(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025016057
(43)【公開日】2025-01-31
(54)【発明の名称】ポンプ
(51)【国際特許分類】
F04D 29/28 20060101AFI20250124BHJP
F04D 29/30 20060101ALI20250124BHJP
F04D 5/00 20060101ALI20250124BHJP
【FI】
F04D29/28 J
F04D29/28 Z
F04D29/30 D
F04D5/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023119072
(22)【出願日】2023-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100118500
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(74)【代理人】
【氏名又は名称】渡邉 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100174089
【弁理士】
【氏名又は名称】郷戸 学
(74)【代理人】
【識別番号】100186749
【弁理士】
【氏名又は名称】金沢 充博
(72)【発明者】
【氏名】中村 陽一
(72)【発明者】
【氏名】藤枝 英樹
(72)【発明者】
【氏名】真武 幸三
【テーマコード(参考)】
3H130
【Fターム(参考)】
3H130AA02
3H130AB12
3H130AB22
3H130AB55
3H130AC30
3H130BA73A
3H130BA73C
3H130BA95A
3H130BA95C
3H130BA97A
3H130BA97C
3H130CB05
3H130DD04Z
3H130EA07A
3H130EA07C
3H130EB01C
(57)【要約】
【課題】組み立て作業を簡易化することができるポンプが提供される。
【解決手段】ポンプは、羽根車2を備えている。羽根車2は、主板部2bを有している。主板部2bは、第1対向面80Aと、第1対向面80Aの反対側に配置された第2対向面80Bと、のうちの少なくとも1つに形成された複数の動圧溝を有している。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に取り付けられた羽根車と、
前記羽根車を収容するポンプケーシングと、を備え、
前記羽根車は、前記回転軸に接続されたボス部から外側に延びる主板部を有しており、
前記主板部は、第1対向面と、前記第1対向面の反対側に配置された第2対向面と、のうちの少なくとも1つに形成された複数の動圧溝を有している、ポンプ。
【請求項2】
前記主板部は、その周縁部に形成された複数の放射溝を有しており、
前記複数の動圧溝は、前記複数の放射溝の内側に配置されている、請求項1に記載のポンプ。
【請求項3】
前記複数の動圧溝は、前記主板部の円周方向に沿って、前記主板部の全体に等間隔に形成されている、請求項1に記載のポンプ。
【請求項4】
前記複数の動圧溝は、前記羽根車の中心から外側に向かって、螺旋状に延びるスパイラル溝である、請求項1に記載のポンプ。
【請求項5】
前記羽根車は、キー構造によって、前記回転軸の軸方向に対して移動可能に接続されている、請求項1に記載のポンプ。
【請求項6】
前記ポンプは、前記羽根車の周縁部に形成された複数の放射溝を取り囲む渦流室を有する渦流式ポンプである、請求項1に記載のポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
回転軸に固定された羽根車と、羽根車を収容するポンプケーシングと、を備えるポンプが知られている。ポンプは、羽根車の回転により、液体をポンプケーシングの内部に吸い込み、液体を昇圧して、外部に吐き出す構造を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2022/059709号
【特許文献2】特開2020-139458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ポンプ効率を向上させるためには、ポンプの組み立て時において、回転軸の軸方向における羽根車とポンプケーシングとの間の隙間を極めて小さくする必要がある。従来では、作業者は、数十μm程度の僅かな隙間を確保するように、羽根車を回転軸に慎重に固定し、羽根車の位置決めする。
【0005】
