IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社フジミインコーポレーテッドの特許一覧

<>
  • 特開-研磨用組成物 図1
  • 特開-研磨用組成物 図2
  • 特開-研磨用組成物 図3
  • 特開-研磨用組成物 図4
  • 特開-研磨用組成物 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025155983
(43)【公開日】2025-10-14
(54)【発明の名称】研磨用組成物
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20251002BHJP
   C09G 1/02 20060101ALI20251002BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20251002BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20251002BHJP
【FI】
C09K3/14 550D
C09K3/14 550Z
C09G1/02
H01L21/304 622D
B24B37/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2025037168
(22)【出願日】2025-03-10
(31)【優先権主張番号】P 2024056618
(32)【優先日】2024-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 優一
【テーマコード(参考)】
3C158
5F057
【Fターム(参考)】
3C158AA07
3C158CA05
3C158CB01
3C158DA12
3C158EB01
3C158ED09
3C158ED23
3C158ED26
5F057BB14
5F057DA03
5F057EA01
5F057EA05
5F057EA29
5F057EA32
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、有機膜を含む研磨対象物を高速で研磨できる研磨用組成物を提供することである。本発明の更なる課題は、研磨後に、砥粒の残存を抑制できる研磨用組成物を提供することである。
【解決手段】砥粒と、液体媒体とを含み、前記砥粒が、ジルコニア粒子を含み、前記ジルコニア粒子の複合弾性率が50~220GPaである、研磨対象物を研磨するための研磨用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥粒と、液体媒体とを含み、
前記砥粒が、ジルコニア粒子を含み、
前記ジルコニア粒子の複合弾性率が50~220GPaである、研磨対象物を研磨するための研磨用組成物。
【請求項2】
前記研磨対象物が、黒鉛成分含有材料を含む、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
前記研磨対象物が、sp混成軌道を有する炭素原子のシート状物質を含む、請求項2に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
前記砥粒が、前記研磨対象物と共有結合を形成するものを含む、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
前記共有結合を阻害する成分を含まない、請求項4に記載の研磨用組成物。
【請求項6】
前記共有結合を阻害する成分が、水溶性高分子である、請求項5に記載の研磨用組成物。
【請求項7】
前記研磨対象物が、金属-窒素結合を有する材料を実質的に含まない、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項8】
アルカリ化合物を含まない、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項9】
金属含有酸化剤を実質的に含まない、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項10】
酸化剤(ただし硝酸を除く)を実質的に含まない、請求項9に記載の研磨用組成物。
【請求項11】
pHが、6未満である、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項12】
pHが、3.7超5.5未満である、請求項11に記載の研磨用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体集積回路(以下、「LSI」という)の高集積化、高性能化に伴って新たな微細加工技術が開発されている。CMPは、そのような技術の一つであり、LSI製造工程(特に、多層配線形成工程における層間絶縁材料の平坦化、金属プラグ形成、埋め込み配線形成等)において頻繁に利用される技術である。
【0003】
LSI製造工程においては有機化合物を主成分とする膜が使用されることがあり、その有機化合物を主成分とする膜を、CMPプロセスにより研磨可能な研磨液の提供を試みている文献も存在する。例えば、特許文献1では、有機膜を研磨する研磨液であって、この研磨液は、pHが5.0以下であり、研磨液全体に対して2.0~15.0質量%の有機溶媒と、砥粒と、水とを含有してなり、前記砥粒は、二次粒子径/一次粒子径で求められる会合度が、2.7以下である、研磨液が提供されている。同文献では、研磨液に有機溶媒を添加することにより有機化合物を主成分とする膜が研磨されやすい状態(反応性が向上した状態)とすることで、有機化合物を主成分とする膜を、良好な研磨速度で研磨することができると開示している。また、同文献において砥粒としては、例えば、シリカ、アルミナ、セリア、チタニア、ジルコニア及びゲルマニア等が挙げられるが、有機膜に対する研磨速度を得る点及び砥粒の粒径の選択が容易である点等から、シリカを使用することが好ましい、ことも開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-60888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、有機膜を含む研磨対象物を高速で研磨できる研磨用組成物を提供することである。
【0006】
