(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025015449
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】固体分散体用組成物、固体分散体及び固体分散体の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 47/38 20060101AFI20250123BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20250123BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20250123BHJP
A61K 31/4422 20060101ALI20250123BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20250123BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20250123BHJP
【FI】
A61K47/38
A61K47/32
A61K9/14
A61K31/4422
A61P9/12
A61K47/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024107358
(22)【出願日】2024-07-03
(31)【優先権主張番号】P 2023116398
(32)【優先日】2023-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石丸 光男
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA29
4C076AA36
4C076AA53
4C076BB01
4C076CC11
4C076DD25
4C076DD30
4C076EE08
4C076EE33
4C076FF33
4C076GG01
4C086BC25
4C086MA02
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA43
4C086MA52
4C086NA11
4C086ZA36
(57)【要約】
【課題】酸性ポリマー本来の溶解pH範囲のみならず、小腸上部の比較的低いpH条件下においても優れた溶出性を付与することができ、且つ酸性ポリマーの分解を抑制した固体分散体用組成物の提供。
【解決手段】
酸性ポリマー、塩基性物質、水難溶性薬物および有機溶媒を少なくとも含み、塩基性物質が有機溶媒に分散された固体分散体用組成物。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性ポリマー、塩基性物質、水難溶性薬物および有機溶媒を少なくとも含み、塩基性物質が有機溶媒に分散された固体分散体用組成物。
【請求項2】
前記塩基性物質の含有量が酸性ポリマーの酸性官能基に対して0.2~2.0モル当量である、請求項1に記載の固体分散体用組成物。
【請求項3】
前記塩基性物質の乾式レーザー回折法による体積基準の平均粒子径(D50)が100μm以下である、請求項1に記載の固体分散体用組成物。
【請求項4】
前記酸性ポリマーが、セルロースアセテートフタレート、セルロースアセテートトリメリテート、セルロースアセテートサクシネート、メチルセルロースフタレート、ヒドロキシメチルセルロースエチルフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートマレエート、ヒドロキシプロピルメチルセルローストリメリテート、カルボキシメチルエチルセルロース、ポリビニルブチレートフタレート、ポリビニルアルコールアセテートフタレート、メタクリル酸/エチルアクリレート共重合体、及びメタクリル酸/メタクリル酸メチル共重合体から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の固体分散体用組成物。
【請求項5】
前記有機溶媒が、アセトン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、メチルアセテート、エチルアセテート、テトラヒドロフラン及びジクロロメタンからなる群から選ばれる1種又は2種以上の混合物である請求項1に記載の固体分散体用組成物。
【請求項6】
酸性ポリマー、塩基性物質および水難溶性薬物を含む固体分散体であって、塩基性物質の表面の一部、あるいはすべてが酸性ポリマーによって被覆されている固体分散体。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載の固体分散体用組成物から前記有機溶媒を除去する工程を少なくとも含む固体分散体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸性ポリマーの溶解pH範囲のみならず、小腸上部の比較的低いpH条件下においても優れた溶出性を付与することができる、酸性ポリマー、塩基性物質、水難溶性薬物および有機溶媒を含み、塩基性物質が有機溶媒に分散された固体分散体用組成物並びにこれを用いた固体分散体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年その使用が増加傾向にある水難溶性薬物は、そのままの投与では十分なバイオアベイラビリティを示さないため、その溶解性を改善する様々な手法が提案されている。
その中の一つである固体分散技術は、水難溶性薬物を非晶質状態として高分子担体中に分子分散させることにより、水難溶性薬物の溶解性を見かけ上上昇させ、バイオアベイラビリティを改善する手法である。固体分散技術に係る手法としては、例えば、水難溶性薬物と高分子の混合物を溶媒に溶解させた後に、噴霧乾燥させるスプレードライ法あるいは析出させる共沈法が提案されている。
【0003】
