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特開2025-154944研磨用組成物、基板の製造方法および研磨方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025154944
(43)【公開日】2025-10-10
(54)【発明の名称】研磨用組成物、基板の製造方法および研磨方法
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/84 20060101AFI20251002BHJP
   G11B 5/82 20060101ALI20251002BHJP
   G11B 5/73 20060101ALI20251002BHJP
   C09K 3/14 20060101ALI20251002BHJP
   C09G 1/02 20060101ALI20251002BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20251002BHJP
   B24B 1/00 20060101ALI20251002BHJP
【FI】
G11B5/84 Z
G11B5/82
G11B5/73
G11B5/84 C
C09K3/14 550D
C09K3/14 550Z
C09G1/02
B24B37/00 H
B24B1/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024058252
(22)【出願日】2024-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100154449
【弁理士】
【氏名又は名称】谷 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100174159
【弁理士】
【氏名又は名称】梅原 めぐみ
(72)【発明者】
【氏名】大島 嵩弘
(72)【発明者】
【氏名】神谷 知秀
【テーマコード(参考)】
3C049
3C158
5D112
【Fターム(参考)】
3C049AA07
3C049CA01
3C158AA07
3C158CA01
3C158ED05
3C158ED10
3C158ED26
5D112AA02
5D112AA03
5D112AA24
5D112BA06
5D112BA09
5D112BD06
5D112GA14
5D112JJ06
(57)【要約】
【課題】磁気ディスク基板の研磨において、シリカ砥粒を含んで、低い微小うねりの維持と加工性の向上を両立し得る研磨用組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】磁気ディスク基板研磨用組成物が提供される。この研磨用組成物は、砥粒としてのシリカ粒子と、酸と、酸化剤とを含む。上記シリカ粒子は、光透過式遠心沈降法により得られる重量基準の粒度分布における最小ピーク径Dpminが80nmより大きく200nm以下であり、かつ、上記最小ピーク径Dpminに対する、光透過式遠心沈降法により得られる重量基準の粒度分布における累積99%粒子径D99の比(D99/Dpmin)が1.40より大きく5.50以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気ディスク基板研磨用組成物であって、
砥粒としてのシリカ粒子と、酸と、酸化剤とを含み、
前記シリカ粒子は:
光透過式遠心沈降法により得られる重量基準の粒度分布における最小ピーク径Dpminが80nmより大きく200nm以下であり;かつ、
前記最小ピーク径Dpminに対する、光透過式遠心沈降法により得られる重量基準の粒度分布における累積99%粒子径D99の比(D99/Dpmin)が1.40より大きく5.50以下である、研磨用組成物。
【請求項2】
前記シリカ粒子は、前記最小ピーク径Dpminに対する、光透過式遠心沈降法により得られる重量基準の粒度分布における平均粒子径Dmeanの比(Dmean/Dpmin)が0.70より大きく1.75以下である、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
前記研磨用組成物は、窒素含有化合物をさらに含む、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
前記研磨用組成物は、リン酸エステル、亜リン酸エステルおよび有機ホスホン酸化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
前記研磨用組成物は、水溶性ポリマー(A)をさらに含む、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項6】
請求項1または2に記載の研磨用組成物を用いて研磨対象基板を研磨する工程を含む、磁気ディスク基板の製造方法。
【請求項7】
請求項1または2に記載の研磨用組成物を研磨対象基板に供給して該研磨対象基板を研磨する工程を含む、基板の研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ディスク基板の研磨に用いられる研磨用組成物、基板の製造方法および研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高精度な表面が要求される磁気ディスク基板の製造プロセスには、研磨液を用いて該基板の原材料である研磨対象物を研磨する工程が含まれる。例えば、ニッケルリンめっきが施されたディスク基板(以下、Ni-P基板ともいう。)の製造においては、一般に、より研磨効率を重視した研磨(一次研磨)と、最終製品の表面精度に仕上げるために行う最終研磨(仕上げ研磨)とが行われている。磁気ディスク基板を研磨する用途で使用される研磨用組成物に関する技術文献として特許文献1および2が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-1513号公報
【特許文献2】特開2016-15184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
磁気ディスク基板の研磨では、記録容量増大のため、基板表面の品質向上の取組みが継続的に行われている。近年においては、仕上げ研磨後の基板表面をより高品質なものとするため、一次研磨の段階から、アルミナ砥粒に代えてシリカ砥粒が用いられている。シリカ砥粒を用いた研磨は、アルミナ砥粒を用いた研磨と比べて、砥粒の基板への突き刺さりがなく、スクラッチ等の欠陥低減性に優れ、高い面品質を得やすい。その反面、シリカ砥粒を用いた研磨は、アルミナ砥粒含有スラリーのような加工力を得にくく、加工力の向上が課題となる。また、上記シリカ砥粒を用いた研磨では、加工力の維持や向上に加えて、研磨後の基板における微小うねりの増大も課題となっている。上述の研磨において、加工性と微小うねりとは、一方を改善しようとすれば他方が悪化してしまう相反関係にあり、その両立は容易ではない。上記特許文献1,2では、粗研磨における研磨速度や粗研磨後の基板表面の長周期欠陥が評価されているが、微小うねりは評価されておらず、微小うねり改善や、加工力と微小うねりとの両立についての示唆はない。
【0005】
なお、「微小うねり」とは、後述の実施例に記載されるとおり、非接触表面形状測定機により観察される波長帯80~500μmのうねり(算術平均粗さ)をいい、その定義については、例えばJIS B 0601:2013が参照される。一方、上記長周期欠陥は、光干渉型表面形状測定機を用い、カットオフ値2500μmの条件で観察される小さな斑点として見えるへこみ(例えば、グラインド傷およびPED:polish-enhanced defects、など)を含むものであり、表面欠陥の一種である(特許文献1の0006段落、0020段落、0120段落、特許文献2の0005段落、0017段落、0117段落参照)。「微小うねり」は基板表面の平均的な凹凸を評価しているのに対し、「長周期欠陥」は、面内のごく一部に発生するものである。したがって、上記長周期欠陥は、磁気ディスク基板研磨の技術分野において、微小うねりとは異なる評価項目、技術概念である。
【0006】
本発明者らは、鋭意検討の結果、特定の粒度分布を有するシリカ砥粒と酸と酸化剤とを組み合わせて用いることにより、微小うねりの増大を抑制しつつ、加工性が向上し得る研磨用組成物の作出に成功し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、磁気ディスク基板の研磨において、シリカ砥粒を含んで、低い微小うねりの維持と加工性の向上を両立し得る研磨用組成物を提供することを目的とする。関連する他の目的は、上記研磨用組成物を用いた基板の製造方法および研磨方法を提供することである。さらに関連する他の目的は、低い微小うねりの維持と加工性の向上を両立しながら、シリカ残留の低減および研磨抵抗の低減の少なくとも一つを実現し得る研磨用組成物の提供と、該研磨用組成物を用いた基板の製造方法および研磨方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書により提供される磁気ディスク基板研磨用組成物は、砥粒としてのシリカ粒子と、酸と、酸化剤とを含む。上記シリカ粒子は、光透過式遠心沈降法により得られる重量基準の粒度分布における最小ピーク径Dpminが80nmより大きく200nm以下である。また、上記シリカ粒子は、上記最小ピーク径Dpminに対する、光透過式遠心沈降法により得られる重量基準の粒度分布における累積99%粒子径D99の比(D99/Dpmin)が1.40より大きく5.50以下である。最小ピーク径Dpminが上記範囲にあり、かつ、D99/Dpminが上記範囲にあるような粒度分布を有するシリカ粒子と、酸と、酸化剤とを組み合わせて用いた研磨用組成物によると、磁気ディスク基板の研磨において、低い微小うねりの維持と加工性の向上を両立することができる。
【0008】
いくつかの好ましい態様において、上記シリカ粒子は、上記最小ピーク径Dpminに対する、光透過式遠心沈降法により得られる重量基準の粒度分布における平均粒子径Dmeanの比(Dmean/Dpmin)が0.70より大きく1.75以下である。かかる構成によると、低い微小うねりを維持しながら加工性を向上する効果がよりよく発揮される。
【0009】
いくつかの態様において、上記研磨用組成物は、窒素含有化合物をさらに含む。いくつかの態様において、上記窒素含有化合物は、アンモニアおよび含窒素有機化合物から選択される少なくとも1種である。上記窒素含有化合物を用いることにより、微小うねりはより改善されやすい。なかでも、上記窒素含有化合物として、一分子中、窒素原子を1以上4以下有するものを用いることがより好ましい。いくつかの態様において、上記窒素含有化合物は、一分子中に含まれる窒素原子の少なくとも1つに結合した単結合からなる炭素数2以上4以下の炭素骨格と、該炭素骨格の末端に結合した親水基とを含む構造を有する。上記の構造を有する窒素含有化合物によると、微小うねりを改善する効果がよりよく発揮される。
【0010】
いくつかの態様において、上記研磨用組成物は、リン酸エステル、亜リン酸エステルおよび有機ホスホン酸化合物からなる群から選択される少なくとも1種をさらに含む。かかる構成によると、加工性を損なうことなく、研磨後の基板表面にシリカ粒子が付着残留する事象(以下、「シリカ残留」あるいは「シリカ残」ともいう。)を低減することができる。いくつかの態様において、上記リン酸エステルおよび/または上記亜リン酸エステルは、そのリン酸エステル結合で結合した有機基を有しており、該有機基は、エーテル結合を含んでよい炭素原子数が6以下の有機基から選択される。
