(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025152776
(43)【公開日】2025-10-10
(54)【発明の名称】医用画像撮影装置、及び医用画像撮影装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
A61B 6/00 20240101AFI20251002BHJP
【FI】
A61B6/00 520M
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024054845
(22)【出願日】2024-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大塚 昌孝
【テーマコード(参考)】
4C093
【Fターム(参考)】
4C093AA22
4C093CA17
4C093CA33
4C093EE15
4C093EE16
4C093FA60
(57)【要約】
【課題】被検者の頭部とマイクとの位置関係による音声信号のS/N比の低下を抑制することを可能とする医用画像撮影装置、及び医用画像撮影装置の制御方法を提供する。
【解決手段】医用画像撮影装置は、被検者が載置される寝台と、被検者を撮影するための撮影装置本体と、音を集音する複数のマイクと、複数のマイクから出力される音声信号を合成する信号処理装置と、被検者の頭部の位置を検出する位置検出装置と、複数のマイクの各々のゲインを調整するプロセッサと、を備え、プロセッサは、位置検出装置により検出される頭部の位置と複数のマイクの各々との位置との関係に基づき、複数のマイクのうち、頭部から遠いマイクのゲインを頭部に近いマイクのゲインよりも相対的に低くするゲイン調整処理を実行する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者が載置される寝台と、
前記被検者を撮影するための撮影装置本体と、
音を集音する複数のマイクと、
前記複数のマイクから出力される音声信号を合成する信号処理装置と、
前記被検者の頭部の位置を検出する位置検出装置と、
前記複数のマイクの各々のゲインを調整するプロセッサと、
を備え、
前記プロセッサは、
前記位置検出装置により検出される前記頭部の位置と前記複数のマイクの各々との位置との関係に基づき、前記複数のマイクのうち、前記頭部から遠いマイクのゲインを前記頭部に近いマイクのゲインよりも相対的に低くするゲイン調整処理を実行する
医用画像撮影装置。
【請求項2】
前記プロセッサは、前記ゲイン調整処理において、前記複数のマイクの各々のゲインを前記頭部から遠いほど低くする
請求項1に記載の医用画像撮影装置。
【請求項3】
前記プロセッサは、前記ゲイン調整処理において、前記複数のマイクのうち、前記頭部に最も近いマイクのゲインを高くし、他のマイクのゲインを前記頭部からの距離に応じて低くする
請求項2に記載の医用画像撮影装置。
【請求項4】
前記位置検出装置は、前記頭部を含む領域を撮像して画像を出力するカメラと、前記画像に基づいて前記頭部の位置を検出する演算装置と、を含む
請求項1に記載の医用画像撮影装置。
【請求項5】
前記撮影装置本体は、前記寝台の天板が挿通される開口を有するガントリであり、
前記複数のマイクのうちの少なくとも一部は、前記ガントリに取り付けられている
請求項1に記載の医用画像撮影装置。
【請求項6】
前記複数のマイクは2つのマイクであって、
前記2つのマイクは、前記天板の挿通方向における前記ガントリの一方の面と他方の面とに取り付けられている
請求項5に記載の医用画像撮影装置。
【請求項7】
前記複数のマイクの各々は、前記ガントリ又は前記寝台に取り付けられている
請求項5に記載の医用画像撮影装置。
【請求項8】
前記寝台は、前記被検者を移動可能に構成されており、
前記プロセッサは、前記被検者の移動中に前記ゲイン調整処理を繰り返し実行する
請求項1から請求項6のうちいずれか1項に記載の医用画像撮影装置。
【請求項9】
被検者が載置される寝台と、
前記被検者を撮影するための撮影装置本体と、
音を集音する複数のマイクと、
前記複数のマイクから出力される音声信号を合成する信号処理装置と、
前記被検者の頭部の位置を検出する位置検出装置と、
前記複数のマイクの各々のゲインを調整するプロセッサと、
を備える医用画像撮影装置の制御方法であって、
