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特開2025-154912リン化インジウム基板及び半導体エピタキシャルウエハ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025154912
(43)【公開日】2025-10-10
(54)【発明の名称】リン化インジウム基板及び半導体エピタキシャルウエハ
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20251002BHJP
   C30B 29/40 20060101ALI20251002BHJP
【FI】
H01L21/304 601B
C30B29/40 C
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024058192
(22)【出願日】2024-03-29
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2025-07-24
(71)【出願人】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】細木 渉
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健二
(72)【発明者】
【氏名】林 英昭
【テーマコード(参考)】
4G077
5F057
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077AB10
4G077BE44
4G077FG11
4G077FG13
5F057AA05
5F057BA12
5F057BB08
5F057CA09
5F057DA11
5F057DA29
(57)【要約】
【課題】オリエンテーションフラットを用いたウエハのアライメント精度の向上とチッピング発生の抑制とを両立することが可能なリン化インジウム基板及び半導体エピタキシャルウエハを提供する。
【解決手段】主面、裏面、及び、オリエンテーションフラットを有する円盤状のリン化インジウム基板であり、主面側のオリエンテーションフラットからの面取り幅が90μm未満であり、裏面側のオリエンテーションフラットからの面取り幅、主面側のエッジ部からの面取り幅、及び、裏面側のエッジ部からの面取り幅が、それぞれ90μm以上である、リン化インジウム基板。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主面、裏面、及び、オリエンテーションフラットを有する円盤状のリン化インジウム基板であり、
前記主面側の前記オリエンテーションフラットからの面取り幅が90μm未満であり、
前記裏面側の前記オリエンテーションフラットからの面取り幅、前記主面側のエッジ部からの面取り幅、及び、前記裏面側のエッジ部からの面取り幅が、それぞれ90μm以上である、リン化インジウム基板。
【請求項2】
前記主面側の前記オリエンテーションフラットからの面取り幅が60μm未満であり、
前記裏面側の前記オリエンテーションフラットからの面取り幅、前記主面側のエッジ部からの面取り幅、及び、前記裏面側のエッジ部からの面取り幅が、それぞれ100μm以上である、請求項1に記載のリン化インジウム基板。
【請求項3】
前記オリエンテーションフラットは、
前記裏面から傾斜した面、及び、
前記裏面から傾斜した面が終了する位置から開始する曲率をもった面
を有する、請求項1に記載のリン化インジウム基板。
【請求項4】
前記裏面側のエッジ部は、
前記裏面から傾斜した面、及び、
前記裏面から傾斜した面が終了する位置から開始する曲率をもった面
を有する、請求項1に記載のリン化インジウム基板。
【請求項5】
前記主面側のエッジ部は、
前記主面から傾斜した面、及び、
前記主面から傾斜した面が終了する位置から開始する曲率をもった面
を有する、請求項1に記載のリン化インジウム基板。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のリン化インジウム基板と、前記リン化インジウム基板の主面に設けられたエピタキシャル結晶層と、を有する、半導体エピタキシャルウエハ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン化インジウム基板及び半導体エピタキシャルウエハに関する。