【0011】
いくつかの態様において、上記研磨用組成物は、水溶性ポリマー(A)をさらに含む。かかる構成によると、研磨パッドと研磨対象物との間にかかる研磨抵抗(摩擦力)を低減しやすい。研磨中に研磨対象物と研磨パッドとの間にかかる研磨抵抗を低減できれば、キャリアにかかる負荷が緩和され、キャリアの変形を防止または抑制することができ、パッド傷発生を防止できる。
【0012】
本明細書によると、磁気ディスク基板の製造方法が提供される。その製造方法は、ここに開示されるいずれかの研磨用組成物を用いて研磨対象基板を研磨する工程(1)を含む。かかる製造方法によると、高品位な表面を有する磁気ディスク基板を生産性よく製造することができる。いくつかの態様において、上記基板の製造方法は、上記工程(1)の後に、仕上げ研磨用組成物を用いて上記研磨対象基板を研磨する工程(2)をさらに含む。上記仕上げ研磨用組成物は、コロイダルシリカを含むことが好ましい。上記工程(1)の後に上記工程(2)を実施することにより、より高品位な表面を有する磁気ディスク基板が生産性よく製造される。
【0013】
また、本明細書によると、基板の研磨方法が提供される。その研磨方法は、ここに開示されるいずれかの研磨用組成物を研磨対象基板に供給して該研磨対象基板を研磨する工程(1)を含む。かかる研磨方法によると、研磨物の表面品質を効率よく高めることができる。いくつかの態様において、上記基板の研磨方法は、上記工程(1)の後に、仕上げ研磨用組成物を上記研磨対象基板に供給して該研磨対象基板を研磨する工程(2)をさらに含む。上記仕上げ研磨用組成物は、コロイダルシリカを含むことが好ましい。上記工程(1)の後に上記工程(2)を実施することにより、より高品位な基板表面が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0015】
<研磨用組成物>
(シリカ粒子)
ここに開示される研磨用組成物は、砥粒としてシリカ粒子を含む。上記シリカ粒子は、複数の一次粒子が凝集した二次粒子の形態であってもよく、複数の一次粒子が会合した二次粒子の形態であってもよい。また、一次粒子の形態のシリカ粒子と二次粒子の形態のシリカ粒子とが混在していてもよい。
【0016】
上記シリカ粒子は、最小ピーク径Dpminが80nmより大きく200nm以下である。ここで、最小ピーク径Dpminとは、光透過式遠心沈降法により得られる重量基準の粒度分布における一または二以上のピーク(極大値)のうち、最も小径側のピークの粒子径のことをいう。また、上記シリカ粒子は、最小ピーク径Dpminに対する累積99%粒子径D99の比(D99/Dpmin)が1.40より大きく5.50以下である。ここで、累積99%粒子径D99は、光透過式遠心沈降法に基づく重量基準の粒度分布における累積99%粒子径である。最小ピーク径Dpminおよび最小ピーク径Dpminに対する累積99%粒子径D99の比が上記範囲であると、低い微小うねりの維持と研磨レート向上とが両立しやすい。なお、以下の説明において、上記最小ピーク径Dpmin、累積99%粒子径D99、および最小ピーク径Dpminに対する累積99%粒子径D99の比(D99/Dpmin)を、それぞれ単にDpmin、D99および比(D99/Dpmin)ということがある。
【0017】
上記の構成とすることにより、ここに開示される技術による効果が達成される理由としては、特に限定して解釈されるものではないが、以下が考えられる。
磁気ディスク基板の研磨において砥粒としてシリカ粒子を用いる場合、粒子サイズを大きくすることで研磨レートを向上させようとすると、研磨レートが高くなるにつれて低い微小うねりを維持することが困難になりがちであり、研磨レート向上と微小うねり低減は相反関係になりがちである。
そこで本発明者らが鋭意検討した結果、粒子径が80nmより大きく200nm以下であるシリカ粒子は低い微小うねりと研磨レートとをバランスよく両立させやすいこと、および、上記範囲の粒子径を有する粒子を集中的に多く含み、かつ粒子全体の粒度分布における最小ピーク径Dpminと大粒子との粒径の差と、大粒子の量が所定の比較的小さい範囲に制御されていると低い微小うねりと研磨レートがバランスよく両立しやすいこと、を見出した。すなわち、小径側の最頻径である最小ピーク径Dpminが80nmより大きく200nm以下であり、粒子全体の粒度分布における最小ピーク径Dpminと大粒子との粒径の差と、大粒子の量の指標となり得る比(D99/Dpmin)が1.40より大きく5.50以下であると、低い微小うねりと研磨レートがバランスよく両立しやすいことを見出した。
なお、上記の説明は、実験結果に基づく本発明者の考察であり、ここに開示される技術は、上記のメカニズムに限定して解釈されるものではない。
【0018】
研磨レートの観点から、いくつかの態様において、最小ピーク径Dpminは90nm以上であってもよく、100nm以上でもよく、115nm以上でもよく、130nm以上でもよく、135nm以上でもよく、140nm以上でもよい。また、低い微小うねりの維持の観点から、いくつかの態様において、最小ピーク径Dpminは190nm以下でもよく、185nm以下でもよく、180nm以下でもよく、170nm以下でもよく、160nm以下でもよい。
【0019】
いくつかの態様において、比(D99/Dpmin)は1.50以上であってもよく、1.55以上でもよく、1.58以上でもよく、1.60以上でもよい。また、いくつかの態様において、比(D99/Dpmin)は5.0以下であってもよく、4.5以下でもよく、4.0以下でもよく、3.5以下でもよく、3.0以下でもよく、2.0以下でもよく、1.8以下でもよい。
【0020】
比(D99/Dpmin)が所定の範囲となる限りにおいて、シリカ粒子の累積99%粒子径D99は、特に限定されない。D99は例えば、凡そ100nm以上とすることができる。加工性向上の観点から、D99は、好ましくは凡そ150nm以上、凡そ170nm以上であってもよく、凡そ190nm以上でもよく、200nm以上でもよく、220nm以上でもよく、240nm以上でもよい。シリカ粒子のD99の上限は特に制限されない。微小うねり増大の抑制の観点から、上記砥粒のD99は、例えば凡そ500nm以下であり、凡そ400nm以下が適当であり、好ましくは凡そ300nm以下であり、凡そ290nm以下であってもよく、凡そ285nm以下でもよく、凡そ280nm以下でもよく、凡そ275nm以下でもよい。
【0021】
いくつかの好ましい態様において、最小ピーク径Dpminに対する平均粒子径Dmeanの比(Dmean/Dpmin)は0.70より大きく1.75以下である。ここで、平均粒子径Dmeanは、光透過式遠心沈降法に基づく重量基準の粒度分布における重量平均による平均径である。最小ピーク径Dpminに対する平均粒子径Dmeanの比(Dmean/Dpmin)が上記範囲であると、低い微小うねりと研磨レートが両立しやすい。なお、以下の説明において、上記平均粒子径Dmeanおよび最小ピーク径Dpminに対する平均粒子径Dmeanの比(Dmean/Dpmin)を、それぞれ単にDmeanおよび比(Dmean/Dpmin)ということがある。
【0022】
比(Dmean/Dpmin)を所定の範囲とすることにより、ここに開示される技術による効果が実現されやすい理由としては、特に限定して解釈されるものではないが、以下が考えられる。すなわち、最小ピーク径Dpminに対する平均粒子径Dmeanの比(Dmean/Dpmin)は、シリカ粒子の平均径より小粒側の粒度分布のブロードさの指標となり得る。比(Dmean/Dpmin)が所定の比較的小さい範囲に制御されていることは、小径側の粒度分布の裾野が小さいことを意味しており、かかるシリカ粒子は、上述した低い微小うねりと加工性向上の両立に特に効果的な粒子径のシリカ粒子を集中的に含むものとなりやすい。
【0023】
いくつかの態様において、比(Dmean/Dpmin)は0.75以上であってもよく、0.80以上でもよく、0.85以上でもよく、0.90以上でもよく、0.93以上でもよい。また、いくつかの態様において、比(Dmean/Dpmin)は1.50以下であってもよく、1.40以下でもよく、1.30以下でもよく、1.20以下でもよく、1.10以下でもよく、0.98以下でもよい。
【0024】
平均粒子径Dmeanは、特に限定されない。いくつかの態様において、平均粒子径Dmeanは50nm以上であってもよく、80nm以上でもよく、100nm以上でもよく、110nm以上でもよく、120nm以上でもよく、130nm以上でもよく、140nm以上でもよい。また、いくつかの態様において、平均粒子径Dmeanは250nm以下であってもよく、200nm以下でもよく、170nm以下でもよく、160nm以下でもよく、150nm以下でもよく、148nm以下でもよい。
【0025】
砥粒のDpmin、DmeanおよびD99は、使用するシリカ粒子の選択や、異なる粒度分布を有する2種以上のシリカ粒子の混合、粗大粒子の除去処理の実施等により調節することができる。
【0026】
なお、本明細書における砥粒のDpmin、DmeanおよびD99は、光透過式遠心沈降法により得られる重量基準の粒度分布から求めることができる。具体的には、上記重量基準の粒度分布におけるピーク(極大値)のうちの最も小径側のピーク径をDpminとし、上記重量基準の粒度分布における重量平均の平均径をDmeanとし、上記重量基準の粒度分布における累積99%となる点に相当する粒子径をD99とする。上記光透過式遠心沈降法は、粒子サイズの違いによって生じる沈降速度差を利用し、砥粒中の各粒子を分級しながら粒子径を測定するため、スクラッチを形成し得る粗大な粒子を他の方法(例えばレーザー散乱法や動的光散乱法等)よりも正確に検出することが可能である。
上記光透過式遠心沈降法による粒度分布は、JIS Z 8823-2:2016に準拠した方法により得られる。上記粒度分布測定の具体的な手順は次のとおりである。まず、ディスク形セルの内部に、粒子を含まない透明な検査液(例えば、スクロース8~24重量%水溶液)を満たし、当該検査液を透過する光ビームをセルに照射する。そして、所定の回転数(例えば、24000rpm)でセルを回転させながら、回転軸と同軸の注入口からセル内に砥粒の分散液を注入する。これによって、分散液中の粒子が遠心方向の外側に向かって沈降し、該沈降する粒子によって光ビームが減衰する。そして、時間経過にともなう光ビームの減衰量の変化に基づいて砥粒の粒度分布を求める。なお、上記砥粒の粒度分布は、上記光ビームの減衰量の変化を粒度分布に変換するソフトウエアを用いて求めることができる。
【0027】
具体的な測定方法は以下のとおりである。砥粒をイオン交換水に分散させて測定用砥粒分散液を調製する。米国 CPS Instruments社製のディスク遠心式粒度分布測定装置「DC24000 UHR」を用い、JIS Z 8823-2に準拠して重量基準の粒度分布を求める。粒度分布の測定は、以下に示す条件により行うことができる。
[測定条件]
セル内に導入する検査液:最小濃度8重量%、最大濃度24重量%のスクロース水溶液
セル内に導入する検査液の注入量:12mL
測定用砥粒分散液の砥粒濃度:2重量%
測定用砥粒分散液の注入量:0.1mL
ディスクの回転速度:24000rpm
測定範囲:0.025μm~1.0μm
【0028】