しかしながら、このような組み立て作業は、非常に煩雑であり、手間と時間がかかってしまう。
【0006】
そこで、本発明は、組み立て作業を簡易化することができるポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一態様では、回転軸に取り付けられた羽根車と、前記羽根車を収容するポンプケーシングと、を備えるポンプが提供される。前記羽根車は、前記回転軸に接続されたボス部から外側に延びる主板部を有しており、前記主板部は、第1対向面と、前記第1対向面の反対側に配置された第2対向面と、のうちの少なくとも1つに形成された複数の動圧溝を有している。
【0008】
一態様では、前記主板部は、その周縁部に形成された複数の放射溝を有しており、前記複数の動圧溝は、前記複数の放射溝の内側に配置されている。
一態様では、前記複数の動圧溝は、前記主板部の円周方向に沿って、前記主板部の全体に等間隔に形成されている。
一態様では、前記複数の動圧溝は、前記羽根車の中心から外側に向かって、螺旋状に延びるスパイラル溝である。
【0009】
一態様では、前記羽根車は、キー構造によって、前記回転軸の軸方向に対して移動可能に接続されている。
一態様では、前記ポンプは、前記羽根車の周縁部に形成された複数の放射溝を取り囲む渦流室を有する渦流式ポンプである。
【発明の効果】
【0010】
羽根車は、動圧溝を有しているため、羽根車を位置決めする必要はない。したがって、ポンプの組み立て作業を簡易化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】
図2(a)はポンプ装置の吸込口および吐出口を示す図であり、
図2(b)は
図2(a)のA線矢印方向から見た図である。
【
図3】羽根車に形成された複数の放射溝を示す図である。
【
図4】軸方向連通穴および半径方向連通穴を流れる液体を示す図である。
【
図5】半径方向連通穴の他の実施形態を示す図である。
【
図7】
図6に示すポンプにおける羽根車をポンプケーシング側から見た図である。
【
図8】
図6に示すポンプにおける羽根車をブラケット側から見た図である。
【
図10】ポンプ装置の他の実施形態を示す図である。
【
図11】ポンプ装置の他の実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下で説明する図面において、同一又は相当する構成要素には、同一の符号を付して重複した説明を省略する。以下で説明する複数の実施形態において、特に説明しない一実施形態の構成は、他の実施形態と同じであるので、その重複する説明を省略する。
【0013】
図1は、ポンプ装置の一実施形態を示す図である。
図1に示す実施形態では、ポンプ装置1は、キャンドモータポンプを備えている。キャンドモータポンプとしてのポンプ装置1は、ポンプ部Pと、ポンプ部Pを駆動するためのモータ部Mと、から構成されており、ポンプ部Pに吸い込まれた液体がモータ部Mの内部を循環する構造を有している。
【0014】
図1に示すように、ポンプ装置1は、回転軸5と、回転軸5に取り付けられた羽根車2と、羽根車2を収容するポンプケーシング3と、ポンプケーシング3に固定されたブラケット10と、回転軸5を回転させるモータ18と、回転軸5を回転可能に支持するすべり軸受30,31と、回転軸5、モータ18、およびすべり軸受30,31を収容するモータケーシング4と、を備えている。
【0015】
羽根車2は、キー構造15によって、回転軸5に取り付けられている。キー構造15は、羽根車2の、回転軸5に対する相対的な回転を制限する一方で、羽根車2の、回転軸5の軸方向CLへの移動を許容するように構成されている。例えば、キー構造15は、回転軸5に形成された突起(図示しない)と、羽根車2に形成された、突起に嵌合する嵌合部と、から構成されている。このように、羽根車2は、キー構造15によって、軸方向CLに対して移動可能に接続されている。
【0016】
図1に示すように、ポンプケーシング3およびブラケット10は、互いに締結されている。ポンプ装置1は、ポンプケーシング3とブラケット10との間に配置されたシール部材9(例えば、Oリング)を備えている。シール部材9は、ポンプケーシング3に吸い込まれた液体の漏洩を防止する。
【0017】
モータ18は、回転軸5に固定されたロータ6と、ロータ6の周囲に配置されたステータ7と、を備えている。ロータ6は、回転軸5に固定されたロータコア6aと、ロータコア6aに埋め込まれた複数の永久磁石6bと、を有している。このような構成を有するモータ18は、永久磁石モータである。
【0018】
