(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025017157
(43)【公開日】2025-02-05
(54)【発明の名称】荷電粒子ビーム描画装置、放電検出方法及び放電検出装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/027 20060101AFI20250129BHJP
G03F 7/20 20060101ALI20250129BHJP
H01J 37/305 20060101ALI20250129BHJP
【FI】
H01L21/30 541C
G03F7/20 504
H01J37/305 B
H01L21/30 541Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023120081
(22)【出願日】2023-07-24
(71)【出願人】
【識別番号】504162958
【氏名又は名称】株式会社ニューフレアテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】室伏 達也
(72)【発明者】
【氏名】河原 邦昭
(72)【発明者】
【氏名】仙石 康雄
(72)【発明者】
【氏名】田中 綾子
(72)【発明者】
【氏名】有泉 亨
【テーマコード(参考)】
5C101
5F056
【Fターム(参考)】
5C101AA27
5C101BB02
5C101BB09
5C101EE03
5C101EE69
5C101EE70
5C101GG18
5C101GG20
5C101GG25
5C101GG28
5C101GG33
5C101GG49
5C101HH50
5C101KK09
5C101LL06
5F056AA04
5F056BA10
5F056BB10
5F056BC03
5F056BC05
5F056CA30
5F056CB40
5F056CC11
(57)【要約】
【課題】パターンエラーを発生させる放電を正確に検出する。
【解決手段】本発明の一態様による荷電粒子ビーム描画装置は、荷電粒子ビームを放出する放出部と、前記放出部に荷電粒子の加速電圧を印加する高圧電源と、放出された前記荷電粒子ビームを偏向する偏向器と、前記荷電粒子ビームが照射され、パターンが描画される基板を載置するステージと、前記放出部及び前記偏向器が配置される鏡筒内又は前記高圧電源内で放電が発生した際に出力値が変動する放電センサと、前記放電センサの出力値を常に同一符号となる変換値に変換し、前記変換値の一定時間における積分値を算出し、前記積分値に基づいて、パターンエラーを生じさせる放電が発生したか否か判定する放電検出制御部と、を備えるものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームを放出する放出部と、
前記放出部に荷電粒子の加速電圧を印加する高圧電源と、
放出された前記荷電粒子ビームを偏向する偏向器と、
前記荷電粒子ビームが照射され、パターンが描画される基板を載置するステージと、
前記放出部及び前記偏向器が配置される鏡筒内又は前記高圧電源内で放電が発生した際に出力値が変動する放電センサと、
前記放電センサの出力値を常に同一符号となる変換値に変換し、前記変換値の一定時間における積分値を算出し、前記積分値に基づいて、パターンエラーを生じさせる放電が発生したか否か判定する放電検出制御部と、
を備える荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項2】
前記放電検出制御部がパターンエラーを生じさせる放電が発生したと判定した場合に、パターン描画処理を停止するように制御する描画制御部をさらに備える、請求項1に記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項3】
前記放電検出制御部は、前記出力値が所定の基準値以上となった場合に、前記一定時間分の前記出力値を記録し、前記積分値を算出する、請求項1に記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項4】
前記放電センサは、前記鏡筒内で発生する放電の電磁ノイズを検出するセンサ、又は放電が発する光を検出するセンサである、請求項1に記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項5】
