(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025016947
(43)【公開日】2025-02-05
(54)【発明の名称】外用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 8/34 20060101AFI20250129BHJP
A61K 8/44 20060101ALI20250129BHJP
A61K 8/36 20060101ALI20250129BHJP
A61K 8/39 20060101ALI20250129BHJP
A61K 8/37 20060101ALI20250129BHJP
A61K 8/60 20060101ALI20250129BHJP
A61K 8/49 20060101ALI20250129BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20250129BHJP
【FI】
A61K8/34
A61K8/44
A61K8/36
A61K8/39
A61K8/37
A61K8/60
A61K8/49
A61Q19/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023119767
(22)【出願日】2023-07-24
(71)【出願人】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】久保 嘉一
(72)【発明者】
【氏名】恒松 希
(72)【発明者】
【氏名】中城 陽太
(72)【発明者】
【氏名】田中 亜梨咲
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 賢史
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AA082
4C083AA112
4C083AB032
4C083AC072
4C083AC102
4C083AC121
4C083AC122
4C083AC172
4C083AC241
4C083AC242
4C083AC302
4C083AC371
4C083AC372
4C083AC421
4C083AC422
4C083AC432
4C083AC442
4C083AC482
4C083AC532
4C083AC621
4C083AC622
4C083AC662
4C083AC851
4C083AC852
4C083AD092
4C083AD152
4C083AD332
4C083AD391
4C083AD392
4C083AD532
4C083AD641
4C083AD642
4C083AD662
4C083AD672
4C083CC04
4C083CC05
4C083EE01
4C083EE06
(57)【要約】
【課題】本開示は、水溶性有効成分の皮膚への浸透が促進され、且つ相分離が生じにくい外用組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】 (A)水溶性有効成分、(B)ポリグリセリン脂肪酸エステル、及び(C)ポリオールを含有する、外用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)水溶性有効成分、(B)ポリグリセリン脂肪酸エステル、及び(C)ポリオールを含有する、外用組成物。
【請求項2】
更に(D)ジカルボン酸ビス(ポリオキシアルキレンアルキルエーテル)エステルを含有する、請求項1に記載の外用組成物。
【請求項3】
更に(E)液状脂肪酸を含む、請求項1又は2に記載の外用組成物。
【請求項4】
前記(A)水溶性有効成分が、トラネキサム酸、アルブチン、アスコルビン酸、アスコルビン酸の塩、アスコルビン酸誘導体、ニコチン酸、及びニコチン酸誘導体よりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の外用組成物。
【請求項5】
前記(A)水溶性有効成分が、トラネキサム酸である、請求項1又は2に記載の外用組成物。
【請求項6】
前記(B)ポリグリセリン脂肪酸エステルが、モノラウリン酸ポリグリセリル、ジイソステアリン酸ポリグリセリル、モノカプリン酸ポリグリセリル、モノカプリル酸ポリグリセリル、ジラウリン酸ポリグリセリル、トリラウリン酸ポリグリセリル、ミリスチン酸ポリグリセリル、ジミリスチン酸ポリグリセリル、トリミリスチン酸ポリグリセリル、モノオレイン酸ポリグリセリル、ジオレイン酸ポリグリセリル、トリオレイン酸ポリグリセリル、モノステアリン酸ポリグリセリル、ジステアリン酸ポリグリセリル、トリステアリン酸ポリグリセリル、モノイソステアリン酸ポリグリセリル、(エイコサン二酸/テトラデカン二酸)ポリグリセリル、(イソステアリン酸/コハク酸)ポリグリセリル、及びペンタ(ベヘン酸/エイコサン二酸)ポリグリセリルよりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の外用組成物。
