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  • 特開-電磁波遮蔽部材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025161105
(43)【公開日】2025-10-24
(54)【発明の名称】電磁波遮蔽部材
(51)【国際特許分類】
   H05K 9/00 20060101AFI20251017BHJP
   H01Q 17/00 20060101ALI20251017BHJP
【FI】
H05K9/00 M
H05K9/00 W
H01Q17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024064020
(22)【出願日】2024-04-11
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西村 翼
(72)【発明者】
【氏名】大▲崎▼ 明彦
【テーマコード(参考)】
5E321
5J020
【Fターム(参考)】
5E321BB32
5E321BB60
5E321GG05
5E321GG11
5J020EA03
5J020EA04
5J020EA07
(57)【要約】
【課題】本発明は、60~90GHzの高周波数帯で、広い吸収帯域かつ優れた吸収特性及びシールド特性を示す電磁波遮蔽部材を提供することを目的とする。
【解決手段】電磁波吸収フィラー及びバインダー樹脂を含む電磁波吸収層と、該電磁波吸収層の電磁波入射面の反対面側に設置される反射層とを有する電磁波遮蔽部材であって、前記電磁波吸収層は、その誘電率が4~30であり、その誘電正接が0.1~2.0であると共に、前記電磁波吸収フィラーの含有量が電磁波吸収層の全質量に対して1~20質量%であり、且つ、前記反射層の体積抵抗率が1×10-4~1×10-1Ω・cmであることを特徴とする電磁波遮蔽部材。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波吸収フィラー及びバインダー樹脂を含む電磁波吸収層と、該電磁波吸収層の電磁波入射面の反対面側に設置される反射層とを有する電磁波遮蔽部材であって、前記電磁波吸収層は、その誘電率が4~30であり、その誘電正接が0.1~2.0であると共に、前記電磁波吸収フィラーの含有量が電磁波吸収層の全質量に対して1~20質量%であり、且つ、前記反射層の体積抵抗率が1×10-4~1×10-1Ω・cmであることを特徴とする電磁波遮蔽部材。
【請求項2】
前記電磁波吸収フィラーが、カーボンブラック、カーボンナノチューブ及び炭素繊維からなる群から選ばれる1つ以上である請求項1記載の電磁波遮蔽部材。
【請求項3】
前記バインダー樹脂の誘電率が5以下である請求項1又は2記載の電磁波遮蔽部材。
【請求項4】
前記反射層が炭素材料で構成される請求項1又は2記載の電磁波遮蔽部材。
【請求項5】
前記炭素材料が、カーボンナノチューブ、炭素繊維、グラファイト及びグラフェンからなる群から選ばれる1つ以上である請求項4記載の電磁波遮蔽部材。
【請求項6】
60~90GHzの周波数帯の全域において、透過減衰量が30dB以上である請求項1又は2記載の電磁波遮蔽部材。
【請求項7】
60~90GHzの周波数帯域において、反射減衰量が10dB以上である周波数帯域幅が20GHz以上である請求項1又は2記載の電磁波遮蔽部材。
【請求項8】
60~90GHzの周波数帯域の少なくとも一部帯域において、反射減衰量が20dB以上である請求項1又は2記載の電磁波遮蔽部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速大容量通信対応機器や車載向けに使用される半導体装置に好適に用いられる電磁波遮蔽部材に関する。
【背景技術】
【0002】
周波数が30~300GHzのいわゆるミリ波帯域の電波を用いた高速大容量通信は、5G対応通信機器や自動車自動運転システム、遠隔医療システムなど多分野での活用が見込まれている。その中で、電磁波吸収材料は不要な電波の漏れや、反射を吸収する部材として知られており、安定的な通信環境の維持と誤動作の防止といった役割を果たしている。
【0003】
