(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025155478
(43)【公開日】2025-10-14
(54)【発明の名称】酸化ガリウム被着銀粉、その製造方法および導電性ペースト
(51)【国際特許分類】
B22F 1/16 20220101AFI20251002BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20251002BHJP
B22F 9/24 20060101ALI20251002BHJP
B22F 1/05 20220101ALI20251002BHJP
H01B 1/20 20060101ALI20251002BHJP
C22C 21/00 20060101ALN20251002BHJP
【FI】
B22F1/16
B22F1/00 K
B22F9/24 E
B22F9/24 F
B22F1/05
H01B1/20 A
C22C21/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024089096
(22)【出願日】2024-05-31
(31)【優先権主張番号】P 2024055713
(32)【優先日】2024-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】506334182
【氏名又は名称】DOWAエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129470
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 高
(72)【発明者】
【氏名】小林 翔也
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
5G301
【Fターム(参考)】
4K017AA03
4K017AA06
4K017AA08
4K017BA02
4K017CA07
4K017DA01
4K017DA07
4K017EJ01
4K017FB01
4K017FB04
4K017FB07
4K018BA01
4K018BB04
4K018BC28
4K018BD04
4K018KA33
5G301DA23
5G301DA42
5G301DD01
5G301DD02
(57)【要約】
【課題】銀粉の表面を改質することにより、得られた銀粉をペースト化して電極形成を行った場合にライン抵抗が低減する銀粉およびその製造方法を提供する。
【解決手段】銀イオンを含む水溶液中から金属銀粒子を析出させる際に、水溶液中にガリウム化合物を共存させ、還元剤としてその添加により水溶液のpHを低下させる効果を有する還元剤、または、還元剤の酸化生成物が水溶液のpHを低下させる効果を有する還元剤を使用することにより、析出した銀粉をペースト化して電極形成を行った場合に電極が低抵抗となる酸化ガリウム被着銀粉を得ることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に酸化ガリウムを被着させた銀粒子からなる銀粉であって、ガリウム量が前記の酸化ガリウム被着銀粉の質量に対して10質量ppm以上900質量ppm以下であり、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定した体積基準の累積50%径D50が0.2μm以上5.0μm以下である、酸化ガリウム被着銀粉。
【請求項2】
前記のガリウム量が、前記の酸化ガリウム被着銀粉の質量に対して10質量ppm以上600質量ppm以下である、請求項1に記載の酸化ガリウム被着銀粉。
【請求項3】
銀イオンとガリウム化合物を含む水溶液にアンモニアを添加して銀-アンミン錯体を形成する工程と、
前記の工程で形成された銀-アンミン錯体を含む水溶液にpH調整剤を添加して水溶液のpHを10以上に調整する工程と、
前記のpHを10以上に調整した水溶液に還元剤を添加し、銀イオンを還元して銀粒子を析出させると同時に、前記の還元剤を添加することにより前記の水溶液のpHを3.3以上6.5以下にし、ガリウムを析出させる工程と、
を含む、酸化ガリウム被着銀粉の製造方法。
【請求項4】
前記の還元剤が、分子内にCOOH基、CHO基およびOH基の1種または2種以上を含む有機化合物である、請求項3に記載の酸化ガリウム被着銀粉の製造方法。
【請求項5】
前記の還元剤がホルムアルデヒドである、請求項3に記載の酸化ガリウム被着銀粉の製造方法。
【請求項6】