固体分散体に使用される高分子の例として、セルロースの水酸基の水素原子の一部にメチル基(-CH3)、ヒドロキシプロピル基(-C3H6OH)、アセチル基(-COCH3)及びスクシニル基(-COC2H4COOH)の計4種類の置換基を導入したヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(以下、「HPMCAS」とも記載する)や、セルロースの水酸基の水素原子の一部にメチル基(-CH3)、ヒドロキシプロピル基(-C3H6OH)及びカルボキシベンゾイル基(-COC6H4COOH)の計3種類の置換基を導入したヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(以下、「HPMCP」とも記載する。)が挙げられる。これらの高分子は分子内にカルボキシル基を有しており、腸溶性を示す(以下、「酸性ポリマー」とも記載する。)。
【0004】
これらの酸性ポリマーを用いた固体分散体の例としては、例えば、難溶性薬剤とHPMCASを含むスプレードライ固体分散体が知られている(特許文献1)。
また、水難溶性薬物であるオキサゾール化合物とHPMCPを用いたスプレードライ法による固体分散体の製造例(特許文献2)等が挙げられる。
また、水難溶性薬物の溶解度を改善させた形態の薬物と中和された酸性ポリマーを含む固体分散体(特許文献3)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-116502号公報
【特許文献2】特表2009-502736号公報
【特許文献3】特表2004-534822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1~2においては、固体分散体中に酸性ポリマーが含まれるため、小腸上部での溶解が遅れることがあり、十分なバイオアベイラビリティの改善が達成されない場合がある。また、特許文献3においては、中和された酸性腸溶性ポリマーを用いることによって薬剤の濃度増大とともに溶解を速めることができることが記載されているが、中和に用いる塩基を溶解させるために水を添加する必要があり、水難溶性薬物を溶解させる必要があるスプレードライ法等には適さない。
さらに、溶解した塩基性物質は薬物や酸性ポリマーの分解を引き起こす場合がある(後述の実施例3及び比較例4参照)。更に、薬物の主要な吸収部位は小腸であり、pH5~6付近の十二指腸、pH6~7付近の空腸、pH6~7.5付近の回腸と、幅広いpH領域に対して高い溶出性を示すことが望ましいが、特許文献3にはそれらの効果について詳しく開示されていない。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、酸性ポリマー本来の溶解pH範囲のみならず、小腸上部の比較的低いpH条件下においても優れた溶出性を付与することができ、且つ酸性ポリマーの分解を抑制した固体分散体用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、酸性ポリマーと水難溶性薬物を含む有機溶媒中に塩基性物質を分散させた固体分散体用組成物を用いて製造した固体分散体は、酸性ポリマーの溶解pH範囲のみならず、小腸上部の比較的低いpH条件下においても優れた溶出性を示すとともに、酸性ポリマーの分解を抑制できることを見出し、本発明を為すに至った。
本発明によれば、以下の固体分散体用組成物、固体分散体及び固体分散体を製造する方法が提供される。
[1]
酸性ポリマー、塩基性物質、水難溶性薬物および有機溶媒を少なくとも含み、塩基性物質が有機溶媒に分散された固体分散体用組成物。
[2]
前記塩基性物質の含有量が酸性ポリマーの酸性官能基に対して0.2~2.0モル当量である、[1]に記載の固体分散体用組成物。
[3]
前記塩基性物質の乾式レーザー回折法による体積基準の平均粒子径(D50)が100μm以下である、[1]又は[2]に記載の固体分散体用組成物。
[4]
前記酸性ポリマーが、セルロースアセテートフタレート、セルロースアセテートトリメリテート、セルロースアセテートサクシネート、メチルセルロースフタレート、ヒドロキシメチルセルロースエチルフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートマレエート、ヒドロキシプロピルメチルセルローストリメリテート、カルボキシメチルエチルセルロース、ポリビニルブチレートフタレート、ポリビニルアルコールアセテートフタレート、メタクリル酸/エチルアクリレート共重合体、及びメタクリル酸/メタクリル酸メチル共重合体から選ばれる少なくとも1種である[1]~[3]のいずれか1項に記載の固体分散体用組成物。
[5]
前記有機溶媒が、アセトン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、メチルアセテート、エチルアセテート、テトラヒドロフラン及びジクロロメタンからなる群から選ばれる1種又は2種以上の混合物である[1]~[4]のいずれか1項に記載の固体分散体用組成物。
[6]
酸性ポリマー、塩基性物質および水難溶性薬物を含む固体分散体であって、塩基性物質の表面の一部、あるいはすべてが酸性ポリマーによって被覆されている固体分散体。
[7]
[1]~[5]のいずれか1項に記載の固体分散体用組成物から前記有機溶媒を除去する工程を少なくとも含む固体分散体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、酸性ポリマーの溶解pH範囲のみならず、小腸上部の比較的低いpH条件下においても高い溶出性を示す固体分散体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1Aは実施例5の固体分散体のSEM画像(反射電子像)である。
図1Bは比較例3の固体分散体のSEM画像(反射電子像)である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.固体分散体用組成物
まず、酸性ポリマー、塩基性物質、水難溶性薬物および有機溶媒を少なくとも含み、塩基性物質が有機溶媒に分散された固体分散体用組成物について説明する。
【0011】
酸性ポリマーとは、構造中に酸性官能基を1種類以上含むイオン性の高分子であり、日本薬局方第十八改正に定められている条件において、「ほとんど溶けない(溶質1g又は1mL溶かすのに必要な水量が10,000mL以上)」に該当し、かつアルカリ性溶液に溶けるポリマーである。
酸性官能基にはスクシニル基、カルボキシベンゾイル基等のカルボキシル基を含有する官能基等が挙げられる。
酸性ポリマーは、固体分散体用組成物中の非晶質化した難水溶性薬物の安定性を向上させ、バイオアベイラビリティの改善に寄与する。
【0012】
