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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025153397
(43)【公開日】2025-10-10
(54)【発明の名称】フッ化物イオン電池用電解液
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/36 20100101AFI20251002BHJP
【FI】
H01M10/36 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024055869
(22)【出願日】2024-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】佐口 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】牛来 直樹
(72)【発明者】
【氏名】川島 健司
(72)【発明者】
【氏名】山田 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】近藤 靖幸
(72)【発明者】
【氏名】プラダン アヌシャ
【テーマコード(参考)】
5H029
【Fターム(参考)】
5H029AJ02
5H029AJ12
5H029AK02
5H029AK04
5H029AK06
5H029AK11
5H029AK16
5H029AL02
5H029AL04
5H029AL06
5H029AL11
5H029AL16
5H029AM00
5H029HJ02
5H029HJ10
(57)【要約】
【課題】安全性に優れ、電位窓が広いフッ化物イオン電池用電解液を提供する。
【解決手段】2種以上のアルカリ金属フッ化物塩を水に溶解させた溶液である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種以上のアルカリ金属フッ化物塩を水に溶解させた溶液である、フッ化物イオン電池用電解液。
【請求項2】
前記アルカリ金属フッ化物塩の質量モル濃度が30mol/kg以上である、請求項1に記載のフッ化物イオン電池用電解液。
【請求項3】
前記アルカリ金属フッ化物塩がフッ化セシウム及びフッ化ルビジウムである、請求項1又は2に記載のフッ化物イオン電池用電解液。
【請求項4】
前記フッ化セシウムと前記フッ化ルビジウムとのモル比が1:9~9:1である、請求項3に記載のフッ化物イオン電池用電解液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ化物イオン電池用電解液に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ化物イオン電池は、フッ化物シャトル型の蓄電池であり、高い体積エネルギー密度を持つことから、リチウムイオン電池に代わる新しいバッテリとして注目されている。
【0003】
ハロゲン化物イオン電池の中でも、従来から知られているフッ化物イオン電池は、高温で、イオン液体、有機電解液又は固体電解質を用いて作動する電池が多く報告されている。このため、より低温で充電を行うことができるフッ化物イオン電池が模索されている。
【0004】
例えば、非特許文献1では、テトラアルキルアンモニウムフルオリドのエーテル溶液からなる電解質を用いた室温動作型のフッ化物イオン電池が報告されている。
【0005】
また、非特許文献2には、0.8mol/LのNaFを電解質に用いた水系フッ化物イオン電池が報告されている。
【0006】
さらに、特許文献1には、第四級アンモニウムハライド塩又はその水和物を9.0~11.0mol/kg含有する水溶液を電解液として用いたフッ化物イオン電池が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2022/186394号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Science.362,1144-1148(2018)
【非特許文献2】J.Electrochem.Soc.,166,A2419-A2424(2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、非特許文献1及び2では、反応中間体として遊離したフッ化水素が生成する可能性があり、安全性に問題がある。
【0010】
また、特許文献1では、電位窓の広さが十分とはいえず、電極に用いる材料が限られる。つまり、電位窓の広さという点において改善の余地がある。
【0011】