前記プロセッサが、
前記位置検出装置により検出される前記頭部の位置と前記複数のマイクの各々との位置との関係に基づき、前記複数のマイクのうち、前記頭部から遠いマイクのゲインを前記頭部に近いマイクのゲインよりも相対的に低くするゲイン調整処理を実行すること
を含む医用画像撮影装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、医用画像撮影装置、及び医用画像撮影装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CT(Computed Tomography)装置、MRI(Magnetic Resonance Imaging)装置等の医用画像撮影装置は、被検者を撮影するための撮影装置本体と、撮影装置本体を操作するためのコンソールとから構成されている。撮影装置本体とコンソールとは、放射線、磁気等の遮蔽のために撮影室と操作室とに別々に設置されるため、操作者が被検者の様子を適切に把握することができないことや、操作者から被検者に対して直接声を掛けることができないことがある。そこで、被検者の声を集音するためのマイクを撮影装置本体に設け、このマイクに接続されたスピーカを操作室に設けるとともに、操作者の声を集音するマイクをコンソールに設け、このマイクに接続されたスピーカを撮影室に設けて相互に通話を可能とすることが行われている。
【0003】
また、上記の通話システムにおいて、特に撮影室のマイクは、被検者の声だけでなく、撮影装置本体が発生するノイズ音も集音する。このため、特許文献1では、マイクにより集音された音の中に被検者の声が含まれているか否かを判断し、被検者の声が含まれている場合に、スピーカの出力音量を上げることにより、被検者が話していないときには操作室側のスピーカから出力されるノイズ音を抑えて不快さを軽減し、被検者が話しているときには操作室側のスピーカから適正な音量で被検者の声を聞き取れるようにすることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、被検者がマイクから遠い位置にある場合にはマイクで集音できる被検者の声が小さいので、被検者の声を検出する閾値の設定によってはスピーカの出力音量を上げることができず、被検者の声を聞き取れないことがある。また、スピーカの出力音量を上げることができる場合であっても被検者の声に対してノイズ音が大きいので、被検者の声が聞き取れないことがある。このように、被検者とマイクとの位置関係によっては、被検者の声が聞き取り難くなるという課題がある。
【0006】
CT装置、MRI装置等では、被検者は寝台に載置されて移動するので、被検者が載置される向き又は被検者の移動に伴い、被検者の頭部とマイクとの位置関係が変化する。一方で、撮影室内は撮影装置などの機器が発生するノイズ音が常に存在しており、マイクは一定のノイズ音を常に集音している。このため、被検者の頭部がマイクから遠くなると、マイクで集音される被検者の声がノイズ音に対して小さくなり(すなわちS/N比が低下し)、スピーカから出力される被検者の声が聞き取り難くなる。そこで、被検者の位置によらず、被検者の声を効率よく集音するために、撮影室内に複数のマイクを設け、複数のマイクから出力される音声信号を合成することにより、広範囲から被検者の声を集音することが考えられる。
【0007】
しかしながら、このように複数のマイクを設けた場合には、各マイクが集音する被検者の声とノイズ音との割合は、被検者が声を発する頭部と各マイクの距離とに依存して異なり、被検者の頭部からマイクが遠いほどノイズ音の割合が大きくなる。このため、複数のマイクから出力される音声信号の単純な合成では、被検者から遠いマイクの影響で音声信号のS/N(Signal-to-Noise)比の低下を十分に抑制することはできない。
【0008】
そこで、本開示に係る技術は、被検者の頭部とマイクとの位置関係による音声信号のS/N比の低下を抑制することを可能とする医用画像撮影装置、及び医用画像撮影装置の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の技術に係る医用画像撮影装置は、被検者が載置される寝台と、被検者を撮影するための撮影装置本体と、音を集音する複数のマイクと、複数のマイクから出力される音声信号を合成する信号処理装置と、被検者の頭部の位置を検出する位置検出装置と、複数のマイクの各々のゲインを調整するプロセッサと、を備え、プロセッサは、位置検出装置により検出される頭部の位置と複数のマイクの各々との位置との関係に基づき、複数のマイクのうち、頭部から遠いマイクのゲインを頭部に近いマイクのゲインよりも相対的に低くするゲイン調整処理を実行する。