上記の測定によると分析結果として複数の粒子径のピークが表示される。これらの数値のうち最小のものを最小ピーク径Dpminとする。分析ソフトとしては、上記測定装置内のソフトである「CPSV95b」を用いることができる。具体的には、上記ソフトを用いたときに「Detected Peaks」の項目で出力されるピーク径のうち、数値が最小のものを最小ピーク径Dpminとする。平均粒子径Dmeanおよび累積99%粒子径D99についても同様に、上記のソフトを用いたときに出力される結果を採用することができる。後述の実施例においても同様の方法でシリカ粒子のDpmin、DmeanおよびD99は測定される。
【0029】
シリカ粒子の平均アスペクト比は、加工性の維持または向上の観点から、好ましくは1.05以上、より好ましくは1.15以上、さらに好ましくは1.20以上(例えば、1.25以上)である。また、面品質を効率よく高めやすくする観点から、いくつかの態様において、上記平均アスペクト比は、2.50以下であることが適当であり、好ましくは2.0以下、より好ましくは1.70以下、さらに好ましくは1.50以下であり、1.35以下でもよい。そのような範囲の平均アスペクト比を有するシリカ粒子において、Dpminおよび比(D99/Dpmin)を所定の範囲とすることの効果は好ましく発揮される。
【0030】
砥粒としてのシリカ粒子の平均アスペクト比は、例えば次の方法で測定される。すなわち、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)を用いて、測定対象の砥粒(1種類の砥粒粒子であってもよく、2種類以上の砥粒粒子の混合物であってもよい。)に含まれる所定個数の粒子を、1視野内に50個以上の粒子を含むSEM画像で観察する。観察倍率は10000~50000倍とする。上記観察画像中の砥粒粒子について、各々の粒子画像に外接する最小の長方形を描く。そして、各粒子画像に対して描かれた長方形について、その長辺の長さ(長径の値)を短辺の長さ(短径の値)で除した値を長径/短径比(アスペクト比)として算出する。上記所定個数の粒子のアスペクト比を算術平均することにより、平均アスペクト比を求めることができる。上記平均アスペクト比は、一般的な画像解析ソフトウエアを用いて求めることができる。
なお、上記所定個数、すなわち粒子毎のアスペクト比を算出する粒子の個数は、測定精度や再現性を高める観点から、通常、1000個以上とすることが適当であり、1500個以上とすることが好ましい。上記所定個数の上限は特に制限されない。測定効率の観点から、上記所定個数は、例えば5000個以下であってよく、2500個以下でもよい。上記測定には、例えば、日立ハイテクノロジーズ社製の走査型電子顕微鏡「SU8000」や、マウンテック社製の画像解析式粒度分布測定ソフトウエア「Mac-View」が用いられる。
【0031】
シリカ粒子としては、所定のDpminおよび比(D99/Dpmin)を満足するかぎり特に限定されず、シリカを主成分とする各種のシリカ粒子を用いることができる。ここでシリカを主成分とするシリカ粒子とは、該粒子の90重量%以上、例えば95重量%以上、典型的には98重量%以上がシリカである粒子をいう。使用し得るシリカ粒子の例としては、特に限定されず、コロイダルシリカ、凝結粒シリカ、沈降シリカ(沈殿シリカともいう。)、ケイ酸ソーダ法シリカ、アルコキシド法シリカ、フュームドシリカ、乾燥シリカ、爆発法シリカ等が挙げられる。さらに、上記シリカ粒子を原材料として得られたシリカ粒子を用いることもできる。そのようなシリカ粒子の例には、上記原材料のシリカ粒子(以下「原料シリカ」ともいう。)に、加温、乾燥、焼成等の熱処理、オートクレーブ処理等の加圧処理、解砕や粉砕等の機械的処理、表面改質等から選択される1または2以上の処理を適用して得られたシリカ粒子が含まれ得る。表面改質としては、例えば、官能基の導入、金属修飾等の化学的修飾が挙げられる。ここに開示される技術におけるシリカ粒子は、上記のようなシリカ粒子の1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて含むものであり得る。
【0032】
研磨用組成物におけるシリカ粒子の含有量は特に制限されず、例えば0.1重量%以上であってよく、0.5重量%以上であることが好ましく、1重量%以上であることがより好ましく、3重量%以上であることがさらに好ましく、5重量%以上であることが特に好ましい。上記含有量は、複数種類のシリカ粒子を含む場合には、それらの合計含有量である。シリカ粒子の含有量の増大によって、より高い加工性が得られる傾向がある。研磨後の基板の表面平滑性や研磨の安定性の観点から、上記含有量は、30重量%以下が適当であり、好ましくは25重量%以下、より好ましくは15重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下である。
【0033】
ここに開示される研磨用組成物において、該研磨用組成物に含まれる固形分に占めるシリカ粒子の含有量は、ここに開示される技術による効果をよりよく発揮する観点から、上記固形分全体の90重量%以上であることが好ましく、より好ましくは95重量%以上、さらに好ましくは98重量%以上であり、例えば99重量%以上である。なお、本明細書において研磨用組成物に含まれる固形分とは、結合水が除去されない程度の温度、例えば60℃で研磨用組成物から水分を蒸発させた後の残留分すなわち不揮発分をいう。
【0034】
ここに開示される研磨用組成物は、アルミナ粒子を実質的に含まない態様で好ましく実施され得る。アルミナ粒子としては、例えばα-アルミナ粒子が挙げられる。このような研磨用組成物によると、アルミナ粒子の使用に起因する品質低下が防止される。ここでいう品質低下としては、例えば、スクラッチや窪みの発生、アルミナの残留、突き刺さり欠陥等が挙げられる。なお、本明細書においてアルミナ粒子を実質的に含まないとは、研磨用組成物に含まれる固形分全量のうちアルミナ粒子の割合が1重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下、典型的には0.1重量%以下であることをいう。アルミナ粒子の割合が0重量%である研磨用組成物、すなわちアルミナ粒子を含まない研磨用組成物が特に好ましい。また、ここに開示される研磨用組成物は、α-アルミナ粒子を実質的に含まない態様で好ましく実施され得る。
【0035】
ここに開示される研磨用組成物は、シリカ粒子以外の粒子、すなわち非シリカ粒子を実質的に含まない態様で好ましく実施され得る。ここで、非シリカ粒子を実質的に含まないとは、研磨用組成物に含まれる固形分全量のうち非シリカ粒子の割合が1重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下、典型的には0.1重量%以下であることをいう。このような態様において、ここに開示される技術の適用効果が好適に発揮され得る。
【0036】
いくつかの態様において、ここに開示される研磨用組成物は、窒素含有化合物を含む。研磨用組成物に含まれる窒素含有化合物は、研磨中、磁気ディスク基板に吸着し、該基板を保護することで表面凹凸の解消するよう作用し、微小うねりを改善することができる。窒素含有化合物の一分子に含まれる窒素原子の数は特に限定されず、一分子中に窒素原子を1以上4以下有する窒素含有化合物が好ましく用いられる。窒素含有化合物の一分子に含まれる窒素原子の数は、微小うねり低減の観点から、2以上4以下がより好ましく、2または3がさらに好ましく、2が特に好ましい。窒素含有化合物は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
いくつかの態様において、窒素含有化合物として、一分子中に含まれる窒素原子の少なくとも1つに結合した単結合からなる炭素骨格と、該炭素骨格の結合した親水基とを含む構造を有する窒素含有化合物を用いることが好ましい。上記炭素骨格は、窒素原子に単結合により結合しており、かつ炭素-炭素単結合から構成されている。窒素含有化合物は、磁気ディスク基板への吸着作用により微小うねり低減に寄与するが、その一方で、該基板への吸着は加工性低下要因となり得る。上記のように窒素原子に結合した単結合炭素骨格と、該炭素骨格に親水基が結合した構造を有する窒素含有化合物は、自由に回転する炭素骨格に親水基が結合した構造を有するため、研磨中、液中に広がりやすく、立体的な構造で磁気ディスク基板表面に吸着し得ると考えられる。このように立体的に基板に吸着し得る窒素含有化合物は、平面的に基板に吸着するものと比べて、研磨や洗浄時の物理的作用により基板表面から除去されやすく、特に所定の粒度分布を有するシリカ粒子により好適に除去されやすいため、窒素含有化合物の基板への吸着に基づく加工性の低下をよりよく抑制し、さらには加工性をよりよく維持または向上しつつ、微小うねりを改善することができると考えられる。なお、上記のメカニズムは、実験結果に基づく本発明者の考察であり、ここに開示される技術は、上記のメカニズムに限定して解釈されるものではない。
【0038】
上記炭素骨格および親水基を含む構造を有する窒素含有化合物において、該炭素骨格に含まれる炭素数は、特に限定するものではないが、2以上であることが好ましい。上記炭素骨格に含まれる炭素数の上限は、加工性維持または向上の観点から、10以下であることが適当であり、例えば6以下であってもよく、4以下であることが好ましく、3以下がより好ましく、さらに好ましくは2である。また、炭素骨格としては、液中で自由に回転しやすい炭素-炭素単結合から構成されているものであればよく、親水基以外に置換基を有してもよい。いくつかの態様において、窒素含有化合物として、親水基以外の置換基を有しない炭素骨格を含むものが好ましく用いられる。上記炭素骨格に結合する親水基としては、水酸基、アミノ基、(ポリ)オキシエチレン基を含む(ポリ)オキシアルキレン基、スルホン酸基、硫酸基、カルボキシル基等が挙げられる。上記炭素骨格に結合する親水基は、基板からの除去性の観点から、少なくとも該炭素骨格の末端に結合していることが好ましい。一の炭素骨格に結合する親水基の数は、特に限定されず、例えば1以上3以下であり、1または2が好ましい。
【0039】
上記炭素骨格および親水基を含む構造を有する窒素含有化合物において、一の窒素原子に結合する炭素骨格の数は、1以上3以下であり、好ましくは2である。炭素骨格と該炭素骨格に結合した親水基の典型例としては、例えば、ヒドロキシアルキル基、アルキルアミノ基が挙げられる。上記窒素含有化合物の好適例としては、1以上(具体的には、1,2または3)のヒドロキシアルキル基が窒素原子に結合した構造を有する化合物、1以上(具体的には、1,2または3)のアルキルアミノ基が窒素原子に結合した構造を有する化合物、少なくとも1つのヒドロキシアルキル基および少なくとも1つのアルキルアミノ基が窒素原子に結合した構造を有する化合物が挙げられる。なかでも、上記ヒドロキシアルキル基および上記アルキルアミノ基が窒素原子に結合した構造を有する化合物が特に好ましい。
【0040】
窒素含有化合物としては、アンモニアや含窒素有機化合物を用いることができる。なかでも、有機アミン等の含窒素有機化合物が好ましい。含窒素有機化合物としては、脂肪族アミン化合物、脂環式アミン化合物、含窒素複素環芳香族化合物のいずれも使用可能である。なかでも、窒素原子を1以上4以下(好ましくは2または3)有する含窒素有機化合物が好ましい。また、加工性の維持、向上の観点から、窒素原子を含む芳香環(例えばピラジン骨格等)を有しない含窒素有機化合物や、グアニジン骨格を有しない含窒素有機化合物が好ましく用いられる。そのような構造を有する含窒素有機化合物としては、脂肪族アミン化合物、脂環式アミン化合物が挙げられる。かかる含窒素有機化合物は、基板への吸着により該基板を保護しつつ、含窒素複素環芳香族化合物やグアニジン骨格を有する化合物と比べて、所定の粒度分布を有するシリカ粒子により基板から除去されやすいと考えられる。上記アミン化合物は、第1級アミン、第2級アミンまたは第3級アミンのいずれも使用可能であり、第2級アミンの形態を有するものが好ましく用いられる。
