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  • 特開-リサイクル正極活物質の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025152714
(43)【公開日】2025-10-10
(54)【発明の名称】リサイクル正極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 7/00 20060101AFI20251002BHJP
   H01M 10/54 20060101ALI20251002BHJP
   C22B 1/00 20060101ALI20251002BHJP
【FI】
C22B7/00 C
H01M10/54
C22B1/00 101
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024054748
(22)【出願日】2024-03-28
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2025-02-18
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】當間 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】杉内 瑞穂
(72)【発明者】
【氏名】吉丸(原) 央江
(72)【発明者】
【氏名】影浦 淳一
(72)【発明者】
【氏名】島野 哲
【テーマコード(参考)】
4K001
5H031
【Fターム(参考)】
4K001AA01
4K001AA02
4K001AA07
4K001AA08
4K001AA09
4K001AA10
4K001AA11
4K001AA15
4K001AA16
4K001AA17
4K001AA18
4K001AA19
4K001AA23
4K001AA27
4K001AA28
4K001AA29
4K001AA30
4K001AA34
4K001AA35
4K001AA36
4K001AA38
4K001AA40
4K001BA22
4K001CA02
4K001CA06
4K001CA07
4K001CA08
4K001CA09
4K001DA14
5H031RR02
(57)【要約】
【課題】加熱後の混合物から正極活物質以外の成分を効率よく除去する。
【解決手段】リサイクル正極活物質粉の製造方法は、(1)正極活物質粉及び炭素含有材料を含む正極合材に活性化処理剤を混合して混合物を得る工程、(2)混合物を加熱して加熱後の正極活物質粉を含む加熱後の混合物を得る工程、及び、(3)加熱後の混合物から加熱後の正極活物質粉以外の成分を除去する工程を含む。工程(3)は、(A1)加熱後の混合物又は一部除去混合物に対して、水を含む液体を接触させて、加熱後の正極活物質粉を含むスラリーS1を得るサブ工程、(A2)スラリーS1中で加熱後の正極活物質粉を湿式分級して、相対的に平均粒径の小さい加熱後の正極活物質粉を含むスラリーS2と、相対的に平均粒径の大きい加熱後の正極活物質粉を含むスラリーS3とを得るサブ工程、及び、(A3)スラリーS3を固液分離するサブ工程、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)正極活物質粉、及び、炭素含有材料を含む正極合材に、1種または2種以上のアルカリ金属化合物を含有する活性化処理剤を混合して混合物を得る工程、
(2)前記混合物を加熱して、加熱後の正極活物質粉を含む加熱後の混合物を得る工程、及び、
(3)前記加熱後の混合物から前記加熱後の正極活物質粉以外の成分を除去する工程、を含む、リサイクル正極活物質粉の製造方法であって、
工程(3)は、
(A1)前記加熱後の混合物、又は、前記加熱後の混合物から前記加熱後の正極活物質粉以外の成分が一部除去された一部除去混合物に対して、水を含む液体を接触させて、前記加熱後の正極活物質粉を含むスラリーS1を得るサブ工程、
(A2)前記スラリーS1中で前記加熱後の正極活物質粉を湿式分級して、相対的に平均粒径の小さい前記加熱後の正極活物質粉を含むスラリーS2と、相対的に平均粒径の大きい前記加熱後の正極活物質粉を含むスラリーS3とを得るサブ工程、及び、
(A3)前記スラリーS3を固液分離するサブ工程、を有する、方法。
【請求項2】
サブ工程(A1)は、前記加熱後の混合物に対して、水を含む液体を接触させて、前記加熱後の正極活物質粉を含むスラリーS1を得るサブ工程である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
サブ工程(A1)は、前記加熱後の混合物から前記加熱後の正極活物質粉以外の成分が一部除去された一部除去混合物に対して、水を含む液体を接触させて、前記加熱後の正極活物質粉を含むスラリーS1を得るサブ工程である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
サブ工程(A2)の湿式分級を、湿式篩又は湿式サイクロンで行う、請求項1又は2に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リサイクル正極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電池の正極活物質にはコバルト、ニッケル、マンガン、リチウムなどの希少金属成分が含有されており、特に非水電解質二次電池の正極活物質には、上記の希少金属成分を主成分とする化合物が利用されている。希少金属成分の資源を保全するために、二次電池の電池廃材から、希少金属成分を再生産する方法が求められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、正極合材とアルカリ金属化合物を含有する活性化処理剤とを混合し、混合物を加熱してバインダーを分解して加熱後の混合物を得、加熱後の混合物に水を添加してスラリー化した後に固液分離することにより正極活物質を回収する方法が開示されている。この方法では、有機溶剤を使用せずに、電池廃材から正極活物質を直接回収する点でコスト的に優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-186150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1においては、加熱後の混合物から正極活物質以外の成分を効率よく除去する点でなお改善の余地があった。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、加熱後の混合物から正極活物質以外の成分を効率よく除去することのできるリサイクル正極活物質の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1](1)正極活物質粉、及び、炭素含有材料を含む正極合材に、1種または2種以上のアルカリ金属化合物を含有する活性化処理剤を混合して混合物を得る工程、
(2)前記混合物を加熱して、加熱後の正極活物質粉を含む加熱後の混合物を得る工程、及び、
(3)前記加熱後の混合物から前記加熱後の正極活物質粉以外の成分を除去する工程、を含む、リサイクル正極活物質粉の製造方法であって、
工程(3)は、
(A1)前記加熱後の混合物、又は、前記加熱後の混合物から前記加熱後の正極活物質粉以外の成分が一部除去された一部除去混合物に対して、水を含む液体を接触させて、前記加熱後の正極活物質粉を含むスラリーS1を得るサブ工程、
(A2)前記スラリーS1中で前記加熱後の正極活物質粉を湿式分級して、相対的に平均粒径の小さい前記加熱後の正極活物質粉を含むスラリーS2と、相対的に平均粒径の大きい前記加熱後の正極活物質粉を含むスラリーS3とを得るサブ工程、及び、
(A3)前記スラリーS3を固液分離するサブ工程、を有する、方法。
【0008】
