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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025156572
(43)【公開日】2025-10-14
(54)【発明の名称】リチウム金属複合酸化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 53/504 20250101AFI20251002BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20251002BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20251002BHJP
【FI】
C01G53/504
H01M4/505
H01M4/525
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2025133435
(22)【出願日】2025-08-08
(62)【分割の表示】P 2021106557の分割
【原出願日】2021-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 広之
(74)【代理人】
【識別番号】100214215
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼梨 航
(72)【発明者】
【氏名】正路 貴大
(57)【要約】
【課題】リチウム二次電池の性能を向上できるリチウム金属複合酸化物を製造する方法の提供。
【解決手段】焼成炉の内部に混合ガスを導入し、前記焼成炉で被焼成物を、600℃を超える温度で焼成する焼成工程を有し、前記被焼成物は、金属複合化合物とリチウム化合物との混合物、または前記金属複合化合物と前記リチウム化合物との反応物を含む混合物原料であり、導入前の前記混合ガスは、酸素を含有し、水分の含有率が8体積%以上85体積%以下であり、且つ二酸化炭素の含有率が4体積%未満である、リチウム金属複合酸化物の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼成炉の内部に混合ガスを導入し、前記焼成炉で被焼成物を、600℃を超える温度で焼成する焼成工程を有し、前記被焼成物は、金属複合化合物とリチウム化合物との混合物、または前記金属複合化合物と前記リチウム化合物との反応物を含む混合物原料であり、導入前の前記混合ガスは、酸素を含有し、水分の含有率が8体積%以上85体積%以下であり、且つ二酸化炭素の含有率が4体積%未満である、リチウム金属複合酸化物の製造方法。
【請求項2】
導入前の前記混合ガスにおける、酸素の含有率が10体積%以上92体積%以下である、請求項1に記載のリチウム金属複合酸化物の製造方法。
【請求項3】
前記被焼成物の仕込み粉体質量(kg)に対する、前記焼成炉に導入する総水分量(m)を0.1m/kg以上20m/kg以下とする、請求項1又は2に記載のリチウム金属複合酸化物の製造方法。
【請求項4】
前記焼成工程において、焼成時間が1時間以上24時間以内である、請求項1~3のいずれか1項に記載のリチウム金属複合酸化物の製造方法。
【請求項5】
前記焼成工程の後に、前記焼成炉の内部で焼成物を冷却する冷却工程を備え、前記冷却工程において、露点が-15℃以下のガスを前記焼成炉内に供給する、請求項1~4のいずれか1項に記載のリチウム金属複合酸化物の製造方法。
【請求項6】
前記リチウム金属複合酸化物は下記の一般式(I)を満たす、請求項1~5のいずれか1項に記載のリチウム金属複合酸化物の製造方法。
Li[Li(Ni(1-y-z)Co1-x]O (I)
(式(I)中、Xは、Mn、Fe、Cu、Ti、Mg、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga、B、Si、S及びPからなる群から選択される1種以上の元素を表し、-0.1≦x≦0.2、0≦y≦0.4、及び0≦z≦0.5を満たす。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム金属複合酸化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池の正極に用いられる正極活物質には、リチウム金属複合酸化物が使用される。リチウム金属複合酸化物の製造方法は、例えば、金属複合化合物とリチウム化合物との混合物、金属複合化合物とリチウム化合物との反応物等の被焼成物を焼成する焼成工程を備える。
【0003】
リチウム金属複合酸化物の物性を制御する目的で、焼成温度や焼成雰囲気等の焼成条件が検討されている。例えば特許文献1には、サイクル特性の向上を目的としたリチウム二次電池用正極活物質の製造方法が記載されている。特許文献1は、オキシ水酸化ニッケルと、水酸化リチウムの混合物を、100℃以上500℃以下の温度かつ水蒸気の存在下で熱処理する方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-102054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リチウム金属複合酸化物の結晶性を向上させることで、リチウム二次電池のサイクル特性を向上させることが期待できる。リチウム金属複合酸化物の結晶性を向上させるため、焼成条件には検討の余地がある。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、サイクル維持率が高いリチウム二次電池が得られるリチウム金属複合酸化物を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は[1]~[6]を包含する。
[1]焼成炉の内部に混合ガスを導入し、前記焼成炉で被焼成物を、600℃を超える温度で焼成する焼成工程を有し、前記被焼成物は、金属複合化合物とリチウム化合物との混合物、または前記金属複合化合物と前記リチウム化合物との反応物を含む混合物原料であり、導入前の前記混合ガスは、酸素を含有し、水分の含有率が8体積%以上85体積%以下であり、且つ二酸化炭素の含有率が4体積%未満である、リチウム金属複合酸化物の製造方法。
[2]導入前の前記混合ガスにおける、酸素の含有率が10体積%以上92体積%以下である、[1]に記載のリチウム金属複合酸化物の製造方法。
[3]前記被焼成物の仕込み粉体質量(kg)に対する、前記焼成炉に導入する総水分量(m)を0.1m/kg以上20m/kg以下とする、[1]又は[2]に記載のリチウム金属複合酸化物の製造方法。
[4]前記焼成工程において、焼成時間が1時間以上24時間以内である、[1]~[3]のいずれか1つに記載のリチウム金属複合酸化物の製造方法。
[5]前記焼成工程の後に、前記焼成炉の内部で焼成物を冷却する冷却工程を備え、前記冷却工程において、露点が-15℃以下のガスを前記焼成炉内に供給する、[1]~[4]のいずれか1つに記載のリチウム金属複合酸化物の製造方法。
[6]前記リチウム金属複合酸化物は下記の一般式(I)を満たす、[1]~[5]のいずれか1つに記載のリチウム金属複合酸化物の製造方法。
Li[Li(Ni(1-y-z)Co1-x]O (I)
(式(I)中、Xは、Mn、Fe、Cu、Ti、Mg、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga、B、Si、S及びPからなる群から選択される1種以上の元素を表し、-0.1≦x≦0.2、0≦y≦0.4、及び0≦z≦0.5を満たす。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、サイクル維持率が高いリチウム二次電池が得られるリチウム金属複合酸化物を製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】リチウム二次電池の一例を示す模式図である。
図2】全固体リチウム二次電池の一例を示す模式図である。
図3】焼成手段の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書において、金属複合化合物(metal composite compound)を以下「MCC」と称する。
