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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025017011
(43)【公開日】2025-02-05
(54)【発明の名称】蛍光X線分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/223 20060101AFI20250129BHJP
   G01N 33/50 20060101ALN20250129BHJP
【FI】
G01N23/223
G01N33/50 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023119876
(22)【出願日】2023-07-24
(71)【出願人】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】100114764
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100178124
【弁理士】
【氏名又は名称】篠原 英樹
(72)【発明者】
【氏名】辻 幸一
【テーマコード(参考)】
2G001
2G045
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001AA10
2G001AA15
2G001BA04
2G001CA01
2G001EA03
2G001KA01
2G001LA01
2G001QA02
2G001SA02
2G045CB16
2G045FA29
(57)【要約】
【課題】本発明は、簡易な構成にして試料を精度良く分析することができる蛍光X線分析装置を提供することを目的とする。
【解決手段】試料Sを保持する試料保持部1と、試料Sの正面側に配置され、試料Sに対して正面側から1次X線を照射するX線照射部2と、試料Sから発生した蛍光X線K1、K2を検出する検出部4と、検出部4により検出された蛍光X線K1、K2に基づき試料を分析する分析部5とを備え、試料Sの背面側に二次ターゲット3が配置される。二次ターゲット3は、X線照射部2による試料Sを透過し、さらに試料Sの間を通過した1次X線X1が照射されると、試料Sに対して背面側から2次X線X2を照射する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を保持する試料保持部と、
試料の正面側に配置され、試料に対して正面側から1次X線を照射するX線照射部と、
試料から発生した蛍光X線を検出する検出部と、
前記検出部により検出された蛍光X線に基づき試料を分析する分析部とを備える蛍光X線分析装置であって、
試料の背面側および/または側面側に二次ターゲットが配置され、
前記二次ターゲットは、前記X線照射部による試料を透過した1次X線が照射されると、試料に対して背面側および/または側面側から2次X線を照射することを特徴とする蛍光X線分析装置。
【請求項2】
前記二次ターゲットは、さらに前記X線照射部による試料の周囲を通過した1次X線が照射されると、試料に対して背面側および/または側面側から2次X線を照射する請求項1に記載の蛍光X線装置。
【請求項3】
前記二次ターゲットは、試料に含まれる分析対象の元素の吸収端エネルギーよりも高い励起エネルギーを有する2次蛍光線を発生する材料からなる請求項1または請求項2に記載の蛍光X線分析装置。
【請求項4】
前記二次ターゲットは、粉末状または粒状に形成され、剛性および/または可撓性の収容容器に収容されている請求項1または請求項2に記載の蛍光X線分析装置。
【請求項5】
前記試料保持部は、試料を前記二次ターゲットから5mm以下の位置で保持する請求項1または請求項2に記載の蛍光X線分析装置。
【請求項6】
前記試料保持部は、複数の試料を平面方向に間隔を空けて並んだ状態で保持し、
前記二次ターゲットは、各試料の間を通過した1次X線が照射されると、各試料に対して背面側および/または側面側から2次X線を照射する請求項2に記載の蛍光X線分析装置。
【請求項7】
