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特開2025-155408アントラセン樹脂、硬化性樹脂組成物、硬化物、プリプレグ、回路基板、ビルドアップフィルム、半導体封止材および半導体装置
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  • 特開-アントラセン樹脂、硬化性樹脂組成物、硬化物、プリプレグ、回路基板、ビルドアップフィルム、半導体封止材および半導体装置 図1
  • 特開-アントラセン樹脂、硬化性樹脂組成物、硬化物、プリプレグ、回路基板、ビルドアップフィルム、半導体封止材および半導体装置 図2
  • 特開-アントラセン樹脂、硬化性樹脂組成物、硬化物、プリプレグ、回路基板、ビルドアップフィルム、半導体封止材および半導体装置 図3
  • 特開-アントラセン樹脂、硬化性樹脂組成物、硬化物、プリプレグ、回路基板、ビルドアップフィルム、半導体封止材および半導体装置 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025155408
(43)【公開日】2025-10-14
(54)【発明の名称】アントラセン樹脂、硬化性樹脂組成物、硬化物、プリプレグ、回路基板、ビルドアップフィルム、半導体封止材および半導体装置
(51)【国際特許分類】
   C08G 61/02 20060101AFI20251006BHJP
   C08G 61/12 20060101ALI20251006BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20251006BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20251006BHJP
【FI】
C08G61/02
C08G61/12
H05K1/03 610H
H01L23/30 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024059226
(22)【出願日】2024-04-01
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177426
【弁理士】
【氏名又は名称】粟野 晴夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141601
【弁理士】
【氏名又は名称】貴志 浩充
(74)【代理人】
【識別番号】100179866
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 正樹
(72)【発明者】
【氏名】諸藤 達也
(72)【発明者】
【氏名】迫 雅樹
【テーマコード(参考)】
4J032
4M109
【Fターム(参考)】
4J032BA12
4J032BC12
4J032CA02
4J032CA12
4J032CA14
4J032CA32
4J032CA43
4J032CA45
4J032CB01
4J032CD07
4J032CE03
4J032CE22
4J032CG07
4J032CG08
4M109EA02
4M109EA11
4M109EB02
4M109EB04
4M109EB06
4M109EB07
4M109EB08
4M109EC05
4M109EC07
(57)【要約】
【課題】相溶性に優れ、硬化時に優れた誘電正接(すなわち、低い誘電正接)および外観の均一性を達成可能な材料を提供すること。
【解決手段】一般式(1)で表されるアントラセン樹脂。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表されるアントラセン樹脂であって、
【化1】
一般式(1)中、
Aは、それぞれ独立して、一般式(2)または(3)で表される構造を有し、
Bは、それぞれ独立して、一般式(4)または(5)で表される構造を有し、
Lは、それぞれ独立して、一般式(6)、一般式(7)、一般式(8)および一般式(9)からなる群より選択される構造を有し、
pは、0~1000の整数であり、
ただし、AおよびBのうち、少なくとも1つが一般式(2)で表される構造または一般式(4)で表される構造を有し、
【化2】
一般式(2)中、
は、独立して、水素、アルキル基、アリール基、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、1-プロペニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、スチリル基、スチリルメチル基、RO基、R N基、COR基およびCOOR基からなる群より選択され、
は、独立して、水素、アルキル基、アリール基およびビニル基からなる群より選択され、
nは、1~9の整数であり、
*は、Lとの結合点を表し、
一般式(3)中、
は、独立して、水素、アルキル基、アリール基、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、1-プロペニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、スチリル基、スチリルメチル基、RO基、R N基、COR基およびCOOR基からなる群より選択され、ただし、少なくとも1つはアルキル基であり、Rは、独立して、水素、アルキル基、アリール基およびビニル基からなる群より選択され、
mは、1~5の整数であり、
*は、Lとの結合点を表し、
一般式(4)中、
は、独立して、水素、アルキル基、アリール基、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、1-プロペニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、スチリル基、スチリルメチル基、RO基、R N基、COR基およびCOOR基からなる群より選択され、
は、独立して、水素、アルキル基、アリール基およびビニル基からなる群より選択され、
nは、1~8の整数であり、
*は、Lとの結合点を表し、
一般式(5)中、
は、独立して、水素、アルキル基、アリール基、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、1-プロペニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、スチリル基、スチリルメチル基、RO基、R N基、COR基およびCOOR基からなる群より選択され、ただし、少なくとも1つはアルキル基であり、Rは、独立して、水素、アルキル基、アリール基およびビニル基からなる群より選択され、
mは、1~4の整数であり、
*は、Lとの結合点を表し、