前記放電センサは、前記高圧電源の出力電圧又は出力電流の変動分を抽出する回路である、請求項1に記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項6】
前記放電センサは、前記鏡筒内で放電が発生した際に出力値が変動する第1放電センサと、前記高圧電源内で放電が発生した際に出力値が変動する第2放電センサとを含む、請求項1に記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項7】
高圧電源を用いて鏡筒内の放出部に荷電粒子の加速電圧を印加し、前記放出部から荷電粒子ビームを放出させ、基板にパターンを描画する工程と、
前記鏡筒内又は前記高圧電源内で放電が発生した際に出力値が変動する放電センサの出力値を取得する工程と、
前記出力値を常に同一符号となる変換値に変換し、前記変換値の一定時間における積分値を算出する工程と、
前記積分値に基づいて、パターンエラーを生じさせる放電が発生したか否か判定する工程と、
を備える放電検出方法。
【請求項8】
パターンエラーを生じさせる放電が発生したと判定した場合に、パターン描画処理を停止する、請求項7に記載の放電検出方法。
【請求項9】
前記出力値が所定の基準値以上となった場合に、前記一定時間分の前記出力値を記録し、前記積分値を算出する、請求項7に記載の放電検出方法。
【請求項10】
放電が発生した際に出力値が変動する放電センサと、
前記放電センサの出力値を常に同一符号となる変換値に変換し、前記変換値の一定時間における積分値を算出し、前記積分値に基づいて、エラーを生じさせる放電が発生したか否か判定する放電検出制御部と、
を備える放電検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子ビーム描画装置、放電検出方法及び放電検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
LSIの高集積化に伴い、半導体デバイスの回路線幅は年々微細化されてきている。半導体デバイスへ所望の回路パターンを形成するためには、縮小投影型露光装置を用いて、石英上に形成された高精度の原画パターン(マスク、或いは特にステッパやスキャナで用いられるものはレチクルともいう。)をウェーハ上に縮小転写する手法が採用されている。高精度の原画パターンは、電子ビーム描画装置によって描画され、所謂、電子ビームリソグラフィ技術が用いられている。
【0003】
電子ビーム描画装置では、部品やカラム壁面等に付着した塵埃などを要因とする異常放電が発生することがある。このような異常放電が発生すると電子ビームの軌道が曲げられて所望の位置にビームが照射できなくなったり、電子ビームが消えてしまったりして、パターンエラーが発生し、描画精度が低下する。
【0004】
このような放電を検出する目的で、放電検出装置が用いられる。放電検出装置は、例えば、金属板等であるアンテナと、アンテナを筐体から電気的に絶縁しつつ筐体内に保持する絶縁部材とを含む。放電の際に発生する電界の変動は、アンテナの電位に影響を及ぼし、放電検出装置の出力に電圧変動が発生する。
【0005】
従来、放電検出装置の出力電圧を監視し、出力電圧が所定の閾値以上になると、放電によるパターンエラーの発生を報知し、描画処理を停止していた。しかし、出力電圧と閾値との比較だけでは、実際にパターンエラーが発生しているか否かを判断することは困難であった。
【0006】
例えば、出力電圧が閾値以上になった時間が極めて短い場合、実際にはパターンエラーが発生していないにもかかわらず、描画処理を停止してしまうことがある。あるいはまた、出力電圧が閾値未満であっても、放電が長時間継続して起こり、パターンエラーが発生することがあるが、出力電圧が閾値未満であるために、パターンエラーが発生したまま描画処理を続けてしまい、歩留まりを低下させることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平4-333297号公報
【特許文献2】特開平11-352178号公報
【特許文献3】特開2003-107122号公報
【特許文献4】特開2015-75482号公報
【特許文献5】特開2016-3989号公報
