(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025152869
(43)【公開日】2025-10-10
(54)【発明の名称】フェライト系ステンレス鋼箔、電極、及び、電池
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20251002BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20251002BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20251002BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20251002BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20251002BHJP
C22C 38/50 20060101ALI20251002BHJP
C21D 9/46 20060101ALN20251002BHJP
C21D 1/26 20060101ALN20251002BHJP
C21D 1/76 20060101ALN20251002BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
H01M4/66 A
H01M4/13
H01M10/052
H01M10/0562
C22C38/50
C21D9/46 R
C21D1/26 N
C21D1/76 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024055032
(22)【出願日】2024-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】米村 光治
(72)【発明者】
【氏名】小椋 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】禰宜 教之
(72)【発明者】
【氏名】佐脇 直哉
【テーマコード(参考)】
4K037
5H017
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
4K037EA04
4K037EA05
4K037EA12
4K037EA15
4K037EA17
4K037EA18
4K037EA19
4K037EA20
4K037EA23
4K037EA25
4K037EA27
4K037EA31
4K037EA35
4K037EB02
4K037EB06
4K037EB08
4K037EB09
4K037FG03
4K037FH01
4K037FH05
4K037FJ02
4K037FJ05
4K037FJ06
4K037FJ07
4K037FK05
4K037FM01
4K037JA01
5H017AA03
5H017CC01
5H017EE04
5H017HH00
5H017HH01
5H029AJ13
5H029AK01
5H029AK03
5H029AK05
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL07
5H029AL11
5H029AM12
5H029DJ07
5H029HJ00
5H029HJ01
5H050AA18
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA11
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB08
5H050CB11
5H050DA06
5H050HA00
5H050HA01
(57)【要約】
【課題】優れた耐食性が得られるフェライト系ステンレス鋼箔を提供する。
【解決手段】本開示のフェライト系ステンレス鋼箔は、フェライト系ステンレス鋼からなる箔本体を備え、箔本体の圧延面を電子線後方散乱回折法により測定して得られるND方向の逆極点図において、<001>方位の最大極密度M001と、<111>方位の最大極密度M111とが、式(1)を満たす。
M001/M111≦0.16 (1)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェライト系ステンレス鋼からなる箔本体を備え、
前記箔本体の圧延面を電子線後方散乱回折法により測定して得られるND方向の逆極点図において、<001>方位の最大極密度M001と、<111>方位の最大極密度M111とが、式(1)を満たす、
フェライト系ステンレス鋼箔。
M001/M111≦0.16 (1)
【請求項2】
請求項1に記載のフェライト系ステンレス鋼箔であってさらに、
前記箔本体を陽電子消滅同時計測ドップラー広がり法により測定して得られる、Sパラメータが0.592以上であり、Wパラメータが2.80×10-3以下である、
フェライト系ステンレス鋼箔。
【請求項3】
請求項1に記載のフェライト系ステンレス鋼箔であって、
前記箔本体の化学組成が、質量%で、
C:0.001~0.030%、
Si:0.01~1.00%、
Mn:0.01~1.00%、
P:0.050%以下、
S:0.030%以下、
Ni:0.01~0.50%、
Cr:12.00~20.00%、
Mo:0.01~2.50%、
N:0~0.100%、
Ti:0~0.80%、
Nb:0~0.80%、及び、
Zr:0~0.80%、を含有し、
残部がFe及び不純物からなる、
フェライト系ステンレス鋼箔。
【請求項4】
請求項2に記載のフェライト系ステンレス鋼箔であって、
前記箔本体の化学組成が、質量%で、
C:0.001~0.030%、
Si:0.01~1.00%、
Mn:0.01~1.00%、
P:0.050%以下、
S:0.030%以下、
Ni:0.01~0.50%、
Cr:12.00~20.00%、
Mo:0.01~2.50%、
N:0~0.100%、
Ti:0~0.80%、
Nb:0~0.80%、及び、
Zr:0~0.80%、を含有し、
残部がFe及び不純物からなる、
フェライト系ステンレス鋼箔。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のフェライト系ステンレス鋼箔と、
前記フェライト系ステンレス鋼箔の表面上に形成される電極合剤層と、を備える、
電極。
【請求項6】
請求項5に記載の電極と、
電解質と、を備える、
電池。
【請求項7】
請求項6に記載の電池であって、
前記電解質は、硫化物系固体電解質である、
電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、フェライト系ステンレス鋼箔、そのフェライト系ステンレス鋼箔を集電体として用いた電極、及び、その電極を用いた電池に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでに様々な電子機器の電源として、一次電池及び二次電池等の電池が用いられてきた。近年さらに、家庭用ビデオカメラ、ノートパソコン、及び、スマートフォン等の小型電子機器の普及により、リチウムイオン電池に代表される二次電池が急速に普及してきている。
【0003】
二次電池は、正極及び負極を有する電極と、電解質とを備える。正極及び負極ではいずれも、集電体の上に電極合剤層が形成されている。電極合剤層は、活物質を含む層である。集電体は、電流を活物質に供給する機能、及び、電極合剤層を保持する基材としての機能を有する。
