、60分間静置条件で抽出し、抽出後液を軽く分散させた後に上澄み部分を試料として用いた。
<原料スラリー中からマクロスティッキーを採取する方法>
段ボール原紙製造マシンの原料スラリー(10L)から採取したJISP8231:2005に準拠した方法による目開き150μmスリットスクリーン捕捉物から粘着性があるものを選別し、105℃で3時間乾燥させてもの(0.1g)に対して、ベンゼンとクロロホルム混合溶媒(1vol:1vol)2mLを混合し、60分間静置条件で抽出し、抽出後液を軽く分散させた後に上澄み部分を試料として用いた。
【0109】
試験例2-1において、段ボール原紙製造マシンの原料スラリーの溶媒抽出物のIR吸収スペクトルには波数1160cm
-1付近の吸収ピークがほとんど見られなかった(
図5)。試験例2-1からは、段ボール原紙製造マシンの原料スラリー中には、アクリレートは非常に少ないことを示している。
また、試験例2-2において、段ボール原紙製造マシンの原料スラリーを孔径20μmのワットマン社製NO41ろ紙でろ過したろ液の溶媒抽出物のIR吸収スペクトルには波数1160cm
-1付近の吸収ピークが見られなかった(図示せず)。試験例2-2からは、抄紙工程水に分散している微細ピッチとしては存在するアクリレートは少ないことを示している。さらに、試験例2-2からは、常温でも弾力性を有しているため微細に粉砕されにくいアクリレートの性質を反映している。
【0110】
一方、試験例2-3において、段ボール原紙製造マシンの原料スラリー中のマクロスティッキーには波数1160cm
-1付近の強い吸収ピークが見られ、アクリレートが主要成分だった(
図6)。試験例2-3からは、疎水性粘着物質の未離解物であるマクロスティッキーはアクリレート系ピッチの主要供給源であることを示している。
【0111】
〔試験例3〕
試験例3において、試験例2-1で使用した段ボール原紙製造マシンの原料スラリーの溶媒抽出物と、アクリレート(レヂテックス社製、レヂテックスA-6001)とを固形物として1:9~9:1の比率で混合した混合物、試験例2-1で使用した無添加の段ボール原紙製造マシンの原料スラリーの溶媒抽出物単独、アクリレート単独を、各試料として使用した。具体的には段ボール原紙製造マシンの原料スラリーの乾燥物のベンゼンとクロロホルム混合溶媒(1vol:1vol)抽出物(固形物濃度0.03%)と中に、アクリレート105℃ 24時間乾燥物のベンゼンとクロロホルム混合溶媒(1vol:1vol)抽出物(固形物濃度0.06%)を固形物として1:9~9:1になるよう混合したものとそれぞれ単独溶媒抽出物を試料として用いた。
これら各試料における「波数1160cm
-1吸収ピーク面積」及び「アクリレートの波数600~4000cm
-1のIR吸収スペクトルの吸収ピークの全面積」との関係の各試料のデータを取得し、各試料の波数1160cm
-1吸収ピーク面積率(%)を算出した。具体的には、「波数1160cm
-1吸収ピーク面積」/「アクリレートの波数600~4000cm
-1のIR吸収スペクトルの吸収ピークの全面積」×100=波数1160cm
-1吸収ピーク面積率(%)。
波数1160cm
-1吸収ピーク面積、IR吸収スペクトルの吸収ピークの全面積、全面積に占める波数1160cm
-1吸収ピーク面積の割合は、FTIR-ATR装置(日本分光社製)に内容の面積占有率計算ソフトにて、求めた。この全面積には、「波数1160cm
-1吸収ピーク面積」も含まれている。
各試料における、各試料の波数1160cm
-1吸収ピーク面積率(%)とアクリレート含有率(%)との関係を
図7及び表1に示した。
【0112】
【0113】
アクリレートの波数600~4000cm
-1のIR吸収スペクトルの吸収ピークの全面積に占める波数1160cm
-1付近の吸収ピークの割合は測定サンプル(各試料)のアクリレートの割合に応じて、増加していた(
図7)。相関係数:0.98、回帰直線:アクリレート含有率=8.5×アクリレートの波数600~4000cm
-1のIR吸収スペクトルの吸収ピークの全面積に占める波数1160cm
-1付近の吸収ピークの割合―9.9。
試験例3によると、波数600~4000cm