【特許文献6】特開2017-152341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、パターンエラーを発生させる放電を正確に検出する荷電粒子ビーム描画装置、放電検出方法及び放電検出装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様による荷電粒子ビーム描画装置は、荷電粒子ビームを放出する放出部と、前記放出部に荷電粒子の加速電圧を印加する高圧電源と、放出された前記荷電粒子ビームを偏向する偏向器と、前記荷電粒子ビームが照射され、パターンが描画される基板を載置するステージと、前記放出部及び前記偏向器が配置される鏡筒内又は前記高圧電源内で放電が発生した際に出力値が変動する放電センサと、前記放電センサの出力値を常に同一符号となる変換値に変換し、前記変換値の一定時間における積分値を算出し、前記積分値に基づいて、パターンエラーを生じさせる放電が発生したか否か判定する放電検出制御部と、を備えるものである。
【0010】
本発明の一態様による放電検出方法は、高圧電源を用いて鏡筒内の放出部に荷電粒子の加速電圧を印加し、前記放出部から荷電粒子ビームを放出させ、基板にパターンを描画する工程と、前記鏡筒内又は前記高圧電源内で放電が発生した際に出力値が変動する放電センサの出力値を取得する工程と、前記出力値を常に同一符号となる変換値に変換し、前記変換値の一定時間における積分値を算出する工程と、前記積分値に基づいて、パターンエラーを生じさせる放電が発生したか否か判定する工程と、を備えるものである。
【0011】
本発明の一態様による放電検出装置は、放電が発生した際に出力値が変動する放電センサと、前記放電センサの出力値を常に同一符号となる変換値に変換し、前記変換値の一定時間における積分値を算出し、前記積分値に基づいて、エラーを生じさせる放電が発生したか否か判定する放電検出制御部と、を備えるものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、パターンエラーを発生させる放電を正確に検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係る電子ビーム描画装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。本実施形態では、荷電粒子ビームの一例として、電子ビームを用いた構成について説明する。但し、荷電粒子ビームは、電子ビームに限るものではなく、イオンビーム等でもよい。
【0015】
図1は本発明の実施形態に係る電子ビーム描画装置の概略図である。
図1に示す電子ビーム描画装置は、描画部W、描画制御部40及び放電検出部60を備えた可変成形型の描画装置である。
【0016】
描画部Wは、電子光学鏡筒100及び描画室200を備えている。電子光学鏡筒100内には、電子銃1、制限アパーチャ3、ブランカ4、照明レンズ5、ブランキングアパーチャ6、第1成形アパーチャ8、成形偏向器9、投影レンズ11、第2成形アパーチャ12、偏向器13、対物レンズ14、及びセンサ62が配置されている。
【0017】
描画室200内には、XYステージ20が配置されている。XYステージ20上には、描画対象の基板30が配置される。基板30は、例えば、石英基板上にクロム等の金属遮光膜を設け、金属遮光膜上にレジストを塗布したマスク基板である。
【0018】
電子銃1(放出部)から放出された電子ビームBは、制限アパーチャ3を通過する際に余分な電子がカットされる。制限アパーチャ3を通過した電子ビームBは、ブランカ4(ブランキング偏向器)内を通過する際にブランカ4によって、ビームオンの状態では、ブランキングアパーチャ6を通過するように制御され、ビームオフの状態では、ビーム全体がブランキングアパーチャ6で遮蔽されるように偏向される。ビームオフの状態からビームオンとなり、その後ビームオフになるまでにブランキングアパーチャ6を通過した電子ビームBが1回の電子ビームのショットとなる。
【0019】
ブランカ4は、通過する電子ビームBの偏向を制御して、ビームオンの状態とビームオフの状態とを交互に生成させる。例えば、ビームオンの状態ではブランカ4に偏向電圧が印加されず、ビームオフの際にブランカ4に偏向電圧が印加される。各ショットの照射時間により、基板30に照射される電子ビームBのショットあたりの照射量が調整されることになる。
【0020】
ブランカ4とブランキングアパーチャ6を通過することによって生成された各ショットの電子ビームBは、照明レンズ5により、矩形の開口8a(
