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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025156321
(43)【公開日】2025-10-14
(54)【発明の名称】リサイクル正極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/54 20060101AFI20251002BHJP
【FI】
H01M10/54
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2025081987
(22)【出願日】2025-05-15
(62)【分割の表示】P 2024054329の分割
【原出願日】2024-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(74)【代理人】
【識別番号】100218855
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 政輝
(72)【発明者】
【氏名】鈴江 真士
(72)【発明者】
【氏名】杉内 瑞穂
(72)【発明者】
【氏名】吉丸(原) 央江
(72)【発明者】
【氏名】影浦 淳一
(72)【発明者】
【氏名】島野 哲
【テーマコード(参考)】
5H031
【Fターム(参考)】
5H031EE01
5H031EE02
5H031RR02
(57)【要約】
【課題】高温の二酸化炭素による正極活物質の劣化を抑制することができるリサイクル正極活物質の製造方法を提供すること。
【解決手段】下記工程を含むリサイクル正極活物質の製造方法。
(1)正極活物質及び炭素含有材料を含む正極合材と、1種又は2種以上のアルカリ金属化合物を含有する活性化処理剤と、を混合して混合物を得る工程
(2)混合物を加熱炉に搬入し、混合物を加熱しつつ、炭素含有材料を加熱することにより生じる二酸化炭素を加熱炉から除去し、加熱後の混合物を得る工程
(3)加熱後の混合物から加熱後の正極活物質を回収する工程
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程を含むリサイクル正極活物質の製造方法。
(1)正極活物質及び炭素含有材料を含む正極合材と、1種又は2種以上のアルカリ金属化合物を含有する活性化処理剤と、を混合して混合物を得る工程
(2)前記混合物を加熱炉に搬入し、前記混合物を加熱しつつ、前記炭素含有材料を加熱することにより生じる二酸化炭素を前記加熱炉から除去し、加熱後の混合物を得る工程
(3)前記加熱後の混合物から加熱後の正極活物質を回収する工程
【請求項2】
前記二酸化炭素を送気により除去する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記工程(2)において、前記加熱炉内に送気されるガス中の二酸化炭素濃度と、前記加熱炉内から排気されるガス中の二酸化炭素濃度とを比較したときに、前記加熱炉内から排気されるガスの方が二酸化炭素濃度が高い、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記二酸化炭素を二酸化炭素吸着剤により除去する、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記工程(2)において前記混合物を前記活性化処理剤の溶融開始温度以上の温度に加熱する、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記工程(2)において前記混合物を前記活性化処理剤の溶融開始温度未満の温度に加熱する、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記正極活物質がリチウム化合物を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記正極活物質が、下記元素群1から選択される少なくとも1種の元素と、下記元素群2から選択される少なくとも1種の元素とを含有する複合酸化物を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
元素群1:Ni、Co、Mn、Fe、Al、及びP
元素群2:Li、Na、K、Ca、Sr、Ba、及びMg
【請求項9】
前記活性化処理剤が、カリウム化合物及びナトリウム化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リサイクル正極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電池の正極活物質にはコバルト、ニッケル、マンガン、リチウムなどの希少金属成分が含有されており、特に非水電解質二次電池の正極活物質には、上記の希少金属成分を主成分とする化合物が利用されている。希少金属成分の資源を保全するために、二次電池の電池廃材から、希少金属成分を再生産する方法が求められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、正極合材とアルカリ金属化合物を含有する活性化処理剤とを混合し、混合物を加熱してバインダーを分解し、水などにより分解物や活性化処理剤を除去して正極活物質を回収する方法が開示されている。この方法では、有機溶剤を使用せずに、電池廃材から正極活物質を直接回収する点でコスト的に優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-186150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
正極合材中の正極活物質をリサイクルする際に、正極合材と活性化処理剤とを混合した後、得られる混合物を加熱する。混合物を加熱すると、混合物中の炭素含有成分(例えば、正極合材に含有される炭素含有材料)が燃焼され、二酸化炭素が発生する。そして、発生した二酸化炭素も加熱炉にて加熱されることにより高温となるが、高温の二酸化炭素が混合物中の正極活物質と接触すると正極活物質の劣化を引き起こすおそれがあることがわかった。
【0006】
そこで、本発明は、高温の二酸化炭素による正極活物質の劣化を抑制することができるリサイクル正極活物質の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、例えば、以下の[1]~[9]を含む。
[1] 下記工程を含むリサイクル正極活物質の製造方法。
(1)正極活物質及び炭素含有材料を含む正極合材と、1種又は2種以上のアルカリ金属化合物を含有する活性化処理剤と、を混合して混合物を得る工程
(2)前記混合物を加熱炉に搬入し、前記混合物を加熱しつつ、前記炭素含有材料を加熱することにより生じる二酸化炭素を前記加熱炉から除去し、加熱後の混合物を得る工程
(3)前記加熱後の混合物から加熱後の正極活物質を回収する工程
[2] 前記二酸化炭素を送気により除去する、[1]に記載の製造方法。
[3] 前記工程(2)において、前記加熱炉内に送気されるガス中の二酸化炭素濃度と、前記加熱炉内から排気されるガス中の二酸化炭素濃度とを比較したときに、前記加熱炉内から排気されるガスの方が二酸化炭素濃度が高い、[2]に記載の製造方法。
[4] 前記二酸化炭素を二酸化炭素吸着剤により除去する、[1]~[3]のいずれか一つに記載の製造方法。
[5] 前記工程(2)において前記混合物を前記活性化処理剤の溶融開始温度以上の温度に加熱する、[1]~[4]のいずれか一つに記載の製造方法。
[6] 前記工程(2)において前記混合物を前記活性化処理剤の溶融開始温度未満の温度に加熱する、[1]~[4]のいずれか一つに記載の製造方法。
[7] 前記正極活物質がリチウム化合物を含む、[1]~[6]のいずれか一つに記載の製造方法。
[8] 前記正極活物質が、下記元素群1から選択される少なくとも1種の元素と、下記元素群2から選択される少なくとも1種の元素とを含有する複合酸化物を含む、[1]~[7]のいずれか一つに記載の製造方法。
元素群1:Ni、Co、Mn、Fe、Al、及びP
元素群2:Li、Na、K、Ca、Sr、Ba、及びMg