ステータ7は、ステータコア7aと、ステータコア7aに巻かれた複数のコイル7bと、を備えている。モータ18は、ステータコア7aとコイル7bとの間に配置された絶縁紙8を備えている。絶縁紙8は、ステータコア7aおよびコイル7bを絶縁する。
【0019】
コイル7bには、口出し線23が接続されている。口出し線23は、モータ18に電力を供給するための電源(図示しない)に電気的に接続されている。電源からの電力は、口出し線23を通じてモータ18に供給される。
【0020】
モータケーシング4は、ブラケット10に接続されたモータフレーム12と、モータフレーム12の開口端を閉じるエンドカバー11と、を備えている。エンドカバー11は、モータフレーム12に関して、ブラケット10の反対側に配置されている。
【0021】
ブラケット10、モータフレーム12、およびエンドカバー11は、この順に直列的に接続されている。このような接続により、モータ部Mは、ブラケット10、モータフレーム12、およびエンドカバー11によって形成された内部空間を有している。モータ18は、この内部空間に配置されている。
【0022】
ポンプ装置1は、ロータ6とステータ7との間に配置されたステータキャン20と、ロータ6を覆うロータキャン21と、を備えている。ステータ7は、モータフレーム12とステータキャン20との間に形成された環状の空間SP1に配置されている。ロータ6およびロータキャン21は、空間SP1の内側に配置された空間SP2に配置されている。空間SP2は、回転軸5とステータキャン20との間に形成されている。
【0023】
ポンプ装置1は、ステータキャン20とブラケット10との間に配置されたシール部材24(例えば、Oリング)と、ステータキャン20とエンドカバー11との間に配置されたシール部材25(例えば、Oリング)と、を備えている。シール部材24,25を配置することにより、空間SP1は、液密的に閉じられる。空間SP1は、ポッティング樹脂22で満たされている。
【0024】
回転軸5は、ロータ6の両側に配置されたすべり軸受30,31によって回転可能に支持されている。すべり軸受30はブラケット10に保持されており、すべり軸受31はエンドカバー11に保持されている。
【0025】
ポンプ装置1は、すべり軸受30とロータ6との間に配置されたスラスト板32と、すべり軸受31とロータ6との間に配置されたスラスト板33と、を備えている。これらスラスト板32,33は、回転軸5に固定されており、回転軸5と一体に回転する。
【0026】
図2(a)はポンプ装置の吸込口および吐出口を示す図であり、
図2(b)は
図2(a)のA線矢印方向から見た図である。
図2(a)に示すように、ポンプ装置1は、ポンプケーシング3に形成された吸込口55および吐出口56を有している。吸込口55および吐出口56は、軸方向CLに沿って開口している。一実施形態では、
図2(b)に示すように、吸込口55および吐出口56は、軸方向CLに垂直な方向(言い換えれば、ポンプケーシング3の上面)に沿って開口してもよい。
【0027】
モータ18に電力を供給すると、ステータ7に磁界が形成され、この磁界により、ロータ6が回転する。ロータ6の回転は、回転軸5を通じて羽根車2に伝達される。羽根車2が回転軸5とともに回転すると、液体は吸込口55からポンプケーシング3内に吸い込まれる。
【0028】
図1に示すように、ポンプ装置1は、ポンプケーシング3とブラケット10との間に形成された渦流室40を有している。このような構造を有するポンプ装置1は、渦流式(言い換えれば、カスケード式)キャンドモータポンプと呼ばれる。
【0029】
渦流室40は、吸込口55および吐出口56に連通している。したがって、吸込口55からポンプケーシング3内に吸い込まれた液体は、渦流室40に導入される。渦流室40に導入された液体は、羽根車2の回転によって、渦流室40内で昇圧され、吐出口56を通じて、外部に排出される。
【0030】
図3は、羽根車に形成された複数の放射溝を示す図である。
図3に示すように、羽根車2は、その周縁部に形成された複数の放射溝2cを有している。渦流室40は、これら複数の放射溝2cを取り囲むように配置されている。
【0031】
羽根車2は、回転軸5に接続されたボス部2aと、ボス部2aから外側に延びる主板部2bと、を有している。ボス部2aは、軸方向CLに沿って延びる円筒形状を有しており、キー構造15によって回転軸5に接続されている。主板部2bは、軸方向CLに対して垂直に延びている。放射溝2cは、主板部2bの最も外側の部位に形成されている。
【0032】