【請求項7】
前記(B)ポリグリセリン脂肪酸エステルのHLB値が10以上である、請求項1又は2に記載の外用組成物。
【請求項8】
前記(B)ポリグリセリン脂肪酸エステルが、モノラウリン酸ポリグリセリル及び/又はジイソステアリン酸ポリグリセリルである、請求項1又は2に記載の外用組成物。
【請求項9】
前記(C)ポリオールが、グリセリンである、請求項1又は2に記載の外用組成物。
【請求項10】
前記(D)ジカルボン酸ビス(ポリオキシアルキレンアルキルエーテル)エステルが、シクロヘキサン-1,4-ジカルボン酸ビスエトキシジグリコールである、請求項2に記載の外用組成物。
【請求項11】
前記(E)液状脂肪酸が、イソステアリン酸である、請求項3に記載の外用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水溶性有効成分の皮膚への浸透が促進され、且つ相分離が生じにくい外用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は、体表側から表皮、真皮、皮下組織からなり、そのうち表皮は異物の侵入や水分の蒸発を防ぐためのバリア機能を有している。表皮は、角層、顆粒層、有棘層、基底層の4層で構成されており、そのうち、角層は疎水性である。肌荒れ、シミ、シワ等の予防及び改善のために外用組成物に配合される有効成分の多くは水溶性であるが、水溶性有効成分は角層への浸透性が低いため、表皮全体へ拡散しにくいという欠点がある。そのため、水溶性有効成分の効果を十分に発揮させるために、その皮膚への浸透性を高める製剤技術が望まれている。
【0003】
従来、水溶性有効成分の皮膚への浸透性を高める技術について種々検討されている。例えば、特許文献1には、特定のジカルボン酸と特定のポリオキシエチレンモノアルキルエーテルとのジエステルを、有効成分の浸透促進剤として使用できることが記載されている。また、特許文献2では、(A)水溶性有効成分、(B)対象部位のハンセン溶解度パラメーター値との距離Raが8(MPa)1/2以下であり、水素結合項δHが3.5(MPa)1/2以上である油、(C)界面活性剤、及び、(D)水を混合し、得られた混合物を可溶化することにより、水溶性有効成分の皮膚への浸透を促進できることが記載されている。特許文献3には、(A)アシルプロリン又はその塩、及び(B)両親媒性物質を含む構成膜を有するベシクルを使用することより、皮膚に対して親和性の低い有効成分の浸透性を高め得ることが記載されている。特許文献4には、トラネキサム酸を含有するpH3.5~6.5の組成物を皮膚に接触させた後、該皮膚にプラス極側からのイオントフォレーシスを施すことにより、水溶性有効成分であるトラネキサム酸の経皮送達を高め得ることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-35497号公報
【特許文献2】特開2022-70845号公報
【特許文献3】特開2018-203660号公報
【特許文献4】特開2006-298850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来報告されている水溶性有効成分の皮膚への浸透を促進させる製剤技術では、皮膚への浸透性が不十分であったり、製剤処方の制限があったりするため、新たな製剤技術の開発が望まれている。また、従来、水添レシチンには、水溶性有効成分の皮膚への浸透を促進させる作用があることが知られており、水溶性有効成分と水添レシチンを含有させるという簡易な組成で水溶性有効成分の皮膚への浸透を促進することができるが、水溶性有効成分と水添レシチンを配合した外用組成物では、保存によって相分離が生じ易く、保存安定性が低いという欠点がある。
【0006】
そこで、本開示は、水溶性有効成分の皮膚への浸透が促進され、且つ相分離が生じにくい外用組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、外用組成物において、水溶性有効成分と、ポリグリセリン脂肪酸エステルと、ポリオールとを含有させることにより、水溶性有効成分の皮膚への浸透を促進でき、しかも相分離が生じ難く、良好な保存安定性を備え得ることを見出した。本開示は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0008】