[2]サブ工程(A1)は、前記加熱後の混合物に対して、水を含む液体を接触させて、前記加熱後の正極活物質粉を含むスラリーS1を得るサブ工程である、[1]に記載の方法。
【0009】
[3]サブ工程(A1)は、前記加熱後の混合物から前記加熱後の正極活物質粉以外の成分が一部除去された一部除去混合物に対して、水を含む液体を接触させて、前記加熱後の正極活物質粉を含むスラリーS1を得るサブ工程である、[1]に記載の方法。
【0010】
[4]サブ工程(A2)の湿式分級を、湿式篩又は湿式サイクロンで行う、[1]又は[2]に記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、加熱後の混合物から正極活物質以外の成分を効率よく除去することのできるリサイクル正極活物質の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の一実施形態の工程(3)のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(リサイクル正極活物質の製造方法)
以下、リサイクルに係る正極活物質の製造方法について説明する。
【0014】
本発明の実施形態に係るリサイクル正極活物質の製造方法は、下記工程を含む。
工程(1):正極活物質粉、及び、炭素含有材料を含む正極合材に、1種または2種以上のアルカリ金属化合物を含有する活性化処理剤を混合して混合物を得る工程
工程(2):前記混合物を加熱して、加熱後の正極活物質粉を含む加熱後の混合物を得る工程
工程(3):前記加熱後の混合物から前記加熱後の正極活物質粉以外の成分を除去する工程
工程(3)は、
(A1)前記加熱後の混合物、又は、前記加熱後の正極活物質粉以外の成分が一部除去された加熱後の混合物に対して、水を含む液体を接触させて、前記加熱後の正極活物質粉を含むスラリーS1を得るサブ工程、
(A2)前記スラリーS1中で前記加熱後の正極活物質粉を湿式分級して、相対的に平均粒径の小さい前記加熱後の正極活物質粉を含むスラリーS2と、相対的に平均粒径の大きい前記加熱後の正極活物質粉を含むスラリーS3とを得るサブ工程、及び、
(A3)前記スラリーS3を固液分離するサブ工程、を有する。
【0015】
以下、本実施形態における各工程について詳細に説明する。
【0016】
前工程(A):正極合材準備工程
まず、正極活物質粉、及び、炭素含有材料を含む正極合材を準備する。
【0017】
正極合材において、正極活物質粉が結着材により互いに結着されていてよい。正極合材は、正極活物質粉及び結着材に加えて、電解質及び/又は導電材を含んでもよい。正極合材が導電剤を有する場合、正極活物質粉及び導電材が互いに結着剤により結着されていてよい。電解質は、電池の電解液に由来して正極合材に含浸される成分である。
【0018】
<正極活物質>
正極活物質の例は、リチウム、酸素、フッ素、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、リン、硫黄、カリウム、カルシウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、イットリウム、ニオブ、モリブデン、銀、インジウム、タングステン、などを構成元素とする複合化合物である。
【0019】
なお、正極活物質は単一の化合物のみからなってもよいし、複数の化合物から構成されていてもよい。
【0020】
好適な正極活物質の例は、下記の元素群1から選ばれる1種以上の元素と、元素群2から選ばれる1種以上の元素とを含有する複合酸化物である。
元素群1:Ni、Co、Mn、Fe、Al、P
元素群2:Li、Na、K、Ca、Sr、Ba、Mg
【0021】
中でも、正極活物質は、以下の化学式(A式)で表されることが好適である。
【0022】
Li1+a 2+d
ただし、Mは、Na、K、Ca、Sr、Ba、及び、Mgからなる群から選択される少なくとも1種の元素を表し、
は、Ni、Co、Mn、Fe、Al、及び、Pからなる群から選択される少なくとも1種の元素を表し、
は、Ni、Co、Mn、及び、Fe以外の遷移金属元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素を表し、
Xは、O及びPを除く非金属元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素を表し、
-0.4<a<1.5,0≦b<0.5,0≦c<0.5,-0.5<d<1.5,0≦e<0.5を満たす。
【0023】
は、Cu、Ti、Mg、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga、V、B、Si、Ca、Sr、Ba、Ge、Cr、Sc、Y、La、Ta、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、及びInからなる群から選択される少なくとも1種の元素であることが好ましい。Xの例は、F、S、Cl、Br、I、Se、Te、Nである。
【0024】
正極活物質は、LiとNiを少なくとも含む複合酸化物であることが好ましい。
【0025】
また、正極活物質において、MにおけるNiのモル分率は0.3~0.95であることがより好ましい。
【0026】
正極活物質としての上記複合酸化物の結晶構造には、特に制限はないが、層状構造が好ましく、六方晶型または単斜晶型の結晶構造がより好ましい。
【0027】
六方晶型の結晶構造は、P3、P3、P3、R3、P-3、R-3、P312、P321、P312、P321、P312、P321、R32、P3m1、P31m、P3c1、P31c、R3m、R3c、P-31m、P-31c、P-3m1、P-3c1、R-3m、R-3c、P6、P6、P6、P6、P6、P6、P-6、P6/m、P6/m、P622、P622、P622、P622、P622、P622、P6mm、P6cc、P6cm、P6mc、P-6m2、P-6c2、P-62m、P-62c、P6/mmm、P6/mcc、P6/mcmおよびP6/mmcからなる群より選ばれるいずれか一つの空間群に帰属する。
【0028】
単斜晶型の結晶構造は、P2、P2、C2、Pm、Pc、Cm、Cc、P2/m、P2/m、C2/m、P2/c、P2/cおよびC2/cからなる群より選ばれるいずれか一つの空間群に帰属する。
【0029】
さらには、六方晶型の結晶構造に含まれるR-3mまたは単斜晶型の結晶構造に含まれるC2/mの空間群に帰属することが好ましい。
【0030】
なお、正極活物質の結晶構造はCuKα線を線源とする粉末エックス線回折測定により得られる粉末X線回折図形から同定される。
【0031】
正極合材中の正極活物質粉の粒子径には特に制限はないが、通常、0.001~100μm程度である。なお、正極活物質粉の粒度分布はレーザー回折散乱粒度分布測定装置(例えば、マルバーン社製マスターサイザー2000)を用いて測定できる。得られた粒度分布から、体積基準の累積粒度分布曲線を作成し、微小粒子側から50%累積時の粒子径(D50)の値を正極活物質粉の平均粒子径とすることができる。
【0032】
[炭素含有材料]
正極合材に含有される炭素含有材料の例としては、結着剤、導電材(炭素系導電材)、電解質が挙げられる。正極合材が結着剤を含む場合、正極合材において、正極活物質の粒子が結着剤により互いに結着されていてよい。
【0033】
<導電材>
導電材の例は、金属粒子等の金属系導電材、及び、炭素材料からなる炭素系導電材である。
【0034】
炭素系導電材の例は、具体的には黒鉛粉末、カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック)および繊維状炭素材料(例えば黒鉛化炭素繊維、カーボンナノチューブ)である。
【0035】
炭素系導電材は、単一の炭素材料でもよいし、複数の炭素材料から構成されていてもよい。
【0036】
また、炭素系導電材として用いられる炭素材料の比表面積は、通常0.1~500m/gであることができる。
【0037】