一般式(6)、一般式(8)および一般式(9)中、
は、独立して、水素、アルキル基、アリール基およびビニル基からなる群より選択され、
一般式(6)、一般式(7)、一般式(8)および一般式(9)中、
*は、一方がAとの結合点を表し、他方がBとの結合点を表す、アントラセン樹脂。
【請求項2】
水酸基当量が、1000g/当量以上である、請求項1に記載のアントラセン樹脂。
【請求項3】
Aが、一般式(3)で表される構造を少なくとも有し、一般式(3)中、mが2~5であり、かつ、少なくとも2つのRがアルキル基であり;かつ、
Bが、一般式(5)で表される構造を少なくとも有し、一般式(5)中、mが2~4であり、かつ、少なくとも2つのRがアルキル基である、請求項1に記載のアントラセン樹脂。
【請求項4】
Aが、一般式(3)で表される構造を少なくとも有し、一般式(3)中、mが2~5であり、少なくとも1つのRがアルキル基であり、かつ、少なくとも1つのRがメタクリロイルオキシ基、アクリロイルオキシ基または-OCHスチリル基であり;かつ、
Bが、一般式(5)で表される構造を少なくとも有し、一般式(5)中、mが2~4であり、かつ、少なくとも1つのRがアルキル基であり、かつ、少なくとも1つのRがメタクリロイルオキシ基、アクリロイルオキシ基または-OCHスチリル基である、請求項1に記載のアントラセン樹脂。
【請求項5】
請求項1に記載のアントラセン樹脂およびマレイミド樹脂を含む、硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
前記硬化性樹脂組成物が前記アントラセン樹脂のアントラセン環と前記マレイミド樹脂のマレイミド環とのディールス・アルダー付加物を含む、請求項5に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
前記ディールス・アルダー付加物が、一般式(10)、一般式(11)および一般式(12)からなる群より選択される1種以上の構造単位を有し、
【化3】
一般式(10)~(12)中、
およびnは、一般式(4)で定義したとおりであり、
は、独立して、芳香族炭化水素基、脂肪族炭化水素基またはマレイミド基を有する有機置換基であり、
Lおよびpは、一般式(1)で定義したとおりであり、
右側の*は、Aとの結合点を表し、左側の*は、一般式(1)の左側のLとの結合点を表す、請求項6に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項5に記載の硬化性樹脂組成物の硬化物。
【請求項9】
前記アントラセン樹脂のアントラセン環と前記マレイミド樹脂のマレイミド環とのディールス・アルダー付加物を含む、請求項8に記載の硬化物。
【請求項10】
補強基材と、
前記補強基材に含浸した請求項5に記載の硬化性樹脂組成物の半硬化物と、
を有する、プリプレグ。
【請求項11】
請求項8に記載の硬化物を含む、回路基板。
【請求項12】
請求項5に記載の硬化性樹脂組成物を含む、ビルドアップフィルム。
【請求項13】
請求項5に記載の硬化性樹脂組成物を含む、半導体封止材。
【請求項14】
請求項13に記載の半導体封止材の硬化物を含む、半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アントラセン樹脂、硬化性樹脂組成物、硬化物、プリプレグ、回路基板、ビルドアップフィルム、半導体封止材および半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器用の回路基板材料として、ガラスクロスに熱硬化性樹脂を含浸、加熱乾燥して得られるプリプレグが広く使用されている。
【0003】
近年、信号の高速化と高周波数化が進み、これらの環境下で十分に低い誘電率を維持しつつ十分に低い誘電正接を発現する硬化物を与える熱硬化性樹脂組成物が望まれている。また、機器の小型化への対応のため、剛直性および耐熱性の改善も求められている。このような要求を満たす材料として、マレイミド基を硬化性置換基として有するマレイミド化合物およびマレイミド樹脂が注目されている。
【0004】
また、硬化時に硬化物の外観の均一性にも優れる熱硬化性樹脂組成物が望まれている。
【0005】
これに対して、例えば、特許文献1では、インダン骨格を有するマレイミド(A)、及び、ジエン系ポリマー(B)を含有する硬化性樹脂組成物を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2020/217678号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1の硬化性樹脂組成物では、マレイミド(A)とジエン系ポリマー(B)の相溶性に問題があり、硬化物の高周波通信用途における誘電正接および外観の均一性にさらに改善の余地があった。
【0008】
そこで、本発明は、硬化物としたときの耐熱性および低い誘電正接の発現に寄与することができる材料を提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明の別の目的は、優れた誘電正接(すなわち、低い誘電正接)および外観の均一性を有する硬化物を提供することである。さらに、本発明の別の目的は、そのような硬化性樹脂組成物または硬化物を含む回路基板、ビルドアップフィルム、半導体封止材および半導体装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るアントラセン樹脂は、一般式(1)で表されるアントラセン樹脂であって、
【化1】
一般式(1)中、
Aは、それぞれ独立して、一般式(2)または(3)で表される構造を有し、
Bは、それぞれ独立して、一般式(4)または(5)で表される構造を有し、
Lは、それぞれ独立して、一般式(6)、一般式(7)、一般式(8)および一般式(9)からなる群より選択される構造を有し、
pは、0~1000の整数であり、
ただし、AおよびBのうち、少なくとも1つが一般式(2)で表される構造または一般式(4)で表される構造を有し、
【化2】
一般式(2)中、
は、独立して、水素、アルキル基、アリール基、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、1-プロペニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、スチリル基、スチリルメチル基、RO基、R N基、COR基およびCOOR基からなる群より選択され、
は、独立して、水素、アルキル基、アリール基およびビニル基からなる群より選択され、
nは、1~9の整数であり、
*は、Lとの結合点を表し、
一般式(3)中、
