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特開2025-154920直交変調装置、スプリアス補正方法及び直交変調の補正方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025154920
(43)【公開日】2025-10-10
(54)【発明の名称】直交変調装置、スプリアス補正方法及び直交変調の補正方法
(51)【国際特許分類】
   H04L 27/36 20060101AFI20251002BHJP
【FI】
H04L27/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024058206
(22)【出願日】2024-03-29
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り https://pub.confit.atlas.jp/ja/event/general2024/login?m=presentation_pdf&redirectUrl=%252Fja%252Fevent%252Fgeneral2024%252Fsession%252F3L10109-18 令和6年2月26日 2024年電子情報通信学会総合大会 国立大学法人広島大学 東広島キャンパス(広島県東広島市鏡山一丁目3番2号) 令和6年3月7日(開催期間:令和6年3月4日~令和6年3月8日)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 共創の場形成支援(共創の場形成支援プログラム)「量子ソフトウェア研究に関する国立大学法人大阪大学による研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森榮 真一
(72)【発明者】
【氏名】塩見 英久
(57)【要約】      (修正有)
【課題】回路構成に制限されずに変調波のスプリアスを良好な精度で測定できる直交変調装置、スプリアス補正方法及び直交変調の補正方法を提供する。
【解決手段】量子コンピュータ10において、直交変調装置12は、変調部17及び測定部18を有し、変調部17は、直交変調されたTX1信号を出力する第1直交変調部21、直交変調されたTX2信号を出力する第2直交変調部22を有する。TX1信号、TX2信号は、互いに同じ周波数の所望波を含む。TX1信号及びTX2信号のイメージ成分、ローカルリークを測定部18で測定する際に、TX1信号の所望波とTX2信号の所望波が互いに同じ振幅で逆位相となるように調整され、TX1信号とTX2信号との合成波からイメージ成分、ローカルリークを測定する。測定部18のダウンコンバータ53は、混合器53a及びフラクショナルN型PLL回路からなる第3ローカル発振器53bで構成される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のI信号及び第1のQ信号を用いて第1搬送波を直交変調した第1変調波を出力する第1直交変調部と、第2のI信号及び第2のQ信号を用いて、前記第1搬送波と周波数が異なる第2搬送波を直交変調し、所望波の周波数が前記第1変調波の所望波の周波数と一致するとともにイメージ成分の周波数が前記第1変調波のイメージ成分の周波数と異なる第2変調波を出力する第2直交変調部とを有する変調部と、
前記第1変調波、前記第2変調波または前記第1変調波と前記第2変調波との合成波が対象波として入力され、前記対象波の周波数を下げるダウンコンバータ、前記ダウンコンバータから出力される信号をデジタル変換するAD変換器及び前記AD変換器の出力に基づいて前記対象波を測定する信号処理部を含む測定部と
を備え、
前記変調部は、前記測定部が前記合成波から前記第1変調波のスプリアスを測定する際に、各所望波の振幅が等しくかつ所望波間で逆位相となる前記第1変調波と前記第2変調波とをそれぞれ出力し、前記合成波における前記第1変調波と前記第2変調波の所望波を抑圧し、
前記ダウンコンバータは、局部信号を出力するフラクショナルN型PLL回路と、前記対象波に前記局部信号を混合する混合器とを有する
ことを特徴とする直交変調装置。
【請求項2】
前記変調部は、前記第1変調波と前記第2変調波の各所望波の振幅を等しくしかつ所望波間で逆位相とする所望波抑圧用補正値を算出する際に、振幅を減少した前記第1のI信号及び前記第1のQ信号を前記第1直交変調部に入力することで得られる振幅が減少した前記第1変調波と、振幅を減少した前記第2のI信号及び前記第2のQ信号を前記第2直交変調部に入力することで得られる振幅が減少した前記第2変調波とを択一的に出力し、
前記信号処理部は、前記変調部から前記第1変調波のみが出力されている間に前記第1変調波の所望波の振幅と位相とを測定した測定値と、前記第2変調波のみが出力されている間に前記第2変調波の所望波の振幅と位相とを測定した測定値とから前記所望波抑圧用補正値を算出し、前記測定部が前記合成波から前記第1変調波のスプリアスを測定する際に、前記所望波抑圧用補正値によって前記第1のI信号及び前記第1のQ信号と前記第2のI信号及び前記第2のQ信号とを相対的に補正する
ことを特徴とする請求項1に記載の直交変調装置。
【請求項3】
前記第1変調波を外部に出力する際に、第1補正値に基づいて前記第1のI信号及び前記第1のQ信号を補正する補正部を備え、
前記信号処理部は、前記第1変調波と前記第2変調波の所望波が抑圧された前記合成波から測定した前記第1変調波のイメージ成分及びローカルリークの振幅及び位相角を含む測定値に基づいて、前記第1変調波のイメージ成分及びローカルリークの信号強度を小さくするように、前記第1のI信号及び前記第1のQ信号を補正する前記第1補正値を求める
ことを特徴とする請求項1または2に記載の直交変調装置。
【請求項4】
前記補正部は、前記第2変調波を外部に出力する際に、第2補正値に基づいて前記第2のI信号及び前記第2のQ信号を補正し、
前記信号処理部は、さらに前記第1変調波と前記第2変調波の所望波が抑圧された前記合成波から測定した前記第2変調波のイメージ成分及びローカルリークの振幅及び位相角を含む測定値に基づいて、前記第2変調波のイメージ成分及びローカルリークの信号強度を小さくするように、前記第2のI信号及び前記第2のQ信号を補正する前記第2補正値を求める
ことを特徴とする請求項3に記載の直交変調装置。
【請求項5】
第1のI信号及び第1のQ信号を用いて第1搬送波を直交変調した第1変調波を出力する第1変調波出力工程と、
第2のI信号及び第2のQ信号を用いて第2搬送波を直交変調し、所望波が前記第1変調波の所望波の周波数と一致しかつ逆位相となるとともに、イメージ成分の周波数が前記第1変調波のイメージ成分の周波数と異なる第2変調波とを出力する第2変調波出力工程と、
前記第2変調波の所望波の振幅を通常の振幅となるまで段階的に増加させる振幅増加工程と、
前記第2変調波の所望波の振幅が増加するごとに、前記第1変調波と前記第2変調波とを合波した合成波中の前記第1変調波と前記第2変調波の所望波同士が打ち消されるように前記第1のI信号及び前記第1のQ信号を補正する所望波補正工程と、
前記所望波補正工程によって前記第1のI信号及び前記第1のQ信号を補正するごとに、所望波同士が打ち消された合成波中の前記第1変調波のイメージ成分及びローカルリークを測定するスプリアス測定工程と、
前記スプリアス測定工程によってイメージ成分及びローカルリークを測定するごとに、前記合成波中の前記第1変調波のイメージ成分及びローカルリークを測定した測定結果に基づいて、前記第1変調波のイメージ成分及びローカルリークの信号強度を小さくするように、前記第1のI信号及び前記第1のQ信号を補正する補正値を求める補正値算出工程と
を有し、
少なくとも前記第2変調波の所望波が通常の振幅となる前は、前記補正値が得られるごとに、得られた前記補正値によって前記第1のI信号及び前記第1のQ信号を補正して前記第1変調波を出力させ、前記第2変調波の所望波が通常の振幅であるときに得られる前記補正値を、前記第1変調波を外部に出力する際に前記第1のI信号及び前記第1のQ信号を補正する第1補正値とする
ことを特徴とするスプリアス補正方法。
【請求項6】
請求項5に記載のスプリアス補正方法によって得られる前記第1補正値に基づいて、前記第1変調波を外部に出力する際の前記第1のI信号及び前記第1のQ信号を補正する補正工程を有する
ことを特徴とする直交変調の補正方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直交変調装置、スプリアス補正方法及び直交変調の補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
I(同相)信号とQ(直交位相)信号を用いて搬送波を直交変調する直交変調器(IQ変調器)が知られている。直交変調では、同一の周波数で位相が90°異なる2つの搬送波の一方をI信号で変調し他方をQ信号で変調したものを加算した1つの変調波として出力する。
【0003】
直交変調器では、スプリアス(不要波)としてイメージ成分とローカルリークが変調波に含まれることが知られており、これらは直交変調器における位相誤差、振幅誤差により発生する。直交変調器において、それらの発生を避けることは困難であるため、信号強度を小さくするように補正している。例えば、特許文献1には、イメージ成分を補正する構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-208091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、直交変調した変調波に含まれるイメージ成分とローカルリークとを補正する場合には、ダウンコンバータやAD変換器などで構成される測定部において変調波をサンプリングして、イメージ成分とローカルリークとをそれぞれ定量する必要がある。一方で、変調波には、イメージ成分とローカルリーク以外に、それらに比べてかなり信号強度の強い所望波が含まれている。このため、検出部において、所定の精度をもって良好にイメージ成分とローカルリークとをそれぞれ定量する場合に、例えば信号強度の大きな所望波までをカバーするように、信号電力について広いダイナミックレンジのダウンコンバータ、信号強度に対する解像度やサンプリング周波数が高いAD変換器等のように性能が高い回路構成が必要である。サンプリング周波数が高いAD変換器は、電力消費が大きいという問題がある。