[9] 前記活性化処理剤が、カリウム化合物及びナトリウム化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含む、[1]~[8]のいずれか一つに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高温の二酸化炭素による正極活物質の劣化を抑制することができるリサイクル正極活物質の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(リサイクル正極活物質の製造方法)
以下、リサイクルに係る正極活物質の製造方法について説明する。
【0010】
本発明の一実施形態に係るリサイクル正極活物質の製造方法は、下記工程を含む。
工程(1):正極活物質及び炭素含有材料を含む正極合材と、1種又は2種以上のアルカリ金属化合物を含有する活性化処理剤と、を混合して混合物を得る工程
工程(2):混合物を加熱炉に搬入し、混合物を加熱しつつ、炭素含有材料を加熱することにより生じる二酸化炭素を加熱炉から除去し、加熱後の混合物を得る工程
工程(3):加熱後の混合物から加熱後の正極活物質を回収する工程
【0011】
一実施形態に係るリサイクル正極活物質の製造方法によれば、正極合材と活性化処理剤との混合物を加熱炉で加熱する場合において、前記混合物を加熱しつつ、炭素含有材料(例えば、結着剤、炭素系導電材)を加熱することにより生じる二酸化炭素を加熱炉から除去する。これにより、加熱炉内で二酸化炭素が滞留することを防ぐことができるため、加熱炉内の二酸化炭素の濃度が高くなりすぎることを抑制できる。また、加熱炉内で二酸化炭素が滞留することを防ぐことができるため、加熱炉内で二酸化炭素が加熱され続けて、二酸化炭素が高温となることを抑制できる。これらにより、本発明によれば高温の二酸化炭素による正極活物質の劣化を抑制することができる。但し、本発明のメカニズムは、上記に限定されない。
【0012】
以下、各工程について詳細に説明する。
【0013】
前工程(A):正極合材準備工程
まず、正極活物質、及び、炭素含有材料を含む正極合材を準備する。
【0014】
[正極活物質]
正極活物質の例としては、リチウム、酸素、フッ素、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、リン、硫黄、カリウム、カルシウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、イットリウム、ニオブ、モリブデン、銀、インジウム、タングステン等の1種又は2種以上を構成元素として含む複合化合物などが挙げられる。
【0015】
正極活物質は、単一の化合物のみからなってもよく、複数の化合物から構成されてもよい。
【0016】
正極活物質は、下記元素群1から選択される少なくとも1種の元素と、下記元素群2から選択される少なくとも1種の元素とを含有する複合酸化物を含むことが好ましい。
元素群1:Ni、Co、Mn、Fe、Al、及びP
元素群2:Li、Na、K、Ca、Sr、Ba、及びMg
【0017】
正極活物質は、下記式(A)で表される化合物を含むことが好ましい。
【0018】
Li1+a 2+d (A)
ただし、Mは、Na、K、Ca、Sr、Ba、及びMgからなる群から選択される少なくとも1種の元素を表し、
は、Ni、Co、Mn、Fe、Al、及びPからなる群から選択される少なくとも1種の元素を表し、
は、Ni、Co、Mn、及びFeを除く遷移金属元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素を表し、
Xは、O及びPを除く非金属元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素を表し、
-0.4<a<1.5、0≦b<0.5、0≦c<0.5、-0.5<d<1.5、及び0≦e<0.5を満たす。
【0019】
は、Cu、Ti、Mg、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga、V、B、Si、Ca、Sr、Ba、Ge、Cr、Sc、Y、La、Ta、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、及びInからなる群から選択される少なくとも1種の元素であることが好ましい。Xの例としては、F、S、Cl、Br、I、Se、Te、N等が挙げられる。
【0020】
正極活物質は、少なくともLi及びNiを含有する複合酸化物を含むことが好ましい。
【0021】
正極活物質において、MにおけるNiのモル分率は、0.3~0.95であることが好ましい。
【0022】
正極活物質(例えば複合酸化物)の結晶構造は、特に制限はないが、層状構造が好ましく、六方晶型又は単斜晶型の結晶構造がより好ましい。
【0023】
六方晶型の結晶構造は、P3、P3、P3、R3、P-3、R-3、P312、P321、P312、P321、P312、P321、R32、P3m1、P31m、P3c1、P31c、R3m、R3c、P-31m、P-31c、P-3m1、P-3c1、R-3m、R-3c、P6、P6、P6、P6、P6、P6、P-6、P6/m、P6/m、P622、P622、P622、P622、P622、P622、P6mm、P6cc、P6cm、P6mc、P-6m2、P-6c2、P-62m、P-62c、P6/mmm、P6/mcc、P6/mcm、及びP6/mmcからなる群から選択されるいずれか一つの空間群に帰属する。
【0024】
単斜晶型の結晶構造は、P2、P2、C2、Pm、Pc、Cm、Cc、P2/m、P2/m、C2/m、P2/c、P2/c、及びC2/cからなる群から選択されるいずれか一つの空間群に帰属する。
【0025】
正極活物質の結晶構造は、六方晶型の結晶構造に含まれるR-3m、又は、単斜晶型の結晶構造に含まれるC2/mの空間群に帰属することが好ましい。
【0026】
正極活物質の結晶構造は、CuKα線を線源とする粉末X線回折測定により得られる粉末X線回折図形から同定できる。
【0027】
正極合材中の正極活物質の粒径は、特に制限はないが、0.001~100μm程度であってよい。正極活物質の粒度分布は、レーザー回折散乱粒度分布測定装置(例えば、マルバーン社製、マスターサイザー2000)を用いて測定できる。粒度分布から体積基準の累積粒度分布曲線を作成し、微小粒子側から50%累積時の粒径(D50)の値を正極活物質の平均粒径とすることができる。
【0028】
正極合材中の正極活物質の含有量に特に制限はない。
【0029】
[炭素含有材料]
正極合材に含有される炭素含有材料の例としては、結着剤、導電材(炭素系導電材)、電解質が挙げられる。正極合材が結着剤を含む場合、正極合材において、正極活物質の粒子が結着剤により互いに結着されていてよい。
【0030】
結着剤(活性化処理前結着剤)の例としては、熱可塑性樹脂等が挙げられる。具体的には、ポリフッ化ビニリデン(以下、「PVdF」ということがある。)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、四フッ化エチレン・パーフルオロビニルエーテル系共重合体等のフッ素樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂;スチレンブタジエン共重合体(SBR)などが挙げられる。結着剤は、1種単独で使用してよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
正極合材中の結着剤の含有量は、特に制限はないが、正極活物質100質量部に対して下記の範囲であってよい。結着剤の含有量は、0.5質量部以上、1質量部以上、又は、2質量部以上であってよい。結着剤の含有量は、30質量部以下、10質量部以下、又は、5質量部以下であってよい。これらの観点から、結着剤の含有量は、0.5~30質量部、1~10質量部、1~5質量部、又は、2~5質量部であってよい。
【0032】
炭素系導電材の具体例としては、黒鉛粉末(グラファイト)、カーボンブラック(例えばアセチレンブラック)、繊維状炭素材料(例えば、黒鉛化炭素繊維及びカーボンナノチューブ)等が挙げられる。
【0033】
炭素系導電材は、単一の炭素材料であってもよく、複数の炭素材料から構成されてもよい。
【0034】
