(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025015935
(43)【公開日】2025-01-31
(54)【発明の名称】光学活性物質の濃度測定方法
(51)【国際特許分類】
A61B 3/117 20060101AFI20250124BHJP
G01N 21/23 20060101ALI20250124BHJP
【FI】
A61B3/117
G01N21/23
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023118858
(22)【出願日】2023-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】矢内 雄二郎
【テーマコード(参考)】
2G059
4C316
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059AA02
2G059BB12
2G059CC16
2G059EE01
2G059EE02
2G059EE05
2G059EE11
2G059GG02
2G059JJ05
2G059JJ19
2G059KK01
2G059KK04
2G059MM01
2G059NN01
4C316AA01
4C316AB08
4C316AB16
4C316FY01
4C316FY05
4C316FZ02
(57)【要約】
【課題】コンセンサスエラーグリッドの基準に合致し得る光学活性物質の濃度測定方法を提供する。
【解決手段】ブリュースター角未満で眼の房水に偏光を照射し第1の反射光の偏光状態を測定する第1工程と、第1の反射光のデータに対して第1のノイズ低減処理を施す第2工程と、ブリュースター角以上で眼の房水に偏光を照射して、第2の反射光の偏光状態を測定する第3工程と、第2の反射光のデータに対して第2のノイズ低減処理を施す第4工程と、ノイズ低減処理が施された第1データおよび第2データを用いて房水の旋光度を算出する第5工程と、房水の旋光度から房水中の光学活性物質の濃度を算出する第6工程とを有し、反射光のデータが波長ごとの偏光状態の情報を含むデータの場合、波長と測定値との関係において、測定波長毎における測定値の差分の符号が変化する回数をnとすると、n/(測定波長数-2)を0.50以下にするノイズ低減処理を行う。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼の房水に向けて偏光である第1の入射光を照射し、前記房水と水晶体との界面で前記第1の入射光が反射して得られる第1の反射光の偏光状態を測定する工程であって、前記第1の入射光が前記水晶体の表面と交わる点での接平面に対する法線と、前記第1の入射光とのなす角度θ1がブリュースター角未満となるように前記第1の入射光を照射して、前記第1の反射光の偏光状態を測定して、前記第1の反射光の偏光状態の情報を含む第1データを取得する第1工程と、前記第1工程で得られた前記第1の反射光の偏光状態の情報を含む前記第1データに対して第1のノイズ低減処理を施し、第1のノイズ処理済みデータを取得する第2工程と、
前記眼の前記房水に向けて偏光である第2の入射光を照射し、前記房水と前記水晶体との界面で前記第2の入射光が反射して得られる第2の反射光の偏光状態を測定する工程であって、前記第2の入射光が前記水晶体の表面と交わる点での接平面に対する法線と、前記第2の入射光とのなす角度θ2がブリュースター角以上となるように前記第2の入射光を照射して、前記第2の反射光の偏光状態を測定して、前記第2の反射光の偏光状態の情報を含む第2データを取得する第3工程と、前記第3工程で得られた前記第2の反射光の偏光状態の情報を含む第2データに対して第2のノイズ低減処理を施し、第2のノイズ処理済みデータを取得する第4工程と、
前記第2工程で得られた前記第1のノイズ処理済みデータと、前記第4工程で得られた前記第2のノイズ処理済みデータとを用いて、前記房水の旋光度を算出する第5工程と、
前記房水の旋光度から前記房水中の光学活性物質の濃度を算出する第6工程とを、有し、
前記第1の反射光の偏光状態の情報を含む第1データが、前記第1の反射光の波長ごとの偏光状態の情報を含むデータ、または、前記第1の反射光の測定回ごとの偏光状態の情報を含むデータであり、
前記第1の反射光の偏光状態の情報を含む第1データが、前記第1の反射光の波長ごとの偏光状態の情報を含むデータの場合、前記第1のノイズ低減処理が、波長と測定値との関係において、測定波長毎における測定値の差分の符号が変化する回数をnとし、n/(測定波長数-2)の値を、0.50以下にするノイズ低減処理であり、
前記第1の反射光の偏光状態の情報を含む第1データが、前記第1の反射光の測定回ごとの偏光状態の情報を含むデータの場合、前記第1のノイズ低減処理が、測定回数と測定値との関係において、測定順における測定値の差分の符号が変化する回数をnとし、n/(測定回数-2)の値を、0.50以下にするノイズ低減処理であり、
前記第2の反射光の偏光状態の情報を含む第2データが、前記第2の反射光の波長ごとの偏光状態の情報を含むデータ、または、前記第2の反射光の測定回ごとの偏光状態の情報を含むデータであり、
前記第2の反射光の偏光状態の情報を含む第2データが、前記第2の反射光の波長ごとの偏光状態の情報を含むデータの場合、前記第2のノイズ低減処理が、波長と測定値との関係において、測定波長毎における測定値の差分の符号が変化する回数をnとし、n/(測定波長数-2)の値を、0.50以下にするノイズ低減処理であり、
前記第2の反射光の偏光状態の情報を含む第2データが、前記第2の反射光の測定回ごとの偏光状態の情報を含むデータの場合、前記第2のノイズ低減処理が、測定回数と測定値との関係において、測定順における測定値の差分の符号が変化する回数をnとし、n/(測定回数-2)の値を、0.50以下にするノイズ低減処理である、光学活性物質の濃度測定方法。
【請求項2】
前記第1のノイズ低減処理および前記第2のノイズ低減処理が、ローパスフィルタ処理を含む、請求項1に記載の光学活性物質の濃度測定方法。
【請求項3】
前記第1のノイズ低減処理および前記第2のノイズ低減処理が、ローパスフィルタ処理およびハイパスフィルタ処理を含む、請求項1に記載の光学活性物質の濃度測定方法。
【請求項4】
前記第1のノイズ低減処理および前記第2のノイズ低減処理が、ローパスフィルタ処理を実施した後、ハイパスフィルタ処理を実施する処理である、請求項3に記載の光学活性物質の濃度測定方法。
【請求項5】
前記ローパスフィルタ処理が、移動平均処理またはサビツキー・ゴーレイ処理である、請求項2~4のいずれか一項に記載の光学活性物質の濃度測定方法。
【請求項6】
前記ハイパスフィルタ処理が、同一条件で測定した複数の前記第1の反射光の波長ごとの偏光状態の情報を含むデータを平均化したデータと処理前のデータとの差分を活用する処理であり、複数の前記第2の反射光の波長ごとの偏光状態の情報を含むデータを平均化したデータと処理前のデータとの差分を活用する処理である、請求項3または4に記載の光学活性物質の濃度測定方法。
【請求項7】
前記光学活性物質が、グルコースである請求項1に記載の光学活性物質の濃度測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学活性物質の濃度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非侵襲の血糖値測定方法として、グルコース濃度に依存する光学特性を利用して、眼の房水に偏光を照射して、房水を通過し水晶体との界面で反射した偏光の旋光度を測定することで、グルコース濃度を測定することが提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、眼の房水に向けて偏光である第1の入射光を照射し、房水と水晶体との界面で第1の入射光が反射して得られる第1の反射光の偏光状態を測定する工程であって、第1の入射光が水晶体の表面と交わる点での接平面に対する法線と、第1の入射光とのなす角度θ1がブリュースター角未満となるように第1の入射光を照射して、第1の反射光の偏光状態を測定する第1工程と、眼の房水に向けて偏光である第2の入射光を照射し、房水と水晶体との界面で第2の入射光が反射して得られる第2の反射光の偏光状態を測定する工程であって、第2の入射光が水晶体の表面と交わる点での接平面に対する法線と、第2の入射光とのなす角度θ2がブリュースター角以上となるように第2の入射光を照射して、第2の反射光の偏光状態を測定する第2工程と、第1工程で得られた第1の反射光の偏光状態の情報と、第2工程で得られた第2の反射光の偏光状態の情報とを用いて、房水の旋光度を算出する第3工程と、房水の旋光度から房水中の光学活性物質の濃度を算出する第4工程と、を有する、光学活性物質の濃度測定方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、血糖値の測定は、ISO(International Organization for Standardization)15197:2013で規定されるコンセンサスエラーグリッド(
図29参照)のAまたはBゾーンに入ることが望まれる。コンセンサスエラーグリッドは、血糖値測定の正確さの評価基準であり、血糖値の測定結果を、基準計測器において得られた血糖値と比較して明確にするためのものである。
【0006】
本発明の課題は、コンセンサスエラーグリッドの基準に合致し得る測定を行うことができる光学活性物質の濃度測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題を解決するために、本発明は、以下の構成を有する。
[1] 眼の房水に向けて偏光である第1の入射光を照射し、房水と水晶体との界面で第1の入射光が反射して得られる第1の反射光の偏光状態を測定する工程であって、第1の入射光が水晶体の表面と交わる点での接平面に対する法線と、第1の入射光とのなす角度θ1がブリュースター角未満となるように第1の入射光を照射して、第1の反射光の偏光状態を測定して、第1の反射光の偏光状態の情報を含む第1データを取得する第1工程と、第1工程で得られた第1の反射光の偏光状態の情報を含む第1データに対して第1のノイズ低減処理を施し、第1のノイズ処理済みデータを取得する第2工程と、
眼の房水に向けて偏光である第2の入射光を照射し、房水と水晶体との界面で第2の入射光が反射して得られる第2の反射光の偏光状態を測定する工程であって、第2の入射光が水晶体の表面と交わる点での接平面に対する法線と、第2の入射光とのなす角度θ2がブリュースター角以上となるように第2の入射光を照射して、第2の反射光の偏光状態を測定して、第2の反射光の偏光状態の情報を含む第2データを取得する第3工程と、第3工程で得られた第2の反射光の偏光状態の情報を含む第2データに対して第2のノイズ低減処理を施し、第2のノイズ処理済みデータを取得する第4工程と、
第2工程で得られた第1のノイズ処理済みデータと、第4工程で得られた第2のノイズ処理済みデータとを用いて、房水の旋光度を算出する第5工程と、
房水の旋光度から房水中の光学活性物質の濃度を算出する第6工程とを、有し、
第1の反射光の偏光状態の情報を含む第1データが、第1の反射光の波長ごとの偏光状態の情報を含むデータ、または、第1の反射光の測定回ごとの偏光状態の情報を含むデータであり、
第1の反射光の偏光状態の情報を含む第1データが、第1の反射光の波長ごとの偏光状態の情報を含むデータの場合、第1のノイズ低減処理が、波長と測定値との関係において、測定波長毎における測定値の差分の符号が変化する回数をnとし、n/(測定波長数-2)の値を、0.50以下にするノイズ低減処理であり、
第1の反射光の偏光状態の情報を含む第1データが、第1の反射光の測定回ごとの偏光状態の情報を含むデータの場合、第1のノイズ低減処理が、測定回数と測定値との関係において、測定順における測定値の差分の符号が変化する回数をnとし、n/(測定回数-2)の値を、0.50以下にするノイズ低減処理であり、
第2の反射光の偏光状態の情報を含む第2データが、第2の反射光の波長ごとの偏光状態の情報を含むデータ、または、第2の反射光の測定回ごとの偏光状態の情報を含むデータであり、
第2の反射光の偏光状態の情報を含む第2データが、第2の反射光の波長ごとの偏光状態の情報を含むデータの場合、第2のノイズ低減処理が、波長と測定値との関係において、測定波長毎における測定値の差分の符号が変化する回数をnとし、n/(測定波長数-2)の値を、0.50以下にするノイズ低減処理であり、
第2の反射光の偏光状態の情報を含む第2データが、第2の反射光の測定回ごとの偏光状態の情報を含むデータの場合、第2のノイズ低減処理が、測定回数と測定値との関係において、測定順における測定値の差分の符号が変化する回数をnとし、n/(測定回数-2)の値を、0.50以下にするノイズ低減処理である、光学活性物質の濃度測定方法。
[2] 第1のノイズ低減処理および第2のノイズ低減処理が、ローパスフィルタ処理を含む、[1]に記載の光学活性物質の濃度測定方法。