前記試料保持部は、各試料が配置された分析対象領域の面積に対して、前記X線照射部による1次X線が通過する面積の割合が30%~80%となるように各試料を保持する請求項6に記載の蛍光X線分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線の照射により試料から発生した蛍光X線を検出することによって試料を分析する蛍光X線分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、生体内に存在する多種多様なミネラルは、様々な生体機能の発現・調節に重要な役割を果たしており、健康を維持するためには、日々、多種類のミネラル摂取が不可欠である。ミネラルの必須元素が摂取の過不足、吸収・代謝・排泄異常などにより体内に過剰または欠乏すると様々な健康障害がおこる。例えば、カルシウムは、体重の1-2%(体重50kgの成人で約1kg)含まれ、生体内に最も多く存在するミネラルであり、その99%はリン酸と結合したリン酸カルシウム(ハイドロキシアパタイト)として骨や歯などの硬組織に存在し、残り1%は血液、筋肉、神経などの軟組織にイオンや種々の塩として存在しており、毛髪中のCa濃度は概ね800μg/gである。亜鉛は体内に約 2,000 mg 存在しており、60%が筋肉、20~30%が骨、8%が皮膚・毛髪、4~6%が肝臓、2.8%が消化管・膵臓、1.6%が脾臓に分布しており、平均的な毛髪の亜鉛濃度は170μg/g程度である。亜鉛欠乏の症状は、皮膚炎や味覚障害、慢性下痢、免疫機能障害、成長遅延、性腺発育障害などがある。
【0003】
従来、体内ミネラル量を評価する方法として、血液や尿が用いられてきた。しかし、これらの検体は日間変動の影響を受けやすく、採取時点から数日前までのミネラル量を反映するものであり、日常的な摂取量を手軽に把握するには有効性に欠ける。一方、毛髪は、血中ミネラルが血中濃度に応じて該毛髪に排泄されており、一度毛髪に排泄されたミネラルは固定され、血中や空気中に排泄されることはない。また、血液や尿の約10~50倍のミネラルを含んでいることからも、体内のミネラル蓄積量の推定には都合が良く、さらに月に1cm程度伸びるため、毛髪ミネラル濃度は血中ミネラル量の経時的変動を記録することが報告されている。しかも、毛髪は被検者に侵襲を与えることなく容易に採取でき、長期間保存しても変質しない。
【0004】
これまで毛髪のミネラル分析にはICP発光・質量分析が用いられてきた。しかし、これらの分析法では、100本以上の毛髪が必要となり、また毛髪を酸で溶解するため、試料の前処理も必要であり廃液処理の環境負荷がかかる。
【0005】
このような背景の下、発明者らは蛍光X線分析装置を用いて毛髪中の元素解析を行ってきた。具体的には、この蛍光X線分析装置は、試料を保持する試料保持部と、試料に1次X線を照射するX線照射部と、試料から発生した蛍光X線を検出する検出部と、検出部により検出された蛍光X線に基づき試料を分析する分析部とを備え、X線照射部から試料に1次X線を照射した際、試料から発生した蛍光X線を検出部により検出して、蛍光X線に基づき試料を分析部により分析する(例えば、特許文献1参照)
【0006】
ところで、微量元素の蛍光X線の強度の増強、高感度を目的とした二次ターゲット法による蛍光X線分析装置も知られている。この二次ターゲット法とは、X線照射部から発生した1次X線を試料に直接照射して、試料から発生した蛍光X線を検出部により検出する直射照射法に対して、1次X線を二次ターゲットに照射して、二次ターゲットから発生した2次X線を試料に照射する手法である(例えば、特許文献2参照)。これによれば、二次ターゲット固有の単色化された特有の2次X線を試料に照射するため、1次X線に含まれる連続X線の影響を低減して、微量元素の検出限界を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2022-133676公報
【特許文献2】特開平7-229861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の二次ターゲット法による蛍光X線分析装置は、二次ターゲットから発生した2次X線のみを試料に照射するだけであり、しかも試料と二次ターゲットの間の距離のロスが大きいため、二次ターゲットから発生する2次X線が試料に届くまでに減衰するなどして、試料に含まれる所定の元素を検出しにくく、試料を精度良く分析できない場合があるという問題があった。