本発明者は、かかる課題を解決すべく鋭意検討をしている中で、研磨後に砥粒が研磨済の研磨対象物に残存することがあるという新規な課題も見出した。そこで、本発明の更なる課題は、研磨後に、砥粒の残存を抑制できる研磨用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、砥粒と、液体媒体とを含み、前記砥粒が、ジルコニア粒子を含み、前記ジルコニア粒子の複合弾性率が50~220GPaである、研磨対象物を研磨するための研磨用組成物である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、有機膜を含む研磨対象物を高速で研磨できる研磨用組成物を提供することができる。また、研磨後に、研磨済の研磨対象物表面の砥粒の残存を抑制できる研磨用組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】ジルコニアとポリスチレンスルホン酸(PS)のレイヤーバイレイヤー構造(Layer-by-layered structure)を示す図である。
図2】実施例1のジルコニア粒子、実施例5のジルコニア粒子、および、比較例2のジルコニア粒子のZrO層の断面SEM像である。
図3】ジルコニア粒子の荷重-変位曲線を示す図である。
図4】振とう器を使ってメカノケミカル反応を起こさせる模式図である。
図5】XPSのC1sスペクトルのカーブフィッティングを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、「X~Y」は、その前後に記載される数値(XおよびY)を下限値および上限値として含む意味で使用し、「X以上Y以下」を意味する。「X~Y」が複数記載されている場合、例えば、「X1~Y1、あるいは、X2~Y2」と記載されている場合、各数値を上限とする開示、各数値を下限とする開示、および、それらの上限・下限の組み合わせは全て開示されている(つまり、補正の適法な根拠となる)。具体的には、X1以上との補正、Y2以下との補正、X1以下との補正、Y2以上との補正、X1~X2との補正、X1~Y2との補正等は全て適法とみなされなければならない。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件で測定する。なお、本明細書中に記載の濃度は、POU(ポイントオブユース)における濃度であっても、POUの濃度に希釈する前の濃度であってもよい。希釈倍率は、2~10倍であってよい。また、本明細書に開示される全ての実施形態や説明の組み合わせが本願では開示されていると理解されなければならない。つまり、補正の根拠となりうると理解されなければならない。また、各成分の含有量や濃度について説明があるときは、2種類以上それが含まれるときはその合計量でありうる。
【0011】
<研磨用組成物>
本発明は、砥粒と、液体媒体とを含み、前記砥粒が、ジルコニア粒子を含み、前記ジルコニア粒子の複合弾性率が50~220GPaである、研磨対象物を研磨するための研磨用組成物である。かかる構成によって、有機膜を含む研磨対象物を高速で研磨できる研磨用組成物を提供することができる。また、研磨後に、研磨済の研磨対象物表面の砥粒の残存を抑制できる研磨用組成物を提供することができる。
【0012】
[研磨対象物]
研磨対象物は、有機膜を含むことが好ましく、黒鉛成分含有材料を含むことがより好ましい。研磨対象物としては、例えば、グラフェン、グラファイト、アモルファス炭素(アモルファスカーボン)、スピンオンカーボン(SOC)、あるいは、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)などが挙げられ、中でもグラフェン、あるいは、グラファイト等のsp混成軌道を有する炭素原子のシート状物質を有することが好ましい。上記研磨対象物を有する膜は、例えば、CVD、PVD、あるいは、スピンコート法等によって形成することができる。
【0013】
研磨対象物は、酸化ケイ素、単結晶シリコン、多結晶シリコン(ポリシリコン)、非晶質シリコン(アモルファスシリコン)、n型またはp型不純物がドープされた多結晶シリコン、n型またはp型不純物がドープされた非晶質シリコン、金属単体、あるいは、SiGe等を有してもよい。酸化ケイ素を含む研磨対象物の例としては、例えばオルトケイ酸テトラエチルを前駆体として使用して生成されるTEOS(Tetraethyl Orthosilicate)タイプ酸化ケイ素面等が挙げられる。金属単体の例としては、例えば、タングステン、銅、コバルト、ハフニウム、ニッケル、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、あるいは、オスミウム等が挙げられる。
【0014】
本発明の一実施形態によれば、研磨対象物は、金属-窒素結合を有する材料を実質的に含まない。金属-窒素結合を有する材料の例としては、例えば、窒化ケイ素(SiN)、窒化タンタル(TaN)、あるいは、窒化チタン(TiN)等が挙げられる。研磨対象物が金属-窒素結合を有する材料を実質的に含まないとは、研磨対象物が金属-窒素結合を有する材料を含まないか、あるいは含んだとしてもそれが検出限界以下であることを意味する。
【0015】
[砥粒]
本発明においては、砥粒が、複合弾性率が50~220GPaであるジルコニア粒子を含む。本発明のジルコニア粒子は、複合弾性率が50~220GPaと、硬度が適切である。かような砥粒を使用することによって、研磨対象物(有機膜、特に、グラファイト等のsp混成軌道を有する炭素原子のシート状物質)を高速で研磨することができ、かつ、研磨後の砥粒(ジルコニア粒子)残を抑制することができる。以下、本発明を制限しないメカニズムを説明する。本発明のジルコニア粒子は、複合弾性率が50GPa以上、すなわち硬度が十分に高いため、研磨対象物との接触時、研磨対象物に高い機械的応力を与えることができる。研磨対象物が特にグラファイト等のsp混成軌道を有する炭素原子のシート状物質であると、その高い機械的応力によって、ジルコニアを構成するジルコニウム原子とグラファイト等のsp混成軌道を有する炭素原子との間に共有結合(Zr-C)が形成される。形成された共有結合(Zr-C)のエネルギーはグラファイト構造における層間結合エネルギーよりも強いため、研磨パッドによって研磨対象物に押し付けられたジルコニア粒子が研磨対象物上を摺接する際に、グラファイト構造の層間剥離が容易に引き起こされる。
【0016】
一方、ジルコニア粒子の複合弾性率が高すぎると、炭素原子との間の共有結合(Zr-C)の形成が過度に助長されてグラファイト等のsp混成軌道を有する炭素原子のシート状物質との結合力が強くなりすぎ研磨後に残存するジルコニア粒子数が増加する。本発明においては、砥粒に含まれるジルコニア粒子の複合弾性率が220GPa以下であるため、過剰な共有結合(Zr-C)が形成されず砥粒の残存を抑制することができる。
【0017】
本発明の一実施形態によれば、ジルコニア粒子の複合弾性率は、55~200GPa、60~190GPa、70~180GPa、80~170GPa、90~160GPa、あるいは、100~155GPaである。かような範囲であることによって研磨対象物の研磨速度を有意に向上でき、研磨後の砥粒の残存を抑制することができる。