その場合、導電材は30m/g以上の炭素系導電材のみからなることができ、30m/g以上のカーボンブラックであってもよく、30m/g以上のアセチレンブラックであってもよい。
【0038】
なお、後述する酸化力のあるアルカリ金属化合物を含む活性化処理剤を用いる場合、炭素系導電材の酸化処理の速度を高めることができ、比表面積が小さい炭素材料であっても酸化処理することができる場合がある。
【0039】
<結着材>
正極合材に含まれる結着材(活性化処理前結着材)の例は、熱可塑性樹脂であり、具体的には、ポリフッ化ビニリデン(以下、PVdFということがある。)、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEということがある。)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体および四フッ化エチレン・パーフルオロビニルエーテル系共重合体などのフッ素樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂;スチレンブタジエン共重合体(以下、SBRということがある。);が挙げられ、これらの二種以上の混合物であってもよい。
【0040】
正極合材中の正極活物質粉、導電材及び結着材の配合量に特段の限定はない。結着材の配合量は、正極活物質粉100重量部に対し、0.5~30重量部であることができ、1~5重量部であってもよい。導電材の配合量は、0であってもよいが、正極活物質粉100重量部に対し、0~50重量部であることができ、1~10重量部であってもよい。
正極合材中の結着剤の含有量は、正極活物質100質量部に対して下記の範囲であってよい。結着剤の含有量は、0.5質量部以上、1質量部以上、又は、2質量部以上であってよい。結着剤の含有量は、30質量部以下、10質量部以下、又は、5質量部以下であってよい。これらの観点から、結着剤の含有量は、0.5~30質量部、1~10質量部、1~5質量部、又は、2~5質量部であってよい。
正極合材中の導電材の含有量は、特に制限はないが、正極活物質100質量部に対して下記の範囲であってよい。導電材の含有量は、0質量部以上、0質量部超、1質量部以上、3質量部以上、又は、5質量部以上であってよい。導電材の含有量は、50質量部以下、40質量部以下、30質量部以下、20質量部以下、又は、10質量部以下であってよい。これらの観点から、導電材の含有量は、0~50質量部、0質量部超40質量部以下、1~30質量部、1~10質量部、3~20質量部、又は、5~10質量部であってよい。
【0041】
正極合材は、正極活物質及び炭素含有材料に加えて、金属粒子等の金属系導電材及び/又は電解質を含有してよい。正極合材が結着剤及び導電材を含有する場合、正極活物質の粒子及び導電材が結着剤により互いに結着されていてよい。電解質は、電池の電解液に由来して正極合材に含浸される成分である。正極合材は、結着剤及び/又は電解液(例えば、電解液中の電解質)に由来するフッ素化合物を含有してよい。
【0042】
<電解質>
電解質の例は、LiPF、LiBF、LiClO、LiN(SOCF、LiN(SOF)、LiCFSOである。正極合材に含まれる電解質の量に限定はないが0.0005~7質量%であることができる。
【0043】
正極合材は、電解液に由来する溶媒を含んでいてもよい。溶媒の例は、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートである。
【0044】
このような正極合材は、集電体と正極合材層とを有する廃正極から正極合材を分離して回収することにより得ることができる。
【0045】
「廃正極」とは、廃棄された電池から回収された正極、及び、正極及び電池の製造の過程で発生する正極の廃棄物であることができる。廃棄された電池は、使用済みの電池であってもよく、未使用であるが規格外品の電池であってもよい。また、正極の廃棄物は、電池の製造工程で発生する正極の端部、及び、規格外品の正極であることができる。また、正極合材として、正極合材製造工程で生じる、集電体に貼り付けられていない正極合材の廃棄品を用いることもできる。
【0046】
廃正極は、アルミニウム箔及び銅箔などの金属箔である集電体と、当該集電体上に設けられた正極合材層とを有する。正極合材層は、集電体の片面に設けられてもよく、両面に設けられていてもよい。
【0047】
正極合材層と集電体とを有する廃正極から正極合材を分離する方法としては、集電体から正極合材層を機械的に剥離する方法(例えば、集電体から正極合材を掻き落とす方法)、正極合材層と集電体との界面に溶剤を浸透させて集電体から正極合材層を剥離する方法、アルカリ性もしくは酸性の水溶液を用いて、集電体を溶解して正極合材層を分離する方法などがある。好ましくは、集電体から正極合材層を機械的に剥離する方法である。
【0048】
前工程(B):正極合材の洗浄工程
つづいて、正極合材が電解質を含有する場合には、準備した正極合材に対して、電解質洗浄溶媒を接触させて、正極合材から電解質の少なくとも一部を除去することが好適である。具体的には、正極活物質粉、結着材、及び、電解質を含む正極合材を、電解質洗浄溶媒と接触させて固体成分と液体成分とを含むスラリーを得て、その後、スラリーを固体成分と液体成分とに分離する。
【0049】
固液分離とは、スラリーを液体成分と固体成分とに分離する工程である。固液分離の方法としては、従来公知の方法でよく、例えば、ろ過や遠心分離法が挙げられる。
【0050】
電解質洗浄溶媒に特に限定はない。例えば、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート等の炭酸エステル類;水;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;エタノール、メタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類が挙げられる。
【0051】
正極合材に対して電解質洗浄溶媒を接触させることは、公知の粉体と液体との接触装置、例えば、攪拌槽等で行うことができる。
【0052】
正極合材を電解質洗浄溶媒と接触させる工程において、正極合材と電解質洗浄溶媒とを攪拌してスラリーを得ることが好適である。攪拌翼の先端の周速は0.1~1.0m/sとすることができる。
【0053】
正極合材の洗浄工程において、固液分離した後、得られた固体成分のリンスを実施してもよい。リンスとは、得られた固体成分に再び電解質洗浄溶媒を接触させてスラリーを得て、その後、スラリーを再び固体成分と液体成分とに分離する操作である。正極合材の洗浄では、リンスを複数回実施してもよい。リンスにおけるスラリー濃度も上記と同様にすることができる。リンスにおいても、上述のようにスラリーの攪拌を行うことができる。
【0054】
上記の洗浄により正極合材から電解質を十分に除去できる。例えば、電解質が残っていると以下の反応が起こり、正極活物質の構造が層状岩塩構造からスピネル構造に変化してしまう。
LiPF+16LiMO+2O→6LiF+LiPO+8LiM
また、活性化剤として炭酸リチウムを含む場合、以下の反応によるリチウムの消費も起こる。
LiPF+4LiCO→6LiF+LiPO+4CO
【0055】
分離された固体成分は、必要に応じて、減圧及び/または加熱により電解質洗浄溶媒の乾燥を行うことができる。加熱温度は、50~200℃とすることができる。
【0056】
工程(1):活性化処理剤混合工程
次に、準備した正極合材に、1種または2種以上のアルカリ化合物を含有する活性化処理剤を混合して混合物を得る。
【0057】
正極合材と活性化処理剤との混合方法は、乾式混合、又は、湿式混合のいずれでもよく、これらの混合方法の組み合わせでもよく、その混合順序も特に制限されない。
【0058】
混合の際には、ボールなどの混合メディアを備えた混合装置を用いて、粉砕混合する工程を経ることが好ましく、これにより混合効率を向上させることができる。
【0059】