図2参照)を有する第1成形アパーチャ8全体に照射される。第1成形アパーチャ8の開口8aを通過することで、電子ビームBは矩形に成形される。
【0021】
第1成形アパーチャ8を通過した第1アパーチャ像の電子ビームBは、投影レンズ11により、開口12a(
図2参照)を有した、第2成形アパーチャ12上に投影される。その際、成形偏向器9によって、第2成形アパーチャ12上に投影される第1アパーチャ像は偏向制御され、開口12aを通過する電子ビームの形状と寸法を変化させる(可変成形を行う)ことができる。
【0022】
第2成形アパーチャ12の開口12aを通過した第2アパーチャ像の電子ビームBは、対物レンズ14により焦点を合わせ、偏向器13によって偏向され、XYステージ20上に配置された基板30の目標位置に照射される。偏向器13は、主偏向器及び副偏向器を含む2段構成であってもよいし、さらに副副偏向器を含む3段構成であってもよい。
【0023】
図2は、第1成形アパーチャ8及び第2成形アパーチャ12によるビーム成形を説明するための概略的な斜視図である。第1成形アパーチャ8には、電子ビームBを成形するための矩形(長方形又は正方形)の開口8aが形成されている。
【0024】
また、第2成形アパーチャ12には、第1成形アパーチャ8の開口8aを通過した電子ビームBを所望の形状に成形するための可変成形開口12aが形成されている。可変成形開口12aは、六角形状部と、該六角形状部に連なる四角形状部とを共有した八角形状である。
【0025】
電子銃1から照射され、第1成形アパーチャ8の開口8aを通過した電子ビームBは、成形偏向器9により偏向され、可変成形開口12aを通過し、所望の寸法及び形状の電子ビームとなる。可変成形開口12aの一部を通過した所望の寸法及び形状の電子ビームが、所定の一方向(例えば、X方向とする)に連続的に移動するXYステージ20上に搭載された基板30に照射される。すなわち、第1成形アパーチャ8の開口8aと第2成形アパーチャ12の可変成形開口12aとの両方を通過できるビーム形状Fが、X方向に連続的に移動するXYステージ20上に搭載された基板30の描画領域に描画される。
【0026】
図2の例では、電子ビームBは、第1成形アパーチャ8の開口8aを通過することでまず矩形に成形され、次いで、第2成形アパーチャ12の可変成形開口12aを通過することで、ビーム軸心方向と垂直な断面形状が直角二等辺三角形となるように成形される。
【0027】
記憶装置50は、基板30にパターンを描画するための描画データを記憶する。この描画データは、設計データ(レイアウトデータ)が描画装置用のフォーマットに変換されたデータであり、外部装置から記憶装置50に入力されて保存されている。
【0028】
描画制御部40は、記憶装置50に格納されている描画データに対して、例えば複数段のデータ変換処理を行い、描画対象となる各図形パターンを1回のショットで照射可能なサイズのショット図形に分割し、描画装置固有のフォーマットとなるショットデータを生成する。ショットデータには、ショット毎に、例えば、各ショット図形の図形種を示す図形コード、図形サイズ、ショット位置、照射時間等が含まれる。生成されたショットデータはメモリ(図示略)に一時的に記憶される。
【0029】
描画制御部40は、ショットデータに設定された照射時間となるように、ブランカ4に偏向電圧を印加する。描画制御部40は、ショットデータに設定された図形種及び図形サイズになるように、成形偏向器9に偏向電圧を印加する。描画制御部40は、ショットデータに設定されたショット位置に電子ビームが照射されるように、偏向器13に偏向電圧を印加する。
【0030】
描画部W内では、電子ビームBが成形アパーチャ等と衝突することにより散乱電子が発生し、これにより絶縁物が帯電して放電することがある。このような放電を検出する目的で、電子ビーム描画装置には、放電検出部60(放電検出装置)が設けられている。
【0031】
放電検出部60は、例えば、放電検出制御部61、センサ62、信号処理部63、記憶部64、およびモニタ65を有する。放電検出制御部61は、放電の検出に係る制御を行う。
【0032】