は、独立して、水素、アルキル基、アリール基、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、1-プロペニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、スチリル基、スチリルメチル基、RO基、R N基、COR基およびCOOR基からなる群より選択され、ただし、少なくとも1つはアルキル基であり、
は、独立して、水素、アルキル基、アリール基およびビニル基からなる群より選択され、
mは、1~5の整数であり、
*は、Lとの結合点を表し、
一般式(4)中、
は、独立して、水素、アルキル基、アリール基、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、1-プロペニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、スチリル基、スチリルメチル基、RO基、R N基、COR基およびCOOR基からなる群より選択され、
は、独立して、水素、アルキル基、アリール基およびビニル基からなる群より選択され、
nは、1~8の整数であり、
*は、Lとの結合点を表し、
一般式(5)中、
は、独立して、水素、アルキル基、アリール基、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、1-プロペニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、スチリル基、スチリルメチル基、RO基、R N基、COR基およびCOOR基からなる群より選択され、ただし、少なくとも1つはアルキル基であり、
は、独立して、水素、アルキル基、アリール基およびビニル基からなる群より選択され、
mは、1~4の整数であり、
*は、Lとの結合点を表し、
一般式(6)、一般式(8)および一般式(9)中、
は、独立して、水素、アルキル基、アリール基およびビニル基からなる群より選択され、
一般式(6)、一般式(7)、一般式(8)および一般式(9)中、
*は、一方がAとの結合点を表し、他方がBとの結合点を表す、アントラセン樹脂である。
【0011】
本発明に係るアントラセン樹脂の一実施形態では、水酸基当量が、1000g/当量以上である。
【0012】
本発明に係るアントラセン樹脂の一実施形態では、Aが、一般式(3)で表される構造を少なくとも有し、一般式(3)中、mが2~5であり、かつ、少なくとも2つのRがアルキル基であり;かつ、
Bが、一般式(5)で表される構造を少なくとも有し、一般式(5)中、mが2~4であり、かつ、少なくとも2つのRがアルキル基である。
【0013】
本発明に係るアントラセン樹脂の一実施形態では、Aが、一般式(3)で表される構造を少なくとも有し、一般式(3)中、mが2~5であり、少なくとも1つのRがアルキル基であり、かつ、少なくとも1つのRがメタクリロイルオキシ基、アクリロイルオキシ基または-OCHスチリル基であり;かつ、
Bが、一般式(5)で表される構造を少なくとも有し、一般式(5)中、mが2~4であり、かつ、少なくとも1つのRがアルキル基であり、かつ、少なくとも1つのRがメタクリロイルオキシ基、アクリロイルオキシ基または-OCHスチリル基である。
【0014】
本発明に係る硬化性樹脂組成物は、上記のいずれかのアントラセン樹脂およびマレイミド樹脂を含む、硬化性樹脂組成物である。
【0015】
本発明に係る硬化性樹脂組成物の一実施形態では、前記硬化性樹脂組成物が上記いずれかのアントラセン樹脂のアントラセン環と前記マレイミド樹脂のマレイミド環とのディールス・アルダー付加物を含む。
【0016】
本発明に係る硬化性樹脂組成物の一実施形態では、前記ディールス・アルダー付加物が、一般式(10)、一般式(11)および一般式(12)からなる群より選択される1種以上の構造単位を有し、
【化3】
一般式(10)~(12)中、
およびnは、一般式(4)で定義したとおりであり、
は、独立して、芳香族炭化水素基、脂肪族炭化水素基またはマレイミド基を有する有機置換基であり、
Lおよびpは、一般式(1)で定義したとおりであり、
右側の*は、Aとの結合点を表し、左側の*は、一般式(1)の左側のLとの結合点を表す。
【0017】
本発明に係る硬化物は、上記いずれかの硬化性樹脂組成物の硬化物である。
【0018】
本発明に係る硬化物の一実施形態では、前記アントラセン樹脂のアントラセン環と前記マレイミド樹脂のマレイミド環とのディールス・アルダー付加物を含む。
【0019】
本発明に係るプリプレグは、
補強基材と、
前記補強基材に含浸した上記いずれかの硬化性樹脂組成物の半硬化物と、
を有する、プリプレグである。
【0020】
本発明に係る回路基板は、上記硬化物を含む、回路基板である。
【0021】
本発明に係るビルドアップフィルムは、上記いずれかの硬化性樹脂組成物を含む、ビルドアップフィルムである。
【0022】
本発明に係る半導体封止材は、上記いずれかの硬化性樹脂組成物を含む、半導体封止材である。
【0023】
本発明に係る半導体装置は、上記半導体封止材の硬化物を含む、半導体装置である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、硬化物としたときの耐熱性および低い誘電正接の発現に寄与することができるアントラセン樹脂を提供することができる。優れた誘電正接(すなわち、低い誘電正接)および外観の均一性を達成可能な硬化性樹脂組成物を提供することができる。また、本発明によれば、優れた誘電正接および外観の均一性を有する硬化物を提供することができる。また、本発明によれば、そのような硬化性樹脂組成物または硬化物を含む回路基板、ビルドアップフィルム、半導体封止材および半導体装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、実施例1のアントラセン樹脂1のGPCチャートである。
図2図2は、実施例2のアントラセン樹脂2のGPCチャートである。
図3図3は、実施例3のアントラセン樹脂3のGPCチャートである。
図4図4は、実施例3のアントラセン樹脂4のGPCチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について説明する。これらの記載は、本発明の例示を目的とするものであり、本発明を何ら限定するものではない。
【0027】
本発明において、2以上の実施形態を任意に組み合わせることができる。
【0028】
本明細書に記載の材料、成分、化合物、樹脂、構造単位、触媒および溶剤は、別段の記載がない限り、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
本発明において、アクリロイル基は、HC=CH-C(=O)-を表し、メタクリロイル基は、HC=C(CH)-C(=O)-を表す。
【0030】