リチウム金属複合酸化物(lithium metal composite oxide)を以下「LiMO」と称する。
リチウム二次電池用正極活物質(cathode active material for lithium secondary batteries)を以下「CAM」と称する。
【0010】
「Ni」とは、ニッケル金属ではなく、ニッケル原子を指す。「Co」及び「Li」等も同様に、それぞれコバルト原子及びリチウム原子等を指す。
【0011】
本明細書において、リチウム二次電池のサイクル維持率の測定は下記の方法により測定する。
【0012】
<サイクル維持率の測定>
(リチウム二次電池用正極の作製)
本実施形態の製造方法により製造されるLiMOを用いて、LiMOと導電材とバインダーとを、LiMO:導電材:バインダー=92:5:3(質量比)の組成となる割合で加えて混練し、ペースト状の正極合剤を調製する。正極合剤の調製時には、N-メチル-2-ピロリドンを有機溶媒として用いる。導電材にはアセチレンブラックを用いる。バインダーには、ポリフッ化ビニリデンを用いる。
【0013】
得られた正極合剤を、集電体となる厚さ40μmのAl箔に塗布して150℃で8時間真空乾燥を行い、リチウム二次電池用正極を得る。このリチウム二次電池用正極の正極面積は1.65cmとする。
【0014】
(リチウム二次電池の作製)
以下の操作を、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で行う。
(リチウム二次電池用正極の作製)で作製されるリチウム二次電池用正極を、コイン型電池R2032用のパーツ(宝泉株式会社製)の下蓋にアルミ箔面を下に向けて置き、その上にセパレータ(ポリエチレン製多孔質フィルム)を置く。ここに電解液を300μl注入する。電解液は、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネートの30:35:35(体積比)混合液に、LiPFを1.0mol/lとなる割合で溶解したものを用いる。
【0015】
次に、負極として金属リチウムを用いて、負極を積層フィルムセパレータの上側に置き、ガスケットを介して上蓋をし、かしめ機でかしめてリチウム二次電池(コイン型ハーフセルR2032)を作製する。
【0016】
(サイクル維持率)
上記の方法で作製されるリチウム二次電池を用いて、以下の方法でサイクル維持率を測定する。下記の方法により測定するサイクル維持率が90%以上であると、「サイクル維持率が高い」と評価する。
【0017】
リチウム二次電池を作製後、室温で12時間静置することでセパレータ及び正極合剤層に充分電解液を含浸させる。
試験温度25℃において、充電及び放電ともに電流設定値0.2CAとし、それぞれ定電流定電圧充電と定電流放電を行う。充電最大電圧は、4.3V、放電最小電圧は2.5Vとする。
【0018】
次に、25℃において、充電及び放電ともに電流設定値1CAとし、4.3Vまで定電流充電してから4.3Vで定電圧充電する定電流定電圧充電を行った後、2.5Vまで放電する定電流放電を行う充放電試験を50サイクル行い、各充放電サイクルの放電容量(mAh/g)を測定する。
【0019】
上記充放電試験で得られた1サイクル目の放電容量と50サイクル目の放電容量から、下記の式でサイクル維持率を算出する。サイクル維持率が高いほど、充電と放電を繰り返した後の電池の容量低下が抑制されるため、電池性能として望ましいことを意味する。 サイクル維持率(%)=50サイクル目の放電容量(mAh/g)/1サイクル目の放電容量(mAh/g)×100
【0020】
<リチウム金属複合酸化物の製造方法>
本実施形態のLiMOの製造方法は、焼成炉で被焼成物を焼成する焼成工程を必須工程とする。LiMOの製造方法は、MCCを得る工程及び混合物を得る工程を備えることが好ましい。以下、MCCを得る工程、混合物を得る工程、及び焼成工程の順に説明する。
【0021】
≪MCCを得る工程≫
MCCは、金属複合水酸化物、金属複合酸化物、及びこれらの混合物のいずれであってもよい。金属複合水酸化物及び金属複合酸化物は、一例として下記式(A)で表されるモル比率で、Ni、Co及び元素Xを含む。
Ni:Co:X=(1-y-z):y:z (A)
(式(A)中、元素Xは、Mn、Fe、Cu、Ti、Mg、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga、B、Si、S及びPからなる群より選択される1種以上の元素であり、0≦y≦0.4、及び0≦z≦0.5を満たす。)
【0022】
以下、金属として、Ni、Co及びMnを含むMCCを例に、その製造方法を詳述する。まず、Ni、Co、及びMnを含む金属複合水酸化物を調製する。
金属複合水酸化物は、通常公知のバッチ共沈殿法又は連続共沈殿法により製造することが可能である。
【0023】
まず共沈殿法、特にJP-A-2002-201028に記載された連続法により、ニッケル塩溶液、コバルト塩溶液、マンガン塩溶液、及び錯化剤を反応させ、Ni(1-y-z)CoMn(OH)(式中、y+z<1)で表される金属複合水酸化物を製造する。
【0024】
上記ニッケル塩溶液の溶質であるニッケル塩としては、特に限定されないが、例えば硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、塩化ニッケル及び酢酸ニッケルのうちの少なくとも1種を使用することができる。
【0025】
上記コバルト塩溶液の溶質であるコバルト塩としては、例えば硫酸コバルト、硝酸コバルト、塩化コバルト、及び酢酸コバルトのうちの少なくとも1種を使用することができる。
【0026】
上記マンガン塩溶液の溶質であるマンガン塩としては、例えば硫酸マンガン、硝酸マンガン、及び塩化マンガンのうちの少なくとも1種を使用することができる。
【0027】
以上の金属塩は、上記Ni(1-y-z)CoMn(OH)の組成比に対応する割合で用いられる。また、溶媒として水が使用される。
【0028】
錯化剤は、水溶液中で、ニッケルイオン、コバルトイオン及びマンガンイオンと錯体を形成可能な化合物である。例えば、アンモニウムイオン供給体、ヒドラジン、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、ウラシル二酢酸、及びグリシンが挙げられる。
【0029】
アンモニウムイオン供給体としては、水酸化アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、弗化アンモニウム等のアンモニウム塩が挙げられる。
【0030】
錯化剤が含まれる場合、ニッケル塩溶液、コバルト塩溶液、マンガン塩溶液及び錯化剤を含む混合液に含まれる錯化剤の量は、例えば金属塩のモル数の合計に対するモル比が0より大きく2.0以下である。
【0031】
共沈殿法に際しては、ニッケル塩溶液、コバルト塩溶液、マンガン塩溶液及び錯化剤を含む混合液のpH値を調整するため、混合液のpHがアルカリ性から中性になる前に、混合液にアルカリ性水溶液を添加する。アルカリ性水溶液は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが使用できる。
【0032】
なお、本明細書におけるpHの値は、混合液の温度が40℃の時に測定された値であると定義する。混合液のpHは、反応槽からサンプリングした混合液の温度が、40℃になったときに測定する。
【0033】
サンプリングした混合液の温度が40℃よりも低い場合には、混合液を加熱して40℃になったときにpHを測定する。
【0034】
サンプリングした混合液の温度が40℃よりも高い場合には、混合液を冷却して40℃になったときにpHを測定する。
【0035】
上記ニッケル塩溶液、コバルト塩溶液、及びマンガン塩溶液のほか、錯化剤を反応槽に連続して供給すると、Ni、Co、及びMnが反応し、Ni(1-y-z)CoMn(OH)が生成する。
【0036】
反応に際しては、反応槽の温度を、例えば20℃以上80℃以下、好ましくは30℃以上70℃以下の範囲内で制御する。
【0037】
また、反応に際しては、反応槽内のpH値を、例えばpH9以上pH13以下、好ましくはpH11以上pH13以下の範囲内で制御する。
【0038】
反応槽内の物質は、適宜撹拌して混合する。
連続式共沈殿法で用いる反応槽は、形成された反応沈殿物を分離のためオーバーフローさせるタイプの反応槽を用いることができる。