炭素系導電材として用いられる炭素材料の比表面積は、0.1~500m/gであってよい。その場合、炭素系導電材は、比表面積30m/g以上の炭素系導電材のみからなることができ、比表面積30m/g以上のカーボンブラックであってもよく、比表面積30m/g以上のアセチレンブラックであってもよい。酸化力を有するアルカリ金属化合物を含む後述の活性化処理剤を用いる場合、炭素系導電材の酸化処理の速度を高めることができ、比表面積が小さい炭素系導電材であっても酸化処理することができる場合がある。
【0035】
正極合材中の炭素系導電材の含有量は、特に制限はないが、正極活物質100質量部に対して下記の範囲であってよい。炭素系導電材の含有量は、0質量部以上、0質量部超、1質量部以上、3質量部以上、又は、5質量部以上であってよい。導電材の含有量は、50質量部以下、40質量部以下、30質量部以下、20質量部以下、又は、10質量部以下であってよい。これらの観点から、炭素系導電材の含有量は、0~50質量部、0質量部超40質量部以下、1~30質量部、1~10質量部、3~20質量部、又は、5~10質量部であってよい。
【0036】
正極合材は、正極活物質及び炭素含有材料に加えて、金属粒子等の金属系導電材及び/又は電解質を含有してよい。正極合材が結着剤及び導電材を含有する場合、正極活物質の粒子及び導電材が結着剤により互いに結着されていてよい。電解質は、電池の電解液に由来して正極合材に含浸される成分である。正極合材は、結着剤及び/又は電解液(例えば、電解液中の電解質)に由来するフッ素化合物を含有してよい。
【0037】
電解質の例としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiN(SOCF、LiN(SOF)、LiCFSO等が挙げられる。正極合材に含有される電解質の含有量は、特に制限はないが、0.0005~7質量%であってよい。
【0038】
正極合材は、電解液に由来する溶媒を含んでもよい。溶媒の例としては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等が挙げられる。
【0039】
[正極合材の回収]
正極合材は、集電体と正極合材層とを有する廃正極から正極合材層を分離して回収することにより得ることができる。
【0040】
「廃正極」とは、廃棄された電池から回収された正極、及び、正極又は電池の製造の過程で発生する正極の廃棄物であってよい。廃棄された電池は、使用済みの電池であってもよく、未使用であるが規格外品の電池であってもよい。正極の廃棄物は、電池の製造工程で発生する正極の端部、又は、規格外品の正極であってよい。正極合材として、集電体に貼り付けられていない正極合材の廃棄品(正極合材製造工程で生じる廃棄品)を用いることもできる。
【0041】
廃正極は、アルミニウム箔、銅箔等の金属箔である集電体と、集電体上に設けられた正極合材層とを有する。正極合材層は、集電体の片面に設けられてもよく、両面に設けられてもよい。
【0042】
集電体と正極合材層とを有する廃正極から正極合材層を分離する方法の例としては、集電体から正極合材層を機械的に剥離する方法(例えば、集電体から正極合材層を掻き落とす方法)、集電体と正極合材層との界面に溶剤を浸透させて集電体から正極合材層を剥離する方法、アルカリ性又は酸性の水溶液を用いて集電体を溶解して正極合材層を分離する方法等が挙げられる。好ましくは、集電体から正極合材層を機械的に剥離する方法である。
【0043】
前工程(B):正極合材の洗浄工程
つづいて、正極合材が電解質を含有する場合には、準備した正極合材に対して、電解質洗浄溶媒を接触させて、正極合材から電解質の少なくとも一部を除去することが好適である。具体的には、正極活物質、炭素含有材料等を含む正極合材を、電解質洗浄溶媒と接触させて固体成分と液体成分とを含むスラリーを得て、その後、スラリーを固体成分と液体成分とに分離する。
【0044】
固液分離は、スラリーを固体成分と液体成分とに分離する操作である。固液分離の方法の例としては、従来公知の方法でよく、ろ過、遠心分離法等が挙げられる。
【0045】
電解質洗浄溶媒に特に制限はない。電解質洗浄溶媒の例としては、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート等の炭酸エステル類;水;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;エタノール、メタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類などが挙げられる。
【0046】
正極合材に対して電解質洗浄溶媒を接触させることは、粉体と液体との公知の接触装置(例えば攪拌槽)で行うことができる。
【0047】
正極合材を電解質洗浄溶媒と接触させる工程において、正極合材と電解質洗浄溶媒とを攪拌してスラリーを得ることが好ましい。攪拌翼の先端の周速は、0.1~1.0m/sであってよい。
【0048】
正極合材の洗浄工程において、固液分離した後、固体成分のリンスを実施してもよい。リンスは、固体成分に再び電解質洗浄溶媒を接触させてスラリーを得た後、スラリーを再び固体成分と液体成分とに分離する操作である。正極合材の洗浄工程では、リンスを複数回実施してもよい。リンスにおけるスラリー濃度は任意に調整できる。リンスにおいても、上記のようにスラリーの攪拌を行うことができる。
【0049】
上記洗浄により正極合材から電解質を十分に除去できる。例えば、電解質が残っていると、下記の反応が起こり、正極活物質の構造が層状岩塩構造からスピネル構造に変化してしまう場合がある。
LiPF+16LiMO+2O → 6LiF+LiPO+8LiM
【0050】
活性化処理剤が炭酸リチウムを含む場合、下記の反応によるリチウムの消費が起こる場合もある。
LiPF+4LiCO → 6LiF+LiPO+4CO
【0051】
分離された固体成分に対して、必要に応じて、減圧及び/又は加熱により電解質洗浄溶媒の乾燥を行うことができる。加熱温度は、50~200℃であってよい。
【0052】
工程(1):活性化処理剤混合工程
次に、準備した正極合材と、1種または2種以上のアルカリ化合物を含有する活性化処理剤と、を混合して混合物を得る。
【0053】
正極合材が結着剤を含有する場合において、正極活物質の粒子が結着剤により互いに結着されていてよい。正極合材は、正極活物質及び結着剤に加えて、電解質及び/又は導電材を含んでもよい。正極合材が導電材を有する場合、正極活物質の粒子及び導電材が互いに結着剤により結着されていてよい。電解質は、電池の電解液に由来して正極合材に含浸される成分である。
【0054】
正極合材と活性化処理剤との混合方法は、乾式混合及び湿式混合のいずれでもよく、これらの混合方法の組み合わせでもよい。正極合材と活性化処理剤の混合順序も特に制限されない。
【0055】
混合の際には、ボール等の混合メディアを備えた混合装置を用いて、粉砕混合する工程を経ることが好ましく、これにより混合効率を向上させることができる。
【0056】
混合方法としては、より簡便に混合が行える点で乾式混合が好ましい。乾式混合においては、V型混合機、W型混合機、リボン混合機、ドラムミキサー、攪拌翼を内部に備えた粉体混合機、ボールミル、振動ミル、又はこれらの装置の組み合わせを用いることができる。
【0057】
乾式混合に用いる混合装置としては、攪拌翼を内部に備えた粉体混合機が好ましく、具体的には、レーディゲミキサー(株式会社マツボー製)を挙げることができる。
【0058】
以下、本工程で使用される活性化処理剤について詳細に説明する。
【0059】
<活性化処理剤>
活性化処理剤は、1種又は2種以上のアルカリ金属化合物を含有する。活性化処理剤は、カリウム化合物及びナトリウム化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含有することが好適である。ここで、カリウム及び/又はナトリウムをアルカリ金属元素Xとよぶことがある。活性化処理剤は、カリウム化合物及び/又はナトリウム化合物以外に、Li等の他のアルカリ金属を含むアルカリ金属化合物を含有してもよい。
【0060】
活性化処理剤が正極活物質と接触すると、正極活物質を活性化させることができる。活性化処理剤におけるアルカリ金属化合物が特に溶融部分を含む場合には、溶融部分と正極活物質との接触性が向上することで、正極活物質の活性化がより促進される。
【0061】