【0009】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、簡易な構成にして試料を精度良く分析することができる蛍光X線分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成するために、試料を保持する試料保持部と、試料の正面側に配置され、試料に対して正面側から1次X線を照射するX線照射部と、試料から発生した蛍光X線を検出する検出部と、前記検出部により検出された蛍光X線に基づき試料を分析する分析部とを備える蛍光X線分析装置であって、試料の背面側および/または側面側に二次ターゲットが配置され、前記二次ターゲットは、前記X線照射部による試料を透過した1次X線が照射されると、試料に対して背面側および/または側面側から2次X線を照射することを特徴とする。
【0011】
これによれば、X線照射部により試料に対して正面側から照射される1次X線に加えて、二次ターゲットにより試料に対して背面側および/または側面側から照射される2次X線によって、試料から発生する蛍光X線の感度を向上させることができ、試料を精度良く分析することが可能となる。
【0012】
また、前記二次ターゲットは、さらに前記X線照射部による試料の周囲を通過した1次X線が照射されると、試料に対して背面側および/または側面側から2次X線を照射してもよい。これによれば、試料を透過した1次X線に加えて、さらに試料の周囲を通過した1次X線が二次ターゲットに照射されるため、二次ターゲットから試料に照射される2次X線の強度が増強され、それに伴って試料から発生する蛍光X線の感度をより向上させることができる。
【0013】
また、前記二次ターゲットは、試料に含まれる分析対象の元素の吸収端エネルギーよりも高い励起エネルギーを有する2次蛍光線を発生する材料からなってもよい。これによれば、二次ターゲットが励起源となる蛍光励起効果が高まるため、試料から発生する蛍光X線の感度をより向上させることができる。
【0014】
また、前記二次ターゲットは、粉末状または粒状に形成され、剛性および/または可撓性の収容容器に収容されてもよい。これによれば、二次ターゲットが高価な物質の場合でも、塊状に比べて安価な粉末状または粒状の二次ターゲットを剛性および/または可撓性の収容容器に収容することによって、装置全体のコストを抑えることができる。特に、二次ターゲットを一部または全部が可撓性の収容容器に収容する場合、二次ターゲットの全部または一部の形状が容易に変形し得るため、二次ターゲットを試料の背面や側面の任意の位置に配置することができ、二次ターゲットから発生する2次X線を試料に対して背面側および/または側面側の様々な角度から照射することが可能となる。
【0015】
また、前記試料保持部は、試料を前記二次ターゲットから5mm以下の位置で保持してもよい。これによれば、二次ターゲットから発生する2次X線をほとんど減衰させることなく、試料に対して背面側および/または側面側から照射することができる。
【0016】
また、前記試料保持部は、複数の試料を平面方向に間隔を空けて並んだ状態で保持し、前記二次ターゲットは、各試料の間を通過した1次X線が照射されると、各試料に対して背面側および/または側面側から2次X線を照射してもよい。これによれば、X線照射部による1次X線が試料の間を通過して二次ターゲットに到達し易くなるため、二次ターゲットから試料に照射される2次X線の強度がより大きくなり、試料から発生する蛍光X線の感度を向上させることができる。
【0017】