本発明において、-OCHスチリル基は、-OCH-CCH=CHを表す。
【0031】
本発明において、アントラセン樹脂の水酸基当量は、実施例に記載の測定方法によって求めた値とする。
【0032】
本明細書において、第1、第2、(1)、(2)、(3)、(4)などの符号は、ある要素を他の要素と区別するための符号に過ぎず、量または順序を限定するための符号ではない。
【0033】
(アントラセン樹脂)
本発明に係るアントラセン樹脂は、一般式(1)で表されるアントラセン樹脂であって、
【化4】
一般式(1)中、
Aは、それぞれ独立して、一般式(2)または(3)で表される構造を有し、
Bは、それぞれ独立して、一般式(4)または(5)で表される構造を有し、
Lは、それぞれ独立して、一般式(6)、一般式(7)、一般式(8)および一般式(9)からなる群より選択される構造を有し、
pは、0~1000の整数であり、
ただし、AおよびBのうち、少なくとも1つが一般式(2)で表される構造または一般式(4)で表される構造を有し、
【化5】
一般式(2)中、
は、独立して、水素、アルキル基、アリール基、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、1-プロペニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、スチリル基、スチリルメチル基、RO基、R N基、COR基およびCOOR基からなる群より選択され、
は、独立して、水素、アルキル基、アリール基およびビニル基からなる群より選択され、
nは、1~9の整数であり、
*は、Lとの結合点を表し、
一般式(3)中、
は、独立して、水素、アルキル基、アリール基、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、1-プロペニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、スチリル基、スチリルメチル基、RO基、R N基、COR基およびCOOR基からなる群より選択され、ただし、少なくとも1つはアルキル基であり、
は、独立して、水素、アルキル基、アリール基およびビニル基からなる群より選択され、
mは、1~5の整数であり、
*は、Lとの結合点を表し、
一般式(4)中、
は、独立して、水素、アルキル基、アリール基、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、1-プロペニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、スチリル基、スチリルメチル基、RO基、R N基、COR基およびCOOR基からなる群より選択され、
は、独立して、水素、アルキル基、アリール基およびビニル基からなる群より選択され、
nは、1~8の整数であり、
*は、Lとの結合点を表し、
一般式(5)中、
は、独立して、水素、アルキル基、アリール基、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、1-プロペニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、スチリル基、スチリルメチル基、RO基、R N基、COR基およびCOOR基からなる群より選択され、ただし、少なくとも1つはアルキル基であり、
は、独立して、水素、アルキル基、アリール基およびビニル基からなる群より選択され、
mは、1~4の整数であり、
*は、Lとの結合点を表し、
一般式(6)、一般式(8)および一般式(9)中、
は、独立して、水素、アルキル基、アリール基およびビニル基からなる群より選択され、
一般式(6)、一般式(7)、一般式(8)および一般式(9)中、
*は、一方がAとの結合点を表し、他方がBとの結合点を表す、アントラセン樹脂である。
【0034】
本発明の効果を奏する理由は定かではないが、アントラセン環は炭化水素から成り、炭化水素の割合が高くなるため、硬化物としたときに誘電正接を低減することができると推測される。
【0035】
また、本発明のアントラセン樹脂は、マレイミド化合物およびマレイミド樹脂との相溶性に優れる。そのため、本発明のアントラセン樹脂をマレイミド化合物およびマレイミド樹脂と混合し、硬化物としたとき、硬化物の透明性にも優れる。回路基板材料では、銅配線/絶縁部(line and space,L/S)の大きさよりも大きな不均一性は許容されない。そして、L/Sがμmオーダーであることから、目視で硬化物の外観を観察して硬化物に透明性がない場合、マレイミド樹脂と共に配合されている樹脂はマレイミド樹脂と相分離していると判断することができる。したがって、目視で観察したときの硬化物の外観の透明性は、回路基板材料として少なくとも必要である。
【0036】
一般式(1)において、AおよびBのうち、少なくとも1つが一般式(2)で表される構造または一般式(4)で表される構造を有する。すなわち、一般式(1)の全てのAとBのうち、少なくとも1つのAまたはBがアントラセン環を有する。
【0037】
pは、繰り返し単位数を表し、0~1000の整数である。一実施形態では、pは、1~1000である。別の実施形態では、pは、0以上、1以上、10以上、50以上、100以上または500以上である。さらに別の実施形態では、pは、1000以下、500以下、100以下、50以下または10以下である。
【0038】
一般式(2)のRのアルキル基としては、例えば、炭素数1~10のアルキル基が挙げられる。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等が挙げられる。
【0039】
一般式(2)のRのアリール基としては、例えば、炭素数6~10のアリール基が挙げられる。
【0040】
一般式(2)のRのアルキル基およびアリール基は、Rのアルキル基およびアリール基と同様である。
【0041】
一般式(2)のnは、1、2、3、4、5、6、7または8である。
【0042】
一実施形態では、一般式(2)は、nが9であり、Rが全て水素である。
【0043】
一実施形態では、一般式(2)の結合手*は、アントラセン環の1位、2位、3位、4位、5位、6位、7位、8位、9位または10位に位置する。
【0044】
一般式(3)のRのアルキル基およびアリール基は、一般式(2)のRのアルキル基およびアリール基と同様である。
【0045】
一般式(3)のRのアルキル基およびアリール基は、一般式(2)のRのアルキル基およびアリール基と同様である。
【0046】
一般式(3)のmは、1、2、3、4または5である。
【0047】
一実施形態では、一般式(3)は、mが3であり、Rが全てメチル基である。
【0048】
一般式(4)のRおよびRは、一般式(2)のRおよびRと同様である。
