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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025154162
(43)【公開日】2025-10-10
(54)【発明の名称】軽度不調のバイオマーカー
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/113 20100101AFI20251002BHJP
【FI】
C12N15/113 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024057019
(22)【出願日】2024-03-29
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「スマートバイオ産業・農業基盤技術」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(72)【発明者】
【氏名】立花 宏文
(72)【発明者】
【氏名】藤村 由紀
(72)【発明者】
【氏名】西平 順
(72)【発明者】
【氏名】山本 万里
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、生産性を低下させ得るような軽度不調のバイオマーカーを提供することである。
【解決手段】本発明は、hsa-miR-26b-3p、hsa-miR-130a-3p、hsa-miR-92a-3p、hsa-miR-423-5p、
hsa-miR-182-5p、及びhsa-let-7e-5pの組み合わせを含む、軽度不調のバイオマーカーを提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
hsa-miR-26b-3p、
hsa-miR-130a-3p、
hsa-miR-92a-3p、
hsa-miR-423-5p、
hsa-miR-182-5p、及び
hsa-let-7e-5p
の組み合わせを含む、軽度不調のバイオマーカー。
【請求項2】
hsa-miR-26b-3p、
hsa-miR-130a-3p、
hsa-miR-92a-3p、
hsa-miR-3615、
hsa-miR-4732-3p、
hsa-miR-27b-5p、
hsa-miR-148a-3p、
hsa-miR-874-3p、
hsa-miR-6842-3p、
hsa-miR-142-3p、
hsa-miR-127-3p、
hsa-miR-454-5p、
hsa-miR-374a-3p、
hsa-miR-1301-3p、
hsa-miR-431-5p、
hsa-miR-4446-3p、
hsa-miR-194-5p、
hsa-miR-885-5p、
hsa-miR-92b-3p、
hsa-miR-6511a-3p、
hsa-miR-1307-5p、
hsa-miR-1180-3p、
hsa-miR-374b-5p、
hsa-miR-142-5p、
hsa-miR-16-5p、
hsa-miR-20b-5p、
hsa-miR-378a-3p、
hsa-miR-99b-5p、
hsa-miR-18a-5p、
hsa-miR-6741-3p、
hsa-miR-301b-3p、及び
hsa-miR-744-5p
からなる群から選択される1種以上を含む、軽度不調のバイオマーカー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽度不調のバイオマーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康長寿社会の実現に向け、疾患の治療や予防だけではなく、疾患に至る前の段階での不調の早期発見やケアが重要視されている。
【0003】
疾患に至る前の段階の不調を改善するための組成物等については、各種提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-302577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
他方で、本発明者らは、疾患に至る前の段階のうち、生産性を低下させ得るような、個人が主観的に感ずる軽度な心身不調を「軽度不調」として定義を整理した。
しかし、このような軽度不調に関するバイオマーカーは確立されていない。
【0006】
本発明は以上の実情に鑑みてなされたものであり、生産性を低下させ得るような軽度不調のバイオマーカーの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、特定のmiRNAをマーカーとすることで上記課題を解決できる点を見出し、本発明を完成させた。具体的に、本発明は以下を提供する。
【0008】
(1)
hsa-miR-26b-3p、
hsa-miR-130a-3p、
hsa-miR-92a-3p、
hsa-miR-423-5p、