正極合材が結着剤及び/又は電解液を含有する場合において、正極合材は、結着剤及び/又は電解液に由来してフッ素を含む化合物を含むことがあるが、フッ素を含む化合物と活性化処理剤とを接触させることで、フッ素成分がアルカリ金属フッ化物として安定化するため、フッ化水素等の腐食性ガスが発生することを抑制することができる。なお、フッ化水素は正極活物質の活性を落とすことからも発生を防止することが望ましい。
【0062】
活性化処理剤における全アルカリ金属化合物の割合は、アルカリ金属化合物の種類や、対象となる正極活物質の種類等に考慮して適宜設定されるが、活性化処理剤の全質量に対して、通常、50質量%以上、好ましくは70質量%以上であり、100質量%(実質歴に活性化処理剤がアルカリ金属化合物からなる態様)であってもよい。
【0063】
アルカリ金属化合物中に含まれるアルカリ金属におけるカリウム及びナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種のアルカリ金属の濃度は、0~100モル%で任意に調整できるが、好ましくは10モル%以上、より好ましくは20モル%以上であり、好ましくは90モル%以下であり、より好ましくは80モル%以下である。
【0064】
活性化処理剤の成分となるアルカリ金属化合物としては、アルカリ金属の水酸化物、ホウ酸塩、炭酸塩、酸化物、過酸化物、超酸化物、硝酸塩、リン酸塩、硫酸塩、塩化物、バナジウム酸塩、臭酸塩、モリブデン酸塩、及びタングステン酸塩等が挙げられる。これらは活性化処理剤の成分として、単独でも複数を組み合わせて使用することができる。
【0065】
好適なアルカリ金属化合物の具体例としては、LiOH、NaOH、KOH、RbOH、CsOH等の水酸化物;
LiBO、NaBO、KBO、RbBO、CsBO等のホウ酸化物;
LiCO、NaCO、KCO、RbCO、CsCO等の炭酸塩;
LiO、NaO、KO、RbO、CsO等の酸化物;
Li、Na、K、Rb、Cs等の過酸化物;
LiO、NaO、KO、RbO、CsO等の超酸化物;
LiNO、NaNO、KNO、RbNO、CsNO等の硝酸塩;
LiPO、NaPO、KPO、RbPO、CsPO等のリン酸塩;
LiSO、NaSO、KSO、RbSO、CsSO等の硫酸塩;
LiCl、NaCl、KCl、RbCl、CsCl等の塩化物;
LiBr、NaBr、KBr、RbBr、CsBr等の臭化物;
LiVO、NaVO、KVO、RbVO、CsVO等のバナジウム酸塩;
LiMoO、NaMoO、KMoO、RbMoO、CsMoO等のモリブデン酸塩;及び
LiWO、NaWO、KWO、RbWO、CsWO等のタングステン酸塩;が挙げられる。
【0066】
ここで、より正極活物質の活性化効果を高めるため、活性化処理剤は、カリウム化合物及びナトリウム化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物以外に、正極合材中の正極活物質に含まれるアルカリ金属元素と同一のアルカリ金属元素を含むことができる。
【0067】
すなわち、正極合材中の正極活物質がリチウム複合酸化物の場合には、活性化処理剤は、カリウム化合物及びナトリウム化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物以外に、リチウム化合物を含むことが好適である。好適なリチウム化合物としては、LiOH、LiBO、LiCO、LiO、Li、LiO、LiNO、LiPO、LiSO、LiCl、LiVO、LiBr、LiMoO、及びLiWOが挙げられる。
【0068】
活性化処理剤は、必要に応じてアルカリ金属化合物以外の化合物を含んでいてもよい。アルカリ金属化合物以外の化合物としては、例えば、マグネシウム、カルシウム、バリウム等のアルカリ土類金属元素を含有するアルカリ土類金属化合物が挙げられる。アルカリ土類金属化合物は、活性化処理剤の溶融開始温度をコントロールする目的で、アルカリ金属化合物と共に活性化処理剤中に含有される。
【0069】
また、活性化処理剤中のアルカリ金属化合物以外の化合物の含有量は、上述の溶融したアルカリ金属化合物に由来する効果を著しく抑制しない範囲で選択され、活性化処理剤の全質量に対して、50質量%未満であることができる。
【0070】
正極合材及び活性化処理剤の混合物中における活性化処理剤の添加量は、正極合材が含む正極活物質の質量に対して、0.001~100倍であることが好ましく、0.05~1倍であることがより好ましい。
【0071】
活性化処理剤がカリウム化合物及びリチウム化合物を含む場合、カリウムの含有量(mol基準)に対するリチウムの含有量(mol基準)の比率(リチウムの含有量/カリウムの含有量)は、リサイクル正極活物質を用いて製造される電池の充放電特性を、未使用の正極活物質を用いて製造される電池の充放電特性と更に同程度にしやすい観点から、0.01~100、0.1~10、又は0.2~4であってもよい。
【0072】
活性化処理剤がナトリウム化合物及びリチウム化合物を含む場合、ナトリウムの含有量(mol基準)に対するリチウムの含有量(mol基準)の比率(リチウムの含有量/ナトリウムの含有量)は、リサイクル正極活物質を用いて製造される電池の充放電特性を、未使用の正極活物質を用いて製造される電池の充放電特性と更に同程度にしやすい観点から、0.01~100、0.1~10、又は0.2~4であってもよい。
【0073】
活性化処理剤がカリウム化合物を含む場合、活性化処理剤に含まれるカリウムの含有量(mol基準)は、正極合材に含まれるフッ素の含有量(mol基準)に対して、リサイクル正極活物質を用いて製造される電池の充放電特性を、未使用の正極活物質を用いて製造される電池の充放電特性と更に同程度にしやすい観点から、1%以上500%未満、10%以上400%未満、50%以上300%未満、100%以250%未満、又は150%以上250%未満であってもよい。
【0074】
活性化処理剤がナトリウム化合物を含む場合、活性化処理剤に含まれるナトリウムの含有量(mol基準)は、正極合材に含まれるフッ素の含有量(mol基準)に対して、リサイクル正極活物質を用いて製造される電池の充放電特性を、未使用の正極活物質を用いて製造される電池の充放電特性と更に同程度にしやすい観点から、1~200%、10~200%、50~200%、又は100~200%、1%以上150%未満、10%以上150%未満、50%以上150%未満、又は100%以上150%未満であってもよい。
【0075】
正極合材及び活性化処理剤の混合物における活性化処理剤中のアルカリ金属化合物のモル数は、正極合材が含む正極活物質(例えばA式)のモル数を1としたときに、アルカリ金属元素のモル数が0.001~200倍となるように添加することができる。
【0076】
混合物中の活性化処理剤の割合を適切に制御することで、正極合材からの正極活物質の回収にかかる費用を低減できることができ、炭素含有材料(炭素系導電材、結着剤等)の酸化分解処理速度を高めることができる。また、加熱工程における腐食性ガスの発生を防止する効果を向上させることができ、さらには得られる正極活物質を用いて製造される電池の放電容量をより高めることができる。
【0077】
また、活性化処理剤に含有されるアルカリ金属化合物の少なくとも1種は、水に溶解させた場合にアルカリ性を示すアルカリ金属化合物であることが好ましい。このようなアルカリ金属化合物を含む活性化処理剤は、純水に溶解した際に、溶液のpHが7よりも大きくなる。以下、このような活性化処理剤を「アルカリ性の活性化処理剤」と称す場合がある。
【0078】
アルカリ性の活性化処理剤を使用することにより、加熱工程における腐食性ガスの発生をより抑制することができるため、回収される正極活物質を用いて製造される電池の放電容量をより高めることができる。また、アルカリ性の活性化処理剤を使用することにより、炭素含有材料(炭素系導電材、結着剤等)の処理速度を高めることもできる。
【0079】
アルカリ性の活性化処理剤に含まれる水に溶解させた場合にアルカリ性を示すアルカリ金属化合物としては、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、酸化物、過酸化物、及び超酸化物が挙げられる。具体的には、LiOH、NaOH、KOH、RbOH、CsOH等の水酸化物;LiCO、NaCO、KCO、RbCO、CsCO等の炭酸塩;LiHCO、NaHCO、KHCO、RbHCO、CsHCO等の炭酸水素塩;LiO、NaO、KO、RbO、CsO等の酸化物;Li、Na、K、Rb、Cs等の過酸化物;LiO、NaO、KO、RbO、CsO等の超酸化物が挙げられる。これらは、1種又は2種以上を活性化処理剤に含ませてもよい。