[3] 第1のノイズ低減処理および第2のノイズ低減処理が、ローパスフィルタ処理およびハイパスフィルタ処理を含む、[1]に記載の光学活性物質の濃度測定方法。
[4] 第1のノイズ低減処理および第2のノイズ低減処理が、ローパスフィルタ処理を実施した後、ハイパスフィルタ処理を実施する処理である、[3]に記載の光学活性物質の濃度測定方法。
[5] ローパスフィルタ処理が、移動平均処理またはサビツキー・ゴーレイ処理である、[2]~[4]のいずれかに記載の光学活性物質の濃度測定方法。
[6] ハイパスフィルタ処理が、同一条件で測定した複数の第1の反射光の波長ごとの偏光状態の情報を含むデータを平均化したデータと処理前のデータとの差分を活用する処理であり、複数の第2の反射光の波長ごとの偏光状態の情報を含むデータを平均化したデータと処理前のデータとの差分を活用する処理である、[3]または[4]に記載の光学活性物質の濃度測定方法。
[7] 光学活性物質が、グルコースである[1]に記載の光学活性物質の濃度測定方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、コンセンサスエラーグリッドの基準に合致し得る光学活性物質の濃度測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の光学活性物質の濃度測定方法の第1工程を説明するための概念図である。
【
図2】第1工程における計算モデルの説明を行うための概念図である。
【
図4】本発明の光学活性物質の濃度測定方法の第2工程を説明するための概念図である。
【
図5】第2工程における計算モデルの説明を行うための概念図である。
【
図6】空気~角膜での偏光変化を説明するための概念図である。
【
図7】空気-角膜界面での入射角度θ
iと透過率との関係を表すグラフである。
【
図8】角膜~房水での偏光変化を説明するための概念図である。
【
図9】角膜-房水界面での入射角度θ
iと透過率との関係を表すグラフである。
【
図10】房水~水晶体での偏光変化を説明するための概念図である。
【
図11】房水~角膜~空気での偏光変化を説明するための概念図である。
【
図12】ミュラー行列として測定した処理前データの例を概念的に示す図である。
【
図13】測定値の差分の符号が変化する回数を説明するための概念図である。
【
図14】本発明の光学活性物質の濃度測定方法を実施する光学活性物質濃度測定装置の一例を概念的に表す図である。
【
図15】測定部における偏光板の配置を説明するための斜視図である。
【
図17】測定部の他の一例を説明するための模式図である。
【
図18】回転角度と光量との関係を表すグラフである。
【
図19】測定部の他の一例を説明するための模式図である。
【
図20】偏光状態と受光パターンとの関係を表す図である。
【
図21】測定部の他の一例を説明するための模式図である。
【
図22】受光素子の他の一例を説明するための模式図である。
【
図23】実施例で用いたセルを概念的に示す断面図である。
【
図26】実施例1のノイズ処理済みデータの一例を示すグラフである。
【
図27】実施例3のノイズ処理済みデータの一例を示すグラフである。
【
図28】比較例1のノイズ処理済みデータの一例を示すグラフである。
【
図29】コンセンサスエラーグリッドを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の光学活性物質の濃度測定方法について、添付の図面に示される好適実施例を基に詳細に説明する。
【0011】
本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
本明細書において、「同じ」、「等しい」等の用語は、技術分野で一般的に許容される誤差範囲を含むものとする。また、角度についても、技術分野で一般的に許容される誤差範囲を含むものとする。
【0012】
[光学活性物質の濃度測定方法]
本発明の光学活性物質の濃度測定方法は、
眼の房水に向けて偏光である第1の入射光を照射し、房水と水晶体との界面で第1の入射光が反射して得られる第1の反射光の偏光状態を測定する工程であって、第1の入射光が水晶体の表面と交わる点での接平面に対する法線と、第1の入射光とのなす角度θ1がブリュースター角未満となるように第1の入射光を照射して、第1の反射光の偏光状態を測定して、第1の反射光の偏光状態の情報を含む第1データを取得する第1工程と、
第1工程で得られた第1の反射光の偏光状態の情報を含む第1データに対して第1のノイズ低減処理を施し、第1のノイズ処理済みデータを取得する第2工程と、
眼の房水に向けて偏光である第2の入射光を照射し、房水と水晶体との界面で第2の入射光が反射して得られる第2の反射光の偏光状態を測定する工程であって、第2の入射光が水晶体の表面と交わる点での接平面に対する法線と、第2の入射光とのなす角度θ2がブリュースター角以上となるように第2の入射光を照射して、第2の反射光の偏光状態を測定して、第2の反射光の偏光状態の情報を含む第2データを取得する第3工程と、
第3工程で得られた第2の反射光の偏光状態の情報を含む第2データに対して第2のノイズ低減処理を施し、第2のノイズ処理済みデータを取得する第4工程と、
第2工程で得られた第1のノイズ処理済みデータと、第4工程で得られた第2のノイズ処理済みデータとを用いて、房水の旋光度を算出する第5工程と、
房水の旋光度から房水中の光学活性物質の濃度を算出する第6工程とを、有し、
第1の反射光の偏光状態の情報を含む第1データが、第1の反射光の波長ごとの偏光状態の情報を含むデータ、または、第1の反射光の測定回ごとの偏光状態の情報を含むデータであり、
第1の反射光の偏光状態の情報を含む第1データが、第1の反射光の波長ごとの偏光状態の情報を含むデータの場合、第1のノイズ低減処理が、波長と測定値との関係において、測定波長毎における測定値の差分の符号が変化する回数をnとし、n/(測定波長数-2)の値を、0.50以下にするノイズ低減処理であり、
第1の反射光の偏光状態の情報を含む第1データが、第1の反射光の測定回ごとの偏光状態の情報を含むデータの場合、第1のノイズ低減処理が、測定回数と測定値との関係において、測定順における測定値の差分の符号が変化する回数をnとし、n/(測定回数-2)の値を、0.50以下にするノイズ低減処理であり、
第2の反射光の偏光状態の情報を含む第2データが、第2の反射光の波長ごとの偏光状態の情報を含むデータ、または、第2の反射光の測定回ごとの偏光状態の情報を含むデータであり、
第2の反射光の偏光状態の情報を含む第2データが、第2の反射光の波長ごとの偏光状態の情報を含むデータの場合、第2のノイズ低減処理が、波長と測定値との関係において、測定波長毎における測定値の差分の符号が変化する回数をnとし、n/(測定波長数-2)の値を、0.50以下にするノイズ低減処理であり、
第2の反射光の偏光状態の情報を含む第2データが、第2の反射光の測定回ごとの偏光状態の情報を含むデータの場合、第2のノイズ低減処理が、測定回数と測定値との関係において、測定順における測定値の差分の符号が変化する回数をnとし、n/(測定回数-2)の値を、0.50以下にするノイズ低減処理である、光学活性物質の濃度測定方法である。
【0013】
<第1工程>
図1に、本発明の光学活性物質の濃度測定方法の第1工程を説明するための概念図を示す。
【0014】
第1工程は、光源(図示せず)から、眼10の房水14に向けて偏光である第1の入射光Sin1を入射し、房水14と水晶体16との界面で反射して眼10から出射される反射光Sout1の偏光状態を測定部(図示せず)で測定する工程である。
【0015】
具体的には、まず、光源から出射された第1の入射光Sin1は、矢印I1で示すように、空気中を通過して角膜12に入射する。角膜12に入射した光は、矢印I2で示すように、角膜12を通過して房水14に入射する。房水14に入射した光は、矢印I3で示すように、房水14中を通って水晶体16に到達し、房水14と水晶体16との界面で反射する。反射した光は、矢印I4で示すように、房水14中を通って角膜12に入射する。角膜12に入射した光は、矢印I5で示すように、角膜12を通過して眼10から出射される。出射された光(矢印I6)は測定部に入射する。測定部により、第1の反射光Sout1の偏光状態を測定する。
反射光の偏光状態を測定する測定部については後に詳述する。偏光状態の測定は、反射光を受光する受光部が二次元的に配置された二次元センサーを用いて行うことが好ましい。
【0016】
このような第1工程において、光は進行するにしたがって角膜12、房水14および反射の影響によって偏光状態が変化する。第1工程において光が受ける偏光状態の変化を計算するためのモデルを
図2に示す。
図2は、図中左側から、入射側の角膜12a、入射側の房水14a、反射側の房水14b、および、反射側の角膜12bの順に入射光Sin1が通過して反射光Sout1として出射されることを意味する。
【0017】
角膜12および房水14はそれぞれ、光の偏光状態を変化させる光学特性、具体的には旋光性を有している。旋光性とは入射した直線偏光の偏光面を回転させる作用を生じる光学特性である。従って、第1の入射光Sin1は、入射側の角膜12a、入射側の房水14a、反射側の房水14b、および、反射側の角膜12bを通過する際にそれぞれの部位で偏光面を回転されて第1の反射光Sout1として出射される。
【0018】
ここで、第1工程においては、入射光Sin1が房水14と水晶体16との界面で反射される際の、第1の入射光Sin1の角度θ
1がブリュースター角未満である。なお、入射光の角度θは、
図3に示すように、入射光が水晶体16の表面(界面)と交わる点での接平面Hを規定した際の接平面Hに対する法線Nと、入射光の進行方向(矢印I
3)とのなす角度である。なお、以下の説明においては、第1工程における第1の入射光Sin1の角度をθ
1、第3工程における第2の入射光Sin2の角度をθ
2とする。また、ブリュースター角θ
Bとは、入射側の媒質(
図3においては房水14)の屈折率をni、反射側の媒質(
図3においては水晶体16)の屈折率をntとして、tanθ
B=nt/niで表される角度である。
【0019】
第1の入射光Sin1の角度θ1がブリュースター角未満である場合には、房水14と水晶体16との界面に入射すると、房水に比べて水晶体の屈折率は高いため、s偏光は位相がπずれて、p偏光は位相がずれない。なお、入射面とは反射面に垂直で入射光線と反射光線とを含む面である。
そのため、房水14と水晶体16との界面で反射する前に光が房水14を通過する際(矢印I3)に房水14の旋光性により偏光面が回転される角度(旋光度(旋光角))と、反射した後に光が房水14を通過する際(矢印I4)の房水14の旋光性による旋光度とが互いに打ち消されて、房水14を通過することによる旋光度は略0となる。
【0020】
一方、房水14と水晶体16との界面で反射する前に光が角膜12を通過する際(矢印I2)の角膜12の複屈折性による偏光変化と、反射した後に光が角膜12を通過する際(矢印I5)の角膜12の複屈折性による偏光変化とは完全な打ち消し合いにはならず、角膜12を通過することによる旋光度は0にはならない。
これは斜め入射偏光に対して、入射側と反射側で軸角度が異なるためである。
【0021】
一般に、房水14のように旋光性の光学素子は、ポアンカレ球の北極または南極を回転中心として、レタデーションの分だけ回転する光学的な作用を及ぼす(サーキュラーレタデーションともいう)。回転中心の位置が決まっているため、軸という概念がなく、入射方向等のかかわらず、同じ回転方向でレタデーション分だけ光を回転させる。
一方、角膜12のように複屈折性の光学素子は、ポアンカレ球の赤道上を回転中心として、レタデーション分だけ回転する光学的な作用を及ぼす(リニアレタデーションともいう)。赤道上のどの点を回転中心にするかは、遅相軸の方向に依存する。このように軸を有する複屈折性の光学素子では、光が入射する方向によって、軸ズレが生じる。
そのため、上記のとおり、第1工程において、房水14を通過することによる旋光度は、入射側と反射側とで打ち消されるが、角膜12を通過することによる偏光変化は、入射側と反射側とで打ち消されない。
【0022】
そのため、第1工程で測定される第1の反射光の偏光状態は、房水14の旋光性の影響は無視でき、実質的に角膜12の光学特性の影響のみを受けたものとみなすことができる。従って、第1工程の第1の入射光Sin1の偏光状態の情報と、第1の反射光Sout1の偏光状態の情報とから角膜12の光学特性を算出することができる。
【0023】
ここで、第1工程において取得する第1の反射光の偏光状態の情報を含むデータ(以下、第1データともいう)は、第1の反射光の偏光状態を表すストークスベクトル(ストークスパラメータ)等の、光の偏光状態そのものを表すパラメータとして測定してもよいし、ミュラー行列等の光が通過した経路上の物質の偏光特性を表すパラメータとして測定してもよい。第1工程における光が通過した経路上の物質は、