【0018】
なお、複合弾性率が50~220GPaであるジルコニア粒子でグラファイトを研磨することによってジルコニアとグラファイトとの間に共有結合(Zr-C)が形成されることは、ジルコニア粒子でグラファイトを研磨するときの環境、すなわち、ジルコニア粒子が研磨パッド等により研磨面に押し付けられてグラファイト上を摺接することにより機械的応力が発生する環境を、振とう機を用いてジルコニアとグラファイトとのメカノケミカル反応を強制的に誘起することにより模擬的/疑似的に再現することによって確認することができる(実施例の項<Zr-C比率の測定>を参照)。このように、本発明の砥粒は研磨対象物と共有結合を形成するものを含むことが好ましい。
【0019】
なお、上記の共有結合(Zr-C)の度合いは、実施例の項<Zr-C比率の測定>にて確認することもできる。Zr-C比率とはジルコニアを構成するジルコニウム原子と、研磨対象物に含まれうる炭素原子との共有結合の度合いを示す指標である。Zr-C比率が高いと共有結合が形成されやすく、低いとその逆となる。ジルコニア粒子のZr-C比率というのは、平たく言えば、ジルコニア粒子に含まれるジルコニウム原子と、研磨対象物に含まれうる炭素原子との共有結合のしやすさの指標である。ジルコニア粒子中に炭素原子が含まれるわけではない。本発明の一実施形態によれば、実施例の項<Zr-C比率の測定>にて算出されるZr-C比率が5.5~21%である。Zr-C比率を5.5%以上とすることによって研磨対象物との共有結合(Zr-C)を十分なものとし、研磨速度を向上させることができる。またZr-C比率を21%以下とすることによって研磨対象物との共有結合(Zr-C)の形成を適切なものとし研磨後の砥粒の残存を抑制することができる。本発明の一実施形態によれば、ジルコニア粒子のZr-C比率は、5.8%以上、6.0%以上、8.0%以上、10.0%以上、12.0%以上、14.0%以上、あるいは、16.0%以上である。本発明の一実施形態によれば、ジルコニア粒子のZr-C比率は、20%以下、18%以下、16%以下、14%以下、13%以下、あるいは、11%以下である。
【0020】
本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物は、上記の共有結合(Zr-C)を阻害する成分を実質的に含まない。共有結合を阻害する成分を実質的に含まないことによって、研磨対象物の研磨速度を向上させることができる。ここで、研磨用組成物が上記の共有結合(Zr-C)を阻害する成分を実質的に含まないとは、研磨用組成物が、上記共有結合(Zr-C)を阻害する成分を全く含まない(検出限界以下)の他、含んだとしても研磨用組成物中で0.00001質量%未満のことを言う。共有結合を阻害する成分とは、典型的には、水溶性高分子(特には極性基を有する水溶性高分子)、界面活性剤(特にはアニオン性基を有するアニオン性界面活性剤)、あるいは、非芳香族架橋環状化合物等が挙げられる。よって、本発明の一実施形態によれば、上記共有結合を阻害する成分が、水溶性高分子である。ここで、界面活性剤とは、1分子中に少なくとも一つ以上の親水部位(典型的には親水基)と一つ以上の疎水部位(典型的には疎水基)とを有する化合物をいう。また、「水溶性」とは、水(25℃)に対する溶解度が1g/100mL以上であることを意味し、「高分子」とは、その分子構造に繰り返し単位を有し、重量平均分子量(Mw)が1,000以上である(共)重合体を指す。本明細書中、「重量平均分子量」は、ゲルパーミーエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定した重量平均分子量(ポリエチレングリコール換算)の値を用いることができる。
【0021】
本発明の一実施形態によれば、ジルコニア粒子は、コロイダルジルコニア粒子、または粉砕/焼成ジルコニア粒子であることが好ましく、コロイダルジルコニア粒子であることがより好ましい。また、ジルコニア粒子は、ドープされていないか、または、例えば、イットリウム(Y)やカルシウム(Ca)もしくはその酸化物でドープされていてもよい。好ましくは、イットリウム(Y)もしくはその酸化物でドープされているコロイダルジルコニア粒子である。以下は、イットリウム(Y)もしくはその酸化物でドープされたY安定化ジルコニア粒子について説明する。
【0022】
Y安定化ジルコニア粒子中のイットリウムの濃度(モル%)(イットリア換算)は、次のように定義される。なお、イットリウムの濃度は例えばイットリウムカルボン酸塩を添加することによって調整されてよい。
【0023】
【数1】
【0024】
イットリウムのモル%は、X線蛍光(XRF)法、または当技術分野で知られている他の任意の方法によって決定することができる。Y安定化ジルコニア粒子中のイットリウムの濃度は、少なくとも、3モル%、4モル%、5モル%、6モル%、7モル%、8モル%、9モル%、10モル%、11モル%、12モル%、13モル%、14モル%、または15モル%である。また、Y安定化ジルコニア粒子中のイットリウムの濃度は、45モル%、40モル%、35モル%、30モル%、25モル%、または20モル%未満である。Y安定化ジルコニア粒子中のイットリウムの濃度は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、または25モル%、あるいはその間の範囲である。
【0025】
Y安定化ジルコニア粒子中のイットリウムの濃度は、0.2モル%以上または以下、1モル%以上または以下、2モル%以上または以下、3モル%以上または以下、4モル%以上または以下、5モル%以上または以下、6モル%以上または以下、7モル%以上または以下、8モル%以上または以下、9モル%以上または以下、10モル%以上または以下、11モル%以上または以下、12モル%以上または以下、13モル%以上または以下、14モル%以上または以下、15モル%以上または以下、16モル%以上または以下、17モル%以上または以下、18モル%以上または以下、19モル%以上または以下、20モル%以上または以下、21モル%以上または以下、22モル%以上または以下、23モル%以上または以下、24モル%以上または以下、あるいは25モル%以上または以下である。なお、本発明の実施例のコロイダルジルコニア粒子のイットリウムの濃度は0.3~17モル%でありうる。
【0026】