hsa-miR-182-5p、及び
hsa-let-7e-5p
の組み合わせを含む、軽度不調のバイオマーカー。
【0009】
(2)
hsa-miR-26b-3p、
hsa-miR-130a-3p、
hsa-miR-92a-3p、
hsa-miR-3615、
hsa-miR-4732-3p、
hsa-miR-27b-5p、
hsa-miR-148a-3p、
hsa-miR-874-3p、
hsa-miR-6842-3p、
hsa-miR-142-3p、
hsa-miR-127-3p、
hsa-miR-454-5p、
hsa-miR-374a-3p、
hsa-miR-1301-3p、
hsa-miR-431-5p、
hsa-miR-4446-3p、
hsa-miR-194-5p、
hsa-miR-885-5p、
hsa-miR-92b-3p、
hsa-miR-6511a-3p、
hsa-miR-1307-5p、
hsa-miR-1180-3p、
hsa-miR-374b-5p、
hsa-miR-142-5p、
hsa-miR-16-5p、
hsa-miR-20b-5p、
hsa-miR-378a-3p、
hsa-miR-99b-5p、
hsa-miR-18a-5p、
hsa-miR-6741-3p、
hsa-miR-301b-3p、及び
hsa-miR-744-5p
からなる群から選択される1種以上を含む、軽度不調のバイオマーカー。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、生産性を低下させ得るような軽度不調のバイオマーカーが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施形態を詳細に説明するが、本発明はこれに特に限定されない。
【0012】
(1)軽度不調のバイオマーカー
本発明に係る軽度不調のバイオマーカーは、後述のとおり、2態様のバイオマーカー群を包含する。以下、これらのバイオマーカー群を、まとめて「本発明のバイオマーカー」ともいう。
2態様のバイオマーカー群は、いずれも、miRNAバイオマーカーから構成され、軽度不調に関連するマーカー群として、本発明者らが新規に見出したものである。
【0013】
本発明において「軽度不調」とは、疾患に至る前の段階のうち、個人が主観的に感ずる軽度な心身不調の一態様である。
このような軽度不調は、日常生活や労働の遂行に要する気力や集中等を損ない、生産性(日常生活や労働による成果量等)を低下させ得る。
【0014】
「軽度不調」とは、より具体的には、ストレスの程度が低度~中度であるものの高度には至っていない状態や、その状態から派生する各種症状(心理的ストレス反応、イライラ感、抑うつ感、疲労感、身体愁訴、活気の低下等)のうち1つ以上を有する状態を包含する。
【0015】
軽度不調の有無や程度は、「職業性ストレス簡易調査票」(加藤正明、労働省、平成11年度「作業関連疾患の予防に関する研究」、労働の場におけるストレス及びその健康影響に関する研究報告書、2000)によって特定され得る。
例えば、該調査票に規定する主観的ストレス評価である「領域B」の29項目に対する被験者の回答に基づき判定できる。
【0016】
軽度不調の有無や程度の具体的評価方法としては、実施例に示した方法を採用できる。
【0017】
本発明において、「マイクロRNA(miRNA)」とは、mRNAの翻訳抑制に関与する15~25塩基の非コーディングRNAを包含する。
miRNAは、通常、ヘアピン様構造のRNA前駆体として転写され、RNase III切断活性を有するdsRNA切断酵素により切断された後、RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)に取り込まれることで生成される。
【0018】
(1-1)第1の態様に係るバイオマーカー群
第1の態様に係るバイオマーカー群は、以下の6種類のバイオマーカーの組み合わせを全て含む。
hsa-miR-26b-3p
hsa-miR-130a-3p
hsa-miR-92a-3p
hsa-miR-423-5p
hsa-miR-182-5p
hsa-let-7e-5p
【0019】
本発明者らは、上記6種類のバイオマーカー全てを検出対象とすることで、個体の軽度不調の有無や進行度を精度高く判定できることを見出した。
軽度不調の症状は、例えば、うつの症状と類似している部分もあるものの、第1の態様に係るバイオマーカー群によれば、軽度不調とうつとの判別を実現し得る。
【0020】
第1の態様に係るバイオマーカー群を使用する本発明の一態様において、バイオマーカーの組み合わせは、上記6種類のバイオマーカーを全て含んでいれば特に限定されず、上記6種類以外のバイオマーカーをさらに組み合わせてもよく、組み合わせなくてもよい。
上記6種類以外のバイオマーカーとしては、例えば、後述する第2の態様に係るバイオマーカー群に含まれる1種以上のバイオマーカーが挙げられる。
【0021】
(1-2)第2の態様に係るバイオマーカー群