【背景技術】
【0002】
インジウムリン(InP)は、III族のインジウム(In)とV族のリン(P)とからなるIII-V族化合物半導体材料である。半導体材料としての特性は、バンドギャップ1.35eV、電子移動度~5400cm2/V・sであり、高電界下での電子移動度はシリコンやガリウム砒素といった他の一般的な半導体材料より高い値になるという特性を有している。また、常温常圧下での安定な結晶構造は立方晶の閃亜鉛鉱型構造であり、その格子定数は、ヒ化ガリウム(GaAs)やリン化ガリウム(GaP)等の化合物半導体と比較して大きな格子定数を有するという特徴を有している。
【0003】
リン化インジウム基板の原料となるリン化インジウムのインゴットは、通常、所定の厚さにスライシングされ、所望の形状に研削され、適宜機械研磨された後、研磨屑や研磨により生じたダメージを除去するために、エッチングや精密研磨(ポリシング)等に供される。
【0004】
リン化インジウム基板の結晶方位を示すために一般に行われるのは、例えば、特許文献1に開示されているような、円形基板(ウエハ)の所定領域の弓形部分を切り取り、特定の面方位を有する面を露出させるオリエンテーションフラット法である。方位を示す短い線分をオリエンテーションフラットと呼ぶ。ウエハプロセスにおいてオリエンテーションフラットを基準にウエハの向きを定めて様々な工程を行うようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-028723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ウエハプロセスにおいて、上記オリエンテーションフラットはウエハの向きを定めるための基準となるものである。具体的には、例えば、オリエンテーションフラットに二本の並列した柱状冶具を押し当てて、オリエンテーションフラットをウエハの向きを定めるための基準としている。
【0007】
このように、オリエンテーションフラットは、ウエハの向きを定めるための基準となるものであり、その精度(アライメント精度)が非常に重要である。しかしながら、オリエンテーションフラットの主面側が削れている等により、オリエンテーションフラットを含む平面と主面を含む平面との交線から主面までの距離が大きいと、上述のウエハの向きを精度良く定めることが困難となる。一方、裏面側では、オリエンテーションフラットを含む平面と裏面を含む平面との交線から裏面までの距離が小さいと、チッピング等の不良が発生するおそれがある。
【0008】
ここで、従来、オリエンテーションフラットを含むウエハのエッジ部では、主面側及び裏面側で同形状の面取りが行われており、上述のオリエンテーションフラットを用いたウエハのアライメント精度の向上とチッピング発生の抑制とを両立することが困難であるという問題がある。
【0009】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、オリエンテーションフラットを用いたウエハのアライメント精度の向上とチッピング発生の抑制とを両立することが可能なリン化インジウム基板及び半導体エピタキシャルウエハを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、以下のように特定される、本発明の実施形態によって解決される。
1.主面、裏面、及び、オリエンテーションフラットを有する円盤状のリン化インジウム基板であり、
前記主面側の前記オリエンテーションフラットからの面取り幅が90μm未満であり、
前記裏面側の前記オリエンテーションフラットからの面取り幅、前記主面側のエッジ部からの面取り幅、及び、前記裏面側のエッジ部からの面取り幅が、それぞれ90μm以上である、リン化インジウム基板。
2.前記主面側の前記オリエンテーションフラットからの面取り幅が60μm未満であり、
前記裏面側の前記オリエンテーションフラットからの面取り幅、前記主面側のエッジ部からの面取り幅、及び、前記裏面側のエッジ部からの面取り幅が、それぞれ100μm以上である、前記1に記載のリン化インジウム基板。
3.前記オリエンテーションフラットは、
前記裏面から傾斜した面、及び、
前記裏面から傾斜した面が終了する位置から開始する曲率をもった面
を有する、前記1または2に記載のリン化インジウム基板。