混合方法としては、より簡便に混合が行える点で乾式混合が好ましい。乾式混合においては、V型混合機、W型混合機、リボン混合機、ドラムミキサー、攪拌翼を内部に備えた粉体混合機、ボールミル、振動ミルまたはこれらの装置の組み合わせを用いることができる。
【0060】
乾式混合に用いる混合装置としては、攪拌翼を内部に備えた粉体混合機が好ましく、具体的には、レーディゲミキサー(株式会社マツボー製)を挙げることができる。
【0061】
以下、本工程で使用される活性化処理剤について詳細に説明する。
【0062】
<活性化処理剤>
活性化処理剤は、1種又は2種以上のアルカリ金属化合物を含有する。活性化処理剤は、カリウム化合物及びナトリウム化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含有することが好適である。ここで、カリウムおよび/又はナトリウムをアルカリ金属元素Xとよぶことがある。活性化処理剤は、カリウム化合物及び/又はナトリウム化合物以外に、Liなどの他のアルカリ金属を含むアルカリ金属化合物を含有してもよい。
【0063】
活性化処理剤が正極活物質と接触すると、正極活物質を活性化させることができる。活性化処理剤におけるアルカリ金属化合物が特に溶融部分を含む場合には、該溶融部分と正極活物質との接触性が向上することで、正極活物質の活性化がより促進される。
【0064】
また、正極合材は、結着材及び/又は電解液に由来してフッ素を含む化合物を含むことがあるが、該フッ素を含む化合物と活性化処理剤とを接触させることで、フッ素成分がアルカリ金属フッ化物として安定化するため、フッ化水素などの腐食性ガスが発生することを抑制することができる。なお、フッ化水素は正極活物質の活性を落とすことからも発生を防止することが望ましい。
【0065】
活性化処理剤における全アルカリ金属化合物の割合は、アルカリ金属化合物の種類や、対象となる正極活物質の種類等に考慮して適宜設定されるが、活性化処理剤全重量に対して、通常、50重量%以上、好ましくは70重量%以上(100重量%含む)である。
アルカリ金属化合物中に含まれるアルカリ金属のうちカリウム及びナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種のアルカリ金属の濃度は、0~100モル%で任意に調整できるが、好ましくは10モル%以上、より好ましくは20モル%以上であり、好ましくは90モル%以下であり、より好ましくは80モル%以下である。
【0066】
活性化処理剤の成分となるアルカリ金属化合物としては、アルカリ金属の、水酸化物、ホウ酸塩、炭酸塩、酸化物、過酸化物、超酸化物、硝酸塩、リン酸塩、硫酸塩、塩化物、バナジウム酸塩、臭酸塩、モリブデン酸塩、タングステン酸塩が挙げられる。これらは活性化処理剤の成分として、単独でも複数を組み合わせて使用することができる。
【0067】
好適なアルカリ金属化合物の具体例としては、LiOH、NaOH、KOH、RbOH、CsOH等の水酸化物;
LiBO、NaBO、KBO、RbBO、CsBO等のホウ酸化物;
LiCO、NaCO、KCO、RbCO、CsCO等の炭酸塩;
LiO、NaO、KO、RbO、CsO等の酸化物;
Li、Na、K、Rb、Cs等の過酸化物;
LiO、NaO、KO、RbO、CsO等の超酸化物;
LiNO、NaNO、KNO、RbNO、CsNO等の硝酸塩;
LiPO、NaPO、KPO、RbPO、CsPO等のリン酸塩;
LiSO、NaSO、KSO、RbSO、CsSO等の硫酸塩;
LiCl、NaCl、KCl、RbCl、CsCl等の塩化物;
LiBr、NaBr、KBr、RbBr、CsBr等の臭化物;
LiVO、NaVO、KVO、RbVO、CsVO等のバナジウム酸塩;
LiMoO、NaMoO、KMoO、RbMoO、CsMoO等のモリブデン酸塩;
LiWO、NaWO、KWO、RbWO、CsWO等のタングステン酸塩;が挙げられる。
【0068】
ここで、より正極活物質の活性化効果を高めるため、活性化処理剤は、カリウム化合物及びナトリウム化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物以外に、正極合材中の正極活物質に含まれるアルカリ金属元素と同一のアルカリ金属元素を含むことができる。
【0069】
すなわち、正極合材中の正極活物質がリチウム複合酸化物の場合には、活性化処理剤は、カリウム化合物及びナトリウム化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物以外に、リチウム化合物を含むことが好適である。好適なリチウム化合物としては、LiOH、LiBO、LiCO、LiO、Li、LiO、LiNO、LiPO、LiSO、LiCl、LiVO、LiBr、LiMoO、LiWOが挙げられる。
【0070】
活性化処理剤は、必要に応じてアルカリ金属化合物以外の化合物を含んでいてもよい。アルカリ金属化合物以外の化合物として、例えば、マグネシウム、カルシウム、バリウム等のアルカリ土類金属元素を含有するアルカリ土類金属化合物が挙げられる。アルカリ土類金属化合物は、活性化処理剤の溶融開始温度をコントロールする目的で、アルカリ金属化合物と共に活性化処理剤中に含有される。
【0071】
また、活性化処理剤中のアルカリ金属化合物以外の化合物の含有量は、上述の溶融したアルカリ金属化合物に由来する効果を著しく抑制しない範囲で選択され、活性化処理剤全重量の50重量%未満であることができる。
【0072】
正極合材及び活性化処理剤の混合物中における活性化処理剤の添加量は、正極合材が含む正極活物質の重量に対して、0.001~100倍であることが好ましく、より好ましくは、0.05~1倍である。
【0073】
活性化処理剤がカリウム化合物及びリチウム化合物を含む場合、カリウムの含有量(mol基準)に対するリチウムの含有量(mol基準)の比率(リチウムの含有量/カリウムの含有量)は、リサイクル正極活物質を用いて製造される電池の充放電特性を、未使用の正極活物質を用いて製造される電池の充放電特性と更に同程度にしやすい観点から、0.01~100、0.1~10、又は0.2~4であってもよい。
【0074】
活性化処理剤がナトリウム化合物及びリチウム化合物を含む場合、ナトリウムの含有量(mol基準)に対するリチウムの含有量(mol基準)の比率(リチウムの含有量/ナトリウムの含有量)は、リサイクル正極活物質を用いて製造される電池の充放電特性を、未使用の正極活物質を用いて製造される電池の充放電特性と更に同程度にしやすい観点から、0.01~100、0.1~10、又は0.2~4であってもよい。
【0075】
活性化処理剤がカリウム化合物を含む場合、活性化処理剤に含まれるカリウムの含有量(mol基準)は、正極合材に含まれるフッ素の含有量(mol基準)に対して、リサイクル正極活物質を用いて製造される電池の充放電特性を、未使用の正極活物質を用いて製造される電池の充放電特性と更に同程度にしやすい観点から、1%以上500%未満、10%以上400%未満、50%以上300%未満、100%以250%未満、又は150%以上250%未満であってもよい。
【0076】
活性化処理剤がナトリウム化合物を含む場合、活性化処理剤に含まれるナトリウムの含有量(mol基準)は、正極合材に含まれるフッ素の含有量(mol基準)に対して、リサイクル正極活物質を用いて製造される電池の充放電特性を、未使用の正極活物質を用いて製造される電池の充放電特性と更に同程度にしやすい観点から、1%以上500%未満、10%以上400%未満、50%以上300%未満、100%以250%未満、又は150%以上250%未満であってもよい。
【0077】
正極合材及び活性化処理剤の混合物における活性化処理剤中のアルカリ金属化合物のモル数は、正極合材が含む正極活物質(例えばA式)のモル数を1としたときに、アルカリ金属元素のモル数が0.001~200倍となるように添加することができる。
【0078】