そこで、安全性に優れ、電位窓が広いフッ化物イオン電池用電解液が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るフッ化物イオン電池用電解液の特徴構成は、2種以上のアルカリ金属フッ化物塩を水に溶解させた溶液である点にある。
【0013】
本願発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、フッ化物イオン電池の電解液が2種以上のアルカリ金属フッ化物塩を水に溶解させた溶液である場合に、電位窓が広くなることを見出した。これは、2種以上のアルカリ金属フッ化物塩を含有する溶液では、ハイドレートメルトが形成され、通常であれば水素結合によって集まって存在する水分子が孤立して存在し、水分子同士が水素結合によって結びついて形成される水の含有量が少なくなり、水の分解が抑制されることによると推測される。すなわち、本発明に係るフッ化物イオン電池用電解液は、水の含有量が少なく、水の分解が抑制されるため、電位窓が広くなる。また、2種以上のアルカリ金属フッ化物塩を水に溶解させた溶液では、溶媒として水を用いているため引火しにくく、電気化学反応の過程でフッ化水素も発生しにくい。つまり、本発明のフッ化物イオン電池用電解液は、安全性に優れ、電位窓も広くなる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例4の電解液についての電位窓測定の結果を示すグラフである。
図2】実施例1の電解液についての電位窓測定の結果を示すグラフである。
図3】実施例9の電解液についての電位窓測定の結果を示すグラフである。
図4】比較例1の電解液についての電位窓測定の結果を示すグラフである。
図5】比較例2の電解液についての電位窓測定の結果を示すグラフである。
図6】実施例4の電解液を用いたハーフセルによる充放電試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係るフッ化物イオン電池用電解液の実施形態について説明する。なお、以下に記載される実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこれらの実施形態にのみ限定するものではない。したがって、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、様々な形態で実施することができる。
【0016】
本発明のフッ化物イオン電池用電解液は、2種以上のアルカリ金属フッ化物塩を水に溶解させた溶液である。
【0017】
本発明のフッ化物イオン電池用電解液では、2種以上のアルカリ金属フッ化物塩と水とからなるハイドレートメルト(常温溶融水和物)が形成されている。具体的に、フッ化物イオン電池用電解液においては、2種以上のアルカリ金属フッ化物塩を混合し水に溶解させていることで、水分子とアルカリ金属イオンとが相互作用しながら常温で安定な液体となったハイドレートメルトが形成されている。一例として、アルカリ金属フッ化物塩としてフッ化セシウム(CsF)及びフッ化ルビジウム(RbF)の2種を水に溶解させた場合においては、水分子及びフッ素イオンがアルカリ金属イオンに配位したハイドレートメルトが形成されている。
【0018】
ここで、水は有機溶媒と比較して、電圧耐性が低く、低電圧でも水素と酸素とに電気分解されてしまうため、電解液中に水が存在すると電位窓が狭くなりやすい。しかしながら、本発明のフッ化物イオン電池用電解液では、ハイドレートメルトが形成されており、水分子が孤立して存在する。そのため、水分子同士が水素結合によって結びついて形成された水の含有量が少ない。よって、本発明のフッ化物イオン電池用電解液では、水の分解が抑制され、電位窓が広くなる。
【0019】
アルカリ金属フッ化物塩としては、特に制限されず、2種以上のアルカリ金属とフッ素とを含む複合塩であってもよい。なお、本願発明者の知見によれば、20℃での水への溶解度(g/100g-HO)が100以上(好ましくは200以上、より好ましくは300以上)である2種以上のアルカリ金属フッ化物塩を用いることで、ハイドレートメルトが形成されやすく、且つ、電解液として使用した際に発電反応が生じやすい。特に、アルカリ金属フッ化物としてフッ化セシウム(溶解度:322)及びフッ化ルビジウム(溶解度:300)を用いることで、フッ化物イオン電池用電解液は、電位窓が広く、充放電特性も優れたものとなる。
【0020】
本発明のフッ化物イオン電池用電解液は、アルカリ金属フッ化物塩の質量モル濃度が30mol/kg以上であることが好ましく、40mol/kg以上であることがより好ましく、45mol/kg以上であることが更に好ましい。本発明のフッ化物イオン電池用電解液においては、上記のようにハイドレートメルトが形成される。そのため、アルカリ金属フッ化物塩の質量モル濃度が高ければ、水の含有量が少ないままアルカリ金属フッ化物塩の含有量が多くなる。つまり、アルカリ金属フッ化物塩の質量モル濃度が高ければ、電位窓が広くなり、本発明のフッ化物イオン電池用電解液を用いた電池の充放電サイクル性能なども高くなる。したがって、アルカリ金属フッ化物塩の濃度は可能な限り高い方がよい。