いくつかの実施形態において、Y安定化ジルコニア粒子は、単斜晶相を含む(例えば、Y安定化ジルコニア粒子中のイットリウムは、単斜晶相をもたらすのに十分な濃度である)。いくつかの実施形態において、Y安定化ジルコニア粒子は、正方晶相を含む(例えば、Y安定化ジルコニア粒子中のイットリウムは、正方晶相をもたらすのに十分な濃度である)。いくつかの実施形態において、Y安定化ジルコニア粒子は、立方晶相を含む(例えば、Y安定化ジルコニア粒子中のイットリウムは、立方晶相をもたらすのに十分な濃度である)。なお、本明細書において記載される「X(Xは数値)以上または以下」との表現は、本明細書において、X以上であってもよいし、X以下であってもよいことを意味する。つまり、補正を行う際に、Xという数値が下限値の根拠にもなりうるし、上限値の根拠にもなりうることを意味する。
【0027】
本発明に係る砥粒(特にはジルコニア粒子)は、レーザー回折散乱法により求められる粒度分布において、微粒子側から積算粒子体積が全粒子体積の50%に達するときの粒子の直径(D50、以下、単に「D50」とも称する)が5nm以上150nm以下であると好ましい。砥粒(特にはジルコニア粒子)のD50が5nm未満の場合、研磨速度が極端に減少する。一方、砥粒(特にはジルコニア粒子)のD50が150nmを超える場合、研磨後表面にスクラッチ(引っ掻き傷)が発生する虞がある。砥粒(特にはジルコニア粒子)のD50は、10nm以上、25nm以上、30nm以上、40nm以上、50nm以上、60nm以上、70nm以上、80nm以上、あるいは、90nm以上でありうる。また、砥粒(特にはジルコニア粒子)のD50は、110nm以下、90nm以下、80nm以下、70nm以下、60nm以下、50nm以下、40nm以下、あるいは、30nm以下でありうる。砥粒(特にはジルコニア粒子)のD50は、より具体的には、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0028】
砥粒(特にはジルコニア粒子)の形状は、特に制限されず、球形状であってもよいし、非球形状であってもよい。非球形状の具体例としては、三角柱や四角柱などの多角柱状、円柱状、円柱の中央部が端部よりも膨らんだ俵状、円盤の中央部が貫通しているドーナツ状、板状、中央部にくびれを有するいわゆる繭型形状、複数の粒子が一体化しているいわゆる会合型球形状、表面に複数の突起を有するいわゆる金平糖形状、棒状、菱形形状、角状、ラグビーボール形状等、種々の形状が挙げられ、特に制限されない。
【0029】
研磨用組成物中の砥粒(特にはジルコニア粒子)のゼータ電位の下限は、特に制限されないが、5mV以上、10mV以上、20mV以上、25mV以上、30mV以上、32mV以上、あるいは、35mV以上でありうる。また、研磨用組成物中の砥粒(特にはジルコニア粒子)のゼータ電位の上限は、特に制限されないが、70mV以下、65mV以下、55mV以下、50mV以下、45mV以下、40mV以下、35mV以下、33m
V以下、31mV以下、29mV以下、あるいは、28mV以下でありうる。
【0030】
本明細書において、砥粒(特にはジルコニア粒子)のゼータ電位は、実施例に記載の方法によって測定される値を採用する。砥粒(特にはジルコニア粒子)のゼータ電位は、研磨用組成物のpH等により調整することができる。
【0031】
研磨用組成物中の砥粒(特にはジルコニア粒子)の含有量(濃度)は、特に制限されないが、研磨用組成物の総質量に対して、0.01質量%以上、0.05質量%以上、0.08質量%以上、0.1質量%以上、0.2質量%以上、0.3質量%以上、あるいは、0.4質量%以上でありうる。また、研磨用組成物中の砥粒(特にはジルコニア粒子)の含有量の上限は、研磨用組成物の総質量に対して、10質量%以下、5質量%以下、4質量%以下、3質量%以下、2質量%以下、1質量%以下、あるいは、0.8質量%以下でありうる。
【0032】
本発明に係る研磨用組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲内において、砥粒はジルコニア粒子以外の他の砥粒をさらに含んでもよい。かような他の砥粒は、無機粒子、有機粒子、および有機無機複合粒子のいずれであってもよい。無機粒子の具体例としては、例えば、未変性のシリカ、カチオン変性シリカ、アルミナ、セリア、チタニア等の金属酸化物からなる粒子、窒化ケイ素粒子、炭化ケイ素粒子、窒化ホウ素粒子等が挙げられる。有機粒子の具体例としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)粒子が挙げられる。当該他の砥粒は、1種単独でもまたは2種以上組み合わせて使用してもよい。また、当該他の砥粒は、市販品を用いてもよいし、合成品を用いてもよい。もし他の砥粒としてジルコニア粒子以外の粒子も併用する場合、シリカまたはセリアであることが好ましい。セリアは研磨対象物と共有結合を形成しうる観点で、ジルコニア粒子とともに好適に用いられうる。
【0033】
ただし、当該他の砥粒の含有量は、砥粒の全質量に対して、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましく、1質量%以下であることが特に好ましい。最も好ましくは、他の砥粒の含有量が0質量%であること、すなわち砥粒がジルコニア粒子のみからなる形態である。
【0034】
[液体媒体]
本発明の研磨用組成物は、液体媒体を含む。液体媒体としては、水;メタノール、エタノール、エチレングリコール等のアルコール類;アセトン等のケトン類等や、これらの混合物などが例示できる。これらのうち、液体媒体としては水が好ましい。すなわち、本発明の好ましい形態によると、液体媒体は水を含む。本発明のより好ましい形態によると、液体媒体は実質的に水からなる。なお、上記の「実質的に」とは、本発明の目的効果が達成され得る限りにおいて、水以外の液体媒体が含まれ得ることを意図し、より具体的には、好ましくは90質量%以上100質量%以下の水と0質量%以上10質量%以下の水以外の液体媒体とからなり、より好ましくは99質量%以上100質量%以下の水と0質量%以上1質量%以下の水以外の液体媒体とからなる。最も好ましくは、液体媒体は水である。
【0035】
研磨用組成物に含まれる成分の作用を阻害しないようにするという観点から、液体媒体としては、不純物をできる限り含有しない水が好ましく、具体的には、イオン交換樹脂にて不純物イオンを除去した後、フィルタを通して異物を除去した純水や超純水、または蒸留水がより好ましい。
【0036】
[pHおよびpH調整剤]
本発明に係る研磨用組成物のpHは、例えば、6未満、5.9以下、5.7以下、5.5以下、あるいは、5.5未満である。研磨用組成物のpHが6未満であると、研磨用組成物の安定性がより向上する。本発明に係る研磨用組成物のpHは、好ましくは、2超、2.4以上、2.8以上、3.2以上、3.6以上、3.7以上、あるいは、3.7超である。研磨用組成物のpHが2以下であると、研磨対象物としての黒鉛成分含有材料(特にはグラファイト等のsp混成軌道を有する炭素原子のシート状物質)の研磨速度が低下する虞がある。よって、本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物のpHが、3.7超5.5未満である。