図1に示すように、ブラケット10は、渦流室40に導入された液体の一部をモータ部Mの内部空間(より具体的には、空間SP2)に導くための流通穴10aを有している。渦流室40および空間SP2は、流通穴10aを通じて互いに連通している。したがって、羽根車2の回転によって昇圧された液体の一部は、流通穴10aを通って、空間SP2に導かれる。
【0033】
空間SP2に導かれた液体は、すべり軸受30と回転軸5との間の隙間を流れる循環流(第1循環流)と、すべり軸受31と回転軸5との間の隙間を流れる循環流(第2循環流)と、に分流される。
【0034】
図1に示すように、ポンプケーシング3は、回転軸5の先端側に配置された羽根車室(ポンプケーシング側羽根車室)41を有している。羽根車室41は、羽根車2の主板部2bとポンプケーシング3との間に形成された僅かな隙間(例えば、数十μm)を通じて、渦流室40に連通している。
【0035】
ブラケット10は、羽根車2を挟んで羽根車室41の反対側に配置された羽根車室(ブラケット側羽根車室)42を有している。羽根車室42は、羽根車2とブラケット10との間に形成された僅かな隙間を通じて、渦流室40に連通している。
【0036】
すべり軸受30は、空間SP2に導入された液体の一部を羽根車室42に導入する導入穴30aを有している。導入穴30aは、軸方向CLと平行に延びている。空間SP2に導入された液体の一部は、すべり軸受30の導入穴30aを通って羽根車室42に戻される。
【0037】
導入穴30aを通過する液体は、回転軸5およびすべり軸受30を冷却および潤滑する。羽根車室42に戻された液体は、ブラケット10と羽根車2の主板部2bとの間の隙間を通って、渦流室40の低圧側に戻される。このように、第1循環流を形成する液体は、空間SP2と羽根車室42との間を循環する。
【0038】
第2循環流を形成する液体は、ロータキャン21とステータキャン20との間の狭小空間を通過する。しかしながら、ロータキャン21は、ロータ6および回転軸5とともに回転する。したがって、回転するロータキャン21と、静止するステータキャン20との間の狭小空間に導かれた液体は、遠心力によりはじき飛ばされてしまい、スムーズに狭小空間を通過することができないおそれがある。結果として、第2循環流が適切に形成されないおそれがある。そこで、ポンプ装置1は、第2循環流を確実に、かつ効率よく形成するための構造を有している。以下、このような構造の詳細について説明する。
【0039】
図1に示すように、回転軸5は、回転軸の軸方向CLに延びる軸方向連通穴5aと、軸方向連通穴5aに接続され、かつ羽根車室41に連通する半径方向連通穴50と、を有している。軸方向連通穴5aは、非貫通穴である。半径方向連通穴50は、軸方向連通穴5aとは垂直に延びており、回転軸5の外周で開口している。
【0040】
本実施形態では、羽根車2は、半径方向連通穴50に接続された液体流出穴51を有している。液体流出穴51は、羽根車2のボス部2aに形成されており、主板部2bよりも回転軸5の先端側に配置されている。液体流出穴51は、軸方向連通穴5aとは垂直に延びる貫通穴である。
【0041】
すべり軸受31は、狭小空間を通過した液体を回転軸5の軸方向連通穴5aに導くための導入穴31aを有している。導入穴31aは、軸方向CLと平行に延びている。導入穴31aを通過する液体は、回転軸5およびすべり軸受31を冷却および潤滑する。
【0042】
エンドカバー11は、狭小空間を通過した液体を軸方向連通穴5aに導くための凹部11aを有している。導入穴31aおよび凹部11aを通過した液体は、軸方向連通穴5aに流入する。軸方向連通穴5aに流入した液体は、軸方向CLに沿って流れ、半径方向連通穴50に導入される。
【0043】
図4は、軸方向連通穴および半径方向連通穴を流れる液体を示す図である。
図4に示すように、回転軸5が回転すると、半径方向連通穴50を流れる液体は、遠心力の作用により、液体流出穴51を通じて羽根車室41に飛ばされる。このようにして、回転軸5は、その回転により、半径方向連通穴50を流れる液体を強制的に羽根車室41に流出させることができる。
【0044】
本実施形態によれば、液体を連続的に流出させることにより、モータ部Mに導入された液体は、ポンプ作用により、積極的に、軸方向連通穴5aおよび半径方向連通穴50を通過して、羽根車室41に戻される。
【0045】
このような構成により、ポンプ装置1は、モータ部Mに導入された液体をロータキャン21とステータキャン20との間の狭小空間を積極的に通過させることができ、空間SP2と羽根車室41との間を循環する第2循環流を積極的に、かつ効率よく形成することができる。結果として、ポンプ装置1は、高い回転速度を有する小型のモータ18を採用することができ、小水量・高揚程で、かつ小型化を実現することができる。