図2に示す入射側の角膜12a、入射側の房水14a、反射側の房水14b、および、反射側の角膜12bに相当する。すなわち、第1データは、これらの物質による偏光特性を表すものであってもよい。このような偏光特性は、第1の入射光の偏光状態の情報と、第1の反射光の偏光状態の情報とから求められる。したがって、第1データが偏光特性を表すものである場合にも、第1データは、第1の反射光の偏光状態の情報を含むデータであると言える。
【0024】
また、第1工程において取得する第1の反射光の偏光状態の情報を含むデータ(第1データ)は、第1の反射光の波長ごとの偏光状態の情報を含むデータ、または、第1の反射光の測定回ごとの偏光状態の情報を含むデータである。第1の反射光の偏光状態の情報を含むデータが、波長ごとの偏光状態の情報を含むデータである場合、上述した第1工程において、第1の入射光の波長を、例えば、1nm刻みで順次変えて、各波長における第1の反射光の偏光状態の情報を取得する。あるいは、第1の入射光として白色光等のブロードな光を用い、第1の反射光をプリズム等で分離して波長ごとの第1の反射光の偏光状態の情報を取得する。これにより、第1の反射光の偏光状態の情報を含むデータを、波長ごとの偏光状態の情報を含むデータとして取得する。
【0025】
また、第1の反射光の偏光状態の情報を含むデータ(第1データ)が、第1の反射光の測定回ごとの偏光状態の情報を含むデータである場合、上述した第1工程において、所定の波長の第1の入射光の照射と第1の反射光の偏光状態の情報の取得とを、所定の時間間隔(例えば、0.1~120秒)で複数回繰り返して、第1の反射光の測定回ごとの偏光状態の情報を含む第1データを取得する。
【0026】
第1工程で取得した第1の反射光の偏光状態の情報を含むデータ(第1データ)は、第2工程において、第1のノイズ低減処理を施され、第1のノイズ処理済みデータとして第5工程に供される。第2工程については後に詳述する。
【0027】
<第3工程>
次に、第3工程について
図4を用いて説明する。
図4は、本発明の光学活性物質の濃度測定方法の第3工程を説明するための概念図を示す。
【0028】
第3工程は、光源(図示せず)から、眼10の房水14に向けて偏光である第2の入射光Sin2を入射し、房水14と水晶体16との界面で反射して眼10から出射される反射光Sout2の偏光状態を測定部(図示せず)で測定する工程である。
【0029】
具体的には、まず、光源から出射された第2の入射光Sin2は、矢印I7で示すように、空気中を通過して角膜12に入射する。角膜12に入射した光は、矢印I8で示すように、角膜12を通過して房水14に入射する。房水14に入射した光は、矢印I9で示すように、房水14中を通って水晶体16に到達し、房水14と水晶体16との界面で反射する。反射した光は、矢印I10で示すように、房水14中を通って角膜12に入射する。角膜12に入射した光は、矢印I11で示すように、角膜12を通過して眼10から出射される。出射された光(矢印I12)は測定部に入射する。測定部により、第2の反射光Sout2の偏光状態を測定する。
【0030】
このような第3工程において、光は進行するにしたがって角膜12、房水14および反射の影響によって偏光状態が変化する。第3工程において光が受ける偏光状態の変化を計算するためのモデルを
図5に示す。
図5は、図中左側から、入射側の角膜12a、入射側の房水14a、水晶体16の反射、反射側の房水14b、および、反射側の角膜12bの順に第2の入射光Sin2が通過して第2の反射光Sout2として出射されることを意味する。
第2の入射光Sin2は、入射側の角膜12a、入射側の房水14a、反射側の房水14b、および、反射側の角膜12bを通過する際にそれぞれの部位で偏光面を回転されて第2の反射光Sout2として出射される。
【0031】
ここで、第3工程においては、入射光Sinが房水14と水晶体16との界面で反射される際の、第2の入射光Sin2の角度θ2がブリュースター角以上である。
【0032】
第2の入射光Sin2の角度θ2がブリュースター角以上である場合には、房水14と水晶体16との界面に入射すると、房水に比べて水晶体の屈折率は高いため、s偏光は位相がπずれて、p偏光も位相がπずれる。従って、反射後の光の偏光状態は、実質変化しない。
そのため、房水14と水晶体16との界面で反射する前に光が房水14を通過する際(矢印I9)に房水14の旋光性により偏光面が回転される角度(旋光度)と、反射した後に光が房水14を通過する際(矢印I10)の房水14の旋光性による旋光度とは互いに打ち消されることはなく、光は房水14を通過することによる旋光性の影響を受ける。
【0033】
また、房水14と水晶体16との界面で反射する前に光が角膜12を通過する際(矢印I8)の角膜12の複屈折性による旋光度と、反射した後に光が角膜12を通過する際(矢印I11)の角膜12の複屈折性による旋光度とも打ち消し合いにはならず、角膜12を通過することによる光学特性の影響を受ける。
【0034】
そのため、第3工程で測定される第2の反射光の偏光状態は、房水14の旋光性の影響と、角膜12の光学特性(複屈折性)の影響を受けたものとなる。
【0035】
ここで、第3工程において取得する第2の反射光の偏光状態の情報を含むデータ(以下、第2データともいう)は、第2の反射光の偏光状態を表すストークスベクトル等の、光の偏光状態そのものを表すパラメータとして測定してもよいし、ミュラー行列等の、光が通過した経路上の物質の偏光特性を表すパラメータとして測定してもよい。第3工程における光が通過した経路上の物質は、
図5に示す入射側の角膜12a、入射側の房水14a、反射側の房水14b、および、反射側の角膜12bに相当する。すなわち、第2データは、これらの物質による偏光特性を表すものであってもよい。このような偏光特性は、第2の入射光の偏光状態の情報と、第2の反射光の偏光状態の情報とから求められる。したがって、第2データが偏光特性を表すものである場合にも、第2データは、第2の反射光の偏光状態の情報を含むデータであると言える。
【0036】
また、第3工程において取得する第2の反射光の偏光状態の情報を含むデータ(第2データ)は、第2の反射光の波長ごとの偏光状態の情報を含むデータ、または、第2の反射光の測定回ごとの偏光状態の情報を含むデータである。第2の反射光の偏光状態の情報を含むデータが、第2の反射光の波長ごとの偏光状態の情報を含むデータである場合、上述した第3工程において、第2の入射光の波長を、例えば、1nm刻みで順次変えて、各波長における第2の反射光の偏光状態の情報を取得する。あるいは、第2の入射光として白色光等のブロードな光を用い、第2の反射光をプリズム等の光学素子で分離して波長ごとの第2の反射光の偏光状態の情報を取得する。これにより、第2の反射光の偏光状態の情報を含む第2データを、第2の反射光の波長ごとの偏光状態の情報を含むデータとして取得する。
【0037】
また、第2の反射光の偏光状態の情報を含むデータ(第2データ)が、第2の反射光の測定回ごとの偏光状態の情報を含むデータである場合、上述した第3工程において、所定の波長の第2の入射光の照射と第2の反射光の偏光状態の情報の取得とを、所定の時間間隔(例えば、0.1~120秒)で複数回繰り返して、第2の反射光の測定回ごとの偏光状態の情報を含む第2データを取得する。
【0038】
第4工程で取得した第2の反射光の偏光状態の情報を含むデータ(第2データ)は、第2のノイズ低減処理が施され、第2のノイズ処理済みデータとして第5工程に供される。第4工程については後に詳述する。
【0039】
<第5工程>
次に、第5工程について説明する。
第5工程は、第2工程で得られた第1のノイズ処理済みデータと、第4工程で得られた第2のノイズ処理済みデータとを用いて、房水14の旋光度を算出する工程である。
【0040】
第5工程における旋光度の算出方法は後に詳述する。
【0041】
<第6工程>
次に、第6工程は、上記第5工程で算出された房水14の旋光度から、房水14中のグルコース等の光学活性物質の濃度を算出する工程である。
【0042】
房水は、血清とほぼ同じ成分であって、タンパク質、グルコース、アスコルビン酸等が含まれている。そして、血液中のグルコース濃度と房水中のグルコース濃度とに相関関係があることが知られている。さらに、房水中には、血液中の細胞物質が存在せず、光散乱の影響が小さい。そして、房水に含まれるタンパク質、グルコース、アスコルビン酸等は光学活性物質であって、旋光性を有している。よって、房水は、旋光性を利用して光学的にグルコースなどの濃度を計測する部位として有利である。そして、光学的に房水中のグルコースなどの濃度が計測できれば、非侵襲で血糖値を検出することができる。
【0043】
旋光度から糖濃度を算出する方法としては、一般的に知られているグルコース水溶液の旋光度を用いる方法、あるいは、最初のみ採血で測定した血糖値を用いて補正する方法など、種々の公知の方法を用いることができる。
【0044】
具体的には、グルコース水溶液の単位濃度および単位長さ当たりの旋光性が知られている。また、眼(房水)の中における光の通過距離はある程度予想でき、また、測定することも可能である。従って、第6工程では、第5工程で求めた房水による旋光度から、房水中のグルコースの濃度を求めることができる。
【0045】
眼の房水に偏光を照射して、房水を通過した偏光の旋光度を測定してグルコース濃度を測定する方法では、房水に偏光を入射する際および偏光が水晶体で反射して出射される際に、眼の角膜を通過する。角膜は房水に比べて偏光を変化させやすい光学特性を有する。そのため、房水による旋光度を精度よく測定することができず、したがって、房水中のグルコース濃度の測定精度が低いという問題があった。
【0046】
これに対して、本発明の光学活性物質の濃度測定方法では、房水に向けて、入射光の角度θがブリュースター角未満となるように第1の入射光を照射して第1の反射光の偏光状態を測定する第1工程と、入射光の角度θがブリュースター角以上となるように第2の入射光を照射して第2の反射光の偏光状態を測定する第3工程と、を有し、ブリュースター角未満で測定して得られた第1の反射光の偏光状態の情報を含む第1データに対して第1のノイズ低減処理を施した第1のノイズ処理済みデータと、ブリュースター角以上で測定して得られた第2の反射光の偏光状態の情報を含む第2データに対して第2のノイズ低減処理を施した第2のノイズ処理済みデータとを用いて房水による旋光度を算出して、この旋光度から房水中の光学活性物質の濃度を算出する。
【0047】
前述のとおり、第1工程で測定される第1の反射光の偏光状態は、房水14の旋光性の影響は無視でき、実質的に角膜12の光学特性の影響のみを受けたものとみなすことができる。そのため、第1工程で測定される第1の反射光Sout1の偏光状態の情報から角膜12の光学特性を算出することができる。この角膜12の光学特性の情報と第3工程で測定される第2の反射光Sout2の偏光状態の情報とから房水14による旋光度を高い精度で算出することができる。したがって、房水中の光学活性物質の濃度を高い精度で測定することができる。
【0048】
以下、第1工程および第3工程の各過程で起こる偏光変化について説明する。
まず、空気中から角膜12に光が入射する際には(矢印I
1)、空気と角膜12との界面で強度変化が生じる(過程Aとする)。この強度変化は、角膜12への入射角度θ
i(
図6参照)に依存しており、また、p偏光とs偏光とで異なる変化が生じる。
図7に入射角度θ
iと透過率との関係を表すグラフを示す。
【0049】
空気中から角膜12に入射した光は角膜12中を進行する(矢印I2、過程Bとする)。角膜12は光学特性として複屈折性を有する。そのため、角膜12中を進行する光は角膜12の複屈折性によって位相変化が生じる。前述のとおり、この角膜12の複屈折性は、第1工程で測定される第1の反射光の偏光状態の情報から算出することができる。
【0050】
次に、
図8に示すように、光は角膜12から房水14に入射する(矢印I
2~矢印I
3、過程Cとする)。角膜12と房水14とは屈折率が近い。そのため、
図9にグラフで示すように、角膜12と房水14との界面に対する光の入射角が0°から65°程度まではほぼ強度変化が生じない。また、
図9に示すように、p偏光とs偏光とで差が生じない。
【0051】
角膜12から房水14に入射した光は、房水14中を進行する(矢印I3、過程Dとする)。房水14は旋光性を有する。そのため、房水14中を進行する光は房水14の旋光性によって位相変化が生じる。前述のとおり、この房水14の旋光性は、第1工程で測定して得られる第1の反射光の偏光状態の情報を含む第1データに対して、第2工程で第1のノイズ低減処理を施した第1のノイズ処理済みデータ、および、第3工程で測定して得られる第2の反射光の偏光状態の情報を含む第2データに対して、第4工程で第2のノイズ低減処理を施した第2のノイズ処理済みデータから算出することができる。
【0052】
房水14中を進行した光は、