酸性ポリマーとしては、具体的にはヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(以下、「HPMCAS」とも記載する)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(以下、「HPMCP」とも記載する。)、セルロースアセテートフタレート、セルロースアセテートトリメリテート、セルロースアセテートサクシネート、メチルセルロースフタレート、ヒドロキシメチルセルロースエチルフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートマレエート、ヒドロキシプロピルメチルセルローストリメリテート、カルボキシメチルエチルセルロース、ポリビニルブチレートフタレート、ポリビニルアルコールアセテートフタレート、メタクリル酸/エチルアクリレート共重合体(好ましくは両モノマーの質量比が1:99から99:1)、及びメタクリル酸/メチルメタクリレート共重合体(好ましくは両モノマーの質量比が1:99から99:1)等が挙げられる。
中でもHPMCAS、HPMCPが好ましく、更にはHPMCASが好ましい。
【0013】
HPMCASは、セルロースの水酸基の水素原子の一部にアセチル基、スクシニル基、メチル基及びヒドロキシプロピル基の計4種類の置換基を導入したセルロース誘導体である。
【0014】
HPMCASのアセチル基の含有量は2~16質量%、好ましくは2~14質量%、より好ましくは5~14質量%である。更に好ましくは6~13質量%である。
HPMCASのスクシニル基の含有量は4~28質量%、好ましくは4~20質量%、より好ましくは4~18質量%、更に好ましくは6~16質量%である。
HPMCASのメトキシ基の含有量は、特に限定されないが、好ましくは12~28質量%、より好ましくは20~26質量%である。
HPMCASのヒドロキシプロポキシ基の含有量は、特に限定されないが、好ましくは4~23質量%、より好ましくは5~10質量%である。
なお、HPMCASにおけるアセチル基、スクシニル基、メトキシ基及びヒドロキシプロポキシ基の含有量は、それぞれ第十八改正日本薬局方の医薬品各条「ヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステル」(ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート)に記載されている方法により算出することができる。
【0015】
HPMCPは、セルロースにカルボキシベンゾイル基、メトキシ基及びヒドロキシプロポキシ基の3種類の置換基を有するセルロース誘導体である。
HPMCPにおけるカルボキシベンゾイル基の含有量は、好ましくは10~45質量%、より好ましくは15~40質量%、更に好ましくは21~35質量%である。
HPMCPのメトキシ基の含有量は、特に限定されないが、好ましくは12~28質量%、より好ましくは20~26質量%である。
HPMCPのヒドロキシプロポキシ基の含有量は、特に限定されないが、好ましくは4~23質量%、より好ましくは5~10質量%である。
なお、HPMCPにおけるカルボキシベンゾイル基、メトキシ基及びヒドロキシプロポキシ基の含有量は、第十八改正日本薬局方の医薬品各条「ヒプロメロース」(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)及び「ヒプロメロースフタル酸エステル」(ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート)に記載されている方法により算出することができる。
【0016】
上記酸性ポリマーは各置換基の含有量によって溶解するpHの範囲(以下、「溶解pH」とも記載する。)が異なる。例えば、HPMCASはアセチル基とスクシニル基含有量によって溶解pHが変化し、アセチル基の含有量が5~9質量%であり、スクシニル基の含有量が14~18質量%であるHPMCASの溶解pHは5.5以上であり;アセチル基の含有量が7~11質量%であり、スクシニル基の含有量が10質量%以上14質量%未満であるHPMCASの溶解pHは6.0以上であり;アセチル基の含有量が10~14質量%であり、スクシニル基の含有量が4~8質量%であるHPMCASの溶解pHは6.8以上である。
【0017】
また、HPMCPではカルボキシベンゾイル基の含有量によって溶解pHが変化し、カルボキシベンゾイル基の含有量が21~27質量%のHPMCPの溶解pHは5.0以上であり;カルボキシベンゾイル基の含有量が27質量%を超え、35質量%以下のHPMCPの溶解pHは5.5以上である。
【0018】
次に酸性ポリマーの粘度について説明する。以下、酸性ポリマーの中でもHPMCAS及びHPMCPに焦点を当てて説明する。
【0019】
HPMCASの20℃における2質量%の水溶液(ただし、溶媒が希(0.1mol/L)水酸化ナトリウム水溶液である)粘度は、特に限定されないが、生産性及び作業性の観点から、好ましくは1.1~20mPa・s、より好ましくは1.5~3.6mPa・sである。
HPMCPの20℃における10質量%の溶液(ただし、溶媒がメタノールとジクロロメタンをそれぞれの質量比で50%になるように混合した溶液である)粘度は、生産性及び作業性の観点から、好ましくは10.0~150.0mPa・s、より好ましくは15.0~100.0mPa・sである。
【0020】
粘度の測定方法は、酸性ポリマーがHPMCASである場合、第十八改正日本薬局方の「ヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステル」の項に記載の方法により測定することができる。また、酸性ポリマーがHPMCPである場合、第十八改正日本薬局方の医薬品各条「ヒプロメロースフタル酸エステル」の項に記載されている方法により測定できる。
【0021】
酸性ポリマーの含有量は、操作性及び水難溶性薬物の非晶化状態の保存安定性の観点から、好ましくは固体分散体用組成物中の1~40質量%であり、より好ましくは1~10質量%である。
【0022】
酸性ポリマーは、必要に応じて2種類以上を併用してもよい。
また、酸性ポリマーは、市販のものを用いてもよいし、公知の方法により製造したものを用いてもよい。
【0023】