【0080】
また、正極合材に含まれる導電材が、炭素系導電材である場合には、活性化処理剤に含有されるアルカリ金属化合物の少なくとも1種が、加熱工程の温度において、炭素系導電材を酸化分解する酸化力を有するアルカリ金属化合物であってもよい。以下、このようなアルカリ金属化合物を含有する活性化処理剤を「酸化力を有する活性化処理剤」と称す場合がある。
【0081】
このような酸化力を有する活性化処理剤を用いると、炭素材料である導電材の二酸化炭素へ酸化を促進し、炭化水素材料である結着剤の二酸化炭素と水蒸気へと酸化を促進することに特に効果を発揮し、得られる正極活物質を用いて製造される電池の放電容量をより高めることができ、さらに加熱工程における腐食性ガスの発生を防止する効果を向上させることができる場合がある。
【0082】
炭素系導電材及び炭化水素を二酸化炭素と水蒸気へと酸化するために必要な酸化力を有するアルカリ金属化合物としては、アルカリ金属の過酸化物、超酸化物、硝酸塩、硫酸塩、バナジウム酸塩、モリブデン酸塩を挙げられる。これらは、1種あるいは2種以上を混合して使用してもよい。
【0083】
具体的には、Li、Na、K、Rb、Cs等の超酸化物;LiO、NaO、KO、RbO、CsO;LiNO、NaNO、KNO、RbNO、CsNO等の硝酸塩;LiSO、NaSO、KSO、RbSO、CsSO等の硫酸塩;LiVO、NaVO、KVO、RbVO、CsVO等のバナジウム酸塩;LiMoO、NaMoO、KMoO、RbMoO、CsMoO等のモリブデン酸塩;が挙げられる。
【0084】
これらのアルカリ金属化合物の酸化力の詳細については、特開2012-186150号公報に記載されている。
【0085】
アルカリ金属化合物は、リサイクル正極活物質を用いて製造される電池の充放電特性を、未使用の正極活物質を用いて製造される電池の充放電特性と更に同程度にしやすい観点から、炭酸塩又は硫酸塩であってもよく、LiCO、NaSO、NaCO、及びKCOからなる群より選ばれる少なくとも一種であってもよい。
【0086】
工程(2):加熱工程
工程(2)(加熱工程)は、工程(1)で得られた混合物(以下、「加熱前の混合物」と呼ぶ場合がある。)を加熱炉に搬入し、加熱前の混合物を加熱しつつ、炭素含有材料(炭素系導電材、結着剤等)を加熱することにより生じる二酸化炭素を加熱炉から除去し、加熱後の混合物を得る工程である。加熱炉から二酸化炭素を除去することにより、加熱炉内で二酸化炭素が滞留することを防ぐことができるため、加熱炉内の二酸化炭素の高濃度化及び高温化を抑制できる。
【0087】
加熱炉としては、ガス炉、電気炉、赤外加熱炉、プラズマ熱処理炉、重油炉、軽油炉、水素熱処理炉、誘導加熱炉、真空炉、塩浴炉、トンネル炉、ローラーハースキルン炉、回転炉、ウォーキングビーム炉、カーボット炉、メッシュベルト炉、ロータリーキルン炉、シャトルキルン炉、流動層焼成炉等の加熱炉などが挙げられる。加熱炉は、加熱対象の混合物が収容される空間であり、閉鎖空間であってもよく、混合物を搬入又は搬出するための開放口を有する開放空間であってもよい。加熱炉は、バッチ炉であってもよく、連続炉であってもよく、流動炉であってもよい。例えば、ロータリーキルン炉はバッチ式ロータリーキルン炉であってもよく、連続式ロータリーキルン炉であってもよい。加熱炉が連続炉である場合、加熱空間は、ガス炉、電気炉、赤外加熱炉、プラズマ熱処理炉、重油炉、軽油炉、水素熱処理炉、誘導加熱炉、ウォーキングビーム炉、メッシュベルト炉、連続式ロータリーキルン炉、又は連続式シャトルキルン炉であってもよい。流動層焼成炉は、多段であってもよく、各段で温度を変えてもよい。
【0088】
加熱炉内の二酸化炭素は、送気により除去してもよい。加熱炉内で送気を行うことにより、加熱炉内から二酸化炭素を排出することができ、加熱炉内で二酸化炭素が滞留することを防ぐことができるため、加熱炉内の二酸化炭素の高濃度化及び高温化を抑制できる。
【0089】
加熱炉内で送気を行う方向は、加熱炉の構造、加熱前の混合物の量、送気されるガスの含有成分等に応じて決定してもよい。例えば、送気を加熱炉の天面、側面、底面から対向する面に向かって行ってもよい。また、例えば、加熱炉が連続炉である場合、送気を混合物の進行方向に対して逆方向に行ってもよく、混合物の進行方向に対して垂直方向に行ってもよい。
【0090】
連続炉は、加熱前の混合物を搬入する搬入口と、加熱後の混合物を搬出する搬出口とを少なくとも有する。連続炉は、送気するための送気口を有していてもよく、二酸化炭素等を排気するための排気口を有していてもよい。連続炉は、複数の送気口を有していてもよく、複数の排気口を有していてもよい。
【0091】
混合物の進行方向に対して逆方向に送気することにより、加熱により発生する二酸化炭素を、連続炉の搬入口側に移送する。連続炉内の温度は、一般的に搬入口から搬出口に向かうにしたがって高くなることから、連続炉の搬入口側は連続炉内で比較的低温の領域となる。そのため、加熱により発生する二酸化炭素を連続炉内で比較的低温である搬入口側に移送することにより、二酸化炭素が高温になることを防ぐことができ、これにより高温の二酸化炭素と正極活物質との接触をより抑制することができる。
【0092】
連続炉内では、混合物の進行方向に沿って温度が変化していてもよい。例えば、連続炉は、混合物の進行方向に沿って温度が徐々に高くなる領域を有していてもよい。連続炉内の温度(連続炉内の任意の位置における温度)は、例えば、室温~2000℃の範囲内であってもよい。
【0093】
連続炉は、例えば、連続炉内で比較的低温であり、搬入口付近に存在する低温領域と、低温領域から搬出口側に向かうにしたがって温度が徐々に高くなる昇温領域と、温度が略一定である恒温領域と、恒温領域から搬出口付近に向かうにしたがって温度が徐々に低くなる降温領域とを有していてもよい。各領域の温度や連続炉内で各領域が占める空間の体積は、連続炉の構造、加熱前の混合物の量、送気されるガスの含有成分、連続炉内で発生する二酸化炭素の量等に応じて適宜決定することができる。連続炉内の送気は、低温領域、昇温領域、恒温領域、及び降温領域からなる群より選ばれる少なくとも一つの領域で行ってもよい。
【0094】
連続炉が送気口及び/又は排気口を有する場合、連続炉内で送気口及び/又は排気口を設置する場所は、連続炉の構造、加熱前の混合物の量、送気されるガスの含有成分、連続炉内で発生する二酸化炭素の量等に応じて決定してもよい。連続炉は、例えば、連続炉の底面に沿って送気口(送気口が複数の場合は複数の送気口)が配置され、且つ、連続炉の天面に沿って排気口(排気口が複数の場合は複数の排気口)が配置されていてもよく、連続炉の底面に沿って排気口(排気口が複数の場合は複数の排気口)が配置され、且つ、連続炉の天面に沿って送気口(送気口が複数の場合は複数の送気口)が配置されていてもよく、連続炉の側面に沿って送気口と排気口(送気口及び排気口がそれぞれ複数の場合は、複数の送気口と複数の排気口)とがそれぞれ配置されていてもよい。送気口は、排気口と向かい合うように配置されていてもよく、排気口と向かい合わないように配置されていてもよい。
【0095】
連続炉内の送気は、連続炉内の混合物の進行方向に対して垂直方向に行ってもよい。一般的に、混合物の進行方向は、連続炉の底面、天面、又は側面に沿った方向であることから、連続炉内の混合物の進行方向に対して垂直方向に送気を行うことは、連続炉の底面、天面、又は側面に対して垂直方向に送気を行うことを意味する。連続炉内の混合物の進行方向に対して垂直方向に行う場合、送気は、例えば、連続炉の底面に設けられている送気口から、連続炉の天面に設けられている排気口に向かって行われる。
【0096】
加熱炉内に送気されるガスは特に限定されず、例えば、空気等の酸素含有ガス、窒素、アルゴン等の不活性ガスであってよい。加熱炉内に送気されるガスは、加熱炉内で発生した二酸化炭素と共に排気されることから、加熱炉内から排気されるガス中の二酸化炭素濃度は、加熱炉内に送気されるガス中の二酸化炭素濃度よりも高くなってもいてもよい。加熱炉内から排気されるガスは、二酸化炭素を除去した後、再度加熱炉内に送気してもよい。
【0097】