混合物中の活性化処理剤の割合を適切に制御することで、正極合材からの正極活物質粉の回収にかかる費用を低減できることができ、炭素系導電材や結着材の酸化分解処理速度を高めることができる。また、加熱工程における腐食性ガスの発生を防止する効果を向上させることができ、さらには得られる正極活物質を用いて製造される電池の放電容量をより高めることができる。
【0079】
また、活性化処理剤に含有されるアルカリ金属化合物の少なくとも1種が、水に溶解させた場合にアルカリ性を示すアルカリ金属化合物であることが好ましい。このようなアルカリ金属化合物を含む活性化処理剤は、純水に溶解した際に、該溶液のpHが7よりも大きくなる。以下、このような活性化処理剤を「アルカリ性の活性化処理剤」と称す場合がある。
【0080】
アルカリ性の活性化処理剤を使用することにより、加熱工程における腐食性ガスの発生をより抑制することができるため、回収される正極活物質を用いて製造される電池の放電容量をより高めることができる。また、アルカリ性の活性化処理剤を使用することにより、炭素系導電材や結着材の処理速度を高めることもできる。
【0081】
アルカリ性の活性化処理剤に含まれる水に溶解させた場合にアルカリ性を示すアルカリ金属化合物としては、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、酸化物、過酸化物、超酸化物が挙げられる。具体的には、LiOH、NaOH、KOH、RbOH、CsOH;LiCO、NaCO、KCO、RbCO、CsCO;LiHCO、NaHCO、KHCO、RbHCO、CsHCO;LiO、NaO、KO、RbO、CsO;Li、Na、K、Rb、Cs;LiO、NaO、KO、RbO、CsO;が挙げられる。これらは、1種又は2種以上を活性化処理剤に含ませてもよい。
【0082】
また、正極合材に含まれる導電材が、炭素系導電材である場合には、活性化処理剤に含有されるアルカリ金属化合物の少なくとも1種が、加熱工程の温度において、炭素系導電材を酸化分解する酸化力を有するアルカリ金属化合物であってもよい。なお、このようなアルカリ金属化合物を含有する活性化処理剤を、以下、「酸化力を有する活性化処理剤」と称す場合がある。
【0083】
このような酸化力を有する活性化処理剤を用いると、炭素材料である導電材の二酸化炭素へ酸化を促進し、炭化水素材料である結着材の二酸化炭素と水蒸気へと酸化を促進することに特に効果を発揮し、得られる正極活物質を用いて製造される電池の放電容量をより高めることができ、さらに加熱工程における腐食性ガスの発生を防止する効果を向上させることができる場合がある。
【0084】
炭素系導電材および炭化水素を二酸化炭素と水蒸気へと酸化するために必要な酸化力を有するアルカリ金属化合物としては、アルカリ金属の過酸化物、超酸化物、硝酸塩、硫酸塩、バナジウム酸塩、モリブデン酸塩を挙げられる。これらは、1種あるいは2種以上を混合して使用してもよい。
【0085】
具体的には、Li、Na、K、Rb、Cs;LiO、NaO、KO、RbO、CsO;LiNO、NaNO、KNO、RbNO、CsNO;LiSO、NaSO、KSO、RbSO、CsSO;LiVO、NaVO、KVO、RbVO、CsVO;LiMoO、NaMoO、KMoO、RbMoO、CsMoO;が挙げられる。
【0086】
これらのアルカリ金属化合物の酸化力の詳細については、特開2012-186150号公報に記載されている。
【0087】
アルカリ金属化合物は、リサイクル正極活物質を用いて製造される電池の充放電特性を、未使用の正極活物質を用いて製造される電池の充放電特性と更に同程度にしやすい観点から、炭酸塩又は硫酸塩であってもよく、LiCO、NaSO、NaCO、及びKCOからなる群より選ばれる少なくとも一種であってもよい。
【0088】
工程(2):加熱工程
加熱工程は、工程(1)にて得られた混合物(以下、「加熱前の混合物」と呼ぶ場合がある。)を加熱する工程である。本加熱工程で得られた混合物を「加熱後の混合物」と呼ぶことがある。
【0089】
加熱前の混合物を、活性化処理剤の溶融開始温度(Tmp)以上で加熱してもよく、活性化処理剤の溶融開始温度(Tmp)未満で加熱してもよい。
【0090】
本明細書において、加熱工程の温度が活性化処理剤の溶融開始温度未満であるとは、加熱工程の温度を活性化処理剤の溶融開始温度未満の温度に保持する(活性化処理剤の溶融開始温度未満の保持温度で加熱する)ことを意味する。また、加熱工程の温度が活性化処理剤の溶融開始温度未満であるとは、加熱工程の温度を活性化処理剤の溶融開始温度以上の温度にしないことを意味する。加熱工程の温度(加熱空間内の最高温度)は、例えば、300~600℃、350~575℃、又は400~550℃でであってもよい。
【0091】
なお、「活性化処理剤の溶融開始温度(Tmp)」は、活性化処理剤の一部が液相を呈する最も低い温度を意味する。
【0092】
活性化処理剤の溶融開始温度(Tmp)は、示差熱測定(DTA)により求めた値である。すなわち、上記加熱前の混合物5mgを示差熱測定(DTA,測定条件:昇温速度:10℃/min)にて、DTAシグナルが吸熱のピークを示す温度を溶融開始温度(Tmp)とする。
【0093】
活性化処理剤の溶融開始温度(Tmp)は、700℃以下であることが好ましく、600℃以下であることがより好ましい。活性化処理剤の溶融開始温度(Tmp)に下限はないが、例えば、150℃であってもよい。
【0094】
また、活性化処理剤の融点は、活性化処理剤のみを加熱したときに、活性化処理剤の一部が液相を呈する最も低い温度を意味する。正極合材と活性化処理剤とを混合することで、活性化処理剤の溶融開始温度(Tmp)は、活性化処理剤の融点より低くなる。
【0095】
活性化処理剤の融点は、示差熱測定(DTA)により求めた値である。具体的には、当該活性化処理剤5mgを示差熱測定(DTA,測定条件:昇温速度:10℃/min)にて、DTAシグナルが吸熱のピークを示す温度を活性化処理剤の融点とする。
【0096】
加熱における雰囲気に特に限定はなく、空気などの酸素含有ガス、窒素、アルゴン、二酸化炭素であってよい。雰囲気の圧力に特に限定はないが、大気圧とすることができるが、減圧雰囲気でもよく、加圧雰囲気でもよい。
【0097】
(活性化処理剤の溶融開始温度(Tmp)以上での加熱)
工程(2)では、上述のように加熱前の混合物を活性化処理剤の溶融開始温度(Tmp)以上の温度に加熱することにより、以下の作用が生じる。
【0098】
融解状態の活性化処理剤が正極活物質と接触することにより、正極活物質の結晶構造の劣化を抑制することができる。また、場合によっては、結晶構造の修復作用を得ることもできる。
【0099】
融解状態の活性化処理剤が炭素含有材料(炭素系導電材や結着材)と接触することにより導電材及び結着材の酸化分解の速度が向上し、さらに、融解状態の活性化処理剤が結着材及び電解液に由来するフッ素化合物と接触することにより、フッ素成分がアルカリ金属フッ化物として安定化され、腐食性ガスであるフッ化水素の発生を防止し、正極活物質の結晶構造の劣化が抑制される。
【0100】
さらに、活性化処理剤が、正極活物質と同じアルカリ金属を含有する場合には、正極活物質に対して不足するアルカリ金属を供給することも可能となる。
【0101】
加熱工程の温度は、活性化処理剤が含有するアルカリ金属化合物の融点よりも高い温度であることが好ましい。なお、アルカリ金属化合物の融点は複数種の化合物を混合することで、各化合物の単体の融点よりも下がることがある。活性化処理剤が2種以上のアルカリ金属化合物を含む場合には、共晶点をアルカリ金属化合物の融点とする。
【0102】
(活性化処理剤の溶融開始温度(Tmp)未満での加熱)
工程(2)では、加熱前の混合物を活性化処理剤の溶融開始温度未満の温度に加熱することにより、高温での加熱による正極活物質の結晶構造の劣化を抑制し、未使用の正極活物質を用いて製造される電池の充放電特性と同程度の充放電特性をより達成しやすくなる。また、加熱前の混合物を活性化処理剤と共に加熱することにより結晶構造の修復作用を得ることもできる。
【0103】