請求項1または2に記載の酸化ガリウム被着銀粉を用いた導電性ペースト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、様々な電子部品の電極や回路などの素子に電気伝導経路を形成するための導電性ペーストに使用するのに適した酸化ガリウム被着銀粉、その製造方法、および導電性ペーストに関する。なお、本明細書における酸化ガリウムとは、酸化ガリウムの水和物や水酸化ガリウムを含む概念である。
【背景技術】
【0002】
電子部品の電極や回路などの形成には、従来、樹脂型、焼成型の銀ペーストが多く用いられている。近年、銀粉を用いた導電性ペーストには、電子部品の小型化による導体パターンの高密度化や配線太さを細くするファインライン化が求められている。配線をファインライン化するためには、導電性ペーストを用いて形成された導電膜のライン抵抗を低減する必要がある。そのために従来、銀粉の表面を改質し、最終的に得られる導電膜の電気的性質を改善する試みがなされてきた。
【0003】
例えば特許文献1には、金属銀粒子の表面に周期表の2~14族に属する金属元素の少なくとも1種を含む酸化物や複合酸化物を固着させた表面修飾銀粉が開示されている。特許文献1に開示されている表面修飾銀粉は、当該銀粉を含む導電性ペーストを焼結した際の熱収縮を抑制することを目的としたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された銀粉はその表面に酸化物を固着させることにより銀粉の表面を改質したものであるが、特許文献1に開示された実施例に用いられている酸化物は酸化アルミニウムおよび酸化ケイ素のみであり、それらの酸化物は体積抵抗率が高いため、導電膜のライン抵抗を低下させる効果が少なかった。
【0006】
本発明において解決すべき技術課題は、銀粉の表面を改質することにより、得られた銀粉をペースト化して線幅の細い電極形成を行った場合にライン抵抗が低減する銀粉およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上述の課題を達成するために鋭意研究を重ねた結果、銀粉の表面に微量の酸化ガリウムを被着させることにより、最終的に形成される線幅の細い電極膜のライン抵抗を低減させることが可能であることを見出した。
以上の知見を基に、本発明者は、以下に述べる本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、上述の課題を達成するために本発明においては、
(1)表面に酸化ガリウムを被着させた銀粒子からなる銀粉であって、ガリウム量が前記の酸化ガリウム被着銀粉の質量に対して10質量ppm以上900質量ppm以下であり、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定した体積基準の累積50%径D50が0.2μm以上5.0μm以下である酸化ガリウム被着銀粉が提供される。
(2)前記(1)項の酸化ガリウム被着銀粉は、ガリウム量が、前記の酸化ガリウム被着銀粉の質量に対して10質量ppm以上600質量ppm以下であることが好ましい。
【0009】
本発明においてはまた、
(3)銀イオンとガリウム化合物を含む水溶液にアンモニアを添加して銀-アンミン錯体を形成する工程と、前記の工程で形成された銀-アンミン錯体を含む水溶液にpH調整剤を添加して水溶液のpHを10以上に調整する工程と、前記のpHを10以上に調整した水溶液に還元剤を添加し、銀イオンを還元して銀粒子を析出させると同時に、前記の還元剤を添加することにより前記の水溶液のpHを3.3以上6.5以下にし、ガリウムを析出させる工程とを含む、酸化ガリウム被着銀粉の製造方法が提供される。
(4)前記(3)項の酸化ガリウム被着銀粉の製造方法においては、前記の還元剤が分子内にCOOH基、CHO基およびOH基の1種または2種以上を含む有機化合物であることが好ましい。
(5)前記(3)項または(4)項の酸化ガリウム被着銀粉の製造方法においては、前記の還元剤がホルムアルデヒドであることがより好ましい。
【0010】
本発明においてはさらに、
(6)前記(1)項または(2)項に記載の酸化ガリウム被着銀粉を用いた導電性ペースト、が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の酸化ガリウム被着銀粉を用いることにより、その銀粉をペースト化して設計線幅が例えば15μm以下の細線電極形成を行った場合でも低ライン抵抗となる導電膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施例および比較例で得られた酸化ガリウム被着銀粉について得られたXPSスペクトル(Ga2p