加熱炉内の送気は、加熱炉内全体で行われてもよく、加熱炉内の一部の領域のみで行われてもよい。加熱炉内の送気は、二酸化炭素の排気効率を高め、高温の二酸化炭素による正極活物質の劣化をより抑制する観点から、加熱炉内で二酸化炭素の発生量が多くなる温度領域で行ってもよい。例えば、加熱炉内で温度が300~900℃、300~700℃、又は300~600℃となる領域で送気を行ってもよい。加熱炉内の送気は、活性化処理剤の溶融開始温度未満となる領域で行うことが好ましい。
【0098】
加熱炉内に送気されるガスの加熱空間1Lあたりの流量は、例えば、0.001~1.0L/min又は0.01~0.6L/minであってもよい。ガスの加熱空間1Lあたりの流量は、加熱炉の構造、加熱前の混合物の量、送気されるガスの含有成分、加熱炉内で発生する二酸化炭素の量等に応じて適宜調整することができる。例えば、正極活物質の劣化をより抑制する観点から、加熱炉内の二酸化炭素の濃度をより低くするために、ガスの加熱空間1Lあたりの流量が多くなるように調整してもよく、エネルギー効率を高める観点から、圧力損失を小さくするために、ガスの加熱空間1Lあたりの流量が少なくなるように調整してもよい。また、ガスの加熱空間1Lあたりの流量は、加熱空間1Lあたりの二酸化炭素濃度が特定の値以下(例えば、10体積%以下)となるような量に調整してもよい。加熱炉内に送気されるガスの加熱空間1Lあたりの流量は、加熱炉全体で略同一であってもよく、加熱炉の各所で異なっていてもよい。
【0099】
加熱炉内の二酸化炭素は、二酸化炭素吸着剤(例えば、ゼオライト 13X)により除去してもよい。また、加熱炉内の二酸化炭素は、二酸化炭素吸収剤により除去してもよい。また、加熱炉内の二酸化炭素は、二酸化炭素分離膜により除去してもよい。
【0100】
混合物の加熱は、混合物を活性化処理剤の溶融開始温度以上の温度に加熱してもよい。「活性化処理剤の溶融開始温度(Tmp)」は、活性化処理剤の一部が液相を呈する最も低い温度を意味する。
【0101】
活性化処理剤の溶融開始温度(Tmp)は、示差熱測定(DTA)により求めた値である。すなわち、上記加熱前の混合物5mgを示差熱測定(DTA,測定条件:昇温速度:10℃/min)にて、DTAシグナルが吸熱のピークを示す温度を溶融開始温度(Tmp)とする。
【0102】
活性化処理剤の溶融開始温度(Tmp)は、700℃以下であることが好ましく、600℃以下であることがより好ましい。活性化処理剤の溶融開始温度(Tmp)に下限はないが、例えば、150℃以上であってもよい。
【0103】
工程(2)では、加熱前の混合物を活性化処理剤の溶融開始温度(Tmp)以上の温度に加熱することにより、以下の作用が生じる。すなわち、融解状態の活性化処理剤が正極活物質と接触することにより、正極活物質の結晶構造の劣化を抑制することができる。また、結晶構造の修復作用を得ることもできる。
【0104】
融解状態の活性化処理剤が炭素含有材料(炭素系導電材、結着剤等)と接触することにより導電材及び結着剤の酸化分解の速度が向上し、さらに、融解状態の活性化処理剤が結着剤及び電解液に由来するフッ素化合物と接触することにより、フッ素成分がアルカリ金属フッ化物として安定化され、腐食性ガスであるフッ化水素の発生を防止し、正極活物質の結晶構造の劣化が抑制される。
【0105】
さらに、活性化処理剤が、正極活物質と同じアルカリ金属を含有する場合には、正極活物質に対して不足するアルカリ金属を供給することも可能となる。
【0106】
加熱炉内の最高温度(加熱炉内の任意の位置における温度のうちの最高温度)は、例えば、活性化処理剤の溶融開始温度以上であってもよい。加熱炉内の最高温度(加熱炉内の任意の位置の最高温度)は、例えば、300~900℃、300~700℃、又は300~600℃であってもよい。
【0107】
また、活性化処理剤の融点は、活性化処理剤のみを加熱したときに、活性化処理剤の一部が液相を呈する最も低い温度を意味する。正極合材と活性化処理剤とを混合することで、活性化処理剤の溶融開始温度(Tmp)は、活性化処理剤の融点より低くなる。
【0108】
活性化処理剤の融点は、示差熱測定(DTA)により求めた値である。具体的には、活性化処理剤5mgを示差熱測定(DTA,測定条件:昇温速度:10℃/min)にて、DTAシグナルが吸熱のピークを示す温度を活性化処理剤の融点とする。
【0109】
加熱炉内の最高温度(加熱炉内の任意の位置の最高温度)は、活性化処理剤が含有するアルカリ金属化合物の融点よりも高い温度であることが好ましい。アルカリ金属化合物の融点は、2種以上のアルカリ金属化合物を混合することにより、各アルカリ金属化合物の単体の融点よりも下がることがあり、活性化処理剤が2種以上のアルカリ金属化合物を含む場合には、共晶点をアルカリ金属化合物の融点とする。
【0110】
混合物の加熱炉内の滞留時間(混合物を加熱炉に搬入してから搬出するまでの時間)は、加熱炉内の温度、加熱前の混合物の量等に応じて決定してもよい。混合物の加熱炉内の滞留時間は、例えば、10分~24時間であってもよい。
【0111】
混合物を活性化処理剤の溶融開始温度以上で加熱する時間は、加熱前の混合物の量等に応じて決定してもよい。混合物を活性化処理剤の溶融開始温度以上で加熱する時間は、例えば、1分~24時間であってもよい。
【0112】
混合物の加熱は、混合物を活性化処理剤の溶融開始温度未満の温度に加熱してもよい。加熱前の混合物を活性化処理剤の溶融開始温度(Tmp)未満の温度に加熱することにより、高温での加熱による正極活物質の結晶構造の劣化を抑制し、未使用の正極活物質を用いて製造される電池の充放電特性と同程度の充放電特性をより達成しやすくなる。また、加熱前の混合物を活性化処理剤と共に加熱することにより結晶構造の修復作用を得ることもできる。本明細書において、「活性化処理剤の溶融開始温度未満の温度に加熱する」とは、活性化処理剤の溶融開始温度未満の温度に保持しながら加熱する(活性化処理剤の溶融開始温度未満の保持温度で加熱する)ことを意味する。また、「活性化処理剤の溶融開始温度未満の温度に加熱する」とは、活性化処理剤の溶融開始温度以上の温度で加熱しないことを意味する。
【0113】
加熱された活性化処理剤が炭素含有材料(炭素系導電材、結着剤等)と接触することにより導電材及び結着剤の酸化分解の速度が向上し、さらに、加熱された活性化処理剤が結着剤及び電解液に由来するフッ素化合物と接触することにより、フッ素成分がアルカリ金属フッ化物として安定化され、腐食性ガスであるフッ化水素の発生を防止し、正極活物質の結晶構造の劣化が抑制される。
【0114】
加熱炉内の最高温度(加熱炉内の任意の位置における温度のうちの最高温度)は、例えば、活性化処理剤の溶融開始温度未満であってもよい。加熱炉内の最高温度(加熱炉内の任意の位置の最高温度)は、例えば、300~600℃、350~575℃、又は400~550℃であってもよい。
【0115】
混合物を活性化処理剤の溶融開始温度未満で加熱する時間は、加熱前の混合物の量等に応じて決定してもよい。混合物を活性化処理剤の溶融開始温度未満で加熱する時間は、例えば、1分~24時間であってもよい。
【0116】
加熱工程後には、必要に応じて、混合物を、例えば、室温程度など、任意の温度にまで冷却することができる。このようにして、加熱後の正極活物質を含む加熱後の混合物が得られる。
【0117】
工程(3):正極活物質回収工程
正極活物質回収工程とは、工程(2)の加熱工程後に、加熱後の混合物から加熱後の正極活物質を回収する工程である。
【0118】
加熱後の混合物には、加熱後の正極活物質の他、活性化処理剤に由来する成分(アルカリ金属化合物等)、未分解の炭素含有材料(炭素系導電材、結着剤等)、その他の正極合材の未分解物が含まれる。また、正極合剤にフッ素成分を含有する電解液が含まれている場合には、電解質に由来するフッ素成分を含む場合もある。
【0119】
加熱後の混合物から加熱後の正極活物質を分離回収する方法としては、混合物に水などの溶媒を加えてスラリー化させた後に固液分離する固液分離法や、混合物を加熱して加熱後の正極活物質以外の成分を気化して分離する気化分離法などが挙げられる。
以下では、固液分離法について説明する。
【0120】
工程(3a):固液分離工程
工程(3a)は、加熱後の混合物を、水を含む液体と接触させて固体成分及び液体成分を含むスラリーを得て、その後、スラリーを固体成分と液体成分とに分離する工程である。
【0121】