【0039】
上記の条件の制御に加えて、各種気体、例えば、窒素、アルゴン、二酸化炭素等の不活性ガス、空気、酸素等の酸化性ガス、またはそれらを混合したガスを反応槽内に供給してもよい。
【0040】
以上の反応後、得られた反応沈殿物を水で洗浄及び脱水した後、乾燥することで、Ni、Co、及びMnを含む金属複合水酸化物が得られる。また、必要に応じて、反応沈殿物を、弱酸水や水酸化ナトリウムや水酸化カリウムを含むアルカリ溶液で洗浄してもよい。
【0041】
なお、上記の例では、MCCとして、Ni、Co、及びMnを含む金属複合水酸化物を製造しているが、Ni、Co、及びMnを含む金属複合酸化物を調製してもよい。
【0042】
例えば、Ni、Co、及びMnを含む金属複合水酸化物を、400℃以上700℃以下で加熱することにより、Ni、Co、及びMnを含む金属複合酸化物を調製することができる。
【0043】
≪混合物を得る工程≫
上記の方法により得られたMCCと、リチウム化合物とを混合し、MCCとリチウム化合物との混合物を得る。
リチウム化合物としては、炭酸リチウム、水酸化リチウム、水酸化リチウム一水和物からなる群より選択される1種以上が使用できる。
【0044】
リチウム化合物とMCCとを、最終目的物の組成比を勘案して混合し、混合物を得る。具体的には、リチウム化合物とMCCは、組成式(I)の組成比に対応する割合で混合することが好ましい。
【0045】
MCCとリチウム化合物との混合物は、後述の焼成工程前に加熱してもよい。混合物を加熱することにより、MCCとリチウム化合物との反応物を含む混合物原料を得ることができる。すなわち、混合物原料は、前記混合物中に含まれる一部のMCCとリチウム化合物とが反応した反応物を含み、さらにMCCとリチウム化合物とを含んでいてもよい。 前記混合物を加熱する際の加熱温度は、例えば、300℃以上700℃以下である。
【0046】
MCCとリチウム化合物との混合物、またはMCCとリチウム化合物との反応物を含む混合物原料は、後述の焼成工程における被焼成物として採用することができる。
【0047】
≪焼成工程≫
焼成炉を用いて被焼成物を焼成する。
本実施形態に好適に用いられる焼成手段を、図3を用いて説明する。図3に、本実施形態に好適に使用できる焼成手段30を示す。焼成手段30は、ガス供給装置32、水分供給手段36及び焼成炉37を備える。
【0048】
ガス供給装置32は、酸素ガス供給手段33、不活性ガス供給手段34及び任意の二酸化炭素ガス供給手段35を備える。不活性ガス供給手段34は、二酸化炭素ガス以外の不活性ガス(例えば、窒素やアルゴン)を供給する手段である。ガス供給装置32は、二酸化炭素ガス供給手段35を備えていてもよく、備えていなくてもよい。
【0049】
各供給手段は、それぞれ各供給路40a、40b及び40cに連結している。各供給路40a、40b及び40cの上流及び下流には、それぞれガスの流通と遮断を選択するための弁39a、39b、39c、39d、39e及び39fがそれぞれ設けられていてもよい。
【0050】
各供給路40a、40b及び40cは、流量計38a、38b及び38cをそれぞれ備えていてもよい。
【0051】
各供給路40a、40b及び40cは、下流側で一つの供給路42にまとまっており、供給路42に水分供給手段36が連結されている。
【0052】
水分供給手段36に供給されるガスは、例えば、酸素ガス、酸素ガス及び不活性ガスを含むガスである。便宜上水分供給手段36に供給されるガスを「原料ガス」と記載する。
【0053】
例えば弁39b、39c、39e及び39fを閉じ、弁39a及び39dを開くと、原料ガスとして酸素ガスが水分供給手段36に供給される。
【0054】
また、弁39c及び39fを閉じ、弁39a、39d、39b及び39eを開くと、原料ガスとして酸素ガス及び不活性ガスを含むガスが水分供給手段36に供給される。
【0055】
水分供給手段36は、焼成炉37に連結されている。焼成炉37は、被焼成物を収容し、焼成するための焼成炉である。水分供給手段36と焼成炉37の連結部は、混合ガス中の水分が原因で結露しないよう、例えば、100℃付近に温められていてもよい。
【0056】
水分供給手段36は、供給路42から供給された原料ガスに水分を供給する。水分供給手段36としては、以下の例A~例Cの各水分供給手段が挙げられる。
【0057】
・(例A)
例Aの水分供給手段は、バブリングにより原料ガスに水分を供給する。例Aの水分供給手段は、水を備える水槽と、水槽の中の水を加熱する加熱手段を備える。
【0058】
具体的には、まず、水槽中の水を加熱手段で加熱することで41℃以上96℃以下に水温を調整する。次に、水温調整後の水に原料ガスをバブリングする。これにより原料ガスに水分が供給された混合ガスが得られる。前記水温を高くすると、混合ガス中の水分の含有率(以下、「水分濃度」と称することがある。)を高くすることができ、前記水温を低くすると混合ガス中の水分濃度を低くすることができる。
【0059】
[水分濃度]
大気圧(101325Pa)におけるガスの水分濃度[体積%]は、水蒸気圧p(Pa)を用いて、以下の式(X)で表される。
【0060】
水分濃度[体積%]=(p[Pa]/101325[Pa])×100・・・式(X)
【0061】
一成分系液体の飽和水蒸気圧と温度(すなわち露点)の関係は、AICHE Design Institute for Physical Properties(DIPPR)に記載されている下記の式(Y)で表される。ここで、pは水蒸気圧(Pa)、tは露点(K)である。
【0062】
p=EXP (73.649-7258.2/t-7.3037×ln(t)+0.0000041653×t) ・・・式(Y)
【0063】
上記式(X)を用いて、混合ガス中の水分濃度が目的の値となる水蒸気圧pを算出し、上記式(Y)に代入することで、目的の水分濃度を有する混合ガスが得られる露点tを算出する。
そして、算出した露点tとなるよう前記水槽中の水温を制御し、制御した水温の水中に原料ガスをバブリングさせることで、目的の水分濃度を満たす混合ガスを得る。
【0064】
・(例B)
例Bの水分供給手段は、気泡塔を備える。所定の温度に保持した水を気泡塔に充満させ、原料ガスを気泡塔に供給することで、原料ガスに水分が供給された混合ガスが得られる。気泡塔に充満させる水の温度を調整することによって、混合ガスの水分濃度を調整することができる。
【0065】
・(例C)
例Cの水分供給手段は、噴霧装置を備える。噴霧装置により霧状の水を原料ガスに噴霧することで、原料ガスに水分が供給された混合ガスが得られる。例Cの水分供給手段を用いる場合、水の噴霧量を増減させることで混合ガスの水分濃度を調整することができる。
【0066】
混合ガスは、焼成炉37に供給される。
【0067】
混合ガスは、焼成炉37に導入する前の組成において、混合ガスの全量中の水分濃度が8体積%以上85体積%以下であり、10体積%以上60体積%以下が好ましく、20体積%以上40体積%以下がさらに好ましい。
【0068】
水分濃度を上記の範囲に調整した混合ガスを焼成炉37の内部に供給し、被焼成物を焼成することにより、得られるLiMOの結晶性が向上すると考えられる。このようなLiMOをCAMとして用いたリチウム二次電池は、サイクル維持率が向上しやすい。ここで、「結晶性が向上する」とは、結晶化度が高いことを意味する。
【0069】
焼成炉37に導入する前の組成において、混合ガスの全量中の二酸化炭素の含有率は、4体積%未満であり、2体積%以下が好ましく、0体積%であることがより好ましい。
【0070】
二酸化炭素の含有率を上記の範囲に調整した混合ガスを焼成炉37の内部に供給し、被焼成物を焼成することにより、炭酸リチウムの残存量が少ないLiMOが得られる。このようなLiMOをCAMとして用いると、作動時に炭酸ガスが発生しにくく、サイクル維持率が高いリチウム二次電池が得られる。
【0071】
焼成炉37に導入する前の組成において、混合ガスの全量中の酸素の含有率は、10体積%以上92体積%以下であることが好ましく、11体積%を超え92体積%以下であることがより好ましい。
【0072】
酸素の含有率を上記の範囲に調整した混合ガスを焼成炉37の内部に供給し、被焼成物を焼成することにより、反応が促進され、LiMOが得られやすい。このようなLiMOをCAMとして用いたリチウム二次電池は、サイクル維持率が向上しやすい。