図10に示すように、水晶体16に到達し、房水14と水晶体16との界面で反射される(矢印I
3~矢印I
4、過程Eとする)。ここで、前述のとおり、房水14と水晶体16との界面に入射する光の角度θがブリュースター角未満である場合には、房水に比べて水晶体の屈折率は高いため、s偏光は位相がπずれて、p偏光は位相がずれない。一方、房水14と水晶体16との界面に入射する光の角度θがブリュースター角以上である場合には、s偏光は位相がπずれて、p偏光も位相がπずれる。
【0053】
房水14と水晶体16との界面で反射された光は、房水14中を進行する(矢印I4、過程Fとする)。前述のとおり、房水14は旋光性を有する。そのため、房水14中を進行する光は房水14の旋光性によって位相変化が生じる。前述のとおり、第1工程のように、房水14と水晶体16との界面で反射される際の光の角度θがブリュースター角未満である場合には、反射前(矢印I3)に房水14から受ける旋光性の影響と、反射後(矢印I4)に房水14から受ける旋光性の影響とが互いに打ち消しあう。
【0054】
なお、反射面が平板状である場合には、ブリュースター角を超えると全反射するが、水晶体の表面(界面)がカーブしているため、反射光は出てくる。
【0055】
房水14中を進行した光は、
図11に示すように、房水14から角膜12に入射する(矢印I
4~矢印I
5、過程Gとする)。前述のとおり、角膜12と房水14とは屈折率が近いため、強度変化はほぼ生じない。
【0056】
房水14から角膜12に入射した光は角膜12中を進行する(矢印I5、過程Hとする)。前述のとおり、角膜12は光学特性として複屈折性を有するため、角膜12中を進行する光は角膜12の複屈折性によって位相変化が生じる。
【0057】
角膜12中を進行した光は、空気中に出射される(矢印I5~矢印I6、過程Iとする)。前述のとおり、空気と角膜12との界面では強度変化が生じる。
【0058】
このような各過程をモデル化すると、Sout=MIHG・MF・ME・MD・MCBA・Sinの式で表すことができる。ここで、Sinは入射光のストークスベクトルであり、Soutは反射光のストークスベクトルであり、Mは各過程を表すミュラー行列である。すなわち、MCBAは、過程A~過程Cのミュラー行列であり、MDは、過程Dのミュラー行列であり、MEは、過程Eのミュラー行列であり、MFは、過程Fのミュラー行列であり、MIHGは、過程G~過程Iのミュラー行列である。
ミュラー行列については、[10] S.-Y. Lu and R. A. Chipman, " Interpretation of mueller matrices based on polar decomposition ", J. Opt. Soc. Am. A, 13, (1996), 1106-1113.に記載されている。
【0059】
第5工程では、このようなモデル式を用いて房水の旋光度を算出する。以下、このようなモデル式について詳述する。
まず、一般的な反射による偏光変化のミュラー行列Mrefについて説明する。
反射による偏光変化のミュラー行列Mrefは、次式で表すことができる(例えば、藤原裕之著、分光エリプソメトリー、p.65、表3・2参照)。
【数1】
A、Ψ、Δは以下の式で表される。
【数2】
【数3】
ここで、r
p、r
sはそれぞれp波とs波に関する反射光の振幅反射係数であり、フレネルの式から導出される。また、r
p
*とr
s
*はそれらの複素共役であり(r
pが実数の場合は、r
p
*=r
p)、δrpとδrsは、それぞれ、反射光のp波とs波のそれぞれの位相を表し、Δは位相差を表す。
【0060】
前述のとおり、ブリュースター角θ
Bは、tanθ
B=nt/niで算出される角度である。反射側の媒質に吸収がなく、nt>niの場合、反射側の媒質に入射する角度がブリュースター角未満の時とブリュースター角以上の時の、δrp、δrsは以下の関係式となる(例えば、ヘクト著、光学I、p.182、
図4.44(a)、(b)参考)。
ブリュースター角未満の場合:
δrp=0[deg]、δrs=180[deg]、Δ=-180[deg]
ブリュースター角以上の場合:
δrp=180[deg]、δrs=180[deg]、Δ=0[deg]
【0061】
次に、偏光である入射光を、自然光と偏光子と位相差素子の組み合わせで表す式について説明する。
入射偏光Spolinは、光源の自然光を偏光子と位相差素子の組み合わせで種々設定できる。つまり、入射偏光と自然光のストークスベクトルをそれぞれSpolin、Sinとすると、以下の式から決めることができる。ここで、Mpol(θpol)は透過軸がθpol方向である偏光子のミュラー行列であり、Mret(θret、φ)は遅相軸がθret方向で遅相方向と進相方向の位相差φを有する位相差素子のミュラー行列である。
【数4】
【数5】
【数6】
【数7】
【0062】
次に、第1工程および第3工程で測定される反射光の偏光状態を表す式について説明する。
前述のとおり、第1工程および第3工程で測定される反射光の偏光状態は、Sout=M
IHG・M
F・M
E・M
D・M
CBA・Sinの式で表すことができる。Sinは上記Spolinの式で表すことができる。M
Eは反射のミュラー行列であり、上記Mrefと同じ式で表すことができる。M
IHGとM
CBAとは、角膜のミュラー行列であり、上記Mretと同じ式で表すことができる。以下、M
IHGをM
c2(θ
c2,φ
c2)、M
CBAをM
c1(θ
c1,φ
c1)とする。M
FとM
Dとは、房水のミュラー行列であり、旋光性がεである旋光子のミュラー行列Mrotと同じ式で表すことができる。以下、M
FをM
h2(ε
h2)、M
DをM
h1(ε
h1)とする。
【数8】
【0063】
以上から、第1工程および第3工程で測定される反射光Soutの偏光状態は以下の式で表される。
【数9】
・・・・式(1)
【0064】
次に、第5工程における上記式を用いた房水の旋光度(ミュラー行列)の算出方法について説明する。
入射偏光Spolinは、入射光の照射時の設定から既知であり、反射偏光Soutは測定から既知である。一方、眼の角膜および房水のミュラー行列は未知である。第5工程では、第1工程で取得する第1の反射光の偏光状態の情報を含む第1データ、および、第3工程で取得する第2の反射光の偏光状態の情報を含むデータ第2データが、反射光の偏光状態を表すストークスベクトル等の、光の偏光状態そのものを表すパラメータである場合には、第1工程および第3工程で測定した反射光の偏光状態の情報を含む第1データ、および第2データのそれぞれに対してノイズ低減処理を施した第1のノイズ処理済みデータおよび第2のノイズ処理済みデータを用いて角膜および房水のミュラー行列を求める。
【0065】
前述のとおり、第1工程では、房水から水晶体への入射光の角度θがブリュースター角未満になるように、空気層から偏光を入射し、反射偏光を測定する。反射前後の房水と通る光の光路長はほぼ同じであるため、εh1とεh2はほぼ等しい値であり、角度θをブリュースター角未満にすることで位相差が180度ずれる。そのため、入射側の房水による旋光性(Mh1(εh1))と反射側の房水による旋光性(Mh2(εh2))がほぼキャンセルされる(つまり、Mh2(εh2)Mref(Ψ、Δ)Mh1(εh1)が単位行列に近くなる)。そのため、第1工程における上記式(1)は、ほぼ角膜のミュラー行列とみなすことができる。
これを考慮し、SoutとSpolinの関係を上記式(1)でフィッティングすることで、角膜の位相差と軸(θc1、φc1、θc2、φc2)を高精度に求めることができる。
【0066】
なお、フィッティングの方法としては、最小二乗法を用いることができる。非線形最小二乗法では、関数R(λ)と測定値である規格化された偏光状態の変化量Rとの差の二乗和が最小になるように、未知数(変数)を変化させながら関数R(λ)に当てはめていく。この方法には、レーベンバーグ・マルカート法、準ニュートン法、および共役勾配法などのアルゴリズムが用いられる。
【0067】
次に、房水から水晶体へ入射光の角度θがブリュースター角以上になるようにして反射光を測定する第3工程の測定結果(第2の反射光の偏光状態の情報を示す第2データ)と、上記で求めた角膜の位相差と軸(θc1、φc1、θc2、φc2)を用いて、SoutとSpolinの関係を上記式(1)でフィッティングすることで、房水の旋光性(房水の旋光性を示すミュラー行列の行列要素)を求めることができる。
角度θをブリュースター角以上にすると位相変化はなくなるため、入射側の房水による旋光性(Mh1(εh1))と反射側の房水による旋光性(Mh2(εh2))が足し合わされ、旋光性がほぼ2倍になる。このことと上記で求めた角膜の位相差および軸(θc1、φc1、θc2、φc2)の情報から、房水の旋光性(房水の旋光性を示すミュラー行列の行列要素)を高精度で決めることができる。
このようにブリュースター角以上とブリュースター角未満の2つで測定を行うことで、角膜の複屈折性と房水の旋光性を切り分けて算出することができ、房水の旋光性(ミュラー行列)を高精度で求めることできる。
【0068】
一方、第1工程で取得する第1の反射光の偏光状態の情報を含む第1データ、および、第3工程で取得する第2の反射光の偏光状態の情報を含む第2データが、ミュラー行列等の、光が通過した経路上の物質の偏光特性を表すパラメータである場合には、第5工程では、第1工程および第3工程で測定した反射光の偏光状態の情報を含む第1データおよび第2データのそれぞれに対してノイズ低減処理を施した第1のノイズ処理済みデータ、および第2のノイズ処理済みデータを用いて房水のミュラー行列を求める。
【0069】
第1工程で取得する第1の反射光の偏光状態の情報を含む第1データは、房水から水晶体へ入射光の角度θがブリュースター角未満の場合の経路全体のミュラー行列(式(1)のMc2・Mh2・Mref・Mh1・Mc1)として測定される。第3工程で取得する第2の反射光の偏光状態の情報を含む第2データは、房水から水晶体へ入射光の角度θがブリュースター角以上の場合の経路全体のミュラー行列(式(1)のMc2・Mh2・Mref・Mh1・Mc1)として測定される。従って、第1工程で取得したミュラー行列の各行列要素に対して第1のノイズ低減処理を施して第1のノイズ処理済みデータを取得し、また、第3工程で取得したミュラー行列の各行列要素に対して第2のノイズ低減処理を施して第2のノイズ処理済みデータを取得して、第1のノイズ処理済みデータおよび第2のノイズ処理済みデータを用いて房水のミュラー行列を求める。
【0070】
なお、第1工程~第4工程を実施する順番には特に限定はなく、第1工程を行った後に第3工程を行ってもよいし、第3工程を行った後に第1工程を行ってもよい。また、第1工程および第3工程を行った後に、第2工程および第4工程を行ってもよいし、まず、第1工程を行って第2工程を行い、次に、第3工程を行って第4工程を行ってもよい。また、第5工程において、角膜の光学特性を算出するタイミングにも特に限定はない。すなわち、第1工程を行って第2工程を行った後、第3工程を行う前に、第5工程の一部(角膜の光学特性を算出する工程)を行い、その後、第3工程および第4工程を行った後に、第5工程の残りの工程(房水の旋光度を算出する工程)を行ってもよい。
【0071】
ここで、第1の入射光が水晶体の表面と交わる点での接平面に対する法線と、第1の入射光とのなす角度θ1が異なる条件で複数回、第1工程を実施して、第1の反射光の偏光状態の情報を含む第1データを複数個取得して、取得された複数個の第1データ(第1のノイズ処理済みデータ)を用いて、第5工程を実施することが好ましい。
角度θ1が異なる条件で複数回、第1工程を実施して、複数個の反射光の偏光状態の情報を含む第1データを用いて角膜の光学特性をフィッティングにて算出することで、より高い精度で角膜の光学情報を求めることができる。
【0072】
また、前述のとおり、第1工程の結果から、角膜の光学特性(複屈折性)を算出することができる。ここで、上記式(1)で求められる角膜の位相差は、光の入射方向から見た面内レタデーションReに相当するが、角膜は厚さ方向レタデーションRthも有している。1回の測定からはこの厚さ方向レタデーションRthは算出することができないが、角度θ1が異なる条件で複数回、第1工程を実施して、第1の反射光の偏光状態の情報を含む第1データを複数個取得して、複数の第1データを用いて複数の上記式(1)を立ててフィッティングを行なうことで、角膜の面内レタデーションReおよび厚さ方向レタデーションRthを算出することができる。
【0073】
また、第2の入射光が水晶体の表面と交わる点での接平面に対する法線と、第2の入射光とのなす角度θ2が異なる条件で複数回、第3工程を実施して、第2の反射光の偏光状態の情報を含む第2データを複数個取得して、取得された複数個の第2データ(第2のノイズ処理済みデータ)を用いて、第5工程を実施することが好ましい。
角度θ2が異なる条件で複数回、第3工程を実施して、複数個の反射光の偏光状態の情報を含む第2データを用いて房水の旋光性をフィッティングにて算出することで、より高い精度で房水の旋光性を求めることができる。