【0004】
従来、二次電池の電解質としては、電解液が用いられている。しかしながら、電解液は可燃性の有機溶媒を含むため、使用できる温度域が狭かった。そのため近年では、電解液に代えて固体電解質を用いた全固体電池の開発が進められている。全固体電池は有機溶媒を含まないため、幅広い温度域で安定した電池性能が得られる。全固体電池に用いられる固体電解質の中でも特に、LPS(Lithium Phosphorus Sulfide)をはじめとする硫化物系固体電解質は、高いイオン電導度を有している。そのため、硫化物系固体電解質を用いることにより、全固体電池の高出力化を実現することができる。
【0005】
一方で、硫化物系固体電解質を用いる場合、硫化物により集電体が腐食される場合がある。集電体が腐食されれば、電池性能が低下する。つまり、集電体には高い耐食性が求められる。そのため、集電体の素材として、耐食性の高いステンレス鋼の適用が検討されている。ステンレス鋼の中でも特に、フェライト系ステンレス鋼は、オーステナイト系ステンレス鋼と比較して、電気抵抗が低く、導電性が高い。そのため、フェライト系ステンレス鋼は、集電体の素材に適している。
【0006】
しかしながら、フェライト系ステンレス鋼を集電体として用いた場合でも、全固体電池中における硫化物系固体電解質による腐食反応は依然として進行する。そのため、フェライト系ステンレス鋼の耐食性をさらに高める技術が求められている。
【0007】
集電体用途のフェライト系ステンレス鋼の耐食性を高める技術が、国際公開第2021/006089号(特許文献1)に提案されている。
【0008】
特許文献1に開示された硫化物系固体電池の集電体用のフェライト系ステンレス鋼板は、C:0.001~0.050%、Si:0.01~2.00%、Mn:0.01~1.00%、P:0.050%以下、S:0.010%以下、Cr:18.00~32.00%、Ni:0.01~4.00%、Al:0.001~0.150%およびN:0.050%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有する。このフェライト系ステンレス鋼板では、Cr含有量を18.00%以上と高めることで、優れた耐硫化性が得られる、と特許文献1には記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に開示されるフェライト系ステンレス鋼板とは異なる手段により、フェライト系ステンレス鋼の耐食性を高めてもよい。
【0011】
本開示の目的は、優れた耐食性が得られるフェライト系ステンレス鋼箔、そのフェライト系ステンレス鋼箔を集電体として用いた電極、及び、その電極を用いた電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示のフェライト系ステンレス鋼箔は、
フェライト系ステンレス鋼からなる箔本体を備え、
前記箔本体の圧延面を電子線後方散乱回折法により測定して得られるND方向の逆極点図において、<001>方位の最大極密度M001と、<111>方位の最大極密度M111とが、式(1)を満たす。
M001/M111≦0.16 (1)
【0013】
本開示の電極は、
前記フェライト系ステンレス鋼箔と、
前記フェライト系ステンレス鋼箔の表面上に形成される電極合剤層と、を備える。
【0014】
本開示の電池は、
前記電極と、
電解質と、を備える。
【発明の効果】
【0015】
本開示のフェライト系ステンレス鋼箔では、優れた耐食性が得られる。本開示の電極は、本開示のフェライト系ステンレス鋼箔を備える。本開示の電池は、本開示の電極を備える。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者らは、フェライト系ステンレス鋼箔の耐食性を高める手段について検討した。その結果、本発明者らは次の知見を得た。
【0017】
特許文献1では、フェライト系ステンレス鋼のCr含有量を高め、その耐食性を高めている。このように、耐食性を高める合金元素を含有させることは、フェライト系ステンレス鋼箔の耐食性を高めるために有効である。しかしながら、合金元素の含有量を高めれば、フェライト系ステンレス鋼箔の加工性が低下したり、製造コストが増加したりする。そのため、本発明者らは、フェライト系ステンレス鋼からなる箔本体を備えるフェライト系ステンレス鋼箔において、箔本体の化学組成ではなく、箔本体の表面における集合組織に着目した。
【0018】
フェライト系ステンレス鋼からなる箔本体のND方向の結晶面は主に、圧延集合組織の{001}<110>方位と、再結晶集合組織の{111}<112>方位とから構成される。ここで、ND方向とは、フェライト系ステンレス鋼箔の箔本体における圧延面(本明細書では、単に「表面」ともいう。)の法線方向を意味する。なお、RD方向を圧延方向とする。圧延集合組織は圧延によって形成される集合組織である。圧延集合組織は、再結晶集合組織と比較して、未再結晶粒を多く含む。未再結晶粒にはさらに、転位の増殖によって生じる亜粒界が多く含まれる。亜粒界の周囲は、粒内と比較して原子の配列が大きく乱れており、エネルギーが高い状態にある。そのため、腐食の進行速度が速い。つまり、亜粒界を多く含む圧延集合組織では、再結晶集合組織よりも優先的に腐食が進行する。
【0019】
フェライト系ステンレス鋼箔の腐食は、箔本体の表面を起点として進行する。箔本体の表面において、亜粒界を多く含む圧延集合組織が、再結晶集合組織と比較して多く存在しているほど、箔本体の腐食の進行が助長される。換言すれば、箔本体の表面において、再結晶集合組織に対する圧延集合組織の比率を低くすれば、表面を起点とした腐食の進行を抑制することができる。その結果、フェライト系ステンレス鋼箔の耐食性を高めることができる。
【0020】
箔本体の表面における圧延集合組織及び再結晶集合組織の量は、電子線後方散乱回折(EBSD:Electron Back Scatter Diffraction)法による測定で得られるND方向の逆極点図を用いて評価することができる。ND方向の逆極点図では、ND方向の結晶面を構成する結晶方位の傾向が表される。ここで、測定表面における圧延集合組織の量は<001>方位の最大極密度M001で表され、再結晶集合組織の量は<111>方位の最大極密度M111で表される。なお、最大極密度とは、ランダム方位に対する強度比のことを意味する。つまり、最大極密度M111に対する最大極密度M001が小さいほど、箔本体の表面における再結晶集合組織に対する圧延集合組織の比率が低い。
【0021】
以上の知見に基づいて、本発明者らは、箔本体の圧延面を電子線後方散乱回折法により測定して得られるND方向の逆極点図における、<001>方位の最大極密度M001及び<111>方位の最大極密度M111と、耐食性との関係について検討を行った。その結果、次の式(1)を満たせば、フェライト系ステンレス鋼箔において優れた耐食性が得られることを、本発明者らは見出した。
M001/M111≦0.16 (1)
【0022】
本実施形態のフェライト系ステンレス鋼箔、本実施形態の電極、及び、本実施形態の電池は以上の技術思想により完成したものであり、次の構成を有する。
【0023】
第1の構成のフェライト系ステンレス鋼箔は、
フェライト系ステンレス鋼からなる箔本体を備え、
前記箔本体の圧延面を電子線後方散乱回折法により測定して得られるND方向の逆極点図において、<001>方位の最大極密度M001と、<111>方位の最大極密度M111とが、式(1)を満たす。