第2の態様に係るバイオマーカー群は、以下の32種類のバイオマーカーからなる群から選択される1種以上を含む。下記バイオマーカーは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
hsa-miR-26b-3p
hsa-miR-130a-3p
hsa-miR-92a-3p
hsa-miR-3615
hsa-miR-4732-3p
hsa-miR-27b-5p
hsa-miR-148a-3p
hsa-miR-874-3p
hsa-miR-6842-3p
hsa-miR-142-3p
hsa-miR-127-3p
hsa-miR-454-5p
hsa-miR-374a-3p
hsa-miR-1301-3p
hsa-miR-431-5p
hsa-miR-4446-3p
hsa-miR-194-5p
hsa-miR-885-5p
hsa-miR-92b-3p
hsa-miR-6511a-3p
hsa-miR-1307-5p
hsa-miR-1180-3p
hsa-miR-374b-5p
hsa-miR-142-5p
hsa-miR-16-5p
hsa-miR-20b-5p
hsa-miR-378a-3p
hsa-miR-99b-5p
hsa-miR-18a-5p
hsa-miR-6741-3p
hsa-miR-301b-3p
hsa-miR-744-5p
【0022】
本発明者らは、上記32種類のバイオマーカーのいずれか1種以上を検出対象とすることで、個体の軽度不調を精度高く判定できることを見出した。
上記バイオマーカーは、いずれも、気分障害(うつ等)との関連が報告されていない。そのため、第2の態様に係るバイオマーカー群によれば、軽度不調と、軽度不調に症状が類似した気分障害(うつ等)との判別を実現し得る。
【0023】
第2の態様に係るバイオマーカー群を使用する本発明の一態様において、上記32種類のバイオマーカーのいずれか1種以上を使用すれば特に限定されず、上記32種類以外のバイオマーカーをさらに組み合わせてもよく、組み合わせなくてもよい。
【0024】
(2)バイオマーカーの検出
任意の検体において、本発明のバイオマーカーを検出することで、該検体が由来する個体における軽度不調の有無や進行度を精度高く判定できる。
【0025】
本発明において、「バイオマーカーの検出」とは、バイオマーカーの発現量(例えば、経時的発現量)の変動(増加、減少)や、バイオマーカーの発現の有無を検出することを包含する。
【0026】
検体において、第1の態様に係るバイオマーカー群(6種類のバイオマーカー)が全て検出されれば、該検体が由来する個体は軽度不調であると判定できる。
【0027】
検体において、第2の態様に係るバイオマーカー群(32種類のバイオマーカー)のうち1種以上が検出されれば、該検体が由来する個体は軽度不調であると判定できる。
【0028】
本発明において、「検体」とは、任意の生体に由来する試料やその抽出物を包含する。
試料としては、例えば、体液(血液、血清、血漿、尿、唾液、汗、脳脊髄液、組織浸出液等)、組織(脳組織、神経組織、皮膚組織等)、細胞(脳細胞、神経細胞等)、便、毛髪等が挙げられる。
試料の抽出物としては、例えば、核酸(RNA、DNA等)が挙げられる。
上記のうち、調製や扱いの容易性から、血液が好ましく、血漿がより好ましい。
【0029】
本発明において、「検体が由来する個体」とは、検体を採取した対象である任意の生物を包含する。
具体的な生物としては、ヒト、ヒト以外の哺乳類(サル、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ)、げっ歯類(マウス、ラット等)等が挙げられる。
【0030】
バイオマーカーの検出方法としては特に限定されず、検体中に本発明のバイオマーカーが存在するかどうかや、存在する場合にはその発現量を特定できる任意の方法を包含する。
具体的な方法としては、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法やマイクロアレイ法等が挙げられる。
【0031】
検体における本発明のバイオマーカーの発現の有無やその発現量等について、例えば、該検体における結果と、対照(例えば、健常者の検体)における結果と、を比較することで、検体が由来する個体の軽度不調の有無や進行度を判定できる。
【0032】
(3)本発明のバイオマーカーの応用
本発明のバイオマーカーは、軽度不調のバイオマーカーとして機能するため、その検出による個体の軽度不調の判定だけではなく、以下の用途にも応用できる。
【0033】
(3-1)個体の軽度不調を診断する方法
本発明は、個体から採取した検体における本発明のバイオマーカーを検出する工程と、その結果に基づき個体の軽度不調を診断する工程とを含む、軽度不調を診断する方法を包含する。
【0034】
(3-2)軽度不調の治療物質のスクリーニング方法
本発明は、任意の候補物質を動物に投与する工程と、該投与による本発明のバイオマーカー量の変化を指標として、候補物質を選抜する工程と、を有する軽度不調の治療物質のスクリーニング方法を包含する。