【0037】
本発明に係る研磨用組成物は、pHを調整するためのpH調整剤を含有しうる。pH調整剤は、無機酸、有機酸、および塩基のいずれであってもよい。pH調整剤は、1種単独でも、または2種以上組み合わせても用いることができる。
【0038】
pH調整剤として使用できる無機酸の具体例としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、フッ酸、ホウ酸、炭酸、次亜リン酸、亜リン酸、およびリン酸が挙げられる。なかでも好ましいのは、塩酸、硫酸、硝酸またはリン酸である。
【0039】
pH調整剤として使用できる有機酸の具体例としては、例えば、ギ酸、酢酸、カンファースルホン酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、2-メチル酪酸、n-ヘキサン酸、3,3-ジメチル酪酸、2-エチル酪酸、4-メチルペンタン酸、n-ヘプタン酸、2-メチルヘキサン酸、n-オクタン酸、2-エチルヘキサン酸、安息香酸、グリコール酸、サリチル酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、乳酸、ジグリコール酸、2-フランカルボン酸、2,5-フランジカルボン酸、3-フランカルボン酸、2-テトラヒドロフランカルボン酸、メトキシ酢酸、メトキシフェニル酢酸、フェノキシ酢酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、およびイセチオン酸等が挙げられる。
【0040】
pH調整剤として使用できる塩基の具体例としては、例えば、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド等を挙げることができる。pH調整剤の添加量は、特に制限されず、研磨用組成物が所望のpHとなるように適宜調整すればよい。
【0041】
本発明に係る研磨用組成物に含ませるpH調整剤は、酢酸や、カンファースルホン酸等の有機酸と比較し、硝酸等の無機酸であることが好ましい。
【0042】
本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物はアルカリ化合物を含まない。研磨用組成物がアルカリ化合物を含むと、砥粒の凝集が進行し、砥粒の研磨対象物との接地部が増えることになり、粒子残渣増加に繋がる虞がある。
【0043】
アルカリ化合物は、水(25℃)に溶解して塩基性を示し、酸と中和する物質でありうる。アルカリ化合物としては、例えば、アンモニア、水酸化カリウム、AEPD(2-アミノ-2-エチル-1,3-プロパンジオール)、DGA(ジグリコールアミン)、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド等のアミン化合物、塩基性アミノ酸、あるいは、イソチアゾリノン骨格を有する含窒素複素環化合物等が挙げられる。
【0044】
研磨用組成物のpHは、例えばpHメーターにより測定することができ、具体的には実施例に記載の方法により測定することができる。
【0045】
[その他の成分]
本発明に係る研磨用組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲内において、酸化剤、錯化剤、防腐剤、防カビ剤等の、研磨用組成物に用いられ得る公知の添加剤をさらに含有してもよいし、含有しなくてもよい。
【0046】
酸化剤の例としては、過酸化水素、過酸化ナトリウム、過酸化バリウム、オゾン水、銀(II)塩、鉄(III)塩、過マンガン酸、クロム酸、重クロム酸、ペルオキソ二硫酸、ペルオキソリン酸、ペルオキソ硫酸、ペルオキソホウ酸、過ギ酸、過酢酸、過安息香酸、過フタル酸、次亜塩素酸、次亜臭素酸、次亜ヨウ素酸、塩素酸、亜塩素酸、過塩素酸、臭素酸、ヨウ素酸、過ヨウ素酸、過硫酸、ジクロロイソシアヌル酸およびそれらの塩等が挙げられる。これら酸化剤は、1種単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。これらの中でも、過酸化水素、過マンガン酸カリウム、過マンガン酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過ヨウ素酸、次亜塩素酸、およびジクロロイソシアヌル酸ナトリウムが好ましく、過酸化水素、過マンガン酸カリウム、過マンガン酸ナトリウムがより好ましく、過マンガン酸カリウムがさらに好ましい。
【0047】
本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物中の酸化剤の含有量の下限は、0.001質量%以上、あるいは、0.01質量%以上である。本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物中の酸化剤の含有量の上限は、30質量%以下、10質量%以下、あるいは、1質量%以下、0.01質量%以下、あるいは、0.001質量%未満である。
【0048】
本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物は金属含有酸化剤を実質的に含まない。金属含有酸化剤における金属としては、例えば、マンガン、セリウム、バナジウム、および鉄が含まれる。例えば、金属含有酸化剤の例には、KMnO、(NHCe(NO、NaVO、NHVO、およびFe(NOが含まれる。「研磨用組成物が金属含有酸化剤を実質的に含まない」とは、研磨用組成物中に金属含有酸化剤が全く含まれない(検出限界以下)の他、0.05mM未満含まれる場合を含む。本発明においては、複合弾性率が50~220GPaであるジルコニア粒子を含む砥粒が使用されるため、研磨対象物(有機膜、特に、グラファイト等のsp混成軌道を有する炭素原子のシート状物質)を、金属含有酸化剤を含有せずとも高速で研磨することが可能である。また、研磨用組成物が金属含有酸化剤を実質的に含まないことによって金属成分が研磨面に残存することを抑制でき電流リーク発生を有意に抑制することもできる。また、研磨用組成物が金属含有酸化剤を実質的に含まないことによって廃液処理も容易となり環境にも優しい。
【0049】
本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物は、酸化剤(ただし硝酸を除く)を実質的に含まない。「研磨用組成物が酸化剤(ただし硝酸を除く)を実質的に含まない」とは、研磨用組成物中に、硝酸を除く酸化剤が全く含まれない(検出限界以下)の他、0.001質量%未満含まれる場合を含む。本発明においては、複合弾性率が50~220GPaであるジルコニア粒子を含む砥粒が使用されるため、研磨対象物(有機膜、特に、グラファイト等のsp混成軌道を有する炭素原子のシート状物質)を、酸化剤(ただし硝酸を除く)を含有せずとも高速で研磨することが可能である。研磨用組成物は、酸化剤(ただし硝酸を除く)を実質的に含まないことによって保管安定性が向上する。