【0021】
本発明のフッ化物イオン電池用電解液がアルカリ金属フッ化物塩としてCsF及びRbFの2種を水に溶解させた溶液である場合、CsFとRbFとのモル比は、9:1~1:9であることが好ましい。この範囲であると、ハイドレートメルトが形成され、水の含有量が少なくなり、電位窓が広くなる。なお、水の含有量をより少なくし、電位窓を広げるという観点からすれば、CsFとRbFとのモル比は、7:3~4:6であることがより好ましく、6:4であることが更に好ましい。アルカリ金属フッ化物塩の質量モル濃度は、CsFとRbFとのモル比が7:3~4:6であれば、40mol/kg以上となり、6:4であれば45mol/kg以上となる。そのため、水の含有量は、CsFとRbFとのモル比を7:3~4:6とすればより少なくなり、6:4とすれば更に少なくなり、電位窓が広くなる。なお、本明細書において、数値範囲を「X~Y」と表現する場合、X以上Y以下を意味する。
【0022】
例えば、アルカリ金属フッ化物塩としてフッ化セシウム及びフッ化ルビジウムを用いた場合の室温(25℃)における電位窓は、CsFとRbFとのモル比を9:1とした場合には3.0V程度、1:9とした場合には2.81V程度であるのに対し、6:4とした場合には3.5V程度にまで広がる。
【0023】
本発明のフッ化物イオン電池用電解液は、従来からフッ化物イオン電池に使用可能な電解質を含んでいてもよい。ただし、安全性や電解窓の広さ、容量などの観点からすれば、従来の電解質の含有量は極力少ないことが好ましく、例えば、0~1mol/kgが好ましく、0~0.1mol/kgであることがより好ましい。なお、従来の電解質とは、例えば、TEAFなどである。
【0024】
本発明のフッ化物イオン電池用電解液は、例えば、大気中において、所定量のフッ化セシウム及びフッ化ルビジウムと所定量の水とを混合し、超音波処理を施し、所定温度(例えば40℃)で撹拌しながら所定時間(例えば4~5日)置くことで作製できる。
【0025】
このような本発明のフッ化物イオン電池用電解液は、電気化学反応の過程で遊離したフッ化水素が発生しにくく、溶媒として水を使用しているため引火しにくく安全性に優れる。また、本発明のフッ化物イオン電池用電解液は、電位窓が広いため、電極活物質に使用可能な材料の種類が増え、高容量のフッ化物イオン電池を実現できる。更に、本発明のフッ化物イオン電池用電解液を用いれば、優れた充放電特性を有し、室温で動作可能なフッ化物イオン電池を実現できる。
【0026】
本発明のフッ化物イオン電池用電解液は、例えば、電池ケース内に、正極活物質層、負極活物質層、正極活物質層と負極活物質層との間に形成され、上記フッ化物イオン電池用電解液を含有する電解質層、正極活物質層の集電を行う正極集電体、及び負極活物質層の集電を行う負極集電体を備えたフッ化物イオン電池に用いることができる。
【0027】
上記フッ化物イオン電池の正極活物質層は、正極活物質を含有する。正極活物質は、放電時に脱フッ化する活物質を採用できる。正極活物質としては、例えば、金属単体や合金、金属酸化物、炭素材料、これらのフッ化物の他、ポリマー材料などを単独又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0028】
正極活物質に含まれる金属元素としては、例えば、銅、銀、ニッケル、コバルト、鉛、セリウム、マンガン、金、白金、ロジウム、バナジウム、オスミウム、ルテニウム、鉄、クロム、ビスマス、ニオブ、アンチモン、チタン、スズ、亜鉛などを例示できる。
【0029】
炭素材料としては、例えば、黒鉛、コークス、カーボンナノチューブなどを例示できる。
【0030】
ポリマー材料としては、例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリアセチレン、ポリチオフェンなどを例示できる。
【0031】
なお、正極活物質層は、導電材や結着材を含有していてもよい。導電材は、所望の電子伝導性を有するものであればよく、例えば、カーボンブラックなどの炭素材料を例示できる。また、結着材は、化学的、電気的に安定なものであればよく、例えば、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素系結着材を例示できる。
【0032】
上記フッ化物イオン電池の負極活物質層は、負極活物質を含有する。負極活物質は、放電時にフッ化する活物質を採用できる。負極活物質としては、例えば、金属単体や合金、金属酸化物、炭素材料、これらのフッ化物の他、ポリマー材料などを単独又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0033】