酸性ポリマーの1つのであるHPMCASの製造方法としては、例えば、脂肪族カルボン酸の存在下、ヒドロキシプロピルメチルセルロースと、アセチル化剤及びスクシニル化剤とのエステル化反応をさせて反応溶液を得た後、得られた反応溶液を水と混合して析出させてHPMCAS粒子を含む懸濁液を調製し、前記懸濁液中のHPMCASを洗浄、回収、乾燥、粉砕等の処理に供することによりHPMCASを調製する方法が挙げられる。
【0024】
酸性ポリマーの1つであるHPMCPの製造方法としては、例えば、脂肪族カルボン酸の存在下、ヒドロキシプロピルメチルセルロースと、カルボキシベンゾイル化剤とのエステル化反応をさせて反応溶液を得た後、得られた反応溶液を水と混合して析出させてHPMCP粒子を含む懸濁液を調製し、前記懸濁液中のHPMCPを洗浄、回収、乾燥、粉砕等の処理に供することによりHPMCPを調製する方法が挙げられる。
【0025】
塩基性物質は水溶液にした際に水酸化物イオンを生じるものであり、当該水溶液は塩基性を示す。塩基性物質を酸性ポリマーとともに固体分散体用組成物中に分散させ、該固体分散体用組成物から固体分散体を製造することによって、固体分散体の溶解と同時に塩基性物質も溶解され、酸性ポリマー中の酸性官能基の一部あるいは全てが中和され、小腸上部の比較的低いpH条件下における溶出性の改善に寄与すると推測される。
【0026】
塩基性物質として、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素アンモニウム等の炭酸水素塩;炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸アンモニウム等の炭酸塩;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物;水酸化アンモニウム、酢酸アンモニウム等のアンモニウム塩;酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウム、クエン酸ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二ナトリウム、クエン酸カリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム等の各種酸との共役塩基;L-アルギニン、L-ヒスチジン、L-リシン等の塩基性アミノ酸;Eudragit Eのようなポリアミノアクリレート等の高分子アミンが挙げられる。
【0027】
塩基性物質の含有量は、固体分散体の溶出性の観点から、酸性ポリマー中の酸性官能基に対して、好ましくは0.2~2.0モル当量、より好ましくは0.2~1.5モル当量、更に好ましくは0.2~1.0モル当量である。
【0028】
塩基性物質の体積基準の平均粒子径(D50)は、固体分散体の溶出性及びスプレードライ工程におけるノズル閉塞を防ぐ観点から、好ましくは100μm以下、より好ましくは2~50μmである。
なお、体積基準の平均粒子径は、乾式レーザー回折法により測定できる。例えば、英国Malvern社製のマスターサイザー3000やドイツSympatec社のHELOS装置を用いた方法のように、圧縮空気で粉体サンプルを噴出させたものにレーザー光を照射し、その回折強度により体積換算平均粒子径を測定できる。
本願においては、塩基性物質の体積基準の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(マスターサイザー3000、Malvern社製)を用いて、Fraunhofer回折理論により、乾式法にて、分散圧1.5bar、散乱強度2~10%の条件で、体積基準の累積粒度分布曲線の50%累積値に相当する径を測定した。
【0029】
塩基性物質は、必要に応じて2種類以上を併用してもよい。
また、塩基性物質は、市販のものや既知の方法で製造したものをそのまま用いてもよく、それらを粉砕または篩過等によって処理したものを使用してもよい。
【0030】
水難溶性薬物とは、第十八改正日本薬局方に記載された水に「溶けにくい」、「極めて溶けにくい」、「ほとんど溶けない」とされる薬物をいう。ここで、「溶けにくい」とは、水難溶性薬物1g又は1mLをビーカーにとり、水を投入し20±5℃で5分ごとに強く30秒間振り混ぜるとき、水難溶性薬物が30分以内に溶けるために100mL以上1000mL未満の水を要するものをいう。また、「極めて溶けにくい」とは、水難溶性薬物1g又は1mLをビーカーにとり、水を投入し20±5℃で5分ごとに強く30秒間振り混ぜるとき、水難溶性薬物が30分以内に溶けるために1000mL以上10000mL未満の水を要するものをいう。「ほとんど溶けない」とは、水難溶性薬物1g又は1mLをビーカーにとり、水を投入し20±5℃で5分ごとに強く30秒間振り混ぜるとき、水難溶性薬物が30分以内に溶けるために10000mL以上の水を要するものをいう。
また、水難溶性薬物が溶けるということは、上記と同様にして水難溶性薬物1g又は1mLをビーカーにとり、溶媒を投入し20±5℃で5分ごとに強く30秒間振り混ぜるとき、水難溶性薬物が溶媒に溶ける又は混和することを示し、繊維等を認めないか又は認めても極めてわずかであることをいう。
【0031】
水難溶性薬物の具体例としては、イトラコナゾール、ケトコナゾール、フルコナゾール、ミコナゾール、オメプラゾール、ランソプラゾール等のアゾール系化合物、ニフェジピン、ニトレンジピン、アムロジピン、ニカルジピン、ニルバジピン、フェロジピン、ニフォニジピン等のジヒドロピリジン系化合物、イブプロフェン、ケトプロフェン、ナプロキセン等のプロピオン酸系化合物、インドメタシン、アセメタシン等のインドール酢酸系化合物のほかに、グリセオフルビン、フェニトイン、カルバマゼピン、ジピリダモール等が挙げられる。
【0032】
水難溶性薬物の含有量は、製剤の種類に応じて適宜決定することができるが、水難溶性薬物の溶解性及び非晶質化の観点から、固体分散体用組成物中の好ましくは0.1~50質量%、より好ましくは1~20質量%、更に好ましくは1~10質量%である。
【0033】
固体分散体用組成物における酸性ポリマーと水難溶性薬物の質量比率は、特に限定されないが、水難溶性薬物の非晶質状態の安定性の観点から、好ましくは酸性ポリマー:水難溶性薬物=1:0.01~1:100、より好ましくは酸性ポリマー:水難溶性薬物=1:0.1~1:10、更に好ましくは酸性ポリマー:水難溶性薬物=1:0.2~1:5である。
【0034】