M001/M111≦0.16 (1)
【0024】
第2の構成のフェライト系ステンレス鋼箔は、
第1の構成のフェライト系ステンレス鋼箔であってさらに、
前記箔本体を陽電子消滅同時計測ドップラー広がり法により測定して得られる、Sパラメータが0.592以上であり、Wパラメータが2.80×10-3以下である。
【0025】
第3の構成のフェライト系ステンレス鋼箔は、
第1又は第2の構成のフェライト系ステンレス鋼箔であって、
前記箔本体の化学組成が、質量%で、
C:0.001~0.030%、
Si:0.01~1.00%、
Mn:0.01~1.00%、
P:0.050%以下、
S:0.030%以下、
Ni:0.01~0.50%、
Cr:12.00~20.00%、
Mo:0.01~2.50%、
N:0~0.100%、
Ti:0~0.80%、
Nb:0~0.80%、及び、
Zr:0~0.80%、を含有し、
残部がFe及び不純物からなる。
【0026】
第1の構成の電極は、
第1~第3の構成のいずれか1つの構成のフェライト系ステンレス鋼箔と、
前記フェライト系ステンレス鋼箔の表面上に形成される電極合剤層と、を備える。
【0027】
第1の構成の電池は、
第1の構成の電極と、
電解質と、を備える。
【0028】
第2の構成の電池は、
第1の構成の電池であって、
前記電解質は、硫化物系固体電解質である。
【0029】
以下、本実施形態のフェライト系ステンレス鋼箔、本実施形態の電極、及び、本実施形態の電池について詳述する。なお、元素に関する「%」は、特に断りがない限り、質量%を意味する。
【0030】
[フェライト系ステンレス鋼箔の構成]
本実施形態のフェライト系ステンレス鋼箔は、フェライト系ステンレス鋼からなる箔本体を備える。つまり、本実施形態のフェライト系ステンレス鋼箔は、フェライト系ステンレス鋼からなる箔本体のみから構成されてもよい。ここで、フェライト系ステンレス鋼とは、Cr含有量が10.5%以上であり、ミクロ組織がフェライトを主体とする鋼を意味する。本明細書において、ミクロ組織がフェライトを主体とするとは、ミクロ組織において、フェライトの体積率が95%以上であることを意味する。
【0031】
[式(1)について]
本実施形態のフェライト系ステンレス鋼箔では、箔本体の圧延面を電子線後方散乱回折法により測定して得られるND方向の逆極点図において、<001>方位の最大極密度M001と、<111>方位の最大極密度M111とが、式(1)を満たす。
M001/M111≦0.16 (1)
【0032】
F1を次のとおり定義する。
F1=M001/M111
F1は、箔本体の表面における再結晶集合組織に対する圧延集合組織の比率を表す指標である。上述のとおり、箔本体の表面において、再結晶集合組織と比較して転位を多く含む圧延集合組織の比率が低いほど、表面を起点とした腐食の進行を抑制することができる。F1が0.16以下であれば、再結晶集合組織に対する圧延集合組織の比率は十分に低い。この場合、表面を起点とした腐食の進行を十分に抑制することができる。その結果、優れた耐食性が得られる。
【0033】
F1の下限は特に限定されない。通常の工業生産を考慮すれば、F1の下限は例えば0.01である。
F1の好ましい上限は0.15であり、さらに好ましくは0.13である。
【0034】
[最大極密度の測定方法]
ND方向の逆極点図における<001>方位の最大極密度M001及び<111>方位の最大極密度M111は、次の方法で求める。
【0035】
フェライト系ステンレス鋼箔における箔本体の圧延面を観察面とする試験片を採取する。試験片の大きさは特に限定されない。試験片を採取する位置も特に限定されないが、例えば箔本体の幅中央部である。試験片の観察面を電解研磨する。電解研磨での印加電圧は35Vとし、研磨時間は10秒とする。電解液には、過塩素酸78mLと、蒸留水90mLと、エタノール730mLと、ブチルセロソルブ100mLとの混合溶液を用いる。電解研磨後の観察面において、200μm×200μmの測定領域を互いに重複しないように3つ設定する。それぞれの測定領域について、EBSD測定を実施する。EBSD測定では、加速電圧を20kV、照射電流を28nA、ワーキングディスタンス(WD)を15.0mmとする。また、観察倍率を400倍とし、ステップサイズを0.3μmとする。3つの測定領域における測定結果を、株式会社TSLソリューションズ製の製品名:OIM-Analysis Ver.7を用いて解析し、ND方向の逆極点図を得る。なお、A1軸がY軸、A2軸がX軸、A3軸がZ軸に対応する試料座標系において、A2軸が観察面のRD方向と一致し、A3軸が観察面のND方向と一致するように回転して、解析を行う。また、得られた結晶方位の確からしさを示す信頼性指数(Confidence Index:CI値)が0.1以下である測定点は、解析には使用しない。得られた逆極点図から、<001>方位の最大極密度M001と、<111>方位の最大極密度M111とを得る。
【0036】
得られた最大極密度M001及び最大極密度M111に基づいて、F1を算出する。なお、F1は、小数第三位を四捨五入して得られる小数第二位までの値である。
【0037】
[Sパラメータ及びWパラメータについて]
好ましくは、本実施形態のフェライト系ステンレス鋼箔ではさらに、箔本体を陽電子消滅同時計測ドップラー広がり法により測定して得られる、Sパラメータが0.592以上であり、Wパラメータが2.80×10-3以下である。
【0038】
フェライト系ステンレス鋼箔の箔本体には、十分な強度を確保するために、表面だけでなくその内部にも転位が導入されている。また、フェライト系ステンレス鋼箔が集電体として用いられる場合、電極の製造工程では、しばしばプレス加工などが実施され、フェライト系ステンレス鋼箔の箔本体にはさらなる転位が導入される場合がある。箔本体に導入された転位は、結晶粒内を移動しながらセル状のタングル(転位セル)を形成していく。やがて、セル内の転位は対消滅し、セル壁でタングルしている転位は再配列されて亜粒界を形成する。
【0039】
フェライト系ステンレス鋼箔の製造工程における圧延時には、箔本体に塑性ひずみが導入される。その結果、箔本体内で格子欠陥が発生する。箔本体の表面と内部とでは、圧延時の塑性ひずみの導入に差が生じるため、格子欠陥の導入量が異なっている。ここで、内部に適切な量の格子欠陥を導入することにより、内部での亜粒界の形成を抑制することができる。この場合、式(1)を満たすことで表面を起点とした腐食の進行を抑制できるフェライト系ステンレス鋼箔においてさらに、内部での腐食の進行も遅延させることができる。その結果、フェライト系ステンレス鋼箔の耐食性がさらに高まる。
【0040】