【0010】
プロセッサは、ゲイン調整処理において、複数のマイクの各々のゲインを頭部から遠いほど低くすることが好ましい。
【0011】
プロセッサは、ゲイン調整処理において、複数のマイクのうち、頭部に最も近いマイクのゲインを高くし、他のマイクのゲインを頭部からの距離に応じて低くすることが好ましい。
【0012】
位置検出装置は、頭部を含む領域を撮像して画像を出力するカメラと、画像に基づいて頭部の位置を検出する演算装置と、を含むことが好ましい。
【0013】
撮影装置本体は、寝台の天板が挿通される開口を有するガントリであり、複数のマイクのうちの少なくとも一部は、ガントリに取り付けられていることが好ましい。
【0014】
複数のマイクは2つのマイクであって、2つのマイクは、天板の挿通方向におけるガントリの一方の面と他方の面とに取り付けられていることが好ましい。
【0015】
複数のマイクの各々は、ガントリ又は寝台に取り付けられていることが好ましい。
【0016】
寝台は、被検者を移動可能に構成されており、プロセッサは、被検者の移動中にゲイン調整処理を繰り返し実行することが好ましい。
【0017】
本開示の技術に係る医用画像撮影装置の制御方法は、被検者が載置される寝台と、被検者を撮影するための撮影装置本体と、音を集音する複数のマイクと、複数のマイクから出力される音声信号を合成する信号処理装置と、被検者の頭部の位置を検出する位置検出装置と、複数のマイクの各々のゲインを調整するプロセッサと、を備える医用画像撮影装置の制御方法であって、プロセッサが、位置検出装置により検出される頭部の位置と複数のマイクの各々との位置との関係に基づき、複数のマイクのうち、頭部から遠いマイクのゲインを頭部に近いマイクのゲインよりも相対的に低くするゲイン調整処理を実行することを含む。
【発明の効果】
【0018】
本開示の技術によれば、被検者の頭部とマイクとの位置関係による音声信号のS/N比の低下を抑制することを可能とする医用画像撮影装置、及び医用画像撮影装置の制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】医用画像撮影装置の構成を概略的に示す斜視図である。
【
図2】撮影室内のガントリ及び寝台を側方から見た図である。
【
図3】コンソールのハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【
図5】カメラ及びマイクの制御の流れを示す図である。
【
図6】音声出力に係る処理の流れを示すフローチャートである。
【
図7】複数のマイクの配置に関する変形例を説明する図である。
【
図8】カメラ及びマイクの制御の流れを示す図である。
【
図9】S/N比の低下係数とマイクの数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本開示の技術に係る実施形態を説明する。本実施形態では、医用画像撮影装置がCT装置である場合を一例として説明する。
【0021】
図1は、医用画像撮影装置1の構成を概略的に示す斜視図である。
図2は、撮影室10内のガントリ2及び寝台3を側方から見た図である。
図1及び
図2に示すように、医用画像撮影装置1は、ガントリ2、寝台3、及びコンソール4により構成されている。ガントリ2及び寝台3は、撮影室10内に設置されている。コンソール4は、撮影室10と区分けされた操作室12内に設置されている。ガントリ2は、本開示の技術に係る「撮影装置本体」の一例である。
【0022】
ガントリ2は、その中央に寝台3の一部が挿通される開口2Aを有する。ガントリ2の内部には、被検者5に対してX線を放射するX線源20と、被検者5を透過したX線を検出して放射線画像を生成する検出器21が設けられている。X線源20と検出器21とは、それぞれ、互いに対向する位置関係を維持した状態でガントリ2の環状形状に沿って回転可能に構成されている。
【0023】