3/2)である。
【
図2】本発明の実施例および比較例で得られた酸化ガリウム被着銀粉についてのガリウムの深さ方向分析結果である。
【
図3】本発明の実施例2で得られた酸化ガリウム被着銀粉の二次電子(SEM)像と、銀およびガリウムのLα特性X線像である。
【
図4】本発明の比較例2で得られた酸化ガリウム被着銀粉の二次電子(SEM)像と、銀およびガリウムのLα特性X線像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[酸化ガリウム被着銀粉]
本発明の酸化ガリウム被着銀粉は、銀粉の表面に微量の酸化ガリウムを被着させたものである。銀粉の表面に酸化ガリウムを被着させることにより、当該酸化ガリウム被着銀粉をペースト化し、設計線幅15μm以下の細線電極を形成した場合においても、ライン抵抗を低減することが可能になる。
【0014】
酸化ガリウムを被着させることにより電極膜のライン抵抗が低下する機構は現時点では不明であるが、本発明者は以下のように考えている。すなわち、酸化ガリウムが銀粒子の表面に存在すると、ペースト内での銀粒子同士の滑りが良くなるものと推定している。そのために印刷版からのペーストの吐出性が向上して細線印刷性が改善されるために、最終的に得られる電極膜の低抵抗化に繋がると考えられる。その観点からは、酸化ガリウムは銀粒子の表面付近にのみ存在しても良いことになる。
【0015】
本明細書における銀粉中の「ガリウム量」は、当該酸化ガリウム被着銀粉を、酸を用いて完全溶解し、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)を用いて測定した当該酸化ガリウム被着銀粉質量に対するガリウムの量を示す。本発明において、ガリウムは銀粒子の表面側に多く存在しており、銀粒子中に存在するガリウムと、表面に酸化ガリウムとして被着しているガリウムがあると考えられ、本明細書における「ガリウム量」は、銀粒子中に存在するガリウム量と表面に被着したガリウム量の合算値を示す。
【0016】
なお、ICP-OESでは状態分析はできないため、銀粒子の表面に存在しているガリウムが、酸化ガリウムの状態で存在しているかどうか、つまり「表面に酸化ガリウムを被着させた銀粒子」であるかどうかは、X線光電子分光分析法(XPS)によるガリウムの状態分析によって判断される。状態分析において、酸化ガリウムは例えばGa2O3である。なお、本発明において、銀粒子の表面に存在しているガリウムは、酸化ガリウムであることが好ましいが、例えばガリウム単体(金属)のピークをわずかに含んでいても良い。後述するXPS測定において、ガリウム酸化物に対応するピークに対するガリウム単体に対応するピークの高さの比率は、10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、1%以下であることが更に好ましく、ガリウム単体に対応するピークは検出されないことが一層好ましい。
【0017】
ガリウム量は、当該酸化ガリウム被着銀粉の全体の質量に対して10質量ppm以上であることが好ましい。被着量が10質量ppm未満では、本発明の電極膜の低抵抗化の効果が不十分である。また、酸化ガリウムは一種の絶縁体であるため、被着量が900質量ppmを超えるとライン抵抗を低下させる効果が少なくなるので好ましくない。前記のガリウム量は10質量ppm以上600質量ppm以下であることがより好ましい。
【0018】
本発明の酸化ガリウム被着銀粉は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定される体積基準の累積50%径D50が0.2μm以上5.0μm以下であることが好ましい。D50が0.2μm未満では導電性ペーストの粘度が上がるため、導電性ペースト中の銀濃度を高くし難くなり、導電性ペーストを使用して配線などの描写をした場合に、断線する場合があるので好ましくない。また、D50が5.0μmを超えると導電性ペーストを使用して配線などの描写をした場合に微細な配線を描写し難くなるので好ましくない。
【0019】
なお、本発明の酸化ガリウム被着銀粉を構成する銀粒子の断面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察すると、当該銀粒子の内部に微細な空隙の存在が確認できる場合がある。内部に閉じた空隙を有する場合、機構は不明であるが、当該空隙の存在が細線化した電極のライン抵抗の低減に寄与する可能性があるため、空隙が存在することが好ましい。
【0020】
[製造方法]