箔本体の内部に導入されている格子欠陥の量は、陽電子消滅同時計測ドップラー広がり(CDB:Coincidence Doppler Broadening)法によって得られるSパラメータ及びWパラメータによって評価できる。陽電子消滅同時計測ドップラー広がり法では、測定試料に入射した陽電子が電子と対消滅する際に放出する2本のγ線のエネルギーを検出する。1本のγ線のエネルギーは511keVであるが、実際には対消滅する相手の電子の運動状態に応じたドップラー効果の影響を受け、一定の広がりを持ったエネルギー分布(CDBスペクトル)として検出される。得られるエネルギー分布において、Sパラメータは、511keVからのずれが少ないエネルギー範囲で検出されたγ線の割合を表す。Wパラメータは、511keVからのずれが大きいエネルギー範囲で検出されたγ線の割合を表す。ここで、箔本体の内部に導入されている格子欠陥の量が多いと、伝導電子と対消滅する陽電子の数が多くなり、内殻電子と対消滅する陽電子の数が多くなる。内殻電子と比較して、伝導電子は運動量が小さいので、伝導電子との消滅によって発生するγ線はドップラー効果の影響を受けにくい。そのため、箔本体の内部に導入されている格子欠陥の量が多いほど、検出されるエネルギーの分布は狭くなる。その結果、Sパラメータは大きく、Wパラメータは小さくなる。つまり、陽電子消滅同時計測ドップラー広がり法により得られるSパラメータが大きく、Wパラメータが小さいほど、亜粒界の形成が抑制され、フェライト系ステンレス鋼箔の耐食性がさらに高まる。
【0041】
箔本体において、Sパラメータが0.592以上であり、Wパラメータが2.80×10-3以下であれば、箔本体の内部に導入されている格子欠陥の量は十分に多い。この場合、腐食の進行を助長する亜粒界の形成が十分に抑制されている。その結果、さらに優れた耐食性が得られる。
【0042】
Sパラメータのさらに好ましい下限は0.594であり、さらに好ましくは0.596である。
Sパラメータの上限は特に限定されない。通常の工業生産を考慮すれば、Sパラメータの上限は例えば0.610である。
Wパラメータの下限は特に限定されない。通常の工業生産を考慮すれば、Wパラメータの下限は例えば2.60×10-3である。
Wパラメータのさらに好ましい上限は2.75×10-3であり、さらに好ましくは2.70×10-3である。
【0043】
[Sパラメータ及びWパラメータの測定方法]
箔本体のSパラメータ及びWパラメータは、次の方法で求める。
【0044】
フェライト系ステンレス鋼箔の箔本体から試験片を採取し、陽電子消滅同時計測ドップラー広がり法により測定を実施する。具体的には、採取した試験片を3枚重ねた積層物を2つ作製する。2つの積層物で陽電子線源を挟み込んで測定を実施する。陽電子線源には、22Naを用いる。陽電子線源は例えば、日本アイソトープ協会製:NA351である。γ線の検出には例えば、株式会社テクノエーピー社製の製品名:ガンマ線スペクトロメータ用DSPモジュールAPV8002を用いる。カウント数は1000万カウント以上とする。測定により得られるγ線のエネルギー分布から、509~513keVの範囲で半値幅を算出する。共通分解能は1.04keVとし、測定分解能は算出した当該半値幅として、Sパラメータ及びWパラメータを算出する。具体的には、540~545keVの範囲における各エネルギーでのカウント数の平均値を、バックグラウンドに相当するカウント数とする。測定したエネルギー範囲全体における各エネルギーでのカウント数から、バックグラウンドに相当するカウント数を差し引いた値の総和をCtotalとする。同様に、Sパラメータの算出に使用するエネルギー範囲を511~512keVとし、このエネルギー範囲における各エネルギーでのカウント数から、バックグラウンドに相当するカウント数を差し引いた値の総和をCSとする。また、Wパラメータに対応するエネルギー範囲を516~518keVとし、このエネルギー範囲における各エネルギーでのカウント数から、バックグラウンドに相当するカウント数を差し引いた値の総和をCWとする。以下の式からSパラメータ及びWパラメータを計算した。
Sパラメータ=CS/Ctotal
Wパラメータ=CW/Ctotal
なお、Sパラメータは、小数第四位を四捨五入して得られる小数点三位までの値である。Wパラメータは、小数第六位を四捨五入して得られる小数第五位までの値である。
【0045】
[化学組成]
本実施形態のフェライト系ステンレス鋼箔において、箔本体の化学組成は、周知のフェライト系ステンレス鋼の化学組成からなるものであってもよい。
【0046】
本実施形態のフェライト系ステンレス鋼箔の箔本体の化学組成は例えば、JIS G 4305(2015)に規定されるSUS405、SUS410L、SUS429、SUS430、SUS430LX、SUS430J1L、SUS434、SUS436L、SUS436J1L、SUS443J1、SUS444、SUS445J1、SUS445J2、SUS447J1、及び、SUSXM27からなる群から選択されるいずれか1種を満たすものであってもよい。
【0047】
本実施形態のフェライト系ステンレス鋼箔の箔本体の化学組成は、例えばさらに、ASTM A 240(2006)に規定される403、405、409L、410、410L、410S、415、420J1、420J2、420、429、429J1、430、430J1L、430LX、430Ti、434、436、436J1L、439、441、444、445、445J1、445J2、446、447、及び、448からなる群から選択されるいずれか1種を満たすものであってもよい。
【0048】
本実施形態のフェライト系ステンレス鋼箔の箔本体の化学組成は、例えば、次の元素を含有するものであってもよい。
【0049】
C:0.001~0.030%
炭素(C)は、フェライト系ステンレス鋼箔の強度を高める。C含有量が0.001%以上であれば、上記効果が十分に得られる。
一方、C含有量が0.030%以下であれば、Cr炭化物の生成による、Cr欠乏層の形成を抑制できる。その結果、酸化被膜の脆化が抑制され、フェライト系ステンレス鋼箔の耐食性が高まる。
したがって、好ましいC含有量は0.001~0.030%である。
C含有量のさらに好ましい下限は0.003%であり、さらに好ましくは0.005%である。
C含有量のさらに好ましい上限は0.025%であり、さらに好ましくは0.020%である。
【0050】
Si:0.01~1.00%
シリコン(Si)は、製鋼工程において鋼を脱酸する。Si含有量が0.01%以上であれば、上記効果が十分に得られる。
一方、Si含有量が1.00%以下であれば、フェライト系ステンレス鋼箔の加工性が高まる。
したがって、好ましいSi含有量は0.01~1.00%である。
Si含有量のさらに好ましい下限は0.03%であり、さらに好ましくは0.05%である。
Si含有量のさらに好ましい上限は0.90%であり、さらに好ましくは0.80%である。
【0051】
Mn:0.01~1.00%
マンガン(Mn)は、フェライト系ステンレス鋼箔の強度を高める。Mn含有量が0.01%以上であれば、上記効果が十分に得られる。
一方、Mn含有量が1.00%以下であれば、フェライト系ステンレス鋼箔の耐食性が高まる。
したがって、好ましいMn含有量は0.01~1.00%である。
Mn含有量のさらに好ましい下限は0.03%であり、さらに好ましくは0.05%である。
Mn含有量のさらに好ましい上限は0.90%であり、さらに好ましくは0.80%である。
【0052】
P:0.050%以下
りん(P)は、不純物である。P含有量が0.050%以下であれば、フェライト系ステンレス鋼箔の加工性及び耐食性が高まる。
したがって、好ましいP含有量は0.050%以下である。
P含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、P含有量を過度に低減すれば、製造コストが高くなる。したがって、通常の工業生産を考慮した場合、P含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.001%であり、さらに好ましくは0.010%である。