4.前記裏面側のエッジ部は、
前記裏面から傾斜した面、及び、
前記裏面から傾斜した面が終了する位置から開始する曲率をもった面
を有する、前記1~3のいずれかに記載のリン化インジウム基板。
5.前記主面側のエッジ部は、
前記主面から傾斜した面、及び、
前記主面から傾斜した面が終了する位置から開始する曲率をもった面
を有する、前記1~4のいずれかに記載のリン化インジウム基板。
6.前記1~5のいずれかに記載のリン化インジウム基板と、前記リン化インジウム基板の主面に設けられたエピタキシャル結晶層と、を有する、半導体エピタキシャルウエハ。
【発明の効果】
【0011】
本発明の実施形態によれば、オリエンテーションフラットを用いたウエハのアライメント精度の向上とチッピング発生の抑制とを両立することが可能なリン化インジウム基板及び半導体エピタキシャルウエハを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】(A)は本発明の実施形態に係るリン化インジウム基板(InP基板)の断面模式図である。(B)本発明の実施形態に係るリン化インジウム基板(InP基板)の平面模式図である。
図2】本発明の実施形態に係るリン化インジウム基板の断面模式図の一例である。
図3】本発明の実施形態に係るリン化インジウム基板のオリエンテーションフラット側の断面模式図である。
図4】本発明の実施形態に係る面取り工程を説明するための模式図である。
図5】本発明の実施形態に係る砥石によるウエハ外周部分の面取りの様子を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔リン化インジウム基板〕
以下、本実施形態のリン化インジウム基板の構成について説明する。
図1(A)に、本発明の実施形態に係るリン化インジウム基板(InP基板)の断面模式図、図1(B)に平面模式図をそれぞれ示す。なお、図1は、本発明の実施形態に係るリン化インジウム基板における主面、裏面、オリエンテーションフラット、エッジ部を理解するための図面であり、これらがそのまま本発明の実施形態に係るリン化インジウム基板を示すものではない。
【0014】
本実施形態のリン化インジウム基板は、主面、裏面、及び、エッジ部を有する円盤状の基板である。エッジ部の一部は、結晶の方位を示すオリエンテーションフラット(OF)を有している。エッジ部は、さらに基板の主面と裏面とを見分けるためのインデックスフラット(IF)を有していてもよい。
【0015】
リン化インジウム基板の主面は、エピタキシャル結晶層を形成するための面とすることができる。エピタキシャル結晶層を形成するための面とは、本実施形態のリン化インジウム基板を、半導体素子構造の形成のためにエピタキシャル成長用の基板として使用する際に、実際にエピタキシャル成長を実施する面である。
【0016】
リン化インジウム基板の主面の最大径は特に限定されないが、49~152.4mmであってもよく、49~101mmであってもよい。
【0017】
リン化インジウム基板の厚さは特に限定されないが、例えば、300~900μmであるのが好ましく、300~700μmであるのがより好ましい。特に口径が大きい場合、リン化インジウム基板が300μm未満であると割れる恐れがあり、900μmを超えると母材結晶が無駄になるという問題が生じることがある。
【0018】
本実施形態のリン化インジウム基板は、ドーパント(不純物)として、Zn(亜鉛)をキャリア濃度が1×1016cm-3以上1×1019cm-3以下となるように含んでもよく、S(硫黄)をキャリア濃度が1×1016cm-3以上1×1019cm-3以下となるように含んでもよく、Sn(錫)をキャリア濃度が1×1016cm-3以上1×1019cm-3以下となるように含んでもよく、Fe(鉄)をキャリア濃度が1×106cm-3以上1×109cm-3以下となるように含んでもよい。
【0019】
図2に、本発明の実施形態に係るリン化インジウム基板の断面模式図の一例を示す。本発明の実施形態に係るリン化インジウム基板は、ウエハエッジの断面において、図2に示すように長方形の角が削られて(面取りがなされて)、曲線状となっている。
【0020】