【0041】
脂肪族アミン化合物の例としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン等のトリアルキルアミン;ジメチルメタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルメタノールアミン、ジエチルエタノールアミン等のジアルキルモノアルカノールアミン;メチルジメタノールアミン、メチルジエタノールアミン、エチルジメタノールアミン、エチルジエタノールアミン等のモノアルキルジアルカノールアミン;モノメタノールアミン、モノエタノールアミン等のモノアルカノールアミン;ジメタノールアミン、ジエタノールアミン等のジアルカノールアミン;トリメタノールアミン、トリエタノールアミン等のトリアルカノールアミン;エチレンジアミン、N,N,N',N'-テトラメチルエチレンジアミン、1,2-ジアミノプロパン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、ヘキサメチレンジアミン、3-(ジエチルアミノ)プロピルアミン、3-(ジブチルアミノ)プロピルアミン、3-(メチルアミノ)プロピルアミン、3-(ジメチルアミノ)プロピルアミン等のジアミン;2-(2-アミノエチルアミノ)エタノール、N-(2-アミノエチル)ジエタノールアミン、N-アミノエチルイソプロパノールアミン、N-アミノエチル-N-メチルエタノールアミン等の水酸基含有ジアミン;ジエチレントリアミン等のトリアミン;トリエチレンテトラミン;等が挙げられる。なかでも、アルカノールアミン類、水酸基含有ジアミンが好ましく、2-(2-アミノエチルアミノ)エタノールがより好ましい。
【0042】
脂環式アミン化合物の例としては、ピペラジン;N-メチルピペラジン、N-エチルピペラジン、2、5-ジメチルピペラジン等のアルキルピペラジン;N-アミノメチルピペラジン、N-アミノエチルピペラジン等のアミノアルキルピペラジン;ヒドロキシエチルピペラジン等のヒドロキシアルキルピペラジン;等が挙げられる。なかでも、アミノアルキルピペラジンが好ましく、N-アミノエチルピペラジンがより好ましい。
【0043】
含窒素複素環芳香族化合物の例としては、ピリジン、3-アミノピリジン、4-ジメチルアミノピリジン等のピリジン類;ニコチン酸;ピラジン、2-アミノピラジン等のピラジン類;1,2,3-トリアゾール、1,2,4-トリアゾール等のトリアゾール類;1,2,3-ベンゾトリアゾール、2,2′-[[(メチル-1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)メチル]イミノ]ビスエタノール等のベンゾトリアゾール類;イミダゾール類;等が挙げられる。なかでも、2,2′-[[(メチル-1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)メチル]イミノ]ビスエタノールが好ましい。
【0044】
その他の窒素含有化合物としては、アンモニア、第四級アンモニウム類、グアニジン;等が挙げられる。
【0045】
窒素含有化合物の分子量は、アンモニアの分子量17.03以上である。特に限定するものではないが、微小うねり低減の観点から、いくつかの態様において、窒素含有化合物の分子量は、50以上であり、60以上が適当であり、80以上が好ましく、100以上がより好ましく、120以上であってもよく、140以上でもよい。また、加工性の観点から、いくつかの態様において、窒素含有化合物の分子量は、500以下が適当であり、300以下が好ましく、200以下がより好ましく、150以下がさらに好ましく、130以下であってもよい。
【0046】
研磨用組成物における窒素含有化合物の含有量は、特に限定されず、窒素含有化合物の添加効果を効果的に発揮させる観点から、いくつかの態様において、例えば0.001g/L以上とすることが適当であり、好ましくは0.01g/L以上、より好ましくは0.05g/L以上、さらに好ましくは0.10g/L以上、特に好ましくは0.15g/L以上、最も好ましくは0.17g/L以上である。また、いくつかの態様において、加工性維持の観点から、上記窒素含有化合物の含有量は、3g/L以下が適当であり、好ましくは1g/L以下、より好ましくは0.8g/L以下、さらに好ましくは0.5g/L以下、特に好ましくは0.3g/L以下、最も好ましくは0.25g/L以下である。
【0047】
(酸)
ここに開示される研磨用組成物は、研磨促進剤として酸を含む。酸としては、無機酸および有機酸のいずれも使用可能である。有機酸としては、例えば、炭素原子数が1~18程度、典型的には1~10程度の有機カルボン酸、有機スルホン酸等が挙げられる。酸は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0048】
無機酸の具体例としては、リン酸(オルトリン酸)、硝酸、硫酸、塩酸、ホウ酸、スルファミン酸、ホスフィン酸、ホスホン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸、テトラポリリン酸、ヘキサメタリン酸、炭酸、フッ化水素酸、亜硫酸、チオ硫酸、塩素酸、過塩素酸、亜塩素酸、ヨウ化水素酸、過ヨウ素酸、ヨウ素酸、臭化水素酸、過臭素酸、臭素酸、クロム酸、亜硝酸等が挙げられる。
【0049】
有機酸の具体例としては、クエン酸、マレイン酸、リンゴ酸、グリコール酸、コハク酸、イタコン酸、マロン酸、グルコン酸、乳酸、マンデル酸、酒石酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、アジピン酸、シュウ酸、吉草酸、エナント酸、カプロン酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、シクロヘキサンカルボン酸、フェニル酢酸、安息香酸、クロトン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、リシノレン酸、メタクリル酸、グルタル酸、フマル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、タルトロン酸、グリセリン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ酢酸、ヒドロキシ安息香酸、サリチル酸、イソクエン酸、メチレンコハク酸、没食子酸、アスコルビン酸、オキサロ酢酸、クロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸等の有機カルボン酸;フィチン酸;1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、エタン-1,1-ジホスホン酸、エタン-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1-ジホスホン酸、エタンヒドロキシ-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1,2-ジカルボキシ-1,2-ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2-ジカルボン酸、1-ホスホノブタン-2,3,4-トリカルボン酸、α-メチルホスホノコハク酸等の有機ホスホン酸;メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸、スルホコハク酸、10-カンファースルホン酸、イセチオン酸等の有機スルホン酸等が挙げられる。
【0050】
研磨効率の観点から好ましい酸として、リン酸、ホスホン酸、マレイン酸、塩酸、硝酸、硫酸、スルファミン酸、フィチン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、メタンスルホン酸等が例示される。なかでもリン酸、ホスホン酸、マレイン酸、塩酸、硝酸、硫酸が好ましい。
【0051】
酸は、該酸の塩の形態で用いられてもよい。塩の例としては、上述した無機酸や有機酸の、金属塩等が挙げられる。金属塩としては、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩が挙げられる。
塩の具体例としては、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等のアルカリ金属リン酸塩およびアルカリ金属リン酸水素塩;上記で例示した有機酸のアルカリ金属塩;等が挙げられる。これらのアルカリ金属塩におけるアルカリ金属は、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等であり得る。
【0052】
ここに開示される研磨用組成物に含まれ得る塩としては、無機酸の塩、例えば、アルカリ金属塩を好ましく採用し得る。例えば、塩化カリウム、塩化ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、リン酸カリウム等を好ましく使用し得る。
【0053】
酸およびその塩は、1種を単独でまたは2種以上(例えば2種または3種)を組み合わせて用いることができる。いくつかの態様において、酸と、該酸とは異なる酸の塩とを組み合わせて用いることができる。上記酸は、好ましくは無機酸である。上記酸の塩は、好ましくは無機酸の塩である。
【0054】
研磨用組成物における酸のモル濃度(複数種類の酸を含む場合には、それらの合計モル濃度)は特に限定されず、例えば0.001mol/L以上とすることが適当であり、好ましくは0.01mol/L以上、より好ましくは0.05mol/L以上、さらに好ましくは0.07mol/L以上、特に好ましくは0.09mol/L以上である。酸のモル濃度の増大によって、より高い加工性が実現され得る。研磨後の面品質や研磨の安定性等の観点から、上記酸のモル濃度は、1.2mol/L以下が適当であり、好ましくは1mol/L以下、より好ましくは0.8mol/L以下、さらに好ましくは0.5mol/L以下であり、特に好ましくは0.3mol/L以下(例えば0.2mol/L以下)である。
【0055】
(酸化剤)
ここに開示される研磨用組成物は、酸化剤を含有する。酸化剤の例としては、過酸化物、硝酸またはその塩、過ヨウ素酸またはその塩、ペルオキソ酸またはその塩、過マンガン酸またはその塩、クロム酸またはその塩、酸素酸またはその塩、金属塩類、硫酸類等が挙げられるが、これらに限定されない。酸化剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。酸化剤の具体例としては、過酸化水素、過酸化ナトリウム、過酸化バリウム、硝酸、硝酸鉄、硝酸アルミニウム、ペルオキソ一硫酸、ペルオキソ一硫酸金属塩、ペルオキソ二硫酸、ペルオキソ二硫酸金属塩、ペルオキソリン酸、ペルオキソ硫酸、ペルオキソホウ酸ナトリウム、過ギ酸、過酢酸、過安息香酸、過フタル酸、次亜臭素酸、次亜ヨウ素酸、塩素酸、臭素酸、ヨウ素酸、過ヨウ素酸、過塩素酸、次亜塩素酸、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム、過マンガン酸カリウム、クロム酸金属塩、重クロム酸金属塩、塩化鉄、硫酸鉄、クエン酸鉄、硫酸アンモニウム鉄等が挙げられる。好ましい酸化剤として、過酸化水素、硝酸鉄、過ヨウ素酸、ペルオキソ一硫酸、ペルオキソ二硫酸および硝酸が例示される。酸化剤は、少なくとも過酸化水素を含むことが好ましく、過酸化水素からなることがより好ましい。