寝台3は、被検者5が載置される天板3Aと、天板3Aを支持する基部3Bと、天板3Aを矢印A方向に往復移動させる駆動部3Cとを有し、被検者5を移動可能に構成されている。天板3Aは、駆動部3Cにより基部3Bに対して矢印A方向にスライド可能である。被検者5を撮影する際には、天板3Aがスライドすることで、天板3Aがガントリ2の開口2A内に挿通される。これにより、被検者5が開口2A内に搬送される。矢印A方向は、本開示の技術に係る「挿通方向」に対応する。
【0024】
また、ガントリ2には、周囲の音を集音する2つのマイクM1,M2が設けられている。マイクM1は、天板3Aの挿通方向における一方の面2Bに取り付けられている。マイクM2は、天板3Aの挿通方向における他方の面2Cに取り付けられている。例えば、面2B及び面2Cは、それぞれガントリ2の開口2Aの外縁部に形成された斜面である。マイクM1,M2は、それぞれ無指向性マイクである。
【0025】
また、撮影室10内には、寝台3の上方にカメラ7が設けられている。カメラ7は、例えば、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)型撮像素子を含むデジタルカメラであって、撮影室10の天井から吊り下げられている。カメラ7は、被検者5の頭部5Aを含む領域を撮像可能に配置されており、頭部5Aを含む領域を撮像することによりカメラ画像を生成して出力する。カメラ画像は、被検者5の頭部5Aの位置検出に用いられる。カメラ画像は、本開示の技術に係る「画像」の一例である。
【0026】
ガントリ2の駆動、寝台3の駆動、マイクM1,M2による被検者5の声の集音、及びカメラ7による頭部5Aを含む領域の撮像は、コンソール4からの制御に基づいて実行される。
【0027】
次いで、コンソール4の構成について説明する。
図3は、コンソール4のハードウェア構成の一例を示す。コンソール4は、ワークステーション、サーバコンピュータ、パーソナルコンピュータ等のコンピュータであり、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ40、不揮発性のストレージ41、及び一時記憶領域としてのメモリ42を備える。
【0028】
また、コンソール4は、液晶ディスプレイ等のディスプレイ43、キーボード、マウス等の入力デバイス44、周辺機器用インターフェース及びネットワークインターフェース等のインターフェース45、及びスピーカ46を備える。プロセッサ40、ストレージ41、メモリ42、及びインターフェース45はバス47に接続されており、ディスプレイ43、入力デバイス44、及びスピーカ46はインターフェース45を介してバス47に接続されている。また、撮影室10内の各装置もインターフェース45を介してバス47に接続されている。なお、プロセッサ40、ディスプレイ43、入力デバイス44、及びスピーカ46は、
図1においても図示されている。
【0029】
ストレージ41は、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)等によって実現される。記憶媒体としてのストレージ41には、プログラムが記憶されている。プロセッサ40は、ストレージ41からプログラムをメモリ42に読み出し、読み出したプログラムに基づいて処理を実行する。
【0030】
プロセッサ40は、インターフェース45を介して、ガントリ2、寝台3、及びカメラ7を制御する。
【0031】
図4は、プロセッサ40の機能的な構成を示す。
図5は、カメラ7及びマイクM1,M2の制御の流れを示す。
図4に示すように、プロセッサ40は、プログラムを実行することにより、撮影制御部401、カメラ制御部402、位置検出部403、距離算出部404、ゲイン調整部405、信号処理部406、及びスピーカ制御部407として機能する。
【0032】
撮影制御部401は、入力デバイス44からの指示に基づいて、被検者5の撮影を行うようにガントリ2と寝台3とを制御する。具体的には、撮影制御部401は、X線源20によるX線の放射、検出器21によるX線の検出、X線源20及び検出器21の回転、寝台3の天板3Aの移動等を制御する。また、撮影制御部401は、検出器21により生成された放射線画像に基づく再構成処理等の画像処理を行う。
【0033】