負極活物質に含まれる金属元素としては、例えば、ランタン、カルシウム、アルミニウム、ユウロピウム、リチウム、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、インジウム、バナジウム、カドミウム、クロム、鉄、亜鉛、ガリウム、チタン、ニオブ、マンガン、イッテルビウム、ジルコニウム、サマリウム、セリウム、マグネシウム、バリウム、鉛などを例示できる。
【0034】
なお、炭素材料やポリマー材料については、上記正極活物質層に記載した材料と同様の材料を用いることができる。
【0035】
また、負極活物質層は、正極活物質層と同様に、導電材や結着材を含有していてもよい。導電材や結着材は、正極活物質層に記載した材料と同様の材料を用いることができる。
【0036】
〔実施例〕
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらの実施例の記載に限定されるものではない。
【0037】
以下の実施例及び比較例において、アルカリ金属フッ化物塩としてはフッ化セシウム(シグマアルドリッチ社製)及びフッ化ルビジウム(シグマアルドリッチ社製)を使用した。
【0038】
まず、実施例1~9並びに比較例1及び2に係る電解液をそれぞれ以下のように作製した。すなわち、第1に、アルゴングローブボックス中でフッ化セシウム及びフッ化ルビジウム(比較例ではフッ化セシウム及びフッ化ルビジウムのいずれか一方のみ)を所定量秤量し、バイアル瓶に入れる。第2に、バイアル瓶をアルゴングローブボックスから取り出し、大気中で所定量の水を加える。第3に、バイアル瓶に対して超音波処理を15分間行う。第4に、40℃で撹拌しながら4~5日置く。
【0039】
〔実施例1〕
アルカリ金属フッ化物塩1モル当たりCsFが0.9モル、RbFが0.1モル含まれる電解液を得た。
【0040】
〔実施例2〕
アルカリ金属フッ化物塩1モル当たりCsFが0.8モル、RbFが0.2モル含まれる電解液を得た。
【0041】
〔実施例3〕
アルカリ金属フッ化物塩1モル当たりCsFが0.7モル、RbFが0.3モル含まれる電解液を得た。
【0042】
〔実施例4〕
アルカリ金属フッ化物塩1モル当たりCsFが0.6モル、RbFが0.4モル含まれる電解液を得た。
【0043】
〔実施例5〕
アルカリ金属フッ化物塩1モル当たりCsFが0.5モル、RbFが0.5モル含まれる電解液を得た。
【0044】
〔実施例6〕
アルカリ金属フッ化物塩1モル当たりCsFが0.4モル、RbFが0.6モル含まれる電解液を得た。
【0045】
〔実施例7〕
アルカリ金属フッ化物塩1モル当たりCsFが0.3モル、RbFが0.7モル含まれる電解液を得た。
【0046】
〔実施例8〕
アルカリ金属フッ化物塩1モル当たりCsFが0.2モル、RbFが0.8モル含まれる電解液を得た。
【0047】
〔実施例9〕
アルカリ金属フッ化物塩1モル当たりCsFが0.1モル、RbFが0.9モル含まれる電解液を得た。
【0048】
〔比較例1〕
CsFのみを含む電解液を得た。
【0049】
〔比較例2〕
RbFのみを含む電解液を得た。
【0050】
表1には、実施例及び比較例の電解液に関するアルカリ金属フッ化物塩1モルあたりに含まれるフッ化セシウムとフッ化ルビジウムとの比(CsF:RbF)及びアルカリ金属フッ化物塩の質量モル濃度をまとめた。なお、各電解液の質量モル濃度は、各電解液の作製時に使用したフッ化セシウム、フッ化ルビジウム及び水の量を基に算出した。
【0051】
【表1】
【0052】
表1に示すように、フッ化セシウム及びフッ化ルビジウムを使用した場合、質量モル濃度が高くなる傾向にある。特に、CsF:RbFが0.7:0.3~0.4:0.6である実施例3~実施例6では、質量モル濃度が40mol/kg以上となっている。中でもCsF:RbFが0.6:0.4である実施例4では、質量モル濃度が45.2mol/kgとなっており、フッ化セシウム又はフッ化ルビジウムを単独で使用した比較例1及び2と比べ、質量モル濃度が著しく高くなっている。
【0053】
〔試験例1:電位窓の測定〕
作用極(正極)としての直径3mmのグラッシーカーボン電極(株式会社イーシーフロンティア製)、対極としての白金線、参照電極としての銀/塩化銀電極を、実施例1、4及び9並びに比較例1及び2の電解液に浸漬し、電位窓測定用セルを作製した。
【0054】
作製した電位窓測定用セルに対して、ポテンショスタット(北斗電工株式会社製)を使用して、室温(25℃)下において、作用電極の電位を対極に対して一定速度(掃引速度0.5mV/秒)で掃引して流れる電流を測定した(LSV測定)。そして、電流が一定値(0mA)に達したときの電位を極限酸化還元電位とすることで、電位窓を決定した。