本発明の酸化ガリウム被着銀粉の製造方法においては、製造方法が安価で大量生産性に優れた湿式法を用いる。
【0021】
[出発物質]
本発明の酸化ガリウム被着銀粉の製造方法においては、出発物質として1価の銀イオンおよびガリウム化合物を含む混合水溶液を使用する。銀イオンの供給源としては、工業的に用いられている公知の硝酸銀(I)、硫酸銀(I)、炭酸銀(I)、塩化銀(I)、酸化銀(I)等の無機銀塩を用いることができる。ガリウム化合物の供給源としては、硝酸ガリウム、酢酸ガリウム、シュウ酸ガリウム等の無機ガリウム塩を用いることができる。なお、ガリウムの酸化物は両性酸化物なので、ガリウムは低pH域ではガリウムイオン(Ga3+)、高pH域ではガリウム酸イオン(GaO3
3-)の状態で溶解し、中性付近のpHでは酸化ガリウム(Ga2O3)の固相安定域になる。
【0022】
本発明においては特に規定するものではないが、出発物質である混合水溶液中の銀イオン濃度は、当該混合溶液の調製段階で1.0質量%以上2.0質量%以下であることが好ましい。銀イオン濃度が1.0質量%未満であると、1回の反応で製造できる銀粉の量が少なくなってしまう。銀イオン濃度が2.0質量%を超えると、銀粒子析出後の反応液の粘度が上昇し、反応液を均一に撹拌することが難しくなる場合もある。また、ガリウム化合物の濃度は、ガリウムとして0.5質量%以上10質量%以下であることが好ましい。ガリウムの濃度が0.5質量%未満であると、目的の酸化ガリウム被着銀粉を得るために添加するガリウム化合物水溶液の添加量が多くなることに伴って反応溶液の容量が多くなり、用いる試薬を多く使用するため、不経済となりやすい。ガリウムの濃度が10質量%を超えると、目的の酸化ガリウム被着銀粉を得るために添加するガリウム化合物水溶液の添加量が微量になり、操業条件によっては添加量の誤差が大きくなりやすいこともある。
【0023】
[錯体形成工程]
本発明の酸化ガリウム被着銀粉の製造方法においては、アンモニウムイオンにより銀イオンを錯化し、銀-アンミン錯体を形成する。アンモニウムイオンの供給源としては、アンモニア水や塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム等のアンモニウム塩を用いることができる。錯化剤としてアンモニウムイオンを用いると、水溶液中で銀-アンミン錯体が形成されるが、その場合、アンミン錯体の配位数は2であるため、銀イオン1モル当たりアンモニウムイオンを2モル以上添加する。なお、銀-アンミン錯体を形成する際の反応温度は20℃以上40℃以下とすることが好ましい。銀-アンミン錯体を形成する際の反応温度は、銀-アンミン錯体を形成する際に発熱反応が起こることを鑑み、後述する還元析出工程の温度を所望の温度に設定するために、前記範囲で行うことが好ましい。反応温度が低すぎても高すぎても温度調整に時間を要し、エネルギーコストが増大するために経済的に好ましくない。
【0024】
[pH調整工程]
引き続き、前記の工程により得られた銀-アンミン錯体および溶解したガリウム化合物を含む水溶液にpH調整剤を添加し、当該水溶液のpHを10以上に調整する。pHを10以上にするのは還元剤の還元力を十分に強くするためである。前記のpH調整剤としては、水酸化ナトリウムや水酸化カルシウム等のアルカリ金属やアルカリ土類の水酸化物や炭酸塩等を使用することができる。なお、本発明の酸化ガリウム被着銀粉の製造方法においては、当該水溶液のpHの上限は特に規定するものではないが、pH調整剤の過剰な使用を避けるために、pH13以下とすることが好ましい。pH調整工程の温度は20℃以上40℃以下とする。反応温度が低すぎても高すぎても温度調整に時間を要し、エネルギーコストが増大するために経済的に好ましくない。
【0025】
[銀粒子の析出工程]
本発明の酸化ガリウム被着銀粉の製造方法においては、前記の工程で得られた銀-アンミン錯体および溶解したガリウム化合物を含むアルカリ性の水溶液に還元剤を添加して銀-アンミン錯体を還元し、水溶液中で銀粒子を析出させる。その際に、還元剤としては、還元剤を添加することにより水溶液のpHを低下させる効果を有するものを使用する。水溶液のpHを低下させる効果を有する還元剤を使用する理由は、当該還元剤の添加により水溶液のpHを前記の酸化ガリウムの固相安定域まで低下させ、析出した銀粒子の表面に酸化ガリウムを被着させるためである。水溶液のpHを低下させる効果を有しない還元剤を使用した場合、銀粒子が析出した後にpH調整剤を添加して水溶液のpHを低下させて銀粒子の表面に酸化ガリウムを被着させることが可能であるが、その製造方法は工程数が増加するので好ましくない。また、粒子表面に酸化ガリウムを均一に被着させることが困難となるため、好ましくない。