カメラ制御部402は、カメラ7による寝台3上の被検者5の撮影を制御する。カメラ7による撮影は、ガントリ2及び寝台3の動作中に行われるが、動作前の準備段階から行われてもよい。カメラ7により取得されたカメラ画像は、メモリ42に記憶される。カメラ7は、一定時間ごとに繰り返し撮影を行い、各撮影により取得されたカメラ画像は順次メモリ42に記憶される。
【0034】
位置検出部403は、メモリ42に記憶されたカメラ画像に基づき、被検者5の頭部5Aの位置を検出する。この頭部5Aの検出処理には、公知の顔認識技術等を用いることができる。頭部5Aの位置とは、例えば、カメラ7の撮像領域内における頭部5Aの位置である。位置検出部403は、メモリ42にカメラ画像が記憶されるたびに、メモリ42にカメラ画像を読み出して頭部5Aの位置を検出する。なお、本実施形態では、カメラ7と、演算装置としての位置検出部403とが、本開示の技術に係る「位置検出装置」を構成している。
【0035】
距離算出部404は、位置検出部403により検出された頭部5Aの位置に基づき、頭部5Aの位置から2つのマイクM1,M2までの距離をそれぞれ算出する。例えば、メモリ42には、複数の頭部5Aの位置と2つのマイクM1,M2との位置関係を表す位置関係データが記憶されている。距離算出部404は、位置検出部403により検出された頭部5Aの位置と、位置関係データとに基づいて、
図2に示す距離L
1,L
2を算出する。距離L
1は、頭部5AからマイクM1までの距離である。距離L
2は、頭部5AからマイクM2までの距離である。
【0036】
位置検出部403の目的は頭部5AとマイクM1,M2の各々との距離を算出するための位置関係情報を得ることにあるが、マイクM1,M2の位置は固定されており既知であるので、画像から検出する必要は無く、予めメモリ42等に記憶させておくことが可能である。処理を高速化するためには、予めメモリ42等に記憶させておいた位置関係情報を用いて距離を算出することが望ましい。
【0037】
なお、カメラ7を頭部5AとマイクM1,M2とを含む領域を撮影可能に設置することで、カメラ画像から距離L1,L2を直接算出することも可能である。
【0038】
ゲイン調整部405は、距離算出部404により算出された距離L
1,L
2に基づき、2つのマイクM1,M2のゲイン(すなわち増幅率)をそれぞれ調整する。
図5に示すように、マイクM1,M2は、それぞれ、音波を信号に変換する受音部60と、受音部60が出力する信号を増幅する可変ゲインアンプ61とを含む。ゲイン調整部405は、マイクM1に含まれる可変ゲインアンプ61のゲインG
1と、マイクM2に含まれる可変ゲインアンプ61のゲインG
2とを調整する。
【0039】
ゲイン調整部405は、2つのマイクM1,M2のうち、頭部5Aから遠いマイクのゲインを頭部5Aに近いマイクのゲインよりも相対的に低くする。具体的には、ゲイン調整部405は、距離算出部404により算出された距離L1,L2に基づき、L1<L2の場合にはG1>G2とし、L1>L2の場合にはG1<G2とする。
【0040】
一般的にマイクに入力される音波の音圧は音源からの距離の2乗に反比例する。本実施形態では、音源である頭部5AからマイクM1,M2の各々に入力される声の音圧は、距離の2乗に反比例する。一方、撮影室10内には、ガントリ2の回転、図示しない冷却ファンの回転等、広範囲からノイズ音が発生するため、ノイズ音は、マイクM1,M2の場所に依らずほぼ一定の音圧で入力される。このため、マイクM1,M2の各々から出力される音声信号は、被検者5の頭部5Aからの距離が大きいほどノイズ成分を多く含む(すなわちS/N比が低下する)。
【0041】
このため、本実施形態では、ゲイン調整部405は、距離L1,L2に基づき、ゲインG1,G2を下式(1)及び(2)のように設定する。
【0042】
【0043】
ここで、L0は基準距離であり、G0は基準ゲインである。基準距離L0及び基準ゲインG0は一定値である。なお、L0=L1及びG0=G1としてもよい。
【0044】
マイクM1,M2からは、ゲイン調整部405によりゲイン調整が行われたうえで信号が出力される。
【0045】
信号処理部406は、マイクM1,M2の各々から出力される音声信号を合成する。なお、信号処理部406は、本開示の技術に係る「信号処理装置」を構成している。なお、信号処理部406は、プロセッサ40とは別の処理装置によって構成されていてもよい。
【0046】
スピーカ制御部407は、信号処理部406により合成された音声信号に対して音量調節、ミュートなどの処理を行い、スピーカ46に音声を出力させる。