加熱された活性化処理剤が炭素含有材料(炭素系導電材、結着剤等)と接触することにより導電材及び結着剤の酸化分解の速度が向上し、さらに、加熱された活性化処理剤が結着剤及び電解液に由来するフッ素化合物と接触することにより、フッ素成分がアルカリ金属フッ化物として安定化され、腐食性ガスであるフッ化水素の発生を防止し、正極活物質の結晶構造の劣化が抑制される。
【0104】
混合物を活性化処理剤の溶融開始温度未満で加熱する時間は、加熱前の混合物の量等に応じて決定してもよい。混合物を活性化処理剤の溶融開始温度未満で加熱する時間は、例えば、1分~24時間であってもよい。
【0105】
加熱工程の温度及び、当該温度における保持時間は、正極合材を構成する正極活物質、導電材、結着材、および活性化処理剤に含有されるアルカリ金属化合物やその他の化合物におけるそれぞれの種類や組み合わせにより適宜調節することができる。通常、温度は100~1500℃の範囲であり、保持時間は、10分~24時間程度である。
【0106】
加熱工程後には、必要に応じて、混合物を、例えば、室温程度など、任意の温度にまで冷却することができる。
このようにして、加熱後の正極活物質粉を含む加熱後の混合物が得られる。
【0107】
工程(3):加熱後の混合物から正極活物質粉以外の成分を除去する工程
工程(3)は、工程(2)の加熱工程により得られた加熱後の混合物から、加熱後の正極活物質粉以外の成分を除去する工程である。
【0108】
加熱後の混合物には、加熱後の正極活物質粉の他、活性化処理剤に由来する成分(アルカリ金属化合物等)、未分解の炭素含有材料(導電材や結着材等)、その他の正極合材の未分解物が含まれる。また、正極合剤にフッ素成分を含有する電解液が含まれている場合には、電解質に由来するフッ素成分を含む場合もある。
【0109】
加熱後の混合物から正極活物質粉以外の成分を除去することには、多段の除去操作が含まれるので、「加熱後の混合物から正極活物質粉以外の成分を除去すること」は、加熱後の混合物から正極活物質粉以外の成分が一部除去された混合物(一部除去混合物と呼ぶことがある)からさらに正極活物質粉以外の成分を除去する操作も含む。
【0110】
加熱後の混合物又は一部除去混合物から正極活物質粉以外の成分を除去する方法の一例は、加熱後の混合物又は一部除去混合物に水を含む液体を加えてスラリー化させ、その後スラリーを固液分離するスラリー化及び固液分離法である。上記方法の他の例は、加熱後の混合物又は一部除去混合物を加熱して加熱後の正極活物質粉以外の成分を気化して分離する気化分離法である。
【0111】
本実施形態では、工程(3)は、少なくとも一回のスラリー化及び固液分離法を行い、スラリー化及び固液分離法の少なくとも一回において、スラリー化後固液分離前にスラリー中で湿式分級を行う。
【0112】
すなわち、工程(3)は、図1に示すように、
(A1)加熱後の混合物、又は、一部除去混合物に対して、水を含む液体を接触させて、加熱後の正極活物質粉を含むスラリーS1を得るサブ工程、
(A2)スラリーS1中で加熱後の正極活物質粉を湿式分級して、相対的に平均粒径の小さい加熱後の正極活物質粉を含むスラリーS2と、相対的に平均粒径の大きい前記加熱後の正極活物質粉を含むスラリーS3とを得るサブ工程、及び、
(A3)前記スラリーS3を固液分離するサブ工程、を有する。
【0113】
工程(A1)は、加熱後の混合物、又は、一部除去混合物に対して、水を含む液体を接触させて、加熱後の正極活物質粉を含むスラリーS1を得る。
【0114】
上記のように、加熱後の混合物には、加熱後の正極活物質粉の他、活性化処理剤に由来する成分(アルカリ金属化合物等)、未分解の導電材や結着材、その他の正極合材の未分解物が含まれる。また、正極合材にフッ素成分を含有する電解液が含まれている場合には、電解質に由来するフッ素成分を含む場合もある。上記の混合物に水を含む液体を加えてスラリー化させることで、加熱後の正極活物質粉以外の成分が液体中に溶解される。
【0115】
スラリー化に用いる液体は、水を含む限り特に制限はない。液体における水の量は50質量%以上であってよい。水溶性成分の溶解度を高めたり、処理速度を高めたりするために液体に水以外の成分を添加して、pHを調整してもよい。
【0116】
水を含む液体の好適例としては、純水やアルカリ性洗浄液があげられる。アルカリ性洗浄液としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム及び炭酸アンモニウムからなる群より選ばれる1種以上の無水物並びにその水和物の水溶液を挙げることができる。また、アルカリとして、アンモニアを使用することもできる。
【0117】
得られるスラリーは、加熱後の正極活物質粉を主として含む固相と、加熱後の正極活物質粉以外の水溶性成分を含む液相とを含む。なお、液体成分には、活性化処理剤に由来するアルカリ金属成分、及び/又は、結着材及び電解液に由来するフッ素成分が含まれる。
【0118】
加熱後の混合物、又は、一部除去混合物に添加される液体の量は、各混合物に含まれる加熱後の正極活物質粉と、正極活物質粉以外の水溶性成分のそれぞれの量を考慮して適宜決定される。
【0119】
サブ工程(A1)において、加熱後の混合物、又は、一部除去混合物と、水を含む液体と、を攪拌してスラリーS1を得ることが好適である。これにより、水溶性成分の溶解が促進される。攪拌翼の先端の周速は0.1~0.9m/sとすることが好ましい。
【0120】
サブ工程(A2)では、スラリーS1中で加熱後の正極活物質粉を湿式分級して、相対的に平均粒径の小さい加熱後の正極活物質粉を含むスラリーS2と、相対的に平均粒径の大きい加熱後の正極活物質粉を含むスラリーS3とを得る。
【0121】
湿式分級の具体的手段に特に限定はなく、湿式サイクロン、又は、湿式篩であってよい。湿式篩の例は、メッシュスクリーン筒内に配置されたスクリューの回転により生じる遠心力でメッシュスクリーン筒内の微粉をスクリーンの外に排出する、いわゆるスラリースクリーナである。
【0122】
平均粒径とは、レーザー回折型粒度分布計における体積基準の粒度分布におけるD50であってよい。スラリーS3における平均粒径は10~20μmであってよい。スラリーS3の平均粒径とスラリーS2の平均粒径との差は1~10μmであってよい。
【0123】
工程(A3)では、スラリーS3を固液分離する。固液分離とは、スラリーを液相と固相とに分離する工程である。固液分離の方法としては、従来公知の方法でよく、例えば、ろ過や遠心分離法が挙げられる。
【0124】
本実施形態では、工程(3)が、サブ工程(A1)~(A3)を有することで以下の作用が奏される。
まず、工程(A1)を経ることで、加熱後の正極活物質粉以外の水溶性の成分がスラリー中の固相から除去されて液相に移動する。そして、工程(A3)を経ることで、得られる固相は、加熱後の正極活物質以外の成分が除去されたものとなる。
【0125】
また、廃正極から得られる正極合材中の正極活物質粉は、充放電に伴う膨張収縮等によるクラック発生等により粒度分布が広くなる、あるいは平均粒径(例えばD50)が小さくなる傾向がある。そして、本実施形態によれば、サブ工程(A2)を経る、すなわち、スラリーS1中で加熱後の正極活物質粉を湿式分級して、相対的に平均粒径の小さい加熱後の正極活物質粉を含むスラリーS2と、相対的に平均粒径の大きい前記加熱後の正極活物質粉を含むスラリーS3とを得て、その後のサブ工程(A3)でスラリーS3の固液分離を行っている。したがって、スラリーS3において加熱後の正極活物質粉における微粉の量が少なくなるので、スラリーS3中の固液分離の際に、固相ケーキ内で液体が排出される流路が確保されやすく、固相ケーキからの液体の排液性が向上して、固液分離に必要な時間の削減、及び/又は、得られる固相ケーキ中の含水率の低減などの効果が生じる。
【0126】
さらに、その後に必要に応じて固相ケーキを乾燥させる場合にも、固相ケーキ内から水蒸気が抜ける流路が確保されやすいため、乾燥に必要なエネルギー量や時間等を削減できる。
【0127】