水難溶性薬物は、必要に応じて2種類以上を併用してもよい。
また、水難溶性薬物は、市販のものを用いることができる。
【0035】
有機溶媒としては、酸性ポリマー及び水難溶性薬物を溶解することができる溶媒であれば、特に制限されないが、ケトン系溶媒、アルコール系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、非プロトン性極性溶媒等が挙げられる。
【0036】
ケトン系溶媒としては、アセトン等が挙げられる。
アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール等の炭素数1~3の飽和アルコールが挙げられる。
エステル系溶媒としては、メチルアセテート、エチルアセテート等のアルキルアセテート等が挙げられる。
エーテル系溶媒としては、テトラヒドロフラン等が挙げられる。
非プロトン性極性溶媒としては、ジクロロメタン、クロロホルム等が挙げられる。
【0037】
固体分散体用組成物における有機溶媒の含有量は、特に限定されないが、固体分散体の生産性の観点から、好ましくは50~98質量%あり、より好ましくは70~95質量%である。
【0038】
有機溶媒は、必要に応じて1種用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、上述の有機溶媒に水を混合してもよいが、その含有量は水難溶性薬物の溶解性及び酸性ポリマーの分解性の観点から、有機溶媒100質量部に対して、好ましくは10質量部未満、より好ましくは5質量部未満である。
また、有機溶媒は市販のものを用いることができる。
【0039】
固体分散体用組成物中の塩基性物質は上述の有機溶媒に分散している。分散とは、塩基性物質の一部あるいは全てが溶媒中に溶解していない状態を示す。分散の状態は、目的の固体分散体用組成物中に含まれる塩基性物質と同じ種類の塩基性物質と、前記固体分散体用組成物中に含まれる有機溶媒と同じ種類の有機溶媒とを固体分散体用組成物と同濃度となるように混合し、20℃にて30分間撹拌して混合物を得、当該混合物を紫外可視分光光度計を用いて光路長10mmのセルによりUVスペクトル測定(測定波長:550nm)することにより得られる透過率から確認することができる。塩基性物質が有機溶媒に溶解せずに分散していると混合物の透過率が低くなることから、混合物の透過率は好ましくは90%以下、より好ましくは70%以下であり、下限は特に限定されないが、例えば0%以上である。紫外可視分光光度計の具体例としては、UV-1850(SHIMADZU社製)等が挙げられる。また、塩基性物質が有機溶媒中に分散した固体分散体用組成物を用いて固体分散体を製造した場合、X線回折測定によって得られる回折パターンは塩基性物質由来の結晶ピークが残存する。
【0040】
塩基性物質が有機溶媒中に分散していることによって、酸性ポリマー中の酸性官能基の加水分解が抑制される。すなわち、加水分解によって生じる遊離酸量の抑制、およびそれに起因する薬物等の分解が抑制される。また、分散した塩基性物質は固体分散体の溶解と同時に、酸性ポリマー中の酸性官能基の一部あるいは全てと中和し、小腸上部の比較的低いpH条件下における溶出性の改善に寄与する。
【0041】
固体分散体用組成物には、必要に応じて、その他の添加剤を通常使用される量で加えてもよい。
【0042】
添加剤としては、分散安定剤、界面活性剤、崩壊剤、結合剤、増量剤等が挙げられる。
【0043】
分散安定剤としては、タルク等が挙げられる。
【0044】
界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム等の陰イオン性界面活性剤、ジグリセリド、ポロクサマー、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(ツイン20、60、80)、グリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル等の非イオン性界面活性剤、レシチン、タウロコール酸ナトリウム等の天然界面活性剤等が挙げられる。
【0045】
崩壊剤としては、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、コーンスターチ、部分アルファー化デンプン、カルボキシメチルスターチナトリウム、クロスカルメロース、クロスカルメロースナトリウム、結晶セルロース、クロスポビドン等が挙げられる。
【0046】
結合剤としては、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等が挙げられる。
【0047】
増量剤としては、エリスリトール、マンニトール、ソルビトール、乳糖、ショ糖、でんぷん、白糖、結晶セルロース、粉末セルロース、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム等が挙げられる。
【0048】
添加剤は、必要に応じて2種類以上を併用してもよい。また、添加剤は、市販のものを用いることができる。
【0049】
固体分散体用組成物における添加剤の含有量は、固体分散体における水難溶性薬物の含有量の観点から、酸性ポリマーと水難溶性薬物の総質量100質量部に対して、好ましくは1~1000質量部である。
【0050】
本発明の固体分散体用組成物は、上記各成分、すなわち、酸性ポリマー、塩基性物質、水難溶性薬物及び有機溶媒並びに必要に応じて添加されるその他の添加剤を混合することにより製造することができる。これら各成分の混合順は特に限定されないが、例えば、有機溶媒に酸性ポリマー及び水難溶性薬物を加え、酸性ポリマー及び水難溶性薬物が溶解した溶液を得、続いてこの溶液に塩基性物質をゆっくり加えて分散させる方法が挙げられる。必要に応じて添加されるその他の添加剤は、その種類に応じて、最初に調製される溶液を調製する段階で添加してもよく、塩基性物質の添加と同時又は塩基性物質の添加後に添加してもよい。
本発明の固体分散体用組成物において、塩基性物質が有機溶媒に分散された状態とするには、前記条件で調製した塩基性物質及び有機溶媒の混合物の、前記条件で測定した透過率が90%以下となるよう塩基性物質の濃度を調整すればよく、例えば前記透過率が90%を超える場合は、固体分散体用組成物中の塩基性物質の量は、前記酸性ポリマー中の酸性官能基に対する量比を満たす範囲内で、前記透過率が90%以下となり、塩基性物質が沈殿しない程度に塩基性物質の濃度を高めればよい。