【0046】
図3および
図4に示す実施形態では、回転軸5は、複数(より具体的には、2つ)の半径方向連通穴50を有している。一方の半径方向連通穴50を第1半径方向連通穴50と定義した場合、回転軸5は、その中心に関して、第1半径方向連通穴50の反対側に配置された第2半径方向連通穴50を有している。
【0047】
図3に示す実施形態では、第1半径方向連通穴50および第2半径方向連通穴50は、回転軸5の回転方向において、等間隔に配置されている。このような配置により、第1半径方向連通穴50および第2半径方向連通穴50を通過する液体には、均一な遠心力が作用する。したがって、液体は、第1半径方向連通穴50および第2半径方向連通穴50を効率よく流出することができる。
【0048】
一実施形態では、回転軸5は、3つ以上の半径方向連通穴50を有してもよい。この場合であっても、第1半径方向連通穴50、第2半径方向連通穴50、および第3半径方向連通穴50は、回転軸5の回転方向において、等間隔に配置されることが好ましい。
【0049】
液体流出穴51の数は、半径方向連通穴50の数に対応している。
図3および
図4に示す実施形態では、羽根車2は、2つの液体流出穴51を有している。一方の液体流出穴51を第1液体流出穴51と定義した場合、羽根車2は、その中心に関して、第1液体流出穴51の反対側に配置された第2液体流出穴51を有している。第1液体流出穴51および第2液体流出穴51は、羽根車2の円周方向において、等間隔に配置されることが好ましい。
【0050】
図5は、半径方向連通穴の他の実施形態を示す図である。上述した実施形態では、回転軸5は複数の半径方向連通穴50を有しており、羽根車2は半径方向連通穴50の数に対応する数の液体流出穴51を有している。一実施形態では、
図5に示すように、回転軸5は単一の半径方向連通穴50を有してもよく、羽根車2は液体流出穴51を有していなくてもよい。一実施形態では、羽根車2は、単一の液体流出穴51を有してもよい。
【0051】
図5に示す実施形態では、半径方向連通穴50は、羽根車2のボス部2aよりも回転軸5の先端側に形成されている。このような構成によっても、モータ部Mに導入された液体は、ポンプ作用により、積極的に、軸方向連通穴5aおよび半径方向連通穴50を通過して、羽根車室41に戻される。
【0052】
本実施形態では、ポンプ装置1は、第2循環流を積極的に形成する構造のみならず、モータ部Mの発熱を抑える構造を有している。より具体的には、永久磁石モータとしてのモータ18を採用することにより、誘導電動機のかご型ロータを採用した場合と比べて、ロータ6の内部に生じる渦電流損を小さくすることができる。
【0053】
さらに、このような構成により、ロータ6とステータ7との間の磁気ギャップδを大きくすることができる。例えば、誘導電動機を採用した場合には、磁気ギャップδは約1mm程度であるのに対し、永久磁石モータ(すなわち、モータ18)を採用した場合には、磁気ギャップδは約3mm程度である。
【0054】
磁気ギャップδを大きくすることにより、ステータキャン20とロータキャン21との間の隙間(すなわち、機械ギャップ)を大きくすることができるので、ロータ6の攪拌損を誘導電動機における攪拌損と比較して、低減することができる。結果として、モータ部Mの内部に導入された液体の温度上昇を小さく抑えることができる。
【0055】
本実施形態では、ロータキャン21およびステータキャン20のうちの少なくとも1つは、非磁性材料(例えば、樹脂、セラミックなど)から構成されている、このような構成により、キャン損は生じない。
【0056】
図6は、ポンプ装置の他の実施形態を示す図である。
図7は、
図6に示すポンプにおける羽根車をポンプケーシング側から見た図である。
図6および
図7に示す実施形態では、回転軸5は、軸方向連通穴5aおよび半径方向連通穴50を有しておらず、その代わりに、軸通穴5bを有している。
【0057】
ポンプ効率を向上させるためには、ポンプの組み立て時において、回転軸5の軸方向CLにおける羽根車2とポンプケーシング3(および/またはブラケット10)との間の隙間を極めて小さくする必要がある。従来では、作業者は、数十μm程度の僅かな隙間を確保するように、羽根車2を回転軸5に慎重に固定し、羽根車2の位置決めする。
【0058】