本発明の実施形態に係るリン化インジウム基板は、前記主面側の前記オリエンテーションフラットからの面取り幅W1が、90μm未満に制御されている。オリエンテーションフラットがウエハの向きを定めるための基準となるものであり、当該主面側のオリエンテーションフラットからの面取り幅W1が90μm未満であると、オリエンテーションフラットのウエハのアライメント精度が向上する。当該主面側のオリエンテーションフラットからの面取り幅W1は、60μm未満であるのが好ましく、30μm未満であるのがより好ましく、10μm未満であるのが更により好ましい。
【0021】
本発明の実施形態に係るリン化インジウム基板は、裏面側のオリエンテーションフラットからの面取り幅w2、主面側のエッジ部からの面取り幅w3、及び、裏面側のエッジ部からの面取り幅w4が、それぞれ90μm以上に制御されている。裏面側のオリエンテーションフラットからの面取り幅w2、主面側のエッジ部からの面取り幅w3、及び、裏面側のエッジ部からの面取り幅w4が、それぞれ90μm以上であると、チッピング等の不良の発生を良好に抑制することができる。裏面側のオリエンテーションフラットからの面取り幅w2、主面側のエッジ部からの面取り幅w3、及び、裏面側のエッジ部からの面取り幅w4は、それぞれ100μm以上であるのが好ましく、150μm以上であるのがより好ましく、200μm以上であるのが更により好ましい。裏面側のオリエンテーションフラットからの面取り幅w2、主面側のエッジ部からの面取り幅w3、及び、裏面側のエッジ部からの面取り幅w4の上限は、リン化インジウム基板における有効面積の観点から、600μm以下であるのが好ましく、300μm以下であるのがより好ましい。
【0022】
裏面側のオリエンテーションフラットからの面取り幅w2、主面側のエッジ部からの面取り幅w3、及び、裏面側のエッジ部からの面取り幅w4は、それぞれ互いに同じ数値であってもよく、互いに異なる数値であってもよい。また、裏面側のオリエンテーションフラットからの面取り幅w2と裏面側のエッジ部からの面取り幅w4とは、同じ数値であるのが、製造効率の観点から好ましい。また、主面側のエッジ部からの面取り幅w3、及び、裏面側のエッジ部からの面取り幅w4は、それぞれ、円盤状のリン化インジウム基板において、オリエンテーションフラット以外のエッジ部の全周に亘って形成されている。
【0023】
図3に、本発明の実施形態に係るリン化インジウム基板のオリエンテーションフラット側の断面模式図を示す。本発明の実施形態に係るリン化インジウム基板のオリエンテーションフラットは、裏面から傾斜した面、及び、裏面から傾斜した面が終了する位置から開始する曲率をもった面を有するのが好ましい。ここで、当該「裏面から傾斜した面が終了する位置から開始する曲率をもった面」は、図3に示すように、裏面から傾斜した面が終了する位置からオリエンテーションフラットの中央位置までの曲率をもった面であり、オリエンテーションフラットの円弧領域となる面である。このような構成により、オリエンテーションフラット全面が曲率をもった面である場合に比べて、傾斜した面がよりオリエンテーションフラットから離れた位置まで到達できるため、よりチッピングの発生を抑制することができる。
【0024】
また、本発明の実施形態に係るリン化インジウム基板の裏面側のエッジ部(オリエンテーションフラットを除くエッジ部)は、裏面から傾斜した面、及び、裏面から傾斜した面が終了する位置から開始する曲率をもった面を有するのが好ましい。当該「裏面から傾斜した面が終了する位置から開始する曲率をもった面」は、図3及び上述の通りである。このような構成により、裏面側のオリエンテーションフラット以外のエッジ部の全面が曲率をもった面である場合に比べて、傾斜した面がよりエッジ部から離れた位置まで到達できるため、よりチッピングの発生を抑制することができる。
【0025】
上述のオリエンテーションフラットまたはオリエンテーションフラットを除くエッジ部の裏面から傾斜した面、及び、裏面から傾斜した面が終了する位置から開始する曲率をもった面は、裏面側のオリエンテーションフラットからの面取り幅、及び、裏面側のエッジ部からの面取り幅が、それぞれ90μm以上である限り、適宜設計することができる。例えば、特に限定的ではないが、裏面から傾斜した面が、基板の厚みの5~20%を占めていてもよく、裏面から傾斜した面が終了する位置から開始する曲率をもった面の傾斜角は5~30°であってもよい。また、裏面から傾斜した面が終了する位置から開始する曲率をもった面の曲率半径Rは、特に限定的ではないが、100~300μmであってもよい。
【0026】