即ち、本開示は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. (A)水溶性有効成分、(B)ポリグリセリン脂肪酸エステル、及び(C)ポリオールを含有する、外用組成物。
項2. 更に(D)ジカルボン酸ビス(ポリオキシアルキレンアルキルエーテル)エステルを含有する、項1に記載の外用組成物。
項3. 更に(E)液状脂肪酸を含む、項1又は2に記載の外用組成物。
項4. 前記(A)水溶性有効成分が、トラネキサム酸、アルブチン、アスコルビン酸、アスコルビン酸の塩、アスコルビン酸誘導体、ニコチン酸、及びニコチン酸誘導体よりなる群から選択される少なくとも1種である、項1~3のいずれかに記載の外用組成物。
項5. 前記(A)水溶性有効成分が、トラネキサム酸である、項1~4のいずれかに記載の外用組成物。
項6. 前記(B)ポリグリセリン脂肪酸エステルが、モノラウリン酸ポリグリセリル、ジイソステアリン酸ポリグリセリル、モノカプリン酸ポリグリセリル、モノカプリル酸ポリグリセリル、ジラウリン酸ポリグリセリル、トリラウリン酸ポリグリセリル、ミリスチン酸ポリグリセリル、ジミリスチン酸ポリグリセリル、トリミリスチン酸ポリグリセリル、モノオレイン酸ポリグリセリル、ジオレイン酸ポリグリセリル、トリオレイン酸ポリグリセリル、モノステアリン酸ポリグリセリル、ジステアリン酸ポリグリセリル、トリステアリン酸ポリグリセリル、モノイソステアリン酸ポリグリセリル、(エイコサン二酸/テトラデカン二酸)ポリグリセリル、(イソステアリン酸/コハク酸)ポリグリセリル、及びペンタ(ベヘン酸/エイコサン二酸)ポリグリセリルよりなる群から選択される少なくとも1種である、項1~5のいずれかに記載の外用組成物。
項7. 前記(B)ポリグリセリン脂肪酸エステルのHLB値が10以上である、項1~6のいずれかに記載の外用組成物。
項8. 前記(B)ポリグリセリン脂肪酸エステルが、モノラウリン酸ポリグリセリル及び/又はジイソステアリン酸ポリグリセリルである、項1~7のいずれかに記載の外用組成物。
項9. 前記(C)ポリオールが、グリセリンである、項1~8のいずれかに記載の外用組成物。
項10. 前記(D)ジカルボン酸ビス(ポリオキシアルキレンアルキルエーテル)エステルが、シクロヘキサン-1,4-ジカルボン酸ビスエトキシジグリコールである、項2に記載の外用組成物。
項11. 前記(E)液状脂肪酸が、イソステアリン酸である、項3に記載の外用組成物。
項12. (A)水溶性有効成分、(B)ポリグリセリン脂肪酸エステル、及び(C)ポリオールを含有する組成物の、外用組成物の製造のための使用。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、水溶性有効成分の皮膚への浸透を促進でき、しかも相分離が生じ難く保存安定性にも優れた外用組成物が提供される。また、本開示の外用組成物の一実施形態では、成分が均一に分散し易くなっているため、製造時に簡易な攪拌操作によって成分が均一に分散でき、製造効率が向上するという利点がある。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本書において、数値範囲に関する記載「X~Y」は、X以上Y以下の数値範囲を指す。
【0011】
本開示の外用組成物は、(A)水溶性有効成分、(B)ポリグリセリン脂肪酸エステル、及び(C)ポリオールを含有することを特徴とする。以下、本開示の外用組成物について詳述する。
【0012】
[(A)水溶性有効成分]
本開示の外用組成物は、水溶性有効成分(単に「(A)成分」と表記することもある)を含有する。本開示の外用組成物は、後述するポリグリセリン脂肪酸エステル及びポリオールを含むことにより、水溶性有効成分の皮膚への浸透を促進でき、更に保存による相分離を抑制することができる。
【0013】
本開示において、水溶性有効成分とは、第十九改正日本薬局法に規定される定義に従って、水に対して「やや溶けやすい」、「溶けやすい」、又は「極めて溶けやすい」に該当する有効成分であり、具体的には、1gを水に入れ、20±5℃で5分毎に強く振り混ぜる条件で、30分以内に溶かすに要する水の量が30mL未満である有効成分を指す。
【0014】