【0056】
研磨用組成物における酸化剤の含有量は、研磨対象物を酸化する速度、ひいては加工性を考慮して、0.05mol/L以上であることが好ましく、より好ましくは0.1mol/L以上、さらに好ましくは0.15mol/L以上、特に好ましくは0.3mol/L以上である。また、研磨用組成物中の酸化剤の含有量は、面精度保持の観点から、1mol/L以下であることが好ましく、より好ましくは0.8mol/L以下、さらに好ましくは0.6mol/L以下である。
【0057】
(シリカ残低減剤)
いくつかの好ましい態様において、ここに開示される研磨用組成物は、シリカ残低減剤を含む。上記シリカ残低減剤としては、リン酸エステル、亜リン酸エステルおよび有機ホスホン酸化合物から選択される1種または2種以上の化合物であって、温度30℃において100mLの純水に対して1gが完全に溶解する水溶解性を有する化合物を用いることができる。上記シリカ残低減剤を使用することによって、磁気ディスク基板の一次研磨において加工性を損なうことなくシリカ残留を低減することができる。その理由としては、例えば以下のように考えられる。研磨用組成物に含まれるシリカ残低減剤は組成物中に溶解した状態で基板表面に薄膜状に配置され、シリカ砥粒と基板との間にて、シリカ砥粒の基板への直接接触や付着を抑制すると考えられる。そのため、シリカ砥粒は、その後の洗浄によって、水溶性のシリカ残低減剤とともに基板上から除去され、その結果、基板へのシリカ残留を低減するものと考えられる。なお、上記のメカニズムは、実験結果に基づく本発明者らの考察であり、ここに開示される技術は、上記のメカニズムに限定して解釈されるものではない。
【0058】
ここに開示されるシリカ残低減剤は、典型的には、温度30℃において100mLの純水に対して1gが完全に溶解する水溶解性を有するものであり得る。これによって、シリカ残低減剤は、研磨用組成物に溶解し、スムーズに組成物内を移動して、基板とシリカ砥粒との間に配置され得る。また、シリカ残低減剤は水溶性であるので、研磨後の洗浄によって容易に除去され得る。
【0059】
なお、温度30℃における純水に対する完全溶解性の評価は、フラスコに100mLの純水を入れ、そこに試料1gを投入し、撹拌混合し、1時間以内に完全に溶解したかどうかを目視で観察し、白濁や沈殿物、相分離(有機相/水相等)の有無から判定することができる。測定は常圧で行われる。試料1gが純水100mLに完全に溶解したか否かの判断が難しい場合は、測定溶液を遠心分離し、上澄み中の試料の有無を分析すればよい。この場合、N=3とすることが望ましい。あるいは、文献等の公知情報や、SDS(Safety Data Sheet)に記載の水に対する溶解度(30℃)が1(g/100mL)以上を示すか、あるいは示唆している場合、上記の水溶解度を満足すると便宜的にみなしてもよい。
後述の実施例においても、上記の条件が採用される。
【0060】
シリカ残低減剤として用いられるリン酸エステル、亜リン酸エステルは、リン酸エステル結合で結合した1つまたは2つの有機基を有する。この有機基は、リン酸に含まれる1つまたは2つのOH基(典型的にはリン原子に直接結合したOH基)の水素原子に置換した置換基と言い換えることができる。いくつかの態様におけるシリカ残低減剤が有する有機基の数は1または2である。いくつかの好ましい態様では、シリカ残低減剤は、上記有機基として、エーテル結合を含んでよい炭素原子数が6以下の有機基を有するもののなから選択される。有機基における炭素原子数が制限されていることは、有機基、ひいてはシリカ残低減剤のサイズが制限されていることに通じ、水溶解性に優れ、また移動性に優れる傾向がある。上記有機基が有する炭素原子数は、水溶解性や移動性の観点から、5以下であってもよく、4以下でもよく、3以下でもよく、2以下(例えば1)でもよい。また、有機基が有する炭素原子数が制限されていることにより、シリカ残低減剤とシリカ粒子との疎水性相互作用も抑制される傾向がある。上記有機基は、エーテル結合を含んでもよく、含まなくてもよい。いくつかの態様では、シリカ残低減剤の有機基はエステル結合やビニル基を含まないものであり得る。
【0061】
シリカ残低減剤が有する上記有機基の好適例として、炭素原子数が4以下であるアルキル基が挙げられる。アルキル基は直鎖状であってもよく分岐状であってもよい。水溶解性、移動性、シリカ粒子との吸着抑制等の観点から、上記アルキル基の炭素原子数は、3以下でもよく、2以下でもよく、1でもよい。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基(n-プロピル基、イソプロピル基)、ブチル基(n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基)が挙げられる。シリカ残低減剤は、上記アルキル基を1つまたは2つ有するものであり得る。
【0062】
シリカ残低減剤が有する上記有機基の他の好適例としては、炭素原子数が6以下であるアルコキシアルキル基が挙げられる。水溶解性、移動性、シリカ粒子との吸着抑制等の観点から、上記アルコキシアルキル基の炭素原子数は、5以下でもよく、4以下でもよく、3以下でもよく、2でもよい。アルコキシアルキル基としては、メトキシメチル基、エトキシメチル基、プロポキシメチル基、ブトキシメチル基、メトキシエチル基、エトキシエチル基、プロポキシエチル基、ブトキシエチル基、メトキシプロピル基、エトキシプロピル基、プロポキプロピル基、メトキシブチル基、エトキシブチル基が挙げられる。シリカ残低減剤は、上記アルコキシアルキル基を1つまたは2つ有するものであり得る。あるいは、シリカ残低減剤は、上記アルキル基と上記アルコキシアルキル基とを有するものであってもよい。
【0063】
シリカ残低減剤として用いられるリン酸エステルとしては、リン酸モノエステル、リン酸ジエステル、リン酸トリエステルのいずれも使用可能である。リン酸エステルは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0064】
上記リン酸エステルとしては、モノアルキルアシッドホスフェート(モノメチルアシッドホスフェート、モノエチルアシッドホスフェート、モノイソプロピルアシッドホスフェート、モノブチルアシッドホスフェート等)、ジアルキルアシッドホスフェート(ジメチルアシッドホスフェート、ジエチルアシッドホスフェート、ジイソプロピルアシッドホスフェート、ジブチルアシッドホスフェート等)等のアルキルアシッドホスフェート;モノアルケニルアシッドホスフェート、ジアルケニルアシッドホスフェート等のアルケニルアシッドホスフェート;モノ(アルコキシアルキル)アシッドホスフェート、ジ(アルコキシアルキル)アシッドホスフェート等のアルコキシアルキルアシッドホスフェート(メトキシメチルアシッドホスフェート、エトキシメチルアシッドホスフェート、ブトキシメチルアシッドホスフェート、メトキシエチルアシッドホスフェート、エトキシエチルアシッドホスフェート、プロポキシエチルアシッドホスフェート、ブトキシエチルアシッドホスフェート、メトキシプロピルアシッドホスフェート、エトキシプロピルアシッドホスフェート、プロポキプロピルアシッドホスフェート、メトキシブチルアシッドホスフェート、エトキシブチルアシッドホスフェート等);モノアルキルホスフェート;等のなかから、上記水溶解性を示すものが用いられる。これらは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。なかでも、アルキルアシッドホスフェート、アルコキシアルキルアシッドホスフェートが好ましく、メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、ブトキシエチルアシッドホスフェートがより好ましい。アルキルアシッドホスフェートは、モノアルキルアシッドホスフェートとジアルキルアシッドホスフェートとの混合物でもよい。アルコキシアルキルアシッドホスフェートについても同様である。
【0065】
亜リン酸エステルとしては、ジメチルハイドロゲンホスファイト、ジエチルハイドロゲンホスファイト、ジイソプロピルハイドロゲンホスファイト、ジブチルハイドロゲンホスファイト、ジイソブチルハイドロゲンホスファイト等のアルキルハイドロゲンホスファイト等のなかから、上記水溶解性を示すものが好ましく用いられる。これらは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。なかでも、ジエチルハイドロゲンホスファイト、ジブチルハイドロゲンホスファイトがより好ましい。
【0066】
有機ホスホン酸化合物としては、上記水溶解性を示す有機ホスホン酸化合物の1種または2種以上を特に制限なく用いることができる。好適例としては、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)が挙げられる。
【0067】
シリカ残低減剤の分子量としては、その機能を発揮し得る適当な範囲が選択され、特定の範囲に限定されるものではない。シリカ残低減剤の分子量は、水溶解性、移動性、シリカ粒子との吸着抑制等の観点から、500以下が適当であり、例えば300以下であってもよく、250以下でもよく、200以下でもよく、150以下(例えば150未満)でもよい。上記分子量の下限は、凡そ100以上であり、例えば120以上であってもよい。また、シリカ残低減剤としてのリン酸エステルの分子量は250以下が適当であり、220以下でもよく、200以下でもよく、185以下でもよく、165以下でもよく、150以下(例えば150未満)でもよく、140以下でもよく、130以下(例えば125以下)でもよい。シリカ残低減剤としての亜リン酸エステルの分子量は250以下が適当であり、200以下であってもよく、160以下でもよく、150以下(例えば150未満)でもよく、145以下でもよい。シリカ残低減剤としての有機ホスホン酸化合物の分子量は500以下が適当であり、400以下でもよく、350以下でもよく、320以下でもよく、300程度でもよい。上記分子量の下限は、凡そ100以上であり、例えば200以上であってもよく、250以上でもよく、280以上でもよい。
【0068】
ここに開示される研磨用組成物におけるシリカ残低減剤の含有量は、加工性を損なわずにシリカ残低減効果を実現し得る適当量とすることができ、また種によっても異なり得るため、特定の範囲に限定されない。上記含有量は、凡そ0.001mM(mmol/L)以上とすることができ、凡そ0.01mM以上が適当である。シリカ残低減効果をよりよく発揮する観点から、上記含有量は、凡そ0.1mM以上でもよく、凡そ0.3mM以上でもよく、凡そ0.5mM以上でもよく、凡そ1mM以上でもよく、凡そ2mM以上でもよい。いくつかの態様では、上記シリカ残低減剤の含有量は、凡そ5mM以上でもよく、凡そ8mM以上でもよく、凡そ10mM以上でもよい。凡そ15mM以上(例えば18mM以上、さらには22mM以上)のシリカ残低減剤を含む研磨用組成物によると、シリカ残低減効果を得つつ、加工性改善効果が得られやすい傾向がある。上記シリカ残低減剤の含有量の上限は、例えば凡そ300mM以下とすることができ、凡そ100mM以下が適当であり、凡そ50mM以下であってもよく、凡そ30mM以下でもよく、15mM未満でもよい。ここに開示される技術によると、少量のシリカ残低減剤の添加で所望の効果を実現し得ることから、上記シリカ残低減剤の含有量の上限は10mM未満でもよく、7mM未満でもよく、5mM未満でもよく、3mM未満でもよい。
【0069】
(水溶性ポリマー(A))