【0049】
一般式(4)のnは、1、2、3、4、5、6、7または8である。
【0050】
一実施形態では、一般式(4)は、nが8であり、Rが全て水素である。
【0051】
一実施形態では、一般式(4)の2本の結合手*は、アントラセン環の2位と3位;1位と4位;9位と10位;5位と8位;または6位と7位に位置する。
【0052】
一般式(5)のRおよびRは、一般式(3)のRおよびRと同様である。
【0053】
一般式(5)のmは、1、2、3または4である。
【0054】
一実施形態では、一般式(5)は、mが3であり、Rが全てメチル基である。
【0055】
一般式(6)、(8)および(9)のRのアルキル基およびアリール基は、Rのアルキル基およびアリール基と同様である。
【0056】
一実施形態では、一般式(6)は、2つの置換基がベンゼン環のパラ位に結合しており、2つのRが水素である。
【0057】
一実施形態では、一般式(8)は、2つの置換基がテトラヒドロジシクロペンタジエン環に結合しており、Rが水素である。
【0058】
一実施形態では、一般式(9)は、2つの置換基がメチレン基に結合しており、R3が水素である。
【0059】
一実施形態では、Lは、一般式(6)および(7)からなる群より選択される構造を有し、一般式(6)は、2つの置換基がベンゼン環のパラ位に結合しており、2つのRが水素である。
【0060】
一実施形態では、一般式(1)のアントラセン樹脂は、一般式(13)、(14)および(15)からなる群より選択される1種以上の構造を有する。
【化6】
【0061】
一実施形態では、アントラセン樹脂の水酸基当量が、1000g/当量以上である。別の実施形態では、アントラセン樹脂の水酸基当量が、1000~20000g/当量である。
【0062】
(アントラセン樹脂の合成方法)
本発明のアントラセン樹脂の合成方法は、特に限定されず、一般式(1)のAを形成する化合物と、Bを形成する化合物と、Lを形成する架橋剤とを反応原料として反応させることで得ることができる。
【0063】
一般式(1)のAのうち、一般式(2)の構造を形成する化合物としては、例えば、置換または非置換のアントラセンが挙げられる。
【0064】
一般式(1)のAのうち、一般式(3)の構造を形成する化合物としては、例えば、置換または非置換のベンゼンが挙げられる。トルエン、о-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、メシチレンなどが挙げられる。
【0065】
一般式(3)の構造を形成する化合物としては、この他、2つ以上のアルキル基または1つ以上のラジカル重合性官能基を含む複数の置換基を有する芳香族化合物が挙げられる。このラジカル重合性官能基としては、公知のラジカル重合性官能基が挙げられ、例えば、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、1-プロペニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、スチリル基、スチリルメチル基などが挙げられる。
【0066】
2つ以上のアルキル基または1つ以上のラジカル重合性官能基を含む複数の置換基を有する芳香族化合物としては、例えば、メシチレン、2,6-ジメチルメタクリロイルオキシベンゼン、2,6-ジメチルアクリロイルオキシベンゼンなどが挙げられる。
【0067】
一般式(1)のBのうち、一般式(4)の構造を形成する化合物としては、例えば、置換または非置換のアントラセンが挙げられる。
【0068】
一般式(1)のBのうち、一般式(5)の構造を形成する化合物としては、例えば、置換または非置換のベンゼンが挙げられる。トルエン、о-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、メシチレンなどが挙げられる。
【0069】
一般式(1)のLのうち、一般式(6)の構造を形成する架橋剤としては、例えば、1,4-ビス(ヒドロキシメチル)ベンゼン、1,4-ビス(メトキシメチル)ベンゼン、ジビニルベンゼンなどが挙げられる。
【0070】
一般式(1)のLのうち、一般式(7)の構造を形成する架橋剤としては、例えば、4,4’-ビス(メトキシメチル)ビフェニルなどが挙げられる。
【0071】
一般式(1)のLのうち、一般式(8)の構造を形成する架橋剤としては、例えば、ジシクロペンタジエンなどが挙げられる。
【0072】
一般式(1)のLのうち、一般式(9)の構造を形成する架橋剤としては、例えば、ホルムアルデヒドなどが挙げられる。
【0073】
一般式(1)のAを形成する化合物の配合量は、例えば、原料の総質量に対して、10~90質量%である。
【0074】
一般式(1)のBを形成する化合物の配合量は、例えば、原料の総質量に対して、10~90質量%である。
【0075】
一般式(1)のAおよびBを形成する化合物が1種類の場合の配合量は、例えば、原料の総質量に対して、10~90質量%である。
【0076】
架橋剤の配合量は、例えば、原料の総質量に対して、10~90質量%である。
【0077】
反応温度は、例えば、120℃~140℃とすることができる。
【0078】
反応時間は、例えば、9時間以上とすることができる。
【0079】
一実施形態では、一般式(1)のAを形成する化合物が、非置換のアントラセンおよびメシチレンからなる群より選択される1種以上であり;一般式(1)のBを形成する化合物が、非置換のアントラセンおよびメシチレンからなる群より選択される1種以上であり;一般式(1)のLを形成する架橋剤が、1,4-ビス(ヒドロキシメチル)ベンゼンおよび4,4’-ビス(メトキシメチル)ビフェニルからなる群より選択される1種以上である。
【0080】
本発明のアントラセン樹脂は、その一方または両方の末端がメタクリロイル基などの官能基で変性されていてもよい。例えば、末端にフェノール性水酸基を有するアントラセン樹脂とメタクリル酸との反応によってアントラセン樹脂の末端をメタクリル変性することができる。
【0081】
(硬化性樹脂組成物)
本発明に係る硬化性樹脂組成物は、一般式(1)のアントラセン樹脂およびマレイミド樹脂を含む、硬化性樹脂組成物である。
【0082】
マレイミド樹脂としては、特に限定されず、公知のマレイミド樹脂を用いることができる。マレイミド樹脂は、例えば、合成したマレイミド樹脂でもよいし、市販のマレイミド樹脂でもよい。
【0083】
合成したマレイミド樹脂としては、例えば、特許文献1、国際公開第2020/217679号、特開2023-152756号公報に記載のマレイミド樹脂およびマレイミド化合物などが挙げられる。
【0084】