しかしながら、このような組み立て作業は、非常に煩雑であり、手間と時間がかかってしまう。そこで、以下に示す実施形態では、組み立て作業を簡易化することができるポンプが提供される。本明細書において、ポンプは、羽根車2とポンプケーシング3との組み合わせである。ポンプは、その構成要素として、羽根車2およびポンプケーシング3のみならず、ブラケット10を備えてもよい。
【0059】
主板部2bは、ポンプケーシング3に対向する第1対向面80Aを有している(
図7参照)。第1対向面80Aは、複数の放射溝2cの内側に配置されており、かつボス部2aの外側に配置されている。言い換えれば、第1対向面80Aは、複数の放射溝2cとボス部2aとの間に配置された環状の面である。
【0060】
図7に示す実施形態では、主板部2bは、第1対向面80Aに形成された複数の動圧溝60を有している。動圧溝60は、羽根車2とポンプケーシング3との間に動圧を発生させるための溝である。動圧溝60の深さは、取扱液の粘性に応じて決定される。例えば、動圧溝60は、数μm乃至数十μmの深さを有してもよい。
【0061】
複数の動圧溝60は、複数の放射溝2cの内側に配置されており、主板部2bの円周方向に沿って、主板部2bの全体に等間隔に形成されている。羽根車2が回転軸2とともに回転すると、動圧溝60に存在する液体によって、羽根車2とポンプケーシング3との間の隙間に動圧(すなわち、液膜)が発生する。動圧の発生により、羽根車2とポンプケーシング3との間には、一定の隙間が形成され、羽根車2は、ポンプケーシング3に非接触で支持される。
【0062】
図7に示す実施形態では、複数の動圧溝60は、羽根車2の中心から外側に向かって、螺旋状に延びるスパイラル溝である。しかしながら、動圧を発生することができれば、動圧溝60の形状は、
図7に示す実施形態には限定されない。一実施形態では、複数の動圧溝60は、羽根車2の中心から外側に向かって、直線的に延びる形状を有してもよい。
【0063】
本実施形態によれば、羽根車2は、動圧溝60を有しているため、羽根車2を位置決めする必要はない。より具体的には、作業者は、数十μm程度の僅かな隙間を確保するように、羽根車2を回転軸5に慎重に固定して、羽根車2を位置決めする煩雑な組み立て作業を省略することができる。結果として、ポンプの組み立て作業を簡易化することができる。
【0064】
動圧溝60を形成することにより、ポンプ装置1の運転中において、羽根車2とポンプケーシング3との間の隙間には、液膜が形成される。液膜は、羽根車2とポンプケーシング3との間の隙間を通じて漏洩する液体の流量を低減することができる。したがって、ポンプの高効率化を実現することができる。
【0065】
図8は、
図6に示すポンプにおける羽根車をブラケット側から見た図である。
図8に示すように、主板部2bは、ブラケット10に対向する第2対向面80Bを有している。第2対向面80Bは、複数の放射溝2cの内側に配置されており、かつボス部2aの外側に配置されている。第2対向面80Bは、第1対向面80Aの反対側に配置されている。
【0066】
図8に示す実施形態では、主板部2bは、第2対向面80Bに形成された複数の動圧溝61を有している。第2対向面80Bに形成された動圧溝61は、第1対向面80Aに形成された動圧溝60と同一の構造を有している。したがって、動圧溝61の詳細な説明を省略する。
【0067】
図7および
図8に示すように、本実施形態では、羽根車2は、第1対向面80Aに形成された動圧溝60と、第2対向面80Bに形成された動圧溝61と、を有しているが、動圧溝は、必ずしも、第1対向面80Aおよび第2対向面80Bの両方に形成される必要はない。一実施形態では、主板部2bは、第1対向面80Aと、第2対向面80Bと、のうちの少なくとも1つに形成された複数の動圧溝を有してもよい。
【0068】
図9は、ポンプ装置の他の実施形態を示す図である。
図9に示すように、
図1乃至
図5を参照して説明した実施形態と、
図6乃至
図8を参照して説明した実施形態と、を組み合わせてもよい。
【0069】
より具体的には、ポンプ装置1は、回転軸5に形成された半径方向連通穴50(および羽根車2のボス部2aに形成された液体流出穴51)と、第1対向面80A(および/または第2対向面80B)に形成された複数の動圧溝60(および/または複数の動圧溝61)と、を備えてもよい。この場合、回転軸5は、軸通穴5b(
図6参照)を有する代わりに、半径方向連通穴50に接続された軸方向連通穴5aを有している。
【0070】
このような構造により、ポンプ装置1は、複数の動圧溝60(および/または複数の動圧溝61)によって、液膜を形成し、かつ半径方向連通穴50(および液体流出穴51)によって、第2循環流を積極的に形成する。