いくつかの好ましい態様において、ここに開示される研磨用組成物は、水溶性ポリマー(A)を含む。水溶性ポリマー(A)を用いることにより、研磨抵抗の低減と加工性の向上とを両立することができる。その理由としては、以下のことが考えられる。すなわち、上記水溶性ポリマー(A)は、研磨場の各界面、例えば研磨パッドやNi-P基板等に吸着し、研磨剤成分の拡散を助長し、かつ研磨応力が緩和される方向に表面改質が進行するものと推定される。なお、上記のメカニズムは、実験結果に基づく本発明者らの考察であり、ここに開示される技術は上記のメカニズムに限定して解釈されるものではない。
【0070】
ここに開示される水溶性ポリマー(A)は、典型的にはモノマーの重合によって生成する重合体であり、該モノマーに由来するモノマー単位を複数有する。上記ポリマー中において、モノマー単位は繰返し単位ともいう。水溶性ポリマー(A)のモノマー単位とは、水溶性ポリマー(A)の合成に用いられるモノマーに由来する構造単位をいい、ポリマーに組み込まれた後のモノマーに対応する構造を有する。
【0071】
特に限定するものではないが、水溶性ポリマー(A)の合成に用いられるモノマーとしては、ビニル系モノマーが好ましく用いられる。ここでビニル系モノマーとは、ラジカル重合性を有するビニル基を有する化合物である。水溶性ポリマー(A)は、2種以上のビニル系モノマーを共重合することにより好ましく得られる。
【0072】
水溶性ポリマー(A)は、モノマー単位を、1種を単独でまたは2種上を組み合わせて含み得る。モノマー単位を形成するモノマーとしては、特に限定するものではないが、例えば、カルボン酸基含有モノマー、スルホン酸基含有モノマー、アミド基含有モノマー(例えば(メタ)アクリルアミド)等が挙げられる。なお、(メタ)アクリルとは、アクリルおよびメタクリルを包括的に指す意味である。
【0073】
また、モノマー単位を形成するモノマーとして、アミド基含有モノマー(例えばN,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド、N-モノアルキル(メタ)アクリルアミド)、芳香族ビニルモノマー(スチレン、ビニルナフタレン等)等が挙げられる。
【0074】
モノマーの好適例としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、アクリルアミド、N-tert-ブチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N,N-ジプロピルアクリルアミド、N,N-ジイソプロピルアクリルアミド、N,N-ジブチルアクリルアミド、スチレン等が挙げられる。
【0075】
特に限定するものではないが、水溶性ポリマー(A)の重量平均分子量(Mw)は、通常、例えば凡そ2,000以上であり、4,000以上であってもよい。いくつかの好ましい態様において、上記Mwは5,000以上であり、8,000以上がより好ましく、10,000以上がさらに好ましく、12,000以上が特に好ましい。また、いくつかの態様において、水溶性ポリマー(A)のMwは、100,000以下(例えば100,000未満)であってもよく、70,000以下でもよい。いくつかの好ましい態様において、上記Mwは、50,000以下であり、30,000以下であってもよく、20,000以下でもよく、15,000以下でもよい。上記の範囲内から適当なMwを有する水溶性ポリマー(A)を用いることにより、研磨抵抗の低減と加工性の向上とを好ましく両立することができる。
【0076】
水溶性ポリマー(A)のMwとしては、水系のゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)に基づく値を採用することができる。測定は、例えば下記の条件で行うことができる。
[GPC測定条件]
装置: 東ソー社製、HLC-8320GPC
カラム:東ソー社製、TSKgel GMPWxL
溶離液:0.1N硝酸ナトリウム
流速:0.5mL/min
温度:40℃
検出:示差屈折率検出器
サンプル:0.1重量%(注入量100μL)
標準サンプル:分子量が既知のPEGおよびPEO
【0077】
水溶性ポリマー(A)を得る方法は特に限定されず、水溶性ポリマーの合成手法として知られている各種の重合方法を適宜採用することができる。例えば、水溶液重合法を好ましく採用し得る。水溶液重合に用いる溶媒(重合溶媒)としては、水性の溶媒(典型的には水)が用いられ、水に加え、適量のイソプロピルアルコール等のアルコール類、アセトン等のケトン類を含んでもよい。重合に用いる開始剤は、重合方法の種類に応じて、従来公知の重合開始剤から適宜選択することができる。例えば、アゾ系重合開始剤、過酸化物系重合開始剤等のラジカル重合開始剤が好ましく使用され得る。重合開始剤として、水溶性のレドックス系重合開始剤を用いてもよい。上記重合開始剤の使用量は、重合方法や重合態様等に応じた通常の使用量とすることができ、特に限定されず、例えば、重合対象の全モノマー成分100重量部に対して重合開始剤量を凡そ0.001~15重量部(好ましく凡そ0.01~10重量部、例えば凡そ0.1~10重量部)の範囲内とすることができる。重合に際して、分子量の調節等を目的として、適量の連鎖移動剤を添加してもよい。重合温度は、使用するモノマーおよび溶媒の種類、重合開始剤の種類等に応じて適宜選択することができ、例えば60℃~100℃程度とすることができる。重合時間は凡そ2~20時間(例えば3~10時間)の範囲内とすることが好ましい。重合反応後には、必要に応じて塩基性化合物で中和を行ってもよい。
【0078】
研磨用組成物における水溶性ポリマー(A)の濃度は、特に限定されない。いくつかの態様において、上記濃度は、例えば0.0001重量%以上であり、0.0005重量%以上であってもよい。水溶性ポリマー(A)含有の効果を効果的に発揮する観点から、いくつかの好ましい態様において、上記濃度は、0.001重量%以上であり、0.005重量%以上であってもよく、0.01重量%以上でもよく、0.02重量%以上でもよく、0.03重量%以上でもよい。また、いくつかの態様において、上記水溶性ポリマー(A)の濃度は、3重量%以下とすることが適当であり、2重量%以下であってもよい。加工性や研磨後の洗浄除去性等の観点から、いくつかの好ましい態様において、上記水溶性ポリマー(A)の濃度は、1重量%以下(例えば1重量%未満)であり、より好ましくは0.2重量%以下、さらに好ましくは0.1重量%以下(例えば0.1重量%未満)であり、0.07重量%以下でもよく、0.05重量%以下でもよい。
【0079】
研磨用組成物に含まれる水溶性ポリマー(A)の量は、該研磨用組成物に含まれる砥粒との相対的関係によっても特定され得る。いくつかの態様において、研磨用組成物に含まれる砥粒100重量部に対する水溶性ポリマー(A)の含有量は、例えば0.001重量部以上とすることが適当であり、好ましくは0.01重量部以上、より好ましくは0.1重量部以上であり、さらに好ましくは0.5重量部以上であり、1重量部以上であってもよい。また、いくつかの態様において、砥粒100重量部に対する水溶性ポリマー(A)の含有量は、凡そ10重量部以下とすることが適当であり、好ましくは5重量部以下、より好ましくは3重量部以下、さらに好ましくは2重量部以下であり、1.5重量部以下であってもよい。砥粒量に対して適当量の水溶性ポリマー(A)を使用することにより、研磨抵抗の低減と加工性の向上とを好ましく両立することができる。
【0080】
(水)
ここに開示される研磨用組成物は、典型的には水を含有する。水としては、イオン交換水、純水、超純水、蒸留水等を好ましく用いることができる。イオン交換水は、典型的には脱イオン水であり得る。
【0081】
ここに開示される研磨用組成物は、例えば、その固形分含量が0.5重量%~30.0重量%である形態で好ましく実施され得る。上記固形分含量が1.0重量%~20.0重量%である形態がより好ましい。研磨用組成物は、典型的にはスラリー状の組成物であり得る。
【0082】
(その他の成分)
ここに開示される研磨用組成物は、本発明の効果が著しく妨げられない範囲で、界面活性剤、水溶性高分子、分散剤、キレート剤、防腐剤、防カビ剤、塩基性化合物等の、研磨用組成物に使用され得る公知の添加剤を、必要に応じてさらに含有してもよい。
【0083】
界面活性剤としては、特に限定されず、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤のいずれも使用可能である。界面活性剤の使用により、研磨用組成物の分散安定性が向上し得る。界面活性剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。上記界面活性剤は、典型的には、分子量1×10未満の水溶性有機化合物であり得る。
【0084】
界面活性剤を含む態様の研磨用組成物では、界面活性剤の含有量を、例えば0.0005重量%以上とすることが適当である。上記含有量は、研磨後の表面の平滑性等の観点から、好ましくは0.001重量%以上、より好ましくは0.002重量%以上である。また、加工性等の観点から、上記含有量は、3.0重量%以下とすることが適当であり、好ましくは0.5重量%以下、例えば0.1重量%以下である。ここに開示される技術は、加工性の観点から、研磨用組成物が界面活性剤を実質的に含まない態様で好ましく実施され得る。
【0085】
ここに開示される研磨用組成物には、任意成分として、水溶性高分子(以下、「任意水溶性高分子」ともいう。)を含んでもよい。任意水溶性高分子には、水溶性ポリマー(A)に該当するものは含まれない。任意水溶性高分子を含有させることにより、研磨後の面品質が向上し得る。任意水溶性高分子の例としては、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、メチルナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、アントラセンスルホン酸ホルムアルデヒド等のポリアルキルアリールスルホン酸系化合物;リグニンスルホン酸、変成リグニンスルホン酸等のリグニンスルホン酸系化合物;その他、ポリイソプレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリイソアミレンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸塩、ポリアクリル酸塩、ポリ酢酸ビニル、ポリマレイン酸、ポリイタコン酸、ポリビニルアルコール、ポリグリセリン、イソプレンスルホン酸とアクリル酸の共重合体、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースの塩、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、プルラン等が挙げられる。水溶性高分子は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0086】
任意水溶性高分子を使用する態様において、研磨用組成物中の任意水溶性高分子の含有量は、本発明の効果が著しく妨げられない範囲で適宜設定され得る。また、ここに開示される研磨用組成物は、任意水溶性高分子を実質的に含まない態様で実施することができる。かかる観点から、研磨用組成物が任意水溶性高分子を含む態様および任意水溶性高分子を実質的に含まない態様において、研磨用組成物に含まれる水溶性高分子全体(水溶性ポリマー(A)を包含する。)に占める任意水溶性高分子の割合は、80重量%以下であってもよく、50重量%以下(例えば50重量%未満)でもよく、30重量%以下でもよく、20重量%以下でもよく、10重量%以下でもよく、5重量%以下(例えば0~5重量%)でもよい。