水溶性有効成分の種類については、水溶性があり、表皮又は真皮に有効性を発揮する成分であることを限度として特に限定はないが、例えば、ケラチン分解ペプチド、加水分解ケラチン、コラーゲン、魚由来コラーゲン、アテロコラーゲン、ゼラチン、エラスチン、コラーゲン分解ペプチド、加水分解コラーゲン、塩化ヒドロキシプロピルアンモニウム加水分解コラーゲン、エラスチン分解ペプチド、コンキオリン分解ペプチド、加水分解コンキオリン、シルク蛋白分解ペプチド、加水分解シルク、ラウロイル加水分解シルクナトリウム、大豆蛋白分解ペプチド、小麦蛋白、小麦蛋白分解ペプチド、加水分解小麦蛋白、カゼイン分解ペプチド等のタンパク質、その加水分解物、及びそれらの誘導体;パルミトイルオリゴペプチド、パルミトイルペンタペプチド、パルミトイルテトラペプチド等のアシル化ペプチド類;ベタイン(トリメチルグリシン)、プロリン、ヒドロキシプロリン、アルギニン、リジン、セリン、グリシン、アラニン、フェニルアラニン、チロシン、β-アラニン、スレオニン、グルタミン酸、グルタミン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、シスチン、メチオニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、トリプトファン、ヒスチジン、タウリン、γ-アミノ酪酸、γ-アミノ-β-ヒドロキシ酪酸、カルニチン、カルノシン、クレアチン等のアミノ酸類、その塩、及びそれらの誘導体;18-メチルエイコサン酸塩、分岐脂肪酸(12~31)塩、ラノリン脂肪酸塩、エチル硫酸18-メチルエイコサン酸アミノプロピルエチルジメチルアンモニウム、エチル硫酸長鎖分岐脂肪酸(12~31)アミノプロピルエチルジメチルアンモニウム、エチル硫酸ラノリン脂肪酸アミノプロピルエチルジメチルアンモニウム等の18-メチルエイコサン酸及びアンテイソ脂肪酸誘導体;糖セラミド等の水溶性スフィンゴ脂質;アスコルビン酸、及びそのナトリウム等の塩等のビタミンC類;アスコルビン酸エチルエーテ、アスコルビン酸-2-グルコシド、アスコルビン酸リン酸エステルナトリウム塩、アスコルビン酸リン酸エステルマグネシウム塩、パルミトイルアスコルビン酸リン酸エステルナトリウム塩、リン酸トコフェリルアスコルビル等のアスコルビン酸誘導体;チアミン塩酸塩、チアミン硫酸塩、リボフラビン、酢酸リボフラビン、塩酸ピリドキシン、フラビンアデニンジヌクレオチド、シアノコバラミン、葉酸類、ニコチン酸、ニコチン酸誘導体(ニコチン酸アミド等)等のニコチン酸類、コリン類等のビタミンB群類;パントテン酸、パンテニルエチルエーテル、パンテノール、ビオチン等のその他ビタミン類;トコフェロールリン酸エステル等の水溶性ビタミンE類;アルブチン、α-アルブチン等のヒドロキノン配糖体及びそのエステル類;コウジ酸、エラグ酸塩、トラネキサム酸及びその誘導体、フェルラ酸塩及びその誘導体、プラセンタエキス、グルタチオン、グリチルリチン酸、グリチルリチン酸塩、及びグリチルリチン誘導体、グリチルレチン酸誘導体、サリチル酸誘導体、ヒノキチオール、グアイアズレン、アラントイン、インドメタシン、カフェイン、α-リポ酸、ルチン及び配糖体等の誘導体;ヘスペリジン及び配糖体等の誘導体;西河柳エキス等の各種植物エキス等が挙げられる。
【0015】
これらの水溶性有効成分は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0016】
これらの水溶性有効成分の中でも、好適な例として、分子量が400以下である水溶性有効成分が挙げられる。分子量が400以下である水溶性有効成分としては、具体的には、トラネキサム酸、アルブチン、アスコルビン酸、アスコルビン酸の塩、アスコルビン酸誘導体、ニコチン酸、及びニコチン酸誘導体等が挙げられる。
【0017】
また、皮膚への浸透を促進効果、及び相分離の抑制効果をより一層向上させるという観点から、水溶性有効成分の中でも、好ましくはトラネキサム酸が挙げられる。
【0018】
本開示の外用組成物において、水溶性有効成分の含有量については、使用する水溶性や効成分の種類、外用組成物の剤型や用途等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、水溶性有効成分の総量で、0.01~15重量%、好ましくは0.05~5重量%、より好ましくは0.1~5重量%が挙げられる。
【0019】
[(B)ポリグリセリン脂肪酸エステル]
本開示の外用組成物は、更にポリグリセリン脂肪酸エステル(単に「(B)成分」と表記することもある)を含有する。本開示の外用組成物において、ポリグリセリン脂肪酸エステルは、後述するポリオールとの併用によって、水溶性有効成分の皮膚への浸透を促進し、更に保存による相分離を抑制する作用を発揮する。
【0020】
ポリグリセリン脂肪酸エステルとは、脂肪酸とポリグリセリンとのエステルである。
【0021】
ポリグリセリン脂肪酸エステルにおいて、エステル結合の数(ポリグリセリン1分子当たり、結合している脂肪酸の数)としては、例えば1~10、好ましくは1~5、より好ましくは1~3、更に好ましくは1又は2が挙げられる。