【0074】
また、第1の反射光の偏光状態の情報を含む第1データが、第1の反射光の測定回ごとの偏光状態の情報を含むデータである場合、第1の入射光の波長を変更して複数回、第1工程を実施して、第1の反射光の偏光状態の情報を含む第1データを複数個取得して、取得された複数個の第1データ(第1のノイズ処理済みデータ)を用いて、第5工程を実施することが好ましい。
【0075】
また、第2の反射光の偏光状態の情報を含む第2データが、第2の反射光の測定回ごとの偏光状態の情報を含むデータである場合、第2の入射光の波長を変更して複数回、第3工程を実施して、第2の反射光の偏光状態の情報を含む第2データを複数個取得して、取得された複数個の第2データ(第2のノイズ処理済みデータ)を用いて、第5工程を実施することが好ましい。
【0076】
房水中にはグルコース以外に旋光性を有する成分として、アルブミン、および、アスコルビン酸等を含有することが知られている。ここで、光学活性物質による旋光度の波長依存性は、光学活性物質の種類によって異なっている。そこで、入射光の波長を変更して複数回、第1工程および/または第3工程を実施して、反射光の偏光状態の情報を含む第1データおよび/または第2データを複数個取得することで、各光学活性物質の波長依存性に基づいて、房水中の光学活性物質のうちグルコースの割合を求めることができる。このような作用は、第1の反射光の偏光状態の情報を含む第1データが、第1の反射光の波長ごとの偏光状態の情報を含むデータである場合、および、第2の反射光の偏光状態の情報を含む第2データが、第2の反射光の波長ごとの偏光状態の情報を含むデータである場合も同様に得られる。
【0077】
具体的には、ある単一の光学活性物質を含む被測定物において、波長λに対する旋光度φは、光路長L、濃度Cの積で表される。旋光度φは、極大点および/または極小点より長い波長領域において単調減少又は単調増加となる非線形関数であるドルーデ単項式で表される。ドルーデ単項式は、光学活性物質の旋光分散を表す関数の一例である。被測定物が複数の光学活性物質を含む場合、観測される旋光度φは、ドルーデ単項式で表される各光学活性物質の旋光度φjの足し合わせによって記述される。言い換えると、観測される旋光度φは、各光学活性物質の旋光度φjの波長依存性を表す関数の和によって表される。なお、jは1以上の整数である。
【0078】
一例として、房水による旋光度φAHは、下記式(2)に示す二つのドルーデの単項式の和で表されるとする。右辺第1項は、求めたい光学活性物質をグルコースとした場合にグルコースが寄与する項である。右辺第2項は、グルコースを除くその他の光学活性物質が寄与する項である。グルコースの濃度をグルコース濃度Cgとする。Ag、λgは、光学活性物質(グルコース)に固有の定数(光学活性物質(グルコース)の旋光分散の特性を規定する固有値)である。Ax、λxは、その他の光学活性物質をまとめた場合の固有値である。また、Lは光路長である。よって、房水による旋光度φAHは、グルコース濃度Cg及び他の光学活性物質をまとめた場合の固有値であるAx、λxの関数として表される。
【0079】
【0080】
なお、式(2)では、房水に含まれるグルコース以外の他の光学活性物質をまとめたが、他の光学活性物質に対する複数の項で表してもよい。例えば、グルコースの項に加えて、アルブミンおよびグロブリンなどの項を設けてもよい。このとき、項を設けた光学活性物質(グルコース、アルブミン、グロブリンなど)以外を他の光学活性物質の項とすればよい。さらに、他の光学活性物質の寄与が小さい場合などにおいては、他の光学活性物質の項を設けなくともよい。すなわち、求めたい光学活性物質及び房水による旋光度ΦAHに対する影響の度合いなどを勘案して、項を設定すればよい。
【0081】
入射光の波長を変更して複数回、第1工程および/または第3工程を実施して、反射光の偏光状態の情報を含む第1データおよび/または第2データを複数個取得して、上記式(1)を用いて各波長ごとに房水の旋光度を求めた後に、上記式(2)を用いることで、房水中のグルコースの濃度をより正確に求めることができる。
【0082】
なお、本発明において濃度を測定する光学活性物質はグルコースであることが好ましい。
【0083】
また、第1の反射光の偏光状態の情報を含む第1データ、および、第2の反射光の偏光状態の情報を含む第2データが、反射光の測定回ごとの偏光状態の情報を含むデータである場合、第1工程および第3工程をそれぞれ異なる波長の入射光で実施することがより好ましい。入射光の波長ごとに第1工程および第3工程を行い、それらから房水全体の旋光性(Φmeasureとする)の波長分散を算出し、上記式(2)のΦが、Φmeasureと一致するように、混合比を決めることで、房水中のグルコースの濃度をより正確に求めることができる。
【0084】
また、第1工程における、第1の入射光が水晶体の表面と交わる点での接平面に対する法線と、第1の入射光とのなす角度θ1は、ブリュースター角未満であれば特に制限はないが、2°~45°が好ましく、3°~35°がより好ましく、4°~25°がさらに好ましい。
【0085】
また、第3工程における、第2の入射光が水晶体の表面と交わる点での接平面に対する法線と、第2の入射光とのなす角度θ2は、ブリュースター角以上であれば特に制限はないが、ブリュースター角超であることが好ましく、50°~65°がより好ましく、50°~60°がさらに好ましい。
【0086】
<第2工程および第4工程>
次に、第2工程および第4工程について説明する。
第2工程は、第1工程で取得した、第1の反射光の偏光状態の情報を含む第1データに対して第1のノイズ低減処理を施し、第1のノイズ処理済みデータを取得する工程である。また、第4工程は、第3工程で取得した、第2の反射光の偏光状態の情報を含む第2データに対して第2のノイズ低減処理を施し、第2のノイズ処理済みデータを取得する工程である。
【0087】
ここで、本発明においては、第2工程は、第1データが、第1の反射光の波長ごとの偏光状態の情報を含む場合には、波長と測定値との関係において、第1の反射光の測定波長毎における測定値の差分の符号が変化する回数をnとし、n/(測定波長数-2)の値を、0.50以下にする第1のノイズ低減処理を行う工程であり、また、第1データが、第1の反射光の測定回ごとの偏光状態の情報を含むデータの場合、測定回数と測定値との関係において、測定順における測定値の差分の符号が変化する回数をnとし、n/(測定回数-2)の値を、0.50以下にする第1のノイズ低減処理を行う工程である。
【0088】
また、本発明において、第4工程は、第2データが、第2の反射光の波長ごとの偏光状態を含む場合には、波長と測定値との関係において、第2の反射光の測定波長毎における測定値の差分の符号が変化する回数をnとし、n/(測定波長数-2)の値を、0.50以下にする第2のノイズ低減処理を行う工程であり、また、第2データが、第2の反射光の測定回ごとの偏光状態の情報を含むデータの場合、測定回数と測定値との関係において、測定順における測定値の差分の符号が変化する回数をnとし、n/(測定回数-2)の値を、0.50以下にする第2のノイズ低減処理を行う工程である。
【0089】
第2工程および第4工程は、ノイズ低減処理を施す対象のデータが異なる以外は、同様のノイズ低減処理を実施するものであるので、以下の説明では、第1のノイズ低減処理と第2のノイズ低減処理をまとめてノイズ低減処理として説明する。なお、第2工程で実施する第1のノイズ低減処理と、第4工程で実施する第2のノイズ低減処理とは、同じ種類のものであっても異なる種類のものであってもよい。また、以下の説明では、第1データおよび第2データをまとめて、処理前データともいい、第1のノイズ処理済みデータおよび第2のノイズ処理済みデータをまとめて、ノイズ処理済みデータともいう。
【0090】
一例として、第1工程および第3工程において取得する処理前データが、波長ごとの偏光状態の情報を含むデータであり、ミュラー行列として測定する場合には、
図12に示すように、ミュラー行列の各行列要素と波長のグラフとして測定される。なお、
図12においては、ミュラー行列の4×4の行列要素の位置に対応して、各行列要素のグラフを4×4に配置して図示している。
【0091】
第2工程および第4工程では、ミュラー行列の4×4の行列要素に対応する16個の処理前データそれぞれに対して、ノイズ低減処理を実施する。その際、測定波長毎における測定値の差分の符号が変化する回数を、(測定波長数-2)で除した値が、0.50以下となるように、ノイズ低減処理を行う。
【0092】
図13は、取得したある処理前データの一部を部分的に拡大して示す概念図である。測定波長ごとにおける測定値の差分の符号が変化する回数とは、
図13に示すように、傾きが正から負、または、負から正に変化する回数である。言い換えると、測定波長毎における測定値の差分の符号が変化する回数とは、極大値または極小値の数である。例えば、測定間隔が波長1nm間隔である場合には、波長1nmごとの測定値から符号が変化する回数を求めればよい。
【0093】
本発明では、この測定波長毎における測定値の差分の符号が変化する回数を、測定波長の数-2で除した値が0.50以下となるようにノイズ低減処理を行う。すなわち、第2工程および第4工程で得られるノイズ処理済みデータは、測定波長毎における測定値の差分の符号が変化する回数を(測定波長の数-2)で除した値が0.50以下である。
以下、測定値の差分の符号が変化する回数nを、(測定波長の数-2)で除した値を、αとする。すなわち、n/(測定波長の数-2)=αである。
【0094】
前述のとおり、血糖値の測定は、ISO15197:2013で規定されるコンセンサスエラーグリッド(
図29参照)のAまたはBゾーンに入ることが望まれる。コンセンサスエラーグリッドは、血糖値測定の正確さの評価基準であり、血糖値の測定結果を、基準計測器において得られた血糖値と比較して明確にするためのものである。
【0095】
本発明においては、第1工程で取得した第1データ、および、第3工程で取得した第2データに対して、測定波長ごとにおける測定値の差分の符号が変化する回数nを(測定波長の数-2)で除した値が0.50以下となるようにノイズ低減処理を行うことにより、コンセンサスエラーグリッドの基準に合致し得る測定を行うことが容易になる、すなわち、血糖値の測定結果が、コンセンサスエラーグリッドのAまたはBゾーンに入るようにすることが容易になる。
【0096】
コンセンサスエラーグリッドの基準に合致させる観点から、測定波長毎における測定値の差分の符号が変化する回数nを(測定波長の数-2)で除した値αは、0.5以下とするのが好ましく、0.38~0.001とするのがより好ましく、0.15~0.002とするのがさらに好ましい。
【0097】
このように、測定波長毎における測定値の差分の符号が変化する回数を測定波長の数-2で除した値を0.50以下とするために、ノイズ低減処理は、ローパスフィルタ処理を含むことが好ましく、ローパスフィルタ処理およびハイパスフィルタ処理を含むことがより好ましく、ローパスフィルタ処理を実施した後、ハイパスフィルタ処理を実施することがさらに好ましい。
【0098】
ローパスフィルタ処理は、処理前データの低周波成分を大きく変えることなく、つまり、周波数トレンドを大きく変えることなく、高周波成分を抑制することができる。そのため、ローパスフィルタ処理により、測定値の差分の符号が変化する回数、すなわち、極大値および極小値を削減することができ、測定波長毎における測定値の差分の符号が変化する回数を測定波長の数-2で除した値を0.50以下とするのが容易となる。これにより、コンセンサスエラーグリッドの基準に合致し得る測定を行うことが容易になる。
【0099】
測定波長毎における測定値の差分の符号が変化する回数nを(測定波長の数-2)で除した値αを0.50以下とする観点から、ローパスフィルタ処理におけるカット空間周波数は、0.1(1/nm)以上が好ましく、0.15~0.005(1/nm)がより好ましく0.2~0.01(1/nm)がさらに好ましい。
【0100】
ローパスフィルタ処理としては、移動平均処理、サビツキー・ゴーレイ(Savitzky-Golay)処理、フーリエ変換を活用した処理、畳み込みニューラルネットワークを用いたディープラーニングを活用した処理等の従来公知のノイズ低減処理が挙げられる。中でも、移動平均処理およびサビツキー・ゴーレイ処理が好ましい。
【0101】
周知のとおり、移動平均処理は、各測定点におけるデータを隣接データとの平均値に変換することで、高周波成分を抑制して平滑化する処理である。平均に用いるデータ数n1は、処理の目的、各データの特性等に応じて適宜設定すればよい。測定波長毎における測定値の差分の符号が変化する回数nを測定波長の数-2で除した値αを0.50以下とする観点から、データ数n1は、3以上が好ましく、3~51がより好ましく、5~25がさらに好ましい。