【0071】
本実施形態によれば、液膜を形成して、羽根車2の、ポンプケーシング3(および/またはブラケット10)との接触を防止することにより、第2循環流を確実に確保するという効果を奏することができる。
【0072】
図10および
図11は、ポンプ装置の他の実施形態を示す図である。
図12は、
図10および
図11に示すポンプ装置における羽根車を示す図である。本実施形態において、特に説明しない構成は、上述した実施形態の構成と同じであるので、その重複する説明を省略する。
【0073】
上述した実施形態では、ポンプ装置1は、渦流式(言い換えれば、カスケード式)のポンプ装置であるが、動圧溝60,61を有する羽根車2は、必ずしも、渦流式のポンプ装置にだけ適用される必要はなく、他のポンプ装置1に適用可能である。
【0074】
図10に示す実施形態では、ポンプ装置1は、ポンプ部Pの構成要素としてのポンプケーシング3と、モータ部Mの構成要素としてのモータケーシング4と、を備えている。ポンプケーシング3は、ケーシング本体3Aと、ケーシング本体3Aを閉じるケーシングカバー3Bと、を備えている。モータケーシング4は、モータフレーム12と、モータフレーム12の両側に配置されたブラケット10およびエンドカバー11と、を備えている。
【0075】
羽根車2はポンプケーシング3に収容されており、モータ18はモータケーシング4に収容されている。回転軸5は、ポンプケーシング3のケーシングカバー3Bを貫通しており、回転軸5とケーシングカバー3Bとの間には、軸封装置65が配置されている。軸封装置65は、例えば、メカニカルシールであり、ポンプケーシング3に吸い込まれた液体の漏洩を防止する。
【0076】
回転軸5は、ブラケット10に支持された軸受70と、エンドカバー11に支持された軸受71と、によって、回転自在に支持されている。軸受70,71は、例えば、玉軸受である。
【0077】
図11に示す実施形態では、ポンプ装置1は、モータ部Mに配置されたモータ側回転軸5Aと、ポンプ部Pに配置されたポンプ側回転軸5Bと、モータ側回転軸5Aおよびポンプ側回転軸5Bを互いに締結するカップリング90と、を備えている。
【0078】
このように、ポンプ装置1は、モータ18の回転力を直接、羽根車2に伝達する回転軸5を備えてもよく(
図10参照)、またはカップリング90を通じてモータ18の回転力を羽根車2に伝達する回転軸5A,5Bを備えてもよい(
図11参照)。
【0079】
図10、
図11、および
図12に示す実施形態では、回転軸5(またはポンプ側回転軸5B)は、その内部に形成された軸方向連通穴5aおよび半径方向連通穴50を有していない。
図12に示すように、羽根車2は、その第1対向面80Aに形成された動圧溝60および/または第2対向面80Bに形成された動圧溝61を有している。
【0080】
本実施形態においても、ポンプ装置1は、羽根車2とポンプケーシング3との間に液膜を形成することができる。したがって、作業者は、羽根車2を位置決めする煩雑な組み立て作業を省略することができる。
【0081】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうる。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲に解釈されるものである。
【符号の説明】
【0082】
1 ポンプ装置
2 羽根車
2a ボス部
2b 主板部
2c 放射溝
3 ポンプケーシング
3A ケーシング本体
3B ケーシングカバー
4 モータケーシング
5 回転軸
5A モータ側回転軸
5B ポンプ側回転軸
5a 軸方向連通穴
5b 軸通穴
6 ロータ
6a ロータコア
6b 永久磁石
7 ステータ
7a ステータコア
7b コイル
10 ブラケット
10a 流通穴
11 エンドカバー
11a 凹部
12 モータフレーム
15 キー構造
18 モータ
20 ステータキャン
21 ロータキャン
22 ポッティング樹脂
23 口出し線
24,25 シール部材
30 すべり軸受
30a 導入穴
31 すべり軸受
31a 導入穴
32,33 スラスト板
40 渦流室
41 羽根車室(ポンプケーシング側羽根車室)
42 羽根車室(ブラケット側羽根車室)
50 半径方向連通穴
51 液体流出穴
55 吸込口
56 吐出口
60,61 動圧溝
65 軸封装置
70,71 軸受
80A 第1対向面
80B 第2対向面
P ポンプ部
M モータ部
CL 軸方向
SP1 空間
SP2 空間