加熱後の混合物から加熱後の正極活物質を分離回収するために、水を含む液体(液体)を混合物に加えてスラリー化させた後に固液分離して、固体成分と液体成分とに分離する。
【0122】
スラリー化工程に用いる液体は、水を含む限り特に制限はない。液体における水の量は50質量%以上であってよい。水溶性成分の溶解度を高めたり、処理速度を高めたりするために液体に水以外の成分を添加して、pHを調整してもよい。
水を含む液体の好適例としては、純水やアルカリ性洗浄液があげられる。アルカリ性洗浄液としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム及び炭酸アンモニウムからなる群より選ばれる1種以上の無水物並びにその水和物の水溶液を挙げることができる。また、アルカリとして、アンモニアを使用することもできる。
【0123】
得られるスラリーは、加熱後の正極活物質を主として含む固体成分と、正極活物質以外の水溶性成分を含む液体成分とを含む。なお、液体成分には、活性化処理剤に由来するアルカリ金属成分、及び/又は、結着剤及び電解液に由来するフッ素成分等が含まれる。
【0124】
混合物に添加される液体の量は、混合物に含まれる加熱後の正極活物質と、正極活物質以外の水溶性成分のそれぞれの量を考慮して適宜決定される。
【0125】
工程(3a)において、加熱後の混合物と水を含む液体とを攪拌してスラリーを得ることが好適である。これにより、水溶性成分の溶解が促進される。攪拌翼の先端の周速は0.1~0.9m/sとすることが好ましい。
【0126】
スラリー化工程で形成されたスラリーは、次いで、固液分離に供される。固液分離とは、スラリーを液体成分と固体成分とに分離する工程である。固液分離の方法としては、従来公知の方法でよく、例えば、ろ過や遠心分離法が挙げられる。
【0127】
工程(3a)において、固液分離した後、得られた固体成分のリンスを実施してもよい。リンスとは、得られた固体成分に再び水を含む液体を接触させてスラリーを得て、その後、スラリーを再び固体成分と液体成分とに分離する操作である。工程(3a)では、リンスを複数回実施してもよい。リンスにおけるスラリー濃度も上記と同様にすることができる。
【0128】
本明細書において、工程(1)~(3)を経た正極活物質を、リサイクル正極活物質と呼ぶ。工程(1)~(3)を経たリサイクル正極活物質は、正極等の製造に好適に用いることができる。リサイクル正極活物質の製造方法は、工程(1)~(3)の前後に、追加の工程を備えることができる。本明細書において、工程(1)~(3)以外の追加の工程を経た正極活物質も、リサイクル正極活物質と呼ぶ。工程(1)~(3)以外の追加の工程の例は、工程(1)の前に実施される前工程(A)及び前工程(B)、並びに、工程(3)の後、例えば工程(3a)の後に実施される、以下の工程(4)及び工程(5)である。
【0129】
工程(4):乾燥工程
工程(4)は、例えば、工程(3a)で得られた固体成分を加熱及び/又は減圧環境に曝して固体成分から水を除去する工程である。
【0130】
加熱の温度としては水を除去するために100℃以上が好ましい。さらに十分に水を除去するために150℃以上とすることが好ましい。特に250℃以上の温度では、得られる正極活物質を用いて製造される電池の放電容量がさらに高まることから好ましい。乾燥工程における温度は、一定でもよく、また段階的もしくは連続的に変化させてもよい。加熱の到達温度範囲は、例えば、10℃以上900℃未満であることができる。
【0131】
減圧の到達圧力範囲は、例えば、1.0×10-10~1.0×10Paであることができる。
【0132】
工程(5):アニール(再焼成)工程
工程(5)は、活性化処理剤を溶融開始温度以上で加熱する場合、工程(4)後の固体成分を900℃未満で熱処理する工程であってもよい。
【0133】
工程(5)は、活性化処理剤を溶融開始温度未満で加熱する場合、工程(4)後の固体成分を、工程(2)よりも高い温度で加熱する工程であってもよい。この場合、加熱後の混合物を加熱する温度は、正極活物質以外の成分を気化させて、不純物を除去する観点、及び、正極活物質の結晶子サイズを十分に大きくすることにより、未使用の正極活物質を用いて製造される電池の充放電特性と同程度の充放電特性をより達成しやすくなる観点から、700℃超、750℃以上、800℃以上、850℃以上、又は900℃以上であってもよい。
【0134】
熱処理の雰囲気に限定はないが、空気などの酸素含有雰囲気下であることが好適である。また、熱処理の温度は、100℃以上であることができる。また、熱処理の保持時間は、1分~24時間とすることができる。特に、350℃以上の保持温度にて、0.1時間以上5時間以下で加熱することが好適である。
【0135】
本発明のリサイクル正極活物質の製造方法を用いることで電池合材から得られたリサイクル正極活物質は、未使用活物質と同様に再利用することができる。リサイクル正極活物質を用いて、正極及び電池を製造する方法は周知である。
【0136】
最終的に得られる、本発明の実施形態に係るリサイクル正極活物質の放電容量は、150mAh/g以上であることができる。
【実施例0137】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0138】
正極活物質及びリサイクル正極活物質の物性の測定、正極活物質として用いた電池による充放電試験は、次のようにして行った。
【0139】
[元素の含有量]
溶液、及び、粉末を溶解させた酸溶液について、ICP発光分析装置(例えばエスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製、SPS3000)を用いて該溶液及び該粉末中に含まれるアルカリ金属元素の含有量の分析を行った。
【0140】
(参考例1)
(参考例1)
<正極の製造>
後述の正極は、次の手順で作製した。正極活物質(未使用の正極活物質、又は、リサイクル正極活物質)92質量部と、PVdF(結着剤、株式会社クレハ製、品番:#1100)3質量部と、アセチレンブラック(導電材、デンカ株式会社製、品番:HS100)5質量部と、を混合することにより混合物を得た。結着剤であるPVdFとしては、予めPVdFをNMPに溶解したバインダー溶液を用いた。混合物を自転・公転方式ミキサー(株式会社シンキー製 ARE-310)で混練することにより正極合材ペーストを調製した。正極合材ペースト中の正極活物質、結着剤及び導電材の質量の合計が50質量%となるようにNMPを添加して調整した。
【0141】
厚さ20μmのリチウムイオン二次電池正極集電体用アルミニウム箔1085(日本製箔株式会社製)の一方面に、正極活物質量が3.0±0.1mg/cmとなるように正極合材ペーストを塗布した後、150℃で8時間真空乾燥することにより正極を得た。この正極の電極面積は1.65cmとした。
【0142】
<電池の製造>
後述のコイン型電池は、次の手順で作製した。上記正極と、電解液と、セパレータと、負極とを組み合わせて非水電解質二次電池(コイン型電池)を製造した。電池の組み立ては、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で行った。電解液としては、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート及びエチルメチルカーボネートの30:35:35(体積比)混合液に、LiPFを1.0mol/Lとなる割合で溶解した溶液を用いた。セパレータとして、多孔質フィルム(ポリエチレン製)の上に耐熱多孔層を積層した積層フィルムセパレータを使用した負極として金属リチウムを使用した。
【0143】
<リサイクル前の正極の製造>
正極活物質として、組成がLi1.07Ni0.47Mn0.48Fe0.05であり、結晶構造がR-3mである正極活物質を準備した。この正極活物質(未使用の正極活物質)を用いて上記のコイン型電池を作製し、25℃保持下で下記の充放電試験(レート試験)を行った。0.2C放電容量は138mAh/gであり、5C放電容量は106mAh/gであった。0.2Cの放電容量が大きいほど高い定格容量が得られ、5Cの放電容量が大きいほど、高い出力特性が得られることを意味する。
(条件)
充電最大電圧:4.3V
充電電流:0.2mA/cm
充電時間:8時間
放電最小電圧:2.5V
0.2C放電電流:0.2mA/cm