また、本発明の実施形態に係るリン化インジウム基板の主面側のエッジ部(オリエンテーションフラットを除くエッジ部)は、主面から傾斜した面、及び、主面から傾斜した面が終了する位置から開始する曲率をもった面を有するのが好ましい。当該「主面から傾斜した面が終了する位置から開始する曲率をもった面」は上述の通りである。このような構成により、主面側のオリエンテーションフラット以外のエッジ部の全面が曲率をもった面である場合に比べて、傾斜した面がよりエッジ部から離れた位置まで到達できるため、よりチッピングの発生を抑制することができる。当該主面から傾斜した面は、基板の厚みの5~20%を占めていてもよく、主面から傾斜した面の傾斜角は5~30°であってもよい。また、主面から傾斜した面が終了する位置から開始する曲率をもった面の曲率半径Rは、特に限定的ではないが、100~300μmであってもよい。
【0027】
〔リン化インジウム基板の製造方法〕
次に、本発明の実施形態に係るリン化インジウム基板の製造方法について説明する。
リン化インジウム基板の製造方法としては、まず、公知の方法にてリン化インジウムのインゴットを作製する。
次に、リン化インジウムのインゴットを研削して円筒にする。このとき、ウエハの外周部分の所定位置に、オリエンテーションフラット(OF)を形成する。
次に、研削したリン化インジウムのインゴットから主面及び裏面を有するウエハを切り出す。このとき、リン化インジウムのインゴットの結晶両端を所定の結晶面に沿って、ワイヤーソー等を用いて切断し、複数のウエハを所定の厚さに切り出す。
【0028】
次に、ワイヤーソーによる切断工程において生じた加工変質層を除去するために、切断後のウエハに対し、所定のエッチング液により、両面エッチングする(一次エッチング)。ウエハは、エッチング液中にウエハ全体を浸漬することで、エッチングすることができる。なお、当該一次エッチングは省略してもよい。
【0029】
次に、ウエハの外周部分の面取りを行う。ウエハの外周部分の面取りは、図4に示すように、ウエハを支持台に載せて支持台に吸着させた状態で回転させながら、ウエハと逆方向に回転する砥石をウエハの外周部分に当てて研削し、所望の形状に加工することで行う。砥石としては、#600~#2000の番手の砥石を用いることが好ましい。
【0030】
ここで、砥石によるウエハ外周部分の面取りの様子を示す模式図を図5に示す。図5はウエハの主面側の面取り、外周部分の研削、及び、裏面側の面取りの様子を示すためのイメージ図である。砥石のウエハへの当接部分の側面が図5に示すように中央のフラット面と、フラット面からそれぞれ上下方向に広がるように傾斜して延びる面(傾斜面)を有しており、当該傾斜面を利用してウエハの主面側及び裏面側の面取りを行っている。砥石は鉛直方向に固定されており、支持台によってウエハを上下に動かすことで、回転するウエハのエッジ部を研削している。ウエハのオリエンテーションフラットと、オリエンテーションフラット以外のエッジ部とでは、それぞれ砥石の傾斜面に対するウエハの当接位置を微細に変えることで、面取り幅の細かな制御を行うことができる。これにより、主面側のオリエンテーションフラットからの面取り幅W1を90μm未満と、裏面側のオリエンテーションフラットからの面取り幅W2、主面側のエッジ部からの面取り幅W3、及び、裏面側のエッジ部からの面取り幅W4を、それぞれ、90μm以上に制御することができる。また、オリエンテーションフラットまたはオリエンテーションフラット以外のエッジ部について、裏面から傾斜した面、及び、裏面から傾斜した面が終了する位置から開始する曲率をもった面を有する形状に加工することもできる。
【0031】
面取りの後、ウエハの少なくとも一方の表面、好ましくは両面を研磨(ポリッシング)してもよい。当該研磨工程はラッピング工程とも言われ、所定の研磨剤で研磨することで、ウエハの平坦性を保ったままウエハ表面の凹凸を取り除く。
【0032】
続いて、所定のエッチング液により、ウエハに対して両面エッチングする(二次エッチング)。ウエハは、前記エッチング液中にウエハ全体を浸漬することで、エッチングすることができる。
次に、ウエハの主面を鏡面研磨用の研磨材で研磨して鏡面に仕上げる。
次に、洗浄を行うことで、本発明の実施形態に係るリン化インジウム基板が製造される。
【0033】
〔半導体エピタキシャルウエハ〕