【0047】
次に、プロセッサ40が実行する処理の流れについて説明する。
図6は、音声出力に係る処理の流れを示す。以下の処理は、例えば、被検者5の撮影中、すなわち寝台3の被検者5を載置した天板3Aの移動中に行われる。
【0048】
まず、カメラ制御部402は、カメラ7を制御して撮像動作を行わせることによりカメラ画像を取得する(ステップS10)。次に、位置検出部403は、カメラ画像に基づいて被検者5の頭部5Aの位置を検出する(ステップS11)。次に、距離算出部404は、頭部5AからマイクM1,M2までの距離L1,L2をそれぞれ算出する(ステップS12)。
【0049】
次に、ゲイン調整部405は、距離L1,L2に基づいてマイクM1,M2のゲインG1,G2をそれぞれ調整する(ステップS13)。次に、信号処理部406は、マイクM1,M2の各々から出力される音声信号を合成する(ステップS14)。そして、スピーカ制御部407は、音声信号に音量調節、ミュートなどの処理を行ってスピーカ46に音声を出力させる(ステップS15)。
【0050】
この後、プロセッサ40は、終了条件を満たすか否かを判定する(ステップS16)。例えば、終了条件は、入力デバイス44を用いて操作者が終了操作を行ったことである。プロセッサ40は、終了条件を満たさない場合には(ステップS16:NO)、処理をステップS10に戻す。すなわち、ステップS10からステップS15が繰り返し実行されることにより、被検者5が移動しても、マイクM1,M2の各ゲインは被検者5の位置に合わせて常に最適値に調整される。プロセッサ40は、終了条件を満たす場合には(ステップS16:YES)、処理を終了する。
【0051】
以上のように、本実施形態によれば、被検者5の頭部5Aの位置とマイクM1,M2の各々との位置との関係に基づき、マイクM1,M2のうち、頭部5Aから遠いマイクのゲインを頭部5Aに近いマイクのゲインよりも相対的に低くするので、頭部5Aから遠いマイクの影響(すなわちノイズの割合が大きい音声信号の影響)を小さくすることができ、頭部5Aの位置に依存して音声信号のS/N比が低下することを抑制することが可能となる。
【0052】
また、本実施形態では、被検者5が移動して距離L1,L2が変化する状況下においても距離L1,L2に基づくゲイン調整処理を繰り返し行うので、音声信号のS/N比が低下することを常に抑制することができる。
【0053】
上記実施形態では、2つのマイクをガントリ2に設けているが、マイクの数、及びマイクを設ける位置は、適宜変更してよい。なお、複数のマイクのうちの少なくとも一部は、ガントリ2に取り付けられていることが好ましい。また、複数のマイクの各々は、ガントリ2又は寝台3に取り付けられていることが好ましい。
【0054】
例えば、
図7に示すように、ガントリ2に設けられたマイクM1,M2に加えて、寝台3にマイクM3~M5を設けてもよい。例えば、マイクM3~M5は、基部3Bの矢印A方向における一端側、他端側、及び中央にそれぞれ設けられている。マイクM1~M5は、いずれも天板3Aの移動に応じて頭部5Aまでの距離が変化する。
【0055】
このように3個以上のマイクが設けられた場合におけるゲイン調整処理も上記実施形態と同様であり、ゲイン調整部405は、複数のマイクの各々のゲインを頭部5Aから遠いほど低くする。具体的には、ゲイン調整部405は、複数のマイクのうち、頭部5Aに最も近いマイクのゲインを高くし、他のマイクのゲインを頭部5Aからの距離に応じて低くする。
【0056】
以下、n個のマイクM1~Mnが設けられた場合におけるゲイン調整処理を説明する。
図8は、カメラ7及びマイクM1~Mnの制御の流れを示す。
【0057】
マイクM1~Mnを区別するためのパラメータをkとする。nは3以上の整数であり、kは、1以上n以下の範囲に含まれる整数である。k番目のマイクMkの各受音部60が出力する信号をRkとすると、信号Rkは、下式(3)に示すように表される。ここで、RSkは被検者5の声を含む信号成分であり、RNkはノイズ成分である。
【0058】
【0059】
ゲイン調整部405は、下式(4)に基づいてマイクMkのゲインGkを決定する。ここで、Lkは、頭部5AからマイクMkまでの距離である。
【0060】
【0061】
信号処理部406により合成される音声信号OSは、下式(5)で表される。