【0073】
混合ガス中の酸素及び二酸化炭素の各含有率と水分濃度は、混合ガスの総量を100体積%としたときの値である。
【0074】
混合ガス中の酸素及び二酸化炭素の各含有率と水分濃度は、酸素ガス供給手段33、不活性ガス供給手段34、二酸化炭素ガス供給手段35より供給される各ガスの流量、及び水分供給手段における水の温度等を調整することで制御できる。
各ガスの流量の調整は、各供給手段から各ガスを供給する際に、バルブ付きのフロート流量計等を使用して実施することができる。
【0075】
焼成炉37に導入する前の組成において、混合ガスは下記(例1)、(例2)、または(例3)の混合ガスであることが好ましい。
(例1)水分濃度が8体積%以上85体積%以下であり、二酸化炭素の含有率が4体積%未満であり、不活性ガスの含有率が11体積%を超え92体積%以下の混合ガス。
(例2)水分濃度が8体積%以上85体積%以下であり、酸素の含有率が11体積%を超え92体積%以下であり、二酸化炭素の含有率が4体積%未満の混合ガス。
(例3)水分濃度が8体積%以上85体積%以下であり、酸素の含有率が10体積%以上92体積%以下であり、不活性ガスの含有率が1体積%以上30体積%以下であり、二酸化炭素の含有率が4体積%未満の混合ガス。
【0076】
上記(例1)~(例3)のいずれの混合ガスにおいても、二酸化炭素の含有率は0体積%であることが好ましい。
【0077】
被焼成物の仕込み粉体質量(kg)に対する、焼成炉に導入する総水分量(m)を0.1m/kg以上20m/kg以下とすることが好ましい。被焼成物の仕込み粉体質量(kg)に対する、焼成炉に導入する総水分量(m)を「水分粉体比(m/kg)」と記載する。
【0078】
上記「被焼成物の仕込み粉体質量」とは、焼成前に焼成炉に投入される被焼成物の質量である。
上記「焼成炉に導入する総水分量」は、混合ガスによって焼成炉37内に導入される水分の総量である。水分粉体比(m/kg)は、各ガス供給手段より供給される各ガスの流量及び水分供給手段における水の温度等を調整することで制御できる。
【0079】
水分粉体比を上記の範囲に制御し、被焼成物を焼成することにより、結晶成長が促進され、結晶性の高いLiMOが得られやすい。このようなLiMOをCAMとして用いたリチウム二次電池は、サイクル維持率が向上しやすい。
【0080】
焼成炉37における焼成温度は、600℃を超える温度とし、700℃以上が好ましく、800℃以上がより好ましい。焼成温度の上限値は例えば1300℃以下、1200℃以下、1100℃以下が挙げられる。焼成温度の異なる焼成工程を複数実施する場合、最も高い温度で実施する焼成工程の焼成温度が上記範囲であることが好ましい。
【0081】
600℃を超える温度で被焼成物を焼成することにより、結晶成長が促進され、結晶性の高いLiMOが得られやすい。このようなLiMOをCAMとして用いたリチウム二次電池は、サイクル維持率が向上しやすい。
【0082】
本実施形態において、焼成温度の異なる焼成工程を複数実施する場合、すべての焼成工程を、600℃を超える温度で実施することが好ましい。
【0083】
焼成温度とは、焼成炉内雰囲気の保持温度の最高温度である。
焼成温度で保持する時間を焼成時間という。焼成時間は、1時間以上24時間以下が好ましく、3時間以上12時間以下がより好ましい。
【0084】
昇温開始から達温して温度保持が終了するまでの合計時間は、1時間以上30時間以下とすることが好ましい。焼成工程の昇温速度は15℃/時間以上が好ましく、30℃/時間以上がより好ましく、45℃/時間以上が特に好ましい。
【0085】
本明細書における昇温速度は、焼成装置において、昇温を開始した時間から最高温度に到達するまでの時間と、焼成装置の焼成炉内の昇温開始時の温度から最高温度までの温度差とから算出される。
【0086】
焼成工程により得られた焼成物は、適宜洗浄、粉砕され、LiMOが得られる。
【0087】
・冷却工程
焼成工程の後に冷却工程を備えることが好ましい。冷却工程は、焼成炉の内部で焼成物を冷却する工程である。この時、焼成炉の内部に露点が-15℃以下のガスを供給することが好ましい。また、本工程は焼成物を室温まで冷却することが好ましい。露点が-15℃以下のガスは、例えば、露点が-15℃以下の酸素含有ガスや不活性含有ガスが挙げられる。
【0088】
冷却工程において、露点が-15℃以下のガスを供給するタイミングは、例えば、前記焼成時間で焼成を終えた直後である。例えば、事前に、焼成炉37に、露点が-15℃以下のガスを供給する手段を、供給路及び弁を介して連結させておき、焼成を終えた直後に、水分供給手段からの混合ガスの供給を停止し、露点が-15℃以下のガスを供給する手段側の弁を開くことで、露点が-15℃以下のガスを焼成炉に供給することができる。
【0089】
焼成炉の内部に露点が-15℃以下のガスを供給し、焼成物を冷却させることにより、LiMOが得られる。冷却工程を経て製造されたLiMOは、水分含有量が低い。このようなLiMOをCAMとして用いたリチウム二次電池は、サイクル維持率が向上しやすい。
【0090】
<リチウム金属複合酸化物>
≪組成≫
本実施形態の製造方法により製造されるLiMOは、下記の一般式(I)を満たすことが好ましい。
Li[Li(Ni(1-y-z)Co1-x]O (I)
(式(I)中、Xは、Mn、Fe、Cu、Ti、Mg、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga、B、Si、S及びPからなる群から選択される1種以上の元素を表し、-0.1≦x≦0.2、0≦y≦0.4、及び0≦z≦0.5を満たす。
【0091】
(x)
xは、サイクル維持率が高いリチウム二次電池を得る観点から、0を超えることが好ましく、0.01以上がより好ましく、0.02以上がさらに好ましい。また、初回クーロン効率がより高いリチウム二次電池を得る観点から、xは0.1以下が好ましく、0.08以下がより好ましく、0.06以下がさらに好ましい。
xの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。
組み合わせの例としては、xは、0を超え0.1以下、0.01以上0.08以下、0.02以上0.06以下が挙げられる。
【0092】
(y)
yは、電池の内部抵抗が低いリチウム二次電池を得る観点から、0を超えることが好ましく、0.005以上がより好ましく、0.01以上がさらに好ましく、0.05以上がさらにいっそう好ましい。また、熱的安定性が高いリチウム二次電池を得る観点から、yは0.4以下が好ましく、0.35以下がより好ましく、0.33以下がさらに好ましい。
yの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。
組み合わせの例としては、yは0を超え0.4以下、0.005以上0.4以下、0.01以上0.35以下、0.05以上0.33以下が挙げられる。
【0093】
(z)
zは、サイクル維持率が高いリチウム二次電池を得る観点から、0.01以上が好ましく、0.02以上がより好ましく、0.03以上がさらに好ましい。また、高温(例えば60℃環境下)での保存特性が高いリチウム二次電池を得る観点から、zは0.49以下が好ましく、0.48以下がより好ましい。
zの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。
組み合わせの例としては、zは0.01以上0.5以下、0.02以上0.49以下、0.03以上0.48以下が挙げられる。
【0094】
(y+z)
y+zは、サイクル維持率が高いリチウム二次電池を得る観点から、0を超えることが好ましく、0を超え0.8以下であることがより好ましく、0を超え0.78以下であることがさらに好ましい。
【0095】
Xは、Mn、Fe、Cu、Ti、Mg、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga、B、Si、S及びPからなる群から選択される1種以上の元素を表す。
【0096】
また、サイクル維持率が高いリチウム二次電池を得る観点から、Xは、Mn、Ti、Mg、Al、W、B、Zr、及びNbからなる群より選択される1種以上の元素が好ましく、熱的安定性が高いリチウム二次電池を得る観点から、Mn、Al、W、B、Zr、及びNbからなる群より選択される1種以上の元素が好ましい。