本発明の実施形態に係るリン化インジウム基板の主面に対し、公知の方法で半導体薄膜をエピタキシャル成長させることで、エピタキシャル結晶層を形成し、半導体エピタキシャルウエハを作製することができる。当該エピタキシャル成長の例としては、リン化インジウム基板の主面に、InAlAsバッファ層、InGaAsチャネル層、InAlAsスペーサ層、InP電子供給層をエピタキシャル成長させたHEMT構造を形成してもよい。このようなHEMT構造を有する半導体エピタキシャルウエハを作製する場合、一般には、鏡面仕上げしたリン化インジウム基板に、硫酸/過酸化水素水などのエッチング溶液によるエッチング処理を施して、基板表面に付着したケイ素(Si)等の不純物を除去する。このエッチング処理後のリン化インジウム基板の裏面をサセプターに接触させて支持した状態で、リン化インジウム基板の主面に、分子線エピタキシャル成長法(MBE:Molecular Beam Epitaxy)又は有機金属気相成長(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)によりエピタキシャル膜を形成する。
【実施例0034】
以下、本発明及びその利点をより良く理解するための実施例を提供するが、本発明はこれらの実施例に限られるものではない。
【0035】
(実施例1)
まず、所定の直径で育成したリン化インジウムの単結晶のインゴットを準備した。
次に、リン化インジウムの単結晶のインゴットの外周を研削し、円筒にした。このとき、ウエハの外周部分の所定位置に、オリエンテーションフラット(OF)を形成した。
【0036】
次に、研削したリン化インジウムのインゴットから主面及び裏面を有するウエハを切り出した。このとき、リン化インジウムのインゴットの結晶両端を所定の結晶面に沿って、ワイヤーソーを用いて切断し、複数のウエハを所定の厚さに切り出した。ウエハを切り出す工程では、ワイヤーを往復させながら常に新線を送り続けるとともに、リン化インジウムをワイヤーソーへ移動させた。ここで作製したウエハのウエハ径は、51.8mmであり、ウエハ厚さは350μmであった。
【0037】
次に、ワイヤーソーによる切断工程において生じた加工変質層を除去するために、切断後のウエハを85質量%のリン酸水溶液及び30質量%の過酸化水素水の混合溶液により、両面からエッチングした(一次エッチング)。ウエハは、エッチング液中にウエハ全体を浸漬することで、エッチングした。
【0038】
次に、ウエハの外周部分の面取りを行った。ウエハの外周部分の面取りは、図4に示すように、ウエハを支持台に載せて支持台に吸着させた状態で回転させながら、ウエハと逆方向に回転する砥石をウエハの外周部分に当てて研削することで行った。砥石のウエハへの当接部分の側面は、図5に示すように中央のフラット面と、フラット面からそれぞれ上下方向に広がるように傾斜して延びる面(傾斜面)を有しており、当該傾斜面を利用してウエハの主面側及び裏面側の面取りを行った。また、使用した砥石の番手は#1200であった。続いて、OF部分の面取りを行った。OF部分の面取りの場合、ウエハの直線性のあるOF部分と回転する砥石とが常に接触するように、砥石距離とウエハの支持台の上下位置を制御し、プログラミングし、シーケンス制御して実施した。OF部分の面取りでは、砥石の番手は#1200とした。このように直線性のあるOF部分の面取りを常に砥石とOF部分が接触して研磨し、その時の研磨量を制御性よく行うことで面取り幅W1を制御した。
【0039】
次に、面取り後のウエハの両面を研磨(ラッピング)した。このとき、研磨剤で研磨することで、ウエハの平坦性を保ったままウエハ表面の凹凸を取り除いた。
【0040】
次に、研磨後のウエハを85質量%のリン酸水溶液、30質量%の過酸化水素水及び超純水の混合溶液により、両面から合計8~15μm厚のエッチング量でエッチングした(二次エッチング)。ウエハは、前記エッチング液中にウエハ全体を浸漬することで、エッチングした。
【0041】
次に、ウエハの主面を鏡面研磨用の研磨材で研磨(ポリッシング)して鏡面に仕上げた後、洗浄することで、実施例1に係る、オリエンテーションフラットを有する円盤状のリン化インジウム基板を作製した。実施例1に係るリン化インジウム基板は、主面の最大径が50.8mmであり、厚さは350μmであった。
【0042】
(比較例1)