また、前記試料保持部は、各試料が配置された分析対象領域の面積に対して、前記X線照射部による1次X線が通過する面積の割合が30%~80%となるように各試料を保持してもよい。これによれば、X線照射部による1次X線が試料の間を通過して二次ターゲットに確実に到達するため、二次ターゲットによる2次X線を試料に対して背面側および/または側面側から確実に照射することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、X線照射部により試料に対して正面側から照射される1次X線に加えて、二次ターゲットにより試料に対して背面側および/または側面側から照射される2次X線によって、試料から発生する蛍光X線の感度を向上させることができ、試料を精度良く分析することが可能となる。このため、例えば毛髪のように少量の試料でも精度良く分析することが可能なことから、日常的な栄養摂取量を評価する検体として美容・健康分野への応用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態に係る蛍光X線分析装置の構成を示す模式図である。
図2図1の蛍光X線分析装置の二次ターゲット、試料保持部および試料を示す平面図である。
図3図1の蛍光X線分析装置による1次X線、2次X線および蛍光X線の発生状況を示す模式図である。
図4図1の蛍光X線分析装置の分析部の電気的構成を示すブロック図である。
図5図1の蛍光X線分析装置の動作を示すフローチャートである
図6】他の実施形態に係る蛍光X線分析装置の二次ターゲットを示す図である。
図7】本発明の実施例の二次ターゲットと試料の配置構成を示す図である。
図8】本発明の実施例の分析結果のスペクトルのグラフを示す図である。
図9】本発明の実施例の分析結果の表を示す図である。
図10図8の分析結果における分析対象の元素(亜鉛)の蛍光X線のエネルギー範囲のスペクトルを重ね合わせたグラフを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明に係る蛍光X線分析装置(以下、本装置という)の実施形態について図1図6を参照しつつ説明する。なお、本実施形態では、試料Sとして髪の毛などの線状のものを用いるものとし、試料Sに含まれる所定の元素(亜鉛やカルシウムなど)を分析することとする。
【0021】
本装置は、図1および図2に示すように、試料Sを保持する試料保持部1と、試料Sの正面側に配置されたX線照射部2と、試料Sの背面側に配置された二次ターゲット3と、試料Sから発生した蛍光X線を検出する検出部4と、試料Sを分析する分析部5とを備える。
【0022】
前記試料保持部1は、図2に示すように、試料Sを二次ターゲット3の下面に固定しながら保持する一対のテープである。この試料保持部1は、複数の試料Sを二次ターゲット3の下面に当接させながら、平面方向に間隔を空けて並んだ状態で保持しており、各試料Sの両端部を二次ターゲット3の下面に貼着固定している。なお、図2の円形の点線部分は、試料Sの分析対象領域Rを示す。
【0023】
前記X線照射部2は、1次X線(X1)を出射する図示略のX線管と、X線管から出射した1次X線(X1)を略平行化する図示略のコリメータを内部に備える。このX線照射部2は、試料保持部1により二次ターゲット3の下面で保持された試料Sに対して、1次X線(X1)を試料Sの正面側から所定の傾斜角度で照射する。このとき、試料Sは、図3に示すように、X線照射部2により1次X線(X1)が正面側から照射されると、該1次X線(X1)に対応する第1の蛍光X線(K1)を試料Sの正面側に向けて発生する。
【0024】
前記二次ターゲット3は、塊状態の平板状に形成されており、X線照射部2により1次X線(X1)が下面に照射されると、蛍光励起効果により発生した2次X線(X2)を試料Sに対して背面側から照射する。具体的には、二次ターゲット3は、図3に示すように、X線照射部2により1次X線(X1)が試料Sを透過して下面に照射されると、蛍光励起効果により発生した2次X線(X2)を試料Sに対して背面側から照射する。また、二次ターゲット3は、さらにX線照射部2により1次X線(X1)が試料Sの周囲(特に試料Sの間)を通過して下面に照射されると、蛍光励起効果により発生した2次X線(X2)を試料Sに対して背面側から照射する。このとき、試料Sは、図3に示すように、二次ターゲット3により2次X線(X2)が背面側から照射されると、該2次X線(X2)に対応する第2の蛍光X線(K2)を正面側に向けて発生する。
【0025】