【0006】
本発明は、回路構成に制限されずに変調波のスプリアスを良好な精度で測定できる直交変調装置、スプリアス補正方法及び直交変調の補正方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の直交変調装置は、第1のI信号及び第1のQ信号を用いて第1搬送波を直交変調した第1変調波を出力する第1直交変調部と、第2のI信号及び第2のQ信号を用いて、第1搬送波と周波数が異なる第2搬送波を直交変調し、所望波の周波数が第1変調波の所望波の周波数と一致するとともにイメージ成分の周波数が第1変調波のイメージ成分の周波数と異なる第2変調波を出力する第2直交変調部とを有する変調部と、第1変調波、第2変調波または第1変調波と第2変調波との合成波が対象波として入力され、対象波の周波数を下げるダウンコンバータ、ダウンコンバータから出力される信号をデジタル変換するAD変換器及びAD変換器の出力に基づいて対象波を測定する信号処理部を含む測定部とを備え、変調部は、測定部が合成波から第1変調波のスプリアスを測定する際に、各所望波の振幅が等しくかつ所望波間で逆位相となる第1変調波と第2変調波とをそれぞれ出力し、合成波における第1変調波と第2変調波の所望波を抑圧し、ダウンコンバータは、局部信号を出力するフラクショナルN型PLL回路と、対象波に局部信号を混合する混合器とを有するものである。
【0008】
本発明のスプリアス補正方法は、第1のI信号及び第1のQ信号を用いて第1搬送波を直交変調した第1変調波を出力する第1変調波出力工程と、第2のI信号及び第2のQ信号を用いて第2搬送波を直交変調し、所望波が第1変調波の所望波の周波数と一致しかつ逆位相となるとともに、イメージ成分の周波数が第1変調波のイメージ成分の周波数と異なる第2変調波とを出力する第2変調波出力工程と、第2変調波の所望波の振幅を通常の振幅となるまで段階的に増加させる振幅増加工程と、第2変調波の所望波の振幅が増加するごとに、第1変調波と第2変調波とを合波した合成波中の第1変調波と第2変調波の所望波同士が打ち消されるように第1のI信号及び第1のQ信号を補正する所望波補正工程と、所望波補正工程によって第1のI信号及び第1のQ信号を補正するごとに、所望波同士が打ち消された合成波中の第1変調波のイメージ成分及びローカルリークを測定するスプリアス測定工程と、スプリアス測定工程によってイメージ成分及びローカルリークを測定するごとに、合成波中の第1変調波のイメージ成分及びローカルリークを測定した測定結果に基づいて、第1変調波のイメージ成分及びローカルリークの信号強度を小さくするように、第1のI信号及び第1のQ信号を補正する補正値を求める補正値算出工程とを有し、少なくとも第2変調波の所望波が通常の振幅となる前は、補正値が得られるごとに、得られた補正値によって第1のI信号及び第1のQ信号を補正して第1変調波を出力させ、第2変調波の所望波が通常の振幅であるときに得られる補正値を、第1変調波を外部に出力する際に第1のI信号及び第1のQ信号を補正する第1補正値とするものである。
【0009】
本発明の直交変調の補正方法は、上記スプリアス補正方法によって得られる第1補正値に基づいて、第1変調波を外部に出力する際の第1のI信号及び第1のQ信号を補正する補正工程を有するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の直交変調装置によれば、直交変調された第1変調波のスプリアスを測定する際に、第1変調波の所望波と同じ周波数であって逆位相となる第2変調波を第1変調波と合波し、所望波同士が互いに打ち消しあった合成波を生成し、その合成波にフラクショナルN型PLL回路からの局部信号を混合してダウンコンバートして測定する。合成波の周波数に局部信号を簡単な回路構成で近づけることができ、周波数変換した後の合成波の周波数をより低くできるので、サンプリング周波数が低いAD変換器によって、省電力化を図りながらスプリアスを良好な精度で測定できる。
【0011】
また、本発明のスプリアス補正方法及び直交変調の補正方法によれば、直交変調された第1変調波のスプリアスを測定する際に、第1変調波の所望波と同じ周波数であって逆位相となる第2変調波を第1変調波と合波し、所望波同士が互いに打ち消しあった合成波を生成し、その合成波からスプリアスを測定するため、スプリアスを良好な精度で測定できる。また、第1変調波の振幅を通常モード時の振幅に向かって段階的に変化させながら測定しているため、スプリアスを良好に抑圧する第1補正値が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態に係る直交変調装置を備える量子コンピュータの構成を示すブロック図である。
図2】直交変調器の構成を示すブロック図である。
図3】量子コンピュータの動作モードの遷移を示す説明図である。
図4】所望波が抑圧された合成波の周波数スペクトルを模式的に示す説明図である。
図5】TX1信号、TX2信号の振幅が通常の大きさとなるまで段階的に増加させて調整を行う例におけるTX1信号についての手順の概略を示すフローチャートである。
図6】調整前のTX1信号の周波数成分の分布を示すグラフである。
図7】調整後のTX1信号の周波数成分の分布を示すグラフである。
図8】調整途中のTX1信号の周波数成分の分布を示すグラフある。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1において、量子コンピュータ10は、量子コンピュータ本体部(以下、単に本体部と称する)11、送信部としての直交変調装置12、受信部13、直交変調装置12を含む量子コンピュータ10の各部を制御する制御部14を備えている。量子コンピュータ10は、直交変調装置12と受信部13とからなる送受信機を介して、制御部14からの演算指示等の制御信号を本体部11に与え、また受信部13を介して、本体部11の演算結果等を制御部14が取得する。直交変調装置12は、変調部17、測定部18及びセレクタ19を有している。
【0014】
変調部17は、第1直交変調部21、第2直交変調部22、補正部23、校正信号発生部24から構成される。第1直交変調部21は、第1のI信号としてのI信号、第1のQ信号としてのQ信号で第1搬送波を直交変調した第1変調波としてのTX1信号を出力する。第2直交変調部22は、第2のI信号としてのI信号、第2のQ信号としてのQ信号で第2搬送波を直交変調した第2変調波としてのTX2信号を出力する。
【0015】
直交変調装置12は、動作モードとして、通常モードと調整モードとを有している。通常モードは、制御部14からの演算指示を本体部11に与え、本体部11が演算結果を読み出すモードである。この通常モードでは、制御部14がI信号、Q信号、I信号、Q信号を出力し、補正部23を介して、そのうちのI信号、Q信号が第1直交変調部21に、I信号、Q信号が第2直交変調部22に入力される。通常モードでは、変調部17から出力されるTX1信号、TX2信号を、変調部17の外部である本体部11に出力する。
【0016】
一方、調整モードは、TX1信号、TX2信号にそれぞれスプリアスとして含まれるイメージ成分及びローカルリークを測定し、イメージ成分及びローカルリークを小さくするための補正値を算出するモードである。この調整モードでは、校正信号発生部24から校正用のI信号、Q信号、I信号、Q信号が出力され、これらのうちのI信号、Q信号が第1直交変調部21に、I信号、Q信号が第2直交変調部22に入力される。調整モードでは、変調部17から出力されるTX1信号、TX2信号を測定部18に出力する。
【0017】
調整モードは、後述する合成波からTX1信号、TX2信号のイメージ成分とローカルリークとの測定を行い、その測定値を含む測定結果に基づいて、通常モードで出力されるTX1信号、TX2信号のイメージ成分とローカルリークを抑圧するための補正値の算出を行う補償処理を行う。また、起動直後の初回(1回目)の調整モードでは、補償処理に先だって、合成波において所望波を抑圧すなわちTX1信号とこれと逆位相となるTX2信号の所望波を重ねて互いに打ち消すための調整(以下、初期調整という)を行う。2回目以降の調整モードでは、温度変化等に対応してイメージ成分とローカルリークを抑圧するための補正値を更新する。
【0018】
セレクタ19は、変調部17からのTX1信号とTX2信号との出力先を動作モードに応じて、本体部11と測定部18との間で切り換える。すなわち、セレクタ19は、通常モードでは、TX1信号とTX2信号とを本体部11に出力し、調整モードでは、TX1信号とTX2信号とを測定部18に出力する。
【0019】
制御部14は、デジタル信号のI信号及びQ信号と、I信号及びQ信号とを出力する。制御部14から出力されるI信号は、Iチャネルのビット情報をIチャネルキャリア信号で変調したものであり、Q信号は、Qチャネルのビット情報を、Qチャネルキャリア信号で変調したものである。Qチャネルキャリア信号は、Iチャネルキャリア信号と同じ周波数であって位相が90°異なる(遅れている)。制御部14からのI信号、Q信号についても同様であり、I信号は、Iチャネルのビット情報をIチャネルキャリア信号で変調したものであり、Q信号は、Qチャネルのビット情報を、Iチャネルキャリア信号と周波数が同じであって位相が90°異なるQチャネルキャリア信号で変調したものである。