【0022】
ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸の炭素数としては、例えば、8~30、好ましくは12~22、より好ましくは12~18が挙げられる。また、ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸は、直鎖状又は分岐状のいずれであってもよく、また飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸のいずれであってもよい。
【0023】
また、ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成するポリグリセリンの重合度(グリセリンの結合数)としては、例えば2~20、好ましくは4~16、より好ましくは6~10が挙げられる。
【0024】
ポリグリセリン脂肪酸エステルとして、具体的には、モノカプリン酸ポリグリセリル、モノカプリル酸ポリグリセリル、モノラウリン酸ポリグリセリル、ジラウリン酸ポリグリセリル、トリラウリン酸ポリグリセリル、ミリスチン酸ポリグリセリル、ジミリスチン酸ポリグリセリル、トリミリスチン酸ポリグリセリル、モノオレイン酸ポリグリセリル、ジオレイン酸ポリグリセリル、トリオレイン酸ポリグリセリル、モノステアリン酸ポリグリセリル、ジステアリン酸ポリグリセリル、トリステアリン酸ポリグリセリル、モノイソステアリン酸ポリグリセリル、ジイソステアリン酸ポリグリセリル等、(エイコサン二酸/テトラデカン二酸)ポリグリセリル、(イソステアリン酸/コハク酸)ポリグリセリル、ペンタ(ベヘン酸/エイコサン二酸)ポリグリセリル等が挙げられる。
【0025】
これらのポリグリセリン脂肪酸エステルは、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0026】
これらのポリグリセリン脂肪酸エステルの中でも、好適な例として、HLB値が10以上であるポリグリセリン脂肪酸エステルが挙げられる。本開示において、HLB値は、グリフィン法によって算出される値である。
【0027】
皮膚への浸透を促進効果、及び相分離の抑制効果をより一層向上させるという観点から、ポリグリセリン脂肪酸エステルの中でも、好ましくは、モノラウリン酸ポリグリセリル、ジイソステアリン酸ポリグリセリル、モノミリスチン酸ポリグリセリル、及び(エイコサン二酸/テトラデカン二酸)ポリグリセリル;より好ましくはラウリン酸ポリグリセリル-10(モノラウリン酸デカグリセリル)、ジイソステアリン酸ポリグリセリル-10(ジイソステアリン酸デカグリセリル)、ミリスチン酸ポリグリセリル-10(モノミリスチン酸デカグリセリル)、(エイコサン二酸/テトラデカン二酸)ポリグリセリル-10((エイコサン二酸/テトラデカン二酸)デカグリセリル);更に好ましくはラウリン酸ポリグリセリル-10、及びソステアリン酸ポリグリセリル-10が挙げられる。
【0028】
本開示の外用組成物において、ポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量としては、例えば、ポリグリセリン脂肪酸エステルの総量で、0.0001~2重量%、好ましくは0.01~1重量%、より好ましくは0.1~0.5重量%が挙げられる。
【0029】
[(C)ポリオール]
本開示の外用組成物は、更にポリオール(単に「(C)成分」と表記することもある)を含有する。本開示の外用組成物では、ポリグリセリン脂肪酸エステルとポリオールを組み合わせることによって、水溶性有効成分の皮膚への浸透を促進し、更に保存による相分離を抑制することが可能になる。
【0030】
ポリオールとは、水酸基を2個以上有する化合物である。ポリオールの種類については、特に限定されないが、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、イソプレングリコール、ヘキシレングリコール、1,3-ブチレングリコール等の2価アルコール;グリセリン、トリメチルプロパノール等の3価アルコール;ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン、ヘキサグリセリン、デカグリセリン、トリメチルプロパノール等の4価以上のアルコール;エリスリトール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、グルコース、マンノース、ガラクトース、ショ糖、フルクトース、マルトース、トレハロース、マルチトール、キシリトール、イノシトール、ソルビタン、ソルビトール等の糖又は糖アルコール等が挙げられる。