【0062】
【0063】
上式(3)及び(5)によると、音声信号OSのS/N比(以下、式中ではSNと表記する。)は、下式(6)で表される。
【0064】
【0065】
また、上式(4)を上式(6)に適用すると、音声信号OSのS/N比は下式(7)で表される。
【0066】
【0067】
ここで、被検者5からの距離が基準距離L0である地点における、被検者5から発せられた声の音圧をS0とし、ノイズ音の音圧をN0とすると、上述の信号成分RSkとノイズ成分RNkとは、それぞれ下式(8)及び(9)で表される。これは、被検者5の声の音圧S0は、距離Lkの2乗に反比例して減衰してマイクMkに入力されるのに対して、ノイズ音の音圧N0は、撮影室10内でほぼ一定であるためである。
【0068】
【0069】
上式(8)及び(9)を上式(7)に適用すると、音声信号OSのS/N比は下式(10)及び(11)で表される。
【0070】
【0071】
ここで、αは、頭部5Aの近傍で取得した場合の信号のS/N比(すなわちS0/N0)に対する低下係数である。低下係数αは、0<α<1の範囲内の値である。S/N比の低下量は、低下係数αが1に近いほど小さく、低下係数αが0に近いほど大きい。
【0072】
次に、比較例として、ゲイン調整部405がゲイン調整を行わない場合、すなわちマイクMkのゲインGkを、上式(4)に代えて下式(4a)とした場合について説明する。
【0073】
【0074】
この場合、上式(4a)を上式(6)に適用すると、音声信号OSのS/N比は下式(7a)で表される。
【0075】
【0076】
そして、上式(8)及び(9)を上式(7a)に適用すると、低下係数αは、上式(11)に代えて下式(11a)で表される。
【0077】
【0078】
上記実施形態では、マイクの数nが増えても(すなわち頭部5Aから遠いマイクの数nが増えても)、低下係数αの減少が一定値に抑えられてS/N比の低下が抑制されるが、比較例では、マイクの数nが増えるにしたがって低下係数αが減少してS/N比が低下する。このことを確認するために、L0=1及びLk=k(k=1,2,3,・・・,n)として、上記実施形態と比較例とついて低下係数αを算出した。
【0079】
図9は、S/N比の低下係数αとマイクの数nとの関係を示す。
図9において、実線は、上記実施形態に係る式(11)を用いて算出した低下係数αを示し、破線は、比較例に係る式(11a)を用いて算出した低下係数αを示す。上記実施形態によれば、マイクの数nが増加しても低下係数αが一定値に収束してS/N比の低下が抑制されるのに対して、比較例では、マイクの数nが増加するにしたがって低下係数αが0に近づく(すなわちS/N比が0に近づく)ことがわかる。
【0080】
なお、
図9に示す例では、上記実施形態における低下係数αは、π
2/15に収束する。この収束値は、既知のζ(2)=π
2/6及びζ(4)=π
4/90の関係から求めることができる。ここで、ζ(s)は、リーマンのゼータ関数である。
【0081】
なお、上記実施形態では、カメラ7と、演算装置としての位置検出部403とで位置検出装置を構成しているが、位置検出装置の構成はこれに限定されない。例えば、天板3A上において被検者5が載置されるおおよその位置は定まっているので、プロセッサ40が、カメラ画像を用いずに、寝台3の天板3Aの移動量に基づいて、頭部5Aの位置を検出してもよい。
【0082】
また、上記実施形態では、医用画像撮影装置1をCT装置としているが、医用画像撮影装置1をMRI装置等とすることも可能である。
【0083】
また、上記実施形態において、例えば、撮影制御部401、カメラ制御部402、位置検出部403、距離算出部404、ゲイン調整部405、信号処理部406、及びスピーカ制御部407といった各種の処理を実行する処理部(Processing Unit)のハードウェア的な構造としては、次に示す各種のプロセッサ(Processor)を用いることができる。上記各種のプロセッサには、上述したように、ソフトウェア(プログラム)を実行して各種の処理部として機能する汎用的なプロセッサであるCPUに加えて、FPGA(Field Programmable Gate Array)等の製造後に回路構成を変更可能なプロセッサであるPLD(Programmable Logic Device)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の特定の処理を実行させるために専用に設計された回路構成を有するプロセッサである専用電気回路等が含まれる。