【0020】
チャネルキャリア信号をI01、Qチャネルキャリア信号をQ01、Iチャネルキャリア信号をI02、Qチャネルキャリア信号をQ02として、またIチャネルキャリア信号及びQチャネルキャリア信号の周波数をfIQ1、Iチャネルキャリア信号及びQチャネルキャリア信号の周波数をfIQ2としたときに、Iチャネルキャリア信号及びQチャネルキャリア信号と、Iチャネルキャリア信号及びQチャネルキャリア信号とは、式(1)のように表される。なお、式(1)中の値Pは、チャネルキャリア信号の振幅を示す定数である。この例では、Iチャネルキャリア信号、Qチャネルキャリア信号の振幅と、Iチャネルキャリア信号、Qチャネルキャリア信号の振幅とを同じにしているが、異なっていてもよい。
【0021】
【数1】
・・・(1)
【0022】
校正信号発生部24からもデジタル信号のI信号及びQ信号と、I信号及びQ信号とが出力される。この校正信号発生部24が出力するI信号及びQ信号と、I信号及びQ信号との詳細については後述する。
【0023】
第1直交変調部21は、セレクタ31、DA変換器32a、32b、第1ローカル発振器33、第1直交変調器34から構成される。セレクタ31は、補正部23と校正信号発生部24との一方を選択し、選択した回路からのI信号及びQ信号をDA変換器32a、32bに入力する。このセレクタ31は、通常モードでは、補正部23を選択して、調整モードでは校正信号発生部24を選択する。DA変換器32aは、入力されるデジタル信号のI信号をアナログ信号に変換し、DA変換器32bは、入力されるデジタル信号のQ信号をアナログ信号に変換する。DA変換器32a、32bから出力されるI信号及びQ信号は、第1直交変調器34に入力される。
【0024】
第1ローカル発振器33は、第1搬送波を発生して、これを第1直交変調器34に入力する。第1直交変調器34は、図2に示すように、乗算器34a、34b、加算器34c、第1搬送波の位相を90°遅らせる90°移相器34d等で構成されている。第1直交変調器34では、乗算器34aがI信号と第1搬送波とを乗算することによって第1搬送波をI信号で変調したIチャネル変調信号を生成し、乗算器34bがQ信号と90°移相器34dからの第1搬送波とを乗算することによってその第1搬送波をQ信号で変調したQチャネル変調信号を生成する。これらのIチャネル変調信号とQチャネル変調信号とが加算器34cで加算されることにより、I信号、Q信号を用いて第1搬送波を直交変調したTX1信号が生成される。
【0025】
図1に示されるように、第2直交変調部22は、セレクタ41、DA変換器42a、42b、第2ローカル発振器43、第2直交変調器44から構成される。第2直交変調部22は、第1直交変調部21の構成と同様である。すなわち、セレクタ41は、通常モードでは、補正部23を選択し、調整モードでは校正信号発生部24を選択し、選択した回路からのI信号及びQ信号をDA変換器42a、42bに出力する。DA変換器42a、42bは、入力されるI信号、Q信号をアナログ信号に変換して第2直交変調器44に入力する。第2ローカル発振器43は、第2搬送波を発生して、これを第2直交変調器44に入力する。
【0026】
第2直交変調器44の構成は、第1直交変調器34と同様であるので、図示を省略する。第2直交変調器44では、第2搬送波をI信号で変調したIチャネル変調信号を生成し、90°位相を遅らせた第2搬送波をQ信号で変調したQチャネル変調信号を生成し、これらのIチャネル変調信号とQチャネル変調信号とを加算する。これにより、I信号、Q信号を用いて第2搬送波を直交変調したTX2信号を生成する。
【0027】
第1搬送波、第2搬送波の各周波数、Iチャネルキャリア信号及びQチャネルキャリア信号の周波数、Iチャネルキャリア信号及びQチャネルキャリア信号の周波数は、TX1信号とTX2信号の所望波の周波数が互いに一致し、ローカルリーク同士の周波数が互いに異なり、かつ各イメージ成分の周波数が互いに異なるように決められている。
【0028】
したがって、第1搬送波の周波数をfLO1、第2搬送波の周波数をfLO2としたときに、これらの周波数fLO1、fLO2と、Iチャネルキャリア信号及びQチャネルキャリア信号の周波数fIQ1、Iチャネルキャリア信号及びQチャネルキャリア信号の周波数fIQ2は、「fLO1-fIQ1=fLO2-fIQ2」を満たすように決められている。すなわち、TX1信号の所望波とTX2信号の所望波とを同一周波数にしている。これは、測定部18においてイメージ成分とローカルリークを測定する際に、TX1信号とTX2信号の逆位相とした各所望波を重ねて互いに打ち消すためである。また、TX1信号とTX2信号のイメージ成分同士とローカルリーク同士が干渉することなく各イメージ成分、各ローカルリークを測定できるようにするために、「fLO1≠fLO2」「fLO1+fIQ1≠fLO2+fIQ2」を満たすように決められている。
【0029】
この例では、Iチャネルキャリア信号に対してQチャネルキャリア信号の位相が90°遅れ、Iチャネルキャリア信号に対してQチャネルキャリア信号の位相が90°遅れているものであって、TX1信号、TX2信号の所望波の周波数が「fLO1-fIQ1」、「fLO2-fIQ2」となる場合について説明しており、上記の周波数の条件も、そのような場合のものである。TX1信号、TX2信号の所望波の周波数を「fLO1+fIQ1」、「fLO2+fIQ2」とした場合、すなわちIチャネルキャリア信号に対してQチャネルキャリア信号の位相を90°進め、Iチャネルキャリア信号に対してQチャネルキャリア信号の位相を90°進めている場合には、「fLO1+fIQ1=fLO2+fIQ2」、「fLO1≠fLO2」「fLO1-fIQ1≠fLO2-fIQ2」を満たすように各周波数が決められる。
【0030】
チャネルキャリア信号に対してQチャネルキャリア信号の位相を90°進めてTX1信号の所望波の周波数を「fLO1+fIQ1」とし、Iチャネルキャリア信号に対してQチャネルキャリア信号の位相を90°遅らせてTX2信号の所望波の周波数を「fLO2-fIQ2」として、「fLO1+fIQ1=fLO2-fIQ2」、「fLO1≠fLO2」「fLO1-fIQ1≠fLO2+fIQ2」となるように各周波数を決めてもよい。また、Iチャネルキャリア信号に対してQチャネルキャリア信号の位相を90°遅らせてTX1信号の所望波の周波数を「fLO1-fIQ1」とし、Iチャネルキャリア信号に対してQチャネルキャリア信号の位相を90°進めてTX2信号の所望波の周波数を「fLO2+fIQ2」として、「fLO1-fIQ1=fLO2+fIQ2」、「fLO1≠fLO2」「fLO1+fIQ1≠fLO2-fIQ2」となるように各周波数を決めてもよい。
【0031】
補正部23は、通常モード時に、制御部14からのI信号、Q信号、I信号、Q信号(以下、II1信号、QQ1信号、II2信号、QQ2信号と称する)を補正して、補正されたI信号、Q信号、I信号、Q信号をセレクタ31、41を介して、DA変換器32a、32b、42a、42bに入力する。補正部23には、調整モードにおいて、測定部18によって第1補正値と第2補正値とがセットされる。補正部23は、第1補正値に基づいて制御部14からのII1信号、QQ1信号を補正し、第2補正値に基づいて制御部14からのII2信号、QQ2信号を補正する。第1補正値、第2補正値には、それぞれイメージ成分を抑圧するためのイメージ補正値と、ローカルリークを抑圧するためのオフセット値とがある。これにより、直交変調における振幅誤差、位相誤差を低減し、TX1信号、TX2信号のそれぞれのイメージ成分、ローカルリークを良好に抑圧する。
【0032】
補正部23による補正は、式(2)のように表される。式(2)中の「H1,N+1」、「OF1,N+1」は、N+1回目(Nは、0、1、2、・・・)の補償処理で得られる第1補正値のイメージ補正値、オフセット値を示す行列である。また、「H2,N+1」、「OF2,N+1」は、N+1回目の補償処理で得られる第2補正値のイメージ補正値、オフセット値を示す行列である。なお、イメージ補正値H1,N+1、H2,N+1は4行4列の行列であり、オフセット値OF1,N+1、OF2,N+1は、2行1列の行列である。
【0033】
【数2】
・・・(2)
【0034】
校正信号発生部24は、調整モードの際に、位相や振幅等を調整したI信号、Q信号、I信号、Q信号を出力する。詳細は後述するが、校正信号発生部24は、信号強度が測定部18においてオーバーレンジとなることを防止、すなわち入力される信号強度、信号電力が測定部18の測定範囲に収まるようにするためにI信号、Q信号、I信号、Q信号の振幅(信号強度)を減少させたり、イメージ成分を意図的に強調(抑圧しないように)したり、ローカルリークを意図的に発生させたりするようにI信号、Q信号、I信号、Q信号の位相を調整したりDC(直流成分)としたりする機能を有する。例えば、TX1信号とTX2信号との合成波におけるイメージ成分やローカルリークを測定する際には、校正信号発生部24は、TX1信号とTX2信号との所望波同士を打ち消し合うように調整されたI信号、Q信号、I信号、Q信号を出力する。I信号、Q信号、I信号、Q信号の振幅の減少は、通常モード時の最大振幅よりも小さくすることである。
【0035】
測定部18は、コンバイナ51、増幅器52、ダウンコンバータ53、AD変換器54、信号処理部55を備える。コンバイナ51は、第1直交変調部21及び第2直交変調部22のそれぞれについてインピーダンス整合をとりながら、それらからのTX1信号とTX2信号とを合成する。この例におけるコンバイナ51は、2つの入力ポートに抵抗51aをそれぞれ接続し、2つの抵抗51aの接続点が出力ポートになっているものである。この例の抵抗51aは、抵抗値が50Ωである。