【0035】
例えば、軽度不調に対して負(又は正)に相関するバイオマーカーについて、該バイオマーカー量が増加(又は低下)する候補物質を、軽度不調の治療物質として選抜し得る。
【0036】
スクリーニング方法において用いられる動物は、ヒト以外であれば特に限定されない。
【実施例0037】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0038】
以下の方法で、被験者への介入試験を行い、その前後におけるmiRNAの発現量に基づき、軽度不調と強く関連するmiRNAを見出した。
【0039】
(1)「職業性ストレス簡易調査票」による軽度不調の評価
本例の被験者に対し、後述する介入試験の前後の各時点で、「職業性簡易ストレス調査票」を用いた軽度不調の評価を行った。その方法の詳細は以下のとおりである。
【0040】
「職業性ストレス簡易調査票」は、日本国労働省の平成11年度「作業関連疾患の予防に関する研究班」ストレス測定研究班によるグループが作成した調査票である(加藤正明、労働省、平成11年度「作業関連疾患の予防に関する研究」、労働の場におけるストレス及びその健康影響に関する研究報告書、2000)。
本例では、「職業性ストレス簡易調査票」の「領域B」の質問票を抜粋して用いた。この質問票には、メンタルヘルス等に関連する29個の設問が含まれ、その回答から、各評価項目がスコア化される。
【0041】
調査票を用いた評価項目は下記のとおりである。
活気:調査票のNo.1~3
イライラ感:調査票のNo.4~6
疲労感:調査票のNo.7~9
不安感:調査票のNo.10~12
抑うつ感:調査票のNo.13~18
身体愁訴:調査票のNo.19~29
【0042】
なお、No.1~3における「1」及び「2」、並びに、No.4~18における「3」及び「4」の回答数を「心理的ストレス」として扱った。
No.19~29における「3」及び「4」の回答数を「身体的ストレス」として扱った。
【0043】
本例では、調査票における質問に対する回答の点数を足し合わせたものを、各評価項目のスコアとしてデータ解析に供した。
【0044】
(2)介入試験
各種果汁や野菜エキスに含まれる機能性成分には、軽度不調を和らげる効果が期待されている。そのため、該機能性成分の摂取前後のバイオマーカー発現量と、軽度不調の各症状との相関を特定することで、軽度不調に関連するバイオマーカーを特定できる可能性がある。
そこで、各種果汁や野菜エキスを用いた3種の介入試験を行い、介入前後の各時点で被験者(全63名)から試料を採取し、データ解析を行った。
【0045】
なお、被験者は、無作為にプラセボ群(果汁や野菜エキスを含まない試料の投与群)、試験群(果汁や野菜エキスを含む試料の投与群)の2群に分け、各試料を12週間継続摂取させた。
【0046】
介入試験開始前後の各時点で、被験者から血漿を採取し、市販のキットを用いてmiRNAを抽出した。
各介入試験で取得したmiRNAを用いて、「Truseq Small RNA kit」(Illumina、California、USA)によりPCRを行った。得られたPCR産物について電気泳動によるサイズ選別後、ライブラリーを取得した。
次いで、「MiniSeq」(Illumina、California、USA)による次世代シーケンシングを行い、得られた各サンプルの生リード数をDESeq法にて解析した後、各サンプルの総リード数を全て100万になるように補正した。
上記操作によって得られたデータセットを、以下の各データ解析に供した。
【0047】
(3)データ解析-1:単相関解析
軽度不調の各評価項目(活気、イライラ感、疲労感、不安感、抑うつ感、心理的ストレス、身体愁訴、又は身体的ストレス)のスコアと、介入前後で半数以上の試料で検知された71種類の血中miRNAの発現レベル(100万リード数あたりの各種miRNAのリード数)との相関関係をピアソン積率相関係数の算出によって評価した。
【0048】
評価結果に基づき、相関係数が|0.200|以上であるmiRNAを以下の30種類を選択した。
hsa-miR-92a-3p
hsa-miR-484
hsa-miR-4446-3p
hsa-miR-378a-3p
hsa-miR-26b-3p
hsa-miR-182-5p
hsa-miR-151a-5p
hsa-miR-127-3p
hsa-miR-99b-5p
hsa-miR-885-5p
hsa-miR-454-5p
hsa-miR-431-5p
hsa-miR-374a-3p
hsa-miR-29a-3p
hsa-miR-128-3p
hsa-let-7f-5p
hsa-let-7e-5p
hsa-let-7d-3p
hsa-let-7a-5p
hsa-miR-6741-3p
hsa-miR-301b-3p
hsa-miR-18a-5p
hsa-miR-744-5p
hsa-miR-423-5p
hsa-miR-320a