【0087】
分散剤の例としては、ポリカルボン酸ナトリウム塩等のポリカルボン酸系分散剤;ナフタレンスルホン酸ナトリウム塩等のナフタレンスルホン酸系分散剤;アルキルスルホン酸系分散剤;ポリリン酸系分散剤;アルキレンオキサイド系分散剤;多価アルコールエステル系分散剤;等が挙げられる。分散剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0088】
研磨用組成物には、必要に応じて塩基性化合物を含有させることができる。ここで塩基性化合物とは、研磨用組成物に添加されることによって該組成物のpHを上昇させる機能を有する化合物を指す。塩基性化合物の例としては、アルカリ金属水酸化物、炭酸塩や炭酸水素塩、リン酸塩やリン酸水素塩、有機酸塩等が挙げられる。塩基性化合物は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0089】
(pH)
ここに開示される研磨用組成物のpHは特に制限されない。研磨用組成物のpHは、例えば、12.0以下、典型的には0.5~12.0とすることができ、10.0以下、典型的には0.5~10.0としてもよい。加工性や面品質等の観点から、研磨用組成物のpHは、7.0以下、例えば0.5~7.0とすることができ、5.0以下、典型的には1.0~5.0とすることがより好ましく、4.0以下、例えば1.0~4.0とすることがさらに好ましい。研磨用組成物のpHは、例えば3.0以下、典型的には1.0~3.0、好ましくは1.0~2.0、より好ましくは1.0~1.8とすることができる。研磨液において上記pHが実現されるように、必要に応じて有機酸、無機酸、塩基性化合物等のpH調整剤を含有させることができる。上記pHは、例えば、ニッケルリン基板等の磁気ディスク基板の研磨用組成物に好ましく適用され得る。特に一次研磨用の研磨用組成物に好ましく適用され得る。
【0090】
(研磨液)
ここに開示される研磨用組成物は、典型的には該研磨用組成物を含む研磨液の形態で研磨対象物に供給されて、該研磨対象物の研磨に用いられる。上記研磨液は、例えば、研磨用組成物を希釈して調製されたものであり得る。ここで希釈とは、典型的には水による希釈である。あるいは、研磨用組成物をそのまま研磨液として使用してもよい。すなわち、ここに開示される技術における研磨用組成物の概念には、研磨対象物に供給されて該研磨対象物の研磨に用いられる研磨液(ワーキングスラリー)と、希釈して研磨液として用いられる濃縮液との双方が包含される。このような濃縮液の形態の研磨用組成物は、製造、流通、保存等の際における利便性やコスト低減等の観点から有利である。濃縮倍率は、例えば1.5倍~50倍程度とすることができる。濃縮液の貯蔵安定性等の観点から、例えば2倍~20倍、典型的には2倍~10倍程度の濃縮倍率が適当である。
【0091】
(多剤型研磨用組成物)
ここに開示される研磨用組成物は、一剤型であってもよいし、二剤型を始めとする多剤型であってもよい。例えば、該研磨用組成物の構成成分、典型的には、水以外の成分のうち一部の成分を含むパートAと、残りの成分を含むパートBとが混合されて研磨対象物の研磨に用いられるように構成されていてもよい。いくつかの好ましい態様に係る多剤型研磨用組成物は、砥粒を含むパートAと、砥粒以外の成分を含むパートBとから構成されている。砥粒を含むパートAは、さらに分散剤を含んでもよい。パートBに含まれる砥粒以外の成分としては、例えば酸が挙げられる。また、パートBには、水溶性高分子その他の添加剤が含まれ得る。混合時には、例えば過酸化水素等の酸化剤がさらに混合され得る。例えば、上記酸化剤が水溶液の形態で供給される場合、当該水溶液は、多剤型研磨用組成物を構成するパートCとなり得る。
【0092】
<用途>
ここに開示される研磨用組成物は、例えば、ニッケルリン基板、ガラス基板、カーボン製基板等の磁気ディスク基板の研磨に好ましく適用され得る。また、めっき材質として、基材ディスクの表面にニッケルリンめっき層以外の金属層または金属化合物層を備えたディスク基板であってもよい。なかでも、アルミニウム合金製の基材ディスク上にニッケルリンめっき層を有するニッケルリンめっき基板用の研磨用組成物として好適である。かかる用途では、ここに開示される技術を適用することが特に有意義である。
【0093】
ここに開示される研磨用組成物は、仕上げ研磨工程後において高精度な表面が要求される磁気ディスク基板の製造プロセスにおける予備研磨工程のように、高い研磨効率が要求される用途において特に有意義に使用され得る。仕上げ研磨工程の前工程として複数の予備研磨工程を有する場合は、いずれの予備研磨工程にも使用可能であり、これらの予備研磨工程において同一のまたは異なる研磨用組成物を用いることができる。ここに開示される研磨用組成物は、例えば、磁気ディスク基板の一次研磨工程すなわち最初のポリシング工程に用いられる研磨用組成物として好適である。なかでも、ニッケルリン基板の製造プロセスにおいて、ニッケルリンめっき後の最初の研磨工程すなわち一次研磨工程において好ましく使用され得る。
【0094】
ここに開示される研磨用組成物は、例えば、Schmitt Measurement System Inc.社製レーザースキャン式表面粗さ計「TMS-3000WRC」により測定される表面粗さが20Å~300Å程度の磁気ディスク基板を研磨して、該磁気ディスク基板を10Å以下の表面粗さに調整する用途に好適である。かかる用途では、ここに開示される技術を適用することが特に有意義である。ここで表面粗さとは、算術平均粗さ(Ra)のことをいう。
【0095】
<研磨方法>
ここに開示される研磨用組成物は、例えば以下の操作を含む態様で、磁気ディスク基板を研磨対象物とする研磨に好適に使用することができる。以下、ここに開示される研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨する方法の好適な態様につき説明する。以下では、研磨対象物を研磨対象基板ともいう。
すなわち、ここに開示されるいずれかの研磨用組成物を含む研磨液(ワーキングスラリー)を用意する。上記研磨液を用意することには、研磨用組成物に濃度調整やpH調整等の操作を加えて研磨液を調製することが含まれ得る。濃度調整としては、例えば希釈が挙げられる。あるいは、研磨用組成物をそのまま研磨液として使用してもよい。
【0096】
次いで、その研磨液を研磨対象物に供給し、常法により研磨する。例えば、一般的な研磨装置に研磨対象物をセットし、該研磨装置の研磨パッドを通じて上記研磨対象物の表面すなわち研磨対象面に研磨液を供給する。典型的には、上記研磨液を連続的に供給しつつ、研磨対象物の表面に研磨パッドを押しつけて両者を相対的に移動させる。上記移動は、例えば回転移動であり得る。このような研磨工程を経て研磨対象物の研磨が完了する。
【0097】
使用し得る研磨パッドは特に限定されない。例えば、硬質発泡ポリウレタンタイプ、不織布タイプ、スウェードタイプ等の研磨パッドを用いることができる。スウェードタイプは、バフパッドであってもよく、典型的には、表面をバフ加工していないノンバフ状態にある研磨パッド(いわゆるノンバフパッド)であってもよい。そのようなスウェードタイプの研磨パッド(典型的にはポリウレタン製研磨パッド)は、加工性に優れ、また基板表面の高品質化を実現しやすい。なお、ここに開示される技術で用いられる研磨パッドは砥粒を含まない。
【0098】
研磨後(具体的には、磁気ディスク基板の一次研磨後)、基板を洗浄することが好ましい(洗浄工程)。洗浄工程は、典型的には洗浄機を用いて実施される。洗浄工程では、洗浄液を用いてもよく、洗浄液を用いず流水のみの洗浄としてもよい。洗浄液または水に浸漬した基板に超音波を付与する超音波処理を行ってもよい。このような洗浄工程を実施することにより、研磨後、基板上に残存する砥粒は効率よく除去され得る。
【0099】
研磨工程に使用する研磨装置は、研磨対象物の両面を同時に研磨する両面研磨装置であってもよく、研磨対象物の片面のみを研磨する片面研磨装置であってもよい。上記研磨工程が予備研磨工程である場合、いくつかの態様において、該研磨工程を行う研磨装置として両面研磨装置を好ましく採用し得る。一次研磨工程の後に仕上げ研磨工程を行う場合、該仕上げ研磨工程を行う研磨装置としては、片面研磨装置を好ましく採用し得る。
【0100】
上述のような研磨工程は、磁気ディスク基板、例えばニッケルリン基板の製造プロセスの一部であり得る。したがって、この明細書によると、上記研磨工程を含む磁気ディスク基板の製造方法および研磨方法が提供される。
【0101】
ここに開示される研磨用組成物は、研磨対象物の予備研磨工程、例えば一次研磨工程に好ましく使用され得る。この明細書によると、上述したいずれかの研磨用組成物を用いて予備研磨を行う工程を含む、磁気ディスク基板の製造方法および研磨方法が提供される。上記方法は、ここに開示される研磨用組成物を研磨対象物に供給して該研磨対象物を研磨する工程(1)を含む。上記方法は、上記予備研磨工程の後に仕上げ研磨工程を含み得る。仕上げ研磨工程に使用する研磨用組成物は特に限定されない。したがって、この明細書により開示される事項には、ここに開示される砥粒を含む研磨用組成物で研磨対象物を研磨する工程(1)と、工程(1)で用いられる研磨用組成物とは異なる研磨用組成物(例えば仕上げ研磨用組成物)で研磨対象物を研磨する工程(2)とをこの順で含む、磁気ディスク基板の製造方法および研磨方法が含まれる。かかる製造方法によると、磁気ディスク基板を効率よく製造することができる。
【0102】
工程(2)で使用される砥粒としては、特に限定されず、例えばコロイダルシリカが好ましく用いられる。コロイダルシリカを用いることにより、面精度の高い研磨物を効率よく製造することができる。コロイダルシリカの粒子形状は特に限定されず、例えば球形であってもよく、非球形であってもよいが、球形のコロイダルシリカが好ましく用いられる。
【0103】
また、工程(2)で使用され得る仕上げ研磨用組成物は、例えば砥粒の他に水を含む。その他、仕上げ研磨用組成物には、上述した研磨用組成物と同様の任意成分(酸、酸化剤、塩基性化合物、各種添加剤等)を必要に応じて含有させることができる。
【0104】
この明細書により開示される事項には、以下のものが含まれる。
〔1〕 磁気ディスク基板研磨用組成物であって、
砥粒としてのシリカ粒子と、酸と、酸化剤とを含み、
上記シリカ粒子は:
光透過式遠心沈降法により得られる重量基準の粒度分布における最小ピーク径Dpminが、80nmより大きく200nm以下であり;かつ、
上記最小ピーク径Dpminに対する、光透過式遠心沈降法により得られる重量基準の粒度分布における累積99%粒子径D99の比(D99/Dpmin)が1.40より大きく5.50以下である、研磨用組成物。
〔2〕 上記シリカ粒子は、上記最小ピーク径Dpminに対する、光透過式遠心沈降法により得られる重量基準の粒度分布における平均粒子径Dmeanの比(Dmean/Dpmin)が0.70より大きく1.75以下である、上記〔1〕に記載の研磨用組成物。
〔3〕 上記研磨用組成物は、窒素含有化合物をさらに含む、上記〔1〕または〔2〕に記載の研磨用組成物。
〔4〕 上記研磨用組成物は、リン酸エステル、亜リン酸エステルおよび有機ホスホン酸化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含む、上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の研磨用組成物。
〔5〕 上記研磨用組成物は、水溶性ポリマー(A)をさらに含む、上記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の研磨用組成物。