また、前記二次ターゲット3は、試料Sに含まれる分析対象の元素に対応する材料により構成されており、特に試料Sに含まれる分析対象の元素の吸収端エネルギーよりも高い励起エネルギーを有する2次蛍光線を発生する材料からなるのが好ましい。例えば、前記試料Sに含まれる分析対象が亜鉛の場合、亜鉛の吸収端エネルギーよりも高い励起エネルギーを有する2次蛍光X線を発生するセレン酸化物からなるのが好ましい。これによれば、二次ターゲット3が励起源となる蛍光励起効果が高まるため、試料Sから発生する蛍光X線の感度を向上させることができる。
【0026】
なお、図3において、説明の便宜上、1次X線(X1)、2次X線(X2)、第1の蛍光X線(K1)および第2の蛍光X線(K2)を分けて図示しているが、実際には試料Sに正面側および背面側において混在した状態になっている。
【0027】
前記検出部4は、試料Sの正面側であって、試料Sに対してX線照射部2と水平方向の反対側の対称位置に配置されている。この検出部4は、X線照射部2の1次X線(X1)により試料Sから発生した第1の蛍光X線(K1)に加えて、二次ターゲット3の2次X線(X2)により試料Sから発生した第2の蛍光X線(K2)を検出する。
【0028】
前記分析部5は、図4に示すように、検出部4により検出された第1の蛍光X線(K1)および第2の蛍光X線(K2)に基づき試料Sに含まれる元素を測定する測定部51と、該測定部51による試料Sに含まれる元素の測定結果を出力する出力部52と、本装置の各部を制御する制御部53とを備える。
【0029】
また、前記分析部5は、一般に検出部4に接続されたパーソナルコンピュータ(PC)で実行されるが、検出部4とネットワークを介して接続されたクラウド上のサーバコンピュータで実行されてもよい。特にクラウド上のサーバコンピュータで実行される場合、装置全体の省スペース化、軽量化、小型化が図られる。
【0030】
次に本装置による蛍光X線分析方法について図5を参照しつつ説明する。
【0031】
まず、試料保持部1により複数の試料Sを二次ターゲット3の下面に保持する(S1)。このとき、試料Sは、図2に示すように、二次ターゲット3の下面に当接しながら、平面方向に間隔を空けて並んだ状態で両端部が貼着固定される。
【0032】
次に、前記X線照射部2は、二次ターゲット3の下面において試料保持部1により保持された試料Sに対して1次X線(X1)を正面側から所定角度で照射する(S2)。このとき、試料Sは、図3に示すように、X線照射部2による1次X線(X1)に対応する第1の蛍光X線(K1)を正面側に向けて発生する。
【0033】
次に、前記二次ターゲット3は、X線照射部2により1次X線(X1)が試料Sを透過して下面に照射されると、蛍光励起効果により発生した2次X線(X2)を試料Sに対して背面側から照射する。また、二次ターゲット3は、さらにX線照射部2により1次X線(X1)が試料Sの周囲(特に試料Sの間)を通過して下面に照射されると、蛍光励起効果により発生した2次X線(X2)を試料Sに対して背面側から照射する(S3)。このとき、試料Sは、図3に示すように、二次ターゲット3による2次X線(X2)に対応する第2の蛍光X線(K2)を正面側に向けて発生する。
【0034】
次に、前記検出部4は、X線照射部2の1次X線(X1)により試料Sから発生した第1の蛍光X線(K1)に加えて、二次ターゲット3の2次X線(X2)により試料Sから発生した第2の蛍光X線(K2)を検出する(S4)。
【0035】
次に、前記分析部5は、検出部4により検出された第1の蛍光X線(K1)および第2の蛍光X線(K2)に基づき試料Sに含まれる元素を測定部51により測定し、試料Sに含まれる元素の測定結果を出力部52により出力する(S5)。
【0036】
而して、X線照射部2による正面側から試料Sに対して照射される1次X線(X1)に加えて、2次ターゲットによる背面側から試料Sに対して照射される2次X線(X2)によって、試料Sから発生する蛍光X線の感度を向上させることができ、試料Sを精度良く分析することが可能となる。特に本実施形態では、試料Sを透過した1次X線(X1)に加えて、さらに試料Sの周囲(特に試料Sの間)を通過した1次X線(X1)が二次ターゲット3に照射されるため、二次ターゲット3から試料Sに照射される2次X線(X2)の強度が増強され、それに伴って試料Sから発生する蛍光X線の感度をより向上させることができる。