-1のIR吸収スペクトルの吸収ピークの全面積に占める波数1160cm
-1付近の吸収ピーク割合は、アクリレート含有割合の数的指標として使用可能である。
【0114】
そして、古紙を再利用する段ボール製造現場において、採取したサンプルについて、〔試験例1〕の方法にて、原料スラリーのマクロスティッキー量(mm2/kg)を測定し、このときの段ボール原紙のピッチによる欠点数(個/日)を計測した。さらに、このときの段ボール原紙の欠点部分をn箇所採取し、〔試験例1〕の方法にて、欠点溶媒抽出物(nで割った平均値を用いた)を得た。この欠点溶媒抽出物を用いて、〔試験例3〕の方法にて、IR分析測定し、〔欠点溶媒抽出物のIRスペクトル波数1160cm-1吸収ピーク面積/欠点溶媒抽出物のIRスペクトル波数600~4000-1吸収ピーク面積(全面積)」から、「欠点溶媒抽出物IR1160-1ピーク面積率」を、FTIR-ATR装置(日本分光社製)に内容の面積占有率計算ソフトにて、求めた。当該全面積(合計値)には、欠点溶媒抽出物のIRスペクトル波数1160cm-1吸収ピーク面積が含まれている。
【0115】
このように、1つのサンプルに基づいて、「ピッチ欠点数(個/日)」と、「原料スラリーのマクロスティッキー量(mm
2/kg)」と、「欠点溶媒抽出物IR1160
-1ピーク面積率」との3つのデータを得、このようなデータ取得を、約3月行い、サンプル総数78個であった。そして、「欠点溶媒抽出物IR1160
-1ピーク面積率」にて、「1%以上」のグループ、「1%未満」のグループに分類し、それぞれの相関関係(単回帰式)を検討した(
図8参照)。この結果、「1%以上」で分類を設定することで、相関係数がR
2=0.6と高くなった。
【0116】
よって、「IR1160-1付近のピーク面積率」、すなわち、「IRスペクトル波数1160cm-1及びその付近に見られる最も大きい吸収ピーク量」を用いた相対強度を基準として使用することは、現場においても、マクロスティッキー由来のピッチ対策及びマクロスティッキー由来のピッチ状態の管理において、重要であることが裏付けできた。さらに、現場ごとや工程ごとなどの条件にて、基準については、適宜、適した数値条件を設定することで、マクロスティッキー由来のピッチ対策及びマクロスティッキー由来のピッチ状態の管理が、より良好できることも明らかにできた。
【0117】
〔試験例4:本実施形態のマクロスティッキー推定量に基づいた抄紙機用具の洗浄〕
試験例4では、抄紙機の用具の付着物を、非接触式の赤外線分析装置にて測定した。このときの波数600~4000cm-1のIR吸収スペクトルの吸収ピークの全面積に占める波数1160cm-1付近の吸収ピーク割合は、6.0%であった。表1から求めた単回帰式により、抄紙機の用具の付着物中の(メタ)アクリレート量の割合は、41.1%と算出し、これをマクロスティッキー量と推定した。マクロスティッキー対策として、薬剤として、ポリオキシエチレンステアリルプロピレンジアミン(EO=15モル)の添加量を対フェルトシャワー水20mg/Lから50mg/Lに増量した。噴射洗浄後のマクロスティッキー量は、上記と同様にIR吸収スペクトル分析に基づき、24.1%と減少していた。当該10%の範囲内に該当していなかったため、ポリオキシエチレンステアリルプロピレンジアミン(EO=15モル)の添加量を対フェルトシャワー水100mg/Lに増量した。その後、マクロスティッキー量を推定し、7.1%と当該範囲内に該当したため、増量を継続した。その後、推定マクロスティッキー量が1%以下になったので原料中のマクロスティッキーが減少したと判断し、ポリオキシエチレンステアリルプロピレンジアミン(EO=15モル)の添加量を通常量である対フェルトシャワー水20mg/Lに戻し、推定マクロスティッキー量が5.4%と当確範囲内だったのでポリオキシエチレンステアリルプロピレンジアミン(EO=15モル)の添加量を対フェルトシャワー水20mg/Lで継続した。
1 原料、2 調成工程、5 紙、10 抄紙工程、11 除塵工程、12 インレット、13 ワイヤーパート、14 湿潤シート、15 プレスパート、16 ドライパート、17 白水、18 白水サイロ、19 一次循環水、20 二次循環水、22 ピッチコントロール剤