【0097】
<組成分析>
LiMOの組成分析は、得られたLiMOの粉末を塩酸に溶解させた後、ICP発光分光分析装置を用いて測定できる。
ICP発光分光分析装置としては、例えばエスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製、SPS3000が使用できる。
【0098】
<リチウム二次電池用正極活物質>
本実施形態の製造方法により製造されるLiMOは、CAMとして好適に用いることができる。
本実施形態のCAMは、LiMOを含有する。CAMは、本発明の効果を損なわない範囲で、本発明以外のLiMOを含んでいてもよい。
【0099】
<リチウム二次電池>
本実施形態の製造方法により製造されるLiMOをCAMとして用いる場合に好適なリチウム二次電池の構成を説明する。
さらに、本実施形態の製造方法により製造されるLiMOをCAMとして用いる場合に好適なリチウム二次電池用正極について説明する。以下、リチウム二次電池用正極を正極と称することがある。
さらに、正極の用途として好適なリチウム二次電池について説明する。
【0100】
本実施形態の製造方法により製造されるLiMOをCAMとして用いる場合の好適なリチウム二次電池の一例は、正極及び負極、正極と負極との間に挟持されるセパレータ、正極と負極との間に配置される電解液を有する。
【0101】
リチウム二次電池の一例は、正極及び負極、正極と負極との間に挟持されるセパレータ、正極と負極との間に配置される電解液を有する。
【0102】
図1は、リチウム二次電池の一例を示す模式図である。例えば円筒型のリチウム二次電池10は、次のようにして製造する。
【0103】
まず、図1に示すように、帯状を呈する一対のセパレータ1、一端に正極リード21を有する帯状の正極2、及び一端に負極リード31を有する帯状の負極3を、セパレータ1、正極2、セパレータ1、負極3の順に積層し、巻回することにより電極群4とする。
【0104】
次いで、電池缶5に電極群4及び不図示のインシュレーターを収容した後、缶底を封止し、電極群4に電解液6を含浸させ、正極2と負極3との間に電解質を配置する。さらに、電池缶5の上部をトップインシュレーター7及び封口体8で封止することで、リチウム二次電池10を製造することができる。
【0105】
電極群4の形状としては、例えば、電極群4を巻回の軸に対して垂直方向に切断したときの断面形状が、円、楕円、長方形又は角を丸めた長方形となるような柱状の形状を挙げることができる。
【0106】
また、このような電極群4を有するリチウム二次電池の形状としては、国際電気標準会議(IEC)が定めた電池に対する規格であるIEC60086、又はJIS C 8500で定められる形状を採用することができる。例えば、円筒型又は角型などの形状を挙げることができる。
【0107】
さらに、リチウム二次電池は、上記巻回型の構成に限らず、正極、セパレータ、負極、セパレータの積層構造を繰り返し重ねた積層型の構成であってもよい。積層型のリチウム二次電池としては、いわゆるコイン型電池、ボタン型電池、又はペーパー型(又はシート型)電池を例示することができる。
【0108】
以下、各構成について順に説明する。
(正極)
正極は、まずCAM、導電材及びバインダーを含む正極合剤を調整し、正極合剤を正極集電体に担持させることで製造できる。
【0109】
(導電材)
正極が有する導電材には、炭素材料を用いることができる。炭素材料は、例えば黒鉛粉末、カーボンブラック(例えばアセチレンブラック)、繊維状炭素材料である。
【0110】
正極合剤中の導電材の割合は、100質量部のCAMに対して5質量部以上20質量部以下であると好ましい。
【0111】
(バインダー)
正極が有するバインダーとしては、熱可塑性樹脂を用いることができる。この熱可塑性樹脂としては、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂、ポリオレフィン樹脂、WO2019/098384A1またはUS2020/0274158A1に記載の樹脂を挙げることができる。
【0112】
フッ素樹脂は、例えばポリフッ化ビニリデン(以下、PVdFということがある。)、ポリテトラフルオロエチレンである。
【0113】
ポリオレフィン樹脂は、例えばポリエチレン、ポリプロピレンなどである。
【0114】
(正極集電体)
正極が有する正極集電体には、Al、Ni、ステンレスなどの金属材料を形成材料とする帯状の部材を用いることができる。
【0115】
正極集電体に正極合剤を担持させる方法としては、有機溶媒を用いて正極合剤をペースト化し、得られる正極合剤のペーストを正極集電体の少なくとも一面側に塗布して乾燥させ、電極プレス工程を行って固着する方法が挙げられる。
【0116】
正極合剤をペースト化する場合、用いることができる有機溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン(以下、NMPということがある。)が挙げられる。
【0117】
正極合剤のペーストを正極集電体へ塗布する方法としては、例えば、スリットダイ塗工法、スクリーン塗工法、カーテン塗工法、ナイフ塗工法、グラビア塗工法及び静電スプレー法が挙げられる。
【0118】
以上に挙げられた方法により、正極を製造することができる。
【0119】
(負極)
リチウム二次電池が有する負極は、正極よりも低い電位でリチウムイオンのドープかつ脱ドープが可能であればよい。例えば、負極活物質を含む負極合剤が負極集電体に担持されてなる電極、及び負極活物質単独からなる電極を挙げることができる。
【0120】
(負極活物質)
負極が有する負極活物質としては、炭素材料、カルコゲン化合物(酸化物、硫化物など)、窒化物、金属又は合金で、正極よりも低い電位でリチウムイオンのドープかつ脱ドープが可能な材料が挙げられる。
【0121】
負極活物質として使用可能な炭素材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛、コークス類、カーボンブラック、炭素繊維及び有機高分子化合物焼成体を挙げることができる。
【0122】
負極活物質として使用可能な酸化物としては、SiO、SiOなど式SiO(ここで、xは正の実数)で表されるケイ素の酸化物、;SnO、SnOなど式SnO(ここで、xは正の実数)で表されるスズの酸化物;LiTi12、などのリチウムとチタンとを含有する金属複合酸化物;を挙げることができる。
【0123】
また、負極活物質からなる電極としては、負極活物質として使用可能な金属からなる電極が挙げられる。このような金属としては、リチウム金属、シリコン金属及びスズ金属などを挙げることができる。
負極活物質として使用可能な材料として、WO2019/098384A1またはUS2020/0274158A1に記載の材料を用いてもよい。
【0124】
これらの金属や合金は、例えば箔状に加工された後、主に単独で電極として用いられる。
【0125】
上記負極活物質の中では、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛を主成分とする炭素材料が好ましく用いられる。これは、充電時に未充電状態から満充電状態にかけて負極の電位がほとんど変化せず(電位平坦性がよい)、平均放電電位が低く、繰り返し充放電させたときの容量維持率が高い(サイクル特性がよい)ためである。炭素材料の形状としては、例えば天然黒鉛のような薄片状、メソカーボンマイクロビーズのような球状、黒鉛化炭素繊維のような繊維状、又は微粉末の凝集体などのいずれでもよい。
【0126】
前記の負極合剤は、必要に応じて、バインダーを含有してもよい。バインダーとしては、熱可塑性樹脂を挙げることができ、具体的には、PVdF、熱可塑性ポリイミド、カルボキシメチルセルロース(以下、CMCということがある。)、スチレンブタジエンゴム(以下、SBRということがある。)ポリエチレン及びポリプロピレンを挙げることができる。
【0127】
(負極集電体)
負極が有する負極集電体としては、銅、ニッケル、ステンレスなどの金属材料を形成材料とする帯状の部材を挙げることができる。
【0128】
このような負極集電体に負極合剤を担持させる方法としては、正極の場合と同様に、加圧成型による方法、溶媒などを用いてペースト化し負極集電体上に塗布、乾燥後プレスし圧着する方法が挙げられる。
【0129】