【0037】
なお、本実施形態では、前記試料保持部1は、複数の試料Sを平面方向に間隔を空けて並んだ状態で保持するものとしたが、複数の試料Sを平面方向に間隔を空けずに並んだ状態で保持してもよい。ただ、複数の試料Sを平面方向に間隔を空けて並んだ状態に保持した場合、試料Sを透過した1次X線(X1)に加えて、試料Sの間を透過した1次X線(X1)が二次ターゲット3が照射されることによって、二次ターゲット3から発生する2次X線(X2)の強度が増強されるため好ましい。
【0038】
また、前記試料保持部1は、複数の試料Sを保持するものとしたが、一の試料Sを保持してもよい。
【0039】
また、前記試料保持部1は、試料Sを二次ターゲット3の下面に当接させて保持したが、二次ターゲット3に対して間隔を空けて保持してもよい。但し、二次ターゲット3による2次X線(X2)をほとんど減衰させることなく試料Sに対して背面側から照射するために、試料Sを二次ターゲット3の下面から5mm以下の位置で保持するのが好ましい。
【0040】
また、前記試料保持部1は、各試料Sが配置された分析対象領域Rの面積に対してX線照射部2による1次X線(X1)が通過する面積の割合が30%~80%となるように各試料Sを保持するのが好ましい。これによれば、X線照射部2による1次X線(X1)が試料Sの周囲や間を通過して二次ターゲット3に確実に到達するため、二次ターゲット3による2次X線(X2)を試料Sに対して背面側から確実に照射することができる。なお、試料保持部1は、試料Sを分析対象領域Rに対して分散(例えば粒状に分散)して保持するのが好ましい。これによれば、試料Sが二次ターゲット3に分散しながら配置されるため、分散した各試料Sの背面からの励起に加えて、各試料Sの側面での励起も効果的に得られる。
【0041】
また、前記試料保持部1は、試料Sの両端部を貼着固定する一対のテープとしたが、その他の部材であってもよいし、二次ターゲット3と別体または一体に構成してもよい。
【0042】
また、前記二次ターゲット3は、試料Sに対して背面側から2次X線(X2)を照射するものとしたが、二次ターゲット3を試料Sの側面側に配置することによって、二次ターゲット3による2次X線(X2)を試料Sに対して側面側から照射してもよい。
【0043】
また、前記二次ターゲット3は、塊状態に形成されたものを用いたが、粉末状または粒状のものを用いてもよい。この場合、図6(a)に示すように、粉末状または粒状の二次ターゲット3を収容容器30に収容すると、二次ターゲット3が高価な物質の場合でも、塊状に比べて安価な粉末状または粒状の二次ターゲット3を収容容器に収容することによって、装置全体のコストを抑えることができる。特に図6(b)に示すように、二次ターゲット3を全部または一部の可撓性の収容容器30’に収容する場合、二次ターゲット3の全部または一部の形状が容易に変形し得るため、二次ターゲット3を試料Sの背面や側面の任意の位置に配置することができ、二次ターゲット3から発生する2次X線(X2)を試料Sに対して背面側および/または側面側の様々な角度から照射することが可能となる。
【0044】
以上、図面を参照して本発明の実施形態を説明したが、本発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示された実施形態に対して、本発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【実施例0045】
次に本装置による蛍光X線分析の実施例について図7図10を参照しつつ説明する。
【0046】
<分析装置の構成>
本実施例では、図1と同様の配置である卓上のエネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX-7000、SHIMADS LTD、Japan)を用いた。X線照射部2の一次ターゲット材(X線管ターゲット材)にはRhが使われ、二次ターゲット3にはSeが使われている。
【0047】
<試料S>