5C放電電流:5.0mA/cm
【0144】
上記の電池で使用した正極から、電極合材を機械的にそぎ落として、電極合材を集電体から剥離した。正極から取り出した電極合材5gに、活性化処理剤として正極活物質1molに対して0.1molのKCOと、正極活物質1molに対して0.1molのNaCOとを混合し、混合物(加熱前の混合物)を得た。活性化処理剤の溶融開始温度は、700℃であった。
【0145】
加熱前の混合物を電気炉に入れ、空気雰囲気下において加熱温度700℃(活性化処理剤の溶融開始温度以上)、加熱時間240分の条件で、混合物を加熱した。
【0146】
加熱後の混合物を粉砕し、蒸留水を加えて攪拌し、スラリーを得た。得られたスラリーに対してろ過を行い、固体成分と、液体成分とに分離した。次いで、固体成分を回収し、乾燥させ、リサイクル正極活物質を得た。得られたリサイクル正極活物質の組成、結晶構造、平均粒子径、比表面積は、未使用の正極活物質と同程度であった。リサイクル正極活物質を用いて上記のコイン型電池を作製し、25℃保持下で上記の条件で充放電試験を行ったところ、0.2C放電容量は135mAh/gであり、5C放電容量は94mAh/gであり、未使用の正極活物質を用いて作製されるコイン型電池の放電容量と同程度であった。
【0147】
(参考例2)
<リサイクル前の正極の製造>
正極活物質として、組成がLiNi0.33Co0.33Mn0.33であり、結晶構造がR-3mである正極活物質NCM111を準備した。この正極活物質(未使用の正極活物質)を用いて上記のコイン型電池を作製したところ、初回充電容量は、178.3mAh/gであり、初回放電容量(0.2C)は、163.4mAh/gであった。また、25℃保持下で下記の充放電試験(レート試験)を行ったところ、0.2C放電容量は163.1mAh/gであり、5C放電容量は141.3mAh/gであった。
【0148】
上記の正極を作製した際に生じた工程端材の正極から、電極合材を機械的にそぎ落として、電極合材を集電体から剥離した。正極から取り出した電極合材5gに、活性化処理剤として正極活物質1molに対して0.1molのLiCOと、正極活物質1molに対して0.1molのNaSOとを混合し、混合物(加熱前の混合物)を得た。活性化処理剤の溶融開始温度は、510℃であった。
【0149】
30gの加熱前の混合物を電気炉に入れ、空気雰囲気下において昇温速度300℃/h、加熱温度450℃(活性化処理剤の溶融開始温度未満)、加熱時間360分の条件で、混合物を加熱した。
【0150】
加熱後の混合物を粉砕し、蒸留水を加えて攪拌し、スラリーを得た。得られたスラリーに対してろ過を行い、固体成分と、液体成分とに分離した。次いで、固体成分を回収し、100℃で1時間吸引乾燥させた。
【0151】
乾燥後の固体成分を電気炉に入れ、空気雰囲気下において加熱温度900℃、加熱時間60分の条件で、固体成分を加熱し、加熱後のリサイクル正極活物質を得た。次いで、加熱後のリサイクル正極活物質を室温まで自然冷却させ、得られたリサイクル正極活物質の組成、結晶構造、平均粒子径、比表面積が未使用の正極活物質と同程度であることを確認した。リサイクル正極活物質を用いて上記のコイン型電池を作製したところ、初回充電容量は、180.5mAh/gであり、初回放電容量は、161.1mAh/gであった。また、25℃保持下で上記の条件で初回充放電(レート試験)を行ったところ、0.2C放電容量は160.2mAh/gであり、5C放電容量は133.9mAh/gであった。
【0152】
(実施例1)
参考例1と同様にして加熱前の混合物を得る。得られる加熱前の混合物を連続炉に入れ、連続炉内において、加熱前の混合物の進行方向に対して逆方向に空気を送気しながら加熱を行う。連続炉内の最高温度は700℃(活性化処理剤の溶融開始温度以上)であり、加熱前の混合物の連続炉内の滞留時間240分の条件で、加熱前の混合物を加熱する。このとき、加熱前の混合物に含まれる炭素含有材料(PVdF、アセチレンブラック)は、加熱により二酸化炭素を発生させるが、送気により加熱炉(連続炉)から除去される。そのため、加熱炉内に送気されるガス中の二酸化炭素濃度と、加熱炉内から排気されるガス中の二酸化炭素濃度とを比較すると、加熱炉内から排気されるガスの方が二酸化炭素濃度が高くなる。加熱炉内の送気により、高温の二酸化炭素と正極活物質との接触が抑制されるため、高温の二酸化炭素による正極活物質の劣化を抑制することができる。
【0153】
参考例1と同様にして加熱後の混合物からリサイクル正極活物質を得る。得られるリサイクル正極活物質の組成、結晶構造、平均粒子径、比表面積は、未使用の正極活物質と同程度である。リサイクル正極活物質を用いて上記のコイン型電池を作製し、25℃保持下で上記の条件で充放電試験を行うと、未使用の正極活物質を用いて作製されるコイン型電池の放電容量と同程度である。
【0154】
(実施例2)
参考例1と同様にして加熱前の混合物を得る。得られる加熱前の混合物と二酸化炭素吸着剤を電気炉に入れ、加熱前の混合物を電気炉に入れ、空気雰囲気下において加熱温度700℃(活性化処理剤の溶融開始温度以上)、加熱時間240分の条件で、混合物を加熱する。このとき、加熱前の混合物に含まれる炭素含有材料(PVdF、アセチレンブラック)は、加熱により二酸化炭素を発生させるが、二酸化炭素吸着剤により加熱炉(電気炉)から除去される。二酸化炭素吸着剤により、高温の二酸化炭素と正極活物質との接触が抑制されるため、高温の二酸化炭素による正極活物質の劣化を抑制することができる。
【0155】
参考例1と同様にして加熱後の混合物からリサイクル正極活物質を得る。得られるリサイクル正極活物質の組成、結晶構造、平均粒子径、比表面積は、未使用の正極活物質と同程度である。リサイクル正極活物質を用いて上記のコイン型電池を作製し、25℃保持下で上記の条件で充放電試験を行うと、未使用の正極活物質を用いて作製されるコイン型電池の放電容量と同程度である。
【0156】
(実施例3)
参考例2と同様にして加熱前の混合物を得る。得られる加熱前の混合物を連続炉に入れ、連続炉内において、加熱前の混合物の進行方向に対して逆方向に空気を送気しながら加熱を行う。連続炉内の最高温度は450℃(活性化処理剤の溶融開始温度未満)であり、加熱前の混合物の連続炉内の滞留時間360分の条件で、加熱前の混合物を加熱する。このとき、加熱前の混合物に含まれる炭素含有材料(PVdF、アセチレンブラック)は、加熱により二酸化炭素を発生させるが、送気により加熱炉(連続炉)から除去される。そのため、加熱炉内に送気されるガス中の二酸化炭素濃度と、加熱炉内から排気されるガス中の二酸化炭素濃度とを比較すると、加熱炉内から排気されるガスの方が二酸化炭素濃度が高くなる。加熱炉内の送気により、高温の二酸化炭素と正極活物質との接触が抑制されるため、高温の二酸化炭素による正極活物質の劣化を抑制することができる。
【0157】
参考例2と同様にして加熱後の混合物からリサイクル正極活物質を得る。得られるリサイクル正極活物質の組成、結晶構造、平均粒子径、比表面積は、未使用の正極活物質と同程度である。リサイクル正極活物質を用いて上記のコイン型電池を作製し、25℃保持下で上記の条件で充放電試験を行うと、未使用の正極活物質を用いて作製されるコイン型電池の放電容量と同程度である。
【0158】
(実施例4)
参考例2と同様にして加熱前の混合物を得る。得られる加熱前の混合物と二酸化炭素吸着剤を電気炉に入れ、加熱前の混合物を電気炉に入れ、空気雰囲気下において加熱温度450℃(活性化処理剤の溶融開始温度以上)、加熱時間360分の条件で、混合物を加熱する。このとき、加熱前の混合物に含まれる炭素含有材料(PVdF、アセチレンブラック)は、加熱により二酸化炭素を発生させるが、二酸化炭素吸着剤により加熱炉(電気炉)から除去される。二酸化炭素吸着剤により、高温の二酸化炭素と正極活物質との接触が抑制されるため、高温の二酸化炭素による正極活物質の劣化を抑制することができる。
【0159】
参考例2と同様にして加熱後の混合物からリサイクル正極活物質を得る。得られるリサイクル正極活物質の組成、結晶構造、平均粒子径、比表面積は、未使用の正極活物質と同程度である。リサイクル正極活物質を用いて上記のコイン型電池を作製し、25℃保持下で上記の条件で充放電試験を行うと、未使用の正極活物質を用いて作製されるコイン型電池の放電容量と同程度である。