(セパレータ)
リチウム二次電池が有するセパレータとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂、含窒素芳香族重合体などの材質からなる、多孔質膜、不織布、織布などの形態を有する材料を用いることができる。また、これらの材質を2種以上用いてセパレータを形成してもよいし、これらの材料を積層してセパレータを形成してもよい。また、JP-A-2000-030686やUS20090111025A1に記載のセパレータを用いてもよい。
【0130】
(電解液)
リチウム二次電池が有する電解液は、電解質及び有機溶媒を含有する。
【0131】
電解液に含まれる電解質としては、LiClO、LiPF、LiBF、などのリチウム塩が挙げられ、これらの2種以上の混合物を使用してもよい。
【0132】
また電解液に含まれる有機溶媒としては、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートなどのカーボネート類を用いることができる。
【0133】
有機溶媒としては、これらのうちの2種以上を混合して用いることが好ましい。中でもカーボネート類を含む混合溶媒が好ましく、環状カーボネートと非環状カーボネートとの混合溶媒及び環状カーボネートとエーテル類との混合溶媒がさらに好ましい。
【0134】
また、電解液としては、得られるリチウム二次電池の安全性が高まるため、LiPFなどのフッ素を含むリチウム塩及びフッ素置換基を有する有機溶媒を含む電解液を用いることが好ましい。
電解液に含まれる電解質および有機溶媒として、WO2019/098384A1またはUS2020/0274158A1に記載の電解質および有機溶媒を用いてもよい。
【0135】
<全固体リチウム二次電池>
次いで、全固体リチウム二次電池の構成を説明しながら、本実施形態の製造方法により製造されるLiMOを全固体リチウム二次電池のCAMとして用いた正極、及びこの正極を有する全固体リチウム二次電池について説明する。
【0136】
図2は、全固体リチウム二次電池の一例を示す模式図である。図2に示す全固体リチウム二次電池1000は、正極110と、負極120と、固体電解質層130とを有する積層体100と、積層体100を収容する外装体200と、を有する。また、全固体リチウム二次電池1000は、集電体の両側にCAMと負極活物質とを配置したバイポーラ構造であってもよい。バイポーラ構造の具体例として、例えば、JP-A-2004-95400に記載される構造が挙げられる。各部材を構成する材料については、後述する。
【0137】
積層体100は、正極集電体112に接続される外部端子113と、負極集電体122に接続される外部端子123と、を有していてもよい。その他、全固体リチウム二次電池1000は、正極110と負極120との間にセパレータを有していてもよい。
【0138】
全固体リチウム二次電池1000は、さらに積層体100と外装体200とを絶縁する不図示のインシュレーター及び外装体200の開口部200aを封止する不図示の封止体を有する。
【0139】
外装体200は、アルミニウム、ステンレス鋼又はニッケルメッキ鋼などの耐食性の高い金属材料を成形した容器を用いることができる。また、外装体200として、少なくとも一方の面に耐食加工を施したラミネートフィルムを袋状に加工した容器を用いることもできる。
【0140】
全固体リチウム二次電池1000の形状としては、例えば、コイン型、ボタン型、ペーパー型(またはシート型)、円筒型、角型、又はラミネート型(パウチ型)などの形状を挙げることができる。
【0141】
全固体リチウム二次電池1000は、一例として積層体100を1つ有する形態が図示されているが、本実施形態はこれに限らない。全固体リチウム二次電池1000は、積層体100を単位セルとし、外装体200の内部に複数の単位セル(積層体100)を封じた構成であってもよい。
【0142】
以下、各構成について順に説明する。
【0143】
(正極)
正極110は、正極活物質層111と正極集電体112とを有している。
【0144】
正極活物質層111は、上述したCAM及び固体電解質を含む。また、正極活物質層111は、導電材及びバインダーを含んでいてもよい。
【0145】
(固体電解質)
正極活物質層111に含まれる固体電解質としては、リチウムイオン伝導性を有し、公知の全固体リチウム二次電池に用いられる固体電解質を採用することができる。このような固体電解質としては、無機電解質及び有機電解質を挙げることができる。
【0146】
無機電解質としては、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質及び水素化物系固体電解質を挙げることができる。
【0147】
有機電解質としては、ポリマー系固体電解質を挙げることができる。
【0148】
各電解質としては、WO2020/208872A1、US2016/0233510A1、US2012/0251871A1、US2018/0159169A1に記載の化合物が挙げられ、例えば、以下の化合物が挙げられる。
【0149】
(酸化物系固体電解質)
酸化物系固体電解質としては、例えば、ペロブスカイト型酸化物、NASICON型酸化物、LISICON型酸化物及びガーネット型酸化物などが挙げられる。各酸化物の具体例は、WO2020/208872A1、US2016/0233510A1、US2020/0259213A1に記載の化合物が挙げられる。
【0150】
ペロブスカイト型酸化物としては、LiLa1-aTiO(0<a<1)などのLi-La-Ti系酸化物、LiLa1-bTaO(0<b<1)などのLi-La-Ta系酸化物及びLiLa1-cNbO(0<c<1)などのLi-La-Nb系酸化物などが挙げられる。
【0151】
NASICON型酸化物としては、Li1+dAlTi2-d(PO(0≦d≦1)などが挙げられる。NASICON型酸化物とは、Li (式中、Mは、B、Al、Ga、In、C、Si、Ge、Sn、Sb及びSeからなる群から選ばれる1種以上の元素である。Mは、Ti、Zr、Ge、In、Ga、Sn及びAlからなる群から選ばれる1種以上の元素である。m、n、o、p及びqは、任意の正数である。)で表される酸化物である。
【0152】
LISICON型酸化物としては、Li-Li(Mは、Si、Ge、及びTiからなる群から選ばれる1種以上の元素である。Mは、P、As及びVからなる群から選ばれる1種以上の元素である。)で表される酸化物などが挙げられる。
【0153】
ガーネット型酸化物としては、LiLaZr12(LLZともいう)などのLi-La-Zr系酸化物などが挙げられる。
【0154】
酸化物系固体電解質は、結晶性材料であってもよく、非晶質材料であってもよい。
【0155】
(硫化物系固体電解質)
硫化物系固体電解質としては、LiS-P系化合物、LiS-SiS系化合物、LiS-GeS系化合物、LiS-B系化合物、LiI-SiS-P系化合物、LiI-LiS-P系化合物、LiI-LiPO-P系化合物及びLi10GeP12などを挙げることができる。
【0156】
なお、本明細書において、硫化物系固体電解質を指す「系化合物」という表現は、「系化合物」の前に記載した「LiS」「P」などの原料を主として含む固体電解質の総称として用いる。例えば、LiS-P系化合物には、LiSとPとを主として含み、さらに他の原料を含む固体電解質が含まれる。
【0157】
LiS-P系化合物に含まれるLiSの割合は、例えばLiS-P系化合物全体に対して50~90質量%である。
【0158】
LiS-P系化合物に含まれるPの割合は、例えばLiS-P系化合物全体に対して10~50質量%である。
【0159】
また、LiS-P系化合物に含まれる他の原料の割合は、例えばLiS-P系化合物全体に対して0~30質量%である。
【0160】
また、LiS-P系化合物には、LiSとPとの混合比を異ならせた固体電解質も含まれる。
【0161】
LiS-P系化合物としては、LiS-P、LiS-P-LiI、LiS-P-LiCl、LiS-P-LiBr、LiS-P-LiI-LiBr、LiS-P-LiO、LiS-P-LiO-LiI及びLiS-P-Z(m、nは正の数である。Zは、Ge、ZnまたはGaである。)などを挙げることができる。
【0162】