一般的に毛髪分析においては、パーマ、カラー、頭髪化粧品等の外部環境が測定データに影響を与えることが知られている。よって、試料Sは、これらの影響を受ける施術を行っておらず、日常的に頭髪化粧品を使用していない被験者の毛髪を使用した。まず被験者の側頭部から、毛髪を30本採取し、アセトン(純度99.5%以上、林純薬工業株式会社)および精製水で洗浄後、約24時間常温で乾燥させた。なお、アセトンを用いた洗浄方法では、毛髪からZnやSeなどが流出することはない。これらの前処理を行った後、図7に示すように蛍光X線分析用のサンプルカップ(Sample cup)に厚さ4μmのポリプロピレンフィルム(Polypropylene film)を張った収容容器を作製し、フィルムの下面に約30mmに切断した毛径約100μmの30本の毛髪(Hair sample)をテープで貼着固定した。
【0048】
<分析手順>
エネルギー分散型蛍光X線分析装置を用い、コリメーター径3mm、管電圧50kV、真空条件、フィルターは素材が不明のため使用せず測定を行った。測定時間は、本装置を用いた予備実験により、300sec以上では測定結果に差がなかったため300secとした。本条件で準備した毛髪試料Sを各5回測定した。その後、図7に示すサンプルカップに二次ターゲットのSeO2粉末(純度99.5%、株式会社ニラコ)を約5mmの深さになるまで充填した。これにより図1に示す本装置と同様、毛髪試料Sの背面にSeO2粉末の二次ターゲットが設置される。
【0049】
二次ターゲットとしてSeを選定した理由は、分析対象の元素であるCa、Znのうち、エネルギーが高いZnKαのK吸収端エネルギーが9.66keVであることに対し、Rhからの一次X線により発生するSeのKαが11.22keVとより高い励起エネルギーであるため、Seが励起源となり蛍光励起効果によりZnの特性X線が増強されると考えたためである。
【0050】
また、Seは高純度の均一な箔のような塊状の形体が望ましいが、入手が困難なため、粉末状のものを使用した。本実施例で用いたSeO2粉末は粒度が不均一であり、サンプルカップに充填する際、粒度の違いにより、空洞が生じるとX線の侵入深さに影響するため、下層部に空洞部ができないよう手先で振動を与え密度を高めた。この状態で同様に5回の測定を行った。
【0051】
さらに、同試料Sから、貼付した毛髪を精密ピンセットで除去し、毛髪がないSeO2粉末のみの状態で同様に5回測定した。毛髪貼付後に除去して測定する操作は、毛髪添付作業の過程において、振動等によりSeO2粉末の密度が変化しないよう考慮したためである。
【0052】
また、毛髪はX線が照射されない両端をテープで添付することで保持しているため、分析対象領域は毛髪とフィルムの密着度が低く、洗浄した毛髪成分の付着は無視できる。コンタミネーションとなる粘着剤もなく毛髪の除去作業が容易であることから、このような作業手順とした。
【0053】
<分析結果および考察>
図8に(a)毛髪のみ、(b)毛髪およびSeO2粉末、(c)SeO2粉末のみのスペクトルを示す。毛髪のみのスペクトルでは毛髪に多く含まれるSKα、CaKα、CuKα、ZnKαのピークが確認できる。さらにSeO2粉末を充填し毛髪を添付した試料SではSeO2粉末の影響によりバックグラウンドが増加しているが、同様に毛髪成分のピークが見られる。SeO2粉末のみの試料Sの測定結果では、SeO2粉末には、S、Ca、Znがほとんど含まれていないことがわかるが、CuKαのピークがあり、微弱なCuKβも観察されたことから、微量なCuが不純物として含まれていると考えられる。
【0054】
本実施例で得られた蛍光X線強度をグラフ解析ソフトOrigin(Origin Lab Corporation社)を用い解析を行った。本解析においては、バックグラウンド強度を含めたグロス強度からバックグラウンド強度を差し引き、正味の強度であるネット強度を用いた。XRFピークは、正味のネット強度の成分とバックグラウンド強度に由来する成分で形成される。ここでバックグラウンド強度のプロファイルは、一次関数に、XRFピークはガウス関数に近似できると仮定し、XRFピークをネット成分およびバックグラウンド成分に分離した。そのフィッティング関数f(E)は、下式を用いた。
は切片、αは傾き、Aはピーク強度を決めるパラメーター、Eはピークの位置である。なお、wはピークの幅で、標準偏差の2倍の値である。
【0055】