【0055】
図1図5はその結果を示すグラフである。図1に示すように、実施例4の電解液では電位窓が3.5Vであった。また、図2及び図3に示すように、実施例1の電解液では電池窓が3.0Vであり、実施例9の電解液では電位窓が2.81Vであった。これに対し、図4及び図5に示すように、比較例1及び2では電位窓がそれぞれ2.34V及び2.80Vであった。この結果から、1種のアルカリ金属フッ化物塩(CsF又はRbF)のみを含む場合よりも2種のアルカリ金属フッ化物塩(CsF及びRbF)を含む場合の方が電位窓が著しく広がることがわかる。また、2種のアルカリ金属フッ化物塩を含む場合であっても、モル比には電位窓が最も広くなる最適値が存在することがわかる。
【0056】
〔試験例2:充放電試験〕
充放電試験では、三極式電解セルである電気化学測定用VC-4ボルタンメトリー用セル(ビー・エー・エス株式会社製)を以下のように組み立てて使用した。
【0057】
平均粒子径100nmの銅ナノ粒子(正極活物質)と、アセチレンブラックと、ポリテトラフルオロエチレン粉末とを、正極活物質の含有量が85質量%、アセチレンブラックの含有量が10質量%、ポリテトラフルオロエチレンの含有量が5質量%となるように混合した。得られた混合物を、ポンチを用いて直径8mmとなるように成型して正極を得た。
【0058】
ついで、正極より大きいサイズのチタンメッシュ(100メッシュ)を正極集電体として用いて、上記正極を積層させ、実施例4の電解液に浸漬させた。
【0059】
また、負極活物質としてフッ化銅(CuF)を使用し、上記正極及び正極集電体と同様に、負極及び負極集電体も作製し、負極集電体上に負極を積層させ、実施例4の電解液に浸漬させた。
【0060】
参照電極としての銀/塩化銀電極を実施例4の電解液に浸漬させた。
【0061】
上記のように組み立てた三極式電解セルによる充放電試験を行った。
【0062】
充放電条件は、銀/塩化銀電極に対して、-1.0~+4.0Vとし、充放電レートは、充電モード及び放電モードいずれも0.01Cとし、測定温度は室温(30℃)とし、充放電試験を3サイクル行った。
【0063】
図6は充放電試験の結果を示すグラフである。図6に示すように、実施例4の電解液は、室温化において、充放電効率(クーロン効率)が良好であり、優れた充放電特性を有することがわかる。
【0064】
上述した実施形態では、下記の構成が想起される。
(1)2種以上のアルカリ金属フッ化物塩を水に溶解させた溶液であるフッ化物イオン電池用電解液。
【0065】
本願発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、フッ化物イオン電池の電解液が2種以上のアルカリ金属フッ化物塩を水に溶解させた溶液である場合に、電位窓が広くなることを見出した。これは、2種以上のアルカリ金属フッ化物塩を含有する溶液では、ハイドレートメルトが形成され、通常であれば水素結合によって集まって存在する水分子が孤立して存在し、水分子同士が水素結合によって結びついて形成される水の含有量が少なくなり、水の分解が抑制されることによると推測される。すなわち、本発明に係るフッ化物イオン電池用電解液は、水の含有量が少なく、水の分解が抑制されるため、電位窓が広くなる。また、2種以上のアルカリ金属フッ化物塩を水に溶解させた溶液では、溶媒として水を用いているため引火しにくく、電気化学反応の過程でフッ化水素も発生しにくい。つまり、本発明のフッ化物イオン電池用電解液は、安全性に優れ、電位窓も広くなる。
【0066】
(2)(1)のフッ化物イオン電池用電解液は、アルカリ金属フッ化物塩の質量モル濃度が30mol/kg以上であると好適である。
【0067】
本構成によれば、フッ化物イオン電池用電解液は、水の含有量が少ないままアルカリ金属フッ化物塩の含有量が多くなるため、電位窓が広くなり、充放電サイクル性能などの電池性能も高くなる。
【0068】
(3)(1)又は(2)のフッ化物イオン電池用電解液は、アルカリ金属フッ化物塩がフッ化セシウム及びフッ化ルビジウムであると好適である。
【0069】
本構成によれば、フッ化物イオン電池用電解液は、安全性に優れ、電位窓も広くなる。
【0070】
(4)(3)のフッ化物イオン電池用電解液は、フッ化セシウムとフッ化ルビジウムとのモル比が1:9~9:1であると好適である。
【0071】
本構成によれば、フッ化物イオン電池用電解液では、ハイドレートメルトが形成されており、水の含有量が少なくなるため電位窓が広くなる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、フッ化物イオン電池の電解液に利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6