データ数n1をこの範囲とすることにより、低周波成分を大きく変えることなく、高周波成分を好適に抑制することができる。
【0102】
サビツキー・ゴーレイ(Savitzky-Golay)処理は、特定範囲のデータを多項式でフィッティングすることで、データの依存性を残して高周波成分を抑制し、平滑化する処理である。多項式フィッティングに用いるデータ数n2、および、多項式の次数Nは、処理の目的、各データの特性等に応じて適宜設定すればよい。測定波長毎における測定値の差分の符号が変化する回数nを(測定波長の数-2)で除した値αを0.50以下とする観点から、データ数n2は、11以上が好ましく、11~401がより好ましく、21~301がさらに好ましい。また、多項式の次数Nは、1~8が好ましく、1~7がより好ましく、1~6がさらに好ましい。
データ数n2、および、多項式の次数Nをこの範囲とすることにより、低周波成分を大きく変えることなく、高周波成分を好適に抑制することができる。
【0103】
ハイパスフィルタ処理は、不要な低周波成分を抑制することができる。不要な低周波成分としては、装置起因で発生する一定周期のノイズなどが挙げられる。
従って、ハイパスフィルタ処理により、装置起因で発生する一定周期のノイズなどの想定外のノイズを除去できる。
【0104】
ハイパスフィルタ処理におけるカット空間周波数は、0.01(1/nm)以下が好ましく、0.001~0.01(1/nm)がより好ましく、0.002~0.01(1/nm)がさらに好ましい。
【0105】
ハイパスフィルタ処理としては、同一条件で測定した複数のデータを平均化する平均化処理を行ったデータと処理前データとの差分を活用する処理、フーリエ変換を活用した処理、畳み込みニューラルネットワークを用いたディープラーニングを活用した処理等が挙げられる。
【0106】
同一条件で測定した複数のデータを平均化する場合の、データ数としては、3以上が好ましく、3~51がより好ましく、5~25がさらに好ましい。
【0107】
また、測定波長毎における測定値の差分の符号が変化する回数nを(測定波長の数-2)で除した値αを0.50以下とするために、前述のとおり、ノイズ低減処理として、ローパスフィルタ処理の後にハイパスフィルタ処理を行うことがさらに好ましい。
【0108】
ハイパスフィルタ処理を実施した後に、ローパスフィルタ処理を実施する場合に比べて、ローパスフィルタ処理を実施した後に、ハイパスフィルタ処理を実施する構成とすることで、データをより平滑化することができ、装置起因で発生するノイズなどの余分なノイズも除去できると考えている。そのため、測定波長毎における測定値の差分の符号が変化する回数nを(測定波長の数-2)で除した値αを0.50以下とするのがより容易となる。これにより、コンセンサスエラーグリッドの基準に合致し得る測定を行うことがより容易になる。
【0109】
なお、上記説明では、第1工程および第3工程において測定する処理前データが、波長ごとの偏光状態の情報を含むデータである場合の例として説明したが、第1工程および第3工程において測定する処理前データが、測定回ごとの偏光状態の情報を含むデータである場合には、上記説明における「測定波長毎」を「測定回ごと」に読み替えればよい。
【0110】
また、上記説明では、第1工程および第3工程において測定する処理前データをミュラー行列として測定する場合の例として説明したが、第1工程および第3工程において測定する処理前データが、反射光の偏光状態の情報を含むストークスベクトル(ストークスパラメータ)である場合には、第2工程および第4工程において、ストークスベクトルの4つの行列要素に対応する4つの波長ごとの偏光状態の情報を含むデータ、または、4つの測定回ごとの偏光状態の情報を含むデータそれぞれに対して、上述したノイズ低減処理を行えばよい。
【0111】
[光学活性物質濃度測定装置]
次に、本発明の光学活性物質の濃度測定方法を実施する光学活性物質濃度測定装置の一例について説明する。
【0112】
上記光学活性物質の濃度測定方法を実施するための光学活性物質濃度測定装置は、
眼の房水に向けて偏光である入射光を照射する光源と、
房水と水晶体との界面で入射光が反射して得られる反射光の偏光状態を測定する測定部と、
入射光の入射角度を制御する制御部と、
測定部で測定した反射光の偏光状態の情報を含む未処理データにノイズ低減処理を施すノイズ処理部と、
ノイズ処理部でノイズ低減処理したノイズ処理済みデータを用いて、房水の旋光度を算出する算出部と、を有する、光学活性物質濃度測定装置である。
【0113】
図14に光学活性物質濃度測定装置の一例を概念的に表す図を示す。
図14に示す光学活性物質濃度測定装置100は、光源部110と、測定部120と、制御部130と、算出部140と、ノイズ処理部150と、を有する。
【0114】
<光源>
光源部110は、眼10の房水に向けて偏光を照射するものである。
図14に示す例では、一例として、光源部110は、発光素子112と、発光素子112から照射された光を偏光に変換する偏光板114と、偏光板114で変換された偏光の偏光状態を変換する位相差板116とを有する。光源部110は、偏光板114と位相差板116とを有することで、所望の偏光状態の光を出射することができる。
なお、光源部110の構成はこれに限定はされない。例えば、発光素子112と偏光板114とを有するものであってもよいし、偏光を発光する発光素子112のみを有するものであってもよいし、発光素子112と位相差板116とを有するものであってもよい。
【0115】
また、光源部110は、出射する光の波長を切り替え可能なものであってもよい。具体的には、例えば、発光素子112から出射された光を分光するための回折素子、分光した光の一部を透過するスリット、スリットを移動する移動機構とを有する構成を有し、スリットを移動させることで透過する光の波長、すなわち、光源部110から出射される光の波長を切り替えることができる。なお、移動機構は、回折素子および/またはスリットを移動および/または回転させるものであってもよい。
【0116】
なお、このような波長を切り替える機構を測定部が有し、測定部が反射光を分光して波長ごとに測定する構成としてもよい。
【0117】
しかしながら、眼の房水等を通過した後の光を分光した場合には、偏光状態が変化するおそれがあるため、眼に入射する前に分光するのが好ましい。すなわち、光源部110から出射される光の波長を切り替えることが好ましい。
【0118】
また、第1工程および第3工程で取得する処理前データ、すなわち、測定部120で測定して取得する処理前データが、波長ごとの偏光状態の情報を含むデータである場合には、光源部110は、出射する光の波長を例えば、1nm間隔で順次切り替えて光を出射するように、図示しない制御部に制御されてもよい。
あるいは、第1工程および第3工程で取得する処理前データ、すなわち、測定部120で測定して取得する処理前データが、測定回ごとの偏光状態の情報を含むデータである場合には、光源部110は、所定の波長の光を、例えば、0.1~120秒間隔で順次、出射するように、図示しない制御部に制御されてもよい。
【0119】
(発光素子)
発光素子112としては、一例として、水銀灯などの電球、蛍光灯、ハロゲンランプ、LED(Light Emitting Diode)、および、半導体レーザーなどのレーザー等が例示される。発光素子112としては狭帯域な光を照射することができる、LED、および、半導体レーザーなどのレーザーを用いることが好ましい。
【0120】
発光素子112が出射する光の波長にも、制限はなく、可視光でも、赤外線および紫外線などの非可視光でもよい。中でも可視光および近赤外線は、発光素子112が出射する光として好適に利用される。
さらに、発光素子112が出射する光は、無偏光でも偏光でもよい。発光素子112が偏光を出射する場合には、出射光は直線偏光でも円偏光でもよい。
【0121】
(偏光板)
偏光板としては特に制限はなく、種々の公知の偏光板が適宜利用可能である。
【0122】
吸収型直線偏光板としては、吸収型偏光子であるヨウ素系偏光子、二色性染料を利用した染料系偏光子、およびポリエン系偏光子などが用いられる。ヨウ素系偏光子および染料系偏光子には、塗布型偏光子と延伸型偏光子があり、いずれも適用できる。なかでも、ポリビニルアルコールにヨウ素または二色性染料を吸着させ、延伸して作製される偏光子が好ましい。
【0123】
また、基材上にポリビニルアルコール層を形成した積層フィルムの状態で延伸および染色を施すことで偏光子を得る方法として、特許第5048120号公報、特許第5143918号公報、特許第4691205号公報、特許第4751481号公報、および、特許第4751486号公報を挙げることができ、これらの偏光子に関する公知の技術も好ましく利用することができる。
【0124】
吸収型偏光子としては、延伸を行わず、液晶の配向性を利用して二色性色素を配向させた偏光子は特に好ましい。前記偏光子は、厚みが0.1μm~5μm程度と非常に薄層化できること、特開2019-194685号公報に記載されているように折り曲げた時のクラックが入りにくいことや熱変形が小さいこと、特許6483486号公報に記載されるように50%を超えるような透過率の高い偏光板でも耐久性に優れること、また加熱成形性に優れる等、多くの長所を有する。また、支持体を剥離して偏光子を転写して使用することも可能である。
【0125】
反射型の直線偏光板としては、特開2011-053705に記載されているような、2種のポリマーを含む層を延伸したフィルムや、ワイヤーグリッド偏光子等を用いることができる。輝度の観点から、ポリマーを含む層を延伸したフィルムが好ましい。市販品としては、3M社製の反射型偏光子(商品名APF)や、旭化成株式会社製のワイヤグリッド偏光子(商品名WGF)等を、好適に用いることができる。
【0126】
(位相差板)
位相差板は、入射した偏光の位相を変換する位相差板である。位相差板は、光源部110から出射される偏光が所望の偏光状態になるように、偏光板の透過軸に対して遅相軸の方向を調整して配置される。
【0127】
本発明に用いる位相差板は、光学異方性層1層で構成された単層型でもよいし、それぞれ複数の異なる遅相軸を持つ2層以上の光学異方性層の積層によって構成された複層型もよい。複層型の位相差板の例として、国際公開第13/137464号、国際公開第2016/158300号、特開2014-209219号公報、特開2014-209220号公報、国際公開第14/157079号、特開2019-215416号公報、国際公開第2019/160044号が挙げられるが、これに限定されない。
【0128】
<制御部>
制御部130は、光源部110が光を照射する向きおよび位置等を制御して、光源部110が照射する光が、被験者の眼が配置される位置に向けて照射されるように調整する部位である。
制御部130は、光源部110の位置を移動させる機構、および、光源部110を回転させる機構等を有していればよい。このような機構としては公知の機構が適宜利用可能である。
【0129】
具体的には、制御部130は、眼に入射する光の入射角を変えるため、眼の位置を原点として、極角を変えるように、光源部110の位置および角度を変更する。
【0130】
また、制御部130は、光源部110の偏光板114を、偏光板114の主面に垂直な軸を中心に回転させる回転機構を有していてもよい。なお、主面とは、フィルム状(シート状、板状)部材の最大面である。
また、制御部130は、光源部110の位相差板116を、位相差板116の主面に垂直な軸を中心に回転させる回転機構を有していてもよい。
偏光板114および/または位相差板116を回転させる回転機構を有することにより、光源部110から出射させる偏光の偏光状態を変更することができる。
【0131】
<測定部>
測定部120は、光源部110が照射し、房水と水晶体との界面で反射して得られる反射光を受光して偏光状態を測定する部位である。測定部120は受光した光の偏光状態を検出できるものであれば種々の公知の測定装置が利用可能である。
図12に示す例では、一例として、測定部120は、受光素子122と、偏光板124と、位相差板126とを有する。
【0132】
このような測定部は、回転補償子型エリプソメトリーと同様の原理で、反射光の偏光状態を測定することができる。この場合、原理的には、位相差板126を回転させればよい。また、位相差板126としては、入射光の波長λに対してλ/4となるλ/4板を用いればよい。また、偏光板124は、
図15および
図16に示すように、偏光板124の主面から接平面Hを見た時の接平面Hの水平方向DAを0°として、透過軸が45°もしくは135°となるように配置すればよい。
【0133】
測定部120は、反射光を受光するために、図示しない制御部により、向きおよび位置等を制御される。具体的には、反射光が測定部120に垂直に入射するように、眼の位置を原点として、極角を変えるように、測定部120の位置および角度を変更する。また、測定部120は、制御部130による光源部110の向きおよび位置の制御に連動して向きおよび位置等を制御されてもよい。
【0134】