市販のマレイミド樹脂としては、例えば、大和化成工業社製の4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド(商品名:BMI-1000)、フェニルメタンマレイミド(商品名:BMI-2000)、m-フェニレンビスマレイミド(商品名:BMI-3000)、ビスフェノールA ジフェニルエーテルビスマレイミド(商品名:BMI-4000)、3,3’-ジメチル-5,5’-ジエチル-4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド(商品名:BMI-5100)、4-メチル-1,3-フェニレンビスマレイミド(商品名:BMI-7000)、1,6’-ビスマレイミド-(2,2,4-トリメチル)ヘキサン(商品名:BMI-TMH)などが挙げられる。
【0085】
本発明に係る硬化性樹脂組成物の一実施形態では、前記硬化性樹脂組成物が上記いずれかのアントラセン樹脂のアントラセン環と前記マレイミド樹脂のマレイミド環とのディールス・アルダー付加物を含む。例えば、あらかじめディールス・アルダー付加物を得て、そのディールス・アルダー付加物を硬化性樹脂組成物に配合してもよい。
【0086】
本発明に係る硬化性樹脂組成物の一実施形態では、前記ディールス・アルダー付加物が、一般式(10)、一般式(11)および一般式(12)からなる群より選択される1種以上の構造単位を有し、
【化7】
一般式(10)~(12)中、
およびnは、一般式(4)で定義したとおりであり、
は、独立して、芳香族炭化水素基、脂肪族炭化水素基またはマレイミド基を有する有機置換基であり、
Lおよびpは、一般式(1)で定義したとおりであり、
右側の*は、Aとの結合点を表し、左側の*は、一般式(1)の左側のLとの結合点を表す。
【0087】
の芳香族炭化水素基としては、例えば、一般式(16)で表される構造が挙げられ、
【化8】
一般式(16)中、
は、それぞれ独立して、アルキル基、アリール基、RO基、アルキルチオ基、アリールチオ基、炭素数3~10のシクロアルキル基、ハロゲン原子、ニトロ基、水酸基およびメルカプト基からなる群より選択され、
rは、それぞれ独立して、1、2または3であり、
は、それぞれ独立して、アルキル基、アリール基、RO基、アルキルチオ基、アリールチオ基、炭素数3~10のシクロアルキル基、ハロゲン原子、ニトロ基、水酸基およびメルカプト基からなる群より選択され、
sは、0、1、2または3であり、
qは、繰り返し単位数を表し、1~20の整数であり、
*は、一般式(10)~(12)のスクシンイミド環との結合点である。
【0088】
のアルキルオキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基などが挙げられる。
【0089】
のアリールオキシ基としては、例えば、フェノキシ基、ナフチルオキシ基、アンスリルオキシ基、フェナントリルオキシ基、ピレニルオキシ基などが挙げられる。
【0090】
の脂肪族炭化水素基としては、例えば、直鎖または分岐の炭素数1~10のアルキル基が挙げられる。
【0091】
のマレイミド基を有する有機置換基としては、例えば、4-マレイミドフェニル基、4-(4-マレイミドベンジル)フェニル基などが挙げられる。
【0092】
・ディールス・アルダー付加物の合成方法
ディールス・アルダー付加物を合成する方法としては、例えば、アントラセン樹脂とマレイミド樹脂を混合し、トルエン中で加熱する方法が挙げられる。また、ディールス・アルダー付加物は、硬化性樹脂組成物の硬化時に合成することもできる。
【0093】
トルエン中でアントラセン樹脂とマレイミド樹脂を加熱してディールス・アルダー付加物を合成する場合のアントラセン樹脂とマレイミド樹脂の配合量としては、例えば、アントラセン樹脂100質量部に対して、マレイミド樹脂10~5000質量部である。トルエン中でアントラセン樹脂とマレイミド樹脂を加熱してディールス・アルダー付加物を合成する場合のアントラセン樹脂とマレイミド樹脂の配合量としては、低誘電特性の観点からはアントラセン樹脂100質量部に対して、マレイミド樹脂10~500質量部の範囲が好ましく、硬化性の観点からはアントラセン樹脂100質量部に対して、マレイミド樹脂500~5000質量部の範囲が好ましい。
【0094】
トルエン中で加熱する温度としては、例えば、80~120℃とすることができる。また、トルエン中で加熱する時間としては、1~3時間とすることができる。
【0095】
硬化性樹脂組成物におけるアントラセン樹脂の量は、特に限定されず、適宜調節することができる。硬化性樹脂組成物におけるアントラセン樹脂の量は、例えば、硬化性樹脂組成物の樹脂成分100質量部に対して、50~100質量部である。一実施形態では、硬化性樹脂組成物の樹脂成分100質量部に対する、アントラセン樹脂の量は、50質量部以上、60質量部以上、70質量部以上、80質量部以上または90質量部以上である。別の実施形態では、硬化性樹脂組成物の樹脂成分100質量部に対する、アントラセン樹脂の量は、100質量部以下、90質量部以下、80質量部以下、70質量部以下または60質量部以下である。
【0096】
硬化性樹脂組成物は、アントラセン樹脂とマレイミド樹脂に加えて、硬化性樹脂組成物に配合される公知の成分を含んでいてもよい。このような成分としては、例えば、その他の樹脂、硬化剤、硬化促進剤、難燃剤、充填剤、シランカップリング剤、離型剤、顔料、乳化剤、溶剤などが挙げられる。
【0097】
・その他の樹脂
その他の樹脂としては、特に限定されず、公知の樹脂を用いることができる。その他の樹脂としては、例えば、熱硬化性ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、活性エステル樹脂、シアネート樹脂などが挙げられる。
【0098】
上述した硬化剤などの成分は、例えば、特許文献1、国際公開第2020/217679号および特開2023-152756号公報に記載の成分が挙げられる。
【0099】
・硬化性樹脂組成物の調製方法
硬化性樹脂組成物の調製方法は、特に限定されず、アントラセン樹脂と、マレイミド樹脂と、任意成分とを混合することにより得られる。
【0100】
・硬化性樹脂組成物の用途
硬化性樹脂組成物の用途としては、例えば、プリント配線板材料、フレキシルブル配線基板用樹脂組成物、ビルドアップ基板用層間絶縁材料、ビルドアップ用接着フィルム等の回路基板用絶縁材料、樹脂注型材料、接着剤、半導体封止材料、半導体装置、プリプレグ、導電ペースト、ビルドアップフィルム、ビルドアップ基板、繊維強化複合材料、当該複合材料を硬化させてなる成形品等が挙げられる。また、例えば、特許文献1、国際公開第2020/217679号および特開2023-152756号公報に記載の用途なども挙げられる。
【0101】
(硬化物)