【0036】
コンバイナ51の2つの入力ポートには、セレクタ19を介して第1直交変調部21及び第2直交変調部22が接続されている。コンバイナ51は、2つの入力ポートの一方にTX1信号が他方にTX2信号が入力されることによって、出力ポートからTX1信号とTX2信号とを合成(合波)した合成波(合波信号)を出力する。なお、コンバイナ51にTX1信号とTX2信号とのいずれか一方のみが入力された場合には、その入力された信号のみが出力ポートから出力される。以下、コンバイナ51から出力される信号(合成波、TX1信号、TX2信号)を特に区別しない場合には対象波と総称する。
【0037】
コンバイナ51の出力ポートには、増幅器52が接続されている。増幅器52は、コンバイナ51から出力される対象波を増幅して、ダウンコンバータ53に出力する。ダウンコンバータ53は、混合器53a、第3ローカル発振器53b等で構成されており、対象波と第3ローカル発振器53bからのダウンコンバート用の局部信号とを混合器53aで混合することにより、対象波をより低い周波数に変換する。AD変換器54は、ダウンコンバータ53で周波数変換された対象波をデジタル信号に変換する。AD変換器54でデジタル化された対象波は、信号処理部55に送られる。
【0038】
第3ローカル発振器53bとしては、例えばPLL(Phase-Locked Loop)を用いるが、この例ではフラクショナルN型PLL回路(分数分周型PLL回路)を用いている。フラクショナルN型PLL回路は、出力信号(局部信号)をフラクショナル分周器によって分数分周したフィードバック信号と基準信号との位相差に基づいて、出力信号をフィードバック制御することで、基準信号の周波数を小数精度で逓倍した出力信号を生成することができる。
【0039】
フラクショナルN型PLL回路を第3ローカル発振器53bに用いることによって、混合器53aで対象波とミキシングされる局部信号の周波数を高い分解能で調節することができる。このため、簡単な回路構成によって、局部信号の周波数を対象波におけるスプリアスの周波数により近づけることができる。これにより、ダウンコンバート後のスプリアスの周波数を効果的に下げることができ、より低速動作すなわちサンプリング周波数がより低いAD変換器54を用いて、後述するようにスプリアスを良好な精度で測定できる。低速動作のAD変換器54を用いることは、低コスト化、省電力化を図るうえでも有利であり、多数の量子ビットを有する量子コンピュータ10にも適している。
【0040】
フラクショナル分周器における分周比の整数分周比をN、分数分周比をF/Mとし、位相比較器に入力される基準信号の周波数をFref、PLL回路(電圧制御発振器)から出力される高周波信号の周波数をfoutとした場合、「fout=(N+F/M)・Fref」が成り立つ。また、AD変換器54に入力される信号の周波数をfADC、コンバート前のスプリアスの周波数をfとすれば、「fADC=f-fout」となる。例えば、所望波のスプリアスの周波数が8.912GHz、基準信号の周波数を100MHzとした場合、整数分周比Nを「88」、分数分周比F/Mを「31/32」とすれば、スプリアスの周波数を15MHz程度にまで下げることができる。この結果、例えばサンプリング周波数が100MHz程度のAD変換器54を用いて、スプリアスを良好な精度で測定できる。
【0041】
第3ローカル発振器53bとして用いるフラクショナルN型PLL回路は、アナログPLL回路、デジタルPLL回路のいずれでもよい。また、直交変調装置12では、所望波を抑圧し、またスプリアスを抑制するように補償を行って、最終的に対象波をゼロ電圧とするため、フラクショナルN型PLL回路からのフラクショナルスプリアスの発生を許容することができる。したがって、第3ローカル発振器53bとして、省スペース、安価、低消費電力で細かい分解能の周波数を生成できる一方でフラクショナルスプリアスを発生するフラクショナルN型PLL回路を用いることができる。
【0042】
合成波のローカルリーク、イメージ成分を測定する際には、上述のようにTX1信号、TX2信号の各所望波を互いに打ち消すように、校正信号発生部24がI信号、Q信号、I信号、Q信号を調整して出力する。また、TX1信号、TX2信号を択一的に出力して個々の所望波、ローカルリーク、イメージ成分を測定する際には、TX1信号、TX2信号の振幅を小さくするように、校正信号発生部24がI信号、Q信号、I信号、Q信号を調整する。このため、ダウンコンバータ53は、信号強度が大きいすなわち信号電力が大きい所望波を含む対象波を変換対象とする必要がなく、信号電力についてダイナミックレンジが狭いものを用いることができる。また、AD変換器54は、信号強度が大きい所望波を含む対象波をデジタル変換の対象としないため、通常の所望波を含む対象波を変換する場合と比べて必要とする変換精度に対する分解能を小さくできる。
【0043】
上記のように、この直交変調装置12では、ダウンコンバータ53、AD変換器54の性能に制限されずにスプリアスを良好な精度で測定できる。また、ダイナミックレンジが狭いダウンコンバータ53や、分解能が低いまたサンプリングレートが低いAD変換器54を用いることは、回路構成を簡素化、省電力化するうえで有利であり、また製造コストを低くするうえでも有利である。
【0044】
さらには、ダウンコンバータのダイナミックレンジが広いことは、換言すれば主として回路熱雑音からなるノイズフロアレベルと最大の信号レベルとの差が大きい(SN比が高い)ことを意味する。従来では、例えば測定対象の信号を所定の積算時間で積算することによりノイズを平均化して回路熱雑音の影響を小さくし、測定精度を向上させる場合がある。SN比が高い場合には、積算時間を減らしても、所定の測定精度を得ることができる。これに対して、この例では、合成波における所望波を抑圧しているため、上記のように、ダイナミックレンジが狭いダウンコンバータ53及び小さな分解能のAD変換器54という簡素な回路構成でありながらスプリアスに対して精度の高い測定が実現されている。
【0045】
信号処理部55は、入力される対象波に対して、同期検波を含む各種処理を行って、対象波中の所望波、イメージ成分、ローカルリークの振幅、位相角を測定する。信号処理部55が初期調整において測定する測定値としては、TX1信号についての所望波の振幅A、位相角θ1d、意図的にイメージ成分を強調した状態でのTX1信号のイメージ成分の位相角θ1i、TX2信号についての所望波の振幅A、位相角θ2d、意図的にイメージ成分を強調した状態でのTX2信号のイメージ成分の位相角θ2i、意図的にローカルリークを発生させたTX1信号のローカルリークの振幅β、位相角ζ、TX2信号のローカルリークの振幅β、位相角ζがある。なお、信号処理部55が測定する位相角は、測定部18において定められた不変的な1つの基準に対するものである。
【0046】
また、信号処理部55がN+1回目の補償処理おいて測定する測定値としては、TX1信号のイメージ成分の振幅γ1,N、位相角η1,N、TX2信号のイメージ成分の振幅γ2,N、位相角η2,N、TX1信号のローカルリークの振幅a1,N、位相角λ1,N、TX2信号のイメージ成分の振幅a2,N、位相角λ2,Nがあり、これらは所望波を抑圧した合成波より測定する。
【0047】
信号処理部55は、初期調整では、測定値に基づいて、合成波の所望波を抑圧するためのI信号及びQ信号、I信号及びQ信号を補正する所望波抑圧用補正値を求め、これを校正信号発生部24にセットする。合成波を生成する際には、校正信号発生部24はセットされた所望波抑圧用補正値に基づいたI信号及びQ信号、I信号及びQ信号を生成して出力する。
【0048】
補償処理において、信号処理部55は、測定値に基づいて制御部14からのイメージ補正値及びオフセット値からなるI01信号及びQ01信号用の第1補正値、I02信号及びQ02信号用の第2補正値を求める。第1補正値、第2補正値は、補正部23にセットされる。
【0049】
受信部13は、バンドパスフィルタ(BPF)61、増幅器62、復調部63、第4ローカル発振器64等で構成されている。この受信部13は、例えば本体部11からの受信信号に復調部63で第4ローカル発振器64からの高周波信号を混合して受信信号を中間周波数に変換して復調するIF(中間周波数)方式の復調回路になっている。復調部63で本体部11からの受信信号から演算結果であるビット情報が取り出されて制御部14に出力される。なお、この例では、受信部13としてIF方式のものを用いているが、復調方式はそれに限定されない。
【0050】
次に上記の構成の作用について説明する。なお、以下に説明する測定値の測定及び補正値の算出の順番は一例であり、それに限定されるものではない。量子コンピュータ10では、図3に示すように、調整モードと通常モードとが交互に繰り返し切り替わる。量子コンピュータ10の起動直後の1回目(N=0)の調整モードでは、初期調整の後に補償処理が行われる。2回目以降(N=1、2、3・・・)の調整モードでは、補償処理だけが行われる。
【0051】
通常モードでは、量子制御動作、読出し動作、アクティブリセット動作が行われる。量子制御動作は、第1直交変調部21からのTX1信号を本体部11に送信して量子ビットを制御する。読出し動作では、第2直交変調部22からのTX2信号を本体部11に送信して量子ビットへの読出しを指示し、受信部13で量子ビットからの応答である受信信号を本体部11から受信して復調する。アクティブリセット動作では、量子ビットをリセットするために、TX1信号の本体部11への送信、読出しのためTX2信号の送信、本体部11からの受信信号の受信を順次に行う。