ミリ波用電磁波吸収材料の開発分野において、炭素系フィラーを樹脂中に充填した誘電体層と、これに導電性材料で構成される反射層を張り付けたλ/4型の電磁波吸収シートの開発が多く報告されている。しかしながら、これらの電磁波吸収シートでは、吸収原理上の理由で狭帯域の吸収特性しか得られず、10dBの減衰量では10GHz程度の吸収帯域、20dBの減衰量では5GHz程度の吸収帯域の性能に限られていた(特許文献1及び特許文献2)。
【0004】
その一方で、広帯域の吸収特性を得るために2層以上の誘電体層で設計したものが報告されている(特許文献3)。しかしながら、このような多層構造の電磁波吸収体は各層の誘電特性や膜厚及び積層方法などの多くのパラメータ制御が必要となるため、実用化への障壁が高く、また製造コストが大幅に上昇してしまうという課題が残されている。
【0005】
したがって、実用性や利便性を考慮すると、減衰量が10dB以上の高吸収性能、かつ吸収帯域が20GHz以上の広帯域なミリ波用電磁波吸収材料がより有効と考えられるが、λ/4型の電磁波吸収材料では、上記のような性能を明確に記載した報告はこれまでにされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2018/168859号
【特許文献2】特開2023-129145号公報
【特許文献3】特開2020-145278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、60~90GHzの高周波数帯で、広い吸収帯域かつ優れた吸収特性及びシールド特性を示す電磁波遮蔽部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、電磁波吸収フィラー及びバインダー樹脂を含み、誘電率が4~30であり、誘電正接が0.1~2.0である電磁波吸収層と、該電磁波吸収層の電磁波入射面の反対面側に設置され、体積抵抗率が1×10-4~1×10-1Ω・cmである反射層とを有し、前記電磁波吸収フィラーの含有量は電磁波吸収層の全質量に対して1~20質量%である電磁波遮蔽部材が、60~90GHzの高周波数帯で、広い吸収帯域かつ優れた吸収特性及びシールド特性を示すことを見出し、本発明を完成させるに至ったものである。
【0009】
したがって、本発明は、下記の電磁波遮蔽部材を提供する。
1.電磁波吸収フィラー及びバインダー樹脂を含む電磁波吸収層と、該電磁波吸収層の電磁波入射面の反対面側に設置される反射層とを有する電磁波遮蔽部材であって、前記電磁波吸収層は、その誘電率が4~30であり、その誘電正接が0.1~2.0であると共に、前記電磁波吸収フィラーの含有量が電磁波吸収層の全質量に対して1~20質量%であり、且つ、前記反射層の体積抵抗率が1×10-4~1×10-1Ω・cmであることを特徴とする電磁波遮蔽部材。
2.前記電磁波吸収フィラーが、カーボンブラック、カーボンナノチューブ及び炭素繊維からなる群から選ばれる1つ以上である上記1記載の電磁波遮蔽部材。
3.前記バインダー樹脂の誘電率が5以下である上記1又は2記載の電磁波遮蔽部材。
4.前記反射層が炭素材料で構成される上記1又は2記載の電磁波遮蔽部材。
5.前記炭素材料が、カーボンナノチューブ、炭素繊維、グラファイト及びグラフェンからなる群から選ばれる1つ以上である上記4記載の電磁波遮蔽部材。
6.60~90GHzの周波数帯の全域において、透過減衰量が30dB以上である上記1又は2記載の電磁波遮蔽部材。
7.60~90GHzの周波数帯域において、反射減衰量が10dB以上である周波数帯域幅が20GHz以上である上記1又は2記載の電磁波遮蔽部材。
8.60~90GHzの周波数帯域の少なくとも一部帯域において、反射減衰量が20dB以上である上記1又は2記載の電磁波遮蔽部材。
【発明の効果】
【0010】
本発明の電磁波遮蔽部材によれば、60G~90GHzの高周波数帯で、広い吸収領域かつ優れた吸収特性及びシールド特性を示すことが可能である。従来の電磁波遮蔽部材に比べて薄くすることができるため、デバイス内の狭い空間にも設置可能であり、電磁波遮蔽部材として極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の電磁波遮蔽部材(電磁波遮蔽シート)の概略断面図である。
【0012】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0013】
本発明の電磁波遮蔽部材は、電磁波吸収フィラー及びバインダー樹脂を含む電磁波吸収層と、反射層とを有することが特徴である。