本発明の硬化物は、上記硬化性樹脂組成物の硬化物である。本発明の硬化物は、硬化性樹脂組成物を例えば、特許文献1、国際公開第2020/217679号および特開2023-152756号公報などに記載の方法によって硬化させることができる。
【0102】
硬化物を得る方法としては、例えば、硬化性樹脂組成物を加熱硬化すればよい。加熱硬化する際の温度は、例えば、100~300℃である。加熱時間としては、例えば、1~24時間である。
【0103】
本発明に係る硬化物の一実施形態では、本発明のアントラセン樹脂のアントラセン環とマレイミド樹脂のマレイミド環とのディールス・アルダー付加物を含む。
【0104】
硬化物の用途としては、上述した硬化性樹脂組成物の用途と同様である。
【0105】
(プリプレグ)
本発明のプリプレグは、補強基材と、前記補強基材に含浸した本発明の硬化性樹脂組成物の半硬化物と、を有する。
【0106】
プリプレグの製造方法は、公知のプリプレグの製造方法を用いることができ、例えば、特許文献1、国際公開第2020/217679号および特開2023-152756号公報などに記載の方法を用いることができる。
【0107】
補強基材としては、例えば、紙、ガラス布、ガラス不織布、アラミド紙、アラミド布、ガラスマット、ガラスロービング布などが挙げられる。
【0108】
硬化性樹脂組成物の半硬化物は、加熱温度及び加熱時間を調整して、硬化反応を完了させずに途中で停止させることによって得られる。
【0109】
半硬化物は、例えば、5~85%の硬化度でもよい。半硬化物の硬化度は、硬化性組成物を加熱する際の硬化発熱量と、その半硬化物の硬化発熱量をDSCにより測定し、以下の式から算出できる。
硬化度(%)={1-(半硬化物の硬化発熱量/硬化性樹脂組成物の硬化発熱量)}×100
【0110】
(回路基板)
本発明の回路基板は、本発明の硬化物を含む。一実施形態では、回路基板は、上記プリプレグと銅箔との積層体を含む。
【0111】
回路基板の製造方法は、公知の回路基板の製造方法を用いることができ、例えば、特許文献1および特開2023-152756号公報などに記載の方法を用いることができる。
【0112】
(ビルドアップフィルム)
本発明に係るビルドアップフィルムは、上記硬化性樹脂組成物を含む。
【0113】
ビルドアップフィルムの製造方法は、公知のビルドアップフィルムの製造方法を用いることができ、例えば、特許文献1および特開2023-152756号公報などに記載の方法を用いることができる。
【0114】
(半導体封止材)
本発明に係る半導体封止材は、上記硬化性樹脂組成物を含む。
【0115】
半導体封止材の製造方法は、公知の半導体封止材の製造方法を用いることができ、例えば、特許文献1および特開2023-152756号公報などに記載の方法を用いることができる。
【0116】
(半導体装置)
本発明に係る半導体装置は、上記半導体封止材の硬化物を含む。
【0117】
半導体装置の製造方法は、公知の半導体装置の製造方法を用いることができ、例えば、特許文献1および特開2023-152756号公報などに記載の方法を用いることができる。
【実施例0118】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、これらの実施例は、本発明の例示を目的とするものであり、本発明を何ら限定するものではない。
【0119】
実施例で使用した材料は、以下のとおりである。
マレイミド樹脂1:国際公開第2020/217679号の合成例10(マレイミド化合物A-11)と同様に合成した。
マレイミド樹脂2:特開2023-007239号公報の実施例1(ポリマレイミド化合物(1))と同様に合成した。
マレイミド樹脂3:大和化成工業社製、商品名「BMI-5100」、3,3’-ジメチル-5,5’-ジエチル-4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド
ポリブタジエン:クレイバレー社製、商品名「Ricon(登録商標)157」
硬化促進剤:クメンハイドロパーオキサイド、日油社製、商品名「パークミル(登録商標)H-80」
【0120】
実施例で使用した装置と条件は、以下のとおりである。
粘弾性測定装置(DMA):日立ハイテクサイエンス社製、固体粘弾性測定装置「DMS6100」、変形モード:両持ち曲げ、測定モード:正弦波振動、周波数1Hz、昇温速度3℃/分)
【0121】
GPC測定の評価
試料として、以下の合成例で得られた樹脂の固形分換算で1.0質量%のテトラヒドロフラン溶液をマイクロフィルターでろ過したもの(50μl)を用いたこと以外は、特開2023-127139号公報の実施例に記載のGPC測定と同様に、GPC測定を行い、GPCチャートを得た。そのGPCチャートの数平均分子量(Mn)に基づき、平均繰り返し単位数pを算出した。
【0122】
水酸基当量
実施例で得られたアントラセン樹脂の水酸基当量は以下の方法で測定した。
500mL共栓付き三角フラスコに、アントラセン樹脂を約2.5g、ピリジン7.5g、無水酢酸2.5gおよびトリフェニルホスフィン7.5gを精秤した。次いで、三角フラスコに冷却管を装着し、そのフラスコを120℃に設定したオイルバスで150分間加熱して還流した。フラスコを冷却後、フラスコ内に蒸留水5.0mL、プロピレングリコールモノメチルエーテル100mLおよびテトラヒドロフラン75mLを加えた。その溶液について、0.5mol/L水酸化カリウム-エタノール溶液で電位差滴定法により滴定した。同様の方法で空試験を行なって補正した。
水酸基当量(g/当量)=(S×2,000)/(Blank-A)
S:試料の量(g)
A:0.5mol/L水酸化カリウム-エタノール溶液の消費量(mL)
Blank:空試験における0.5mol/L水酸化カリウム-エタノール溶液の消費量(mL)
【0123】
・実施例1:アントラセン樹脂1の合成
2L丸底フラスコにアントラセン124.8g、1,4-ビス(ヒドロキシメチル)ベンゼン169.3g、メシチレン294.5gおよびトルエンスルホン酸一水和物14.7gを加えた。その混合物を140℃で9時間加熱した。混合物を室温に冷却した後、その混合物に20%水酸化ナトリウム水溶液15.9g、30%第二リン酸ソーダ水15.9gおよびトルエン588gを加えた。得られた溶液を水588gで洗浄する操作を5回行った。次いで、減圧により未反応のメシチレンを留去した。次いで、真空下、水蒸気蒸留をすることで未反応のアントラセンを除去し、アントラセン樹脂1を得た。アントラセン樹脂1のMnは、566であり、Mwは1267であった。アントラセン樹脂1の水酸基当量は、4410g/当量であった。アントラセン樹脂1のGPCチャートを図1に示す。アントラセン樹脂1は、一般式(1)において、Aが「R=メチル基、m=3の一般式(3)」であり、Bが「R=水素、n=8の一般式(4)」であり、Lが「R=水素の一般式(6)」であり、pが、0~70である。