測定で得られた各5回の測定データに本処理を行いネット強度の平均値を求めた。(a)毛髪のみ、(b)毛髪とSeO2粉末、(c)SeO2粉末のみの測定結果からネット強度を算出した値および、(b)から(c)を差し引き、SeO2粉末を用いた場合の毛髪のみの正味強度、その増減量の比率を図9の表に示す。この表で、RSD(Relative Standard deviation)は相対標準偏差であり、標準偏差を平均値で割った値である。
【0056】
毛髪のみの場合と毛髪とSeO2粉末がある場合を比較すると、SKαについては両条件ともRSD1%以下のばらつきであり、毛髪のみとSeO2粉末がある場合のSKαの比も1%以下となった。S(硫黄)は毛髪に最も多く含まれるミネラルであり、平均5%の含有率と言われている。本実施例では、各条件で全て同じ毛髪を用いたが、異なる条件下でも少ない誤差であったことから、本実施例操作過程で照射部位のズレなどの誤差が極めて少なく、適切であったことが裏付けられる。
【0057】
CaKαについては、両条件ともRSD 2.6%であり、SeO2粉末がある場合、9.4%の強度増強が見られた。これは、SeO2粉末が二次ターゲット3として励起効率を高め、原子番号34のSeより低い元素が励起されることによる増強効果であると考えられる。
【0058】
ZnKαは、毛髪のみの場合、RSD0.4%で低いばらつきであったが、SeO2粉末がある場合は、5.5%と低下した。SeO2粉末があることにより、バックグラウンドが高くなっているため、その影響を受けたものと考えられる。
【0059】
一方で、ZnKαの強度は、13.9%と増加した。各条件でのZnKαのエネルギー範囲のスペクトルを重ね合わせた図を図10に示す。毛髪とSeO2粉末ありの場合は、バックグラウンドも上がっているがZnKαピークも顕著に増加していることがわかる。CaKαと同様にSeO2粉末により励起効率が高まったためと考えられる。励起効率は、X線のエネルギーが励起する電子の結合エネルギーより少し大きいときが最も効率が良く、それから離れるほど悪くなる。
【0060】
本実施例の場合、SeKαが11.22KeVであるのに対し、ZnKαが8.64KeVと近く、CaKαが3.69KeVと離れているため、ZnKαの増強度が高く、離れているCaKαは低くなったと考えられる。
【0061】
CuKαについては、RSDが毛髪のみの場合で4.4%、毛髪、SeO2粉末がある場合は13.3%と比較的ばらつきが大きい結果となった。この値から、正味のCuKα強度を算出したところ、SeO2粉末のみの方が高く負の値となり、毛髪中のCuにSeO2粉末中のCuが加算される結果は得られなかった。SeO2粉末のバックグラウンドに加え、SeO2粉末そのものに毛髪よりも高い濃度のCuが含まれているため、それらが測定精度に影響したものと推察される。
【0062】
Seについては、毛髪そのものにも2ppm程度含まれているが、本装置の検出下限以下であり、毛髪のみの分析ではピークは確認できなかった。一方、毛髪とSeO2粉末、SeO2粉末のみの場合は、高いSeKαが見られる。測定結果を比較すると、RSDは両条件とも0.1%以下となり、ほぼばらつきは見られなかった。しかし、毛髪とSeO2粉末のSeKαは、Se22粉末のみの場合と比較し、6%ほど減少した。これは、SeO2粉末の前面に毛髪試料Sがあるため、SeKαが毛髪によって吸収された影響である。さらに、SeLαは、SeO2粉末のみの場合に比べ、著しく低くなった。これについても同様に、吸収されやすいSeLαが、毛髪により吸収されたことを示唆している。
【0063】
本実施例では、サンプルの背面側に二次ターゲットの機能を果たす素材を配置することで、二次ターゲット3による励起効果の発生について検証を行った。結果、毛髪試料Sにおいては、Seから原子番号が近いZn、Caの順に9%~13%の強度増強が確認された。
【符号の説明】
【0064】
1…試料保持部
2…X線照射部
3…二次ターゲット
4…検出部
5…分析部
51…測定部
52…出力部
53…制御部
S…試料
図1
図2
図3
図4
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図6
図7
図8
図9
図10