以下、測定部の例について説明する。
【0135】
図17は、測定部の一例を概念的に示す図である。
図17に示す測定部120aは、受光素子122と、偏光板124とを有する。
図17に示す測定部120aにおいては、偏光板124を、偏光板124の主面に垂直な軸を中心に回転させ、偏光板124を通過した反射光を受光素子122で受光する。例えば、測定部120aに入射する光が直線偏光である場合、偏光板124の透過軸と直線偏光の振動方向とが同じであれば直線偏光はほぼ透過して受光素子122で受光されるため、受光素子122は高い光量(強度)の光を検出する。一方、偏光板124の透過軸と直線偏光の振動方向とが直交している場合には、直線偏光はほぼ遮蔽されるため、受光素子122では弱い光量(強度)の光を検出する。そのため、偏光板124を回転させることで、
図18に示すように、偏光板の回転角度に応じて、受光素子122で検出される光の光量(強度)が変化する。従って、この光量の変化から、測定部120aに入射した光の偏光状態を検出することができる。
【0136】
(受光素子)
受光素子122は、シリコンダイオードなどの公知のフォトディテクタであって、入射した光の強度に対応した電気信号を出力する。
【0137】
図19は、測定部の他の一例を概念的に示す図である。
図19に示す測定部120bは、受光素子122bと、偏光板124bとを有する。
【0138】
(二次元センサー)
受光素子122bは、光を受光する受光部123が、面方向の一方向とこの一方向に直交する方向とに、二次元的に配列された二次元センサーである。受光部123はそれぞれ、入射した光の強度に対応した電気信号を出力する。二次元センサーとしては、CMOS(Complementary MOS)、CCD(Charge Coupled Device)等の公知のイメージセンサ―を用いることができる。また、二次元センサーは、受光部123としてのシリコンダイオードなどの公知のフォトディテクタを二次元的に配列して構成してもよい。
【0139】
(パターン偏光板)
偏光板124bは、透過軸の方向が異なる領域が所定のパターンで配列されたものである(以下、パターン偏光板ともいう)。
図19に示す例では、透過軸の方向が異なる4つの領域を1つの組として、この組が複数、二次元的に配列されている。また、パターン偏光板124bは、各領域が二次元センサー122bの各受光部123に対応するように配置される。
【0140】
一例として、
図19においては、図中、透過軸の方向が上下方向である第1領域と、第1領域の右側に位置し、透過軸の方向が右上から左下方向である第2領域と、第2領域の上側に位置し、透過軸の方向が左右方向である第3領域と、第3領域の左側に位置し、透過軸の方向が左上から右下方向である第4領域とを1つの組として、この組を複数、有する。
【0141】
このような二次元センサー122bとパターン偏光板124bとを有する測定部120bの作用について、
図20を用いて説明する。
図20の左側の図で示すように、測定部120bに左右方向に振動する直線偏光が入射した場合には、パターン偏光板124bの第1領域では、その透過軸の方向と直線偏光の振動方向とは直交するため、ほぼ遮蔽される。そのため、第1領域に対応する受光部では光量はほぼ検出されない。第2領域および第4領域では、その透過軸の方向と直線偏光の振動方向とは略45°であるため、直線偏光の一部が透過される。そのため、第2領域および第4領域に対応する受光部では中間の光量が検出される。第3領域では、その透過軸の方向と直線偏光の振動方向とは平行であるため、直線偏光がほぼ透過される。そのため、第3領域に対応する受光部では光量は高い光量が検出される。
【0142】
すなわち、
図20の左下の図に示すように、第1領域~第4領域にそれぞれ対応する受光部では、異なる光量が検出される。なお、図中、受光部で検出される光量が高い場合を白、中間の場合をグレー、低い場合を黒で表している。
【0143】
一方、
図20の左右方向真ん中の図のように、右上から左下方向に振動する直線偏光が入射した場合には、パターン偏光板124bの第1領域および第3領域では、その透過軸の方向と直線偏光の振動方向とは略45°であるため、直線偏光の一部が透過される。そのため、第1領域および第3領域に対応する受光部では中間の光量が検出される。第2領域では、その透過軸の方向と直線偏光の振動方向とは平行であるため、直線偏光がほぼ透過される。そのため、第2領域に対応する受光部では光量は高い光量が検出される。第4領域では、その透過軸の方向と直線偏光の振動方向とは直交するため、ほぼ遮蔽される。そのため、第4領域に対応する受光部では光量はほぼ検出されない。
【0144】
すなわち、
図20の中央下の図に示すように、第1領域~第4領域にそれぞれ対応する受光部では、異なる光量が検出される。また、
図20に示すように、検出される光量のパターンは、左右方向に振動する直線偏光の場合(
図20中左下の図)とは、異なるパターンが検出される。
【0145】
このように、測定部120bは、入射する直線偏光の方向によって、二次元センサー122bが、異なる光量パターンを検出する。そのため、二次元センサー122bが検出した光量パターンから、受光した偏光の偏光状態を検出することができる。
【0146】
なお、
図19に示す例では、パターン偏光板124bは、透過軸の方向が異なる4種類の領域を有する構成としたが、これに限定はされず、透過軸の方向が異なる領域を複数種類有していればよい。例えば、透過軸の方向が異なる領域を9種有する構成であってもよい。
【0147】
図21は、測定部の他の一例を概念的に示す図である。
図21に示す測定部120cは、受光素子122bと、偏光板124と、第1の位相差板126aと、第2の位相差板126bと、を有する。
【0148】
第1の位相差板126aおよび第2の位相差板126bはそれぞれ、パターン光学異方性層を有している。パターン光学異方性層は、位相差は一定で、さらに、同一面内で複数の帯状領域に分割されており、1つの帯状領域内における遅相軸の方向は一致し、かつ、それぞれの帯状領域における遅相軸の方向は全て異なる、複数の帯状領域からなる単位を、複数、有している。
また、第1の位相差板126aのパターン光学異方性層の帯状領域と、第2の位相差板126bのパターン光学異方性層の帯状領域とが、面方向において、互いに交差して配置されている。
【0149】
また、第1の位相差板126aと第2の位相差板126bとは、異なる位相差板であり、例えば、一方がλ/4板で、他方がλ/2板である。
【0150】
第1の位相差板126aおよび第2の位相差板126bのパターン光学異方性層は、液晶性化合物を含む液晶組成物を用いて、液晶性化合物を所定の配向パターンで配向することで形成される。
【0151】
このような第1の位相差板126aおよび第2の位相差板126bを有する測定部120cは、入射する光の偏光状態を区別して測定することができる。このような構成を有する測定部については、特許第6616494号に詳しく記載されている。
【0152】
ここで、
図19に示す測定部120bでは、円偏光が入射した場合には、
図20の右側の図に示すように、第1領域~第4領域にそれぞれ対応する受光部ではいずれも略同じ光量が検出されるため、右円偏光と左円偏光との区別はできない。また、無偏光とも区別できない。これに対して、
図21に示す測定部120cでは、直線偏光のみでなく、円偏光の区別も可能である。
【0153】
また、
図19に示す測定部120bの場合には、パターン偏光板124b各領域と二次元センサー122bの各受光部との位置ずれが生じやすいという問題がある。これに対して、
図21に示す測定部120cでは、第1の位相差板126aと第2の位相差板126bと配置するのみであるため、位置ずれが生じないため、より高い精度で受光した光の偏光状態を検出することができる。
【0154】
また、
図19に示す測定部120bおよび
図21に示す測定部120cの二次元センサー122bは、複数の受光部123を組として、複数組有し、それぞれの組で光の偏光状態を検出するのが好ましい。例えば、
図22に示す例は、3×3の受光部123の組をn×m個有するものである。このような二次元センサー122bを用いることで、偏光状態を複数検出することができる。複数の組で偏光状態を検出し、各組ごとに房水の旋光度を算出して、旋光度を平均することで、求める旋光度の精度をより高くすることができる。
【0155】
また、第1工程および第3工程で取得する処理前データ、すなわち、測定部で測定して取得する処理前データが、波長ごとの偏光状態の情報を含むデータである場合には、光源部110から出射される光の波長の切り替えに対応して、測定部は、その都度、偏光状態の測定を実施すればよい。測定部(あるいは測定部から測定結果を供給されたデータ生成部(図示せず))は、波長の情報と、測定した波長ごとの偏光状態の情報とから、波長ごとの偏光状態を表す1つの未処理データを生成して、ノイズ処理部150に供給する。
【0156】
また、第1工程および第3工程で取得する処理前データ、すなわち、測定部で測定して取得する処理前データが、測定回ごとの偏光状態の情報を含むデータである場合には、光源部110が所定の時間間隔で順次出射する光に対応して、測定部は、その都度、偏光状態の測定を実施すればよい。測定部(あるいは測定部から測定結果を供給されたデータ生成部(図示せず))は、測定回の情報と、測定回ごとの偏光状態の情報とから測定回ごとの偏光状態を表す1つの未処理データを生成して、ノイズ処理部150に供給する。
【0157】
なお、生成された未処理データは、直接、ノイズ処理部150に供給される構成に限定はされず、一旦、記憶部(図示せず)に供給されて、記憶部からノイズ処理部150が読み出す構成であってもよい。
【0158】
また、測定部の受光素子が、1次元センサー、あるいは、
図19、
図21、
図22のような2次元センサーを含む場合には、測定装置が、測定部の上流側にプリズム等の分光素子を有する構成とし、分光素子が反射光を波長ごとに分光して、分光された各波長の反射光が受光素子の各受光部に入射して測定される構成としてもよい。測定部(あるいは測定部から測定結果を供給されたデータ生成部(図示せず))は、各受光部の位置、すなわち、波長の情報と、各受光部で測定された偏光状態の情報とから波長ごとの偏光状態を表す1つの未処理データを生成して、ノイズ処理部150に供給する。
【0159】
また、光源部110および測定部は、このような未処理データの取得を同じ条件で複数回実施してもよい。同じ条件で複数の未処理データを取得することで、ノイズ処理部150で平均化処理(ハイパスフィルタ処理)を行うことができる。
【0160】
<ノイズ処理部>
ノイズ処理部150は、測定部が取得した未処理データにノイズ低減処理を行う部位である。すなわち、ノイズ処理部150は、上述した光学活性物質の濃度測定方法の第2工程および第4工程を実施してノイズ処理済みデータを取得する部位である。
【0161】
ノイズ処理部150は、CPU(Central Processing Unit)およびGPU(Graphics Processing Unit)などの演算処理部、RAM(Random access memory)およびROM(Read Only Member)等のメモリ、ならびに、HDD(Hard Disk Drive)およびSSD(Solid State Drive)等の記憶媒体などを有するコンピュータ等のハードウェアを用いて構成される。ノイズ低減処理を実施するためのプログラムは、ROM、あるいは、記憶媒体に格納される。また、ノイズ処理部150は、各部位が専用回路で構成された専用装置であってもよく、クラウド上で実行されるようにサーバーで構成してもよい。
【0162】
ノイズ処理部150は、ノイズ低減処理を施したノイズ処理済みデータを算出部に供給する。
【0163】
<算出部>
算出部140は、ノイズ処理部150から供給されるノイズ処理済みデータ、および、必要に応じて、光源部110が出射した入射光の偏光状態の情報等を用いて、房水の旋光度を算出する部位である。すなわち、算出部140は、上述した光学活性物質の濃度測定方法の第5工程を実施して房水の旋光度を算出するものである。また、算出部140は、第6工程を実施して、房水の旋光度から光学活性物質の濃度を算出してもよい。
【0164】
算出部140は、CPU(Central Processing Unit)およびGPU(Graphics Processing Unit)などの演算処理部、RAM(Random access memory)およびROM(Read Only Member)等のメモリ、ならびに、HDD(Hard Disk Drive)およびSSD(Solid State Drive)等の記憶媒体などを有するコンピュータ等のハードウェアを用いて構成される。また、算出部140は、各部位が専用回路で構成された専用装置であってもよく、クラウド上で実行されるようにサーバーで構成してもよい。房水の旋光度を算出するためのプログラム、および/または、光学活性物質の濃度を算出するためのプログラムは、ROM、あるいは、記憶媒体に格納される。