【0052】
量子制御動作、読出し動作、アクティブリセット動作は、順番に例えば数十μ秒、数μ秒、1μ秒未満の時間で実施される。一方の調整モードにおける、初期調整については特に時間の制限などはないが、補償処理は、量子コンピュータ10の高速動作のために、例えば1μ秒未満の時間での実施が好ましい。
【0053】
量子コンピュータ10を起動すると、1回目(N=0)の調整モードとなり、最初に初期調整が行われる。このためセレクタ19が測定部18側に切り換えられる。これにより、変調部17から出力されるTX1信号、TX2信号は、セレクタ19を介して測定部18に入力されるようになる。また、セレクタ31、41が校正信号発生部24側に切り換えられ、校正信号発生部24からのI信号、Q信号がDA変換器32a、32bを介して第1直交変調器34に、I信号、Q信号がDA変換器42a、42bを介して第2直交変調器44にそれぞれ入力されるようになる。
【0054】
この後に、変調部17からTX1信号だけを出力して、TX1信号の所望波の振幅A、位相角θ1dを測定する。このため、校正信号発生部24は、測定部18においてオーバーレンジとなることを防止するために振幅を減少させたIチャネルキャリア信号及びQチャネルキャリア信号をI信号、Q信号として出力する。すなわち、通常モード時の最大振幅よりも振幅を小さくした無変調のI信号、Q信号を出力する。この例では、所望波の振幅及び位相角の測定を行う場合のI信号、Q信号の振幅は、通常モード時の最大振幅の1/100倍としている。
【0055】
このときに校正信号発生部24が出力するI信号、Q信号は、チャネルキャリア信号I01、Q01を用いて式(3)のように表される。なお、式(3)中の行列H1dは、I信号、Q信号の振幅を減少させるためのものであり、1行1列目及び4行4列目の各成分の大きさ(絶対値)は、I信号、Q信号の振幅の通常モード時の最大振幅に対する比率に応じた値とされる。
【0056】
【数3】
・・・(3)
【0057】
校正信号発生部24からのI信号、Q信号がそれぞれDA変換器32a、32bによってアナログ信号に変換されて第1直交変調器34に入力される。そして、I信号、Q信号を用いて周波数FLo1の第1搬送波が直交変調されたTX1信号が第1直交変調器34から出力される。I信号、Q信号の振幅を小さくしてあるので出力されるTX1信号の振幅についても小さくなっており、この例では通常モード時の最大振幅の1/100になっている。なお、TX2信号を発生させないため、第2直交変調器44は停止される。
【0058】
第1直交変調器34からのTX1信号は、測定部18に入力される。測定部18では、TX1信号は、コンバイナ51、増幅器52を介してダウンコンバータ53に入力され、このダウンコンバータ53によって、より低い周波数に変換される。このようにダウンコンバートされたTX1信号がAD変換器54でデジタル信号に変換されてから信号処理部55に入力される。測定部18に入力されるTX1信号は、上述のように、振幅を小さくしてあるので、その信号強度、信号電力が測定部18の測定範囲を超えることがなく、正常に信号処理を行うことができる。信号処理部55は、TX1信号の所望波と同じ周波数の参照信号を用いて所望波を同期検波し、抽出される所望波の振幅A、位相角θ1dを測定(算出)する。
【0059】
続いて、意図的にイメージ成分を強調したTX1信号を変調部17から出力して、そのイメージ成分の位相角θ1iを測定する。なお、このときにもTX2信号を発生させないため、第2直交変調器44は停止した状態が維持される。
【0060】
校正信号発生部24は、I信号については、所望波の振幅A、位相角θ1dを測定したときと同様に、Iチャネルキャリア信号の振幅を減少させたものを出力する。一方で、Q信号については、振幅を減少させ、かつQチャネルキャリア信号をIチャネルキャリア信号に対して180°だけ位相をずらした信号すなわちQチャネルキャリア信号の符号を反転したものを出力する。これにより、TX1信号において意図的にイメージ成分を強調する。この例では、所望波の振幅及び位相角の測定を行う場合と同様にI信号、Q信号の振幅は、通常モード時の最大振幅の1/100倍としている。
【0061】
イメージ成分の位相角θ1iを測定する際に校正信号発生部24が出力するI信号、Q信号は、チャネルキャリア信号I01、Q01を用いて式(4)のように表される。なお、式(4)中の行列H1iは、I信号、Q信号の振幅を減少させ、かつQ信号の符号を反転するためのものである。1行1列目及び4行4列目の各成分の大きさ(絶対値)は、I信号、Q信号の振幅の通常モード時の最大振幅に対する比率に応じた値とされる。
【0062】
【数4】
・・・(4)
【0063】
上記のI信号、Q信号がそれぞれDA変換器32a、32bを介して第1直交変調器34に入力され、そのI信号、Q信号を用いて第1搬送波が直交変調されたTX1信号が第1直交変調器34から出力される。この場合にも、I信号、Q信号の振幅を小さくしてあるので出力されるTX1信号の振幅は小さくなる。また、上記のようにQ信号の位相を変えているので、TX1信号では、イメージ成分が抑圧されずにその信号強度が大きくなる。なお、この場合にはTX1信号の所望波が抑圧されて信号強度が小さくなる。
【0064】
第1直交変調器34からのTX1信号は、セレクタ19を介して測定部18に入力され、コンバイナ51、増幅器52、ダウンコンバータ53、AD変換器54を介して信号処理部55に入力される。そして、信号処理部55は、TX1信号のイメージ成分と同じ周波数の参照信号を用いて同期検波を行い、抽出されるイメージ成分の位相角θ1iを測定する。この場合においても、測定部18に入力されるTX1信号は、振幅を小さくしてあるので、その信号強度、信号電力が測定部18の測定範囲を超えることがなく正常に信号処理を行うことができる。
【0065】
TX1信号のイメージ成分の位相角θ1iの測定後、TX1信号の場合と同様に、TX2信号だけを出力して、TX2信号の所望波の振幅A及び位相角θ2dを測定する。校正信号発生部24は、振幅を減少させたIチャネルキャリア信号及びQチャネルキャリア信号をI信号、Q信号として出力する。この場合にもI信号、Q信号の振幅は、通常モード時の最大振幅の1/100倍としている。
【0066】
校正信号発生部24が出力するI信号、Q信号は、チャネルキャリア信号I02、Q02を用いて式(5)のように表される。なお、式(5)中の行列H2dは、行列H1dと同様なものであって、I信号、Q信号の振幅を減少させるためのものである。1行1列目及び4行4列目の各成分の大きさ(絶対値)は、I信号、Q信号の振幅の通常モード時の最大振幅に対する比率に応じた値とされる。
【0067】
【数5】
・・・(5)
【0068】
校正信号発生部24からのI信号、Q信号がそれぞれDA変換器42a、42bを介して第2直交変調器44に入力され、そのI信号、Q信号を用いて周波数FLo2の第2搬送波が直交変調されたTX2信号が第2直交変調器44から出力される。第2直交変調器44からのTX2信号は、セレクタ19を介して測定部18に入力され、コンバイナ51、増幅器52、ダウンコンバータ53、AD変換器54を介して信号処理部55に入力される。そして、信号処理部55が入力されるTX2信号からその所望波と同じ周波数の参照信号を用いて同期検波を行い、抽出される所望波の振幅A、位相角θ2dを測定する。
【0069】
続いて、TX1信号の場合と同様に、意図的にイメージ成分を強調したTX2信号を第2直交変調部22から出力して、そのイメージ成分の位相角θ2iを測定する。校正信号発生部24は、I信号についてはIチャネルキャリア信号の振幅を減少させたものを出力するが、Q信号については、振幅を減少させ、かつQチャネルキャリア信号の符号を反転したものを出力する。これにより、TX2信号において意図的にイメージ成分を強調する。
【0070】
イメージ成分の位相角θ2iを測定する際に校正信号発生部24が出力するI信号、Q信号は、チャネルキャリア信号I02、Q02を用いて式(6)のように表される。なお、式(6)中の行列H2iは、I信号、Q信号の振幅を減少させ、かつQ信号の符号を反転するものである。1行1列目及び4行4列目の各成分の大きさ(絶対値)は、I信号、Q信号の振幅の通常モード時の最大振幅に対する比率に応じた値とされる。
【0071】
【数6】
・・・(6)
【0072】
上記のI信号、Q信号がそれぞれDA変換器42a、42bを介して第2直交変調器44に入力され、そのI信号、Q信号を用いて第2搬送波が直交変調されたTX2信号が第2直交変調器44から出力される。上記のようにQ信号の位相を変えているので、TX2信号では、イメージ成分が抑圧されずにその信号強度が大きくなるが、所望波は抑圧されて信号強度が小さくなる。
【0073】
第2直交変調器44からのTX2信号は、セレクタ19、コンバイナ51、増幅器52、ダウンコンバータ53、AD変換器54を介して信号処理部55に入力される。そして、信号処理部55は、入力されるTX2信号のイメージ成分を同期検波によって抽出し、抽出したイメージ成分の位相角θ2iを測定(算出)する。
【0074】
TX2信号の所望波の振幅A、位相角θ2dを、またイメージ成分の位相角θ2iを測定する際においても、測定部18に入力されるTX2信号は、振幅を小さくしてあるので、その信号強度、信号電力が測定部18の測定範囲を超えることがなく正常に信号処理を行うことができる。なお、これらの測定を行う場合、I信号、Q信号の振幅は、通常モード時の最大振幅の1/100倍としている。また、TX2信号の所望波の振幅A、位相角θ2dの測定、イメージ成分の位相角θ2iの測定のいずれの場合にも、TX1信号を発生させないため、第1直交変調器34は停止された状態である。
【0075】