なお、前記の還元剤を用いて銀粒子を析出させる際の反応温度は20℃以上40℃以下とすることが好ましい。反応温度が低すぎても高すぎても温度調整に時間を要し、エネルギーコストが増大するために経済的に好ましくない。
【0026】
[還元剤]
本発明の酸化ガリウム被着銀粉の製造方法の最大の技術的特徴は、その添加により水溶液のpHを低下させる効果を有する還元剤を使用することである。還元剤の添加により水溶液のpHが低下する機構には、還元剤自身がpHを低下させる効果を有する場合と、還元剤の酸化生成物がpHを低下させる効果を有する場合がある。
【0027】
そのような効果を有する還元剤としては、分子内にCOOH基、CHO基およびOH基の1種または2種以上を含む有機化合物が好ましい。具体的には、アスコルビン酸、酒石酸、ギ酸、ホルムアルデヒド等のアルデヒド類が例示される。
分子内にCOOH基を有する有機化合物の還元剤の場合には、当該還元剤の添加により水溶液のpHが低下する。CHO基が還元作用を有する還元剤の場合には、当該CHO基が銀イオンを還元し、CHO基が酸化されてCOOH基になるために水溶液のpHが低下する。OH基が還元作用を有する還元剤の場合には、OH基が酸化され、CHO基を経由してCOOH基になるために水溶液のpHが低下する。
【0028】
本発明の酸化ガリウム被着銀粉の製造方法においては、前記の還元剤を添加することにより前記の水溶液のpHを3.3以上6.5以下にする。前記のpH範囲に設定することにより、混合水溶液中から銀粒子に酸化ガリウムを被着させることができる。
【0029】
前記の還元剤を添加することにより低下したpHの値は、銀粉の析出が完了した後のpHの値とすることができ、その場合、当該pHは銀粉をろ過回収した後のろ液のpHの測定値とすることができる。このpHの値は、上述のpH調整工程におけるpHの値や、添加するpH調整剤の量、錯体形成工程におけるアンモニアの当量、または還元剤の量によって制御可能である。上記のpHは6.0以下にすることがより好ましい。上記のpHは3.3を下回るとガリウムがGaOH2+、Ga3+のイオンになる恐れがあるために好ましくない。
【0030】
後述の実施例1におけるアンモニア水の添加量を変更することによって、ろ液のpHが7.5以上に調整した銀粉では後述する被着したガリウム量の測定においてガリウムがほとんど検出されず、当該pHが6.4となるように調整した銀粉には前記混合水溶液に添加したガリウムのうち40%のガリウムが銀粉から検出されるようになり、pHが4.8~5.8となるように調整した銀粉おいては、前記混合水溶液に添加したガリウムのほぼ全量が銀粉から検出されるようになった。つまり、本発明において、pHは4.8以上5.8以下であることがさらに好ましい。
【0031】
このことから、混合水溶液のpHが10以上から低下してpHが6.5に近づくと、銀粒子表面において酸化ガリウムが析出し始めるものと考えている。そして、最終的なpHとなるまで粒成長と共に銀粒子の表面付近においてガリウム(例えば酸化ガリウム)を含有する層が形成され、銀粒子の表面に酸化ガリウムが被着するようになるものと考えられる。後述の
図2は、銀粒子表面からのArイオンスパッタリングを併用したXPS測定によるガリウムの深さ方向分析において、ガリウムが最表面から粒子内部に向かって漸減する様子を示しており、本発明の銀粒子の表面付近においてガリウムを含有する層の存在を示唆している。つまり、本発明において、銀粒子表面からの深さ方向分析において、ガリウムが最表面から粒子内部に向かって漸減することが好ましい。
【0032】
そして本製造方法では、予め前記混合溶液にガリウムイオンを含有させておき、還元析出途中のpH遷移によって銀粒子表面に酸化ガリウムを被着させることで、特許文献1に比べて銀粒子から単離した酸化ガリウム粒子やガリウム粒子ができることを抑制し、銀粒子の表面に固定された酸化ガリウムを均一に被着させることができる。そのため、混合溶液に予め含有させるガリウム化合物の量を抑制することができ、後述する被着したガリウム量の測定において測定される銀粉中のガリウム量を低く抑えた銀粉を得ることができる。つまり、本発明において、銀粒子の表面付近の酸化ガリウムは前述した濃度範囲で、銀粒子全体に均一に付着されていることが好ましい。
【0033】
還元剤としてアルデヒド類を用いると、銀粒子がある程度析出し、酸化生成物であるカルボン酸の濃度が増加した後に水溶液のpHが前記のpH範囲になるので、酸化ガリウムが析出した銀粒子の表面のみに被着する観点から好ましい。アルデヒドとしては、入手の容易さと還元力の観点から、ホルムアルデヒドを用いることがより好ましい。