【0031】
これらのポリオールは、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0032】
これらのポリオールの中でも、皮膚への浸透を促進効果、及び相分離の抑制効果をより一層向上させるという観点から、好ましくは、2価アルコール及び3価アルコール;より好ましくは低級2価アルコール(炭素数2~5の2価アルコール)及び3価アルコール;更に好ましくは1,3-ブチレングリコール及びグリセリン;特に好ましくはグリセリンが挙げられる。
【0033】
本開示の外用組成物において、ポリオールの含有量としては、例えば、ポリオールの総量で、0.01~30重量%、好ましくは0.5~10重量%、より好ましくは1~8重量%が挙げられる。
【0034】
[(D)ジカルボン酸ビス(ポリオキシアルキレンアルキルエーテル)エステル]
本開示の外用組成物は、前記(A)~(C)成分に加えて、ジカルボン酸ビス(ポリオキシアルキレンアルキルエーテル)エステル((D)成分と表記することもある)を含んでいてもよい。
【0035】
ジカルボン酸ビス(ポリオキシアルキレンアルキルエーテル)エステルとは、ジカルボン酸とポリオキシアルキレンアルキルエーテルとのジエステル化合物である。
【0036】
ジカルボン酸ビス(ポリオキシアルキレンアルキルエーテル)エステルを構成するジカルボン酸の炭素数としては、例えば、2~18、好ましくは4~16、より好ましくは6~10が挙げられる。また、当該ジカルボン酸は、鎖状又は環状のいずれの構造であってもよい。当該ジカルボン酸として、具体的には、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、酒石酸、リンゴ酸、グルタル酸、アジピン酸、ペメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、アセトンジカルボン酸、フタル酸、シクロヘキサン-1,4-ジカルボン酸等が挙げられる。
【0037】
また、ジカルボン酸ビス(ポリオキシアルキレンアルキルエーテル)エステルを構成するポリオキシアルキレンアルキルエーテルにおいて、ポリオキシアルキレン鎖としては、例えば、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン等が挙げられる。また、当該ポリオキシアルキレン鎖のアルキレンオキサイドの付加モル数としては、2~8、好ましくは2~6、より好ましくは2~4、更に好ましくは2又は3が挙げられる。ジカルボン酸ビス(ポリオキシアルキレンアルキルエーテル)エステルを構成するポリオキシアルキレンアルキルエーテルにおいて、アルキル基の炭素数としては、例えば、1~8、好ましくは1~6、より好ましくは1~4、更に好ましくは2が挙げられる。当該ポリオキシアルキレンアルキルエーテルとして、具体的には、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル等が挙げられる。
【0038】
ジカルボン酸ビス(ポリオキシアルキレンアルキルエーテル)エステルは、1種のものを単独で使用してもよく、また2種以上のものを組み合わせて使用してもよい。
【0039】
ジカルボン酸ビス(ポリオキシアルキレンアルキルエーテル)エステルの中でも、皮膚への浸透を促進効果、及び相分離の抑制効果をより一層向上させるという観点から、好ましくは、シクロへキサン-1,4-ジカルボン酸ビスエトキシジグリコール(シクロヘキサン-1,4-ジカルボン酸とジエチレングリコールモノエチルエーテルとのジエステル化合物)、コハク酸ビスエトキシジグリコール(コハク酸とジエチレングリコールモノエチルエーテルとのジエステル化合物);より好ましくはシクロへキサン-1,4-ジカルボン酸ビスエトキシジグリコールが挙げられる。
【0040】
本開示の外用組成物にジカルボン酸ビス(ポリオキシアルキレンアルキルエーテル)エステルを含有させる場合、その含有量については、例えば、0.01~2重量%、好ましくは0.5~1.5重量%、より好ましくは0.1~1重量%が挙げられる。
【0041】
[(E)液状脂肪酸]
本開示の外用組成物は、前記(A)~(C)成分に加えて、必要に応じて液状脂肪酸((E)成分と表記することもある)を含んでいてもよい。
液状脂肪酸とは、20℃において液状を呈する脂肪酸である。液状脂肪酸の炭素数としては、例えば、12~22、好ましくは16~20が挙げられる。また、液状脂肪酸を構成する炭化水素鎖は、飽和炭化水素又は不飽和炭化水素のいずれであってもよく、また直鎖状又は分岐状のいずれであってもよい。
【0042】