前記電磁波吸収フィラーの含有量は、電磁波吸収層の全質量に対して1~20質量%であり、好ましくは1~10質量%である。また、前記反射層の体積抵抗率は、1×10-4~1×10-1Ω・cmであり、好ましくは、1×10-3~1×10-1Ω・cmである。
なお、本発明において体積抵抗率は、JIS K7194:1994に記載の四探針法で測定した値である。
【0014】
電磁波吸収層と反射層とを貼り合わせる方法は特に限定はされず、電磁波吸収層と反射層との間に、接着層として接着剤等を使用しても良い。あるいは、接着剤などの化学的な接着なしに、圧着による単純な積層方法等も用いることができる。
【0015】
また、本発明の電磁波遮蔽部材は、絶縁性や粘着性の付与、または物理的な保護などを目的として、電磁波遮蔽部材の外周面に機能性膜を設置することができる。
以下、各層について詳述する。
【0016】
<電磁波吸収層>
本発明の電磁波吸収層は、電磁波吸収フィラー及びバインダー樹脂を含むことを特徴とする。前記電磁波吸収層は、入射した電磁波を熱に変換し吸収する目的と、電磁波吸収層に入射した電磁波の周波数を制御する目的で使用される。
【0017】
電磁波吸収層の誘電率は4~30であり、好ましくは4~15である。誘電率が30以下であれば、電磁波吸収層の表面からの反射成分が小さく、透過成分が大きくなるため、電磁波吸収層の吸収効率が高くなるので好ましい。
【0018】
電磁波吸収層の誘電正接は、電磁波を吸収して熱に変換する係数であるため、0.1~2.0である必要があり、好ましくは0.3~1.6である。また、誘電正接は下記式(1)を満たす値を中心に±20%の範囲が好ましい。下記式(1)を満たす誘電正接と誘電率であれば、誘電体層からの電磁波の反射波と、反射層からの電磁波の反射波の整合条件を一致させることができる。
【0019】
tanδ=1.27εr -0.5 (1)
(上記式中、tanδは電磁波吸収層の誘電正接、εrは電磁波吸収層の誘電率である。)
【0020】
なお、本発明において、誘電率、誘電正接についてはフリースペース法により測定した。
【0021】
本発明における電磁波吸収層の厚さは、特に限定されないが、下記式(2)を満たす値を中心に±20%の範囲にあることが好ましい。電磁波吸収層の厚さが下記式(2)を満たす値であれば、任意の周波数帯域で誘電体層からの電磁波の反射波と、反射層からの電磁波の反射波の整合条件を一致させることができ、理論上20dB以上の減衰量を得ることができる。
【0022】
d=0.25cf-1εr -0.5+0.5Ncf-1εr -0.5 (2)
(上記式中、dは電磁波吸収層の膜厚(m)、cは光束(m/s)、fは周波数(Hz)、εrは電磁波吸収層の誘電率、Nは0以上の整数である。)
【0023】
本発明における電磁波吸収層を構成する組成物の製造方法としては、特に限定されないが、公知の混錬機で混合することができ、ニーダー、バンバリーミキサー、二本ロール、三本ロール、プラネタリーミキサー、ゲートミキサー、自転公転式ミキサー等が挙げられるが、操作が容易で、均一に混合が可能な三本ロール、プラネタリーミキサーが好ましい。また、混合する際には、バインダー樹脂、電磁波吸収フィラー及び任意成分を同時に混錬しても良く、または1種ずつ添加しながら混錬しても良い。得られた組成物の成形方法は、例えば真空成型やプレス形成、射出成型など公知の方法を用いることができる。
【0024】
(バインダー樹脂)
電磁波吸収層に用いられるバインダー樹脂は電磁波吸収フィラーのバインダーとして用いられる。バインダー樹脂は、特に制限はないが、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリイミド樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、マレイミド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いても良い。中でも誘電率が5以下である樹脂が好ましく、例えばシリコーン樹脂、マイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂等が挙げられる。誘電率が5以下であれば、電磁波吸収層の表面からの反射成分が小さく、透過成分が大きくなるため、電磁波吸収層の吸収効率が高くなるので好ましい。
【0025】
(電磁波吸収フィラー)