前記の還元剤の添加量は、銀の収率を高めるために、銀に対して1当量以上であるのが好ましく、銀に対して2当量以上、例えば、10当量以上20当量以下でもよい。
【0034】
[分離・回収工程]
前記の一連の工程により得られた酸化ガリウムを被着した銀粉を、公知の固液分離手段を用いて分離・回収した後、必要に応じて水洗を施し、乾燥する。公知の固液分離手段としては、例えばデカンテーションやフィルタープレスにより行うことができる。洗浄の終点は洗浄水の電気伝導度を用いて判定して構わない。具体的には、洗浄水の電気伝導度が所定の値以下となった場合に洗浄終了と判定する。洗浄後の銀粒子などは、ケーキ状等の凝集状態で乾燥工程に供してよい。
【0035】
乾燥工程は、真空乾燥や気流式の乾燥機等を用いて行うことができる。乾燥工程においては、銀粒子等の集合体に高圧空気流を吹き付けたり、ケーキや乾燥過程の球状銀粉を、撹拌ロータを有する撹拌機に投入して撹拌したりすることによって、ケーキや乾燥過程の銀粉に分散力を与えて、分散や乾燥を即す操作が行われても良い。銀粉の乾燥温度は100℃以下とする。銀粉の温度が100℃以下であれば、銀粉中の銀粒子等同士が焼成することを効果的に抑制することができる。
【実施例0036】
[ガリウム量の測定]
酸化ガリウム被着銀粉の被着したガリウム量の測定には誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)を用いた。試料(銀粉)1gを精秤し、純水15mL、硝酸(精密分析用)10mLを加え、200℃30分間加熱した。加熱したサンプルを放冷後、純水を用いて100mLに定容し、そこから上澄み液を5mL分取し、純水を用いて、再度100mLに定容することで、ICP分析用のサンプルを準備した。測定には標準添加法を用いた。5Nの銀を用い、上記のサンプルと同程度の銀濃度とした標準液にガリウムを添加して検量線を作成した。定量分析にはアジレント・テクノロジー社製のAgilent5800 ICP-OESを使用した。
【0037】
[ガリウムの状態分析]
銀粒子に被着したガリウムの状態分析はX線光電子分光分析法(XPS)により行った。XPS測定にはアルバック・ファイ株式会社製走査型X線光電子分光分析装置、PHI5000 Versa Probe IIIを用いた。X線源には単色化したAlKα線を用い、加速電圧15kV、出力25W、X線入射角は90度、光電子取り出し角は45度とした。
ガリウムの化学状態分析にはGa2p3/2スペクトルを用い、パスエネルギー69eV、積分時間80ms、測定エネルギー間隔0.125eV/step、積算回数25回とした。また、C-Cの結合エネルギーを284.8eVとして帯電補正を行った。なお、後述する実施例1のみ、ガリウムの化学状態分析の積算回数は500回とした。
酸化ガリウム被着銀粒子の深さ方向分析(デプスプロファイリング)にはArイオンスパッタリングを併用した。イオンスパッタの速度はSiO2換算で10nm/minである。
【0038】
[粒度分布測定]
酸化ガリウム被着銀粉の体積基準の累積10%粒子径(D10)、累積50%粒子径(D50)、累積90%粒子径(D90)は、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、マイクロトラックMT-3300 EXII)により測定した。測定に当たり、試料0.1gをイソプロピルアルコール(IPA)40mLに加えて分散した。分散には、超音波ホモジナイザー(日本精機製作所製、US-150T:19.5kHz、チップ先端直径18mm)を用いた。分散時間は2分間とした。分散後の試料を上記装置に供し、付属の解析ソフトにより粒度分布を求めた。
なお、測定時における前記レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置の循環器にはSDC装置を用いており、該循環器の「流速(%)」の設定値は60とした。
【0039】
[BET比表面積測定]
酸化ガリウム被着銀粉のBET比表面積の測定は、MOUNTECH社製、Macsorb HM-model 1210を用い、窒素吸着によるBET1点法で測定した。なお、BET比表面積の測定は、試料重量3.0gとし、N2/He(30/70)混合ガスを用い、ガス流量25mL/min、測定前の脱気条件は60℃10分間とした。
【0040】
[走査電子顕微鏡観察]