P含有量のさらに好ましい上限は0.045%であり、さらに好ましくは0.040%である。
【0053】
S:0.030%以下
硫黄(S)は不純物である。S含有量が0.030%以下であれば、フェライト系ステンレス鋼箔の加工性及び耐食性が高まる。
したがって、好ましいS含有量は0.030%以下である。
S含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、S含有量を過度に低減すれば、製造コストが高くなる。したがって、通常の工業生産を考慮した場合、S含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.001%であり、さらに好ましくは0.010%である。
S含有量のさらに好ましい上限は0.025%であり、さらに好ましくは0.020%である。
【0054】
Ni:0.01~0.50%
ニッケル(Ni)は、フェライト系ステンレス鋼箔の耐食性を高める。Ni含有量が0.01%以上であれば、上記効果が十分に得られる。
一方、Ni含有量が0.50%以下であれば、フェライト系ステンレス鋼箔の加工性が高まる。
したがって、好ましいNi含有量は0.01~0.50%である。
Ni含有量のさらに好ましい下限は0.03%であり、さらに好ましくは0.05%である。
Ni含有量のさらに好ましい上限は0.40%であり、さらに好ましくは0.30%である。
【0055】
Cr:12.00~20.00%
クロム(Cr)は、酸化被膜を形成し、フェライト系ステンレス鋼箔の耐食性を高める。Cr含有量が12.00%以上であれば、上記効果が十分に得られる。
一方、Cr含有量が20.00%以下であれば、フェライト系ステンレス鋼箔の加工性が高まる。
したがって、好ましいCr含有量は12.00~20.00%である。
Cr含有量のさらに好ましい下限は12.50%であり、さらに好ましくは13.00%である。
Cr含有量のさらに好ましい上限は19.00%であり、さらに好ましくは18.00%である。
【0056】
Mo:0.01~2.50%
モリブデン(Mo)は、フェライト系ステンレス鋼箔の強度と耐食性とを高める。Mo含有量が0.01%以上であれば、上記効果が十分に得られる。
一方、Mo含有量が2.50%以下であれば、フェライト系ステンレス鋼箔の加工性が高まる。
したがって、好ましいMo含有量は0.01~2.50%である。
Mo含有量のさらに好ましい下限は0.03%であり、さらに好ましくは0.05%である。
Mo含有量のさらに好ましい上限は2.40%であり、さらに好ましくは2.30%である。
【0057】
N:0~0.100%
窒素(N)は、含有されなくてもよい。
一方、Nが0.100%以下で含有されれば、フェライト系ステンレス鋼箔の強度が高まる。
したがって、好ましいN含有量は0~0.100%である。
N含有量のさらに好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.001%であり、さらに好ましくは0.003%である。
N含有量のさらに好ましい上限は0.090%であり、さらに好ましくは0.080%である。
【0058】
Ti:0~0.80%
チタン(Ti)は、含有されなくてもよい。
一方、Tiが0.80%以下で含有されれば、Cを固定し、Cr炭化物の生成を抑制する。そのため、Cr欠乏層の形成が抑制される。その結果、酸化被膜の脆化が抑制され、フェライト系ステンレス鋼箔の耐食性が高まる。
したがって、好ましいTi含有量は0~0.80%である。
Ti含有量のさらに好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.03%である。
Ti含有量のさらに好ましい上限は0.70%であり、さらに好ましくは0.60%である。
【0059】
Nb:0~0.80%
ニオブ(Nb)は、含有されなくてもよい。
一方、Nbが0.80%以下で含有されれば、フェライト系ステンレス鋼箔の耐食性が高まる。
したがって、好ましいNb含有量は0~0.80%である。
Nb含有量のさらに好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.03%である。
Nb含有量のさらに好ましい上限は0.70%であり、さらに好ましくは0.60%である。
【0060】
Zr:0~0.80%
ジルコニウム(Zr)は、含有されなくてもよい。
一方、Zrが0.80%以下で含有されれば、フェライト系ステンレス鋼箔の耐食性が高まる。
したがって、好ましいZr含有量は0~0.80%である。
Zr含有量のさらに好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.03%である。
Zr含有量のさらに好ましい上限は0.70%であり、さらに好ましくは0.60%である。
【0061】
本実施形態のフェライト系ステンレス鋼箔の箔本体の好ましい化学組成の残部は、Fe及び不純物からなる。ここで、化学組成における不純物とは、フェライト系ステンレス鋼箔を工業的に製造する際に、原料又は製造環境などから混入されるものであって、本実施形態のフェライト系ステンレス鋼箔に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
【0062】
[板厚]
本実施形態のフェライト系ステンレス鋼箔の箔本体の板厚は特に限定されない。本実施形態のフェライト系ステンレス鋼箔の箔本体の板厚は例えば、6~20μmである。
【0063】
[本実施形態のフェライト系ステンレス鋼箔の用途]
本実施形態のフェライト系ステンレス鋼箔は、耐食性に優れる。そのため、腐食性の高い硫化物系固体電解質を用いた全固体電池の集電体用途に好適である。なお、本実施形態のフェライト系ステンレス鋼箔は、二次電池の集電体以外の用途にも適用可能である。
【0064】
[本実施形態のフェライト系ステンレス鋼箔の製造方法]
本実施形態のフェライト系ステンレス鋼箔の製造方法の一例を説明する。以降に説明するフェライト系ステンレス鋼箔の製造方法は、本実施形態のフェライト系ステンレス鋼箔を製造するための一例である。したがって、上述の構成を有するフェライト系ステンレス鋼箔は、以降に説明する製造方法以外の他の製造方法により製造されてもよい。しかしながら、以降に説明する製造方法は、本実施形態のフェライト系ステンレス鋼箔の製造方法の好ましい一例である。
【0065】
本実施形態のフェライト系ステンレス鋼箔の製造方法の一例は、次の工程を含む。
(工程1)素材準備工程
(工程2)中間冷間圧延工程
(工程3)中間焼鈍工程
(工程4)最終冷間圧延工程
以下、各工程について説明する。
【0066】
[(工程1)素材準備工程]
素材準備工程では、本実施形態のフェライト系ステンレス鋼箔を製造するための素材として、板厚数百μm~数mmのフェライト系ステンレス鋼板を準備する。素材は、例えば、熱間圧延コイルに冷間圧延を実施した冷間圧延コイルである。素材は製造して準備してもよく、第三者から購入することによって準備してもよい。すなわち、素材を準備する工程は特に限定されない。
【0067】
素材を製造する場合、例えば、次の方法で製造する。所望の化学組成を有する溶鋼を製造する。溶鋼を用いて連続鋳造法によりスラブを製造する。製造されたスラブに対して熱間加工、及び、冷間圧延を実施して、板厚数百μm~数mmの鋼板を製造する。以上の工程により、本実施形態のフェライト系ステンレス鋼箔の素材が準備される。
【0068】