液状脂肪酸として、具体的には、オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸等の直鎖状不飽和脂肪酸;イソステアリン酸、イソパルミチン酸等の分岐状飽和脂肪酸等が挙げられる。
【0043】
これらの液状脂肪酸は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0044】
これらの液状脂肪酸の中でも、皮膚への浸透を促進効果、及び相分離の抑制効果をより一層向上させるという観点から、好ましくは分岐状飽和脂肪酸、より好ましくはイソステアリン酸が挙げられる。
【0045】
本開示の外用組成物に液状脂肪酸を含有させる場合、その含有量については、例えば、0.00001~1重量%、好ましくは0.00005~0.1重量%、より好ましくは0.0001~0.001重量%が挙げられる。
【0046】
[水]
本開示の外用組成物は、基材として水が含まれていることが好ましい。本開示の外用組成物における水の含有量は、前記(A)~(C)成分、必要に応じて配合される前記(D)及び(E)成分、後述する他の成分以外の残部であればよい。
【0047】
[その他の成分]
本開示の外用組成物は、前述する成分の他に、必要に応じて、外用組成物で通常使用される他の添加剤が含まれていてもよい。このような添加剤としては、例えば、1価低級アルコール、(E)成分以外の油剤、(B)成分及び(D)成分以外の界面活性剤、緩衝剤、pH調整剤、可溶化剤、防腐剤、保存剤、酸化防止剤、安定化剤、香料、着色料等が挙げられる。本開示の外用組成物において、これらの添加剤を含有させる場合、その含有量については、使用する添加剤の種類等に応じて適宜設定すればよい。
【0048】
本開示の外用組成物は、前述する成分の他に、親油性有効成分が含まれていてもよい。このような親油性有効成分としては、例えば、抗ヒスタミン剤、局所麻酔剤、抗炎症剤、保湿剤、殺菌剤、抗菌剤、鎮痒剤、皮膚保護剤、血行促進成分、ビタミン類等が挙げられる。これらの親油性有効成分は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、本開示の外用組成物において、これらの親油性有効成分を含有させる場合、その濃度については、使用する親油性有効成分の種類、期待する効果等に応じて適宜設定すればよい。
【0049】
[剤型・製剤形態]
本開示の外用組成物の剤型については、経皮適用可能であることを限度として特に制限されず、液状、半固形状(クリーム状、ゲル状、軟膏状、ペースト状)、固形状等のいずれであってもよいが、好ましくは液状又は半固形状が挙げられる。また、本開示の外用組成物は、水中油型乳化製剤、油中水型乳化製剤等の乳化製剤であってもよく、また可溶化型製剤、水性軟膏等の非乳化製剤であってもよい。
【0050】
また、本開示の外用組成物は、皮膚に適用されるものである限り、皮膚外用医薬品(医薬部外品を含む)、化粧料、皮膚洗浄料等のいずれの製剤形態であってもよい。
【0051】
本開示の外用組成物の製剤形態として、具体的には、クリーム剤、ローション剤、ジェル剤、乳液剤、液剤、パップ剤、貼付剤、リニメント剤、エアゾール剤、水性軟膏剤、パック剤等の皮膚外用医薬品;水性軟膏、クリーム、乳液、化粧水、ローション、パック、ゲル等の化粧料;ボディーシャンプー、ヘアシャンプー、リンス等の皮膚洗浄料等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは皮膚外用医薬品及び化粧料、より好ましくは化粧料が挙げられる。
【0052】
[製造方法]
本開示の外用組成物は、前記(A)~(C)成分、必要に応じて配合される(D)成分、(E)成分、水、その他の成分を混合し、所望の製剤形態に調製することにより製造することができる。本開示の外用組成物は、前記(A)~(C)成分を含むことにより、製造時に成分が均一に分散し易くなっており、成分を容易に均一に分散できるという製造上の利点もある。
【実施例0053】
以下に実施例を示して本開示の発明をより具体的に説明するが、本開示の発明はこれらに限定されるものではない。
【0054】
試験例1
1.試験方法
表1に示す各成分を添加して攪拌することにより外用組成物を調製した。得られた外用組成物について、以下の方法で、トラネキサム酸(水溶性有効成分)の表皮への浸透性、分散性及び安定性、並びに色調を評価した。
【0055】
(1)トラネキサム酸(水溶性有効成分)の表皮への浸透性