電磁波吸収層に用いられる電磁波吸収フィラーは、電磁波吸収層の誘電率を制御する目的と電磁波を吸収して熱に変換する目的で用いられる。電磁波吸収フィラーは、特に限定されないが、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。電磁波吸収フィラーとしては、例えば、黒鉛、炭素繊維、グラフェン、酸化グラフェン、グラファイト、カーボンナノチューブ、フラーレン、炭化ケイ素、酸化鉄、ナノ酸化鉄、フェライト等が挙げられる。中でも高周波領域で吸収性能が良好な、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、炭素繊維、炭化ケイ素が好ましい。カーボンブラックの種類として、例えば、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック等が挙げられる。カーボンナノチューブの種類として、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブが挙げられる。炭素繊維の種類は、例えば、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維が挙げられる。電磁波吸収フィラーの添加量は、電磁波吸収層の全質量に対して1~20質量%であることを特徴とし、1~10質量%であることが好ましい。
【0026】
(任意成分)
電磁波吸収層においては上記の成分に加えて、本発明の目的及び効果を損なわない限度において任意成分を適宜配合することができる。例えば、硬化時における収縮率、及び、得られる硬化物の熱膨張係数、機械的強度、耐熱性、耐薬品性、難燃性、ガス透過率、熱伝導率、耐酸化性等を適宜調整することを目的として、各種任意成分を添加しても良い。そのような任意成分として、シリカ、ヒュームドシリカ、石英粉末、ガラス繊維、二酸化チタン、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、アルミナ(酸化アルミニウム)、窒化アルミニウム、酸化マグネシウム、窒化ホウ素などの無機充填材、ヒドロキノン、2,6-tert-ブチル-p-クレゾール等の酸化防止剤が挙げられる。
【0027】
<反射層>
反射層は電磁波吸収層から透過した電磁波を熱に変換する目的、及び、シールド材料として背面の半導体デバイスへの不要な電磁波の漏れ出しを防ぐ目的で使用される。本実施形態にかかる電磁波遮蔽部材の反射層は、電磁波吸収層の電磁波入射面の反対面側に配置される部材である。
【0028】
反射層の膜厚は、反射層の透過減衰量が30dB以上であれば特に限定されない。過度に薄膜の場合は、透過減衰量が減少して反射層に入射した電磁波が透過するおそれがある。
【0029】
反射層の体積抵抗率は1×10-4~1×10-1Ω・cmであることを特徴とし、好ましくは、1×10-3~1×10-1Ω・cmである。体積抵抗率が1×10-4Ω・cm未満の場合は、電磁波吸収層から透過した電磁波の熱への変換効率が低下するおそれがある。また、体積抵抗率が1×10-1Ω・cmを超える場合は、十分なシールド効果が得られないおそれがある。反射層の構成材料は、上記体積抵抗率の範囲内であれば特に限定されないが、例えば、炭素繊維、カーボンナノチューブ、グラフェン、グラファイト等などの炭素材料や、銀、銅、アルミニウムなどの金属粉末が挙げられる。中でも炭素材料が好ましい。このような材料で構成される反射層であれば、電磁波吸収層から透過した電磁波の熱への変換効率が高いため、高吸収性と広帯域吸収性の両立性がさらに向上する。
【0030】
〔電磁波吸収材料の周波数特性〕
透過減衰量は、60~90GHzの周波数帯全域で30dB以上であることが好ましい。30dB以上であれば、電磁波吸収層に入射した電磁波が反射層を透過することなく、十分に反射することができる。また、60~90GHzの周波数範囲の少なくとも一部帯域において、反射減衰量が20dB以上であり、反射減衰量が10dB以上の周波数範囲が20GHz以上であることが好ましい。10dB以上の電磁波減衰量の周波数範囲が20GHz以上であれば、周波数の違う電磁波装置に対して柔軟に対応することが可能となり、さらに、20dB以上の減衰量をもつ材料であればより優れた電磁波遮蔽部材となる。
【実施例0031】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0032】
<電磁波遮蔽シートの作成>