[(工程2)中間冷間圧延工程]
中間冷間圧延工程では、準備された素材に対して冷間圧延を実施し、板厚数十μm~数百μmの中間鋼板を製造する。中間冷間圧延工程では、一列に配置された複数の圧延スタンドを備える連続圧延機を用いて冷間圧延を実施しても良いし、リバース圧延機を用いて冷間圧延を実施しても良い。中間冷間圧延工程における累計圧下率は特に限定されない。
【0069】
中間冷間圧延工程では、次の条件を満たす。なお、後述するとおり、中間冷間圧延工程と中間焼鈍工程とは、複数回交互に繰り返して実施してもよい。その場合、最後に実施する中間冷間圧延工程において次の条件が満たされればよい。
(条件1)最終パスでの圧下率RLが15.0%以上である。
以下、条件1について説明する。
【0070】
[最終パスでの圧下率RLについて]
ここで、「パス」とは、被圧延材が、1機の圧延スタンドを1回通過する動作を意味する。中間冷間圧延工程では、複数のパスからなる冷間圧延を実施する。「最終パスでの圧下率RL」とは、中間冷間圧延工程で実施される複数のパスのうち、最後に実施されるパス(最終パス)での圧下率のことを意味する。最終パスでの圧下率RLが大きいほど、中間冷間圧延工程後の中間鋼板に大きなひずみを蓄積させることができる。ここで、中間冷間圧延工程後の中間鋼板に蓄積されているひずみの量が大きいほど、続く中間焼鈍工程において再結晶集合組織の形成が促進される。その結果、箔本体の表面における再結晶集合組織の割合が高くなる。最終パスでの圧下率RLが15.0%以上であれば、中間冷間圧延工程後の中間鋼板には十分の量のひずみが蓄積されている。この場合、中間焼鈍工程が後述する条件2を満たすことを前提として、製造されるフェライト系ステンレス鋼箔において、F1が0.16以下となる。したがって、最終パスでの圧下率RLは15.0%以上とする。
最終パスでの圧下率RLの上限は特に限定されない。通常の工業生産を考慮すれば、最終パスでの圧下率RLの上限は例えば50.0%である。
【0071】
[(工程3)中間焼鈍工程]
中間焼鈍工程では、中間冷間圧延工程後の中間鋼板に対して光輝焼鈍を実施する。光輝焼鈍とは、極低酸素雰囲気下で実施される焼鈍処理である。光輝焼鈍が実施された中間鋼板は、その表面がほとんど酸化されず、表面光沢を保つことができる。光輝焼鈍における極低酸素雰囲気とは、好ましくは、H2ガスとN2ガスとの混合ガス雰囲気である。雰囲気ガス中のN2分率は、例えば、体積率で35~65%である。
【0072】
中間焼鈍工程で実施される光輝焼鈍では、極低酸素雰囲気下の熱処理炉内で、中間鋼板を所定の速度で通板させる。このとき、中間鋼板には所定の大きさの張力が付与されている。熱処理炉は、中間鋼板が通板される順に、加熱室と徐冷室と急冷室とに分かれている。加熱室では、中間鋼板を加熱温度T(℃)で加熱保持する。加熱温度Tは例えば、800~1200℃である。徐冷室では、加熱温度T(℃)から400℃まで、中間鋼板を所定の冷却速度で冷却する。急冷室では、400℃まで冷却された中間鋼板を室温まで急冷する。急冷方法は特に限定されないが、例えば空冷である。
【0073】
なお、中間冷間圧延工程と中間焼鈍工程とは、複数回交互に繰り返して実施してもよい。例えば、中間冷間圧延工程と中間焼鈍工程とを2回交互に繰り返して実施する場合、1回目の中間冷間圧延工程と、1回目の中間焼鈍工程とを実施した後、2回目の中間冷間圧延工程と、2回目の中間焼鈍工程とを実施する。
【0074】
中間焼鈍工程では、次の条件を満たす。なお、中間焼鈍工程を複数回実施する場合、最後に実施する中間焼鈍工程において次の条件が満たされればよい。
(条件2)加熱温度T(℃)から400℃までの平均冷却速度CRが200℃/秒以下である。
以下、条件2について説明する。
【0075】
[平均冷却速度CRについて]
上述のとおり、中間焼鈍工程では、再結晶集合組織の形成が進行する。しかしながら、加熱温度T(℃)から400℃までの平均冷却速度CRが速すぎると、箔本体の表面における再結晶集合組織の形成が不十分となる場合がある。平均冷却速度CRが200℃/秒以下であれば、箔本体の表面においても再結晶集合組織の形成が十分に進行する。この場合、中間焼鈍工程が条件1を満たすことを前提として、製造されるフェライト系ステンレス鋼箔において、F1が0.16以下となる。したがって、加熱温度T(℃)から400℃までの平均冷却速度CRは200℃/秒以下とする。
平均冷却速度CRの下限は特に限定されない。通常の工業生産を考慮すれば、平均冷却速度CRの下限は、例えば20℃/秒である。
【0076】
中間焼鈍工程では、好ましくは次の条件を満たす。なお、中間焼鈍工程を複数回実施する場合、最後に実施する中間焼鈍工程において次の条件が満たされればよい。
(好ましい条件1)加熱温度T(℃)から400℃までの冷却過程で中間鋼板に付与されている張力Tsが1.0N/mm2以上である。
以下、好ましい条件1について説明する。
【0077】
[張力Tsについて]
中間焼鈍工程における加熱温度T(℃)から400℃までの冷却過程において、中間鋼板に付与されている張力Tsが大きいほど、格子欠陥を多く含む組織が形成されやすい。中間鋼板に付与されている張力Tsが1.0N/mm2以上であれば、中間焼鈍工程後の中間鋼板の結晶格子には、十分な量の格子欠陥が含まれる。この場合、最終冷間圧延工程が後述する好ましい条件2を満たすことを前提として、製造されるフェライト系ステンレス鋼箔における箔本体のSパラメータは0.592以上となり、Wパラメータは2.80×10-3以下となる。したがって、張力Tsは1.0N/mm2以上とすることが好ましい。
張力Tsの上限は特に限定されない。通常の工業生産を考慮すれば、張力Tsの上限は例えば8.0N/mm2である。
【0078】
[(工程4)最終冷間圧延工程]
最終冷間圧延工程では、中間焼鈍工程後の中間鋼板に対して、再度冷間圧延を実施し、所定の板厚の箔本体を備えるフェライト系ステンレス鋼箔を得る。最終冷間圧延工程では、周知の冷間圧延機を用いればよい。例えば、一列に配置された複数の圧延スタンドを備える連続圧延機を用いて冷間圧延を実施しても良いし、リバース圧延機を用いて冷間圧延を実施しても良い。最終冷間圧延工程における累計圧下率は特に限定されない。
【0079】
最終冷間圧延工程では、好ましくは次の条件を満たす。
(好ましい条件2)1パスでの最大圧下率RMAXが28%以下である。
以下、好ましい条件2について説明する。
【0080】
[1パスでの最大圧下率RMAXについて]
最終冷間圧延工程では、複数のパスからなる冷間圧延を実施する。「1パスでの最大圧下率RMAX」とは、最終冷間圧延工程における最も圧下率が大きいパスでの圧下率のことを意味する。圧下率が大きすぎるパスが1つでも存在する場合、激しい加工発熱が生じる。その結果、中間鋼板の温度が過度に上昇し、中間鋼板の結晶格子に含まれる格子欠陥が減少する。1パスでの最大圧下率RMAXが28%以下である場合、圧下率が28%を超えるパスが存在しないことを意味する。この場合、加工発熱は十分に抑制され、中間鋼板の結晶格子に含まれる格子欠陥の減少も抑制される。その結果、中間焼鈍工程が好ましい条件1を満たすことを前提として、製造されるフェライト系ステンレス鋼箔における箔本体のSパラメータは0.592以上となり、Wパラメータは2.80×10-3以下となる。したがって、1パスでの最大圧下率RMAXは28%以下とすることが好ましい。
1パスでの最大圧下率RMAXの下限は特に限定されない。通常の工業生産を考慮すれば、1パスでの最大圧下率RMAXの下限は、例えば5%である。