【0051】
2.固体分散体
次に、酸性ポリマー、塩基性物質および水難溶性薬物を含む固体分散体であって、塩基性物質の表面の一部、あるいはすべてが酸性ポリマーによって被覆されている固体分散体について説明する。本発明の固体分散体における酸性ポリマー、塩基性物質および水難溶性薬物の例としては、上記固体分散体用組成物において例示したものと同様のものがそれぞれ挙げられる。
【0052】
本発明の固体分散体用組成物中に含まれる塩基性物質は分散した状態で存在する。すなわち、この固体分散体用組成物を用いて固体分散体を製造した場合、塩基性物質の一部あるいはすべてが酸性ポリマーによって被覆される。これは、例えばスプレードライ法の場合に、形成される液滴の中又は表面に塩基性物質が存在することとなり、その液滴が乾燥して酸性ポリマー及び水難溶性薬物のまわりに塩基性物質が混在した形の固体分散体となることを意味する。本発明者は、塩基性物質の一部あるいはすべてが酸性ポリマーによって被覆された固体分散体は、被覆されていない固体分散体(塩基性物質を物理混合した固体分散体)に比べ、小腸上部の比較的低いpH条件下における溶出性が大きく向上することを見出した(本願実施例1及び比較例3)。更に、分散した状態で塩基性物質が含有されることによって、酸性ポリマーの分解も抑制されることも見出した。
【0053】
塩基性物質の一部あるいはすべてが酸性ポリマーによって被覆された固体分散体については、例えば、塩基性物質と酸性ポリマー等を構成する元素の違いを利用し、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた反射電子像を観察することによって塩基性物質が被覆された様子を確認することができる。
【0054】
3.固体分散体の製造方法
次に、これらの固体分散体用組成物から前記有機溶媒を除去する工程を少なくとも含む固体分散体の製造方法について説明する。
【0055】
有機溶媒を除去する方法としては、蒸発乾固法、スプレードライ法などが挙げられる。本発明では、大量生産可能であること、粒径や嵩密度などの粉体物性を制御しやすいことからスプレードライ法を採用する方法が好ましい。
【0056】
スプレードライとは水難溶性薬物を含む固体分散体用組成物を小さな液滴に分解(噴霧)し、液滴から蒸発により溶媒を急速に除去する方法を広く指す。溶媒を除去するための駆動力は一般的に液滴を乾燥する温度にて、溶液の分圧を溶媒の蒸気圧にくらべて低くすることで得られる。好ましい態様としては、液滴の高温乾燥ガスとの混合する、溶媒除去装置内での圧力を不完全真空に維持するなどの方法が挙げられる。
【0057】
固体分散体用組成物は、多様なノズル機構の下でスプレードライすることができる。たとえば、種々のタイプのノズルを使用することができる。好ましい様態としては、二流体ノズル、噴水型ノズル、フラットファン型ノズル、圧力ノズル、ロータリーアトマイザーなどが挙げられる。
【0058】
固体分散体用組成物は広範囲の流量、温度において送液することができる。また、スプレー時に加圧する場合、広範囲の圧力においてスプレーすることが可能である。一般に、液滴の比表面積の増加に伴って、溶媒蒸発の速度が増加する。そのため、ノズルを出るときの液滴は好ましくは500μm未満、より好ましくは400μm未満、更に好ましくは5~200μmであり、そのような噴霧を可能にする流量、温度、圧力が好ましい。スプレー後の溶液は急速に乾燥する。
【0059】
スプレー後の固体分散体用組成物は、急速に乾燥し固体分散体となる。乾燥した固体分散体は一般にスプレードライ室内に約5~60秒間とどまり、その間に大部分の溶媒が固体粉末から除去される。スプレードライの際の温度としては入口温度が約20℃~150℃、出口温度が約0℃~85℃が好ましい。
【0060】
固体分散体中の残留溶媒は少ない方がよい。これは非晶質固体分散体内の薬物分子の運動性が抑制され、安定性が増すためである。残留溶媒のさらなる除去が必要である場合には2次乾燥を行うことができる。好適な2次乾燥方法としては、トレイ乾燥、流動層乾燥、ベルト乾燥、マイクロ波乾燥などが挙げられる。
【実施例0061】
以下に、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
以下に特に記載がない限り、各物性は上記した方法に従って、測定又は算出した。
また、下記各例の固体分散体用組成物の製造において、固体分散体用組成物に含まれる各成分の「質量%」の値は、これらの合計である固体分散体用組成物中の含有量を示す。
【0062】
実施例1
<固体分散体用組成物の製造>
アセトン89.92質量%を撹拌羽で撹拌しながら、HPMCAS6.61質量%(メトキシ基:22.5質量%、ヒドロキシプロポキシ基:6.9質量%、アセチル基:7.9質量%、スクシニル基:14.5質量%、2質量%の水溶液(ただし、溶媒が希(0.1mol/L)水酸化ナトリウム水溶液である)粘度2.90mPa・s)とニフェジピン3.31質量%を加え、溶解させた。これを目開き150μmの篩でろ過し、溶け残りがないことを確認した。次に、平均粒子径(D50)110μmの炭酸水素ナトリウム(富士フイルム和光純薬製)をワンダーブレンダー(大阪ケミカル社製)で10秒間、3回に分けて粉砕し、D50が8.6μmの炭酸水素ナトリウムを回収した。粉砕した炭酸水素ナトリウム0.16質量%(HPMCASのスクシニル基の0.2モル当量)をアセトン溶液に撹拌しながら、ゆっくりと加えて、分散させ、表2の固体分散体用組成物Aを製造した。
また、固体分散体用組成物と同濃度となるように、アセトンに粉砕した炭酸水素ナトリウムを20℃にて30分間混合し、紫外可視分光光度計UV-1850(SHIMADZU社製)を用いて光路長10mmのセルによりUVスペクトル測定(波長550nm)を実施し、透過率を測定した。
酸性ポリマー、塩基性物質、水難溶性薬物及び溶媒の種類、塩基性物質及び有機溶媒の混合物の透過率、塩基性物質添加量並びに塩基性物質のD50を表2に示す。
【0063】
<固体分散体の製造>
製造した固体分散体用組成物Aをマグネチックスターラーで撹拌しながら、ミニスプレードライヤー B-290(Buchi社製)を用いて、入口温度80℃、出口温度52℃、ノズルガス流量360L/hr、スプレー速度5.7g/minの条件でスプレードライし、固体分散体を回収した。