この例では、上記測定において所望波の振幅がイメージ成分の振幅と等しいものとして、所望波の振幅をイメージ成分の振幅としている。このため、TX1信号、TX2信号のいずれの場合にも、イメージ成分の振幅の測定を省略しているが、イメージ成分の振幅を測定してもよい。また、TX1信号、TX2信号の各イメージ成分の位相角θ1i、θ2iを測定する際にTX1信号、TX2信号を同時に出力して、合成波から測定してもよく、初期調整に要する時間を短くする観点からは、TX1信号、TX2信号を同時に出力して各イメージ成分の位相角θ1i、θ2iを測定することが好ましい。
【0076】
さらに、ローカルリークを意図的に発生させたTX1信号とTX2信号とを同時に発生させてTX1信号におけるローカルリークの振幅β、位相角ζと、TX2信号におけるローカルリークの振幅β、位相角ζとを測定する。この測定では、校正信号発生部24は、一定値となるI信号及びI信号、「0」のQ信号及びQ信号を出力する。この場合、測定部18においてオーバーレンジとなることを防止するために、I信号及びI信号の大きさを小さくする。この例では、通常モードの最大振幅の1/100にしている。校正信号発生部24が出力するI信号、Q信号及びI信号、Q信号は、式(7)のように表される。
【0077】
【数7】
・・・(7)
【0078】
ローカルリークを意図的に発生させたTX1信号とTX2信号とは、変調部17からセレクタ19を介してコンバイナ51にそれぞれ入力されて、このコンバイナ51によって合成された合成波とされる。合成波は、増幅器52、ダウンコンバータ53、AD変換器54を介して信号処理部55に入力される。上記のようにI信号、I信号を一定(直流)としているため、合成波では、TX1信号、TX2信号の各ローカルリークのみであり、各所望波、各イメージ成分はない。合成波は、ダウンコンバータ53、AD変換器54で適切に処理されて信号処理部55に入力される。
【0079】
信号処理部55は、入力される合成波に対して同期検波を行って、TX1信号のローカルリークを抽出し、その振幅β、位相角ζを測定し、またTX2信号のローカルリークを抽出して、その振幅β、位相角ζを測定する。なお、TX1信号、TX2信号についてのローカルリークの振幅β、位相角ζ、振幅β、位相角ζを測定する際に、TX1信号、TX2信号を別々に測定部18に入力して測定してもよい。初期調整に要する時間を短くする観点からは、TX1信号、TX2信号を同時に出力して各ローカルリークを測定することが好ましい。
【0080】
上記のようにして、初期調整における各測定値を取得すると、信号処理部55は、TX1信号の所望波とTX2信号の所望波とが互いに打ち消し合うようにするための所望波抑圧用補正値を求め、これを校正信号発生部24にセットする。この例では、TX1信号側のI信号、Q信号を基準にして、すなわちIチャネルキャリア信号、Qチャネルキャリア信号をそのままI信号、Q信号とし、TX2信号側のIチャネルキャリア信号、Qチャネルキャリア信号を補正してI信号、Q信号とする所望波抑圧用補正値を決定し、これを校正信号発生部24にセットする。なお、I信号、Q信号と、I信号、Q信号とを相対的に補正すればよいので、I信号、Q信号を基準にして、I信号、Q信号を補正してもよく、両方を補正してもよい。
【0081】
信号、Q信号用の所望波抑圧用補正値をH、I信号、Q信号用の所望波抑圧用補正値をHとして、合成波における所望波を抑圧する際に校正信号発生部24が出力するI信号、Q信号及びI信号、Q信号を式(8)のように表す。このとき、1回目の調整モードにおけるI信号、Q信号用の所望波抑圧用補正値H、I信号、Q信号用の所望波抑圧用補正値Hは、各所望波の振幅比(A/A)、位相角差(θ1d-θ2d)を用いて式(9)のように表される。所望波抑圧用補正値Hにおいて、符号を負としているのは、TX1信号の所望波に対してTX2信号の所望波を逆位相とするためである。
【0082】
【数8】
・・・(8)
【0083】
【数9】
・・・(9)
【0084】
所望波抑圧用補正値H、Hのセットにより、初期調整が終了し、続けて1回目(N=0)における補償処理を行う。第1直交変調器34、第2直交変調器44の両方が作動した状態にされる。校正信号発生部24は、セットされた所望波抑圧用補正値HをIチャネルキャリア信号、Qチャネルキャリア信号に適用してI信号、Q信号を生成し、所望波抑圧用補正値HをIチャネルキャリア信号、Qチャネルキャリア信号に適用して補正されたI信号、Q信号を生成して、それぞれ出力する。そして、そのI信号、Q信号を用いて直交変調されたTX1信号が第1直交変調器34から、またI信号、Q信号を用いて直交変調されたTX2信号が第2直交変調器44からそれぞれ出力される。
【0085】
TX1信号及びTX2信号は、セレクタ19を介してコンバイナ51にそれぞれ入力されて、このコンバイナ51によって合成された合成波とされる。合成波では、上記のように所望波抑圧用補正値Hを用いて生成されるTX2信号の所望波は、TX1信号の所望波と同じ振幅であり、さらにTX1信号の所望波と逆位相である。また、上述のように、第1搬送波の周波数fLO1と第2搬送波の周波数fLO2とが異なるが(fLO1≠fLO2)、TX1信号の所望波の周波数とTX2信号の所望波の周波数とが一致すなわち「fLO1-fIQ1=fLO2-fIQ2」となるように、Iチャネルキャリア信号及びQチャネルキャリア信号の周波数fIQ1とIチャネルキャリア信号及びQチャネルキャリア信号の周波数fIQ2とが決められている。したがって、TX1信号とTX2信号は、それらの所望波の周波数が互いに一致しかつ互いに逆位相の状態で測定部18に入力されて合成される。
【0086】
また、合成波におけるTX1信号のイメージ成分の周波数は「fLO1+fIQ1」であり、TX2信号のイメージ成分の周波数は「fLO2+fIQ2」であるが、上記のように「fLO1+fIQ1≠fLO2+fIQ2」である。
【0087】
すなわち、各所望波について周波数が互いに一致し、それらの振幅が等しく、さらに逆位相となり、かつTX1信号とTX2信号の各イメージ成分の周波数が互いに異なる抑圧条件を満たすTX1信号とTX2信号により合成波が生成される。
【0088】
結果として、図4に合成波の周波数スペクトルを示すように、合成波では、TX1信号とTX2信号の各所望波の周波数が互いに一致し(fLO1-fIQ1=fLO2-fIQ2)、それらの振幅が等しく、さらに逆位相となっているため各所望波が互いに打ち消しあって消失している。また、合成波では、各イメージ成分の周波数が互いに異なるため(fLO1+fIQ1≠fLO2+fIQ2)、それらが重なることなく現れる。さらには、ローカルリークは、直交変調の際の搬送波と同じ周波数になるが、第1搬送波の周波数fLO1と第2搬送波の周波数fLO2とが異なるので、合成波には、各ローカルリークが互いに重なることなく現れる。
【0089】
コンバイナ51から出力される合成波は、増幅器52、ダウンコンバータ53、AD変換器54を介して信号処理部55に入力される。この補償処理においては、TX1信号、TX2信号の振幅を小さくしていないが、合成波では、上記のようにTX1信号、TX2信号の各所望波は互いに打ち消しあって消失している。このため、ダウンコンバータ53に対して合成波が入力されても、測定範囲を超えた信号電力が入力されることはなく、合成波が適切により低い周波数に変換される。また、AD変換器54では、その分解能が小さくても、イメージ成分やローカルリークの比較的小さな信号強度に合わせた小さな分解能であっても必要な変換精度が得られる。また、そのようなイメージ成分やローカルリークついて必要な変換精度が得られる程度の分解能であっても、大きな信号強度の所望波の入力がないので、出力が飽和することなく適切にデジタル信号に変換される。
【0090】
AD変換器54からの合成波が入力されると、信号処理部55は、参照信号の周波数を順次に変えることで、TX1信号のイメージ成分及びローカルリーク、TX2信号のイメージ成分及びローカルリークを同期検波してそれぞれ抽出する。そして、抽出したTX1信号のイメージ成分の振幅γ1,0及び位相角η1,0、TX2信号のイメージ成分の振幅γ2,0及び位相角η2,0、TX1信号のローカルリークの振幅a1,0及び位相角λ1,0、TX2信号のローカルリークの振幅a2,0及び位相角λ2,0をそれぞれ測定する。
【0091】
上記の測定後、信号処理部55は、得られた測定値に基づいて、第1補正値のイメージ補正値H1,1及び第2補正値のイメージ補正値H2,1を算出し、それらを補正部23にセットする。この初回の調整モードにおけるイメージ補正値H1,1及びイメージ補正値H2,1は、補償処理で測定されたイメージ成分の振幅γ1,0、γ2,0、位相角η1,0、η2,0、初期調整で測定された、振幅A、A、位相角θ1i、θ2iを用いて、式(10)のように表される。なお、式(10)中の振幅A、Aは、所望波の振幅として測定されイメージ成分の振幅とみなしたものである。
【0092】
【数10】
・・・(10)
【0093】
また、信号処理部55は、所望波を打ち消して測定された、振幅a1,0及び位相角λ1,0のTX1信号のローカルリークを打ち消すためのオフセット値OF1,1と、振幅a2,0及び位相角λ2,0のTX2信号のローカルリークを打ち消すためのオフセット値OF2,1とをそれぞれ算出する。そして、これらをオフセット値OF1,1、OF2,1を補正部23にそれぞれセットする。オフセット値OF1,1、OF2,1は、補償処理で測定されたローカルリークの振幅a1,0、a2,0、位相角λ1,0、λ2,0、初期調整で測定されたローカルリークの振幅β、β、位相角ζ、ζを用いて式(11)のように表すことができる。
【0094】
【数11】
・・・(11)
【0095】