LiS-SiS系化合物としては、LiS-SiS、LiS-SiS-LiI、LiS-SiS-LiBr、LiS-SiS-LiCl、LiS-SiS-B-LiI、LiS-SiS-P-LiI、LiS-SiS-P-LiCl、LiS-SiS-LiPO、LiS-SiS-LiSO及びLiS-SiS-LiMO(x、yは正の数である。Mは、P、Si、Ge、B、Al、Ga又はInである。)などを挙げることができる。
【0163】
LiS-GeS系化合物としては、LiS-GeS及びLiS-GeS-Pなどを挙げることができる。
【0164】
硫化物系固体電解質は、結晶性材料であってもよく、非晶質材料であってもよい。
【0165】
(水素化物系固体電解質)
水素化物系固体電解質材料としては、LiBH、LiBH-3KI、LiBH-PI、LiBH-P、LiBH-LiNH、3LiBH-LiI、LiNH、LiAlH、Li(NHI、LiNH、LiGd(BHCl、Li(BH)(NH)、Li(NH)I及びLi(BH)(NHなどを挙げることができる。
【0166】
(ポリマー系固体電解質)
ポリマー系固体電解質として、例えばポリエチレンオキサイド系の高分子化合物及びポリオルガノシロキサン鎖及びポリオキシアルキレン鎖からなる群から選ばれる1種以上を含む高分子化合物などの有機系高分子電解質を挙げることができる。また、高分子化合物に非水電解液を保持させた、いわゆるゲルタイプのものを用いることもできる。
【0167】
固体電解質は、発明の効果を損なわない範囲において、2種以上を併用することができる。
【0168】
(導電材及びバインダー)
正極活物質層111が有する導電材としては、上述の(導電材)で説明した材料を用いることができる。また、正極合剤中の導電材の割合についても同様に上述の(導電材)で説明した割合を適用することができる。また、正極が有するバインダーとしては、上述の(バインダー)で説明した材料を用いることができる。
【0169】
(正極集電体)
正極110が有する正極集電体112としては、上述の(正極集電体)で説明した材料を用いることができる。
【0170】
正極集電体112に正極活物質層111を担持させる方法としては、正極集電体112上でCAM層111を加圧成型する方法が挙げられる。加圧成型には、冷間プレスや熱間プレスを用いることができる。
【0171】
また、有機溶媒を用いてCAM、固体電解質、導電材及びバインダーの混合物をペースト化して正極合剤とし、得られる正極合剤を正極集電体112の少なくとも一面上に塗布して乾燥させ、プレスし固着することで、正極集電体112に正極活物質層111を担持させてもよい。
【0172】
また、有機溶媒を用いてCAM、固体電解質及び導電材の混合物をペースト化して正極合剤とし、得られる正極合剤を正極集電体112の少なくとも一面上に塗布して乾燥させ、焼結することで、正極集電体112に正極活物質層111を担持させてもよい。
【0173】
正極合剤に用いることができる有機溶媒としては、上述の(正極集電体)で説明した正極合剤をペースト化する場合に用いることができる有機溶媒と同じものを用いることができる。
【0174】
正極合剤を正極集電体112へ塗布する方法としては、上述の(正極集電体)で説明した方法が挙げられる。
【0175】
以上に挙げられた方法により、正極110を製造することができる。正極110に用いる具体的な材料の組み合わせとしては、前述のCAMと、表1~3に記載する固体電解質、バインダー及び導電材の組み合わせが挙げられる。
【0176】
【表1】
【0177】
【表2】
【0178】
【表3】
【0179】
(負極)
負極120は、負極活物質層121と負極集電体122とを有している。負極活物質層121は、負極活物質を含む。また、負極活物質層121は、固体電解質及び導電材を含んでいてもよい。負極活物質、負極集電体、固体電解質、導電材及びバインダーは、上述したものを用いることができる。
【0180】
負極集電体122に負極活物質層121を担持させる方法としては、正極110の場合と同様に、加圧成型による方法、負極活物質を含むペースト状の負極合剤を負極集電体122上に塗布、乾燥後プレスし圧着する方法、及び負極活物質を含むペースト状の負極合剤を負極集電体122上に塗布、乾燥後、焼結する方法が挙げられる。
【0181】
(固体電解質層)
固体電解質層130は、上述の固体電解質を有している。
【0182】
固体電解質層130は、上述の正極110が有する正極活物質層111の表面に、無機物の固体電解質をスパッタリング法により堆積させることで形成することができる。
【0183】
また、固体電解質層130は、上述の正極110が有する正極活物質層111の表面に、固体電解質を含むペースト状の合剤を塗布し、乾燥させることで形成することができる。乾燥後、プレス成型し、さらに冷間等方圧加圧法(CIP)により加圧して固体電解質層130を形成してもよい。
【0184】
積層体100は、上述のように正極110上に設けられた固体電解質層130に対し、公知の方法を用いて、固体電解質層130の表面に負極活物質層121が接する態様で負極120を積層させることで製造することができる。
【実施例0185】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
【0186】
<組成分析>
LiMOの組成分析は、前記<組成分析>において説明した方法により実施した。
【0187】
<サイクル維持率の測定>
LiMOを用いたリチウム二次電池のサイクル維持率は、上記<サイクル維持率の測定>に記載の方法により測定した。
【0188】
<実施例1>
攪拌器およびオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を50℃に保持した。
【0189】
硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液と硫酸マンガン水溶液とを、NiとCoとMnとの原子比が60:20:20を満たす割合で混合して、混合原料液を調製した。
【0190】
次に、反応槽内に、攪拌下、この混合原料液と硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として連続的に添加した。反応槽内の溶液のpHが11.6(液温40℃での測定時)になるよう、水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下し、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を得た。
ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を洗浄した後、遠心分離機で脱水し、単離して105℃で乾燥することで、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物1を得た。
【0191】
ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物1と水酸化リチウム一水和物粉末を、モル比がLi/(Ni+Co+Mn)=1.05となる割合で秤量して混合し、被焼成物1を得た。
【0192】
被焼成物1を図3に示す焼成手段30を用いて焼成した。
【0193】
前記例Aの水分供給手段36を用いてバブリングにより原料ガスに水分を供給し、混合ガス中の水分濃度を調整した。具体的には、前記式(X)及び(Y)を用いて、混合ガスの全量中の水分濃度が8体積%となる露点を算出し、該露点となるよう、水槽中の水温を42℃に設定し、42℃の水温の水中に原料ガスをバブリングした。原料ガスとして、酸素ガスをバブリングした。これにより、焼成炉37に導入する混合ガスは、導入前の組成において、混合ガスの全量中の水分濃度が8体積%であり、酸素の含有率が92体積%であった。
【0194】
このとき、水分粉体比は0.25m/kgであった。
【0195】
焼成炉37により、被焼成物1を955℃で5時間焼成し、焼成物を得た。このとき、昇温速度は175℃/時間とした。
【0196】
5時間の焼成を終えた直後に、露点が-15℃以下のガスを供給し、焼成物を焼成炉37の内部で室温まで冷却し、LiMO-1を得た。このとき供給した露点が-15℃以下のガスは、前記混合ガスから実質水分のみを除いたガスであった。
【0197】
LiMO-1を組成式(I)に対応させたところ、x=0.02、y=0.20、z=0.20であった。
【0198】