電磁波吸収層の全質量に対して、表1及び表2に示すような含有量になるようにバインダー樹脂、電磁波吸収フィラー及び任意成分を配合し、プラネタリーミキサーを用いて1時間混合することで電磁波吸収材組成物を得た。得られた電磁波吸収材組成物をプレス成型により、表1及び表2に示す電磁波吸収層の厚さで120mm×120mm角のシート状に成型した後、150℃,2時間で加熱硬化し、シート状の電磁波吸収層を得た。得られた電磁波吸収層と反射層とを貼り合わせて、1MPa,10分の条件で加圧接着することで電磁波遮蔽シート(電磁波遮蔽部材)を作成した。なお、図1に電磁波吸収層1aと反射層1bとを有する電磁波遮蔽シート1を示す。
【0033】
各例の電磁波遮蔽シートに使用した材料は以下のとおりである。
・シリコーン樹脂:KE-106(信越化学工業社製)
・ビスマレイミド樹脂:SLK-3000(信越化学工業社製)
・カーボンブラック:ケッチェンブラック(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製)
・炭素繊維:ZY-300-25M(日本グラファイトファイバー社製)
・アルミナ:AC-5500SI(アドマテックス社製)
・カーボンナノチューブシート(CNTシート):S-T01AVB-12(Huntsman Corporation製)
・炭素繊維シート:ASA-60S-A4 サカイオーベックス社製
・グラファイトシート:WW-T68A-140140 ワイドワーク社製
【0034】
<誘電特性及び電磁波遮蔽特性の測定>
上述した電磁波遮蔽シートを測定対象として、フリースペース法によって誘電率、誘電正接及び電磁波遮蔽特性を測定した。具体的には、ネットワークアナライザ(キーコム社製)、ホーンアンテナ(キーコム社製)及び誘電体レンズ(キーコム株式会社製)を用いて、図1に示すように、電磁波遮蔽シート1に対して反射層1bの反対面側から垂直入射の電磁波を照射し、その時の入射波と反射波から測定した。
【0035】
最小反射減衰量:60~90GHz周波数帯域における反射減衰量の最小値
最大反射減衰量:60~90GHz周波数帯域における反射減衰量の最大値
最小透過減衰量:60~90GHz周波数帯域における透過減衰量の最小値
最大透過減衰量:60~90GHz周波数帯域における透過減衰量の最大値
10dB以上の反射減衰領域幅:60~90GHzの周波数帯域において、10dB以上の減衰量を示す周波数範囲
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
実施例1~4のカーボンブラックを電磁波吸収フィラーに用いた例では、任意成分を添加しない系(実施例1)、任意成分としてアルミナを使用した系(実施例2)、上記式(1)の誘電正接から20%以上高い系(実施例3)、上記式(2)の膜厚から20%以上厚い系を実施した例(実施例4)をそれぞれ示している。いずれの例においても、周波数60GHz~90GHzの周波数範囲において反射減衰量および透過減衰量が大きく、また10dB以上の減衰量を示す吸収領域も広いことが表1から分かる。特に、誘電正接と膜厚を上記式(1)及び(2)の値の20%以内に制御した実施例1及び実施例2では高い最大反射減衰量が得られていることが分かる。
【0039】
その一方で、電磁波吸収フィラーを使用しない比較例1の場合や、反射層のみの比較例2の場合、反射層を設けない比較例3、体積抵抗率が1×10-4Ω・cm以下である銅箔を反射層に用いた比較例4、電磁波吸収層の誘電率が30より大きい比較例5の例では、いずれも高い反射減衰量と高い透過減衰量、及び、広い10dB以上の減衰領域幅を両立しておらず目的の性能を満たしていないことが分かる。
【0040】
さらに、本発明の範囲内である、電磁波吸収フィラーに炭素繊維を用いた実施例5、反射層にCNTシート以外として炭素繊維シートやグラファイトシートを用いた実施例6~7、及び、バインダー樹脂にビスマレイミド樹脂を用いた系においても本発明の目的の性能を満たすことができる。
【0041】
以上説明したように、本発明の電磁波遮蔽部材によれば、60~90GHzの高周波数帯で、広い吸収帯域かつ優れた吸収特性及びシールド特性を示す電磁波遮蔽部材となる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の電磁波遮蔽部材は優れた電磁波遮蔽特性を有するため高速大容量通信対応機器や車載向けに使用される半導体装置に好適に用いることができる。
【0043】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
図1