【0165】
光学活性物質濃度測定装置100において、算出部140が算出した房水の旋光度の情報および/または光学活性物質の濃度の情報は、図示しないモニタに表示してもよく、スマートフォン等の他の装置に送信してもよい。
【0166】
また、
図14に示す例では、光源部110は、発光素子112、偏光板114および位相差板116を有し、また、測定部120は、位相差板126、偏光板124および受光素子122を有する構成としたがこれに限定はされない。
例えば、光源部110は、発光素子112、偏光板114および位相差板116を有し、測定部120は、位相差板を有さず、偏光板124および受光素子122を有する構成であってもよい。あるいは、光源部110は、位相差板を有さず、発光素子112および偏光板114を有し、測定部120は、位相差板126、偏光板124および受光素子122を有する構成であってもよい。すなわち、光源部110が、発光素子112および偏光板114を有し、測定部120が、偏光板124および受光素子122を有し、光源部110および測定部120の一方が位相差板を有する構成であってもよい。
【0167】
なお、回転補償子型エリプソメトリーの原理により偏光状態を測定する観点からは、位相差板は、光源部110および測定部120のいずれか一方に配置されていればよいが、ミュラー行列まで測定できる点で位相差板は、光源部110および測定部120の両方に配置されているのが好ましい。
【0168】
また、本発明の光学活性物質の濃度測定方法の少なくとも第1工程および第3工程を実施する装置として、Axometrics社製Axoscan、J.A.Woollam社製M-2000、Thorlabs社製PAX1000シリーズ等の市販のエリプソメーターおよび偏光計を用いてもよい。
【実施例0169】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、試薬、物質量とその割合、操作等は本発明の趣旨から逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明は以下の実施例に限定され制限されるものではない。
【0170】
<模擬セルの作製>
図23に、目を模擬したセルを模式的に表す断面図を示す。
図24に
図23に示すセルの斜視図を示す。なお、
図24においては、位相差フィルム212および214の図示は省略している。
【0171】
図23および
図24に示すように、セル200は、底面板202と、底面板202の一方の主面(最大面)の対向する2つの辺の近傍それぞれに、この主面から斜めに立設して配置される入射側側面板204および出射側側面板206と、底面板202の一方の主面の対向する他の2つの辺の近傍それぞれに、この主面から立設して配置される側面板208および210と、入射側側面板204の出射側側面板206側とは反対側の面に配置される位相差フィルム212と、出射側側面板206の入射側側面板204側とは反対側の面に配置される位相差フィルム214と、底面板202、入射側側面板204、出射側側面板206、および、2つの側面板208、210に囲まれる空間に貯留される混合水溶液216と、を有する。
【0172】
セル200において、底面板202は、目の水晶体を模したものである。また、位相差フィルム212および214は、目の角膜を模したものである。また、混合水溶液216は、目の房水を模したものである。
【0173】
底面板202は、35mm×30mmの大きさのガラス板で構成した。
入射側側面板204および出射側側面板206は、30mm×15mmの大きさのガラス板で構成した。また、入射側側面板204および出射側側面板206は、3mmの辺の端面を主面に対して45°にした。
側面板208および210は、上底10mm、下底30mm、高さ10mmの台形状のガラス板で構成した。
ここで、ガラス板は全て、屈折率1.458(波長589nmにおける屈折率)、厚み3mmのガラスを使用した。
【0174】
セルに200において、入射側側面板204および出射側側面板206は、底面板202の一方の主面の対向する辺側それぞれに配置される。また、図に示すとおり、入射側側面板204および出射側側面板206は、互いの側に向かって傾斜するように固定される。
また、セル200において、側面板208および210は、底面板202の主面の、入射側側面板204および出射側側面板206が配置された辺とは異なる辺側それぞれに配置される。側面板208および210は、入射側側面板204および出射側側面板206と接する。
【0175】
位相差フィルム212および214には、富士フィルム社製VA用位相差フィルムを用いた。また、Axoscan(Axometrics社製)を用いて、上記位相差フィルムの位相差値を測定した。550nmにおける正面レタデーション(Re)と厚み方向のレタデーション(Rth)は、Re/Rth=50/127nmであった。
位相差フィルム212を入射側側面板204の出射側側面板206とは反対側の面に粘着剤(総研化学社製SKダイン)を用いて貼着した。
位相差フィルム214を出射側側面板206の入射側側面板204とは反対側の面に粘着剤(総研化学社製SKダイン)を用いて貼着した。
【0176】
混合水溶液216は、水、グルコース、および、アスコルビン酸を下記表1に記載の質量比で混合して複数種(混合水溶液1~5)、調製した。
【0177】
【0178】
<第1工程および第3工程>
混合水溶液1~5をそれぞれセル200内に注入してエリプソメーター(J.A.Woollam社製 M-2000)を用いて第1工程および第3工程を実施して、第1データおよび第2データを取得した。なお、第1データおよび第2データは、ミュラー行列として取得される。
【0179】
第1工程においては、エリプソメーターのサンプル台に、入射光が入射側側面板204側から入射し、反射光が出射側側面板206側から出射するようにセル200を載置した。また、入射光の、底面板202の法線とのなす角度が45°となるように光源の角度を設定した。
【0180】
入射光の波長は、500nm~900nmの間で1nm刻みとし、波長ごとの偏光状態の情報を含む第1データを取得した。
【0181】
第3工程においては、入射光の、底面板202の法線とのなす角度が50~70°で、5°刻みに光源の角度を設定した以外は、第1工程と同様にして、波長ごとの偏光状態の情報を含む第2データを取得した。
【0182】
このような第1工程および第3工程を混合水溶液1~5をそれぞれで実施して、混合水溶液ごとの第1データおよび第2データを取得した。また、混合水溶液1~5ごとに、同じ条件で6回ずつ測定して、6つの第1データおよび6つの第2データを取得した。
【0183】
[実施例1]
<第2工程および第4工程>
取得した第1データおよび第2データ、すなわち、ミュラー行列の各行列要素に対応する反射光の波長ごとの偏光状態の情報を含むデータに対してノイズ低減処理を行った。
【0184】
第2工程において、ノイズ低減処理として、同じ条件で測定した6つの第1データそれぞれに、サビツキー・ゴーレイ処理を行った後、ハイパスフィルタ処理として、6つデータを平均(相加平均)化したデータと処理前データとの差分を活用する処理を行って、第1のノイズ処理済みデータを取得した。
【0185】
サビツキー・ゴーレイ処理の多項式フィッティングに用いるデータ数n2は51、多項式の次数Nは3とした。
【0186】
各第1のノイズ処理済みデータの、測定波長毎における測定値の差分の符号が変化する回数nを、(測定波長数-2)で除した値αは、0.06~0.1の範囲であった。
【0187】
第4工程では、第2データに対して、第2工程と同様のノイズ低減処理を行って、第2のノイズ処理済みデータを取得した。
【0188】
各第2のノイズ処理済みデータの、測定波長毎における測定値の差分の符号が変化する回数nを、(測定波長数-2)で除した値αは、0.06~0.1の範囲であった。
【0189】
<第5工程および第6工程>
第2工程および第4工程で取得した第1のノイズ処理済みデータおよび第2のノイズ処理済みデータを用いて、房水の旋光度を算出し、房水の旋光度から房水中の光学活性物質(グルコース)の濃度を算出した。
【0190】
[実施例2]
第2工程および第4工程で実施するノイズ低減処理を、移動平均処理を実施した後に、ハイパスフィルタ処理として、6つデータを平均(相加平均)化したデータと処理前データとの差分を活用する処理を行うものとした以外は、実施例1と同様にして、房水の旋光度、および、房水中の光学活性物質(グルコース)の濃度を算出した。
【0191】
移動平均処理の平均に用いるデータ数n1は11とした。
【0192】
各第1のノイズ処理済みデータの、測定波長毎における測定値の差分の符号が変化する回数nを、(測定波長数-2)で除した値αは、0.25~0.35の範囲であった。
【0193】
各第2のノイズ処理済みデータの、測定波長毎における測定値の差分の符号が変化する回数nを、(測定波長数-2)で除した値αは、0.25~0.35の範囲であった。
【0194】
[実施例3]
第2工程および第4工程で実施するノイズ低減処理を、ハイパスフィルタ処理として、6つデータを平均(相加平均)化したデータと処理前データとの差分を活用する処理を行った後に、移動平均処理を行うものとした以外は、実施例1と同様にして、房水の旋光度、および、房水中の光学活性物質(グルコース)の濃度を算出した。
【0195】
移動平均処理の平均に用いるデータ数n1は11とした。
【0196】
各第1のノイズ処理済みデータの、測定波長毎における測定値の差分の符号が変化する回数nを、(測定波長数-2)で除した値αは、0.30~0.40の範囲であった。
【0197】
各第2のノイズ処理済みデータの、測定波長毎における測定値の差分の符号が変化する回数nを、(測定波長数-2)で除した値αは、0.30~0.40の範囲であった。
【0198】
[比較例1]
第2工程および第4工程で実施するノイズ低減処理を、ハイパスフィルタ処理として、6つデータを平均(相加平均)化したデータと処理前データとの差分を活用する処理を行うものとした以外は、実施例1と同様にして、房水の旋光度、および、房水中の光学活性物質(グルコース)の濃度を算出した。
【0199】
各第1データの、測定波長毎における測定値の差分の符号が変化する回数nを、(測定波長数-2)で除した値αは、0.51~0.61の範囲であった。
【0200】
各第2データの、測定波長毎における測定値の差分の符号が変化する回数nを、(測定波長数-2)で除した値αは、0.51~0.61の範囲であった。
【0201】
結果を
図25に示す。
図25は、実験に使用した混合水溶液のグルコース濃度に対応する旋光度[deg]と、各実施例および比較例で算出された旋光度[deg]との関係をプロットした図である。また、
図25には、コンセンサスエラーグリッドのA~Eのゾーンに対応する領域を示している。
【0202】
また、
図26には、混合水溶液1に対して、第3工程を実施して測定されたミュラー行列の1×1の位置の行列要素のデータに対して、実施例1のノイズ低減処理を行った第2のノイズ処理済みデータの例を示す。
図27には、混合水溶液1に対して、第3工程を実施して測定されたミュラー行列の1×1の位置の行列要素のデータに対して、実施例3のノイズ低減処理を行った第2のノイズ処理済みデータの例を示す。
図28には、混合水溶液1に対して、第3工程を実施して測定されたミュラー行列の1×1の位置の行列要素のデータに対して、比較例1のノイズ低減処理を行った第2のノイズ処理済みデータの例を示す。
【0203】
図25に示すとおり、本発明の光学活性物質の濃度測定方法である実施例1~3で測定された旋光度、すなわち、グルコース濃度の測定結果は、比較例1に比べて、特に血糖値正常濃度に対応する0.01[deg]の領域において、コンセンサスエラーグリッドの基準により合致することがわかる。
【0204】
また、実施例1、2と実施例3との対比から、第2工程および第4工程で実施するノイズ低減処理としては、ローパスフィルタ処理(移動平均処理またはサビツキー・ゴーレイ処理)の後に、ハイパスフィルタ処理(同一条件で測定した複数のデータを平均化したデータと処理前データとの差分を活用する処理)を行うことが好ましいことがわかる。
【0205】
また、
図26~
図28の対比から、本発明の実施例のノイズ低減処理を施したノイズ処理済みデータは、比較例のノイズ処理済みデータに比べて平滑化できていることがわかる。また、ハイパスフィルタ処理の後にローパスフィルタ処理を行う実施例3に比べて、ローパスフィルタ処理の後にハイパスフィルタ処理を行う実施例1のノイズ処理済みデータはより平滑化できていることがわかる。
【0206】
以上、本発明の光学活性物質の濃度測定方法について詳細に説明したが、本発明は上述の例に限定はされず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変更を行ってもよいのは、もちろんである。