【0050】
[研磨用組成物の製造方法]
次に、本発明の研磨用組成物の製造方法について説明する。本発明に係る研磨用組成物の製造方法は、特に制限されず、例えば、特定のジルコニア粒子を含む砥粒、および必要に応じて他の添加剤を、液体媒体中(好ましくは水中)で攪拌混合することにより得ることができる。各成分の詳細は上記の通りである。
【0051】
複合弾性率が50~220GPaである(適切な硬度の)ジルコニア粒子の製造方法は特に限定されず、従来公知の方法を適宜参照するなどして準備することができる。例えば、イットリウムのカルボン酸塩とオキシ酢酸ジルコニウムとを特定の比の範囲で水に溶解した混合水溶液を水熱処理することによりコロイド粒子の二次凝集が殆どない透明性の極めて良好な酸化イットリウム安定化酸化ジルコニウム水性ゾルを得る方法(国際公開第2010/071135号公報参照)や、ジルコニウム塩の水溶液を中和し、生成した塩を除去したスラリーを調製する工程と、前記スラリーに所定のカルシウム化合物を所定量添加して80~100℃に加熱する工程とを経ることにより粉末X線回折スペクトル主ピークの半値幅を一定角度以下であるカルシア安定化ジルコニア粉末を製造する方法(特開2020-75859号公報参照)や、所定の原料組成となるように、中和共沈法等により原料配合物を調製し、これを所定温度(500~1200℃)で仮焼した後、解砕工程を経て得た原料粉末を成形し、所定温度(1300~1650℃)で焼結してジルコニア粉末を製造する方法(特開平09-188562号公報)において、これらの製造方法、製造条件を所定の目的に合わせ適宜選択することによりジルコニア粒子の複合弾性率を所定の範囲に制御できる。例えば国際公開第2010/071135号公報であれば、それに開示される水熱処理の温度を高めたり(例えば特には290℃以上や400℃以上、上限としては600℃以下)することで適切な硬度のジルコニア粒子に制御されやすくなる。また、特開2020-75859号公報であれば溶液濃度(ジルコニウム塩の濃度)を高めたり(例えば1.0mol/kg超や1.5mol/kg以上、上限としては3.0mol/kg以下)したりすることで適切な硬度のジルコニア粒子を得やすくなる。また、特開平09-188562号公報であれば、焼結のための焼成温度を高めたり(例えば、1700℃以上、1900℃以上、上限としては2200℃以下)することで適切な硬度のジルコニア粒子を得やすくなる。また本発明の研磨用組成物の製造方法では、ジルコニア粒子の複合弾性率を確認する確認工程を有することで50~220GPaであるジルコニア粒子を含む砥粒を製造してもよい。なお複合弾性率が50~220GPaであるジルコニア粒子の市販品があればそれを用いてもよい。なおZr-C比率が、5.5~21%であるジルコニア粒子も上記と同様の方法で準備を行うことができる。なおこれら公報の開示内容は、参照され、全体として、組み入れられる。
【0052】
各成分を混合する際の温度は特に制限されないが、10℃以上40℃以下が好ましく、溶解速度を上げるために加熱してもよい。また、混合時間も、均一混合できれば特に制限されない。
【0053】
[研磨方法および半導体基板の製造方法]
上記のように、本発明に係る研磨用組成物は、研磨対象物(有機膜、特にはグラファイト等のsp混成軌道を有する炭素原子のシート状物質)の研磨に好適に用いられる。よって、本発明は、研磨対象物(有機膜、特にはグラファイト等のsp混成軌道を有する炭素原子のシート状物質)を、本発明に係る研磨用組成物で研磨する研磨方法を提供する。また、本発明は、基板(有機膜、特にはグラファイト等のsp混成軌道を有する炭素原子のシート状物質を含む)を上記研磨方法により研磨することを有する、基板の製造方法を提供する。
【0054】
研磨装置としては、研磨対象物を有する基板等を保持するホルダーと回転数を変更可能なモーター等とが取り付けてあり、研磨パッド(研磨布)を貼り付け可能な研磨定盤を有する一般的な研磨装置を使用することができる。
【0055】
研磨パッドとしては、一般的な不織布、ポリウレタン、および多孔質フッ素樹脂等を特に制限なく使用することができる。研磨パッドには、研磨液が溜まるような溝加工が施されていることが好ましい。
【0056】
研磨条件については、例えば、研磨定盤およびキャリアの回転速度は、10rpm(0.17s-1)以上500rpm(8.33s-1)以下が好ましい。研磨対象物を有する基板にかける圧力(研磨圧力)は、0.5psi(3.4kPa)以上10psi(68.9kPa)以下が好ましい。
【0057】
研磨パッドに研磨用組成物を供給する方法も特に制限されず、例えば、ポンプ等で連続的に供給する方法が採用される。この供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常に本発明に係る研磨用組成物で覆われていることが好ましい。
【0058】
研磨終了後、基板を流水中で洗浄し、スピンドライヤ等により基板上に付着した水滴を払い落として乾燥させることにより、金属を含む層を有する基板が得られる。
【0059】
本発明に係る研磨用組成物は、一液型であってもよいし、二液型をはじめとする多液型であってもよい。また、本発明に係る研磨用組成物は、研磨用組成物の原液を水などの希釈液を使って、例えば2~10倍に希釈することによって調製されてもよい。
【0060】
本発明は、下記態様および形態を包含する。
【0061】
1.砥粒と、液体媒体とを含み、前記砥粒が、ジルコニア粒子を含み、前記ジルコニア粒子の複合弾性率が50~220GPaである、研磨対象物を研磨するための研磨用組成物。
【0062】
2.前記研磨対象物が、黒鉛成分含有材料を含む、1.に記載の研磨用組成物。
【0063】
3.前記研磨対象物が、sp混成軌道を有する炭素原子のシート状物質を含む、2.に記載の研磨用組成物。
【0064】
4.前記砥粒が、前記研磨対象物と共有結合を形成するものを含む、1.~3.のいずれかに記載の研磨用組成物。
【0065】
5.前記共有結合を阻害する成分を含まない、4.に記載の研磨用組成物。
【0066】
6.前記共有結合を阻害する成分が、水溶性高分子である、5.に記載の研磨用組成物。
【0067】
7.前記研磨対象物が、金属-窒素結合を有する材料を実質的に含まない、1.~6.のいずれかに記載の研磨用組成物。
【0068】
8.アルカリ化合物を含まない、1.~7.のいずれかに記載の研磨用組成物。
【0069】