hsa-miR-1301-3p
hsa-miR-4433b-5p
hsa-miR-194-5p
hsa-miR-144-5p
hsa-miR-130a-3p
【0049】
上記の30種類のmiRNAについて、下記を全て満たす17種類のmiRNAを選別した(表1、数値は相関係数を示す。)。
・評価項目のうち「不安感」及び「抑うつ感」以外で統計的差異が認められた。
・うつに関連するmiRNAとしての報告例が見出せなかった。
【0050】
上記17種類のmiRNAは以下のとおりである。
hsa-miR-92a-3p
hsa-miR-4446-3p
hsa-miR-378a-3p
hsa-miR-26b-3p
hsa-miR-127-3p
hsa-miR-99b-5p
hsa-miR-885-5p
hsa-miR-454-5p
hsa-miR-431-5p
hsa-miR-374a-3p
hsa-miR-6741-3p
hsa-miR-301b-3p
hsa-miR-18a-5p
hsa-miR-744-5p
hsa-miR-1301-3p
hsa-miR-194-5p
hsa-miR-130a-3p
【0051】
【表1】
【0052】
(4)データ解析-2:多変量回帰分析及びMann-WhitneyのU検定による統合解析
以下の方法で、多変量回帰分析を行い、その結果に基づくMann-WhitneyのU検定を行った。
【0053】
(4-1)多変量回帰分析
まず、軽度不調の各評価項目(活気、イライラ感、疲労感、不安感、抑うつ感、及び身体愁訴)のスコアを目的変数として設定した。
介入前において半数以上の試料で検出された193種類のmiRNAの発現量(リード数)を説明変数として設定した。
上記の目的変数及び説明変数に基づき、多変量解析ソフトウェアSIMCA(Umetrics, Umea, Sweden)を用いて、直行型部分最小二乗法回帰分析(OPLS-R解析:Orthogonal Partial Least Squares-Regression)を行った。なお、回帰モデルの統計的有意性が認められ、かつ、決定係数であるR値が0.5以上であるモデルを、各種評価項目を予測可能なモデルとして設定した。
その結果、評価項目のうち「不安感」及び「抑うつ感」のモデル構築に成功し、その構築に大きく寄与していることを示すVIP(Variable Importance of Projection)の値が1.0以上であるmiRNAを複数選択した。
【0054】
次いで、選択したmiRNAのうち、「不安感」及び「抑うつ感」のスコアが低い群と高い群との間の統計的差異を評価するために、スコアに基づき、集団を3分位法で分割した。具体的には、下位(Low)群及び上位(High)群のn数が、全体(n=63)の3分の1(n=21)以上となるように調整した。
あわせて、同じ集団について、2分位法での分割も行い、Low群及びHigh群に調整した。
【0055】
(4-2)Mann-WhitneyのU検定
各評価項目について、各miRNAの発現量(リード数)に対する、Low群とHigh群との間の統計的差異を、Mann-WhitneyのU検定(GraphPad, Inc., San Diego, CA, USA)により評価した。
3分位法のLow群とHigh群との間で統計的差異が認められたmiRNA、及び、2分位法のLow群とHigh群との間で統計的差異が認められたmiRNAを特定し、3分位法で分割した群、及び2分位法で分割した群の両方で差異が認められたmiRNAを、「不安感」及び「抑うつ感」のそれぞれについて複数選択した。
【0056】
上記miRNAから、「不安感」及び「抑うつ感」の両者で重複する、11種類のmiRNAを選択した(表2、括弧内の数値はP値を示す。-:P≧0.05、*:P<0.05、**:P<0.01、***:P<0.001)。
【0057】
上記11種類のmiRNAは以下のとおりである。
hsa-miR-92b-3p
hsa-miR-423-5p
hsa-miR-6511a-3p
hsa-miR-92a-3p
hsa-let-7e-5p
hsa-let-7c-5p
hsa-miR-451a
hsa-miR-1307-5p
hsa-miR-26b-3p
hsa-miR-130a-3p
hsa-miR-182-5p
【0058】
上記の11種類のmiRNAには、一部、うつとの関連が報告されたmiRNAが含まれていることがわかった。
軽度不調の症状は、うつの症状と類似している部分もあるものの、本例では、軽度不調とうつとの判別を目指すべく、うつとの関連が報告されていない下記6種のmiRNAを、有力な軽度不調マーカーとして着目した(表2中、miRNAの名称の末尾に星印が付いたもの)。
hsa-miR-92b-3p
hsa-miR-6511a-3p
hsa-miR-92a-3p
hsa-miR-1307-5p
hsa-miR-26b-3p
hsa-miR-130a-3p
【0059】
【表2】
【0060】
(5)データ解析-3:Mann-WhitneyのU検定