比較例1として、ウエハの外周部分の面取り工程について、面取り幅を表1に示す数値に制御した以外は、上述の実施例1と同様にしてオリエンテーションフラットを有する円盤状のリン化インジウム基板を作製した。
【0043】
(評価)
実施例1及び比較例1に係るリン化インジウム基板の側面を、ウエハエッジプロファイル計測装置(SPEED FAM社製Wafer Edge Profile Checker 型式EPRO-212EN V4)を用いて、倍率2倍にて測定した。測定結果を表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
次に、実施例1及び比較例1に係るリン化インジウム基板のオリエンテーションフラットを用いて、基板上方より光学顕微鏡を使用して位置合わせを実施する。その結果、実施例1に係るリン化インジウム基板は、基板の設置位置を正確に固定(アライメント)することができると考えられる。一方、比較例1に係るリン化インジウム基板は、光学顕微鏡で基板の位置合わせを行っても、OF部の面取り幅が大きく、正確にOFの端部に焦点を合わせることが難しく、基板の設置位置を正確に固定(アライメント)することができないと考えられる。
以上により、実施例1のように、主面側のオリエンテーションフラットからの面取り幅が90μm未満であると、オリエンテーションフラットを用いたウエハのアライメント精度が向上し、比較例1のように、主面側のオリエンテーションフラットからの面取り幅が90μm以上であると、オリエンテーションフラットを用いたウエハのアライメント精度が低下することがわかる。
また、実施例1に係るリン化インジウム基板は、裏面側のオリエンテーションフラットからの面取り幅W2、主面側のエッジ部からの面取り幅W3、及び、裏面側のエッジ部からの面取り幅W4が、それぞれ90μm以上であるため、チッピング発生が良好に抑制されることがわかる。
【0046】
本発明の一実施形態によれば、オリエンテーションフラットを用いたウエハのアライメント精度の向上とチッピング発生の抑制とを両立することができる。InP基板は光通信用の受発光素子等の材料として用いられる部材であるため、本発明の一実施形態は、光通信技術の高度化に寄与する可能性がある。このため、本発明の一実施形態は、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標9「強靭(レジリエント)なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの推進を図る」に貢献する可能性がある。
図1
図2
図3
図4
図5
【手続補正書】
【提出日】2024-12-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主面、裏面、及び、オリエンテーションフラットを有する円盤状のリン化インジウム基板であり、
前記主面側の前記オリエンテーションフラットからの面取り幅が33μm以上90μm未満であり、
前記裏面側の前記オリエンテーションフラットからの面取り幅、前記主面側のエッジ部からの面取り幅、及び、前記裏面側のエッジ部からの面取り幅が、それぞれ90μm以上である、リン化インジウム基板。
【請求項2】
前記主面側の前記オリエンテーションフラットからの面取り幅が33μm以上60μm未満であり、
前記裏面側の前記オリエンテーションフラットからの面取り幅、前記主面側のエッジ部からの面取り幅、及び、前記裏面側のエッジ部からの面取り幅が、それぞれ100μm以上である、請求項1に記載のリン化インジウム基板。
【請求項3】
前記オリエンテーションフラットは、
前記裏面から傾斜した面、及び、
前記裏面から傾斜した面が終了する位置から開始する曲率をもった面
を有する、請求項1に記載のリン化インジウム基板。
【請求項4】
前記裏面側のエッジ部は、
前記裏面から傾斜した面、及び、
前記裏面から傾斜した面が終了する位置から開始する曲率をもった面
を有する、請求項1に記載のリン化インジウム基板。
【請求項5】
前記主面側のエッジ部は、
前記主面から傾斜した面、及び、
前記主面から傾斜した面が終了する位置から開始する曲率をもった面
を有する、請求項1に記載のリン化インジウム基板。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のリン化インジウム基板と、前記リン化インジウム基板の主面に設けられたエピタキシャル結晶層と、を有する、半導体エピタキシャルウエハ。