9.金属含有酸化剤を実質的に含まない、1.~8.のいずれかに記載の研磨用組成物。
【0070】
10.酸化剤(ただし硝酸を除く)を実質的に含まない、1.~9.のいずれかに記載の研磨用組成物。
【0071】
11.pHが、6未満である、1.~10.のいずれかに記載の研磨用組成物。
【0072】
12.pHが、3.7超5.5未満である、11.に記載の研磨用組成物。
【実施例0073】
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「質量%」および「質量部」を意味する。
【0074】
[物性等の評価]
<複合弾性率の測定>
以下、複合弾性率の測定についての説明を行う。
【0075】
(ナノインデンテーション)
ナノインデンターによって評価可能な粒子サイズの下限は、おおむねサブミクロン程度である1)。粒子の位置特定には光学式の顕微鏡が用いられていることから、それを下回るサイズでは粒子直上にピンポイントで圧子を押し込むことが困難なためである。本発明者はこの問題を解決するため、ナノ粒子を基板上に層状に敷き詰め、複数粒子を同時に押し込む方法を発明した。これによって得られた機械特性を平均的な情報として取り扱うことで粒子間の相対比較が可能となる。インデンテーション試験に用いる圧子には、直径1μmの球状圧子を選定した。バーコビッチ型に代表される先鋭な圧子を押し込んだ場合、押し込み時初期から試料の弾性変形と塑性変形が同時に発生するため、積層構造が崩壊することが想定されるためである。一方で球状圧子を押し込んだ場合、押し込み初期には弾性変形のみが発生し、降伏接触圧力を超えると塑性変形が発生する。そのため球状圧子を用いることで、試料の崩壊を抑制しながら機械特性を計測することができる。
【0076】
よって本発明の一態様においては、複数のZrO粒子を基板上に敷き詰めることによりなるZrO粒子層に対して球状圧子を押し込むことを有する、ZrO粒子の複合弾性率の測定方法も提供される。一実施形態において前記ZrO粒子層はZrO粒子層が複数(例えば1~15層)積層されることによりなる。一実施形態において、一のZrO粒子層とこれに隣接するZrO粒子層との間にこれらを接着させるための、ZrO粒子層に静電的に吸着する吸着層が介在する。一実施形態において前記吸着層がポリスチレンスルホン酸からなる。一実施形態においてZrO粒子層(ZrO粒子層が複数積層された場合はその複数の層;一または複数の吸着層が介在する場合、これ(これら)の厚さも含む)の厚さは、30~250nmである。
【0077】
(試料作製)
図1に示される積層基板を、Layer-by-Layer(LbL)法2)によって作製し、それをナノインデンテーション測定試料とした。まず、ZrOのナノパーティクル(NPs)として実施例1のジルコニア粒子、実施例5のジルコニア粒子、および、比較例2のジルコニア粒子をそれぞれ準備した。各ジルコニア粒子を固定する基板にはシリコンウェーハを使用し、これをアセトン、エタノール、超純水中の順にそれぞれ1分間の超音波洗浄を施し、さらにUV/O洗浄装置で20分間処理することによって清浄な酸化膜を得た。LbL構造の作製は、以下の手順で実施した。
【0078】
i)シリコンウェーハを1w/w%ZrOスラリー(pH:約3.5)中に10分間浸漬し、ZrOのナノパーティクルをウェーハ表面に静電吸着し、
ii) i)で得られたものを純水に10秒間晒し未吸着成分を除去、クリーン・ドライエア噴霧により乾燥し、
iii) ii)で得られたものを、1w/w%ポリスチレンスルホン酸(PS,pH:約1.7)水溶液中に10分間浸漬し、PSをZrO ナノパーティクル上に静電吸着し、
iv) iii)で得られたものを純水に10秒間晒し未吸着成分を除去、クリーン・ドライエア噴霧により乾燥し、
v) iii)、iv)を12回繰り返し、
vi) 50℃に設定したホットプレート上で30分間加熱することで水分を除去した。
【0079】
作製した基板の断面SEM像によれば、積層した各粒子の厚さは実施例1のジルコニア粒子が60~200nm、実施例5のジルコニア粒子が70~140nm、比較例2のジルコニア粒子が200~300nm程度であった(図2参照)。
【0080】
(測定)
Hysitron社製TriboIndenterを用い、顕微鏡観察により基板上で白みがかった箇所(粒子が厚く堆積した箇所)を無作為に選んだ上、下記の測定を行った。
【0081】
各積層粒子上で球状圧子(ダイヤモンド製)を8~10nm程度の深さまで圧入した。圧子に印加した最大荷重は実施例1のジルコニア粒子には150μNとし、実施例5のジルコニア粒子および比較例2のジルコニア粒子には30μNとし、いずれも測定時間は5秒であった。粒子によって最大荷重が異なるのは、実施例5のジルコニア粒子および比較例2のジルコニア粒子の複合弾性率が実施例1のジルコニア粒子の複合弾性率に比べて有意に低いため基板の影響を強く受ける虞があるためである。各粒子の荷重-変位曲線を、式(1)で表されるHertzの接触解3)に基づきフィッティングさせることで複合弾性率を算出した(図3には実施例1の荷重-変位曲線を示した)。ここでPは押し込み荷重、Rは球状圧子の半径、hは押し込み深さ、Erは複合弾性率である。なお、荷重-変位曲線の範囲は、押し込み深さ0~6nmの範囲内に設定した。かかる設定によって、荷重-変位曲線のどの範囲を用いてフィッティングさせるかが明確となる。
【0082】
【数2】
【0083】
このようにして各粒子の複合弾性率を得た。結果を表2に示す。
【0084】
その他の実施例のジルコニア粒子、比較例のジルコニア粒子についても同様の方法にて複合弾性率を得た。なお、実施例2~4、比較例1、3において圧子に印加した最大荷重は、それぞれ、100μN、150μN、100μN、30μN、および、200μNとし、いずれも測定時間は5秒であった。結果を表2に示す。なお各実施例および各比較例の複合弾性率の値は上記と同様の方法を用いて3回行い、その相加平均値の値を採用している。
【0085】
(参考文献)
1)大村 孝仁, 精密工学会誌, Vol. 79. No. 12, pp. 1181-1184, (2013)
2)有賀 克彦, 表面技術, Vol. 70, No. 7, pp.336-342, (2019)
3)三好 淳之ら, 日本機械学会論文集C編, Vol. 71, No. 701, pp. 280-285, (2005)。
【0086】
<Zr-C比率の測定>
以下、続いてZr-C比率の測定についての説明を行う。
【0087】
(ジルコニア/グラファイト混合物の作製)
下記のとおり実施例1のジルコニア粒子の水分散液を準備した。これをガラスビーカーに入れ、100℃に設定したウォーターバス内で加温することによって水分を取り除いた。得られた乾燥物を乳鉢で所定時間かけて解砕し、粉末状の粒子にした。