【0081】
以上の製造方法により、本実施形態のフェライト系ステンレス鋼箔が製造される。
【0082】
[電極]
本実施形態の電極は、本実施形態のフェライト系ステンレス鋼箔と、当該フェライト系ステンレス鋼箔の表面上に形成される電極合剤層とを備える。つまり、本実施形態の電極では、本実施形態のフェライト系ステンレス鋼箔が集電体として用いられている。本実施形態の電極は、正極であってもよく、負極であってもよい。すなわち、本実施形態のフェライト系ステンレス鋼箔と、電極合剤層とを備えていれば、本実施形態の電極の構成は特に限定されない。
【0083】
[電極合剤層]
本実施形態の電極では、電極合剤層は特に限定されず、周知の構成を有していればよい。電極合剤層は、活物質を含む。なお、電極合剤層には、活物質以外の物質を含有してもよい。電極合剤層は例えば、バインダー及び導電助剤を含有してもよい。また、全固体電池に用いられる電極合剤層は例えば、固体電解質を含有してもよい。
【0084】
[活物質]
本実施形態の電極では、電極合剤層に含まれる活物質は特に限定されず、周知の活物質を用いることができる。電極が正極の場合、正極活物質は例えば、LiCoO2であってもよく、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2に代表される三元系であってもよく、LiFePO4に代表されるオリビン系であってもよく、さらにはS、Fe2S、Mo3S4、及び、硫黄変性ポリアクリロニトリルに代表される硫黄系であってもよい。電極が負極の場合、負極活物質は例えば、黒鉛に代表される炭素系材料であってもよく、CuSn合金及びNiTiSi合金に代表される合金材料であってもよく、Si及びSiOに代表されるSi系材料であってもよく、Li4Ti5O12に代表される酸化物系であってもよい。
【0085】
[バインダー]
本実施形態の電極では、電極合剤層に含まれるバインダーは特に限定されず、周知のバインダーを用いることができる。バインダーは例えば、スチレン・ブタジエンゴム及びイソプレンゴムに代表されるゴム状高分子であってもよく、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアクリル酸、及び、ポリアミドに代表される合成樹脂であってもよく、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体又はその水素添加物であってもよく、スチレン・エチレン・ブタジエン、スチレン共重合体、スチレン・イソプレン、若しくは、スチレンブロック共重合体又はそれらの水素化物等の熱可塑性エラストマーであってもよく、シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、及び、エチレンと炭素数3~12のα-オレフィンとの共重合体に代表される軟質樹脂状高分子であってもよく、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリビニデンフルオライド、ポリペンタフルオロプロピレン、及び、ポリヘキサフルオロプロピレンに代表されるフッ素化高分子であってもよい。
【0086】
[導電助剤]
本実施形態の電極では、電極合剤層に含まれる導電助剤は特に限定されず、周知の導電助剤を用いることができる。導電助剤は例えば、アセチレンブラックであってもよく、カーボンブラックであってもよく、ケッチェンブラックであってもよい。
【0087】
[電極の製造方法]
本実施形態の電極の製造方法は、特に限定されない。本実施形態の電極は、本実施形態のフェライト系ステンレス鋼箔を集電体として、周知の方法により製造される。本実施形態の電極の製造方法は例えば、電極スラリー準備工程と、電極合剤層形成工程とを含む。
【0088】
[電極スラリー準備工程]
電極スラリー準備工程では、電極合剤層を形成するための組成物(電極スラリー)を準備する。電極スラリーは、得ようとする電極合剤層に応じて準備すればよい。例えば、活物質と、バインダーと、溶媒とを混練して準備してもよい。例えばさらに、活物質と、導電助剤と、バインダーと、溶媒とを混練して準備してもよい。また、全固体電池に用いられる電極スラリーを準備する場合は例えば、活物質と、溶媒と、固体電解質と、バインダーとを混練して準備してもよい。混練の方法は、活物質、導電助剤、バインダー、固体電解質、及び、溶媒に応じて、適宜調整する。すなわち、電極スラリー準備工程は、周知の方法で実施すればよい。
【0089】
[電極合剤層形成工程]
電極合剤層形成工程では、本実施形態のフェライト系ステンレス鋼箔の表面上に、電極合剤層を形成する。具体的には、混練された電極スラリーを、本実施形態のフェライト系ステンレス鋼箔に塗工する。塗工方法は特に限定されず、周知の方法でよい。例えば、ギャップが設けられたアプリケータを用いて塗工してもよい。例えばさらに、スプレーを用いて噴霧して塗工してもよい。
【0090】
以上の工程により、本実施形態の電極を製造することができる。
【0091】
[電池]
本実施形態の電池は、本実施形態の電極と、電解質とを備える。本実施形態の電池は、本実施形態の電極を備えていれば、その他の構成は周知の構成でよく、特に限定されない。本実施形態の電池は例えばさらに、セパレータを備えていてもよい。本実施形態の電池の形状は、特に限定されず、円筒形であってもよく、角形であってもよく、コイン型であってもよく、シート型であってもよい。また、本実施形態の電池は、二次電池であってもよく、一次電池であってもよい。本実施形態による電池が二次電池である場合、例えば非水系電解質二次電池であってもよく、水系電解質二次電池であってもよく、全固体二次電池であってもよい。
【0092】
[電解質]
電解質は、正極及び負極との間でイオンを伝導する。本実施形態の電池では、電解質は特に限定されず、周知の電解質を用いることができる。電解質は、液体の電解液であってもよく、固体電解質であってもよい。
【0093】
本実施形態の電池に備えられる電極には、集電体として本実施形態のフェライト系ステンレス鋼箔が用いられる。そのため、当該集電体は優れた耐食性を有する。したがって、本実施形態の電池の電解質には、集電体に対する腐食性が高い硫化物系固体電解質を用いることができる。硫化物系固体電解質は例えば、Li3PS4やLi7P3S11に代表されるLPS系であってもよく、Li6PS5ClxBr(1-x)(0≦x≦1)に代表されるアルジロダイト型であってもよく、Li10GeP2S12やLi9.54Si1.74P1.44S11.7Cl0.3に代表されるチオリシコンであってもよい。
【0094】
[電池の製造方法]
本実施形態の電池の製造方法は、特に限定されない。本実施形態の電池は例えば、周知の方法により、本実施形態の電極と、電解質と、対極とを積層した積層物を、電池ケースに収めて、製造される。
【実施例0095】
実施例により本実施形態のフェライト系ステンレス鋼箔の効果をさらに具体的に説明する。以下の実施例での条件は、本実施形態のフェライト系ステンレス鋼箔の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例である。したがって、本実施形態のフェライト系ステンレス鋼箔はこの一条件例に限定されない。
【0096】
フェライト系ステンレス鋼箔を製造する素材として、表1に示す化学組成からなる鋼板を準備した。鋼板の板厚は300μmであった。