〔6〕 上記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の研磨用組成物を用いて研磨対象基板を研磨する工程を含む、磁気ディスク基板の製造方法。
〔7〕 上記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の研磨用組成物を研磨対象基板に供給して該研磨対象基板を研磨する工程を含む、基板の研磨方法。
【実施例0105】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0106】
<試験例1>
<研磨用組成物の調製>
シリカ砥粒と、リン酸と、31%過酸化水素水と、脱イオン水とを混合して、実施例1~7および比較例1~9の各例に係る研磨用組成物を調製した。また、シリカ砥粒と、表1に示す窒素含有化合物と、リン酸と、31%過酸化水素水と、脱イオン水とを混合して、実施例8~14の各例に係る研磨用組成物を調製した。上記各研磨用組成物のpHは1.5であった。シリカ砥粒としては、粒子径、粒子形状、粒度分布が異なる複数種類のシリカ粒子を用意し、Dpmin、Dmean、D99、比(Dmean/Dpmin)および比(D99/Dpmin)が所定の範囲で異なるように、上記シリカ粒子を単独で含む、または組み合わせて含む砥粒を用いた。研磨用組成物中のシリカ粒子の濃度は7重量%、窒素含有化合物を含む場合の該窒素含有化合物の濃度は0.2g/L、リン酸濃度は0.1mol/L、過酸化水素濃度は0.5mol/Lとした。なお、表1に示す「AEEA」は「2-(2-アミノエチルアミノ)エタノール」であり、「BTA」は「1,2,3-ベンゾトリアゾール」である。
【0107】
砥粒のDpmin、DmeanおよびD99は、光透過式遠心沈降法により得られる重量基準の粒度分布から求めた。
【0108】
具体的な測定方法は以下の通りとした。砥粒をイオン交換水に分散させて測定用砥粒分散液を調製した。米国 CPS Instruments社製のディスク遠心式粒度分布測定装置「DC24000 UHR」を用い、JIS Z 8823-2に準拠して重量基準の粒度分布を求めた。粒度分布の測定は、以下に示す条件により行った。
[測定条件]
セル内に導入する検査液:最小濃度8重量%、最大濃度24重量%のスクロース水溶液
セル内に導入する検査液の注入量:12mL
測定用砥粒分散液の砥粒濃度:2重量%
測定用砥粒分散液の注入量:0.1mL
ディスクの回転速度:24000rpm
測定範囲:0.025μm~1.0μm
【0109】
<研磨>
各例に係る研磨用組成物をそのまま研磨液として使用して、下記の条件で、研磨対象物の研磨を行った。研磨対象物としては、表面に無電解ニッケルリンめっき層を備えたハードディスク用アルミニウム基板を使用した。上記研磨対象物(研磨対象基板)の直径は3.5インチ(外径約95mm、内径約25mmのドーナツ型)、厚さは1.75mmであり、研磨前における表面粗さRa(Schmitt Measurement System Inc.社製レーザースキャン式表面粗さ計「TMS-3000WRC」により測定したニッケルリンめっき層の算術平均粗さ)は130Åであった。
【0110】
〔研磨条件〕
研磨装置:太陽社製の両面研磨機、型式「9B-5P/3WAY」
研磨パッド:FILWEL社製のポリウレタンパッド、商品名「CR200」
研磨対象基板の投入枚数:15枚(3枚/キャリア×5キャリア)
研磨液の供給レート:135mL/分
研磨荷重:120g/cm
上定盤回転数:27rpm
下定盤回転数:36rpm
サンギヤ(太陽ギヤ)回転数:8rpm
研磨量:各基板の両面の合計で約2.2μmの厚さ
上記研磨量は、下記の計算式に基づいて求めた。
研磨量[μm]=研磨による基板の重量減少量[g]/(基板の面積[cm]×ニッケルリンめっきの密度[g/cm])×10
【0111】
(加工性)
各例に係る研磨用組成物を用いて上記研磨条件で研磨対象基板を研磨したときの両面における研磨レートを算出した。研磨レートは、下記の計算式に基づいて求めた。得られた結果を、比較例1の研磨レートを100%とした相対値に換算して、表1の「研磨レート」の欄に示した。研磨レートの値が大きいほど、高い加工性を有する。上記研磨レート(相対値)が105%以上の場合、加工性は向上したと判定される。
研磨レート[μm/min]=研磨による基板の重量減少量[g]/(基板の面積[cm]×ニッケルリンめっきの密度[g/cm]×研磨時間[min])×10
【0112】
(微小うねり)
各例に係る研磨用組成物を用いた研磨の後、上記研磨時に各キャリアにセットされていたNi-P基板(研磨後の基板)のなかからランダムに1枚、合計3枚のNi-P基板を抽出した。これら3枚のNi-P基板の表裏、計6面につき、ZYGO社製の非接触表面形状測定機「NEWVIEW9000」を使用して、対物レンズ倍率2.75倍、中間レンズ倍率0.5倍、バンドパスフィルター80~500μmの条件で微小うねりを測定した。測定は、上記6面の各々について、研磨後の基板の中心から径方向外側に37mmの位置に対して、90°間隔の4点で行い、それら24点の平均値を微小うねり(Å)の値とした。得られた値を、比較例1の値を100%とする相対値に換算して、表1の「微小うねり」の欄に示した。値が小さいほど、微小うねりが抑制されている。上記微小うねり(相対値)が125%以下の場合、低い微小うねりが維持されたと判定される。
【0113】
(レート/うねり比)
上記微小うねりに対する上記研磨レートの比を算出し、表1の「レート/うねり比」の欄に示した。「レート/うねり比」が高いほど、高い加工性と低い微小うねりがよりよく両立されている。
【0114】
【表1】
【0115】
表1に示されるように、最小ピーク径Dpminが80nmより大きく200nm以下であり、かつ最小ピーク径Dpminと累積99%粒子径D99の比(D99/Dpmin)が1.40より大きく5.50以下であるシリカ粒子を用いた実施例1~14の研磨用組成物によると、Dpminおよび比(D99/Dpmin)の少なくとも一方が上記範囲ではないシリカ粒子を用いた比較例1~9の研磨用組成物に比べて、低い微小うねりが維持されながら、研磨レートが向上することが確かめられた。また、各種の窒素含有化合物を含む実施例8~14の研磨用組成物によると、窒素含有化合物を含まない実施例4の研磨用組成物に比べて微小うねりが低減し、レート/うねり比が向上する傾向にあることが確かめられた。
【0116】
<試験例2>
<研磨用組成物の調製>
シリカ砥粒と、表2に示すシリカ残低減剤と、リン酸と、31%過酸化水素水と、脱イオン水とを混合して、実施例15~20の各例に係る研磨用組成物を調製した。また、試験例1の実施例4に係る研磨用組成物を調製した。上記各研磨用組成物のpHは1.5であった。シリカ砥粒としては、実施例4で使用したのと同じシリカ粒子を用いた。研磨用組成物中のシリカ粒子の濃度は7重量%、シリカ残低減剤の濃度は10mmol/L、リン酸濃度は0.1mol/L、過酸化水素濃度は0.5mol/Lとした。なお、表2に示す「HEDP」は、「1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸」である。
【0117】
<研磨>
各例に係る研磨用組成物をそのまま研磨液として使用して、試験例1と同様の条件で、研磨対象物の研磨を行った。
【0118】
(残留シリカ粒子個数)
上記の条件で研磨した基板をクレセン社製の洗浄機を用いて洗浄した後、基板表面に残留したシリカ粒子の個数を測定した。具体的には、ブラシと洗浄剤を使用せずに、下記条件で流水中で基板を洗浄し、基板に付着した水滴をスピンドライヤにより払い落として乾燥させた。
(洗浄条件)
洗浄剤塗布時間:0秒
第1洗浄時間(流水のみ):15秒
第2洗浄時間(流水のみ):20秒
超音波洗浄時間(流水のみ):20秒
スピンドライ乾燥時間:20秒
次に、日立ハイテクノロジーズ社製の走査型電子顕微鏡「SU8000」を用いて、洗浄後の基板表面(両面)を50000倍の倍率で一面あたり10視野観察した。そして、三谷商事社製の画像解析ソフトウエア「WinROOF」を用いて、各視野における残留シリカ粒子個数を測定し、1視野あたりの残留シリカ粒子個数の平均値を算出した。得られた値を、実施例4の残留シリカ粒子個数を100%とした相対値で、表2中の「シリカ残」の欄に示した。
【0119】
【表2】
【0120】
表2に示されるように、各種のシリカ残低減剤を用いた実施例15~20の研磨用組成物によると、シリカ残低減剤を用いなかった実施例4の研磨用組成物に比べて、シリカ残留が低減することが確かめられた。なお、表には示していないが、実施例15~20の研磨用組成物は、実施例4の研磨用組成物と同程度(例えば概ね±5%)の研磨レート、微小うねり、レート/うねり比を示した。
【0121】
<試験例3>
<研磨用組成物の調製>
シリカ砥粒と、表3に示す水溶性ポリマー(A)と、リン酸と、31%過酸化水素水と、脱イオン水とを混合して、実施例21~24の各例に係る研磨用組成物を調製した。また、試験例1の実施例4に係る研磨用組成物を調製した。上記各研磨用組成物のpHは1.5であった。シリカ砥粒としては、実施例4で使用したのと同じシリカ粒子を用いた。研磨用組成物中のシリカ粒子の濃度は7重量%、水溶性ポリマー(A)の濃度は0.02重量%、リン酸濃度は0.1mol/L、過酸化水素濃度は0.5mol/Lとした。各例で使用した水溶性ポリマー(A)の重量平均分子量Mwは、いずれも1×10であった。
【0122】
なお、実施例21で用いた水溶性ポリマー(A)は、アクリル酸とジエチルアクリルアミドを85:15のモル比で含むモノマー成分の重合物である。実施例22で用いた水溶性ポリマー(A)は、アクリル酸とジエチルアクリルアミドを95:5のモル比で含むモノマー成分の重合物である。実施例23で用いた水溶性ポリマー(A)は、アクリル酸とスチレンを90:10のモル比で含むモノマー成分の重合物である。実施例24で用いた水溶性ポリマー(A)は、アクリル酸とジメチルアクリルアミドを85:15のモル比で含むモノマー成分の重合物である。
【0123】
<研磨>
各例に係る研磨用組成物をそのまま研磨液として使用して、試験例1と同様の条件で、研磨対象物の研磨を行った。
【0124】
(研磨抵抗)
各例に係る研磨用組成物を用いた研磨中の研磨対象基板と研磨パッドとの間の研磨抵抗を研磨装置から取得した。具体的には、研磨中の上定盤と下定盤にかかるモーターへの負荷(モータートルク)について、上定盤と下定盤それぞれの最大値を算術平均した値を「最大値」とした。また、研磨開始150秒後から200秒後までの50秒間のモータートルクについて、上定盤と下定盤それぞれの平均値を算術平均した値を「平均値」とした。上記「最大値」および「平均値」を研磨抵抗として測定した。そして、得られた値を、実施例4の値を100とする相対値にそれぞれ換算して、表3の「研磨抵抗」の「最大値(相対値)」および「平均値(相対値)」の欄に示した。
【0125】
【表3】
【0126】
表3に示されるように、各種の水溶性ポリマー(A)を用いた実施例21~24の研磨用組成物によると、水溶性ポリマー(A)を用いなかった実施例4の研磨用組成物に比べて、研磨抵抗を低減し、かつ加工性を向上することができた。なお、表には示していないが、実施例21~24の研磨用組成物は、実施例4の研磨用組成物と同程度(例えば概ね±5%)の研磨レート、微小うねり、レート/うねり比を示した。
【0127】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。