センサ62(放電センサ)は、アンテナまたは電極として用いられるものである。ここで言うアンテナとは、金属等導電性物質から成り、空間中の電磁波もしくは電界の変動もしくは磁界の変動(電磁ノイズ)を捉えて電圧信号または電流信号に変換して出力可能なものである。このようなアンテナは、放電に係る信号を捉えることが可能である。本実施形態では、センサ62が金属板であるものとして説明するが、センサ62の形状は、板状に限定されるものではなく、ケーブルや銅の単線などがコイル状とされたものであってもよい。
【0033】
センサ62は、例えば、電子光学鏡筒100内で電子銃1の近傍かつ上方に設けられる。センサ62の配置はこれに限定されるものではなく、電子ビームBの経路にない限り電子ビーム描画装置の筐体内の任意の位置に配置できる。
【0034】
信号処理部63は、例えばオシロスコープであり、センサ62に電気的に接続され、センサ62に係る信号を取得する。以下、信号処理部63がオシロスコープである場合の一例について説明するが、信号処理部63は電流計または電圧計等であってもよい。信号処理部(デジタイザ)63は、例えば、センサ62の電位に基づく電流のアナログデータを取得し、当該アナログデータにアナログデジタル変換処理を行い、当該処理により生成されるデータ(以下、電圧データとも称する。なお、電圧データは抵抗の強さを変えた電流値データと見做すことができる。)を記憶部64に記憶させる。当該電圧データは、例えば、センサ62の出力電圧と時間との関係を表す。
【0035】
放電検出制御部61は、記憶部64に記憶される電圧データを読み出し、当該電圧データに基づいて、放電に由来する電界の変動を検出する放電検出処理を行い、当該処理の結果を記憶部64に記憶させる。記憶部64に記憶される当該処理の結果が、例えば、モニタ65に表示される。あるいは、記憶部64に記憶される電圧データが表す電圧と時間との関係がモニタ65に表示されてもよい。モニタ65上での当該表示に基づいて、放電検出処理が実行されることも可能である。
【0036】
電子ビーム描画装置は、基板30への描画処理を行っている間、放電検出装置60を用いて、描画パターンエラーを発生させる放電を検出する。
【0037】
例えば、放電検出制御部61は、描画が行われている間、或る時間間隔で常に記憶部64に記憶される電圧データを読み出し、当該電圧データに基づいて、描画パターンエラーを発生させ得る放電を検出する。
【0038】
例えば、放電検出制御部61は、センサ62により測定された電圧変動を監視し、一定時間における電圧の絶対値の時間積分を算出する。放電検出制御部61は、算出した積分値が所定値以上となった場合、描画パターンエラーを発生させる放電が検出されたと判定する。一方、積分値が所定値未満の場合、放電検出制御部61は、描画パターンエラーを発生させる放電が検出されていないと判定する。
【0039】
積分値との比較に用いる所定値(閾値)は、いくつかの実例から決めてもよいし、人為的に様々な大きさの放電を発生させる実験を行い、放電をセンサで測定・記録しつつ、照射される電子ビームをXYステージ20に設けられたファラデーカップ(図示略)で検出し、ビームの増減が所望の精度を満たせるか否かによって決めてもよい。
【0040】
図3は、電圧データをプロットしたグラフの一例を示す。当該グラフにおいて、横軸は時間に対応し、縦軸はセンサ62で測定された電圧に対応している。放電検出制御部61が算出する、一定時間Tにおける電圧の絶対値の時間積分は
図3の斜線部分に相当する。センサ62が、アンテナで放電の電磁ノイズを捉える場合、基準電位はグランド電位となる。
【0041】
放電検出制御部61は、
図4に示すように、積分する区間をずらしながら、電圧の絶対値の積分値を連続的に算出する。
【0042】
積分値が所定値以上となった場合、描画制御部40は、描画処理を停止したり、ワーニングを発報したりする。描画処理の停止後、基板30を外部へ搬出し、レジストを剥がし、再度、描画処理に使用することができる。
【0043】
センサ62により測定された電圧と閾値とを比較する従来の放電検出方法では、
図5Aに示すように、電圧が閾値以上となる時間が極めて短い場合に、実際にはパターンエラーが発生していないにもかかわらず、パターンエラーが発生したと判定し、描画処理を停止してしまうことがある。一方、本実施形態では、電圧の絶対値の積分値を求めるため、
図5Aに示すような電圧変動のパターンの場合は、描画パターンエラーを発生させる放電が検出されていないと判定して描画処理を継続し、誤検出を抑制できる。
【0044】