【0097】
【0098】
各試験番号の素材に対して、中間冷間圧延工程を1回実施し、中間鋼板を製造した。具体的には、リバース圧延機を用いて、各試験番号の素材を冷間圧延した。各試験番号における最終パスでの圧下率RL(%)を表2に示す。
【0099】
【0100】
中間冷間圧延工程後の中間鋼板に対して、中間焼鈍工程を1回実施した。具体的には、各試験番号の中間鋼板に対して、35~65体積%のN2ガスと、残部がH2ガスとの混合ガス雰囲気下で光輝焼鈍を実施した。光輝焼鈍では、800~1200℃の加熱温度Tで中間鋼板を加熱保持した後、平均冷却速度CR(℃/秒)で400℃まで冷却した。その後、空冷により室温まで急冷した。加熱温度T(℃)から400℃までの冷却過程で各試験番号の中間鋼板に付与されていた張力Ts(N/mm2)、及び、加熱温度T(℃)から400℃までの平均冷却速度CR(℃/秒)を表2に示す。
【0101】
中間焼鈍工程後の中間鋼板に対して、最終冷間圧延工程を実施した。最終冷間圧延工程では、各試験番号の中間鋼材に対して、リバース圧延機を用いた冷間圧延を実施し、板厚が10μmの箔本体を備えるフェライト系ステンレス鋼箔を製造した。各試験番号における1パスでの最大圧下率RMAX(%)を表2に示す。
【0102】
以上の製造工程により、各試験番号のフェライト系ステンレス鋼箔を製造した。
【0103】
[評価試験について]
製造された各試験番号のフェライト系ステンレス鋼箔に対して、次の評価試験を実施した。
(試験1)最大極密度測定試験
(試験2)Sパラメータ及びWパラメータ測定試験
(試験3)耐食性評価試験
以下、各試験について説明する。
【0104】
[(試験1)最大極密度測定試験]
上述の[最大極密度の測定方法]に記載の方法に基づいて、各試験番号のフェライト系ステンレス鋼箔の箔本体の圧延面における、<001>方位の最大極密度M001及び<111>方位の最大極密度M111を測定した。得られた最大極密度M001及び最大極密度M111に基づいて、F1を算出した。得られたF1を表3に示す。
【0105】
【0106】
[(試験2)Sパラメータ及びWパラメータ測定試験]
上述の[Sパラメータ及びWパラメータの測定方法]に記載の方法に基づいて、各試験番号のフェライト系ステンレス鋼箔の箔本体における、Sパラメータ及びWパラメータを測定した。得られたSパラメータ及びWパラメータをそれぞれ表3に示す。
【0107】
[(試験3)耐食性評価試験]
各試験番号のフェライト系ステンレス鋼箔の耐食性を、次の方法で評価した。
初めに、フェライト系ステンレス鋼箔の箔本体から直径11mmの円形状の試験片を採取した。試験片の一方の表面を評価面とした。試験片の評価面において、ISO25178-2:2012に規定される展開面積比Sdrを測定した。展開面積比Sdrは、平坦な面と比較したときの測定表面の表面積の増加率を表す指標である。腐食反応は箔本体の表面を起点として進行するため、試験片の展開面積比Sdrが大きいほど、腐食の進行速度が速まる。
【0108】
試験片の評価面における展開面積比Sdrは、レーザー顕微鏡を用いて測定した。レーザー顕微鏡は、Keyence社製の商品名:VK-X100を使用した。観察倍率を2000倍として、280μm×200μmの測定領域を測定した。具体的には、当該測定領域内の全範囲を測定できるように、145μm×109μmの観察視野で当該測定領域内の4か所を測定し、表面画像を得た。得られた4つの表面画像を付属の画像連結ソフトにより連結し、280μm×200μmの測定領域の表面画像を得た。測定領域の表面画像を解析して得られた表面形状プロファイルから、輝度の低い側から0.3%の領域をカットして基準面を設定し、三次元画像を生成した。この際、カットオフ波長50μmのハイパスフィルターを用いて、フィルター処理を実施した。フィルター処理方法はガウシアンフィルターを使用した。得られた三次元画像の200μm×150μmの領域において、ISO25178-2:2012に規定される展開面積比Sdrを求めた。
【0109】
展開面積比Sdrを測定した各試験番号の試験片を用いて、硫化物系全固体電池を模した評価セルを作製した。具体的には、硫化物系固体電解質を内径11mmの金型に0.12g投入した後、300MPaで加圧して、厚さが700μm、底面が直径11mmの円柱状の硫化物系固体電解質のペレットを形成した。硫化物系固体電解質には、β-Li3PS4を用いた。作製したペレットを各試験番号の試験片の評価面の上に配置した。さらに、硫化物系固体電解質のペレットの上に、厚さが1.2mm、底面が直径11mmの円柱状の金属Li箔を配置した。これらを、外気を遮断できる内径11mmの測定セルに入れ、ボルト締めにより5MPaの圧力をかけて密閉した。なお、硫化物系固体電解質のペレットの作成から、評価セルの密閉までの工程は、Ar雰囲気のグローブボックス内で実施した。以上の工程により、各試験番号の評価セルを作製した。
【0110】
作製した各試験番号の評価セルを用いて、サイクリックボルタンメトリー(CV:Cyclic Voltammetry)測定を実施した。サイクリックボルタンメトリー測定では、試験片を作用極とし、金属Li箔を対極及び参照極とした。具体的には、60℃で24時間保持した評価セルに対して、電圧を開放電圧VOC(V)から3.0Vまで掃引した後、0.005Vまで掃引し、再び開放電圧VOC(V)まで掃引し、流れた電流密度(μA/cm2)を測定した。掃引速度は5mV/秒とした。なお、開放電圧VOCは、いずれの試験番号の評価セルにおいても2.0~2.5Vであった。
【0111】
測定結果から、開放電圧VOC(V)から3.0Vまでの掃引過程で流れた電流密度の最大値(μA/cm2)を、試験片の評価面の微細な凹凸の影響を除外するために展開面積比Sdrで除した値を求めた。得られた値を最大電流値IMAX(μA/cm2)と定義し、試験片での腐食反応の進行度を表す指標とした。
【0112】
各試験番号の最大電流値IMAX(μA/cm2)を表3に示す。最大電流値IMAXが18.0μA/cm2超~25.0μA/cm2であった場合は、優れた耐食性が得られたと判断した。最大電流値IMAXが18.0μA/cm2以下であった場合は、さらに優れた耐食性が得られたと判断した。最大電流値IMAXが25.0μA/cm2を超えた場合は、優れた耐食性が得られなかったと判断した。
【0113】
[評価結果]
表1~3を参照して、試験番号1~9のフェライト系ステンレス鋼箔では、F1が0.16以下であった。そのため、優れた耐食性が得られた。
【0114】
試験番号1~6のフェライト系ステンレス鋼箔ではさらに、Sパラメータが0.592以上であり、Wパラメータが2.80×10-3以下であった。そのため、さらに優れた耐食性が得られた。
【0115】
一方、試験番号10では、中間冷間圧延工程における最終パスでの圧下率RLが小さすぎた。そのため、F1が0.16を超えた。その結果、優れた耐食性が得られなかった。
【0116】
試験番号11では、中間焼鈍工程における平均冷却速度CRが速すぎた。そのため、F1が0.16を超えた。その結果、優れた耐食性が得られなかった。
【0117】
以上、本開示の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本開示を実施するための例示に過ぎない。したがって、本開示は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。