酸化ガリウム被着銀粉の走査電子顕微鏡(SEM)観察には、日本電子株式会社製のJSM-IT800SHLを用いた。また、同装置に付属したエネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX)により銀およびガリウムの特性X線(Lα線)像を撮影した。本発明においては、得られたガリウムの特性X線(Lα線)像を二値化処理が可能な画像処理ソフトウェアであるImageJを用いて、ガリウムが銀粒子表面に均一に存在するかどうかを確認した。具体的には、前記ソフトを用いて、ガリウムの分布像から任意の粒子10個の外周を手動で設定し、二値化により、前記粒子1個当たりのガリウムの分布面積を求め、前記1粒子全体の面積で除した、1粒子当たりのガリウムの分布面積比の平均値を求めた。なお、本発明において二値化における閾値は、最大値よりも1低い値(本発明においては254)とし、白色部をガリウムの分布部とした。本発明において、1粒子当たりのガリウムの分布面積比の平均値は80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、90%以上であることが更により好ましい。
【0041】
[導電性ペーストの製造方法]
酸化ガリウム含有銀粉、アルミニウム粉(金属アルミニウム:99.87質量%、鉄:0.09質量%、ケイ素が0.04質量%、SEM平均径:2.0μm)、ガラスフリット(ガラス粉:PbOを主成分として含有し、B2O3、SiO2およびその他の酸化物を含有)、エチルセルロース、テキサノール、ブチルカルビトールアセテート、クエン酸トリブチル、オレイン酸、トリアセチン、メチルフェニルポリシロキサン、水添ひまし油、及び脂肪酸アマイドを混合して混合物を得た。混合物の組成を表1に示す。得られた混合物をプロペラレス自公転撹拌機脱泡装置(株式会社EME製のV-mini300)に投入し、公転1000rpmの条下で30秒予備混合した後、3本ロール(EXAKT社製の80S)を用いて、ロールギャップを100μmから20μmまで通過させて混錬し、導電性ペーストを得た。
【0042】
【0043】
[ライン抵抗値の測定]
上記の手順で得られた導電性ペーストを用いて、スクリーン印刷により直線形状を印刷した。直線は設計線幅12μmであり、直線の長さ150mmとした。印刷にはマイクロテック製印刷機を使用し、スキージ速度350mm/sで印刷した。印刷には厚み170μm程度のシリコン基板(太陽電池用途、テクスチャ形成・SiNx成膜済み)を使用した。印刷後、温度を200℃に設定した乾燥機中で5分間乾燥させた後、太陽電池焼成炉(NGK製)にて、ウェハ上面のピーク温度が720℃になる条件で焼成してライン抵抗値測定用のサンプルを作製した。
焼成後の電極の抵抗値(導電膜のライン抵抗値)は、印刷電極の両端に測定端子を当てて、デジタルマルチメーター(株式会社エーディーシー製)にて測定した。
【0044】
[比較例1]
市販の銀粉(DOWAハイテック株式会社製4-8FD)を用い、上述した手順でライン抵抗を測定したところ、66.7Ωであった。本発明においては、当該ライン抵抗の値よりもライン抵抗が低下した場合に発明の効果があったと判断する。
表2中に、比較例1に用いた市販の銀粉の体積基準の累積10%粒子径(D10)、累積50%粒子径(D50)、累積90%粒子径(D90)、BET比表面積および前記のライン抵抗を示す。
【0045】
[実施例1]
銀イオン濃度1.53質量%の硝酸銀水溶液3506gに硝酸ガリウム(株式会社高純度化学研究所製)の5質量%水溶液を0.66g添加し、銀イオンおよびガリウムイオンを含む混合水溶液を得た。次いで、当該混合液を撹拌しながら、28.0質量%のアンモニア水(純正化学株式会社製)90.8gを添加し、混合水溶液の液温を28.0℃に調整した。次いで、撹拌を続けながら、アンモニア水溶液を添加して1分後に該混合水溶液に20質量%の水酸化ナトリウム水溶液9.96gを添加して、pHを12.11に調整した後、アンモニア水溶液を添加して3分後に還元剤として26質量%のホルムアルデヒド水溶液(三菱ケミカル株式会社製)251gを一挙添加して銀粒子を析出させた。
【0046】
混合水溶液に還元剤を添加してから15秒後に、1.55質量%のステアリン酸エマルションを6.13g加えた。その後撹拌を停止し、ヌッチェフィルターを用いて固形物をろ過した。その際に、ろ液のpHは5.35であった。なお、反応には5Lビーカーを使用し、邪魔板及び2段タービン羽根を用いた。得られた固形物を通水後の液の電気伝導度が0.5mS/m以下になるまで水洗し、73℃で10時間真空乾燥させた。上記工程で得られた銀粉50gをサンプルミル(協立理工株式会社製、SK-M10)に仕込み、ダイヤルメモリ100で30秒2回解砕して実施例1に係る酸化ガリウム被着銀粉を得た。