【0064】
<結晶性の評価>
固体分散体中の結晶性は、卓上型X線回折装置D2 PHASER(BRUKER社製)を用いて、XRD測定で評価した。塩基性物質単体を用いて取得した回折パターンと比較することにより、塩基性物質由来の結晶ピークの有無を確認した。尚、すべての実施例及び比較例においてニフェジピン由来の結晶ピークは観察されず、非晶質であった。結果を表3に記載する。
【0065】
(XRDの測定条件)
電圧:30kV
電流:10mA
時間:0.5s
ステップ:1725
測定時間:1006.5s
測定範囲2θ:5~40°(走査速度:0.02)
【0066】
<溶出試験>
得られた固体分散体について、ニフェジピン含量が90mg(100mg/L)になるように秤量し、60分間の溶出試験を行った。試験液には小腸上部を想定したpH5.0のフタル酸緩衝液(900mL)と第十八改正日本薬局方記載の溶出試験第2液(pH6.8、900mL)を使用し、日本薬局方溶出試験機(NTR-6100A型、富山産業社製)を用いた。スプレードライによって得られた固体分散体は非常に細かく、凝集しやすいため、パドル回転数及び位置を表1の条件に固定して評価を行った。
【0067】
【0068】
ニフェジピンの定量は、UVスペクトル測定で得られた吸光度(波長325nm、光路長10mm)から、既知の濃度で作成した濃度換算直線(検量線)から算出した。各試験液に対する最大溶出量を表3に示す。
【0069】
<遊離酸量の定量>
HPMCAS中に含まれる遊離酸量は、遊離酢酸と遊離コハク酸の総量を示し、下記の手順で調製した標準溶液及び試料溶液を用いて、下記の分析条件で液体クロマトグラフィー(HPLC)を測定し、定量した。また、HPMCASの脱水物への換算は、1.0gの評価試料を105℃で2時間乾燥させた際の、重量減少割合から算出した。結果を表3に示す。
【0070】
(標準溶液の調製)
酢酸2.0mLを精密に量り、精製水を加えて正確に100mLとする。この液を6mL正確に量り、水を加えて正確に100mLとし、酢酸原液とした。次にコハク酸0.13gを精密に量り、精製水を加えて正確に100mLとしてコハク酸原液とした。酢酸原液とコハク酸原液をそれぞれ4mL正確に量り、下記に記載した移動相を加えて正確に25mLとすることにより、標準溶液とした。
【0071】
(試料溶液の調製)
試料中に含まれるHPMCASの含有量が100mgとなるように製造した固体分散体を精密に量り取り、pH7.5の0.02moL/Lのリン酸塩緩衝液4mLを正確に加えて密栓し、2時間かき混ぜた。薄めたリン酸4mLを正確に加え、数回正倒立して振り混ぜた。この液がpH3付近まで低下していることを確認し、pHの低下が確認できない場合は、更に薄めたリン酸を正確に加え、ふり混ぜた。その後、遠心分離し、上層を孔径0.45μmのメンブレンフィルター(ADVANTEC(登録商標)、東洋濾紙社製)でろ過することにより、試料溶液とした。
【0072】
(HPLCの測定条件)
検出器:紫外吸収光光度計 SPD-20AV(島津製作所社製)
測定波長:215nm
カラム:Synergi-RP (Phenomenex社製)
内径4.6mm、長さ150mm、粒子径4.0μm、
カラム温度:30℃
移動相:0.02moL/L リン酸二水素カリウム溶液(pH2.8)
流量:1.0mL/min
注入量:10μL
【0073】
(遊離酸量の換算式)
遊離酢酸量(%)=(標準溶液中の酢酸量(mg)/脱水物に換算した試料溶液中のHPMCAS量(mg))×(試料溶液の酢酸のピーク面積/標準溶液の酢酸のピーク面積)×(24×(8+追加で加えた薄めたリン酸の量(mL))/2500)
遊離コハク酸量(%)=(標準溶液中のコハク酸量(mg)/脱水物に換算した試料溶液中のHPMCAS量(mg))×(試料溶液のコハク酸のピーク面積/標準溶液のコハク酸のピーク面積)×(4×(8+追加で加えた薄めたリン酸の量(mL))/25)
遊離酸量(%)=遊離酢酸量(%)+遊離コハク酸量(%)
【0074】
実施例2
酸性ポリマーにHPMCP(メトキシ基:19.5質量%、ヒドロキシプロピル基:6.1質量%、カルボキシベンゾイル基:32.9質量%、20℃における10質量%の溶液(ただし、溶媒がメタノールとジクロロメタンをそれぞれの質量比で50%になるように混合)粘度42.5mPa・s)を用いて、塩基性物質の含有量をHPMCPのカルボキシベンゾイル基に対して0.5モル当量としたこと以外は、実施例1と同様の方法で固体分散体用組成物B及び固体分散体を製造し、評価した。
酸性ポリマー、塩基性物質、水難溶性薬物及び溶媒の種類、塩基性物質の状態、塩基性物質添加量並びに塩基性物質のD50を表2に示す。
【0075】
<遊離フタル酸量の定量>
HPMCP中に含まれる遊離酸量(以下「遊離フタル酸量」とも記載する。)は、下記の手順で調製した標準溶液及び試料溶液を用いて、下記の分析条件で定量した。HPMCPの脱水物への換算は、1.0gのHPMCPを105℃で2時間乾燥させた際の、重量減少割合から算出した。結果を表3に示す。
【0076】
(標準溶液の調製)
フタル酸12.5mgを精密に量り、アセトニトリル125mlを加えて撹拌し、フタル酸を溶解させた。その後、精製水を25mL加えて混合し、更にアセトニトリルを加えて正確に250mLとすることにより、標準溶液とした。
【0077】
(試料溶液の調製)
試料中に含まれるHPMCPが200mgとなるように、製造した固体分散体を精密に量り取り、アセトニトリル50mLに加えて超音波処理により部分的に溶解させた。その後、精製水を10mL加えて再度超音波処理を行い、完全に溶解させた。室温まで冷却後、アセトニトリルを加えて正確に100mLとし、孔径0.45μmのメンブレンフィルター(ADVANTEC(登録商標)、東洋濾紙社製)でろ過することにより、試料溶液とした。
【0078】
(HPLCの測定条件)
検出器:紫外吸収光光度計 SPD-20AV(島津製作所社製)
測定波長:235nm
カラム:Luna Omega PS C18(Phenomenex社製)
内径4.6mm、長さ250mm、粒子径5μm
カラム温度:25℃
移動相:0.1%トリフルオロ酢酸水溶液/アセトニトリルの混合溶液(9:1(体積比))
流量:0.5mL/min
注入量:10μL
【0079】
(遊離フタル酸量の換算式)