上記のサブ工程(A1)~(A3)は、加熱後の混合物又は一部除去混合物から加熱後の正極活物質粉以外の成分を除去する工程(3)において、少なくとも一回行われればよい。
【0128】
例えば、サブ工程(A1)は、「加熱後の混合物」に対して、水を含む液体を接触させて、前記加熱後の正極活物質粉を含むスラリーS1を得る工程であってよい。
【0129】
なお、このようなサブ工程(A1)~(A3)を1回行っても、サブ工程(A3)でスラリーS3を固液分離して得た固相は、加熱後の正極活物質粉以外の成分を微量含むことが多く、上記した「一部除去混合物」に該当する。したがって、サブ工程(A3)で得られた固相に対して、そのまま後述する乾燥工程を行ってもよいが、「一部除去混合物」から、さらに残存する正極活物質粉以外の成分を除去するサブ工程を行ってもよい。
【0130】
「一部除去混合物」から、さらに残存する正極活物質粉以外の成分を除去する工程は、上述した気化分離法などでもよいが、上述したスラリー化及び固液分離法(この場合リンスとも呼ばれる)であることが好適である。
【0131】
例えば、工程(3)は、サブ工程(A3)の後に、
(B1)「一部除去混合物」に対して、水を含む液体を接触させて、加熱後の正極活物質粉を含むスラリーQ1を得るサブ工程、及び、
(B3)前記スラリーQ1を固液分離するサブ工程、を有していてもよい。得られる固相の純度はより高くなることになる。
【0132】
サブ工程(A3)の後に行われる、サブ工程(B1)及び(B3)の組み合わせは、複数回であってもよい。
【0133】
サブ工程(B1)及び(B3)の間に、スラリーQ1中の加熱後の正極活物質粉を湿式分級して、相対的に平均粒径の小さい前記加熱後の正極活物質粉を含むスラリーQ2と、相対的に平均粒径の大きい前記加熱後の正極活物質粉を含むスラリーQ3とを得るサブ工程(B2)を有していてもよく、その場合、スラリーQ3をサブ工程(B3)で固液分離すればよい。
【0134】
サブ工程(B3)で得られた固相は、後述する乾燥工程に供することが出来る。
【0135】
また、上記のサブ工程(A1)~(A3)は、「加熱後の混合物」から加熱後の正極活物質粉以外の成分を除去する工程ではなく、「一部除去混合物」から加熱後の正極活物質粉以外の成分を除去する工程において行われれてもよい。
その場合、「加熱後の混合物」から加熱後の正極活物質粉以外の成分を除去する工程は、上述した気化分離法などでもよいが、上述したスラリー化及び固液分離法であることが好適である。
【0136】
本明細書において、工程(1)~(3)を経た正極活物質粉を、リサイクル正極活物質粉と呼ぶ。工程(1)~(3)を経たリサイクル正極活物質粉は、正極等の製造に好適に用いることができる。リサイクル正極活物質粉の製造方法は、工程(1)~(3)の前後に、追加の工程を備えることができる。本明細書において、工程(1)~(3)以外の追加の工程を経た正極活物質粉も、リサイクル正極活物質粉と呼ぶ。
工程(1)~(3)以外の追加の工程の例は、工程(1)の前に実施される前工程(A)及び前工程(B)、並びに、工程(3)の後、例えば工程(3a)の後に実施される、以下の工程(4)及び工程(5)である。
【0137】
工程(4):乾燥工程
工程(4)では、前記工程(3)で得られた固相を加熱及び/又は減圧環境に曝して固体成分から水を除去する工程である。
【0138】
加熱の温度としては水を除去するために100℃以上が好ましい。さらに十分に水を除去するために150℃以上とすることが好ましい。特に250℃以上の温度では、得られる正極活物質を用いて製造される電池の放電容量がさらに高まることから好ましい。乾燥工程における温度は、一定でもよく、また段階的もしくは連続的に変化させてもよい。加熱の到達温度範囲は、例えば、10℃以上900℃未満であることができる。
【0139】
減圧の到達圧力範囲は、例えば、1.0×10-10~1.0×10Paであることができる。
【0140】
工程(5):アニール(再焼成)工程
工程(5)は、好ましくは、前記工程(4)後の固体成分(乾燥後の固体成分と呼ぶことがある)を熱処理する工程である。工程(2)で加熱前の混合物を溶融開始温度以上で加熱する場合、アニール工程は、例えば、乾燥後の固体成分を900℃未満で熱処理する工程であってもよい。
【0141】
工程(2)で加熱前の混合物を溶融開始温度未満で加熱する場合、アニール工程は、例えば、乾燥後の固体成分を工程(2)よりも高い温度で加熱する工程であってもよい。この場合、乾燥後の固体成分を加熱する温度は、正極活物質以外の成分を気化させて、不純物を除去する観点、及び、正極活物質の結晶子サイズを十分に大きくすることにより、未使用の正極活物質を用いて製造される電池の充放電特性と同程度の充放電特性をより達成しやすくなる観点から、700℃超、750℃以上、800℃以上、850℃以上、又は900℃以上であってもよい。
【0142】
熱処理の雰囲気に限定はないが、空気などの酸素含有雰囲気下であることが好適である。また、熱処理の温度は、100℃以上であることができる。また、熱処理の保持時間は、1分~24時間とすることができる。特に、350℃以上の温度にて、0.1時間以上5時間以下で加熱することが好適である。
【0143】
本発明のリサイクル正極活物質粉の製造方法を用いることで電池合材から得られたリサイクル正極活物質粉は、未使用活物質と同様に再利用することができる。リサイクル正極活物質粉を用いて、正極及び電池を製造する方法は周知である。
【0144】
最終的に得られる、本発明の実施形態に係るリサイクル正極活物質の放電容量は、150mAh/g以上であることができる。
【実施例0145】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0146】
(実施例1)
A.正極Aの製造
正極活物質として、組成がLi1.04Ni0.60Co0.20Mn0.20であり、結晶構造がR-3mである正極活物質を用いる。
導電材としては、アセチレンブラックHS100(電気化学工業株式会社製)を使用する。
結着材と溶媒としては、結着材であるPVdF#1100を12重量%含むNMP溶液(株式会社クレハ製)にさらにNMP溶媒を追加投入して所定の比率とする。
【0147】
正極合材における正極活物質と、結着剤と、導電材との質量比は、92:3:5とする。溶媒の配合量は、正極合材ペースト全体に対して50質量%とする。
【0148】
正極合材ペーストを厚さ20μmのリチウムイオン2次電池正極集電体用アルミニウム箔1085(日本製箔社製)上に,ドクターブレード方式コーターを用いて塗工し、乾燥し、正極Aを得る。アルミニウム箔上の正極活物質量は20mg/cmとする。
【0149】
B.正極Aからの電極合材の回収
正極Aから、電極合材を集電体から機械的に剥離する。
【0150】
C.電解液浸漬工程
剥離した電極合材を粉砕して粉末化する。電極合材の粉末にスラリー濃度が1500g/Lとなるよう電解液を加えてスラリー化する。ここで電解液としては、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネートの30:35:35(体積比)混合液に、電解質としてLiPFを1.0mol/Lとなる割合で溶解した溶液を用いる。電極合材のスラリーを最大流速0.550m/secで1分間攪拌する。その後、該スラリーをろ過することで固相を分離し、さらに固相を24時間減圧乾燥することで、電解質含有電極合材を得る。なお、電解液浸漬工程はアルゴン雰囲気のグローブボックス内で行う。
【0151】
D.電解質含有電極合材の洗浄工程
得られた電解質含有電極合材に、電解質洗浄溶媒として水をスラリー濃度が5g/Lとなるよう加えてスラリー化し、攪拌翼の先端の周速を0.942m/sとして1437分間攪拌した後、該スラリーを3分かけてろ過することで、固体成分と液体成分とに分離する。得られた固体成分を100℃で1時間減圧乾燥し、洗浄後の電極合材を回収する。
【0152】
E.活性化処理剤混合工程(工程(1)に対応)