【0088】
また、グラファイト粉末として富士フイルム和光純薬製のものを準備した。
【0089】
ジルコニア粒子とグラファイト粉末をメスシリンダーでそれぞれ4mLずつ秤量し、50mLの樹脂容器内でスパチュラを用いて軽く混合し、ジルコニア/グラファイト混合物(ZrO/グラファイト)を作製した。
【0090】
(混合物のメカノケミカル反応)
往復式の振とう器を用いて上記の混合物の入った樹脂容器(サンプルチューブ)を室温、常圧下で攪拌処理した。図4にその模式図を示す。このように粒子同士を強制的に衝突させることで、メカノケミカル反応を強制的に誘起し、その反応物を得た。振とう時の回転数は200rpm、処理時間は60分間とした。また比較試料として、グラファイト粉末単体でも同様の振とう試験を実施した。
【0091】
(XPS分析)
振とう処理することにより得られた各種反応物を、カーボンテープを貼った試料台に振りかけ、薬包紙を通じてプレスした後、エアブローによって余剰分を除去した。XPS測定では、PHI5000 VersaProbeII(アルバック・ファイ社製)を用いた。この時のチャンバー真空度は5.0×10-8Paであり、励起X線条件として、線源はAl-Kα線、出力は25W、照射範囲は100μmφとした。検出条件は、パスエネルギーは46.95eV、eVステップは0.1eV、検出角度は45度、検出時間は20ミリ秒/ステップ、積算回数は20回とし、C1s(277-297eV)スペクトルをn=8で収集した。
【0092】
(Zr-C比率算出)
Zr-Cの比率を算出するために解析ソフトMultiPak ver.9.9.3(アルバック・ファイ社製)を用いてC1sスペクトルの波形分離を実施した。グラファイト粉末の主成分であるsp混成軌道由来のC=C結合ピークが284.2eV1)になるようシフト補正した後、C1sスペクトルをZr-C、C=C(sp)、C-C(sp)、C-O、O-C=O、π-π結合に由来する6つのピークに分離し(図5)、うちπ-π結合を除く各ピーク面積値の和を100%とした時のZr-Cの比率を求めた。結果を表2に示す。この時各ピークの位置と半値幅(Full Width at Half Maximum,FWHM)は、表1に示す条件で固定した。
【0093】
上記と同様にして、他の実施例、比較例のジルコニア粒子のZr-C比率を求めた。結果を表2に示す。
【0094】
【表1】
【0095】
<参考文献>
1)太田貴之ら,表面技術,Vol.73,No.1,pp.47-52,(2022)。
【0096】
よって、本発明の一態様は、C1sスペクトルの波形分離を行うことを有して得られたZr-C、C=C(sp)、C-C(sp)、C-OおよびO-C=Oの各ピーク面積値の和を100%とした時のZr-Cのピーク面積値を算出することを有するZr-C比率の測定方法も提供される。本発明の一実施形態において、ジルコニア粒子とグラファイト粒子とを強制的に衝突させることで生じるメカノケミカル反応を経た反応混合物を得、当該反応混合物からC1sスペクトルを得ることができる。
【0097】
<粒子径の測定>
ジルコニア粒子のD50の値は、粒子径分布測定装置(UPA-UT151、日機装株式会社製)を用いた動的光散乱法により、体積平均粒子径として測定された値を採用した。具体的には、ジルコニア粒子を水に分散させた分散液を用い、ジルコニア粒子の粒子径の測定を行った。測定機器による解析により、ジルコニア粒子の粒子径の粒度分布において、微粒子側から積算粒子体積が全粒子体積の50%に達するときの粒子の直径D50を算出した。
【0098】
<ゼータ電位の測定>
ジルコニア粒子のゼータ電位の測定は、大塚電子株式会社製のゼータ電位測定装置(商品名「ELS-Z」)を用いて行った。
【0099】
<pHの測定>
研磨用組成物のpHは、pHメーター(株式会社堀場製作所製、型番:F-71)により測定した。
【0100】
[研磨用組成物の調製]
(実施例1)
砥粒として複合弾性率(152GPa)の粒子径(D50)が43nmであるコロイダルジルコニアの水分散液を準備した。これを用いてコロイダルジルコニアが0.5質量%の最終濃度となるように、またpH調整剤として硝酸を加えることでpHが4.5となるように液体媒体である純水に室温(25℃)で加え均一となるように混合することによって研磨用組成物を調製した。得られた研磨用組成物中のコロイダルジルコニアのゼータ電位は、27.9mVであった。なお、ジルコニア粒子の結晶性はX線回折法による回折パターンのピーク位置を用いて確認している。
【0101】
(実施例2~9、比較例1~3)
コロイダルジルコニアを表2に示されるコロイダルジルコニアに変更し、pH調整剤を表2に示されるpH調整剤に変更した以外は、実施例1と同様に研磨用組成物を調製した。
【0102】
[研磨速度]
研磨対象物(基板)として、グラファイト構造を持つスピンオンカーボン膜が厚さ5000Åで成膜された単結晶のシリコンウェーハを準備した。
【0103】
上記で得られた研磨用組成物を用いて、この準備した基板を以下の研磨条件でそれぞれ研磨し、研磨速度を測定した:
(研磨条件)
研磨装置:株式会社荏原製作所製 FREX300E
研磨圧力:2.0psi(1psi=6894.76Pa)
プラテン(定盤)回転数:60rpm
研磨用組成物供給量:300mL/分。
【0104】
(研磨速度)
膜厚は、蛍光X線分析装置(株式会社リガク製、型番:ZSX400)によって求めて、研磨前後の膜厚の差を研磨時間で除することにより研磨速度を評価した(下記式参照)。
【0105】
【数3】
【0106】
<粒子残渣>
粒子残渣の測定には、KLA TENCOR社製ウェーハ欠陥検査装置SP-5を使用
した。
【0107】
まず、研磨を行った面を、ポリビニルアルコール製ブラシを使用して、純水を使って、ブラシ押付量1mm、回転数100rpmで60秒間洗浄を行った。その後、回転数1500rpmで60秒間、前記単結晶のシリコン基板を回転させることによって乾燥を行い洗浄済の基板を準備した。
【0108】
洗浄済基板の片面の外周端部から幅5mmの部分(外周端部を0mmとしたときに、幅0mmから幅5mmまでの部分)を除外した残りの部分に存在する異物を検出の対象とした。その中からランダムにサンプリングした100個の視野サンプルにおける異物を株式会社日立製作所製Review SEM RS6000を使用してこれを全数観察し、目視にて粒子と判別されたものの個数を確認した。
【0109】
各実施例および各比較例の研磨用組成物の評価結果を下記表2に示す。
【0110】
【表2】
【0111】
本出願は、2024年3月29日に出願された日本特許出願番号第2024-056618号に基づいており、その開示内容は、その全体が参照により本明細書に組みこまれる。
図1
図2
図3
図4
図5