遊離フタル酸量(%)=(標準溶液中のフタル酸量(mg)/脱水物に換算した試料溶液中のHPMCP量(mg))×(試料溶液のフタル酸のピーク面積/標準溶液のフタル酸のピーク面積)×40
【0080】
実施例3
塩基性物質の含有量をHPMCASのスクシニル基に対して0.5モル当量としたこと以外は、実施例1と同様の方法で固体分散体用組成物C及び固体分散体を製造し、評価した。
酸性ポリマー、塩基性物質、水難溶性薬物及び溶媒の種類、塩基性物質の状態、塩基性物質添加量並びに塩基性物質のD50を表2に示す。
【0081】
実施例4
塩基性物質の含有量をHPMCASのスクシニル基に対して1.0モル当量としたこと以外は、実施例1と同様の方法で固体分散体用組成物D及び固体分散体を製造し、評価した。
酸性ポリマー、塩基性物質、水難溶性薬物及び溶媒の種類、塩基性物質の状態、塩基性物質添加量並びに塩基性物質のD50を表2に示す。
【0082】
実施例5
塩基性物質としてD50が4.3μmの水酸化カルシウム(富士フイルム和光純薬製)を使用し、含有量をHPMCASのスクシニル基に対して0.5モル当量としたこと以外は、実施例1と同様の方法で固体分散体用組成物E及び固体分散体を製造し、評価した。更に、得られた固体分散体について、卓上顕微鏡 Miniscope(登録商標) TM3030Plus(日立ハイテク社製)を用いて、反射電子像を観察した。SEM画像(反射電子像)を
図1Aに示す。
酸性ポリマー、塩基性物質、水難溶性薬物及び溶媒の種類、塩基性物質の状態、塩基性物質添加量並びに塩基性物質のD50を表2に示す。
【0083】
実施例6
塩基性物質の含有量をHPMCASのスクシニル基に対して1.0モル当量としたこと以外は、実施例5と同様の方法で固体分散体用組成物F及び固体分散体を製造し、評価した。
酸性ポリマー、塩基性物質、水難溶性薬物及び溶媒の種類、塩基性物質の状態、塩基性物質添加量並びに塩基性物質のD50を表2に示す。
【0084】
実施例7
塩基性物質としてD50が22μmの炭酸水素ナトリウムを使用したこと以外は、実施例4と同様の方法で固体分散体用組成物G及び固体分散体を製造し、評価した。
酸性ポリマー、塩基性物質、水難溶性薬物及び溶媒の種類、塩基性物質の状態、塩基性物質添加量並びに塩基性物質のD50を表2に示す。
【0085】
実施例8
塩基性物質の含有量をHPMCASのスクシニル基に対して2.0モル当量としたこと以外は、実施例1と同様の方法で固体分散体用組成物H及び固体分散体を製造し、評価した。
酸性ポリマー、塩基性物質、水難溶性薬物及び溶媒の種類、塩基性物質の状態、塩基性物質添加量並びに塩基性物質のD50を表2に示す。
【0086】
実施例9
塩基性物質としてD50が46μmの炭酸水素ナトリウムを使用したこと以外は、実施例3と同様の方法で固体分散体用組成物I及び固体分散体を製造し、評価した。
酸性ポリマー、塩基性物質、水難溶性薬物及び溶媒の種類、塩基性物質の状態、塩基性物質添加量並びに塩基性物質のD50を表2に示す。
【0087】
比較例1
アセトン90質量%を撹拌羽で撹拌しながら、HPMCAS6.7質量%とニフェジピン3.3質量%を加え、溶解させた。これを目開き150μmの篩でろ過し、溶け残りがないことを確認し、塩基性物質を含まない固体分散体用組成物Jを製造した。固体分散体用組成物Jを用いて、実施例1と同様の方法で固体分散体を製造し、評価した。
酸性ポリマー、水難溶性薬物及び溶媒の種類を表2に示す。
【0088】
比較例2
酸性ポリマーに実施例2で使用したHPMCPを用いたこと以外は、比較例1と同様の方法で固体分散体用組成物K及び固体分散体を製造し、評価した。尚、遊離酸の定量法は実施例2と同様の方法で実施した。
酸性ポリマー、水難溶性薬物及び溶媒の種類を表2に示す。
【0089】
比較例3
比較例1で製造した固体分散体に、塩基性物質として、D50が4.3μmの水酸化カルシウムをHPMCASのスクシニル基に対して0.5モル当量添加し、乳鉢で物理混合した。固体分散体製造後に塩基性物質を分散させた本試料を実施例1と同様の方法で評価した。更に、得られた固体分散体について、実施例5と同様にして、卓上顕微鏡 Miniscope(登録商標) TM3030Plus(日立ハイテク社製)を用いて、反射電子像を観察した。SEM画像(反射電子像)を
図1Bに示す。
酸性ポリマー、塩基性物質、水難溶性薬物及び溶媒の種類、塩基性物質の状態、塩基性物質添加量並びに塩基性物質のD50を表2に示す。
【0090】
比較例4
溶媒としてエタノール:水=60:40(質量%)を使用した以外は、実施例3と同様の方法で固体分散体用組成物L及び固体分散体を製造し、評価した。この例では、溶媒中の40質量%を水としたため、固体分散体用組成物中の塩基性物質は溶解した。
酸性ポリマー、塩基性物質、水難溶性薬物及び溶媒の種類、塩基性物質の状態、塩基性物質添加量並びに塩基性物質のD50を表2に示す。
【0091】
【0092】
【0093】
実施例1~2及び比較例1~2より、酸性ポリマーと塩基性物質、水難溶性薬物および有機溶媒を少なくとも含む固体分散体用組成物が、小腸上部を想定したpH5.0の試験液でニフェジピンの溶出性を大幅に改善できることが知見された。また、XRD測定によって得られた回折パターンから、全ての実施例で、塩基性物質の結晶ピークが観察され、固体分散体用組成物中で塩基性物質が分散状態で存在していることが確認された。
また、実施例3及び比較例4より、溶媒をアセトンとし、塩基性物質を分散状態とすることによって酸性ポリマーの分解を抑制できることが知見された。
さらに、実施例5及び比較例3より、固体分散体製造後に塩基性物質を物理混合するよりも、固体分散体用組成物中に塩基性物質を分散させ、製造した固体分散体の方がpH5.0の試験液に対する溶出性が高いことが知見された。また、反射電子SEM像の比較より、塩基性物質を分散状態で固体分散体化することによって、塩基性物質表面の一部あるいはすべてが酸性ポリマーで被覆されていることがわかった。これは、原子番号が大きいカルシウム元素はSEM観察中における照射電子の放出信号強度が強くなるために明るく(白く)観察されることから読み取れる。この被覆によって、酸性ポリマーと塩基性物質の混和性が向上していると考えられる。
また、実施例1、3、4及び8より、塩基性物質の含有量が酸性ポリマー中の酸性官能基に対して0.2~2.0モル当量の広い範囲で、pH5.0及び6.8の試験液に対して共に優れる溶出性を示すことが知見された。