【0084】
1つの処理部は、これらの各種のプロセッサのうちの1つで構成されてもよいし、同種または異種の2つ以上のプロセッサの組み合わせ(例えば、複数のFPGAの組み合わせまたはCPUとFPGAとの組み合わせ)で構成されてもよい。また、複数の処理部を1つのプロセッサで構成してもよい。
【0085】
複数の処理部を1つのプロセッサで構成する例としては、第1に、クライアントおよびサーバ等のコンピュータに代表されるように、1つ以上のCPUとソフトウェアとの組み合わせで1つのプロセッサを構成し、このプロセッサが複数の処理部として機能する形態がある。第2に、SoC(System On a Chip)等に代表されるように、複数の処理部を含むシステム全体の機能を1つのIC(Integrated Circuit)チップで実現するプロセッサを使用する形態がある。このように、各種の処理部は、ハードウェア的な構造として、上記各種のプロセッサの1つ以上を用いて構成される。
【0086】
さらに、これらの各種のプロセッサのハードウェア的な構造としては、より具体的には、半導体素子等の回路素子を組み合わせた電気回路(Circuitry)を用いることができる。
【0087】
以上の記載から、下記の付記項に記載の技術を把握することができる。
[付記項1]
被検者が載置される寝台と、
前記被検者を撮影するための撮影装置本体と、
音を集音する複数のマイクと、
前記複数のマイクから出力される音声信号を合成する信号処理装置と、
前記被検者の頭部の位置を検出する位置検出装置と、
前記複数のマイクの各々のゲインを調整するプロセッサと、
を備え、
前記プロセッサは、
前記位置検出装置により検出される前記頭部の位置と前記複数のマイクの各々との位置との関係に基づき、前記複数のマイクのうち、前記頭部から遠いマイクのゲインを前記頭部に近いマイクのゲインよりも相対的に低くするゲイン調整処理を実行する
医用画像撮影装置。
[付記項2]
前記プロセッサは、前記ゲイン調整処理において、前記複数のマイクの各々のゲインを前記頭部から遠いほど低くする
付記項1に記載の医用画像撮影装置。
[付記項3]
前記プロセッサは、前記ゲイン調整処理において、前記複数のマイクのうち、前記頭部に最も近いマイクのゲインを高くし、他のマイクのゲインを前記頭部からの距離に応じて低くする
付記項2に記載の医用画像撮影装置。
[付記項4]
前記位置検出装置は、前記頭部を含む領域を撮像して画像を出力するカメラと、前記画像に基づいて前記頭部の位置を検出する演算装置と、を含む
付記項1から付記項3のうちいずれか1項に記載の医用画像撮影装置。
[付記項5]
前記撮影装置本体は、前記寝台の天板が挿通される開口を有するガントリであり、
前記複数のマイクのうちの少なくとも一部は、前記ガントリに取り付けられている
付記項1から付記項4のうちいずれか1項に記載の医用画像撮影装置。
[付記項6]
前記複数のマイクは2つのマイクであって、
前記2つのマイクは、前記天板の挿通方向における前記ガントリの一方の面と他方の面とに取り付けられている
付記項5に記載の医用画像撮影装置。
[付記項7]
前記複数のマイクの各々は、前記ガントリ又は前記寝台に取り付けられている
付記項5に記載の医用画像撮影装置。
[付記項8]
前記寝台は、前記被検者を移動可能に構成されており、
前記プロセッサは、前記被検者の移動中に前記ゲイン調整処理を繰り返し実行する
付記項1から付記項6のうちいずれか1項に記載の医用画像撮影装置。
【符号の説明】
【0088】
1 医用画像撮影装置
2 ガントリ
2A 開口
2B,2C 面
3 寝台
3A 天板
3B 基部
3C 駆動部
4 コンソール
5 被検者
5A 頭部
7 カメラ
10 撮影室
12 操作室
20 X線源
21 検出器
40 プロセッサ
41 ストレージ
42 メモリ
43 ディスプレイ
44 入力デバイス
45 インターフェース
46 スピーカ
47 バス
60 受音部
61 可変ゲインアンプ
401 撮影制御部
402 カメラ制御部
403 位置検出部
404 距離算出部
405 ゲイン調整部
406 信号処理部
407 スピーカ制御部
M1~M5,Mn マイク