【0047】
当該酸化ガリウム被着銀粉のガリウム量を測定したところ、酸化ガリウム被着銀粉の質量に対して90質量ppmであった。
図1に本実施例により得られた酸化ガリウム被着銀粉のXPSスペクトルを示す。同スペクトルには結合エネルギー1187eV付近に小さなピークが観察された。当該ピークはガリウムの酸化物に帰属されるものであり、本実施例により得られた銀粉の表面に酸化ガリウムが存在していることが判った。なお、XPS測定によっては、金属状態のガリウムのピークは観察されなかった。
【0048】
本実施例により得られた酸化ガリウム被着銀粉を用い、上述した手順でライン抵抗を測定したところ、21.3Ωであった。その値は比較例1のそれよりも低下しており、ガリウム量が90質量ppmであっても、銀粉の表面に酸化ガリウムを被着させることにより、それをペースト化して電極を形成した時のライン抵抗が低下することが判明した。
表2中に、本実施例により得られた酸化ガリウム被着銀粉のガリウム量、体積基準の累積10%粒子径(D10)、累積50%粒子径(D50)、累積90%粒子径(D90)、BET比表面積および前記のライン抵抗を併せて示す。
【0049】
[実施例2]
硝酸ガリウム水溶液の添加量を3.28gとした以外は実施例1と同じ手順で、本実施例に係る酸化ガリウム被着銀粉を得た。その際に、ろ液のpHは5.51であった。
当該酸化ガリウム被着銀粉のガリウム量は460質量ppmであり、被着したガリウムが酸化物であることがXPS測定により確認された(
図1)。
図2に、Arイオンスパッタリングを併用したXPS測定によるガリウムの深さ方向分析の結果を示す。なお、
図2の縦軸はCを含む全元素中のガリウムの原子%である。ガリウムのピークは測定開始後、徐々に下がっており、ガリウムが銀粉の表面付近に多く存在していることが判る。
【0050】
図3に実施例2により得られた酸化ガリウム被着銀粉の二次電子(SEM)像と、銀およびガリウムのLα特性X線像を示す。
図3より、実施例2における、粒子1個当たりのガリウムの分布面積比の平均値は、92%であった。このことより、酸化ガリウムが銀粉表面に均一に分布していることが判る。
なお、実施例1においても、ガリウムのLα特性X線像の取得を試みたが、本発明で用いた測定装置では定量下限下であるため、ガリウムのピークを検出することができなかった。しかし、本発明の製造方法から考えて、実施例1で得られる酸化ガリウム被着銀粉も、実施例2と同様に酸化ガリウムが銀粉表面に均一に分布していると推察される。
【0051】
本実施例により得られた酸化ガリウム被着銀粉を用い、上述した手順でライン抵抗を測定したところ、49.6Ωであった。その値は比較例1のそれよりも低下しており、ガリウム量が460質量ppmであっても、銀粉の表面に酸化ガリウムを被着させることにより、それをペースト化して電極を形成した時のライン抵抗が低下することが判明した。
表2中に、本実施例により得られた酸化ガリウム被着銀粉のガリウム量、体積基準の累積10%粒子径(D10)、累積50%粒子径(D50)、累積90%粒子径(D90)、BET比表面積および前記のライン抵抗を併せて示す。
【0052】
[比較例2]
硝酸ガリウム水溶液の添加量を6.55gとした以外は実施例1と同じ手順で、本比較例に係る酸化ガリウム被着銀粉を得た。その際に、ろ液のpHは5.44であった。本比較例で得られた酸化ガリウム被着銀粉のガリウム量は950質量ppmであった。当該酸化ガリウム被着銀粉について、ガリウムのXPSスペクトルを
図1に、ガリウムの深さ方向分析結果を
図2に併せて示す。本比較例の場合にも、銀粉の表面に酸化ガリウムが被着していることが判る。また、
図4に比較例2により得られた酸化ガリウム被着銀粉の二次電子(SEM)像と、銀およびガリウムのLα特性X線像を示す。比較例2における、粒子1個当たりのガリウムの分布面積比の平均値は94%であり、酸化ガリウムが銀粉表面に均一に分布していることが判る。
【0053】
本比較例により得られた酸化ガリウム被着銀粉を用い、上述した手順でライン抵抗を測定したところ、75.1Ωであり、比較例1のそれよりも増加していた。したがって、銀粉の表面に酸化ガリウムを被着した場合、酸化ガリウム被着銀粉の質量に対する質量比であらわしたガリウムの含有量が900質量ppmを超えると、それをペースト化して電極を形成した時のライン抵抗が増加することが判った。
表2中に、本比較例により得られた酸化ガリウム被着銀粉のガリウム量、体積基準の累積10%粒子径(D10)、累積50%粒子径(D50)、累積90%粒子径(D90)、BET比表面積および前記のライン抵抗を併せて示す。
【0054】