以上のようにして、1回目の調整モードにおける補償処理が完了して、通常モードになると、セレクタ19が本体部11を選択するように切り換えられる。また、セレクタ31、41が補正部23を選択するように切り換えられる。この後に、制御部14からII1信号、QQ1信号、II2信号、QQ2信号の出力が開始され、これらの信号が補正部23に入力される。補正部23は、入力されるII1信号、QQ1信号を、セットされたイメージ補正値H1,1とオフセット値OF1、1とを用いて補正したI信号、Q信号をDA変換器32a、32bを介して第1直交変調器34に入力する。すなわち、補正部23によって、「N=0」としてイメージ補正値H1,1とオフセット値OF1、1を適用した式(2)に基づいて、II1信号、QQ1信号がI信号、Q信号に変換される。
【0096】
同様に、補正部23は、入力されるII2信号、QQ2信号を、イメージ補正値H1,2とオフセット値OF1、2とを用いて補正したI信号、Q信号をDA変換器42a、42bを介して第2直交変調器44に入力する。すなわち、補正部23によって、「N=0」としてイメージ補正値H2,1とオフセット値OF2、1を適用した式(2)に基づいて、II2信号、QQ2信号がI信号、Q信号に変換される。
【0097】
上記のようにして補正部23で補正されたI信号、Q信号を用いて第1搬送波を直交変調したTX1信号及びI信号、Q信号を用いて第2搬送波を直交変調したTX2信号が本体部11に送信される。
【0098】
1回目の通常モードが終了すると、2回目(N=1)の調整モードとなる。2回目の調整モードでは、補償処理だけが行われる。この補償処理においては、1回目の調整モードと同様な手順により、TX1信号のイメージ成分の振幅γ1,1、位相角η1,1の測定、TX2信号のイメージ成分の振幅γ2,1、位相角η2,1の測定、TX1信号のローカルリークの振幅a1,1、位相角λ1,1の測定、TX2信号のローカルリークの振幅a2,1、位相角λ2,1の測定が行われる。この2回目の調整モードにおける測定で各所望波を打ち消した合成波を生成する場合には、前回(1回目)の調整モードにおける補償処理で算出したイメージ補正値H1,1を所望波抑圧用補正値Hとして、また符号を反転させたイメージ補正値H2,1を所望波抑圧用補正値H(=-H2,1)として、式(8)に基づいてI信号及びQ信号、I信号及びQ信号を発生させる。
【0099】
2回目の補償処理では、上記の測定後、信号処理部55によって、第1補正値のイメージ補正値H1,2及び第2補正値のイメージ補正値H2,2を算出し、それらを補正部23にセットする。イメージ補正値H1,2は、式(12)に示すように、1回目におけるイメージ補正値H1,1に2回目の補償処理で測定されたTX1信号における振幅γ1,1、位相角η1,1のイメージ成分を打ち消す補正値を加算したものとする。同様に、イメージ補正値H2,2は、式(12)に示すように、1回目(N=0)におけるイメージ補正値H2,1に2回目の補償処理で測定されたTX2信号における振幅γ2,1、位相角η2,1のイメージ成分を打ち消す補正値を加算したものとする。
【0100】
【数12】
・・・(12)
【0101】
また、2回目の補償処理で算出されるオフセット値OF1,2、OF2,2は、2回目の補償処理で測定されたTX1信号における振幅a1,1、位相角λ1,1のローカルリーク、TX2信号における振幅a2,1、位相角λ2,1のローカルリークを打ち消すものとして求められ、式(13)のように表すことができる。
【0102】
【数13】
・・・(13)
【0103】
2回目の調整モードにおける補償処理が完了して、2回目の通常モードになると、補正部23は、2回目の補償処理で算出されてセットされたイメージ補正値H1,2とオフセット値OF1,2とを用いて補正したI信号、Q信号を生成する。また、補正部23は、イメージ補正値H2,2とオフセット値OF2,2とを用いて補正したI信号、Q信号を生成する。そして、補正部23で補正されたI信号、Q信号を用いて第1搬送波を直交変調したTX1信号及びI信号、Q信号を用いて第2搬送波を直交変調したTX2信号が本体部11に送信される。
【0104】
以降同様にして、3回目以降のN+1回目の調整モードにおいては、補償処理だけが行われる。そして、この補償処理においては、同様な手順により、TX1信号のイメージ成分の振幅γ1,N、位相角η1,Nの測定、TX2信号のイメージ成分の振幅γ2,N、位相角η2,Nの測定、TX1信号のローカルリークの振幅a1,N、位相角λ1,Nの測定、TX2信号のローカルリークの振幅a2,N、位相角λ2,Nの測定が行われる。そして、それらの測定値に基づいて、N+1回目の通常モードでのイメージ補正値H1,N、H2,N及びオフセット値OF1,N、OF2,Nが決められる。N+1回目の調整モードにおける補償処理で算出されるイメージ補正値H1,N+1、H2,N+1及びオフセット値OF1,N+1、OF2,N+1は式(14)のように表される。なお、N+1回目の調整モードにおける測定で各所望波を打ち消した合成波を生成する場合には、N回目の調整モードにおける補償処理で算出したイメージ補正値H1,Nを所望波抑圧用補正値Hとして、また符号を反転させたイメージ補正値H2,Nを所望波抑圧用補正値H(=-H2,N)として、式(8)に基づいてI信号及びQ信号、I信号及びQ信号を発生させる。
【0105】
【数14】
・・・(14)
【0106】
上記のようにして直交変調装置12からイメージ成分及びローカルリークが良好に抑圧されたTX1信号及びTX2信号が本体部11に送信される。
【0107】
上記のように、調整モードが繰り返され、測定部18による測定のためにAD変換器54によるデジタル信号が行われるが、ダウンコンバータ53の第3ローカル発振器53bとしてフラクショナルN型PLL回路を用いることによって、ダウンコンバート後のスプリアスの周波数を効果的に下げることができるので、サンプリング周波数が低いAD変換器54を用いることができ、スプリアスを良好な精度で測定でき、また低消費電力で動作させることができる。
【0108】
上記の例では、初期調整で測定されるTX1信号の所望波の振幅A、イメージの位相角θ1i、ローカルリークの振幅β、位相角ζ、TX2信号の所望波の振幅A、イメージの位相角θ2i、ローカルリークの振幅β、位相角ζを1回目の調整モード及び2回目以降の調整モードの補償処理で使用しているが、これらの測定値についても変動する可能性がある。これらの測定値が変動した場合、イメージ成分やローカルリークの抑圧制度の低下を招くため、例えば一定回数(例えば100回)の調整モードごとに初期調整を行って再測定をすることも好ましい。
【0109】
図5の例に示すように、1回目の調整モードにおける補償処理において、振幅を段階的に増加させ、増加ごとにスプリアスの測定を行い、通常モード時の振幅についてのイメージ補正値、オフセット値を決めるようにしてもよい。なお、図5では、1回目の調整モードにおけるTX1信号についての第1補正値(イメージ補正値、オフセット値)を決定する手順の一例の概略を示しているが、TX2信号についての第2補正値も同様な手順で決定することができる。また、TX1信号とTX2信号との補償処理を同時に行ってもよい。
【0110】
量子コンピュータ10の起動直後の1回目の調整モードになると、TX1信号についての補償処理が行われ、続いてTX2信号についての補償処理が行われる。TX1信号の補償処理では、イメージ成分及びローカルリークを小さく(抑圧)するための第1補正値を決定する第1補正値決定処理を行う。第1補正値決定処理では、複数回(この例では100回)のサブ処理を行う。なお、この例では、第1補正値決定処理後に、TX1信号の振幅及び位相角を所期のものに戻すための校正処理を行うが、この校正処理については説明を省略する。
【0111】
1回目(M=1)のサブ処理に先だって、初期測定を行う。この初期測定では、TX1信号のI信号、Q信号の振幅を通常モード時の1/100倍に設定して(ステップST1)、上述の初期調整の場合と同様に測定を行う。まず、第1直交変調器34からTX1信号を出力し、TX1信号の所望波の振幅A、位相角θ1dを測定部18で測定する(ステップST2)。次に、意図的にイメージ成分を強調したTX1信号を変調部17から出力して、そのイメージ成分の位相角θ1i、振幅αを測定する(ステップST3)。さらに、ローカルリークを意図的に発生させたTX1信号を変調部17から出力して、そのローカルリークの振幅β、位相角ζを測定する(ステップST4)。
【0112】
上記のように初期測定の後に、100回のサブ処理を行う。M(Mは、1、2・・・、100)回目のサブ処理では、まず、所望波抑圧用補正値H1(0)を校正信号発生部24にセットして、ローカルリークの意図的な発生及びイメージ成分の強調を解除し、I信号、Q信号の振幅を補正して、振幅を通常モード時の1/100倍にしたTX1信号の出力を開始する(ステップST5)。このTX1信号の出力を開始後に、TX2信号出力処理(ステップST6)、所望波測定処理(ステップST7)、所望波抑圧処理(ステップST8)、スプリアス測定処理(ステップST9)、スプリアス補正処理(ステップST10)を順次に行う。
【0113】
TX2信号出力処理では、例えば、所望波抑圧用補正値H2(M)を校正信号発生部24にセットして、所望波の振幅が通常モード時の「M/100」であり、所望波がTX1信号の所望波と相対的に逆位相となるように補正されたI信号、Q信号からTX2信号を生成して変調部17から出力する。すなわち、TX2信号出力処理では、TX2信号を出力するとともに、サブ処理の回数の増加にともなってTX2信号を増加させる。このTX2信号出力処理で出力されるTX2信号は、イメージ成分、ローカルリークを補正したものではない。TX2信号が出力されることにより、TX1信号とTX2信号とが合波された合成波(合波信号)が測定部18に入力される。この例では、TX2信号出力処理が第2変調波出力工程及び振幅増加工程に対応する。なお、この例では、TX1信号の位相を調整することによって、TX1信号とTX2信号の所望波同士を互いに逆位相にしている。