洗浄後電極合材に、活性化処理剤としてLiCOとKSOを、電極合材中の正極活物質1モルに対して0.15モルと0.15モルとなるよう混合して混合物(加熱前の混合物)を得る。活性化処理剤の溶融開始温度は550℃である。
【0153】
F.加熱工程(工程(2)に対応)
得られた加熱前の混合物をアルミナ製焼成容器に入れて電気炉に設置する。大気圧下、該混合物を温度700℃、保持時間3時間で活性化処理する。加熱速度は300℃/時間とし、室温までの冷却は自然冷却とする。室温まで冷却された後に、加熱後の混合物を回収する。
【0154】
G.加熱後の混合物から加熱後の正極活物質粉以外の成分を除去する工程(工程(3)に対応)
加熱後の混合物を粉砕し、水を加えて1分間攪拌して20g/Lの濃度でスラリー化してスラリーS1を得る。その後、当該スラリーS1中の加熱後の正極活物質粉をアコージャパン社製スラリースクリーナにより湿式分級し、相対的に平均粒径の小さい加熱後の正極活物質粉を含むスラリーS2と、相対的に平均粒径の大きい加熱後の正極活物質粉を含むスラリーS3とを得る。スクリーンの目開きは13μmとする。その後、該スラリーをろ過することで、固相と液相とに分離する。
【0155】
H.正極活物質の乾燥工程(工程(4)に対応)
得られた固相を100℃で1時間減圧乾燥する。
【0156】
H.正極活物質の再焼成工程(工程(6)に対応)
回収した水洗後正極活物質を、アルミナ製焼成容器に入れて電気炉に設置する。大気圧下、該混合物を温度700℃、保持時間1時間で加熱する。加熱速度は300℃/時間とし、室温までの冷却は自然冷却とする。室温まで冷却された後に、再活性化正極活物質を回収する。
【0157】
回収された再活性化正極活物質について、コイン型電池を製造し、充放電試験を実施する。充放電試験による放電容量及び内部抵抗を測定し、初回放電容量回復率及び内部抵抗回復率を求める。
【0158】
(参考例1)
<正極の製造>
後述の正極は、次の手順で作製した。正極活物質(未使用の正極活物質、又は、リサイクル正極活物質)92質量部と、PVdF(結着剤、株式会社クレハ製、品番:#1100)3質量部と、アセチレンブラック(導電材、デンカ株式会社製、品番:HS100)5質量部と、を混合することにより混合物を得た。結着剤であるPVdFとしては、予めPVdFをNMPに溶解したバインダー溶液を用いた。混合物を自転・公転方式ミキサー(株式会社シンキー製 ARE-310)で混練することにより正極合材ペーストを調製した。正極合材ペースト中の正極活物質、結着剤及び導電材の質量の合計が50質量%となるようにNMPを添加して調整した。
【0159】
厚さ20μmのリチウムイオン二次電池正極集電体用アルミニウム箔1085(日本製箔株式会社製)の一方面に、正極活物質量が3.0±0.1mg/cmとなるように正極合材ペーストを塗布した後、150℃で8時間真空乾燥することにより正極を得た。この正極の電極面積は1.65cmとした。
【0160】
<電池の製造>
後述のコイン型電池は、次の手順で作製した。上記正極と、電解液と、セパレータと、負極とを組み合わせて非水電解質二次電池(コイン型電池)を製造した。電池の組み立ては、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で行った。電解液としては、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート及びエチルメチルカーボネートの30:35:35(体積比)混合液に、LiPFを1.0mol/Lとなる割合で溶解した溶液を用いた。セパレータとして、多孔質フィルム(ポリエチレン製)の上に耐熱多孔層を積層した積層フィルムセパレータを使用した負極として金属リチウムを使用した。
【0161】
<リサイクル前の正極の製造>
正極活物質として、組成がLi1.07Ni0.47Mn0.48Fe0.05であり、結晶構造がR-3mである正極活物質を準備した。この正極活物質(未使用の正極活物質)を用いて上記のコイン型電池を作製し、25℃保持下で下記の充放電試験(レート試験)を行った。0.2C放電容量は138mAh/gであり、5C放電容量は106mAh/gであった。0.2Cの放電容量が大きいほど高い定格容量が得られ、5Cの放電容量が大きいほど、高い出力特性が得られることを意味する。
(条件)
充電最大電圧:4.3V
充電電流:0.2mA/cm
充電時間:8時間
放電最小電圧:2.5V
0.2C放電電流:0.2mA/cm
5C放電電流:5.0mA/cm
【0162】
上記の電池で使用した正極から、電極合材を機械的にそぎ落として、電極合材を集電体から剥離した。正極から取り出した電極合材5gに、活性化処理剤として正極活物質1molに対して0.1molのKCOと、正極活物質1molに対して0.1molのNaCOとを混合し、混合物(加熱前の混合物)を得た。活性化処理剤の溶融開始温度は、700℃であった。
【0163】
加熱前の混合物を電気炉に入れ、空気雰囲気下において加熱温度700℃(活性化処理剤の溶融開始温度以上)、加熱時間240分の条件で、混合物を加熱した。
【0164】
加熱後の混合物を粉砕し、蒸留水を加えて攪拌し、スラリーを得た。得られたスラリーに対してろ過を行い、固体成分と、液体成分とに分離した。次いで、固体成分を回収し、乾燥させ、リサイクル正極活物質を得た。得られたリサイクル正極活物質の組成、結晶構造、平均粒子径、比表面積は、未使用の正極活物質と同程度であった。リサイクル正極活物質を用いて上記のコイン型電池を作製し、25℃保持下で上記の条件で充放電試験を行ったところ、0.2C放電容量は135mAh/gであり、5C放電容量は94mAh/gであり、未使用の正極活物質を用いて作製されるコイン型電池の放電容量と同程度であった。
【0165】
(参考例2)
<リサイクル前の正極の製造>
正極活物質として、組成がLiNi0.33Co0.33Mn0.33であり、結晶構造がR-3mである正極活物質NCM111を準備した。この正極活物質(未使用の正極活物質)を用いて上記のコイン型電池を作製したところ、初回充電容量は、178.3mAh/gであり、初回放電容量(0.2C)は、163.4mAh/gであった。また、25℃保持下で下記の充放電試験(レート試験)を行ったところ、0.2C放電容量は163.1mAh/gであり、5C放電容量は141.3mAh/gであった。
【0166】
上記の正極を作製した際に生じた工程端材の正極から、電極合材を機械的にそぎ落として、電極合材を集電体から剥離した。正極から取り出した電極合材5gに、活性化処理剤として正極活物質1molに対して0.1molのLiCOと、正極活物質1molに対して0.1molのNaSOとを混合し、混合物(加熱前の混合物)を得た。活性化処理剤の溶融開始温度は、510℃であった。
【0167】
30gの加熱前の混合物を電気炉に入れ、空気雰囲気下において昇温速度300℃/h、加熱温度450℃(活性化処理剤の溶融開始温度未満)、加熱時間360分の条件で、混合物を加熱した。
【0168】
加熱後の混合物を粉砕し、蒸留水を加えて攪拌し、スラリーを得た。得られたスラリーに対してろ過を行い、固体成分と、液体成分とに分離した。次いで、固体成分を回収し、100℃で1時間吸引乾燥させた。
【0169】
乾燥後の固体成分を電気炉に入れ、空気雰囲気下において加熱温度900℃、加熱時間60分の条件で、固体成分を加熱し、加熱後のリサイクル正極活物質を得た。次いで、加熱後のリサイクル正極活物質を室温まで自然冷却させ、得られたリサイクル正極活物質の組成、結晶構造、平均粒子径、比表面積が未使用の正極活物質と同程度であることを確認した。リサイクル正極活物質を用いて上記のコイン型電池を作製したところ、初回充電容量は、180.5mAh/gであり、初回放電容量は、161.1mAh/gであった。また、25℃保持下で上記の条件で初回充放電(レート試験)を行ったところ、0.2C放電容量は160.2mAh/gであり、5C放電容量は133.9mAh/gであった。

図1