上記「データ解析-2」と同様の介入前試料を用いて、以下の方法により、「不安感」及び「抑うつ感」以外の評価項目においても統計的差異を示すかどうかを検討した。
【0061】
多変量回帰分析(OPLS-R解析)を行わずに、各評価項目(活気、イライラ感、疲労感、不安感、抑うつ感、身体愁訴)ごとに、3分位法又は2分位法により、スコアに基づき下位(Low)群及び上位(High)群に分けた。
次いで、193種類のmiRNAの発現量(リード数)に対する両群間の統計的差異をMann-WhitneyのU検定により評価した。
【0062】
評価項目ごとに、3分位法で分割した群、及び2分位法で分割した群の両方で差異が認められた以下の38種類のmiRNAを選択した。
hsa-miR-1180-3p
hsa-miR-139-5p
hsa-miR-17-5p
hsa-miR-27b-5p
hsa-miR-30a-5p
hsa-miR-3615
hsa-miR-874-3p
hsa-let-7f-5p
hsa-miR-107
hsa-miR-142-3p
hsa-miR-148a-3p
hsa-miR-19a-3p
hsa-miR-19b-3p
hsa-miR-4732-3p
hsa-miR-6741-3p
hsa-miR-6842-3p
hsa-let-7c-5p
hsa-let-7e-5p
hsa-miR-1307-5p
hsa-miR-130a-5p
hsa-miR-205-5p
hsa-miR-26b-3p
hsa-miR-375
hsa-miR-378a-3p
hsa-miR-423-5p
hsa-miR-451a
hsa-miR-502-3p
hsa-miR-627-5p
hsa-miR-6511a-3p
hsa-miR-92a-3p
hsa-miR-92b-3p
hsa-miR-181b-5p
hsa-miR-182-5p
hsa-miR-142-5p
hsa-miR-16-5p
hsa-miR-186-5p
hsa-miR-20b-5p
hsa-miR-374b-5p
【0063】
上記の38種類のmiRNAについて、下記を全て満たす14種類のmiRNAを選別した。
・評価項目のうち「不安感」及び「抑うつ感」以外で統計的差異が認められた。
・うつに関連するmiRNAとしての報告例が見出せなかった。
【0064】
上記14種類のmiRNAは以下のとおりである。
hsa-miR-1180-3p
hsa-miR-27b-5p
hsa-miR-3615
hsa-miR-874-3p
hsa-miR-142-3p
hsa-miR-148a-3p
hsa-miR-4732-3p
hsa-miR-6741-3p
hsa-miR-6842-3p
hsa-miR-1307-5p
hsa-miR-142-5p
hsa-miR-16-5p
hsa-miR-20b-5p
hsa-miR-374b-5p
【0065】
(6)データ解析-4:バイオマーカー候補miRNAの特定、及びそれらの組み合わせ解析
以下の方法により、上記「データ解析-1」乃至「データ解析-3」の結果に基づき、軽度不調のバイオマーカーの候補となるmiRNAを特定すると共に、組み合わせ解析を行った。
【0066】
まず、上記「データ解析-1」乃至「データ解析-3」の結果に基づき、「選別前のmiRNA(データ解析-1:30種、データ解析-2:11種、データ解析-3:38種)」のうち、全ての解析結果で重複する6種類のmiRNAを軽度不調のバイオマーカーの候補とした。
上記6種類のmiRNAは以下のとおりである。
hsa-miR-92a-3p
hsa-miR-26b-3p
hsa-miR-182-5p
hsa-let-7e-5p
hsa-miR-423-5p
hsa-miR-130a-3p
【0067】
上記6種類のmiRNAについて、6種類全てを組み合わせた場合に、軽度不調の有無を判定できるかを検証した。
具体的には、「SPSS Statistics 29.0.2」(IBM Japan, Tokyo, Japan)を用いて、「感度」(真陽性率)と「1-特異度」(偽陽性率)との関連を表す、「ROC(Receiver Operating Characteristic)」曲線の「AUC(Area Under Curve:曲線下面積)」値を算出した。
なお、各miRNA(組み合わせを含む)について、ロジスティック回帰分析を行った後、各評価項目のスコア(Low群及びHigh群の2分位に分けたもの)に対するROC曲線を作成した。
【0068】
その結果を表3(数値はAUC値を示す。)に示す。AUC値が高いほど、軽度不調の有無を判定できる精度が高いことを意味する。
表3に示されるとおり、6種類のmiRNAを全て組み合わせた場合、いずれの評価項目においても、各miRNA単独の時と比べて、AUC値が高かった。特に、4種類の評価項目(イライラ感、疲労感、不安感、抑うつ感)でAUC値が0.7以上であり、精度の高い軽度不調バイオマーカーとなることがわかった。
【0069】
【表3】