また、センサ62により測定された電圧と閾値とを比較する従来の放電検出方法では、
図5Bに示すように、電圧が閾値未満であるものの、電圧がある程度高い状態が長時間継続してパターンエラーが発生する場合に、放電を検出せず、パターンエラーが発生したまま描画処理を続けてしまい、歩留まりを低下させることがある。一方、本実施形態では、電圧の絶対値の積分値を求めるため、
図5Bに示すような電圧変動のパターンの場合は、描画パターンエラーを発生させる放電が生じたと判定し、描画処理を停止できる。
【0045】
このように、本実施形態によれば、パターンエラーを発生させる放電を正確に検出できる。
【0046】
上記実施形態では、一定時間Tにおける電圧の絶対値の時間積分を連続的に算出する構成について説明したが、この構成では、複数のデジタイザ又は複雑なデジタイザが必要で、かつ、常に演算が必要になる。そのため、センサ62により測定された電圧(又は電圧の絶対値)が所定の基準値以上となった場合のみ、その後の一定時間Tの電圧データを記録し、一定時間Tにおける電圧の絶対値の時間積分を算出し、積分値に基づいて描画パターンエラーを生じさせる放電が発生したか否か判定してもよい。これにより、デジタイザが1つのセンサに対して1台若しくは単純なデジタイザで事足り、演算も常に行わずに済むので、積分値の演算に要するコストを大幅に削減できる。
【0047】
上記実施形態では、放電センサとして、放電による電界や磁界の変動を捉えるセンサ62を用いる構成について説明したが、放電により変化する物理量を測定する様々なセンサを用いることができる。例えば、放電が発する光を電気信号化する光センサを放電センサとして用いてもよい。また、電子銃1に高電圧を印加する高圧電源(図示略)の電圧値や電流値が放電により変化するため、この電圧値や電流値をモニタするセンサを放電センサとして利用してもよい。また、ブランカ4よりも電子銃1側でビーム電流の変化量をモニタするセンサを放電センサとして利用してもよい。
【0048】
使用する放電センサの種類によって、積分処理の時間(
図3の時間T)や、積分値と比較される所定値(閾値)は適宜決定される。
【0049】
電圧変動の波形のパターンから、放電が発生した原因を特定し、メンテナンスを行ってもよい。
【0050】
上記実施形態ではシングルビームを用いた描画装置の例について説明したが、マルチビームを使った描画装置にも適用できる。
【0051】
放電検出部60(放電検出装置)は、描画装置だけでなく、筐体内で放電が発生する他の装置にも適用できる。放電検出部60は、センサ62により測定された電圧変動を監視し、一定時間における電圧の絶対値の時間積分を算出し、積分値に基づいて、装置の処理に影響を及ぼすエラーが発生したか否か判定する。
【0052】
上記実施形態では、放電検出部の放電センサ(第1放電センサ)を電子光学鏡筒100内に設置し、電子光学鏡筒100内で発生する放電を検出する例について説明したが、電子銃1(放出部)のカソードに接続され、電子の加速電圧を印加する高圧電源に放電センサ(第2放電センサ)を設置し、高圧電源内で発生する放電を検出してもよい。この場合、高圧電源の出力電圧又は出力電流の変動分(リプル)を抽出する回路が放電センサの機能を有する。放電検出制御部61は、リプル抽出回路の出力の絶対値の一定時間における積分値を算出し、算出した積分値が所定値以上となった場合、描画パターンエラーを発生させる放電が検出されたと判定する。放電センサは、電子光学鏡筒100と高圧電源の両方に設置されることが好ましいが、いずれか一方のみに設置してもよい。
【0053】
上記実施形態では、放電センサの出力電圧の絶対値の一定時間における積分値を算出する例について説明したが、積分するのは絶対値に限定されず、放電センサの出力電圧を常に同一符号となる放電強度信号に変換し、変換値を積分すればよい。例えば、放電センサの出力電圧の二乗値を積分してもよい。
【0054】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0055】
1 電子銃
3 制限アパーチャ
4 ブランカ
5 照明レンズ
6 ブランキングアパーチャ
8 第1成形アパーチャ
9 成形偏向器
11 投影レンズ
12 第2成形アパーチャ
13 偏向器
14 対物レンズ
20 XYステージ
30 基板
40 描画制御部
50 記憶装置
60 放電検出部
62 センサ
100 電子光学鏡筒
200 描画室