【0114】
続く所望波測定処理では、合成波中における所望波の振幅A1,Mと位相θ1d,Mとを測定する。合成波では、TX1信号の所望波とTX2信号の所望波とが互いに逆位相になっているため打ち消し合うが、その打ち消しは、1回目におけるサブ処理では、例えば第1直交変調器34及び第2直交変調器44の特性のバラツキ等から不完全である。また、2回目以降のサブ処理では、TX2信号の振幅が増加されることによって、TX1信号の所望波とTX2信号の所望波の打ち消しが不完全になる。そこで、このような不完全に打ち消しあって合成波中に残っている所望波の振幅A1,Mと位相θ1d,Mとを測定する。
【0115】
所望波抑圧処理では、所望波測定処理で測定された合成波中の所望波の振幅A1,Mと位相θ1d,Mとに基づいて、TX1信号用の現在の所望波抑圧用補正値H1(M-1)を補正して、M回目のサブ処理でスプリアスを測定する際の所望波抑圧用補正値H1(M)を算出する。そして、この所望波抑圧用補正値H1(M)に基づいたI信号及びQ信号を生成することによって、出力されているTX1信号を更新する。この所望波抑圧用補正値の補正は、TX1信号の所望波の振幅と位相が、TX2信号の所望波の振幅と位相と一致するように補正する。これにより、合成波中のTX1信号の所望波とTX2信号の所望波とが完全に打ち消しあった状態になる。この例では、所望波測定処理及び所望波抑圧処理が所望波補正工程に相当する。
【0116】
スプリアス測定工程としてのスプリアス測定処理では、所望波抑圧処理によって、TX1信号とTX2信号の所望波同士が完全に打ち消しあった合成波におけるTX1信号のイメージ成分の振幅γ1,0,M及び位相角η1,0,M、ローカルリークの振幅a1,0,M及び位相角λ1,0,Mをそれぞれ測定する。この例では、スプリアス測定処理がスプリアス測定工程である。
【0117】
スプリアス補正処理では、スプリアス測定処理の測定結果に基づいて、所望波抑圧用補正値H1(M)を補正する。そして、補正された所望波抑圧用補正値H1(M)を校正信号発生部24にセットして、セットされた所望波抑圧用補正値H1(M)に基づいたI信号及びQ信号を生成することによって、出力されているTX1信号を再度更新する。この結果、合成波中のTX1信号の所望波とTX2信号の所望波とが完全に打ち消しあい、またTX1信号のイメージ成分及びローカルリークを抑圧された状態になる。なお、この例では、スプリアス補正処理が補正値算出工程に対応する。
【0118】
所望波抑圧用補正値H1(M)は、I信号、Q信号を補正する補正値であるイメージ補正値H1(M)と、オフセット値OF1(M)とから構成され、校正信号発生部24が出力するI信号、Q信号は、チャネルキャリア信号I01、Q01を用いて式(15)のように表される。以下の説明では、スプリアス測定処理の測定結果に基づくスプリアスの補正の前後で所望波抑圧用補正値H1(M)を区別する場合には、補正前のものを所望波抑圧用補正値H1(M),0、補正後のものを所望波抑圧用補正値H1(M),0として示す。イメージ補正値H1(M)と、オフセット値OF1(M)についても、補正前のものをイメージ補正値H1(M),0、オフセット値OF1(M),0、また補正前のものをイメージ補正値H1(M),1、オフセット値OF1(M),1として示す。TX2信号用の所望波抑圧用補正値H2(M)、イメージ補正値H2(M)、オフセット値OF2(M)についても同様に示す。
【0119】
【数15】
・・・(15)
【0120】
上記のように繰り返しサブ処理を行うが、1回目のサブ処理においてスプリアスの補正前、すなわち所望波抑圧処理で算出される所望波抑圧用補正値H1(M),0のイメージ補正値H1(1),0、オフセット値OF1(1),0は、式(16)のように表される。
【0121】
【数16】
・・・(16)
【0122】
また、1回目のサブ処理において、スプリアス測定処理の測定結果に基づいて補正された所望波抑圧用補正値H1(M),1のイメージ補正値H1(1),1、オフセット値OF1(1),1は、式(17)のように表される。
【0123】
【数17】
・・・(17)
【0124】
2回目以降のM回目のサブ処理において、スプリアスの補正前の所望波抑圧用補正値H1(M),0として算出されるイメージ補正値H1(M),0、オフセット値OF1(M),0は、前回(M-1回目)のサブ処理でスプリアス補正したイメージ補正値H1(M-1),1及びオフセット値OF1,M-1を用いて、式(18)のように表される。
【0125】
【数18】
・・・(18)
【0126】
また、2回目以降のM回目のサブ処理において、スプリアスの補正後の所望波抑圧用補正値H1(M),1として算出されるイメージ補正値H1(M),1、オフセット値OF1(M),1は、式(19)のように表される。
【0127】
【数19】
・・・(19)
【0128】
なお、各サブ処理における、TX2信号についての所望波抑圧用補正値H2(M)であるイメージ補正値H2(M)、オフセット値OF2(M)は、式(20)のように表される。なお、この例では、TX2信号側のIQデータすなわちチャネルキャリア信号I02、Q02の振幅を通常モード時の「M/100」倍としている。このため、イメージ補正値H2(M)が変化しない設定である。
【0129】
【数20】
・・・(20)
【0130】
100回目に達する前のサブ処理(M<100)では、上記のように、所望波抑圧用補正値H1(M)を補正してTX1信号とTX2信号の所望波を打ち消しながらイメージ成分及びローカルリークを測定して、その測定結果に基づいてさらに所望波抑圧用補正値H1(M)を補正することでイメージ成分及びローカルリークを抑圧したTX1信号を出力する。そして、100回目のサブ処理におけるスプリアス補正処理では、その処理で得られる所望波抑圧用補正値H1(100)すなわち、イメージ補正値H1(100),1、オフセット値OF1(100),1を、1回目の調整モードに続いて行われる通常モードで使用する第1補正値とする。このようにして、TX1信号に対する第1補正値を決定する。
【0131】
上記のように、TX1信号、TX2信号の振幅を通常モード時の振幅に向かって段階的に変化させて、第1補正値を決めている。第1直交変調器34に非線形歪があるため小振幅で求めたイメージ補正値H1(M)、オフセット値OF1(M)が、目的の振幅でのものと乖離する可能性がある。このため、非線形歪を前提に、上記のように徐々に振幅を大きくする手順を踏むことが好ましい。振幅に依存するイメージ補正値H1(M)、オフセット値OF1(M)を、振幅の増加にあわせて徐々に求めていくため、確実に第1直交変調器34の非線形歪みに影響されない第1補正値を求めることができる。
【0132】
図5に示される手順でTX1信号のイメージ成分及びローカルリークを抑圧した際の、調整前及び調整後のTX1信号の周波数成分の分布を図6及び図7に示す。図6は調整前に、図7は調整後に、第1直交変調器34から出力されるTX1信号を測定したものである。また、図8に、調整途中において、コンバイナ51から出力されるTX1信号とTX2信号との合成波の周波数成分の分布を示す。なお、この測定の際には、混合器からの3次の非線形成分についても小さくなるように調整した。また、図8に示される周波数成分の分布は、増幅器52(470Ω抵抗)を介して測定したものである。
【0133】
図6に示されるように調整前では、TX1信号のイメージ成分及びローカルリークは、所望波を基準にして-50db以上の強度を有しているが、調整後では図7に示されるように、-70dbよりも小さくなっていることがわかる。また、図8に示されるように調整途中においては合成波におけるTX1信号とTX2信号の各所望波が打ち消されていることがわかる。
【0134】
上記では、直交変調装置を量子コンピュータに設けた例について説明しているが、これに限らず、例えば直交変調装置を無線装置等に利用することができる。例えば、複数のアンテナを用いて信号を伝送するMIMO(Multi Input Multi Output)のように2つ以上の送信系統を有する装置にも利用できる。また、外部に出力する変調信号を1つとして構成してもよい。この場合には、その外部に変調信号を出力する第1直交変調部に対して、スプリアスの測定時に第1直交変調部からの第1変調波の所望波を打ち消す所望波を含む第2変調波を出力する校正用直交変調部となる第2直交変調部を設ければよい。なお、上記の例では、第1直交変調部と第2直交変調部の一方が他方の所望波を打ち消すための校正用変調部となる。また、上記の例では、TX1信号とTX2信号の所望波を互いに打ち消すためにI信号とQ信号を補正しているが、これに代えて直交変調器に入力する搬送波の位相差と振幅差を調整することで、所望波を打ち消すように補正してもよい。さらには、上記ではスプリアスとしてイメージ成分とローカルリークとを抑圧する例について説明しているが、スプリアスはこれらに限られず、TX1信号、TX2信号を生成する直交変調器の非線形特性から生じる高調波成分に起因した非線形成分、例えば2次の非線形成分「LO+2IF」や3次の非線形成分「LO-3IF」等を抑圧することもできる。
【符号の説明】
【0135】
12 直交変調装置
17 変調部
18 測定部
21 第1直交変調部
22 第2直交変調部
23 補正部
32a、32b 42a、42b DA変換器
33 第1ローカル発振器
53 ダウンコンバータ
53a 混合器
53b 第3ローカル発振器53b
54 AD変換器
55 信号処理部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8