三次元培養皮膚モデル(EPI-200X、MatTek社)を専用の固定器具に装着し、受器の24ウェルプレートに入れた。皮膚モデル側に外用組成物を50μL添加し、受器側にEPI-100アッセイX培地(MatTek社)を2mL添加した。37℃で10時間静置した後に、皮膚モデルを回収し、皮膚モデルの表面をPBSでよく洗浄した。洗浄後の皮膚モデルを凍結し、皮膚切片を作製した。得られた皮膚切片のトラネキサム酸に由来するピーク強度を飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)によって測定し、皮膚切片中に含まれるトラネキサム酸量を求めた。比較例1の外用組成物で測定された皮膚切片中のトラネキサム酸量を基準値として、以下の基準で効果判定を行った。
<基準>
A:皮膚切片中のトラネキサム酸量が基準値の2倍以上である。
B:皮膚切片中のトラネキサム酸量が基準値の1倍超かつ2倍未満である。
C:皮膚切片中のトラネキサム酸量が基準値の1倍以下である。
【0056】
(2)分散性及び安定性
外用組成物を調製する際に、各成分を均一に分散させるために必要となった攪拌操作の条件の評価、及び得られた外用組成物を1日間静置した際の分離及び析出の有無の評価を行い、以下の基準で効果判定を行った。
<基準>
A:調製時に加温や超音波処理を行わなくとも、通常の攪拌操作で成分が均一に分散し、得られた外用組成物は静置後でも分離及び析出は認められなかった。
B :調製時に成分が均一に分散させるために加温又は超音波処理が必要であったが、得られた外用組成物は静置後でも相分離及び析出は認められなかった。
C :調製時に成分が均一に分散させるために加温又は超音波処理が必要であり、得られた外用組成物は静置後に、分離又は析出が認められた。
D :調製時に加温又は超音波処理を行っても、成分を均一に分散できなかった。
【0057】
(3)色調
各外用組成物の色調を目視にて確認し、以下の基準で効果判定を行った。
<基準>
A:外用組成物が、無色ないし微白濁色を呈している。
B:外用組成物が、白濁色を呈している。
【0058】
2.試験結果
結果を表1に示す。この結果、トラネキサム酸と水添レシチンを含む場合には、トラネキサム酸の表皮への浸透性を向上できたが、調製時に成分を均一に分散させるには加温又は超音波処理が必要であり、しかも、保存により成分の分離又は析出が認められた。これに対して、トラネキサム酸と、ポリグリセリン酸脂肪酸エステルと、ポリオールを含む場合には、トラネキサム酸の表皮への浸透性を向上できると共に、調製時に成分を均一に分散させるのが容易であり、しかも保存による成分の分離及び析出も認められなかった。
【0059】
【0060】
試験例2
1.試験方法
表2に示すクリーム状の外用組成物を調製し、以下の方法でヒト皮膚へのトラネキサムン酸の浸透性を評価した。
【0061】
ヒト前腕内側を石鹸にて洗浄し、室温で20分馴化させた。馴化させたヒト前腕内側に対して、外用組成物20μLを4.5cm2の範囲に塗布した。外用組成物の塗布は、1時間の1回の頻度で同一皮膚部位に合計6回行った。6回目の塗布から1時間後に、皮膚上に残っている外用組成物を除去し、外用組成物の塗布部位の角層をテープストリッピング法にて10回剥離させた。テープストリッピング法における4回目のテープ(体表部の角層)、8回目のテープ(体表部と深部の中間の角層)、及び10回目のテープ(深部の角層)について、トラネキサム酸に由来するピーク強度をTOF-SIMSによって測定し、トラネキサム酸量を求めた。比較例3の外用組成物を塗布した場合の各テープに付着している角層のトラネキサム酸量を基準値として、以下の基準で効果判定を行った。
<基準>
AA:テープに付着している角層のトラネキサム酸量が基準値の1.5倍以上である。
A :テープに付着している角層のトラネキサム酸量が基準値の1.25倍以上かつ1.5倍未満である。
B :テープに付着している角層のトラネキサム酸量が基準値の1倍超かつ1.25倍未満である。
C :テープに付着している角層のトラネキサム酸量が基準値の1倍以下である。
【0062】
2.試験結果
得られた結果を表2に示す。この結果、トラネキサム酸と、ポリグリセリン酸脂肪酸エステルと、ポリオールを含む外用組成物では、ヒト皮膚に対するトラネキサム酸の浸透を促進できることが確認された。
【0063】
【0064】
処方例
表3及び4に示す組成のクリーム(処方例1~30)、表5及び6に示す組成の乳液(処方例31~54)、並びに表7及び8に示す組成の化粧水(処方例55~78)を調製した。得られたクリーム、乳液、及び化粧水を、前記試験例1に示す方法で評価したところ、いずれも、水溶性有効成分の皮膚への浸透が促進されており、保存による相分離を抑制できていた。
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】