<実施例2>
焼成炉37に導入する混合ガスを、水分濃度が11体積%であり、酸素の含有率が84体積%であり、窒素の含有率が5体積%であるガスに変更し、水分粉体比を0.40m/kgとした以外は実施例1と同様の方法により、LiMO-2を得た。混合ガス中の水分濃度は、前記例Aの水分供給手段36を用いて、水温を47℃に設定することにより調整した。
【0199】
LiMO-2を組成式(I)に対応させたところ、x=0.02、y=0.20、z=0.20であった。
【0200】
<実施例3>
焼成炉37に導入する混合ガスを、水分濃度が36体積%であり、酸素の含有率が32体積%であり、窒素の含有率が32体積%であるガスに変更し、水分粉体比を3.9m/kgとし、焼成温度を925℃に変更した以外は実施例1と同様の方法により、LiMO-3を得た。混合ガス中の水分濃度は、前記例Aの水分供給手段36を用いて、水温を74℃に設定することにより調整した。
【0201】
LiMO-3を組成式(I)に対応させたところ、x=0.00、y=0.20、z=0.20であった。
【0202】
<実施例4>
攪拌器およびオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を50℃に保持した。
【0203】
硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液と硫酸マンガン水溶液とを、NiとCoとMnとの原子比が31.5:33:35.5となる割合で混合して、混合原料液を調製した。
【0204】
次に、反応槽内に、攪拌下、この混合原料液と硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として連続的に添加した。反応槽内の溶液のpHが11.6(液温40℃での測定時)になるよう、水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下し、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を得た。
ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を洗浄した後、遠心分離機で脱水し、単離して105℃で乾燥することで、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物2を得た。
【0205】
ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物2と水酸化リチウム一水和物粉末を、モル比がLi/(Ni+Co+Mn)=1.10となる割合で秤量して混合し、被焼成物2を得た。
【0206】
被焼成物2を図3に示す焼成手段30を用いて焼成した。
前記例Aの水分供給手段36を用いてバブリングにより原料ガスに水分を供給し、混合ガス中の水分濃度を調整した。具体的には、前記式(X)及び(Y)を用いて、混合ガスの全量中の水分濃度が41体積%となる露点を算出し、該露点となるよう、水槽中の水温を77℃に設定し、77℃の水温の水中に原料ガスをバブリングした。原料ガスとして、酸素と窒素を含有するガスをバブリングした。焼成炉37に導入する混合ガスは、導入前の組成において、水分濃度が41体積%であり、酸素の含有率が18体積%であり、窒素の含有率が41体積%であった。
【0207】
また、水分粉体比は8.2m/kgであった。
【0208】
焼成炉37により、被焼成物2を690℃で4時間焼成し、さらに935℃で4時間焼成して、焼成物を得た。このとき、昇温速度は175℃/時間とした。
【0209】
2回目の4時間の焼成を終えた直後に、露点が-15℃以下のガスを供給し、焼成物を焼成炉37の内部で室温まで冷却し、LiMO-4を得た。このとき供給した露点が-15℃以下のガスは、前記混合ガスから実質水分のみを除いたガスであった。
【0210】
LiMO-4を組成式(I)に対応させたところ、x=0.06、y=0.33、z=0.35であった。
【0211】
<実施例5>
焼成炉37に導入する混合ガスを、水分濃度が60体積%であり、酸素の含有率が20体積%であり、窒素の含有率が20体積%であるガスに変更し、水分粉体比を8.8m/kgとした以外は実施例3と同様の方法により、LiMO-5を得た。混合ガス中の水分濃度は、前記例Aの水分供給手段36を用いて、水温を86℃に設定することにより調整した。
【0212】
LiMO-5を組成式(I)に対応させたところ、x=-0.01、y=0.20、z=0.20であった。
【0213】
<実施例6>
焼成炉37に導入する混合ガスを、水分濃度が80体積%であり、酸素の含有率が20体積%であるガスに変更し、水分粉体比を13m/kgとし、焼成炉37により、被焼成物2を690℃で4時間焼成し、さらに905℃で4時間焼成した以外は実施例4と同様の方法により、LiMO-6を得た。混合ガス中の水分濃度は、前記例Aの水分供給手段36を用いて、水温を94℃に設定することにより調整した。
【0214】
LiMO-6を組成式(I)に対応させたところ、x=0.06、y=0.33、z=0.35であった。
【0215】
<比較例1>
焼成炉37に導入する混合ガスを、導入前の組成において、酸素の含有率が80体積%であり、窒素の含有率が20体積%であるガスに変更した以外は実施例1と同様の方法により、LiMO-11を得た。このとき、水分粉体比は、0m/kgであった。
【0216】
LiMO-11を組成式(I)に対応させたところ、x=0.02、y=0.20、z=0.20であった。
【0217】
<比較例2>
焼成炉37に導入する混合ガスを、導入前の組成において、酸素の含有率が20体積%であり、窒素の含有率が80体積%であるガスに変更し、焼成温度を925℃に変更した以外は実施例1と同様の方法により、LiMO-12を得た。このとき、水分粉体比は、0m/kgであった。
【0218】
LiMO-12を組成式(I)に対応させたところ、x=0.03、y=0.20、z=0.20であった。
【0219】
<比較例3>
焼成炉37に導入する混合ガスを、導入前の組成において、水分濃度が6体積%であり、酸素の含有率が94体積%であるガスに変更し、水分粉体比を0.20m/kgとした以外は実施例1と同様の方法により、LiMO-13を得た。混合ガス中の水分濃度は、前記例Aの水分供給手段36を用いて、水温を36℃に設定することにより調整した。
【0220】
LiMO-13を組成式(I)に対応させたところ、x=0.01、y=0.20、z=0.20であった。
【0221】
<比較例4>
焼成炉37に導入する混合ガスを、導入前の組成において、水分濃度が11体積%であり、酸素の含有率が3体積%であり、窒素の含有率が77体積%であり、二酸化炭素の含有率が9体積%であるガスに変更し、水分粉体比を10m/kgとした以外は実施例1と同様の方法により、LiMO-14を得た。混合ガス中の水分濃度は、前記例Aの水分供給手段36を用いて、水温を48℃に設定することにより調整した。
【0222】
LiMO-14を組成式(I)に対応させたところ、x=-0.03、y=0.20、z=0.20であった。
【0223】
実施例1~6及び比較例1~4で得られたLiMO-1~LiMO-6、LiMO-11~LiMO-14を用いた場合のリチウム二次電池のサイクル維持率の結果を表4に示す。
【0224】
【表4】
【0225】
表4に示すとおり、特定の混合ガスを焼成炉内に導入して焼成して得られたLiMOを用いたリチウム二次電池は、サイクル維持率がいずれも90%以上であることが確認できた。
【符号の説明】
【0226】
1:セパレータ、3:負極、4:電極群、5:電池缶、6:電解液、7:トップインシュレーター、8:封口体、10:リチウム二次電池、21:正極リード、31:負極リード、100:積層体、110:正極、111:正極活物質層、112:正極集電体、113:外部端子、120:負極、121:負極活物質層、122:負極集電体、123:外部端子、130:固体電解質層、200:外装体、200a:開口部、1000:全固体リチウム二次電池、30:焼成手段、32:ガス供給装置、33:酸素ガス供給手段、34:不活性ガス供給手段、35:二酸化炭素ガス供給手段、36:水分供給手段、37:焼成炉、38a~38c:流量計、39a~39f:弁、40a~40c:供給路、42:供給路
図1
図2
図3