【0124】
・実施例2:アントラセン樹脂2の合成
2L丸底フラスコにアントラセン53.5g、4,4’-ビス(メトキシメチル)ビフェニル127.2g、メシチレン126.2gおよびトルエンスルホン酸一水和物9.0gを加えた。その混合物を180℃で6時間加熱した。混合物を室温に冷却した後、その混合物に20%水酸化ナトリウム水溶液9.8g、30%第二リン酸ソーダ水9.8gおよびトルエン360gを加えた。得られた溶液を水360gで洗浄する操作を5回行った。次いで、減圧により未反応のメシチレンを留去した。次いで、真空下、水蒸気蒸留をすることで未反応のアントラセンを除去し、アントラセン樹脂2を得た。アントラセン樹脂2のMnは、772であり、Mwは2041であった。アントラセン樹脂2の水酸基当量は、10000g/当量以上であった。アントラセン樹脂2のGPCチャートを図2に示す。アントラセン樹脂2は、一般式(1)において、Aが「R=メチル基、m=3の一般式(3)」であり、Bが「R=水素、n=8の一般式(4)」であり、Lが一般式(7)であり、pが、0~100である。
【0125】
・実施例3:メタクリロイル基を有するアントラセン樹脂4の合成
1.アントラセン樹脂3の合成
1L丸底フラスコにアントラセン71.3g、1,4-ビス(メトキシメチル)ベンゼン133.0g、2,6-キシレノール146.6gおよびトルエンスルホン酸一水和物10.5gを加えた。その混合物を160℃で6時間加熱した。混合物を室温に冷却した後、その混合物に20%水酸化ナトリウム水溶液11.4g、30%第二リン酸ソーダ水11.4gおよびトルエン500gを加えた。その溶液を水500gで洗浄する操作を5回行った。次いで、減圧により溶媒を留去した。次いで、真空下、水蒸気蒸留をすることで未反応のアントラセンと2,6-キシレノールを除去し、アントラセン樹脂3を得た。アントラセン樹脂3のMnは、988であり、Mwは1979であった。アントラセン樹脂3の水酸基当量は、333g/当量であった。アントラセン樹脂3のGPCチャートを図3に示す。アントラセン樹脂3は、一般式(1)において、Aが「2つのR=メチル基、1つのR=OH基、m=3の一般式(3)」であり、Bが「R=水素、n=8の一般式(4)」であり、Lが「R=水素の一般式(6)」であり、pが、0~120である。
【0126】
2.アントラセン樹脂3のメタクリロイル化
500mLセパラブルフラスコに60.0gのアントラセン樹脂3、ジメチルアミノピリジン1.21g、トルエン120.0gおよびトリエチルアミン20.0gを加えた。その混合物を60℃に昇温した。混合物に無水メタクリル酸38.8gを30分かけて滴下した後、60℃、9時間反応させた。その後、その溶液に水72.2gを加え、室温に放冷した。反応溶液に5%水酸化ナトリウム水溶液115.1gを加えた。次いで、反応溶液を40℃、1時間撹拌し、未反応の無水メタクリル酸を加水分解した。その後、下層を廃棄した。次いで、上層に30%第二リン酸ソーダ水を34.5gおよびトルエン120.0gを加えた。その溶液を水120gで洗浄する操作を5回行った。次いで、減圧により溶媒を留去することでアントラセン樹脂4を得た。アントラセン樹脂4のMnは、1096であり、Mwは2220であった。アントラセン樹脂4の水酸基当量は、1475g/当量であった。アントラセン樹脂4のGPCチャートを図2に示す。アントラセン樹脂4は、一般式(1)において、Aが「2つのR=メチル基、1つのR=メタクリロイル基、m=3の一般式(3)」であり、Bが「R=水素、n=8の一般式(4)」であり、Lが「R=水素の一般式(6)」であり、pが、0~120である。
【0127】
・実施例4~8および比較例1~2
表1に示す配合で硬化性樹脂組成物を調製した。
【0128】
【表1】
【0129】
硬化性樹脂組成物を真空プレスを用いて200℃で2時間プレスした後、250℃で2時間加熱硬化して、硬化物を得た。実施例4~8の硬化物は、アントラセン樹脂のアントラセン環とマレイミド樹脂のマレイミド環とのディールス・アルダー付加物を含んでいた。また、このディールス・アルダー付加物は、アントラセン環の9,10位で付加した構造、すなわち、一般式(10)に対応する構造を少なくとも含んでいた。この硬化物について、以下の方法で誘電正接および外観の評価を行った。
【0130】
誘電特性
JIS-C-6481に準拠し、アジレント・テクノロジー株式会社製ネットワークアナライザー「E8362C」を用い空洞共振法にて、絶乾後23℃、湿度50%の室内に24時間保管した後の試験片の1GHzおよび10GHzでの誘電正接を測定した。なお、誘電正接としては、電子材料としての伝送損失低減の観点から、誘電正接は、0.0030以下が好ましく、0.0025以下がより好ましい。
【0131】
ガラス転移温度(Tg)
厚さ2.4mmの硬化物を幅5mm、長さ54mmのサイズに切り出し、これを試験片とした。この試験片を粘弾性測定装置を用いて、弾性率変化が最大となる(tanδ変化率が最も大きい)温度(℃)をガラス転移温度Tgとして評価した。
【0132】
外観の評価
厚さ2.0mmの硬化物の裏に5mm四方で文字を印字した。その文字の可読性により、透明性を目視で判定した。
【0133】
表1に示すように、本発明では、硬化時に優れた誘電正接(すなわち、低い誘電正接)および外観の均一性を達成可能な硬化性樹脂組成物を提供することができた。
【0134】
・実施例9および比較例3
表2に示す配合でワニス溶液を調製した。
【0135】
【表2】
【0136】
得られたワニス溶液の外観を目視により評価した。さらにこれらのワニス溶液を金属シャーレに1g入れ、150℃で金属シャーレを加熱してワニス溶液中のトルエンを揮発させ、乾燥させた。次いで、金属シャーレ中に残った樹脂成分の外観を目視により評価した。
【0137】
表2に示すように、実施例9では、ワニス溶液と乾燥後の樹脂成分の両方が、均一で透明であり、本発明のアントラセン樹脂が、マレイミド樹脂との優れた相溶性を有することを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0138】
本発明によれば、硬化物としたときの耐熱性および低い誘電正接の発現に寄与することができるアントラセン樹脂を提供することができる。優れた誘電正接(すなわち、低い誘電正接)および外観の均一性を達成可能な硬化性樹脂組成物を提供することができる。また、本発明によれば、優れた誘電正接および外観の均一性を有する硬化物を提供することができる。また、本発明によれば、そのような硬化性樹脂組成物または硬化物を含む回路基板、ビルドアップフィルム、半導体封止材および半導体装置を提供することができる。
図1
図2
図3
図4